○塚本三郎君 私は、民社党を代表して、
我が国の
国連平和維持
活動への参加に対し、
総理並びに
関係大臣に
質問をいたします、
この四月八日に、
カンボジアで凶弾に倒れた
UNTAC要員である
中田厚仁さんの訃報に接し、謹んでお悔やみ申し上げ、御冥福を心からお祈り申し上げます。
中田さんは、
世界の平和、そして
カンボジアの平和に身も心もささげた、真に勇気ある
日本男児でありました。
日本の
PKO派遣が決まる前から
カンボジアでボランティアとして
活動を始め、「
政府も人を送ってください。それまでは僕たちが頑張りますから。」と
カンボジアを訪れた
関係者に語ったと言われております。彼の死をむだにしないために、
カンボジアに平和が訪れるまで、
UNTACの
構成国として、立派に
我が国としての務めを果たすことが大切であると痛感するものであります。(
拍手)
私は、この年明け早々に、民社党の
PKO調査団長として
現地を訪問しました。タケオの
自衛隊の
諸君と同じ食事をし、ふろに入り、キャンプに泊まり、起床ラッパで起き、そして一緒に行動してまいりました。
自衛隊の
諸君は、
UNTACの他の
部隊と
協力して三十七万人の難民の帰還を無事なし遂げ、
停戦監視、道路や橋梁の補修、他国
部隊の後方
支援などにその真価を発揮して、炎天下で過酷な任務を果たし、
我が国の名誉を高からしめて帰国しました。その
自衛隊の
諸君に対し、西元陸上幕僚長の訓辞が印象的でありましたので、ここに一部を引用いたします。すなわち、
諸君は渡辺大隊長を初め各級指揮官を中心として心と力を合わせ、持ち前の明るさと平素から培ってきた献身の精神、高い
技術、強健な体力、命ずる者と、命ぜられる者との揺るぎない
信頼感を遺憾なく発揮して、
カンボジアの荒廃した道路や橋の修復を主とし、
UNTACの文民部門や他国の軍隊からの各種
支援要請を受け、幅広い
分野で本来の任務を立派に遂行しました。
諸君は、
諸君と
関係のあったすべての人々の心の中に平和と安定の
世界に通じる道路をつくり、橋をかけたのだと確認します。この
意味で
諸君はまさしく平和のオリンピックに参加したのであります、と述べておられます。(
拍手)
しかし、最近に至り、
停戦監視や
選挙監視に携わる
UNTAC要員に何人かの犠牲者が出ているということはまことに遺憾であります。私がプノンペンで会った
停戦監視のチームリーダーである福井二等陸佐は、「こちらが丸腰であることが相手の警戒感を解き、かえって安全である。丸腰のボランティアにテロを加えるはずはない。」と語ってくれました。しかし、相手はおよそ現代文明とは当然かけ離れている、人道的な配慮などのない異常な行動をとる連中であり、五月の総
選挙を妨害するために、
カンボジアに混乱を引き起こそうとねらっているのであります。
PKOは、多かれ少なかれ何らかのリスクを伴うものであります。文民もボランティアも、軍人が
保護してくれて初めて立派に
活動できるのであります。
世界の国々が軍人を
派遣して、
カンボジアの平和を確かなものにするために危険を
承知で頑張っている中で、文民だ、休職出向だ、別組織だなどと叫んでいるのは、現実離れの一国平和
主義と言うべきであります。(
拍手)
一方、
政府の対応は、官僚主導による
現地の実情無視、
法律解釈論的な対応に終始し、
自衛隊派遣反対論者の批判、攻撃を避けることにしか対応がなく、このため、万事が
法律論的空論に走り、このため、
派遣された
自衛隊員にむだな
努力を強いております。
この
政府の対応の誤りは、
PKO協力法による
実施計画ですべて
自衛隊の
活動を縛り、その都度の対応すら
実施計画の
変更、修正を
閣議決定に持ち込んでいる始末であります。例えば、
現地の
自衛隊が給水のため井戸を掘ったところ、他国の軍隊からその水の補給を求められても、規定にないから応じられない、また、他国の軍隊が急病で
自衛隊の医者の診断を求めても即応できない。このような人道的
措置すら
現地指揮官に裁量権がない。他国に水を補給してもいいとの
閣議決定は、昨年十一月四日に
現地指揮官から
国際平和
協力本部に
要請、同十二月十一日にやっと
決定をしております。つまり、水一杯他国に補給することすら、一カ月余の日時と東京−
カンボジア間の通信連絡を必要としているのであります。
このような非現実的な対応の典型は、
UNTACに対する幕僚
派遣と武器使用である。現在、
UNTACの司令部に
自衛隊は幕僚を
派遣していない。それは、凍結されているPKFに抵触のおそれがあるとの解釈のためで、その結果、
自衛隊は
UNTACの
決定をうのみにするだけであります。
私は、
現地の隊員と食事をともにしたが、その
内容は余りにもお粗末であります。隊員は、
日本から持ち込んだカップラーメンで空腹を満たしております。ところが、
部隊の宿営地の周辺には新鮮な野菜が安く豊富にあり、住民が売りに来ているが、食料のすべては
UNTAC支給というしゃくし定規の規定で、プノンペンから運ばれてきた半ば傷みかけている野菜を
自衛隊は調理しているのであります。
最近は、
UNTACの司令部に
自衛隊から連絡
要員を出している。これは、幕僚ではPKFに抵触するとの批判、攻撃を避けるこそくな官僚的発想以外の何物でもありません。
これから五月の総
選挙実施に伴い、
自衛隊による投票箱の
輸送が
UNTACから
要請されましょう。そうなれば、
現地の様子から緊張が高まり、投票箱の
輸送妨害も起こり得る。望ましくないことだが、武器使用の事態が皆無とは言い切れない。
