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参考人(
重村智計君)
重村でございます。本日はお招きいただきましてどうもありがとうございます。新聞記者はなかなか招いていただけないようなので、お招きいただいて非常に光栄に存じております。
実は、いつもこういう公の席ですと必ず言わなければいけないせりふがあるものですから、一言。これは新聞社の方の
意見ではなくて私個人の
意見であるということを一応断っておかないといけませんので、お断りした上でお話ししたいと思います。
お話ししょうと思うのは三点ほどなんですが、一つは、長い間朝鮮問題をやってきまして私の一番の関心は、
日本と
朝鮮半島の
国家、
朝鮮半島の
人たちがどうしたら長期的に仲よくしていけるのかという問題なんです。
これは皆さん御存じのように、古く言えば白村江の戦いから、蒙古襲来、それから豊臣秀吉の朝鮮侵略、朝鮮出兵、それから
日本の植民地支配、こうあるんですが、もしあの昔の
時代に我々の先祖がああいう
戦争をしなかったり植民地支配をしなかったりしたら
日本と
朝鮮半島の
関係というのは今どうなっていただろうかということを時々考えるんです。そうしますと、実は今我々が選択しようとしている
朝鮮半島に対する政策が、実はあと百年、二百年の
日本人、あるいは
日本と
朝鮮半島の人々の
関係をかなり決定的にするのではないか。その選択の前に立って今我々は何をすべきだろうかというのを一番戦略的に考えるべきではないだろうかというのが一つの問題です。
それからもう一つは、
朝鮮半島、特に
北朝鮮の問題を考えるときに、私は新聞記者なものですから、
北朝鮮の中で今どういうことが起きているのか、
北朝鮮の中の政策なり中の
人間関係はどういうものかというのに常に関心を持ちながら見る、それを見ていきますとある
程度の動きというのはわかるわけです。実は、我々がいつも論議するときには
日本側の理論で、
日本側の価値観で
北朝鮮をはかろうとする、そこにいろんな誤差が生じる。その
現状は今どうなっているのかということを御説明したいと思うんです。
もう一つは、
朝鮮半島を考えるときに、朝鮮人といいますか
朝鮮半島にいる人々の物の考え方というのがありまして、その物の考え方がある
程度わかるとかなり彼らの行動様式というのはわかりやすいんですね。それはどういうものであるかということをお話しして、あと最後に、
最初の命題に戻るんですが、結局
朝鮮半島も小此木先生がおっしゃるように国際
政治の中で動いているので、その国際
政治の進歩と
朝鮮半島の進歩にかなりの距離ができたときに、段差ができたときにいろんな摩擦が起きる。それが現実に起きているわけなんですが、それがこれからどういう方に向かって、
日本としては何ができるのかということを簡単にお話ししたいと思うんです。
皆さん御存じのように、最近、
金正日書記が総
書記に推戴された。まだ
北朝鮮でも推戴という
言葉を使っていまして、
就任という
言葉は使っていないんです。
日本の新聞としては
就任というふうに使っているわけなんですが。どうしてこうなったかというのがなかなか
日本から見ているとよくわからないんですね。
ピョンヤンに最近行ってきた人がピョンヤンの
状況をいろいろ取材しますと、なるほどと思うことで一つ出てきたのは、実は
北朝鮮では党大会の前とかあるいは十年に一回とか、労働党員の党員証発行というのをやるんですね。党員証の再発行のときには党員の思想検閲をもう一回やり直すわけです。今度の三年の喪が明けた後に、
北朝鮮のいわゆる党員の思想検閲といいますか、検閲事業というふうに言われるんですが、これが大々的に展開されていまして、これが七月以降は地方レベルからずっと始まったんですが、本来ならば十月前に終わる予定だったのが結局終わらない。これが終わらないと新しい
人事が組めないんですね。つまり、思想的に大丈夫だという人を新しい
中央委員とか
政治局員とかそれから最高人民
会議の代議員に選ばないといけないわけでして、そのための作業が終わらないと大事に入れない。だけれども、結局十月十日にどうしても総
書記になる必要があるということで、総
書記を推戴という形で、これはもう事実上
