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参考人(蒲島郁夫君) 筑波
大学の蒲島でございます。
本日は、
参考人として
意見を述べる機会を与えていただき、大変ありがとうございます。
時間が十五分と限られておりますので、皆さんのお手元に私の
参考人意見のアウトラインを用意しておきました。それに沿ってお話ししたいと思います。
まず、
選挙制度の
改革について幾つかポイントがございますけれ
ども、
選挙制度改革をするとどういうふうな
政党制になるのか、そういう
議論がマスコミあるいは政界でよくなされております。例えば、今度の
選挙制度改革によって二大
政党制になるとか、あるいは多党制になるとか、それからどちらの
政党が利益を得るとか、そういうふうな
議論が多いわけです。
しかしながら、
選挙制度改革というよりも、実は
政党制を決めるのは世論の分布ではないかというふうに
政治学者は考えているわけです。
ここに有名なアンソニー・ダウンズの理論を御
紹介しますけれ
ども、左の方が多党制を生む世論の分布です。このようにA、B、C、D、Eというふうな形で多くの山があります。それから、二大
政党制を生む世論の分布というのは、中央にピークのある正規分布の形をしたものです。それで、○の方を革新、それから一○○の方を保守というふうにしますと、A党はAという山を、それからC党はCというイデオロギーを、それからE党はEというイデオロギーを代表して、それが多党制の形になっていくわけです。
ところが、二大
政党制を生む世論の分布といいますのはこのように正規分布をしておりまして、正規分布をしておりますと中道に多くの有権者が固まっております。そうすると、その中道の有権者を獲得するために、A党とB党は中心に寄っていくわけです。そうすると、だんだんA党とB党の
関係が政策の差がなくなってまいります。つまり、A党が
政権をとってもB党が
政権をとっても安定的な
政権交代が行われるということになってくるわけです。
それでは、
日本の世論の分布はどうなのかということを考えてみますと、私
どもが一九九三年七月、今回の総
選挙の直後に
日本人のイデオロギー、特に保守と革新について調査をした結果がここに示されています。
これを見ますと、二大
政党制を生む世論分布に非常に似ております。しかしながら、左の方に小さな山がある、右の方に小さな山がある、だからこれはなかなか無視はできないわけですが、全体的に言いますと中道にピークのある正規分布をしている。つまり、
選挙制度の
改革の前に、
日本人の世論の分布というのは中道を望むような、そういうふうな二大
政党制を生む世論の分布に近いのではないか。
実は、この世論の分布は
選挙の結果こうなったわけではなくて、
選挙の前もこのような形をしていたわけです。ところが、これまでは
自民党が中道に近づく形で分裂し、そして
政権担当能力のイメージが非常に低いと言われた非自民諸
政党の分裂の中にあって、
自民党が大変な利益を得てきた。そういう
意味では、世論の分布そのものは二大
政党に近い。大きな流れをこの中からつかむとすると、連立与党が一緒になって連立
政権が成立した直後から実は二大
政党システムの動きが始まっているというふうな理解をしていただきたいと思います。
そして、その中にあって我々は
選挙制度の
改革についての
議論を行っているわけですけれ
ども、小
選挙区制の部分において二大
政党制を固定化する方向に持っていくだろう、それから比例制の部分において、さまざまなまだ小さな山がありますし
政党のアイデンティティーがあるわけですけれ
ども、この維持に働くのではないか。それからもう
一つ、この小
選挙区制を残しておくことは、ここの二大
政党の中に入ってこない少数
意見の尊重と変化への感受性にとっては非常に重要ではないかというふうな考えを持っております。
じゃ、このような大きな
日本人の世論の流れの中において
選挙制度をめぐる
議論はどのようなものかといいますと、まず第一に定数配分の問題があります。この大きな流れの中にあっては、配分が今の配分から微調整されたとしても恐らく全体的な変化をもたらさないだろう。ただ、
