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参考人(
山本海徳君)
山本でございます。
私は、ちょうど
東京オリンピックの開催されました六四年に
OECFに入りまして、三十三年間勤めて、ことしの三月に
OECFを退職いたしました。
円借款を
中心に、
援助の
現場でさまざまな
活動に参画してまいったわけでございますが、その間、私のモットーといたしましては、我々の
仕事を
効率的にやって
効果を上げたいということを常に考えてまいりました。きょうここに、そういう観点に立ちまして
幾つかの今感じている点をお話しさせていただく
機会を得ましたことを大変うれしく思っておるわけでございます。
レジュメに沿って、
幾つかの点についてお話しさせていただきたいと思います。
ODAというのはやはり
現場が非常に重要だということでございますが、最近、
世界銀行におきましても、今までのような
ワシントン中心でやつておった
業務をそれぞれの国の
担当局長がそれぞれの
現地に張りついて
陣頭指揮をとるというふうに
業務のやり方を変えてまいりました。
OECFにおきましては十年前からこういうことをやっているわけでございまして、私は八七年から八九年に
ジャカルタに駐在したわけでございますが、このタイミングに
事務所の
スタッフを強化いたしまして本部の
権限を
事務所に移すということをやりました。その前までは、
ローンアグリーメントを結びますと、その後、
プロジェクトを
実施するに当たりましてコンサルタントの
選定をするとか資機材だとか
土木請負業者の
選定をするといったような手続があるわけでございますが、こういったものに絡む書類のチェックであるとか
同意事項を全部
東京でやっていたわけでございます。そうなりますと、それぞれ大体八つぐ二いのステップがあるわけでございますけれ
ども、こういうものをワンステップとるのに郵送の期間もございまして一カ月はかかってしまう。こういったものが、
事務所に
権限を移すことによって、一週間単位で処理できるようになったというようなことがございます。
もちろん、こういうことができるようになりましたのも、
OECF全体としての力をつけたこと、
スタッフの
能力があったということもあるわけでございますし、それからローカルの
プロフェッショナルスタッフを雇用してそういう
人たちの力をかりるということもやったわけでありますが、いずれにしましてもそういう
権限移譲によりまして
援助の
実施の
効率が極めて上がったということでございます。これは、
プロジェクトの着手が早まるということ、完成が早まるということにもつながるわけでございまして、
東京でやっていた時期に比べますと
効果の発現の時期が早まったというようなことでございます。
このことは
インドネシア側も大変高く評価いたしてくれまして、それに、この
事務所は非常に頼りになるところであるということから、いろんな問題が起こりますと相談にしょっちゅう出かけてくるようになったということがありました。と同時に、それぞれの
実施機関の持っております将来の
プロジェクト、
自分たちはこういうことを考えているんだけれ
どもどういうふうにやっていったらいいんだろうかといったような、そういう
意味での
開発の。パートナーとしての役割というんでしょうか、そういうことも果たせるようになっていったというような
経験がございました。この
ジャカルタの
経験を契機に、
OECFのほかの
事務所も、現在ではすべて
権限を移譲して迅速な処理に当たっているというようなことになっておるわけでございます。
こういう形で
ジャカルタ事務所は、当然のことながら、
大使館のもと、
JICAの
オフィスと私
どもとで一体となって
仕事をしているわけでございますけれ
ども、
JICAの
オフィスとは同じような
実施機関を
相手にしているということもあり、いろんな問題についての連携をし
問題点を把握しニーズを把握するというようなこともやっておったわけでございます。
大使館は非常に忙しゅうございますので、そういう
現場でのいろんな
問題点につきましては私
どもの方に任せていただいて、
問題点の
発掘、将来
案件の
発掘といったようなことをやってまいったということがございました。
それから、
現地におりますといろんな問題に直面するわけでございますけれ
ども、その中でもう一点申し上げます。
さまざまな
実施機関の
関係者と接触する
機会があるわけでございますけれ
ども、そのところで我々の
支援している
プロジェクトを
先方の
実施機関の
人たちが、これは
日本の
プロジェクトであるとか
OECFの
プロジェクトであるとか、そういう言い方をする。我々の
プロジェクトは評価されているのかなという印象で最初は何となく受けとめておったわけですが、実はこのせりふはくせ者でございまして、要するに
日本の
プロジェクトなんだから問題が起こったら全部処理してちょうだいと、こういうような
対応をする
実施機関も時たまあったわけでございます。
そういうときに私
どもとしては、いや、それはおかしいんじゃないか、この
開発の
プロジェクトは
皆さん方の
プロジェクトなんだから、問題が起こったらそれは
自分たちでまず解決に当たるべきであろうと。
プロジェクトが完成すれば当然
維持管理費がかかってくるわけでございますし、そういうものもあらかじめ幾らかかるかということも十分検討して
