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参考人(
椎貝博美君)
椎貝でございます。
それでは、早速本題に入らせていただきたいと思います。
お
手元に多分私のつくりました資料が配布されていると思いますが、それに従って御
説明をしたいと思います。(
OHP映写)
河口部では、海は全部
海水でございまして、川は
真水でございますから、どこかで
真水から順次あるいは急に
海水に変わらなくてはならないということがございます。この図は一九五三年ごろにストンメルという方が発表された
分類の仕方であります。
一つは強
混合といいまして、大体上から下まで
海水がまざりながらだんだんに薄くなって川の方に入っていくということです。二番目は緩
混合でございまして、これは、まざっていることは同じなのですが、少し
勾配といいますか塩分の濃い線というのがそれぞれ区別されてきますが、これが寝てくるということでございます。一番極端な場合には
塩水ぐさびとよく称しておりますが、海の水と川の水とがかなりはっきりと分かれまして
くさび状に入ってくるというのが
塩水くさびでございます。この
三つに
分類するというのが現在でもよく行われている
分類でございます。
ところが、実際の
河川ではこんなにきれいにはならない。強
混合になったり、緩
混合になったり、弱
混合になったりする。そのときに普通考えられる
状況で一番ぐあいの悪いのが、たくさんぐあいが悪いこともありますし、いいこともありますが、一番奥に入ってくるのがこの
塩水くさびの形だと考えられております。私多少それには
異論はあるのですが、それは順々に申し上げます。
その方程式はといいますと、これは何も御
説明しようとするのではございませんが、一番最近のこれは
水理公式集というものでございますが、これを見ますと大変難しい式になっています。これを
計算するわけですから
相当大騒ぎになります。私でも急にやれと言われましても二日や三日ではできなくて、自分でやるのでしたらいろいろ
データを入れて一年ぐらいは十分にかかる
計算でございます。しかし、それはちょっと若い、若いと申しますと
山本先生に怒られますが、若い
先生方がいろいろ細かくおやりになることであって、実はそうではないのです。これは割合に簡単に
説明がつくことでございます。
それはもしも川に水が
一滴もなくなったとしたら、そうすると川の底が水平な場合、これは東南アジアの
河川なんかかなりそうでありますが、水は
幾らでも奥まで入ってくる。ここの中が全部海になりまして、
入り江になるということでございます。これが一番極端な形です。これでありますと
幾らでも水が入る。しかし、
日本の
河川は必ずしもそうでございません。よく言われているように、かなり
勾配が急でございますからどこかで水が行きどまって、これまたこういうふうな
入り江になるということでございます。
ですから、これかこれということでありますが、もちろんどのような
河川でも
勾配のない
河川はございませんので、どちらかというとこれになる。ですからこれが非常に
基本になるわけです。これに
真水が入ってまいりますと、
真水が少し
海水を押し戻して
塩水くさびという
格好が生ずるんですね。
塩水くさびというのは、普通だったならばここまで入っているものが、川の水で押し戻されましてこんな
格好になる。この
格好を
計算しようといたしますと、先ほどちょっとお目にかけましたような大変面倒くさい式をやらなくてはならない。ですから、
学者というものはそのわずかな差を
計算するために一年も二年もかけるということになっております。これが
基本でございます。ですから大ざっぱに言いますと、川の
勾配で海の
水深を割りました分だけ入ってくる。
ただいま
長良川が問題になっておりますので、
長良川は、これまた
河床がでこぼこしておりますからそうきれいにはいかないんですが、大ざっぱに言いますと五千分の一ぐらいの
勾配を持っておりますので、五千分の一で
河口の
水深の七メートルを割りますと三十五キロという値が出てくる。だから、ほっておけば、
長良川は水が
一滴もなくなれば三十五キロまで
海水が入ってくる。これをわずかな
真水が流れたときは少し押し戻し、たくさんの洪水が流れたときはうんと押し戻してくれるという
機構を持っておるわけです。
そうすると、ちょっと学問的な話になりますが、この押し戻す
機構は何かといいますと、
真水が持っております
圧力、それからもう
一つはここの境ですね。この
境界面というのは大変問題なんですが、ここには波が立ちます。
水面には波が立たないんですが、水の中に波が立ちます。これはもう十九
世紀ごろから
ヘルムホルツあたりが
計算をしておったことで、そのこと自体は不思議ではないんですが、この波が立ちましてこれが
