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参考人(
中条潮君) 慶応義塾大学の
中条でございます。
お昼の食事が終わりまして、二時という昼の一番眠い時間でございますけれども、私は普通の授業のときは、昼間学生が寝ていますとチョークを投げますが、まさか議員の先生方にそんな失礼なこともできません。大変かたい話を一番眠い時間にさせていただくということで、皆様に対して大変同情を申し上げております。私の話よりも後の
富田さん、
本間さんの
お話の方がきっとおもしろいと思いますので、しばらくお休みいただいても結構でございます。
さて、私が話せと言われたタイトルは
産業構造の
変化と
雇用等ということでございます。さらには物流の話もしろということでございますので、まず前半の大半の部分を
産業構造の
変化と
雇用等という内容の
お話をして、最後に物流の話を少しつけ加えさせていただきたいと思います。
私が前もって提出しておりますレジュメに沿って大体
お話を申し上げていきたいと思います。私の話と、それからこの後で
お話をいただきます
富田さんの話とかなり重複した部分もございます。それから、別に前もって打ち合わせをしたわけではございませんけれども、ほぼ同じような
考え方でございます。
富田さんの方で幾つか図表等もレジュメに入れていただいておりますので、私はデータ等も省略いたしまして、私の考えだけを
お話し申し上げたいと思います。
まず、きょう
お話ししたいことは、
産業構造がどう
変化してきたかということよりも、むしろどう
変化していかなければいけないかということを中心に
お話をしたいと思います。つまり、私の考えでは基本的には
日本の経済
構造、
産業構造というのはほとんど変わっていない。むしろ
構造が
変化してきたという話ではなく、変わっていなくて、ただし部分的に今変わりつつあるところがある、これが今言われておりますいわゆる
価格破壊という動きであります。これについては後で
お話を申し上げます。
いずれにしましても、変わっていないことが問題であって、変わらなければいけない。なぜ変わらなければいけないか、そして今の
構造はどういう
構造かということを申し上げれば、まず今の
構造は簡単な、俗を言い方で申し上げれば、横並び、もたれ合いの
構造である、これが今の経済
構造をつくり上げている、それを変えていかなければ
日本の将来はないというのが私の考えでございます。
レジュメの一番
最初に、
経済成長期から成熟・安定成長期における
日本経済の
課題と書いてございます。ちょっとタイトルが変なんですが、要するに
経済成長期がほぼ終わって成熟・安定成長期に
日本は達した、その
日本にとっての
課題は何でしょうかということを一のところで申し上げたい。中身についてはこのレジュメに書いてあります矢印を順番に追っていっていただければおわかりいただける話だと思います。
すなわち、経済が成長しでいっている、特に二けたで経済が成長していたような
時代と、それから
不況あるいはバブルがありながらも比較的安定的に経済が成長していく、あるいは成熟の段階に入った
時代とでは対応が異なるであろう。その話がこの1のaというところの話であります。結論的に申し上げれば、要するにこれまでのようにどんどんどんどん物が売れていくという話ではなくて、
コスト構造の改善、効率的な、選択的な
投資をしていかなければだめだし、
ニーズも多様化していきますから、それに対応するような対応が必要でありますよということであります。
それからもう
一つは、成熟した経済ということで、成熟国家としての役割ということも
一つあり得るであろう。当然それはまた門戸の開放という
要求としてあらわれてくる。門戸を開放すれば、当然
競争力を向上させておかなければこれができないということになりますから、結局のところ
コスト競争力の向上ということが
一つ必要になるわけであります。
そのほか、幾つかの経済
社会の制約条件としては、このbと、それからcと
二つのことが挙げられると思います。このbとcにつきましても、これはレジュメの流れをたどって読んでいっていただければおわかりいただけると思います。いずれにしましても、その後のレジュメのちょうど真ん中のところに、波線部の結果をまとめ、そこから望まれる
政策の方向性を示せば以下の①②③に要約されると書いてございますように、生産性、
競争力の向上、このためには市場メカニズムをもっと活用していく必要がある。これは後でまた御議論をいただければと思いますが、私は福祉
分野に関しても
競争を促進していく、マーケットメカニズムをなるべく取り入れていくということを考えていくべきであるというふうに考えております。
それから②は、経済が安定的に成長し、かつ成熟してくると多様化ということが当然起こってくる。この多様化に対応するためには、分権的な意思決定、これは別の言葉を使えばマーケットメカニズムをもっと活用していくべきだ。それによって多様な
ニーズに対応していくべきである、といいますか、マーケットでなければ多様化には対応ができないということであります。
それからもう
一つは、多様化の中身にはマーケットメカニズム以外の部分という問題、
環境の問題等を含めた問題がございます。それをいかにして内部化していくかということが対応策として求められるということであります。
①と②については、このレジュメを見ていただければ御理解いただける話ですが、若干のa、b、cの中の特にbの
国際競争という点について補足的に
