○
猪口参考人 御
紹介いただきました
猪口邦子でございます。
きょうはこの
大蔵委員会にお
招きいただきまして、
保険業法案及び
保険業法の
施行に伴う
関係法律の
整備等に関する
法律案につきまして私見を述べさせていただきます
機会が与えられまして、大変光栄に存じております。
私は、
平成二年から現在に至るまで、
保険審議会の
委員として、今回の
法律案の目指しております
保険制度改革の議論に参画してまいりました。しかしながら、私自身は、必ずしも
保険学や
保険法を専門にしているというわけではなく、国際政治を専門にしております。したがいまして、
保険審議会におきましても、現在の
我が国の
保険制度の問題点や今後あるべき姿について、生活者または第三者の立場から、あるいは国際関係論の立場から
意見を申し上げてまいりました。その
意味で、本日も、今回の
保険制度改革につきまして、日常の生活の中で
保険というものに接している一般の
国民の立場から
意見を述べさせていただきたいと存じます。
さて、まず第一に、今般提出されております
法律案の
内容の中心は
規制緩和と
自由化ということであろうかと思います。これは、既に御議論がありましたとおり、これまでの
商品と
料率規制、あるいは業務分野にかかわる
規制等を
自由化、弾力化することを通じて
競争の
促進と市場の
効率化を図りまして、
保険会社の
経営上の
創意工夫を生かし、より安価で、かつ
国民の
ニーズに的確に対応する
保険商品の
提供を可能にしていくということを目指したものと
理解しております。こうしたことは、昨今の
規制緩和の
流れに沿ったものでありまして、非常に望ましいことではないかと存じます。
具体的に申しますと、例えば
生命保険の分野におきまして、
高齢化社会の到来によりまして、医療、介護といった。そういう分野の
商品ニーズが高まってきております。また、
損害保険の分野におきましても、
経済社会の
変化によりまして、わずかここ数年を見ましても、例えば代表訴訟との
関係におきます
会社役員賠償責任保険や、製造物
責任との関係におきますいわゆる
PL保険等々、新しい
リスクをカバーする
商品ニーズが発生しております。
こうした
状況のもと、
生損保の相互参入による
競争の
促進や届け出制の
導入等を通じて、新しい
商品の開発が活発化あるいは迅速化され、
保険契約者の
ニーズに合致した
保険サービスが速やかに
提供されるということが
期待されるわけであります。
もちろん、
料率、すなわち価格面でも一層の弾力化が図られることとなると思います。また、販売チャネルの面を見ましても、一社専属制の緩和や
保険ブローカー制度の
導入により、
商品の購入ルートの選択肢が今より広がることになりまして、こうした点も
契約者に対してメリットがかなり及ぶというふうに
期待されます。
それから第二の点でございますが、
国際的調和の
観点でございます。
保険制度は、ある
意味では、目立たない存在でありながら、一国の
経済の重要なインフラを構成しているものであります。企業にとっても一般
国民にとっても、
万が一の際には
保険が確実に
提供されるということを前提としてさまざまな
経済活動が積極的に営まれているわけでありまして、その
意味では、
日本経済が飛躍的な
発展を遂げ、
経済のみならず
社会、文化面も含めてさまざまな分野で
国際化が
進展している今日、第二次世界大戦後五十年を経過しようとしているわけでありますが、
保険制度の基盤となる法律は五十六年も前というものでありますが、そのこと自体、今回の法律
改正の必要性を示しているものではないかと思われるわけであります。
こうした
観点から、新たに
保険ブローカー制度を
導入すること、あるいは諸
外国でも既に実施されているソルベンシーマージンという
考え方を取り入れること、また、余り目立たない点ではありますが、免許や認可の基準等、
法律案の各所において行政の透明性を図るべく規定を
整備すること、あるいは
国際的調和の
観点から
制度を
整備して
保険業法の近代化を図るということは非常に重要であり、
意味がある
改正であろうと考えます。
日本の企業の国際
経済の中におきます地位は非常に高まっているわけでありまして、それとともに、損害
保険会社の活動も非常に国際的になっています。また、
生命保険会社におきましても、その
資産運用が国際的に注目を浴びるほどになっていることからしても、こうした国際的な
観点を踏まえた業法
改正は当然のことと言えると思います。
なお、付言いたしますと、国際関係ということからの問題ですが、御承知のように一昨年七月、日米包括協議の優先三分野の
一つとして
保険分野が日米交渉のテーマに取り上げられてきました。そして、昨年十月に決着いたしました。今回の
保険制度改革は、この日米協議の決着
内容に沿ったものではあります。しかし、
保険ブローカー制度の
導入を初め、もともと基本的な
内容は
平成四年の
保険審議会答申にも盛りまれていたものでありまして、その
意味では、決して米国の要求に妥協する形で今回の
改革に至ったというものではなく、むしろ今回の
改革の
内容が米国側から追認されたというふうに
理解しております。さらに、昨年度の
保険審議会の報告に至る
審議の中では、
外国保険会社等々の御
意見もかなり十分に
意見聴取いたしております。
以上、
規制緩和や
国際的調和についての私の基本的
考え方を申し上げましたが、これはあくまでも基本的
考え方でございまして、こうした方向で
改革を進める場合にぜひとも念頭に置いていただきたいことが幾つかございます。
それは、欧米の
制度はやはり欧米流の
社会のあり方、
国民の
考え方に基づいたものであるということでございます。そうしたものを急激に
日本の
社会に持ち込むことは、場合によっては混乱を起こしかねないわけでありまして、特に一国の
保険制度といった大きな
制度を
改革していく場合には、一たび混乱が起これはやり直しのきかない面もあり、十分に慎重に進めることが重要であると考えます。
