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1991-03-08 第120回国会 衆議院 法務委員会 第5号 公式Web版

  1. 会議録情報

    平成三年三月八日(金曜日)     午前十時開議  出席委員    委員長 伊藤 公介君    理事 塩崎  潤君 理事 田辺 広雄君    理事 星野 行男君 理事 山口 俊一君    理事 小澤 克介君 理事 小森 龍邦君    理事 冬柴 鐵三君       赤城 徳彦君    奥野 誠亮君       中島源太郎君    岡崎 宏美君       清水  勇君    鈴木喜久子君       山花 貞夫君    北側 一雄君       倉田 栄喜君    中村  巖君       木島日出夫君    中野 寛成君       徳田 虎雄君  出席国務大臣         法 務 大 臣 左藤  恵君  出席政府委員         法務政務次官  吉川 芳男君         法務大臣官房長 堀田  力君         法務大臣官房司         法法制調査部長 濱崎 恭生君         法務省刑事局長 井嶋 一友君         法務省訟務局長 加藤 和夫君         法務省人権擁護         局長      篠田 省二君  委員外出席者         警察庁刑事局刑         事企画課長   泉  幸伸君         警察庁刑事局捜         査第二課長   石附  弘君         警察庁刑事局鑑         識課長     井口 憲一君         警察庁警備局公         安第二課長   中村 正則君         総務庁長官官房         地域改善対策室         長       萩原  昇君         法務大臣官房審         議官      東條伸一郎君         文部省初等中等         教育局小学校課         長       近藤 信司君         自治省行政局行         政課長     岩崎 忠夫君         最高裁判所事務         総局総務局長  金谷 利廣君         最高裁判所事務         総局民事局長         兼最高裁判所事         務総局行政局長 今井  功君         最高裁判所事務         総局刑事局長  島田 仁郎君         法務委員会調査         室長      小柳 泰治君     ───────────── 委員の異動 二月二十八日  辞任         補欠選任   赤城 徳彦君     中西 啓介君   北側 一雄君     平田 米男君 同日  辞任         補欠選任   中西 啓介君     赤城 徳彦君   平田 米男君     北側 一雄君 三月七日  辞任         補欠選任   赤城 徳彦君     浜田 幸一君   岡崎 宏美君     佐藤 観樹君   清水  勇君     武藤 山治君 同日  辞任         補欠選任   浜田 幸一君     赤城 徳彦君   佐藤 観樹君     岡崎 宏美君   武藤 山治君     清水  勇君 同月八日  辞任         補欠選任   北側 一雄君     倉田 栄喜君   大内 啓伍君     中野 寛成君 同日  辞任         補欠選任   倉田 栄喜君     北側 一雄君   中野 寛成君     大内 啓伍君 同日  理事石川要三君同日理事辞任につき、その補欠  として太田誠一君が理事に当選した。     ───────────── 三月四日  司法試験法の一部を改正する法律案内閣提出第六四号) 二月二十六日  夫婦同氏別氏の選択を可能にする民法等改正に関する請願金子満広紹介)(第一四一二号)  同(辻第一君紹介)(第一四一三号)  同(山原健二郎紹介)(第一四一四号)  同(伊藤英成紹介)(第一四一九号)  同(金子満広紹介)(第一四二〇号)  同外四件(鈴木喜久子紹介)(第一四二一号)  同(辻第一君紹介)(第一四二二号)  同(永末英一紹介)(第一四二三号)  同(山原健二郎紹介)(第一四二四号)  同(伊藤英成紹介)(第一四三六号)  同(金子満広紹介)(第一四三七号)  同(辻第一君紹介)(第一四三八号)  同外二件(常松裕志紹介)(第一四三九号)  同(永末英一紹介)(第一四四〇号)  同(柳田稔紹介)(第一四四一号)  同(山原健二郎紹介)(第一四四二号)  同(伊藤英成紹介)(第一四七〇号)  同(金子満広紹介)(第一四七一号)  同(辻第一君紹介)(第一四七二号)  同(永末英一紹介)(第一四七三号)  同(山口那津男紹介)(第一四七四号)  同(山原健二郎紹介)(第一四七五号)  同(渡部行雄紹介)(第一四七六号)  同(伊藤英成紹介)(第一五〇二号)  同(金子満広紹介)(第一五〇三号)  同(小平忠正紹介)(第一五〇四号)  同(沢田広紹介)(第一五〇五号)  同(辻第一君紹介)(第一五〇六号)  同(永末英一紹介)(第一五〇七号)  同(山原健二郎紹介)(第一五〇八号)  同(川端達夫紹介)(第一五一二号)  同(小平忠正紹介)(第一五一三号)  同(高木義明紹介)(第一五一四号)  同(辻第一君紹介)(第一五一五号)  同(小平忠正紹介)(第一五三二号)  同(渋沢利久紹介)(第一五三三号)  同(辻第一君紹介)(第一五三四号)  夫婦同氏・別氏の選択を可能にする民法等改正に関する請願正森成二君紹介)(第一四二五号)  同(正森成二君紹介)(第一四七七号)  同(永末英一紹介)(第一五一六号)  同(正森成二君紹介)(第一五一七号)  同(土肥隆一紹介)(第一五三五号)  同(永末英一紹介)(第一五三六号) 三月七日  夫婦同氏別氏の選択を可能にする民法等改正に関する請願川端達夫紹介)(第一六三八号)  同(菅直人紹介)(第一六三九号)  同(小平忠正紹介)(第一六四〇号)  同(渋谷修紹介)(第一六四一号)  同(菅直人紹介)(第一六五三号)  同(小平忠正紹介)(第一六五四号)  同(渋谷修紹介)(第一六五五号)  同(永末英一紹介)(第一六五六号)  同(細川律夫紹介)(第一六五七号)  同(渋谷修紹介)(第一六九六号)  同(宮地正介紹介)(第一六九七号)  同(山田英介紹介)(第一六九八号)  同(渡部行雄紹介)(第一六九九号)  同(渋谷修紹介)(第一七二七号)  同(五十嵐広三紹介)(第一七四七号)  同(渋谷修紹介)(第一七四八号)  同(菅原喜重郎紹介)(第一七四九号)  同(渡部行雄紹介)(第一七五〇号)  同(五十嵐広三紹介)(第一七五九号)  同(池端清一紹介)(第一七六〇号)  同(斉藤一雄紹介)(第一七六一号)  同(菅原喜重郎紹介)(第一七六二号)  同(時崎雄司紹介)(第一七六三号)  同(中沢健次紹介)(第一七六四号)  夫婦同氏・別氏の選択を可能にする民法等改正に関する請願岩田順介紹介)(第一六四二号)  同(永末英一紹介)(第一六四三号)  同(鈴木喜久子紹介)(第一六五八号)  同(高沢寅男紹介)(第一六五九号)  同(高沢寅男紹介)(第一六六九号)  同(長谷百合子紹介)(第一六七〇号)  同(吉井英勝紹介)(第一六七一号)  同(高沢寅男紹介)(第一七〇〇号)  同(中村巖紹介)(第一七〇一号)  同(高沢寅男紹介)(第一七二八号)  同(正森成二君紹介)(第一七二九号)  同(高沢寅男紹介)(第一七三五号)  同(高沢寅男紹介)(第一七五一号)  同(岡崎トミ子紹介)(第一七六五号)  同(渋谷修紹介)(第一七六六号)  同(鈴木喜久子紹介)(第一七六七号)  同(高沢寅男紹介)(第一七六八号)  同(土肥隆一紹介)(第一七六九号)  同(中村巖紹介)(第一七七〇号) は本委員会に付託された。     ───────────── 本日の会議に付した案件  理事辞任及び補欠選任  罰金額等引上げのための刑法等の一部を改正する法律案内閣提出第一六号)      ────◇─────
  2. 伊藤公介

    伊藤委員長 これより会議を開きます。  この際、理事辞任の件についてお諮りいたします。  理事石川要三君から、理事辞任したいとの申し出があります。これを許可するに御異議ありませんか。     〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  3. 伊藤公介

    伊藤委員長 御異議なしと認めます。よって、そのように決しました。  引き続き、理事補欠選任の件についてお諮りいたします。  その補欠選任につきましては、先例により、委員長において指名するに御異議ありませんか。     〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  4. 伊藤公介

    伊藤委員長 御異議なしと認めます。よって、理事太田誠一君を指名いたします。      ────◇─────
  5. 伊藤公介

    伊藤委員長 お諮りいたします。  本日、最高裁判所金谷総務局長今井民事局長島田刑事局長から出席説明の要求がありますので、これを承認するに御異議ありませんか。     〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  6. 伊藤公介

    伊藤委員長 御異議なしと認めます。よって、そのように決しました。      ────◇─────
  7. 伊藤公介

    伊藤委員長 内閣提出罰金額等引上げのための刑法等の一部を改正する法律案を議題といたします。  質疑の申し出がありますので、順次これを許します。小澤克介君。
  8. 小澤克介

    小澤(克)委員 まず大臣お尋ねいたします。  今次刑法等の一部改正基本方針、あるいは理念といってもよろしいのでしょうか、についてまずお願いいたします。
  9. 左藤恵

    左藤国務大臣 提案理由説明で既に御説明申し上げたところでございますけれども、今回の改正は、昭和四十七年以降の経済事情変動などにかんがみまして、刑法の罪を中心に罰金の額を見直そうというものでございまして、ただ、刑法の定めます一部の罪につきましては、その多額が低く設定されておりますために、単に経済実勢に合わせて罰金額を引き上げただけでは、その刑罰としての機能が十分果たせない、あるいは早晩頭打ちしてしまう、こういうことが予想されますので、多額下限、これを十万円に底上げするなどの手当てをいたしております。  なお、行政罰則につきましては、今直ちに極めて多数の、二千あると聞いておりますが、行政罰則を一挙に整理して、これを含めた改正をしようということは、実際上の問題として極めて困難でありますので、とりあえず多額下限を、現在の八千円から経済実勢に合わせまして一律に二万円に引き上げようという、最小限度手当てをしよう、こういうことが今回の改正基本方針でございます。
  10. 小澤克介

    小澤(克)委員 それでは、本法案について逐条的にお尋ねしていこうかと思うのです。  最高裁の方からわざわざおいでをいただいておることでもございますので、本法案の第五条からお尋ねをしたいと思います。  刑訴法の一部改正部分でございます。中でも刊訴法六十条の三項、勾留要件でございます。それからまた、百九十九条一項ただし書き逮捕要件、それから刑訴法二百十七条、現行犯逮捕要件でございますが、これらについて、原則として逮捕等強制捜査が行われないはずのものにつきまして、刑法以下三法、正確に言いますと、刑法暴力行為等処罰に関する法律、それから経済関係罰則の整備に関する法律、これについては多額三十万円以下の罰金法定刑とするとなっております。ところが、それ以外の刑罰法規、まあ行政罰則でございますが、これについては二万円というふうに大変大きな格差がついておるわけでございます。さらに刑訴法二百八十四条に関しては、これは第一審の公判期日出頭義務免除要件でございますが、それから同じく二百八十五条の二項、これは冒頭手続あるいは判決宣告言い渡し日出頭義務の問題、それから三百九十条のただし書き、これは控訴審への出頭命令の問題でございますが、これらに関しては、刑法等三法については五十万円以下の罰金、その他の行政罰則に関しては五万円以下の罰金。ここでもまた十倍の開きという大変大きな格差がついているわけでございます。これは一体どうしてこんなことになったのか、どういう合理的な理由があるのか、まずお尋ねをいたします。
  11. 井嶋一友

    井嶋政府委員 ただいま委員から御指摘のありました点につきまして、もう一度整理をいたしますが、まず勾留逮捕が制限される罪の基準となる罰金の額でございますが、現在は刑法外二法、刑法暴力行為経済罰則でございますが、以下刑法等と申しますけれども刑法等につきましては現在十万円、それ以外の行政罰則につきましては現在八千円というのが限界になっておりまして、これ以下の法定刑を定めております罪につきましては、逮捕勾留をする場合には、できないということではなくて、住所不定といったようなさらに特別の要件が加わらないとできない、こういうことになっておるわけでございます。今回はその部分を、刑法等につきましては十万円を三十万円に、それから行政罰則につきましては八千円を二万円にするという改正でございます。  それから公判期日における出頭義務及びその免除基準となる額でございますが、同じようなことで、刑法等につきましては二十万円、その他の行政罰則につきましては二万円というのが現在の規定でございますが、これを二・五倍の五十万円に改めるのと、それから行政罰則については五万円に改める、こういう改正をしようとしておるわけでございます。  御指摘のように、これらの部分につきましては、いわば二つ類型に分けて規定しておるということになるわけでございます。こういったことが起こった経緯はどういうことか、理由はどういうことかというお話でございますから、従来の歴史的経緯を述べる必要があると思いますので、若干お時間をいただきたいと思います。  刑法明治にできたわけでございますが、終戦後にもちろん貨幣価値の大変な変動がございました。そういったことで昭和二十三年に罰金等臨時措置法という法律制定したわけでございますが、その際の考え方が結局今日まで来ておる。その際に、つまりダブルスタンダード二つ基準になったということでございまして、その基準を踏襲するのが、結局、現在の実務の体制に大きな変動を来さないということから、今回も踏襲せざるを得ないということになるわけでございますので、そのもとである制定のときの経緯を述べるわけでございます。  この二十三年に制定されましたときに、刑法等の罪につきましては、従来の運用を変えない、それまでの運用を変えないということから、刑事訴訟法で五百円とされておりました額を当時五十倍にしておるわけでございまして、二万五千円とされたわけでございます。  この刑法等の罪について二万五千円と改めたわけでございますが、この額をそのまま一本立てとしまして他の行政罰則部分に適用をいたしますと、当時施行されておりました行政罰則のほとんどがこれに入ってしまうということで、それまでの運用実態と合わないということから、ここはやはりどうしても二重の基準にする必要があるということになりまして、当時行政罰則罰金多額の最低を二千円としておりましたので、それに合わせまして、この制限額行政罰則については二千円、こういうふうにしたわけでございます。  そういったことで、昭和二十三年の罰臨法制定の際にこういった二本立て方式をとりましたために、その後の四十七年の罰臨改正の際に、やはり一本化すべしというような議論があったわけでございますけれども、そうしますと非常に実務実勢に合わなくなるということで、この際には現行の形、つまり刑法等につきましては、当時二万五千円の四倍ということで十万円、それから、当時行政罰則については二千円というものの四倍ということで八千円ということになって、現在に至っておるということであるわけでございます。  なお、委員長のお許しを得てお願いをしておきますが、この法律案につきましては、私ども刑事局参事官室がメーンになってつくったものでございますが、そのスタッフの長であります東條審議官が本日参っております。本日の法案についての御説明につきましては、なお詳細に、あるいは丁寧に御説明する必要もあろうかと思いますので、私と答弁を分担いたしますことをお許しいただきたいと思います。
  12. 小澤克介

    小澤(克)委員 今、経緯については御説明があったのですけれども、私が質問したのは、このようなダブルスタンダードにどのような合理性があるのかということをお尋ねしたわけでございます。
  13. 井嶋一友

    井嶋政府委員 合理性といいますか、先ほども御説明申し上げましたように、その制定当時あるいは改正当時の実務実態法執行の実際の実態、それを大きく変動しないということを前提として結局考えたわけでございますが、その刑法等罰金額違法性を測る尺度としての罰金額と、それから行政罰則の系統の罰金額、つまり違法性尺度としての罰金額、これがもともと制定当時から、戦前からいわば二重の基準になっておるという実体法上のアンバランスもあったわけでございますが、そういったことを踏まえて実務が形成されてきた、その中で経済変動に伴って罰臨制定し、それに伴って若干の刑事訴訟法的な手続改正をする際に、どうしてもそれを前提とする限り二つ基準を持ち込まざるを得なかったということでございます。
  14. 小澤克介

    小澤(克)委員 経緯から、それまでに積み重ねられた運用を余り大きく変えない必要があったということしか、結局今の御説明の中で理由らしい理由というのは見当たらないわけでございます。しかし、刑事訴訟法、これはまさに刑事司法運用することと、それから被疑者被告人等人権の保障という観点から定められ、運用されている法律でございますので、これについて二重の基準というのは、どう考えても不合理そのものではなかろうかと思うわけです。  行政罰については、これはそもそもが行政目的の確保が目的でございまして、刑法などのような自然犯を罰するというものとは本質的にその目的が違うわけでございますから、これについて罰金額が比較的少額であることは、いわば当然でございます。そうなれば、強制捜査等の制約についても、それをそのまま当てはめるのがこれまた当然ではないかと思うわけです。結局、運用を大きく変えないためのやむを得ない措置だという、極めて消極的な理由しかないのであるとすれば、昭和二十三年にそもそも始まったということであれば、これは当然そのようなダブルスタンダード解消に向けて、相当努力がなされていなければならないはずだと思うわけでございます。これについていかがなんでしょうか。
  15. 井嶋一友

    井嶋政府委員 委員指摘のとおり、刑事訴訟法におきましては、逮捕勾留等につきまして一律に五百円というふうに定めておるわけでございまして、いわば刑訴は一本立ての基準であるわけでございまして、まさに御指摘のとおりでございます。ですから、本来一本立てであるべきだという御議論は、私ども十分理解ができるものでございますし、また望ましいと考えるものでもございます。  しかし、先ほど来申しておりますとおり、刑法等のいわゆる罰則行政罰則との間に、どうしても実体法上に二つ類型が持ち込まれたという実態、それから二十三年の改正以来今日まで四十数年こういった形の運用が定着しているという実態、それからもし今回、御指摘のように例えば一本立てにして、すべて三十万円というふうに刑法等と合わせて改めるといたしますればどうなるかと申しますと、現在の行政罰則の約九五%の罪がまさにこれに係るということになりまして、従来の法執行実態に大幅な変動をもたらす、こういうことになるわけでございます。そういうことで、先ほど来御説明いたしましたように、今回もダブルスタンダード方式を採用させていただいたわけでございますが、しかし、これが望ましくないことは冒頭申しましたとおりでございます。  そこで、結局何がいけないのかということになりますと、それは御指摘のとおり、もともと実体法の中で二つの系列の価値観と申しますか、尺度が持ち込まれておるということでございますので、それを本来一本立てにするように努力をすべきだということだろうと思います。ところが、先ほど大臣の御説明にもございましたとおり、行政罰則につきましては、総務庁のコンピューターではじきます限り、今約二千五百余の罰則数があるわけでございまして、しかもそれが各省の所管に係る法律規定であるわけでもございます。  さらに、それは中には明治十八年に制定された法律から最近に制定された法律まで、たくさんあります。しかも罰金最高額も、八千円に満たないようなものもあれば、あるいは一番最高では一千万円という罰金を定めておる行政罰則もあるわけでございまして、こういった内容の、非常に異種なものがいろいろまじり合った二千数百の行政罰則をこの際一本化するということは、極めて困難だ、むしろ至難のわざであるということになろうかと思うわけでございます。  そこで今回は従来の手法をとらせていただいたということになるわけでございますが、これを解消を図るためには、私ども各省お願いをいたしまして、そういった趣旨罰金尺度の統一に向けて地道な努力をしていくということが、またそれが唯一可能な方法なのではないかと考えておるわけでございます。具体的に申し上げますと、各省庁の行政罰則につきまして改正が行われるといった都度、刑事罰則につきましては私どもが協議を受けますので、その際に今申しましたような方針に基づいて罰金額の是正をしていくということをやるわけでございます。  従来、こういった努力によって随分その均一化を図ってまいったわけでございますが、中には、改正の機会がないということでそのままになっておるものもございます。また、その省庁が持っておる法律立法趣旨に照らして、そこまで罰金を上げることはできないというような場合もございます。そういったことで、なかなか一遍にはそういった一本化というものは難しいわけでございますが、そういった努力をしていくということが私どもに課せられた問題だというふうに思っておるわけでございます。
  16. 小澤克介

