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日下部禧代子君 昨年から私は、
日本が豊かだと言われていながらなぜ実生活において、
日常生活において豊かさが実感できないのかという
視点から幾つかの論議に加わらせていただいてまいりました。きょうもそういった
視点から二、三お話をさせていただきたいというふうに思います。
私は、常任
委員会が
社会労働委員会でございますので、
高齢化社会の問題におきましてはそこでいわゆる介護を必要とする方々の
施策ということを取り上げてはおりますけれども、今申し上げた豊かさの実感がなぜ
日常生活の中で感じられないのかという、
社会労働委員会とは違った
視点からこの
高齢化社会の問題というのを見詰めてみたいなというふうにきょう思うわけでございます。
皆様御
承知のとおり、
高齢化社会というのは
人口構造の変化だけではなくて、
社会構造、
産業構造、
家族構造、そういったさまざまな変化の中から
人口の高齢化というものが起き、そしてそれが
高齢化社会ということ、そういう現象が出てきたわけなんでございますけれども、
高齢化社会という言葉から、
日本では本当に暗いイメージしか持たれていない。
高齢化社会という言葉は非常にじめじめした、もう未来がないようなイメージの中に閉じ込められているような気がするわけなんです。これは考えてみますとなぜそうなったのか、その前に
高齢化社会、
人口の高齢化というものに
対応するにはどういうことが前提条件なのかということをやはり考えてみる必要があると思います。
それは大きく分けると個人のレベル、それから
社会システム、これは行政なんかのシステムも含めました
社会システム、それから三番目には大きな
社会の価値観という問題、この三つのレベルにおいて
人口構造の変化あるいは
社会構造の変化、
家族構造の変化にどのように
対応できるかどうかというところから、暗いイメージになるかあるいはまた、もう少しゆとりのある本当の
意味での豊かなイメージになるのかということになるんだろうというふうに思うわけです。ところが、今までいずれの三つのレベルにおいても、やはり
人口の高齢化のスピードに三つのレベルにおける
対応というものが、スピードが合ってなかったという点からさまざまな暗いイメージを引き出すような
課題がいっぱい生まれてきていたんじゃないか。ですから、その中で私
たちは、この個人の生き方あるいは
生きがいというものも、
高齢化社会に合わせたものに変えていかなきゃならないだろうし、
社会システムもそうしなきゃならないだろうし、
社会の価値観もそうしなきゃならないんじゃないか。
いわゆる
人口の高齢化、
高齢化社会ということを考えてみますと、やはり人生が長くなったということです。そうしますと、人生のゴールデンアワーというものが今までの人生五十年とは随分ずれてくる、もっと後の方になってくる。つまり、子育て以後あるいは定年以後の人生のところに人生のゴールデンアワーがやってくる、それだったらこれは楽しいことになるわけじゃないか。だけど、そうなるためには
社会システムもそれに合わせて考え直さなきゃいけないだろうし、
社会の価値観というものもそれに変えていかなきゃならないだろう。
例えばまた、そういうことから考えますと、男は仕事だ、女の役割は子育てだというこの男女の役割分担というのも、
高齢化社会においてはもう適応しないものであるということがわかってくるだろうし、それからまた
人間の価値というものを学歴だとか肩書き、そういったものではかるという価値観、これももう終わりにしなきゃならないだろう。そうなってまいりますと、
高齢化社会における特色というのは
一つはゆとり、これは生き方においても人生が長くなった分だけのゆとりがさまざまなところに出てこなきゃならない。それは言葉を変えると個性、一人一人の個性の尊重であり、また言葉を変えれば多様性、選択ということが可能になるということなんじゃないか。
こういうことから考えますと、例えば今あるソーシャル
サービスというものを、福祉
サービスというものを見てみますと、果たしてそういうものに合っているのかどうかということになります。例えば、
老人ホーム、そこで果たして中に入っていらっしゃる方が
自分の個性、あるいは
自分の選択性というものを十分にエンジョイできるのかどうか。例えば、個室という問題があります。
日本では個室化というのは二人部屋にすることだというふうに聞きまして、
日本語の個室化の「化」というのは化けるという字を書きますけれども、
日本語もこういうのを化けるのかなと、私、
日本に初めて帰ったときにびっくりいたしました。個室というときにはこれは一人部屋だというふうに私思っておりましたら、個室化という化けるという字がつきますと、これは二人部屋をたくさんつくることだというふうに伺いました。
人間というのは旅行なんかだったら一週間ぐらいでしたらお二人とか三人でいいかもわかりません。でも、やはり一人の部屋が欲しいだろうと思います。それがついの住みかになって、
