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1996-06-05 第136回国会 参議院 海洋法条約等に関する特別委員会 第4号 公式Web版

  1. 会議録情報

    平成八年六月五日(水曜日)    午後二時一分開会     —————————————    委員異動  六月四日     辞任         補欠選任      本岡 昭次君     小島 慶三君  六月五日     辞任         補欠選任      山崎  力君     石田 美栄君      山田 俊昭君     西川  潔君     —————————————   出席者は左のとおり。     委員長         寺澤 芳男君     理 事                 青木 幹雄君                 鴻池 祥肇君                 野沢 太三君                 風間  昶君                 田村 秀昭君                 川橋 幸子君     委 員                 井上 吉夫君                 太田 豊秋君                 鹿熊 安正君                 亀谷 博昭君                 久世 公堯君                 河本 三郎君                 武見 敬三君                 成瀬 守重君                 林  芳正君                 吉川 芳男君                 石田 美栄君                 高野 博師君                 常田 享詳君                 戸田 邦司君                 横尾 和伸君                 菅野 久光君                 瀬谷 英行君                 須藤美也子君                 立木  洋君                 小島 慶三君                 西川  潔君                 中尾 則幸君    事務局側        常任委員会専門        員        大島 弘輔君        常任委員会専門        員        秋本 達徳君    参考人        上智大学教授   山本 草二君        社団法人日本        水産会会長    佐野 宏哉君        東京水産大学教        授        小野征一郎君     —————————————   本日の会議に付した案件海洋法に関する国際連合条約及び千九百八十二  年十二月十日の海洋法に関する国際連合条約第  十一部の実施に関する協定締結について承認  を求めるの件(内閣提出衆議院送付) ○領海法の一部を改正する法律案内閣提出、衆  議院送付) ○排他的経済水域及び大陸棚に関する法律案(内  閣提出衆議院送付) ○海上保安庁法の一部を改正する法律案内閣提  出、衆議院送付) ○排他的経済水域における漁業等に関する主権的  権利行使等に関する法律案内閣提出、衆議  院送付) ○海洋生物資源保存及び管理に関する法律案  (内閣提出衆議院送付) ○水産資源保護法の一部を改正する法律案内閣  提出衆議院送付) ○海洋汚染及び海上災害防止に関する法律の一  部を改正する法律案内閣提出衆議院送付) ○核原料物質核燃料物質及び原子炉規制に関  する法律及び放射性同位元素等による放射線障  害の防止に関する法律の一部を改正する法律案  (内閣提出衆議院送付)     —————————————
  2. 寺澤芳男

    委員長寺澤芳男君) ただいまから海洋法条約等に関する特別委員会を開会いたします。  委員異動について御報告いたします。昨日、本岡昭次君が委員辞任され、その補欠として小島慶三君が選任されました。  また、本日、山崎力君及び山田俊昭君が委員辞任され、その補欠として石田美栄君及び西川潔君が選任されました。     —————————————
  3. 寺澤芳男

    委員長寺澤芳男君) 海洋法に関する国際連合条約及び千九百八十二年十二月十日の海洋法に関する国際連合条約第十一部の実施に関する協定締結について承認を求めるの件、領海法の一部を改正する法律案排他的経済水域及び大陸棚に関する法律案海上保安庁法の一部を改正する法律案排他的経済水域における漁業等に関する主権的権利行使等に関する法律案海洋生物資源保存及び管理に関する法律案水産資源保護法の一部を改正する法律案海洋汚染及び海上災害防止に関する法律の一部を改正する法律案核原料物質核燃料物質及び原子炉規制に関する法律及び放射性同位元素等による放射線障害防止に関する法律の一部を改正する法律案、以上九案件を一括して議題といたします。本日は、九案件審査のため、上智大学教授山本草二君、社団法人日本水産会会長佐野宏哉君東京水産大学教授小野征一郎君、以上三名の参考人方々から御意見を拝聴いたしたいと存じます。  この際、参考人方々に一言ごあいさつを申し上げます。  本日は、御多忙中のところ御出席をいただきまして、まことにありがとうございます。  議題となっております九案件につきまして、それぞれのお立場から忌憚のない御意見をお伺いいたしまして、今後の審査参考にいたしたいと存しますので、よろしくお願いいたします。  それでは、これより順次御意見をお述べいただごますが、あらかじめ議事の進め方について申し上げます。  御意見をお述べいただく時間は、議事の都合上、お一人二十分とし、その順序は山本参考人佐野参考人小野参考人といたします。すべての方の御意見の開陳が済みました後、委員からの質疑にお答えいただきたいと存じます。  なお、御発言は着席のままで結構です。  それでは、これより各参考人に順次御意見をお述べいただきます。  まず、山本参考人からお願いいたします。山本参考人
  4. 山本草二

    参考人山本草二君) 御紹介いただきました山本でございます。国際法を専攻しております。  この海洋法歴史は、御承知のとおり数百年以上に及ぶ歴史がございまして、その間、海洋の自由を主張いたします海洋国と、それに対抗する沿岸国、これが資源の配分あるいは海から押し寄せる危険等におびえて対立を繰り返してきたわけでございます。その間、各国とも国内法に基づきまして一方的な措置というものを振りかざして、いわば国力を総動員して対抗し合ってきたのが歴史でございます。したがいまして、そこでは各国海洋に対して持っております国家としての実力、これが総動員されて個々に海洋法中身が決められてきたのでございまして、また相手次第で相対的に海洋法中身が違うというような歴史も繰り返してきたわけでございます。  そういう歴史を振り返ってみますと、今回の海洋法条約は、この長い歴史の中で初めてでございますが、極めて客観的な、そして普遍的な土俵づくりというものに成功したというふうに私は考えるわけでございまして、そこでは、ただいまも申し上げました海洋国沿岸国との間の宿命的な対立というものも大変合理的なバランスを保って据えつけるということでございます。そういう中で、しかも多数国間条約でございますから、各国国内法の違いというものも考えまして、相当広い選択肢選択の幅というものを残しながら条約がまとまったわけでございます。  したがいまして、これからはこの条約が許しております枠組みの中で、各国がそれぞれ国益考えながら解釈基準というものを選び出していくのが一つの仕事かと思うわけでございまして、またそこに海洋に対する各国国益というものを生かす各国力量が発揮されるのではないかというふうに考えるわけでございます。  他方、従来の海洋法は、いわば波打ち際よりも外の問題を扱いまして、各国国内法に触れる問題は避けるという傾向がございましたけれども、今回の条約は、先生方御高承のとおり、国内法と直接触れ合う中身を非常に幅広く決めているわけでございまして、これも海洋法歴史の中では画期的なことでございます。かつては専ら各国法律に任せて処理されてきたような問題も、広くこの条約で取り上げている。その分、国内法令に対するインパクトというものは大変厳しいものがあるわけでございまして、ここらあたりにも、今後この条約をどうやって生かし定着させていくかということについての各国力量というものが国際的に問われているんだろうと思うわけでございます。  私が点検いたしましたところ、この海洋法条約締結国内実施するために、各国でいろいろ国内法を用意しているわけでございますけれども、海洋法条約規定をそのまま焼き直しをして国内法にしているとか、あるいは海洋法が抱えておりますいろいろの選択の幅を将来に任せて自分では政策決定をしないという形で、無難な国内法整備をやっている国もたくさんあるわけでございます。  そういう中では、今回出されました法案等を私が拝見している限りにおきましては、海洋法条約の大きな枠組みを大変的確にとらえられまして、しかも踏み込んだ形で、ある意味では政策決定もなさって国内法を整備しておられる。大変きめの細かい国内法が用意されたというふうに拝見しているわけでございます。多分、ほかの多くの国々などがこれから海洋法条約を受け入れ、国内実施していくに当たって、大きなモデルとしてこの我が国関係国内法令を使うのではないか。また、そういう国際的な対抗関係の中で十分持ちこたえられる、説得力のある中身というものを備えたものではないかと私は考えているわけでございます。  したがいまして、この条約を今後具体的な紛争とか事件の中でどうやって賢明に生かしていくか、それを通して今回御検討いただきました条約なり国内法令本旨というものを生かし育てていっていただくことが私ども国民一般にとっても大きな責任になるのではないかというふうに愚考しているわけでございます。  そういう観点から考えますと、かなり大きく問題になっていることでございますが、例えば海の線引きの問題があるわけでございまして、海洋法歴史の中で今回初めて、領海から始まりまして二百海里あるいは大陸棚、そういった広範な海についての画一的な線引きというものが行われたわけでございます。しかも、海で行われる活動は、資源の開発にせよ船舶活動にせよ、そういう人間がつくりました線引き、境を越えて、いわば域外的に活動が展開されるわけでございまして、そういう現実と法令のかぶせ方ということをうまくつなぎ合わせていくことができるかどうかが問題になるわけでございます。  例えば、大陸棚あるいは二百海里経済水域、これの範囲をどう決めるかということは、各国条約の大きな枠組みの中でいわば一方的な判断で決められることでございます。ですから、大陸棚について言えば、二百海里にとどめるかあるいは自然延長まで延ばすかというようなことは、各国国益等考えながら、あるいは条約本旨考えながら自分責任で選び出していくことになると思います。その結果、相手国との間でその海域が重なり合う、オーバーラップするということになりますと、初めて境界画定線引きという問題が出てくるわけでございます。  この線引きにつきましても、今度できました条約では、まず関係国交渉を重ねて合意をつくりなさい、合意をまとめるときの目標としては衡平な解決が得られるようにしなさいということが書いてあるだけでございまして、じゃそういう結果に到達するためにどういう具体的な方法を使うか、どういう国際法原則を使うかということについては条約自体は直接に書いてございません。これは海洋法会議の長い歴史の中でグループの対立があったからでございます。  今後、そういう衡平な解決を得るためにどういう具体的なルールを積み重ねていくかということも、実は各関係国国際紛争というものに直面しながら固めていくことでございまして、この条約はそういう意味では、これから各国の自主的な努力によって事実を積み重ねていくことが非常に多く残された分野だというふうに考えるわけでございます。  これまで、線引きにつきまして等距離あるいは中間線という基準があったことは御高承のとおりでございまして、これに対するものとしては衡平原則というのがございますけれども、国際紛争を通して実際に処理してきた国家実行という点から見る限りは等距離原則を第一の一応の基準にする。あと当該海域特別事情、例えば島がどういう形で存在するか、海岸線の長さはどうか、形状はどうかというような各海域関係事情というものを入れて適宜衡平な結果が得られるように軌道修正をしていくと。等距離中間、それから特別事情をプラスするという原則国家実行で一応確立している基準かというふうに考えるわけでございます。ただ、国家国際紛争を通じまして交渉でまとめる際のそういう型につきましては、各国はその法律的な裏づけ、理屈づけはいたしません。  ところが、国際裁判所にかかりますと、むしろ裁判官、これは国際司法裁判所にも多少判決のぶれがあるというふうに私は考えるわけでございますが、とかく裁判官価値観とか正義感、いわゆる衡平という考えでございますが、これが先に立ってしまう。等距離基準でまず線を引いて修正をするんじゃなくて、そういう線を引かないでいきなり、島の存在とか海岸形状とか海岸線の長さとかというものをむき出しに出してやろうとする考え方が海洋法会議でもかなり有力であり、それに引っ張られる裁判官考えもあるわけでございます。そうなりますと、裁判にかけても裁判官判断で結果がどうなるかわからない、予測がきかない、あるいは非常に主観的な判断に流されるということがございまして、条約解釈としては私はいかがかというふうに考えるわけでございます。  海洋法条約がせっかくそういう形で各国取り組み方にオープンな態度を開いている以上は、今度は国家国際紛争を通じまして等距離基準、そして関係事情を入れて適宜軌道修正をするといったような実行を積み重ねていく。そういうものの中から、やがて裁判にそれがかけられるということであれば、国際裁判官はその国家実行というものを直接にまじめに受けとめて、その意味する法的な理屈づけというものを裁判官の手で整理をしていく。そういう形でいくことが国際裁判所のあり方としては私は合理的なのではないかと考えるわけでございます。  この海洋法条約が用意しております紛争解決というものを生かすためにも、まず直接この海洋法条約を日常的に取り組み、生かしていく各国判断、そして積極的な取り組み方が今後の海洋法の将来、成長というものを定めていく根本であって、国際裁判官がそういうものを抜きにいたしまして、自分主義、主張、主観でもって新しいルールをつくり上げていくようなことがあってはならないというのが私の実感でございます。  そういう点からいきますと、後ほどまた御質問があれば詳しく申し上げるつもりでございますが、島の領有について、領有権が確定しているというときでございましたら、あとは島あるいはその周辺事情考えまして、線引きにおいて一〇〇%の効果を与えるか半分の効果を認めるか、あるいはもうそれは沿岸に編入してしまって島の存在を法的には認めないというふうにするかといったようないろいろな選択肢がございます。これはすべてそれぞれの海域関係事情ということにかかわることでございまして、その結果、一応引きました中間線、これを修正する必要が出てくるということがあり得るわけでございます。他方、島の領有権国際紛争になっているというときは、海洋法条約のどの規定を引っ張ってきても領土紛争を有利に解決する根拠はございません。  したがいまして、海洋法条約締結ということとの関連で申しますれば、直接に島の領有権そのものの当否を最終的に決定することは海洋法枠組みの中ではできないことでございますから、別途それは一般国際法に基づきまして、しかるべき国際裁判あるいは仲裁裁判を通じて解決するということしかないんだろうと思います。海洋法条約趣旨を生かすためには、そういう意味におきましては、決して棚上げではございませんけれども、島の領土紛争については問題を切り離すということが賢明かと考えるわけでございます。  また、二百海里につきましても、線引きをした上で一番問題となりますのは、そこで従来操業しておりました外国人漁民のいわば実績というものをどの程度どういう形で尊重し維持していくかということが従来非常に大きな問題になっているわけでございます。私が調べましたところでは、この処理の仕方につきましても三つないし四つの類型ができている。そういう類型の中で、我が国周辺の韓国あるいは中国との間の漁業関係というものを、そういった大きな類型から離れない形で、しかも妥当な期間、妥当な範囲でそういう外国漁民実績も尊重しつつ、我が国漁民あるいは生物資源保存という目的を達すると、そういった知恵を払うべきではないかというふうに考えるわけでございます。  国内法を一挙に成立いたしまして、国際法上、他国の漁民が持っております長きにわたる漁業実績というものを一挙に否定し去るようなことは従来の国際紛争裁判例から見ても非常に問題があることでございまして、そこらあたりをソフトランディングいたします知恵というものをお考えいただければというふうに考えるわけでございます。  最後でございますが、先ほども申し上げましたとおり、大変きめの細かい線引きが行われました。条約をごらんになりましても、主権とか主権的権利排他的管轄権とか管轄権国家の権力、国内法適用の仕方についていろんな言葉が並んでおりまして、それぞれ目的、働き、ニュアンスが違うわけでございます。そういうものを使い分けた上で、これから国家の領域、領海の外の海で外国船舶に対してさまざまな我が国国内法令というものを適用し、場合によっては執行していかなければならないわけでございます。今回用意されました関係法律案大変そこらあたりを積極的にお考えいただいて、執行する際の法律的な枠組み、基盤というものを整えていただいたように私は拝見しているわけでございます。  そこで、例えば接続水域にいたしましても、従来から、入ってくる船と出ていく船について国内法のかぶせ方の根拠はいろいろ学説上の対立があったわけでございます。あるいは、経済水域に建設されます海洋構築物、これは領土延長ではございませんので属地主義基準にして国内法をかぶせていくということができないわけでございます。やはり、海洋構築物活動とか目的に沿った形の関係国内法令を選別いたしまして、その法令趣旨に合ったような理屈づけをして域外適用をやっていく。国内で行われる外国人活動に対して国内法適用し、執行していく。そういう条約あるいは関係国内法令解釈、具体的には適用の際にきめの細かい法律的な理屈づけというものを逐次これから積み重ねていく必要があるのではないかというふうに考えるわけでございます。  そういう出発点をつくっていただいたという意味で、この海洋法条約本旨を的確に御理解くださいまして、その上に、それを生かすための関係国内法令を整備していただいたという意味では、対外的にも国際的にも大いに誇れる内容条約解釈であり関係国内法令内容であるというふうに私は考えるわけでございます。  冒頭に申し上げましたとおり、その本旨、特徴を生かすも殺すも、これから具体的な紛争を通じまして外国とのそういった競り合いの中でこの今回の実績というものをどうやって的確に賢明に生かしていけるかということを考えるわけでございます。一般国民も含めまして、あるいは関係責任のある方々の御努力も含めまして、そういった努力の中でこの条約成長を見守りたいというふうに考えるわけでございます。  なお、この条約につきましては、成案ができるまでに十数年、できてから発効するまでにも十二、三年と大変長い時間がかかっておりまして、その間、早くも海洋法条約関係規定の部分的な軌道修正とか、あるいは海洋法条約を超えた形での新しい条約づくりというような動きも御承知のとおりあるわけでございます。海洋法というものはそういう意味でいつもその中に将来を変えていく一つの潜在的な力を持っているのではないかと思うわけでございまして、そういうものを見込みまして、単に今ある条約とか国内法令を今あるがままに厳格に客観的に適用するというだけではなくて、海洋法条約の中に潜んでいる将来の芽生えというものを見通した上で、そういった紛争の根を先取りしていくといったような積極的な姿勢というものも海洋大国としての日本の大きな責任ではないかと考えるわけでございます。  大変急いだ話になりましたけれども一この海洋法条約締結というものを契機にいたしまして、まさに日本国内法が国際化できる、国際的な適応能力というものを備えることができるんだという意味で、私は今回のこの条約についての承認というものを非常に高く評価し、心から感謝申し上げる次第でございます。  簡単でございますが、とりあえず私の第一次のお話としては以上にさせていただきたいと思います。ありがとうございました。
  5. 寺澤芳男