予算を確保する、そういう
努力をしなければいけませんよと。どのくらい
維持管理費がかかるかというようなことについて私
どもとしてはこんなふうになるんじゃないかなといったようなサジェスチョンはできるけれ
ども、
維持管理費まで我々は
支援するわけにはいかないんですよと、こういったような話をしたりしておったわけでございます。
いずれにしましても、
開発が成功するかしないかというのは、
プロジェクトの
実施主体である
先方の
実施機関がどれだけ
当事者意識を持っておるのか、ないしは、そういう
自助努力マインドを持っておるのかということがキーポイントであるということを
現場においてつくづくと感じさせられたわけであります。我々は気がつくごとにそういう
問題提起をしていったわけでございまして、最近
インドネシア側がそういう
実施能力を高めてきたというのも、我々のそういうことが多少なりとも役立ったのではないかなというふうに自負しているところでございます。
それから次に、この
レジュメでは「「質の高い
援助」とは」と書いてございますが、この質の高い
援助というものについていろいろ論ずる時間はございませんので、たまたまといいましょうか、私が今気になっている点について二つほどお話しさせていただきたいと思います。
一つは、顔の見える
援助という問題でございます。
十年ほど前にいろいろ
日本企業の問題が起こったような折には、
日本の
企業の顔が見え過ぎるということで非常に批判を受けた時代がありました一それから最近は、
受注率が下がってくると、
日本の顔が見えないじゃないかと。こういったような
意味合いから
ODAを批判するような
意見も見受けられるかと思うのでございますが、我々
現場で見ておりますと、そういう問題じゃないんじゃないか、顔が見える見えないというのはそういうことではないんじゃないかというふうに思うわけでございます。まずは、
理念とか
国別援助戦略といったものをどれだけ明確にしてあるかということが極めて重要なことではないかなと思うわけでございます。
理念につきましては、
日本の場合には
途上国の
離陸へ向けての
自助努力を
支援するという立派な
理念を持っておるわけでございまして、これは世界的には非常に自慢のできるものだろうと思うわけでございます。
途上国の
自立を
支援する、こういったようなことは
ジャカルタにおいていろんな
国々の
援助機関の
人たちとも話をしましたけれ
ども、
ヨーロッパ諸国は国全体としての
援助額がそう多くないんですね。したがって、それぞれの国に割り振れる金額というのは極めて少ないわけでございまして、そうなりますと
途上国の
離陸を目指してその
自助努力を
支援するなんということは考えたくても考えられないんだ、
日本がうらやましい、こういろことをよく言われました。したがって、この誇るべき
理念というのはさらに掲げてほしいなというふうに私は思います。
それと同時に、大事なことは、
国別援助戦略というのをしっかり立てるということなんです。カントリー・アシスタンス・ストラテジーというのを
世界銀行は持っております。非常に精密な分析をした立派なものです。これは残念ながら一般の目に触れることはできないのでございますけれ
ども、我々は
現地にあって、
ジャカルタにあって、世銀の人とか
ADBの人とかその他と接触してそういうものを見る
機会もたくさんあったわけでございますが、ぜひともこういうものをつくりたいなということでございます。
OECFは
OECFとしての
努力はしてそれらしきものは持っております、また、
日本政府においても各省それぞれ持っていると思います。しかし、
日本国としてきちっとしたものを持っていないんじゃないかなと思うわけでございまして、いろいろな
日本の掲げている立派な
政策、グローバルイシューに対してどう
対応していくといったような
政策、こういったものもそれぞれの国に落としてしっかりとした
開発戦略を立ててそれを明確に打ち出す、こういうことが顔が見える
援助ではないかなというふうに思うわけでございます。
それから次に申し上げたいことは、やはり
日本から積極的に
開発について発信をするということじゃないかなというふうに思うわけでございます。それは、いろいろな
国際会議であったり、それから
途上国でワークショップを開く、シンポジウムを開く、そういったようなことを積極的に開いていくということだろうと思います。
そこで、私が気になりますのは、
国際会議なんかにおきましても、やはり
援助の
専門家が発言すべきじゃないかなと思います。
JICA、
OECFにはもうこういう
専門的な
能力を持った
人たちが育っております。そういう
人たちを前面に立ててそういう場でどんどん発言していくということが、まさに
日本のプロが出てきて
日本の
援助の顔を見せているということになるのではないかなというふうに私は思うわけでございます。
それから、さらに大事なことといいますか、三番目に感じておりますのは、
円借款というのはともすると、やはり
インフラ中心ということで、どうも人の顔が見えにくいというふうに言われることがあるのでございますが、最近は
ソフト部分についての
援助の領域も広げておりまして、その代表的なものとして
留学生借款といったようなものをやっております。
インドネシア、マレーシアの若い人が
日本語を勉強して
日本の
大学に入ってくる、こういったものに対する
