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浜川参考人 浜川です。お
手元に
レジュメのようなものが配られているかと思うのですが、少し
内容が異なっておりますが、御了承ください。
私は、
地方分権あるいは
地方自治の強化という点で、現在の
制度上の問題を中心に、少しそれ以外のものも触れますが、主には
制度上の問題について考えを述べたいと思います。
議論としては、まず第一に
事務配分の問題がございます。国と
地方の
事務配分の見直しの問題です。それから
二つ目に、現在の
地方公共団体の
制度に関する、あるいはその
規模、種類に関する問題でございます。三番目に、国による
自治体、
地方公共団体に対する関与の問題ですが、このそれぞれについて順番に述べていきたいと思います。
まず第一に、
事務の再配分の問題でございます。
内容については今申し上げませんが、若干感想めいたものを述べておきますと、この間、国の
事務を
地方にということがしきりに言われているわけでありまして、基本的に私もこれには同意いたしますけれども、ただ、
内容が必ずしも十分明確でないということを申し上げておきたいと思います。最近では、
地方分権推進委員会、これは
地方六団体が設けました
委員会ですが、
西尾先生が
関係されておられますけれども、この
地方分権推進委員会が比較的明確に国において処理すべき
事務を列挙しているかと思います。
ところで、
我が国の政策の中で非常に重きをなしておりますのは産業政策の問題がございますけれども、特に
国際化の中で、
日本の経済について国としてどういう政策を持つかという問題が従来から
議論されているわけですが、例えばそうした問題について、この
地方分権、国と
地方との
事務の見直しの中でどう位置づけるのか、必ずしも明確でない面がございます。
それから他方、
地方の
事務については具体的な例示がなく、むしろ全体として
地方に行うべきだというふうに言われておりますけれども、将来的にそういう方向があるということは妥当であるにしましても、今当面何が
地方において必須の
事務かということをいま少し
議論すべきではなかろうか。
この間の経緯が示すところは、特に比較的大きな市のレベルですけれども、都市計画、あるいは、もう少し表現を改めますと、町づくりに関する市の
権限の強化ということが言われてきたかと思うのです。そういうために一体どんな障壁があって、どういう
制度改革をしなければいけないか、そういう具体的な
議論が一方で必要だと思いますし、それから、全く
議論されておりませんが、これまで
地方自治法あるいは
行政制度の研究者の中で問題にされてきておりました点の
一つに、警察
制度の問題がございます。
市町村の固有の
事務といった場合に、
ヨーロッパでは警察作用というものが最も典型的な例になるわけですけれども、これについての
分権化提案がほとんど行われていないということも私としては大変奇異に感じるということでございます。これは
内容の問題でありますので、以下、
制度の問題に限定して述べたいと思います。
さて、国と
地方の
事務の配分の問題で最も大きな
制度上の障害になっておりますのが、
機関委任事務の存在でございます。先ほどの
地方分権推進委員会の提案でも、あるいは、先ごろ出ました
地方制度調査会の提案でも、この
機関委任事務の全面的な
廃止が言われている。私は、これは大変画期的なことであると思いまして、全面的に
賛成をするものでございます。
機関委任事務というのは、くどくど説明する必要もないかと思いますが、これは普通
地方公共団体において処理をされておりますけれども、当該
地方公共団体の
事務ではないのでございまして、多くが国の
事務ということでございます。ただ、法律によって国の
事務であるものを
地方公共団体の特定の
機関に行わせるという
規定を設けますと、自動的に、自動的にといいましても
自治省の方で分類をするわけですけれども、おおよそ自動的に
機関委任事務となってしまうわけです。そういう点は、
国会で法律をつくるたびに
機関委任事務が自動的にふえるということでもございます。
そして、この
機関委任事務に関しては
地方公共団体にその処理を義務づけておるわけですが、同時に、
地方自治法の百五十条によりまして、これら
地方公共団体の
機関はあたかも国の下級
機関、出先
機関のように扱うことが認められ、国の各大臣あるいはその他の
省庁の職員から指揮命令ができるという大変奇妙なシステムになっているわけでございます。したがいまして、この
制度を今回
廃止するという提案がされたことは大変歓迎すべきことであるということを、まず
