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1997-04-24 第140回国会 参議院 法務委員会 第7号 公式Web版

  1. 会議録情報

    平成九年四月二十四日(木曜日)    午前十時開会     —————————————    委員の異動  四月二十四日     辞任         補欠選任      中原  爽君     三浦 一水君     —————————————   出席者は左のとおり。     委員長         続  訓弘君     理 事                 岡部 三郎君                 久世 公堯君                 浜四津敏子君                 橋本  敦君     委 員                 遠藤  要君                 岡  利定君                 志村 哲良君                 下稲葉耕吉君                 中原  爽君                 服部三男雄君                 林田悠紀夫君                 三浦 一水君                 大森 礼子君                 山崎 順子君                 及川 一夫君                 照屋 寛徳君                 伊藤 基隆君                 菅野 久光君    国務大臣        法 務 大 臣  松浦  功君    政府委員        法務大臣官房長  頃安 健司君        法務省民事局長  濱崎 恭生君        法務省刑事局長  原田 明夫君        法務省人権擁護        局長       大藤  敏君        法務省入国管理        局長       伊集院明夫君    事務局側        常任委員会専門        員        吉岡 恒男君    説明員        警察庁警備局外        事課外事調査官  内田 淳一君        法務大臣官房審        議官       樋渡 利秋君        法務省入国管理        局警備課長    安田 博延君        海上保安庁警備        救難部警備第二        課長       小原 正則君     —————————————   本日の会議に付した案件 ○出入国管理及び難民認定法の一部を改正する法  律案内閣提出衆議院送付)     —————————————
  2. 続訓弘

    委員長(続訓弘君) ただいまから法務委員会を開会いたします。  出入国管理及び難民認定法の一部を改正する法律案を議題といたします。  本案の趣旨説明は既に聴取いたしておりますので、これより質疑に入ります。  質疑のある方は順次御発言願います。
  3. 久世公堯

    久世公堯君 最近、新聞記事を読んでおりますと、船舶による密航が非常に多くなってきているということが、ここ三、四月、かなり新聞に出ていたように記憶をいたしております。それも、港に上がってから新幹線で福岡、岡山、京都、こういうところに行ってそれぞれ捕まったり、あるいはまた大阪の港にパナマ国籍コンテナ船に乗ってかなり多くの人数が入ってきたとか、そういうような記事がいろいろと見られるわけでございます。  しかも、見ておりますと、昔、ボートピープルと言っていたようなこととは違って、一つ地域あるいは一つの港に限られたことではなくて、局地的ではなくて、港が多いわけでございますが、それこそ陸海空にわたって全国的に、北海道から本州、四国、九州、沖縄に至るまで密入国が多くなってきている。いわば非常に広域化している。しかも、それが窃盗団を構成して宝石店やあるいは大型店窃盗を働いている。しかもそれが非常に悪質である。あるいはまた、これが組織的ではなかろうかということで、いろいろな組織のもとに行動をしている。このような広域化、あるいは大型化組織化悪質化、こういう傾向が出ているのが最近の密航特徴ではなかろうかと思います。しかも、漁船に乗り継いで、そしてそれぞれ分かれてやるとか、非常に巧妙のような気がいたします。  統計を見ておりますと、三月には多少下火になりかかっておりましたが、四月になりますとまたふえる。そして今後は、海流あるいは気象条件、あるいは日本の場合には連休というものがやってくる、そういうような関係から、またこれ以上にふえるんではなかろうか、こういうようなことが言われているわけでございます。  昨日は、この提案理由説明を大臣から承ったわけでございまして、今回の入管法改正が、今申し上げましたような急増を続けている船舶による集団密航事案に的確に対応するものであるという説明を承ったわけでございます。  以下、改正内容について質疑を申し上げたいと思いますが、その前に、急増を続けておりますところの船舶による集団密航事案特徴と申しますか状況、あるいは、なぜこのように急増しているのか、そういう原因について説明をいただきたいと思います。
  4. 伊集院明夫

    政府委員伊集院明夫君) まず、最近の船舶による集団密航状況から御説明いたします。  委員指摘のとおり、特に昨年十二月以降、近隣諸国からの船舶による集団不法入国事案、これが急増しております。具体的に申し上げますと、昨年十二月以降本年四月二十二日現在までに身柄を確保しました船舶による不法入国者数、この総数が五十件、千百二十人に達しております。この人数は、昨年一年間に入国管理局退去強制手続をとった船舶による不法入国者総数を既に上回っております。  この最近の集団密航特徴でございますが、先生指摘のとおり、昔は九州が中心でございましたが、九州から北海道まで非常に広い地域集団密航者がたどり着くということで、広域化傾向、それから大型化傾向、それから蛇頭と一般に言われています組織の非常に組織的な関与といいますか、そういうものが見られるということでございます。  最近、急にこのように船による集団密航が非常にふえた理由でございますが、基本的には近隣諸国日本の間の経済格差というものがございます。それから、日本不法に入国したり残留して就労して相当の収入を得て本国に帰った人たちが豪邸をつくって生活しているというような話が広く伝わり出しているというようなことも一因でございますが、さらに大きな要因は、やはり密航者を手引きするビジネスというものが大変組織化されてきた、こういうことが大きな理由であろうかと思っております。
  5. 久世公堯

    久世公堯君 ただいまは、近隣諸国との間の経済格差ということを言われたわけでございますが、この密航事件大半中国人だというふうに私は聞いているわけでございます。  その中国人がほとんどであるというのはどういう原因なのか。今おっしゃったような経済的な格差、特に賃金格差があるということ、あるいは経済事情が大きいのかと思うわけでございますが、そのあたりはいかがでございましょうか。  また、香港返還とは関係があるんでしょうか。
  6. 伊集院明夫

    政府委員伊集院明夫君) やはり中国社会のつの状況で、開放政策と申しますか、ある意味で拝金主義的な考え方が非常に出てきているということはあるであろうと考えております。  それから、香港返還の影響ですが、これについてはいろいろな見方がありますが、一部の見方では、香港返還後はむしろ香港に出国するよりも直接日本に来た方がいいのではないかというふうに、今、一部の密航を企てる者が考えているのではないかという見方もございますが、この辺は確証はございません。
  7. 久世公堯

    久世公堯君 今急増を続けております集団密航事案に対して、これまでの対応策は一体どういうふうにされていたわけでございましょうか。それから、今後はどういうふうに対応するのか。今度の入管法も、それが大きい対応策なんだろうと思いますが、その前に、水際作戦であるとか、あるいは全国的な組織的、系統的な集中摘発でありますとか、そういうような関係はどうなっておるのでございましょうか。
  8. 伊集院明夫

    政府委員伊集院明夫君) 集団密入国事案に対する対策ですが、まず水際で阻止するということが一番大事でございますので、これにつきましては、警察庁海上保安庁等関係省庁協力しながら、できるだけ水際で阻止するという努力をこれまでも続けてまいりました。そのための関係省庁との協力関係ということで、従来から入国管理局警察庁法務省の中の刑事局海上保安庁の四機関の間で不法入国事案効果的防止のための協力ということを行っております。  その一環として、こういう集団密航者を確保した場合には、まず刑事手続をとる、そういうことによりましてできるだけ効果的な防圧を図る、刑事手続が終わった後で行政手続としての退去強制を行うと、こういうことをやろうということも決めております。さらに、一つは、送り出し国に対して、不法密出国に対する規制をできるだけ強化してくれということも要請しております。  さらに、水際で阻止できないものも多いわけですが、これについては私ども、全国的に年三回、入管法違反者集中摘発努力期間というのを設けまして、集中的な摘発活動を行っているというようなことで、できる限りの努力をしていると。  これからもこういう努力を継続して、さらに強化してやっていきたいということと、今回、この法案が通りますれば、この法案に基づきまして、特に密航助長・援助するような者を厳しく処罰していきたいと、こういうふうに思っております。
  9. 久世公堯

    久世公堯君 ただいまのお話によりますと、水際でとめる、あるいは集団摘発をやる、そして他省庁とも連携をとりながら今までも努めてきたけれども、まだ現状では十分ではないから今回の入管法改正ということになったんだろうと思います。  そこで、この集団密航事案についての現在の入管法上の問題点というものについて御説明を賜りたいと思います。
  10. 樋渡利秋

    説明員樋渡利秋君) お答えいたします。  現行入管法では、密航者我が国に運ぶ行為、それから上陸させる行為あるいは我が国におきましてこのような密航者を受け取る行為などにつきまして、不法入国罪不法上陸罪幇助犯等として対応することになっておりますけれども、刑の上限幇助犯につきましては懲役一年六月にすぎません。また、密航者旅券等を所持している者につきましては、不法上陸するまで処罰退去強制もすることができないなど、事案悪質性に見合った有効な対応が困難であるといったことが挙げられると思います。
  11. 久世公堯

    久世公堯君 ただいまの御説明によりますと、一言で言って、現行入管法では組織的な集団密航ブローカーなんかに対する十分な対応ができない、刑の関係からもそうだというような御説明であったわけでございます。  それでは、今回の入管法改正をしなければいけないと申しますか、入管法改正の主な内容についてひとつ御説明をいただきたいと思います。
  12. 樋渡利秋

    説明員樋渡利秋君) お答えいたします。  大きく分けますと、次の三点でございます。  まず第一に、集団密航に係る罪といたしまして、集団密航者本邦に入らせ、または上陸させる行為。それから、上陸させた集団密航者を収受し、または収受した外国人を輸送し、蔵匿し、もしくは隠避させる行為。そして、集団密航者本邦に向けて輸送し、または本邦内において上陸の場所に向けて輸送する行為等処罰対象とするとしております。  続きまして第二番目に、集団密航に係る罪でとらえ切れない密航ブローカーなどの行為に対する罪といたしまして、営利目的不法入国または不法上陸を容易にする行為。または、営利、非営利を問わず、所持人について効力を有しない旅券等を提供して不法入国不法上陸を容易にする行為。それから、退去強制を免れさせる目的不法入国者または不法上陸者蔵匿し、または隠避させる行為処罰対象とすることにしております。  そして三番目に、不法本邦上陸しようとする者の中には、旅券を所持している者が混在する現況にかんがみまして、不法本邦上陸する目的を有する外国人は、有効な旅券を所持する場合でありましても不法入国罪処罰することというふうにしております。  以上でございます。
  13. 久世公堯

    久世公堯君 ただいまは、総括的に今回の改正について御説明になったわけでございますが、やはり今回の改正ポイントは七十四条の改正、それから七十四条の二と七十四条の四の新設、これが一番の重要なところではなかろうかと思います。  この集団密航に係る罪を新しく設けたというところに大きなポイントがあると思うわけですが、その理由内容について承りたいと思います。
  14. 樋渡利秋

    説明員樋渡利秋君) お答えいたします。  最近、船舶を利用しました集団密航事犯が、委員指摘のとおり、頻発しておりますところ、その背景といたしましては、密航者集団我が国に運んでくることをビジネスとして行う内外の組織活動が活発化していることが挙げられます。従来、このような組織的な密航助長行為に対しましては、密航者自身不法入国不法上陸罪幇助犯として対応してきましたが、その刑の上限懲役一年六月にすぎませんでした。  一方、組織的にいわばビジネスとして密航者我が国に送り込む行為は、まさに人の密輸というべきものでありまして、個々不法入国不法上陸に比しまして、我が国出入国管理秩序を害する程度ははるかに大きく、このような行為独立犯罪類型としてとらえて、法定刑もその実態に見合ったものとする必要があると考えたわけでございます。  そこで、船舶を利用して密航者集団我が国に送り込みますいわゆる密航ブローカー活動実態を見ますと、大きく分けまして、外国から集団密航者本邦内に運んできて上陸させる部分、いわゆるこれが集団密航をさせる行為ということになりますが、その部分と、上陸した集団密航者を収受し、またはその収受した密航者を輸送、蔵匿、隠避させる部分、いわゆるこれを受け皿行為というふうに考えておりますけれども、その部分から成り立っているということができるわけであります。  そこで、まず集団密航をさせる行為といたしまして七十四条の罪を設けまして、これを集団密航に係る罪としまして、「自己の支配又は管理の下にある集団密航者本邦に入らせ、又は上陸させ」る行為独立犯罪類型として重く処罰することとしたものであります。  続きまして、七十四条の四で、このような集団密航をさせる行為と一体をなす、先ほど申し上げました受け皿行為につきまして、集団密航をさせる行為と同様に処罰する必要性があるものと考えられますことから、七十四条の罪で、同じ法定刑の罪をつくったということでございます。
  15. 久世公堯

    久世公堯君 七十四条、七十四条の二、七十四条の四の三つの条文についての御説明を承ったわけです。  さらに、七十四条の六では、営利目的不法入国をする援助罪というのが新設されておりますし、また七十四条の八におきましては、不法入国者蔵匿や隠避に係る罪を新設されておられるわけでございます。こういうことを新設されました背景なり、あるいはその理由について承りたいと思います。
  16. 樋渡利秋

    説明員樋渡利秋君) まず、七十四条の六、営利目的等不法入国等援助罪といいますか、その関係の罪を新設いたします理由をお答えいたします。  退去強制に関します最近の統計を見ますと、我が国上陸した密航者の多くが空港からの密航者で占めておりまして、しかも各地の空港におきましていわゆる密航ブローカーがさまざまな手口で密航者審査ブースをすり抜けさせる等の事例が見られます。偽造旅券等を渡しながらうまくすり抜けさせるように、あるいはかばんの中に潜めさせてすり抜けさせると、いろいろな行為が見受けられるのであります。  これらの空港からの密航助長する行為につきましては、今回新設いたしました集団密航に係る罪、これは集団密航させる罪でございますので、個々の一人一人が密航することを幇助する行為は含んでおりませんで、必ずしもその集団密航に係る罪ではとらえ切れないものがありまして、集団密航に係る罪に当たらない密航ブローカーらの密航助長する行為のうち、いずれも類型的に違法性が大きい、営利目的によりますものと偽造旅券等の提供に係るものにつきまして七十四条の六の罪を設けて重く処罰することとしたものであります。  次に、七十四条の八、これは不法入国者等蔵匿、隠避する罪と申しましょうか、その七十四条の八の罪を新設した理由についてお答えいたします。  不法入国者及び不法上陸者は、我が国不法に入国しまたは上陸したことによりまして出入国管理秩序を侵害したということのみならず、その後も不法在留を継続することによりまして出入国管理秩序を侵害し続けていると言うことができます。いわゆる不法残留者といいますのは、一たんは正規に許可を受けて入国した者が、その後、不法に滞在することになったというものでありますけれども、これらの不法入国者及び不法上陸者といいますのは、初めから我が国許可を受けようともせずにひそかにどこからか入ってくる、あるいは偽造旅券を使って入ってくるというものでありますので、その出入国管理秩序を侵害し続けているということは非常に重いものがあるというふうに考えられるものであります。  したがいまして、これらの不法入国者及び不法上陸者につきましては、本来的に本邦におることが許されない者でありまして、このような外国人蔵匿しまたは隠避させる行為といいますのは、外国人の適正な在留管理を害することが特に大きいものであると認められまして、また、このような蔵匿、隠避行為は、我が国不法入国者不法上陸者を引き寄せる誘因ともなっていますことから、これらの行為処罰しようとするものであります。  以上であります。
  17. 久世公堯

