○
参考人(
亀田弘行君) 京都大学の
亀田でございます。
私の
専門はもともと土木工学、土木
耐震学の分野でございまして、以前はそういう
意味で土木
構造物、主として橋梁であるとか鉄道の
構造物の
地震対策といったような構造工学的な部分をやっておりました。その後、
ライフラインシステムの
地震防災というところに徐々に入ってまいりました。それと同時に、今回の
地震でもいろんな議論が行われておりますが、その
構造物なりいろんな施設に作用する
地震の力、これが非常に推定が難しい、不確定性の高いものであります。そういうものをどういうふうに見積もっていくのかというふうな研究をしてまいりました。数年前から防災
研究所に移りまして、
都市施設
耐震システム研究センターという
組織で
都市の
地震防災全般をいろんな分野の方々と共同研究をするというような
活動を行ってまいりました。そういったバックグラウンドからきょうは
お話をさせていただきたいと思います。
今回の
地震による
被害、先ほど
村上先生の
言葉にもありましたように、多くの
専門家がやはり現代の
日本の
都市の
耐震性がこのレベルであったかということについては正直申して驚きを持って迎えている部分ございます。そういう
意味では、私自身も
耐震工学に長い間携わってきた者としての責任も感じております。
こういった観点からいろんなことを考えているわけでございますが、非常に多くの問題がございますので、私としては先ほど申しました私のバックグラウンドから
お話しできることということで限定的に申し上げたいと思います。
計画論的なことにつきましては、
高山先生、
村上先生から十分な
お話がありました。そういう
意味で、私自身は
耐震技術ということを
中心に
お話ししたいと思います。ただ、
耐震技術というのは、物を丈夫につくるということだけではなくて、
災害時にどのように
対応していくかという事後
対応についてもいろんな技術的な問題がございます。そういう
意味では、ハード、ソフト両方含んだ問題としてとらえていきたいと思います。
それで、
資料をお配りいただいておりますけれども、表紙をめくっていただきますと、きょうの概要ということで三つのことを
お話しするという
計画をしております。
一つは、兵庫県南部
地震。この
地震は非常に特殊なものであったという表現も時々とられるわけですが、これは本当に特殊なものなのかどうか。特殊とすればどういう点が特殊なのかということをやはりひとつ踏まえておくことも必要だろうと思いますので、この点を
お話ししたいと思います。特に
都市直下型地震、それと最近
日本を襲ってまいりました海洋型
地震の
災害との
比較をしてみたいと思います。それから、
地震動が非常に強かったわけですが、それがどのような性格のものであるかということを簡単に見たいと思います。
それから、
阪神・
淡路大震災における土木施設の
被害でございます。
私は、土木分野に責任を持つものですからこういう表現をしておりますが、
建物関係についても少し言及をしたいと思います。それは、やはり
耐震技術の特質とか発達の経過をきちっと正確に踏まえた上で評価すべきだと思いますので、そういう歴史的な展開も含めて今回の
被害との関連を見てみたいと思います。
最後に、今後の課題として、安全な
都市へ向けての合意形成をどういうふうにしていくのか。特にここは国政の意思決定をしていただく立法府でございますので、そういうことへ向けての安全に対する合意形成をどのようにつくっていただけるかということ、これもたくさんの問題がございますが、私の
専門から
お話しできる
耐震技術の課題、それから
安全性というものをどのように見るのかということについて簡単に
お話しさせていただきたいと思います。
それで、
資料、幾つかの図や表をつけておりますが、こういうものを補足するために少しOHPも使いながら
お話しさせていただきたいと思います。
一枚めくっていただきますと
資料一というのがございます。この
資料一は、明治以降の主な
被害地震、
被害のほかり方というのはたくさんあるんですけれども、横向きの棒で死者、行方不明の数を示しております。全部で三十二の
地震を挙げております。百年ちょっとで三十二ですから、非常に頻繁に
被害地震が起こっているということはこれを見ておわかりだと思います。ただ、この中で福井
地震というのが下の方から三分の一ぐらいのところにありますが、昭和二十三年の福井
地震以降、その福井
地震で三千七百人余りの方が亡くなって以来、
日本ではこれほど大きな死者を出す
地震は起こっておりません。
幾つかの理由があろうと思います。
一つには、
耐震技術の進歩ということも確実にあったと思います。それと同時に、
