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公述人(松田栄子君) 先ほど御紹介いただきました
ように、私は、現在連合
宮城女性
委員会事務
局長を務めております松田と申します。
本日の
介護休業の
法制化審議に当たりまして、当公聴会の
公述人として
意見を述べる機会を与えていただきまして、ありがとうございます。
法案の成立を望む連合組合員として、また
介護にかかわる問題に深く関心を寄せる働く女性の一人として発言いたします。
女性の労働環境はこの十年で目覚ましい変化を遂げました。一九八五年の女子差別撤廃条約の批准、一九八六年の男女雇用機会均等法の施行、一九九二年には男女
労働者を対象とした
育児休業法が施行され、今年からは三年間の猶予
期間が与えられておりました中小を含むすべての
事業所が
制度導入を
義務づけられ、さらに当面の
措置ということですが二五%の
所得保障もされることになりました。何と恵まれた時代になったものだと感心するとともに、これらの
法制化に向けて尽力をされました
関係者の皆様に深く敬意を表します。
しかし、
制度というものは利用する人間、実際にかかわる
人たちがそれを理解して活用し、少しずつ改善を加えながらよりよいものにしていく努力を繰り返していかなければ実効あるものにはなりませんし、一方、予測される事態を推察し問題発生を未然に防いでから制定することも新しい
法案には有効な手段だと思われます。
男女雇用機会均等法はどうだったでしょうか。女性の期待を集め誕生しましたが、罰則がないこと、努力
義務に過ぎないことなどが影響し、採用、賃金、昇進、昇格、教育、どれに対してもいまだ
労働者からの不満が絶えず、調停
制度もほとんど機能していません。逆に、
制度を読み違えた使用者側から基準法の枠を超える
ような不当行為が提示されることもあり、早急な
改正が求められています。
育児休業法については、今年度からの本格運用、
所得保障の成果が期待されるところですが、これまでいろいろな問題が散見されています。男女ともに対象とはうたわれているものの、生活賃金や復職後の
勤務の不安から利用者は圧倒的に女性でした。男性はリスクを負うことができないからです。言いかえれば、女性はリスクだらけの存在だということです。
依然として、結婚したらやめなければならない、妊娠したらやめなければならないという風潮も残っています。本人の
意識もさることながら、職場や家庭、保育施設など周囲の環境、使用者側の無理解も大きな障害です。
労働基準法の女子保護
規定についても、時間外労働や深夜
勤務などの規制緩和に対し
意見が賛否両論に分かれています。職種によって、年齢、環境、その他
立場の違いによって女性
たちの反応も変わるのですが、機会均等なのだから女性も男性並みに働くべきだという発想は、年間総労働時間を減らし欧米並みの千八百時間を目標としている今の
流れとは逆行していると思います。
働く現場にはこの
ように常に不安と不満、そして要求があふれています。私
たち連合
宮城では、毎年女性にかかわる諸問題をテーマとして取り上げ、学習会、要請行動などを行っています用
意見、要望は多項目にわたり、一体どれから取り組んだらいいものか荘然となるほど課題は山積みです。
これら
法律の条文だけでは対処できない事柄について、私
たち労働者が事実を積み上げ地道に改善要求をすることはもちろん必要ですが、本来
労働者のための
最低の基準であるはずの労働基準法が、多くの職場において実際は上限扱いとなっているのが
日本の
実態です。まず政策があり、しかもそれをより望まれる形でつくるべきということを考慮するべきです。だからこそ
法案が重要であり、
法案がよりよいものであることが必要だと思います。そして、それを強く望みたいのが本日の公聴会のテーマである
介護休業法です。
昨年の秋、婦人少年問題
審議会婦人部会において、
介護休業についての本格
審議が開始されたのを受け、連合
宮城では
高齢化社会に向けた
介護と福祉を考えるための集会を開きました。
当日は、仙台市の現役ホームヘルパーを講師に招き、実際に
介護に携わる
立場からの
報告、
意見、そして待遇に対する訴えなどを話していただきましたが、常勤、非常勤、委託と分けられる不安定な身分、人命を預かるという肉体的、精神的労働に十分見合ったものとは思えない賃金の
実態などを初めとするお話は参加者にとって衝撃的なものでした。
また、自分や
家族が
介護を
経験した参加者からの切実な
意見、要望は、現状に対する認識不足を思い知らされ、取り組むべき問題の大きさに気づかされました。中には、
制度がないために退職して
介護に当たったところ、病人がわずか一カ月で亡くなり、復職も再就職もできなくなった痛ましい例もありました。
安上がりな福祉が実行されていると感じた、今の
