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島田公述人 ただいま御紹介にあずかりました
島田でございます。
早速、今次
税制改革について
所見を申し上げたいと思います。
大きく
二つに分けて申し上げたいと思いますが、
一つは、今次
税制改革の
関連法案についての
評価、いま
一つは、今次
税制改革が直面している
課題の本質的な
意味といいますか、本格的に取り組むべき
課題といいますか、そういったことについて申し上げたいと思います。
まず、
評価については三点ほど申し上げたいと思いますが、
一つは、
所得税及び
個人住民税の
改正について、いわゆる
制度減税でございます。
現行の
所得税の
税率構造が、
中堅所得層の階層の
税率の急勾配がある、つまり
限界税率が非常に高くなっていくということが
勤労意欲を阻害するという
懸念があったことはつとに指摘されておるところでありますが、今回
税率ブラケットを拡大するという形で
中堅所得層の
限界税率の上昇をある
程度抑制したということは、働きがいを確保するという
意味で
それなりに
評価できるというふうに思います。
他方、
消費税率の
引き上げということもありまして、低
所得者層への影響を配慮するということから
課税の最低限を
引き上げておりますが、私は、個人的な
意見としては、税は本来万民が広く
負担すべきものだというふうに考えておりますけれども、これによって約一兆円
程度の減収に抑えているということは
それなりに
評価ができるのではないかと思います。
第二番目に、
消費税の
改革について申し上げたいと思います。
消費税の
改革について、その
前提条件として大きな問題となっておりますのは益税問題でございます。この益税問題にかかわる不公平がつとに指摘されておりますが、
消費税を導入した際の
社会的な
抵抗感を和らげるために、便宜的な
措置で
幾つかの
措置が導入されておったわけでありますが、このことが不公平であるということで、
消費税に関する信頼について大きな問題がございました。
消費税率を上げていくというようなことを展望いたしますと、この問題はとりわけ重要な問題になろうかと思いますが、今回の
改正では、
限界控除制度を廃止する、
簡易課税制度適用の上限を四億円から二億円に引き下げる、
免税点制度について、特に
新規法人の
条件をやや厳しくするといったようなことで改善を試みているのは
評価できます。
私の個人的な見方としては、もっとこれは厳格にしてもいいのではないか、とりわけ
免税点制度の中身の問題、
業者番号つきの
税額票を導入するといったようなことまで考えてもよかったのではないかと思いますが、しかし、一応
評価できるというふうに思います。
また、もう
一つの重要な問題であります
消費税率でございますが、
平成九年の四月から四%にする、それから
地方消費税を加えると五%ということになるわけですが、まず、
所得税の
減税と
消費税の
税率引き上げについての一体的な
法案化をするということになったことについては、私は大いに
評価をしたいというふうに思います。
民主主義の
政治体制というのは
税制改革については非常に難しいものを含んでいるというのは、
先生方だれよりもよく
御存じだと思いますが、
選挙民に
負担の
増加を受け入れてもらうということがどれだけ難しいかということがございます。その
意味で、この
一体処理というのは極めて重要な決断であったというふうに思います。
しかし、
税率そのものについては今回はこういうことでございますが、将来の
税率をどう定めるかについてはまだまだ多くの
検討を要すべき
課題があるのではないかと思います。適切な
税率は何なのかということについて
幾つかの
条件を明確にしておかなくてはならないかと思います。
一つは、
経済成長がどうなるか、それをどう見るかということでございますが、今回の
特別減税をどのように扱うかといった問題もこれに密接にかかわります。
また、大きな問題として、
国民の共感、賛同を得るために、とりわけ
行政改革ということが重要でございます。どれだけ歳費の削減ができるのか、これを
国民は注視をしているわけでございまして、全力でこれは進めていただきたいというふうに思います。
それから、
高齢化社会に備えてどれだけの
社会的費用がかかっていくのかということについてもまだまだ
検討の
余地があろうかと思います。後段、申し上げたいと思います。
そして、もう
一つ触れておきたいのは、
公共投資の
財源をどのようにするのかということでございます。今後十年間で六百二十兆円という大枠が出ておりますけれども、これをどうするのか。こういった
条件というものを大いに
議論をして、明確にルールを定めていただきたい。これは
国民全体が望んでいることではないかというふうに思います。
三番目の
ポイントは、
地方消費税の創設に関してでございますが、
