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政府委員(
清水湛君)
法律的には大変難しい問題を提起されたわけでございますけれ
ども、まず第一に、
借地権の物権化という問題でございます。
物権ということにいたしますと、これは御
承知のように、登記その他の公示方法によって
対抗力が付与される、また、
権利の
存続期間も
長期であり安定する、それから、原則として譲渡転貸は自由である、こういうこと。それからもう
一つとして、当然に登記請求権がある、こういう四つの要素があるんではないかというふうに考えられます。この
借地権、これは賃借権と地上権でございますけれ
ども、地上権については、つまり地上権たる
借地権についてはこの問題はすべて解消しているわけでございますけれ
ども、我が国の
借地権の大部分は賃借権であると、こういうことからこの問題が出てきておるというふうに思われるわけでございます。
先生が御
承知のように、明治四十二年の
建物保護法によって
対抗力が与えられ、それから
大正十年の
借地法によって
存続期間の
長期安定化が図られ、さらに
昭和十六年の
正当事由条項追加によってそれが実質的に裏づけられた、こういうことになるわけでございますが、結局、賃借権たる
借地権の物権化現象の問題として最後に残ったのが自由譲渡性と、それからもう
一つは、登記請求権の問題であろう、こういうふうに思うわけでございます。
実は、
昭和三十五年に
法務省民事局内部で、これは法制審議会とは直接の
関係はないんでございますけれ
ども、
借地・
借家法の
全面改正の
研究会が持たれましたが、その中では
借地権という物権をつくるというようなことを議論した
経緯がございます。しかし、このことにつきましては非常に各方面から問題があるという
指摘がございまして、この案が結局ついえ去ったわけでございます。しかし、何らかの形で
借地権の自由譲渡性をやはり認める必要があるのではないかということが要請されまして、御
承知のように、自由譲渡性を与えるわけではございませんけれ
ども、一種の非訟事件手続で裁判所が相当と認める場合には、賃貸し人の承諾にかわる許可の裁判をするという非訟事件手続化した形での賃借権たる
借地権の自由譲渡性というものを認めた、こういうことになるわけでございまして、ここでまた
借地権の物権化というものがある
意味においては一歩前進したということが言えるわけでございます。
しかし、この四十一年
改正がそこで踏みとどまらざるを得なかったということは、
借地権を物権にしてしまうということについての
土地所有者側の非常に強い抵抗があったということが、これは
一つの事実として存在するわけでございます。それに加えて、今度はさらに賃借権について登記請求権を認めるかどうか、こういう問題でございますけれ
ども、これはやはり
民法の基本に触れる問題でございまして、賃借権という債権的な
権利という形で
借地・
借家法の中に存在させておく以上、これはやはりこの
法律だけで当然の、つまり物権的請求権としての登記請求権というものを認めることは非常に難しいし、理論的にも問題があるということで今回の
改正の中身にはならなかったわけでございます。
現行法の解釈論といたしましても、
借地権たる賃借権については登記請求権があるんだということを主張する学者もいないわけではございませんけれ
ども、
民法あるいは
借地・
借家法の現在の解釈として、これは判例上からも否定されているわけでございまして、そこまで現在の段階で
借地権を強化するというような情勢はまだ育ってないと申しますか、そういう
状況にはまだ立ち至っていない、こういうことになるわけでございます。
そういうようなことから、私
どもとしては、今回の
改正に当たりましては、例えば
建物保護法による
対抗力というのは、
建物の登記をすることによって
対抗力が与えられるわけでございますが、その
建物が消失してしまった場合に
対抗力が直ちに消滅するというのはいかがかというようなことから、
対抗力の存続について若干の補強をしようということで、そういう
意味での強化は図っているわけでございますけれ
ども、全体的な物権化という点については、これは現段階においては適当ではないということに最終的には至ったわけでございます。
それから、
借地権の担保化の問題につきましても、これはいろんな議論があるわけでございます。しかしながら、
一つには物権そのものではないということ、やはり債権でございまして、
借地権たる賃借権については当然に
土地にその登記をするという
権利は与えられていない、地主さんとの話し合いで、合意で
借地権の登記をするということは可能でありますけれ
ども、合意がない限りその登記をせよという請求権を現段階で認めるのは適切ではないというようなことを、それからさらには、先生御
指摘のように、現に
借地上に
建物を建てまして、その
建物に抵当権を設定する、つまり、
建物を担保にして金を借りるということが多く行われているわけでございますけれ
ども、この場合の
建物の抵当権の効力は当然に
借地権に及ぶ、抵当権の実行として
建物が競売されますと
借地権つきの
建物という形で競売の対象になる。
こういうことになっているわけでございまして、そのことについての手当ても、
現行借地法に地主が承諾しない場合には裁判所がかわって許可をするという
制度として導入されているわけでございます。そういうような
建物の抵当権の効力が
借地権に及ぶという現在の
民法の解釈、これはもう確定的な解釈でございますが、そういうものを
前提とした場合に
建物とは別個にこれを独立の抵当権の対象とするということにいたしますと、その間の
権利関係の
調整、特に抵当権の実行によってその
借地権を取得した人と
建物との
関係等々、これはもう相当詰めなければならない複雑な
法律問題がある、こういうことが考えられたわけでございます。
経済界の一部に
借地権の担保化という要請が強く存在するということは私
ども承知しているわけでございますが、その辺の
法律整備を
民法と絡めてやっていかなければならないというふうなこともございまして、今回は見送らせていただいたという結果になっているわけでございます。