○島田
公述人 島田でございます。
私は、一市民の
立場といいますか、国民の
立場から、来年度
予算編成で非常に大きな関心を呼んでおります
住専問題に焦点を当てながら、
日本経済の再生戦略というものをどう考えるかということをお話し申し上げたいと思います。
住専問題に象徴される
金融システムの危機の問題というのは、あたかも心臓や血管など血液循環器系統にがんが発生した、それが転移をした、こういうような
状態であろうかと思います。もしがんであるならば、早期発見、早期治療というのが鉄則でございますが、それに失敗をした、そこで今や大手術が必要だ、こういうことだろうと思います。金融機関の体力ではこの手術に耐えられないということなので、輸血が必要だ、公的
資金が必要だ、こういうことになっているかと思います。
ただ、手術というふうに考えますと、これは常識でございますが、これだけのことをやるときにはインフォームド・コンセントというのをとるのが常識になっております。つまり、患者に十分
説明をして、納得を得て、その上で手術を行うということでございます。
金融システムの大切さということについては、国民はだれも承知しているだろうというふうに思います。ただし、国民の血税を本当に必要で、正しい使い方で使うなら、私は、国民の承諾は得られるはずだ、こういうふうに思います。そしてまた、処置は早ければ早いほどよい、とりわけ国際社会の信用ということを確保するためには、時間の浪費は許されないということもございます。
ただ、現在の
政府案は国民の理解と納得を必ずしも得ていないのではないかというふうに思います。国民にはかなりの疑念がございます。そしてまた、一部に怒りもございます。これを軽視してはならない。これを軽視するとすれば、これは重大な政治・行政不信につながっていくおそれがあるからでございます。
国会論議を通じて
先生方が大変御努力をなさったことは大いに多としたいところでございますが、正直言って、一国民の
立場からいろいろ
資料も読ませていただきましたが、余りに判然としないところが多い。
財政資金について、六千八百五十億円ということがありますが、その根拠というのがどうかということでございますけれ
ども、六兆四千百億円の一次損失、これを母体行、
一般行、農林系で痛みを分け合うということで、ぎりぎりの線あるいは総合的な判断という御
説明以上の
説明がない。
また、理由については、公的
資金は本来、
整理、清算のために
最後の手段として使うべきことであろうかと思いますけれ
ども、果たしてそういうことになっているのかどうか。農林系の金融機関の救済という色彩がないのかどうかということもございます。また、
責任でございますが、つい先日、参考人の多くの方々の証言をいただいたわけでございますが、国民もテレビを注視しておったわけですが、もう
一つよくわからない。
他方、法的
整理という考え方もあります。法治国家でございますから、
破産法もございますし、けさもそういう議論があったかと思いますけれ
ども、こういうものに基づいてきちっと
整理するとどうなのかということも、大いに国民の前に出して議論すべきことなのではないかというふうに思います。そうでなければ、一体何のために
我が国には法律があるのか、このことが問われざるを得ないだろうと思います。
もう
一つ、
経済的影響ももう
一つ判然といたしません。公的
資金を入れなかったらどうなのか、あるいは他の選択はあり得ないのか。いろいろな
それら選択肢について十分
説明をして、なおかつ、本当に納得のいく形でこういう公的
資金を早急につぎ込む必要があるんだということであるならば、私は、国民はそれを認めるのに全くやぶさかではないのではないか、こういうふうに思います。
国民の大きな疑問は、こういうことだろうと思います。
一つは、本当に必要なのかどうか、そして、今行われている案が正しい使い方なのかどうか。国民一人当たり赤ちゃんを含めて五千円と言われていますけれ
ども、二次損失の負担の部分まで入れれば約一万円。しかしこれは、今日の税構造を考えますと、中産階級の普通の家庭にとっては十万円から二十万円の負担になる、相当な大きなものでございます。したがって、相当な覚悟でこれには臨まなければならない。本当にこれだけ出せば済むのか、あるいはこの使い方で
日本経済は
回復するのか、そのことを一番国民は知りたいんだろうというふうに思います。
そこで、大きな疑問がわいできますのは不良債権の規模でございますけれ
ども、大蔵省の当局は、昨年、この規模は約三十八兆円であるというふうに発表をいたしました。しかし、その中にはノンバンクのものは含まれていない。あるいは、共国債権買取機構で十兆円ほど買い取っておりますけれ
ども、これは本当に
処理をまだしてないわけですから、したらどうなるのかということも足し上げていくと、もっと大きいのではないかという専門家の方々の
意見もございます。また、諸外国の専門家は、