日本の
状況を見ると楽しい老後なんて言っていられない、今まで
高齢化社会のことなど考えていなかったけれども話を聞いてパニックになったという参加者からの感想が寄せられています。
平成四年に
宮城県が千四百人の県民を対象に行った県民の
意識調査でも、老後の生活に不安を感じる人は六一・〇%に達し、不安を感じない人三三・四%の倍近くになっています。その内訳としては、自分の健康状態、特に自分が寝たきり状態になることへの不安と配偶者を
介護することへの不安が圧倒的に多く、経済、住居、
子供との別居などの不安を大きく引き離しています。
この
ように県民が将来への不安を募らせている中、では行政はどうなっているでしょうか。
宮城県は
日本一の福祉先進県実現を目指し、
宮城県
高齢者保健福祉計画、いわゆる「
宮城いきいき長寿二〇〇〇プラン」を策定し、
平成十一年達成を目指し現在
実施中です。その
内容は、保健、医療、福祉の一体化、保健福祉施設の
充実など、具体的には特別養護老人ホームのベッド数を現在の約二倍の四千八百床に増床する、老人保健施設の
整備、病院のベッド数を六百三十七から五千百床へ増床するなどですが、基本となる考えは在宅ケアに置かれています。ホームヘルパーを千九百人確保し、デイ
サービスセンターを二百五十カ所
整備、ショートステイのために千床
整備などと計画されていますが、国家的福祉体制の整った
スウェーデンなどとは違い、
日本のこれらつけ焼き刃内在宅ケアの考えは、家に必ずだれかがいる、
介護人が存在するということを前提としなければ成立しません。
現在の
日本において、だれかとはすなわち主婦、女性のことを指しているのが
実態ですが、女性の
社会参加、就業率が高まっていく中で今後ともそれが実現できるでしょうか。今までの
ように、
家族のだれかが病気になったとしたらやはり女性はあきらめて仕事をやめなければならないのでしょうか。いえ、病気や老化がだれにでもひとしく訪れるものであるなら、
介護や看護は女性の仕事と考える先入観
自体を改めなければこれからの福祉は成り立たないと思います。
さらに、この四月に批准した
ILO百五十六
号条約のとおり、
家族的
責任を有する男女
労働者が、「職業上の
責任と
家族的
責任との間に抵触が生ずることなく職業に従事する
権利を行使することができる
ようにすることを国の政策の目的とする」ならば、仕事も家庭も犠牲にすることなく人としての
責任ある行為を全うできる
よう制度を整えなければなりません。
その
意味で、このたび
介護休業法案が
審議され私
たちの
意見をお聞きいただけることはこれからの
社会に対する光明であると思いますが、せっかく制定されるものならば、先ほど申し上げました
ように、該当する
労働者が利用しやすい
ようにより実効ある
内容で成立してほしいと願います。
連合
宮城を代表しまして、私は、ここに
介護休業法
政府案に対する三つの修正と
一つの補強について
意見を申し上げます。
まず第一に、
介護休業の
期間についてです。
政府案は
介護休業の
期間が三カ月となっておりますが、これでは短過ぎるのではないかと考えます。入院先、
介護人を探すまでの猶予
期間ならこの程度であろうという
考え方、実際の取得
状況からの実績などを根拠としている
ようですが、判断材料として妥当なものであるとは言えません。
施設の数が十分でない
状況で、例えば
宮城県においても、特別養護老人ホームの現在入所者が三千三百八十四人、待機者六百九十八人という数字がありますが、三カ月待ては施設に入れるという保証はどこにもありません。方々を探して、待って、あっという間に三カ月が過ぎたとき
状況に何の進展もなかったらどうするかと考えると、怖くて休むことができません。
また、
所得保障がないために休めば休むほど生活が苦しくなる当然の事態を考えれば
休業期間は短くせざるを得ませんが、実際に三カ月
未満の利用者の
意見を聞くと短かったと答えています。三カ月は、統計的な数字の上では多いのですが、これはまだ
介護休業制度が十分に職場に浸透していない現在の厳しい条件のもとでのぎりぎりの最大値なのです。
この
法案の解釈として、
対象家族の
範囲を配偶者の父母や
兄弟姉妹まで広げているのだから交代で三カ月ずつ
休業すれば長期の
介護も可能であるという見解もある
ようですが、その
ような希望的観測は普遍的に成立するでしょうか。
実際に、私の祖母は十年ほど前約一年の寝たきり状態の末に亡くなりましたが、その間
介護は嫁である私の母がほとんど一人で行いました。サラリーマンの息子の私の父親や入社間もない残業続きの孫、私のことです、が戦力にならなかったのみならず、祖母の実の娘
たちもそれぞれの
事情で全く当てになりませんでした。絵にかいたもちは絵にすぎないのです。
公的介護施設の設置
状況がおくれている現在の