    委員長寺澤芳男君) ありがとうございました。  次に、佐野参考人にお願いいたします。佐野参考人
  6. 佐野宏哉

    参考人佐野宏哉君) 本委員会におきまして、水産業界立場から意見を申し上げる機会を与えていただきましたことを心から感謝いたします。  まず最初に、今回の国連海洋法条約及び関係国内法がこの時点において我が国の国会において審議されているということは、比喩的に申し上げますと、ちょうどトラックで一周おくれたランナーがあたかもほかのランナーと同じ速さで走っているかのように見える、そういう感じがいたします。と申しますのは、水産資源に対する国際社会認識というのはここのところ急激に変化をしてきておるように思われるからであります。  一九八九年に、世界の海でのとる漁業漁獲量が九千万トンの直前まできたところで頭を打ちまして、それ以降、海でのとる漁獲量というのは九千万トンの水準を超えられずにおります。そのことを通じまして、国際的に有識者の間で水産資源有限性、世界じゅうのおよそ目ぼしい商業的価値のある漁業資源があらかた満限状態まで利用されておる、あるいはかなり資源乱獲状態に陥っている、そういう認識が急速に広まってまいりました。  そういたしますと、当然のことながら二百海里水域の外側の漁業資源については今までどおり公海漁業自由の原則にゆだねておいていいのだというわけには今やいかない時代になったと、そういう認識がこれまた急速に国際社会で広まってまいります。その問題をめぐって、御高承のとおり、例えばスペインとカナダとの間であわや海軍が出動しかねまじきょうな事態さえ起こったわけであります。  そうなりますと、当然これを何とかしなければならない。そういうことで、昨年、ストラドリングストック、これはいまだに我々になじむような適当な日本語訳がございませんが、要するに二百海里内外にまたがっている魚のことでございますが、ストラドリングストック高度回遊性魚種に関する国連協定というのが昨年の八月にできました。でございますから、既に国際社会の関心は、公海における漁業資源管理までも含めて地球上のあらゆる漁業資源資源管理に服すべきものであると、そういう国際社会のコンセンサスが成立をしたわけです。現に、ストラドリングストック高度回遊性魚種に関する国連条約を批准した国もあらわれております。第一号はたしかカナダであったと記憶しております。  そういう国連海洋法条約で定められております二百海里の排他的経済水域をさらに越えて、その先の資源をどう管理するかということまで視野に入れた国際社会の関心のありよう、そういう状態になっている今日、我が国でようやく二百海里の内側の資源管理についてこういう御審議が行われている、そういうことを私は先ほど比喩的に一周おくれて走っているランナーという感じがするというふうに申し上げたわけであります。  このことは、単に国際社会の関心のありようと比べて重大なおくれがあるというだけではなくて、その結果それぞれ排他的経済水域を設定しておりません日韓中三国周辺の東アジアの水域においてゆゆしき事態が起こってきております。端的には、東シナ海及び黄海の資源状態ということを念頭に置いてお考えいただければよろしいと思いますが、一九七〇年、八〇年、九〇年とディケードを経るごとに資源状態はがたんがたんと悪化してきております。にもかかわりませず、この水域における漁獲量はふえ続けておりまして、そういう意味で、資源状態から見て許しがたい程度の漁獲圧力が加えられているということは疑う余地がないように存じております。  でございますから、この水域において、国連海洋法条約に則した、時代にふさわしい、国際社会漁業資源に対する現時点における関心のありように見合った資源管理体制を確立するということは喫緊の急務であるというふうに存じます。  これは、私ども水産関係者がかねてからいろいろなところで排他的経済水域の早期全面設定ということをお願いして回ったわけでございますが、その中では、我が国漁業者の漁具被害の実態でございますとか、あるいは漁具被害以前に、そもそも韓国、中国の大型漁船の操業に威圧されておちおちそばへもいけないというようなことがございました。そういう話が広く伝わっておりました結果、排他的経済水域の設定の問題を急いでおるのはあたかも漁業者のエゴといいますか、エゴとまではお考えいただかないかもしれませんが、少なくとも漁業者の狭い視野から見てのせっかちな要望にすぎないというふうに思われる向きもないではなかったのでございますが、今申し上げましたように、この水域において可及的速やかに排他的経済水域を設定し時代にふさわしい資源管理を確立するということは、今や国際社会に対する責務でもあるというふうにお考えいただきたいのであります。  この法律案提出するに当たりまして、与党三党で日韓、日中問題の処理の仕方について三党合意というのをおつくりいただきまして、このことによって日韓、日中という難しい交渉が不幸にして円滑に進展しない場合でも遅滞なく排他的経済水域の設定、二百海里体制への移行ということが行われるということについて政治的な保証を与えていただいたものというふうに認識をして、私どもはその点は評価いたしております。  と申しますことは、当然、交渉の進展状況いかんによりましては、それぞれの協定の定めるところによりまして協定の終了通告を行うという選択肢もあり得るという決断をしていただいたものと認識をしております。  この点につきまして、世上まま、韓国や中国との間の国際関係考えるとやや乱暴な処理の仕方を想定しておるのではないかという御懸念を抱かれておる向きもあるやに察しますので、一言申し上げておきたいと思います。  アメリカ合衆国が排他的経済水域と申しますか二百海里水域を設定いたしましたのは一九七六年の四月十三日でございますが、このアメリカが設定いたしました二百海里水域と両立をしないということを理由にいたしまして日米加漁業条約の終了通告をいたしましたのは一九七七年の二月十日でございます。ですから、日米加三国のようにその友好関係をだれも疑わない国の間でもこういう手続がごく普通のこととしてとられておるわけでございまして、決して手荒なことを想定しておるわけではないということをここで申し上げておきたいと存じます。  次に申し上げておきたいと思いますのは、先ほど国際社会漁業資源に対する関心のありようが変わってきたということを申し上げましたが、このことの意味するところは、要するにとりたい放題とる、そういう漁業は今や存在を許されないということであります。でございますから、この問題は単に条約の問題、法律の問題であると同時に、私ども漁業者の心構え、漁業経営者としてのビヘービア、そういう問題にかかわることであろうというふうに存じております。  したがいまして、今回御審議中の法律案によりまして設定が予定されておりますTACの問題、許容漁獲量の問題につきましても、私どもは漁業経営の外部から漁業者に対して強権的に押しつけられるという性格のものであってはいけない。もちろん、最低限の安全保障といたしまして強権的に漁獲を抑制する法律上の手段は用意されておくべきだというふうに存じますが、基本はあくまでも漁業者の自主的な行動がおのずと漁業資源保存と両立するように行動する、そういう仕組みを用意することが基本であろうというふうに考えております。  したがいまして、TAC法の中で想定をされております協定という手法による資源管理、これはまさに漁業者の自主的な資源管理の典型的なものでございまして、こういうものについてしかるべく制度上の装置を用意してくださっているということは、私どもこの法律案の重要なメリットとして評価しているところでございます。と同時に、私どもは、公的な措置としての許容漁獲量の設定に当たっても、可及的に漁業者が当事者として主体的にデシジョンメーキングに参画をして、自分たちも納得して決めたTACを自主的に守る、そういう意識が持てるような仕組みと段取りで運営されるべきものであるというふうに考えております。  法律案を拝見いたしますと、中央あるいは海区の漁業調整審議会あるいは漁業調整委員会意見を聞きながら事を運ばれるというふうに定められておりまして、大変結構なことだと思いますが、なおこの仏に魂を入れるためには、漁業法第一条で「漁業者及び漁業従事者を主体とする漁業調整機構」というコンセプトがそもそも記されておって、そのようなものとして海区漁業調整委員会等が位置づけられているという原点を想起してこの問題を処理していただき、この制度を運用していただくようにお願いをしたいものであるというふうに考えております。  これを実際に今私が申し上げているように運用いたしますためには、一つの大事なポイントがございます。と申しますのは、今我が国の恐らく大部分の水域、大部分の漁業種類について言えることだと存じますが、これは国際的にも非常に広範に認められる現象でございますが、資源的に見て許容される漁獲量の水準と現存する漁獲能力との間に大幅なギャップが存在するということであります。そのギャップの存在をそのまま放置いたしますと、今私が申し上げているようなことになりようがないわけであります。  したがいまして、ここは漁獲能力、漁獲努力量をしかるべく調整しておのずと許容漁獲量におさまるようになる、そういう漁獲努力量の調整が必要であるということを意味しております。その問題を抜きにしては今私が前段で申し上げたようなことはきれいごと、ただの画餅に終わります。でございますから、この漁獲努力量の調整の必要性ということをくれぐれも念頭に置いてこのTAC制度を運営していただきたいというのが私どもの特に力を入れてお願いしておきたい点でございます。  この点は従来からも決して私は軽視されていたわけではなかったと思いますが、しかしながらいろんな事情に制約されて思うように漁獲努力量の整理が行われなかったということは、過去を振り返ってみますといろいろ苦い経験がございます。  現に、二百海里時代に入りましてから外国の二百海里水域における我が国漁船の操業について、時々不名誉な事態が起こったことは正直に申し上げて事実でございます。こういうことも、今になって思い起こしてみますと、やはり二百海里時代に入って定められた漁獲割り当て量に見合うように適切に漁獲努力量、漁獲能力の調整を行うことができなかった結果生じた事態であるというふうに考えられます。したがいまして、我が国自体のTAC制度をつくるに当たって、この前車の轍を踏むことのないようにしていただきたい。私ども自体もそう心がけていきたいというふうに考えております。  もう一つ大事な点は、何しろ許容漁獲量を定めてその中で漁業経営を行うということは、私ども漁業者にとりまして初めての経験でございます。御承知のとおり、現在大変な魚価の低迷、漁業経営の収支の悪化、そういう状態の中で、このような新しい体制のもとに移行して果たしてうまくいくものかどうかということについて、多くの漁業者は大変不安を感じております。  私は、新しく生まれるTACの制度を円滑に運営していく、漁業者が自発的に正直にこの制度を守っていく、そういうことを確保いたしますためには、TAC制度のもとにおいて漁業経営が持続的に安定的に発展していく、そういう将来についての展望を持つことが何よりも必要であると考えております。これは、昨年、TAC制度の導入の問題を検討いたしました海洋法制度研究会におきましても強く指摘された点でございます。その点を考えますと、単にTAC制度をめぐる問題だけではなくて、漁業政策全般についてこの際根本的な検討をし、必要な支援措置を講ずるということを考えていかなければならないのではないかということが当然のように議論の対象になってまいります。海洋法制度研究会の中間取りまとめの「あとがき」の中にもその点がちゃんと書いてございます。  政府御当局におかれましてもこの点は十分お心にとめていただいておりまして、今この席に参考人としておられます小野先生を座長にした水産政策検討会というのがつい最近発足したばかりでございます。この水産政策検討会は、政府御当局のお心づもりでは、今私が申し上げているような問題に対応する検討を進めていただく、そういうことになっておるように了解をいたしておりまして、この検討作業が円滑に進めていただけて、その結果、実りあるものが出てくるということがこのTAC制度への移行を安心してやれるというためにぜひ必要なことであろうというふうに思っております。  最後に、この問題と密接な関係がございます日韓、日中の問題について一言申し上げておきたいと存じます。  日韓、日中の関係の問題として一番広く知れ渡っておりますのは、韓国漁船あるいは中国漁船が我が国国内規制措置を無視していろいろ乱暴な操業をする、あるいは漁具被害がある、そういう問題についてはいろんな形で世間に広く伝わっておりまして、先生方にも十分御理解をいただいておると思うのでこれ以上申し上げませんが、一つ申し上げておきたいと思いますのは、実は韓国、中国、この水域にお互いが線引きした場合に、韓国、中国の水域に依存することになるであろうと思われる漁業種類が存在するということでございます。  例えば以西底びき業界の場合ですと、平成五年の数字でございますが、漁獲量の一二%が韓国水域、二〇%が中国水域でございます。我が国水域の中での漁獲量でも、中国との間で争点がございます尖閣列島周辺水域が一二%あるというような事情でございます。あるいは遠洋まき網業界、これがやはり韓国水域に一五%依存しておりまして、それから台湾を含む中国の水域に八%程度依存しておる。もちろん、今申し上げましたが、尖閣列島周辺水域にもかなりの程度依存をしております。  したがいまして、日韓、日中の問題は、日本水域における韓国、中国漁船の操業をどうやって規制するか、どの程度韓国や中国の漁獲圧力を減らしていくか、そういう問題の方がとかく脚光を浴びがちでございますが、同時に韓国、中国水域における底びき漁業なり、まき網漁業なりの操業の可能性をいかに確保するかということも、日韓、日中の漁業問題としては逸すべからざる重要な問題点であることをぜひお心にとめておいていただきたいということを最後に申し上げまして、私の発言を終わらせていただきます。  御清聴ありがとうございました。
  7. 寺澤芳男