政党のメンツとかそういうことがあると思いますので、それからアイデンティティーの確保という
意味もありますので、それは難しいかもしれないけれ
ども、大きな
政治の流れの中では微調整はそれほど大きな変化をもたらさないと考えます。
それから比例区の単位に関しては、候補者とのつながり、道州制、それからボーダーレス
社会への対応という形でもし妥協がなされるとすれば、全国区からブロック制に変わる。ただ、それは全国区の
選挙区を放棄するということであれば少数
意見の尊重と変化への感受性がそれだけ低くなるということになると思います。
投票方法については二票制と一票制が今提起されてありますけれ
ども、恐らく二票制の方がこの二つの少数
意見の尊重と変化への感受性にとって十分対応できるのではないかというふうに考えます。
四番目に、重複立候補というのがありますけれ
ども、この問題に関しては、小
選挙区制が
提案されたときに、金権
腐敗体質をなくす、あるいはスキャンダル議員をそこで排除するというふうな役割が大きく取り上げられてきたわけですけれ
ども、もしこれを比例区で敗者救済をするようなことになれば、その大きなスキャンダル議員を排除するというふうな
意味の部分でやや問題があるんじゃないか。
それからもう
一つ、敗者復活あるいは小
選挙区の方の敗者救済を認めますと、女性や、それから二十一世紀に必要な説得の
政治家つまり知性とか能力とか尊厳さを持った
政治家を名簿になかなか入れにくくなる、そういうふうな問題があるんじゃないかというふうな気がします。
時間がございませんので、次に
政治資金規正法案について述べたいと思います。
二ページに
政治資金規正法案について書いてありますけれ
ども、これはどちらかといえば対立的な争点ではなくて、有権者の方から見ればちゃんとやってほしいという合意争点の
意味を持っております。
政治資金規制を考える上で三つの原則があります。第一に透明性の向上、第二に監視
体制の確保、それから第三に罰則の強化ということになると思いますけれ
ども、今回の
法案は、現行の
法案と比べますと、その三つの原則の上から見ても進歩しているんじゃないかというふうに考えます。
しかし、幾つかの問題がございます。
まず第一に、特定の
政治家を指定して献金するひもつき献金の場合どうするのかという規定がない。第二に、特定の
政治家の支配下になり得る、なるかどうかわかりませんけれ
ども、支配下になり得る
政党の支部
組織あるいは関連
組織を乱造することによって、
政治家に対する企業献金あるいは団体献金が事実上野放しになる、そういうふうな問題が指摘されております。解決策としては、企業・団体献金を禁止してしまうか、あるいはをれを五年後の見直しの間に、もしこれが続くとすれば、この二つの抜け穴はぜひ防ぐべきであるというふうに考えます。
次に、寄附の定義についてですけれ
ども、これはいつも私は疑問に思うんですが、金銭以外の秘書とか車とか事務所、そういうふうな利益供与が寄附としてみなされるのかどうか。寄附の定義をより明らかにするべきじゃないかというふうに考えます。
それから、透明性のさらなる強化に向けてあるいは監視
体制のさらなる強化に向けて考えますと、先ほど前田
先生がおっしゃったように、
政治資金の流れを銀行口座を指定して明確化する。あるいは公開性を高めるために、今のように自治省に出向いて閲覧するのではなくて、データベース化してすべての人がコンピューターを通して閲覧できるようにするということが大事ではないかと思います。
それから、
選挙運動について幾つかのコメントがございます。
選挙運動を考えるにおいて何が重要かといいますと、投票率が今どんどん下がっております。長期的な課題としては、この投票率の減少にどう対応するか、そういうことを考えつつ
選挙運動に関する法律を改めなければいけないだろう。
選挙運動をめぐる争点については、今二つ上がっておりますけれ
ども、戸別訪問の自由化をするかどうか。この問題に関しては、
選挙あるいは投票に対する参加意識を高めるためには、