一つ申し上げたいと思います。
しかしながら、私として少し縣念をしておりますのは、それでは
機関委任事務を
廃止いたしまして国の
事務を
地方公共団体にしなければならないわけですが、例えばそういうときに考えられるごく普通の方法として、学問上言われる団体委任
事務の
制度がございます。これは特定の
機関にこの処理を義務づけるのではなくて、団体に対して、
地方公共団体ですが、
都道府県や
市町村に当該
事務の処理を義務づけるというものでございます、こちらの方は表現がわずかしか変わらないのですが、
機関委任と団体委任ということで。しかしながら、団体委任の方は完全に当該普通
地方公共団体の
事務、いわゆる
自治的な
事務という位置づけに一応はなるわけでございまして、先ほど申しました国の指揮命令はこれは行うことができなくなるはずでございます。
しかしながら、実際、
機関委任事務を
廃止しまして、こういう形で例えば団体委任
事務にして問題が変わるかという点に私は危惧を抱いているわけでございます。
一例を申しますと、かつて
機関委任事務であって今日団体委任
事務になっているものは、幾つか皆さん御承知のものがあるわけですけれども、例えば自動車の運転免許に関する公安
委員会の
事務、あるいは風俗営業に関する同じく公安
委員会の
事務は、かつては
機関委任事務でございましたが、現在は団体委任です。しかし、ほとんどその処理の実態において
自治的な処理が行われるというふうに変わったかと申しますと、私はその点に大きな変化がないのではなかろうかというふうにも思うわけでございます。
すなわち、
機関委任事務の
廃止というのは、確かに
制度上重要な問題ですけれども、ただこれを
廃止すればおのずから
自治体の自主的な処理が可能になるわけではないということに十分御留意をいただきたいということでございます。
さて、
機関委任事務以外の、今も問題にいたしましたけれども、団体委任
事務であれ、あるいはそのほか、そもそも
地方公共団体において処理すべき
事務、これを学問上は公共
事務とか
行政事務だとかいうふうに申しておりますけれども、こちらの方について問題はないのかといいますと、特に従来の
法制度の運用におきまして問題になってまいりましたのは、法律と条例の
関係でございます。
地方公共団体が自主的に
行政を行おうといたしますと、もしその
行政の
内容が国民の自由や財産に対する規制を
内容とする場合、必ず条例が必要となってくるわけでございます。先ほど少し触れました町づくりのために規制を加えようとするときには、もちろん本来は条例が必要になってくるわけでございます。
ところが、現在のこの法理論のもとにおきましては、
地方公共団体の条例は法律の制定していない
領域において行えるか、あるいは法律が認めた場合において行えるかのいずれかである。これを法律の先占、先占は先に占領するということですが、法律の先占の理論と呼んでおります。この
議論がありますために、先ほど申しましたこととまた同じようなことを繰り返すわけですが、
国会で法律をつくればつくるほど、
地方公共団体における条例制定の余地はどんどん狭くなってくるわけでございます。すなわち、
地方公共団体の自主的な
事務を自主的に行わせようといたしますと、この問題をクリアしない限りは十分な
効果を得ることはできません。単に
事務の配分を
機関委任から
地方公共団体の
事務に変更するだけでは終わらないわけでありまして、ぜひとも法律の中で
地方公共団体の条例制定の余地を積極的に拡大していただきたい。これまでの法律論で、特にこれは政府の当局者が繰り返し述べているわけですけれども、法律の先占論については
国会の方で明確にこれを否定するような形で法を制定していただきたいと思うわけでございます。
それから、
地方公共団体の
自治的な
事務に関しまして、法律による
自主性の制限以外にも、まだ問題がございます。それは、いわゆる国の
中央省庁による
行政機関を通じての関与、法律による関与を
立法的関与と申しますと、これを
行政的関与と通常申しております。ちょっと順番が逆になりますが、先にこれについて述べさせていただきたいと思います。
戦後の
地方自治法の
歴史を見てまいりますと、
地方自治法は
憲法附属法のような形で、
憲法の九十二条からの
地方自治の法条を具体化する、そういう大変民主的な戦後の新しい法律であったわけでございます。
しかしながら、御承知のとおり、昭和二十五年以降、数次の改正を経まして、その改正の基本的な
内容は、いずれも国による
地方公共団体に対する関与の強化であったわけです。今日、ごく普通に行われております助言、指導といったもの、これは自主的な