    小澤(克)委員 お尋ねしたのは、これまでどのような努力をなされてこられたかということをお尋ねしたわけでございますけれども、何しろ昭和二十三年からの話でございます。昭和二十三年は戦後の混乱がまだ続いていたときで、だからこそ一挙に罰金額を五十倍にしたというようなことがあったわけでございますけれども、そのころは特別法が極めて雑多で、すぐに手をつけることができなかった。これは、戦後のあの混乱期であることを考えれば、それなりに理解できるわけでございます。したがって、これにはさわらずに二本立てとした、ここまではまあまあやむを得ないかなと思うわけでございますけれども、その後、昭和四十七年の罰臨改正時にも結局それが踏襲された。しかも、いろいろ漏れ聞くところでは、この昭和四十七年の際には、法制審でも、これは一元化すべきであるという御意見がいろいろな方からかなり出たというふうに伺っております。しかし、行政法規見直しの間の臨時措置として、あるいはほんの応急措置としてやむを得ない、そういうことで、かろうじて法制審の承認を得たのだというようなことも聞いております。またその際には、昭和二十三年当時に比べればかなり見直しが行われている、既に相当整理されているはずであるという御意見もあったやに聞いているわけでございます。  それにもかかわらず昭和四十七年に、本当にそれこそほんの応急措置だ、臨時措置だということでこの二本立てをそのまま踏襲したとすれば、それからまた現在まで相当年数を経ているわけでございますから、その間にはさらに行政罰についての見直し等は行われたはずでございます。また、この長期間に罰金額等の改正が行われなかったということは、そのような必要がなかった、いわば余り適用されることのないような行政罰であったり、あるいは適用されてもその金額がそれほど不合理でないということが定着してきたということであろうかと思うわけでございます。  それにもかかわらず今回またこれを踏襲する、昭和四十七年当時でもほんの応急措置だということで法制審をパスしたものを、また今回踏襲するということは、どう考えても、これは今の御説明がありましたけれども、やはり怠慢だと言われても仕方がないのではないかと思うわけでございます。  どうなんですか。いいじゃないですか。もうこの際、刑訴法の問題ですから一元化してしまって、それでやってみて、いろいろ問題があるならばそこから手直しをしていくという、この順序を逆にしないと永遠に解決しないのではないかと思いますが、いかがでしょうか。
  17. 井嶋一友

    井嶋政府委員 委員の御説はよく理解はできるわけでございますけれども、私先ほど来御説明しますような形で対応せざるを得なかったという実態で、現在の罰臨法のこの部分の条文には「当分の間、」というものがついておるというのは、そういった暫定的な措置であって、我々としてはそういった努力をしていくのだということを表明したものであるとされておるわけでございます。  実は、今回の改正におきましては刑事訴訟法にその規定を持ってくるわけでございますが、そこへ「当分の間、」いうものを入れました。これも今申しましたような暫定的なものであるということを表明する方式でございまして、先ほど来申しましたような努力をし、さらにもっと大きな意味で罰金刑のあり方といったものも含めた検討の中で考えていくという、一つの重要課題がございますので、そことの絡みも考えながらいこう、あくまで当分の間、暫定的なものだということでお願いをしておるわけでございます。  なお、法制審議会の中での議論等につきましては、東條審議官から補充させていただきます。
  18. 東條伸一郎

    ○東條説明員 昭和四十七年の罰金等臨時措置法改正の際の法制審議論につきましては、もう既に先生が申されたとおりでございまして、いわゆる一本化が望ましい、できるだけ早くそういう努力をすべきであるという指摘がございました。  今回の法制審議会の刑事法部会におきましても、この点についてやはり一本化すべきではないかという御指摘委員から出されました。それに対して主として実務家の委員の方から、その一本化という理念は望ましいけれども、現在の行政罰則の非常なばらつきを前提とすると、直ちにそれをするのはやはり非常に混乱を招くのではないかという御指摘がございました。ちなみに、現在どのような罰金を定める刑について逮捕等が実務上よく行われているかということについて、私ども、この一本化の問題に関連して、若干の実態調査をいたしております。  細かい数字はともかくといたしまして、やや目立ちますところを申し上げますと、一つのグループは条例の問題がございます。条例で、御承知のように公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例、いわゆるぐ条例というものが類型がございますが、こういうものは、現在、条例の最高罰金額が十万円ということもございます関係でしょうか、罰金が一万円というようなものが多いわけでございます。例えば公衆の面前で卑わいな行為をするとか、ダフ屋だとか不当な客引き行為をするとかいう類型のもの、これについて、かなり罪証隠滅等のおそれがあるというようなことでやられる。  それからもう一つのグループとしては、ほかにもいろいろございますけれども、競馬法とか小型自動車競走法とか自転車競技法、いわゆる競輪、競馬、競艇といったような関係で、のみ行為というのがございます。こののみ行為の本体の方は懲役刑もついた立派な罰則があるわけでございますが、のみ行為の相手方の罰則が、これは大体一律十万円ということになっておりまして、こういうものもいわば犯罪の解明のためには、場合によっては相手方であっても強制捜査をせざるを得ない。これは賭博でいえば賭博の顧客ということになりますが、そういうような類型で、かなりの程度、やはり強制捜査せざるを得ない部分があるというような実態といいますか、調査の結果も浮かび上がってまいりました。  こういうような認識を踏まえまして、先ほど局長から申し上げましたように、当分の間、少なくともこの二本立てでやらせていただいて、その後それではどうするかということでございますが、ただいままで局長から申し上げましたように、従来から私どもといたしましては、罰則改正あるいは新設についての省庁協議の機会を通じまして適正な罰金額の実現について努力をしてまいりましたが、今回法制審議会の刑事法部会の中に、引き続き財産刑の基本問題について検討していただくという意味で、財産刑基本問題小委員会というものを設置いたしておりますが、その一つのテーマといたしまして、行政罰則見直しという問題が取り上げられる予定になっております。  この行政罰則見直しの問題は、二つの方向に分かれるかと思います。大変時間をいただいて恐縮でございますが、一つは、いわゆる適正罰則罰則としての適正化といいますか、罰金あるいはその他の罰則の適正な水準というものを見出していこう、それからもう一つは、逆の方向でございまして、罰金の整理といいますか罰則の整理、つまり、余りに行政罰則が多くなり過ぎているのではないかという方向からの見直し、この二つの方向からの見直し、少なくともその基本的な指針ぐらいはいただけるのではないかというふうに、今私ども期待しているわけでございます。  こういう作業と、それから従来からの各省庁の協議というものを通じまして、必要な罰則については必要な手当てをする、不要なものはできるだけ整理していくという方向で、できるだけ早い時期にこの二重状態の解消ということを実現いたしたいと考えておる次第でございます。  以上でございます。
  19. 小澤克介

    小澤(克)委員 実情についての、特に実務家からの要望は理解できないわけではないわけでございますが、いわゆる迷惑防止条例はまさに微罪でございまして、したがってそれに相当する罰則になっているのは当然でございます。また、住所不定等でなければ、これをもって強制捜査すること自体がおかしいわけでございますし、また現行犯逮捕要件等も、いわゆる住所不定あるいは氏名が明らかでないという場合には現行犯逮捕もできるわけでございますから、そのような意味で、原則として強制捜査しないという基準をそのまま適用して不都合はないはずではないかと思います。のみ行為等についてはそれなりの問題もあろうかと思いますけれども、今言ったような強制捜査が、一切できないのではなくて、一定の要件があればできる、また現行犯逮捕についてもできるわけでございますから、これをもってこのダブルスタンダードをどうしても維持しなければならないというふうには到底思えないわけでございます。  その辺については、恐らく捜査等の実際に当たる方からまた違ったお考えがあるのでしょうけれども、いずれにしてもこのダブルスタンダードは、だれがどう考えても不合理そのものでございますし、これまでいろいろお尋ねしても、積極的な理由はどうしても見出せない。それがために条文上も「当分の間、」こうなったのだろうと思います。  考えてみますと、刑事訴訟法のような、基本六法の一つであり、まさに刑事司法目的実現と被疑者、被告人の人権の擁護の調整を図る極めて重要な法律について、「当分の間、」などという規定があること自体、極めて奇異なことでございます。「当分の間、」と書くことによってなるべく早く解消しようという決意のあらわれだと、善意に解釈したいと思いますけれども、そうであるとすれば、「当分の間、」とは一体どの程度のことをお考えになるのか。  一説によると、当分の間と法律に書いてあるときは九十九年まではいいんだという、大変乱暴な、これは冗談でございますけれども、しかし、現実に当分の間というものが、半世紀とか四分の一世紀とかそのままになっているという例もなくはないそうでありますので、一体どの程度のことを考えておられるのか。今、財産刑基本問題小委員会というのですか、これを法制審に設けて検討する、基本的指針を得るものという期待があるというお話がございましたけれども、どの程度のタイムスケジュールをお考えなのか、それを明らかにしていただきたいと思います。
  20. 井嶋一友

    井嶋政府委員 「当分の間」という用語は、法律用語として非常にいろいろの問題を起こすわけでございますが、いずれにいたしましても、刑事訴訟法に書いたというところに苦心のあらわれがあるという御指摘委員からございましたが、そのように御理解いただければと思うわけでございます。先ほど来申しますように、結局、実体法二つ基準による実態がある以上は、これは解消を図ることが前提であるということでございますので、鋭意努力をしたいと思います。  先ほど指摘の財産刑検討小委員会につきましては、小委員会委員でもあります東條審議官が、先回小委員会で今後の計画といったようなものもある程度策定されたということでございますので、その辺を紹介していただきたいと思います。
  21. 東條伸一郎

    ○東條説明員 最初におわびを申し上げます。先ほど財産刑基本問題小委員会と申し上げましたが、正式には財産刑検討小委員会でございます。  この小委員会は、刑事法部会の下に設けられまして、現在まで既に二回会合を開いております。前回の三月五日の第二回目の会合で、今後のスケジュール等も大体、少なくとも一年間のスケジュールも決めました。  この小委員会では、いろいろな問題について検討をするということで、先ほどちょっと申し上げましたが、罰金刑の適用範囲の問題、これは、刑法部分も含めまして罰金刑の適用範囲を拡大するべきではないかという御意見もございますので、そういう問題。それから法人に対する適正な処罰の問題、これは両罰規定の問題。それから執行をどのように合理化していくかというような問題等々、多岐にわたる検討課題を刑事法部会から受けておりますが、その全体の検討のスケジュールは、大体あと二年ぐらいをめどに、それぞれの問題についての一応の方向性を見きわめようということで、小委員会の各委員意見が一致しております。  先ほど来御指摘の問題は、いわば行政罰則見直しの問題になるわけでございます。小委員会といたしましては、行政罰則のそれぞれについて、個別の検討をするということは恐らくできないと思います。したがいまして、基本的にはどういうものがいわば罰則から排除されていくか、例えば過料等の、要するに秩序罰の方に移行していくべき類型はどんなものかということ、それからもう一つは、本来の刑事罰則に残るべきとすれば大体どんなスタンダードが考えられるのだろうかというようなこと、ここら辺の見きわめをしていただければ、私ども非常にありがたい。それができますれば、従来からの各省との罰則協議といいますか、それについても一つの統一的な指針というものがはっきり出るわけでございまして、それを踏まえてできるだけ具体的にそれぞれの罰則改正といいますか、そういうものにその都度取り組んでいくということになろうかと思います。  以上でございます。
  22. 小澤克介

    小澤(克)委員 二年ぐらいを目途というお話が出ました。ぜひ進めていただきたいと思います。  ただ、二年後に方針が出て、それから各行政罰の整理が始まるということであれば、これはまた、九十九年は冗談といたしましても、百年河清を待つことになりかねないわけでございますので、その後もできるだけ速やかに、これは他省庁との関連がございまして、法務省にばかり言うのは酷かもしれませんけれども、しかし、刑訴法の適用を受ける国民の側からすれば、そんなことは関係ないわけでございまして、何省がどうだなんて言ったって、それは全くの言いわけにすぎないわけでございますから、適用を受ける側の国民の側に立って、素朴にわかりやすくするという御努力を、これはぜひ強力に、かつ速やかにやっていただきたいと思います。昭和四十七年から今日にまた引き継いだわけでございますので、断じてこのようなことのないように、刑訴法本体に「当分の間、」と書き込んだということからすれば、まさかそんなことはないだろうと思いますけれども、この点については強く注文をしておきたいと思うわけでございます。  先ほど実務家の実態論からしてのお話がございましたけれども、私はちょっと認識のずれを感じます。というのは、行政罰によって強制捜査が行われるというもので我々が認識しているのは、むしろ他のところにあるんではないだろうか。よく問題となるのが、一つは外登法だろうと思います。それからもう一つはビラ張り行為などについての規制、これらが極めて強制捜査権が乱用されているケースというふうに私どもは認識しているわけでございます。これらによる強制捜査権の乱用による人権侵害は、私どもの目から見ればまさに目に余るものがあるというふうに思います。  一例として、外国人登録法の外登証の不携帯、これが現行法上二十万円以下の罰金となっているわけでございます。したがいまして、今まではともかく、今回のこの改正案によれば、刑法等三法については三十万でございますから、これがこの三十万に仮に一元化されれば、外登証の不携帯は原則強制捜査なしになるはずという、そういう関係になるわけでございます。ところが、現行法上は八千円でございますし、仮に刑法等三法だとしても十万円ということですから、この外登法による不携帯の二十万円というのは、それ自体極めて重いということになるわけでございますけれども、それはともかくといたしまして、これまでのこの外登法の運用については実に目に余るものがあるわけです。  これについては、当委員会でも特に外登法改正の際などにたびたび問題となっているわけでございますから、余り細かく質問するのも避けたいと思いますけれども、比較的最近に至っても、例えば一九八七年の四月、このころでも、朴信泳、こういう方が自宅近くを自転車で帰宅途中に、小平警察署の警察官に、自転車が無灯火だったということで呼びとめられて、登録証の提示を求められた。たまたま会社に置き忘れていたために、あした交番に持参する、こういうふうに答えたにもかかわらず、二人の警察官に腕をねじ上げられて暴行を加えられた上、恐らく現行犯逮捕でございますね、逮捕されて小平警察署に連行され、そしていろいろ差別的な発言等もあったというふうに聞いておりますが、強制的に指紋をとられた、こんなケースが出ているわけでございます。  このようなことを考えますと、どうもその実、このダブルスタンダードを維持するという方向で、警察などがそのようなお考えがあるのではないだろうかということを思わざるを得ないわけでございますけれども、警察庁はいかがでしょうか。警察庁がむしろこのダブルスタンダードの維持に熱心なのではないか。そんなことはまさかないと思いますが、いかがでしょうか。
  23. 泉幸伸

    ○泉説明員 逮捕権の運用につきましては、当然のことでございますが、従来から個別の事案ごとに、具体的な状況に基づいて適正に執行すべく判断してまいったところでありまして、今後ともそのような運用を行ってまいるというつもりでございます。  ただ、今御指摘がありましたように、この限界罰金額の問題でございますが、刑法などの法以外の罪について一律に逮捕を抑制するような運用規定ぶりにつきましては、現在行っている警察の法執行について、実務上少なからず影響を与えるものだというふうな認識をしております。
  24. 小澤克介

    小澤(克)委員 ということは、このダブルスタンダードはやはり必要である、こういう御認識だということになるわけでしょうか。
  25. 泉幸伸

    ○泉説明員 先ほど来の法務省御当局の御答弁にもありましたが、実務に対する影響の有無ということに関しましては、私ども法執行に当たる者としては、実務上影響が生ずるというふうな判断をしておるということでございます。
  26. 小澤克介

    小澤(克)委員 私は、この一元化をすることが実務上いい影響を生ずるのだと思うのですよ。そうは思わないのでしょうか。
  27. 泉幸伸

    ○泉説明員 先ほども御説明申し上げましたように、逮捕運用ということにつきましては、それぞれの事案ごとに個別に判断し、その必要性等を十分にしんしゃくした上で行っておるところでございます。そのようなものにつきまして一律に逮捕権の運用に制約が加わるという点につきましては、実務上の影響が生ずるということでございます。
  28. 小澤克介

    小澤(克)委員 どうも現在のような強制捜査を維持したいということを前提の答弁のようにしか聞こえないわけでございます。実務上の影響が生ずると認識している、それは生ずるのは困る、こういうことを前提としているのだと思うわけでございます。  私は、そういう認識は非常に間違っていると思うわけです。実際の第一線の警察官によるこの強制捜査権の運用というのは、先ほども言いましたが、本当に目に余るものがあるわけでございます。今、一九八七年のケースを御紹介しましたが、その一年前、一九八六年、こういうケースもございます。李勝順さんという方でございますけれども、自動車を運転していて、一時停止義務違反で呼びとめられて、交通違反の取り調べを受けた。そこで免許証等を見せますから、当然外国人であることがわかる。すると外登証を見せるということで、たまたま持っていなかったために、登録証の不携帯を理由に、これは葛西警察署ですかに連行されて、それで家族が登録証を持ってその警察署に駆けつけたのです。免許証等で身元も明確にもうわかっている。それにもかかわらず、そのまま警察署に一晩とめられております。  これはやはり現行犯逮捕ということになるのでしょう、そうでなければ一晩とめられる理由はないわけでございますから。その翌日には手錠、腰縄で、そして写真を撮られ、おまけに十指の指紋をとられる。それから、これはなぜかわからないのですが、掌紋という、たなごころの紋までとられる。こんなケースもあるわけです。これらは、どう考えても強制捜査権の乱用としか思えない。しかも、最終的な処分は不起訴となっているわけですね。これはもう本当に強制捜査、それだけが目的で行われたとしか思えないケースでございます。  このようなケースを見るにつけ、ますます強制捜査についてのダブルスタンダードの問題点がより強く認識されるわけでございます。どうですか警察の方、現在のような捜査、こういう事例を見ますと、捜査の実情に大きく影響を与えて当たり前じゃないかと思うのですけれども、こういう捜査形態を今後も維持しなければならないともしお考えであれば、これはもう基本的に間違っておると思うのですが、いかがでしょうか。
  29. 泉幸伸

    ○泉説明員 個別の事案につきまして、現在その具体的な状況につきまして御説明する用意をしておりませんので、その点については答弁と御説明を控えさせていただきますが、いずれにしましても、逮捕権の行使ということにつきましては、当然のことでございますが、逮捕理由、必要性を十分検討し、単に合法であるのみならず、合理的な、国民の納得するような妥当な方法で行われるべきであるということは、言うまでもなく、私どももまたそのような運用をしなければならないという認識でございます。今後ともそのような運用をしてまいる所存でございます。
  30. 小澤克介

    小澤(克)委員 今紹介したのは、一九八七年とか八六年とかのケースでございます。幸いにして、最近では外登証不携帯による強制捜査というのは、余りマスコミ等をにぎわすことがなくなったようでございます。しかしそれ以外のことで、やはり外登証関係でございますけれども、およそ非常識な強制捜査が行われたケースがごく最近ございます。  これは最初にお断りしておきますが、外登証の変更登録を怠っていたというケースでございますから、仮に先ほどから指摘しておりますダブルスタンダード解消されたとしても、現行の外登法の刑罰からすれば、これについては懲役刑等が選択刑としてありますので、このダブルスタンダードの問題に直接は関連しないかと思うのですけれども、しかし、このような行政罰運用実態として、やはりこれは問題にしておかなければならないケースだと思います。  これは昨年、一九九〇年のことでございますけれども、九〇年の五月に、外国人登録法上の居住地変更登録申請の違反ということで三名の者が逮捕される。さらに八カ所について捜索をする。そしてその捜索の場所については朝鮮中・高級学校。この教育の場である学校に、八十人程度の機動隊員らを動員して、学校の正門を封鎖し、極めて物々しい雰囲気で捜索が行われる。この日は日曜日だったのですけれども、折しも学校の生徒さんがスポーツの対外試合等のために学校に集まっていたわけですけれども、そのような非常に感受性の強い中学生、高校生の前で、このような大々的な機動隊を動員しての捜索が行われる、結局そのスポーツの大会も対外試合もできなくなってしまった、こういうケースでございます。  このようなものを見ますと、やはり行政罰についての刑罰の整理というものが絶対に必要である。先ほども出ましたけれども、まず適正化という観点で、ただ単に登録事項の変更を怠ったということについて懲役刑まであるなどという、これはもう非常識そのものではないだろうか。この外国人登録制度は、本質的には日本人の住民登録と同じ行政目的でございます。居住関係、身分関係を明らかにする、住民基本台帳法と同じ行政目的であるはずでございますが、住民基本台帳法では、せいぜい科料じゃなくて過料しか規定されていない。それに比べましても余りにも過酷である、むしろ非常識であるということが言えると思います。  それで、先ほども言いましたとおり、この問題は、仮にダブルスタンダード解消されても、現行外登法に極めて重い刑罰があることからすれば、このような強制捜査が行われ得るということは解消されないわけでございます。したがって、とにかく少なくともまずダブルスタンダード解消すべきである。それと同時に、このような余りにも不合理な行政刑罰については速やかに整理すべきである、かように思うのですけれども、これはやはり法務省にお尋ねすることになりましょうか。外登法は特に法務省の所管の法案でございますから、法務省、いかがでしょうか。
  31. 井嶋一友

