○小池百合子君 私は、自由党を代表し、
預金保険法の一部を
改正する
法律案、
金融機能の
安定化のための
緊急措置に関する
法律案の二法について
質問いたします。
総理、今日、
我が国が直面している
経済、
金融の
危機的状況を称して、最近、
日本の第二の敗戦とさえ言われているのを御存じでありましょうか。
「山高ければ谷深し」の定石どおり、
バブル崩壊によります住専、
不良債権処理の誤りと橋本政権の
経済のかじ取りの誤りが重なって、今
金融システムが
根幹から揺らぎ、
日本経済は未曾有の窮地に立たされております。
国民は自信を失い、それがまた
経済の停滞を招いている。これが
現状であります。
原因は余りにも明白であります。
政策の間違いです。
政府の怠慢、
大蔵省の傲慢と言えます。
そもそも、
バブルの崩壊から病み上がりの
日本経済に、消費税五%への引き上げを初めとする合わせて九兆円の
国民負担増を強い、かつデフレ
予算を強行すれば、景気は自律的後退局面に入るのは自明の理でありました。
我が国を混乱に陥れようとする第三国の陰謀なら
ともかく、これが
我が国政府、橋本政権が胸を張ってみずからが実施した
政策なのですから、いまだに信じることができません。(
拍手)
あれだけ、実施しない、その必要はないと強弁に徹してこられたはずの
特別減税については、私たちの
政策とはタイミングの大幅なずれや
減税額に大きな問題を残しておりますが、
総理は突如二兆円の
減税の復活を
決意されました。これまでの
財政再建至上主義を脱したとしか思えない、どう言いわけされても、これは
政策転換であります。それを何とか言いくるめようとするから
市場が混乱するのであります。
また、
政策が混乱する中、昨年だけでも企業倒産は一万六千件を超え、負債総額は十四兆円にも上ります。
金融機関の貸し渋りなどで倒産した企業も数多くあります。特に次代の新しい産業として期待されていたベンチャー企業が今次々と倒産または倒産の
危機にあることを
総理は御存じでありましょうか。
政策のタイミングのずれがこれほどの犠牲を生んでいるのであります。何よりも、
世界が抱いた
日本への不信感は取り返しのつかない大きな国家的
損失と申せましょう。また、その影響はアジア諸国にまで及び、アジアの通貨
危機まで増幅させました。
総理、この間の
責任をどうお感じなのか、率直なお気持ちをあわせてお聞かせください。
それにいたしましても、
総理の二兆円
特別減税への
決意はワシントンからの圧力によるものと報道されております。
日本の政党である私たちが
減税政策をパッケージで示し、あれだけ
国会で論議を重ねていながら、
総理は、持ち前の意地と政権の
維持を優先されて、すべてをはねのけてこられました。しかし、ここへ来ての
政策転換であります。
問題は、二兆円
特別減税への
決意がアメリカからの圧力によるものならば、これはまさしくGHQからの指令に屈したということであって、
総理みずから第二の敗戦を招いたということにほかなりません。額賀官房副長官のワシントンでの
発言報道も同様であります。
総理、
特別減税を
決意した最大の要因が何であったのか、明確な
答弁を求めさせていただきます。
また、額賀副長官の四月大型補正
予算については、極めて重大な問題であり、自由党として
徹底追及してまいります。
総理の
金融政策は、
隠ぺい、場当たり、先送りの連続でした。
平成八年一月二十五日の本
会議録にはこう記されております。「
平成七年九月末における
我が国金融機関の
不良債権の総額は、各
金融機関からの報告によると約三十八兆円となっております。」この時点で
総理は、
金融機関の
不良債権を約三十八兆円と指摘されました。
平成九年十一月十三日の本
会議では、こうおっしゃいました。「現在、
金融機関は、
不良債権の早期
処理に取り組んでおり、個々の
経営状況はさまざまでありますが、全体の
状況は改善しております。」これはつい二カ月前、昨年末の御
発言でございます。
金融機関の
不良債権処理は全体として改善していたという認識を示されたのであります。
そこで、先般、
