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桝本参考人 おはようございます。
連合の
桝本でございます。
厚生委員会の皆さんの日ごろの御尽力に敬意を表するとともに、本日、見解を表明する機会を与えていただきましたことを、まずもってお礼申し上げたいと思います。
私は、毎日職場で働き、病気になればお医者さんのお世話になり、そして多くの場合に年老いた親のことを心配している、ごく普通の労働者の
立場から、今
国会に出されております
健康保険法等の一部
改正について
意見を申し述べたいというふうに思います。
まず第一に、九八年度の
予算案と、その中における
老人医療費拠出金の
負担の
見直しの問題であります。
去年施行されました財政構造
改革法、これによって、
社会保障の
関係費は、ほとんど合理的な理由も示されないまま、大幅に抑制をされました。とりわけ
医療費に関する
国庫負担というものは三千億円以上削られる、こういう
内容でございます。
この
国庫負担を削る策の一つとして、政府は、
老人保健制度と、いわゆる
退職者、
退職したサラリーマンの人たちにかかわる
老人医療費の
拠出金について
国庫負担を約五百六十億円削る、そして、その倍額に当たる一千百億円を我々が加入する
健康保険に転嫁する、こういう
内容の
予算でございます。こういった
予算編成をするに当たって、厚生省の方は、極めて厳しい財政事情、極めて厳しい
予算編成の
制約という中でやむを得ないのだ、こういう説明を繰り返してされました。一言で言えば、
財源がないのだ、こういうことでございました。
片方ではどこからともなく一千億円以上のお金が出てきて、これによって
診療報酬一・五%、国庫ベースで約九百七十億円、それから、
診療報酬の合理化改定分という説明がありまして、〇・七%、合計二・二%引き上げるということが一方でされておりました。これが昨年の年末の
状況でございます。私
どもは正直に言って唖然といたしました。
この
内容について、
老人医療費の
拠出金の
負担の
見直しを検討しておりました
医療保険福祉
審議会の
運営部会あるいはまた
診療報酬の改定を
審議していた中医協、いずれも討議をまとめることができず、いわゆる各論併記で報告書を出さざるを得ませんでした。また、与党三党の
医療改革プロジェクトも、この問題についてついにその
意見を集約することができない、こういう
状況で
事態は経過したわけであります。そして、一方における
負担の転嫁、他方における
診療報酬の引き上げという
内容は、
審議会とも、あるいは与党の
医療改革協議会とも別な場所で、
国民の目が届かないところで特定の
団体が圧力を行使してつくり出した政治決着だったというふうに私
どもは思わざるを得ません。
正常な
審議会の
運営も踏みにじり、あるいはまともな政党間の協議もおざなりにして行われた、こうした決定というものを、私
どもは到底認めることはできないわけでありまして、もし九百七十億円を捻出できるということであったらば、先ほど申しましたような、
退職者にかかわる
老人医療費の
拠出金をサラリーマンの
健康保険に転嫁するといったようなことはしないで済んだはずでございます。
したがって、今回
法案として
提出されております
老人医療費の
拠出金にかかわる
内容、これはまさしく改悪としか呼びようのない
内容であり、その成り立った過程の問題も含めまして、私
どもはこの
内容に全く
反対であります。
この点、先ほど健保連の
安岡副
会長からも触れられましたが、毎月、
健康保険の
保険料を
負担しております我々労働者と、それから
企業経営者、いずれもこの点については同じ考え方に立っていることを申し上げたいというふうに思います。
昨年の九月、御案内のとおり、
保険料が引き上げられ、それから患者の自己
負担が引き上げられる、こういう形で我々は大きな
負担を負っております。こういったことが
社会保障制度の将来に対する
国民の不信感あるいは不安といったものを強めていることは言うまでもありません。
現在、
国会でやっていただきたいことは、こうした
国民の生活不安や将来に対する不安、そして
社会保障に対する信頼度の低下という問題をどうやって食いとめることができるか、この一点にかかっているのではないだろうか、そのように思います。私
どもは、この
社会保障費の必要な増額に対して天井をしいてしまった財政構造
改革法を一刻も早く
見直し、必要な
社会保障費の
負担をぜひとも
予算として確保していただくように
お願いをしたい、このように思っているところでございます。
今回の非常に大事なテーマは、今申しましたように、
老人保健の
拠出金でございますが、そもそもこの
拠出金によって賄われている現在の
老人保健制度というものは完全に行き詰まりが来ていると思います。このような行き詰まりを導いた理由は何なのか。
私
ども、素人なりに勉強してみますと、
老人一人当たりの
医療費というのは若い人たち、といっても六十五歳以下ですが、こういう人たちの一人当たり
医療費に比べて五倍もかかっている。これは世界的に見ても異常な
事態であります。高齢になれば