    井嶋政府委員 外国人登録法は法務省の入管局の所管かと思いますので、したがって若干所管が違いますから、これについての意見は差し控えますけれども委員先ほど来御指摘のような具体的な事件、これはそのスタンダードの問題でなくて、いわば運用の問題だということだろうと思いますし、また警察もそのように御説明をしておられるわけでございます。しかしながら、そういったことが来るのはやはりスタンダードから来るのだ、こういう委員の仰せでございます。したがいまして、先ほど来、特に行政罰則のいろいろなアンバランスにつきましては、いろいろな角度から小委員会で検討していこうということであるわけでございますし、さらに、実は先ほどちょっと御説明を漏らしましたけれども、今回の改正をするにつきましても、各省の担当者を呼びまして、刑事罰則につきましての今回の改正の考え方といったようなことも説明をし、今後そういったことがテーマになるんだということも御説明をしておるわけでございますけれども先ほど議官が御説明しましたように、将来小委員会における結論が出てまいった場合には、そういった指針をさらに各省に実行を迫るといったことを努力をいたしまして、やっていかなければならぬと思っておるわけでございます。その中には、適正化ということが柱ですから、重過ぎるものは適正にする必要もありましょうし、あるいは非刑罰化といったような方向へ進むべき罰則につきましては整理していくことも必要であろうと考えておるわけでございます。
  32. 小澤克介

    小澤(克)委員 大変前向きの御答弁だと受けとめさせていただきます。漏れ聞こえるところでは、ことし入管法についての特例法が提案され、来年には外登法についていよいよ改正をすると聞いておりますので、大変期待をしております。  それから、先ほどもちょっと申し上げましたが、強制捜査の実態で目に余るものに、もう一つビラ張り等がございます。これについては、昭和五十八年に日弁連がいろいろ調査をしております。ビラ張りは、軽犯罪法とか屋外広告物法に基づく各都道府県の条例、そのほかの法令等が適用になるわけでございます。このうち軽犯罪法については、もともと拘留、科料しかございませんので、ダブルスタンダードの問題とはダイレクトにはつながらないわけでございますが、屋外広告物法ではダブルスタンダードの問題につながるわけでございます。その実態調査によりますと、屋外広告物法に限らず、軽犯罪法もすべて含めておりますので、その点はお断りした上でこの調査結果を引用させていただきますと、とにかくビラ張りに対しての、極めて不当な強制捜査の実態が浮き彫りになっております。  まず、検挙数が非常にふえている。そしてその調査結果を分析いたしますと、政党、労働組合などが政治的主張等を主とする非営利のポスターを電柱などに張ったというケースが、強制捜査の対象になっております。他の政党のポスターあるいは営利用のポスター、広告が多数同様の場所に貼付されているにもかかわらず、特定の政党や団体のポスター張りだけが、ねらい撃ち的に検挙されているという実態がございます。  それから、統一自治体選挙を控えた時期、今まさにそういう時期ですけれども昭和五十八年当時も、それ以前ももちろん含むわけでございますが、この検挙が非常に多発している。また、数カ所一斉に検挙する例がある。  さらに、ポスター張りをしているところを警察官が尾行したり、待ち伏せをしていて、被疑者がポスターを張るのを待って、張り終わるのをじっと物陰から見ていて、張った途端に出ていって現行犯逮捕というケースが非常に多いわけです。極端な例としては、警察官があらわれたので、被疑者がその張ったポスターを自主的にはがして、持ち帰ろうとしているのに逮捕してしまったとか、はがそうとするのを制止して逮捕したなどというのがございます。それからまた、その際には十名とか三十名というような大量の警察官を動員して逮捕する。  また、先ほど外登法の例でちょっと言いましたけれども、類似しているのですが、捜索をするについても、機動隊員を動員して、捜査対象の自宅などを包囲して捜索する。それからまた、被疑者が免許証を持っていたりして住所、氏名が判明しているにもかかわらず、氏名を言わないというだけの理由現行犯逮捕する。あるいは勾留までつけるケースもございます。甚だしいのに至っては、確かに被疑者の方は住所、氏名を積極的に言ってはいないのですけれども、警察官の方でもうよく知っていて、その被疑者の名前を呼びながら逮捕したというようなケースもある。  さらに、被疑者が黙秘すれば半数は勾留請求されて、しかもそれが勾留になる。勾留期間も長期間に及んでいる。また、弁護士の接見を妨害する。それから、被疑者の自宅だけではなくて、政党の事務所、機関紙販売所まで捜索する。そして政党後援会の役員名簿などを押収する。これはポスターを張ったことと何の関係もないわけでございますけれども、このような捜査が行われる。そして重要なのは、これらのケースがすべて例外なく不起訴になっているわけでございます。  こういうのを見ますと、これはまさに強制捜査それ自体が自己目的である。そして、それはまたまさしく政治的な、はっきり言って弾圧という形態で行われていると言わなければならないわけでございます。こういう捜査の実態を見ますと、ダブルスタンダードは早急に解消しなければならないと思います。軽犯罪法については本来罰金刑がないわけでございますけれども、それにもかかわらず現行犯逮捕等が頻繁に行われていることも含めて、先ほどから繰り返して申し上げているように、これはダブルスタンダードそれ自体の問題ではありませんけれども、それらも含めて、このような強制捜査のあり方は本当に強く批判されるべきであると思うわけでございます。  このような強制捜査が行われることについて、警察の方はどうお考えなのでしょうか。
  33. 泉幸伸

    ○泉説明員 個別の事案に関します今の委員の御指摘につきましては、ただいまそういう個々の事情についての状況を掌握しておりませんので、説明は差し控えさせていただきたいと思いますが、いずれにしましても、逮捕権を含む強制捜査につきましては、先ほど外登法の関連で御説明申し上げましたように、適正かつ合理的に行っているところでございます。  なお、犯罪捜査の責めを負っております警察としましては、違法な行為を認知した場合には、その事案によって、直ちにやめるように警告したり、あるいはビラであれば撤去させたりという措置をとるとともに、罪証隠滅、逃走を企てるなど、悪質な事犯と認められるものについては検挙など必要な措置、すなわち事案の内容に応じた措置をもって臨むこととしております。御理解賜ります。
  34. 小澤克介

    小澤(克)委員 今御紹介したような捜査の実態を知る者といたしましては、このダブルスタンダード解消する際に、むしろ刑を重くする方向で解消する、刑訴法上は三十万に統一して、しかし各行政法規の処罰を軒並み三十万以上にかさ上げすることによってこれに対処するというようなことが、本当に真剣に危惧されるわけでございますが、まさかそのようなお考えはないでしょうね。これは警察、法務省、それぞれにお尋ねしたいと思います。
  35. 東條伸一郎

    ○東條説明員 先ほど来申し上げておりますように、いわゆる行政罰則見直しにつきましては、罰則の必要性、それからその程度、重かるべきものは重く、不必要なものは整理し、軽いものは軽くということで、一律にこれをどうこうするという性質のものではないというふうに私どもは理解しております。  私どもとしましては、所管的に申せば、それぞれの罰則がそれぞれの所管省庁の所管するところでございますので、法改正につきましても、第一次的にはそれらの省庁の御意見を十分に伺わなければなりませんが、その際にも、今申し上げたような考え方で臨みたいと考えております。
  36. 泉幸伸

    ○泉説明員 法の執行に当たります立場の警察としましては、定められた法につきまして、その法の目的に沿って適切に対応してまいるということでございますが、執務上の観点から、罰則のあり方につきましては、ただいま法務御当局の御答弁なさった方向で私どもも考えていくべきだろうと考えております。
  37. 小澤克介

    小澤(克)委員 先ほど紹介しましたビラ張りに適用される屋外広告物法などというのは、これは要するに町の美観を保護しようという法益を規定したものでございますから、これによって選挙等に際して特定の政党に対する行動を妨害するなどということは、全く法の目的からすればあってはならないことだろうと思うわけでございます。  いずれにいたしましても、この種行政刑罰については、当たり前のことですけれども行政目的を達成するために刑罰という手段が規定されているだけのものでございます。したがいまして、行政目的を達成するためにどの程度の罰が必要なのかという観点から、まず刑罰の程度を定めるべきでございまして、逆に、強制捜査の余地を残さなければならない、そこから逆算していって刑罰を決めるなどということがあってはならないことだと思うのですけれども、そういう逆算していく発想はまさかお持ちにならないだろうと思いますが、いかがでしょうか。これは警察、法務省両方にお尋ねしたいと思います。
  38. 井嶋一友

    井嶋政府委員 まさにそのような逆転した思考で物事を考えるといったような考えは、毛頭ございません。
  39. 泉幸伸

    ○泉説明員 私どもといたしましても、ただいまの法務御当局の御答弁のとおりでございます。
  40. 小澤克介

    小澤(克)委員 裁判所においでいただいておりますので、お尋ねしたいと思います。  刑事訴訟規則の百四十三条の三というのがございます。これは「明らかに逮捕の必要がない場合」についての規定でございまして、「逮捕状の請求を受けた裁判官は、逮捕理由があると認める場合においても、被疑者の年齢及び境遇並びに犯罪の軽重及び態様その他諸般の事情に照らし、被疑者が逃亡する虞がなく、かつ、罪証を隠滅する虞がない等明らかに逮捕の必要がないと認めるときは、逮捕状の請求を却下しなければならない。」とあります。これはそもそもどういう趣旨目的規定なんでしょうか。
  41. 島田仁郎

    島田最高裁判所長官代理者 ただいま御指摘の刑訴規則でございますが、これは御承知のように法百九十九条を受けておる規定でございますが、逮捕につきまして二重のチェックをしようという趣旨でございまして、逮捕理由があっても、なおかつ逮捕の必要性がなければ逮捕状の発付をしないという、そういう趣旨のものだと理解しております。
  42. 小澤克介

    小澤(克)委員 逮捕理由というのは、要するに嫌疑の存在で、逮捕の必要というのは、言うまでもなく逃亡あるいは罪証隠滅のおそれがあるということであろうかと思います。  そこで、今指摘したこの規則の百四十三条の三と刑訴法百九十九条との関係でございますけれども、私の理解では、一定の軽い犯罪については、「被疑者が定まつた住居を有しない場合又は正当な理由がなく前条の規定」、「前条の規定」というのは呼び出しでございますけれども、呼び出しの「出頭の求めに応じない場合に」のみ逮捕することができるというふうに規定されているのです。したがいまして、これは逮捕の必要性がない場合を類型的に規定したものである。したがって、これらの事情、「定まつた住居を有しない場合」、それから正当な理由がなくて出頭の求めに応じない場合、こういう事情がなければ、類型的に見て逮捕の必要性がないということが規定されているわけでございますから、逆にこれらの事情があれば当然に逮捕されるということにはならないのだろうと思うわけですね。これらの事情があっても逮捕の必要がない場合も当然あり得る。  それから、逆に三十万円というような金額を超えた、あるいは懲役等の選択刑のある犯罪類型についても、逮捕の必要性が認められない場合には逮捕状を出してはならない、こう解釈すべきだと思うのですけれども、そうではないのでしょうか。
  43. 島田仁郎

    島田最高裁判所長官代理者 ただいまの委員指摘のとおりだと私どもも理解しております。したがって、法百九十九条一項ただし書きに当たらない罪につきまして、ただし書きに定める要件がなくても法律逮捕が可能であるというだけのことでございます。裁判官といたしましては、個々のケースにおきまして、さらに逮捕の必要性の有無については慎重に判断してまいるべきであるし、また現にそうしております。
  44. 小澤克介

    小澤(克)委員 そうだとすれば、この刑訴規則の百四十三条の三を的確に運用するならば、当分の間ダブルスタンダードが残っても、強制捜査を適正なものにすること、これは裁判所の判断によって十分可能であるかと思うわけです。言いかえますと、先ほどから繰り返して言っておりますとおり、このダブルスタンダードというのはどう考えても合理性のないものでございますから、行政法規違反の場合について、二万円を超えていても、この逮捕の必要性が明らかにないと判断をすることによって、刑法等三法と似通った運用が十分可能になるのではないか、こう思うわけでございますが、いかがでしょうか。
  45. 島田仁郎

    島田最高裁判所長官代理者 その点につきましては、私ども従前からもダブルスタンダードのもとで十分慎重に、個々のケースに応じて判断をしてまいったことでございますし、今後これが当分の間維持されましても、同様に十分慎重に判断を続けてまいりたいと存じます。
  46. 小澤克介

    小澤(克)委員 逮捕あるいは勾留というのも一つの裁判でございまして、これは裁判官の独立の問題に絡みますので、個別の問題でどうこうということは避けたいと思います。  先ほど紹介したような、特に外登法のケースなどで、現行犯逮捕は関係ございませんけれども、変更登録違反のケースなどで逮捕状、捜索令状等が出ている。これらの実態を見ますと、個別事件ということではなくて、一般論として申し上げたいのですが、私は、この刑訴規則百四十三条の三の趣旨が必ずしも徹底してないのではないだろうかという危惧を持つわけでございます。これは最高裁みずから決めた規則でございますから、この趣旨が生かされるように、ぜひ格段の御努力を願いたいと思うわけですが、いかがでしょうか。
  47. 島田仁郎

    島田最高裁判所長官代理者 私ども、令状発付の段階における違法捜査のチェック機能に関しましては、裁判官の一つの重大な義務、使命であると存じておりますので、裁判官の会同、協議会等、その他いろいろな機会において絶えず、十分慎重に実務をやってまいるように、私どももお互いに反省し合い、十分検討も進めておるつもりでございます。今委員指摘の方向で、なお十分努めてまいりたいと存じております。
  48. 小澤克介

    小澤(克)委員 先ほどからの法務省側からのお答えで、刑訴法に「当分の間、」とは書かれていても、どうもすぐにこれが解消するということにはならないようでございますので、その間の運用については、これは結局令状発付するのは裁判所でございますので、このダブルスタンダードの不合理性を十分意識しながら令状実務運用していただきたいなというふうに思います。強く要望しておきたいと思うわけでございます。  少し他の問題についてお尋ねしたいと思います。  今回、罰金について原則二・五倍に上がるわけでございます。これについては、罰金刑の刑罰全体の中に占める割合といいますか、重要性が増しているという背景があるのではないだろうかなというふうに思います。また、罰金刑が安過ぎるとかえって選択しにくくなって、自由刑の方を選択しがちになってしまうというようなことからも、罰金刑の適宜な引き上げはむしろ必要だなと、私も実は考えるわけでございます。  それはそれで結構なんですけれども現行刑法の中には、罰金刑が選択刑として規定されていないものが多数ございます。特に財産犯には、背任罪、占有離脱物横領について罰金刑の選択があるのですけれども、それ以外には罰金刑がない、このことについてどうお考えなんだろうか。今回の改正ではこれについては全く触れられていないわけですけれども、この点について法務省はどういうお考えでしょうか。
  49. 東條伸一郎

    ○東條説明員 今回御審議願っております法律案の策定に当たっての考え方は、現在の基本的な刑罰体系を一応維持しながら、とりあえず罰金あるいは科料の額等について、経済実勢に合わせた最小限度必要な手当てをしようという考え方でございまして、御指摘の新しい罰金刑といいますか、罰金刑の適用範囲の拡大については今回は見送っております。  御指摘のように、刑法上の財産犯には基本的には罰金刑がございません。窃盗、詐欺、恐喝、横領等でございますが、これにつきまして罰金刑を選択刑として新設してはどうかという御意見が、既に法制審の審議の過程でもそういう御指摘がございましたし、それ以外にも、私どもにあちらこちらから聞こえてまいるという状況でございます。そこで、先ほど説明申し上げましたが、今回法制審議会に諮問をお願いするに際しまして、とりあえず今回提出いたしました法律案について御審議をいただくほかに、さらに財産刑をめぐる基本問題について検討をお願いするということで、それを受けまして、先ほど説明申し上げました財産刑検討小委員会というものが設けられたわけでございます。その中で、財産犯について罰金を設けるかどうかということが、まさにこれから検討するという過程に差しかかったところでございます。
  50. 小澤克介

    小澤(克)委員 これは教えていただきたいのですけれども、何で、そもそも最初に刑法制定したときに財産犯には原則罰金刑がなかったのですか。
  51. 東條伸一郎

    ○東條説明員 これは学説といいますか、歴史的な問題でございますので、私が申し上げるだけの資格があるかどうかあれでございますが、明治の四十年に現在の刑法ができておりますが、その当時に、財産犯を犯す者の犯人像といいますか、そういうものが、恐らく、非常に貧しいといいますか、貧しさからの財産犯という発想が基本的にあったと思います。そういう者に対して財産刑である罰金を科するということがいかがなものかということが、恐らく制定者の発想の根幹にあったのではないか。その後国民の資産といいますか、収入というものも、経済成長に伴いまして随分変わっておりますので、それを受けて、現段階で同じような発想でいけるのか、それを変更するのかという問題をこれから検討しようというところでございます。
  52. 小澤克介

    小澤(克)委員 確かに、おっしゃるとおり、貧困から、あるいは食うに困って人の物を盗んだ人から罰金を取るということは、ある意味で矛盾かなという感じが当然あったのだろうと思いますけれども、現在では財産犯というのが大分様相が違ってきていると思うのですね。欲望が非常に肥大してきて、ぜいたくをしたいために財産犯に走るというケースが多いだろうと思います。そうだとすれば、財産犯について罰金刑を選択刑として定めるということは決して不合理なことではないわけでございまして、世界的にも、自由刑から財産刑へという大きな流れがあるというふうに聞いてもおります。この財産犯について、罰金刑を選択刑として規定する方向で、今後十分御検討いただきたいと思うわけでございます。  それからもう一つ、よく問題となるのが公妨でございます。公務執行妨害罪、これに罰金がございません。ところで、公務執行妨害はいろいろな場面で発生するわけでございまして、例えば労働争議であるとかそういう場合にも起こりますし、それからデモンストレーションなどのような場合にも公妨に問われるケースがあります。それからまた、最近では、交通事犯が起因となって公妨が適用されるケースもふえているというふうに聞いております。交通違反の取り締まりに対して、人間のやることですから多少感情的になるということは、取り締まり側にもドライバーの側にもあり得ることでございまして、そういう際に、結局公妨というようなことに立ち至るケースがふえてきているというふうに聞いております。  この場合に、公務員それから学校の先生等が公妨に問われますと、たとえ執行猶予になっても結局身分を失わざるを得ない。それが非常に問題を含むところでございます。恐らく最初に刑法規定した段階では、公務執行妨害というのは、お上に逆らうとんでもないやつだということから自由刑ということになったのだろうと思いますけれども、現在のように社会に多様な価値観が生じている場合には、さっき言いましたように、公妨というのも交通事犯から発展するというようなケース等々考えますと、いろいろな類型があり得るわけでございますから、これについては罰金刑を選択刑として入れておくことが必要なのではないだろうかというふうに思いますが、この点はいかがでしょうか。
  53. 東條伸一郎

    ○東條説明員 先生御指摘のように、現在の刑法の公務執行妨害罪は、三年以下の懲役と禁錮だけで、選択刑としての罰金刑がございません。そして、今先生御指摘のような種々の観点から、罰金刑を選択刑として加えるべきであるという意見が多方面、あちらこちらから私どもに述べられたということも事実でございます。  いろいろな御意見がございまして、例えば公務員といってもいろいろな種類があるのである、いわゆるみなし公務員といいますか、業務形態からいえば民間の業務とほとんど同じことをやっているのに、一種の刑法上の公務員になっている者、そういう者に対する妨害罪は業務妨害罪と変わらない、それで、業務妨害罪には御承知のように罰金刑があるのになぜないのだろうかというような御意見、それから資格制限の問題と関係いたしまして、選択刑として罰金刑があれば有罪になっても資格を失うことがないのに、起訴されてしまって、執行猶予がついても資格を失ってしまう。余りに過酷な副次的効果が出てくるから、罰金刑をつけたらどうかというようなこと等がございます。  そうして、この問題も先ほどの財産刑検討小委員会の議題の一つとして、具体的に公務執行妨害罪と財産犯という形で問題を検討してみようということで、これから掘り下げて検討をしていくという段階でございます。したがいまして、今の段階で私どもとして、積極、消極どちらに決めたかということについては、まだ意見を申し上げる段階ではないということでございますので、御了解いただきたいと思います。
  54. 小澤克介

