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山口参考人 東映アニ
メーション研究所の
山口でございます。
まず、今般「
ポケットモンスター」が多くの
視聴者に体調異常をもたらしたことに対しまして、同じ
アニメの制作に携わる者といたしまして大変遺憾であり、心よりお
見舞い申し上げます。
日本で
アニメが初めて映画として制作、公開されましたのが一九一七年、大正六年、今から八十年前でございます。それから、
テレビという媒体で
アニメーションが初めて登場いたしましたのが昭和三十八年、一九六三年、今から三十四年前ということになります。その間、御質問にありましたような本件のような
視聴者の方が体調異常を来し、しかも
病院にまで運ばれて治療を受けたという例は全く聞いたことがございません。それだけに大変な驚きを禁じ得ません。
放送されました
ポケモンの
パカパカする部分ということでありましたが、これは赤と青の背景画が強い輝度を持ちまして激しく点滅している箇所が続いておりました。この部分に一番
反応したのではないかというふうに言われておりますが、ただいま御指摘にありました
イギリスのITCのガイダンスを見ますと、色が
パカパカする分には問題がないのだというふうな記述がありまして、これも大変ショックを受けております。
通常、
テレビアニメの
画面の撮影というのは、背景画やセル画などのいわゆる被写体に照明を当てまして映すわけでございますけれ
ども、この
パカパカというのは透過光という手法によるものでございます。この透過光というのは、反射光ではなく光源そのものを被写体として撮影いたします。このように撮影いたしますと、その部分が露出オーバーの状態になりまして、
画面効果といたしましてはその部分がまぶしく光り輝いて見えるわけでございます。例えば、星が瞬くとかまばゆい太陽の表現、それから雷の稲光、水面のぎらつきなどの
画面効果が得られるわけでございまして、この技法は、
アニメが始まって以来もう何十年も前から行われている
アニメ撮影技術のごく初歩的かつ一般的な手法でございます。
一九七〇年代に入りまして、いわゆるSF
アニメというのが盛んに制作、
放映されるようになりまして、いわゆるロボット物などの戦闘シーンなどにおきまして、光線ビームとかあるいは激しい爆発が行われるとかそういった部分あるいはまた宇宙船とかの
コンピューターの計器パネル、そういった場面の表現に多用されるようになってきたように認識しております。それから最近では、魔法物でありますとか怪奇物、それから異世界物はもちろん、スポーツ物とか学園物とかいったジャンルの
アニメーション作品でも利用されるようになってきております。今では、一本の
アニメで透過光撮影のない作品はないのではないかというふうに思われるぐらい多用されております。
私
どもは、
アニメ作品の中でとりわけ
テレビアニメの作品の制作には特段の配慮をしてまいりました。なぜならば、
テレビ電波というものは、性質上、広範でかつ多様な
視聴者層があるという点でございます。したがいまして、特定の思想、宗教それから人種等を描く場合に不偏不党を貫くとか、職業の問題等についてもその貴賎を表現しないように配慮してまいりました。また、その時代その時代の世相に触れるテーマもあるいはまたストーリーの展開においても細心の注意をしてまいりました。
民放連が定めております
放送コード、それに加えまして各
テレビ局ごとの
放送コードといったようなものがありまして、それを十分参考にいたして制作してまいりました。いじめを助長したり身体的なハンディキャップ等に対する問題、それから言葉遣い、身ぶり等にも、私
どもの制作では何
段階かのチェック機能を持っております。
また、技術的な
画面効果についてでございますが、例えば真っ黒な
画面を長く表現する、あるいは真っ白な
画面を長く表現するとか、十数秒間にわたって音が出ないとか、あるいは電波障害によって生じる雑音のような
画面がございますけれ
ども、こういったものを
テレビアニメの中で表現しないというふうな自粛といいますか制作のマニュアルをつくっております。
一昨年でありましたか、サブリミナル効果というものを御存じかと思いますが、これは大変社会問題になったことがございまして、ある
アニメシリーズの作品の
放送中に、たった三十分の二秒の間でありますけれ
ども、ある実在の人物の写真が挿入されていたわけでございます。これはよほど注意して見ていても知覚できないわけでございますけれ
ども、しかし、その作品とは全く
関係のない異種
映像が入っていたというわけでございまして、これが知覚されるかどうかは当時いろいろ話題になったことがございますけれ
ども、人間の潜在
意識域の中である種の影響を及ぼすという
専門家の指摘がございましたので、
アニメ制作プロダクションが大変混乱を起こしたことがありました。
この影響の正式な学説が出ていないように聞いておりますけれ
ども、私
どもは、疑わしいものはこれを排除しようということで対策をとってまいりまして、二重三重のチェック機構を設けましてこれの防止に努めてまいりました。
今回のチカチカあるいは
パカパカという現象は、映画とか
テレビのメカニズムそのものが間欠光によって成り立っておりますので、本質的には避けられないメディアとも言えますけれ
ども、今改めてそのことを基本的に認識し直すことが大切であると痛感いたしております。
また、
アニメーションは本来、生命のないもの、動くはずのないものを生きているように、あるいは動いているように見せる媒体でございます。したがって、描かれたキャラクターは抽象化され、単純化され、戯画化され、そしてそれが線と色とによってセルロイドに転写され、必要な部分のみ意図的に動かし、そしてとめて表現するということができる大変すぐれた媒体であります。このような
アニメーションの特質によりまして、子供たち、特に幼児に最もよく知覚されやすい
映像であるということが言われております。
それがゆえに、古くから
アニメーションは、コマーシャル、PR映画、教育映画、そして最近では
ゲーム等の分野におきましても盛んに利用されるようになってまいりました。しかし、近年、一部マニア向けの媒体等によって、過激でかつ突出した表現がもてはやされる傾向が指摘されるようになってまいりました。それが今回の問題と直接の因果
関係があるかどうかは別といたしまして、この際、我々
アニメの制作現場では、行き過ぎた点がないかどうかを厳密に再点検する必要を感じております。
とりあえず私
ども東映動画といたしましては、緊急措置といたしまして、
イギリスのITC、独立
テレビジョン
委員会が一九九四年の十一月に出したITCガイダンスノートの五項目を参考にいたしまして、行き過ぎた透過光表現を避けるよう、全作品の担当
プロデューサー等に通達いたしまして、この問題が二度と発生しないように留意しております。また、任意団体であります動画連盟というのが九社によって結成されておりますが、そこでも独自に専門
委員会を設けたという
報告も聞いております。
御質問の
任天堂の
テレビゲームの問題でございますけれ
ども、この光過敏症の問題は私
ども聞いておりましたが、このメディアが双方向メディアということでありますので、個人によって非常に差があるのかなということで、問題は承知はしておりましたが、
アニメの今の態様による
放送に直接つながるものとは思っておりませんでした。
それから、二番目のITCガイダンスにつきましては、私
どもは、今度の問題が起きるとすぐITCからこういった
資料を取り寄せまして、これをすぐ制作の現場にフィードバックしてまいっております。
それから、三番目の
パカパカの特殊技術で制作費が安くできるかどうかという問題ですが、安くできる部分もございます。大半は手で一枚一枚かくものなんですが、この
パカパカという技術は、カメラの撮影台の上で、
アニメーターの手によらないでカメラ操作によってできるものですから、作画が間に合わないときにこれをやると、かくよりも効果があるということで多用されている面があるかと思います。しかし、非常に凝ったものについてはかいた方が早いというようなことがありまして、それは担当の演出家、各話ごとの演出家の判断に任されているように思います。以上でございます。