○
国務大臣(羽田孜君)
平成四年度予算の御審議をお願いするに当たり、今後の
財政金融政策の
基本的な
考え方について所信を申し述べますとともに、予算の大綱を御説明いたします。
戦後四十年余の間に、
我が国経済は、
国民のすぐれた英知とたゆみない
努力により、二次にわたる石油危機など幾多の試練を乗り越え、
世界にもまれに見る目覚ましい
発展を遂げてまいりました。
この間、
国際社会における
我が国の地位は急速に
向上し、今や、激動が続く
国際情勢の
もとで、その地位にふさわしい
役割を果たしていくことを強く
期待されております。
今後、
我が国の進むべき道は、これまでに達成した
経済的成果を生かしながら、国内的には、
国民の一人一人が
生活面での豊かさを実感できるよう、
国民生活の一層の質的
向上を
実現していくとともに、対外的には、
世界経済の安定的
発展のために
我が国にふさわしい貢献をしていくことにあると
考えます。
最近の内外
経済情勢について見ますと、
我が国経済は、
個人消費や設備
投資に依然底がたさが見られるものの、
住宅建設の減少などに見られるように、このところ
拡大テンポが減速しつつあります。しかしながら、雇用
情勢については、有効求人倍率が高い水準にあるたど、依然引き締まり基調で推移しております。また、物価の
動向を見ますと、国内卸売物価は引き続き落ちついており、
消費者物価についても、その騰勢は鈍化しつつあります。このような状況から判断すれば、
我が国経済は、いわば完全雇用を維持しながらインフレなき持続可能な成長に移行する過程にあるものと
考えられます。
国際
経済情勢を見ますと、先進国は、全体として景気の減速局面からの回復の過程にあり、本年は昨年よりも高い成長が見込まれております。しかしながら、依然
米国経済の景気回復の足取りが重いことなどから、全体の回復のテンポも緩やかなものとなると見込まれております。他方、今後の
世界的な資金需要の高まりへの対処は引き続き重要な
課題であり、このためには
世界的な貯蓄増大が重要であると指摘されております。また、累積債務問題につきましては、引き続き
解決に向けての
努力を必要といたしております。旧ソ連につきましては、昨年末で連邦が消滅し、各共和国による
独立国家共同体がスタートしておりますが、
経済・金融などの面で深刻な問題に直面しており、国際
金融機関の
協力を得て適切な調整・
改革政策を
実施していくことが重要であると
認識しております。
私は、今後の
財政金融政策の運営に当たり、このような最近の内外
経済情勢を踏まえ、二十一
世紀に向けて
我が国が進むべき道を展望しつつ、以下に申し述べる諸
課題に全力を挙げて取り組んでまいる所存であります。
第一の
課題は、内需を
中心としたインフレなき持続可能な成長への円滑な移行を図ることであります。このような観点から、景気には
十分配慮した
施策を
実施することといたしております。
平成四年度予算編成に当たりましては、こうした見地から、極めて厳しい
財政事情の
もとでありますが、
時代の要請に的確に対応した財源の重点的、効率的な配分を図り、特に公共
投資については、国・地方を通じ最大限の
努力を払っております。すなわち、まず一般歳出における公共事業
関係費について五・三%の伸びを確保するとともに、
財政投
融資計画においても、公共事業
実施機関について一〇・八%の伸びとしております。さらに、地方単独事業についても、一一・五%と高い伸びを見込んでおります。
一方、金融面では、昨年七月、十一月、さらに十二月末と三度にわたって公定歩合の引き下げが行われたところであります。この間、市場金利は低下を続け、これを受けて
金融機関の貸出金利も低下してきております。さらに、最近の
地価の
鎮静化傾向等にかんがみ、昨年末をもって
金融機関の不動産業向け貸し出しに係る
総量規制を解除いたしましたが、これは宅地供給や
住宅建設の適切な
促進等に必要な資金の円滑な供給に資するものと
考えられます。
また、今後とも、
主要国との政策
協調及び為替市場における
協力を通じ、為替相場の安定を期してまいりたいと存じます。
国民各位におかれましては、
我が国経済の先行きに自信を持って
経済活動に取り組まれますことを
期待いたしておるところであります。
第二の
課題は、
財政改革を引き続き強力に推進することであります。
平成四年度予算においては、