    小澤(克)委員 刑法に関してはいろいろな経過がございまして、刑法本体をいじるということがややしにくいような状況もかつてあったわけでございますけれども、今回、罰臨法ではなくて刑法本体をきちんと改正するという方向をとられたということは、私は大変結構なことだと思うわけでございます。したがって、この罰金の金額のことだけではなくて、今指摘したような明治四十年代制定刑法が必ずしも現代にマッチしなくなっている点については、やはり適宜刑法本体の改正ということをしていくべきではないだろうかというふうに思います。  それからもう一つ、罰金がまた今回引き上げられるわけでございますけれども、そういたしますと、支払いが困難あるいはなかなか、支払い不能というのでしょうか、そういうケースもいろいろ出てくると思います。本当に支払い不能ならば、これは労役場留置ということになるのでしょうけれども、そこまでいかずとも、何とか自由刑ではなくて罰金刑を選んだという趣旨を生かすために、支払いを容易にしてやるというようなことも配慮が必要なのではないだろうかと思うわけです。  具体的にいえば、延納を認めるとかあるいは分納を認めるとかいうようなことが、これは聞くところによれば、実際には何か実態として行われているというふうにも聞いておりますけれども、これらについてやはり正面から法制度として定めるべきではないだろうかと思うのですが、これについていかがでしょうか。
  55. 東條伸一郎

    ○東條説明員 先生御指摘のように、罰金の延納あるいは分納というものを正面から認めた法律はございません。ただ、刑法の十八条などを読みますと、どうも一部罰金が納められていることを前提として労役場留置を考えているような規定がございますので、刑法は必ずしもそれを否定しているとは思いません。  そこで、実務はどのようにやっているかと申し上げますと、検察官が裁判の執行の責任を負ってやっておるわけでございますが、罰金法執行に当たりましては、納付義務者の資力の許す範囲内でできるだけ罰金の納付を受けるということをまず大前提に据えまして、したがいまして、納付義務者からの申し出がございますと、それを検討しまして、分納とか期日の延期とかいうことで、できるだけ納めていただく。先生御承知のように、執行の段階になりますといわば検察庁、検察官には全く調査権限も何もなくて、ただ納めてくださいという納付の督促と、それから何とかしてくださいという何回かの折衝というようなことをやっておるものですから、その過程で、相手方からこれだけなら一部でも納められるという話がございますと、それを受け入れて、いわば事実上の分納とか延納ということを現にやっております。  これを法制化したらどうかということでございます。既に御承知のように、刑法全面改正作業を長年にわたって法制審議会で検討してまいりました。その際にも正面から認めたらどうかという意見がございましたし、今回もまたそういう御意見が一部の委員から出ております。  前回の全面改正の際の議論では、既に今申し上げましたように事実上認められていて、その運用に特に不都合はないというようなことと、逆に、正面から認めますと、延納、分納の申し出が出た場合に、これの採否を犯人の資力調査等を全面的に正式にやって決定しなければならないという、徴収事務が非常に複雑化するという問題もあるのではないかというようなことで見送られたと承知をしております。  なお、今回再びこういう御意見が出てきた、法制審でもそういう御意見が出ておりますので、この問題についても再度新たな角度から、先ほど来申し上げております財産刑検討小委員会において、検討項目の一つとされているところでございます。
  56. 小澤克介

    小澤(克)委員 今納める側に立って、延納、分納というようなことを認めたらどうかというふうにお尋ねしたのですけれども、ちょっと今のお話の中で、何かお願いして納めていただくというようなニュアンスのお話がありまして、検察庁というのは大変こわもての、怖いところだというふうに思っておりますけれども、裁判が下るまでは大変怖いのですけれども、一たん罰金刑が決まってしまったら、確定した方のところへ行ってお願いして払ってもらうというのは、何だか奇妙な感じも受けるのですが、その辺については現行法上どうなっているのでしょうか。ちょっと私不勉強ですが、納付させる手だてというのはどんなふうになっているのでしょうか。
  57. 東條伸一郎

    ○東條説明員 若干オーバーに申し上げたような感じがいたしますが、罰金刑が確定いたしますと、以後検察庁内で所定の手続をしまして、罰金の納付の通知を出すわけでございます。そのまま納まってくれば、これは持参していただく場合もありますし、郵送する場合もあるようでございますが、いずれにしても、それで問題はないわけでございます。問題は、それに従って直ちに納めない者でございまして、法律上は、これは法律で認められた範囲内で資力を調査して、財産があれば、民事執行法の手続で債務名義として強制執行をかける、そういうことを前提とした手続が置かれているわけでございますが、強制執行という件数は、年間非常に少のうございます。一%にも到底満たないような金額だと記憶しております。  したがいまして、実際は全部任意に納付していただく。もちろんそのほかに、強制執行をかけてもだめ、資力もないということになりますと、労役場留置というのが自然人についてはあるわけでございますが、労役場留置という制度も、これは非常にこわもてのきく、要するに嫌なら入れるぞというような感じの制度でございますが、実際にはなかなか使いにくい制度でございます。  労役場留置ということで収監状等をとってやりましても、その手続が開始された途端に親戚の人が駆けつけてきて納めるとか、実はこれで持っているよというようなことで納められるということになりますと、労多くして功少なしということで、結局は、先ほど来申し上げましたように、説得といいますか、折衝をして納めてもらう。一種の、お願いというのはオーバーな言い方でございますが、やはり無理をしないで、できるだけ納めてもらうというスタンスで実務を行っているようでございます。私どもも、罰金の徴収の事務を担当する検察庁の職員というのは非常に苦労が多いなというふうに、日ごろ見ておるわけでございます。
  58. 小澤克介

    小澤(克)委員 今のお話の中で、納めるべき人の財産状態の調査というお話が出ましたけれども、これについて法的な手だてというのはどうなっているのでしょうか。
  59. 東條伸一郎

    ○東條説明員 現在のところは、刑事訴訟法には特段の規定が全くございません。したがいまして、全くの任意の調査といいますか、例えば捜査の段階ですと、公私の団体に対する照会という手だてが、例えば資産等については非常に考えやすい手だてでございます。しかしその手段も、準用等もされておりませんものですから正式にはできないということで、したがいまして調査権限もないということでございます。  先ほど申し上げました財産刑検討小委員会では、執行手続の合理化という側面から、調査手続についてもう少し考えてみたらどうだろうかというのも、問題点の一つとして検討対象とされる予定になっております。
  60. 小澤克介

    小澤(克)委員 素朴な自然犯などでは余り問題ないかと思うのですけれども、例えば独禁法であるとか公害関係の法律等々、企業に対して罰金を科するというようなケースもだんだんふえてきましたし、今後もそういう方向というのは恐らくふえていくだろうと思うわけです。そういったことまで考えますと、今のお話を聞いておりますと、ちょっと何か心もとないような感じもいたします。また企業の場合、倒産してしまえばそれっきりというようなこともあろうかと思います。その辺については、実情を一番把握しておられる法務省としては現状をどう認識しておられるのか、あるいは将来的にどうあるべきだというようなことをお考えなのか、お願いいたします。
  61. 東條伸一郎

    ○東條説明員 御指摘のように、法人に対して罰金刑が確定いたしましたときに、その執行というのが実は一番大きな問題でございます。自然人が納付義務者でございます場合は、繰り返しでございますが、労役場留置という最終的な担保の手段があるということでございますけれども、法人の場合はそれもございません。したがいまして、法人の財産を基盤として払ってもらう、払えないと法人の財産に対して強制執行をかけていくという手だてしかないわけでございます。  先生今御指摘のように、法人が倒産する、あるいは法人の財産をいわば偽装的に第三者に名義変更してしまう。これも例えば強制執行不正免脱とか、そういう犯罪になり得る場合もあるわけで、それで捜査の対象になり得る場合も理念的にはあると思いますが、実情としてそこまで把握することはなかなかできない。  したがいまして法人に、特に先生御指摘のような独禁法あるいは税法、それから外国為替管理法、その他非常に高い罰金の違反がありまして、高い罰金が確定いたしましても、ノミナルな確定だけで実は執行の段階で空振りということになりますと、まことに制裁としての意義は薄くなることでございますので、これをどうするかというのが、この検討小委員会の一つの重要な課題になると思います。  一つは、財産の保全をもう少し早い段階で、確定前に何とかできないのだろうかという発想といいますか、検討方向でございます。それからもう一つは、財産を正確に捕捉するためにはどうすればいいかという、調査権限の問題であろうかと思います。  いずれにしましても、御指摘の問題、私どもも十分認識しておりまして、今後の重要な検討課題の一つであると考えております。
  62. 小澤克介

    小澤(克)委員 今お話ありましたとおり、法人に対して罰金刑を科すというようなことは、今後ふえていくだろうというふうに思います。そういたしますと、今のような問題点については、やはり十分な御検討を願わなければならないかなというふうに思うわけでございます。  法人に限らず、自然人も含めて、全体として罰金刑の重要性というのが増してきているのではないかなというふうに私は認識しておりますし、また諸外国、先進国等でも自由刑にかえて罰金刑を科するというのが趨勢だというふうに聞いております。またイギリスですか、ほとんどの犯罪に選択刑として罰金刑を科すことができるということも聞いているわけでございます。この罰金刑の刑罰全体における地位といいますか、あるいは今後について、どんなふうな認識をお持ちであるか、お願いいたします。
  63. 井嶋一友

    井嶋政府委員 今具体的な数をちょっと調べてもらっておりますから、すぐ後で御説明いたしますけれども、感じとして、とにかく罰金刑が刑法犯の判決の中で占める割合というのは非常に高いわけでございまして、裁判結果別に、確定裁判を受けた人についてどういう種類の刑罰を受けたかということを調べた統計によりますと、毎年罰金を受ける人の割合が、全体の九三ないし九五%を占めるわけでございまして、それほど刑事裁判における罰金刑、財産刑の運用というのが実態として重要であるわけでございます。だからこそ、今回こういった法定刑としての財産刑、罰金額のアンバランスといったものを何とか経済変動実勢に合わせて改正したいと考えた、大きな動機の一つでもあるわけでございます。  したがいまして、そういった形で今回それなりに変動に応じて実勢に合わせることができるならば、そういった状況下のもとで、財産刑の運用といったものの占める重要性といったものがさらに増大すると申しますか、刑事政策における重要なファンクションを期待することになるだろう、こういうふうに思っているわけでございます。
  64. 小澤克介

    小澤(克)委員 もう一つ、国際的な動向としてこれは教えていただきたいのですが、日数罰金制という制度が諸外国で採用されているそうです。ドイツ、北欧諸国、それからフランスでも何か採用されたというようなことをちょっと漏れ聞いているのでございますが、これは通告していなかったのですけれども、もし御説明いただければ、この際お願いしたいと思います。
  65. 東條伸一郎

    ○東條説明員 現在の日本の罰金の制度というのは、先生御承知のように、被告人に対して例えば五万円の罰金に処するという、いわゆる定額の罰金を言い渡すシステムでございます。日数罰金と申しますのは、まずその犯罪の悪性の程度といいますか、責任の程度というものを日数で評価しよう。例えば三十日なら三十日というふうに算定をいたしまして、次に一日当たりの金額は被告人の資力に応じて計算しよう。したがいまして、金持ちであれば重く、お金のない人であれば軽くということでございます。そういうシステムを日数罰金制と呼んでおるわけで、したがいまして具体的な判決の言い渡しは、三十日掛ける例えば一万円というような、結論的には三十万円の罰金、こういうことになるわけでございます。  この制度は、今申し上げたことからおのずからおわかりいただけると思いますが、罰金を受ける者の側に立って、その財産的苦痛というものを、資力のある者と資力のない者とをできるだけ平等にしようということから採用された制度のようでございまして、御指摘のように北欧諸国から始まりまして、現在ドイツでも採用されております。オーストリアもそうであると思います。それから、フランスでも一部採用されてきておる。イギリスでは、これはまだ定額主義のようでございます。アメリカも定額主義のようでございますが、そういうことで、一部の国で既に採用されて、実績も積み重ねられてきておるところです。  従来、前回といいますか、全面改正の際の法制審議会の議論でも、日数罰金制の問題が議論されております。今回もそういう御指摘がございまして、検討対象の一つとなっておりますが、この日数罰金制をとるところの背景は、罰金というものが非常に重いということが前提にあるようでございます。  先ほど来先生御指摘のように、罰金刑が自由刑にかわって広く使われてきつつあるというのは、世界的な一つの動向である。ただ、その背景には、どうも一つには刑務所人口がふえ過ぎて、過剰収容になっているという現実的な認識もあるようでございますが、それはともかくとして、罰金刑が活用されてきている。これは自由刑にかわる罰金ということで、非常に重いという側面がございます。ところが、我が国の罰金は、少なくとも現在までの罰金というのは、今手元に数字を持っておりませんが、大体十万円以下のところの罰金が圧倒的に件数的に多うございます。しかも、略式手続という手続でやられているという面もございまして、なかなかその手続にこの日数罰金という厄介な、被告人の資力調査を前提とする制度というものを導入することが実務的でないということで、今まで見送られてきておりますが、今後罰金の位置づけといいますか、どの程度のものを罰金としていくのかという問題と絡めまして、一つの検討対象になってくるのではないか、このように考えております。
  66. 小澤克介

    小澤(克)委員 お尋ねしたいことは多々あるわけでございますけれども、ちょうどもう時間となりましたので、きょうはこの程度にしたいと思います。いずれにいたしましても、今回のこの刑法等改正罰金が合理的な金額にまで引き上げられるということは、現代における自由刑にかわる罰金刑の重要性にかんがみ、基本的には当然のことだろうと思うわけでございますけれども、今まで質問の中から明らかになったように、今回積み残したところに非常にいろいろな問題点がある。それから最初に指摘しました強制捜査についてのダブルスタンダード、この問題が、これはもう本当に早急に解消していただかなければならないことだろうと思うわけでございます。そういう意味で、この刑事法の改正について、今回刑法それ自体の改正ということに踏み切ったわけでございますので、今後もぜひ適切にお願いをしたいということを強く要望したいと思います。  せっかく大臣、最後までいらっしゃいましたので、通告しておりませんけれども、その点についての御決意を聞かせていただければありがたいと思います。
  67. 左藤恵

    左藤国務大臣 今いろいろお話を伺っておりまして、今回一応、暫定的と申してはなにでしょうけれども、とにかく罰金の額の改正だけはお願いしたわけでありますけれども刑法の根本的な問題、幾つかあると思います。そういった問題について、現在の時代に合うようなそういったことについて、法制審議会においてもこれは引き続き検討していただけるものと思っておりますが、こういった問題について私は真剣にやらなければならない、このように考えております。
  68. 小澤克介

    小澤(克)委員 ありがとうございました。
  69. 伊藤公介

    伊藤委員長 午後零時三十分に再開することとし、この際、休憩いたします。     午後零時二分休憩      ────◇─────     午後零時三十分開議
  70. 伊藤公介

    伊藤委員長 休憩前に引き続き会議を開きます。  質疑を続行いたします。鈴木喜久子君。
  71. 鈴木喜久子

    ○鈴木(喜)委員 社会党の鈴木喜久子です。私は、罰金額等引上げのための刑法等の一部を改正する法律案、これについてまず質問をしたいと思います。  この法律案を拝見させていただきますと、大体今までの罰金を二・五倍ぐらいに上げておられるように思いますけれども、この根拠はどういうところにございますか。
  72. 井嶋一友

    井嶋政府委員 罰金の額につきましては、委員御案内のとおり、罰金等臨時措置法罰臨法と省略いたしておりますが、罰臨法によって倍数計算をいたしまして、本則の法定刑を修正して適用するということをやっておるわけでございますが、この罰臨法は、昭和二十三年に制定されまして、その後四十七年に改正が行われました。そのときに、現在の刑法等について言えば、二百倍という倍率でやるということが決まっておるわけでございますが、その後十九年たちまして、経済情勢の変動が著しいということから、法定刑としての罰金額が相対的に低下をいたしまして、罰金刑が財産刑としての機能を果たさなくなってきたという実務上の問題点が出てまいりまして、早急な改正の必要があるということになったわけでございます。  そこで、その根拠は何かということでございますが、お手元の資料にもつけてございますけれども、結局、今申しましたような経済事情変動ということが大きなファクターでございますので、四十七年以降の各種の経済指標をとったわけでございます。このお手元の資料の、青い紙が入っておりますが、「六」の第一ページ、ここに経済指標の図表が載っておりますけれども、四十七年を一〇〇といたしまして見ますと、消費者物価指数が、平成元年の指数では二五一・七、約二・五倍、それから労働者賃金指数が同様のペースで三五五・〇、つまり三・六倍、それから国民所得について言えば三六六・四、つまり三・七倍ということになっておるわけでございまして、こういったところから、一番経済変動に見合う指数と言われております消費者物価指数をとって、二・五倍ということで採用したわけでございます。
  73. 鈴木喜久子

    ○鈴木(喜)委員 大体消費者物価指数に合わせて考えられたということになりますと、その罪の中で、住居侵入罪とか傷害助勢罪、こういった非常に低額の、寡額の場合の上限が、現在その罰臨法で決められているものでいきますと一万円以下というふうになっているものが、今回は十万円以下、かなり大きな金額になっています。また、自己所有建造物等以外の放火なり、また無印私文書偽造、遺失物横領、秘密漏泄罪といったものについても、今までは二万円以下であったものが、これも一律十万円以下、要するに、十倍ないし五倍というような形での罰金ということに上限がなるのですが、このあたりは、二・五倍ということとの差異はどのようなことになっているわけでしょうか。
  74. 井嶋一友

    井嶋政府委員 御指摘のとおり、先ほど私が申し上げました二・五倍というのは、刑法等罰則につきまして原則を申し上げたわけでございます。  つけ加えなければならなかったわけでございますけれども、実は、刑法等の罪につきまして、委員指摘のように、現在一万円以下あるいは二万円以下といったような少額の罰金多額を決めております犯罪がございます。こういったものも二・五倍という形で全部押しなべて同じにいたしますと、例えば今御指摘のあった住居侵入は二万五千円以下ということになるわけでございますし、二万円以下としております罪につきましては五万円以下ということになるわけでございます。  結局、ここのところは、結論的には十万円という水準に上げるために全部丸めまして、二つの段階を一つの段階にまとめまして十万円ということにしたわけでございますが、それにはいろいろな考え方がございます。結局現在財産刑として運用されておる罰金多額としては大体この辺、多額下限が十万円というのが罰則の中で一番多いわけでございますし、さらに今申しましたような二・五倍という計算で、一万円あるいは二万円のグループを二・五倍にいたしたような形でございますと、結局今回改正をいたしましても財産刑としての機能が本当に抜本的に改まったんだろうかという点から考えますと、二万五千円あるいは五万円では、今申したような十万円ないしそれ以上の多額罰則が大体主流であるような状況下において、問題はあるのじゃないかということが一つ。  それからさらに、そういった法定刑にしておきますと、いわゆる早晩実務的に申します頭打ち現象になってしまって、また引き上げなければならないといったこともあるだろうというようなことも考えまして、結局この一万円、二万円あるいは四万円、六万円とあります少額の金額につきましてこれを十万円、二十万円というふうに改めまして、結局現行では九段階の形になっておりますものを七段階にまとめまして引き上げを図ったということでございますので、上の方につきましては先ほど申したように二・五倍になっておるわけでございますが、少額の方につきましてはそういった考慮を働かせ、主として機能的な面を注目いたしまして、十万円あるいは二十万円といった形にまとめたということでございます。
  75. 鈴木喜久子

    ○鈴木(喜)委員 今の御説明で、私も今罪の中で一番最下限の方のを申し上げたのですが、二十万円以下というところでも、今までの四万円までの罪から見ますと非常に大きな、五倍ということになっている罪がありますし.それから六万円以下というのも二十万円で丸められますと、やはり三倍以上のものになっておりますね。こういったものについて上限を決める、実際上の科刑というのが寡額の最下限をとることが多いから、その最下限を引き上げるわけではないから問題はないであろうという御趣旨、それはまあわかります。しかしこの場合、やはりこうした罪の重さというものを考えますと、今消費者物価指数からいいましてこれが二・五倍に上がったから大体が罪というものはこういう罪だということから見ますと、その上限ではあっても、技術上の問題としては科刑の場合の配慮があるからいいとしても、それでは非常に罪を重くしてしまう。事実上の罪を、懲役何年という方を変えないけれども罰金刑の上限を上げるということで、その罪の内容を重くしてしまうのではないかというふうに考えられるわけですが、この点はいかがでしょうか。
  76. 井嶋一友

