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富田委員 積極的な御答弁をいただきましたので、これ以上の質問はやめたいと思いますが、この女性から起こされた国家賠償
請求の裁判が十二月七日に予定されているようであります。また、正式に刑事告訴
手続もなされました。強制退去
手続の執行に関しましても、このあたりの
手続のことを十分考慮されて対処されるように望みたいと思います。
また、先ほどの御説明では、顔面の傷も外見からはもう回復されたというふうな御答弁でしたが、相当心の痛手も負っておるのじゃないかと思います。どうか収容施設の皆さんの方でも、そのあたりに十分な配慮をしてあげていただきたいなというふうに思います。
次に、これもちょっと前回御質問させていただいて、時間が足りなくて中途半端になってしまったのですが、前回、
法律扶助制度研究会の発足に当たって、そのあたりのことについて何点がお尋ねしました。前回の際に当番
弁護士制度について突っ込んだお話ができませんでしたので、きょうはお時間をいただきましたので当番
弁護士制度について触れさせていただきたいと思います。
法律扶助制度研究会の発足に当たりまして、「
法務省、
日弁連及び財団法人
法律扶助協会の基本的了解事項」というのが取り交わされております。その中におきまして、刑事に関しては今回はこの場とは別の場で議論するんだということになったようでありますが、このような了解がされております。
刑事に関する問題は、今回の研究会の研究目的には含まれないが、同研究会における外国法制の
調査・研究の場面並びに財団法人
法律扶助協会の事業の把握及びその存続につき検討が及ぶ場面において、同研究会の研究目的達成に必要な限りにおいて、刑事に関する議論を行なう。
もう
一つ、
法務省及び
日弁連は、上記研究会以外の別の場において、当番
弁護士制度に関する議論を活発にし、財政問題を含む刑事
被疑者弁護態勢・活動についての共通の
認識を深めるよう努める。というような表現がされております。一歩前進したなというふうに私自身は高く評価しておるのですが、ここで言われる共通の
認識を深める一助になればとの思いから、現在
弁護士会が一生懸命取り組んでおります当番
弁護士制度の実情について若干御
紹介させていただきたいと思います。
当番
弁護士制度につきましては、平成二年から各単位
弁護士会の方で採用するようになりまして、平成四年十月には全国的に実施されるようになりました。私も、この国会に籍を置かせていただく前には何度か担当になりまして、また、選挙中にも順番が回ってきて非常に困りながらやったなという覚えがあるのですが、平成五年には全国でこの当番
弁護士制度の利用件数が九千九百件になりました。またことしは、
日弁連の当番
弁護士制度運用状況集計表というのがあるのですが、その集計表によりますと、八月までの集計で既に九千百四十八件、年末までには約一万五千件の利用が見込まれるような状況になっております。
この当番
弁護士制度につきまして、十一月八日付の
朝日新聞の社説が非常に的確な指摘をされております。前回も結論部分のみちょっと御
紹介させていただいたのですが、どうか
法務当局の皆様、また当
委員会の
弁護士出身でない
委員の
先生たちにもこれをちょっと御理解いただけたらなと思います。この社説は、本当に当番
弁護士制度の問題点を鋭くえぐっております。ちょっと御
紹介させていただきたいと思います。
当番
弁護士制度がいま、財政難から、わが国の刑事司法の中に根を下ろすかどうかの岐路にさしかかっている。
弁護士会によって、
弁護士のやりくりの仕方には多少の違いはあるが、
被疑者からの申し込みを受けて、四十八時間以内に駆けつける。黙秘権があること、取調官のいうままにならず、事実をありのまま言うことなどをアドバイスし、
被害者との示談交渉にあたったり、暴行など違法な
取り調べが行われないように監視したりするのが主な仕事の内容だ。先ほど斉藤
委員の方から、
被疑者段階での弁護権を保障しなければいけないというような鋭い御指摘がございましたが、当番
弁護士はその職に当たっているわけであります。社説は次のようにまだ続いております。
だが、制度の普及は同時に、問題点をも浮上させる結果となった。
被疑者との一回目の面会は、各
弁護士会から一万円前後の日当が出る。二回目以降の面会には、
被疑者がその
弁護士を、
自分の弁護人として選任しなければならない。その場合、
被疑者側が着手金や報酬を出すか、出せないときは財団法人
法律扶助協会が、三万円から十万円程度の援助金を支出する。当番
弁護士を選任する約四割がこの援助を受けている、と見られている。
逮捕されて
弁護士を依頼した場合、起訴かどうかが決まるまでに、通常の
事件で二十万円から二十五万円ほどを支払っていることからすれば、
弁護士の手弁当によるといえるだろう。
この
法律扶助協会の財源が、今年に入って、申請件数の激増で枯渇状態になり、制度の縮小や、選任を断らなければならない恐れのある地域が出てきた。
ここが非常に問題でございます。
わが国の刑事裁判は、法律の
