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国務大臣(
渡辺美智雄君) 第百二十六回
国会が開会されるに当たり、
我が国の
外交の基本
方針について所信を申し述べます。
まず、
国際情勢認識について申し上げます。
国際社会は、古い秩序が急速に瓦解しましたが、これにかわる新たな秩序の
構築が間に合わず、なお、そのはっきりとした姿が見えない
状況にあります。
世界は、
歴史の
転換期に特有な不透明で流動的な
時代を迎えており、平和を享受するにはまだまだ遠い状態にあります。
さきの湾岸危機や、旧ユーゴスラビア、
ソマリアでの今日の悲惨な内戦や飢餓の状態は、このような
時代を象徴する出来事であります。これまで抑えられていた宗教、民族、領土問題等の対立や紛争、抗争が、今後とも引き続き表面化してくる危険があります。
ロシアなどの旧ソ連諸国においては、民主化と
市場経済化への
改革はいまだその途上にあり、
国民の日常
生活を含めた
経済面の諸困難は依然として深刻であります。
世界経済は、
アジアの一部の
地域が高
成長を続けていることを別にすれば、おおむね
景気回復の足取りは重く、先進諸国は、深刻化する国内の
経済社会問題に忙殺されて、ともすれば内向きになりかねません。また、多くの
開発途上国の貧困、人口増大等の問題は、ますます深刻となってきており、
国際社会は結束して一層真剣に取り組む必要があります。
国際社会は、
歴史の
転換期にあって、一方では
冷戦の終結により各地で噴き出した民族・宗教紛争等への
対応に追われつつ、
他方では、新しい平和と
繁栄の枠組みを模索しています。しかし、新しい枠組みが
構築され、
国際社会が安定するためには、なお少なからぬ年月を要するものと思います。
日本
外交の目標について申し上げます。
国際社会は、このような
歴史の
転換期の諸問題を着実に克服し、平和と自由と
繁栄を
世界のより多くの人々が享受できるよう
努力しなければならないという
歴史的
課題に直面しております。
我が国は、そのような
国際社会の
課題にこたえて、明るい未来を開いていくために、その国力にふさわしい指導力を発揮していく必要があります。そのため、
経済力、
技術力のみならず、人的及び知的な
協力を通じ、積極的に
努力してまいります。
我が国は、第二次大戦の灰じんの中から立ち上がり、今日の平和と
繁栄を享受するに至りました。この平和と
繁栄を享受することができるようになったのは、自由主義体制の
もとで、
国民の勤勉と
努力に負うところ大でありますが、同時に、
日米安保関係を
基盤とした
日米協力体制や、ガット、IMFを
中心とした戦後の開かれた
世界経済体制が維持されてきたからであることも忘れてはなりません。
日本の
存在が飛躍的に大きくなった今日、
我が国は、国際秩序から単に受益するだけでなく、これに
貢献し、これを
強化する
役割を担わなければなりません。また、そうした
役割を果たすことこそが
我が国の長期的国益にかなうものであり、
我が国外交の目標でなくてはなりません。
国際
協調の推進について申し上げます。
今日の
世界が抱える諸問題は、
主要国といえども一国のみでは
対応することができません。
国際社会が
協調して
解決していくことが必要であります。その意味で、
国連の場での、また、
日米欧間及び
アジア・
太平洋地域の諸国間での
協力が重要であります。
本年七月には
主要国首脳会議が
東京で開催されますが、
我が国は、
議長国として、このような認識に立って、その成功のために最大限の
努力を行ってまいります。
国連の
強化について申し上げます。
米ソの二極構造が消滅した今日、国際秩序を維持していく唯一の現実的な道は
各国間の
協力を
前提とした
協調体制を
強化していくことであります。そのためには、まず、
国連を初めとする国際機関を
強化し、
各国が
協調して共同の責任を果たしていくことが不可欠であります。特に、