大蔵省が公表した「
銀行の
自己査定の集計額について」でございますが、
問題債権は約七十六兆円と出てきました。これまでの
破綻金融機関が、ふたをあけてみると莫大な
不良債権を抱えていたケースは多々あります。さきに
上田議員も指摘いたしましたように、兵庫
銀行の場合、それまでの
不良債権公表額が一行で六百九億円であったのに、
破綻後は一気に一兆五千億、公表額の何と二十五倍にはね上がったケースがこれです。これまで、隠そう隠そうとする
政府の
情報の出し渋りで、既に疑心暗鬼となっている
市場に、今さら七十六兆円という数字を出しても、また、それだけでは済まないだろうという反応しか出てまいりません。本当の数字は
一体幾らなんでしょうか。
アメリカの
不良債権処理策はまず
徹底したディスクロージャー、
情報の
開示、つまり、
一体、
不良債権、
問題債権がどれほどあるのかという全体像をつかむことから始めたのは知られるところでございます。また、先日、来日したイギリスのブレア首相のスタッフに、ブレア政権の
危機管理のポイントは何かと聞いてみました。まず
情報を包み隠さず公開することだと、すかさず返ってまいりました。もちろん、
金融機関の
情報開示は極めて微妙なところはございます。
では、
大蔵大臣、なぜこれまで
不良債権、
問題債権の公表を先延ばししてこられたのか、なぜこの時期に
問題債権額を発表することになったのか。
大蔵省のOBがトップを務める
金融機関がほとんどであるため、先輩の
責任問題をあぶり出したくなかったのか、それ
とも、みずからの失政が招いたこの
金融危機を泥縄的な
公的資金の
投入で解決するために、住専
処理のときと同じ、いつものように、さあ大変だ、さあ大変だと
国民を脅迫しようとして、そのために発表したのか。
大臣、御
説明ください。
また、
平成八年六月七日の本
会議での
総理の
発言です。
「住専に
公的資金を導入したのは、」「
国民の皆様の
預金を守ると
ともに景気回復を確実なものとする等のための臨時異例の
措置として決定されたものであります。
金融機関の
破綻処理に当たっての公的支援については、本来、
金融機関の
破綻処理は
金融機関システム内において賄うことが原則であります。」
また、「今後の
金融機関の
破綻を現時点で予想することは困難でありますが、特別保険料の徴収及びその三年後の適切な見直し等にかんがみれば、仮に
財政支出が必要となる場合でも多額にはならないのではないかと
考えているところであります。」
つまり、
預金者のいない住専を
処理し、景気の回復を確実にするために六千八百五十億円の税金を使うということですが、では、果たして景気はよくなったでありましょうか。その後の検証も十分行われてはおりません。また、
公的資金は住専と
信用組合の
破綻にしか使わない、
財政支出が必要となる場合でも多額にはならない
ともおっしゃったわけですが、では三十兆円は多額ではないのでしょうか。
以上につきまして、
総理の明快な
答弁、特に
不良債権の
処理の見通しを誤った理由、
政策変更に至った経緯を、
国民、納税者にわかりやすく御
説明をいただきます。
次に、
預金保険法について
お尋ねいたします。
昨年の臨時
国会において、与党は、
特定合併を主な内容とする
預金保険法の
改正案を強行採決されました。
預金保険機構は、
預金者を
保護するとりでであります。しかし、この継ぎはぎだらけの
預金保険法で
我が国の
金融システムを守ることができるのでしょうか。相次ぐ
金融機関の
破綻と、それを後追いする制度の朝令暮改こそ、
預金者に不安を与え、
金融危機を助長しているのであります。
一昨年の住専
処理以来、つまり新進党の時代から、私たちは、
金融機関の
破綻処理は法的ルールにのっとって行うべきであり、
預金者、貯金者
保護のためには
公的資金を使っても万全を期すべきであると主張しています。また、
不良債権を早期に、強力に回収し、同時に、
破綻金融機関の
経営者の
厳正なる
責任追及のために
日本版RTCを設立すべきと主張してまいったわけでございます。
公的資金を大規模に