都市直下型地震がなかったということがあるわけで、この五十年間が
日本の
地震災害という面では非常に幸運な時期であったということは言えようと思います。
それから、もう少し中身を分解してみたのが
資料の二でございます。
これは、この中の幾つかの
地震、全部で二十六個の
地震をピックアップしておりますが、真ん中のところの
地震名と書いた左側に海洋型
地震、右側に
直下型
地震というふうに書いております。これは、ここにOHPで見ていただきます。(OHP映写)これが、
日本書紀などの古文書にも
被害地震のことが出てくるわけですけれども、そういうものを一切合財ひっくるめまして
日本でこれまでに何らかの
被害をもたらした
地震の起こった場所を全部示したものです。これを見ていただきますと、海中、太平洋側とか、それから北
日本の
日本海側で
地震が起こっております。こういうのを海洋型。いろんな
地震学的なメカニズムもあるんですが、そういうことは今省きまして、そういうところで
比較的大きな
地震が起こります。
それから、内陸部で非常にたくさん
地震がある。
地震がないと皆さんがこの五十年間思っていた
関西も、これで見ますと真っ黒であります。歴史をひもとくとこういう事実が厳然としてあるということでございます。
そういうことで、海洋型、
直下型を分けてみます。それからもう
一つ、星印を幾つかの
地震名につけておりますが、これが
都市部に何らかの
被害をもたらした
地震ということです。海洋型の
地震というのは、
比較的
規模が大きくてちょっと離れたところで起こりますので、結局広い範囲に影響を及ぼして、左側の海洋型
地震には全部星印がついています。
それに対して、
直下型
地震というのは、これはいろんな見方がございますが、星印をつけましたのはこの中で全部で十四回あるうちの五つ、約三分の一が
都市を襲ったということになります。
ということで、
直下型
地震も海洋型も、これを見ますと、下の方に数字で示しましたように、平均して十年に一回ぐらいはどこかで起こっております。
直下の場合は、それがたまたま大
都市圏の近傍で起こりますと大きな
被害をもたらすというわけです。
そういう
意味で、
都市直下ということは確率的にはかなり低い
地震である。特に、福井
地震以来五十年間、そういうことは起こらなかったということ。そうして近代的な
耐震技術というのはこの三十年間ぐらいの間にずうっと発達してきた。それは主として海洋型の
地震による
被害をベースに発達してきたということでございます。
六四年の新潟
地震ですが、それの右側に
日本初の強震記録ということを括弧の中に入れておりますが、大
地震のときの揺れ方をきちっと科学的に測定して初めて
地震による力というのはどれぐらいのものであるかということを数字であらわすことができるわけで、
日本で初めてそういう記録がとれたのが昭和三十九年の新潟
地震でございます。
ということで、
直下型
地震による
都市災害というのは、明治以降も現実には起こっております。そういう
意味で、決して今回の兵庫県南部
地震だけが特殊な
地震というわけではありません。しかしながら、こういう科学的な
耐震工学がずっと発達してきてからは初めての
地震だと。そういう
意味では特殊であるというふうな理解が最も現実に近いのではないかと思います。
それから、この絵はごく簡単に海洋型の
地震と
直下型
地震の
被害範囲の広がりを簡単に示したもので、右側の方に関東
地震による
震度五以上の
地域があります。左上の方に福井
地震というのがあります。関東
地震では最大
震度六であったわけですが、福井
地震は非常に激烈な
地震でした。
被害の範囲はあのようにもう非常に違います。
直下型というのは局所的に非常に激しい
被害をもたらす。福井
地震の
被害はそれまでの
震度六では到底説明できないということで、この
地震の経験から初めて
震度七というのが設定されたということになります。
今回、
日本が初めて経験した
震度七であるという報道が時々行われますが、それはそうかもしれませんが、正確に言いますと福井
地震を見て初めてつくったのが
震度七ということであります。そういう
意味では、今回の
地震は
都市災害のタイプとしては福井
地震の再来であるという見方もできようと思います。
それから、
地震の起こり方はそういうふうな理解で、じゃ
地震動はどうなのかということ。今回非常に激しい
地震動が得られた、記録されたということがございます。
資料の三をあけていただきまして、上の方には主要な強震記録の最大加速度が表になっておりますが、この細かいことは省きまして、下に