老人ホームで気が合うとは限らない人とお部屋をシェアしなければならないというのは大変な苦痛だろうというふうに思います。
それからまた、私
日本へ帰ってまいりまして驚きましたのは、有料
老人ホームを除きまして
老人
ホームに美容室がないことです。みんなお年寄り、男性か女性かわからないようなヘアスタイルになっていらっしゃる。
老人ホームを訪問いたしましたときにびっくりいたしました。私の見なれていた当たり前の
老人ホームの風景というと、昼間はもちろん寝ていらっしゃらない。ところが、
日本の特養というのはみんな寝巻きで寝ていらして、私は一番最初特養を訪問いたしましたときに、何かその日、中毒かなんかがあってお年寄りがみんなきょう寝ちゃっているのかというふうに思いました。
つまり、
老人ホームというのは生活の場であるということなんですね。だったらば、お体が不自由な方でも昼間は昼間のお洋服に着がえられて、歩けない方だったら車いすに乗られてという、ベッドルームから出ているというのが私見なれた風景だったものですから、そういうことを考えますと、ソーシャル
サービスという、今あるそのソーシャル
サービスのあり方も、これは
サービスを提供する側の論理で今まで組み立てられた、そういった仕組みというものを
利用する側の論理でもう一遍考え直してみる。その起点というのは、やはり今申し上げましたような個性や多様性、選択性ということだというふうに思いますけれども、言葉をまたかえてみますと、いわゆるアメニティーという言葉でも言えるんじゃないかなというふうに思うわけです。
これは、快適という言葉で
日本語で直されておりますと、
日本はどうも快適というのはぜいたくということとイコールにとられるようでございまして、特に税金で賄われている
老人ホームにおきまして、有料
老人ホームを除きまして、そういうところで美容室があったり、
自分で
自分の部屋に
自分の好みの持ち物を持ち込むなんというのはぜいたくだと思われるかもわからない。だから、そういった発想というものがある限り、本当の
意味での豊かさを実感できるような生活ということは、なかなか私
たち日本人は共有できないんじゃないかなというふうに思うわけです。
ですから、都市計画なんぞを見ましても、やはり
高齢化社会に本当に適応した都市計画、そのアメニティーということ、個性ということ、多様性、選択性、そういったものが重んじられるような都市計画というものが果たしてなされているのか。そのことはとりもなおさず障害を持った方、お年を召した方の本当の自己実現、自己充実が可能になるためのさまざまな方策というものが考えられていくべきだ、それがいわゆるノーマライゼーションであるというふうに思うわけなんですけれども、そういう
視点から見た場合には、やはり非常にまだ貧しいということが言えるんじゃないかというふうに思うわけです。
ですから、
社会労働委員会では扱わないような
視点から、この
国民生活の
調査会、このように大変に自由に
発言させていただける
委員会というのはございませんで、本当にこの点もこの
国民生活の
調査会ってすばらしいなというふうに思っております。この
調査会におきまして
高齢化社会の問題、例えば私の申し上げました
高齢化社会の切り口というものをアメニティーというそういった点で切ってみる。そうすると、いわゆる自然
環境の問題、生活
環境の問題あるいは生活空間の問題、そして住
環境、これはもう前回から私申し上げておりましたが、住
環境の問題というものもまた違った現実というものが、風景というものが見えてくるのじゃないかなというふうに思うんです。
住宅ということでしつこくまた申し上げてみますと、お年寄りのいる世帯の持ち家率というのが八六%ぐらいなんですけれども、一見その八六という数字を見ますと、
住宅問題は大したことじゃないと思われるかもわからない。しかしながら、民営の借家に居住している人、これは高齢者が一番多いわけですね。そして、その中で最低居住水準未満というのが高齢者単身世帯で民営借家の場合約七五%、こういう
状況も現実にきちんとあるわけであります。だから、そういうことを考えますと、私
たちがこの
国民生活の
調査会の中で
高齢化社会の問題を、やはりもう少し社労とは違った
視点で
調査し直すという
必要性があるんじゃないかなというふうに思います。
それともう
一つ、これは別項目になりますけれども、今シルバー
産業というものが非常に大きくクローズアップされております。一九八八年の東京都の
調査を見ますと、過去一年間で一〇%以上の売り上げの上昇率を持っている
企業のパーセンテージを見ますと、シルバー
産業の中で、施設
関係が四一・二%、
在宅ケア
サービス関係が五一・七%というふうに非常に伸び率が高いんですね。そういったシルバー
産業ということについても、この
国民生活の
調査会の中で何らかの形で
調査をさせていただければというふうに思います。
どうもありがとうございました。