    委員長寺澤芳男君) ありがとうございました。  次に、小野参考人にお願いいたします。小野参考人
  8. 小野征一郎

    参考人小野征一郎君) 御紹介いただきました東京水産大学の小野でございます。私は漁業経済学を専攻しておりますが、海洋法条約等に関する特別委員会において参考人として意見を申し述べる機会を与えられたことに感謝いたします。  これから、この委員会で審議される一連の法案の背景もしくはベースとなる日本漁業管理について意見を申し上げます。  日本漁業制度が遠洋漁業、沖合漁業沿岸漁業に区分されていることはよく御存じだと思います。このうち遠洋漁業は、公海または沿岸国排他的経済水域、略してEEZ内で操業しています。遠洋漁業は、沿岸国のEEZ内に対する入漁を除けば、公海漁場の管理の問題です。御承知の方も多いかと思いますが、昨年の八月、国連公海漁業会議日本を含め約百カ国が参加し、協定案がまとまりました。三十カ国の批准により発効しますが、一年以上かかると見込まれています。  沿岸漁業は、事実上漁船漁業に限られていますが、資源管理漁業が政策的に推進されています。海洋法条約の発効、批准に応じて、残された沖合漁業に対して、沿岸漁業も視野におさめて漁獲可能量、TAC制度の導入が予定されています。  本日の中心テーマであるTAC制度に進む前に、遠洋漁業沿岸漁業漁業管理から説明します。  日本の遠洋漁業漁獲量は、九四年で百六万トン、このうち公海漁業が約四割、カツオ、マグロを中心にイカ、ナンキョクオキアミ等が残されています。海洋法条約は、六十三条においてストラドリングストック、六十四条において高度回遊性魚種について定め、六十三条、六十四条が国連公海漁業会議の争点でした。  六十三条のストラドリングストックとは、第一項が沿岸国相互のEEZ内にまたがる魚種、例えば日本、韓国、中国が関係する東海、黄海海域に分布する多くの魚種が該当します。これは後で述べますが、六十三条第二項がEEZとその外側に隣接する公海海域にまたがる魚種、事例としては日本、韓国双方が出漁していたべーリング公海のスケトウダラ、カナダ東岸のマダラ資源等が該当します。  六十四条の高度回遊性魚種には海洋法条約の附属書に十七魚種が掲げられていますが、クジラを除けば事実上対象となっているのはカツオ、マグロ類のみです。  六十三条二項のストラドリングストックとカツオ、マグロを念頭に置いて、カナダが一九九二年に国連環境開発会議、UNCEDに問題を提起し、九三年四月から六回にわたり国連公海漁業会議が開かれました。九五年八月に合意しましたが、公海漁業管理については、カナダ、ラテンアメリカ、南太平洋諸国等の沿岸国日本、韓国、EC等の漁業国との間で国連海洋法会議のときから原則対立がありました。  すなわち、沿岸国は、公海資源に対して特別の利害関係、スペシャルインタレストがあり、EEZ内の管轄権を公海上にも延長し、適用すべきであると主張してきました。他方漁業国は、公海資源に対して沿岸国漁業国が対等の立場にあり、双方の関係国によって国際機関においてEEZ内外を一体とした総合的管理実施すべきであると主張してきました。要するに、公海資源に対しても主導権を握りたい沿岸国とそれを拒否する漁業国との対立です。  公海資源漁獲量は、世界総漁獲量のわずか五%程度と言われます。それがなぜこれほどの国際的関心、対立を呼ぶのでしょうか。  それは、旧来の遠洋漁業国からすれば、沿岸国のEEZ内から締め出され、公海つまりEEZ外の隣接海域に移動し、ストラドリングストックに依拠して新規漁場を開発したいからです。九三年から禁漁になっているべーリング公海がいい例です。他方沿岸国からすれば、自国のEEZ内で過剰な漁業投資により資源を枯渇させ、公海つまりEEZ外をも支配下におさめようと考えるからです。カナダ沖の北大西洋水域がいい例です。  さて、国連公海漁業会議合意した主要内容は以下のとおりです。  第一に、EEZ内の沿岸国管理と公海の地域漁業管理機関の管理が一貫性を確保すべきであり、その基準が明記されました。第二に、ストラドリングストック及び高度回遊性魚種の公海における管理主体は地域漁業機関であり、地域漁業機関へは基本的にどの国でもアクセスできます。第一、第二の原則論は、漁業国サイドの主張が認められたと言えましょう。第三の公海上の取り締まり規定は、最も意見対立していましたが、沿岸国寄りの結論となりました。すなわち、漁船の取り締まりはその所属国が行う旗国主義を基本とするが、違反操業に対しては旗国以外の地域漁業機関の加盟国が国連公海漁業条約の加盟国の漁船に乗船し検査できると定められました。  少しわかりにくいんですが、例えば北大西洋の地域漁業機関であるNAFOの沿岸国であるカナダは、国連公海条約の加盟国であれば、アメリカであれECであれ、他国の漁船を臨検できることになりました。もっとも、地域漁業機関はすべての海域に成立しているわけではありません。例えば、マグロについては北太平洋海域には存在しません。このような場合もありますが、合意内容協定としてまとめられ、公海漁場を管理する国際的枠組みとなりましょう。  次に沿岸漁業ですが、資源管理漁業という表現が日本で使われ始めたのは、二百海里体制へ移行した一九七七年ごろからです。これまでの資源管理漁業は、漁場利用の合理化を通じて過当競争を排除し経費の削減を図る、さらに魚価を維持して経営の安定を目指すという事例が多かったように思われます。そこでは、漁業資源の維持または再生産の確保が必ずしも中心ではなく、漁業経営の安定化、向上に主眼が置かれていました。現在ではこれから一歩進み、漁業資源の維持、再生産の確保の考え方が重視されるようになったと思われます。  漁業センサスが五年ごとに取りまとめられていますが、ごく最近、一九九三年十一月一日現在の調査に基づき第九次センサスが編集されました。この第九次センサスと、五年前すなわち八八年の八次センサスに漁業管理組織の統計が整理されています。  それによりますと、資源管理漁業を推進する中核である漁業管理組織は、八八年の千三百三十九から九三年の千五百二十四へ、百八十五組織、一四%増加しました。漁業地区で見ますと、全国二千二百六十二地区のうち九百五十二地区、すなわち四二・一%に管理組織が普及していることになります。また、漁業経営体で見ますと、六万九千九百八十五経営体が漁業管理組織に参加し、全経営体数十七万一千五百二十四の四〇・八%に当たります。組織の運営主体としては沿海地区漁協が管理組織の九割以上に関与しています。  資源管理漁業が同一地区、単一業種、地先資源を越えてある程度の広がりを持つようになったのは事実です。しかしながら、資源管理漁業を実現しようとすれば、通常、それまでの自由競争下の漁業者間の配分関係に何らかの変更を加えなければなりません。そうしますと、漁業管理により配分関係が変わっても、個別漁家の経営に余り影響を及ぼさない高豊度漁場、豊度の高い漁場に恵まれることが必要になります。現存する漁業管理組織を見ますと、総じて漁獲金額が多くなるほど管理組織への参加率が高くなっています。豊度の高い漁場に偏る傾向のある資源管理漁業一般化していくことが今後に残された課題です。  海洋法条約は、第六十一条「生物資源保存」において、沿岸国が自国のEEZ内でTACを設定すること、またEEZ内の生物資源が過度の漁獲により危険にさらされないことを適当な保存措置及び管理措置を通じて確保することを定めています。また、六十二条「生物資源の利用」において、沿岸国はEEZ内の生物資源に対する自国の漁獲能力を決定し、自国が漁獲可能量、つまりTACのすべてを漁獲する能力を持たない場合はTACの余剰分の漁獲を他国に認めることを規定しています。  要するに、六十一条においてTACを決定し、保存管理措置を行う。また、六十二条において自国の漁獲能力を決定し、それがTACより小さければ余剰分の漁獲を他国に認めると規定しています。後者は余剰原則と言われます。  さて、TACを設定するには、その前提としてEEZをしかなければなりません。ここに多くの難題があることは皆様よく御承知のとおりです。日本国内においても、日本周辺水域資源状況が悪化している反面、漁業技術の進歩により漁獲強度が高まり、客観的な指標による漁業管理を必要としています。漁業者の意識改革を進め、資源管理漁業を一層拡大、定着することが求められています。TACの設定は、国際的のみならず国内的にも、漁業管理を推進し、漁業の計画化、経営の安定化を促進する重要な役割を担うに違いありません。  TACの対象水域領海とEEZを含みますが、沖合漁業が中心になり、魚種は三つの観点から考えられます。第一は、イワシ、サバ、アジ、サンマなどの漁獲量が多く経済的価値の高い魚種。第二は、外国船が日本周辺水域で漁獲する魚種。余剰があれば外国に対する割り当てを検討する必要があります。第三は、日本海のズワイガニのように資源が低水準にあり、緊急に資源保存管理が必要な魚種。以上の三タイプが指摘できますが、ここで第二について検討すべき論点があります。  第二には、スルメイカ、イワシ、スケトウダラ等が該当し、第一と重なる魚種が少なくありません。さらに、日本海域では、太平洋側でもそうですが、多くはストラドリングストックです。原則的には東海、黄海の関係国と、韓国、中国、ロシア、北朝鮮、台湾ですが、地域漁業機関を設立し、EEZ内外を一体とした総合的管理を行わなければなりません。これは、日本がこれまで常に、特に漁業国のスタンスにおいて主張してきたことです。それをTACの設定に伴い、沿岸国として実践する必要があります。とりわけ、この海域の主要漁業国である韓国、中国との協議が不可欠です。  韓国、中国とは今までも漁業協定をベースにして話し合いが行われてきましたが、漁業管理をめぐり漁業機関の設立を展望した協議を重ねる必要がありましょう。EEZの設定自体を含め、多くの課題が控えていると思われます。太平洋側でも事態はほぼ同様です。制度的には、指定漁業、大臣承認漁業、知事許可漁業が主として想定されます。沿岸漁業漁業はTACの内訳には含まれますが、漁獲量が少ないこと、また資源管理漁業のように漁協による自主的な漁業管理実施されていることから、TACに基づく規制の対象にすることは難しいと思われます。  ここで例を挙げて説明しますと、サンマは単一魚種を単一漁業種類が漁獲し、混獲も少なく、話が簡単です。九三年のサンマ漁獲量二十七・七万トンのうちサンマ棒受け網が二十七・四万トン、九九%を漁獲しています。ところが、もしイカをTACの対象に選びますと、イカは沖合、遠洋、沿岸のあらゆる海域で漁獲されています。EEZ内のみでもイカ釣り漁業に近海イカ釣りと沿岸イカ釣りがあり、そのほか沿岸では小型底びき、定置が、沖合では沖合底びき、あぐり網が混獲しています。さらに、それ以外の多くの漁業種類でイカが混獲されています。言うまでもなく、イカは漁獲量が多く、経済的価値の高い主要魚種に入ります。また、日本周辺水域外国船により漁獲されている魚種でもあります。  これまでの日本漁業規制は、漁獲努力量を中心に実施されてきました。漁船のトン数制限、隻数制限、馬力制限がそのいい例です。漁業管理資源管理というよりも、むしろ漁業調整に主眼がありました。漁獲量、つまり生物資源管理目的とする総量規制は初めての経験です。TACといっても、自由競争を国是とするアメリカはオリンピック方式を採用し、ノルウェーはまずグループに割り当て、さらにそれを個別の漁船別に配分しています。個別船別割り当てあるいは漁業団体別割り当てが日本の最終目標のようですが、差し当たりはTAC、つまり漁獲可能量の上限を決め、その上で漁業種類、地域ごとに操業隻数や網目など漁獲努力量で規制する方式でスタートすることになるようです。  もちろん、TAC制度は万能ではありません。諸外国の経験から見ても、小型魚の投棄、ハイグレーディングを初めとして多くの問題が登場しています。TACの遵守には、指導、助言、勧告といった行政措置が必要となるでしょうし、正確な漁獲実績の把握が欠かせません。漁民の自主的な漁業管理により、関係漁業者の合意を得て、新しい生産体制をつくり上げるというのが資源管理漁業趣旨ですが、TAC制度にも漁業者の自主規制、主体的な管理が期待されています。公的管理措置であるTACに漁業者の積極的な協力がどれだけ呼び込めるかにその成否がかかっています。  日本は、これまで漁業国の立場に立って行動することが多かったように思われます。しかし、日本沿岸魚種の多くはストラドリングストック高度回遊性魚種に該当し、有力な沿岸国でもあります。総じてEEZ内外を通じる一元的漁業管理が、国際的に、つまり漁業国としてのみならず、国内的に、すなわち沿岸国としても問われることになります。九五年秋、食料安全保障のための漁業の持続的貢献に関する国際会議が京都で開催されましたが、今後ますます漁業大国日本が世界の漁業リーダーとして活躍していくことが期待されましょう。  もう一点。総量規制であるTAC制度の導入は、漁業者にとり痛みを伴う可能性があります。しかし、日本のEEZ内資源の多くは黄信号または赤信号の状態にあります。資源量に見合った漁獲努力量に引き下げることが必要です。漁業経営の赤字要因として、固定設備の過重、減価償却費の過大負担が指摘されています。世界でも有数の漁場である日本周辺漁業生産力を生かすために、TAC制度の導入が漁業経営の立て直しと結びつくことを期待したいと思います。  以上をもって私の話を終わります。どうもありがとうございました。
  9. 寺澤芳男

    委員長寺澤芳男君) ありがとうございました。  以上で参考人方々からの御意見の聴取は終わりました。  これより参考人方々に対する質疑を行います。  質疑のある方は順次御発言願います。
  10. 林芳正

    ○林芳正君 自由民主党の林でございます。  本日はお忙しいところ、三人の参考人先生方には貴重な御意見をお聞かせ願いまして本当にありがとうございました。  まず、佐野会長にお聞きしたいところがあるんですが、私は山口県の選出でございまして、三万を海に囲まれた漁業で立県をしておる県でございまして、大変に皆さん関心が高いわけでございます。それで、先ほど日中、日韓のお話に触れられまして、こちらが受けている被害についてはもう皆さんよく御承知だということで会長の方から余りお触れにならなかったんですが、私の地元では大変に困っておりまして、ちょっとその辺を述べさせていただいてから御質問したいと思うんです。  実は、萩市に見島という漁港がございまして、ここによく韓国からやってくる。一応しけで避難をするという名目でやってくるわけですけれども、たびたび二十から三十隻の漁船が入港して、不法に網の修理をしたり、食料や資材を移しかえたりする基地操業的な行為もするわけでございます。さらに、ひどい場合には、夜上陸してきて酒を飲んで騒いでおるというようなことも実際に行われておりまして、島民を非常に不安に陥れておる実態があるということで、もう一日も早くこれを適用して解決の方向に持っていっていただきたいということでございます。それから、中国も非常に最近はこういうような傾向が出てきておるということで、これについてもまたいろいろな事例があるわけでございます。  そういった状況の中で、根本的に中国、韓国もそうですけれども、どんどんと国として経済が発展してまいりまして生活水準が豊かになってまいりますと、水産物に対する需要というものがどんどんふえてくるのではないかと思うわけでございます。今でも大中小の底びき漁船等が中国の漁港へ行きますと並んでいる。あれが全部入ってきてもらうと本当に大変なことになるなと、こう思うわけでございますが、中国の水産物の今後の需要とそれに対応しての中国の水産業の将来的な見通しと申しますか、その辺に関しまして会長の御見解をお尋ねしたいと思います。
  11. 佐野宏哉