建設省の方でうまい絵をつくっていただいたので引用しておりますが、得られた加速度の大きさを丸の大きさで示しているというのがございます。六百ガルというのは要するに重力の加速度の六割ぐらいというふうにお考えいただいたら結構なんですが、それを超える記録がこの震源の近傍では得られている。
こういうものは、一昨年の釧路
沖地震の記録というのが唯一の例外で実は存在するんですが、
専門的にちょっとややこしくなりますから、その
地震の記録をちょっと省きますと、それまでに得られた我が国の新潟
地震以来の強震記録と比べて、これは非常に大きな
地震動であります。
耐震設計された
構造物がいろんな
意味でなかなか
対応をし切れなくてたくさんの破壊が出たということについては、こういうことに
対応していなかったということはやはり事実であろうと思います。
それとともに、ではこの
地震動そのものも特殊なものであるかどうかということがもう
一つあります。これにつきましては、こういう
都市直下型地震の記録が
日本でとれたのは今回が初めてでございますので、そういう
意味では特殊であります。しかし、先ほど
村上先生の
お話に出てまいりました昨年のノースリッジ
地震も震源の近くでたくさんの記録がとられています。そういうものもひっくるめまして
比較すると、決して特殊なものではないということになります。ここのOHPで示しております絵は、赤い点が今回の兵庫県南部
地震による記録です。左側のブルーで囲ったあたりが震源のすぐ近傍、断層から十キロ以内でとらえた距離、横方向が距離をあらわしています。
線が三本ありますが、その真ん中の線がこれまでのいろんな強震記録に基づいてマグニチュード七ぐらいですとどの
程度の
地震動の強さになるだろうかということを、ノースリッジ
地震の記録も一緒にして分析したものでして、あの太い線、真ん中の線の大体、ばらつきがかなりありますけれども、両側にわっとこう今回の
地震の記録もばらついております。
ですから、マグニチュード七前後の
直下地震が起こりますと、この断層のすぐ近傍ではこの
程度の
地震動が発生するんだということは決して特殊なことではないということが、これもごくごく最近の問題としてこういうふうにわかってきたということになります。
私が言いたいことは、こういうことはわかっていたんじゃないかなんというようなことではなくて、むしろ将来の
地震においてはこういうものがやってくるんだということを
前提にしてこれからの
対策をきちっとやっていかなければならないということを言いたいわけであります。
それから、
地震と
地震動につきましてはこういうふうに理解をいたしまして、
耐震工学、今回いろんなたくさんの
構造物が壊れまして、私自身も非常に内心じくじたるものがあるわけですけれども、
耐震技術そのものを十把一からげでいいのか悪いのかという議論が少し行われ過ぎかなとも思いますので、若干、
耐震技術がこれまでに発達した経過をごく簡単に振り返りたいと思います。
資料の四に、
耐震工学の展開、
耐震基準に見る
耐震工学の展開ということを簡単にまとめております。いろんなことがこれもございますが、簡単のために建築
関係と
道路橋の
耐震基準
関係だけに的を絞っております。
耐震基準は、その時々の
耐震工学を反映して何度もレベルアップしてきておりますので、それに特に影響を与えた
地震というのもやはりございます。そういうものを左側に書いております。
関東
地震が起こってから後に世界で初めての
耐震基準というものがつくられました。それから、福井
地震のすぐ後、
建築基準法がつくられておりまして、これが現在の
耐震設計法の
一つの基礎を築いた、現在に直接つながる基礎を築いたと考えられます。
それからその後、十勝
沖地震とか宮城県
沖地震というのがありますが、これは剪断補強とちょっと
専門的な用語になりますが、今回の
地震で非常に大きな
被害を受けた鉄筋コンクリートの
構造物は、鉄筋によってコンクリートをいかに強固に縛りつけることができるかと。その縛りつける効果が少ないと、こうばっと破裂するような
被害が起こるということだったんですが、そういうことが
耐震技術の進歩とともにだんだんとわかってまいりまして、そういうことが基準の中に取り入れられたのが一九七一年、それから一九八〇年というふうに次第に強化されてきています。
そのことのあらわれとして、今回の
高速道路の高架橋の被災度の比率というのを挙げましたのが表の2であります。七一年以前の基準によってつくられたもの、それから八〇年以後の基準でつくられたものを大破、中
程度の
被害、軽微な
被害、無
被害というふうに分けますと、このように両者でもう明らかな差があります。(OHP映写)ちなみに、大破というのは、例えばこういう