日本は実は六十兆円から百兆円あるいはそれ以上の不良債権を抱えているのではないかということがさまざまな
資料で書かれており、また
発言もされております。
アメリカのSアンドLのケースでは、不良債権が十八兆ぐらい、今の為替レートに引き直しますとそのぐらいあったと言われておりますが、これを
処理するのに
財政資金九兆円が使われたということでございます。全く同じ性質のものではございませんから同列に論ずることはできないとしても、もしそういうことを考えると、果たしてこれで
日本経済はよくなるのかどうなのか、見通しがもう
一つわからないということだと思います。
大蔵省は、試算に基づいて、
政府当局は、三十八兆というのが不良債権の総額であり、また、ノンバンクなどには公的
資金は一切出さないということになっておりますけれ
ども、果たしてそういうことで済むのかどうか、国民には大きな疑念が残らざるを得ないと思います。
例えば、それでは木津信用組合の一・二兆円はどういうことなのか。あるいは兵庫
銀行が、三月の時点では五百億円程度の不良債権しかなかった、ところが八月には一・五兆円になって、もちろんノンバンクその他ひっくるめたということだと思いますが、そうであるならば、なおさらもっと大きな問題が背後にあるのではないか。ましてや、共同
銀行方式その他で既に地方自治体の
財政資金が投入されることになっておりますから、こういうことでいきますと、実はこの六千八百五十億円という程度ではなくて、本当の問題はもっとはるかに大きいのではないかということを国民は心配せざるを得ないわけでございます。
一部の専門家の方々は、この問題を
処理するには公的
資金ということで考えても十兆円ぐらいの規模のものが必要なのではないかということを言っておられます。我々が一番心配いたしますのは、実際の姿はどうなんだ。これをきちっと
処理をしていこうと思って正直にやりますと、どのぐらいのものになるのか。今のようなやり方を続けていくと、ずるずるずるずるとなし崩し的に
財政資金が出されていくのではないだろうか。
住専の二次損失は十五年かけてということになっておりますけれ
ども、ほかにモグラたたきのようにいろんなものがあらわれてきたら、一体これはどういうことになるんだということでございます。
そして、恐らく最大の問題は、農協は大丈夫なのかということがあろうかと思います。農協は六十八兆に上る膨大な貯金を持っておられますが、これは相当調達コストが高い。しかし、これをどう
運用なさるのか。これまで
住専に五・五兆円ばかりお預けになっていて、二千五百億円ほどの利子を受け取っておられたようでございますけれ
ども、果たして
住専が
整理されて、その後どういうことになるのか。この膨大な貯金を
運用する能力が果たしてあるのか。
この基本的な問題、我々問わなきゃならないのは、農業そのものが収益力のある投資対象となってくれるのかどうかということでございます。その構造改革ができなければ、農業は衰退せざるを得ない。そうなれば、ずるずるずるずるとモグラたたきのような
状態に陥らない
保証がどこにあるのか。また、農協には足かけ四十万人程度の方々が職を求めていらっしゃいますが、その問題はどうなるのか。
さて、ノンバンクの問題はどうなるのか。ノンバンクには出さないと言っておりますけれ
ども、兵庫
銀行はノンバンクに足を引っ張られているわけでございますから、どういうことになるのか。
あるいは信用組合、信用金庫。もちろん健全な
仕事をなさっているところが多いのですけれ
ども、かつては集金の
組織として非常に大きな役割を
日本経済の
発展のために果たされたわけですが、今
運用能力ということを問われると大変難しい問題がございます。あるいは生保。予定利率をどんどんと下げておりますけれ
ども、果たして生保、損保は大丈夫なのか。
こういうことを国民は考えると、夜も眠れないということではないかと思います。また貧血になるのではないか、そして、信用秩序の維持のためということでまた輸血が求められるのではないか。国民にとって
金融システムは自分の体の一部でございますから、必要なら出さないわけにいかないのは当然でございますが、要するに国民が一番知りたいことは、本当はどうなっているんだ、全体像はどうなっているんだ、何をどうしたら直してくれるのか、この点について突っ込んだ議論を国会でやっていただきたいということなんだろうと思います。これは急がなきゃならない。急がなきゃならないけれ
ども、十分議論はしていただきたい、こういうことだと思います。
これまで
日本の
政府は、とかく言われていることでございましたが、知らしむべからずよらしむべしというような性格があったと言われておりますけれ
ども、そうは思いたくない。重要なことは、全貌をつまびらかにして、国会の場で明らかにして、そして国民とともに
日本経済再生の総合戦略をどう描くかというところへ議論を持っていっていただきたい、少なくともその方向性を示し、その上で国民に受けるのか受けないのかの選択を問うてもらいたい、こういうことでございます。