    参考人佐野宏哉君) お答えいたします。  現に中国は世界トップの大水産国でございまして、ここのところ急激にふやしてきたのは内水面漁業が多いんだというふうに申しますけれども、海の漁業でも大変な勢いで伸びてまいりました。しかも、最近は東シナ海、黄海というだけではなくて、マグロ漁業なんかにも進出いたしまして、長駆、太平洋のとんでもないところまで出かけるようになってまいっております。  これはある意味では当然のことでございまして、中国は改革・開放政策の結果、私どもがかつて経験したのと同じようなある意味では高度成長期にあるわけでありますから、そういう時期に動物性たんぱく質の需要が爆発的にふえるというのは、国の違いはあってもどこでも同じようなことが今中国で起こっているのであろうというふうに思います。  でありますから、まず、大変な成長余力を持っていて、何とか歯どめをかけなければいけないという問題があるということが第一点。  それから第二点は、やはり農業面でかなり困難な事情を抱えておられるようでありますから、これまたがってソ連で見られたことでございますが、畜産物の供給で窮屈な場合に、どうしても漁業に特にアクセルがかかるという事情がソ連にも見られましたが、同じようなことが中国にも十分考えられるのではないかというふうに思っております。  でありますから、そういう事態に対しては、先ほど来申し上げておることでございますが、可及的速やかに排他的経済水域を設定して我が国周辺水域漁業資源を防衛するということがまず第一でございます。同時に、先ほど小野先生からも御指摘がございましたような多数国間の漁業管理機構をつくって、日韓中三国が関心を持つような水域漁業資源管理について多数国の目がウォッチしていると、そういう情勢をつくっていくということがもう一つ非常に大事なことであろうというふうに思います。  それから第三の点は、先ほど申し上げましたストラドリングストック高度回遊性魚種の問題と関連することでございますが、中国のマグロ漁業への進出というようなことを眺めてみますと、太平洋の水域では高度回遊性魚種に対するしっかりした管理機構は確立しておりません。これは何も中国の問題に限らず、急いでやらなければいけない問題だというふうに思っておりますけれども、中国のことを念頭に置けば、それももう一つ高度回遊性魚種の太平洋における国際的な地域管理機構を早く設立しなければいけない要因としてカウントされてしかるべきではないかというふうに思っております。  とりあえずそういうことでございます。
  12. 林芳正

    ○林芳正君 どうもありがとうございました。  まさに会長おっしゃるとおりで、一周おくれでも早くゴールに駆け込まなければならないと私も思っております。  まだまだお聞きしたいこともあるんですが、ちょっと時間が限られておりまして、山本先生に次にお伺いしたいと思うわけでございます。  この海洋法条約は九四年の十一月に発効ということでございまして、韓国は昨年末批准、それから中国でも、五月だったと思いますが、全人代の承認を得ておるわけでございます。日本海洋国家と言われておりますけれども、この見通しが余りよくなかったのか、近隣諸国に比べておくれがちであるという御指摘が先ほど皆さんからございましたけれども、これが漁業協定の改定交渉に影響を及ぼしているのではないか。外務省にお聞きしますと速やかに対応しておるということでございますが、学界からごらんになった場合に、九四年末に発効するということとか、それからいわゆる十一部でかなり手間取っておられました西側諸国の加盟手続がここまで進捗するという事態が予想され得る事態であったのかということについて、まずお聞きしたいと思います。
  13. 山本草二

    参考人山本草二君) お答え申し上げます。  御承知のとおり、海洋法条約ができまして、それ以来、アメリカ等を初め署名あるいは批准の手続を全然とっていないという国がございますが、そういう国でも御高承のとおり海洋法条約のつまみ食いはやったわけでございます。ある規定について、これは既に国際慣習法になっているからというようなことで、必要に迫られて先取りしてそれを国内法で受けとめるというようなことをやったわけでございます。  他方我が国はそういう措置もとらないできたと。いろんな評価があろうかと思うんでございますけれども、やはり条約全体を一まとめにして、つまみ食いをしないで正式に受諾するかどうかという措置を選択されたんだと思う。そのこと自体は、海洋法条約の全体としての一体性というものを尊重するという点では、少し時間がかかりましたけれども、貴重なアプローチであったというふうに考えております。  今御指摘の例えば周辺の日韓、日中等につきましても、漁業協定に限定してお答え申し上げますれば、御高承のとおり、昭和五十二年に領海法の制定と一緒に漁業水域暫定措置法をつくったわけでございますが、そこで中国と韓国の漁民に対しては適用除外ということで外したわけでございますから、彼らは言ってみれば古典的な公海自由という枠組みの中で、しかもそれを乱用して委員御指摘のような弊害を生ずるようなことをやったわけでございます。したがいまして、これをやはり新しい条約枠組みあるいは国内法適用でかぶせていく、そしてその法的な規律を及ぼすということはぜひぜひ必要なことでございます。その際、先ほどもちょっと申し上げましたけれども、適用除外されてきましたために彼らが持っていた実績というものがあるわけでございますから、それをどういうふうに繰り込んでいくか。  多少余談になりますが、従来のその種の漁業協定の処理を見てみますと、一つは、フェーズアウトと申しまして五年とか十年間だけ従来どおりの操業を認めると、終わったら出ていきなさいというやり方、それから二番目は、先ほどの佐野参考人の御指摘等も絡むかと思いますが、両国の設定した二百海里の中でそれぞれ相手国国民を相互主義で入れて魚をとらせていくというやり方もあろうかと思います。あるいは、かつての共同漁業管轄水域のような形で条約をつくって、相手国国民が長きにわたって操業できるというような方式を考えていくこともできるし、あるいは地域によりますと漁民同士がつくっている一つの地域共同体があるようでございますから、その共同体としての協力というものを生かしながら、お互いに魚をとり合ったり技術協力をやっていくというような方式もあるようでございます。  いろんな方式が四つ五つございますけれども、そういう中から御専門の方々のお知恵一つどれかを選んでいただきまして、いずれにしましても、条約の批准とそれに伴う関係国内法をかぶせることによって今御懸念のような問題というのはかなり法律レベルの問題に上がってくるのではないか。その意味では、いい方向で将来解決できるんじゃないかというふうに私は考えております。
  14. 林芳正

    ○林芳正君 これは批准された後の話になるんですが、海洋法裁判所というものができるということでございまして、仮定の話でございますが、我が国立場からこの海洋法裁判所に持っていくという中には、竹島の領有問題というのはもちろんあるんですが、東海のアジやサバのTAC設定、全体で三百万トンと言われておりますが、共有ですからこの中では例えば日本が百、韓国が二百、中国は三百と、足すと六百になってしまう、こういうようなこともあるわけでございます。  WTOというのができまして、ここでパネルということで、いろいろ多国間の紛争処理機構ということでやっております。日本もハイよりもマルチだということで通商交渉の方もそちらの方向へ持っていこうという全体的な傾向があるわけでございますけれども、このWTOのパネルと同様の、また裁判所という名前がついておりますから、それ以上にこの海洋法裁判所というのは有効に紛争処理の機関として働くのか、どの程度海をめぐる争いの解決に役立つことになるのか、その辺についての山本先生のお見通しをいただければと思います。
  15. 山本草二

    参考人山本草二君) 御指摘の問題は大変難しい問題でございまして、一般にも既に国際司法裁判所があるではないか、それと仕事が重なるんじゃないかというような消極的な御意見も確かにあるわけでございます。  ただ、この海洋法裁判所は、御承知のとおり、紛争解決手続が交渉、調停、それから仲裁というふうに段階を踏んでまいりまして裁判所に行くわけでございます。しかも、この海洋法裁判所が扱うのは、この海洋法条約、それからそれにつながっている国際慣習法、あるいは各国関係国内法令ということで扱う対象が限定されているわけでございます。そうなると、先ほどもちょっと申し上げましたが、同じ海の線引きにいたしましても海の実情に合った形で司法的な判断をやっていくべきだろう、そして裁判所としての先例を積み重ねていくべきだろう、そこに外側から正義、衡平とか政治的な要素というふうなものを自由に入れ込んでくるというようなことを避けようというのが今度の裁判所の一つの特徴のようでございます。  そういう意味では、同じ問題を扱うにいたしましても、例えば国際司法裁判所のようなアプローチとはかなり違って、海洋法条約を生かすために各国が具体的に交渉とか紛争解決でどんな苦労をしてきているか、どんな実績を積み重ねてきているか、その国家実行の法的な意味というものを整理していこうというところに多分裁判所の判断の第一のポイントがあろうかと思うのでございます。  そういうふうにしてまいりますと、同じ問題を扱っても一般国際法に基づいて判断をする国際司法裁判所とはかなり違った実績を出してくるだろうと。問題は、幾つかある紛争解決の中で紛争当事国がどれが一番いいというふうに選ばれるかということでございまして、各国から積極的に選んでもらえるような信頼性というものを高めるのが多分この裁判所の最初の役割ではないかというふうに考えているわけでございます。
  16. 林芳正

    ○林芳正君 管轄権の問題というのがいずれの場合にしても出てくるんだと思います。  もう一つお聞かせ願いたいのでございますが、先生の書かれた御本を一夜漬けでちょっと読ませていただいたんですが、この海洋法会議の中で、当時の国連の事務総長のワルトハイムが、この海洋法は建設的な防止外交であるというふうに意義づけておられます。  最近、安全保障の分野で予防外交、プリベンティブディプロマシーということがありますが、この海洋法はあらかじめルールをつくっておくという意味で今言われている予防的外交というのとは少し意味が違うんではないかなと、こう私は思っております。実際にその後、会議がずっと続いて、こうして形になってできて、今多くの国が批准の手続をやっておられる現状をごらんになって、最初の精神であった建設的な防止外交という趣旨がどの程度これによって生かされるようになるとお考えなのか、その点をお聞かせ願いたいと思います。
  17. 山本草二

    参考人山本草二君) これも大変難しい御質問でございますが、確かに最初ワルトハイムが言いましたのは、海洋法の中にいろんな将来の紛争の火種を抱えているからそれを早目早目に刈り取って条約にしていこうという意気込みだったと思うのでございますが、そういう趣旨は、その後の国際環境法の問題なんかにも大きな影響を与えたかというふうに考えるわけでございます。  ただ、委員承知のとおり、長い交渉をやっておりますうちに、そういう本旨が少しずれまして、国家グループの間の対立というような面が出てきて多少心配したのでございますが、それも御高承のとおり、条約が採択され、さらには実施協定等でたくさんの先進海洋国も参加するというような普遍性が持てるようになりました。  そうなりますと、海洋法条約というのは決してゴールではないと思うのでございまして、その中にやはり、先ほども申し上げましたが、将来の紛争の火種となるようなものの手がかりをいりぱい用意しているだろうと思うのでございます。先ほど各参考人から出されましたストラドリングスピーシーズの問題なんかもその一つだと思うのでございますが、そういう意味で、海洋法条約の中で生み出されてきている将来の紛争の火種というものを交渉とか裁判とかを通じて早目早目に刈り取っていく。それが多分最初に言われた防止外交ということの本旨を生かすためかと思うのでございます。  私は、条約がこういうことで批准して歩み始めましたので、そういう希望が大変明るく期待できるようになってきたというふうに考えております。また、そのために私どももそれぞれの分野でそういう方向で努力したいというふうに考えているわけでございます。
  18. 林芳正

    ○林芳正君 大変明るい展望ということで、我々も本当に明るい展望を持ちたいと、こういうふうに改めて思うわけでございます。  ちょっと細かい話になるんですが、今ちょうど先生がおっしゃいましたとおり、交渉の過程で当初の精神からいろいろずれてきたというお話がございましたけれども、条約の三百九条で留保を禁止しておるわけでございまして、一体として、よくアメリカではライ・アイテム・ビートーと言っておりますが、そういうのはだめですよと、こういうことが入っております。そのかわりといいますか、三百十条で解釈宣言をしてもよろしいですよ、こういうことになっておるわけでございます。  この二つの間でいろいろと綱引きがあったのではないかなと思うわけでございますが、具体的に大変象徴的なことを一つぐらいで結構なんですが、どういうところで一番この解釈宣言というのが出ておって、我が国としてこれから外交上のオプションとしてこれは使えるのか、また使うべきなのかというところをちょっと先生の御意見があればお伺いしたいんですが。
  19. 山本草二

    参考人山本草二君) 御指摘のとおり、解釈宣言と申しますもので実質的には限りなく留保に近いようなことをやった国もございます。問題は、やはり解釈宣言というためには、条約の条文作成の交渉過程で複数の解釈が可能だということで残されたと、その中の一つを選んで、我が国はこういうふうに解釈をするというのが本来の姿だと思うのでございます。したがって、条約が成立する過程でいろいろやりとりしているうちに、そういう解釈は到底認められないということで否定されたようなものについてやるとすれば、それはもう限りなく留保に近づいていくんだろうというふうに考えております。  例えば、条約の最終段階で、これは当時のコー総会議長の手でようやくまとめたのでございますが、要するに軍艦が沿岸国に入ってくるときに事前許可制をしけという主張が一部の国に従来からあったわけでございますが、御高承のとおり、今回の海洋法条約ではそういう事前許可制というものを否定したわけでございます。ところが、やはり外国軍艦が入ってくることについて国内法規制をかぶせていきたいという国がございまして、これは条約国内法令適用、執行という中に、そういう軍艦に対する国内法をかぶせていくことも解釈宣言として認められているんだという趣旨のことを行った国が幾つかございます。しかし、これはどうも私の検討するところでは限りなく留保に近いものであって、恐らく国際紛争裁判になれば否定されるような宣言ではないかなと思っております。  我が国についてという御質問でございますが、これも冒頭申し上げましたとおり、海洋法条約の各規定が相当幅の広い解釈を許しているわけでございまして、その中のどれかを選ぶという選択肢各国に任せているわけでございます。それで、我が国としてどうしてもこの点についてはこういう解釈を国際的に示しておきたいというようなものがあれば、それを宣言しておく必要があろうかと思うのでございますが、私は特段、今国際的に我が国解釈宣言を利用して我が国立場を鮮明にしておくべき項目は差し当たりはないんじゃないかというふうに考えております。という意味は、条約の可能な解釈規定の中に入っていることであれば、殊さらその中の一つを選び出してこの解釈をとるということを専ら国際的に宣言する必要はないんではないかという趣旨でございます。
  20. 林芳正

    ○林芳正君 それから、もう一つあるのでございますが、排他的経済水域ということについて規定がございまして、これは漁業の面でいろいろとあるわけでございますけれども、これはちょっととっぴな質問になるかもしれないんですが、条約の五十八条で機能的な主権管轄権、ファンクショナル・ソブレンティー・オア・ジュリスディクション、この概念に関することが書いてございます。それから、五十五条と八十六条だったと思うんですが、経済水域条約上、領海とも公海とも異なる特別の地位を持つ海域と、こういうようなことが書いてございます。  これは日本国有の事情になるかとも思うんですが、今安全保障の分野で集団的自衛権、こういうことを議論しておりまして、個別的自衛権と集団的自衛権の線をどこで引くかという議論をいろんなところでやっておるわけでございます。領海内というのはまさに領土でございますから、もしこの中を攻撃されたら、これに対して反撃することは個別的自衛権である、公海に出ていって何かやるということは、これは基本的には集団的自衛権に当たる、こんなようなことでございます。  その中間である排他的経済水域、例えば我が国の漁船がそこに出ていって、その漁船が拿捕されたり攻撃されたりした場合に、それをディフェンスするのはどういうことになるかと、こういうふうな問題が出てくるような気が私はいたすわけでございます。それについて海洋法条約そのものでは多分触れていないと思うんですが、海洋法会議の中でそういうようなことがあったのか。これは日本国有の概念的なところがあるものですから、ないとすれば、そういうことについて先生はどういうふうにお考えになるのかお聞かせ願えればと思います。
  21. 山本草二

    参考人山本草二君) お答え申し上げます。  今、委員が御指摘の問題は、少なくとも排他的経済水域という制度の中で説明することは困難だと思うのでございます。それは、御承知のとおり、排他的経済水域での主権的権利とか管轄権というものが及ぶ事項、対象はごらんのとおりで、特定されているわけでございますから、そうすると資源開発等々に直接関係のあるものではございません。他方排他的経済水域においても、その他の問題については公海自由の原則がかぶってきた、例えば航行等について。これはごらんのとおり五十八条等がそうでございます。  とすれば、今御指摘の問題というのは、まさにこの海洋法条約では五十八条に平和目的のための海洋利用というのが書いてございまして、それの伏線は国連憲章で認められているような各国権利というものはもちろん尊重するということでございます。そうしますと、国際法解釈から見ていけば、国連憲章の枠組みの中で、憲章第七章の中の一つの特別の事態という自衛権、その中に個別的と集団的というものを入れているわけでございますから、条約解釈として見ていけば、公海でその種の国連憲章を実施するための活動というものは各国権利として認められているわけでございます。  それは、仮に排他的経済水域の中でも五十八条によって公海に関する平和目的規定というものが適用されてくると、条約解釈としてはそれでいけると思いますが、問題は、あとそれをどういうふうに政策的に判断し説明するか、あるいは国内法とのつながりをどうするか、これは国内プロパーの問題かと思うわけでございます。
  22. 林芳正