    井嶋政府委員 御指摘のように、従来一万円、二万円、あるいは四万円、六万円といった罰金の差があったわけでございますから、それをこういった形でまとめるということは、それなりに評価が変わったといったようなことになるのではないか、したがって、単なる経済変動による修正だけではないじゃないか、こういう御指摘だと思いますが、まことにそのようなことになっておるわけでございますけれども先ほど来申しますように、罰金運用されております実情等を見まして、今言ったように二万五千円あるいは五万円と改めてみましても、それでは全く意味がないということが一つございまして、十万円、二十万円という形にさせていただいたわけでございます。こういったことで修正をいたしました一つの動機の中には、やはり低額罰金法定刑を定めております罪につきましては、実務上、いわゆる頭打ち現象 と申しますか、そういった現象が出てまいっておるということが大きな動機になっておるわけでございまして、例えば今度二十万円以下にいたしますが、現在四万円以下とされております犯人蔵匿、あるいは同じく四万円以下でありますが、証憑湮滅といったような罪につきましては、一〇〇%の事件が宣告刑が法定刑の六割以上ということでございまして、現実には、いろいろな低額罰金の犯罪ほど頭打ち現象が著しくなっているわけでございます。  そういったこともありますので、体系をこのままいじらないということもございますから、犯罪相互間の基本的な相関関係は変動がないんだというようなことも加味いたしまして、罰金刑につきましてそのような定め方をさせていただいたというわけでございます。
  77. 鈴木喜久子

    ○鈴木(喜)委員 まだちょっと納得はしがたいところがあります。  要するに、頭打ち現象である。現状は非常に上の方の部分で科刑がなされているということでありましょうけれども、しかしそれは、そもそも刑法で、この罪はどのくらいの、どういうふうな重さを持った刑罰を科すべき罪であるということをそれぞれ決めている。ですから、ここで単に罰金刑だからお金の金額をすいすい変えてもいいんだということには、仮に上限であっても、ならないと思うのですね。それによって罪の重さというものが変わるというイメージがあるのであれば、それは普通の刑法上の罪を改正するという、罰金だけを単にスライドしてちょこちょことやってしまうという問題とは本質的にわけが違うものだというふうに思います。  今の頭打ちという現象を解消するというような実務上の目的がおありになるというお話があったので、続けて伺いたいのですけれども、談合罪でございますとか、わいせつ文書の頒布ということの罪があります。この罪は、今まで百万円以下ということであったものが、今回は物価スライドということでいきますと、二百五十万円以下ということになっております。二百五十万円以下というのは、今の意味でいけば、消費者物価指数にスライドさせた形ではありますけれども、しかし、この犯罪の内容を見ると、さっきの犯人蔵匿とか証憑湮滅、または住居侵入とかいうような罪の中味とは違いまして、これは犯罪からいいますと、談合にしろ競売入札の妨害にしろ、または贈賄というのもありますが、こういった罪は、経済関係で企業ぐるみの犯罪になる場合が非常に多いわけであります。  企業が二百五十万円ぐらいのものを出して、それで痛痒を感ずるかということになりますと、最上限の二百五十万だって、罰金である場合には、企業を刑務所に入れることはありませんから、代表者を入れるということではないとすると、二百五十万円以下ということになってしまいます。これは、選択刑といってもそれしかとりようがないということになれば、こういうことこそ頭打ちという問題が痛切にある問題じゃないか。下限の方の問題で頭打ちをおっしゃるならば、この問題についてもなぜ二百五十万なのか。これなら一千万でも二千万でもいいんじゃないか、そういうふうに思いますけれども、この点はいかがでしょうか。
  78. 井嶋一友

    井嶋政府委員 先ほど説明いたしましたように、今回は、個別の犯罪につきそれぞれの評価をし直しまして、法定刑としての罰金額を定めるという手法でもって見直しをするといったことをやったわけではございません。あくまで経済変動に伴います実態に対応するために、罰金等臨時措置法の手法を現実に合わせようということで改正するわけでございますから、したがって、個々の犯罪の法定刑としての妥当性といったものを一つ一つ吟味はいたしておりません。  今御指摘の談合罪につきましても、委員仰せのような実態があるということで、もっと法定刑を高くしろという御意見もあることは十分承知をいたしておるわけでございますが、今回そういったことを各条についてやりますと、これは刑法全面改正と同じことになるわけでございますので、今回は経済変動に伴う迅速な対応をする、暫定的な対応をするということに主眼を置いてやらせていただきましたために、今の談合罪について申し上げれば、現在百万円でございますので、二・五倍で二百五十万という枠組みの中におさめたということでございまして、個別の犯罪の罰金刑の額のあり方といったものにつきましては、法制審議会刑法部会の小委員会でそういったものも含めて検討をする、あるいはもっと言えば刑法全面改正の中で検討をする課題である、このように申し上げたいと思います。
  79. 鈴木喜久子

    ○鈴木(喜)委員 おっしゃる趣旨はわかりますけれども、例えば、これが今二百五十万円以下の贈賄罪であるとか談合罪であるとか、そこだけの御説明でしたらそれで納得いきます。しかし、その前の十万円以下に今度丸めてしまう、十倍にもなる方の金額とこれを一緒にしますと、そこに御説明の矛盾があるように私は思います。片っ方では、あくまで経済変動に伴って、そしてこれは全面的な刑法改正ではない部分で、これは経済上の問題としてのスライドだ、そういう形での手直しなのであるというふうにおっしゃっていながら、片側では、早晩頭打ち現象がまた来るので、少し大きく丸めておこう、そういうふうな形でおっしゃる。  こちらは十万だからいい、こちらは二百五十万でとめるということには、その犯罪の性質ということから見ても、何かそこに一つの差別といいますか、例えばこういった企業に対しての、優遇的な考え方みたいなものがあるのではないかと国民が思うのではないか。その点の御説明が、十万円以下と二百五十万円以下の罪ということと、その丸め方を考えた場合にあるのではないかと思うのですが、いかかでしょうか。
  80. 井嶋一友

    井嶋政府委員 確かに、極めて法定刑として金額の低かったグループにつきまして二・五倍以上の引き上げを図っておるわけでございますけれども、これは先ほど来御説明申しましたような、財産刑としての罰金の現状というものを踏まえて、個別の犯罪を見て評価をし直すということではなくて、全体としての法定刑としての一つのグループがございますから、その中においてそれぞれ経済変動という原理を適用して、かつ罰金の現在の状況を考えてこのような形にまとめたということでございまして、御指摘のような観点とは少し違うのではないかなと思っているわけでございます。
  81. 鈴木喜久子

    ○鈴木(喜)委員 言うなれば、十万円以下に丸められた罪というのは、犯情その他においても軽微な罪であることは間違いがないと思います。ただし、こういうものを今のように、こっちはそういう簡単なものだから、どうせ上がっていくんだからいいんだというような形で十把一からげにやられるのは、やはり法の趣旨からいいますと、もともと刑法趣旨というものからいいますと、かなり外れてきているのではないかというふうに思います。経済の実情が変わってきていることも事実です。その中で法律の占める位置づけなり意味というものが違ってくるかもしれませんけれども、しかし、そこでもやはりもともとの立法の精神、この罪はこちらの罪に比べてこのぐらいのものであるというその精神が急に変わることではありませんから、この点も、科刑の点で、その点になりますと裁判官の胸のうちということもございまして、後からこれが一万とか十万に決められたからといって、それは要するに上訴するという以外の道ではあり得ないわけでありますから、裁判官の方々にもう頼る以外なくなってくる問題になります。  大きな幅のある科刑の範囲があるということが非常に重要な意味を持ってくる場合も出てきます。特に、前にも法務委員会のときに申し上げましたように、昨今法律の委任の範囲が急激に広がってしまったり、全く逸脱をしてしまっても行政がやられてしまうというようなことは、よもや裁判官にはないとは私は思いますけれども、しかし、上限を大きく決めるということの意味は非常に大きいことがあると思います。  また、加えて、二百五十万の罰金だけではどうにもおさまらない、社会的に見て国民が納得しない罪もたくさん出てくるはずでございますので、この点もこれから抜本的な改革を踏まえて、もう一度真っ正面から当たった、そうした改革、それから罪の洗い直しというものをしていただきたいと思います。その作業はこれからもずっとされていかなければならないものだと私は思いますので、この点は十分にお願いをしておきたいと思います。  その次に行きたいと思います。  刑事訴訟法の中で、今回の改正におきまして、四百六十一条ですか、略式命令の限度が、今まで二十万円だったものが、おっしゃるとおりの物価スライドということなんでしょうか、わかりませんが、五十万円までに上がっています。これは略式命令というものそもそもの問題になってくるかと思いますけれども、公開裁判を受ける権利というのが憲法の中では決まっているわけですね。略式命令というのは、公開の裁判でなくて、そこの中で罰金刑を決めておしまいにしてしまう、軽微な犯罪についてそういうことをやられる場合が多いわけですけれども、その範囲を非常に大きく広げる結果になるのじゃないか、これは国民の公開裁判を受ける権利というものが侵される危険があるのではないかと思いますが、この点はいかがでしょうか。
  82. 井嶋一友

    井嶋政府委員 略式命令を発付し得る限度額を二十万円から五十万円に引き上げるわけでございますが、まず、刑法等の罪につきましては、罰金多額をおおむね二・五倍に引き上げておりますことから、刑法等の罪につきましては、この略式命令にのる罪種が拡大するといったようなことはなくて、従来と変わらないわけでございます。  問題は、いわゆる刑法以外の行政罰則の場合であろうと思います。行政罰則につきましては、今回は一律に刑法等と同じような手法で引き上げることは不可能でございますので、多額下限が余り低いものを二万円に引き上げるということで手当てをするのみで、それにかかわりのない各行政罰則については変更がないわけでございますから、したがいまして、そういったことからいいますと、この行政罰則につきましては、略式命令の制度にのる範囲が拡大をするということになるわけでございます。  それで、委員の御指摘によれば、略式命令手続が公開裁判の原則に反するといったような御指摘でもあるわけでございますけれども、御案内のとおり略式命令制度は、裁判官がそれにのらないと判断すればもちろんのりませんし、まして、受けた者が正式裁判を申し立てればいつでも正式な公開裁判に移行し得るという規定、つまり訴訟経済等を考えた刑事訴訟法の知恵として行われておる制度でございまして、それはそれなりの合意の上で行われる制度でございますから、これ自体が委員指摘のような傾向のものだというふうには思っておりません。  なお、略式命令の適用される範囲が行政罰則については拡大することになるわけでございますけれども、実は、そうだからといって、では略式にのる件数が今までより多くなるのだろうかという点について若干御説明させていただきますと、四十七年の改正の際に、やはり当時略式命令の限度額を五万円から二十万円、四倍にしたわけでございます。そしてそのときに、行政罰則につきましては今回と同じような手法で罰金多額下限の引き上げだけをしたわけでございまして、今回と同じことでございましたから、やはりそのときにも、行政罰則につきましては略式命令が適用される範囲が拡大されたわけでございます。  だからといって、では略式にのった事件が多くなったかということでございますが、実は、統計的に申しますと、改正いたします前の四十六年が略式命令にのった割合が九四・三%でありました。四十七年、これは改正した年でありますが、九四・七%でありましたが、四十八年、四十九年に九五・二、九五・二ということで、一%ほど上がったのでございますけれども、五十年、五十一年を見ますと九四・三、九四・五といった形になっておるわけでございまして、それほど略式手続にのるものが広がって、委員の御指摘のようなお立場からの危惧といったものはそう多くならない、というふうに私どもは考えておるわけでございます。
  83. 鈴木喜久子

    ○鈴木(喜)委員 そうしたものの中で、私が言いたいのは、略式命令というものが出て、ここでもうここは終わってしまうよ、罰金さえ払えばこれで終わってしまうよと言われたときに、国民は非常に悩むわけでございます。どうしようか、本当は認めたくない部分があったとしても、長い煩わしい裁判をするよりは、むしろここでお金を払って済ませてしまいたいなという気分がある。それでも釈然としないけれども、なってしまう。そういった人たちの範囲がまたふえて、悩んで、どうするかということになりますと、いろいろな問題が出てくるというふうに私は思います。ですから、その点、運用その他、裁判官だけにお任せするということでなく、このあたりもまた気をつけて、今のような事例ですね、パーセンテージがまた非常に上がるような場合があった場合、そうした場合には、またこの問題については再度見直しというようなことも、きめ細かくしていただきたいというふうに思います。  それで、もう一つ、刑訴法の問題になるのですけれども、これはどういうことかということだけの、意味を説明していただければいいと思いますが、未決勾留日数の折算額が今まで一日八百円ですか、これが四千円に引き上げられる。五倍ですね。このことについて一言、ちょっと意味を説明していただきたいと思います。
  84. 東條伸一郎

    ○東條説明員 多少技術的な問題でございますので、私の方からお答え申し上げます。  御指摘刑事訴訟法四百九十五条三項の未決勾留の折算額という金額、現在は八百円というふうに罰金等臨時措置法で定められております。これを単純に物価スライドいたしますと、二・五倍で二千円という数字が出てまいります。私どもがこの法律案のもとになる試案を考えますときに、二千円でどうだろうかということももちろん検討対象といたしました。しかしこの金額というのは、先生御承知のように、罰金刑の言い渡しがありましたときに、それまでの未決勾留にあった部分を一日当たり幾らと換算して計算するかという金額でございますが、これは理論的にはもちろん別の問題でございますけれども、実際の実務感覚といたしましては、労役場留置の一日の換算額と大体見合うべき数字かなという感じもいたします。ところで、現在の労役場留置の一日換算額、これはもちろん裁判所がお決めになることで、いろいろなばらつきがございますが、非常に多いところが大体一日二千円ぐらいということで計算しておるようでございます。これが罰金刑の引き上げが行われますと、当然のことながら労役場留置だけを長くするというわけにもまいりませんので、大体二倍ないし二・五倍ぐらいにまた上がってくるんだろう、そういうようなことをかれこれ考えますと、二千円にとどめるのはいかにも低過ぎる、やはり四千円というふうに労役場留置、これは将来予想される労役場留置でございますが、それらの動向も勘案しながら、四千円ぐらいが相当ではないかということで案を作成いたしまして、法制審議会にもお諮りしたわけでございますが、これで低過ぎるとか高過ぎるとかという御意見もございませんでしたので、これで原案として提出させていただいているわけでございます。
  85. 鈴木喜久子

    ○鈴木(喜)委員 これも、未決勾留日数の折算額が四千円ということだけで見ればいいんですが、今お話がありましたように、労役場留置の問題とのかかわりでございます。今ここでこういうふうに決められますと、多分今裁判所の方では一応それを二千円ぐらいでなさっていたということが、やはりこれが出てきた一つの指針として、四千円ぐらいまでに、だんだんというか、急激に上がるんじゃないかというような気もいたします。または三千円とか、そうした上がり方をするんじゃないかということを、私はちょっと心配をします。この点でもまた後づけといいますか、調査等々を怠りのないようによろしくお願いしたいと思いま す。  こうした罰金まだいろいろとございますけれども罰金刑については、判決しただけではどうしようもないわけで、これを確実に徴収するということが必要になると思いますけれども、現状を簡単に御説明いただいて、それについて何かやはり問題としては、執行をこのように合理化したり機械化しなければいけないんじゃないか、また保全手続としまして何か考えておられるか、そのあたりを含めて、現状を改正すべき点がおありのようであれば、この際、これからの研究課題になるかとも思いますけれども、教えていただきたいと思います。
  86. 東條伸一郎

    ○東條説明員 先生おっしゃいますように、罰金という裁判が確定しただけでは余り意味がないわけでございまして、現実に執行しなければならないということでございます。現在の罰金の徴収手続は、特段の規定が全くないと言ってもよろしいような状態でございます。逆に申し上げますと、調査権限に関する規定がないということでございます。例えば刑事訴訟法の百九十七条二項という規定は、捜査段階における公務所や公私の団体に対する照会に関する文書の規定でございますが、これも執行段階までは適用がないというふうに解されておりますので、いわば調査については法的な手段がほとんどないというのが実態でございます。  そこで私ども検察庁の徴収担当の職員は非常に苦労しておるわけでございますが、大多数の罰金の言い渡しを受けた方々は、納付告知書等を送付いたしますと、通常納めていただける。それ以外の方々はいろいろなことでなかなか納まらないのでありますが、まあいろいろ折衝をいたしまして努力を重ねて、かなり高い徴収率、九十数%の徴収率だと理解しておりますが、かなり高い程度まで努力によって賄っているというような現状でございます。  私ども、これは今までは検察庁の担当者の努力と関係者の御理解ということで何とかやってまいった。今後もそのままいけるかどうか見通しもなかなか難しいと思います。そこで、調査段階における法的な調査権限をどうするのか、もう少し明らかにして認めたらどうかという問題が一つ登場してまいります。  そのほかに、主として法人といいますか、両罰規定と申しますか、そういうものでかなり高額の罰金刑が確定することがございます。例えば脱税事件ですと億を超える罰金刑もございますし、何千万という罰金刑は、いわば日常茶飯事に言い渡されているわけでございます。このような罰金刑につきましては、それに見合う財産があればもちろんそれをもとに払っていただくわけです。そうでない場合には強制執行というのが最終的な手段でありますが、強制執行をいたしましても、罰金というのは通常の担保権も全く伴わないような債権、つまり劣後債権といいますか一番最後の債権で、配当も一番最後ということになります。そういうことで、強制執行は労多くして功少なし。  そのほかに、強制執行をかけられるだけの財産があればよろしいのですが、それもなくなってしまうと、結局徴収不能という形になってしまいます。そこで、そのような高額罰金の問題につきましては、何らかの形で将来の執行を担保するための、保全手続というものも考えていいのではないかということも意見が出てまいっております。  いずれにしましてもこのような徴収をめぐる問題につきましては、現在法制審議会の刑事法部会に設けられております財産刑検討小委員会というところで引き続き検討を行って、何らかの成案が得られればそれを立法化するということを考えている次第でございます。
  87. 鈴木喜久子

    ○鈴木(喜)委員 ありがとうございました。要するに検察庁の御努力によって九〇%以上の徴収率はある。ただし、これも合理的な形で、やはり納めるものは納めなければいけないんだから、きちんと徴収ができるような制度を、なるべく早くいい制度ができるように、これからも御努力お願い申し上げます。  ちょっとこの改正からは外れますが、保釈の問題について一つだけお聞きしたいと思います。  最近の保釈、過去三年くらいで結構でございますけれども、申請と、それからそれについて保釈の許可をされた率、または実際に出た数ですね、保釈された数というものについて、率だけで結構でございますが、教えていただきたい。  もう一つ、数字的に教えていただきたいのは、やはり最近二、三年くらいのところで、統計上出ているところで結構でございますが、保釈金の額について、どの辺のところが一番出ている数としても多いかということについて、ちょっと教えていただきたいと思います。
  88. 島田仁郎

    島田最高裁判所長官代理者 お答えいたします。  まず最初の保釈の許可率でございます。請求があった場合にどの程度まで保釈が許可されておるか。これを最近三年間で申しますと、まず地方裁判所の場合、昭和六十二年が五〇・二%、六十三年が四九・一%、平成元年は五〇・七%でございます。簡易裁判所の方は、六十二年が五四・九%、六十三年五八・一%、平成元年六一・六%でございます。  それから、保釈の保証金の金額でございます。これは地裁、簡裁の総数でお答え申し上げます。昭和六十二年でございますが、五百万円以上は全体の二・一%、三百万円以上は四・三%、百万円以上が七四・〇%でございます。したがって、百万円以上のものだけで見ますと、全体の八〇・四%を占めております。ちなみに七十万円以上でとりますと、全体の九四・三%となります。同じく六十三年は、五百万円以上二・七、三百万円以上が五・五、百万円以上は七五・〇。それから平成元年は、五百万円以上が二・三、三百万円以上が五・七、百万円以上が七八・六。百万円以上をトータルしますと平成元年八六・六%、七十万円以上になりますと全体の九六・二%までを占めております。
  89. 鈴木喜久子

    ○鈴木(喜)委員 二つ問題があると思います。一つは、近ごろの保釈の決定が出るときのあり方について、裁量保釈ではなく権利保釈の場合であっても、なかなか保釈の決定がなされない。そして、裁判官のところに保釈の面接に行ったときに何を言われるかというと、調書について、これを全部認めているのか認めていないのか。それからまたもう一つは、被害者がある場合には、被害者との示談が成立しているのかどうか。  これは別に要件としてあるわけではないのですけれども、事実上そういうことが非常に大きなポイントになってくる。一度行きまして、それがないからということでだめだ、または、じゃ示談とってそれでもう一回来なさい、というような形のことも間々あるように聞いておりますけれども、この点、権利保釈と職権保釈の場合に、実務上でどういうふうな違いをもって考えておられるのかどうか、この点が一つです。  それからもう一つが、金額の点がやはり非常に上がってきている。現在、今教えていただきましたパーセンテージで申しましても、七十万円以上百万円未満というものが、六十二年から平成元年まで見ても四%ぐらいですか、五%弱ぐらい減ってきていて、百万円以上というのがふえ、三百万円以上というのも確実にふえているわけです。  要するに、だんだん上限が上がってきて、百万ではなかなか保釈ができないという実情が、これは平成元年ですから、ことしの平成三年になりますともっと多くなると思うのですけれども、こうした実情があると思います。さっきの物価スライドではありませんけれども、非常に大きな金額がないと保釈ができないという現状もあります。ですから、額の問題と権利保釈の場合の実務の問題と、簡単にお答えいただきたいと思うのですが。
  90. 島田仁郎

