○中西珠子君 私は、公明党・
国民会議を代表して、ただいま
議題となっております
内閣提出の
育児休業法案について
質問いたします。
父親でも母親でも
育児のために
休業できる両親休暇
制度を世界で初めてスウェーデンが導入したのは一九七四年のことであり、その後引き続いて他の北欧諸国、西欧、東欧諸国にも類似の
育児休業制度が広く普及いたします一方、それぞれの国では
保育施設も整備されているのを見てまいりまして、ヨーロッパの国々に負けてはいられないと、公明党・
国民会議は独自の
育児休業法案を一九八五年に国会に提出いたしました。その後、四
野党の共同の
育児休業法案をつくろうということになりまして、この法案作成にも参画させていただいたわけでございますが、この法案は、四
野党と連合参議院、参院クラブなどの共同提出の法案として、ただいま
継続審議になっているところでございます。
今回の
政府案、これは
育児休業請求権と取得権を
男女労働者双方に認めている点、また、
育児休業の
申し出や取得を理由とする解雇を禁止していること、また、一歳に満たない子を
養育する
労働者で
育児休業をしないものに対しては
勤務時間の
短縮などの
措置を導入している点では高く評価いたします。しかしながら、残念なことに
政府案では、
育児休業の
権利の行使を実質的に確保し実効性あらしめるために不可欠だと思われる
規定が整備されておりません。すなわち、
休業期間中の
生活保障がない、解雇以外の不利益取扱禁止条項がない、原職または原職相当職への復帰の保障がない、また
休業期間の勤続年数への算入に関する
規定などが欠如しております。
そしてこれらの問題は、その大半が
労使の自主的な話し合い、
労使協議にゆだねられている。
労働組合の組織率が低下している
日本の現状ではどういうことになるのかと心配です。
労働組合のないところでは
労働者の過半数を代表する者を選んで
労使協定を結ぶことになっていますが、民主的な手続で代表が選ばれるという保証もない中で、
育児休業の取得に不可欠な条件が
労使の力関係によって決められるという点に危惧の念を感じます。これらの問題は
法律として明文の
規定をするべきだと思いますが、
総理と
労働大臣の御
意見を伺います。
育児は両親の
責任ではあるが、
社会全体が共同
責任を持つべきであるというのが今や国際的には共通の認識となっています。例えば
日本も批准している
女子差別撤廃
条約は、子の
養育には
男女及び
社会全体が共同
責任を負うことが必要であると明記しています。また、まだ批准はしていませんが、一九八一年の採択において
日本政府も賛成した、
ILOの
男女労働者特に
家族的責任を有する
労働者の
機会均等及び均等
待遇に関する
条約と
勧告も、
育児は両親ばかりでなく
社会が共同
責任を持ち、
保育施設の整備や
育児休業の
制度化を図るべきであるとしております。
育児は
社会の共同
責任であるという
考え方から、
育児休業中の
所得保障を
社会保険や公的基金から行うのが国際的常識となっており、
育児休業制度を導入している
ヨーロッパ諸国のほとんどは
休業中の
生活保障を行っています。
しかるに、
政府案では
休業期間中の
生活保障が全然ありません。これが第一の、また最大の問題点であります。
育児休業を取得しても全くの無給では、
子供のための経費がかさむ上に、
社会保険を続けていくため保険料の
労働者負担分も支払わなければならない。
生活は苦しくなって、
経済的に逼迫するから
育児休業はとりたくてもとれない。また、たとえとったとしても非常に短
期間しかとれないという調査結果も出ております。せっかく法的に
育児休業請求権、取得権が保障されても、実質的にはその行使ができないという事態を招くことになるのです。したがいまして、
権利実現の
経済的保障としても
所得保障は不可欠であります。
私ども四
野党の法案では、
育児休業手当として従前の所得の六割を支給することにしており、その費用は
労使と国が三分の一ずつ
負担することにしています。この