    ○林芳正君 ありがとうございました。  それでは小野先生にお伺いをしたいと思うんです。先生は水産大学の先生でありまして、実は我が地元にも水産大学が下関にございまして、ぜひ御指導いただきたいというふうに思うわけでございますが、そのお立場から見てTAC制度の我が国における有用性というのをどのようにお考えになっているか。つまり、先ほどもちょっとお触れになったようでございますが、我が国漁業の実態から見て、この制度導入に当たって困難が予想されると思われる点がもしあれば、それもあわせてお伺いしたいと思うんです。
  23. 小野征一郎

    参考人小野征一郎君) いろいろ困難な点というのは、特に漁業資源量とそれから漁獲努力量といいますか、佐野会長も言われましたけれども、それをいかにソフトランディングさせていくかということが一番難しい問題だろうと思います。法案とか法案の成立過程を見ておりますと、非常に日本的といいますか、コンセンサスを重要視して種々の細かいプロセスというのを考えてありますので、いろいろな問題も、かなり時間はかけるんでしょうが、それから会議の数が多くなるんでしょうが、少しずつクリアしていくんじゃないかというふうに私は期待も含めまして考えております。
  24. 林芳正

    ○林芳正君 もう時間がございませんので最後に一つだけお伺いしたいんですが、いわゆる東海、東シナ海の共有資源でございます。これは不自然な各国線引きやそれをもとにした各国資源管理でなくて、先ほど来お話があるように、共同で資源管理を行うことが非常に望まれるということでございますが、そのためには、まずそのベースとして日本、韓国、中国等で資源の評価を適切に行うということが非常に大事になってくるんではないかと、こう思われるわけでございます。その点については、たしか三カ国で資源学者の皆さんの間でまず魚の呼称を統一するところから協力体制をつくりつつあると、こういうふうに伺っておるわけでございますが、その辺についての今の進捗状況をお聞かせ願いたいと思います。  そして、東京水産大学というのは、世界に冠たる我が国の水産業の代表として、下関水産大学にも御指導いただきながら、留学生が大変に多いというふうにお伺いしておりまして、韓国や中国の学者の皆さんとの交流拠点になって、これが先ほど申しました国際的資源管理に資すると、こういうふうに思っておるものでございます。そういう観点から、先ほどお伺いしました今の進捗状況をお伺いして私の質問を終わりたいと思います。
  25. 小野征一郎

    参考人小野征一郎君) お答えいたします。韓国、中国とは私のところでも、それから私自身も共同研究を何年かやっております。それから留学生も非常に多くて、そういう意味でお互いに話し合いをしていく基盤というのはっくられつつあると思います。  ただ、漁業に対するスタンスがかなり違いますので、なかなか資源評価も、純粋な意味資源評価というのは必ずしも難しくないかもしれませんが、それに基づいてどういう手段をとるかということについてはそう簡単に一致するのは難しいんじゃないかと思います。  特に中国につきましては、沿海地区に漁業を求めてどんどんいわば内陸から出てくるといいますか、漁業は中国にとりましては非常にもうかる産業であるというイメージが非常に強いように思います。したがって、かなりいわゆる乱獲、あるいは小さな魚もとっておりますが、まだまだ漁業に対する圧力といいますか、それが非常に強いように思います。  そういう意味で、漁獲努力量といいますか、そういうものを今の漁業資源の状態で抑えていくということが必要なわけですが、そういう方向に持っていくにはかなり時間もかかるでしょうし、三国で共同に資源管理をするといいましても、目標としてはいいんですが、それを具体化していくには時間も、それから努力も必要なんじゃないかというふうに考えております。
  26. 林芳正

    ○林芳正君 ぜひ頑張っていただきたい、こういうふうに思います。  以上で質問を終わらせていただきます。ありがとうございました。
  27. 風間昶

    ○風間昶君 平成会の風間でございます。  きょうはお忙しいところ、三参考人先生方には貴重な時間をとってくださいまして大変ありがとうございます。  短い持ち時間でありますけれども質問をさせていただきます。私、専門家じゃないものですから、できるだけわかりやすくお話ししていただければありがたいと思います。  それではまず山本先生に。  先ほどこの海洋法条約での王つの原則をお話ししていただきました。等距離原則中間原則特別事情を許すというこの三原則に基づいて条約は成り立っているというふうにおっしゃいました。御案内のように、現在、排他的経済水域の設定が行われていないところが三つあるというふうに言われております用地中海とぺルシャ湾と東海・黄海・日本海。先生の先ほどの御意見によれば、これら三海域とも等距離中間特別事情という原則に基づいて線引きをすべきであるかどうかということを教えていただきたいと思います。
  28. 山本草二

    参考人山本草二君) お答え申し上げます。  今御指摘の地域は、実はまだ大陸棚法とか二百海里の経済水域法を沿岸国がしいておりませんものですから、オーバーラップするところがないので境界画定の問題が出てきていないわけでございまして、やがて漁業保存あるいは資源開発という点から必要になれば国内立法するでございましょうし、そうすれば海域が重なるわけでございます。その際、条約では衡平な解決を得られるように目指して合意を結べというのが第一原則でございまして、どういう原則を使うかということは指定していないわけでございます。  これから各国紛争解決に当たって具体的にいろんなルールを選び出していくわけで、そのルールとしては、従来からの線に従えば、海岸が相向かい合っている国同士の間では中間線をとって、海岸を接している国同士の間では等距離基準ということで線引きをすると。これが一応の基準でございまして、その上で、島とか海岸線の切り込み方とか長さとかというようなものを基準に入れて適宜軌道修正をしていくということでございまして、そういう基準がやはり国家同士の間のこれまでの実行でほぼ一貫して守られているわけでございますから、これからも条約解釈の仕方としてその基準を使っていくことが妥当だし懸命ではないかなというのが私の趣旨でございます。
  29. 風間昶

    ○風間昶君 引き続き、今の話とちまっと重なる部分があると思いますけれども、東海・黄海・日本海はペルシャ湾あるいは地中海と比べたとき、線引き考える上での要素、どこに線を引くかというのは先生は裁判官の候補ですから大変言いづらい立場ではないかと思いますので、そういう聞き方ではなくて、その線引き考える上での要素で、東海・黄海・日本海とぺルシャ湾あるいは地中海の海域と比べたとき、どんな違いが出てくることが考えられましょうか、教えていただければ。
  30. 山本草二

    参考人山本草二君) 日本海については、やはり素直に中間線線引きをするというのが従来の先例から見ても一番落ちつきがいいんではないかと思います。その場合に、今問題となっている島の存在等がございますが、これは例えば二百海里あるいは大陸棚資源を分け合っていく上で島の存在考えることが必要不可欠なのかどうかということが判断基準になるわけでございまして、それがどうしても必要不可欠だということであれば、別途その島の領有権をめぐる紛争を別の手続で解決してもらった上でなければ線引きはできないということになろうかと思います。  他方、東海、黄海の方でございますと、尖閣につきましては我が国領有権を主張していると。それは国際的にも十分通る主張でございますから、そういう意味からいけば、尖閣を含めた意味で、我が国経済水域について、あるいは大陸棚についてとにかく二百海里まで引く。そして、相手国内法がかぶってくる、オーバーラップしてくる部分のところは中間線で始末をつけるというやり方、これがあの海域全体の具体的な事情考えてみた場合にも、結果的に一番衡平な解決が得られる方式だろうというふうに私は考えております。
  31. 風間昶

    ○風間昶君 先生がきょうお話しいただいた中身の主な部分は、先生が書かれていらっしゃる「新海洋法秩序の形成過程」という論文をちょっと読ませていただいたんですけれども、そこにもあるんですけれども、後半の部分で、「条約全体を調和のとれた形でとらえて、海洋の管轄・利用をめぐる対外関係を安定させることと、その枠組のなかで各規定意味やゆるされる解釈の限界を定めて、この条約国内法制のなかに軟着陸させることが、なによりも重要」というふうにおっしゃって、なおかつ最後に、先に国内法をつくって、そして関係する国々にある意味では協力してやという形で迫っていって認め合うという、いわば何といいましょうか、非常に政治的なスタンスというか、においのするやり方での一方的な国内措置に対して、これが今後海洋法条約が成立した後、展開をしていく上で無視できないと。その標的にされた相手国が、言ってきた国にまさる対案を出せるかどうかがまさに関係国間での価値の選択となるというふうに先生はおっしゃっておられますね。  それで、極めて現実的な話なんですけれども、私は北海道なんですが、北海道沿岸で例の韓国漁船の違法が相次いで、被害が大きいわけであります。この海洋法締結することによって我が国が取り締まり権を強化することになると思うんですが、じゃ今度は、昔日本が韓国領域に行ったのと同じ、立場が逆になった状況の中で、韓国がどういうふうに対応してくることが予測されるのか。これは推測の話ですからあれですけれども、先生のお考えがあれば教えていただければありがたいんですが。
  32. 山本草二

    参考人山本草二君) 今、最後にお出しいただきました例に限りますれば、我が国が韓国漁船等について海洋法条約枠組みの中で国内法をつくって規制をするということであれば、これは条約の執行でございますから、本来の一方的措置とは区別すべきものでございます。それに対して韓国側等で実力で抵抗するというようなことがあれば、これは条約違反の行為に対して我が国としてどういう措置をとるかという問題になろうかと思います。  他方委員御指摘の一般的な一方的措置という点で申し上げますと、海洋法歴史は、海について権益、国益というものを重視する国であればあるほど条約の作成に先立って国内法で一方的措置をかけてくる。そして、外国船にそれを適用してみて相手の反応を見る。黙っていれば、それが両国との間の特別国際法になるんだという実績を積み重ねていくという点では、ある種の日米貿易摩擦に通ずるような問題があるわけでございます。そういうときにはやはり、そういうチャレンジを受けた国としては、その問題を乗り切るためには、もっといい案があるじゃないかという代案を出さない限りは押さえ込まれてしまうというのが一方的措置の特徴であり、恐ろしさであらうかと思います。  私は、海洋法条約で一応の争いの始末はつきまして、土俵は整理されたわけでございますから、その範囲内では条約の執行ということでやればいいことでございますが、条約ではまだ決定していない、権利とも義務とも決めていない新しい問題がこれから続々と海の利用面で出てくるだろうと。そうすると、海に対して重要な権益を持つ国であればあるほど、次々と一方的国内措置をかけてくることがあり得るわけでございまして、我が国もかけるかもしれない。そのレベルにおきましては、委員今御指摘のような対案を出して対抗していく。黙っていれば相手の国の一方的な国内措置に従わされてしまって、二国間会議の特別国際法になったよといって開き直られてしまうと、そういう感じがするわけでございます。  これは御承知のタラ戦争をめぐりましてアイスランドとイギリスがやり合いまして、そしてイギリスはアイスランドの国内法のそういう対抗力を排除するために、漁民保護のために実は海軍まで出動させてアイスランドのそういう一方的な措置を排除したわけでございます。イギリスの場合には、それだけあの地域のタラ漁業というものに対して大きな権益、国益をかけておりましたので、可能な限りの実力を総動員して一方的措置を排除した。そして、国際司法裁判所に持ち込んで判決をもらって、両国で協定を結んで新しい仕切りをしたと、そういう経緯もございます。要は、その問題についてその国がかけている、海の利用に対してかけている関心、権益というものにかかわろうかと思います。  そういうことで、お答え、よろしゅうございましょうか。
  33. 風間昶

    ○風間昶君 次に、山本先生と小野先生にお伺いしたいんですが、TACを定める前提として、海洋生物資源の科学的調査方法が当然確立されていなければならないわけで、特に都道府県計画をつくるときに調査方法の基準がばらばらだと、これは大変支障を来すことになるんじゃないかというふうに私は思うわけです。これは国内の話ですけれども、もっと国際的に一定の科学的調査方法に基づく国際基準みたいなものを設定することも考えていいのではないかというふうに私は思うんですけれども、両先生にその件について示唆をお願いできればありがたいのですが。
  34. 山本草二

    参考人山本草二君) お答え申し上げます。  委員御高承のとおり、かつては漁業保存については、TACを引っ張ってくる前提として、非常に純粋に科学的な最大持続生産量、MSYというものでやっていたのでございますが、現在の海洋法条約では、ごらんのとおり適正持続生産量という言葉に変えまして、そこに沿岸国がいろんな政治的な判断等も含めまして、科学的な基準を前提としながらTACを決める、あるいは配分を決めていくという余地を残しているわけでございます。  その点、アメリカの国内法適用等でも、やはり沿岸漁民の保護とか外国との貿易収支の維持とかといういろんな要素を入れて、政治的な判断を加えてTACの基準を決めるというのが実情でございます。外国船をどうしても追い出そうというような場合には、アメリカではある場合にはTACゼロという形に持っていってもやるというようなこともあるわけで、かなり政治的な裁量の幅を残しているのがこの適正漁獲量ということだろうと思います。  そうなりますと、委員御指摘のように、MSYであれば国際的な科学的な基準をぴちっと決めて各国にやらせるということが妥当かと思うのでございますが、適正ということになってまいりますと、そこに沿岸国の裁量が残される範囲においては、仮に国際的に客観的な科学的な基準を決めてもそれがどこまで効果的に守られるかなという懸念を私は持つわけでございます。
  35. 小野征一郎

    参考人小野征一郎君) 山本先生がもうすべてお答えになったと思いますが、MSYであれば今言ったように国際的な基準というようなことを考えることは可能だと思いますけれども、適正持続生産量、OYとなりますと、これは極端に言いますとどういう要因でも入れることができると言えるぐらいだと思いますので、事実上それは不可能に近いんじゃないかと私は思います。
  36. 風間昶

    ○風間昶君 それでは、大日本水産会の佐野会長に。  今のTACの話につながるんですが、TACを導入することで漁獲努力量が上回るといった場合に、休業とか廃業とかあるいは減船とかという事態に至るリスクが当然考えられるわけでありますけれども、そういうある種の混乱なく軟着陸させていくためには、殊に流通対策の面で大日本水産会としてどのようにお考えになっていらっしゃるのか。千人なら千人首を切られてもしようがないやというふうに、そんな変な意味ではなくて、そういうふうに考えられているのか、そうではないんだというのか、お聞かせ願えればありがたいと思います。
  37. 佐野宏哉

    参考人佐野宏哉君) まず、その資源状態がどの程度クリティカルであるかにもよりますが、本当に絶滅に瀕しているというような状態でなければ、漁獲圧力をある程度下げなければいけないという科学的な判断がありましても、それをどの程度短兵急にやるかということについては資源保存の見地と両立し得る範囲で裁量の幅というのはかなりあるのが通例でございます。  それで、現在私どもが承知しておりますところでは、水産庁御当局もそこら辺のところのさじかげんは決して短兵急なことを考えておられるわけではない。ですから、そう過激な事態が起こるということではないだろうというふうに思っております。  そこで、じゃそういう裁量の余地がない、もう短兵急に漁獲圧力をカットバックしなければいけない、そういう差し迫った事態がある、そういう魚種があるかということになりますと、今のところそれほどひどいものがあるわけではないというふうに思っておりますから、理論的には先生御指摘のようなことがあり得るわけですけれども、実際問題として魚種別に当てはめてみて、それほどひどいことが起こるというふうには思っておりません。  ただ、むしろ私は、お上の制度としてTACを押しつけて漁業者を大勢首にしてしまうということは困るんですが、お役所の判断とは別に、漁業者自体の判断から見て、資源状態に比べていかにも漁船の隻数が多過ぎるなという感じを漁業者自体が持っているものはいろいろあるわけです。ですから、そういうものについてはこの機会にTACをお決めいただいて、TACに比べて船の数が多過ぎるなということであれば、それを減らすための手だてというのを、今までのように放置して脱落する者は自然に脱落するということではなくて、政策的に、漁獲努力量の調整であるのだからある程度政策的に面倒を見てやらなければいけないのだというふうに考えていただいて、過剰な漁獲能力を整理していただくという機会として使っていただければありがたいというふうにむしろ思っております。
  38. 風間昶

