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参考人(
神田順君) ただいま御紹介いただきました
神田でございます。
私は、
東京大学に勤務しておりますけれども、
大学では
建築構造の中で
設計荷重論という、ちょっと耳なれないかもしれませんけれども、
構造設計を扱う場合の
荷重の
評価をどうするかということを
専門にしております。具体的には
地震工学ですとか、あるいは
風工学、場合によっては
信頼性工学とかいった、既に完成されておりますいろいろな学問を総合的に扱っております
分野でございます。
それで、
建築を
設計する場合に
構造設計ということで
構造の
安全性を
確認するわけでございますけれども、その場合に、風ですとか、雪ですとか、
地震とかそういったものをどういうふうに扱うかということは、もちろん
建築基準法の場合、
施行令の中に
規定してございまして、私の
研究テーマとも大いに深く
関係しておりますので、
大学の講義の中でも重要な
テーマの
一つとして扱っております。
それから、
ISO、
国際標準化機構というのがございますけれども、
ISOにおきましても
構造規定がいろいろな形で
整備されてきておりまして、それらの策定に
関係しまして、一九八六年から
委員としてワーキンググループなどで参加しております。
それと、
日本建築学会におきましては、現在、
総務理事をしております。五月十八日付で
衆参両院の議長及び
委員長あてに
要望書をお出ししているかと思いますが、その
要望書の
取りまとめにも
関係してまいりました。
今回の
建築基準法改正の
内容が私にとりましても非常に大きな
関心事でございまして、このような場で
意見を申し上げる
機会を与えていただいたことに対してお礼申し上げます。
きょう、ちょっと
資料を用意させていただいたんですけれども、お
手元にございます私の提出いたしました
資料を簡単に御説明したいと思います。
右上に
番号スタンプが押してありまして、一番目のものは、四月二十八日の
段階では
建築学会で
要望書の
取りまとめを行っておりましたが、そのときに
理事の
方々に説明するために私が作成したもので、言葉の表現とか若干その辺を修正したものでございます。それから二番目は、「
建築基準法改正に望む」という
縦書きのタイトルのついているものですけれども、これは昨年十月の
段階で
一般の
新聞に投稿するつもりで書いたものでございます。それから三番目のものは、ちょっと古いものでございますけれども、一九九二年の十一月に、もう六年近く前ですが、
建設系の
新聞に書いた記事でございます。ここで、
ヨーロッパにおきます
基準の
動向を紹介いたしまして、
我が国での
問題点等を指摘したものでございます。
構造規定等に関する
基本的な問題は現在も変わっていないと思っておりますが、この
あたりが今回の
基準法改正の契機になっているというふうに認識しております。
そして、もう一点、私の著書を
資料とさせていただきました。これは、
阪神の
地震の後で、私なりに
建築構造の
安全性といったものについて特に
一般の方を意識して書いたものでございまして、昨年の六月に刊行されております。私は本日、御
意見を述べさせていただくわけですけれども、その
内容に直接
基礎情報としてかかわることも多くあると思いましたので、
参考にと思ってつけさせていただきました。
少し前置きが長くなりましたけれども、
基準法改正に当たりまして、私の
専門であります
建築構造に
関係するところを
中心に四点ほど述べさせていただきたいと思います。
初めの三点につきましては、
建築学会の
要望書で既にお出ししておりますが、大きくその中では
三つの
内容について述べられておりましたが、その
三つの
内容と
基本的に
対応する三点でございます。
まず第一点は、
性能規定化に関することでございます。これは、お
手元にあります
資料の一ですけれども、ここでは一番目と二番目と三番目の項目が
関係いたします。
一口に
性能規定というふうに申し上げますが、
構造の
分野あるいは
防火、火に対するもの。
構造、
防火の
分野においては、同じ
性能規定といいましても、
技術の
現状ですとかその辺に
かなり差があるということをまず御指摘したいと思っております。
防火に関しましては、今回、