選挙運動全体を自由化して活性化する方面から見ますと、禁止の方向ではなくて自由化の方面に向かうべきではないかというふうに思います。
それから二番目に、テレビ討論形式の
導入。せっかく小
選挙区制を
導入して
政党対
政党の
選挙になるわけですから、無味乾燥なテレビ政見放送をやめて、テレビ討論によって、ちょうどアメリカの大統領
選挙のように、有権者の関心を高めて選択を可能にすべきではなかろうかというふうに考えます。
そのほかに
政治参加の拡大をめぐる争点として、
比例代表制で議席の配分が受けられるのは三%の得票率、
比例代表選挙に候補者名簿を出せる
条件が三%の得票率、企業・団体献金を受ける
条件としての三%の得票率というのがありますけれ
ども、これは
政治参加の拡大という観点から見ますとやや高過ぎるのではないか。これはやはり一、二%まで下げて、ただ公費助成に関しては、血税を使うわけですから、その対象についてはややハードルを高くして三%ほどでもいいのではないかというふうに考えます。そのほかに
選挙年齢の引き下げ、在外邦人の
選挙権の付与、地方
選挙における在日韓国人の
選挙権、そういうふうな観点からも
政治参加の拡大という
意味でぜひ考えてほしいと思います。
最後になりましたけれ
ども、区
画定審議会設置法案について一言述べさせていただきます。
選挙の区割りというのは、極めて
政治化されやすい。そのために三つの原則が必要だと思います。まず、中立性、専門性、それから実際に代表を選ぶ
選挙区住民の要望の吸収性、この三つかない限り、なかなか
政治家の
方々も納得できないし、それから有権者の
方々も納得できないわけです。この三原則から見ますと、この
法案には幾つかの
問題点があるんじゃないか。
一つは、総理府に
審議会
委員を置くとなっておりますけれ
ども、それはそのときどきの与党に非常に影響されやすい。それから、それを十年に一回見直すために、常駐の職員ではなくて、パートタイムの職員という人がそこに入っていくわけです。そういう
意味で、中立性、専門性、使命感の観点からいうと、イギリスのように常設の職員、十二人から三十六人ですけれ
ども、それを持つ行政
委員会方式にすべきではなかろうかというふうに考えます。
二番目に、イギリスの
選挙区画
委員会の経験を見ますと、区割りには七年間の作業を要しているわけです。十年に一回行うわけですけれ
ども、イギリスの場合は七年間の作業を要しています。この
法案では十年ごとに行われる国勢調査後一年以内に行うというふうに述べてありますけれ
ども、
日本の官僚
組織は大変効率的だとはいいましても、それでも楽観的過ぎるのではないかというふうに考えます。
三番目に、
最後になりますけれ
ども、
選挙区割り
委員会による地方公聴会、これは非常に大事である。イギリスではこの地方公聴会を大変尊重しておりまして、最初に中央で決めた後でこの地方公聴会を行い、それで
選挙区住民の要望の吸収性に努めているわけです。これについて
法案では何ら触れられておりませんけれ
ども、ぜひこれについて考えてほしいと思います。
あと一分時間がありますので、
最後に。
この
政治改革法案について皆さん大変情熱を持ってやっておられますけれ
ども、これがおくれることになると恐らく三つのコストが今考えられるんじゃないか。
一つは、
政治改革法案を長引かせることによってオーバーロードエフェクトといいますか、過重効果といいまして、つまりほかの政策に余りタッチできなくなる、そういうふうなコストがある。それから、波及効果というコストがあって、
政府あるいは
国会が余りこのために仕事をしておりますと、外交とかさまざまなほかの政策に波及していって、それが大きな問題となる。それから、これがもしできないようなことになりますと、
国民の間の
政治不信が非常に高まって、これが後遺症となって残るんじゃないか。そういう
意味でオーバーロードエフェクト、過重効果、波及効果、それから後遺症、そういうふうな大きな問題が残りますので、ぜひ早い機会にこの
政治改革関連
法案を成立させていただきたいと思います。
これで、
参考人意見を終わります。(拍手)