投入する前提として、
金融機関救済に使用せず
預金者保護に限定するためには、
破綻金融機関を整理する場合に解散するか継承するかの決定を、行政の裁量ではなく厳格な形で行う必要がありますが、今回の法
改正ではその枠組みについて何ら言及がありません。債権回収
機能の
強化についても、今までと具体的にどのように違うのかが明確ではなく、
破綻金融機関の
経営者の追及についても不十分であります。
受け皿銀行は
大蔵省が強制的に名乗りを上げさせ、
経営者は辞任して終わりということでは、
公的資金導入に対する
国民の
理解は到底得られません。
私たちの
日本版RTC構想を換骨奪胎したのが今回の
改正案であります。ですから、
総理、意地を張らずにもっと早く
日本版RTCを設立しておけば、このような泥縄かつ
責任が不明確な法案を急ごしらえすることはなかったと言えます。違いますでしょうか。
総理の御所見を
伺います。
次に、
金融機能の
安定化のための
緊急措置に関する
法律について
伺います。
総理は、六つの改革において
金融システム改革を取り上げ、フリー、フェア、グローバルと三つのキーワードを高らかに掲げられました。
市場原理を基軸とした透明な
金融行政への転換を目指されていたはずであります。
しかし、今回の
優先株などの
公的資金による
引き受けは、フリー、フェア、グローバルのいずれにも該当いたしません。
金融機関救済以外の何物でもないのです。護送船団行政を
強化し、真っ向から
金融ビッグバンに逆行するものではないでしょうか。
そもそも各国がBIS規制をクリアするため
公的資金を使って
優先株を
引き受けるような施策をとるようになれば、
市場経済の意味そのものが失われてしまいます。また、
優先株を
公的資金により
引き受けさせられる
金融機関は、マーケットから
資金調達が困難であるということを広く知らしめるようなものです。それによって格付が
低下し、さらなる
資金ショートを引き起こす、悪循環に陥るというわけでございます。健全な
金融機関ならば、マーケットから
資金を調達できますでしょう。
経営内容を
政府に監視されてまで、
優先株を自発的に発行することは
考えられません。
一方、不健全な
金融機関は、
優先株の購入を断られた場合、それは死刑を宣告されたようなものです。
審査委員会は
優先株の購入を拒否できないわけで、事前
審査による選別と該当
金融機関に
優先株を強制的に発行させる、お得意の行政指導が行われるのは目に見えております。
現に、報道によれば、三和
銀行、東京三菱
銀行などが
公的資金を受け入れるとされていますが、どんなに繕っても、大手
都市銀行に無理やり同意をさせ、地方
銀行を追随させようとする護送船団行政の体質が丸見えとなっているのです。なりふり構わずの何とかせにゃいかぬ法案と名前を変えた方がむしろ正直でわかりやすい。
総理がよく口にされます
市場原理ですが、どうやら私たちの
考える
市場原理と全く別のもののように思えます。
総理は、この法案の成立によって
日本じゅうの
金融機関に資本参加し、時代に逆行する社会主義国家に逆戻りすることを目指しておられるのでありましょうか。
安易な
救済は、
金融機関の
経営努力を怠らせ、かえって国際競争力をそぐ結果となります。頻発する不祥事をなくし、他産業に比べてはるかに高い給与を是正し、都市のど真ん中にそびえ立つ本店ビルや店舗の
合理化など
金融機関にはまだまだ大胆な
リストラの余地があるはずです。
また、
金融機関がマーケットで
資金が調達できないからといって
公的資金で救うというのは、
一般企業に比べ余りにも不公平であります。みずから何の努力もせず、困ったら
政府が助けてくれるということになれば、モラルハザードは
銀行にとどまりません。
一方で、震災から三年が過ぎても、生活再建の見通しがつかないまま仮設住宅暮らしを強いられている阪神・淡路大震災の被災者はどうなるのでしょう。
自己責任原則が確立していると言われるアメリカでは、カリフォルニアでの大震災のその直後から、あのFEMAが被災者に対して小切手を提供したことは知られるところであります。アーリー・マネー・イズ・ライク・イースト、早期に手を打てば、小さなお金で大きな