説明を申し上げておきたいと思います。
この
国際競争という話は、もうこれは当然な話でありますけれども、
国際競争に対応するためには
競争力を向上しなければいけない。当たり前の話なんですが、少しこのところ変わってきている
国際競争の中身というのは、
一つにはアメリカやヨーロッパが効率をどんどん改善してきている。今、
日本の国産車と太刀打ちできるような安い
輸入車が大衆車としてかなり入ってきているという
状況がありますが、そこに典型的に示されますように、アメリカやヨーロッパの効率改善ということが行われてきています。これまでは
日本の製品が大変質がよくて安いということで
競争力があったわけですけれども、それに対してアメリカやヨーロッパが
日本の製品と
競争できるような製品をつくり始めてきている、そういう点での
競争の中身の変質ということと、もう
一つはアジアの追い上げということであります。
このアジアの追い上げということも、実は最近では製品の
競争だけではなくなってきている。例えば中国や韓国やシンガポールでつくったものと
日本でつくったものとの
競争ということではなくて、
日本の都市とアジアの都市との
競争という段階に入ってきている。これは、特に近隣のアジアの場合にそういう
競争が出てきているわけです。
例えば、アジアの港と
日本の港が
競争する。物流の、特に港湾の労働生産性が非常に悪い、あるいは港湾料金が高いということから、
日本の貨物がアジアの港に移っていく、拠点港をアジアに移していくというふうな動きもあります。あるいは、よくお聞きのことと思いますけれども、いわゆるハブ空港の議論というのがございます。その拠点となる空港がアジアのほかの都市に奪われていくというような動きがある。すなわち港と港、
日本の港とアジアの港、
日本の空港とアジアの空港との間の
競争、あるいは
日本の
社会資本とアジアの国々の
社会資本との
競争、
日本の都市とアジアの都市との
競争という形が出てきているわけです。これに勝っていかなければ
日本の将来がないということになります。それが後ほど申し上げます
社会資本投資の首都圏に対する集中的な
投資ということにつながってくるわけであります。
さて、このレジュメの真ん中の①②③、これを満たすにはそれに対応した経済
構造の
変化が必要であるということになるわけですけれども、これまでの経済
構造はどうであったかというと、これは
産業保護、
競争抑制的な体制である。これが横並びのもたれ合い
構造をつくってきた。この
産業保護、
競争を抑制するような
構造というのは、経済が成長していく段階ではある
程度必要であった体制であると私は思います。
競争によって
企業が余りにも経営力を消耗してしまうということがありますと、
経済成長が不可能になるということがあります。
ところが、この
産業保護、なるべく
競争をしないでおこうという体制が余りにも長い間続き過ぎたために、その間のツケが今大きくたまってきている。非効率な制度や非効率な
企業が温存されてしまう。
一つの
産業の中で一種の仲よしクラブのような形になってしまう。
サービス、商品についての均一化、横並びの
構造ができ上がってしまう。そのために
競争力のある、かつ多様な商品や
サービスを提供するという意識が欠如してきていたということが言えるわけです。
経済成長の必要な時期はこのような
状況に対して国民も我慢をしていたわけです。
経済成長していくためには一生懸命みんなでちょうど山に登っていこうというような
状況であった。山の頂上に着くためにはみんな飲み物は水だけにしましょう、水は一杯ずつにしましょうということで横並びの平均的な
サービスを甘受してきたわけです。山の頂上に着きますと、水だけじゃなくて、私はジュースを飲みたいとかビールを飲みたいという人が出てくる。多様化を求める。
社会が成熟しますと、その多様化に対する
ニーズが高くなってくる。
こういった多様で
コスト効率のよい商品、
サービスを提供していくということについて一番有効な方法はマーケットメカニズムにほかならない。したがいまして、マーケットメカニズムをもっと活用していく必要がある。ところが、このマーケットメカニズムが機能し、
競争が促進されることを阻害している制度がある、これがいわゆる
規制であります。
その
規制緩和ということが言われるのは、まさにこの
競争を抑制しているような制度を破壊して、そして
企業間の
競争、商品間の
競争をもっと促進することによって
コスト効率のよい商品、
サービスを提供し、多様な商品、
サービスを提供するということが必要とされているわけです。もちろん
円高不況という
状況の中で、
企業自身はこれまでの仲よしクラブあるいは横並びではだめで、何とかその
状況に対応していかなければいけない、そういう意識は出てきつつあります。
その
一つのあらわれが、私は
価格破壊という動きであると考えます。
価格破壊というのは
価格を破壊すると書きますけれども、実態的には何を破壊しているかというと、
既存の私的な制度、流通慣行を破壊している、これが
価格破壊である。これまで
競争を抑制し、
産業を保護してきた制度というのは、今言われておりますいわゆる許認可と呼ばれる公的な
規制だけではありません。私的な制度、流通慣行といったものもこの
競争を抑制してきた制度であります。それが今崩れつつある。私的な制度でありますから、これはマーケットの力によって崩れていくということが可能であるわけです。しかし、公的な制度の方はそういうわけにいかない。したがいまして、公的な