国連は、
東西のイデオロギー対立から解放されまして、国際の平和と安全の維持という本来の機能を取り戻してきており、今日、その
役割への期待は飛躍的に増大をしております。戦後一貫して
国連中心主義を掲げている
我が国といたしましては、そのさらなる
活性化に向け一層の
努力を行っていかなければなりません。
近年、
国連の平和維持活動の件数は著しく増加し、一九四八年以来実施されてきた計二十八件のうち、実に十五件の設立が過去五年間に集中しています。また、活動内容や
規模も大型化してきております。このような趨勢にこたえていくために、
国連加盟国の一層の
協力が必要となっております。
我が国としても、
国際平和協力法により
人的貢献を行うとともに、
財政基盤の
強化のため平和維持留保基金、いわゆるPKO立ち上がり基金の設立を提唱し、これが
実現をいたしました。
さらに、従来の伝統的な平和維持活動を超える新たな
国連の活動が必要となる場合も出てきております。この点で、
ソマリアでの人道
支援のための安全な
環境づくりを目的とした国際的な活動が注目されています。このように、国際の平和と安定のための
国連の
役割と任務はより多様なものとなってきており、加盟国にも一層柔軟な
対応が求められています。これは、
我が国としても、責任ある
国際社会の一員として、真剣に受けとめなければならない問題であると思います。
また、
国連が効果的に機能するためには、安全保障理事会の構成を含め
国連の機構
改革と機能
強化に取り組んでいく必要があるとの認識が国際的にも広がりつつあります。私は、昨年の
国連総会出席の機会にこの点を訴えましたが、このような
我が国の主張は、
国連総会において安保理
改革に関する
各国の意見を
国連事務総長に提出することを求める決議として満場一致で採択されたのであります。私といたしましては、引き続き
国際社会とともにこの問題を真剣に検討してまいりたいと
考えております。
日米欧関係につきまして。
国際社会が直面する諸問題の
解決に当たりまして、
日米欧間の緊密な
協力の
重要性はますます高まっており、
我が国はこうした
協力に一層主体的に取り組むことが求められています。
その中で、国際的な
協調を
強化するためには、米風にかわり得る指導力を発揮でざる国はどこにもありません。この意味で、私は、クリントン新
大統領がさきの
就任演説において、「
米国の再生」という目標の
もとに
国民の結束を求め、
冷戦後の
世界において引き続き指導的
役割を果たしていく
決意を示されたことを心から歓迎いたします。
我が国は、クリントン新政権との間で、
世界の平和と
繁栄の
確保を
共通の
課題として、
歴史の
転換期にふさわしい新たな
協力関係を
構築するよう努めてまいります。
日米安保体制に基づく
日米関係が
我が国の
外交の基軸であることは、
冷戦後の今日においても変わりありません。むしろ、
日米基軸
外交が、
アジア・
太平洋地域の平和と安定を
確保し、また、他国に脅威を与えるような軍事大国にならないという日本の
立場の国際的な信頼性を高めるために、今後とも一層重要であると申せましょう。
それと同時に、
日米間の
経済関係は今や緊密不可分に結びついており、そのために、時として摩擦が生じることは避けられない面もありますが、
両国がその
経済的調和を目指し、
協調関係を
強化していくことは、
日米両国のみならず、
世界経済の
繁栄のために重要であります。クリントン新政権及び
米国議会が、
自由貿易体制擁護の
立場から国内の保護主義的な
動きに対し確固たる態度を示されるとともに、
米国経済再建の
努力が実を結ぶことを期待し、そのための
努力を支持してまいりたいと存じます。
欧州におきましては、近年の
国際情勢の劇的な
変化の中にあって、
ECを
中心とした
歴史的な統合が進められています。欧州の統合は、まさに国家間の
歴史の
変革であり、統合完成の暁には
