○
参考人(
佐野宏哉君) 本
委員会におきまして、
水産業界の
立場から
意見を申し上げる機会を与えていただきましたことを心から感謝いたします。
まず最初に、今回の
国連海洋法条約及び
関係国内法がこの時点において
我が国の国会において審議されているということは、比喩的に申し上げますと、ちょうどトラックで一周おくれた
ランナーがあたかもほかの
ランナーと同じ速さで走っているかのように見える、そういう感じがいたします。と申しますのは、
水産資源に対する
国際社会の
認識というのはここのところ急激に変化をしてきておるように思われるからであります。
一九八九年に、世界の海でのとる
漁業の
漁獲量が九千万トンの直前まできたところで頭を打ちまして、それ以降、海でのとる
漁獲量というのは九千万トンの水準を超えられずにおります。そのことを通じまして、国際的に有識者の間で
水産資源の
有限性、世界じゅうのおよそ目ぼしい
商業的価値のある
漁業資源があらかた満
限状態まで利用されておる、あるいは
かなりの
資源が
乱獲状態に陥っている、そういう
認識が急速に広まってまいりました。
そういたしますと、当然のことながら二百海里
水域の外側の
漁業資源については今までどおり公海
漁業自由の
原則にゆだねておいていいのだというわけには今やいかない時代になったと、そういう
認識がこれまた急速に
国際社会で広まってまいります。その問題をめぐって、御高承のとおり、例えばスペインと
カナダとの間であわや海軍が出動しかねまじきょうな事態さえ起こったわけであります。
そうなりますと、当然これを何とかしなければならない。そういうことで、昨年、
ストラドリングストック、これはいまだに我々になじむような適当な
日本語訳がございませんが、要するに二百海里内外にまたがっている魚のことでございますが、
ストラドリングストックと
高度回遊性魚種に関する
国連協定というのが昨年の八月にできました。でございますから、既に
国際社会の関心は、公海における
漁業資源の
管理までも含めて地球上のあらゆる
漁業資源が
資源管理に服すべきものであると、そういう
国際社会のコンセンサスが成立をしたわけです。現に、
ストラドリングストックと
高度回遊性魚種に関する
国連条約を批准した国もあらわれております。第一号はたしか
カナダであったと記憶しております。
そういう
国連海洋法条約で定められております二百海里の
排他的経済水域をさらに越えて、その先の
資源をどう
管理するかということまで視野に入れた
国際社会の関心のありよう、そういう状態になっている今日、
我が国でようやく二百海里の内側の
資源管理についてこういう御審議が行われている、そういうことを私は先ほど比喩的に一周おくれて走っている
ランナーという感じがするというふうに申し上げたわけであります。
このことは、単に
国際社会の関心のありようと比べて重大なおくれがあるというだけではなくて、その結果それぞれ
排他的経済水域を設定しておりません日韓中三国
周辺の東アジアの
水域においてゆゆしき事態が起こってきております。端的には、東シナ海及び黄海の
資源状態ということを念頭に置いてお
考えいただければよろしいと思いますが、一九七〇年、八〇年、九〇年とディケードを経るごとに
資源状態はがたんがたんと悪化してきております。にもかかわりませず、この
水域における
漁獲量はふえ続けておりまして、そういう
意味で、
資源状態から見て許しがたい程度の漁獲圧力が加えられているということは疑う余地がないように存じております。
でございますから、この
水域において、
国連海洋法条約に則した、時代にふさわしい、
国際社会の
漁業資源に対する現時点における関心のありように見合った
資源管理体制を確立するということは喫緊の急務であるというふうに存じます。
これは、私ども水産
関係者がかねてからいろいろなところで
排他的経済水域の早期全面設定ということをお願いして回ったわけでございますが、その中では、
我が国の
漁業者の漁具被害の実態でございますとか、あるいは漁具被害以前に、そもそも韓国、中国の大型漁船の操業に威圧されておちおちそばへもいけないというようなことがございました。そういう話が広く伝わっておりました結果、
排他的経済水域の設定の問題を急いでおるのはあたかも
漁業者のエゴといいますか、エゴとまではお
考えいただかないかもしれませんが、少なくとも
漁業者の狭い視野から見てのせっかちな要望にすぎないというふうに思われる向きもないではなかったのでございますが、今申し上げましたように、この
水域において可及的速やかに
排他的経済水域を設定し時代にふさわしい
資源管理を確立するということは、今や
国際社会に対する責務でもあるというふうにお
考えいただきたいのであります。
この
法律案を
