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田中参考人 御紹介を賜りました
田中でございます。
本日は、
参考人といたしまして、中央卸売市場の卸売会社の
立場から、
有機農産物、
ガイドライン、さらには
JAS法の
改正等にかかわる一連の
考え方、または過去の取り組み、経過について御報告を申し上げたいと思います。
現在はありとあらゆる
食品が充実してまいりまして、
消費者の
方々はみずからの好みや必要に応じて購入可能の状態に相なっておる
時代と申せると思いますが、事青果物に関しましても全く同様の展開でございます。このような
環境の中で、
消費者の
方々の食を通しての健康や安全の
考え方が高まりつつあるのもまた事実でございます。いわゆる安全志向、健康志向、さらには本物志向の高まりでございます。
心ある産地、農家におきましては、既に二十年以上も前から
農薬や
化学肥料を使わない
有機肥料のみでの青果物の
生産に取り組んでおりました。そして、その新たな試みに至る動機は、安全な食べ物をつくる、おいしい
農産物をつくる、そして
環境保全を考えるというような原点でありまして、まさに健康、安全を願ってやまない
消費者の願いと、これを
生産する
生産者の持つ願望は一致しているものでありまして、二十年以上を経ました現在の現代的課題と申せます健康、安全と
環境保全が見事に合致をいたしておるものでございます。
もちろん、
生産者みずからの健康の保持も大変大事なことであったでありましょうし、地力の低下防止や連作障害の回避
問題等、経営戦略上の理由も確かにあったとは存じますが、ややもすると、つくりづらい、労力が要る、収量が少ない、外観が悪い等々、いわゆる言われるところの障害を乗り越えて、
消費者の希求する問題解決のために営々として努力をしてこられましたこの道の先駆者に大いなる敬意を払いたいと存じます。
また、それと同時に、このような
生産者の物心ともに支えとなってこれを育て上げてきた
消費者や共同購入機構あるいは宅配等の関連の
方々の努力もまた評価に値するものであろうと考えております。
この間、御承知のとおり
昭和五十年には厳しい
農薬規制が行われまして、当時のエンドリン、エルドリン系や砒酸鉛さらにはBHC、水銀系等の
農薬はことごとく廃棄処分となりまして、全国の農家は、これらの
農薬について売らない、買わない、使わないの三ない運動を展開した経過がございます。しかしながら、許可された
農薬を厳正な管理と施用
基準を厳守する形となりましたが、この時点でも
有機栽培が急激な伸長を来したという記憶はございません。ただ、土つくり運動は全国各地にこれを契機として
拡大をされたことは事実でございます。
私
ども卸売市場は、御高承のように国の認可を受けまして都が開設者でございますので、絶えず新鮮で安全でおいしい青果物を
消費者に提供する責務を負わされておるわけでありますが、それに加えまして、十分な品ぞろえを要求される
立場にございます。その観点から申し上げますと、従来は事
有機農産物に限ってはその役割を市場は果たしていなかったというそしりも
現実にはございます。
しかしながら、卸売会社といたしましても決して努力を怠ったわけではありませんが、現在通常の青果物の流れが、
生産者、農協、経済連という線に見られますように、これが主流になっておるわけでありますが、
有機栽培の
方々の場合、同志としての
消費者とのきずなが大変強いのが通常でございまして、市場を通ずることなく直接固有の店へ、市場、店を通さず直接
消費者へ、特定のサークルの方に対する供給、あるいは特定の信者の
方々等に対する供給等々の、当初から
生産者から直接
消費者へとの理念が強く働いておるように思えます。
そしてさらに、
生産者の
方々は、
商品の値決め等についても直接
消費者と交渉して決定することができる、あるいは泥つきや無選別等、市場出しに比して選果に労力を食わない、また通い容器等の活用もし得る、あるいはまた、同じ希求を持つ
生産、
消費両者の
方々が産地や
消費地で交流の場を持つ機会が多々ある、あるいはまた、
生産が概して小規模の場合が多いものですから、大量継続出荷を求められる市場出荷には向かないというような理由で、いわゆる
有機野菜の産地は当初から市場離れの感が強かったわけでございます。