事務についても行われるわけでございますけれども、形は助言、指導ですが、実際命令と受け取る
地方団体の当局者あるいは職員も多いわけでございます。こういう指導、助言の
制度が導入されましたのが昭和二十七年です。
それから、特にしばしば問題にされております、
内閣総理大臣によりますところの
地方公共団体に対する違法な
行政の是正、改善の措置要求が
地方自治法に明記されましたのが昭和三十一年でございます。
これ以外にも、さまざまなシステムが用意されているわけですが、
機関委任事務、これは国の
事務のまま
地方公共団体に義務づけているものですが、これ以外に、当該
地方公共団体の
事務であっても、現行の
地方自治法は国によるさまざまな関与を承認しているわけでございます。
私は、以前、若干の市や
都道府県で
調査をしたことがございますけれども、その
調査の中で、各職員に、あなたが処理しておられる
事務は
機関委任事務、すなわち国の
事務ですか、それとも皆さんがお勤めの団体の
事務ですか、いわゆる自主的な
事務ですかと、このように伺ったところ、ほとんどの職員は明確な答えがありません。法令を調べてみないとわかりませんという答えがあるわけでございまして、結局、自主的な
事務でありましても、このように現在
地方自治法によって承認をされています
行政的関与が行われ、これが先ほど申しました
機関委任事務に関します明確な、
地方自治法百五十条で明確になっております指揮監督と区別なく
地方団体の方では受けとめられているという現状があるわけです。
これは単に意識の問題だけではございません。この間、
地方行政改革の中で明瞭に見られましたのは、各
地方公共団体の自主的な
事務にかかわって合理化あるいは効率化ということを国が指示いたしまして、これが十分に行われないという場合に、
財政的に一定のペナルティーを科するということが行革審答申などでも明瞭に語られていたわけでございます。
したがいまして、
事務の再配分を行いまして、
地方公共団体において自主的な
事務を本当に実現させるためには何をなすべきかと申しますと、現在の
地方自治法における
省庁の
行政的な関与の見直しも、必ずあわせて行わなければいけないということでございます。
この場合、法改正は現在の
制度を
廃止すれば済むかといいますと、私は必ずしもそうとは思っていないわけでありまして、積極的に国と
地方公共団体の間におきます対等な
関係を実現するための何らかの
制度を用意されてはどうか。
これはフランスでかなり広範に見られるわけですけれども、契約的手法とか
協議的手法、コンセルタシオンというのですけれども、そういう名称の手法もございます。
これは現在言われております包括
補助金、
一般財源制度とも
関係をするわけですけれども、
地方公共団体と国との間で政策について総合的に
協議をいたしまして、補助すべき事業等について契約書を取り交わすという大変ユニークなものであります。これは単に一例でございますけれども、例えば、こういう
制度を通じて国と
地方公共団体の対等性というものを十分に確保することができるかと考えております。
最後の論点になりますが、時間がありませんので、私の感想だけ述べさせていただきます。
現在、
地方分権と申します場合に、
地方公共団体の
規模の拡大論が大変多く見られます。道州制であるとか
市町村連合であるとか、あるいは今回の一連の
意見、答申類でも
市町村の合併の
推進ということが言われております。先ほど
木佐さんがおっしゃられたとおりでありまして、
地方分権ないし
自治の強化という場合に、
住民自治の強化がその前提であることは言うをまちません。
そうした場合に、
規模のいたずらな拡大については私は大変色惧を抱くものであります。
規模については現状のままというふうに考えてはいかがか。広域的な
事務処理の
必要性がある場合には、現在の団体を維持したまま、共同処理の方式をさらに検討してはいかがか。
事務処理、
事務組合の方式等について運用、改善の方法もあろうかと考えているわけです。
最後に
一言だけ申し上げますが、現在
地方分権推進基本法の御提案があるやと聞いております。これは大変意義のあることであるということは、他の
参考人と私は
意見を異にするものではございませんが、この
地方分権推進基本法をお考えになる際に、先ほども申しましたとおりでございますが、
地方自治の
基本法たる
地方自治法をどうされるのかということについて、私はむしろお考えを伺いたいという気持ちがございます。先ほど来申しますとおり、
地方自治法にはいろいろな問題が戦後発生しているわけでありまして、
地方自治法自体の見直しもあわせて行っていただきたいということを申し上げまして、私の
意見とさせていただきます。(拍手)