    久世公堯君 今回のこの集団密航実態新聞等で報道しているのを見ますと、蛇頭という特殊な役割があって、しかもそれはそれぞれの役割がまた中で非常に組織化をされていると。その蛇頭というのは一体何であり、どういうような組織でどういうふうに動いているのか、また、日本暴力団その他そういう日本受け入れ組織もあるように承っておりますけれども、そのような実態についてお聞きしたいと思います。
  18. 伊集院明夫

    政府委員伊集院明夫君) 蛇頭と言われる組織につきましては、必ずしもその実態が明らかになっているわけではございませんけれども集団密航ブローカーやその構成員を指すものとされております。中国香港等を拠点に多数存在しておりまして、いずれのグループにもリーダーがいると、そのもとに、不法入国者をまず勧誘する勧誘蛇頭、それから不法入国者目的地まで送り届ける引率蛇頭、それから目的地での上陸の世話をしたり最終目的地まで送り届ける出迎え蛇頭等、それぞれの役割を担った蛇頭が存在すると言われております。  日本への密航につきましては、日本暴力団関係者が関与している例も最近幾つか見られます。さらに、日本不法残留している者が多いんですけれども不法残留している中国人等日本での受け入れに当たっているという例も多数ございます。
  19. 久世公堯

    久世公堯君 法の内容については、大体大まかなところは承ったわけでございます。まだ細かいいろいろの問題があるかと思いますが、それはまた同僚議員が質問されるだろうし、また個別に対応しなければいけない問題だろうかと思うわけでございます。今回の改正集団密航ブローカーという者に対して厳格に対応しようとしておられる意気込みなり、あるいはそれを法律ということでお出しになった趣旨は大体理解いたしました。  そこで、この集団密航者身柄を受け取ってから本国送還するまでの入管当局における具体的な手続というものについて承りたいと思うわけでございます。何か聞くところによりますと、集団密航者というのは、本国などへ送還される前には、大村入国管理センターというところに収容されるというふうに聞いているわけでございます。  そこで、この大村センターというものの組織なりあるいは収容規模なり収容人員なり、そういうものについて御説明を承りたいと思います。また、この大村センターに収容してから本国などへ送還までの収容期間は一体どうなのか。あるいは、早期送還をしたいけれどもそれにはいろんな支障がある、どういう問題点があるのかという点について承りたいと思います。
  20. 安田博延

    説明員安田博延君) お答え申し上げます。  まず、集団密航者身柄を受け取ってから送還するまでの私ども入管当局における手続、手順でございますが、集団密航事案の効果的な防圧を図るため、まず捜査機関において刑事手続をとっていただくということになっております。したがいまして、捜査機関におきまして一定捜査行い起訴がなされますと裁判手続になります。裁判手続実刑判決がありますと服役といったようなことにもなるわけでございますが、そうした刑事手続が終わりますと、私どもの方で行政処分としての退去強制手続をとるということになる。それを基本方針といたしております。  この退去強制手続でございますが、具体的に申し上げますと、刑事手続が終了いたしました後に、地方入国管理局集団密航者身柄を引き取ってまいります。そういたしまして、入国警備官がその密航者につきまして違反調査を行います。その後、入国審査官にこれを引き継ぎまして、入国審査官による違反審査等を行いまして、退去強制事由があると判断されますと、主任審査官が発付した退去強制令書に基づきまして送還するということになっております。  ただ、送還までに一定の時間を要する場合は、入国者収容所、先ほど先生からも御指摘ございましたように、例えば長崎県にございます大村入国管理センター等に一たん収容しまして、送還先政府と協議するなどした上で、航空機または船舶により順次送還することとなっております。  次に、この大村入国管理センターでございますが、昨今問題となっております集団密航者のうちのかなり割合を占めております中国からの集団密航者につきましては、大体この大村入国管理センターに一たん収容して送還するという形をとっております。  そこで、大村入国管理センター組織収容規模収容人員等でございますが、まず大村入国管理センター組織は、所長、次長以下、総務課経理課警備第一課、警備第二課、診療室の四課一室の体制となっております。職員の数でございますが、本年の四月一日現在で百十五人であります。また、官職別では、入国警備官が九十八人、法務事務官が九人、技官、これは医師、看護婦等を含みますが、これが八人となっております。  次に、大村入国管理センター収容規模でございますが、定員が八百人でございます。本日現在の収容人員でございますが、約七百名でございまして、その約九割が男性となっております。また、全体のうちの相当割合、九割程度中国人となっております。  収容者内容でございますが、この点若干、国籍別でもう少し敷衍いたしますと、一番多いのが中国、次がベトナム、それからイランとなっておりまして、そのほかパキスタン、インド、ミャンマーといった国の外国人を収容いたしております。  また、収容しておる外国人年齢別などでございますが、十歳未満の者が若干名、そして十代が約八十名、それから二十代が約三百六十名程度、三十代が約二百二十名、四十代が四十名程度、五十歳以上が若干名と、こんなところでございます。  それから、送還期間はどれくらいかという点のお尋ねでございますが、送還に要する期間は、早い者は一般的に退去強制令書を発付されてから数日後に送還をいたしております。ただ、中には、旅券あるいは帰国のための航空券等を所持していないために直ちに送還できない者がございます。こうした者につきましては、旅券あるいは航空券といった送還条件が整い次第、速やかに送還するということにいたしております。  それから、集団密航大半を占めます中国人送還でございますが、こうした密航者はほとんどが旅券を所持しておりません。そのために、中国当局による身分確認の必要がある者が大半でございます。また、送還人員や送還実施日及びその送還方法等について中国の当局と調整が必要となります。すなわち、我が国だけの都合で送還することができない事情がございます。そうしたことがございますので、大村入国管理センターに収容した後、おおむね三、四カ月程度送還しているというところが大体の実情というふうになっております。  以上でございます。
  21. 久世公堯

    久世公堯君 ただいまの御説明によりますと、大村センターには八百名近い人が収容されている、しかもその大半中国であるということで、大村センター実態はよくわかりました。  今、中国の話をされ、また中国以外ではベトナムとかイランとかパキスタンとかミャンマーだと、こういうようなお話でございました。今、日本の企業が、特に製造業を中心といたしましてアジアにどんどん行っておりますために日本が空洞化しているわけでございますけれども、今お話を聞いておりますと、日本の製造業がまだ余り立地をしていないような国々。  ただ、中国の場合は、上海なり深センなり、海岸部、沿岸部におきましてはかなりもう急速な経済発展をしているわけでございますが、中国の中でも、集団密航者地域的にはそういう日本の企業立地をしている沿岸部以外のところなのか、どういうところが多いのか、そこはおわかりでしたら御説明願いたいと思います。
  22. 安田博延

    説明員安田博延君) お答えいたします。  中国の場合は、密航者の出身地ということで申し上げますと、圧倒的に福建省の出身者が多うございます。福建省は御承知のとおり、台湾の対岸にございます海沿いの地域でございまして、この福建省の中でも海岸沿いの市といいますか地域といいますか、そういった海岸沿いの地域の出身者が密航者大半を占めているというのが実情でございます。  なぜ福建省が多いのかということにつきましては、これは必ずしも何が原因かということはよくわかりませんが、福建省というのは華僑の出身地とも言われておる地域でございます。背景といたしましては、そうした海外に出て活躍するといいますか外国へ出て活動する、そうした気風のある地域だというそうしたことが背景になっているのではないかと思われます。  以上でございます。
  23. 久世公堯

    久世公堯君 中国が非常に多い、かつ、先ほどからお話もありましたように、非常に悪質な大型な、組織的な犯罪でございます。そうなりますと、日本政府として、中国政府に対して密航の防止についての申し入れというのをおやりになったのかどうか、その状況について承りたいと思います。また、それに対して中国政府はどのような対応日本に示しているのか、承りたいと思います。
  24. 伊集院明夫

    政府委員伊集院明夫君) 中国に対してですけれども、まず入国管理局としましては、これまでも中国人送還関係中国側とは、常時といいますか極めて頻繁に折衝の機会を持つわけですが、そういう場合には常に不法出国防止等の強化ということを申し入れてきているわけでございます。  それからさらに、これは外務省を通じてと申しますか、日中間には領事協議というのが定期的にございますけれども、そういう場でも常にこの問題が議題になっておりまして、我々も出席してそのときに中国側に要請している。  特に、昨年末からは非常に船による集団密航事案というのがふえておりまして、その九割方が中国からの密航者であるということもございまして、ことしの二月に関係機関とともに在京中国大使館に対してこういう不法出国防止策の強化をしてほしいということを申し入れておりますし、本年の三月十七日から二十二日までの日程で、私ども入国管理局の担当者と警察庁、外務省、それから海上保安庁の担当者が中国に参りまして、中国政府の外交部、公安部と不法出国者の防止等についての協議を行いました。また、中国人密航者の主な出身地でございます福建省の当局とも、また、密航者の主な出国港というのは上海でございます、上海市の地方政府とも協議を行ってきたということでございます。  この一連の協議で日本側からは、最近の中国人による集団密航事案急増している状況説明いたしまして、大変我々としては懸念しているということを表明しまして、六項目の申し入れを行いました。第一は沿岸パトロールを強化してほしいということ、第二に船舶監視の徹底、第三には密航ブローカーの取り締まり強化と処罰の厳格化、第四に密航者の多い福建省等の住民に対する啓発の徹底、第五に密航事案の情報提供の徹底とICPO手配に対する誠実な対応、第六に退去強制令書が発付された中国人の早期引き取りと、こういう六項目の申し入れを行いました。  これに対しまして中国政府側からは、日本への集団密航事案急増していることは中国側としても十分認識しておりますと、それで、これに対してこれまでも種々の対策を講じてきていたけれども、今後さらに密航者の主たる出身地となっている福建省等における取り締まり・監視体制の強化をする、それから不法出国を防止するための住民への広報教育活動を強化します、さらに不法出国をさせる行為の厳罰化を盛り込んだ改正刑法の本年十月からの施行等の対策をとるという説明がございました。  なお、この改正刑法の内容でございますが、例えば他人を組織してひそかに国境を越えさせた者については二年以上七年以下の懲役及び罰金とする、また不法出国者自身につきましても、犯情が重い者については一年以下の懲役及び罰金とすることなどが規定されていると聞いております。
  25. 久世公堯

    久世公堯君 中国側も刑法を改正してまでその対策を講ずるということですから、まあまあいいと思うんですが、少なくとも被害を受けておりますところの日本の方で入管法を、この集団密航者目的として今回改正をするくらいでございますから、ぜひとも中国におきましても、ことしの十月に施行されるという改正刑法によって厳重にひとつ取り締まるよう重ねて申し入れなりをしていただきたいし、また誠実なるその実行というものを期待してやまない次第でございます。  刑事局長にお尋ねをいたしたいと思います。  私は、何月でございましたか、先般、松浦大臣の所信表明に対しまして、最近の社会経済的環境の変化に伴う法務行政と申しますか、特に民事、刑事の法制のあり方について御質問を申し上げました。私は、今回の法改正も、集団密航というものが大型化し、広域化し、組織化し、そして悪質化している、こういうやはり大きく言えば国際的な環境あるいは社会経済的な環境に伴う一連のものだと思うわけでございます。また、最近でございますが、警察庁におきましては暴対法を改正いたしまして、そういう要請にこたえているわけでございます。  そこで、承るところによりますと、組織的な犯罪、今回のものは蛇頭を初めとする組織的であるということが非常に大きな特色でございますが、今法制審議会で組織的な犯罪に対してどういう法制であるべきかということを御検討されており、やがては立法化して国会に出されるということは承っておるわけでございますが、その検討についてお尋ねをいたしたいと思います。そして、今回のこの改正も含めて、組織的な犯罪についての刑事法制のあり方なりあるいは政策のあり方ということについて伺いたいと思います。
  26. 原田明夫

    政府委員(原田明夫君) ただいま委員指摘のとおり、ただいま御審議賜っております入国管理行政に係るさまざまな新しい施策の観点からいたしましても、事柄が特に集団密航事件に関しまして、そこで行われる犯罪が、まさに御指摘のとおり、組織化し、そしていわばビジネス化しているという状況が認められることは、そのとおりであろうと存ずるわけでございます。  ただいまお尋ねのとおり、法務大臣から法制審議会に諮問させていただきまして、組織的に行われるさまざまな犯罪に対して有効に対処するための方策を御検討いただいております。それはまさしく、従来個人犯罪を対象としておりました基本的な刑事司法のあり方の中で、やはり最近のさまざまな状況を踏まえまして、事柄が組織的に行われるといった場合に十分対処し得ない問題が指摘されるに至りました。そういう観点で、鋭憲法制審議会の刑事法部会は検討を続けていただいておるのでございますが、ただいま御審議いただいております集団密航事件に関しましても、幾つかの接点があるだろうと考えております。  中でも、先ほど集団密航の中で、それを手引きするといいますか、むしろ組織化してそれをビジネスとしている集団がある、しかもそれは蛇頭等、御指摘のとおり、暴力的な組織といいますか、暴力を背景としたいわば国際的な組織を念頭に置かなければ事案の真相が解明できないというような状況もあるだろうと思います。そういう観点からいたしますと、ビジネスとして、組織として行われる犯罪に対して刑事司法が有効に対処する方策をやはり真剣に考えるべきときが来たというふうに考えているわけでございます。  中でも、現在審議していただいている中で二、三例を挙げて申し上げますれば、一つは、犯罪によって得られた収益をきちんと没収するといいますか収奪するということで、利益をそのままにしておかないような体制、法制が必要なのではないだろうかという点でございます。これは一言で申し上げますと、犯罪をペイさせない。刑事的な処罰でもって幾ら処罰いたしましても、犯罪が刑を受けることによって済まないでその利益が蓄積されていくということになりますと、この犯罪を根源から絶つということはできません。そういう観点で、犯罪によって得られた利益を何らかの形で、さまざまな観点から検討して、そのままにしておかない法制を今後は考えていかなきゃならないだろうというのが一つの考え方でございます。  それから、事柄が組織的に行われる場合、実際に表面にあらわれる事案関係者は実は末端の組織の者であって、その組織の根源でこれを操り、そして利益を得ている組織的な体制があるということを考えてまいらなきやなりません。  そういうものに対しまして、刑事司法もその体制をさまざまな観点から検討していかなきゃならないのでございますが、その一つのあり方として、この集団密航事件などでも考えられますが、組織的に行われる犯罪の端緒をどうして得ていくかという面、そしてそれを解明していくためには、例えば海外あるいはそういう組織間で行われる通信を裁判官の令状によって傍受していくという観点も必要ではないかという声もございます。ただ、これにつきましては、通信傍受という点につきましては、さまざまな観点からの検討が必要ということで、まさに真剣な論議がこれから行われていくだろうというふうに考えております。  さらには、例えば、今回審議していただいている中で、証人に対する保護的な観点についても考慮しなければならないという点がございます。これは、犯罪が組織化、しかも暴力組織を背景にして行われるということになりますと、その組織の解明のために裁判で証言していただく、あるいは法執行に協力していただくという方の保護を図り、そして安んじて刑事司法に協力していただくためにはどうしたらいいだろうかという観点からさまざまなことを考えていかなければなりません。  ただ、この問題につきましても、一方では、被告人の防御権あるいは弁護権との調和ということもございますので、十分審議した上で、そして国民の皆様方、また、そういう組織犯罪を解明するために協力していただいた方が不必要ないわば迫害といいますか、仕返しといいますか、そのようなことを心配しないでいいようにするにはどうしたらいいだろうかという観点も含めて御審議をいただいているという状況でございます。  事柄が多岐にわたり問題点が広範でございますので、なお若干の時間を要すると思いますが、審議を尽くしまして、そして可及的速やかに成案を得まして、それに基づき法案の形につくり上げることを全力を挙げて取り組んでまいりたい、その上でぜひ国会において御審議を賜りたい、そのような目的のために私ども、法務大臣の指揮のもとに全力を挙げてただいま取り組んでいるところでございますので、よろしく御理解のほどを賜りたいと存じます。
  27. 久世公堯