世界の
政治と
経済に大きな
影響を与えることは確実であると思います。その意味において、今回の私の欧州訪問と
各国指導者との
政治対話は大変有意義であり、今後とも欧州との関係
強化を図ってまいります。
アジア・
太平洋地域との
協力について申し上げます。
近年の目覚ましい
経済発展を受けて
政治的安定を達成しつつある
アジア・
太平洋地域の諸国は、
地域の平和と
繁栄のための
協力において重要な
役割を担うようになってまいりました。
我が国は、それらの諸国との
協力を進め、
アジア・
太平洋地域での平和と
繁栄を
確保し、これを
世界の平和と
繁栄につなげていくように
努力してまいります。このような
考えを背景にして、今般、宮澤総理は、
ASEAN四カ国を訪問し、日本と
ASEANの
協力関係を一層
強化していく
決意を表明してきたところであります。
次に、主要な
政策課題について申し上げます。
国際社会が直面するさまざまな問題に取り組んでいく上で、
世界経済の
活力を維持
強化することが、今やこれまで以上に重要な
課題となっております。しかし、
世界の自由
経済体制の
もとでは、
各国経済は
相互依存関係が強いだけに、一国のみの
繁栄は長続きしません。先進
各国における
景気回復がおくれている中で、
各国の
政策協調が強く求められているのはそのためであります。
我が国としても、
内需を
中心とするインフレなき持続的
成長を
確保していくことは、国内的に重要であるのみならず、国際的にも
世界経済の健全な
発展に向けて大きな
貢献となるものであります。
現在最終段階にある
ウルグアイ・ラウンド交渉は、多角的
自由貿易体制の維持
強化の観点から、
世界経済の将来にとり決定的に重要であります。
我が国は、この
交渉が成功翼に、かつ
早期に終結するよう引き続き最大限の
努力を行っていく
決意であります。
世界の平和と安定の
確保について申し上げます。
中東の不安定な
状況や、旧ユーゴスラビア、
ソマリア、カンボジア等における紛争は、
転換期の
世界における大きな懸念材料であります。このような認識に立って、
我が国は、
地域紛争の
解決のため、資金的
協力にとどまらず、
人的貢献や
外交努力を積極的に行ってまいります。
まず、資金的
協力の面では、カンボジア問題以外にも、旧ユーゴスラビアや
ソマリアにおける避難民の救済のため、それぞれ二千万ドルを超える人道援助を行っています。特に、
ソマリアに関しては、人道援助に加え、
国連の
ソマリア信託基金に対し一億ドルを拠出することを決定いたしました。次に、
人的貢献としては、
国際平和協力法の
もとで、既にアンゴラ、カンボジアに平和
協力隊を派遣いたしました。さらに、
外交努力としては、カンボジア問題、中東和平問題等の多数国間の協議の場に積極的に参画をしてまいりました。しかし、
ソマリアでの惨状に対して典型的に示されているような
国際社会の積極的な
対応は、
国民の皆様が連日の報道でごらんのとおりであります。
地域紛争も
国際社会の
対応もますます多様化しようとしている中で、
我が国の
取り組みはどうあるべきなのかを改めて問われているものであるように思います。
転換期の
世界の平和と安定を
確保するためのもう一つの重要な
課題は、
軍備管理・軍縮への
取り組みであります。昨年以降この
分野において幾つかの大きな成果が見られました。
第一に、
米ロ両国においては、昨年六月、二〇〇三年までに
戦略核兵器の核弾頭数を現保有量の約三分の一まで削減することが合意され、先般、条約への署名が行われました。
我が国は、唯一の被爆国として核軍縮を重視しており、とれまでの合意の着実な履行とともに、米ロ以外の
核兵器国の核軍縮過程への参加を強く期待するものであります。
第二に、中国、フランス等が
核兵器不
拡散条約に加入し、
核兵器国がすべて締約国になるとともに、締約国数も百五十カ国を超えるなど同条約の普遍性がますます高まってきていることは歓迎すべきことであります。