就任したわけですね。
その作業が行われている中でいろんなことが起きていると言われていまして、
韓国に亡命した
黄長燁書記あるいはエジプトから
アメリカに亡命した
北朝鮮の大使に関連する身元
調査、それから、彼らと関連して彼らからいろんなものをもらったんじゃないかとか、あるいは彼らの手づるで
韓国の情報機関と接触して情報工作をやられたんではないかと。そういうような点検がほぼ今最終
段階にかかっていまして、これが終わると、今月の終わり、二十日過ぎぐらいに早ければ党
代表者会議、党大会にかわるものですね、それから
中央委総会、遅ければ十二月の初めごろにそういうのがあるだろうと。
それから、予定どおりいけば、これは党の
人事ですから、党の
人事の後で政府の
人事を改正しなければいけませんので、政府の
人事が十二月二十四日ぐらいに最高人民
会議を開いて行われるのではないかと。十二月二十四日というのは、金正日総
書記のお母さんに当たる金正淑さんという方の生誕八十周年でして、このときに多分行われるのではないかというのが現在の我々の推測なんです。それから、その間に多分カーターさんが訪問するのではないだろうかというふうに言われています。
北朝鮮的な物の考え方、朝鮮人の物の考え方といった場合に、米朝交渉で、
韓国あるいは
日本もそうなんですが、
アメリカでも、何であんなに
北朝鮮の外交はしつこいんだと、何であんなにうまくやっていくんだろうかと、こういうふうによく言われるんですが、基本的に言いますと、外交の基本というのがよくわかっているというか、
体制がそうなものでそうなるんですが、すべての外交決定は金正日総
書記が決めるんですね。ですから、外務大臣とか外交官が決められないんです、最終決定は。全部
金正日書記が決めている。そうすると金正日が決めたとおり交渉を進めて、彼のオーケーが落ちたときに交渉が落ちるわけです。これは外交の原則、交渉の原則からすると非常にうまいやり方でして、外交というのは、
最初交渉を始めるときにはまず原則を最後まであくまでも守らないと、途中で
方針をあっちこっち変えたりすると、相手が必ず弱くなったと見たり戸惑うわけです。それがないということが一つの強みで、外から見ると非常に強い
体制に実は見えるんです。
それともう一つは、当時、
韓国の人とかそれから
アメリカの交渉をしている方々がなぜかと言うからいろいろ話をしたんですが、例えば
日本人はお金を借りるときに、私が例えば一万円足りなくて皆さんからちょっとお金をお借りしたいというときに、一万円足りないから一万円貸してくださいとなかなか言えないんですね。一万円足りないんだけれども、八千円ぐらいでどうでしょう、八千円貸していただけませんかと。そうすると、皆さんいい方ですから、一万円足りないなら一万円やるよと言って、これをするとなかなかいい人だと、こういうのが
日本人なんです。
韓国人、朝鮮人の場合は、一万円足りないと基本的に二万円くださいと、こういう交渉をやるわけですね。二万円と要求された方はお金ないから一万円で我慢してくださいよと一万円を出す、そうすると相手も予定どおりと。こういうことが実は交渉上手というか、基本的な交渉なんですね。
ですから、米朝交渉も
北朝鮮の要求というのは
最初が一番高いんです。それが合意するころになるとだんだん低くなってきます。ただ、もう一つ
特徴があるのは、合意直前にもう一回新しい要求を突きつけて高く吹っかけるわけですね、それでもう一回落とすと、こういう大体二段構えの交渉になっています。そういうやり方、行動様式であるということが大体
最初からわかっていますと、この辺でやってくるなと大体わかるんですね。それが見えないと、しつこいとかずうずうしいとかいろんな
言い方が出てくるわけです。我々はなれていると言ってはなんですが、我々からするといつものとおりやっていますねという話になるんですが、それがなかなかこっちから見ているとわからない。
それは、今、日朝の交渉とか日朝
関係がいろいろ複雑になったりつまずいたりする。例えば、今度与党訪朝団が行かれるんですが、
日本からいろいろ
政治家の方がたくさん
北朝鮮を訪問するんですが、実は
北朝鮮からは
日本になかなか来ないんですね。もちろん招いてもなかなか来ないというような事情があるんです。