    島田最高裁判所長官代理者 お答えいたします。  まず最初の権利保釈と裁量保釈との関係ですが、これは裁判所といたしまして、権利保釈の場合には必ず保釈を許可しなければならないものでございますので、まず刑訴法八十九条に定める権利保釈の要件に当たるかどうかを十分慎重に検討いたします。そして、この八十九条各号に当たらない場合はもとより保釈の許可決定になるわけでございますが、当たる場合に、先ほどおっしゃった裁量保釈としてなお保釈できるかどうかについて判断いたすわけでございます。  その場合に、先ほど委員が御指摘の、自白をしているかどうか、あるいは示談が成立しているかどうか。確かにこれは、自白をしている場合には、例えば罪証隠滅についてのおそれがその自白という態度によって非常に薄くなるということもございますし、また示談をしている場合には、特に財産犯等において、示談があるということで量刑についての情状がよくなるというようなことから、逃亡のおそれとか罪証隠滅のおそれが少なくなるということがありますので、そういう反映といたしまして、自白している場合あるいは示談している場合に保釈が許可されやすくなるという効果はあると思いますけれども、決して自白をしなければ保釈しないとか示談しなければ保釈は許さないよという態度で臨んでいることはないと存じますし、またそういうことはあってはならないことであるというふうに思っております。  それから、金額の点でございますが、確かに先ほど申し上げましたこの三年間の統計を見ましても、保釈保証金が年々少しずつ上がってまいっておるという推移はうかがわれると思います。これは、今回の罰金の引き上げに関する法案が御提出されたのもまさにそのあたりにあるかと思いますが、現在、例えば国民の平均実収入の推移を見ましても、年々少しずつ上がっておる。そういう世の中の経済動向を反映する形で、保釈保証金の方も少しずつ上がってきておるというふうに私どもは理解しております。
  91. 鈴木喜久子

    ○鈴木(喜)委員 おっしゃることはよくわかりましたけれども、権利保釈の場合が一番問題になるのじゃないかと思います。裁量の場合にはおっしゃるような形ですが、しかし実際の運用の中では、権利保釈も裁量保釈も結局は同じような形でされてしまっていて、権利保釈であるからということを弁護人がついて一生懸命やっても、なかなか聞き届けられない部分が事実上はございます。  この点も、そういうふうな形でありますので、これは裁判官の胸のうちの問題とはいいながら、やはり権利保釈の場合には胸のうちということではございませんので、きっちりとした法律上の権利としてあるわけでございますので、その点の運用をこれからもしっかりやっていただきたいというふうに思います。  時間がないので次にいきたいと思いますが、これも簡単にお答えいただけば結構でございますが、ことしの二月十七日の新聞ですけれども、そこに「民事訴訟費大幅軽減へ」という大きな見出しがつきまして、法務省が半額以下の可能性もあるということで検討、というふうなのがついておりますが、この点について、その経緯等また簡単にお知らせいただきたいと思います。
  92. 濱崎恭生

    ○濱崎政府委員 御指摘の新聞報道、私どもももちろん承知いたしておりますが、この報道は、端的に申し上げまして、いささか先走って観測を加えたところがございまして、事実と違うところがございますので、まずその点を申し上げなければならないと思います。  報道によりますと、法務省が訴訟費用の引き下げの方向で検討に入ったという記事になっておりますけれども、法務省がそういった具体的な方向を掲げて検討に入ったということはございません。また、その引き下げの幅が現在の半額程度ないしそれ以下になりそうだというような観測も加えておりますが、そういった具体的な方向について、私どもの方で検討を詰めたとか方向を対外的に示したという事実もないわけでございます。ただ法務省として、新聞報道で指摘されている問題について関心を持っているということは事実でございますので、その点について若干御説明させていただきます。  問題になっておりますのは、民事訴訟の費用全体の問題ではございませんで、訴訟を提起するに要する手数料、具体的には訴状に貼付すべき印紙の額の問題でございまして、その額は、訴訟の目的の価額、すなわち訴額に応じて増加するという制度になっております。細かい点は御案内のところでございますので省略いたしますが、訴額三百万円を超える部分については一律にその〇・五%をもって提訴の手数料とするというふうに定められているわけです。  こういった制度は、訴訟手続の利用についての受益者負担の考え方及び乱訴防止といった考え方に立ちまして、長年にわたって行われてきておるものでございまして、基本的には妥当なものと考えておりますが、ただ経済情勢の変化にかんがみまして、今後は極めて高額の訴訟の提起ということも予想されるわけでございます。そういった場合にも現行のままでいいのかどうかということは、時代の変化に応じて適切に対応しなければならないという認識を私ども持っているわけでございます。そういう認識を持っているわけですが、報道されておりますような具体的な方向を掲げて検討に入ったという段階にはまだ至っておらないわけでございます。
  93. 鈴木喜久子

    ○鈴木(喜)委員 この訴訟の印紙代というのは、訴訟提起をしようかどうか、自分の権利を主張しようかどうかという庶民にとって、非常に大きな問題になります。乱訴防止もわかりますし、そういった面からめったやたらな訴訟を起こすということはいけないことかもしれませんけれども、自分の権利を守ろうとしても、昨今の土地の値上がり等がありますと、非常に土地に絡んでは大きな金額、すぐ億というような単位のものになってくる可能性があるわけで、それでどうしようかというときに非常に困ります。それを法律扶助協会みたいなところだけで担保するということではなくて、やはり法務省の方々も、これ自身が、報道がある程度ちょっとまだ勇み足的なところがあるのかもしれませんけれども、これから先もよくよく御検討をお願いしたいと思います。  時間がありませんので、次の問題に行きたいと思います。  これは科捜研の方にお聞きしたいことなんですが、新宿区の元陸軍軍医学校があったところで、そこのところに現在国立予防衛生研究所というものを建設しようとして工事を始めたところが、そこから人骨約三十五体分ぐらいのものが出てきたという事件が、平成元年の七月に起こりました。このことに関して、この遺体といいますか、人骨をどのような形で処理するかということで、もう大分たちました、平成元年ですから二年ぐらいたつわけですけれども、その間に、この人骨が果たして犯罪に関係あるかどうかという意味を含めてでしょうか、出てきてからすぐに、警察署の方でまず現場写真を撮ったりして、人骨をいろいろと検査されたということなんですが、この点については、現在どの程度のことが科捜研の方で判明しているのでしょうか、教えていただきたいと思います。
  94. 井口憲一

    ○井口説明員 お答え申し上げます。  本件につきましては、警視庁牛込警察署に、平成元年七月二十二日に通報がございました。現場におきまして調査を行いました牛込警察署は、当初、頭蓋骨を含めました人骨と思われるものが発見されたわけでございますが、これを、科捜研と今先生おっしゃいましたが、警視庁の科学捜査研究所のことでございますが、ここに調査を依頼いたしました。これを受けました科学捜査研究所におきましては、運ばれました頭蓋骨五個それから人骨の、完全ではございませんで、断片でございますが、頭蓋骨以外の骨二個について調査を行ったわけでございます。  この調査結果によりますと、頭蓋骨五個分のうち二個は男性のもの、一個は女性のもの、この女性のものにつきましては二十歳ぐらいというふうに年齢が推定されております。残り二個については、性別、年齢ともに推定ができなかったということでございます。また、頭蓋骨以外の骨の断片二個につきましては、これがそれぞれ、左大腿骨それから左脛骨であろうという推定がなされただけでございまして、それ以外の点については不可能でございました。  また、全体といいますか、すべてのものにつきまして、外観検査は当然のことでございますが、紫外線照射検査と申しまして、紫外線を当てまして、これは目的は古さを調べるものでございますが、この検査によりまして、この骨は非常に古いということなのでございますが、その古さが少なくとも二十年以上経過しているという結果が得られたわけでございます。  現在のところ判明いたしておりますのは、以上のことでございます。
  95. 鈴木喜久子

    ○鈴木(喜)委員 今わかったことの中に、性別はわかったのとわからないのとあるのでしょうが、まあわかったと。それから推定年齢のわかったものもあるということですね。それからもう一つの、紫外線照射検査ですか、その検査の中で、埋蔵されてから少なくとも二十年はたっているということがわかったというようなお話でしたけれども、これは人種はわからないのですか。
  96. 井口憲一

    ○井口説明員 お答え申し上げます。  人種というその考え方でございますが、例えばで申し上げますと、形態人類学と申しますか、そういう立場からは、日本人と西欧に住んでいる西ヨーロッパ人との比較をいたしますと、一般的には頭蓋骨の形状その他からある程度の推定は可能というふうに学会でも言われているようでございますが、それ以上の細かい人種の分類ということは、骨からは不可能というふうに理解いたしております。これも、もちろん骨が壊れていないといいますか、完全な状態に近いという前提でございまして、その場合でそういうある程度の推定が可能、いわゆる大きい人類の分類と申しますか、大分類の推定は可能かというふうに理解いたしております。     〔委員長退席、星野委員長代理着席〕
  97. 鈴木喜久子

    ○鈴木(喜)委員 分類が可能であるとすれば、これは一緒に、現在この事件に関して、この人骨、頭蓋骨について、大分類で結構でございます、例えばモンゴルとかアジア系の方とか、またはヨーロッパの方だとか、そういった大きな分類でも結構でございますけれども、その検査の結果はいかがでしたでしょうか。
  98. 井口憲一

    ○井口説明員 お答え申し上げます。  今回の科学捜査研究所の調査は、その目的と申しますか、警察といたしまして犯罪に関係がありやなしやという観点から調査いたしたものでございますので、そのいわゆる人類学的な観点からの調査はいたしておりません。
  99. 鈴木喜久子

    ○鈴木(喜)委員 犯罪に関係があるかどうかということでいうなれば、性別にしろ推定年齢にしろ、直接的な関係はないと思うのですよ。あるとすれば、二十年たってしまって時効の問題が成立しているのでもうこれ以上ないということであるならば、その点があるとしても、人種の問題というのは、どこでどのような犯罪が行われたか、属地主義なのか属人主義なのか、被害者がどういう方なのかということも、一つの犯罪の問題の中ではかなりかかわりのある問題になると思うのです、もし犯罪であれば。  だから、そういう意味ではそこを調べないでおくということは非常におかしいと思うのですけれども、ここだけ抜けている。  大体、私たちが、骨が出てきて、一体どうかということを見れば、人の骨なのかそうでない何かほかの動物の骨なのかという区別から始まって、人種というのは頭の中にすぐくると思うのです。人種がきて性別がきて年齢がきて、まあ血液型まではちょっと骨からはどうかなとは思いますが、そういうことが頭にきます。そういった年齢とかそういうものの中に絶対出てくる一つの要件だと思うのですよ。それを抜かして、そしてあえて検査されるということがあるのかなということがまず疑問なんですが、その点いかがでしょうか。
  100. 井口憲一

    ○井口説明員 お答え申し上げます。  ただいま大変言葉足らずのお答えでございました。  調査をいたしておりませんと申し上げましたが、現状では、実際に発見された頭蓋骨が非常に古いという状況のもとで、例えば完全に形をとどめているものがないというような状況でございます。そのような状況のもとで、先ほど申しましたように人種の大分類が可能と申しますのは、これはあくまで頭蓋骨の形状だけではなく、例えば鼻孔と申しますか鼻の穴の大きさ、あるいは顴骨、頬骨、これらをいろいろ厳密に測定しなければいけないわけでございますが、それが可能な状態ではなかったというふうに理解いたしております。
  101. 鈴木喜久子

    ○鈴木(喜)委員 可能でなかったということと、しなかったということでは随分な違いがあると思うので、その点は、言葉足らずとか説明足らずの問題ではなくて、実際に人種というものについて調べたけれども調べようがなかった、技術的に不可能であったとおっしゃるんならば、もしもっと技術が進んでできるようなことがあればするということが可能なわけですよ。それと、これは全く関係がないからしなかったという御説明は何となくわからないのですが、ここで今私が確認をしますと、人種ということについては、調べようと思ったけれどもまだ資料不足で、または資料が古くて調べられなかったというふうにお答えをいただいておきます。今そうおっしゃったと思います。間違っていたら後で言ってください。  時間がないので、この問題についてはまた折に触れてやらなければならないと思っておりますけれども、人骨がたくさん出てきた、少なくとも二十年、もっとたっているであろうというけれども、これが何百年も昔のものであることもないし、百年はたっていないんでしょうか、その幅ですね。例えば二十年から五十年ぐらいの幅とか、そのあたりのことは調べておられるのでしょうか、どうでしょうか。一言で結構です。
  102. 井口憲一

    ○井口説明員 先ほど申しましたように、犯罪に関係があるかどうかという観点からというものでございますから、それが百年前のものかあるいは二百年前のものかという点での調査は、いたしておりません。
  103. 鈴木喜久子

    ○鈴木(喜)委員 時間が来ましたのでここまでになりますが、要するに人道上の問題です。これはほかの方から見て百年も前のものではない。四十年、五十年前ということぐらいまでしかない。もっと幅が短いかもしれません。そうすると、その間にあったら、この骨は、どこの国であれ、その故国で眠ることが必要なものでございますから、これをきちんと眠らせるということは、人道上もそして国際法上の問題からいっても、そこまで調べる必要があると思うのです。  これから先、また機会がありましたら何回でもいろいろと教えていただきたいと思います。きょうはここでおしまいにさせていただきます。
  104. 星野行男

    ○星野委員長代理 小森龍邦君。
  105. 小森龍邦

    ○小森委員 罰金の額の引き上げに関係しまして何点かお尋ねをしたいと思います。  まず、今回の罰金の引き上げを考えられた大きな理由の一つに、説明の中にもございますが、財産刑の刑罰としての機能低下をさせてはならないから、物価の指数その他よく考えてこういう取り組みをした、こういうことでございます。  そこで、そのことに関係をしまして、数字的にも後でお尋ねをしたいと思いますが、まず第一の問題とすれば、この財産刑の機能というものは非常に個人差のあるものでございます。つまりどれだけ苦痛を与えるか、苦痛というか、害悪という言葉を刑法などを説明する書物には書いてありますが、これは物すごい差があるわけであります。先ほどどもの党の小澤委員の方からその点について多少触れられておりましたが、個人的に差のあるものを、財産刑機能の低下というような単純な言葉でくくれるものではないと思いますが、その辺どういうふうに、これにはうかがえないわけでありますが、実質上この機能の低下を防ぐということについての努力、今検討されておるのか、こういう点をひとつお知らせをいただきたいと思います。
  106. 井嶋一友

    井嶋政府委員 罰金刑の本質は何かということにつきましては、委員今御指摘のように、一定の金額を剥奪するというふうな内容の刑罰でございますから、これは犯罪を犯した者に対して財産的な苦痛を与えるということにその本質がありまして、それによって犯罰の予防をしよう、こういうことになるわけでございます。そういうことでございますから、やはり科せられる者の資力に相応した金額でなければ意味をなさないという御指摘は、そのとおりかと思うわけでございます。  このように、司法の実務におきましては、犯罪を犯した者に対してどのような刑を科すかという際に、起訴、不起訴を定める我々の立場からすれば、どういった量刑を盛るかという観点から、どのような資力があるか、財力があるかといったようなこともそれなりに考慮しなければならないことだろうと思います。同時に、これは裁判所のことでございますから私が申すことではないわけでございますけれども、いわゆる量刑の中において、そういったことが全体の中の一つとして考慮されておるのだろうというふうに思うわけでございます。そういう意味で、刑罰としての苦痛といったものが大きなファクターになっておる刑でございますから、したがって、経済事情変動といったようなものにスライドしておりませんと、そのときそのときの財産刑としての苦痛の度合いが、現実とマッチしないといったことが起こってはならないと思うわけでございます。そういったことから、今回変動に伴った改正を行いたいということを申し上げておるわけでございます。
  107. 小森龍邦

    ○小森委員 量刑でそれをカバーするということ、法律の条文に示してある量刑で、財産によってカバーするということは、それはちょっとあり得ないことだし、そういうことがぐっと前面に出てくると、それは大変な裁判官の恣意になるし、求刑をする側も大変恣意的な求刑をしておるということになるわけですから、それはちょっと私はうなずけないのであります。  それで、私が一番聞きたい点は、これは、本当に財産刑の機能ということを考える場合には、各人各人の財産というものに、その人なりにどの程度の打撃というか、財産を国家権力が出させるかということが問題なのでありまして、そういうことを考えずに近代的な法治国家が、これまで法制審議会などでずっと刑法の問題もやっておるのに、この段階でぱっと、思いつきだと私は思いますけれども、法則性なしに出すということはちょっとうなずけないのですね。  年収一億円の者に百万円の罰金と、年収五百万円の者に対して百万円の罰金では、これは五百万円の者に対して痛打を与えるでしょう。物すごい苦痛なんです。そういうことを考えなかったら、それは本当の近代的な法思想に基づく一種の広義の意味における罪刑法定主義の考えだと思いますが、そういうものが守れないのではないかと思いますので、もう一度お尋ねをいたします。
  108. 井嶋一友

    井嶋政府委員 委員の御指摘は、要するにもっと科学的に経済変動その他のことを研究し、そういったものと相対的に刑罰として科せられる金額、つまり苦痛との関係をもっと科学的に立証する調査をしなければ、今回のような改正は唐突である、こういう御趣旨であろうかと思うわけでございます。  確かに、御指摘のように収入の額によって受ける苦痛は違うのであろうと思いますけれども、それはそれといたしまして、全般に、社会の経済状況が変動いたしますことによって、相対的に全体として罰金の財産刑としての機能が低下してしまう。これは、個々の苦痛の問題ではなくて、全般としての機能が低下するという現実がある場合に、政策的に今回のような手法でこれを修正いたしまして、全体としての機能を高めるということもまた必要であろうと思うわけでございまして、今回は御指摘のような手法といったことにはなっておりませんけれども、やはり我々としては、全体として機能の低下しているこの財産刑の現実を修正する必要があるという観点から、いろいろな指標を使ってこれを修正をしたということなのでございます。
  109. 小森龍邦

    ○小森委員 法務省の方からお配りをいただきましたこの法律案関係資料の中の「一件当たり平均罰金額年次比較表」というのが私の手元に届いていますが、これを見ますと、収入というものの指数が大体二五〇という指数を示しておるのに対して、罰金の額、それを指数に直しますと、「刑法犯(注一)」とありまして、その(注一)は「爆発物取締罰則違反及び暴力行為等処罰に関する法律違反を含む。」こうなっている。いろいろと説明がありますけれども、ページ数でいいますと四ページのところを見ると、指数が二二八、三一六というのもある。そういうことから見ると、今日までそんなに、個々の問題でもう少したくさん罰金取りたいというのもあるかもしれませんけれども、大体の状況からすれば、ここの段階で二・五倍上げなければならぬということはわかりませんね。グラフをかいたら今まで物価の指数と同じぐらいのカーブで上がっているのですからね。ここでちょっと行き詰まりになるかもわからぬから五〇%ほど上げようかというならわかるが、二五〇%というのは、ちょっと私は意味がわからないのですが、その点はどうでしょうか。
  110. 井嶋一友

    井嶋政府委員 後で細かい点は御説明させますが、私の理解しているところでは、例えば今お示しの刑法犯の罰金額、平成元年でいいますと八万九千七百六円となっておるわけでございます。これは一件当たりの罰金額でございますが、平均的にどんどん上がってまいっておりまして、要するに四十七年から二・三倍になっておるということでございます。つまり、その間に金額として上がっておらなければ、結局その部分が上限に近づいてきている、つまり頭打ち現象になっておるということにもなるわけでございまして、そこに一つの機能の低下といったことがあるわけでございますから、そういったものもこの表から読み取っていただきたいと思うわけでございます。
  111. 小森龍邦