私は、ここで、昨今の
規制緩和が是か非かとかいう議論に深く立ち入るつもりはございませんが、例えば最近の論調の中には、欧米並みの大胆な
規制緩和が必要といった議論も見受けられます。確かにアメリカでは
日本より
規制がかなり緩やかであります。しかし、ヨーロッパを見ますれば、
日本より厳しい分野もありますし、ヨーロッパの中にも、それぞれの国によって、すなわち文化や
社会の違いによって大きな差があるわけです。そういった違いを全く考慮に入れないで、
規制緩和なら何でもよろしいという
考え方には賛成しかねるわけであります。
特に
保険の場合は、歴史的に見てもこれは
自由化と
規制の波を繰り返してきたわけであります。例えば近年のアメリカにおきまして、いわばこれは、残念なことですが反面教師として参考にすべき
事態が起きております。これは
皆様御承知のことなんでございますが、
保険危機と一般に呼ばれる
社会問題でありますが、発端は、一九七〇年代にアメリカが
自由化の
流れの中で
保険についても大幅な
自由化を行ったことに起因しております。
この結果、既に御議論ございましたが、例えば
自動車保険の例で申しますと、
保険会社は
事故を起こす
可能性の高い人に対しては法外な
保険料を要求する、あるいは
保険の引き受け自体を完全に拒否してしまうということが起こります。そうしますと、被害者救済の意義ということを喪失してしまうことになります。報道によれば、全米で約一千七百万台もの無
保険車が走っているとも言われているわけでありまして、この結果、例えばカリフォルニア州では、一たん
自由化した
料率を住民運動で
事前認可制に戻したという事実もございます。
こうしたことは、実際にその国で生活してみないとなかなかイメージがわかないことだと思いますけれ
ども、私自身、米国で長く暮らしたさまざまな経験からいろいろな問題をかいま見てまいりました。例えば、
日本人が
自動車保険に入ろうとしても、
個人の
事故歴等のデータがありませんので、現地の
保険会社に引き受けてもらうのは非常に困難でありまして、結果的には、つてを頼って、米国に進出している
日本の
保険会社に引き受けてもらうというようなこともあるわけであります。ですから、
規制緩和、
自由化ということを余り急ぎまして
日本社会がこういう
社会になるとすれば、憂慮すべきことであるかとも思います。
あるいは、
日本の場合、
保険でよく支払いトラブルが起きると聞いておりますが、
契約では出ないのはわかっているけれ
ども、せめて
保険会社から誠意の気持ちだけでも示してほしい、したがって見舞金等を要求する事例が多いと聞いております。しかしアメリカの場合は、こういう場合、もう
契約を盾にとりまして、
契約者と
保険会社双方が弁護士をつけて法廷闘争がなされるのが一般的でありまして、そのような
社会、文化と比べますと、非常に
日本とアメリカは違うということが言えるかと思います。
競争社会の中で、企業も
個人も
自己責任を前提としてみずからの
リスクで行動をする、アメリカではアット・エア・オウン・
リスクというふうに言いますけれ
ども、そういうふうにアット・ユア・オウン・
リスクで行動することが当然と考えられている国の
制度、そのような
制度が
日本社会に直ちに
制度として根づくかどうかということはやや疑問ではないかと思われるわけであります。
こうした
観点から、
保険制度の
改革も、基本的には
規制緩和、
自由化の方向を示しながら、
日本の
社会や
国民の
考え方、あるいはそれが
時代とともに変わっていくのであればそれに応じるような形で、ステップ・バイ・ステップで進めていくというものであるべきであると思います。
ですから、
保険審議会におきましても、例えば相互参入につきまして、最終的には
保険と銀行と証券を含めた
子会社方式による相互参入が実現することが望ましいとしながらも、しかし、まず第一段階としては、
保険分野の
改革を行いまして、
その定着
状況を見きわめた上で銀行、証券、
保険の相互参入に向けて法
改正を行うのが望ましいという、こういう結論を得ているわけであります。
これはよく考えてみますと、例えば
金融の分野におきましては、
昭和四十六年に預金
保険機構ができまして、続いて
昭和五十六年の時点で銀行法が近代化されております。そして、最終的に
平成五年から銀行と証券の業態間相互参入が実現されております。この間二十年かかっているわけであります。今回、これに対応する
保険契約者保護基金あるいは
保険業法の近代化に加え、さらに業態間の相互参入まで一挙に行うといたしますと、銀行、証券において二十年かけて行った
改革を一気に実施するということになりまして、余りに影響が大き過ぎるのではないか、そして、場合によっては混乱を起こす
可能性も否定できないのではないかと考えられるわけであります。こうしたことを全般的に勘案すれば、やはり銀行、証券と
保険の相互参入については次の段階で行うこととし、今回の
法律案に盛り込んでいないこともこれもやむを得ないかとも思います。
このほか、今回の法律に盛りまれております他の項目につきましても、
行政当局の
考え方として、例えば
商品、
料率の
自由化も、十分な判断能力のある企業物件などから徐々に進めていくという
考え方というふうに伺っております。
法律案についてもそうしたことが可能な
枠組みとなっております。
また、新たな
ブローカー制度でございますけれ
ども、これも登録制などをとりつつ、
保険契約者保護のための賠償資力の
確保措置等も厳重に規定されているということなどが盛りまれておりまして、
自由化の方向に進みながらも、いわばソフトランディングを目指した
改革と言えると思います。このような点は十分に評価できる
内容ではないかと考えている次第でございます。
今回の法律により、二十一
世紀に向けて
国民の
信頼にこたえる
保険制度が構築されますことを
期待しております。
以上でございます。ありがとうございました。(拍手)