さて、そこまで申し上げた上で、若干の私論を申し上げて私の問題提起とさせていただきたいと思います。
四つほどのポイントについて触れたいと思いますが、
日本経済再生の戦略をぜひ国会でもう一歩深めて議論をしていただき、こういう考え方でやるんだから国民そろって協力していきましょう、そういう形で国民との社会契約をしていただくということが必要なのではないかと思うのですね。
その一点は、何といっても最大の問題は農業と農協の改革でございます。
そのねらいは、真の
国際競争力のある
産業としての農業に育っていただく。そして、農家の方々の生活の安定と向上を図れるようにする。そして、不可欠でございますが、農協がスリムで競争力のある
企業体になる。こういう一連の改革をどのようなビジョンで行うのか、このあたりのところで突っ込んだ議論をしていただきたいというふうに思います。
現状の
日本の農業は、農家三百六十万戸あるわけでございますが、うち自給農家が八十六万戸でございますから、販売農家が二百八十万戸。このうち専業農家は四十五万戸にすぎません。そして兼業農家が二百三十四万戸、第一種兼業が三十九
万戸、第二種兼業が百九十五万戸ございます。ここでの最大の問題は、
産業としての農業を担う、中核になる専業農家をどう育てるかということなんですね。
ただ、この四十五万戸の専業農家の中身をよく見ますと、実は一部を除けば非常に競争力の弱い農家でございます。むしろ、逆説的ですが、第一種兼業、第二種兼業の方々の方が競争力が強い。といいますのは、ほかに所得がありますから、極端な話をすれば農産物は破格の値段で売ってもいいという競争力があります。
ですから、この問題をどう改革して
産業としての農業を育てるのかということでございますが、私は常日ごろ、
日本の農業はここまで来たら
産業農業と生活農業というのに区分をして、長期戦略として農家に選択をしていただくことをお願いしなくてはならないのではないかというふうに思います。
産業農業としては、近代的で効率的な経営、例えば大規模な農業、技術集約をした農業、そして、都会地に直送をする情報グルメ農業といったようなことで農業が大いに
発展する余地は十分あると思います。
そしてまた、新しい血を入れる、競争力を入れるという意味では、株式
会社、農業
法人というようなものを認める。そして参入を自由化する。そして土地の集約化を進める。一言で言えば、切瑳琢磨をして効率の高い農業を築く、こういうことでございます。これまでは農協が、戦後の経緯がございますから、農業事業については独占をしていらっしゃったわけでございますけれ
ども、もうこの段階に来たら、あえて競争を導入して、農協と株式
会社と切瑳琢磨をするということを認める必要があるのではないか。
そしてもう
一つは、生活農業というものを大切にするということです。自給農家はもちろん生活農家でございますが、高齢福祉農業、あるいは環境保全農業、あるいは都会の子供たちを預かって自然の
教育をしていただく文教農業というようなものもあってもいいのではないか。これは必ずしも農林省の
政策体系ではなくて、他の省庁の
政策体系の中で十分に大事にして、生活農業は大変大切な農業ですから――ただ
産業ではございません、統計からも外す必要がある。ということでやれば
産業農業は十分に育つ
可能性がある。そして、これはよき投資対象となって再生のビジョンの中核になることができます。
日本には一億二千五百万の国民がいて、世界最高所得をはんでいるわけでございますから、世界じゅうから買い付けもしている、農業市場としては世界最良の市場なのですね。そして
日本には、肥料も機械も大変な技術がございます。この農業資源の再編成さえ可能になれば、十分に世界最強の農業をつくることができるのではないか。その
基盤の上に農協というものがさらに
発展をする
可能性がある。
このようなビジョンをぜひこの国会で御議論いただきまして、その上で
住専問題に国民の納得を得る解決を示していただきたい、このように思います。
第二番目のポイントは、不良債権、特に土地ですけれ
ども、この流動化をどうするか。これは急がねばなりません。
不良債権問題の不透明さの大きなポイントは、土地の底値が見えないことでございます。ですから、本当はどのぐらいの不良債権を抱えているのか我々にはわからない。不良債権の
処理が行われておりますけれ
ども、大半は帳簿上の
処理でございまして、実際には売却
処理はごくわずかでございます。したがって、市場価格は見えないのですね。共国債権買取機構が十兆円ばかりの土地を買いましたけれ
ども、これは所有権を移しただけであって、現実の処分とは言えない。
アメリカでRTCが最大の眼目にいたしましたのは、一時は八千五百人の職員を抱えて努力をいたしました最大の力点は、土地の処分でございます、流動化でございます、証券化でございます。大量の土地を売り出せば地価が下がるのは当然だと思いますが、それが市場価値なのでございます。ですから売却を急ぐ。そうしなければ価値がわからない、計画が立たない、売却地の活用ができない。これを急がねばなりません。