性能の
規定を変えるということが非常に大きな転換であるというふうに受けとられていると思います。一方、
構造の場合は必ずしもそうではないというふうに思います。
それは、現在の
施行令におきましていろいろな
規定があるわけでございますが、
基本的には安全を
確保するために、具体的な
荷重の
数値ですとかあるいは材料の
許容値といったものを
数字として、ある
意味では
仕様の形で示しているわけであります。そういった
意味では、安全という
性能を担保するための
数字が示してあるわけで、既に
仕様規定と言ってもよいとおっしゃっている方もかなり多くいらっしゃいます。
新しい
性能規定の場合には、現在の
施行令で想定しておりますものよりは、特に
計算方法などはかなり進んだものになるということが想像されます。しかし、実際にその
荷重をどういうふうにとるのか、あるいは
構造の
許容値をどう与えるのかといったことについてはやはり示されることになると思います。そういたしますと、
基本的には、現在の
性能を意識した
仕様規定が新しい体系の中でも
性能を意識した
仕様規定になる。ただし、
内容的にはより高度なものになるという位置づけでございまして、
仕様が
性能に変わるというふうな形で見ておる
構造関係の
専門家は少ないのではないかと私は思っております。そういった
意味では、
基本的に余り変わらないという言い方も可能かもしれません。
ただ、一番大切なことは、現在も
建築基準法が
安全性の
最低限を必要とするということで
規定しておるわけですけれども、
安全性の
最低限といったもののグレードを、今と同じ
程度でよいのか、あるいはもっと安全にすべきか、場合によっては今までやってきたことが安全過ぎるからもう少し下げていいのか、その辺の問題が一番大切な問題だと思うわけですけれども、この点に関しましては今回の
法改正案の中からは読み取ることは難しいというふうに思っております。
それで、私の個人的な見解としましては、
阪神の
地震災害のデータを分析して
現状の
安全性ということで考えてみますと、もし
最低基準ということであれば、条件をつけることによって、例えば地盤をより詳しく調べた場合にはもう少し低い
荷重で
設計してもよいというようなことは当然あり得るのではないかというふうに思っております。その
あたりのことは、お
手元の本の四十ページから四十二ページ
あたりのところに書いてございます。具体的な
数値等も入っております。
また、その後四十三ページ
あたりにございますが、
法律を守っているからといって壊れないというわけではないという
あたりのことも広く認識していただくことも大切ではないかと思います。法で
規定しておりますのはあくまでも
最低基準でありまして、また
地震そのものについては私
たちはすべてを知っているわけではないからであります。
それから、
国際基準との
整合性の話がよく出てまいりますけれども、これは
資料三で
ヨーロッパにおける動きを紹介してございますけれども、特にヨーロコード、
ヨーロッパの
統一基準ではIS〇と整合するということを
基本にいたしまして、ここでもう五年、六年、かなり精力的に検討が続けられております。
その中で、
構造安全性の考え方ですとか
荷重の
評価法、ライフサイクルのコンセプト、そういった原則的な部分は
ISOを尊重した
基準に
我が国も当然するべきだというふうに思っておりますが、その
あたりのことにつきまして
建築学会などでいろいろ
建設省の
方たちのお話を伺ったんですけれども、よく見えないというのが
実情だと思います。
第一点が少し長くなりましたが、第二点は、今回のもう
一つの
改正のポイントでございます
中間検査の
導入の問題、それから
確認申請の
民間開放のことについてです。これにつきましては、
制度的に
整備しなくてはいけない点がいろいろあると思いますが、ここで指摘したいことは、かける
費用とそれから得られる
効果、いわゆる
費用対
効果としての
意味でございます。
仮に、もしこういったことを
行政がすべて行おうということであれば
予算措置が大変なことになると思いますが、もし
民間で実施するとしても、それは例えば
建設コストにはね返るとか、あるいは
施工合理化の中で吸収していくというようなことが具体的にあるかもしれませんけれども、
