○佐藤泰介君 私は、日本社会党・護憲民主連合を代表し、ただいま
提案のありました
児童の
権利に関する
条約の
締結について
承認を求める件について質問をいたします。
世界の歴史は、女性と子供の
権利を軽視する歴史でありました。その
権利の回復に国連が果たしてきた役割には極めて大きなものがあったと思います。本
条約もその一つでありまして、女子差別撤廃
条約に続く画期的な
条約であります。
女子差別撤廃
条約は、日本の社会に大きな影響をもたらしました。本
条約もまた、日本の社会に、日本の子供たちに大きな変革と希望をもたらすものであると確信をいたします。その意味で、私たちは、早くからこの
条約を「世界の子ども憲法」と位置づけ、その一日も早い批准を求めてきたところであります。
ところが、政府は、本
条約の採択を祝って世界の首脳が集まった子供サミットに時の首相を送りながら、なかなか
国会にその批准
承認を求めることができなかったのであります。このことは極めて遺憾であったと申さねばなりません。しかし、本日、やっとその批准
承認案件が本院で
審議されることとなりました。私は、このことを率直に喜びたいと思います。
そこで、まず総理にお伺いします。
この
条約の批准は、当然のこととして、日本の子供たちにかかわる諸
制度の改善を伴うものでなければならないと考えますが、本
条約の意義について御所見を賜りたいと思います。
本
条約は、多くの人々が待ち望んできたものであります。が、しかし、政府
提案の
内容には、日本語訳の不適切さとそれに伴う諸問題、並びに政府が一つの留保と二つの解釈宣言を行っている点など、そのまま
承認することはできません。したがって、以下の諸点につきまして、政府の考えをただしておきたいと思います。
まず最初にお尋ねしたい点は、本
条約に用いられている「チャイルド」の用語を「
児童」と翻訳したことについてであります。
本
条約は、「チャイルド」を未成熟で保護を要する者とのみ認識することから、独立した
権利の行使者と認めることへの価値観の転換を求めるものであります。したがいまして、未成熟であり保護が必要な者という意味合いり強い「
児童」の用語は、本
条約にふさわしいものとは思えません。
また、この「
児童」という用語は、
児童福祉法では
条約の定義と同様に十八歳未満の者を指しますが、学校教育法では小学生を意味し、道路交通法では六歳以上十三歳未満の子供を指します。このように国内法の用法が不統一な点も、この画期的な
条約にはふさわしいものとは申せません。
さらに、
条約は、その
対象年齢の子供たちが、
条約を自分たちのものとすることを求めているのであります。しかし、十七歳にもなる若者が、みずからを「
児童」と呼ぶ
条約を、自分たちのことを
規定した大切な
条約であると受けとめるでありましょうか。この点でも大きな疑問が生ずるのであります。
したがって、本
条約の批准
促進を求めて運動している皆さんは、高校生なども含めて「チャイルド」は「子ども」と訳し、
条約の名称も「子どもの
権利条約」とすることを求めています。これに対し、政府は、
法律用語には「子ども」という用語はないと拒否をしてきているのであります。しかし、現に国民の祝日に関する
法律には「こどもの日」がございます。この「こども」も明らかに「成人」に対する対語として使われているものであり、この用語法の方が
条約の
趣旨によりふさわしいものではないでしょうか。(
拍手)
また、「
児童」と「子ども」との比較で言えば、国民の祝日に関する
法律の制定過程で、かつての総理庁が「子供の日」と「
児童祭」とを選択肢とした世論調査を行った結果、圧倒的に「こどもの日」が国民の支持を得たという事実についても想起されるべきであります。
私は、この際、「チャイルド」を「子ども」と訳し、
条約名を「子どもの
権利条約」とすることに特段の不都合がなければ、「
児童」という翻訳は変えるべきであろうと考えますが、いかがでありましょうか。
次は、本
条約の留保及び解釈宣言についてであります。
政府が留保するとしている本
条約の第三十七条(c)は、十八歳未満の子供が犯罪を犯したような場合に、その子供を拘禁するときは成人とは分離しなければならないことを定めたものであります。その十八歳という年齢をとらえて、政府は、日本では少年法によって二十歳で分離することになっていると指摘し、留保するとしているわけです。
成人の悪い環境から子供を保護するという本
条約の
趣旨からすれば、日本の少年法は保護の
対象を二十歳までに拡大してより手厚く保護を加えているわけであり、私は、留保の必要は全くないものと考えます。したがいまして、政府がこの項を留保するその本当のねらいはどこにあるのか、実は代用監獄の現状の問題とも関係しているのではないかという点についても御
説明をお願いします。
次に、政府が解釈宣言を付すこととしている第九条第一項の