摩擦の
役目をいたします。これで
真水が下の
海水を引きずってちょっと押し戻してくれる。それから、もちろん底にでこぼこがございますので、これも
摩擦で
海水の入ってくるのを少し抑え込んでくれる。ですから、水の
圧力とこの
摩擦が一体になりまして
塩水くさびがどこまで入ってくるかということを押しとどめるということになります。
それからもう
一つは、ちょっとこういうことが書いてありますが、これは全部の方が認めているわけではないんですが、
塩水くさびの
先端付近には、私がこれまで観測しました
日本の川ですと、ちょっとへっこんで盛り上がるというところができているんです。これは、
塩水くさびの中に入りますと
流速が落ちますので、多分ここいら辺に
土砂の
堆積が起こるんじゃないかと言われております。これは
学者の百人が百人認めている話ではございません。
それではあんな面倒くさい式があるのかどうかということで、私も若いころ同じ疑問を持ちまして、これは
昭和三十四年に私がやった
実験でございます。
学生の
卒業論文でやったものでございますが、これが百分の一・二七というかなりきつい
勾配の小さい
水路です。小さい
水路を
大学の中につくってもらいましてその
計算をしたんです。そうすると、この黒い線が
計算値でございますが、いろいろ
流量その他書いてありますが、何となくこういうふうな形になってくる。ここの
付近とそれからここのところはちょっと
計算が正確にはできない。これはなぜかといいますと、
数学で申しますと
特異点ということになっておりますので、
計算をすると
計算機の方が動かなくなってしまう。これは今でも同じことでございます。
ですから、ここのところはちょっと
工夫を要するんですが、実際にもここのところはもやもやとしておりまして、ここももやもやとしているということでございます。自然の
法則というのはそのようになっておると思いますが、これは
実験室の中ですから大変きれいな
塩水くさびができることは確かでございます。それがただいま御
説明いたしましたような、この境目に立つ波の立ち方でこの
摩擦係数というのは変わってまいります。変わってまいりますから、大変に大きな波が立つときは
塩水くさびというのはここら辺で押しとどめられるし、それから大きな波が立ってエネルギーをどんどん失っていくときにはこのくらい奥まで入ってくる。したがいまして、いろんな
状況によってこの
塩水くさびというのは上がったり下がったりする。少なくとも
実験室の中ではそういうことは確認をされておることでございます。
ただこの
計算は、これは全く私が
計算機を使ってやりました空想上の
塩水くさびでございます。しかし、この
計算の
一つ一つは適当な波の立ち方を考えてやればこのくらいはあるということでございます。
実験室でこのくらいあるのは当たり前でありまして、これをいかにして現場に持っていくかという話になるかと思います。
なお、波のこの
摩擦につきましては大変に昔から
異論がございまして、これは私がその後
昭和三十九年につくりました
図表ですが、その
摩擦の出方は波によって違うということであります。これを
最初に言い出したのは東北大の今
名誉教授をされています
岩崎先生でございます。私がその
図表をつくったんですが、
岩崎先生の
データとそれから私とか、
外国の
データとは少しずれているんですが、しかしいろんな波を考えて理論上
計算すれば、抵抗というものはある差異という非常に微妙な
係数になりますが、こんなことであるのではないかということでございます。
これが現在では、その後三十年近くたっておりますので
大変大勢の方がお調べになりまして、いろんな神通川とか九頭竜川とか
利根川その他全部まとめ込みますとこんなふうな形になるのではないかという
データでございます。そして、これは私のつくりましたのを下敷きにしているのは確かで、なぜかと言いますと、浜田、大坪、バレンボア、
椎員、この
玉井先生というのは今東京
大学の、私も指導したと思いますが
教授をされておられますが、こういった
大勢の方でその後いろいろ確められてこういう形になったということ、これが現在の姿だろうと思います。
この
塩水くさびの中というのは大変に妙な形をしておりまして、この中でございますが、この中の
流速は、こちらが海でございまして、こちらが川で、上の
真水が流れている方は
海側に向かって流れていて、その下の層は、その近いところは
海側に向かって流れているけれども一番底の方は
上流に向かって流れているという非常におもしろい現象を起こします。これが
先端にいくとそれではどうなるのかといいますと、
先端にいきますとこれが縮まっていって、
数学の
計算がうまくいかなくなりましてもやもやとしてくるということになってまいります。
したがいまして、ここら辺で運ばれてきた