規制を緩和していくということが重要であるわけです。
改革すべき制度、
競争を抑制しているようなあるいは効率を悪くしている制度としては、公的な
規制あるいは私的な制度だけではなくてほかにも幾つもあります。
その
一つは
社会資本の整備制度である。
社会資本投資に対してマーケットメカニズムをもっと導入することによって効率のよい
投資に力を向けていく必要がある。それからもう
一つは人的な資本、すなわち労働についての
投資、これについてもこれまでのような先行
投資型ではなくて効率のよい選択的な
投資をしていかなければいけない。
社会資本についても人的資本についても
投資という点では同じような
考え方が必要とされるわけです。
すなわち、経済がどんどん成長していく段階のときには、
投資のやり方というのはいわば先行
投資型であったわけです。少々のむだでもどかっと
最初に
投資をしておいた方が効率的だった。いずれは元が取れる。それだけ
経済成長が望めたわけです。成長率が高い時期には財源も豊富でしたから、新幹線も高速道路もどんどん先行
投資しておいても必ず
需要がついてくる
時代であったわけです。
雇用についても同じであって、新卒をまとめて採っておく。定年までにプラス・マイナス元が取れればよい。何に使えるか、どういう職種に使えるかわからなくてもとにかく何かに使えるだろう、そういう
時代では今はなくなってきた。選択してから採用するという必要が出てきた。つまり、効率的あるいは選択的な
投資が必要という点で、労働についても
社会資本についても同じことが言えるわけです。
具体的に言えば、
社会資本については効率的な選択的な
投資というのはむしろ隘路
投資への重点であります。したがって、全国一律に
社会資本を
投資していくというのは、これはもう限界が来ているし、もうそれをすべき時期ではない。首都圏に対する
社会資本投資、これまで資本
投資がおくれていた首都圏に対する
投資、ここに力を注ぐべきである。これについては、一極集中化を進めるものではないかという御
意見が出るかと思います。それについてはまだ後で議論をさせていただきたいと思います。
人的
投資の方につきましては、終身
雇用制の見直しということになります。先行
投資型、供給優先型から
需要対応型の
雇用関係に変わっていく。これによって
競争力の向上も図る。特に
国際競争力の向上ということが必要なわけであります。
私のレジュメで、点線で亀井発言と書いてございますけれども、これは言うまでもなく亀井運輸大臣の発言に対しての私の批判であります。亀井大臣の発言は、
コスト競争力をつけるという点でも、それから終身
雇用制を前提としている点でも私は
時代からおくれた発言であるというふうに考えます。
このほか、市場メカニズムによる対応によって
効率化を図る必要がある制度というのは、先ほども少し申し上げましたが、福祉の
分野、これについてもまた詳しくはディスカッションのときに申し上げたいと思います。それから公営制度の民営化。福祉についてはユーザーサイド側への、すなわちその利用者側に補助をすることによって補助金の額を変えずに福祉
政策を
効率化させていくということができる。また、そこに
競争を導入することも可能になると考えています。
さて、最後に物流に関しての
お話でありますけれども、物流に関しても、実は今
お話ししたことをそのまま物流に当てはめればいいことである。すなわち物流
分野における問題というのは、私は一番大きな問題は
規制の問題であると考えます。物流の
分野というのは、本来マーケットとしては
競争が十分有効に働く
分野であります。それを制度で抑えている。
資料にたくさんの物流
分野における
規制を羅列してございます。この
規制の多くは
競争を抑制しているような
規制、制度である。これを緩和してやって、物流
産業の
構造改革を進めていく。特に物流
産業の中での
産業の再編成を進めていくためには、
規制を緩和してやって、そして効率的な
企業が伸びていくような体制をつくってやる必要がある。
規制が物流
コストを上昇させて経済全体に
コストを課しているということだけではなくて、物流
分野における
規制が、実は物流
産業自体の近代化をも妨げている、物流
産業自体の発展をも妨げているというのが私の考えてあります。
物流を支えている交通
社会資本については、先ほど
社会資本について申し上げましたので、これについては省略をいたします。
それから労働慣行、
雇用の問題についてはレジュメの二ページ目の(3)というところに物流問題と労働問題の分離をということを書いております。すなわち、物流における
労働者の保護ということと、それから
事業を
規制して
競争を抑制するということは分離して考えるべきである。それを分離して考えないと、
事業規制が物流
産業の
効率化を妨げて、物流
産業の発展を妨げてしまうことになる。結局のところは物流
産業の
労働者の
状況も悪化させてしまうというのが私の考えてあります。結局、
事業規制というのは
産業の
効率化を阻害し、近代化
投資や
産業再編をおくらせて
産業の近代化を阻害して、優良な労働力を喪失してしまうことになる。
物流はしばしば三Kと呼ばれますけれども、物流を三Kにしたのはだれか。これはまさに物流についての
規制によって
競争を抑制して近代化をおくらせてきたその制度にほかならない。物流を
雇用調節
産業とみなして温存している限り、私は三Kの解消はあり得ないと考えます。
とりあえず私の持ち時間でございますので、これで終わらせていただきます。