どうして来ないんだろうなというふうに単純に考えられると思うんですが、どうして来ないんだろうと言いますと、実は
北朝鮮の幹部の
人たちは、外国に出るときは全部金正日さんの許可をもらわなきゃいけないんですね。金正日さんの許可をもらう場合には、金正日さんの前に行って、今度外国に行ったらどういう交渉をしてどういう目標で何を達成してきますときちんと約束しなきゃいけない。それを約束した上で出ていって、約束どおりできないで帰ってくれば責任問題になる、大変な問題になるんですね。そうしますと、これは出かけるより出かけないで招いて交渉した方が非常に責任的には楽だし交渉もうまくいくと、こういう
状況になるわけです。そうした
北朝鮮内の事情というのが一つ一つ見えできますとかなりあの国もわかりやすい、我々にとっては非常にわかりやすい国になるという
状況にあると思うんです。
外交と関連して言いますと、皆さん御専門の方は御存じのように、国際
政治の
状況は冷戦
時代からポスト冷戦
時代、それからヨーロッパの方は既にポスト・ポスト冷戦
時代、ポスト冷戦
時代の次の
時代に変わろうとしている。
それで今回、江沢民主席が
アメリカに行くことで、アジアの
状態、アジアの
関係というのは、
米朝関係の不正常な
状況が取れて一つのポスト冷戦
時代に完全に入っていくわけですが、その中で
北朝鮮というのは実は冷戦
時代のまだ真つただ中にあるわけですね、物の考え方が。それから、基本的な考え方、いわゆる儒教による生活様式、行動様式がまだ残っているものですから、結局、儒教主義と冷戦
時代の物の考え方で国際社会の変化に
対応していかないところにいろんな摩擦が起こる。これをどうやって早く彼らの考えを変えていけるかによって
朝鮮半島の安定度、いわゆる北東アジアの安定度が変わってくることになると思うんですが、これがなかなか実は難しいんです。
北朝鮮、
経済が問題だということはみんなよくわかっているんですが、実は李朝
時代の儒教の原則では
経済をやる人は決して偉くない人なんですね。お金を持ったりお金をいじる人というのは非常に低い、卑しい人でございまして、
政治をやる人だけ、あるいは思想をやる人だけが一番偉い人ですから、その物の考え方、
体制というのは今の
社会主義の
体制にはぴったりなんです。
例えば、李朝
時代に貴族階級がお金を自分の手で持つことは禁止されていまして、お金を持つときにははしでとって渡すというような生活様式ですから、朝鮮語で言えばお小遣いのことをハシゼニと書いたりしたんですね。ですから、そういう形で儒教主義の残る今の
体制、それが近代化していく過程でどういうふうに近代の
経済システムに変えていくかというのが非常に難しい。その
段階を何とか早く変えていくことができれば安定するんではないかというのが
北朝鮮の一つの課題であるわけです。
それから、
朝鮮半島と
日本の
関係でいきますと、実は私、
日本と
朝鮮半島が仲よくするにはどうしたらいいかと
最初にお話ししたんですけれども、結局、
日本がアジアにおける
経済的に最大の大国と言っていいと思うんですが、アジアにおける大国である我々に課せられている一つの義務は、やはりアジアの面倒を見るということであろうと思うんです。アジアの面倒、つまりこれは押しつけがましく
日本の
体制をやれとかいうことではなくて、困っているアジアの人々、アジアの国々に対して面倒を見ましょうということがやはり一つの
日本の
方針なり
日本人の気概でないと、
日本人がやっぱりアジアの中で生きていくのは難しいんじゃないかと。
もちろん、それは単純に何かいいことをやったり金をやっていればいいということではなくて、そこには外交の駆け引きとかそれぞれの国の難しい事情もありますから簡単にはいかないんですが、しかし基本的な
方針として
日本というのはアジアのために面倒を見るんだということを常にはっきりすることが、やはりアジアの中で尊敬されていく道ではないかというふうに考えているんです。
そうした中で、それじゃ
朝鮮半島と我々の
関係はどういう
関係にあるかといいますと、基本的には
朝鮮半島に対する
日本の政策が我々の運命を実は決めてきたわけですね。例えば古く白村江の戦いは、皆さん御存じのように、滅亡した百済を再興しようといって兵隊を出して結局負けるわけですね。言ってみれば、もともと負ける