現実には大勢の方が時間をかけて働くということになるわけですから、国全体としては大きな出費になるわけであります。
それは何のために必要か。それは、やはり
安全性を高めるためだと思います。そうしたときに
国民の側で、今より高い
安全性が必要だ、だからこれだけの
コストをかけるべきだという
あたりのことがわからなくてはいけないと思いますし、その辺の
判断のための時間とか
情報がやはり必要なのではないかというふうに思っております。
場合によっては、
建築士の
罰則規定、例えば
工事監理をするということは
法律にうたってあるわけですが、その辺の
罰則規定を厳しくすることによって場合によってはより少ない
費用でより高い品質が得られるということはあるかもしれません。
ただ、その辺はいろいろシミュレーションをしてみないとわかりませんし、そのようなことを具体的にした上で
国民の
意見を問うことが必要なのではないかというふうに思います。ちょっと例が適切でないかもしれませんが、知らないうちに
消費税が一〇%になっていたというような印象がないように
お願いしたいと思います。
第三点は、
阪神・
淡路大震災をもう一度思い起こしてみた場合、特に五十万棟の
全壊被害ですとか六千人を超える
人的喪失の問題ですけれども、その多くは
老朽化木造住宅に起因しているわけで、それに対してどう対処するかという問題でございます。
今回の
基準法改正の
内容の中で、既存不
適格建築に対する扱いがある
意味では少し弱点になっているのではないかと思います。しっかりした
対応が必ずしも明らかにされておりません。昨年施行されました
耐震改修に関する
促進法も、大
規模建築に対してもなかなか遅々として進まないというのが
現状だというふうに思います。
例えば、
消防法などを
参考にして、
構造安全性といった問題に対しても
定期検査を
導入するとか、あるいは
中間検査の問題もむしろ
戸建て住宅を優先するとか、そういったことが必要ではないか。もちろん、それも
日本全国すぐにできるというのは
費用的にも問題があれば、例えば
地震危険の
重点地区を優先するとか、いろいろな
方法が考えられるのではないかと思います。
ほかにも、
資格制度の問題ですとか、
建築主、
設計者、
施工者の
責任分担の問題、あるいは
環境負荷ですとか省資源の問題とかございますけれども、時間の
関係もございますので、最後に第四点といたしまして、
社会的合意の問題について私なりの
意見を述べさせていただきたいと思います。
今回の
法律改正は、趣旨として、学術だとか
技術、
国際状況、
環境など、いろいろな
状況で五十年前の立法当時と大きく変わっておるわけですから、
社会に適した
法律あるいは
社会の基盤づくりのための
法律という形に衣がえしていく必要があるというふうには強く認識しております。しかしながら、現在の
段階で、既に触れました
安全性のグレードの問題ですとか
費用対
効果の問題について
法律を
改正してから考えるというのでよいのだろうかという疑問が今も私としては持っております。
建築学会の
理事会でいろいろ議論してまいりまして、三月、四月、五月と議論が進むにつれてようやく具体的に問題がわかってきたというような方もいらっしゃったわけで、もちろんそれはむしろその人が問題で、もっと早く積極的に
意見を言うべきだったということも言えるのかもしれませんけれども、私が
行政の方に
お願いしたいのは、
法律を提案するあるいは省令を閣議で検討するというときに、やはり十分時間を置いて、あらかじめ
法律になる前に具体的な条文等のPRを行っていただいて、
国民の間でもあるいは
技術者の間でも十分な議論がなされるような場をつくるようにしていただきたいというふうに思っております。
基準法の場合は
技術が深く
関係しておりますので、
技術立国として世界に範を示そうという場合には、やはり法規制の
一つ一つの
数字が非常に大きな
意味を持つわけでありまして、また
国民生活にとっても安全で快適な
建築のためにどれだけ
コストを払うべきかということは非常に大きな問題でございますので、今回の
改正の趣旨に反対するものではもちろんございません。しかし、そのための
社会的合意といった点で、今の
段階でまだ必ずしも十分達せられてはいないのではないかというふうに認識しております。
これをもちまして私の
意見とさせていただきます。
ありがとうございました。