写真を何度も
ごらんになったと思いますが、完全な倒壊、つくり直さねばならない
状態、それから中破というのはこの
程度のことで、このままでは使えないけれども補修をすれば使えるという
状態、それから小破というのはこういうところに、下の方にクラックが入っているのが
ごらんになれるでしょうか。これぐらいですと、これは表面的な
被害で内部はほとんど健全です。少し、表面をきちっと覆ってやればそのまま使えます。そういったようなことでありまして、この表2のように八〇年以降のものは中破が少しあるという
程度で済んでいみ、大破はゼロということでございます。
それから、
建築基準法の方も七一年と八一年に大改正が行われたわけですけれども、一番下の絵は防災
研究所の建築
グループの方々が
神戸の中央区を調べた結果でありまして、真っ黒いところが大破、それから真っ白が無
被害ということで、その比率を示しております。右側に
建設の年代をとっておりまして、七一年あたりと八一年あたりで大破がぐっと減っているという状況がおわかりになろうと思います。
こういうことを見ますと、まだまだ今回の
地震で現在の
耐震技術を再検討しなければならない部分というのもございますが、技術の進歩そのものは着実に行われてきたし、その方向は私は基本的に正しかったと思っております。
問題は、
耐震技術の細部の見直しだけではなくて、
耐震技術が進歩するということと
社会が実際に
耐震化される道筋との間には必ず時間差が生じるということ、その間に
地震被害が発生しますとまだ古いままで残っていた
構造物が大きな
被害を受けるということで、こういう
構造物をどういうふうに補強していくかということがこれからのやはり大問題であろうし、そういうことについては
耐震技術者も今後大きな責任を負っていかなければならないというふうに思っております。
それで、三番目に移りたいと思いますが、では今後の
耐震化の課題、これもたくさんございますが、幾つかの問題に的を絞りたいと思います。
一つは、まず
資料の五をあけていただきまして、
耐震技術の課題として
耐震構造のハードな技術、これは今申してきましたような
構造物をいかに丈夫につくるかということですが、
阪神大震災の
被害について破壊のメカニズムを、やはりまだこの検討は続いておりますけれども、これを徹底的にやはり調べることが我々の役目であるし、そういうことをぜひとも忘れずに続けるということを国の意思としてもぜひ
支援していただきたいと思います。これによって、現代の
耐震技術、先ほどのように着実に進んできてはいますが、やはり謙虚に検証するということが重要だろうと思います。
それから、それに基づいて
耐震技術そのものを再評価する、あるいは基準等の再検討に結びつくのかもしれません。そういう検討は今後
専門的に、現在ももう既に始まっておりますし、いろんな場所でそれは検討されていくことだろうと思います。そのときに、これは後ほどまた申し上げたいと思いますが、重要度という概念をきちっと再検討するべきだろうと思います。
それから、先ほど申しました既存
構造物の補強の技術、それを適用していくこと、こういうことが非常に重要な課題になる。そういうことと同時に、今回の
地震の経験の中で、
耐震技術をさらに信頼度の高いものにするためにいろんなやはり課題も出てきております。そういう基礎的な研究も推進しなければならないと考える次第です。
それから、
構造物を丈夫につくるだけではこういう大
災害はなかなか乗り切れないんだということがこの前のお二人の
お話にもございましたし、私もそのとおりだと思います。
地震がいざ発生したときにどのようにきちっと
対応するかということは、
一つはやはり
組織の問題があります。
組織的にどのような仕組みをつくっておくかということ、いろいろ議論もされましたし、既に御発言もありました。ただ、それを支える技術的な基礎ということがありますし、そういうことも
耐震技術の一環としていろんな貢献ができるはずであります。そういうことを今後はぜひ進めていくべきだと考えるわけです。その中に防災
情報システム、あるいは先ほども
お話ありました
GISといったようなことがございます。これについても後ほど簡単に触れたいと思います。
それから、
安全性への合意形成、これが非常に今後重要な問題になってくるんだろうと思います。これは、私の竜ともとの
専門とは少し違うんですが、今回の
地震の後、いろんな学会レベルでもそうですし、あるいは
政府関係の
委員会などに
出席して議論をしておりましても痛切に感じることですが、
社会の質あるいは生活の質としていろんな質がございます。