第三に、長きにわたり行われてきた
化学兵器禁止条約交渉が九月にまとまり、化学兵器の全面的な禁止が
実現する運びとなったことは画期的なことであり、先般パリで行われた署名式には私自身出席してまいりました。
以上のような好ましい
動きが見られる反面、北朝鮮や
イラクなどにおける
核兵器開発の疑惑、そして旧ソ連からの
大量破壊兵器やその製造
技術等の流出の危険が国際的な懸念を呼んでいます。
我が国は、
大量破壊兵器やミサイルの不
拡散体制の
強化のため、他の関係国とともに一層
努力していく
方針であります。また、旧ソ連での
核兵器等の製造
技術の流出防止を目的とした国際
科学技術センターの設立に当たりましても、
我が国は二千万ドルの資金
貢献を表明しており、今後とも同センターの円滑な活動のために積極的に
協力してまいる
決意であります。
通常兵器については、まず兵器
移転の透明性を高め、これにより
各国間の
相互信頼感を高めることが重要であり、
我が国などの提案により発足した
国連軍備登録制度の円滑な実施に一層
努力いたします。また、
冷戦中に膨らんだ
各国兵器産業の余剰生産能力が一部
地域への兵器の無秩序な
移転を生み、
地域の
不安定化を招く結果とならないように、関係国による慎重な
対応の
重要性を国際的に強調してまいりたいと存じます。
次に、民主化や
市場経済の導入に対する
支援について申し上げます。
世界平和を真に長続きするものとしていくためには、自由、人権、
民主主義が尊重され、
市場経済の
もとで
繁栄が享受され、人間一人一人の幸福が保障される社会を形成する必要があります。
旧ソ連諸国や中・東欧諸国においてのみならず、モンゴルや南西
アジア諸国、アフリカ、中南米の多くの
開発途上国において、民主化や
市場経済の導入に向けての
改革を進める機運が高まっております。
ロシアに対しても、
我が国は、
技術的
支援、人道
支援など他の諸国に劣らぬ
支援を行ってきており、今後とも
国際社会と
協調しづつ、適切な
支援を行っていく
方針であります。昨年十月に
我が国が旧ソ連
支援東京会議を開催したのも、このような
努力の一環であります。中央
アジア諸国については、
我が国の働きかけにより、
政府開発援助の対象国となることが先般国際的に決定されたところであります。
また、
我が国の
政府開発援助大綱においては、援助の実施に当たって、被援助国の軍事支出の動向などとともに、民主化の促進と
市場経済導入の
努力に十分
注意を払っていくこととしておりますが、これは、こうした民主化と
経済改革の
動きを援助を通じて積極的に
支援し、促進していくとの
考えに基づくものであります。
翻って、
開発途上国の現状に目を向けますと、依然として飢餓や貧困、
成長の
低迷、累積債務問題などの問題が山積しており、援助の
必要性はこれまで以上に高いものとなっております。
我が国は、今後とも
開発途上国援助を
外交の重要な一
分野としてとらえ、
政府開発援助大綱に掲げた
理念と原則にのっとり、
開発途上国を
支援していく
考えであります。今
国会において審議をお願いする
政府開発援助
予算は、このような
考えに基づいて、厳しい
財政事情の
もとではありますが、一兆百四十四億円の一般会計
予算を計上したものであります。
地球的規模の問題について申し上げます。
国際社会は、
地球環境、人口、難民、エイズ、麻薬、テロなどの全
人類にとって
共通の重要な問題を抱えており、
我が国も、地球市民としての自覚の
もと、これら問題の
解決のために一層の
努力を払っていかなければなりません。
特に、
地球環境問題については、昨年の
国連環境開発
会議の成果を着実に実施していくことが重要であります。そのため、
我が国の
行動計画の策定と気候
変動枠組み条約などの締結に向け
努力してまいります。また、
国連環境開発
会議で発表したとおり、
環境分野における
政府開発援助を