財政改革を推進する等の観点から、まず既存の制度、
施策について見直しを行うなど歳出の徹底した節減合理化に努め、一般歳出についてはその増加額を前年度同額以下とするなど、可能な限りの
努力を払ったところでありますが、当面の厳しい税収
動向、
財政事情に対応するため、建設公債の発行額を増加させることといたしました。
この結果、
我が国財政は、公債残高が
平成四年度末には約百七十四兆円にも達する見込みであり、また、国債費についても歳出予算の二割を超えて政策的経費を圧迫するなど
構造的な厳しさが続いております。
財政改革の目的は、本格的な
高齢化社会が到来する二十一
世紀に向けて一日も早く
財政が本来の対応力を回復することにより、今後の
財政に対する内外の諸要請に適切に対応し、豊かで活力ある
経済社会の建設を進めていくことにあります。
したがって、今後の
財政運営に当たっても、後世代に多大の負担を残すことなく、二度と特例公債を発行しないことを
基本として、公債依存度の引き下げ等により、公債残高が累増しないような
財政体質をつくり上げていかなければなりません。このため、引き続き
財政改革の推進に全力を傾けてまいる所存であります。
第三の
課題は、調和ある
対外経済関係の
形成と
世界経済発展への貢献に努めることであります。
世界経済は、貿易や直接
投資の
拡大とともに
相互依存関係をさらに深めつつあり、もはや、一国の
経済は、他国との円滑な
経済関係なしには成り立たないという状況にあります。このような状況の
もとで、
国際社会において重要な地位を占める
我が国は、調和ある
対外経済関係の
形成に努めるとともに、
世界経済の
発展のために積極的に貢献していく必要があろうと
考えます。
先般の日米首脳会談におきましては、日米
両国が、他の
先進諸国とともに、今後とも物価安定を伴った持続的成長に資するよう
協調的
努力を続けていくことの重要性が再確認されたところであります。
保護主義的な
動きを回避し、多角的
自由貿易体制を
維持強化することは、
世界各国の
経済発展と
国民生活向上の
基礎であります。このような観点から、ウルグアイ・ラウンドにつきましては、
各国と
協調しつつ、
成功裏に終結するよう
努力することが重要であると
考えます。
関税制度につきましては、市場アクセスの一層の改善を図る等の見地から、保税
地域制度の改善、石油
関係の関税率の引き下げ等の措置を講ずることといたしております。
経済協力につきましては、
開発途上国の自助勢力を
支援するため、
政府開発援助の着実な拡充と資金還流措置の
実施に努めているところであります。
累積債務問題につきましては、新債務戦略を積極的に支持し、
所要の
協力を行っていく
考えであります。
旧ソ連
地域に対する
支援につきましては、新しい
体制の
もとで
市場経済への移行を
促進し、種々の
改革を
支援するため、他の先進
主要国とも
協調しつつ、適切な
支援を進めていくことといたしております。
第四の
課題は、金融・資本市場の自由化、国際化を着実に進展させるとともに、証券及び金融をめぐる諸問題に適切に対応することであります。
金融・資本市場の自由化、国際化は、
国民の金融に対するニーズにこたえるとともに、
我が国経済の
発展に寄与するものであります。また、金融に関する制度等について国際的な調和を図っていくことは、
世界経済において
期待される
我が国の
役割を果たす上でも大きな意義を有するものと
考えられます。
このような観点から、これまでも逐次各種の措置を講じてきており、特に、預金金利の自由化につきましては、遅くとも
平成六年中に自由化を完了すべく
努力いたしているところであります。
また、
我が国の金融制度及び証券取引制度につきましては、有効かつ適正な競争の
促進を通じ、内外の
利用者の利便性の
向上をもたらすとともに、国際的にも通用する金融制度及び証券取引制度を
構築することが極めて重要であり、このため、金融制度
調査会答申、証券取引審議会報告等を踏まえ、金融・資本市場における各種の業務
分野への参入等を含む金融制度
改革を推進する必要があると
考えます。
こうした中で昨年、証券及び金融をめぐる一連の不祥事が発生し、
我が国の証券市場や
金融機関に対する内外の信頼が大きく損なわれたことはまことに遺憾なことであり、極めて深刻に受けとめたところであります。
これまでも、一連の不祥事の実態解明、再発防止策等について検討を行い、昨年の臨時
