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上村参考人 早稲田大学の
上村と申します。
本日は、このような権威ある場所におきまして
意見を述べる
機会を与えていただきましたことを、大変光栄に存じております。
このたび
内閣より提出されました
金融システム改革関連
法案等につきまして、私見を述べさせていただきます。文章にしてまいりましたので、基本的にはそれを読ませていただきます。
まず、結論から申しますと、私はこれらの
法案に賛成いたします。
私は現在、新しい
金融の流れに関する懇談会の
委員でございまして、
証券取引審議会の
総合部会で
参考人として
意見を述べる
機会を持たせていただきましたけれども、今回の
法案に盛られました多彩な
内容の詳細を十分把握できておりません。で、
法案がどさっと送られてまいりまして、何といいましょうか、知恵熱が出るような状況でございます。
しかし、全体を通じましてこれら膨大な
法案は、赤さびがついて身動きのとれない
日本の
金融制度、企業
制度という巨体が、必死に健康体を取り戻そうとして模索をしている、そうした努力の姿を示すものとして積極的に評価すべきものと考えております。もとより、こうした努力がございましても、一朝一夕に目標を実現することは容易でございません。今回の
改正を
一つの大きなステップとしまして、さらに大きな課題を乗り越えていかなければならないように思います。問題は、そうした全体構想の中で今回の
改正を正しく位置づけておくことではないかと存じます。
大変大げさなことを申すようで恐縮でございますが、
日本が現在問われておりますのは、経済社会の
ルールそのものであるというふうに思います。
明治時代に
日本は諸
外国から、民法も刑法も商法もないような国とは対等につき合うわけにはいかないとされまして、それを受けまして、不平等条約撤廃のためにこうした基本法レベルでの法体系を急ごしらえで
整備いたしました。
戦後は、ゼロからの再スタートを経済力強化一筋でやってまいりました。そして、その後経済大国となった
日本は、今や、
金融、
産業、企業法のレベルでそこそこの水準を持たないと対等につき合うわけにはいかないと諸
外国より迫られているという状況かと存じます。やはり、急ごしらえでこうした
分野の法制を
整備しなければならないというわけでございます。
かつての明治時代とは異なりまして、巨大な経済力を有しながら
ルールが備わっていないということは許されませんので、
日本といたしましては、そうした条件
整備を急速に行いながら、かつ経済活力を大きく発揮させていくという非常に困難なかじ取りを必要としているように思われます。
コストをかけて条件
整備を強力に行うことは、経済活力を阻害するかに思われがちでございますが、これが不十分なままでは、いつまでもアクセルを思い切り踏めず、常に不祥事におびえながら、恐る恐る前進することしかできなくなります。
私は、明治時代の富国強兵、戦後の富国強財に対して、現在の課題は富国強法と呼んでおりますが、
日本はこの厚い壁を乗り越えることのできる初めての非西欧国家たり得るか、失敗すれば後発国のグループに逆戻りとなりますが、成功すれば、後発国の容易に乗り越えられない大きな壁を乗り越えたことになります。
日本は今、近代国家
日本の仕上げができるか否かの分岐点にいると感じております。
ところで、
金融ビッグバンの
理念は
フリー、
フェア、
グローバルと言われますが、要は、従来の
行政介入型、あるいは変な言い方ですが、開明君主指導型の
規制のあり方が限界に達し、
市場メカニズムの長所を最大限に生かすための
ルール中心型、そして司法活用型の
規制原理に転換されようとしております。
透明性の高い
ルールに基づく自由な経済活動を可能とするためには、民法、商法、消費者保護法、手続法、司法
制度等の法的な総合力が全体として問われることになります。
金融・
証券法制は、こうした強固な法的総合力に支えられて初めてその本来的機能を果たすことができます。
金融法制を富士山の頂上の問題だといたしますと、そのすそ野が広大に広がっていなければならないわけであります。
金融法は
整備したが、すそ野がやせ細っているということでは、
金融法自体が支えられません。
この点で、近時経済企画庁の国民生活
審議会が提案しております
金融のPL法とも言われる消費者契約法は、重要なすそ野を形成する法であると考えております。
こうしたことを特に強調しました上で、
金融・
証券法制自体のあり方との
関係で本
法案を評価したいと存じます。
私は、
金融・
証券法制は、取引の客体、業のあり方、
市場の