    久世公堯君 最後に、この集団密航者なり不法入国者防圧に対する取り組み、さらには、ただいま御答弁のありました組織的犯罪に対する対応について法務大臣の御所見を伺いたいと思います。
  28. 松浦功

    ○国務大臣(松浦功君) 委員から二つお尋ねがございました。  集団密航事犯の増加は、我が国出入国管理制度を著しく害する、その上さらに社会の平穏なりあるいは国民の生活に不安をももたらすということから、法務省においてはこれまでも関係機関と十分な連絡をとりながら防圧に努めてまいったところでございますが、現在の状況を見ると、これまでより以上に各機関との連絡を密にして厳重に取り締まっていく必要があると思っております。  また、第二の御質問でございますが、集団組織犯罪、これに対する立法の問題でございます。来年の通常国会を目途にということで内部ではやっておりましたが、それでは少し手ぬるいんではないかということで、今国会中にできればということでございますが、今、刑事局長から御答弁しましたように、なかなか問題がたくさんあるようでございます。しかし、それらも乗り切って、最後は私の責任において、できるならば、通常国会には無理であっても、次の臨時国会には何とか御提案を申し上げて御審議をいただくようにいたしたいと、こう思って努力をしている最中でございます。  そういう事情を御理解いただきまして、提案の節には御協力を賜れたらありがたいと思っております。
  29. 久世公堯

    久世公堯君 終わります。
  30. 大森礼子

    ○大森礼子君 平成会の大森礼子です。質問させていただきます。  本法案提案理由説明の中で、改正の背景としまして、近隣諸国から船舶を利用した集団密航事件が激増しており、その背景に、密航者我が国に運んでくるなどをビジネスとする内外の犯罪組織が関与しているとあるわけです。  最近問題になっているのが、いわゆる蛇頭、スネークヘッドなんですけれども、内外の犯罪組織というと、日本の場合は暴力団。  そこで、警察庁の方にお尋ねするんですが、いわゆるスネークヘッドとそれから日本暴力団というのはどのように結びついており、あるいは資金等をどういうふうに分配しているのか。それから、そういう行為暴力団の新たな資金源としてどのような比重を占めているのか等について、内外の犯罪組織の関与について警察庁としてはどのように実態を把握しておられるのか、教えていただきたいと思います。
  31. 内田淳一

    説明員(内田淳一君) お答え申し上げます。  まず数字的なことを申し上げますが、平成八年におきます警察が検挙いたしました中国人集団密航事件は十四件ございまして、そのうち暴力団が関与したというふうに考えられます事件が三件でございます。  過去の検挙事例などを参考にして申し上げますと、暴力団が関与するというその役割でございますけれども、例えば、国内におきます上陸用の漁船あるいは国内で場所を、密入国者を移すというための搬送用の車両とか、あるいは運んでいった先での一時的な滞在先のアパート、こういったものを調達する、あるいは準備をするというような行為、さらには、そもそも密航者をどこかへ運んでいくという輸送を担当している、あるいはそういった密航者が逃げ出さないような形での監視を行う、そういったいわゆる密航受け入れをする部分役割を分担して担当しているというふうに見ております。  警察といたしましては、こうした事例というものを重視しておりまして、暴力団の対策部門と連携をとりながら、その連携を強化して捜査の徹底を図っているところであります。  さて、お尋ねのお金の関係でございますけれども、事件ごとにこの蛇頭暴力団とのお金の流れというのは個別具体的にございますので、一律に申し上げることは非常に難しいわけでございますが、例えばということで、ある検挙例では、総収益のうち、密航者の送り出し側、すなわち蛇頭中国本体の側がおおむね半分、それで密航者受け入れ側、つまり日本側で受け入れを担当する側が、これがその残りの半分を収受いたしまして、さらに、その受け入れ側には蛇頭と連携をした暴力団等がいるわけでございますが、その受け入れ側の取り分半分をさらに日本側の受け入れ蛇頭暴力団で分けている、こういうような状況が見られるところでございます。
  32. 大森礼子

    ○大森礼子君 ありがとうございました。  それから、そういう密航者が増加してくるその原因として、要するに、日本では賃金がいいので、日本へ来てお金をつくってそれを本国の家族に送ろうという、こういう動機が占めているということです。  それで、参考までに教えていただきたいわけですけれども近隣諸国として、例えば中国、韓国の場合でよろしいわけですが、密航者本国送還された場合、本国ではどういう処罰を受けるのかということにも興味があるわけなんです。というのは、もし本国の方でそういう行為本国から見ますと密出国ということになるんでしょうが、そういう犯罪で重く処罰されるということであれば、行こうか行くまいかと考えるときに、行くのをやめようという反対動機形成の動機になるという気もするわけです。そういう観点から、本国から出る行為といいますか、これがどのように本国では処罰されるのか、もしわかりましたら教えていただきたいと思います。
  33. 安田博延

    説明員安田博延君) お答えいたします。  我が国への集団密航者の多くが中国人でございます。この中国の場合について申し上げますと、中国におきましては、不法出国者のうち情状が重大な者には一年以下の有期懲役などに処し、罰金を併科するというふうなことになっておると聞いております。
  34. 大森礼子

    ○大森礼子君 韓国の方はわかりませんか。
  35. 安田博延

    説明員安田博延君) 韓国の法制度につきましては、ちょっと私どもの方で資料は持ち合わせておりませんが、必要でございましたら、また後日検討いたしまして提出いたします。
  36. 大森礼子

    ○大森礼子君 それで結構です。通告のときにちょっと韓国という名前を挙げていなかったかもしれませんので、もしわかりましたら、また後でも教えていただければと思います。  今申しましたように、例えば本国の方で、日本へとかそういう密入国を企てる行為本国からいえば出ていく行為ですけれども、こういうのをひとつ重く処罰してもらうということも、そういう犯罪取り締まりということで相互に話し合いができるのであれば有効な方法ではないかなと思いましたもので、質問させていただきました。  さて、本法案なんですけれども、この法案を考えます前に、平成元年に大きな改正がございました。在留資格制度の整備、それから外国人不法就労に対処するための改正であります。  それで、当時の議事録等を見ておりましたら、衆参両議院の法務委員会の方で、採決に際しまして附帯決議というものが付されております。例えば、平成元年十一月十七日、衆議院法務委員会では、「不法就労外国人の雇用主等に対する処罰規定の新設」についてということで附帯決議があります。附帯決議二として、「雇用主等に対する処罰規定については、」云々とありまして、「その運用に当たっては、いやしくも濫用にわたることのないよう、十分に配慮すること。」というふうにあるわけです。  それで、こういう附帯決議がつくということは、これは運用に対する、行政側に対する要望になるわけですけれども、附帯決議がつくということはやはり危惧される部分があるからついたんだと思うんです。  こういう附帯決議がついた経緯につきまして、どういう経緯からこういうのがつけられたのかということを教えていただきたい。それは、国会の委員会の方でつけたんだから、そちらのあれでしょうと言われるとそのとおりなんですけれども、私もその当時、国会議員でもなかったものですから、本案を審査する前に、当時の審議というものがどうであったかということを確認するという意味で教えていただきたいと思います。
  37. 樋渡利秋

    説明員樋渡利秋君) 私どもの理解しておりますというところでお答えさせていただきます。  「いやしくも濫用にわたることのないよう、」といいますことは、雇用主処罰規定新設の趣旨にかんがみまして、外国人を低賃金、単純労働に従事させて不法な利益を得ている悪質な雇用主、ブローカー等を重点として適用を図るなど、その運用の方針のあり方に関しまして、行政当局が適正かつ的確な不法就労対策を進めるべきことを意味するものというふうに理解しております。  そこで、当局といたしましては、この趣旨を踏まえまして、不法就労防止のためのキャンペーンを積極的に実施する一方で、不法就労の摘発に当たりましては、情報収集を通じて、特に悪質な事案を優先的に摘発してきたところであります。
  38. 大森礼子

    ○大森礼子君 そうしますと、要するに悪質な雇用主、それからあっせん者等の取り締まりの必要性ということが考慮されているということなんですけれども、優先的に摘発したというから、後から摘発される人もやっぱり予定されているんだろうと思うんです。  例えばこれは、不法就労を処罰する場合にも、その具体的状況、やむを得ない事情があったのかどうかとか、今おっしゃるように情状ということなんですけれども、それによって処罰をするかどうか、起訴するかどうか、こういう点についても考慮されてきたということでしょうか。
  39. 樋渡利秋

    説明員樋渡利秋君) これを検挙し起訴するかどうかといいますことは、取り締まり当局のお考えによるものでございまして、多分にそのことを、この附帯決議の趣旨を尊重しながらやっておるだろうとは存じますが、それ以上のお答えを私の方からはできかねることだと思います。
  40. 大森礼子

    ○大森礼子君 附帯決議は、要望でございますから拘束するわけではないわけですけれども、しかし国会の委員会の意思として尊重していただきたいと思うわけなんです。附帯決議、ちょっと法的性質がよくわからぬところがあるんですけれども。  それで、もう一つ、附帯決議三、衆議院の法務委員会なんですけれども、「不法就労外国人といえどもその人権は保護されるべきであり、人道的観点から適切な措置がとられるよう十分に配慮すること。」という、こういう附帯決議もございます。これもその当時の、改正のときの背景を知るという意味でまた確認させていただきたいんですけれども、この附帯決議がなされた経緯、つまり背景事情といいますか、それから、ここで問題になりました不法就労外国人といえども持つというその人権、これは具体的にいかなる内容のものであったか。  それから、もうまとめて質問しますと、「人道的観点から適切な措置がとられるよう十分に配慮すること。」というのは、この附帯決議に基づいて何か、適切になされるように配慮されてきたところがあるのかどうか、わかる範囲で結構ですから教えていただきたいと思います。
  41. 樋渡利秋

    説明員樋渡利秋君) これも、私どもが理解している範囲で答えさせていただきます。  附帯決議に言います人権に関しましては、賃金未払い、労働災害により労働上の諸権利が侵害された場合、あるいは強制売春といった人権上の問題の解決に当たりまして、不法就労に従事していた事実のみをもちまして人間固有の権利までをも否定するのではなく、むしろ人権の保護の観点から適切に措置すべき旨をうたったものと理解しております。  当局としましては、この趣旨を踏まえまして、不法就労外国人退去強制手続を進めていきます過程で、賃金未払いその他労働上の諸権利に対します侵害行為、その他の人権侵害行為が本人からの申告等により明らかとなりました場合には、関係当局に通報するなど人道的観点から適切な配慮がなされるように努めておるところでございます。
  42. 大森礼子

    ○大森礼子君 それから、今度は、平成元年十二月七日、参議院法務委員会の方なんですが、ここにも附帯決議がついております。今お答えいただいたことが当てはまると思うんですが、一応確認しますと、二として「不法就労外国人についても、労働関係法令等が遵守されるべきものであることにかんがみ、未払い賃金等就労中の労働条件に係る問題につき人道的配慮をするとともに、外国人労働者の人権問題等に係る相談制度及び法律扶助制度の拡充を図るよう努めること。」、これが参議院法務委員会の方の附帯決議でございます。この内容については、先ほどお答えいただいた中に答えもあると思います。  そこで、一点なんですけれども、「外国人労働者の人権問題等に係る相談制度及び法律扶助制度の拡充を図るよう努めること。」という、この記載についてなんですが、この外国人労働者の中には不法就労者も含むのかどうか、それから、この附帯決議に基づいて何か相談制度とか、具体的に拡充が図られたようなことがあるかどうか、これについてお尋ねいたします。
  43. 大藤敏

    政府委員(大藤敏君) 私の方からは、外国人労働者の人権問題等に係る相談制度とそれから法律扶助制度の拡充についてお答えを申し上げたいと思います。  まず、法務省が行っております人権相談についてでございますけれども、全国の法務局、地方法務局及びこれらの支局、さらには人権擁護委員の自宅におきまして広く人権相談に応じているところでございますし、さらにまた、人権週間などの機会に市町村の役場やデパートなどを借りまして、そこで特設の人権相談所を開設して相談に応じているということでございます。また、日本語を理解できない外国人のために、東京、大阪、名古屋などの法務局、地方法務局におきまして、それぞれ通訳人を配置して定期的な人権相談所を開設しているところでございます。  次に、民事の法律扶助について申し上げます。  これは御承知のとおり、国民の裁判を受ける権利を実質的に保障するという制度でございまして、こういう観点に立ちまして、これまで法務省はその拡充に努めてきたところでございます。この法律扶助は原則として日本国民を対象にしているところでございますけれども外国人につきましても、事件が終結をいたしまして扶助に係る立てかえ金の償還が完了するまで日本に居住する見込みのある外国人に対しましては、日本国民と同じく、同じ条件のもとに付与しております。すなわち、一つは資力が乏しいこと、二つ目は勝訴の見込みがあること、三つ目は法律扶助の趣旨に適すること、こういう三つの条件が満たされた場合には法律扶助が行われているということでございます。  それから、法律相談につきましては、資力が乏しいことを条件として相談に応じているということでございます。  以上でございます。
  44. 大森礼子

    ○大森礼子君 外国人労働者の人権、この中に不法就労外国人も含むのかどうかという点については、今お答えなかったように思うんですが。
  45. 大藤敏

    政府委員(大藤敏君) 人権相談につきましては、不法就労であってもすべての外国人に対して相談に応じているところでございます。  ただ、法律相談、これは法律扶助に係る法律相談につきましては、現在の法律扶助制度におきましては、不法滞在者に対しては扶助の対象にしないと、そういう運用をしております。
  46. 大森礼子

    ○大森礼子君 不法就労者についても、そういう人道的見地とありますから、人権相談には乗っているというお答えなんですが、そうしますと、一方で不法就労者も不法残留者もあるわけですね。そういう人がいろいろ劣悪な労働条件で働かされている、いろんな労働上のトラブルがあると。これはやっぱり人道上の観点から相談に乗るということは必要だと思うんです。ただ、そうしますと不法残留がばれてしまうということにもなるわけですね、相談に行くということが。それで、一方で不法残留者だから強制退去の対象になるということと、一方でそういう今言った労働の問題点については人道的配慮も要ると、こういうぶつかり合う場面が出てくるわけなんです。  実際の実務として、例えば法務局とかの人権相談に不法残留者が行ったような場合、すぐそれを通報して強制退去の方へ行ってしまうのか、それとも労働問題といいますか労働関係についてのトラブルの解決と並行してそういう手続を進めようとするのか、そこら辺、実務の扱いというのはどういうふうになっておるんでしょうか。
  47. 大藤敏

    政府委員(大藤敏君) 私の承知しております限りでは、法務局の人権相談に不法残留者が参った場合に、不法滞在だということが判明いたしましても入管当局には通報しないと、そういう扱いでございまして、この点は入管当局も御承認をいただいているというふうに思っております。
  48. 大森礼子