消費税額の二五%を
地方消費税とするということで、今回四%ということになりますと、一%が
地方消費税に回るということでございますが、まあ
地方分権が重要であるということが言われております。その真意は、責任のある
地方自治を実現することだというふうに私は考えておりますけれども、
地方自治体が独自の裁量で安定した税源を確保するということは
それなりに望ましいのではないか。
ただ、
地方分権、責任ある
地方自治というものを支える
税制の
あり方として、本来これが長期的な
意味でベストかどうかというと、私は個人的には、
地方自治体の
公共サービスの質を反映するような
付加価値に基づいた税といいますか、含めて、
事業税をもっと
検討する必要があろうかと思いますし、
固定資産税の
あり方、
住民税とのバランス、こういったものを総合的に将来は大いに
検討する
余地があるのではないかというふうに思います。
ただ、今次の
税制改革は、今申し上げたような三点ほどの理由で
それなりに
評価をできる、重要な一歩ではないかというふうに思います。
さて、第二番目の大きな話題に入りたいと思いますが、本質的な
課題として、一体この
税制改革に求められているものは何なのかということでございます。それは
一言で言えば、
高齢化が進み、
産業空洞化が
懸念されるようなこういう
経済社会状況の中で、いかに
活力がある
社会をつくるか、そして安心して暮らせる
社会をつくるかということであろうかと思います。
この点に関して、本質的な問題として二点ほど指摘をしておきたいと思います。
第一点は、
負担の公平公正ということでございます。
社会的な
費用が
高齢化に伴って非常にふえていくということは避けられません。それに応じて
人々がより多くの
負担をしていかなくてはならない、これはもう自明なことでございますが、その中でなお
活力を維持していくためにはどうするかということで、一番重要なことは、
負担が公平であり公正であるということであろうかと思います。
その
意味で、今回の
税制改革の中で、
中堅所得層の
負担が過度に高いのではないかという
懸念が抱かれておって、そのことに関して、
限界税率急上昇を抑制する手段がとられたということも
一つでございますが、より大きな問題としては、
世代間の不公平の問題、それから水平的な不公平、
自営業者と
給与所得者の間の不公平の問題といったような問題にどう取り組むかということでございます。
これまでのような
所得税中心の
税制でございますと、この
矛盾と不公平は拡大する一方であったというふうに思います。そこで、
消費税のような税の比重を高めていくということは、この
矛盾を解決する、あるいは解決できないまでも緩和するという
方向で大いに進めていく必要があることではないかというふうに思っております。
さらに言うならば、
資産所得と
勤労所得の不公平ということも将来考えていかなくてはならない。たまたまそこに
土地を持っていたから、あるいは親から
遺産相続を受けたからというような
所得で朝からゴルフをしても大丈夫というような
人々と、額に汗して働く
人々との間の格差が
税制上あるというようなことがあると、これは将来の
日本の
社会の
活力として大変な問題でございます。この問題は、
土地税制、
相続税、これらを含めた
資産税制の問題だと思っておりますが、本日の
課題ではないと思いますので、しかしながら将来これは非常に大きな
課題にならざるを得ないというふうに思います。
最後に申し上げたいのは、安心して暮らせる
社会をどう築くかということに関して、
社会保障の問題でございます。
今回の
税制改革につきましては、
緊急性の高い
老人介護対策、
少子化対策として〇・五兆ほど計上されているわけでございますけれども、
先生方よく
御存じのように、本年三月に発表されました
厚生省の
福祉ビジョン、これはこういった問題に関しての公的な非常に数少ない数量的な
手がかりの
一つということが言えようかと思います。これは、今の
社会保障体制をいかに改善していくかということについて
幾つかの
ケースを挙げているわけでございますが、その中でよく使われておりますのは
ケースの1というものでございます。
これについては三つの
ポイントがございまして、
一つは、先般成立いたしました
年金改革法の中に含まれておりますように、これまで
名目所得に
スライドしていた
年金の
スライドを
ネット所得に
スライドさせるという
制度の
合理化、これは大変重要な
合理化でございます。それから
医療の
効率化。それから
福祉については、これまで以上に
介護対策、
少子化対策を充実させる、こういう
方向で組まれた
ケースでございます。
この
方向性は大変よろしいんでございますけれども、
税制の
議論でさんざん問題になりましたのは、二〇〇〇年といった
あたりを
ターゲットにいたしますと、こういうことを実現していくだけでも、
公費負担の