戦争に兵隊さんを出して、結局、その後
統一新羅とは非常に
関係が悪化していくという
状況をたどる。それから、蒙古襲来の時期も、朝鮮側からいろんなメッセージとか可能性、襲来してきそうだという情報が伝わってきているにもかかわらず、
日本側としてはなかなかそれを理解できなかった。それからまた、豊臣秀吉の朝鮮出兵、朝鮮侵略の場合には、
朝鮮半島の
人たちがなかなかそういう情報をつかめなかった。逆に言いますと、その朝鮮出兵のおかげで秀吉の政権は崩れていくわけです。そういった形で、実は
朝鮮半島とどういう
関係をつくるかが
日本の未来にとって最も重要な
要素になっているわけです。
そうした中で我々がどういうふうなつき合いができるかということを考えた場合には、一つには、
統一に向かう
朝鮮半島に対して我々はできる限りのことを、最大限のことをしますということをはっきり常に言うべきであろうと思うんです。いずれにしろ
朝鮮半島は
統一されることになると思うんですが、そのときまでにも
日本は最大限の協力をしますよということを言っていくべきだろうと思うんです。ただ、これは基本
方針でです。
しかし、では現実に
朝鮮半島の
統一が簡単かといいますと、小此木先生がおっしゃったようにそれは簡単ではないんです。
韓国で一番難しいのは何かといいますと、会社の合併なんですね。会社を合併しますと社長さんが二人いるのを一人にしなきゃいけないんです。社長さんになった人は絶対副社長になりたがらない、死んでもならない、こういう物の考え方がありますので、
朝鮮半島を
統一するときに、例えば現在ならば金正日さんはどうするか家族はどうするかとか、それから
北朝鮮の人民軍は解除するのかどうするのかという非常に細かい厳しい問題に直面する。ですから、小此木先生がおっしゃったように、計算される
統一コストでは補い切れない大きな問題がたくさん残っているわけですね。
そうしますと、基本的にはどうも
統一というのは近い将来にはかなり難しいんではないか。近い将来に難しいという最大の理由が、実は中国も
アメリカも
統一を現在望んでいないというのが国際社会の現実でして、これが続く限りは、しばらく
朝鮮半島の分断というのはリアリティーとして続くのではないかと言っていいだろうと思うんです。特に中国は、ここに来まして
北朝鮮支援の
方針を、それからまた金正日
体制を
崩壊させないという
方針をはっきりと打ち出していますので、この
方針が続く限りしばらくはこのままの
状態が続くんではないだろうか。
しかし、小此木先生もおっしゃったように、ここ三年あるいは五年の先が非常に厳しい時期であるというふうに見ておられるんですが、それは間違いなく
北朝鮮が今過渡期にあるわけです。封建的冷戦
体制からポスト冷戦
時代あるいはポスト・ポスト冷戦
時代にどうやって適応していこうかという非常に短期間の過渡期にあるんですが、これを乗り越えるのが実は非常に難しいんですね。結局、二つの戦略を我々はとるしかないんですが、それは、
崩壊させないという戦略とそれから
戦争はさせないという非常に相矛盾する戦略なんです。ですから、
崩壊させないという形での国際協力と
戦争は絶対させないという政策をどうやって
関係国の間でつくり上げていくかということです。
それからもう一つは、私が
最初に申し上げた
北朝鮮の物の考え方は今どうなんであろうかということを念頭に置いて考えていただくと、
北朝鮮が今一番怖いのは自分が
崩壊するんではないかということなんですね。自分が
崩壊するということよりも、周りの国がみんなこぞって
北朝鮮を
崩壊させようとしているんじゃないかというのが実は一番の恐怖の理由なんですね。ですから、
北朝鮮自身としては、軍事的にも
韓国と在韓米軍を相手にはもう戦えないということはわかっていますし、それは勝利できないというのもわかっています。ただ、その一方で、
自分たちの軍事力がどんどん落ちていく過程で南と
アメリカが北侵してくるんではないかという理屈は、軍人さん
たちには非常にわかりやすいんですね。
それに対して、周辺
国家は
戦争させないという
意味での一つは、絶対に
北朝鮮は