所得保障のために、私どもは
育児休業法案とセットにして
育児休業手当特別会計法案も既に国会に提出しています。
育児は
社会の共同
責任という
観点から、
休業中の
所得保障の問題をぜひ
検討していただき、何らかの形の
生活保障を考えていただきたいのですが、
総理、大蔵大臣、
労働大臣の御
意見を伺います。
政府案の第二の問題点は、
育児休業請求資格を制限し、日々
雇用される者及び
期間を定めて
雇用される者は除外していることです。
現実の
職場においては、日々
雇用される者、また
期間を定めての
雇用という形式をとってはいても、実際には契約を何度も更新し長年にわたって
雇用されている人も多いのです。こういう
人々に対して、全然
育児休業の請求権、取得権を与えないことは不当であります。契約更新を重ねて長
期間勤務している人
たちには、
育児休業の請求権、取得権を保障するべきだと思います。また、
政府案のままでは、
育児休業法を脱法する、逃れるために、日々雇われる
雇用とか、
期間を定めて雇う有期
雇用の形式、こういう契約形式を行う
事業主がふえてくるというおそれがあると思いますが、
労働大臣、この点もあわせて御答弁願います。
第三の問題点は、
ヨーロッパ諸国の
育児休業法には原職または原職相当職への復帰の保障と
育児休業を理由とする不利益取扱禁止条項があるのに、
政府案にはこれがありません。
日本の
法律、例えば義務教育諸学校等の
女子教育職員及び医療施設、
社会福祉施設等の看護婦、保母等の
育児休業に関する
法律には、その第七条に不利益取扱禁止条項があります。また、
労働基準法第百三十四条は、年次有給休暇の取得に関する不利益取り扱いを禁止しています。それなのに、なぜこの
政府案には不利益取扱禁止条項が入れられないのですか。原職や原職相当の職への復帰の保障もなく、不利益取扱禁止条項もないと、
労働者は安心して
育児休業をとることができません。この点は御再考願います。
第四の問題点は、罰則の欠如であります。
政府案は、第三条に
育児休業請求権のある
労働者からの
休業申し出を拒むことができない旨
規定していますが、
事業主が拒否した場合どうなるか、
労働者と
事業主の
権利義務関係を担保するためには罰則が必要だと思いますが、いかがですか。
政府案の第七条には解雇の制限があり、「
事業主は、
労働者が
休業申出をし、又は
育児休業をしたことを理由として、解雇することができない。」との
規定がありますが、罰則がないので実効性を担保することができません。民事上の救済で解雇を無効にすることはできるでしょうが、裁判にかけると長い年月と費用が必要です。これも罰則を設ける必要があると思いますが、どうですか。
第三と第四の問題点について、
労働大臣の答弁を求めます。
第五に、
政府案には
育児休業期間の勤続年数への算入についての
規定がありませんが、昇給、退職金などの算定については少なくとも二分の一は通算するべきであり、年次有給休暇の出勤率の算定に当たっては、
育児休業期間は出勤とみなすべきだとの考えで、私どもの法案はそのように
規定しておりますが、
労働大臣の御
意見をお聞かせください。
第六に、三十人以下の
事業所に対する三年間の
猶予措置の問題ですが、三十人以下の
事業所で働いている
男女労働者は全
労働者の半数近くいるわけです。この人
たちは三年間
育児休業の請求権も取得権も行使できない。これは差別であると思います。三十人以下の
事業所に対しては補助金を出すとか、何らかの
政策的な援護
措置をとって、
猶予期間を設けることはやめるべきです。猶予がどうしても必要ならば、
期間をもっともっと
短縮するべきだと思いますが、
労働大臣、いかがでしょうか。
最後に、残念ながら
政府案はひっきょう
企業や
事業主の立場に偏り過ぎていると言えます。弱い立場にある
労働者の
意見や要望をもっと取り上げていくのが
労働省の役目であると思いますが、
総理、
労働大臣のお考えを伺います。
我が国では、今
人口の
高齢化が進む一方で……