提出するに当たりまして、与党三党で日韓、日中問題の処理の仕方について三党
合意というのをおつくりいただきまして、このことによって日韓、日中という難しい
交渉が不幸にして円滑に進展しない場合でも遅滞なく
排他的経済水域の設定、二百海里体制への移行ということが行われるということについて政治的な保証を与えていただいたものというふうに
認識をして、私どもはその点は評価いたしております。
と申しますことは、当然、
交渉の進展状況いかんによりましては、それぞれの
協定の定めるところによりまして
協定の終了通告を行うという
選択肢もあり得るという決断をしていただいたものと
認識をしております。
この点につきまして、世上まま、韓国や中国との間の国際
関係を
考えるとやや乱暴な処理の仕方を想定しておるのではないかという御懸念を抱かれておる向きもあるやに察しますので、一言申し上げておきたいと思います。
アメリカ合衆国が
排他的経済水域と申しますか二百海里
水域を設定いたしましたのは一九七六年の四月十三日でございますが、このアメリカが設定いたしました二百海里
水域と両立をしないということを理由にいたしまして日米加
漁業条約の終了通告をいたしましたのは一九七七年の二月十日でございます。ですから、日米加三国のようにその友好
関係をだれも疑わない国の間でもこういう手続がごく普通のこととしてとられておるわけでございまして、決して手荒なことを想定しておるわけではないということをここで申し上げておきたいと存じます。
次に申し上げておきたいと思いますのは、先ほど
国際社会の
漁業資源に対する関心のありようが変わってきたということを申し上げましたが、このことの
意味するところは、要するにとりたい放題とる、そういう
漁業は今や
存在を許されないということであります。でございますから、この問題は単に
条約の問題、
法律の問題であると同時に、私ども
漁業者の心構え、
漁業経営者としてのビヘービア、そういう問題にかかわることであろうというふうに存じております。
したがいまして、今回御審議中の
法律案によりまして設定が予定されておりますTACの問題、許容
漁獲量の問題につきましても、私どもは
漁業経営の外部から
漁業者に対して強権的に押しつけられるという性格のものであってはいけない。もちろん、最低限の安全保障といたしまして強権的に漁獲を抑制する
法律上の手段は用意されておくべきだというふうに存じますが、基本はあくまでも
漁業者の自主的な行動がおのずと
漁業資源の
保存と両立するように行動する、そういう仕組みを用意することが基本であろうというふうに
考えております。
したがいまして、TAC法の中で想定をされております
協定という手法による
資源管理、これはまさに
漁業者の自主的な
資源管理の典型的なものでございまして、こういうものについてしかるべく制度上の装置を用意してくださっているということは、私どもこの
法律案の重要なメリットとして評価しているところでございます。と同時に、私どもは、公的な措置としての許容
漁獲量の設定に当たっても、可及的に
漁業者が当事者として主体的にデシジョンメーキングに参画をして、
自分たちも納得して決めたTACを自主的に守る、そういう意識が持てるような仕組みと段取りで運営されるべきものであるというふうに
考えております。
法律案を拝見いたしますと、中央あるいは海区の
漁業調整審議会あるいは
漁業調整
委員会の
意見を聞きながら事を運ばれるというふうに定められておりまして、大変結構なことだと思いますが、なおこの仏に魂を入れるためには、
漁業法第一条で「
漁業者及び
漁業従事者を主体とする
漁業調整機構」というコンセプトがそもそも記されておって、そのようなものとして海区
漁業調整
委員会等が位置づけられているという原点を想起してこの問題を処理していただき、この制度を運用していただくようにお願いをしたいものであるというふうに
考えております。
これを実際に今私が申し上げているように運用いたしますためには、
一つの大事なポイントがございます。と申しますのは、今
我が国の恐らく大部分の
水域、大部分の
漁業種類について言えることだと存じますが、これは国際的にも非常に広範に認められる現象でございますが、
資源的に見て許容される
漁獲量の水準と現存する漁獲能力との間に大幅なギャップが
存在するということであります。そのギャップの
存在をそのまま放置いたしますと、今私が申し上げているようなことになりようがないわけであります。
したがいまして、ここは漁獲能力、漁獲
努力量をしかるべく調整しておのずと許容
漁獲量におさまるようになる、そういう漁獲
努力量の調整が必要であるということを
意味しております。その問題を抜きにしては今私が前段で申し上げたようなことはきれいごと、ただの画餅に終わります。でございますから、この漁獲