    ○大森礼子君 わかりました。  それでは、この改正法の条文の中身について質問させていただきたいと思います。  まず、三条の一項二号で、不法上陸目的を持つ者、これを不法入国罪とするということなんです。この罰則なんですけれども、ちょっとこの資料の読み方がよくわからなかったんですが、改正案三条一項二号違反の行為というのは、これは七十条一項一号で「三年以下の懲役若しくは禁錮若しくは三十万円以下の罰金に処し、」、それから併科もあるという、これでよろしいわけでしょうか。
  49. 樋渡利秋

    説明員樋渡利秋君) 御意見のとおりでございます。
  50. 大森礼子

    ○大森礼子君 それで、この三条一項二号の構成要件なんですけれども、見まして非常に奇異に感じますのは、「目的」です。有効な旅券を持っていても不法上陸する目的があると、それが犯罪を構成するということなんです。目的というのは主観的要素でありますから、これはなかなか現場でもその判断が難しいのではないかなという気がするんです。  適法な旅券を持っている者が不法上陸する目的を持っているということをどのようにして判断するのか、本人がそうじゃないと言った場合も考えまして、どのように判断するのか、立証していくのか、これを簡単に説明していただければと思います。
  51. 樋渡利秋

    説明員樋渡利秋君) いろいろな具体的な事案の証拠関係によるだろうと思いますけれども、例えば今、日本の指定港でない、どこかわからない港にひそかに入ってくる、密航船を仕立てて来るような船の中に、旅券を持っている者も持っていない者も混在して、とにかく夜間、やみに紛れて日本上陸しようとか、あるいはコンテナに隠れて日本上陸しようとかというような集団の中におりますれば、上陸許可を受けないで本邦に入ろうとする者だという認定は、多分にそれは容易ではなかろうかというふうに思っております。
  52. 大森礼子

    ○大森礼子君 これは、有効な旅券を持っていたら本邦に一応入れるとして、それで不法目的があると入っちゃいけないことになるというんで、この二号の犯罪というのは、およそ目的だけを構成要件としているような気がするわけなんです。  それで、検挙する場合に、目的を判断するわけですが、ここでも乱用の危険性と言っていいのかどうかわかりませんけれども、構成要件の持つ自由保障機能という点から問題があるのではないかなという気もするんですが、この点はいかがでしょうか。
  53. 樋渡利秋

    説明員樋渡利秋君) この「目的」を有するかどうかといいますことは、当該外国人関係者らの供述、それから査証の有無、所持品や上陸後の予定を示すメモ等の関係証拠を総合的に判断するものでありますから、そういうような御懸念はないというふうに考えております。
  54. 大森礼子

    ○大森礼子君 それから次に、七十四条なんですけれども、七十四条のこの規定、条文につきまして、ここに「集団密航者」というふうにあるわけですね。「集団密航者」あるいは「集合した外国人」というわけなんですけれども、この場合、「集団」あるいは「集合した外国人」というのは、人数的には大体どのぐらいを予定しておられるのかについてお尋ねします。
  55. 樋渡利秋

    説明員樋渡利秋君) お答えします。  この「集合した」といいますことは、二人以上の者が一定の場所に集まっている状態をいう言葉でございまして、密航者が自発的に集まった場合であると他の者が集合させた場合であるとを問わないという言葉としてとらえております。
  56. 大森礼子

    ○大森礼子君 わかりました。  集団というと、大人数かなという気がちょっとしたものですから、そこを確認させていただきました。  それから、「自己の支配又は管理の下にある」と、これはどういうことになるんでしょうか。
  57. 樋渡利秋

    説明員樋渡利秋君) お答えいたします。  「自己の支配又は管理の下にある」といいますことは、集団密航者の意思、行動に影響を及ぼすことのできる状態にあること、言いかえますと、自己の統率下にあることをいいます。
  58. 大森礼子

    ○大森礼子君 わかりました。  そうすると、直接支配やら管理をする。例えば自分の手下とか仲間などを使って間接的にというんでしょうか、本人は本国にいてとか、こういう場合でもよろしいわけですね。
  59. 樋渡利秋

    説明員樋渡利秋君) そのとおりでございます。
  60. 大森礼子

    ○大森礼子君 それから、三項に、本邦上陸させる行為の未遂処罰規定があるんですけれども、この犯罪の実行の着手時期というのはいつになるのか、それから既遂時期というのはいつになるのか、御説明願います。
  61. 樋渡利秋

    説明員樋渡利秋君) 「上陸させ」の既遂時期は、例えば指定港の場合でありますと、いわゆる入管の線を越えた段階でございます。その他の日本の、本邦の領土におきましては、本邦に立ち入ったときが既遂の時期でございます。
  62. 大森礼子

    ○大森礼子君 そうすると、上陸というのは、要するに陸地におりたということでよろしいわけですね、既遂時期です。
  63. 樋渡利秋

    説明員樋渡利秋君) したがいまして、いわゆる成田空港とか関西空港とかそういう指定港になりますと、飛行機で滑走路におりただけで既遂になるわけではございませんでして、いわゆる入管の線を越えたときに既遂になりますが、それ以外の、指定港でない日本の領土のその他の場所におきましては、御指摘のとおりでございます。
  64. 大森礼子

    ○大森礼子君 それから、七十四条のこの行為者が七十四条の二に当たる行為をした場合、自分が輸送もしちゃったと、こういう場合に、罪数といいますか、これは一罪ということになるんでしょうか。
  65. 樋渡利秋

    説明員樋渡利秋君) 七十四条の二の罪を犯しました者が、引き続いて七十四条の罪を犯しました場合には、両罪は包括一罪ということになります。
  66. 大森礼子

    ○大森礼子君 次に、七十四条の四についてお尋ねいたします。  ここで、第七十四条第一項または第二項の罪を犯した者からその外国人を収受し、あるいは収受した外国人を輸送し、蔵匿し、または隠避させた者、これが犯罪になると、こういう規定なんですけれども、ここで言う「収受」というのは簡単に言うとどういうことなのか、有償、無償を問わないのか、いかがでしょうか。
  67. 樋渡利秋

    説明員樋渡利秋君) お答えいたします。  ここに言います「収受し、」といいますことは、第七十四条第一項または第二項の罪を犯した者から集団密航者の全部または一部を、その支配または管理を引き継ぐ状態で受け取ることをいいまして、その場合に有償、無償を問いません。
  68. 大森礼子

    ○大森礼子君 上陸させたその者から支配、管理を受け継ぐということですね。わかりました。  「収受」というのを、前段、最初に「収受し」たと、これを仮に表現上第一収受者というふうに表現させていただきます。後段の方で、「収受した者から収受し、」と、これを仮に第二収受者という形で表現させていただきます。  それで、ここでは第二収受者のところまでしか規定してないわけですけれども、例えば、第二収受者からさらに収受した者もずっと延々と処罰されるのか。それから、収受者から収受し、そこからまた輸送、それから蔵匿、隠避、こういうふうに一つ組織的犯罪であると、この枠に入る限り、限りなく処罰対象になるのかどうかについてはいかがでしょうか。
  69. 樋渡利秋

    説明員樋渡利秋君) 前の収受者から当該集団密航者に対する支配または管理を受け継ぐ形で受け取ることが連続して繰り返されている限り、何回収受が繰り返されましても、一連の収受をした者に第七十四条の四の罪が成立することとなります。例えば、上陸させた者を上陸させた者から収受した者がそのままの支配関係を受け継ぐ形でほかの仲間に渡しまして運搬させる、また、それがその支配を受け継がせる形で蔵匿させるという行為が繰り返されていけば、すべてそれは支配関係を受け継いだものとして収受などの罪が成立するわけであります。  ただし、当該外国人に対する支配または管理が一たん途切れました場合には、後に新たに支配または管理を設定した者から当該外国人を収受したといたしましても、本条の罪には当たらないということになるわけでございます。
  70. 大森礼子

    ○大森礼子君 もう一回確認させていただくと、要するに、七十四条一項または第二項の罪を犯した者、そこにあった支配、管理をずっと受け継いだという、この流れの中にある必要があるわけですね、収受罪等が成立するには。
  71. 樋渡利秋

    説明員樋渡利秋君) 御指摘のとおりでございます。
  72. 大森礼子

    ○大森礼子君 わかりました。  なぜお尋ねするかといいますと、今の話ですと、要するに七十四条一項、二項の罪を犯したと、そこからその支配、管理を引き継ぐという、予定する因果関係というものがここに規定されるということになると思うんです。予定する因果関係を外れた場合にどうなるかということをお尋ねしたがったんです。  例えば、集団密航したような外国人がグループから逃げ出して、それから市民のボランティア団体等に保護を求めてきた、そこでそれを受け入れるということなんでしょうが、こういう場合にもこれに該当するおそれがあるのかどうかということですが、これはもう明確に、ないということでよろしいわけですね。
  73. 樋渡利秋

    説明員樋渡利秋君) まあ、個々の事犯につきましては、具体的な事案によりますでしょうけれども委員指摘のような事実関係では、収受という概念には当たらないことがほとんどであろうというふうに思います。
  74. 大森礼子

    ○大森礼子君 それから、七十四条の四、この「外国人」というのも密入国してきたわけですから、その本人も処罰対象になると。  そうすると、罰金以上の罪に係る場合には、刑法上も犯人隠避罪、刑法百三条があるわけなんです。この七十四条の四についても「蔵匿」とか「隠避」とかという言葉がありますので、この両罪の関係について教えていただきたいんですが、七十四条の四という規定は刑法百三条の特別法的な位置づけと理解してよろしいんでしょうか。
  75. 樋渡利秋

    説明員樋渡利秋君) お答えいたします。  そうではございませんでして、七十四条の四の罪は、先ほど説明いたしましたように、密航させた者といいますか、集団密航者上陸させた者からそれを受け取った者がそれを隠すという行為でございまして、集団密航者本邦に入れる行為の連続としてとらえている。要するに、我が国の入管秩序を害する罪として設けているものでございまして、刑法の方は司法秩序を乱す罪ということでございますから、もちろんそのもの二つが、両罪が成立することはあり得るということでございます。
  76. 大森礼子

    ○大森礼子君 わかりました。  それでは次に、七十四条の八についてお尋ねいたします。  これも、先ほどの刑法百三条との関係でいいますと、こちらの規定の方がより刑法百三条との関係が問題になるのかなと思うんです。こちらでは、「退去強制を免れさせる目的で、」とあるわけですが、そのほかは、蔵匿、隠避というのは、刑法百三条ですか、こちらの方と同じようなことになるのかなと思うんです。  先ほど、同じ形で質問させていただいて、七十四条の八とそれから刑法百三条、犯人隠避罪との関係というのはどのようにとらえたらよろしいんでしょうか。
  77. 樋渡利秋

    説明員樋渡利秋君) この場合も、七十四条の八の罪は、適正な在留管理秩序の維持をその保護法益とするものでありまして、国の刑事司法作用を保護法益といたします刑法の犯人蔵匿罪とは、その罪質を異にしているというふうに考えております。  したがいまして、第七十四条の八の罪に該当する行為が刑法第百三条の犯人蔵匿罪にも該当することもあり得ますが、その場合には両罪の保護法益が異なりますことから両罪がともに成立いたしまして、観念的競合の関係に立つというふうに考えるわけであります。
  78. 大森礼子

    ○大森礼子君 この七十四条の八につきましては、ちょっとその規定の趣旨が理解できない、よくわからないところがあるんですけれども、この規定というのは集団密航者の取り締まりと関係があるのかどうか。というのは、行為者というものを限定しておりませんので一般人も対象になるのかなという気がするんです。  それとも、今回の改正趣旨から考えまして、この七十四条の八の規定についても、いわゆる国内でのブローカーとか暴力団とか密入国者をかくまう行為処罰するという趣旨なのかどうかについて教えてください。
  79. 樋渡利秋

    説明員樋渡利秋君) 七十四条の八の罪の蔵一匿、隠避の客体といいますのは、不法入国者不法上陸者でございまして、その中には当然のことながら集団密航に係る罪の客体であります集団密航者も含まれております。  こうした不法入国者不法上陸者をかくまったり偽造旅券等を提供して正規在留者を装わせるなどの行為密航ブローカーが関与していることが少なくございませんので、集団密航事犯の取り締まりと大きく関係しているということでございます。
  80. 大森礼子

    ○大森礼子君 そういう範囲で関連するというのはわかるんですけれども、例えば先ほどの七十四条の四の場合、要するに支配、管理を受け継ぐというこういう流れがあるわけなんですけれども、こういう流れから、この七十四条の四で立証できない場合、補充的に処罰する趣旨かなというふうに思ったんです。ところが、文言上特にそこのところは規定されていないと。  要するに、集団密航という形で入ってきたけれども、ばらけちゃった外国人についてもこの七十四条の八というのは適用があるのかどうかです。つまり、集団密航したかどうかにかかわらず、いわゆる不法入国者というものすべてに網をかける形になるのかどうかということをお尋ねしたいんです。
  81. 樋渡利秋

    説明員樋渡利秋君) 網をかけるといいますか、不法入国者不法上陸者である以上、集団密航者であるかどうかの区別はこの条文ではありません。  ただ、これを目的犯といたしまして、「退去強制を免れさせる目的で、」というふうに規定しておりますが、この意味は、退去強制を免れさせてまで本邦における不法在留を継続させるためにという意味でありまして、このような目的を有しない行為処罰対象としないという意味でございます。
  82. 大森礼子

    ○大森礼子君 そこで、「退去強制を免れさせる目的で、」とあるわけで、規定の内容は明確じゃないかとおっしゃるかもしれないんですけれども、ただ実際、いろんな外国人不法就労者とかそれから不法残留者というものと人道的立場から接触を持つ市民ボランティアというのは、これはもう今いろんな新聞とかでも報道されております。  例えば先日も、不法残留のタイ人女性がエイズが発病した、それで死期が迫っていたと、こういった状況があったときに、地元のボランティア等が奔走して何とか国へ帰してあげようということで飛行機に乗せていったわけですが、バンコク空港で死んでしまったという記事が出ておりました。  市民ボランティアとか、こういう活動もあるわけなんです。それで、こういう七十四条の八の規定によって、あくまでも人道的立場からということですけれども、こういう市民ボランティアの方の活動が制約される危険があるのかどうかというのが気になるんです。  というのは、「目的」といいましても、これは内心のことで主観的要素でありますから、その内容は一義的とは限らないわけです。例えば、いろんな病気で家を頼ってきたとか、それから、不法残留者だけれども日本人男性との間にできた子供についてどうするかと相談しに来たとか、あるいは売春なんかの組織から逃げてきたとか、いろんな方がこういうボランティアのところへ訪ねてくることもあるかなと思うんです。それで、場合によったら場所を与えてかくまうとか、こういう行為も必要になることがあるんだろうと思うんです。そのときに、例えばそういう行為を一方ですれば、これは結果として他方で強制退去を免れさせることになるという認識も同時にあるんじゃないかという気がするんです。例えば私がボランティアの立場としますと、来た外国人を人道的見地から何とかしてあげたい。そうしますと、自分の行為によって少なくとも退去強制、これを先延ばしにすることにはなるという、このぐらいの認識はあるだろうと思うんです。  こういう内心といいますか、主観的なものがここで言う「目的」となり得るのかどうか、これについて教えていただけませんでしょうか。
  83. 樋渡利秋