拡充強化してまいります。
難民問題については、中米やカンボジアでは、難民の本国への帰還が始まり、問題が
解決に向かっておりますが、旧ユーゴスラビアや
ソマリア等では新たな難民問題が発生し、関係
地域の安定にも大きな
影響が及ぶことが懸念されております。
我が国は、
世界各地の難民問題の
解決のため、一層の
協力を行い、より積極的な
役割を果たしていきたいと
考えます。
国連難民高等弁務官事務所に対する
我が国の拠出金として、
平成五年度
予算に前年度より八百万ドル多い八千三百万ドルを計上したのも、そのあらわれであります。
次に、文化、
科学技術について申し上げます。
各国との間で、知的及び文化的交流を促進し、国家間の
相互理解を深め、信頼関係を築いていくことは、平和で安定した国際関係を
構築する上で不可欠であります。また、
我が国は、
人類共通の財産である文化財の保存や
開発途上国の教育、文化の振興等にも積極的な
協力を行っていく
考えであります。
科学技術の
分野についても、
経済とのかかわりのみならず、
環境問題の
解決のためにも国際的な
協力がますます重要となってきております。
我が国も、外国人研究者の受け入れや国際的な各種研究プロジェクトを着実に進めていくことが重要であります。
アジア諸国との関係について申し上げます。
天皇皇后両陛下のさきの中国御訪問は、日中両
国民の間の
相互理解と友好を促進する上で大きな成果をおさめられ、まことに意義深いものでありました。中国との間で
友好関係を維持
発展させ、また、
国際社会においてともに建設的
役割を担っていくことは、
アジア・太平洋ひいては
世界の平和と安定にとって重要であります。
我が国は、このような認識に立って、中国が
政治経済両面にわたる
改革、開放を推進し、国際
協調を行っていくように慫慂してまいりたいと
考えます。
我が国は、香港が一九九七年以降も
繁栄を続けていくことを強く希望しており、そのためには、香港が、英中間の合意に基づき、
政治的にも
経済的にも開かれ、安定した体制を維持していくことが肝要と
考えるものであります。
朝鮮半島につきましては、南北
対話の一定の進展は見られたものの、
緊張緩和に向けた
動きはなお定着したとは言いがたい状態にあります。
このような
状況の
もと、
我が国は、韓国との友好
協力関係を基本として、北東
アジア地域の平和と
繁栄に
貢献していく
考えであります。二月には、韓国で金泳三
大統領が就任いたしますが、新政権との間でも引き続き未来志向的な関係の
構築に向かって
努力していきたいと
考えております。
北朝鮮、朝鮮
民主主義人民共和国との
国交正常化交渉につきましては、依然として
核兵器の開発疑惑が解消されていないこともあって、なお見通しを申し上げることは困難な状態であります。
我が国は、引き続き北朝鮮の動向を慎重に見守りつつ、韓国、
米国といった
関係諸国とも緊密な連絡をとりながら、原則的な
立場を堅持し、
交渉に臨んでまいりたいと
考えております。
インドシナの
経済社会の
発展は、
アジア全体の安定と
繁栄にとり重要であり、
我が国は、ベトナムを初めとする
各国の開放
政策を
支援してまいります。カンボジアでは、
国連カンボジア暫定機構の指導の
もと、多くの困難と闘いつつ、総
選挙に向けての準備が進められていることを高く評価いたします。
我が国は、予定どおり本年五月までに総
選挙が実施され、カンボジアでの真の永続的平和が
実現されるよう、引き続き
外交努力を行ってまいりたいと
考えております。
旧ソ連諸国との関係について申します。
ロシアとの関係については、
我が国はその
改革努力を支持してきております。ロシアの
改革の成否が
世界的に極めて重要な意味を有している中で、
日ロ関係の完全な
正常化は
アジア・
太平洋地域の将来の
発展にとり不可欠であります。そのためにも、
両国間の最高首脳を含むハイレベルの
対話を継続的に行うことが必要であります。この関連において、エリツィン