建前とは裏腹に、
捜査段階での自白調書の内容を確認する儀式の場だと言われて久しい。そのことが、刑事裁判から
弁護士の足を遠ざけてきた。その一方で、冤罪が明らかになる度に、自白に頼る
捜査が批判されてきたのが実情である。
事件が法廷に移れば、憲法の定めによって国の費用で
弁護士が付けられるのと比べると、その差は余りにも大きい。刑事裁判の実態からみれば、
捜査段階に
弁護士が付くことの意味は法廷段階に劣らない。
この当番
弁護士の意味を本当によく理解した指摘でございます。それに続きまして、
しかし、
被疑者は、「
無罪の推定」を受ける被告人の前の段階であり、被告人以上に
人権が尊重されてよい立場にある。冤罪を防ぐためにも、
弁護士のボランティアに寄りかかっている現状に、そろそろ終止符を打つべきではあるまいか。
そして最後に、前回御
紹介させていただきましたが、
国からの補助も含め、この制度をわが国の司法の中にどう定着させていくか、
法曹界だけでなく、国会も含めて真剣に考えるときである。というふうにこの社説は指摘しております。
どうか当番
弁護士の意義、また効用等を御理解いただいて、今この社説の最後の方にありましたように、国からの補助とか、あるいはこの制度をどうやって法曹の中に定着させていくのかということに関しまして当局の方にも御理解をいただきたいと思います。
このように
弁護士の方は一生懸命頑張っておるのですが、また中にはちょっとこういう当番
弁護士制度について疑義を挟むような
意見も逆にあることも事実でございます。ある
弁護士会の会報に、ある若手
弁護士がこんな一文を寄せておりました。これを見てちょっと私もびっくりしたのですが、ちょっと御
紹介させていただきます。
弁護士会は自治を認められる。一般人にはない権限も認められる。仕事上、他人に与える影響も大きい。一般人からの信頼も厚い。となれば、それなりの規律維持をしなければなりません。そのための義務が課せられるのは当然でしょう。しかし、
法律扶助をやりましょう、当番
弁護士をやりましょう、というのは、
弁護士の当然の義務とは思いません。私はそこまで進んでやるつもりはありません、という自由は認められるべきだと思います。
今、
日弁連のしていることが、本当に
日弁連がしなければならないことなのかと、疑問に思うことがあります。それを
弁護士がやっていけないとは思いません。しかし、それをやりたいと思った
弁護士が
弁護士会を動かす、というごとに反発を
感じます。やりたいと思った
弁護士は、同士を募って団体を作って、志を同じくする
弁護士だけで活動すればよい。このような投稿が、ある
弁護士会の会報に載っておりました。
ちょっと正直言って驚きました。この
弁護士さんは勘違いしているのじゃないかなというふうに思いました。民事の
法律扶助にしろ、また当番
弁護士制度にしろ、
弁護士が義務として、あるいはだれかに強制されて行っているものでは決してありません。
弁護士の社会的使命というふうによく言われますけれ
ども、私自身は、これは
弁護士それぞれ、おのおのがその生きざまというか、
自分の信条として献身的に行っているものだというふうに理解しております。
ただ、先ほど御
紹介させていただきました
朝日新聞の社説も指摘しておりましたように、
弁護士の手弁当的要素が非常に強くなっている。本当に若手の
弁護士、特に独立したての
弁護士等から見ますと、
自分の持ち出しになるようになってまで、何でここまでやらなきゃならないんだ。一日待機されて、一回要請があって接見に行って一万円です。これは、事務所を構える
弁護士にとってはとてもつらい。一日一万円では、とても事務所経営は成り立ちません。そういうことから、先ほど御
紹介しましたような若手
弁護士の投稿みたいな
意見もまた出てきてしまうのじゃないかなと思います。このあたりの窮状もぜひ御理解いただきたいなと思います。
せっかく利用件数もふえて定着し始めたこの当番
弁護士制度というものを、財政的な破綻ただそれだけで無にしてはならないというふうに私は思います。
弁護士会も、この当番
弁護士制度に関するパンフレットをつくったり、またキャンペーンをいろいろやりまして、この制度の普及、拡充に一生懸命努力しております。ちょっと御
紹介させていただきますと、こんなパンフレットで、「当番
弁護士をご存じですか?いつでもどこでも。電話一本で駆けつけます。」宅配便みたいなキャッチフレーズでございますけれ
ども、「
弁護士がすぐに駆けつけて無料で面会します。」こういうふうにパンフレットをつくったり、資金集めのキャンペーンをやったり、
弁護士会はそれぞれの各地域で一生懸命努力しております。ただ、この努力も本当にもう限界にある、財政的に非常に厳しい状況にある、これもまた事実でございます。
そこで、
法務省にお尋ねしたいのですが、先ほど御
紹介させていただきました基本的了解事項に、「財政問題を含む刑事
被疑者弁護態勢・活動についての共通の
認識を深めるよう努める。」これは努力規定ではございますけれ
ども、この点について
法務省としては具体的に今後どのように対応される御意向なのか、お伺いしたいと思います。