効果が得られるという意味です。
我が国の場合、
自己責任原則は建前で、結局
政府が
救済するという橋本
内閣の
政策は常に帳じり合わせのみを
考え、上辺を取り繕うまさしくびほう策であります。これこそが官が民を指導、誘導する戦後
日本の裁量行政の典型であり、適切な資源配分をゆがめ続けてきた裁量行政の典型ではないでしょうか。
今行うべきこと、それは健全な
金融機関と劣悪な
金融機関をディスクロージャーにより峻別し、
市場の
信頼を取り戻すことにあります。
以上、
総理そして
大蔵大臣の明確な
答弁を求めます。
次に、三十兆円の
公的資金について
伺います。
本来
預金者保護に限定されなければならない
公的資金が、いつの間にか貸し渋り
対策と混同され、
金融機関救済のために三十兆円もの
資金が用意されようとしております。
金融システム安定化のためと言いつつ、なぜ交付
国債というようなわかりにくいスキームを用意するのでしょうか。しかも、二十兆円の日銀融資に対する
政府保証は、日銀からの
借り入れをなし崩し的に拡大していくおそれがあります。過度の日銀
貸し出しは、
日本銀行の財務体質の悪化、国際
信用の失墜を招きかねません。
致命的な問題もあります。
預金保険機構が第二の国鉄清算事業団となるおそれです。今後、
金融ビッグバンが進行する過程において
破綻する
銀行が続出して、
金融不安が高まったり、あげくに
引き受けた
優先株や劣後債が値下がりして売却損が出たり、発行
金融機関が
破綻してデフォルトが発生した場合、この三十兆円はすべて
財政赤字となるおそれをはらんでいるという覚悟はできているでしょうか。
総理、今後、保証債務の
状況を
国会に逐一報告すべきではありませんか。これらの施策はまた、毎年
財政赤字を縮小するというあの
財政構造改革法に抵触しないのでしょうか。
総理と
大蔵大臣の明確な
答弁を求めます。
総理がおっしゃいますように
日本発
世界恐慌を本気で回避するのであるならば、GDPの〇・四%程度の一時的増税予告つきの二兆円
減税では甚だ不十分であります。
総理は
政策変更の
責任を問われて、これからやろうとすることの大きさに比べて余りに小さいとおっしゃいました。しかし、余りに小さいのは
総理の
危機に対する認識と
対応策の規模の方ではなかったでしょうか。(
拍手)
二十一世紀を目前にして、
我が国が直面する
危機的状況にあって、私は愛読書の一つであります「失敗の本質」という本に改めて目を通してみました。「
日本軍の組織論的研究」というそのサブタイトルどおり、大東亜戦争における
日本軍の戦略、戦術を組織論、意思決定論などの社会科学的アプローチで冷静に分析した名著であります。
例えば、ノモンハン事件では、作戦
目的があいまいだったり、
情報に関してその受け取り方、解釈が独善的、戦闘では過度に精神主義が誇張されたと分析しています。ガダルカナルでは、
情報の貧困と戦力の逐次
投入、陸軍と海軍の縦割りの弊害が指摘され、また、沖縄戦では、大本営と現地軍との認識のずれや意思の不統一を挙げるなど、実際に戦地に赴かれました先輩諸氏には異論もあるでしょうが、戦後生まれの私にとりましては何かと参考になる一冊であります。
この「失敗の本質」で挙げられている問題点は、今の
日本にそっくりと当てはまります。
後手後手の小出しの
政策は兵力の逐次
投入、景気は緩やかな回復基調にあると言い続けた
経済企画庁の報告は大本営発表、省庁の縦割り組織の弊害は陸軍と海軍の
関係であり、また、情緒的で人間
関係を重視する人事しかり、絶対に
日本発の
世界恐慌は起こさないというスローガンは竹やりの精神主義と、結局
日本は何も変わっていないのだと愕然とするところであります。
最後に、
我が国のリーダーとして、第二の敗戦の進行をこれ以上避けるためにも、この国の形をどう導いていこうとされるのかを問いまして、私の
質問を終わらせていただきます。
ありがとうございました。(
拍手)
〔
内閣総理大臣橋本龍太郎君
登壇〕