    説明員樋渡利秋君) まず第一に、不法残留者に対するものはこの規定には含まれていないということでありまして、不法入国者不法上陸者蔵匿する罪だということでございます。  次に、この七十四条の八の罪は、当該外国人不法入国者不法上陸者、要するに我が国に入ることについて一度も許可を受けていない者たちであることを知りながら、その退去強制を免れさせる目的で当該外国人をかくまうなどの行為処罰対象とするものでありまして、具体的な事犯によるのでありましょうけれども、そのような目的を有しない活動処罰対象となり得ることはあり得ません。
  84. 大森礼子

    ○大森礼子君 不法残留の今の御指摘については、わかりました。不法入国した場合に、不法残留にも行くということが典型的に多いものでそういうふうに言ってしまったんですが。  そうしますと、ここの「目的」について、例えば先ほどの刑法百三条と重なる場合があると。それで、この「目的」があるかないかで、刑法の方ですと懲役二年以下で、こちらは三年以下と重くなっている。というのは、「退去強制を免れさせる目的」というのが、これが違法性を強めるという、一年の幅ですけれども、なると思うんです。そうすると、この「目的」というのは、一般の人の、ボランティアの人なんかの自由を制約するような形では運用されないと、「目的」というのは違法性の根拠法として厳格に解釈されるというふうに受け取ってよろしいんでしょうか。
  85. 樋渡利秋

    説明員樋渡利秋君) もちろん、構成要件の解釈でございますから、その解釈に当たりましては、慎重な解釈をするだろうというふうに思っております。
  86. 大森礼子

    ○大森礼子君 わかりました。  それから、ちょっとこれと離れるんですが、刑法百三条というのが出ましたのでお尋ねするんですけれども、例えば不法入国者それから不法残留も含めて、こういうことを犯した人は罰金以上の罪にかかわるわけですね。そうすると、そういう人を蔵匿それから隠避させた場合には形式的に言いますと犯人隠避罪になるのかなと。  そこで、これまで例えばこういう市民団体の、純粋に人道的な立場でというふうに限定させていただきますが、このような方のボランティア行為に対して犯人隠避とかそういうことで摘発したような事例がありましたでしょうか。余り聞きませんか。
  87. 内田淳一

    説明員(内田淳一君) 御指摘不法入国あるいは不法上陸した者に対する犯人隠匿の行為でございますけれども、現実の事案で申し上げますと、例えばバスとかライトバンに不法入国者を乗車、潜伏をさせ目的地まで搬送して逃走を容易たらしめるというような行為を犯人隠避という形で検挙している、あるいはまた不法入国者をアパートなどにかくまう行為、こういうものを犯人蔵匿として検挙を実際にはしております。
  88. 大森礼子

    ○大森礼子君 今、アパートにかくまう場合が蔵匿ということでありましたけれども、これは具体的事案によるのだろうと思いますけれども、例えば、人道上の見地と一言で言ってしまって申しわけないんですけれども、そういうことから、とりあえず、じゃ自分のアパートに置いてあげようとか、こういう場合もあるわけなんです。実際のこの検挙というのはそういうふうに余り形式的にやっていないとか、人道的な見地に基づいたような場合にはどういう取り扱いをしておるんでしょうか、そういうことまでびしばしと摘発しているというわけではないんでしょうか。
  89. 樋渡利秋

    説明員樋渡利秋君) 今まで我々が聞知しているといいますか、聞き知っている限りにおいては、そういう事例はないだろうというふうに思っております。
  90. 大森礼子

    ○大森礼子君 わかりました。  ずっと質問させていただきましたけれども、これは要するに人道上の市民ボランティアの方とかがそこら辺を心配しておられるので質問させていただきました。  確かに、入国管理という国の目的と、それから、そういう人でも助けなきゃいけない場合がある、国は手を出せないけれども人道上の見地から一般市民が助けなくてはいけない場合もあるだろうと思います。ここで国と市民とがぶつかり合う場面も生ずるという気がいたします。そこで、この規定について変な乱用がされないようにということで、市民の自由を保障するという意味で質問させていただきました。  最後に、法務大臣にお尋ねします。集団密航に係る罪を新設しまして罰則を強化しても、それを実現するのはやっぱり人の力でございます。そして、その目的を達成するためには、警察を初め関係省庁との協力なくしては目的を達せられないと思います。それから、関係省庁につきましても、非常に人が少ないとか余りよくない労働条件といいますか、そこで苦労されておられるという実情もあるわけです。  この点について法務大臣に最後にお尋ねしますけれども、ほかの関係省庁との連携をどういうふうに図っていくのか、あるいはどういうふうに人員の問題等を具体化していくのか、この点についてお話を例えればと思います。
  91. 松浦功

    ○国務大臣(松浦功君) 集団密航事件は極めて大きな問題でございます。先ほど久世委員の質問にもお答え申し上げましたとおり、これまでもそういう意識を持って関係機関と十分連絡をとりながら取り締まりをしてまいったところでございます。  この法律を成立させていただきますならば、より一層今までよりも連携を密にして厳重な取り締まりを行ってまいらなければならないなということを感じております。その関係機関との連絡の間に、それぞれ所要の器具なり人員なりについて、それぞれ必要なものを確保するという努力をしていきたい、こう考えております。
  92. 大森礼子

    ○大森礼子君 以上で終わります。ありがとうございました。
  93. 続訓弘

    委員長(続訓弘君) 午前の質疑はこの程度にとどめ、午後一時まで休憩いたします。    午前十一時四十五分休憩      —————・—————    午後一時開会
  94. 続訓弘

    委員長(続訓弘君) ただいまから法務委員会を再開いたします。  まず、委員の異動について御報告いたします。  本日、中原爽君委員を辞任され、その補欠として三浦一水君が選任されました。     —————————————
  95. 続訓弘

    委員長(続訓弘君) 休憩前に引き続き、出入国管理及び難民認定法の一部を改正する法律案を議題とし、質疑を行います。  質疑のある方は順次御発言願います。
  96. 照屋寛徳

    ○照屋寛徳君 社会民主党・護憲連合の照屋寛徳でございます。  私は、この出入国管理及び難民認定法の一部を改正する法律案に基本的に賛成でございます。  ただ、日本もいよいよ国際化の時代を迎えてまいりました。同時に、アジアを中心とする国々から豊かな国日本を目指していろんな形で外国人が入国をしてくる、これも事実でございますし、また防ぎようもなかろうというふうに思うわけであります。昨今、大きな社会的な問題になっております蛇頭などを初めとする集団密航組織というんでしょうか、あるいはそれらの集団と国内の暴力団との深いかかわりで密航者がふえる、そして密航した上で不法残留をした者同士がまた二次的な犯罪を惹起する、こういう社会問題が発生していることは私もよく承知をいたしております。  そこで、本改正趣旨目的を十分理解した上で、私は、同時に、日本において外国人の方々の人権問題あるいは支援活動などに携わっている方々への配慮というのもなされなければならない。同時にまた、外国人労働者というんでしょうか外国人日本における人権問題、これまた法務省の仕事でございますので、そこら辺の調和を十分図った運用をしていただきたいなと、こういうふうに思うわけであります。  と申し上げますのは、密航という言葉を聞いたときに、私は沖縄の出身なんですけれども、また少しく受けとめ方が違うんですね。どうして違うかというと、御承知のことだと思いますが、かつて沖縄はアメリカの軍事的な支配下に置かれておりまして本土との往来の自由が認められなかった。こういう中で、密航をして本土の大学で学んだと、こういう先輩方が今沖縄の経済界のトップの指導者あるいは政界のトップの指導者にかなりいらっしゃるんです。  あるいはまた、昨今、沖縄の振興策との関係で官房長官が蓬莱経済圏という経済振興の目玉を前回発表されましたけれども、台湾、それから中国の福建省、沖縄の与那国島、このトライアングルというか、アメリカの軍事支配下にあるときにこの地域でいわゆる密貿易が非常に盛んであった。その密貿易でかなりもうけた方々が、これまた県の経済界のリーダーにいっぱいいらっしゃるわけです。そうすると、沖縄は琉球王朝の時代から東南アジアの国々と交易をして栄えていった、あるいはまた中国で学問を学んだり工芸を学んだりしてきたという深い歴史があるわけであります。  それらの歴史的な事実を踏まえると、今申し上げましたように、悪質なというか営利目的とした密航組織あるいはその密航を手引きするような者に対して厳罰をもって臨むということは、これは当然なことでありますが、同時に、日本が避けて通れない国際化の時代への対応、あるいはまた豊かな国日本を目指してやってくる密航者、それに対する中国を初めとする送り出す側というのでしょうか、これは意図的に送り出しているわけじゃありませんが、そこら辺に対する配慮もぜひ怠りなくやっていただきたいと、こういうふうに冒頭申し上げておきたいと思います。  そこで、福建省と沖縄は非常に近い関係でございまして、沖縄にも中国やあるいはベトナムあたりから集団密航者不法に入国をする、こういう状況がございます。過去二、三年分で結構でございますが、沖縄県で発生した集団密航状況についてお教え願いたいと思います。
  97. 安田博延

    説明員安田博延君) お答え申し上げます。  平成六年一月から平成九年四月にかけて沖縄県で発生いたしました集団密航の件数及び身柄を確保された集団密航者の数は、合わせて九件二百五十八人となっております。なお、この各年ごとの件数でございますが、平成六年が三件六十人、平成七年はございません、平成八年が四件百五人、平成九年、これまでは二件九十三人となっております。  以上でございます。
  98. 照屋寛徳

    ○照屋寛徳君 先ほど法務省からいただいた資料あるいは午前中の審議等を通して、中国からの集団密航者に福建省の出身者が多いと、こういう御説明がございました。また、その理由として、福建省にはいわゆる華僑の者がたくさんおられるということなどを挙げておりましたが、どうやら福建省からそう大きな船舶でなくても日本密航しやすいというか、そういう位置だとかあるいは海流だとか気象条件その他があるんではないかなというふうに思います。  私、福建省出身者が多いという中で気になるのは、言われております密航組織蛇頭などの組織が福建省あたりに確固として存在するのかどうなのか、そこら辺、もしおわかりでしたらお教えいただきたいと思います。
  99. 安田博延

    説明員安田博延君) この蛇頭実態につきましては、必ずしも十分解明されておるわけではございません。ただ、これまでの事案から考えられるところでは、やはり福建省にもそうした蛇頭がおりまして、向こうで密航を希望する者の勧誘等に当たっておると、こんなふうに見ております。  以上でございます。
  100. 照屋寛徳

    ○照屋寛徳君 それでは、具体的な法案内容について何点か質問をさせていただきたいと思いますが、最初に法三条一項の改正とのかかわりでございます。  この法三条一項の改正は、恐らくパスポートを所持する密航者水際で検挙することを可能とする法改正だというふうに思うわけであります。その法改正との関係で、純粋に難民と思われる者の取り扱い、それへの配慮はどうなっているのか。要するに、やむを得ない事情でパスポートを所持した上で緊急に入国をしようとする者、こういう者に対する取り扱い、この点をお教え願いたいと思います。
  101. 樋渡利秋

    説明員樋渡利秋君) お答えいたします。  有効な旅券を所持していようと、していまいと同じことが言えるんであろうと思いますが、一般論として申し上げますと、船舶等に乗っている外国人が難民であるとして我が国上陸を希望しました場合には、入管法第十八条の二に定めます一時庇護のための上陸許可の要件を備えているときには上陸を認めることとなります。その上で、入管法に定める難民認定手続に従いまして難民と認められれば所要の保護を与えることもあります。  今回の法改正は、以上の難民手続に何ら影響を及ぼすものではございません。
  102. 照屋寛徳

    ○照屋寛徳君 法の趣旨はよくわかるんです。  結局、今回の法三条一項の改正というのは、先ほども申し上げましたように、従来の密航者というのは、全くパスポートを持たない者、あるいは偽造のパスポートを持った者、あるいはまた正規のパスポートを持っている者、いろいろ混在をしているやに聞いておりますけれども、パスポートを所持する密航者水際で検挙することを可能にしようと。  こういう場合に、法十八条の二の一時庇護のための上陸許可を求めればいいのかもしれませんが、同時に、現行法上の難民認定手続との関係で、かなり難民認定手続には厳格な審査なり認定に要する期間が必要なわけです。その間に、水際で取り締まることを目的とし、それを強調する余り、純粋に難民と思われる者が水際で追い返されるような運用があってはいかぬわけです。  そこで、現行法上の難民手続の仕組みとか、あるいは認定に要する日数、期間など、この点についてお教えください。
  103. 伊集院明夫

    政府委員伊集院明夫君) 現行法上の難民認定手続でございますが、本邦におります外国人から難民認定の申請があったときには、法務大臣が、提出された資料に基づき、また必要な場合には難民調査官の調査結果をも踏まえて、その者が難民条約に定義する難民であるか否かを決定するということになっております。  それで、難民認定に要する日数でございますが、過去のケースで見ますと、平成八年中に処理した難民認定申請事案の平均処理期間は約一年一カ月でございます。
  104. 照屋寛徳

    ○照屋寛徳君 わかりました。  次に、七十四条の四についてお聞きをいたします。  午前中、大森委員からもかなり詳細に、構成要件等にまで及んだ具体的な質問がございました。この七十四条の四というのは、七十四条の一項または二項の犯罪を犯した者から直接収受をしたり、あるいはまた輸送、蔵匿、隠避をした者、これを処罰するという規定ですね。
  105. 樋渡利秋

    説明員樋渡利秋君) 七十四条の四の罪は、委員指摘の第七十四条第一項または第二項の罪を犯した者からその上陸させた外国人の全部もしくは一部を直接収受する等の行為のみならず、そうして収受した者からさらにその支配または管理を受け継いで当該外国人の全部もしくは一部を収受する等の行為処罰対象としております。
  106. 照屋寛徳

    ○照屋寛徳君 この七十四条の四の規定との関係で、支配、管理を引き継ぐという要件ですね、逆に言いますと、支配、管理が中断をしたというのはどういうふうにとらえたらよろしいんでしょうか。
  107. 樋渡利秋

    説明員樋渡利秋君) 通常は、こういう集団不法入国者を連れてくる組織といいますのは、ある国の海岸から船で我が国領内に連れてくるなどして、我が国の分担行為があるでしょうけれども我が国の領土内に上陸させる、そこに出迎える者がいてそれを引き継いでいくという行為が連続して続いているわけでございます。  したがいまして、そういったような関係から離脱した、例えば何らかの密航者の自由意思によりましてその集団から離れて別の行動をとるといったような場合には、もうそこに集団密航者上陸させた者たちからの支配または管理が解かれている状態にあるというふうに思います。
  108. 照屋寛徳

    ○照屋寛徳君 沖縄の離島に、薮地島というところですけれども、そこに集団密航事件が発生したケースで、集団密航上陸はしたものの、手引きをした本邦の側の組織が迎えに来ないとか、それで路頭に迷ってと言っていいんでしょうか数日間放置をされる、その間、体調を壊したりあるいは飢えをしのぐために民家に立ち寄ったりするケースが現にあったわけであります。  この場合に、人道的な目的で収受をした者、犯意の問題もありましょうけれども、情を知らないでそういう人道的な目的で収受した者、こういう者は当然罰せられないというふうに理解してよろしいでしょうか。
  109. 樋渡利秋

    説明員樋渡利秋君) 委員指摘のような、当該外国人をそうした集団密航者であると知らなかったという場合はもとより、先ほど来申し上げました支配または管理を引き継いだ者とは認められないという場合には第七十四条の四の罪の要件を欠くということになります。
  110. 照屋寛徳