かくするうちに一般世論の盛り上がりは徐々に高まってまいりましたし、当然のことながら、量販店や小売店の
方々から、
消費者の声として、
有機野菜はどこへ行ったら買えるのかということが市場にもフィードバックしてまいることが多くなってまいりました。すなわち従来の産消提携ののりを越えての進展でございます。そこで、当社といたしまして、この
商品の取り
扱いについて入念な
調査を重ねた上で、個性化
商品コーナーを設置いたしましたのは平成三年でありまして、多くの問題はありますものの、とにかく継続をモットーとし、積み重ねを大事にしようということで現在に至っております。
このコーナー設置の理由は、さきも申し上げましたが、卸売市場の
立場から、品ぞろえの義務感が
一つございます。あるいは社員が全国の産地訪問の時点で産地側から、販売に要する経費や労力がかさんできたことや、
生産物の増大に対しまして特定の受け入れ側のみでは
消費し切れないという危惧等があるという声を聞くことが多くなってまいりました。群馬県の倉淵村等についてはそういう例でございます。あるいはまた、試験的に市場出荷をした場合、ある
程度の量をこなせることや、その評価においてもおおむね期待できるものであり、市場における仲卸、小売等が
有機に対する評価や理解を示しつつあることを確認できたということもございます。それに伴いまして、各種の
消費市場の
商品情報等が市場側より提供されたり、品種、
品目について相談が可能になったということ等で、従来のような市場に対する見方が徐々に変化してくるにつれまして取り
扱いも増加をいたしてまいりました。卸売会社といたしましては、その責任を果たすべき機会が生じてきたことと同時に、このことを大事に育てていく必要があると感じております。
この取り
扱いにつきましては、卸売会社としての問題点は多々ございます。通常出荷の市場への青果物は、系統組織を中心とした共選共販体制下にあります。したがって、市場の要求に対しまして比較的容易に
品目、数量、
内容、
品質等の確保が可能であります。しかし、
有機栽培農家は全国に点在をしておりますし、個人であり、個人の集まりであり、農協内の
有機の部会であり、全国的な組織の中の一人、あるいはグループ、または宗教的な集いのグループ等、その様態はさまざまでございます。また、現在の市場では、野菜を例にとりましても、
一つの
品目を年間を通じて生で供給をできる体制下にあります。そこで、
有機のみに固執された場合には、この体制ではいわゆるリレー出荷は不可能と思われます。あるいは価格の決定につきましては、通常出荷と異なる個性化
商品として、予約相対を初めとする相対売りあるいは競売ということで取り
扱いをいたしておるものでございますが、もちろん
消費者あっての
生産でありますので、産地の過大な価格設定には限りなく応じることはできません。
先ほど申し上げました平成三年時の私
どものコーナー設置時においての心配は、
一つには、産地の
格付の確認はどうするのか、あるいは第三者による確認が必要ではないのか、あるいは所定の
規格に外れた
商品の出た場合の責任はどうとるのか等々でありまして、今後解決すべき問題は多々ございますが、
ガイドラインの
制定、さらには
JASの確認等が進んでまいりますと、解決には弾みがついてくると存じます。
有機農産物における
表示ガイドラインの
制定とその反響について、市場の
立場から申し上げてみます。
このことは、我々卸売会社や産地、
消費者に多大の関心を呼んだことは確かだと思います。
消費者は、従来あらゆる呼び名の
有機表示の渦中の中で、どれを信じたらよいか迷い、しかもそれぞれの
商品の
内容についての理解もできにくいということ、また、産地は、健康や安全を考慮に入れ、
環境保全という崇高な理念を掲げながら
生産をしておりながらその努力が報われないということ、
生産、
消費両面にわたる不満があったのは事実だと思います。そういう中での
ガイドラインの
制定は、それ自体強制力やペナルティーはないものの、
有機の判定に対する枠組みや
消費者の理解を増進する上で大きな進歩を示すものでありまして、一歩
前進と考えてよいと思われます。
ただし、
減農薬、減
化学肥料の段階はわかりにくいとの
意見が寄せられておりまして、
地域差や施用量の差を云々する向きもあるようであります。また、転換中圃場の問題もあるようですが、この