状況を考えますと在宅ケアを支援する方針のみが進んでいくと考えられますが、そうなるとなおのこと三カ月ではなく、
育児休業並みの一年間は必要だと考えます。その長さがあって初めて、
介護を理由とした退職者の増加に対する歯どめとなり、職業生活と家庭生活の両立を図る法の目的にも沿うのではないかと思われます。
あわせまして、
勤務時間の短縮等の
措置につきましても
期間を一年間とし、断続的取得や
介護休業との組み合わせも可能とするなど運用方法を改善することによって
制度の利用率も高まり、使用者、
労働者双方に有効ではないかと思います。
第二点目として、取得の
回数について申し上げます。
法案では要
介護状態にある
対象家族一人につき一回となっていますが、長い一生の中で
介護を必要とする病気は
一つと決められるものでしょうか。職業を継続するチャンスは、
家族のだれかが二つ病気をしたら絶たれるものでしょうか。
介護は
育児とは違います。
子供が日一日と成長するさまを追うものではなく、病状が少しでも好転することを願って、いつ終わるとも知れない病気と闘うものです。医師の診断書などの提出によって、断続的な取得ができる
ような
制度になることを望みます。
三つ目は、
施行期日についてです。
一九九九年四月からとなっておりますが、これでは遅きに失した感が否めません。
老人ホームなどの公的な施設が不足し、入所待機者が多く、
介護のために離職する人が後を絶たない現在だからこそ
介護休業制度が必要なのであって、新ゴールドプランが計画どおり達成されるとしたら、それでもまだ不十分なのですが
家族の
負担はかなり緩和されることになりますから、あえて
法律に守られて
休業しなくても
介護の手だては講じられていくことになります。
介護休業法が必要なのは今、自治体等の支援体制が整うまでまだ待たなければ、
家族が頑張らなければいけない今なのであって、できれば来年からでも施行していただきたいと思います。
一九九九年施行の根拠として、
育児休業の
ような猶予
期間を置いての段階的導入ではなくて一斉導入を目指すのであれば
中小企業等の救済
措置が必要である、準備
期間が必要であると言われていますが、
制度導入がおくれているのが
中小企業であり、
中小企業に働く人こそ一刻も早く
法律の制定を望んでいることを考えれば、問題は準備の時間なのではなく
中小企業等に対する国の経済的な支援です。
初めに申し上げましたとおり、現在の
日本の労働条件は
法律を上回る状態にはありません。
法律並みの上限が設定できればよしとしています。ならば法の制定がまず第一であり、
企業が法を遵守できる
よう指導を図らなければ実効は望めないと思います。
最後に、
休業中の
所得保障について
意見を申し上げます。
現在、
介護休業制度を導入している
企業のほとんどは無給であり、
法案では施行までの
検討事項として、
内容には触れられておりません。しかし、
介護には費用がかかります。
ことしから二五%の
所得保障が導入されました
育児休業でも、これまで普及の障害となっていたのは収入が減ることによる生活費の不安でした。先の見通しがつく
育児休業でさえお金の不安が大きいのに、病人を抱え、あるいは回復の見込めない痴呆などの
高齢者を抱えることになる
介護においてお金の問題は避けて通れません。財源があっての話ですから私
たちには金銭的な要求はすぐにはできませんが、
制度導入と同時に、
最低でも
育児休業並みの
所得保障がされる
よう強く望みたいと思います。
以上、三つの修正と
一つの要求を申し上げましたが、これらは別々の次元にある問題ではなくそれぞれ絡み合って影響し合っているものです。
生活費の不安などのために、たとえ
制度が一年あっても全部休職する余裕がなく三カ月で打ち切ったという現実が、一方では実績として三カ月で十分という根拠になってしまう
ようではいけません。
さらに、申請方法の簡素化も必要です。実際に新聞に載っていましたが、病人の状態を見ながら、限られた
期間しか休めないからぎりぎりまで待とうと辛抱して待ったあげく容体が急変して、急いで申請しても二週間待たされ看護が間に合わなくなり病人が亡くなってしまったりなどという事態が起こったとしたら、
介護休業という
制度そのものの欠陥を恨むことになってしまいます。
私にも、六十歳をともに過ぎてこれから年老いていく両親がおります。連合の一員として、
介護の不安を抱える一
労働者として、長年待ち望んでいた
介護休業が
法案として
審議されることになった事実を私自身まず素直に喜び、成立に大きな期待を抱いております。多くの
労働者が生活や雇用の不安なしに憂いなく
制度を活用できる
ような
内容で
介護休業が一刻も早く成立できる
よう、
国会の場であらゆる方面から
検討していただきたいと願ってやみません。
以上で発言を終わります。ありがとうございました。