規定は、出入国管理に伴って強制退去を要するケースにあっても子供は親から引き離されてはならないことを定めたものであります。政府の解釈宣言によって、強制退去の場合に子供は父母から引き離されることがあるということをあらかじめ宣言することは、
条約の
趣旨を骨抜きにするものであり、許されるものではありません。明確な答弁を求めます。
また政府は、第十条第一項についても解釈宣言を付すものとしていますが、この条項は、家族が再統合するための出入国申請について、積極的かつ人道的に取り扱うことを求めるものであります。第九条第一項の、子供と親とを引き離してはならないという原則を堅持する限り、当然の
規定であります。したがって、政府の解釈宣言は、第九条第一項で不当な宣言を行うがために新たな宣言を必要としているのではないでしょうか。
さらに、法務省は、この
規定について、
締約国の出入国管理に関する権限に何ら影響を及ぼすものとは解されないとも主張しております。もしそうであるならなおのこと、この解釈宣言は不要のはずであります。
以上によりまして、私は一つの留保、二つの解釈宣言はいずれも不要であり、それを付すことになれば
条約の
趣旨そのものがゆがめられることになると考えるものでありますが、政府の真意を
説明していただきたいと思います。(
拍手)
次は、いわゆる非嫡出子についてであります。
私は、本
条約の二条に
規定される出生その他の地位による差別の禁止は、子供の出生が
婚姻内であるか
婚姻外であるかを理由に、相続や戸籍上の差別をなくすことを求めているものと考えております。このことは、この
条約の
審議過程で
議長を務めたポーランドのロパトカ氏が、この
条約は非嫡出子という概念を否定したものであると述べていることによっても明らかであります。
子供は親を選んで生まれてくるわけではありません。親の法的地位によって子供を差別することになる非嫡出子の
制度は、本
条約の
趣旨に反するものであります。
条約の批准に当たって民法の改正が不可欠であると考えますが、いかがでありましょうか。(
拍手)
次は、
条約の第二十八条一項(b)の中等教育の無償化についてであります。
この項は、すべての子供に中等教育を受ける
権利の保障を義務づけておりますしかるに、日本政府は、本条項の義務一般を
承認しながら、条文中の「サッチ・アズ」を「例えば」と訳して、高校教育の無償化や、必要な場合の援助については単なる例示
規定であり、
条約の例示には拘束されないとの立場を表明しております。しかし、アメリカやイギリスの
法律における用語法としての「サッチ・アズ」は、単なる例示ではなく、より限定的な表現ではないでしょうか。
また、政府は、日本の高校進学率は九五%に達しており、高校教育は
制度的にはすべての子供に開放されているといいます。しかし、例えば、
児童福祉施設の子供たちは、経済的な理由によって保護施設の教育に関する保護者義務が中学校で終わるという理由から、実質的に高校進学の道が断たれております。
私は、
条約の
趣旨を尊重するなら、高校教育は無償化し、保護者の教育義務を延長し、これらに伴う国の責務を明確にすることが不可欠であると考えます。この
条約の「サッチ・アズ」が求める努力もまた同様なものではないでしょうか。政府の御見解をお伺いします。(
拍手)
次は、子どもオンブズマンの
制度化についてであります。私は、子供の
権利を保障するには、その
権利が侵害されると思われる場合には、子供の側に立ってともに考え、必要があればその
権利をともに主張するオンブズマンの
制度の創設が不可欠だと考えます。スウェーデンではこうした立場から、NGOが組織する子どもオンブズマンの組織に対しても国が援助を与える
制度を設けたと聞きます。
我が国においてもその実現を求めたいと考えますが、総理、いかがでありましょうか。
最後に、
条約の広報に関する予算
措置についてお伺いします。
この
条約の意義を広く国民に伝えることは、
条約自身も一条を設けて広報を義務づけております。そのためには一定の経費が必要となります。しかし、今年度予算ではその
措置はとられておりません。批准の手続が
終了したとき、広報に関してどのような財政
措置をおとりになるつもりか、お伺いしておきたいと思います。
以上、本
条約にかかわって若干の問題点を指摘しましたが、条文の訳語にもまだまだ不適切な部分が散見されるのであります。これでは、せっかくの
条約が、政府の旧態依然とした子供観によってその意義が薄らいでしまうと思われます。
今後の
委員会審議におきましても、私たちは多くの問題提起を行いたいと思います。政府も行政の都合に合わせた
条約解釈を行うのではなく、まさに
条約が求める「子どもの最善の利益」のために、我々大人には何ができるのかという真摯な態度で対応されますことを強く希望し、私の質問を終わります。(
拍手)
〔内閣総理大臣宮澤喜一君
登壇〕