    ○風間昶君 もう一方では、もう一方というか、先ほど会長が、ちょっとTACとは関係ないけれども、以西底びきと遠洋まき網、まさにこれは韓国、中国水域でそれぞれ十数%、二〇%漁業をやっていらっしゃるわけですね。海洋法条約締結されますと、どっちみち、何年かの短期ではないにしても、十年、十五年のレベルで考えますと、彼らの生活権あるいは漁業権はなくなっていくことが考えられますね。そこはどうですか。
  39. 佐野宏哉

    参考人佐野宏哉君) これは相互入漁関係がどの程度維持されるかにかかっていると思います。  北洋の方で見ますと、私どもの経験では、相互入漁関係のないアメリカ合衆国との関係では既に日本漁船は追い出されてしまったわけです。ところが、ソ連あるいはその後継のロシア連邦との関係では、相互入漁関係がございますから、細々とではございますがいまだに続いているわけです。  ですから、韓国、中国との間で相互入漁関係が維持し得るか、あるいは、しょせんギブ・アンド・テークの帳じりの合わせようがないということで、そこは吹っ切って処理をするか、どっちへ転がるかによって、韓国、中国水域に依存した操業の命脈がどの程度であるかということはそこで分かれると思います。そこがどっちへ向いて進むかということについては、判断するべき材料を今のところ私は持ち合わせていない、むしろこれからだんだん決まっていくことだというふうに思っております。
  40. 風間昶

    ○風間昶君 佐野会長になおお聞きしたいことで、魚価がどんどん下がってきていると。これは一面的には、北海道も当時、ニシン御殿とか斜里、知床にはサケ御殿だとかいろいろ建っているんですけれども、何でこんな昔の網元みたいな屋敷が建つのですかと行って聞いたら、それはもうとにかく一番先に行って一番多くとって一番先に帰ってきて港に揚げること、これがもう絶対だと。だけれども、その時代ではもうなくなってきているわけであります。  つまり、オリンピック方式を採用するとなると、結局魚価が下がってくるのではないかということが考えられます。海洋法制度研究会の座長もされていらっしゃる佐野会長ですから、その議論の中でもあったと思うんですけれども、いずれオリンピック方式ではなくて、日本型フランス方式にするのか、規制をしていくのか、あるいはノルウェーのような個別漁船の漁獲量によるやり方にしていくのかという議論になったと思うんです。いずれにしても、業者間で協定づくりをするような、例えばガイドラインなんかを考えてもいいのではないかと私は単純発想でありますけれども思っているんですが、大日本水産会としてはそのことに関してはどういうふうにお考えなのか、お聞きしたいと思います。
  41. 佐野宏哉

    参考人佐野宏哉君) オリンピック方式の弊害につきましては、先生御指摘のとおりだと思います。これはオリンピック方式がそういう弊害を持っているということは、ある意味で今やもう通説化していると言っていいと思います。  ただ、問題はオリンピック方式の弊害を除去するために一体我々がどういう代替案を持っているかということでありまして、ある人は個別クオータ、ある人は個別クオータだけではいけないんで、それが譲渡可能な個別クオータでなければいけないとか、いろんな説がございます。  私は、いずれにいたしましても、オリンピック方式にかわるやり方というのを、お役所が案をつくられてお役所が運営をするということは率直に言って余りぞっとしないという感じがしております。むしろ、漁業者の自治的な仕掛けでそういうものが動いてくれれば望ましいのではないかというふうに思っております。それで、漁業者の自治的な仕組みに対して公的な認知を与えるという意味では、現在御審議いただいておりますTAC法の中での協定という制度の位置づけというのはなかなかよくできた案だと思って、私はまずこれを基本にしてやっていったらいいのではないかというふうに考えております。  その問題につきまして何かガイドラインのようなものがあればさらに円滑に動くのではないかという御指摘については、今何ともお答えするほどの知見を持っておりませんが、検討に値する問題提起であるというふうに私は思います。ですから、これは、小野先生が座長の政策検討会の問題もございますが、実際にTAC制度を動かしていくまでに考えてみたい問題であるというふうに受けとめさせていただきます。
  42. 風間昶

    ○風間昶君 今、小野先生のお話が出ましたので、まさに実際に動いていくまでの間のところで今のガイドラインと言っていいのかどうかわかりませんけれども、御検討されるべき課題かと思うんですけれども、先生一言あればお願いしたいと思います。
  43. 小野征一郎

    参考人小野征一郎君) なかなか一言ないんですけれども、オリンピック方式の難点というのはこれはよくわかっているわけですが、かといって一定の競争というのも必要でしょうし、そこでどういう形でいわば中間的なガイドラインを考えるかというのは、なかなか知恵を出すのは難しいというのが現状だと思います。これから考えさせていただきたいということであります。
  44. 風間昶

    ○風間昶君 引き続き佐野会長に、世界的な関心が公海上のストラドリングストック高度回遊性魚種管理に移っていくという先ほどの会長の指摘は私もそのとおりだというふうに思います。  一周おくれのランナーというのは絶妙なのかどうか比喩がちょっとわかりませんけれども、いずれにしても時代にふさわしい資源に見合った資源管理調査をというふうにしていく上で、先ほどもちょっとお話しになりましたが、国だけじゃなくて、実際上これは民間、つまり漁業者の方々もその資源管理調査をしていくことになろうかと思うんです。そこのところはまさに管理調査と同時に漁獲努力量、これが現場では実際に非常に悩むところじゃないかと思うんです。目の前に魚がいてとらないという話はないじゃないかとなると思うんですよ。そこら辺の指導をどうされていかれるのかお聞きしたいと思うんです。
  45. 佐野宏哉

    参考人佐野宏哉君) 先生御指摘のとおり、まず資源管理というのは、私はお上の問題であるよりも、まず第一義的には漁業者の問題であるというふうに思います。ただ、その資源調査にしても、漁業者自体が研究者として研究するわけじゃございませんが、まずその資源調査のベースは正確な漁獲データをアベイラブルにするというところから出発するわけでありまして、そういう意味では、漁業者の自覚とみずから律する厳しさがなければこういうものは全部絵にかいたもちのようになってしまう、それは先生御指摘のとおりだと思います。  そこで、そんなきれいごとを言ったって、目の前の魚をとらない漁師はいないじゃないかという話になるわけであります。先ほど私が申し上げましたTACの遵守というものの基本は漁獲努力量の調整によるべきであるということは、まさにそこのところを申し上げたかったわけであります。  目の前の魚をとってもそれがTACの中におさまるというような漁獲努力量とTACとの関係をつくり上げるということが基本で、目の前の魚をとるなというような偽善的なことを言わなくても、TACと漁獲努力量との関係が両立可能になるように調整をする、そこが大事なんで、そこを抜きにして偽善的な説教をしても事態はうまくいきませんし、いわんや漁業者がTAC以上にとって平気でいるというような状態ではこの制度は成り立たない。ですから、そういう偽善的なことを言わなくても許容漁獲量の中にちゃんとおさまるようにする、そこが基本だと思っております。
  46. 風間昶

    ○風間昶君 最後に、同じく佐野会長に、今のストラドリングストック高度回遊性魚種管理に移っているという指摘に若干関連するわけですけれども、鯨類についてのお話ですが、まだまだ日本の科学的あるいは理性的な管理体制が理解されていないと。そういう意味で、IWC体制の問題点、若干昨年反捕鯨国が七、八カ国賛成に回ったということもあり、なおかつアメリカもコククジラ五頭捕獲に向けてゴーサインを出したとかということもあるようでありますけれども、六月二十四日からのIWC総会における日本政府に対する注文があればお伺いして、質問を終わりたいと思います。
  47. 佐野宏哉

    参考人佐野宏哉君) まず最初に、ちょっと誤解があるといけませんので申し上げますが、私は資源管理に対する国際社会の関心がストラドリングストック高度回遊性魚種にまで広がっているというふうに認識をいたしておりますが、二百海里の中の問題は済んだからそっちへ問題が移っているというふうにお考えいただくことは私は間違いだと思うんです。  二百海里内における資源管理の体制というのは現在まだ極めて不十分な点が多いわけでございまして、例えばアメリカ合衆国の二百海里体制というのもいかにいいかげんなものであるかというのは、ニューイングランド地方の漁業の実態を見れば明らかであります。ですから、二百海里内は一応きちんとした資源管理ができたから、さあこれから外だと、そういう状況では全くございません。ただ、今まで等閑視されておりました二百海里の外の資源管理にも今ようやく国際社会の目が向いてきたということを申し上げているわけでありまして、二百海里の中だってまだ問題はいっぱい残っているわけです。  それから次に、国際捕鯨委員会の問題でございますが、国際捕鯨委員会における日本のポジションというのをごらんいただくときに私はぜひ御注意いただきたいと思いますのは、政府に任命されるコミッショナーが集まります国際捕鯨委員会の総会と科学委員会は全く様相を異にしております。これはあたかも国際捕鯨委員会という組織が総会と科学委員会に分裂しているような感じさえするぐらいであります。  科学委員会の中では、現在の鯨資源の状況、それを管理するために新しく開発された改訂管理方式、これについてはぼ全面的に日本の科学者の言い分が科学委員会の多数派によって支持されております。ですから、科学委員会に関する限り日本のポジションというのは決して孤立しているわけではない。むしろ多数派であります。  ところが、残念ながら国際捕鯨委員会の総会というのは、ほとんど科学委員会の助言を受けることなしに独立独歩動いておりまして、例えば極端な場合は、南半球のサンクチュアリーを設定するときなどは、日本代表団の提起した科学委員会意見を求めるべしという動議を否決するというようなことさえ起こっているわけです。  ですから、そういう意味で、国際捕鯨委員会に対する日本政府の対応ぶりについて注文があるとすれば、一つは、科学委員会で非常に大きな成果を上げているということが残念ながら日本国民の間でさえ十分知られていません。その結果、科学的な議論を積み上げていくことに対する無力感のようなものが日本国内にともすれば漂いがちでありますけれども、日本の科学者のアチーブメントというのは大変立派なものでありまして、これは科学者の世界では十分認識をされ多数派の支持を得ているということを私はまず日本国民にもっとよく知らせてほしいというのがまず第一であります。  それから第二番目には、国際捕鯨委員会がなぜああいう状態になっているかということは、各国の政府によって任命されておりますコミッショナー、これが科学的な知見に基づいて判断をするよりも専ら政治的な風向きを見て行動しているということに起因するわけであります。ですから逆に言うと、こういうコミッショナーの人たちの行動をきちんと国際捕鯨条約の本来の趣旨に即したように行動させるためには、科学的な知見を積み上げていくだけでは足りないわけですね。それはもう十分既に科学委員会によって行われて、それでなおかつ総会はあのていたらくでありますから、そういう意味では、そういう人たちを折伏するためには科学以上のサムシングエルスが必要なのであると、そこのところを日本政府にはよくわかってほしいというのが私の感想であります。
  48. 風間昶

    ○風間昶君 ありがとうございました。
  49. 川橋幸子

    川橋幸子君 社会民主党の川橋幸子と申します。  きょうは、三人の参考人先生方には貴重な御意見をお話しいただきまして大変ありがとうございます。私の持ち時間は十五分という短い時間でございますけれども、質問をさせていただきたいと思います。  まず、山本参考人にお伺いさせていただきたいと思います。  今度、海の国際司法裁判所という国際機構ができるわけでございます。先ほどの先生のお話でございますと、海の問題というのはもう数百年の歴史を人類は重ねてきた、そのさまざまな利用とか管轄、規制などをめぐって国益がぶつかり合う中で、今度は集大成された衡平なルールづくりが行われたと。そのもとでの国際海洋法裁判所であるわけですが、個人の価値観、主観的な判断よりもむしろ各国のこれまでの政策的な判断ですとか実績努力というものを重視する、そういう司法のあり方を目指しておられるようにお伺いいたしましたが、そういうことでよろしいのでしょうか。  その場合、各国努力、政策判断というのは具体的にはどのようなところがポイントになるのかお話しいただければありがたいと思います。
  50. 山本草二

    参考人山本草二君) お答え申し上げます。  例えば大陸棚境界画定線引き等につきまして、委員御高承のとおり国際司法裁判所その他、これまで判例が積み重なっておりますけれども、甚だ残念ながら大事な問題については多数意見と少数意見がほぼ拮抗した形で真っ二つに割れております。これは、国際裁判所としては私はいかがかと思うわけでございまして、なるべく大きな共摘要素のところで多数意見が形成されるというのが国際裁判所の本来のあり方ではないかというふうに考えております。  なぜそういうふうに両極化して分かれるかと判決理由をずっと詰めて見てまいりますと、今行われております条約その他、慣習法その他の実定国際法あるいはそれを支えている国家実行意味を客観的に追求していくというのじゃなくて、いざとなると裁判官価値観、世界観、これはエクイティー、衡平といっておりますが、それが出てきてしまいますために非常に両極化して分かれるわけでございます。裁判所というのは、今ある国際法を具体的な紛争に照らして適用していってそのルール意味を一層はっきりさせていくというのが本来の仕事かと思うわけでございまして、裁判所が自分の手で国際法をつくるというふうなことをやるのは自殺行為ではないかと思っております。  そういう先例もございますので、特に今回の国際海洋法裁判所におきましては、対象も特定されていることでその点大変幸いでございますので、しかも海洋法条約ではある程度の決着は見たけれども、なお各国の裁量に残している部分が非常に広いということは先ほど来御説明申し上げたとおりでございまして、そういう問題を具体的な各国が抱える国際紛争の中で、各国知恵というものが反映して国家実行ができて積み重なっていくというふうに私は考えるわけでございますから、その国家実行の持っている法律的な意味というものを裁判官が探し出して整理する、これが第一の役割ではないかなというふうに考えるわけでございます。
  51. 川橋幸子

    川橋幸子君 毎日新聞のことしの二月十九日の、これは「(談)」となっておりますので先生がお話しになられたものを記者の方がおまとめになられた記事かと思いますけれども、「排他的経済水域を設定して一挙に外国実績を否定してしまうのは海洋法上は問題である。」というようなお話ですとか、やはり線引きをしましても線引きの両側に大変豊富な漁業資源があるのだから、関係国がいかに折り合って資源保存していくかが重要だというようなお話をスクラップで拝見しているのでございます。  今の先生の、各国努力とかあるいは政策判断というものを重視しながらルールづくりをしていくということを考えたときに、実際に日本の近海に当てはめたときの判断の方向がこの先生のお話の中に示されているというふうに伺ってよろしいのでしょうか。もう少し御説明をいただけることがあったらつけ加えていただきたいと思います。
  52. 山本草二

    参考人山本草二君) 御指摘のとおりでございまして、紛争を抱えている相手国がきちんともう国連海洋法条約を批准してくれておりますので、我が国も間もなくそうなると思いますので共通の土俵ができるわけでございまして、そういう共通の土俵の中で条約本旨というものを生かすために紛争解決努力する。そういうことをやっていけば、委員今御指摘のような形で条約規定の具体化と申しますか定着というものが図っていけるんだろう、そういうものを通してまた近隣国との海洋の利用についての国際協力というものが積み重ねられていくんだろうというふうに考えるわけでございます。そういう趣旨でございまして、ただいま御指摘のとおりの趣旨でございます。
  53. 川橋幸子