医療費がかかることはもちろん自然なのですが、それにしても、ヨーロッパなどで、データを見ますと高齢者はそんな五倍もかかっているということはない、せいぜい二、三倍であります。
我が国の
医療というのは、いわば高齢者を食い物にして成り立ってきた
医療なのではないだろうか。このことにメスを入れることが絶対に必要であって、これを放置したまま、お金がかかると言って、その分は
負担できるものが
負担しろということで次々と続けられてきたのがこの過去の、いわゆる
医療改革なるものの実態であったと思います。
いわゆる三K赤字というものの一つに数えられた
健康保険の赤字体質の改善というものは、
制度の
抜本改革なしには決して実現されない、これが私
どもの基本的な
立場でありました。そういう観点から、
医療制度及び
医療保険制度の
改革について、私
どもは自分たちの考え方をまとめて発表してまいりました。
高齢者の扱いについて申しますと、現在の
退職者という
方々は、サラリーマンの
健康保険に長い間入って、
保険料を納め続けながら、一たん
退職をしてしまいますとこの
健康保険から抜けざるを得ません。抜けた後ほどこへ行けばいいのかというと、市町村
国保しかないわけですね。
もともとは、市町村
国保というのは自営業者のための地域
保険としてつくられたものであり、労働者に対しては
健康保険がかつてからありました。しかし、実際は、
退職サラリーマンは市町村
国保へ行かざるを得ないということで、市町村
国保自身がいわば高齢者のたまり場になってしまったわけであり、そこで七十歳以上の人だけを特別扱いして全
保険集団で支えるという現在の
老人保健制度が生まれました。
もともとこの
制度は臨時の
制度として出発し、そのたびごとに見直されなければいけないということでございましたが、実際には、
制度そのものの
見直しは行われずに現在まで来ている。この
事態を称して私
どもは行き詰まりだ、このように言っているわけであります。
それでは、どういうふうに変えたらいいのかということでございますが、
連合は、
退職サラリーマンも市町村
国保にいわばおしりを持ち込むのではなくて、サラリーマン
健康保険全体の中に
退職後もとどまる、こういうシステムを提案してございます。これは各政党の皆さんから必ずしも十分な御支持をいただいていないようでございますが、引き続き御理解を賜りますよう
お願いをしたい、そのように思います。
なお、今回の法
改正には
医療費の不正請求の防止に対する事項が含まれておりまして、この点では一つの前進だろう、そのように思っております。もちろん、各地で働いているお医者様方、多くの方は良心的、献身的に
医療に取り組まれている、このことはよく承知をしております。そして、患者と医師との信頼
関係なしに、
医療の未来はないだろうと思います。
しかし、他方では、現在の
医療制度、
医療保険制度はさまざまな不正請求あるいは過剰請求、こういったことを生み出しているわけでありまして、
大阪における安田病院事件が取りざたされましたけれ
ども、あんなものは氷山の一角だろう、このように考えております。
そうした不正請求等々にかかわる医師の行為について、例えば医師免許の取り消しや業務停止といったような処分が少しずつは行われております。しかし、去年の十月に医道
審議会が発表いたしました「行政処分者一覧表」という資料を見ましても、その処置というのはその
内容に照らして大変軽微なものだというふうに言わなければならないのではないか。医師への
国民の信頼を取り戻すためにも、ぜひこの点での強化を図っていただく必要があると思います。
もう一つ、病床規制に係る法
改正が
提出されております。これについても私
どもは賛成でございます。
一方で、都市部では医師もベッドも過剰でございまして、過剰なベッドが過剰な
医療費を生む、残念ながらこういう傾向が指摘をされているところであります。他方では、過疎地では医師も病院も足りない、こういった事情がなお続いております。したがって、我が国の貴重な
医療資源というものがもっと
国民全体のニーズに対応できるように適切な配置がなされるべきであろう、その点で、地域
医療計画というものが具体的に力を持って施行されていただきたい、このように思います。
最後に、
国会におかれましては、
医療並びに
医療保険制度の
抜本改革に対してぜひとも具体的な道筋をつけていただくように重ねて
お願いをしたいと思います。
昨年の夏、政府・与党はこの
改革を
国民に約束し、そしてそれとの引きかえで九月から
保険料の引き上げや
負担の引き上げというものを行ったはずであります。しかし、仄聞するところによりますと、二〇〇〇年実施をめどにして今
国会に
提出予定の
医療改革の具体的な
法案というのは果たして
提出されるのかどうか、極めて危うい
状況にある、このように伝えられております。
私
どもは、そうした
改革が具体的になされることなしに、これ以上、ただ
負担のツケ回しだけを受けるということにはもはや耐えきれない、このような
状況に至っておりますことを御報告し、本
委員会を初めとして、議員各位が我が国の
社会保障の未来に向けて、信頼に足る
医療制度、
医療保険制度の
改革に御尽力いただきますよう重ねて
お願いを申し上げて、私の
意見陳述にかえたいと思います。
どうもありがとうございました。(拍手)