増加分が現状の数字で
評価いたしまして五・五兆ぐらいの
負担増になる、これをどうするのかということでございます。
この点が
税制改革との
関係で非常に
議論されたわけでございますが、この
ビジョンそのものはむしろ二〇〇〇年よりも
ターゲットを二〇二五年
あたりに、
高齢化のピークに置いておりまして、そのときの
社会保障の
給付費の
国民所得比は、現在が一六%ぐらいであるとしますと二八%にもなるという大変な問題を提起していたわけでございます。
こういった問題をどのように、
負担をどのように賄っていくのかということが非常に大きな問題でございまして、少し落ちついて考えるとわかるんですが、これはとても
消費税の増額で賄えるような問題ではないのではないかと思います。
一橋大学の
野口悠紀雄教授が、
消費税で賄うなら二けたの
消費税にしなければならない、こういうことを言っておられますが、単純に考えるとそういうことになります。したがって、
野口先生のような方は、
土地資産を活用したいわばリバースモーゲージといいますか、武蔵野市なんかで行われている方法もその
一つだと思いますが、そういったことをやってはどうかというくらいの提言をしているわけでございます。
そういったことを考えますと、本当にこの
社会保障で安心して暮らせる
社会を
制度的に構築するとなるとどうしたらいいのかという問題が、
税制との絡みではまだ、私は大変
評価できる一歩だと申し上げましたが、もっと実は
国民の関心からすれば
議論を詰めていただきたい、こういう
感じがいたします。
年金について言いますと、
年金は
積立方式で、
保険ではございますけれども、事実
上大部分が次の
世代に
賦課をする
賦課方式になっているのは万人承知しているところでございます。とすれば、これは事実上の
税金でございまして、
請求権があるとはいっても、
基礎年金部分についてはそれは
請求権があるでしょうけれども、
報酬比例部分についてまで、
請求権がもちろんあるんでしょうけれども、将来の
世代との
関連でそれが納得させられるものなのか、将来
世代が十分にそれを
負担しましょうと言ってくれるものなのか、もう
一つ明らかでないところが残るんではないかと思います。
したがって、そんなことも考えますと、少なくとも
基礎年金部分についてはシビルミニマムでございますから、事実上の
税金として
負担することはこれは動かしがたいわけですが、
報酬比例部分のようなものについてはもっと
自助努力があってもいいのかな、
私的年金というようなことももっとあってもいいのかなというふうに思います。それこそ
土地資産の
流動化というようなことまでも含めて考えなくてはならないのではないかとすら思います。
また、
医療につきましては、
老人医療費が非常に高額になるということは周知のことでございますが、これについてももっともっと創造的な
改革の
余地はないのかなというふうに思います。
最後に、
福祉でございますが、
福祉の最大の
問題点は、これが
税金で賄われていることでございまして、
公的福祉が。したがって、
措置主義ということになります。そうしますと、どうしても
セーフティーネットが優先する。そうしますと、これはこれで重要なことなんですが、一般の普通の
所得を持っている
人たちの
アクセスが、特に
都会地では
公的福祉に対する
アクセスが極めて限られてくるという現実がございます。
したがって、これをどうするのか。これをすべて公的な施設の拡充で賄おうとすれば、
野口先生が言うように二けたということになってきますでしょうし、
介護保険ということも本格的に考えなくてはならないかもしれない。しかし、とにかく
民間の
活力を導入するということが重要だろうと思います。そして、特に
マンパワーをどう確保するのか、どういうふうな
制度整備をしていくのかということが大きな問題でございます。
このように考えますと、
厚生省の
ビジョンは非常に重要な
手がかりではございますが、唯一の考え方ではないというふうに思います。したがって、
公的負担を重視して、そこに
軸足を置いた
福祉を展開するのか、あるいは
自助努力をもっと重視した形で
軸足を展開するのか、あるいはもっとこれまでとは違った
社会的な仕組みというようなことを考えるのかといったような問題をぜひ
先生方に徹底的に
議論をしていただいて、その中で
根本理念の違いも浮き上がらせていただきたい、そういう中で
国民に選択肢を与えていただきたい、このように思います。
今回の
税制改革は、私は、繰り返して申し上げますが、大変難しい
状況の中で大変重要な
第一歩であったというふうに
評価させていただきますが、しかし、非常に大きな問題は将来に
幾つも残しておかれたという
感じがいたします。そういう
意味で、皮肉ですけれども、そういう
意味でも重要な一歩であるというふうに思います。大いに頑張っていただきたいと思います。
どうもありがとうございました。(拍手)