ルールという三つの角度から評価することが可能であるというふうに考えております。前二者、つまり取引の客体と業のあり方はいずれも
市場の
ルールに直結する問題でございます。そして、取引の客体と業のあり方に関する
規制は可能な限り緩和し、そのかわり、
市場の
ルールにかかわる
規制はより充実強化するというのが原則であるというふうに考えます。
第一に、取引の客体たる
金融商品を自由に設計、開発し、それに
対応する
市場を構想する自由が確保される必要があります。
金融商品が周知性の高い普遍性のある商品であれば、
市場を構成する
投資家層は広範なものとなり、そうでなければ狭いものとなります。
金融システム改革法案のうち、
証券取引法
改正案では、取引客体である有価
証券の定義を拡大し、これに
投資信託の受益
証券、会社型投信の
投資証券、
外国預託
証券等を包摂し、
特定目的会社法案上の
対応証券を包摂することにしております。また、従来より極めて狭い概念であった有価
証券市場概念を店頭
市場等の相対型
市場にまで拡張し、さらに店頭デリバティブ取引や私設取引
システムについても正式な法的基盤が与えられようとしているわけでございます。
取引客体につきましてさらに理論上問題となりますのは、株券や社債のようにだれでも知っている
金融商品とは異なりまして、さまざまな新商品になりますと、それがどのような仕組みの商品であるかわからない場合が多くなってまいります。そうした場合に備えて、取引
ルールとして、説明義務や適合性原則を強調することはもとより当然でありますが、それ以前に、商品の仕組み自体について一定の
規制を加え、あるいは仕組みのための
ルールを明示することも必要となってまいります。
新商品と申しましても、何らかの価値ある資産等を素材としてさまざまな受け皿を用いてつくられるわけでございますから、とっぴな素材をとっぴなつくり方で加工するというようなことはそうはございませんので、そうした
金融商品の仕組み法をあらかじめ
整備しておくことは極めて重要なことでございます。
今回の
法案では、
証券投資信託法が
改正され、
投資信託という商品の仕組み法が著しく
整備されることとなっております。特に、投信が特別の商品ではなく、
金融法上の通常の取引客体として
証券取引法上の
ディスクロージャー規制等が適用されること、投信をめぐる利益相反
規制、不正
行為規制が格段に改善されることは、当然とはいえ、評価されるべきことであります。また、
特定目的会社法案は、
証券化商品に関する仕組み法でございまして、新たな
金融商品を開発する上で有力な手段が与えられたものと評価しております。
なお、
金融商品を仕組む際には、さまざまな
既存の法的素材を活用して仕組むことになりますが、そうした素材は、民法の組合であったり商法の匿名組合や
株式会社であったりするわけでございます。しかし、
既存の素材法では不十分な場合には、
金融新商品にふさわしい素材法を用意することも必要となってまいります。良質な素材を巧みに仕組むことで良質な
金融商品が可能となるのは、建築物や料理の場合と同様であります。
今回
証券投資信託
法案が
投資信託という商品のための新たな素材として
証券投資法人を、
特定目的会社法案が
証券化商品のために
特定目的会社という新たな法的素材を認めようとしていることは、
日本では従来なかった発想の導入でございまして、国内で新しい
金融商品を開発していく上で重要な意義を有するものと考えます。
第二に、
金融仲介業に関する
規制でございますが、私見によりますと、
金融仲介業者に課せられる
規制は、個々の
市場の性格に応じて異なるわけでございます。
個々の
市場の性格は、最初に述べましたように、取り扱う商品の性格とそれに
対応する
市場の設計ないしプランに応じて異なってまいります。単なる民法や商法の私的な取引とは異なりまして、
金融法上の
金融仲介業者は、一対一の相対の取引でありましても、それは包括的な
資本市場ないし
金融市場の担い手として、公正な
価格によって取引をする義務や個々の
市場の状況を十分に熟知した上で、そうした
市場の性格に応じ、かつ
投資家層に応じて
情報開示や説明等をなすべき高度の義務を負担しております。
そして、
金融仲介業者がこうした
市場の担い手としての
責任を果たすことを前提に、それを除いた個々の業者の裁量や
経営政策にゆだねられるべき部分に対する
規制は、可能な限り撤廃すべきであります。要するに、
市場の担い手としての自覚を有すべき業務と固有の裁量的業に関する
規制とは、整然と区別されるべきであります。
今回の
法案では、
証券会社規制における免許制を原則として
登録制にし、専業制を見直す等の
対応がなされておりますが、これは従来の
業者行政に対する批判を受けた