    ○照屋寛徳君 この法改正との関係で、いろんな外国人の人権問題等を支援している団体あるいはボランティアグループあるいはまた弁護士集団の一部などから、支配、管理を引き継ぐ、このこととの関係で、人道的な目的で収受したケースまで処罰が拡大されると困る、こういうふうな指摘もあるようでございますので、その点はぜひ運用の面で私は配慮をしていただきたいということを強く申し上げておきたいというふうに思います。  それから、現に我が国外国人不法残留者がおることは事実でございます。その超過滞在者というか不法残留者に対しても、法の厳正な執行と同時に、ある面でまた人権問題にも配慮をしなければならないわけでございます。  不法残留者の結婚届あるいは認知の届け出などは受理をされているんでしょうか。また、現実にそういう不法残留者の結婚や認知届などをめぐってトラブルが発生したケースがあればお教えいただきたいと思います。
  111. 濱崎恭生

    政府委員(濱崎恭生君) 我が国在留する外国人が戸籍法上の届け出をするに当たりまして、適法に在留するかどうかということは届け出を受理する要件とは関係ございませんので、いわゆる不法残留者からの届け出でございましても、その届け出についての要件が満たされている限りにおいては受理されるということでございます。  そういう方からの届け出がどの程度あるかという数字は、申しわけありませんが私ども承知しておりません。また、そういうトラブル等についての報告も私ども直接には伺っておりませんが、間接的に聞くところによりますと、例えば婚姻届をするに当たっては、その人が本国法上、婚姻不適格の要件がないかどうかということについての資料を出していただくというようなことが必要になる。その場合に、不法滞在者にとってはそういう資料の収集が困難であるといったような事実上の問題があるというようなことは間接的に伺ってはおるところでございますが、手続上は何ら区別はないということでございます。
  112. 照屋寛徳

    ○照屋寛徳君 四、五年前だったでしょうか、入管の退去強制手続に関連して、入管職員による収容外国人に対する暴行事件あるいはセクシュアル・ハラスメントのようなケースが発生をして少しく社会問題になったケースがございました。我が国にいろんな目的で入国をしてくる外国人にとって、入管職員というのは恐らく大変な権力を持った存在だろうというふうに思うんです。  そこで、それらの退去強制手続等に関連した収容外国人に対する暴行やセクシュアル・ハラスメントの事件がどの程度発生したのか、またそれに対する法務省対応等についてお聞かせ願いたいと思います。
  113. 伊集院明夫

    政府委員伊集院明夫君) 委員指摘の入管職員による被収容者に対する事件でございますが、遺憾ながらこれまで、入国警備官違反調査中の女性に対してその抵抗を制圧する過程で女性の顔面を殴打する事件、さらに入国警備官が女子被収容者に対しわいせつ行為を行うという事件が発生しております。  私どもとしましては、当該入国警備官らに対して懲戒免職処分を含む厳正な処分を行いますとともに、わいせつ行為をした警備官を検察官に告発しておりますが、このような事件の再発を防止するために、被収容者に対する適正な処遇の徹底を図るための警備処遇担当者専門研修というのを実施してきておりますほか、適正な業務遂行のための実務マニュアルを作成するなどの対策を講じております。  今後とも、被収容者の人権に配慮した処遇を図るための研修のより一層の拡充、充実を図りますとともに、被収容者処遇規則の改正等を行うことといたしたいと考えております。
  114. 照屋寛徳

    ○照屋寛徳君 ぜひその点は、入管職員による被収容外国人に対する暴行やセクシュアル・ハラスメントのような事件が起こらないように、十分な体制を講じていただきたいと思います。  それで、それらの事件が発生をしたころ、法務省外国人支援団体に対して、外国人の人権を保障する方向で入管法改正を考えているというふうな発言があったやに聞いておりますが、今回の法改正ではそれらの配慮は全くなされていないわけです。今回は特に、集団密航者に対する、あるいは営利目的とした集団密航の手配師などに対する厳罰を目的とした法改正であるわけでありますが、今申し上げました外国人の人権を保障する方向での法改正、あるいはまた現実の実務の運営の改善、これについてはどういうふうにお考えでしょうか。
  115. 伊集院明夫

    政府委員伊集院明夫君) 職員の不祥事の再発を防止する上で、収容外国人の処遇に関する関係規則、規定の見直し等をぜひ行っていきたいということで、委員指摘のとおり、法改正も視野に入れて、いやしくも外国人の人権侵害を惹起することのないよう万全の措置を講じていきたいと考えております。
  116. 照屋寛徳

    ○照屋寛徳君 日本で働いている外国人の人権問題でございますが、午前中大森委員からも御指摘ありましたけれども、正規の入国手続で入ってこられた外国人などを含めて、そうでないケースも含めて、売春を強要されたり、あるいはまた賃金不払いだとか、突然の首切りだとか、さまざまな人権問題が発生をしているようでございますが、その現状と対策について法務省はどのようにお考えでしょうか。
  117. 大藤敏

    政府委員(大藤敏君) 我が国で働いております外国人の就労上の人権の問題といたしましては、例えば不当解雇でございますとか、あるいは違法な時間外労働を強制する、さらには賃金を払わないといったような労働契約の違反を内容とするものが多く寄せられております。また、人種差別あるいは外国人差別というようなものの一環として、建物賃貸借契約を拒否するとか、あるいは入浴を拒否するといったような差別の事案もございます。  法務省の人権擁護機関といたしましては、外国人のこうした差別などの人権侵犯の事件を根絶するために、従来から人権尊重のための啓発活動をさまざまな態様で積極的に展開しているわけでございます。また、もしそうした人権侵害をしたと思われるような事件が具体的に起きた場合におきましては、人権相談でありますとか、さらには人権侵犯事件の調査を行いまして、その事案に応じた適切な対応をすることによって外国人の人権擁護を図っているところでございまして、この点は今後とも積極的に推進してまいりたいと考えているところでございます。
  118. 照屋寛徳

    ○照屋寛徳君 最後に、平成元年の法改正のときには参議院でも衆議院でも附帯決議が付されたということを承知いたしております。例えば参議院の附帯決議の中では、「退去強制手続きに当たっては、弁護士の選任手続き、通訳の確保等に配慮し、人道的な観点からの配慮について留意すること。」だとか、「不法就労外国人についても、労働関係法令等が遵守されるべきものであることにかんがみ、未払い賃金等就労中の労働条件に係る問題につき人道的配慮をするとともに、外国人労働者の人権問題等に係る相談制度及び法律扶助制度の拡充を図るよう努めること。」、こういうふうな附帯決議が付されておるわけであります。  私は、今回の法改正に当たっても、平成元年の参議院の附帯決議の趣旨をぜひ法務省、厳守されるように要望申し上げまして、質問を終わります。
  119. 伊藤基隆

    ○伊藤基隆君 私は、民主党・新緑風会の伊藤であります。  私は、今そこに出席なさっている入国管理局の皆さんに質問をいたしまして、個別具体的な質問の後、最後に大臣からの考え方をお聞きしたいというふうに思います。大臣に、私の質問と事務当局とのやりとりにつきまして十分お聞きいただいた上で御答弁を賜りたいというふうに思っておるわけです。  私は、大臣の趣旨説明をこの場でお聞きしておりますが、その中で、「上陸許可等を受けないで本邦上陸しようとする外国人については、その者が有効な旅券等を所持する場合であっても不法入国罪処罰するとともに、退去強制対象とする」ものだと。この点、深く検討する前に非常に気になりました。なぜそういうことをわざわざ入れるんだろうかというふうな気がしたわけでございます。  三条一項に一、二と規定があって、この規定によるものだというふうに思いますが、今、照屋委員法務省との質疑のやりとりの中で、私も承知旧していたわけですが、入国警備官によるセクシュアル・ハラスメント、わいせつ行為、その実態があったと。法律は、その法律をつくる立場、国会というものと、できた後の執行する場合、法務省という立場と、実際現場での執行をする者との間に大きな隔たりがあると。そういうことをしてもいいなどと法務省が指導しているわけはないのにそういうことを行うということで、執行者に非常に問題がある、常にその問題は起こり得るというふうに見なければならないと思います。  私は、よく、会社で重要なのは、社長も重要だけれども、総務部庶務課庶務係、この庶務係も非常に重要だと。私は郵便局に勤めていた者ですが、郵政本省がいかなることを考えても、郵便局の窓口や外務員がだめだったらそれは国民から支持されない。私自身も、お客さんにはありがとうとにっこり笑ってきちんと言えというふうに、労働組合の役員でしたが、そのように指導しました。  そういうことからすると、今次改正案の入国関係規定の整備において、上陸許可等を受けないで日本上陸する目的を持つ外国人については、その者が有効な旅券等を所持していても不法入国罪処罰するとともに、退去強制対象としている。このことは、非常に弱い立場に対して強い立場の者が法の精神を、あるいは無視とは言わないまでも、その外で行動をとるということが起こってまいります。  すなわち、難民を申請する人たちというのは立場としては非常に弱いわけで、現場において、そういう難民申請する者と今回の改正で言ういわゆる集団密航者というものと識別されてしかるべきだというふうに思います。まざって来るかもしれない、そのことを識別すべきである、その意識を第一線が持つかどうかということについて、まずお聞きしたいと思います。
  120. 伊集院明夫

    政府委員伊集院明夫君) 委員指摘のとおり、特に入管行政、直接外国人対応する現場の人間の意識というのが大変大事なのはおっしゃるとおりでございます。  私どもも、一つは研修というようなこと、それから各地域入管局に綱紀委員会というのを設けまして、綱紀の問題については非常に大切な問題として意識を高める努力をしておりますし、また、さわやか行政サービスの向上といったようなことにも努めてきておるわけでございます。  難民と難民でない者、いろんな方がまざって、旅券を持っている人も旅券を持っていない人も一緒に来ることがあろうと、そのとき、難民であると主張する人に対してきちんと区別して取り扱いをするようにということにつきましては、現場の方に意識を高めるようにぜひ指導していきたいと考えます。
  121. 伊藤基隆

    ○伊藤基隆君 私は、現状では、外国人上陸審査の際に、自分の立場を主張したり難民の手続をとる権利がほとんど無視されているというか、極めて難しいと。昨年は、一名というような話も聞いております。そういう厳しい難しい状況の中で強制送還をされているのですけれども、今識別の話もいたしましたが、今回の改正が難民申請の手続を現状の極めて厳しいことをより厳しくさせていくのじゃないかという懸念がございます。このことについて、その懸念はないんだということを、指導をすると今おっしゃいましたが、もう一度きちんと保証していただきたいと思います。
  122. 伊集院明夫

    政府委員伊集院明夫君) 今次の入管法改正と難民認定手続のあり方については、今次の法改正で難民認定手続が何ら影響を受けるものではございません。そういうことで、従来どおり私どもとしましては、難民条約の加盟国の一員として適正な難民認定を行っていきたいと考えております。
  123. 伊藤基隆

    ○伊藤基隆君 ただいまの答弁で、国連の難民条約との関係で抵触するおそれはないということですか。
  124. 伊集院明夫

    政府委員伊集院明夫君) そのとおりでございます。
  125. 伊藤基隆

    ○伊藤基隆君 先ほど伊集院入国管理局長は、現場の対応について、集団密航者と難民との識別についてきちんとするように指導すると、その指導にもとる場合も起こり得るわけですが、それはまた現場のそれぞれの組織の危機管理ということだろうと思いますけれども、ぜひそのことをきちんとしていただきたいというふうに思います。  次に、退去強制事由に関する規定の整備について少しお伺いします。  第二十四条で、「次の各号の一に該当する外国人については、次章に規定する手続により、本邦からの退去を強制することができる。」、その四に、「本邦在留する外国人で次に掲げる者の一に該当するもの」、イ、ロ、ハ、ニ、ホがありまして、ホでございます。「第七十四条から第七十四条の六まで又は第七十四条の八の罪により刑に処せられた者」、私は、七十四条と七十四条の二及び七十四条の三、七十四条の四、七十四条の五、七十四条の六、これはこの委員会で問題になっている蛇頭等がかかわる組織的、集団密入国案件ということに該当する規定だろうというふうに解しますが、その理解でよろしいでしょうか。
  126. 樋渡利秋

    説明員樋渡利秋君) 御指摘のことはもとよりでございますけれども、この七十四条から七十四条の六まで、または七十四条の八の罪により刑に処せられた、要するに裁判で刑に処せられたという者が退去強制事由に当たるということでございます。
  127. 伊藤基隆

    ○伊藤基隆君 今、樋渡官房審議官がお答えになった、問題は七十四条の八のことだろうと私はちょっと懸念するところがございます。七十四条の八は、「退去強制を免れさせる目的で、第二十四条第一号から第三号までのいずれかに該当する外国人蔵匿し、又は隠避させた者は、三年以下の」云々と、三項に「前二項の罪の未遂は、罰する。」と、未遂も罰するということになっております。第三条とは何かといえば、先ほど冒頭申し上げた規定でございます。改めて第三条、すなわち難民がどう扱われるかということが問題にされなければならないというふうに思います。  なぜこの改正を行うのか、すなわち有効な旅券を所持している者について強制退去させるということがなぜここで新規に加えられなきゃならないのか、または集団密航の中にそのようなケースが多々あるのかどうか、その実情によるものなのか、この辺についてお聞かせください。
  128. 樋渡利秋

    説明員樋渡利秋君) いわゆる集団密航船を仕立てて来る船の中に、有効な旅券を所持している者が混在していることは少なからずあることでありまして、これは日本上陸するためには有効な旅券を所持しているだけでは足りずに在留資格が必要になるわけでありますけれども在留資格がなくて日本に適法に上陸できない者が有効な旅券を所持しながら密航船等を使って入ってくる。その場合に、日本国内に入りましてから、有効な旅券偽造上陸許可証印等を押すことによりまして、自分は適法に日本に入ってきているんだということを装う、そしてまた今度は自由に出ていこうとする者が中に混在しているわけでございます。  したがいまして、そういった犯罪でありますが、そういったことを画策して入ってくる者も不法入国者として初めから検挙できる体制にしなければ、そういったことを繰り返されるおそれがあるということでございます。
  129. 伊藤基隆

    ○伊藤基隆君 私は、難民のことを問題にしておるわけですが、ただいまの答弁は、集団密航者の巧みな偽装について答弁されたわけであります。ですから、そのことを厳密に私は受けとめておきたいというふうに思います。  さて、少し視点を変えるわけですが、先ほどの大森委員との質疑応答を踏まえまして、少し私もお聞きしたいと思います。  日本で働く外国人は、在留資格取得が困難なために滞在が非合法の状態にある者が数多くおります。そのために、賃金の未払い、労災のもみ消し、突然の解雇など就労上の問題や、売春の強要、医療、結婚、離婚、育児、教育などさまざまな面で差別や人権侵害に直面していると言えます。これに対して人道的な配慮からの人権相談に応じているというふうな答弁が、先ほど、大森先生とのやりとりでありまして、そのことは私も、なるほどな、法の執行というのはそういうものも同時にあるのかというふうに思っておるところであります。  さて、在留特別許可というものがあるようですけれども、この在留特別許可というのはどのような効力を持つのか。それは、人権相談を受けても入管局に直ちに報ずるというようなことはしないという答弁が先ほど人権擁護局長からございましたけれども在留特別許可というのはどのような考えまたはどのような根拠で行うものなのか、その手続実態について少しお聞かせいただきたいと思います。
  130. 安田博延