国会においては、緊急に措置すべき事項として損失補てんめ禁止等を内容とする証券取引法等の
改正案を成立させていただくとともに、
金融機関の内部
管理体制の総点検を早急に行うことなどを内容とする対応策を講じたところでありますが、その際、これらの問題に関し、臨時行政
改革推進審議会及び
国会の
特別委員会より、制度、行政の各般にわたる総合的な対応策を講ずべきであるとの御指摘をいただいたところでございます。
政府といたしましては、これらの答申及び諸決議を最大限に尊重するとの
基本的
考え方の
もと、このような不祥事の再発防止及び
我が国の金融・資本市場に対する内外の信頼回復を図るため、法制上、行政上の総合的な
対策に取り組んでまいる
考えであります。すなわち、より公正で透明な証券市場等の
実現に向け、新しい検査監視
体制の創設を含む
所要の措置を講ずるとともに、金融・資本市場における有効かつ適正な競争を
促進すること等を目的とした金融制度
改革を進めることとし、
所要の
法律案を今
国会に提出すべく、現在鋭意準備を進めておるところでございます。
次に、
平成四年度予算の大要について御説明いたします。
平成四年度予算は、極めて厳しい
財政事情の
もとで、歳出の徹底した節減合理化や税外収入の確保に努めるほか、建設公債の発行額を増加させ、税制面においても
所要の措置を講ずることといたしました。またその中にあって、
社会資本整備の着実な推進や
国際社会への貢献を初め、
時代の要請に応じ、限られた財源を重点的、効率的に配分するよう努めることとして編成いたしたところであります。
歳出面につきましては、一般歳出の規模は三十八兆六千九百八十八億円となっており、これに、地方交付税交付金、国債費等を加えた一般会計予算規模は七十二兆二千百八十億円となっております。
国家公務員の定員につきましては、第八次定員削減
計画を着実に
実施するとともに、増員は厳に抑制し、一千三百七十二人に上る行政機関職員の定員の縮減を図っております。
次に、歳入面について申し述べます。
税制面では、まず、土地の相続税評価の適正化に伴う相続税の負担調整として課税最低限の引き上げや税率区分の幅の
拡大等を行うことといたしております。
また、課税の適正公平の確保を推進する等の観点から、企業
関係租税
特別措置の一層の整理合理化、みなし法人課税制度の廃止、赤字法人の欠損金の繰り戻し還付制度の適用の停止、海外
関係会社からの過大借り入れへの対応措置としての過小資本税制の導入等の措置を講じる
考えであります。
さらに、当面の厳しい税収
動向、
財政事情に対応するため、
国民生活、
国民経済に配慮しつつ、新たに必要最小限の措置として、法人
特別税の創設及び普通乗用自動車に係る消費税の税率を四・五%とする特例措置をお願いすることといたしております。なお、湾岸
支援のための法人臨時
特別税及び石油臨時
特別税並びに普通乗用自動車に係る消費税六%の経過措置は、
平成三年度末に失効させることといたしております。
税の執行につきましては、今後とも
国民の信頼と
協力を得て、一層適正公平に
実施するよう
努力してまいる所存であります。
公債発行予定額は七兆二千八百億円としております。なお、借換債を含めた公債の総発行予定額は二十八兆七千七百八十億円となります。
財政投
融資計画につきましては、現下の
経済情勢も踏まえ、
社会資本の
整備、
国際社会への貢献、
地域の
活性化等の政策的要請に積極的にこたえ、資金の重点的、効率的な配分を図ったところであります。
この結果、
財政投
融資計画の規模は四十兆八千二十二億円、前年度当初
計画に対し一〇・九%の増加となっており、また、資金
運用事業を除いた一般財投の規模は三十二兆二千六百二十二億円、一〇・八%の増加となっております。
次に、主要な経費について申し述べます。
公共事業
関係費につきましては、
社会資本の
整備の重要性にかんがみ、また、あわせて景気にも配慮することとして、その拡充を図るとともに、これまでNTT株式売り払い収入の活用によって行ってきた
社会資本の
整備の
促進を図るための事業につきましても、これを確保することといたしております。公共事業の配分に当たっては、
生活関連重点化枠などを通じて、
環境衛生、
住宅、
下水道、公園など
国民生活の質の
向上に資する
分野に重点を置くとともに、