ガイドラインが
生産、
消費をともに満足させ、あわせて
環境保全の効果も期待をされているとすれば、施用する
農薬や
化学肥料の回数あるいは量が大幅に減少するという事実はぬぐえない事実であります。
ガイドラインに基づいて、また
有機に向かって努力をするであろう
生産者の芽を育成する
意味からも、転換中の栽培に対しても理解を示すことは必要であろうと思われます。
また、一方におきまして、従来まで真剣に取り組んでこられた先駆的な役割を果たされてきた
生産者の
方々には、この
ガイドラインの
制定によって、従来どの産地もとの
商品も
有機と銘打てはという傾向の中で、真の
有機を実践してきた
価値がにわかに再評価され、いわゆる本物としての認定を確保でき、独自の評価を受けることとなり、反面において、まがいものはみずからの座をおりざるを得ない
立場となることと存じます。四月一日以降、大変はんらんをいたしておりました天然、
有機、自然、健康等の呼称、
表示を行う
商品が急激に減少いたしまして、逆に、
ガイドラインに沿った
表示を添付、内蔵して出荷されてまいっております。これに対して、市場内での仲卸、小売も従来よりもより多くの理解を示してきておることもまた事実でございます。
次に、
有機農産物に対する
JAS法適用の問題について申し上げます。
有機における
ガイドラインが四月一日
制定されて以来、
生産、
消費における関心の高まりは大きいものがございますことはさきにも申し述べたとおりでございますが、さらに引き続き、
JAS法の
改正による
特定JASの
範囲にこれを組み込んでいくということにつきましては、一部には、少し時期が早過ぎるのではないか、もう少し
ガイドラインの行方を見定めて、しかる後に
JASへと移行する方がよいのではないかという
意見もあったようにお見受けするところでございます。
私は、
有機に対する
JAS法の適用の
方向としては、将来に対する枠組みの設定を今からしておくということでありまして、
ガイドラインがそのまま適用されるわけではなく、
個々の
品目についてはその都度国及び関係者で十分協議の上に決定される問題であると承知をいたしておりまして、その際には、あいまい性は当然のことながら排除され、本物志向の
消費者は従来以上に保護されることでありましょうし、苦労を重ねて今日に至った先駆者的
立場に立たれる正しい
生産者は、国、都道府県等のライセンスを受けた形となりまして、反面、認証を受けなかった方
たちも努力をいたしまして、この現代的な課題への挑戦を試みることもありましょうし、さらに、
表示に違反が仮にあった場合には、その
方々は淘汰される運命になると思われます。
最後に、この
有機栽培青果物の
生産が全国で限りなく増加するかということにつきましては、これをにわかにしかりと言うことは難しいと思われます。戦後の野菜園芸の急速な発展は、たゆみない農家の
方々の御努力と栽培技術の向上と、
生産資材の面では、皮肉にも
化学肥料の発達、
農薬の発達、そして種子の開発、ビニールの開発等に負うところが非常に多いと言われております。また、それは集約農業であればこそ可能であった部分もあったと思われますし、鮮度を必要とする野菜は特に国内の
生産に負うところがまことに多かったがゆえにであったかもしれません。また、
日本における気候の特異性にもあると思われます。
アメリカのコロラドにおいて
有機栽培が大々的に行われておると聞いております。雨量が大変少なく、そのかわりかん水設備は完備しておるということであります。実はこのことは、空気が乾燥し、植物が求めてやまない水は適正な水管理を人工的に行うということでありまして、この
環境は野菜にとっては願ってもない
条件であります。
日本は年間雨量は千四百ミリを超えまして、絶えず湿度が高い、風水害はまともに受ける、さらぬだに、病気や虫害に絶えず悩まされる、雨が降れば病害の防除を必要とし、風雨の後もダメージの回復のための配慮が必要であります。害虫も発生します。最高の
条件のアメリカと
日本の
生産条件は大きく異なります。そして、その面積と機動力です。同じ物事を行うにも
状況が全く違うのでありますが、このような悪
条件の中で、十分な技術を体得した
生産者は別といたしまして、安易に
有機栽培で収量を上げ、収益を期待をするのは難しいのではないかと考えるものでございます。
以上、報告を終わります。