大統領の訪日が延期されたことは残念でありましたが、訪日延期によってつまずいた
日ロ関係の仕切り直しとして、昨年九月下旬に私がコズイレフ外相と会談し、日ロ間の
対話を再開しました。さらに今般、パリでの同外相との会談では、エリツィン
大統領の訪日の
早期実現に向けて真剣な準備を行うことを確認したのであります。
我が国は、今後とも
拡大均衡の原則にのっとって、領土問題を
解決し平和条約を締結して
日ロ関係を新しい次元に引き上げるよう、
全力で
努力を継続していく
考えであります。
また、
我が国は、他の旧ソ連諸国との関係
強化も進めており、今般、ウズベキスタン、カザフスタン、ウクライナには大使館を、ベラルーシには駐在官事務所を開設いたしました。
その他の
地域の諸国との関係について最後に申し上げます。
湾岸
地域を含め、中東
地域の平和と安定の
確保は、
世界の最大の関心事の一つであります。今般、
米国を初めとする合同軍が
イラクに限定的な武力行使を行いましたが、これは
国連安保理諸決議の履行を
確保するためのものであり、
我が国はこれを理解し、支持することを表明いたしました。
我が国といたしましては、安保理の決議に公然と挑戦するような
行動は、到底容認することができません。また、
我が国は、この
地域の安定にとり不可欠である中東紛争
解決のため、多国間協議において重要な
役割を担うなど、問題の
早期解決を促す
努力に積極的に取り組んでおり、さらに、シリア、イスラエルを初めとする
交渉の直接当事者に対し、
交渉の
早期妥結に向けて柔軟な
対応を行うよう引き続き働きかけてまいりたいと
考えます。
アフリカでは、今なお百万人以上が飢餓線上にあると言われております
ソマリアでの
緊急事態に
対応するため、人道
支援の
分野においてさらにいかなる
協力が可能かについても検討しております。また、
我が国は、民主化と
経済構造の調整に向けての多くのアフリカ諸国の
努力を
支援してきており、それらの諸国の
努力を一層促す目的で、本年十月にアフリカ開発
会議を
東京で開催する予定であります。
中南米では、先般、ペルーで民主体制復帰の
第一歩となる憲法制定議会
選挙が平穏裏に実施され、エルサルバドルでは和平合意が着実に実施されております。
我が国は、民主化と
市場経済の確立に向けての真剣な
改革努力を続けているこれらの諸国を今後とも積極的に
支援してまいります。
海外における邦人の安全
対策と危機管理について申し上げます。
世界各地の
地域紛争に日本人が巻き込まれる危険性が増大し、日本人を標的とした凶悪犯罪も多発をしているため、海外における我が同胞が安心して活動が行えるよう、安全
対策の
強化が重要であります。また、万一
緊急事態が発生した場合にも、安全
確保のための
政府としての
役割に遺漏のないよう、在外公館の危機管理体制を一層
整備してまいります。
最後に、今日、さまざまな側面で、
外交活動は日常
生活に直接
影響するようになってまいりました。今や、
外交と内政はまさに一体でありますので、私は引き続き
国民の皆様の一層の御理解と御
協力を得るため、「わかりやすい
外交」を目指して
努力をしてまいります。また、さまざまな視点から正確に
国際情勢を分析し、適切かつ機動的な
外交活動を展開していく「頼もしい
外務省」とするためにも、それを支える
外交実施体制と諸機能の
強化に努めてまいります。
国際社会がさまざまな
課題に取り組んでいく中で、
我が国がより大きな
役割と責任を担っていくのに伴い、
外交の成否が
我が国の将来に及ぼす
影響は一層重大なものとなります。
外交の責任者として、その重大な任務を前に身が引き締まる思いがするのであります。私は、将来にわたり国を誤ることのないよう、使命感を持って、誠意をもって職務に粉骨砕身してまいる
決意であります。何とぞ、
国民の皆様の一層の御理解と御
協力を切にお願い申し上げる次第であります。(
拍手)