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参考人(濱秀和君) 私は、このままですと時間が超過してしまうかと思いまして、要領を記載してお手元に差し上げてありますので、多少省いて説明していきたいと思います。
私が
意見を申し上げたいのは、
健康保険法四十三条ノ三の
改正案についてのみです。
今回の
改正案によりますと、
医療塗二十条の七の規定による勧告を受けてこれに従わないときには、知事は
保険医療機関の指定を拒否することができるとしているわけであります。この点は、
現行法の扱いにおいても、
保険局長の解釈通達があって、今回の
改正案と実質は同じようにしておりますけれ
ども、ただ、この解釈通達は、「著シク不適当ト認ムルモノナルトキ」の中に勧告を入れるという点において非常に問題があるというふうに考えておりますけれ
ども、今回の
改正によって、それが一層明白になるということを申し上げたいと思います。
従来、今申し上げたとおりの解釈通達どおりの扱いがされた場合も同じなんですが、今回の
改正案では、一層明確に
地域医療計画の定める
病床数を超える
病床については病院の開設ができないことになります。この点の問題点を述べてみたいと思います。
我が国は、世界に冠たる
国民皆
保険の
制度をとっています。
保険医療機関の指定を受けられない病院、すなわちいわゆる自由診療の病院は経営できません。
保険医療機関の指定取り消しがあり、
保険診療ができなくなれば、病院の経営は成り立たず、即廃業になります。これは極めて重要な点です。この点の問題の重要性については、既に昭和六十年の
改正時に共産党の
委員の方によって指摘されています。注に挙げておきましたのでごらんいただきたいと思います。
自由診療で経営が成り立つのは一部特殊な
医療をする診療所に限られます。ということは、今回の
改正では、明文の上から、
地域医療計画の必要
病床数を超える病院開設の申請について知事の開設中止の勧告を受けた者は、この勧告によって、事実上も法律上も病院の開設ができないことになります。言葉は知事の勧告ですが、実質は病院開設の不許可と同じであります。当局も、このことは十分御
承知の上で
改正案を出してきたものと思われます。
医療法は、昭和二十三年の制定以来、病院開設の自由、自由開業制をとっています。このことは、
医療法七条の規定を見ればわかります。そして、医業の自由開業制については、
医療法が昭和六十年に
改正され、目的規定が置かれ、
地域医療計画の
制度が採用されるまではだれもが疑問を持たなかったはずであります。
地域医療計画の策定による
病床規制が行われ、そして、さきに述べました
保険局長の通知があってから、我が国では
医療法の建前が自由開業であるのに自由開業ができなくなる、今回の
改正は一層このことが明白になっております。
医療法では病院の開設の自由をうたい、勧告を間に挟んで
健康保険法と連動させ、
医療法の建前を崩すということになっております。
この問題は、まず憲法に
関係します。御
承知のとおり、憲法二十二条一項は、職業選択の自由、営業の自由を認めています。これは、公共の
福祉という合理的な理由があれば制限されますが、勧告に従わないから営業ができないようにするなどということは、どう考えても合理的な規制ではなく、違法きわまりないことであります。
病床規制の目的とその手段の合理性を欠く点、憲法に違反します。
勧告という言葉は、我が国の幾つかの法律の中でしばしば用いられ、法律用語としては行政指導の一種であるということが定着しております。当局も、
医療塗二十条の七に定める知事の勧告は病院の開設等をある方向に誘導することを
内容とした行為であり、病院の開設計画の変更を勧めることを
内容とした行為であると言っています。この点は、勧告に強制力がないことを明らかにしたもので、勧告が行政指導であることを認めているわけです。そればかりでなく、行政指導であるため、勧告の要件が書かれていても、この要件を満たさないものについても安易に勧告が行われています。この例を挙げるのは極めて簡単です。
今申し上げたとおり、勧告が行政指導であるとすると、勧告に従わないことで病院開設ができなくなる
保険医療機関の指定をしないということは、「行政指導に携わる者は、その相手方が行政指導に従わなかったことを理由として、不利益な取扱いをしてはならない。」と定めている行政手続法二十二条二項の明文の規定に真正面から抵触します。