安全性、利便性、快適性、文化性、効率性、こういったいろんな指標で人間は意思決定していくわけですが、その中での
安全性という概念をやはりもっと普遍的に
位置づけていくということがこの際重要ではないかと思います。
地震のリスクといいますのは、例えば交通
災害と比べますと、その下にありますように二けたぐらい、死亡リスクだけで見ますと二けたぐらい低いわけであります。しかしながら、交通
災害の場合は
地域的に分散しますし、時間的にも分散、
社会的にはそういうものを分散吸収するような仕組みがかなり発達してきております。それに対して、
地震災害は
地域的に非常に集中します。時間的にも集中します。局所的には非常に甚大な影響を与えて、それが長期的影響に及んでいく、こういったことを、リスクの特質をきちっと踏まえた上で
安全性の議論を今後深めていくべきだというふうに考える次第です。
安全性への
投資ということは、結局、防災問題は最終的には経済的問題に帰着されます。国の問題としては、そういう
予算を含む政策決定ということにつながっていくわけでありまして、その下に三行ほど書いておりますが、それはこの際省かせていただきますが、その最後のところでまた内容的には含まれますので、(三)の方に行きまして一、二を見ますと検討しなければならない問題がたくさんあるんですが、この際特に議論を深めて実現をしていっていただきたいことが三つほどございます。
社会の基盤施設、インフラストラクチャーと言われるもの、これは主として
行政がいろいろ整備していく施設であるわけですけれども、あるいは公共企業体等によってつくられている施設でありますが、そういうものを
耐震化する。それは新しくつくるものの
耐震化と同時に、従来の施設の補強ということの両方があるんだということは先ほど申し上げたとおりですが、その中で重要度、重要度という
言葉がよくなければ施設に要求される
耐震性能、こういうものをもっと目的に応じた区別をつけて防災
投資をやっていくということが非常に重要だろうと思います。先ほど、
村上先生の中にもそういうことが出てまいりました。
すべて世の中の施設を全部一様に丈夫につくりなさいということは、言うのは簡単ですけれども、決してそういうことは現在の
日本の経済力をもってしても、ある土地を見れば千年に一回来る
地震に対しても無傷でということは非常に困難であると、そういう事実はまず我々は認めた上で問題を処理しなければならない。そうしますと、まずやはり人命を失わないということが
前提になります。そのことが
一つ。
それと、やはり
災害時の緊急
活動の拠点となるような施設、これは少々傷んだとしても必ず機能は保持するようにというようなことを確実に行っていくことが重要だろうと思います。
こういうことは実は既にいろんな
行政、自治体のところでも行われております。行われておりますが、こういうことを特殊ケースとしてだけ行われるのではなくて、やはり
日本の全体の
安全性をどういうふうに確保していくかという議論をきちっと活発に行っていただく中で、今後の安全の
対策の中に生かしていっていただきたいという
意味であります。少し
言葉は不適切かもしれませんが、あえて申せば重要度の差別化ということを、施設による差別化ということを本当に議論する、それが結局全体としての
安全性の向上につながると考えるわけであります。
それから二番目は、
安全性向上
支援のための
財政的誘導というのがあります。
行政が整備するインフラストラクチャーを強くするだけでは
社会全体は丈夫にならないわけでありまして、先ほどから幾つかの例、
村上先生が見せられましたように、やはり
民間の施設でたくさんの死者が今回も出るということになっています。そういうところは自助努力で丈夫にしていかなければならないわけですが、やはりそういうことを
支援するような体制をぜひつくっていっていただきたいということ。
それから三番目が、
災害開運
情報・データの共有化ということであります。先ほど飛ばしました(二)のbの三番目のところに安全な環境の整備、これは
行政がいろんな形で整備していただくということになるわけですが、防災施設の整備、インフラの強化、それから
安全性向上
支援のための
財政的誘導、こういうことがありますが、最後の
情報・データの共有化ということがあります。こういうことの一環としてぜひお願いしたいんですが、先ほど
GISが非常に有効であるということの
お話がありました。この
GISの技術というのは
日本でも、
アメリカを少し追っかけるような形ですけれども、かなり進んできております。
実は、私自身はこの三年ばかりこの