崩壊させないということを言い続けるしかないんです、安心させるしか。それから、それと同時にガイドラインのように、何か有事のことがあればきちんと
対応しますよということをはっきりと示していかなきゃいけないわけですね。
その戦術と戦略をしっかりとしていけば大きな問題は起きないのではないだろうかというのが一つの考えなんです。
それから、先ほど申し上げましたように、
経済の面では結局
改革・
開放に向かわざるを得ないんですが、今の
北朝鮮の物の考え方からしますと、
改革という
言葉を使いますと金日成さんを否定することになるんですね。おやじの金日成さんがいろいろやり遂げた事業はみんな大成功だったと言われている、その大成功だった事業に対して
改革という
言葉を使うのはこれを否定することになるわけでして、それが実は
改革になかなか踏み切れない最大の理由なんですね。ですから、その
改革に踏み切るために、
改革の成果を上げながら
改革していく方がいいんだというのを見せながら、
改革という
スローガンは使わないで事実上
改革の
方向に持っていこうというのがこれから二、三年の過渡期の動きになるんですが、これがうまくいくかどうかが
北朝鮮の安定度にかかっていると思うんです。
皆さんが御関心のある
食糧問題は、基本的には
北朝鮮という国は
食糧自給が難しい国、地形的にはほぼ不可能な国でして、実際にはどんなに生産が上がっても自給ができないんですね。ただ、去年は二百五十万トン生産したと言われているんですが、いわゆる
食糧難の底はだんだん打ち始めたんではないかというふうに見られていまして、それは農業の面でもいろんな、主体農法の
改革とか新しいものを取り入れるという
方向に変わっているものですから、農業生産というのは次第に回復していくんではないか。
ただ、回復するには一番足りないのが農薬と肥料です。これが極度に不足しているものですから、結局生産力が落ちる。それから、かつての主体農法というので地方が衰えているものですから、それがまた回復できない、こういう問題を抱えています。しかし、
アメリカあるいは国際機関の指導をかなり受け入れ出しているので、もちろん
内部でそういう農業
改革はよくないという、
改革すべきかすべきでないかという論議は相変わらずあるんですが、だんだんそういう
方向に向かわないと生き残れないというふうにわかってきますから、これは変わってくることになるだろうと思うんです。
あと、御
参考までにピョンヤンの
内部は今どうなっているのかということをお話ししますと、実は今過渡期で一番問題になっているのが労働党。労働党がすべてを指導することになっているんですが、労働党と政府の権限の区分がうまくいかなくなっているわけですね。
これは皆さん御存じのように、かつて
社会主義体制がたくさんあったときは、外交でいけば、外務省は
社会主義諸国との外交をするというのが基本で、労働党の国際部は国交
関係のない
日本とか
アメリカとかそういうところをやる、こう分かれていたわけなんですが、
社会主義国が全部
崩壊しまして、そうしますと外務省のやる外交というのがなくなってしまったわけですね。なくなると同時に、ポスト冷戦
時代に入って、
日本なり
アメリカなりほかの国々はみんな外交というのは外務省がやるものだということで相手にしてくる。そうしますと、労働党の党の方の外交をやってきた担当者
たちが、いや、本来こっちは党がやっていたのにどうしてと、こういう縄張り争いが起きてくる。縄張り争いが起きてくるときに、外交部の人が出てきたりあるいは党の方の
関係の人が出てきたりと、いろんな混乱が起こるんですね。それが時として
日本から見ますと対日外交攻勢をしかけてきたとかというふうに見えるんですが、実際には
内部での業績争いといいますか成果争いが用意ドンで始まるという、そういう
状況も生まれるわけですね。
基本的に
北朝鮮の
体制というのは、
最初にお話ししましたように、金正日さんを上に全部縦の
関係でつながっていまして横の連携はほぼないと、縦の
関係で全部が忠誠競争と業績競争でつながっていくという
状況にあると考えていただければいいと思うんです。
そうしますと、例えば
日本から食料とかお米を導入する場合にも、お米の担当者というのがいるんですけれども、それ以外に、自分がお米を持ってきたという成果を上げたいものですからその