    川橋幸子君 先生のお書きになられた「海洋法」、有斐閣の小論文だと思います。先生のもっとコクのある論文はちょっと拝見する時間も能力もないということでこれをさっと拝見したところでございますけれども、海洋法を批准しなくても海洋法で定められている趣旨、条項を国内法として措置していると。例えば、アメリカが私が読んだ中では印象的なのでございますけれども、国内法でそれを整備して先取りした上で二国間条約相手国にそれを迫ってくるというのでしょうか、迫られると思う方も弱気なのかもわかりませんが、交渉にのせてきた場合、それが紛争になった場合の判断のよりどころというところを、今お話しいただきました各国の過去の努力とかあるいは実績重視ということと兼ね合わせて見た場合には、どのような判断の方向性が見えるのでございましょうか。
  54. 山本草二

    参考人山本草二君) 今御指摘のとおりでございまして、アメリカは結局は海洋法条約の中の都合のいい規定を国際慣習法になったという理由でつまみ食いをして、さらにそれを国内法とか二国間協定に使うわけでございます。その国際慣習法になったということの証明はなかなか簡単にできないわけでございまして、つまみ食いをするときも、エゴイズムじゃないか、あるいはその根拠となっている慣習法というのも非常に主観的な判断で国際的に通らないんじゃないかという反論が必ず相手国から来るわけでございます。そういう意味では、条約を一括して受けてしまえば、そういう証明をすることなく条約規定というものを適宜紛争の際に使っていけるという強さがあるわけでございます。私は、条約を正式に批准する前の間に合わせとしてはそういうつまみ食いというのもある程度交渉の上での力になり得るかと思いますけれども、正道ではないというふうに考えております。
  55. 川橋幸子

    川橋幸子君 世界が注目する現在のアジア地域でございます。経済もそうでございますけれども、さまざまな経済成長をするがゆえの政治的な安定度を欠くというのでしょうか、こういう地域なわけでございますが、この地域の中で、特に日本のお隣の韓国、中国との間で同時にこの条約を批准して折り合いをつけるような交渉に乗り出すというのは大変意義がある、こういう時期だということでございましょうか。
  56. 山本草二

    参考人山本草二君) 御指摘のとおりでございまして、例えば漁業協定、あるいは島の問題等を扱う場合にも、海洋法条約の第何条というのを引っ張ってきてお互いがその解釈をぶつけ合う、それで、じゃ海洋法条約ができたプロセスを見てどっちの解釈が国際的に通り得るかというような、そういうお互いにやり取りできる場ができたという意味条約関係国が批准するということは大変いいことだと思います。  それから、これも御指摘の裏にあると思うのでございますが、海洋法条約の中にはかなり積極的に国際協力というようなものを打ち出している部分がございます。我が国も、漁業の面はもちろんのことでございまして、そういう面を通しての技術協力とか、あるいは海上保安についても大変な実績を持っている国でございますから、今御指摘の東南アジア地域等々における海の安全ということについて日本の援助、協力というものを期待するということもきっと起きてくるだろうと思うのでございます。そういうときにこの海洋法条約というものが一つの土台になるという意味で、二国間で相対でギブ・アンド・テークでやるよりもよっぽど衡平で安定した土俵だというふうに考えるわけでございます。  御質問の御趣旨をそういう意味に解させていただきましてお答えさせていただきました。
  57. 川橋幸子

    川橋幸子君 ありがとうございました。  国際司法裁判所と今度の海洋法裁判所は大分性格が違うようでございますけれども、ハーグの国際司法裁判所の小田先生とともに山本先生が海洋法裁判所で御活躍くださいますように、これは日本人という余りナショナルなことを言っちゃいけないんだと思いますが、個人として、地球人として御活躍くださる状況ができますよう、私どもも努力いたしたいと思います。  それでは、佐野先生の方に質問を一問させていただきたいと思います。  断片的な質問になってしまいまして恐縮なのでございますけれども、調査室の方からもらいました一月一日の新水産新聞に先生のインタビュー記事が寄せられておりまして、それを拝見したところでございます。  「国連海洋法条約の批准に伴って本当に排他的経済水域を完全に設定することを決意しているのは水産庁だけであり、現在のところ政府全体の決意にはなっていないのであります。」という、ちょっと断片的な取り上げ方で申しわけないのでございますが、今政府全体で一生懸命に取り組んでいるように見えるところでございますけれども、先生の方から政府への御要望がありましたらお聞かせいただきたいと思います。
  58. 佐野宏哉

    参考人佐野宏哉君) そのインタビューを受けたころは確かにそういう感じがして心配をいたしておりましたが、今や安心しておりますから。
  59. 川橋幸子

    川橋幸子君 今度の海洋法条約の批准にかける漁業関係者の方々の期待というのは非常に大きなものがあるということを私、この委員会に参加させていただいて理解したのでございます。  確かに、私も魚は食べ物として個人的に大好きですし、大変すばらしいリソースだと思いますし、日本漁業実績も伸びていってほしいと思うのでございますけれども、海洋法条約の批准をてこに産業を立て直すというよりも、もうちょっと産業自体の考え方があるような気がいたします。もちろん、これを契機として考え直すということがあるのではないかと思いますが、これからの漁業の方向性につきまして、政府に依存しないということをたびたびおっしゃられたように思われますけれども、抱負がおありでしたらお聞かせいただきたいと思います。
  60. 佐野宏哉

    参考人佐野宏哉君) 先ほど来申し上げましたように、私は現在の漁業資源の利用状況がほぼ満限状態に近づいておって、そういう意味でとりたい放題とる漁業というのはもはや存立を許されなくなっておるということは、これは国連海洋法条約があろうがなかろうが、そういう事態であろうというふうに思います。むしろ、国連海洋法条約のようなものがなければ事態はもっとひどくなっているかもしれません。ですから、そういう意味で、とりたい放題とる漁業から決別しなければいけないということは、国連海洋法条約の批准をきっかけにしてそういうふうに思うということではないわけでありまして、国連海洋法条約の批准から独立した問題であります。  私どもは、これからはそういう意味では量追求型の漁業ではなくて質と申しますか、値打ちを追求する、だからそろばんの合わせ方も量を求めてそろばんを合わせるのではなくて、付加価値をつけてそろばんを合わせる、そういう方向の漁業経営に向かっていかなければならないというふうに思っております。これは繰り返し申し上げますが、国連海洋法条約を批准すると否とにかかわらず、そういう方向だと思います。  ただ、ここで重大なかかわり合いがございますのは、韓国や中国の漁船が日本周辺水域でとりたい放題とっているという状況のもとでは、日本漁業者だけがとりたい放題とる漁業から決別するということは成り立たないわけであります。ですから、そういう意味ではとりたい放題とる漁業から決別しなければならないという認識、そういう方向へ移行したいという私どもの願望は国連海洋法条約の批准から独立したことでございますが、そういう私どもの方向感覚を現実のものにするためには、国連海洋法条約を批准していただき、排他的経済水域を設定していただくことが必須であるというふうに思っております。  だから、決してそれを奇貨として心変わりがしたというものではございませんので、心変わりはもともとしておるわけでありますけれども、それを現実のものにするためにはぜひこの条約を御承認いただき、この法律案を通していただきたいと思うわけでございます。
  61. 川橋幸子

    川橋幸子君 ありがとうございました。終わります。
  62. 立木洋

    ○立木洋君 日本共産党の立木です。  きょうはどうも本当にありがとうございました。私の持ち時間はもっと短いものですから、最初に御三方にあわせてお尋ねいたしますので、あと順次お答えいただければありがたいと思います。  最初に山本参考人ですが、参考人のお書きになった著書「海洋法」を読まぜていただきました。きょうの説明もよくわかりました。その中で一点お触れになっている問題で、我が国領海の無害通航に関して、核持ち込みの、これをなくすための問題点が触れられておりました。ここでは、無害性の有無の認定がこの条約の十九条一項で許容されているということをお述べになった後で、この問題については自国にとり特別の有害危害性を持つ問題だと。だから、そういう問題点を十分に立証して、そしてその趣旨を外交経路により国際的に周知させることが必要だというふうにお述べになっておりました。  外務省の方にいろいろお尋ねして、海洋法会議のときにこの問題点について十分に日本政府としてはお述べになったのかどうかという点では、必ずしも領海における核積載艦船が無害通航とはみなさないということを明確に述べている資料はないというわけでございまして、そういうふうになると、この問題は国際的に担保されているのかどうかちょっと疑念がありましたものですから、後でその点についてお答えをいただきたいと思うんです。  次に、佐野参考人にお尋ねしたいのですけれども、海洋法制度研究会として昨年の十二月に発表されました中間取りまとめがございました。そこの「あとがき」で漁獲可能量と輸入の関係についてお述べになっている部分がありまして、私は読んで、なるほどこれは至極ごもっともな見解だなというふうに思ったわけであります。その点で、水産物の輸入について基本的にどのようにお考えになっておられるのかという点をお聞きしたいんです。つまり、最近では輸入割り当てが調製品の輸入増によって形骸化してしまうというふうな声も聞かれますものですから、その点をお尋ねしたいわけであります。  次に、小野参考人にお尋ねしたい点は、先ほど来いろいろな角度から問題になっておりました漁獲可能量の設定について、二百海里内の資源管理は既に世界各国で行われているんではないかというふうに考えているわけですが、しかし実際にはとり過ぎや資源の衰退が言われておるわけです。どういうところにこういう問題が起こるというふうにお考えになっておられるのか。また、EUでは共通漁業政策で最低価格などの共通価格制度が設けられておるわけですが、これが資源管理上も一定の効果があるというふうにお考えになるのかどうか、その点についてお尋ねしたいわけです。  以上です。
  63. 山本草二

    参考人山本草二君) お答え申し上げます。  御指摘のとおり、第三次国連海洋法会議では非核三原則との関係で核常備艦等の扱いは特段の議論にならなかったわけでございますが、これは海洋法会議では十九条の二項、有害とみなし得る活動ということに議論が集中したわけでございまして、事柄の性質上、非核三原則絡みの核常備艦の問題をそこに入れることはなじまないわけでございます。  他方委員御高承のとおり、一九五八年の領海条約規定と同じものが十九条の第一項にあるわけでございまして、私どもは非核三原則との関係ではその第一項で従来読んできているわけでございます。したがって、新海洋法条約のもとでも第一項で説明し、制度化できるんだというふうに考えております。  その際、御注意いただくべきことは、とかく核常備艦あるいは搭載艦の通航を規制するということが非常に古い船種別規制だというふうに結びつくことは非常に不利でございまして、多分現在の海洋法解釈では無害通航権の要件としてそういう船種別規制を引き出すということは通らない主張でございます。  そこで、我が国としては、それは船種別規制じゃないんだと、通常兵器とは違って特に核兵器を搭載しているということの沿岸国日本の安全、平和等に対する実質的な特別の危険があるんだということを証明することとか、それから通航の目的とか通航の仕方とかそれを基準にして有害、無害を判定するというのは第一項でございますから、核常備艦の通航なり寄港というものもそれなんであって、古い形の船種別規制では絶対ないんだということをやはり証拠を固めまして、具体化して、それを世界に訴えていく、そして了解を求めるべきだというのが私の趣旨でございます。  そういう意味では、もう一九五八年の領海条約以来の持ち越しで、現在の条約では十九条一項をめぐる持ち越しの問題であるというふうに考えたその表現がそういうことになっているわけでございます。
  64. 佐野宏哉

    参考人佐野宏哉君) お答えいたします。  まず第一の問題は、日韓中三国は接続した水域でございますから、仮に日本がAという魚種について厳しいTACを決めて漁獲量を減らす、それを境界線の向こう側で韓国や中国の漁船ががばちょがばちょととって、それを日本の港へ持ってきてどんと輸出するというのでは、TACを遵守している日本漁業者の腹の虫がおさまるはずがないわけでありまして、そういうことではTACを遵守するという意欲を大変そぐという問題がございます。ですから、まず第一義的にその問題を何とかしてほしい、そういうことにならないようにしてくださいよというのがこの文章の前段でございます。  それから、「また、将来的には、」というふうに書いてございますのは、その問題をさらに敷衍いたしますと、国際的に見てきちんとした資源管理措置に服して資源保存と両立するような秩序ある操業をしている漁業者が漁獲した水産物と、海賊まがいの操業をしている漁業者がとった漁獲物とが同じマーケットで自由にハンディキャップなしに競争をするというのでは、ドーピングをやっている選手とまじめにドーピングをやっていない選手とが一緒のレースをやらされるようなものでありまして、こういうことではとてもいかぬという、より根本問題があるのではないかというふうに考えております。  これは現在のWTO条約やなんかとの関係でどういうふうに処理をすればドーピングをやった選手とまじめな選手が殴り合うようなことにならないようにできるのかというのはなかなか難しい問題で、今のところ名案があるわけではございません。だけれども、ともかく考えてもらいたいということで書いてございます。  ここから先は私見でございますが、とりあえず、例を挙げますれば、大西洋まぐろ類保存国際委員会のようなしっかりした国際的に認められている資源管理機関、この定めたルールに従わずに非加盟国の状態のままクロマグロをとっておる、こういうようなものが国際的に権威ある大西洋まぐろ類保存国際委員会の加盟国の漁船が規則をきちんと守ってとっているマグロと同じマーケットで競争するなどというのはせめて何とかしてもらえないものかなということを感じております。
  65. 小野征一郎

    参考人小野征一郎君) EEZ内の漁業管理の難しさ、あるいは適正な漁業管理が行われない最大の理由といいますか、それは要するに資源量に対しまして漁獲努力量が大き過ぎる、簡単に言うと漁船の数が多過ぎるということに尽きるんじゃないかと思います。EUについてもそれは例外ではないんじゃないかと思います。
  66. 小島慶三

    小島慶三君 きょうはお三人の方、おいでいただきまして本当に御苦労さまでございます。  私の昔から知っている人でレスター・ブラウンというのがおりまして、この人は世界の食糧需給の将来は非常に難しいことになるだろうというので「フルハウス」という本を書いたんです。私はそれを翻訳しまして、少しオーバーですけれども「飢餓の世紀」ということで出したわけであります。その本の中に漁業の問題、魚の問題というのがありまして、世界の漁獲の可能量でしょうか、一億トンという数字が出ております。世界の十七の漁場では既に非常に乱獲というか、そういうことで限界に達しているということで、全体としてブラウンの説は水産限界説なんです。この辺も先生方にきょうお伺いしょうと思ったんですけれども、先ほど来から既にそういった認識でこの法律に対する姿勢もでき上がっているということでございますので、これはお伺いいたしません。  それに対して、やはり需要の方はどんどんふえるわけで、世界の陸上の食糧資源がだんだん窮屈になれば、これは海の資源というものも当然カロリー源として要求されるということで需要がどんどんふえる。それから新興国の、途上国の加入という問題も起こってくるということになれば、日本漁業の将来というのは非常に難しい局面にぶち当たると、こういうお話ではないかと思うんです。  それに対して、いろんな資源管理、その辺を考えられてTACという制度をおつくりになったと思うんですが、考えてみますと、TACの場合ですと一種のアロケーションということがつきまとってきますから、どうしてもアロヶーションに伴う弊害というものはある。  それで、もしそういうことで権利者が固定しますと、いろんな権利の売り買いということも出てくるかもしれませんし、また量が固定されておりますからどうしても価格に問題が転嫁するということで、魚価の値上がりとかいろんな問題も起こってくる。企業者の方は、そういうせつない状態でありますから、付加価値を高めるような魚のとり方をするとか、あるいは余力のある外国と提携をして合弁会社をつくるとか輸入するとか、そういうことになるのではないか。漁業経営の将来というものは非常に難しいんではないかというふうに私は思うのでございます。力のあるところはいいかもしれませんが、中小企業とかそういう点ではかなり困難な局面になると思うのでございますが、その辺についての対策とか考え方とかを佐野先生にひとつお伺いしたいというふうに思います。
  67. 佐野宏哉