行政指導と不利益取り扱いの禁止については最高裁判所も何回か判示しています。有名な武蔵野市の事件では、建築指導要綱に従わなかった業者の建てたマンションに上水道の給水を拒否し、下水道の使用をさせないのは違法であるとしています。
当局は
保険医療機関の指定が契約であるということをしきりに述べています。これは、昭和六十年の
地域医療計画の
制度を取り入れた
医療法の
改正当時からのことです。契約だから
保険医療機関の指定をするかどうかは自由であるという考えでしょうか。
これは大きな誤りです。武蔵野市の事件の上水道の給水も契約であることは間違いありません。しかし、契約締結の自由はないのです。まして、
健康保険法は
保険医療機関の指定拒否の要件を厳格に定めているわけです。その厳格に定めている要件の中に任意の行政指導である勧告に従わない場合を入れるのは、その結果が病院開設の形を変えた不許可となる点から考えて立法
措置として無謀と言うべきです。勧告の要件が極めて多義的であること、勧告が乱用されることを
前提とすると一層不都合です。
これまでは、今回の
改正が憲法上重大な疑義があることを純粋に法理論と実定法規の相互の整合性の面から述べてきました。しかし、ここで問題としたいのは、法律を支える社会的事実、法律の
改正を必要とする事実、立法事実の重要性です。
第一点として、
地域医療計画による
病床規制の合理性です。
地域医療計画は
医療費の
増加を抑制するものではないということが昭和六十年の
医療法の
改正のときに言われてきました。これは当時の増岡厚生大臣も明言しておりますし、厚生省の健康政策
局長も述べています。しかし、今日現在においては、
病床を規制することにより
保険医療費のさらなる
増加を防ぐことが目的であるかのように説かれています。衆議院の厚生
委員会における
議論などを見ますと、専らそのような
議論がされています。厚生省当局の考え方もそのとおりと思われます。
しかし、
病床の
増加と
医療費の
増加が因果
関係があるかどうかについては大きな疑問があり、統計的にも当局の言うことの合理性は疑われます。例えば、衆議院厚生
委員会の秋葉
委員がこの点を突っ込んだ質問をしておりますが、これに対する当局の答えなどごまかしてはないかとすら思われます。法
改正においては、この点の確定、殊に六十年の
改正との整合性も
検討しなければならないと思います。
第二点は、
地域医療計画の果たしてきた機能を十分に見なければならないと思います。
地域医療計画の
制度をつくって十年余りになります。この
地域医療計画を
前提に法の
改正をもくろむには、まずこの十年余りの
地域医療計画が現実に果たしてきた役割を事実の面で正確に認識すべきです。
委員の
先生方に対してまことに釈迦に説法ということになりますが、法はそれを裏づける事実がなければ制定、
改正すべきではなく、単なる観念の産物であってはならないのです。
地域医療計画には、
病床規制のほかに重要なことがたくさん書かれているはずであります。休日診療、夜間診療、救急診療の確保はできていますか、機能を考慮した病院の整備ができていますか、三時間待って三分診療は解消していますか。お寒い限りと思います。
過去十年余り、
地域医療計画の果たしてきた役割の中心は
病床規制であっただけではありませんか。
病床規制の結果は、これは言わすと知れた既存
医療機関の権益の保護です。少なくとも、多くの
医師会はこの
地域医療計画を利用して新規参入者を阻んできました。そして、各県の知事の補助機関はこれを慫慂してきました。
ここで、
地域医療計画ができた当時の社会的背景を考える必要があるかと思います。
昭和五十五年ごろは、
医師会による病院開設の統制が数多く行われていました。これは当時の公正取引
委員会の審決例を見ればわかります。当局は
医療計画を定め、これに従うことによって独禁法違反の非難を受けないようにしたものと思われます。
昭和六十年の
医療法の
改正時に、
地域医療計画に反する病院開設は、公的病院だけでなく、民間病院についても病院開設を不許可とする方向で
検討が進んだようであります。
しかし、昭和五十年に薬局開設の距離制限が憲法二十二条一項に違反するとした最高裁の大法廷判決が出たことでもあり、正面から
地域医療計画に反する病院開設を不許可とすることは薬局の場合と同じく憲法に違反するという司法判断を受けるおそれがあって、知事の勧告にとどめたようであります。
そして、知事の勧告に従わない病院開設については、さきに言いました
保険局長通知によって、
保険医療機関の指定を認めないとすることにより、結局は病院開設の距離制限の目的を達したというのが……