借款の
支援もしているわけでございまして、こういう
意味での人と人との交流を図っていくといったような
協力の仕方、これがまさに
日本の顔が見える
援助ということではないかなというふうに思っております。
それから、質の高い
援助というとグラントとか贈与が質が高いのではないかなというふうな議論をよく聞くわけでございますが、私は、そういう要素もあるかもしれないけれ
ども、全面的にそう言い切るのは非常に問題ではないかなというふうに思っております。
無償とか有償とかいいましても、
無償の
お金を
途上国が受けてもそれを
国内的に転貸するということがあるんですね。逆に、
借款を借りても、大蔵省はその
資金の
返済負担をしてもそれぞれの
実施機関にはただ
予算を割り振る、
無償にして
お金を割り振るといったようなこともやっておるわけでございまして、
日本から出ていくところが
無償とか
ローンとかいうことだけで物事を判断してはいけないということだろうと思います。
やはり、
ODAの条件というのは
途上国の発展段階、返済
能力等を勘案しながらやっていくということなんだろうと思いまして、純粋にグラントでやるべきところと
ローンでやるべきところ、それをミックスしてやるべきところ、こういったようないろいろな組み合わせを考えてやった方がいいのではないかなというふうに思うわけでございます。
その中で、人道
援助といいましょうか緊急
援助、こういったものは基本的に
無償でももちろんいいんだろうと思いますけれ
ども、
ODAは
開発援助、政府
開発援助であります。
開発ということは何らかの
成果が上がってくるわけでございますから、そういうものについてはむしろ緩やかな条件であっても
お金を貸す、そして返してもらう、こういうことが非常に重要なんだろうと思うんです。コストマインド、要するに借りた
お金を返す、したがって時期が来れば利益を生まなければいけない、したがって
計画どおり事業を
実施していこうというマインドが養われてくるわけでございます。そういったようなこともありまして、やる気を持たせるようなことにもなってくるということでございます。
最後になりますけれ
ども、こういう
ODAの
仕事、特に
プロジェクトを
実施しておりますと、
プロジェクトというのは、
ローンアグリーメントを結んでから
プロジェクトが完成して
効果を発現するまで五年、十年かかる、非常に
長期的な視点に立った取り組みが必要なものでございます。したがいまして、その間、
実施している間に
途上国でいろんな問題が起こることがございます。
これは
ODAの四原則との絡みなんかでも出てくる問題なのでありますが、
途上国に対していろいろ
日本として申し入れたいことも出てくるわけでございますけれ
ども、せっかく
実施しかかった
案件を非常に問題があるからといってストップする、そして札びらで
自分たちの言うことを聞かせる、こういったような感じになってしまうようなやり方には非常に慎重であるべきではないかなというふうに思うわけでございます。
プロジェクトは、とりかかった
案件はストップすると後で再開するのに非常にコストがかかるという問題があるわけでございまして、いろいろな条件は、新規の
プロジェクトをやるかやらないか、新規のコミットをやるかやらないかというところで判断していくというのが大切なことではないかなというふうに感じております。
それから、
実施体制を強化するという問題なのでありますけれ
ども、
OECFのことを申し上げますと、毎年、新人を二十人程度しか採用できないわけでございますが、百倍を超えるような若い優秀な人が応募してくるわけでございます。ですから、潜在
能力のある人材は非常にたくさんいるんだろうと思いますけれ
ども、やはり足りないのは定員枠だという感じを非常に強くしているわけでございます。
こういう中で、最近、特に
現場におりますと、
途上国側からは、
資金援助の機関というのもただ単に
お金だけではなくてノウハウを教えてほしいということをよく言われます。
日本の戦後のさまざまな
経験を体系化して整理して我々に教えてくれ、
お金と同時にそういうノウハウを伝授してくれ、こういうことをよく言われます。そういうのにこたえていくためには、今のようなわずかな人数ではとてもできないわけでございます。
今、
OECFが三百三十三人、
世界銀行は六千人いると言われております。ところが、事業規模は
OECFの二倍でありますから、十倍の人員を抱えているわけでございまして、我々が十倍
効率がいいというのはちっとも自慢にはならないわけでございます。特に、今後ともますますアンタイ化が進むにつれて
案件形成というのは我々がやっていかなければいけないわけでありますが、そういうときにも、環境問題であるとか社会的なインパクトであるとか、そういったものを十分調べた上で
援助しようということになりますと、相当きめ細かな事前の
調査が要るわけでありますが、こういったようなこともやるにはどうしても人が足りないということでございます。
ODAをこの行財政改革の中で削減するのはやむを得ないとは思いますけれ
ども、事業費を一一%削減してその一〇%との差額の一%はこういう体制整備の方にお回しいただければ、私はもう
現場を去ってしまった者でありますけれ
ども、現役連中は大変喜ぶのではないかなというふうに思うわけでございます。
以上でございます。どうもありがとうございました。