    参考人佐野宏哉君) 仰せのとおりでございまして、私は漁業の前途というのはなかなか容易なものではないというふうに思います。  ただ、先ほど申し上げました漁業資源の利用状態がほぼ満限状態に近づきつつあるのではないかという認識は、そのことから当然のこととして漁業の将来に悲観論が出てくるというものではないというふうに考えます。むしろ、何と申しましょうか、要するに多過ぎますと、つい湯水のようにとか空気のようにということで、なかなかありがたさをユーザーにアプリシェートしていただけないわけでありまして、むしろ漁業資源というのは有限なものであってそんなに無尽蔵なものではないということが、お得意様に値打ちを認めていただいて御愛顧をいただけるゆえんにならないものかなというふうに私は一つは思っております。  それからもう一つは、これは農業でも林業でもそうでございますが、元来は天与のものを勝手にとったりハンティングをしておったものが、ハンティングから畜産へ、天然林の伐採から人工造林へという歴史を通っているわけです。水産の世界でどの程度アナロジーが当てはまるかわかりませんが、現につくり育てる漁業というものがだんだん起こってきているわけです。これは、言うなればハンティングから畜産へというのと類似したプロセスが水産の世界でもある範囲では現に起こりつつある。そういう意味では、神様からのいただき物としての魚をとるというのは限度がございましょうが、今のように考えますればまだフロンティアがないわけではない。そういうふうに考えて元気を出すことにしたいというふうに思っております。
  68. 小島慶三

    小島慶三君 ぜひ元気を出していただきたいと思うんです。どういうイノベーションのあり方というのがあるかわかりませんが、やはりそういう可能性を追求していくということに夢もあるんだろうと思いますので、ぜひそういうふうにお願いしたいと思います。  以上で私の質問を終わります。
  69. 西川潔

    西川潔君 本日は御苦労さまでございます。私の素朴な疑問なんですが、一市民として、今回のこの条約の批准によりまして、市民生活、そしてまた消費者に一体どういった影響があるのか。  最近のニュースの報道などを見ますと、竹島問題とか、またサッカーのワールドカップの問題なんかもあわせましてお隣の国とはいろいろ仲よくしていかなければいけない。大変だなと思うわけですけれども、仲よくしてもらいたいというのも我々の希望でもあります。また、報道の特集を見ますと、外国船が日本の近海の漁場を荒らしている画面、こういう報道をよく見かけるわけですけれども、外国との争いもなければいいがなと。  我が家には三人の親がおりまして、八十八歳、八十一歳、七十七歳と三人おります。家内も、みんなそういう報道を見ておりますと、父親は、この後おまえらの時代にはこれどうなっていくんだろう、母親は孫のことも心配しておりますし、家庭の中ではそういうことが大変話題になるわけです。こちらでいろいろお話をお伺いさせていただくようなことをまた我々は広く国民の皆さんにもお話をし、PRをし、啓蒙啓発をしなければいけないと思うわけです。  私たちの毎日の暮らしの中で、そして食生活の中でどのような影響があるんだろうか、そういうことが大変心配です。こちらの方は報道もPRも余りされません。消費者の食卓にはどういった影響があるのか、また国民一人一人が今回の条約の批准によりましてどのような認識を持たなければいけないのかなということを素朴に三人の先生方に順番にお伺いしたいと思います。
  70. 山本草二

    参考人山本草二君) 御指摘のとおりでございまして、委員が御指摘の仲よくなる一番いい方法は、この条約関係国が生かしていく、条約の土俵の中でけんかをし合うと。今までは素手でけんかをしていたわけでございますが、もう素手でけんかをすることに飽きた、その結果こういう条約が生まれたと思うわけでございます。ですから、この条約を使いこなしていけば、結果的に海の利用については関係国が大変仲よくなるだろうという大きな期待を持っているわけでございます。  それから、消費者にとってはどうかと。これもいろいろあると思うのでございますけれども、先ほどの御質問とも関連いたしますが、例えばTACを決めるとその配分ということは今まで国別にやっていたわけでございまして、その国別という枠はもちろん守らなきゃいけないのでございますけれども、さらにそれを乗り越えまして、先ほどの小島委員の御指摘のように、例えば合弁ということで相手の国へ漁業移民のような形で入り込んで、そして魚をとっていく。それは日本の消費者にもプラスになるし、現地にもプラスになる。今までのように出稼ぎで出ていって帰ってくるという形もさることながら、現地に土着して国民の一人になってというのが漁業合弁でございますので、そういう方策もお考えいただければ、それが回り回って日本の消費者のみならず世界の消費者にとっても大変レベルアップになっていくんじゃないか。  もちろん御専門の方々の御苦労、国別配分という枠組みの中で国益を生かすという御努力は十分に評価した上で、なおそういう方向に希望を見出せるんじゃないかという意味で、西川委員の御指摘を積極的に受けとめたいというふうに考えております。
  71. 佐野宏哉

    参考人佐野宏哉君) まず第一点の近隣諸国との友好関係という点でございますが、この点はそもそも、現在の暫定水域法、あの当時から今のような問題はある意味ではみんな予想していたわけです。あの当時ですと、早い話が竹島とか尖閣とかもう恐ろしくて論ずることさえもできない、そういう状況を反映しているのが現在の暫定漁業水域法でございます。今度ようやく、そんな恐ろしいことではなくて、韓国も中国も同じ国連海洋法条約というベースに立って対話ができるという状況になってこういう条約なり法律案なりを御審議いただいているわけでありますから、そういう意味では、韓国、中国との間の問題の難しさは、国連海洋法条約がこういう形になることによってよほど緩和されたのであるというふうにまず御認識いただきたい。まず、現状においてもその点ではこれらの諸国との関係を緩和する上では非常に大きな効果がある。  それから、先ほど来いろんな先生方からのお話がございましたように、韓国や中国の漁船の操業をめぐっていろいろ現地で険しい関係が現に生じておりますが、そういう問題を抜本的に解決する方法としても排他的経済水域の設定というのは非常に有効な手段になるわけでありまして、韓国、中国との間のそういうとげとげしい関係を取り除くという意味で、きっと排他的経済水域の設定は効果があるだろうというふうに思います。  それから、消費者への影響でありますけれども、これは少なくとも差し当たりの問題といたしまして、今までの漁獲実績に比べてそう極端に小さなTACを決めるという魚種が出てくるとは思えません。ごく例外的にそれに近いものがございましても、これだけ日本の水産物のマーケットが世界じゅうに開かれておりますから、そういう意味では消費者の皆さん方が影響をお受けになるということはもう皆無であるとお考えいただいていいと思います。  例えば、日本海のズワイガニを保護するために多少のことをいたすといたしましても、これだけともかくいろんなところからズワイガニが現にあるわけでございますから、日本海でズワイガニのTACをつくって締めたから窮屈になったなというふうにお感じになることは万々ない。本当は、漁業者の本音からいえば少しは影響が出てほしいと思うところがございますけれども、事実はまず影響はないとお考えいただいて結構です。
  72. 小野征一郎

    参考人小野征一郎君) まず、中国とか韓国との関係ですが、さっきお二人の先生の回答にもございましたように、海の利用についての共通のルールができ上がったということだと思います。そういう意味では友好関係は少なくとも長期的にはむしろ促進されるんじゃないかというふうに考えております。  それから、消費に対する影響ですけれども、直接的には特に何も出てくるということはないかもしれませんが、私思いますけれども、日本のEEZ内の漁業管理というのが適正に行われれば、長期的には我々の豊かな食生活を保障している水産物についてもむしろプラスに働いていくんじゃないかというふうに考えております。
  73. 西川潔

    西川潔君 ありがとうございました。
  74. 中尾則幸

    ○中尾則幸君 新党さきがけの中尾でございます。  きょう、お三人の先生、本当に最後まで御苦労さまでございます。ありがとうございました。  私の持ち時間は十分でございます。山本参考人にお話を伺いたいと思います。  私は、海洋環境保護に関する条約考え方あるいは各国の対応などについて御意見を賜りたいと思います。  まず第一点目でございますけれども、国連海洋法条約の重要な柱に海洋環境保護がございます。従来の船舶を起因とする汚染について、ロンドン条約あるいはMARPOL条約等々がございますけれども、旗国主義を前提に行われてきたように私は思っております。しかし、この条約はこの旗国主義による規制修正を加えたものとなっております。どこまで旗国主義の変更に迫れるかと、先生は「海洋法」という本の中でお述べになっていらっしゃいますけれども、この海洋環境保護に関する条約規定について先生はどのような感想を持っていらっしゃるか、まず御意見を賜りたいと思います。
  75. 山本草二

    参考人山本草二君) お答え申し上げます。  今、委員御指摘の従来の例えば海洋汚染、MARPOL条約などでは、御高承のとおり管轄権範囲海洋法条約で決着を見るまでということで棚上げにしてきたわけでございます。結果、今度の条約で一応線引き、管轄をやったわけでございます。  それで、結論で申し上げますと、ここで初めて海洋環境の保護についての責任分担というものを打ち出したのが今度の条約の特徴だと思います。したがいまして、汚染等の事故が起きたらぱ一番近場の国が出ていって、まず汚染の防除措置とかあるいは取り締まり等をやる、その限りでは御指摘の旗国主義は後退するわけでございます。  手続を始めて裁判も始めたところが、旗国の方で裁判の手続を開始したということになりますと、こちら側は裁判の手続を停止いたしまして、証拠書類等も全部つけて旗国にそれを渡すという形でございますので、新しいタイプの司法協力と申しましょうか。とりあえずは事故の近場の国が出ていってやる、しかし旗国の方で積極的に動き出せばそちらへ裁判を移送するという形の、やはり私は新しいタイプの司法協力かというふうに評価しているわけでございます。この国際的なそういう基準をそれぞれの持ち腸持ち場で責任を分担し合うという意味では、委員も御評価なさいますとおり、海洋環境の保護というのは今度の条約の中でも大変画期的な規定だというふうに承知しております。
  76. 中尾則幸

    ○中尾則幸君 ありがとうございました。
  77. 寺澤芳男

    委員長寺澤芳男君) ちょっと速記をとめてください。    〔速記中止〕
  78. 寺澤芳男

    委員長寺澤芳男君) 速記を起こしてください。
  79. 中尾則幸

    ○中尾則幸君 第二問目でございます。  この排他的経済水域に対する海洋汚染に関する国内法適用でございますけれども、国際条約基準を超えた規制はできないように私は読み取っております。もしそうだとしますと、我が国周辺海域では余り事態が好転しないというふうに思われるんですが、今回担保金制度というのがございますけれども、その辺、海洋汚染防止について今回の条約がどのような機能を果たすのか、先生の御所見を賜りたいと思います。
  80. 山本草二

    参考人山本草二君) お答え申し上げます。  海洋汚染防止につきましては、先ほどの御質問との関連でも、沿岸国とか入港国が責任を分担し合うようになったのが一つの特徴でございますけれども、そういう際に従来の例を見ておりますと、例えばカナダなどが北極海の海洋汚染というものに非常に神経質で、どんどん厳しい基準を上乗せ基準ということで国内法で決めまして、それを通航船舶に課していく。外国船舶でございますと方々の港々を寄るわけでございますから、その通り過ぎる港、領海で違った厳しい基準をつくられたのでは船舶の運営、運航ということにも、あるいは船の構造等にも影響があるわけでございます。  そこで、IMO、国連の専門機関でございますが、そういうところが中心になって国際基準をつくって、そしてその基準をどこの海域であろうと、どこの国の船にも守らせるというのが条約趣旨でございます。  環境保護について非常に熱心な国であればあるほど国内法で上乗せ基準というものをしたがる。それはある意味では正論でございますけれども、通り抜けていく外国船舶にとっては大変な迷惑でございますし、船に対しても大変な負担になる。結局は、その上乗せ基準というものを、本当に正当な根拠があるのであれば、国際会議とか国際機関に持ち込んで、そして新しい国際基準をつくってもらうという努力をするべきである。できたらその基準各国に守らせるということが今までの条約での取り組み方でございます。  そういう意味では、ますます海洋汚染については新しい原因が出てくると思いますから、その都度上乗せが必要だということであれば、しかるべき国際会議あるいは国際機関に持ち込んで、どこにも通り得る一般的な基準をつくってもらう。それが船の航行というものを安全たらしめるし、それから海洋法というものの本質を生かす正道だというふうに私は考えております。
  81. 中尾則幸

    ○中尾則幸君 今度は放射性物質の海上輸送について、あかつき丸の例を出してちょっと伺いたいと思います。  あかつき丸でプルトニウム輸送を行った際、これ一九九二年十一月にフランスから持ち込まれたわけですけれども、沿岸各国から航行についての苦情、抗議等が寄せられたということが報ぜられております。  さて、今回、我が国海洋法条約に加入するに当たって、国連海洋法条約のもとでこのような輸送、すなわちフランス、これはイギリスからも当然今後あろうかと思いますけれども、フランスから我が国までのような海上輸送を行う場合にどのような問題が予想されるのか。聞くところによりますと、オーストラリア、南アフリカ、マレーシア諸国、これは航行の道筋が公表されておりませんで、どこを通ったかということは特定できないんですが、その周辺各国では排他的経済水域から排除するというような表明も出されたというふうに私は伺っておりますけれども、この点について今回の条約下ではどのようにとらえていけばいいのか、山本先生の御意見を賜りたいと思います。
  82. 山本草二

    参考人山本草二君) お答え申し上げます。  今回の海洋法条約をごらんいただきましても、例えば無害通航権のところでも、原子力エンジンを搭載したものあるいは核物質を搭載した船舶の通航を有害というふうにみなして通航自体を禁止するという規定は一切ございません。条約上できるのは、核物質その他の危険物質を運送する船については、沿岸国がせいぜい領海の中で航路帯を指定するというのが限度いっぱいでございます。したがって、有害、危険の恐れがあるからということでそういうプルトニウム輸送船等を領海の中での通航を禁止するということ自体は条約違反でございます。ましてや、二百海里においてそういう主張をするというようなことは、先ほど申し上げました二百海里で保障されている船舶の自由航行という権利を侵害することになるわけで、一層条約違反でございます。  なお、条約では、将来、IAEA、国際原子力機関等で基準を決めまして、そしてその基準に違反するような船舶の航行を禁止するというようなことがあるいは将来、基準としてできてくるかもしれませんけれども、現在はまだそういう基準もできていないということでございます。  のみならず、そういうプルトニウムとか核物質というものがテロ等に盗まれて悪用されることを防止するために、御承知の核物質防護条約というのがございまして、例えば再処理をした物質を積んで航行するときは、輸出国も、それから返してもらう母国はもちろんのこと、途中の通過国もその条約に協力する義務があるわけでございます。テロからの危険を防止するというのはむしろ通過する沿岸国にとっての条約上の義務であるということもございますので、いずれにしても御懸念の問題につきましては、そういうものが出てきたらそれはやっぱり条約違反であって、どうしてもやろうというのなら新しい国際的な基準をつくれということで反論をしていく、そういうことだと思います。
  83. 中尾則幸

    ○中尾則幸君 ありがとうございました。  時間が参りましたので質問を終わります。
  84. 寺澤芳男

    委員長寺澤芳男君) 以上で参考人方々に対する質疑は終了いたしました。  参考人方々に一言御礼を申し上げます。  本日は、長時間にわたりまして貴重な御意見を拝聴させていただきまして、まことにありがとうございました。委員会を代表いたしまして厚く御礼を申し上げます。(拍手)  本日の審査はこの程度にとどめ、これにて散会いたします。    午後五時散会