努力量の調整の必要性ということをくれぐれも念頭に置いてこのTAC制度を運営していただきたいというのが私どもの特に力を入れてお願いしておきたい点でございます。
この点は従来からも決して私は軽視されていたわけではなかったと思いますが、しかしながらいろんな
事情に制約されて思うように漁獲
努力量の整理が行われなかったということは、過去を振り返ってみますといろいろ苦い経験がございます。
現に、二百海里時代に入りましてから
外国の二百海里
水域における
我が国漁船の操業について、時々不名誉な事態が起こったことは正直に申し上げて事実でございます。こういうことも、今になって思い起こしてみますと、やはり二百海里時代に入って定められた漁獲割り当て量に見合うように適切に漁獲
努力量、漁獲能力の調整を行うことができなかった結果生じた事態であるというふうに
考えられます。したがいまして、
我が国自体のTAC制度をつくるに当たって、この前車の轍を踏むことのないようにしていただきたい。私ども自体もそう心がけていきたいというふうに
考えております。
もう
一つ大事な点は、何しろ許容
漁獲量を定めてその中で
漁業経営を行うということは、私ども
漁業者にとりまして初めての経験でございます。御
承知のとおり、現在大変な魚価の低迷、
漁業経営の収支の悪化、そういう状態の中で、このような新しい体制のもとに移行して果たしてうまくいくものかどうかということについて、多くの
漁業者は大変不安を感じております。
私は、新しく生まれるTACの制度を円滑に運営していく、
漁業者が自発的に正直にこの制度を守っていく、そういうことを確保いたしますためには、TAC制度のもとにおいて
漁業経営が持続的に安定的に発展していく、そういう将来についての展望を持つことが何よりも必要であると
考えております。これは、昨年、TAC制度の導入の問題を検討いたしました
海洋法制度研究会におきましても強く指摘された点でございます。その点を
考えますと、単にTAC制度をめぐる問題だけではなくて、
漁業政策全般についてこの際根本的な検討をし、必要な支援措置を講ずるということを
考えていかなければならないのではないかということが当然のように議論の対象になってまいります。
海洋法制度研究会の
中間取りまとめの「
あとがき」の中にもその点がちゃんと書いてございます。
政府御当局におかれましてもこの点は十分お心にとめていただいておりまして、今この席に
参考人としておられます小野先生を座長にした水産政策検討会というのがつい最近発足したばかりでございます。この水産政策検討会は、政府御当局のお心づもりでは、今私が申し上げているような問題に対応する検討を進めていただく、そういうことになっておるように了解をいたしておりまして、この検討作業が円滑に進めていただけて、その結果、実りあるものが出てくるということがこのTAC制度への移行を安心してやれるというためにぜひ必要なことであろうというふうに思っております。
最後に、この問題と密接な
関係がございます日韓、日中の問題について一言申し上げておきたいと存じます。
日韓、日中の
関係の問題として一番広く知れ渡っておりますのは、韓国漁船あるいは中国漁船が
我が国の
国内規制措置を無視していろいろ乱暴な操業をする、あるいは漁具被害がある、そういう問題についてはいろんな形で世間に広く伝わっておりまして、
先生方にも十分御理解をいただいておると思うのでこれ以上申し上げませんが、
一つ申し上げておきたいと思いますのは、実は韓国、中国、この
水域にお互いが
線引きした場合に、韓国、中国の
水域に依存することになるであろうと思われる
漁業種類が
存在するということでございます。
例えば以西底びき業界の場合ですと、平成五年の数字でございますが、
漁獲量の一二%が韓国
水域、二〇%が中国
水域でございます。
我が国の
水域の中での
漁獲量でも、中国との間で争点がございます尖閣列島
周辺水域が一二%あるというような
事情でございます。あるいは遠洋まき網業界、これがやはり韓国
水域に一五%依存しておりまして、それから台湾を含む中国の
水域に八%程度依存しておる。もちろん、今申し上げましたが、尖閣列島
周辺水域にも
かなりの程度依存をしております。
したがいまして、日韓、日中の問題は、
日本水域における韓国、中国漁船の操業をどうやって
規制するか、どの程度韓国や中国の漁獲圧力を減らしていくか、そういう問題の方がとかく脚光を浴びがちでございますが、同時に韓国、中国
水域における底びき
漁業なり、まき網
漁業なりの操業の可能性をいかに確保するかということも、日韓、日中の
漁業問題としては逸すべからざる重要な問題点であることをぜひお心にとめておいていただきたいということを最後に申し上げまして、私の発言を終わらせていただきます。
御清聴ありがとうございました。