○永井
政府委員 現行の
借地法、
借家法の
正当事由は
昭和十六年に入ったものでございますが、現在の
法律の書き方は、賃貸人がみずから
土地を使用する場合、またはその他
正当事由という二つの柱を挙げてあるわけでございます。当時の解釈といたしましては、みずから使用する場合ということはこれは独立の絶対的
事由でございまして、借りている側がどういう
事由であっても貸している側にその使用の
必要性があれば、これはすべて絶対的な
事由として明け渡しを認める、こういう解釈がとられていたわけでございます。
ところが、戦後になりまして、やはり
住宅事情その他が逼迫してまいりますと、公平の理念から最高
裁判所を
中心といたしまして、基本的にはやはり「当事者双方の利害
関係その他諸般の事情を考慮し社会通念に照し妥当と認むべき理由」、こういう言い方をして、要するに、当事者双方の事情をそれぞれ勘案しなさいということが打ち立てられてきたわけでございます。
具体的には、最高裁の判例あるいは高裁等の判例でも、基本的には当事者双方の使用の
必要性ということを一番重視しているように見受けられます。例えばこれは東京高裁の
昭和五十六年一月二十九日の判例でございますが、貸している側は六人家族で狭いうちに住んでいて、将来、長男が独立をしたい、あるいは結婚したいと言っている、ところが、借りている側はむしろ他に
土地・
建物を持っていて、しかもそこは第三者に利用させているという場合には、やはり使用の
必要性は
借地権設定者の方が強いのではないか、こういうような判断をしております。それから逆に、東京高裁の同じく五十六年十一月二十五日の判例では、借りている側の方が商品を保管する場所としてこれは必要不可欠だということを重視いたしまして、やはり借りている側に使用の
必要性があるというような判断をしております。
実は、今回の
改正法案も、第六条で「
土地の使用を必要とする事情」という、これは借りている側、貸している側双方の「
土地の使用を必要とする事情」ということを
中心にしておりまして、そのほかに付随的な補完的な事情として、従前の経過でございますとか
土地の利用
状況、あるいは財産上の給付を申し出た場合は考慮しでもよろしい、こういう補完的な
規定の仕方をしているわけでございます。
これは判例もそうでございまして、基本的には、先ほども申し上げましたとおり、当事者の使用の
必要性ということをやはり
中心に置きまして、しかしそれがまあどっちも同じような
必要性があるのじゃないかというような場合に、それはほかの事情をどういうふうに考慮するかということで、いろいろな
借地に関する従前の経過ということを考えたり、
土地の利用
状況を考えているわけでございます。
例えば東京高裁の
昭和三十四年の十月十九日の判例でございますが、実はこれは貸している側が、はっきり言いまして非常に意地悪をいたしまして、長
期間借地権者に使用を妨害していたというような事情がありました。それで、これは貸している側が悪い、いわば悪いんだ、これは
正当事由はないよという判断をしております。それから逆に、東京地裁の五十六年十一月二十七日の判例では、これは借りている側が騒音を立てたり無断増改築をするというような背信行為を非常に重ねておる。
裁判所でたびたび調停をやりまして、必ず期限には出ていくという約束を何回もしているけれどもそれは守らない。こういう事情もそれぞれ、双方の使用の
必要性は割合どちらもあるんだけれども、これでは少しひどいんではないか、こういうことも少し勘案されたとみられるような判例もございます。
それから
土地の利用
状況でございますが、福岡高裁の
昭和五十四年十二月二十日の判例では、博多駅近くの繁華街において
借地権者が古い木造
建物を持っている、こういうことも
一つの理由になっているのがございます。ただし、これもあくまで当事者がどちらが使用の
必要性があるかというそこを
中心にして、補完的にそういう
状況も挙げているということでございます。
それから、
委員御承知のとおり財産上の給付といいますのは、例えば一般的には代替家屋の提供、代替
土地の提供あるいは立ち退き料の提供、こういったような事情を指しているわけでございまして、例えば大阪高裁の
昭和五十八年九月三十日の判例では、これは
借地でございますが、立ち退き料四千五百万円の支払いと引きかえに明け渡しを認めた例がございます。これも、あくまで基本的にどちらが使用の
必要性があるかということを
中心に判断した上で、それを補完的に認めている例でございます。
今までの判例はいずれも
借地関係を
中心にして御
説明いたしましたが、
借家関係につきましてもほぼ同様でございます。やはり基本的には貸し主側、借り主側の使用の
必要性ということを
中心にして考えております。
例えば、大阪地裁の
昭和五十五年五月二十八日の判例では、老齢の貸し主が息子にその
建物で商売させて生計を維持する必要があるということなどを考慮して、貸し主側に
正当事由があるというように認めた例があります。それから、借り主側を強いと見たといいますか、借り主側を保護した例としましては、東京地裁の
昭和六十二年六月十六日の判例がございます。これは東京・神田の中華料理店の経営の
必要性を重視したという判例でございます。
その地やはり
借家関係でも当所の使用の
必要性を
中心にしておりますが、例えば
建物の利用
状況を勘案した判例として見られますのは、東京高裁の
昭和五十五年四月十四日という判例がございます。これは公認会計士等の資格を持っている借り主が
建物を事務所として使っていたわけですが、ほかに事務所を実は持っておりまして、この
建物を業務に利用する必要は余りないんじゃないか、そういう観点で、現実の利用
状況が必ずしも十分そこを使っていないんじゃないか。これは逆に言いますと、よく考えますと実は借り主の使用の
必要性ということかもしれないわけですね。そういうことでございますので、それが
建物の利用
状況そのものを独立に挙げているかどうかというのは逆で、むしろ、使用の
必要性がどちらが強いかということを言っている判例と見ることもできるわけでございます。
それからなお、
建物の現況について若干考慮したのではないかと思われる判例がある。例えば最高裁の判例では、
昭和三十五年四月二十六日の判例がございまして、これは家屋の朽廃時期がもう切迫しているということを一部考慮しております。
それから、財産上の給付につきましては、最高裁
昭和三十八年三月一日、あるいは最高裁の
昭和四十六年十一月二十五日の判例がございまして、いわゆる立ち退き料あるいは引っ越し料といったたぐいの金の支払いと引きかえに明け渡しを認めた例もございます。しかし、これも基本的にはどちらが使用する必要がより大きいかということを
中心にして、あとは補完的な要素として考えているということでございます。