    ○小森委員 余り細かいことを聞いておると時間がなくなりますから、この点でもう一回お尋ねします。  確かに頭打ち現象ということは、この数字で、頭打ちに近いというところに来ておるということはわかります。しかし、それを一遍に二・五倍というのはどういうことですか。今からまた十年か十五年したら物価が二・五倍上がる、我が国の経済政策をそういうふうに見ているのですか。それはちょっとおかしいでしょう。だから、この程度の簡単な法律案を提出することについても、あらかじめもう二十年とか二十五年とかはやらないというような、俗に言うと横着な取り組み、しかもその横着なことをその都度簡単な計算でやるということは、私は納得がいかない、こう言っているのです。経済の見通しなんかいったらどうなんですか。これは五〇%か七〇%か上げておけば、これから経済のかじ取りもうまくやらなければいかぬのでありますが、それで十分通用するんじゃないかと私は思いますが、いかがでしょうか。
  112. 井嶋一友

    井嶋政府委員 将来を見越して上げておくということをおっしゃるわけでございますけれども先ほど来申しておりますように、この罰金額というのは、あくまであえて与える苦痛でございますから、やはりそれが相対的に急激な圧迫になるようなことは避けなければならないということも、他方あるわけでございます。  そこで結局、経済の実情がどうなって変遷してきたかという過去の方に振り返りまして、そして過去の四十七年から見て、いろいろな指数を見て、その上で、例えば労働者賃金は平成元年では約三・五倍になっている、国民所得も同じベースで約三・六倍になっておる、あるいは消費者物価指数も二・五倍である、こういったことから、それと大体同じ額を引き上げておけば、同じような形で経済変動を享受した国民にとって苦痛感という圧迫は同じ率で変わらない、それが刑としてのあり方だろう、こういうふうに思うわけでございます。
  113. 小森龍邦

    ○小森委員 それは法律案を出す方の、いわば事務を簡略化した、余り細かいところまで国民の権利に配慮しない方の言い分でありまして、二・五倍というのを大体の基本にしておりますけれども、物によれば十倍ぐらい上がった物もあります。そうすると、求刑をする検事の立場の裁量の幅が非常に大きくなる、裁判官の判決を出すときの裁量の幅が大きくなって、実際は罪刑法定主義というものの機能を果たさなくなるのであります。これだけのことに対してはこれだけと言って、幅が狭いほど国民には納得がいくのです、自分のやったことに対して納得がいくんですね。ところが、場合によったら物すごい多額罰金を受ける場合もあるし、場合によったら少額であるというような差になりますといけないので、そういう点で、本当に法治国家としての法制の審議とかそういうものの取り組みをやっているのかということを、私は疑問に思うわけであります。  そして、もしこの財産刑の機能を低下させてはならないというならば、一部には物すごい金を持って、金が余ってどうにもならぬから地上げをやったり、まあ簡単に言うと今日本の経済を攪乱しておるのがおるでしょう。私もこの間ニューヨークへ行ってみたけれども、ニューヨークの大きな建物はほとんど日本が買っている。それで買った建物を使いよるかといったら使いよらぬ。がらあきなんですよ。片方でそういうふうな状況があって、先ほど我が党の鈴木委員指摘されておりましたように、それはもう頭打ち、実情に合わないんですよ。ところが庶民の方は非常に重くかかる。ここが私は問題だと思うのです。これは財産刑の機能の低下などと言えるようなものじゃないですよ、そういうことで説明されるようなものじゃないですよ。  まあ物の考え方を幾らやりとりしてもいけませんが、どうですかその点、少しはやっぱりそうだなあと思う点があるでしょう。
  114. 井嶋一友

    井嶋政府委員 おっしゃることは理解できないわけではございませんけれども、今委員がおっしゃったようないわゆる金額の幅といいますか、金額の幅を非常に大きなものにしておくといったような手法は、逆にかえって罪刑法定主義に反する。やはりある程度の限度の中において量刑が盛られるということがいわゆる罪刑法定主義の要請なんでありまして、そういった意味で、従来の定着している刑罰としての罰金額の法定上限あるいは下限といったものの体系を基本的に崩さないという原則の上に立って、経済変動が過去に振り返ればこういう倍率になった、そこで、皆さんも経済的にはそういう認識をお持ちになるんだから、それに応じた、それとスライドした額の改定をしておけば、それは財産刑としての苦痛の度合いも前と同じであるということになるんではないかという考え方でございまして、そこはちょっと委員の仰せとかみ合わぬかもしれませんけれども、私たちはそのように考えておるわけでございます。
  115. 小森龍邦

    ○小森委員 私は、それはそういうふうな説明にはならないと思っています。先ほど来の議論を聞かせてもらっておりまして、例えば相手の財産を調べるのがなかなか難しいからというけれども、現に税金はちゃんと物を調べてやっているのです。それから、保育料もやはり調べて決定しているのです。国民健康保険税もそうなんです。固定資産税なんかもちろんのことですけれどもね。ちゃんとほかの行政庁がやっているのに、権利義務に関する、つまり刑罰というものは平等性が確保されなかったら国民は納得しませんけれども、その一番究極のところで平等性を確保しなければいかぬところがこんなことでは、どうにもならぬでしょう。  たくさんのスタッフを持ち、がっちりした行政機能を持っておるところは、やはりもう少しそれらしいことを法案として出すべきだ。これはもう仕方ないから私の意見を強く申し上げておきまして、やはりきちっとやるときにはきちっとしてもらわなければいかぬと思うのです。国民金融公庫だって、どれくらい収入があるかということを調べて、貸す貸さないを決定しているのですよ。それは多少、事務的に本当の意味の一〇〇%の公平は期せないかもわからないけれども、公平に近いところはいけるわけでしょう。そういう点はひとつ私は強く申し上げておきたいと思います。  それで、一応こういう資料をもらいますと、そうかなあ、こうは思いました。つまり、三・六倍も賃金は上がって、指数は二・五、六倍だからそれくらい上げるのが至当だというように、ちょっとの感覚では思いましたが、これはちょっと参考までに申し上げておきますけれども、こういう収入の数字が示すときに、一体可処分所得というものはどうなっているか。ここを見ないと、やはりたくさん賃金もらって物価がこの程度だからこのくらいが妥当だろうというような考え方がつい出てくるのであります。しかし、可処分所得というものはそうはいっていない。  要するに、随分収入がふえた中に、何が大きく食い込んでおるか。これは同じく政府筋の資料によって、私が手に入れた資料が、年度が多少前のであったり、最後の締めくくりが少し繰り上がっておったりして、法務省の方が出された資料と全く年次は一致しない、一年や二年は前や後へずれますけれども、例えば可処分所得の中ですぐに使いたくなるようなものは、何といいましても被服とか履物とか、格好のいいものを着たいとかいうことになるでしょう。それが一九七一年から一九八八年、七一年というと昭和四十六年ですね。八八年というと昭和六十三年ですね。その間に被服、履物等は二・三四倍しか支出してないのです。これは総務庁統計局、勤労者一世帯当たり。  ところが、同じ可処分所得でも、ほぼ義務的なような形態を持つ教育はどうか。これはもう親の心からすれば、ほぼ義務的ですね。教育の金を渋るということは、親とすれば、これはちょっとできにくいですからね。教育は五・八四倍金がかかっている。つまり、そういうふうなことをずっとやっていくと、税金とか社会保障費とかいう非消費支出は、七・三四五倍なのです。そちらに金を取られておるのです。  そちらに金を取られておるときに、こんな簡単な数字で、物価もこれくらいだし、収入もこうだからということで簡単に割って、しかもそれが、五〇%や八〇%上がったのならいいけれども、二五〇%も上がるようなことでは、罰金刑というのは今言うように金持ちと貧乏人とでは随分苦痛の度合いが違うし、その苦痛が罪を犯した者だけに及べばよいけれども、収入にまつわるのだから、特に子供たちの教育にもこたえるでしょう。そこを考えてもらわなければいかぬと私は思うのですね。この資料に関係して、少し視点が甘かったのではないかという私の指摘なのですが、その点はいかがでしょうか。
  116. 井嶋一友

    井嶋政府委員 お手元に配付した資料には、経済指標といたしまして、先ほど申しました三つの指標をお示ししておるわけでございますが、それ以外にもいろいろ研究はしておるわけでございます。ただ、今仰せの可処分所得というものをどのように定義づけるのかということがいろいろあるようでございますので、委員のお出しになるデータとまた違うかもしれませんけれども、私どもが持っております、総務庁統計局が出しました「勤労者世帯一世帯当たり年平均一カ月間の実収入と可処分所得」こういうデータによりますと、これは昭和四十七年を指数一〇〇といたしますと、平成元年の可処分所得の指数は三三二・六というようなデータもあるわけでございまして、そういったことを研究しながら、四十七年の改正と同じ手法で行わせていただいたということなのでございます。     〔星野委員長代理退席、山口(俊)委員長代理着席〕
  117. 小森龍邦

    ○小森委員 経済企画庁との議論じゃありませんから、余りそれは詳しい議論をしようと思いませんけれども、今お話しになりました同じ資料によって見まして、こういう見方でしなければ、本当に庶民の心というものが私はわかっていただけないと思うのです。それはどういう心で見るかというと、例えば大金持ちが地上げをやって、そして庶民は土地、家屋の借金の返済がかさむ時期が来ておる。それに金を食われるのですね。それから、隣が大学へ行かせておるのに、うちが大学へ行かさぬというわけにはいかない。人間の苦痛というものは相対的なものでしょう、不自由というものは。私らが子供のときに一汁一菜で飯を食べておったが、そのころは余り粗末なものを食べて おると思わなかったのです。しかし、食堂へ行って、隣がごちそうを食べよって、自分だけがいつもいつも三百五十円のラーメンで済ますというわけにはいかないのであります。  そういうことで、相対的に生活が高くなってくると、従来の経済学のいうところの可処分所得と非可処分所得というだけでは見られない。しかし、そういう見方からしても、個別項目を挙げてみると、かなりほぼ各人の心の中には義務的支出と思われるものがふえておる。ということがありますので、そういうことを考えていただかなければいかぬということを申し上げておきたいと思います。これはもう仕方がないですな。ここまで来てこれを崩すというとちょっと難しいだろうね。けれども、それはじっくり考えてもらわなければいかぬことだと思いますね。  それから、この基本は二・五倍ということなんでありますけれども、寡額の方は大分高くなっておるという事前の説明も聞きました。この罰金の額を定めるのに、各法律間にいろいろな法律の関係があります。例えば地方自治法とか、例えば暴力行為等の法律とかありますが、一体罰金の額の引き上げについて、それぞれの法律間に一つの法則性を持ってやっているのかどうか、この点をお尋ねしたいと思います。
  118. 東條伸一郎

    ○東條説明員 具体的な一つの犯罪につきましてどのような法定刑を定めるかということは、私ども刑事局で仕事をしております者、いつも考えながら仕事をしておるわけでございます。その法則というものが果たしてあるかと言われますと、これは人間のつくった一つの法制度でございますから、科学的な法則といったものが本当に言えるのかどうか、これはなかなか疑問だと思います。  ただ、私ども基準といたしておりますのは、従来から存在したものとの類似性というものを求めまして、それと違う点とを考慮する。例えば保護法益が同じであるのか、それから行為態様も似ているのか似ていないのか、そのような点を考えまして、従来ある一つの罰金なり懲役刑を定めた刑がありますと、それとの差異を求めていく。しかし、その際に従来のものを丸のみするのではなくて、従来行われてきたことが合理的かどうかということも一応考えていかなければならないというようなことで、議論をしながら一つ一つ決めていっているというのが実情でございます。法則というほどのことはございませんけれども、そういう考え方で日常仕事をしているということでございます。
  119. 小森龍邦

    ○小森委員 私が主として尋ねたいと思いますことは、例えば刑法とそれから暴力行為等何とか法というあの法律との間で、自由刑の方は三年とか二年とか一年とか、こういうふうに、半年のもありますけれども、例えば三年なら三年というふうに規定してある。懲役刑の方を三年と規定してあるものに対して、その当時、できたときは五百円の罰金刑があった。「三年以下ノ懲役又ハ五百円以下ノ罰金ニ処ス」、そういう条文がありますね。そのときに、この三年というのは動いてないわけですよ、罰金改正しよるわけですからね。そうすると五百円は動くわけです。ところが一年以下の懲役、何十円以下の罰金というのと、三年以下の懲役または何百円以下の罰金というときの、そこに一つの法則性を持ってやっておられるのか。こういう意味を私尋ねているのです。
  120. 東條伸一郎

    ○東條説明員 今のお尋ねは、懲役刑と罰金刑が例えば選択刑としてあります場合に、例えば懲役刑が三年であれば罰金は百万円とか二百万円とか、一年であれば三十万円というふうに、比例といいますか、そういう関係が成立しているかというお尋ねであろうかと思います。  通常の場合、そういうバランスといいますか、そういう一つの関係というものも考慮いたしますが、ただ、その犯罪が、例えば非常に利得をねらう、利得を目指す犯罪であるような場合がございます。要するに、お金もうけをするための犯罪であるといったような場合、そしてその罰金刑のねらいというものが、利得を剥奪する意味合いを持たせようという場合がございます。これは典型的には併科刑にする場合が多いのですが、選択刑の場合でもそういうことをねらう場合がございます。刑法典をごらんいただきましても、例えば同じ三年の法定刑罰金刑が非常に低いものと非常に高いものが並んでおります。  これはなぜかといいますと、恐らく立法当時から、利得を目指すような行為類型については、懲役刑としては同じものでありながら、罰金刑は非常に多額罰金刑を定めているという場合もあるわけでございます。したがいまして、懲役刑が三年であるから罰金はこうなる、一年であるからこうなるというような厳密なものはございません。ただ、同じような構成要件で同じようなものであればできるだけ同じようにしていかなければならないというような意味では、常に努力をしているということでございます。
  121. 小森龍邦

    ○小森委員 ちょっとその答弁とは事実は違うようですけれどもね。私も忙しいから余り詳しく調べてないが、例えば暴力行為等のあの法律の場合に、第一条の場合は「三年以下ノ懲役又ハ五百円以下ノ罰金ニ処ス」、これは集団的暴行、脅迫ですよ。そして要するに集団的方法によって利得を得る、「財産上ノ利益若ハ職務ヲ供与シ又ハ其ノ申込若ハ約束ヲ為シタル者及情ヲ知リテ供与ヲ受ケ又ハ其ノ要求若ハ約束ヲ為シタル者ハ六月以下ノ懲役又ハ五十円以下ノ罰金ニ処ス」という、この第三条ですね。第三条の罰金の引き上げの比重とそれから一条の罰金の引き上げの比重というものは、要するに懲役の年限とそれに相応した罰金というものとの比重いうものは、利得を得る方の罪の方が少し重いようですがね。どうでしょうか。
  122. 東條伸一郎

    ○東條説明員 ただいまのお尋ねは、具体的に暴力行為等処罰ニ関スル法律の一条、これが修正前の現在の形で読みますと「三年以下ノ懲役又ハ五百円」、それから第二条の一項でございますか、「財産上不正ノ利益ヲ得又ハ得シムル目的ヲ以テ第一条ノ方法ニ依リ面会ヲ強請シ又ハ強談威迫ノ行為ヲ為シタル者ハ一年以下ノ懲役又ハ百円」、こうなっておる、その点で一年、百円の方が重いのではないかという御指摘でございますか。それであれば、むしろこれは、利得をねらっているので懲役刑は低いけれども罰金刑は相対的に高くなっているという意味では、私の今までの御説明と矛盾はしないと思います。  しかし、私が先ほど申し上げましたのは、刑法典の全体の中で、同じ三年の懲役刑を定めているものでも罰金が非常にばらつきがあるということの御説明として申し上げたわけでございまして、暴力行為等の問題に直接お答えしたことではないので、ちょっとその点は御了解いただきたいと思います。
  123. 小森龍邦

    ○小森委員 そうすると、三条の場合はそう重くない。しかし、二条もそうでしょう。「財産上不正ノ利益ヲ得又ハ得シムル目的ヲ以テ第一条ノ方法ニ依リ面会ヲ強請シ又ハ強談威迫ノ行為ヲ為シタル者ハ」、こういうところは明らかにこれは低いでしょう。百円が何ぼになったのですか、百円をどういうふうにこれは変えるのですか。
  124. 東條伸一郎

    ○東條説明員 現在の百円ですから、現行で二百倍の二万円、二万円のクラスは今度は全部まとめて十万円まで上がるということになります。そのとおりでございます。
  125. 小森龍邦

    ○小森委員 それでその第二条の、つまり懲役刑にする場合は一年でしょう。その関係は高くも低くもないのですか。大体一般的ですか。今回改正案出された分のは大体一般的ですか。
  126. 東條伸一郎

    ○東條説明員 お尋ねの御趣旨が、一年と十万円という罰金と懲役刑のバランスが一般的かというお尋ねでございましたら、そのような法定刑を持つ法律はかなりあると思います。懲役刑一年で罰金十万円という定め方というのは、それほど珍しいことではないと思います。
  127. 小森龍邦

    ○小森委員 それは要するに、出てきた結果もそうですし、それから上がっていく倍率の問題もありますね。百円が十万円というのと五十円が十万円というのじゃ、それを説明は、寡額の部分についてある程度のところ頭をそろえたんだ、こういう説明は成り立つと思いますけれども、しかし、 倍率というものは半分ということになるでしょう。そこが法則性を持たずにやっているのじゃないかということを私は尋ねているのです。     〔山口委員長代理退席、委員長着席〕
  128. 東條伸一郎

    ○東條説明員 確かに、御指摘のように法則性というのが、経済実勢だけを見て、その倍率なら倍率で掛けていくというのが一つの法則性である、これは確かに法則性であろうかと思います。既に午前中からの御質疑を含めまして、先生の御質疑も含めまして、下の方の罰金額の倍率が高いということの問題性ということについては、御指摘をいただいてきているわけでございます。  そこで、今回の改正法律を定めますまでの、私どもの内部で検討しました経緯というものを若干御説明申し上げた方がいいかと思いますが、実は昭和二十三年に罰金等臨時措置法という法律で、現在の刑法典及び暴力行為等処罰ニ関スル法律及び経済関係罰則ノ整備ニ関スル法律、この三法律罰則を一律五十倍とした。そのときのスタートといいますか、そのときに果たして本当に十分な罰金額の定めであったかどうかという点から、反省といいますか、見直してみたわけでございます。  それで、刑法典が定められました明治四十年当時というのは、物価水準、もちろん今とは隔世の感のある時代でございまして、当時の五十円という金額は非常に高い金額であり、百円というのはさらに高い金額である。それで、そういうものが今の一万円とか二万円とは比較にならない重さを持った罰金であったわけでございます。  我々は、新しい罰金額を定めるときに、それじゃ、刑法典が本来予想していた罰金のところまで一遍に今度の法改正といいますか、ということを考えたらどうかということもいろいろ考えたわけでございます。ただ、そうなりますと、個別の罪をすべて見直すということにもつながりますし、刑法全面改正作業ということにもなってしまう。とりあえずは今の段階で、消費者物価指数、つまり貨幣価値を一番忠実に反映していると思われる消費者物価指数を基準として、四十七年以後の物価変動を反映する改正を中心といたしまして、ただ余りに低い部分につきましては、一万円を二万五千円に上げたとしても、これは現在の罰金という、従来本当に重いとされてきたものとしては余りにも低過ぎる罰金にとどまってしまいますので、そういうものはある程度大幅に引き上げざるを得ないということで下の部分を引き上げたという経緯がございました。  そこで、それではこのままの改正で十分かという問題がございます。そこで、法制審議会に対する諮問でも、実は今回の改正に加えましてさらに基本的に問題を検討してもらいたいという諮問をいたしまして、法制審議会ではそれを受けまして、刑事法部会で引き続き基本問題を検討することになっております。その第一の議題が罰金、それから科料というもう一つの財産刑がございますが、そういうものを含めまして、財産刑のあり方はどう考えたらいいのかということを考え直そうということが検討課題の筆頭に上がっているわけでございまして、今の御指摘の点も含めまして、その委員会の中で議論を十分に詰めて、正しい本当の財産刑のあるべき姿というものをさらに追求してまいりたい、このように考えておる次第でございます。
  129. 小森龍邦

