○小野
委員 ありがとうございました。
長官の、今の教育に対する思い、また
研究者の置かれている立場への御見識、大変感銘を受けながら拝聴させていただきました。
加えまして、私
自身の思いをこの問題について語らせていただきたいと思うのですけれ
ども、昔、ある雑誌で石を煮る母親というタイトルの文章を読んで、ひどく感銘を受けたことがございました。
簡単に御
紹介申し上げたいと思うのですけれ
ども、音といいながら一九九一年のことのようでございますけれ
ども、飢餓をなくそうということで世界各国から約五百人の人が集まっての国際
会議がこの東京で開かれたのだそうであります。その場で、ある一人のアフリカの女性が立ち上がって、会場の人たちにこんな話を御
紹介したと言われるのです。
石を煮るんです。何も食べるものがなく、子供たちがおなかをすかせて泣くとき、母親は、まるで芋を煮ているように見せかけて石を煮るんです。そして、これがやわらかくなったら食べようねと言うんです。子供たちはじっと待ちますしばらくすると、まだ食べられないのと子供たちが聞きます。もうすぐだからね、待ってねと母親は言います。子供たちは何度も何度も聞きます。そのたびに母親は、もう少し待ってねと言い続けます。やがて子供たちは、待ちくたびれて、疲れ切って眠ってしまいます。子供たちが眠ると、母親はそっと火を消すのです。
こういうふうなことを御
紹介したと言われるのであります。貧困地帯に生まれ落ちたがために、これほどのやるせない業を背負わねばならない母親の姿を語った話であろうと思います。
先ほ
どもお話し申し上げましたように、私は、かつて
技術の世界に身を置いていた人間でございます。
大学時代、またさらに少年時代、
科学技術に大きな夢を抱いて、全身全霊を傾けて、この
科学技術の世界で取り組んでいた時代がございました。
その当時の
自分自身を思い返してみますと、この
科学技術という巨大なそして
可能性に満ちあふれた道具を使えば、人類というのはどこまでも幸せになれるんだというような夢を持っていたように思えてならないのでございます。長い歴史の中で人間は、いろいろな問題を抱えながら、苦悩し闘いながらこれまでの歴史を築いてまいりましたけれ
ども、その新たなフロンティアを
技術こそが切り開いていけるんだ、こんな信仰に似た気持ちを持ちながら取り組んでいた青年時代を今のことのように思い返しております。
そんな私がなぜ今政治家をやっているかということでございますが、一言で申しますならば、人生の岐路において大きな迷いを持ったからだと思うのです。その迷いとは、
科学技術が先ほど申しました人類の救済といった高邁な理念に立つものであるのかどうか、この点に大きな迷いがあったように私は思い返しております。
具体的に申しますと、
科学技術の進展とともに人は幸せになるはずだと思ってまいりましたのに、次々に新たな公害問題が生まれてまいりました。また、極端なケースでは、原子爆弾のような大量殺りく兵器が生まれてきて、人を幸せにするはずの
技術が人を一度に大量に殺してしまうというような事態も起こってまいりました。
科学技術の
研究者の中には、ノイローゼに悩む人たちがふえてきて、自殺者もその中から生まれてまいりました。
科学技術者の仕事がだんだんと細分化して、しかも、その先端部分がどんどん前へ進んでいくことから、仕事の達成感と言われるものも薄らいでくるような気配も私は感じておりました。
そして、それらに加えて、さきに述べたアフリカの貧困のような問題に対して
科学技術がなかなか的確な答えを提出し得ないというのみならず、回り回れば、
科学技術こそが逆に貧困者を生み育てているというような社会
現象も見られたわけでございます。
そんなさまざまな問題を
考え、迷うときに、偶然の出会いがあって、
技術研究者の道を捨てて政治家の仕事をしているというのが私の今の立場でございますけれ
ども、言ってみるならば、
研究者としての
自分の人生から、ある意味では挫折をしてしまった一人の人間だと
考えております。それだけに、今の
科学技術の世界の問題について我が事のように感ずる部分があるわけでございます。
端的に申し上げますならば、今の
科学技術の中には、人類を助け人々を幸せにするというような魂が衰弱化している部分はなかろうか、そんな思いを持ってならないのでございます。先ほどのオウム真理教に走ってしまった
科学技術者の問題にいたしましても、彼らの心の中における
科学技術離れというような問題が起こっていたのではなかろうか。
平成六年度の
科学技術白書によりますと、若者の
科学技術離れという問題を大きく取り上げられて、子供たちの
科学技術への関心が年とともにだんだん薄らいでくる、
技術系を志望する学生の数がだんだん減少してきているというような、外形的な数字でとらえた問題が
指摘されておりましたけれ
ども、その数字では取り上げられない
技術者、
研究者の心の中の空洞化問題、また、心の中で
科学技術というものが本当に共鳴を起こし得なくなっているというような
現状について、我々はいま一度振り返って