GISを防災問題に利用できないかということで幾つかの研究会を細々とやってまいりました。そういう絵をちょっとだけ大急ぎで見ていただきたいと思いますが、(OHP映写)これは今回、
阪神大震災の
地図を
GISに乗せまして、これは国土地理院で
地震直後に写されました航空
写真を解読して、破壊した
構造物の点を示したものです。こういうことが
地震後一週間でつくられたわけですけれども、
日本が全国で持っておりますこういう能力を総動員すれば、こういうことはある
専門家によりますと一日あればできるだろうというふうな
意見もございます。
地震後の
被害の把握に非常に今回手間取ったということがございますが、大
災害の場合にはボトムアップで現地から上がってくる
情報、これはもちろん重要であります。重要ですけれども、そういうことだけでなくて、外部からこういうふうに把握していくために技術的な成果を十分に活用するということが重要であろうと思います。
地震直後の記録ですから精度は余りよくありません。これは三割ぐらいをミスしていると言われております。しかし、もう
一つのこの赤いもの、これは毎日新聞の方が死者の発生の場所を私どもの方に表で持ってこられまして、それを私どもの方で
GISに乗せた結果なんですが、この二つを重ね合わせてみますとほとんど一致します。ですから、
最初のこういうふうな
情報を持っておれば
災害に対する
対応には非常に役立つはずであります。
それから、これは私どもの方で、ほかの大学とも協力しまして、二月九日、十日、
地震から三週間たったころですが、
瓦れきの問題が非常に難しい問題になっておりました。
瓦れきによって
道路が、街路がまだふさがれているところを調べてもらいました。それがこの赤いバッテンであります。全体を見てもこれぐらい残っていたと。
GISのいいところは、こういうものを自由に拡大して見ることができますし、そうやって見ますと、これは住吉のあたりを拡大したものですが、こういうふうに赤のバッテンで残っております。
東西に走ります二本の国道がありますが、それは全部あいておりますけれども、しかしそこは大渋滞していたわけです。もちろん、それは
高速道路が壊れたことによる交通集中もあるわけですが、こういう状況ですと
地域内の交通も一遍国道に出ざるを得ないというようなことで、非常に大きな問題を起こしている。こういうことは、
GISの上にこういうふうに乗せてみると非常にはっきりとわかってくることであります。こういうこと。
それからさらに、私ども、ボランティア
活動をちょっとやらせていただきまして、長田区の区役所で被災家屋の解体の申し込みに
住民の方たちが来られるんですが、これが非常に事務的に時間がかかりまして、紙の
地図を使っておりますと一人何十分もかかってしまいます。そういうことで、
GISを持ってまいりましてお手伝いするという機会がありまして、こういうふうに場所の確認をコンピューターの上で、既に
住宅地図が入ったコンピューターを持っていきますと一分ぐらいでそういうことは終わってしまうというふうなことがございます。
こういうことで、実際に、経験的にこういう
GISというのは非常に
災害時に役に立つはずだということを確信するようになりました。先ほど
村上先生の
お話のように、
アメリカの方ではそれは早く進んでおります。
日本もぜひこういうことを
災害に備えて進めていただきたいと考える次第です。
ただ、そのときに
一つ大事な問題がありまして、こういうことは
災害が起こってからつくり始めても遅いわけであります。それに備えていいものを事前に用意しておくことが重要であるわけです。そのためには立派なデータベースが必要です。
社会の
地図だけではなくて、そこに含まれている施設であるとか、先ほど御紹介ありましたように、経年劣化した家屋がどうなっているかとか、あるいはインフラストラクチャーがどうであるかとかという
情報を一カ所に一元管理することによって初めてそういうものを重層的に見ることができるわけです。
そういう個々のデータベースというのは、実は
日本でも立派なものがたくさんあります。各省庁でも、それぞれの管轄されている施設についてはたくさんそういうものがございますし、公益企業でもそれぞれお持ちであります。問題は、そういうものがばらばらに存在していると今のような
災害時に役立つようなオペレーションはできないわけで、今後、
政府の方でも
GISを使って防災に役に立てようという構想もお持ちのように聞いておりますけれども、ぜひそういう横断的なところをきちっと押さえたいい
システムをつくり上げていただきたいと思う次第でございます。そういう
意味で、ハードな
耐震技術でなくてソフトの
耐震技術にもぜひ御理解をいただきたいと考えています。
以上で私の
意見陳述を終わります。