土砂が実際の川は、これは私とか私のMITの
先生のイペンとかそこら辺が一生懸命
計算をしたのでございますが、その後東京工業
大学の
日野教授が
計算をされまして、実際の川はもうちょっとこういう形になっているのではないかということです。そうすると、ここら辺へ運ばれてきた
土砂が沈積をいたしますので、先ほど言ったような
堆積が起こるということでございます。それが
塩水くさびの大変な挙動でございますが、実際はそう簡単にはいかないということでございます。
長良川、たしか
昭和三十七、八年ごろだったと思うんですが、亡くなられました
嶋教授とそれから東大の
玉井先生、そのころは
学生さんでありましたが、
長良川で問題が起きまして私がはからせていただきぎした。これをはかるというのは、また一口にはかるといいましても大変な話であって、当時は
相当大騒ぎをしておったわけでございます。
ところが、この
長良川の
塩水くさびというのは大変不思議であって、大変不思議というのは実は不思議じゃなくてどこの川もそうなんですが、
塩水くさびと一口に言いますけれども、
塩水くさび的な緩
混合が生じている形になっている。不思議なことは、
大潮のとき、海の潮が高いときには意外に奥まで
塩水が入ってこない。それから潮汐の
潮位差が減ってまいりますと、すっと濃い
塩水が入ってきて、当時は
北伊勢工業用水の第一
取水場、そのころは
一つしかございませんでしたが、それがとれなくなったということでございます。
これは、私がこの
お話をいただきましてからちょっと古い記憶を呼び起こしまして、それから現在の
状況なぞは建設省が出しておりますパンフレットに出ておりますので、それから少しトレースをしてみますが、その
北伊勢第一というのはこの十キロ
地点よりちょっと
上流十五キロぐらいのところにあったと思っておりますが、当時はここら辺まで、ここに
マウンドが
一つありまして、ここに
塩水くさびがひっかかってしまう。この
マウンドは取ってしまったのかといいますと、そうではなくて、当時でもこの
マウンドで
塩水くさびはある時期にはとまるんです。ところが、
大潮でない晩になってまいりますとこの
上流に
塩水くさびが乗り越えてどっと入ってくるということです。それで大丈夫だと思っていると急に濃くなるということで大変に難渋をされている。
それで、当時はいろいろ
計算をしたわけですが、当時の
技術力、それからお金の問題もございまして、もう少し
上流に移せばよかろうと。うんと
上流に移しますと、今度は川に水がなくなってきますのでまた別の問題が出てまいります。それでできるだけ下流で運転できるところといいまして、現在でもこの
マウンドみたいなものはちょっと残っているように見えますが、こういうところでこれにひっかけてとめておけば十年とかそこいらはもつであろうということでございます。何とお答えしたか私覚えていないんですが、一年に何日かはこの第二でもとめなくてはならないですよ、これは確率上必ず起きますと。いやそんなにとめられてはという話でありましたが、当時はそういうことで今の十七・六キロかなんかのところに移ったんだと思います。
ところが、もう
一つ河口部にこんなふうな出っ張りがありまして、これは多分
昭和の初めか大正かわかりませんが、昔は恐らくここら辺でとまっていたんじゃないかと、こう思うケースがございます。それからもう
一つは、ここにもう
一つ怪しいのがある。二十キロメートル
地点にまたこれが積もる。これは何かの
流量のときに
塩水くさびが多分ここまで来ているのではないか。それからこれもちょっと怪しい。これは違うかもしれませんが、これもちょっと怪しい。それからもう
一つ、
昭和四十五年ごろ、ここに
マウンドがこうありまして、あったと思うんですが、これがこんな形に今残っておりますが、ここら辺までも来ているときがあるのではないか。これは
地形の形でこんなふうな形をしておりますので、これも確かではございませんが、当然渇水で
状況が悪いときにはそういう
状況になっているのではないかと思います。
ただそのとき
工夫をされて、上の方から水をおとりになるとするとある程度は防げますが、
長良川の嫌な点はそれが入れかわってくるということです。例えば常にこのようにまざってくる。これは
利根川、江戸川、大野川、豊川ですか、私どもが調べた範囲ですとそのくらいですが、それからタイのチャオプラヤ川になりますとこういう形ではなくて大変まざっています。
長良川も
日本の川の
一つでございまして、そういう動いている間に今度はこれが砕けてまざり出すと急に上まで濃い水が上がってくるということでございます。そういうことを私は調べまして、これも三十数年前でございますが、ほぼ学問的にはそのようなことだったと思います。
簡単でございますが、これにて
説明を終わらせていただきたいと思います。