考え直すべき問題があるのではなかろうかというのが私の率直な気持ちでございました。
そんなことをつらつらと
考えております中に、実はある言葉に出会いまして、はっと思うものがありました。その言葉とは、著名な陽明学者でございます安岡正篤氏の物の
考え方ということについて書かれた言葉であったわけであります。それは、今の
科学技術行政のみならず、今の社会全般を
考える上に非常に大きな示唆に富んだものであるように私は感じております。
それは何かと申しますと、第一には、物を
考えるに当たって、目先にとらわれず長い目で見ることが必要だというのであります。そして第二には、物事の一面だけを見ないで、できるだけ多面的、全面的に観察する姿勢を持つことが大事だというのであります。そして第三には、枝葉末節にこだわることなく根本的に考察すること、こういう三つの条件を語っているわけでございまして、このような
考え方で政治を行う者は取り組まねばならない、こう安岡氏は語るのでございます。
この三つの条件というものが今の
科学技術行政の中に反映できれば、先ほど申し上げました
科学技術が魂を取り戻し得るのではなかろうか、こういう気持ちを私は抱いている次第でございまして、ぜひともこの点について、
科学技術庁、
長官のみならず、職員皆さん方の御
検討をお願い申し上げたいと思うわけであります。
その中から、きょうは幾つか質問をさせていただきたいと
考えております。
まず第一の、目先にとらわれず長い目で見ることということについてでございますけれ
ども、これはもうこの言葉のとおりでございまして、短期的な
成果をむやみに追い求め、うたかたのごとく生まれては消える騒々しさに身を置くのではなくて、大きく時代の流れを認識し、決してその
活動が派手ではなくても、また注目を集めることが少なくても、遠き未来を展望しつつその未来を信じてなすべきことをなす姿勢だ、こういうふうに要約することができようかと思います。
その長期的な新展望に立つ
考え方の中には私はまた大きく三つ要素があるように
考えております。
一つは、人づくりの視点であります。真に有力なる
研究者の育成というものは、短期的に目の前でできるものではなくて、長い時間をかけながら養成していかねばならないものであるという自明のことでございます。
それから第二には、基礎
研究の視点でございまして、真に大きなインパクトを後世に残すような
研究というのは、騒々しさの中から生まれ出るものではなくて、
研究者の深遠なる思考とたゆまぬ
研究活動の中から生まれ得るものであるということを再確認することだろうと思います。
そして第三は、国家としての
科学技術における基礎的パワーをきちんと養成していくということでございまして、これは言いかえればインフラの視点と申し上げることができるかもしれません。具体的には素粒子
研究を行うような巨大な加速器の建設とか、海洋
観測・開発のために高額のお金をかけて実験
観測船を整備するとか、高速増殖炉等の原子力分野の基礎的な
研究を進めるとか、また宇宙開発を進めるということで、現在
科学技術庁の皆さん方が力を入れて取り組んでいただいているような問題でございますが、準備に長い時間を要しそして大きな建設費を要するような事業に思い切って果敢に挑戦していくということになろうかと思います。
これら三点のそれぞれについて幾つか
お尋ねしたい点があるわけでございます。
まず、人づくりの視点ということを先ほど提示させていただきましたが、その人づくりの問題の中でやはり一番基礎的な部分からというと、子供時代からの
科学技術への教育であり、そこへの触れ合いを設けていくということだろうと思います。
そんな視点から
考えましたときに、私が最近注目をさせていただいているのが宇宙少年団という団体の
活動でございまして、
科学技術のボーイスカウトと申し上げたらよろしいでしょうか、子供たちが寄り集まりながら
科学技術のこと、例えばロケットを打ち上げてみたり、宇宙の
観測をしてみたり、また基礎的な
科学実験を行うというようなことをみんなで行いながら、時にはボーイスカウトのジャンボリー
活動のようなものも展開しているのがこの宇宙少年団という団体でございますけれ
ども、この宇宙少年団の
活動について、ぜひいろいろと御支援といいましょうか、今後の
科学技術庁としての
応援方をお願い申し上げたいと思います。
今、サイエンスクラブだとか出前レクチャーだとか、いろいろな取り組みをしていただいているわけでございます。これらの評判は非常にいいものがあると私
ども聞いておりますけれ
ども、やはり子供たちに本当に
科学技術に関心を向けさせるためには継続的な
活動が必要であるというような視点からも、これは大変私
どもが大事にしていかなくちゃならない
活動だと思う次第でございます。
宇宙少年団の
活動のこれまでの実績そして今後の
活動方針、並びに今まだ十分な
広報活動が整っていないような気持ちがいたしておりますが、その
広報に対してどのような取り組みを進めていくということを御指導されようとしておられるのか、この点について
お尋ねを申し上げたいと存じます。