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国務大臣(
宮澤喜一君) もともとこの話の発端は、昨年の一月にニューヨークで私とエリツィンさんが会いましたときに、エリツィンさんの方から、日本にそのうちぜひ行きます、領土問題もありますしと、こういう切り出しでありました。で、いろいろありましたけれ
ども、じゃ九月がいいと。エリツィンさんは自分で外務大臣の手帳を取って、自分で日をこのあたりでどうだというようなことであったんですね。そのときには恐らく私は、エリツィン氏が自分が大統領になって、
経済も何とかうまくいく、国内もうまく治められて、そして九月にはこの懸案をという気持ちであったのでございましょうね、そうでありませんと向こうからああいうことを言われることはありませんので。
ところが、いろんな
意味で事志とたがって、
経済はうまくいきません、政治勢力も、向こうが呼びますから仮にそう呼びますが、いわゆる反動勢力が出てきて、そういう交渉はとんでもない話だということになってしまったというのが昨年正月から九月までのああいう出来事の経緯であったと思います。
そこで、今、私が感じますことは二つございます。
一つは、九月に急に訪日をやめられたことから、ここまで日本側あるいは
国民一般が持っておる感じというものが御本人に十分に伝わっていないと思われる節がございます。それは向こうの
立場に立ってみますと、毎日毎日が恐らく大変な毎日であって、一日おくらせればどうかなるというそういう問題でない問題、今のような種類の問題はどうしても後回し後回しになりかねない。しかもそういう
状況の中で、ロシアの外務当局はかなりこの問題について熱心に努力をしておりますけれ
ども、なかなか大統領に自分たちの考えなり相手国の
状況なりを報告する機会というものが物理的にないらしい。それはもう非常に我々とするとややもどかしいことでございますけれ
ども、どうもそういうことで十分に大統領にこちら側の空気というものが伝わっていないらしいという問題が
一つございます。
それからもう
一つの問題は、仮にそれがわかりましても、今のような
状況の中で政権そのものが非常に苦労のある政権ですから、なかなかこういう、どっちかといえばいわばしょい込みになる問題でございましょう、それを取り上げる空気というものが出てこない、できるならばこれは後へ延ばしておきたい。つまり端的に言えば、実情について十分に大統領がどれだけわかっておられるかというこういう問題と、仮にわかったとしても処理が非常に、できれば延ばしておきたいという種類の問題がある。
この二つが私は問題だと思うのでございます。
そうではありますけれ
ども、先ほど各大臣が言われましたように、殊に通産大臣が言っておられましたが、これからあれだけの大国が本当に民主主義になっていくのか市場
経済になっていくのかどうかということは世界全体にとって今大きな問題ですし、いわんや隣国である我々にとりましてはいわば人ごとではない種類の問題でございますから、どうしてもそこのところだけは遅々としてでもそっちの方向へ行ってもらわないと困る。
今としてはエリツィンさんがそれをともかくも主導しようとしておられるのですから、先ほど石川
委員がお話しのようなせんだっての対ソ支援の
会議にしても我が国が主導をする、先ほどお話のありました十八億ドルにしましても、そういう限られた性質のものではあってもG7の中では我が国がかなりいいつき合いをしている方でございます。それなんかも、そういうことでとにかくエリツィンという人をこの際やっぱり守り立てていくことがロシアの近代化路線というものを推進するゆえんだろう、そういう我々なりの好意と申しますか考え方でやっておることでございます。
ですから、今度G7でおいでになられるということは、これは私がG7の議長として御招待をいたしたのでございますから、G7の
会議が済みました後で別に場を設けてセブンとエリツィンさんとが意見交換をする場をつくりたいと思っておりますけれ
ども、そのときには私はG7の議長としてお話をいたしますので、二国間の問題を私から提起するというつもりはございません。
ただ、そういう機会に、エリツィンさんが来ら
れるということで私と個別の会談をする場合はあり得ることと思っております。
その際には、これは今度はG7の議長という
立場ではございませんから、私から、かねてあなたのおっしゃっていらっしゃるように領土問題というものがあって、それは法と正義に基づいて処理をするというあなたの御方針、これにもちろん変更がないということはこれは確認をいたしておかなければならない問題でございますけれ
ども、これは、二人の話となりますと、やはり両国間の一番大きな問題はこの問題であり、そうしてこの問題を解決して国交を正常化する、講和、平和
条約を結ぶということでございますから、これは私からお話を申し上げておく。
そういうことでございますが、その中で、エリツィンさん御自身は一遍五月の夫なりに訪日ができるかもしれないということをやや一方的に言われて、それはまた別の
事情で、またちょっと都合が悪かったと。これは正式のお話でないから
一つ臨時みたいな話でございますね。そうして今は、七月にはそういうことで来る。その後、やはり訪日をしなきゃならぬのではないかなということを考えておられるようでありまして、それは私は、そういう御用意があれば、もちろんこちらとしては日さえ合えばおいでを願ってお話をしたい。
こういう環境でございますので、確かに懸案が片づいておらない
状況の中でいかに当面のあれに限るとはいえ、かなりの援助をしていくということについては、
国民の中にいろんな御意見があり、いろんな感情がありますことを私は存じておりますが、さりとて先方も二国間の問題についてこれをないがしろにしてしまうという態度でおられるわけではないと、こういうこととして御
理解を
お願いいたしたいと思います。