人たちはまたその
人たちで別に動くというふうに、ばらばらとやるような
状況が出てきているわけですね。それは、
北朝鮮の中から見ると実は成果争いなんですが、功名争いなんですが、我々から見ると何か一緒くたになってみんなでやってきた、こういうふうに見えることがあるんですね。しかし、それも
北朝鮮の中のいろんな動き、それから彼らの物の考え方というのを大体整理して考えれば、ほとんど問題はないであろうというふうに言えるんです。
あと、私が用意した中で
崩壊論の問題は、小此木先生が今おっしゃってくださいましたので、大体同じような
意見でありますけれども、実は私、新聞社に入る前に石油会社におりまして石油を販売していまして、仕事をしないで油を売っていたというようなことでやめたわけではないんですけれども、昔から
北朝鮮の石油事情をずっと追いかけていました。そうしますと、
北朝鮮の今の石油事情からいきますととても
戦争ができる石油の
状態じゃないんですね。
中国の原油を毎年百万トン輸入しているんですが、御存じのように原油というのは精製しないと製品にならないんです。中国原油から幾ら精製し
ても三十万トン
程度の製品しか生まれないんです。三十万トンの製品ですと、日常のバスを動かしたりする生活業務でほとんど消えてしまう。もちろん、そのほかに軍は軍としての予算を持っていますから、軍の予算で外から製品を買ってきているんですけれども、これも統計を見ますと大体三十万トンからせいぜい五十万トンぐらいしか買えていないんです。そうしますと、年間五十万トン、備蓄が七十万トン
程度だと言われているんですが、合わせて最大限百二十万トン使えるとした場合、これで
戦争ができるかどうか。
皆さん御存じのように、実は
日本の自衛隊が二十四万人、
北朝鮮は百万人が兵隊さんですね。二十四万人の
日本の自衛隊が一年間に使う油の量は百三十万トンなんです。これは通常業務で、全く
戦争する予定が今のところなくて百三十万トン。基本的にはいわゆる南進
統一といいますか武力
統一の公式的な立場は変えていない
北朝鮮としては、通常輸入してくるのが最大限五十万トン、備蓄が七十万トンでは、これはとてもじゃないけど走れないですね。
しかも、彼らとしては在韓米軍がいる限り勝てないというのはよくわかっていまして、実際には在韓米軍がいる限りはなかなか
戦争はできないというのがリアリティー、現実であろうと。ただ、もちろんそれは一つの国際
政治上の戦略判断でして、じゃ実際にもし万が一起きた場合の戦術的な判断はどうするか、これはまた別の問題になるわけです。
そういうことからしますと、実際に
北朝鮮が今すぐ何か軍事行動をするのは非常に難しいだろうと言っていいんだろうと思うんです。
この報告書の一番上にマスコミを信用しちゃいけないと書いているんですが、いや、毎日新聞だけは別ですよと必ず一言言うことにしていましてね。実は、
北朝鮮がこの前の四者会談で在韓米軍撤退を要求したという報道があったんですが、これは極めて不正確な報道でして、四者会談のときに在韓米軍撤退を要求していないんです。
どういうことかといいますと、
北朝鮮が四者会談の声明を出したときに、もともとの声明書は、朝鮮語と英語の声明書があるんですが、朝鮮語の声明書にも英語の声明書にも一番
最初が撤退要求と書いてあるんです。ところが、それをわざわざ二本棒を引いて消しまして、朝鮮語の方は在韓米軍の整理と書いてあるんですね。英語の方は、ウイズドローアルをやめてディスポジションと文章を変えているんです。
つまり、撤退を要求しないということをあえて文字を直すことでかなり強調したんですけれども、どうも
アメリカ側も気がつかなくて、
アメリカの新聞はみんな撤退、撤退と書いているんですが、実際にはこれが
北朝鮮側の本心でして、今すぐに、あるいは
統一の過渡期に在韓米軍の撤退を要求するということはどうも考えてないんですね。もし在韓米軍が撤退した場合には本当に
韓国軍が攻めてくるのではないかという彼らは彼らなりの心配がありまして、それが一つのそういう
対応になっているのではないかというふうに考えております。
時間が来たようですのでこの辺でやめます。また御
質問をいただければと思います。どうもありがとうございました。