○小島慶三君 関係各大胆の方々、本当に連日御苦労さまでございます。よろしくお願いをいたします。私は、二、三、一般的な問題について御意見を承りたいと思っております。
まず第一に、外交というルートを通じての日本の意思の疎通というか、日本の
立場の理解というか、こういう点についてであります。
今回のウルグアイ・ラウンド、七年を経てWTOのこの協定まで追い詰められたと申しますか、そういう過程を考えてみますと、やはり私ど
もとしては、関係の外務省の方々も、それをバンクアップされる農水省の方々も本当に身命を賭してというか、お骨折りをいただいたと思うんですけれども、結果的に見ますと、若干フーティングの上で非貿易関心
事項といった
ようなものは入ったりしておりますけれども、本当に日本のこの
立場が理解されているのかどうかという点については、若干は疑念を持っております。
実効上の問題からしますと、非貿易関心
事項というのは、これはほとんど、要領よくといいますか、フーティングの上で残っているという程度であって、これは本当に
意味を持たないというふうな感じもするわけであります。その
基本には、私はこのウルグアイ・ラウンドの本質に関する問題が
一つあると思うんですけれども、それはやっぱり農業と工業といった
ようなものの根本的な違いというものがあると思うんです。農業と工業、たびたびいろんな意見もありました
ように、確かに違うんですね。
私は海外に工場を五つばかりつくりましたけれども、工場をつくるというのは割に楽なんです。技術があって資本があって労働力が集められれば、これは日本と同じものができます。したがって、市場機構を通じてそのできた製品という
ようなものを比較しましても何ら問題はない。要するに、コストを比較するにしてもそれから製品の質を比較するにしても問題はないんですね。ところが、農業はそうはいかないんです。農業は国土、自然、その状況が違えば違うほど皆違うのであります。だから、そういうものを一括して普遍的な
基準とでも申しますか、そういうもので律するということ自体が違うんじゃないかというふうに私は思っております。
一般に農業と申しましても、土地利用型と施設利用型とありますし、これは全く違います。それから、西欧あるいはアメリカの
ような、私に言わせればいわゆる略奪型の農業と、それから日本の
ように自然環境と調和した見事な仕組みをつくっているところ、調和型農業とはこれは全く違うわけであります。それを同じベースの上でやるというのは、少しやはり関係の方々がいわゆる市場経済論といいますか、近代経済学的な市場経済論にとらわれ過ぎているのじゃないか、そんな感じがしてならないわけであります。ですから、市場経済の上では環境もカットされる、生態系もカットされるということで、人間の営みである農業にとっての大事な要素というのはどこかへみんなカットされてしまうということであります。
だから、日本の貿易の自由化の問題について、農業の自由化の問題について、いろんな近代経済学を旨とする先上方がそういう
立場からして自由化賛成だ、あるいはミニマム賛成だ、それが日本の農業のためになるということを言ってきたわけでありまして、それは私は全く間違っている、農業の本質を知らない人の意見であるというふうに今まで言って論戦してきたわけであります。そういうふうな風潮というか理論というか、そういう近代経済学的な理論武装だけでいっては、とても日本の農業というのはその特質が生かされるということにはならないと思うんですね。それで、そういう教育を受けた若い人たちが、有能なエリートたちが外務省、通産省あるいは農水省に入って、そういう
立場で農業の交渉をし
ようとしても、それは本当に何かわからないで交渉している
ような、そういうことがあるんではないか。高い安いとか、そういうことだけの
議論になりますと、これは全く日本の農業はたまったものではないというふうに思います。
私は農水省に頼まれまして、何回か農水省の新入省者の研修に呼ばれて
お話し申し上げたことがあるんですけれども、後でテーブルを囲んでいろいろ話してみますと、ほとんど農業のことは知らないで農水省に入ってくるということがある。もちろん外務省ではそういう方はいないでありましょう。私はそのときに、いろいろ役所の仕事は大変だろうけれども、例えば三カ月でも四カ月でもテーブルを離れて、地方を回って、農家へ泊まって、いろり端を囲んで夜っぴて話をする、酒は飲むだけ飲む、こういうことをやらなければ本当に農民の心というのはわからないということを申し上げたことがあるんです。
そういうふうなことを考えますと、やはりこれから外務省の力でも農水省のバックアップを得て問題の交渉をされるわけでありますから、お互いの気持ちの通うところで、問題を本当に理解している
立場で農水省も理論武装し、外務省も理論武装して交渉するということがないと、どこまでいってもうまくいかないというふうなことになってしまうんではないかと大変危惧しておるわけでございます。
したがって、両大臣がおられますので特にお願いをいたしますけれども、そういう外交交渉に当たっての人材の配置、適材適所の配置ということをぜひお願いして、国内の近代締済学の先生たちの、私は雑音と言うんですけれども、雑音に迷わされない
ような、本当に農業のあり方を直視した
立場での交渉というのをぜひお願いしたい。
先ほどもそういうふうな御
質問もございましたけれども、これからまだ六年あるわけでありますが、六年間に次のステップというのはしっかり固めていかなければなりませんし、また七年目になって今の状況の継続あるいは積み増しということになりますと、本当に私が前のときに御
質問した
ような惨たんたる
水田の崩壊といった
ようなこと、あるいは中山間地帯の崩壊とかこういうことが出てくると思いますので、この辺はひとつぜひお願いしたいと思いますので、外務大臣、農水大臣、ひとつよろしくその辺のことをお願いしたい。