最大の今の問題は、実はディベロッパー、不動
産業の方々が最終借り手として土地を持っていて、塩漬けになっていて身動きがとれないということなのですね。これについて
銀行はどうするかということが問われております。これをリファイナンスするのか、あるいは
整理をして
担保を預かって処分をして活用するのか、いずれにしても、この貴重な土地を一刻も早く活用するという方策を考えていただきたいと思います。
三点目を申し上げたいと思いますが、これは金融機関の改革でございます。
今日の金融機関が抱えております最大の問題は、
日本の
経済発展の結果、もはや
資金不足ではなくて
資金過剰の先進国になった
日本の中で、金融機関がそれにふさわしい構造改革、技術革新におくれをとったということから矛盾が噴出しているということだろうと思います。
資金不足のキャッチアップ時代には、
預金獲得
組織として多くの役割を信用組合も信用金庫も果たされたわけでございます。あるいは地方
銀行も都市
銀行も果たされた。しかしながら、今この膨大な
資金の蓄積をどう
運用するかの能力が問われている。その能力が、残念ながら必ずしも我々の望むようなものではない。
そして、特に動きが急速でございまして、自由化、グローバル化の中で大
銀行の資本効率が問われております。リスク管理能力が問われております。これをどうするか。これを
改善いたしませんとモグラたたきになります。
上位
銀行は二十一行、地方
銀行六十四行、第二地銀が六十五行、信金四百二十二、信組三百七十六、農協二千五百、信連四十七、すべて
従業員を合わせますと百万人になります用地銀から信組までで四十六万人、こういう方々でございますが、この方々の
資金調達コストというのは大変高い、そして
運用能力が低い。ですから、このままでは正直言って多くの機関が存続困難になります。
それで、
住専の貸し込みの問題も、実は重要な要因はそこにあったわけでございます。極めて構造的な問題です。上位行は規模が大きいのですけれ
ども、資本効率が低く、利潤率が低い、そしてリスク管理能力が著しくおくれているという大問題がございます。このままいけば必ず自然淘汰が進むということは明らかです。
しかし、自然淘汰を信用秩序の不安リスクというものを最小にしながら行わせていくために、一刻も早く側面援助として不良債権の完全開示を進める必要がある。そして
整理すべきはしっかり
整理をする。その全貌を国民に示す必要があると思うのですね。そしてその
整理のために公的
資金を使うべきだ。そしてそうでないところ、つまり十分に再建の
可能性のあるところ、力のあるところ、これは自力でもってリストラをしていただきますけれ
ども、さまざまな形で支援をする必要がある。
恐らく人員を三分の一ぐらい減らさないと、
日本の金融機関はコストの面からいっても水面に浮上してこないのではないか。それが行われ、
運用能力も高めて体質を
改善された上で初めて、先ほど大場
公述人の言われた、今度は金融機関のサービス業としての雇用をふやすという展望が出てくるわけでございます。
それで、この大
銀行については、
銀行、証券の垣根の撤廃というのは世界の流れでございますから、株式市場、証券市場での能力、リスク管理能力、これを高める必要がある。郵貯の問題も当然この中にはかかわってくるだろうと思います。民営化というような問題も視野に入れなければならないかもしれない。いずれにしても、
日本の
経済にとって最も重要なインフラである
金融システムというものをはっきりと強化いたしませんと、ずるずるずるずると公的
資金をつぎ込んで、
日本は三等国に陥るという危険がございます。
そして、これにあわせて
最後に申し上げたいのは、大蔵行政の改革でございます。
大蔵行政は、キャッチアップの
資金不足の時代、大所高所から
資金配分について有力な役割を果たしてこられた。管理市場、統制
経済と言われましたけれ
ども、一定の歴史的役割を果たしておられます。金融行政については、金融機関を育て、そして資源の配分を指導するという形でやってこられた。しかし、今日では大蔵省の活躍する背景は全く変わっております。
資金過剰時代、ボーダーレス時代、グローバル化時代、むしろ
産業の守護神としてよりは市場のルールを守る機関として編成がえをしていただくことが必要なのではないかと思います。大蔵省の
組織改造問題というのがありますけれ
ども、私はそこには立ち入りませんが、時代が変わっているということでございます。
このような問題の全貌を示して、
日本経済の再生のための戦略の方向性をこの国会で示していただきたい。その上で、改めて国民に選択をさせていただきたい。まさに歴史の転換点で
先生方の英知と勇気が問われているのではないでしょうか。(拍手)