PKO法案審議の際、
政府は、武器使用は個人の正当防衛権の行使に限定し、隊員個人に武器使用の
判断を求め、
部隊指揮官に武器使用の命令権を認めていない。しかし、集団行動に指揮は当然必要で、指揮官なき
部隊は存在しない。この際、
部隊として行動中の武器使用は指揮官の指揮の
もとに行うと明確にすべきでありましょう。
また、投票箱の
輸送には他国の軍隊、つまりPKFの護衛が行われましょう。護衛してくれているPKFとは当然のことながら一体の
関係であるから、万一にも護送中に不測の事態が生じ、PKFが応戦するようなとき、
自衛隊は
協力しながら投票箱を
輸送するのが当然と
考えます。
政府は、危険なときは引き揚げる、危険なことはしたいと繰り返してきたが、
現地の状況は、このような一方的な建前だけでは過ごせない。
PKO派遣の
自衛隊といえども、安全に任務を果たすためには、他国のPKFとの
協力が必要であることを明確にすべきであります。丸腰であることの危険は、故中田青年の不幸が何よりも大きな教訓となっておるではありませんか。
また、
関係省庁の非
協力を
指摘したい。
通産省は、武器輸出三
原則を盾に、
部隊のすべての
装備に国外持ち出しの申請書類を
作成させております。小銃からトラック、ブルドーザーまで個々の書類がなぜ必要なんでしょうか。
政府派遣の
自衛隊が武器輸出三
原則で厳重
監視の必要があるのでありましょうか。
さらに、
派遣隊員はパスポートの持参を求められております。
部隊派遣でありながら、身分証明書だけで十分なのに、個人旅行者並みの手続であります。
また、
派遣隊員と家族間の通信連絡に対応する配慮がない。国家的事業である
PKO派遣に従事している隊員の家族が、
現地の父や子に出す郵便料金の無料
措置が図られなかったのか。電話は優遇料金を設定できなかったのか。
また、
国連平和維持
活動に参加している公務員は、
自衛隊のほか警察官、地方公務員がおりますが、これらの人たちに対する
派遣手当がどのようになっているのか、国民に明確にされていない。
例えば、
自衛隊員は一日一万六千円から二万円の範囲で支給されるというが、休日や病気で
作業参加できない日は支給されない。
日本と異なる気候、さらに危険を伴う生活環境の中で、休日といってもただ
作業を中止しているだけで、夜間外出禁止など生活そのものは二十四時間緊張状態にある。高温多湿の
現地で、体調を崩して
作業ができなければ手当を支給しないという非人間的な
措置を放置していいのであろうか。通常、海外
派遣手当とは、
派遣された日から帰国までの日数が支給の対象となる。現に、
外交官手当や民間の在外勤務手当は休日も支給対象としているではないか。また、近く
派遣される
モザンビークでの手当の金額と
カンボジアでの手当とがなぜ違っているのか、その根拠は不透明であります。
単に
自衛官にとどまらず、
派遣される公務員すべてについて、手当、災害時の補償について、人事院も加えて再
検討していただきたい。
政府は、
国連平和維持
活動の
意義を強調し、
派遣隊員に献身的
努力を求めるだけではなく、みずからこれらの処遇を改善すべきであります。それは、
PKO活動に対する国家の
評価のあらわれでもあります。
最後に、
宮澤総理に見解を伺っておきたい。
カンボジア国民は従順で、領土は人口に比して広大で、かつ、肥沃の恵まれた大地であります。そして、首都プノンペンは戦後の復興と建築ブームに沸き返っております。中央市場は、日用品は
もとはり、高いインフレ率のために、自国の通貨を持つよりも貴金属にかえるため、大変なにぎわいであります。それでいて、ほとんど盗難の心配もなく、平和そのものであります。デルタ地帯のために、建築に役立つ砂利を遠くの山から牛車で運ぶのどかな風景を見ているとき、
停戦と
選挙監視を妨害する一団のテロさえいなければと思う気持ちでいっぱいであります。
UNTACは、必ず文民政権の樹立を協定どおりなし遂げてくれると信じております。問題は、
政府樹立後であります。政権を維持するに必要な統治能力について、それを確立するのにはしばらくの時間が必要であると見なければなりません。正統の
選挙された政権ができた以上は、いずれ
UNTACは引き揚げることは当然であるが、その政権が安定するまでしばらくは、
経済と治安維持のために
国連の後ろ盾を必要とすると見るが、いかがでありましょう。
また、この国に行って気にかかるのは、シアヌーク殿下の存在であります。彼は、国民から多大の尊敬を受けている。なればこそ、彼の存在が気にかかります。彼は、ロン・ノル政権を倒すために北京に飛びクメール・ルージュと組み、ポル・ポト派の
もとに身を任せ、その身辺が危なくなると再び北京に身を寄せ、今回再び四派協定でプノンペンに戻りましたが、自分の意のままにならねば
UNTACさえ非難して、さっさと北京に逃れる態度が心配であります。
きのうときょうと、そのときどきに言動は変化し、過日は朝鮮
民主主義人民共和国に飛んで、核拡散防止
条約を脱退したことを
評価して、
国連加盟国の善意に水をかけてまいりました。
国連の
UNTACあっての
カンボジアであり、みずからを殿下と呼ばせながら、この態度と行動はわかりづらく、
国際常識に
もとるものと思い、この国の将来に暗い影を落としはせぬかと今なお心配されるが、いかがでありましょう。答えにくいことを
承知しつつ、一言述べて、私の
質問を終わります。
ありがとうございました。(
拍手)
〔
内閣総理大臣宮澤喜一君
登壇〕