    説明員安田博延君) お答えします。  この在留特別許可と申しますのは、これは退去強制手続の中で行われるものでございます。したがいまして、退去強制事由に該当すると思われる外国人につきましては、私どもの方で調査をした後に主任審査官の方へ引き継ぎますが、そこで退去強制事由の該当性があるかどうか、この審査がされるわけでございます。その段階がいわゆる三審制度に似た手続になっておりまして、その最初の段階での審査に異議がある外国人は特別審理官に対して異議の申し立てができる。その特別審理官の判断でも退去強制事由に該当すると判断された者に対して、さらに異議がある場合は法務大臣に対して異議の申し立てができる。法務大臣も退去強制事由があるかどうかということについても判断いたしますが、そのほか一切の事情を考慮してその在留を認めるべきかどうかという判断ができるというふうになっております。その段階での判断、法務大臣の方でこれは特に在留を認めるべき事由がある、こう判断いたしました場合になされるのが在留特別許可でございます。  そういうものでございますので、これはいろんなケースで、もうケース・バイ・ケースでございますが、大体これまでの運用等からいたしますと、在留を希望する理由でありますとか経歴、家族関係、生活状況、素行その他の事情を総合的に勘案して、まさにケース・バイ・ケースで判断しておるところでございます。  以上でございます。
  131. 伊藤基隆

    ○伊藤基隆君 質問通告のときに余り明確に言わなかったので、大変失礼しました。少し御迷惑をかけたと思いますが、在留特別許可というものがあるそうですねというふうに聞いただけだったものですから。  さて、不法入国者等蔵匿、隠避罪について、これは「退去強制を免れさせる目的で、」不法入国者または不法上陸者を「蔵匿し、又は隠避させた者は、三年以下の懲役又は百万円以下の罰金に処する。」としております。  今回の処罰規定の新設、強化は、先ほどからのやりとりでもありますが、難民などやむを得ない事情で緊急に入国した外国人が、みずから受けた人権侵害を訴えることを困難にしたり、彼らの受ける人権侵害の救済活動を難しくして人権侵害をさらに潜在化させるのではないかという懸念がございます。今、在留特別許可の話を伺いまして、少しは私も安心するところもございますけれども、さらに人権侵害が日本の社会の中で起こっていく、このことも懸念されます。  そこで、人権擁護活動や人道的行為不法入国者等蔵匿、隠避罪に問われるということがあるのかどうか、「退去強制を免れさせる」という、この文言の定義ということを明確にしなければならないんじゃないかというふうに思います。  この二点についてお答えいただきたいと思います。
  132. 樋渡利秋

    説明員樋渡利秋君) 「退去強制を免れさせる」といいますのは、何か言葉を繰り返すようでございますけれども退去強制を免れさせて不法な状態のまま日本在留を続けさせる目的というものでございます。したがいまして、この七十四条の八は、そういう目的を持った者が処罰対象となるということで縛りをかけたわけでございまして、反対に言いますと、そういう目的を持たない者は処罰対象にはならないということでございます。  したがいまして、個々の事犯によって決めていかざるを得ないと思いますけれども、そのような認識や目的を有していない活動がこれに当たるということはないだろうというふうに思うわけであります。
  133. 伊藤基隆

    ○伊藤基隆君 官房審議官のお答えをぜひお聞きしたがったわけでございます。  続きまして、七十四条の四でいわゆる「収受」の問題がございます。これは組織集団密航にかかわって限定的に収受した者というふうに私は理解するわけでございますが、例えば難民申請を希望する者が集団密航のルートで入国し、難民支援団体に保護された場合、この「収受」に当たるのかどうかということについて、まずお聞きしたいと思います。
  134. 樋渡利秋

    説明員樋渡利秋君) この罪の要件であります「収受」といいますのは、支配または管理を引き継ぐ状態でその集団密航者の全部または一部を受け取る行為、収受する行為をいうわけでありますから、要するにそういう七十四条の罪を犯した者が有しておりました支配または管理を引き継ぐ状態で収受しない限り、この要件には当たらないということでございます。
  135. 伊藤基隆

    ○伊藤基隆君 よくわかりました。  くどいようですが、もう一つ聞いておきます。難民支援団体等のスタッフが、例えば日本では難民認定が難しいのでよく時間をかけて検討したいとして、出頭せず一時隠れているように勧めた場合、当該外国人がそれに従って隠れた場合、あるいはこの支援者が自宅等にしばらくかくまった場合、蔵匿、隠避に当たるのかどうか、改めてここをお聞きしたいと思います。
  136. 樋渡利秋

    説明員樋渡利秋君) 具体的な事案を見なければ何ともお答えのしようがないわけでありますけれども、恐らくそういった場合には適正な退去強制手続に乗っかった上で難民申請をしようとするのが普通でありましょうから、そういったような場合に、退去強制を免れさせる目的があるかどうかという認定は、やはり証拠によるものだろうというふうに思うわけであります。
  137. 伊藤基隆

    ○伊藤基隆君 ここで大臣にお尋ねいたします。  蛇頭実態などにつきましては、午前中の質疑または午後においても明らかになっているとおりで、日本の社会にとって大きな問題でございます。ですから、私どもは今回の法改正について、妥当なものというふうに判断をしております。  しかし、今、事務当局とのやりとりを大臣にもお聞きいただいたわけでございますが、あえて聞かざるを得ないという実態もあるわけでありまして、難民の認定希望者への対応に今回の改正が影響を与えたり、あるいは人権擁護活動や人道的な行為、これは当局もその取り組みを行っている実態があるわけでございますが、これらの行為が制限され、処罰されるという懸念があるからでございます。  現場の法の執行者がどのような姿勢をとるのかということも大いに関係するわけでありまして、この際、大臣から今回の法改正の立法趣旨について明快にお答えいただきたいというふうに思います。
  138. 松浦功

    ○国務大臣(松浦功君) 御承知のように、近隣諸国からの船舶を利用した集団密航事件が大変増加をしております。法務行政の中で非常に気遣われる大きな問題の一つとなっておることは、先生御承知のとおりでございます。  今までは、例えば密航事件への組織的な関与など出入国管理をめぐる最近の情勢に的確に対処するために、やはりある程度今までの法の不備、不備とまでは言えないかもしれませんが、例えば密入国者よりもそれを援助した人の方の罰則が非常に手ぬるいというような関係もございまして、あくまで今日のような実情に対処するために厳正に、特に今まで穴があいておるとは先ほども申し上げませんでしたけれども、やや不備な点があるというふうに考えまして、それらを補充して、これからの出入国管理を的確に実行するためにぜひこの法律改正が必要であるということを意識いたしまして、今回の改正案を提案して皆様に御審議をいただいているところでございます。
  139. 伊藤基隆

    ○伊藤基隆君 重ねて大臣にお尋ねしますが、ただいまの大臣の御答弁は、いわゆる蛇頭など集団密航が増加していることにかんがみて今回の法改正を行うものであると。このことをもって他の領域に解釈を拡大させていく、条項を普遍化して該当させていくというようなことはないということについて断言いただきたいと思います。
  140. 松浦功

    ○国務大臣(松浦功君) 人権問題等、いろいろ先生に御心配をいただいているような事項につきましては、今までどおりきちんと守っていくつもりでございます。  今回の改正がこれらの問題に全く関係がないということをはっきり断言をしておいて差し支えないかと思っております。
  141. 伊藤基隆

    ○伊藤基隆君 ありがとうございました。これで質問を終わります。
  142. 橋本敦

    ○橋本敦君 いろいろと議論がございましたが、私もこの問題に関連をして幾つか質問をしておきたいと思います。  まず最初に、最近我が国への中国からの密航者がふえているという実情についての確認でございますけれども、入管局からいただいた、平成八年六月、法務省入国管理局の「平成七年における入管法違反事件について」というのを拝見いたしますと、不法入国事案は四千六百六十三人で、前年に比べて九百三十五人、一六・七%減少という数字がございます。ところが、先ほどのお話で、平成八年になりますと、十二月以降今日まで既に千百二十人中国から入っているという状況だということで大変急激な増加という感じがいたしますが、この状況についてどう把握しておられますか。
  143. 安田博延

    説明員安田博延君) 先生指摘のとおり、昨年十二月からこの集団密航事件が急増いたしております。これは既に御指摘のとおり、昨年十二月から本年四月二十二日までの間で五十件、千百二十人が入っておるということでございます。さらに月別で申し上げますと、昨年、平成八年十二月は十二件二百六十四人、ことし、九年一月は十五件二百六十人、二月は十四件五百四十四人となっておりまして、さらに三月が四件十一人、四月になりましてもなお大型の密航事案が続いておりまして、四月分も合わせますと先ほど言いましたような千百二十人と、こうなるわけでございます。  そのようなことでございますので、この時期の、この間の増加ぶりは、これはもう激増と言ってよろしいかと考えております。
  144. 橋本敦

    ○橋本敦君 そこで海上保安庁にお尋ねしたいんですが、そういう激増の状況対応して大変御苦労なさっておると思うんですが、公海上を船が来る、そういう船が密航船だと、そういう状況があるという認識をした場合に、実際にはどういう対応をなさっておるのか、それができるのか。  そしてまた、この法律と直接海上保安庁の職務には関係がないかもしれませんが、今後、そういった急増に対する対応として、この法制定とも関係をして、将来どのような対応を検討されておられるか、それがありましたらお話をいただきたいと思います。
  145. 小原正則

    説明員(小原正則君) 海上保安庁としましても、今御説明ございましたように、特に昨今、中国人による我が国への密航者密航事案急増しているという状況にかんがみまして、本庁に密航対策室、管区本部に密航対策本部を設置して、警戒線を設定いたしまして、非常に精力を注いで監視、警戒を強化いたしておるところでございまして、今後とも関係機関とも連携を密にしまして、このような体制を維持して、密航者あるいはその密航助長するような者等の取り締まりについて万全を期していきたいと、こういうふうに考えてございます。  今回のこの入管法改正につきましては、罰則の強化などによりまして、悪質・巧妙化する集団密航事犯に厳しく対処するということであろうと理解しておりまして、我々といたしましても、密航を企てる者などに対して一定の抑止効果があるものというふうに考えてございます。
  146. 橋本敦

    ○橋本敦君 そこで、もう一つ問題として、これは中国との交渉の問題なんですが、資料をいただきますと、中国に対して不法出国防止対策強化の申し入れ、これが現実に始まったのは平成九年、ことしになって二月五日からというように資料では拝見をいたします。  それで、参議院法務委員会調査室がつくられた参考資料にも出てまいりますが、ことしの三月二十四日には「密航防止に関する政府代表団の訪中協議結果について」というのが入管局から出されております。これによりますと、先ほども話がありましたが、六項目について中国に申し入れをしたというわけですね。  そこで、まず第一項目として、中国沿岸各港を出入港する船舶の動静、航海目的を含め船舶管理を徹底されたいという中国への申し入れ。二番目には、港湾等のパトロールの強化。三番目には、報償制度の導入等による中国国内で暗躍するブローカー及び密航企図者の取り締まり、これの徹底、そして厳格な処分の我が国への通報。四番目に、動態把握、それから不法出国防止のための啓発の徹底。それから五番目に、不法出国者及びこれに関与する組織に関する情報の提供をされたいと、ICPO手配に対する誠実な対応も含めて、こういうことであります。それから六番目には、退去強制令書が発付された場合の早期引き取りといったことを中国に申し入れているわけですが、この六項目それぞれについて現在の中国政府対応、回答はどうなっておりますか。
  147. 安田博延

    説明員安田博延君) お答えします。  先生指摘のとおり、三月十七日から二十二日まで、私ども法務省、それから警察庁海上保安庁、外務省、この四省庁中国へ行ってまいりました。その際に、この六項目について中国側に申し入れをしたわけでございます。  さて、その中国側の対応でございますが、最初の、中国の港を出入りする船舶の動静あるいは船舶管理徹底ということでございますが、これについてもやっておりますという答えでございまして、向こうでは三無船といいまして、船籍番号とか船名がないようなもの、それを三つないと書きまして三無船というそうですが、こういうものについての取り締まりをしているんだということのお話がございました。  次に、二番目でございますが……
  148. 橋本敦

    ○橋本敦君 ちょっと待ってください。いや、もっとそういう管理を徹底せよという申し入れでしょう。向こうは、もっと徹底するというのか、やっているというだけなのか、そこが大切な話。
  149. 安田博延

    説明員安田博延君) そういうふうなことで、管理を、これまでも取り締まりをしておるので、さらにこれを徹底してやると、そのようなことでございました。  それから二番目の、港湾及び沿岸地域及び沿岸海域のパトロールの強化ということでございますが、これにつきましても中国の方は、こうした沿岸地域でのパトロールの強化はしておるということでございました。そうしたパトロールの強化ということは、実は、従前は密航船の出発地そのものが密航者の多い福建省から出てくることが多かったのが、最近の傾向としまして、福建省の港から直接出てくるのではなくて、上海等、福建省以外のところから出るという傾向が出ております。  これなどは、福建省の沿岸地域での警備を強化した、だからそこからは直接出てきにくいと、このようなことで、そうした密航のブローカーたちが福建省以外のところへ行って、警備の手薄なところから出てきておると、こんな傾向を示しておるということでございます。そういうことでもあらわれておりますとおり、中国側は、これまでは福建省を中心とする地域で沿岸の警備を強化しておった、今後はそうしたものをさらに徹底してやっていくということでございました。  それから……
  150. 橋本敦

    ○橋本敦君 中国側の対応は結論だけ、時間がないから。
  151. 安田博延

    説明員安田博延君) それから、三番のブローカー、密航企図者の取り締まりの徹底ということでございますが、これにつきましても、蛇頭についてはなかなか実態の把握が難しいが、その解明に努めておって、時期等ははっきりしませんでしたが、これまで二百人の蛇頭処罰したというような話がございました。なお今後とも引き続きこうしたブローカー、蛇頭等についての処罰は徹底していくということでございます。  それから、住民への啓発の徹底ということでございますが、これは実際、福建省を中心とする住民に対してチラシの配布等を行って啓蒙活動を強めており、今後ともさらに強めていきますと、このようなことでございました。  あと、ICPO手配に対する誠実な対応あるいは情報提供については、これまでも関係のところと、あるいは海上保安庁等々でやっておるということでございますが、今回行きまして、さらにこれも今後情報交換を活発にしようと、このようなことで話をしてまいりました。  それから、早期引き取りの点でございますが、これにつきましては、これまでも中国と私どもの方で送還については協議してまいりましたが、中国側もこの問題については早く決着したいという強い意向を持っておりまして、現在も近々に送還するべく中国側と具体的な折衝を進めております。  そのようなことで、中国側も非常に熱心に対応しておるという状況でございました。
  152. 橋本敦

    ○橋本敦君 先ほど話のあった刑法の改正、罰則強化、これも回答の一つですか。
  153. 安田博延

    説明員安田博延君) 先生指摘のとおりでございまして、中国ではこの三月の全国人民代表大会で、こうした密出国防止あるいは組織的に密出国させる行為、これに対する罰則の強化を盛り込んだ改正刑法を議決いたしまして、本年十月から施行するということでございました。
  154. 橋本敦