措置として肯定できるものであります。これにより他業との兼営が広がりますので十分な
行為規制が必要となりますが、
市場間の相場操縦の
規制やインサイダー取引
規制の強化、フロントランニング
規制の導入等の
対応がなされております。
証券会社につきまして、
法案は
自己資本比率
規制を一二〇%を下回らないこととし、一二〇%を下回った場合、一〇〇%を下回った場合というぐあいに早期是正
措置を用意しております。また、
証券会社の業務財産状況等に関する説明書類の開示、公衆縦覧及び
自己資本比率記載書面の年四回の開示、公衆縦覧を定めております。
証券会社として何をすべきかを定めることが大切であるのは当然ですが、
証券会社として存続させること自体を問題にする、こうした
対応は極めて重要なものでございます。
したがいまして、こうした発想の延長といたしまして、顧客財産の分別管理と
投資者保護基金の
制度が
整備されようとしておりますことも極めて重要な
改正でございます。顧客財産の分別管理はまさに
投資者の資産保護の実質を有するものでございますが、
投資者保護基金の方は補償金額の上限を定めるものであるだけに、
投資者にとっては厳しい
制度でございます。預金取引は
銀行による信用創造を前提としておりますので、顧客の現金をそのまま保管するという発想はございませんが、
証券取引はそういう発想が妥当する領域でございますので、両者を全く同じに扱えるかについては議論の余地がないわけではないように思われますが、他方で預金者保護との均衡論にも一理あるわけでございます。
私といたしましては、分別管理の実施状況の検査等の徹底及び早期是正
措置の厳格な
運用を特に要望いたしたいというふうに存じております。
第三に、
市場の
ルールに関する
制度は特に充実強化されるべきであります。
バブルを容易に生むような
市場を持つことによる被害者は国民全部であり、
市場は国民全体の公共財でございます。
証券・
金融法制上の犯罪は昨年の臨時国会での
改正により著しく重いものとなりましたが、これもこうした犯罪が公共財としての
証券・
金融市場を何らかの形でむしばむものと認識されてきたことによると思われます。
法案では、相場操縦につきまして、利益
目的の相場操縦の罰金を法人でなくても三千万円以下とし、さらに
市場問にまたがる相場操縦を違法とする規定が明定されることになっております。こうした発想はこれからの
証券・
金融市場規制を行っていく上で非常に重要なことでございます。これに
対応いたしまして、さらにアメリカに倣い、
市場間不正監視
システムの充実、ひいては
外国市場間不正取引監視
システムへの
参加も当面の課題になるものと考えます。
インサイダー取引につきましても、子会社重要
情報を重要事実としたこと、
情報受領者が属する法人の他の役員をも
情報受領者としたこと、インサイダー取引を含む不
公正取引によって得た利益の没収、追徴規定が設けられたこと等の重要な
改正が含まれております。
以上、申してまいりましたように、今回提出されました
法案はいずれもこれからの
日本の経済社会の基本をなす重要なものでございます。しかし、これらの
法案の
内容の多くは既に他国において実現を見ているものでございまして、ようやく
制度的条件が追いつこうとしているというのが正直なところかと存じます。中には、むしろ遅きに失したかに見えるものもございますが、他方でこれだけの
法案を官僚批判のさなかにつくり上げた努力を率直に評価したいと考えております。
ところで、初めに申しましたように、
金融法制が機能するためには、民法、商法、消費者保護法、司法
制度等に係る法制がともに
整備され、現実に機能することが必須の条件でございます。そして、その目標は容易に実現されるものではございません。そうした条件が
整備されるまでの間に、多くの一般国民が被害を受けることのないように、さきに述べました消費者契約法の早期の実現を期するべきかと存じます。
私見によりますと、
金融法制につきましても、本来、理論的には、
証券取引法の基本概念や基本的な体系の根本にまでさかのぼる十分な検討を行い、その上で新たな
金融システム改革法制や包括的、横断的法制を構想することが望ましいと考えますが、今回の
法案も、恐らくは現在検討中である
金融サービス法的な横断的法制も、現在の証取法上の概念や体系を前提にした作業という宿命を負わざるを得ません。その
意味では、私見によりますと、今回の
法案はこれからの根本的な
制度改革の重要な一里塚であり、さらに証取法の全面根本
改正を視野に置いた作業が精力的になされるべきではないかと考えております。
以上で私の
意見を終わらせていただきます。ありがとうございました。(拍手)