地域の実情に十分な配慮がなされるよう対処してまいる所存であります。特に、
住宅対策については、
住宅金融公庫における貸付限度額等の引き上げ、
地域活性化住宅の供給、公共賃貸
住宅の建てかえの推進など
施策の拡充を図っております。なお、
平成三年度末に期限の到来する治水治山の各五カ年
計画及び新たに策定される森林
整備事業
計画については、おのおの適切に
計画を策定することといたしております。
社会保障
関係費につきましては、二十一
世紀に向かって活力ある福祉
社会を
形成していくことが重要な
課題であります。このため、将来にわたって安定的かつ有効に機能する制度を
構築していく必要があり、このような観点から
政府管掌健康保険制度、雇用保険制度の見直し等を行うことといたしております。また、すべての
国民が安心してその老後を送ることができるよう「
高齢者保健福祉推進十か年戦略」を着実に推進するとともに、保健医療、福祉
関係の人材確保方策を講じるなど、
国民に身近な
施策についてきめ細かな配慮を行っております。
文教及び科学振興費につきましては、教育行政に係る国と地方の
役割分担の見直しを通じた初等中等教育と高等教育との間での財源配分の見直しを進め、高等教育、学術研究の改善充実、公立学校施設
整備事業費の確保、生涯学習の推進、芸術、
文化、スポーツの振興などの
施策の充実に努めるとともに、
基礎的、創造的研究を初めとする
科学技術の振興のための
施策を推進することといたしております。
中小企業
対策費につきましては、
地域中小企業の創造的
発展支援、中小企業の物流
共同化、効率化への
支援などの
施策の内容の充実を図ることといたしております。
農林水産
関係予算につきましては、農業を取り巻く内外の諸
情勢を踏まえ、生産性の
向上等を
基本とする農業の
展開を図り、
我が国農業の産業としての自立性を高め、あわせて農山漁村の
活性化に資するための
施策を推進することといたしております。
経済協力費につきましては、第四次中期
目標、他の経費とのバランス等を総合勘案し、
政府開発援助予算について七・八%増といたしており、また、効果的、効率的な援助とするため適正な評価やその内容の一層の改善を図ることといたしております。
防衛
関係費につきましては、
中期防衛力整備計画の
もと、現下の厳しい
財政事情や国際
関係安定化に向けてさらに
動きつつある
国際情勢等を踏まえ、極力その抑制を図るとともに、その中にあって後方
分野の充実に努めるなど
防衛力全体としての均衡がとれる態勢の維持
整備を推進することといたしております。
エネルギー
対策費につきましては、
地球環境保全及びエネルギー
関係での
国際協力の重要性を踏まえつつ、中長期的観点に立った総合的なエネルギー政策を着実に推進することといたしております。
地方
財政につきましては、中期的な地方
財政の健全化策を講じつつ円滑な地方
財政運営のため
所要の地方交付税総額を確保した上で、地方交付税の年度間調整としての特例措置等を行うことといたしております。なお、地方公共団体におかれましても、歳出の節減合理化をさらに推進し、より一層効率的な財源配分を行われますことを要請するものであります。
以上、
平成四年度予算の大要について御説明いたしました。本予算が現下の諸
情勢に果たす
役割に御
理解を賜り、何とぞ、御審議の上、速やかに御賛同いただきますようお願いを申し上げます。(
拍手)
我が国は、二十一
世紀には、
世界にも例を見ない本格的な
高齢化社会を迎えることとなります。こうした
時代においても、
国民の一人一人が、また、その
子供たちが幸せを感じることができるような、真に豊かで活力に富み、国際的にもふさわしい
役割を果たし得る
経済社会を創造していかなければなりません。そのためには、今
世紀の残された期間に、しっかりとした礎を築いておくことが必要であります。
ただいま申し述べました諸
課題を一歩一歩着実に
解決することにより、来るべき二十一
世紀に向けて私たちに課せられた
責任を精いっぱい果たしてまいりたいと思います。こうした今日の地道な
努力は、必ずや新
時代の一層の
発展と
繁栄につながるものと確信をいたしております。
国民各位の一層の御
理解と御
協力を切にお願いを申し上げる次第であります。以上であります。(
拍手)
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