    ○橋本敦君 大臣、私がこの問題を提起しましたのは、蛇頭を含む地下移民局と言われるこういう組織中国政府自身の責任でもきちっと取り締まってもらう必要があるし、それから向こうの自国の国民を不法に出国、我が国へは不法に入国させない、こういう中国政府の責任というのは私は重いと思うんです。いろんな事情があるにしろ、そういった立場で中国政府にも責任を持って厳しく対応してもらいたいということを、今もお話があったんですが、この法案が成立したこの機会にも、このことも通告し、中国政府にこういったことの取り締まりに責任を持ってもらいたいということを強く要望する必要があると思いますが、大臣のお考えはいかがでしょうか。
  155. 松浦功

    ○国務大臣(松浦功君) この間の四省庁の職員を派遣した問題もそういう意識のあらわれでございます。この法律が成立するとしないとにかかわらず、まあ成立させていただけると思っておりますけれども、ともかく徹底的にこういった問題を繰り返し中国にお願いしていくということは当然のことだろうと思っております。
  156. 橋本敦

    ○橋本敦君 私は、そういった中国政府の責任をきちんととってもらいたいという立場で、一つは問題を提起いたしました。  それからもう一つ、具体的な問題として、資料によりますと、九六年の十二月から今年まで検挙された約五十件、そのうち幇助犯の内訳ということで、在留外国人が十六人、外国人船員四十人、日本人十三人という数字をいただいておりますが、ここで言う在留外国人というのはいわゆる蛇頭グループと見られるのかどうか、これが第一の質問。  それから、幇助犯として資料で出てまいります外国人船員四十人、この数字は間違いないと思いますが、この外国人船員というのは、どこの国のどういう船員なのかおわかりでしょうか。
  157. 安田博延

    説明員安田博延君) お答えいたします。  先生指摘のとおり、昨年十二月からこの三月までの間に密航の幇助として検挙された外国人船員、これは四十人というふうに承知いたしております。この者たちが蛇頭との関係はどうかということでございますが、この点につきましては必ずしも十分解明されておるところではございませんが、そうした蛇頭と関連がある、あるいは蛇頭組織に組み込まれておるような者、そういう者も含まれているのではないかと思われます。  それから、この船員の国籍でございますが、これにつきましては、中国人等もおりますけれども、それに限らず、いろんな地域から雇われた船員がおるというふうに認識しております。
  158. 橋本敦

    ○橋本敦君 これは、幇助犯としてはわかるんですが、今度の法改正において、これらの外国人船員、これが蛇頭と同じように、営利目的でとか、あるいは自己の支配や管理下にある集団密航者本邦上陸させる、そういった目的本邦に向けて輸送したとか、そういった構成要件に該当するかしないかは、これはまた蛇頭そのものでなければ慎重に適用を検討しないと行き過ぎになる可能性もあるんです。ここらあたり入管局はどう考えておられますか。
  159. 樋渡利秋

    説明員樋渡利秋君) 具体的な事案によることと思いますが、証拠を丹念に検討しながら、今度新設いたします七十四条の罪の構成要件に該当すれば、その新しい罪で処罰を求めるでありましょうし、そういうものでなければ、あるいは幇助罪あるいは七十四条の六の罪で問われることになろうかというふうに思われます。
  160. 橋本敦

    ○橋本敦君 だから、事実と証拠によって、従来どおり、幇助犯でしか処罰できないものはその限度でやるし、本法が適用されるかどうかは具体的ケースと証拠によって決めると、こういうことですね。  そこで、構成要件、いろいろ議論もありましたが、「自己の支配又は管理の下にある集団密航者」という七十四条の規定ですが、自己の支配あるいは管理というのは、どの程度の場合、自己の支配、管理と言えるのか。蛇頭の指示を受けた単なる協力者の程度でいいのか、その船に乗り込んで指揮官的状況で行動している、それを自己の支配または管理というように言うのか、そこらあたりがちょっと構成要件として不明確ではないかという点を心配するんですが、その点はどうですか。
  161. 樋渡利秋

    説明員樋渡利秋君) まず、「自己の支配又は管理の下にある」という言葉の定義でございますけれども、これは、このような支配または管理によって集団密航者の意思、行動に影響を及ぼすことができる状態にあること、言いかえますと自己の統率のもとにあるということを言うわけであります。  したがいまして、個々具体的な事案によりまして、個々の証拠によりまして認定していくことでありますけれども、もちろん、船に乗り込んで自己の支配下に置いて指揮監督している者、これは当然に自己の支配下に置いた正犯だろうと思いますが、それに協力して、その事実を知って共謀をしながら下働きをするというのもそれは正犯になるだろうと思います。船に乗らずに、陸におりましてそれを指揮している者も、当然それも正犯、この罪に該当すると、主体になり得るということであります。
  162. 橋本敦

    ○橋本敦君 そういうことで、実態をどうつかむかということで、この法律の適用については、慎重を期しながら事実の解明が必要な法律だということを痛感するわけです。  例えば、七十四条の二で「集団密航者本邦に向けて輸送し、」と、こうありますが、この「本邦に向けて輸送し、」というのは、一体どの辺ぐらいから既遂になる輸送行為になるのか。公海上を越えて我が国の領域に入る、そういう場合に既遂になるのか、向こうの港を出たときからもう既遂になるのか、そういった点。  それから次に、「本邦内において上陸の場所に向けて輸送した者」という、ここで言う「本邦内」というのはどの範囲のことを言うのか、この点はいかがですか。
  163. 樋渡利秋

    説明員樋渡利秋君) 七十四条の二に言います前段の「本邦に向けて輸送し、」といいますのは、自己の支配または管理下にある集団密航者を乗船させた船が出港したときからでございます。そして、この本邦に向けて輸送した者が本邦内に入りますと、これは七十四条の罪で「本邦に入らせ、」という行為になりまして、これが包括一罪となるわけであります。  七十四条の二の一項の後段の「本邦内において上陸の場所に向けて輸送した者」といいますのは、例えばその分担行為で、本邦に入ってから、本邦の外から本邦に入ってきたその船から乗せかえて我が国の領海内を上陸の地点まで向けて輸送する行為、これが本邦内において上陸の場所に向けて輸送したという行為でございます。  これが実際に上陸させますと、七十四条の「上陸させ」という罪になりますし、まだ上陸させる前でありましても、例えば船を岸壁に横づけしまして、はしごをかけて、さあおりろというふうにおろさせる行為を開始いたしましたら、これは七十四条の「上陸させ」の未遂罪になりまして、それは全体的に包括一罪ということになるわけでございます。
  164. 橋本敦

    ○橋本敦君 法律的に要件的に非常に難しいのは、船に乗っている密航者我が国不法入国するまでは犯罪行為ではないわけですね、密航者本人は。ところが、この法律によれば、それを輸送した者は、その目的で出港したときから、今御説明のように、既に違法行為として犯罪が成立していると、こう見るわけですね、基本的には。ですから、本邦に入ってきて上陸しなかったら、それは不法入国の未遂罪に対する輸送ということになるわけですか。要するに、密入国者が密入国として刑事犯罪を問われる密入国という既遂行為がなくても、そうならなくても取り締まるという構造になっていると、こういうことですか。
  165. 樋渡利秋

    説明員樋渡利秋君) 今回新設しますこの集団密航に係る罪といいますのは、密航者本人ではなくて、その密航者を連れてくるそういう組織的な犯罪が多いものでありますから、そういう者に向けた、その者を対象とした罪でございます。  したがいまして、この事案といいますか、こういう犯罪の実態といいますのは、まずどこか外国密航する者を募集してそれを集めまして、またそれを聞きつけて集まった者を小舟に乗せまして、沖合におる大型の鋼船に乗せまして、それで日本に向けて出港させまして、そして日本の近海で見つからないように今度は日本の小舟に乗せまして本邦内に入りまして、またそれを日本のどこかの岸壁につけるという一連の行為があるものでありますから、それら全体を網羅的に、そういうような計画をした犯罪をどの時点でも把握できるような法体系にしようとしたわけであります。
  166. 橋本敦

    ○橋本敦君 そういう意味で、非常に特異な犯罪構成要件を持つ法律だということで慎重に私どもも検討しておるわけなんです。  もう一つ、先ほどから議論がさんざんありました七十四条の八の関係でありますが、これは御説明によりますと、我が国在留許可期間を超えてオーバーステイをしているいわゆる不法残留者、そういった者に適用するということではなくて、不法入国者不法上陸者、これに関して、しかも要件を絞り込んで、退去強制を免れさせる目的でその外国人蔵匿、隠避した場合、こういう縛りをかけている、こういうお話でございます。この点は間違いありませんね。
  167. 樋渡利秋

    説明員樋渡利秋君) 御指摘のとおりでございます。
  168. 橋本敦

    ○橋本敦君 それで、私が一つの資料として検討しておりますのは、こういうようなことで我が国不法残留あるいは不法に入ってきて就労している実態を入管局からいただいた資料で見ますと、中小というよりも十人以下のむしろ小企業、この企業に入って単純労働に従事するのが圧倒的に多いんです。この構成別を見ますと、五人以下が五七・二%、十人以下が一〇・三%、十人以下というそういう従業員規模で働いているところが合わせて七割近くになっています。こういう実態は間違いございませんか。
  169. 安田博延

    説明員安田博延君) そのとおりでございます。
  170. 橋本敦

    ○橋本敦君 そこで、確かめておきたいのは、そういうところで働いている外国人労働者の雇用主、この雇用主が、退去強制を免れさせる目的などはなくて、外国人であるという認識はもちろんありますが、働きたいというので働かせたというそういう状況であれば、私は、まさに退去強制を免れさせる目的というのは、これは基本的にないと見ていかなくてはならぬというふうに思いますが、それはそれでよろしいでしょうね。
  171. 樋渡利秋

    説明員樋渡利秋君) 七十四条の八の構成要件は、その「目的」以外に「蔵匿」、「隠避」というふうになっておりますので、先生御承知のとおりでございましょうが、蔵匿とは場所を提供してかくまうこと、隠避はそれ以外の方法によって発見を免れさせる一切の行為というわけでありますから、単に雇っていることが蔵匿、隠避行為になるかどうかということだろうと思いますが、具体的な事案で、そうでなければ、そもそもこの七十四条の八には該当しないということでございます。
  172. 橋本敦

    ○橋本敦君 つまり、公然と雇用しておれば、その目的もないし、また隠避とか蔵匿とかという客観的に見られる行為が基本的にはないわけですから、私はこの問題でそういった雇用主にまで拡張適用されるおそれがあってはならぬというので聞いているわけです。その趣旨はおわかりいただけたと思います。  同様に、同僚議員からお話があったように、ボランティアだとかあるいはいろんな意味で、路頭に迷っている、あるいは病気になった、そういった人たちを救済するというボランティア的な人道的活動、それについてもこの七十四条の八が不当に拡張適用されてはならないという、そういった立場で先ほども附帯決議の問題が各委員から指摘されましたが、人道的見地もしっかり踏まえて、そういったことに拡張適用されないようにしなきゃならぬというふうに考えていますが、これは入管局もそのとおりでよろしいですか。
  173. 樋渡利秋

    説明員樋渡利秋君) そもそも具体的な事案によることでありましょうが、この法律の要件に合うかどうかということは慎重に検討されるだろうというふうに思います。
  174. 橋本敦

    ○橋本敦君 それは、慎重にやっていただくということで回答がございましたからよろしゅうございますが、この法律ができたからといって、将来中国からの不法入国が直ちに減るということはそう簡単には予想できない事情がございます。  作家で、日本でもよく名の知られた莫邦富さんという方が、「蛇頭急増する密航者」ということでお書きになっているのですが、これを読みますと、日本にふえる前はアメリカだったそうです。アメリカに随分行っていた。ところが、アメリカが、一九九三年にいわゆるニューヨークの海岸に座礁したあの密航船事件を契機に密航者の厳しい対策強化をして、そして逮捕してもすぐ釈放したシステムを変えて四年間刑務所に入れるというような、こういう厳しい対応をとったことが一つ。  それから、実際問題として、この方が書いておられるのを読んでみますと、チャイナタウンで密入国者が随分と働いていたんですが、そこで密航者がふえて路頭にあふれて仕事がなくなって困ってきた、こういうことがすぐさま情報として本国に伝わって、これはもう米国ではだめだよということで、それで日本に来たという、そういう状況がここに書かれてあるんですが、なるほどうなずける話です。  しかし、ところが日本でも、今密入国してきてもそう簡単に働ける事情ではない。不景気だし、日本の国民自身が失業者が多いという状況でもあるし、それから賃金もだんだん下がってきておるという資料もあります。  だから、日本としても、取り締まりが厳しくなったというだけじゃなくて、日本に来てもそう簡単にお金もうけができるような状況はないよと、そういったことを広報として中国の方にも知らせ、中国も責任を持ってそれをきちんと国民に知らせるということもやってもらわなければいけないというように思うのですが、そういった点についてどうお考えですか。
  175. 伊集院明夫

    政府委員伊集院明夫君) 委員指摘のとおりでございまして、日本状況については、アメリカにいる中国人同様、中国人同士の情報が相当行っているとは思います。今回の法案が通りますれば、それも非常に重要な要素として伝わっていくと思います。非常に早く伝わるのじゃないかと思います。  それと別に、私ども従来から、不法残留者の出身国といいますか、そういうところに対する広報というのは、日本にある各国の大使館を通じたり、また我が方の在外公館を通じましてできるだけ広報しておりますし、今後ともやっていきたいと思っております。
  176. 橋本敦

    ○橋本敦君 最後に、一問お伺いしたいんですが、それともう一つ、こういう状態をなくしていく一つの大事な観点として、私は、単純労働者を締め出しているという状況をいつまでも日本が続けていていいだろうかという問題があろうかと思うんです。  私どもは、現在の日本経済事情を考えたり、それから諸般の状況を考えたりしますと、単純労働者をどんどん無秩序に入れていいとは決して思っておりません。思っておりませんが、開かれた国際社会の一員という立場と、それからもう一つは、単純労働者に対しての枠が秩序ある形で広げられていくならば、蛇頭に莫大な金を取られ、刑罰に遭う危険を冒すんじゃなくて、正規のルートで来るというまじめなそういう人たちがふえていく可能性もそこから出てくるわけです。  したがって、私どもの党としては、前から、秩序ある受け入れという方向で政府も検討すべきだということで、いわゆる外国人単純労働者の受け入れ問題についての見解を持っておるわけですけれども、将来、この法律の施行、取り締まり強化だけではなくて、そういった観点も政府として研究をしていただいて、そういう方向での検討も深めていただきたいということをお願いして質問を終わりたいんですが、大臣、いかがでございますか。
  177. 松浦功

    ○国務大臣(松浦功君) 御指摘ありがとうございました。十分考えます。
  178. 橋本敦

    ○橋本敦君 ありがとうございました。終わります。
  179. 続訓弘

    委員長(続訓弘君) 他に御発言もないようですから、質疑は終局したものと認めます。  これより討論に入ります。——別に御意見もないようですから、これより直ちに採決に入ります。  出入国管理及び難民認定法の一部を改正する法律案に賛成の方の挙手を願います。    〔賛成者挙手〕
  180. 続訓弘

    委員長(続訓弘君) 全会一致と認めます。よって、本案は全会一致をもって原案どおり可決すべきものと決定いたしました。  なお、審査報告書の作成につきましては、これを委員長に御一任願いたいと存じますが、御異議ございませんか。    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  181. 続訓弘

    委員長(続訓弘君) 御異議ないと認め、さよう決定いたします。  本日はこれにて散会いたします。    午後二時三十二分散会