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上田耕一郎君 九〇年十月に
建設省は、「「多自然型川づくり」実施要領」を発表されました。多自然型川づくりのこのパンフレットを見ても、
局長が今言われたような幅の広い生態系まで考えた川の環境をつくろうという具体的な取り組みを始められていることは、大変いいことだと思います。何でこういうのが出ていて長良川河口ぜきでああいうことをやるのか、近藤
局長は二重人格のように見えるという欠点もあるんですけれども、きょうは長良川河口ぜきの問題は取り上げません。
それで、ドイツやスイスの近自然河川工法、ナトゥールナーエル・ワッサーバウというのを近自然河川工法と訳したんだそうですが、これもかなり取り入れられたようで、河川局治水課の方々の「建設月報」などに出されている論文を見ましても、かなりこの研究があるんですね。
この「近自然河川工法」という本は
関係者からバイブル扱いされている本で、クリスチャン・ゲルディというスイスの専門家と西日本の科学技術研究所の福留脩文氏が共著の本です。ゲルディ氏は八八年に日本に招かれて、こう書かれてます。「大阪から東京に向かう新幹線の車窓から日本を代表するさまざまな河川の状態を眺めながら、近自然河川工法を開発するにはスイスよりも日本の河川の方が条件がすぐれていることもあるとつぶやいた。」と、こうありますので、日本の美しい河川環境を守る上でいい仕事をぜひしていただきたいと思っています。
ところで、きょう取り上げたいのは、多摩川水系の平井川改修で取り組まれている多自然型川づくりについてです。これは今後のモデルとなっているものなので、真価が問われる
事業じゃないかと思うんです。
私は去年、秋留台開発の調査で現地へ行きまして、この平井川開発も数カ所見ました。それで、きょう
質問をいたしますので、政策スタッフが十一日に現場へ行きました。それから、きょう偶然、NHKが朝七時四十五分から十分ぐらい、平井川の多自然型川づくり問題を紹介して、さらに専門家の批判的意見なども紹介していたのをちょうど見ることができたんですが、以前よりも方向はなかなか私はいいものになっていると思うんです。
しかし、実際に平井川の多自然型川づくりでは旧来の遺産というか、がまだ残ってまして、欠点をつつき出すというのではなくて、現地の住民のこの運動をしている人々の声や専門家からもさまざまな
問題点が
指摘されていると思うんで、ですから、きょうは若干そういう問題取り上げて、今後のモデルとなると思われる平井川の多自然型川づくりについてもう一度さらに研究、検討をしていただきたい、そう思うんです。
平井川というのは、秋川市の日の出町を流れている川で、これは十三年前の東京都の環境保全局の平井川の調査なんですが、十三年前を見ると、野性のヤマメの生息する河川として貴重だとか、豊富な魚類相を有する貴重な川だとか、現在の宅地開発が進んでいくと危なくなる、本川にかつての多摩川本流における魚類滅亡の歴史を繰り返させることのないよう自然環境の保全を強く訴えるものである、これが東京都の環境保全局の十三年前の
結論なんです。
現地では多自然型の前から始まった改修工事についてさまざまな意見が出てきて、自然を守る住民組織がいろいろ生まれています。例えば、日の出には有名な絵本作家の田島征三、喜代恵御夫妻が中心になって「日の出の自然を守る会」というのをつくられている。それと「秋川の自然に親しむ会」、「川といのちの会」で「平井川流域自然保護団体協議会」というものまでつくられて、東京都に要望書なんかを出したりしています。それから、二月の四日にはこの本の共著者の福留さんを呼んで講演会を開いて、スイスの近自然河川工法の研究を市民レベルで始めているということまで非常に熱心なんです。
それで、現地で見ますと、南小宮橋から多自然型が始まっているんですけれども、大型機械で河原やヨシの生えた原っぱが押しつぶされ、埋め立てられて、一様に高水敷に変わっていて、さまざまないい点も、例えば新しい自然石の空積み、これはコンクリートブロック張りよりははるかにいいわけです。それから、のり面は緑化ブロックができていて、ここは緑が将来植えられるんだろうと思うんですね。かなり前進した面はあるんだけれども、まだまだいろんな問題が残っているように思うんですね。それで、今進んでいるものを変えるというのはなかなか大変でしょうけれども、今進んでおりますのは御存じのように南小宮橋から代田橋まで六百四十メートルで、これが九一年度ですが、今後さらに上流へ向かって進むので、ぜひ改善していただきたいと思うんです。
一番問題になっているのは諏訪下橋と羽生橋との間の約四百メートルの渓谷なんです。私も去年ここを見ましたけれども、左岸は切り立ったがけになっていて、右岸は山に続く斜面の森、すばらしい渓谷美なんです。トウキョウサンショウウオの産卵地が点在している、岸にはカタクリの群落もある、化石の宝庫でもあるという、観察した人々が東京にこういうところがあるのかとぴっくりするような非常にいい渓谷なんですけれども、ところが、ここも
都市計画決定で全部同じ幅になっているんで、この狭い幅の渓谷が全部削られてしまうということになっているんです。どうもこういうやり方は改善する必要があるんじゃないか。自然を守る市民の方々が一番重視している問題の一つです。
建設省の九〇年十月の「「多自然型川づくり」実施要領」、この第4に留意事項というのがある。その(1)の①は「現在の河川が有している多様性に富んだ環境の保全に努めること。」、こう書いてある。②には「横断計画については、標準断面を設定したうえで上下流一律の川幅で計画することはできるだけ避け、」こういう言葉もあります。だから、この実施要領から考えても、あの渓谷美を残すために、この
都市計画決定は五十八年にできたもので大分前のものですから、今、多自然型で進める以上、あそこのところは
建設省の実施要領から考えても再検討が必要じゃないかというふうに思うんです。
「建設月報」のことしの三月号に河川局治水課の「多自然型川づくり」という論文が載っている。これには、
基本は河川の河道計画そのものの取り組みなんだと、河道計画の取り組み、ここが一番
基本なんだということが強調されていて、「あまりにも標準化され過ぎた標準横断図というテクニカルタームに代表される、感覚的に言えば川の個性を無視した河道計画からの再出発の起点なのです。」と、こうまで言っているんです。治水課の方がこういう論文も書かれている。この論文には、多自然型多自然型と言って実際にはただ自然を模しただけで誤解される
ケースもあるんだといって写真までいっぱい載っているんですね。
ですから、せっかく平井川でそういういい仕事に
建設省が取り組んでいる以上、前に決めた
都市計画決定で川幅が決まっているのをそのままやるというだけでなくて、本当に多様性を生かす、今の自然、生態系を生かすという方向でやってほしい。
ドイツ、スイスなどでは住民参加というのが非常に重視されておりまして、この中に一つ出ている住民参加で決定した実例というのは、マルターレン村というところで、いろいろ反対意見なんか出てきて六つの代替案を検討して、六つの代替案の中の幾つかをコンビネーションで結びつけてすばらしいのができた、村議会などの意見なんかうんと取り入れたという報告があるんですけれども、その点を近藤
局長に検討していただきたいということを要望したいと思うんです。