    ○小森委員 刑法の審議会なんかがずっとやっておられるわけで、行政を進めていくテンポというものは、私の感覚からいったら、こんなことを出すときにそれはさっさとできてなければいかぬのですよ。しかも、これはあなた、何年ぶりですか。十何年ぶり、二十年近いでしょう。二十年もかかっておるのに、それをまたこれから議論をちょっと進めていくのですというのでは、これは一般世間の庶民の生活感覚には合わないのですよ。しかも、私はここで不服を言わせてもらえば、政府が持っておる各審議会の討論の途中経過というのは、国民にオープンじゃないでしょう。わからないでしょう。途中で我々世論が言うとあくけれどもね。しかし、だれがどういう考えを持ってやりおるということも、よほどのことがなかったらほとんど、九八%、もう九九%わからないでしょう。そこで、こういうふうにせっかく出したときに、いろいろな疑問のわくようなことが出てきておるわけです。  それで、もう一つ角度を変えてお尋ねしますけれども、例えば暴力行為等処罰に関する法律の中に示されておる第一条、刑法二百八条とか二百二十二条とか二百六十一条とか、これこれの罪をなしたる者は、この集団的暴行、脅迫、つまり「団体若ハ多衆ノ威力ヲ示シ、」云々という、「多衆ノ威力ヲ示シ、」ということが加わることによって罰が少し重くなっておると思うのです。その罰が重くなっておることはわかりますが、罰金部分はどれくらいここへ差が出てきますか。
  130. 井嶋一友

    井嶋政府委員 罰金については変わっておりません。同じでございます。
  131. 小森龍邦

    ○小森委員 そうすると、それは額において変わってないのですね。  それで、この際ちょっとお尋ねをしておきますけれども、「兇器ヲ示シ」というのは、これはもう客観的な事実でよくわかりますが、「多衆ノ威力ヲ示シ、団体若ハ多衆ヲ仮装シテ威力ヲ示シ」というのは、どういう判断でやるのですか。通常、いろいろな労働組合の運動とか民衆団体の運動というのは、やはり一人一人が弱いから、毛利元就の話じゃないが、三本の矢の例えのように、団結すれば強いという意味でやっておるわけでしょう。それが、普通の刑法の適用でなくてこの暴力行為等処罰に関する法律ということで、少しきつくなるということについては、これはまた本当に罪刑法定主義の精神に合うか合わぬかという議論が出てくると思いますし、しかもこれは、私昔読んだ本でありますけれども、この法律というのは、当時の国会で農民組合運動を弾圧しないというような附帯決議なのか何かがついて通ったように記憶しています。  私から言うと、それだけこれは治安維持法の前段の法律だと思う。そういうものが、検事とか裁判官の恣意性を除去して果たしてこの法律が適用されるのかどうかということも心配でありますから、その辺のお考えもひとつ聞いておきましょう。
  132. 井嶋一友

    井嶋政府委員 今お尋ね趣旨をあるいはちょっと取り違えておるのかもしれませんけれども暴力行為等処罰に関する法律というのは、罰臨法制定いたしますときに既に成立しておったわけでございまして、刑法に準じる一種の準刑法といった形で運用されておった重要な法律であるということから、罰臨法制定いたしますときに、刑法と同じレベルの法律として処理をするということで、罰臨法経済罰則と三つが同じ扱いがとられることになり、法定刑の定めにつきましても、その後の改正も同じ考え方が適用されて今日まで来ておるわけでございまして、私どもとすれば、刑法に準じた重要な法律であるというふうに考えておるわけでございます。  御指摘のような立法のときの趣旨があったのかどうか、私はちょっと現時点では不勉強でお答えができませんけれども、とにかく刑法に準じるもの。それから特に、刑法の例えば二百八条というのは暴行罪でございますけれども、それの一つの特別法といったような形で、多衆で行う犯罪を重くするという趣旨でつくられた法律であろうというふうに考えております。
  133. 小森龍邦

    ○小森委員 これも詳しく質問するという通告をしていなかったので、いかがかと思いますけれども、要するにその判断というものですね。それは、近代的な法の感覚が次第にできてきて、憲法にも書いてありますように、団結権は「これを保障する。」となっていますね。「団結権はこれを保障する。」と言い切っているのですよ。いろいろな基本的人権のところの条章が憲法の中にどうあるかといったら、何々を害さない限りとか、公共の福祉に反しない限りとか、こう書いているけれども、団結権だけは制限条項をつけてないのです、憲法の中に。それほど重みがあると思うのですよ。実際、常識とすれば、いろいろこれは行き過ぎたらいかぬわけですからね。しかし、条文とすれば、団結権は「これを保障する。」と言い切っているので す。  その団結権と、我が国の新しい立派な憲法ができる以前のこの法律の中に書いてある「団体若ハ多衆ヲ仮装シテ」などというような、それは仮装したのだろうというて権力を持っておる側の者が解釈したら、それまでのものになるでしょう。そこのところを私は尋ねておるのです。どういうふうな基準で「多衆ノ威力ヲ示シ、」などと言えるのか。そもそも、団結権というのは多数の威力を示さなかったら成り立たないでしょう。その点いかがですか。
  134. 井嶋一友

    井嶋政府委員 憲法に保障された団結権といったものがそういった性質を保有するものであるということは、おっしゃるとおりだろうと思います。
  135. 小森龍邦

    ○小森委員 私が尋ねておるのは、じゃ、最高裁判所の方からちょっと考え方を示してもらいたいと思いますが、これには判例もあることだろうと思いますが、要するにそこの考え方の基本的な数字だけひとつお示し願えませんか。
  136. 島田仁郎

    島田最高裁判所長官代理者 判例等についてまだ調査不十分で、私どもちょっと今正確にお答えするわけにいきませんが、先ほど来問題になっておりますところの暴力行為等処罰ニ関スル法律違反が適用されておる例としましては、裁判所で私ども見ております範囲でよくありますのは、いわゆる暴力団と称せられているような何々組、何々組、そういった人たちがその暴力団の名前を殊さらに事しまして、それによって威力を示して刑法等の犯罪をする、そういった場合には、単純な刑法等の犯罪を犯した場合よりも一般定型的に犯状等が重いということで、立法当局といたしましてもそのような特別な法律を立法されて重い処罰を科しておられるのだというふうに理解いたしております。
  137. 小森龍邦

    ○小森委員 実際はそうなっておらず、ねらうところは、いわゆる社会的な運動をしておる団体、こういうことではないかと私は思うのです。それはまたそういう関係の法案が出たときにいろいろ議論させてもらいたいと思いますから、きょうは私は余り詳しくは申し上げませんけれども、実際その明らかなることでも本当は取り締まってない。だから、結局一般善良なる市民がおびえて、いつまでたっても問題は解決しないでしょう。いつまでたっても、そういう本当に暴力的なことをする者と市民との関係というものは、恐怖の念というものは絶てないでしょう。ますますあれこれあるわけでしょう。そういうところへは余りやらずに、それは市民の実感はそうですよ。しかし実際は、一たび間違うたら、これで団体がねらわれる、こういう関係のものだと私は思っています。これはまた機会があったら議論させてもらいたいと思います。  それから次に、もう時間が余りないので、地方自治法との関係についてちょっとお尋ねをしたいと思います。  地方自治法の第十四条に、罰金を定めるとなっていますが、私の一番大きな疑問は、罪刑法定主義の立場から、法律は要するに国会でこれを審議し、立法するものである、この建前からいきまして、法律の定める手続によらなければ何人も罰を科せられない、こういう憲法第三十一条の規定がございます。それとの関係におきまして、現在あるものはやむを得ないといたしましても、それが現在の罰金の定める十万円以下というのが一度にばっと百万円になるということは、そこのところが原則の問題としても前からのどに引っかかるものがあったのが、それがまた十倍になるということはいかがなものか、こういう疑問を私は持つのですが、どうでしょうか。
  138. 井嶋一友

    井嶋政府委員 条例につきまして、地方自治法で定め得る罰金最高限度額を百万円に引き上げたという点についての理由を御説明申し上げます。  今御指摘のように、地方自治法の十四条五項が条例制定罰則罰金多額の限度額をどの程度にするかという点につきまして回答を出しておるわけでございまして、本来的にはどう考えるかということは、この法律を所管いたします自治省の判断によるわけでございますが、私どもといたしまして、自治省と協議をいたしました結果今回の結論に達したわけでございます。この地方自治法十四条の規定は、実は昭和二十二年に今の金額十万円と定められまして以来、一度も改正されておりません。したがいまして、罰臨法改正が行われましたにもかかわらず、条例につきましてはそのままの形で今日まで来ておるわけでございます。  そこで、その当時とのここの経済変動といったものを指数的に見ますと、十七倍になっておるという数が出るわけでございます。そういたしますと、先ほど来御説明しております四十七年以来の変動二・五倍ということでやりましたのと同じ手法で考えますと、条例につきましても十七倍、つまり百五十万あるいは二百万といったような額になるわけでございます。  しかし、これは余りにも急激な変動をもたらすということもございまして、そこで結局両省との協議で百万円という限度額を定めたわけでございます。  ただ、百万円というのはあくまで条例で定め得る最高限度額でございますから、各地方自治体が議会において一つの行為を犯罪、罰則だと定められる場合に、その議会においていかなる刑が適切であるかということの御審議の結果罰則が決まるわけでございますが、その決め得る最高限度が百万だよと申しておるわけでございまして、あとは各自治体がそれぞれ民主主義によってお定めになる罰則制定されるものだ、このように考えております。
  139. 小森龍邦

    ○小森委員 もしわかっておれば、地方自治体が決めておる、もしくは今の十万円の現状で、最高額もしくは最高額に近いところで、どういう犯罪を犯罪だと認めて、どういう犯罪に対してそういう最高額もしくは最高額に近い条例をつくっておるかというのを、あれば二、三お示しをいただきたいと思います。  委員長、ちょっと済みませんけれども最高裁の方から、今の罪刑法定主義の建前に関連して、要するに条例で罪を定めるということに対していろいろ疑義がありますけれども、それは恐らく合法という考え方に立っておられるのじゃないかと思いますが、そこの論拠をちょっとお示しいただければ。
  140. 島田仁郎

    島田最高裁判所長官代理者 議論といたしましては、条例をもって刑罰を定めることについては憲法との関係で問題があるという議論があることは承知いたしておりますが、しかしそれについては既に学説、判例等一般的な見解におきましては、ある合理的な枠内で条例に罰則を委任することも合憲であるという立場をとっておるというふうに理解いたしております。
  141. 東條伸一郎

    ○東條説明員 私どもこの条例につきましては直接に所管をしておりませんので、どのような罰則で十万円以下のものを、現在十万円が最高ですが、ただ罰金以下の罪に当たる身柄事件、つまり逮捕した事件がどのぐらいあるかという調査をした過程でわかっているものだけについて、若干御報告いたしたいと思います。  十万円の罰金でそういう通常逮捕まで至っているような事件は、青少年保護育成条例というのが県によっては定められております。みだらな行為、淫行行為といいますか、そういうものを青少年に対してしたというような犯罪等、条例上の犯罪でございますが、こういうものに十万円以下の罪を定めたものがあるようでございます。それからあとは、屋外広告物条例というのがあるようでございますが、この中でも、これは各県いろいろ違うようでございますが、中には十万円以下の罰金を定めた条例があるようでございます。もちろんそのほかにもいろいろと、公害関係の条例ですとか十万円の最高罰金額を定めた条例はあろうかと思いますが、現在ちょっとその細かい点まで調査しておりませんので、わかる限りではこの程度でございます。
  142. 小森龍邦

    ○小森委員 青少年保護条例などは、恐らくみだらなわいせつな行為ということになるのでしょうけれども、そういうものはちゃんと刑法でそれぞれの罰条が決まっておるわけでありまして、殊さらにやって、そして精神的な規定とかその他みんながお互いに頑張ろうという条例は、もちろん地方自治の本旨に基づいて当然のことでありますけれども、罰条を法律以外で決める。しかしそれは現実にあることなんだから、相当歴史を持っておることだから今すぐどうこう言うことは言えないが、その上がり率が物価の指数で百七十倍になっておるから百倍というような簡単にいくというのも、冒頭の私の論拠である、ずさんさの非難を免れない、こう思います。  それから今の、最高裁の方からちょっとお答えをいただきましたが、今合法という解釈に立っていることはわかるのですけれども、厳密な意味で罪刑法定主義の建前にここがリンケージするから合法なんだというような答弁をいただきたかったわけですが、時間が参りましたので、もうやむなくこれで終わりたいと思います。どうもありがとうございました。
  143. 伊藤公介

    伊藤委員長 御苦労さまでした。  倉田栄喜君。
  144. 倉田栄喜

    倉田委員 まず、今回のこの罰金に関する件ですけれども、今回の改正罰金等臨時措置法改正ではなくて、直接刑法改正する方式にされた、この理由についてお伺いをしたいと思います。
  145. 井嶋一友

    井嶋政府委員 朝から御説明しておりますとおり、今回は昭和四十七年の罰臨法改正以来の改正であり、かつ経済状況の変動に伴う同じ趣旨での改正であるということでございまして、それに限るという趣旨でございますので、改正の手法といたしましては、四十七年と同じように罰臨法改正をして、何倍という倍率の決め方をしておけば足るという改正の仕方も、もちろん選択肢としてございます。しかし、法制審議会に御諮問いたしました議論の中で、日弁連等もそうでございましたし学界もそうでございましたけれども、やはり現在のように刑法罰臨法を両方見なければ、その計算をしなければ法定刑としての金額がわからないというような現実では、もう不都合で仕方がないという御議論がございまして、何とかこの改正については刑法等実体法の各条を改めるようにしてくれ、こういう要望が非常に強く出されました。  そこで、私どもはその両方の選択肢につきまして慎重な検討を遂げたわけでございますけれども、やはりまず、指摘がございましたように、刑法自体に金額が明記されているのが刑事罰則としては望ましいのじゃないかということ、それから四十七年当時刑法改正という手段がとれなかったのは、当時刑法全面改正といった作業が並行して行われておって、間もなく改正されるかもしれないといった事情もあって、とりあえず罰臨法を改めておこうといったようなことがあったように聞いておりますが、こういった状況が今回はないということ、そういったこともございまして、結局刑法の各条を改めるという形に踏み切ることとしたわけでございます。
  146. 倉田栄喜

    倉田委員 今お答えいただきましたように、恐らく四十七年当時も、罰金等臨時措置法でいくのかあるいは刑法本文の改正でいくのか、御議論があった。しかしながら四十七年当時は、刑法の全面改正ということもあるいは近々あり得るかもしれないから、とりあえずは罰金等臨時措置法でいく、そういうこともあったので本文の方には改正が至らなかった、こういうことでございますね。そうすると、今回その本文の改正にしたということは、刑法の全面改正については今回議論にのってこなかったということでしょうか、この刑法の全面改正については何らかの方向性が出てきたということで、今お答えになった中で刑法の本文の改正ということになったのでしょうか。
  147. 井嶋一友

    井嶋政府委員 ちょっと説明が不足であったかもしれませんが、刑法全面改正を現時点であきらめたから今回刑法でやることにしたんだという趣旨で申し上げたわけではございませんで、刑法全面改正をしなければならないという要請は、依然としてございます。私どもは、その意思は放棄いたしておりません。  ただ、全面改正の問題点について簡単に申し上げておきますと、私ども改正をいたしたいと思う草案につきましては、特に保安処分制度の創設といったことを中心といたしまして、いろいろ強力な反対があるといったようなことがございました。ところが、その後保安処分制度の根幹をなす精神衛生行政に大きな改正が行われて、新しい形が踏み出されておるという現実がございますので、そういったことの運用状況を見ながら、さらに将来においてこの保安処分制度の存続が必要かどうかということを決めた上で全面改正に臨もう、こういったのが簡単に申し上げれば現在のスタンスでございますので、そういった意味で、改正作業を放棄したわけではございませんけれども、まあすぐ出てくる問題ではないという意味におきましては、四十七年の当時と事情が若干違うということであろうと思います。
  148. 倉田栄喜

    倉田委員 そうしますと、本文にしたのは、特に二法を見比べてやるのは非常に面倒になってきた、そういう要望が四十七年当時よりも非常に強くなってきた、こういうふうに今お答えを聞いて理解をしたわけでございますけれども刑法は、いわゆる行為規範というか、犯罪と非犯罪を区別する、国民にとってどういう行為をすればそれは罰せられるのか、非常に国民の日常活動を規律をするものである、こういうふうに言われているわけです。そういう意味からすれば、単純に見比べるだけで面倒くさいから罰金のところをやるということだけではなくて、今お話にあった刑法改正作業につながることですけれども刑法全体を口語体にすることであるとか、あるいは刑法各条文に現在ありませんけれども、この罪は何の罪であるよということにちゃんと頭を置くとか、そういうことも検討されてしかるべきであろうし、いわゆる専門家が読んでわかるのではなくて、国民の皆さんが自分がやったことがどういうことになるのだろうなと思ったときに、その刑法の条文を見てある程度判断できるものでなければいけない、こういうことも必要だろうと思うのですが、こういうことも踏まえて検討はされておられるわけでございましょうか。
  149. 井嶋一友

    井嶋政府委員 いわゆる刑法の口語化の問題の御指摘かと思いますが、御指摘のとおり、国民にとってわかりやすいものでなければならないということからいたしますと、明治四十年につくられました刑法、片仮名体の刑法でございますので、親しみにくい文章で書かれておるという現状が好ましいものとは思っておらないわけでございますが、しかし刑法典は、委員指摘のように、一つの犯罪のメルクマールというか概念を定めております、非常に重要な規定でございまして、構成要件を定めるという意味におきまして、その用語、用字、そういったものは非常に厳格、厳密であることが必要であるわけでもございます。  そういったことも踏まえまして、口語化の問題につきましても、全面改正の一環として従来検討してまいっておるわけでございますけれども、例えば今回せっかく罰金刑法で直すんだからこの際やってはどうかというような御指摘でございますけれども、この口語化という問題につきましても、今申したように、刑法の口語化というのは、単に片仮名を平仮名に翻訳するといったような、単純な作業だけでできるものではないという現実も実はございますので、結局は刑法全面改正に近いような作業になるという意味においてまだ取り残されておるということでございまして、できるだけ早い時期にこれをしなきゃならないということもございます。また、日弁連のように口語化だけを先にとってやったらどうかというような御指摘もあることも、十分承知いたしておりますけれども、私どもは今回それもあわせてとれなかったと言ったのは、そういった事情があったわけでございます。
  150. 倉田栄喜

    倉田委員 刑法の口語化ということについて、国民の皆さんが条文読んで、自分も考えてみたらわかる、こういうことにすることは必要だと思うんですけれども、この点について大臣はいかがでございましょうか。
  151. 左藤恵

    左藤国務大臣 今局長から御説明申し上げたような事情で、なかなかこういうことについて進展を見ていないというのは、非常に残念なことだ、私はこのように考えております。いずれにいたしましても、国民をいろいろな面で拘束もします、いろいろなことであるけれども、国民の皆さんに理解しやすいものでなかったならば、その法律の意味というものが非常に薄くなってしまうんじゃないか、私はそのように思いますので、国民の皆さんに理解しやすい形というものの刑法を、早い機会にそういうものをつくっていかなきゃならない、このように考えております。
  152. 倉田栄喜

    倉田委員 ぜひ国民の皆さんがわかりやすいような形の法文が一日も早くできますように、また、やるにつきましては、その内容を検討することについて非常にいろいろな問題がある、こういうことで作業がなかなか進展をしないのだろう、こういうふうに思うわけでありますけれども、その内容の点について、例えば第二百条に尊属殺の規定がございます。この尊属殺の規定については、昭和四十七年か八年ごろだったと思いますけれども、既に最高裁の違憲判決、これあります。たまたまきょうの新聞でございますけれども、家庭内暴力の長男を絞殺をして、その両親には猶予刑がついている。こういう新聞報道もなされた反面で、一方ではこの尊属殺の方は「死刑又ハ無期懲役ニ処ス」、こういう条文がそのまま残っているわけでございます。  まあその運用面からいろいろ、それぞれに合理的に運用されておられるとは思うわけでございますけれども、やはりこれはこのまま残っていくのはおかしいんではないか、こういうふうに思うわけでございますので、この点につきまして、できましたら大臣も御所見の一端をお伺いさせていただければ、というふうに思うわけでございます。
  153. 井嶋一友

    井嶋政府委員 大臣より先に、若干の経緯を御説明させていただきます。  刑法改正の問題といたしまして、先ほどの口語化の問題以外に、現在抱えております問題の一つとして、今御指摘の尊属殺規定の問題がございます。この刑法二百条に規定しております尊属殺の規定は、四十八年の最高裁大法廷の判決におきまして違憲であるという判決があったわけでございますので、やはり政府といたしましては、この違憲状態の解消のために改正措置をとるということが義務であるというふうに考えております。  しかし、もう委員既に御案内でございますけれども、この四十八年の最高裁判決は、その理由づけの中で特異な点がございまして、要するに尊属殺という二百条の規定を百九十九条の普通殺人の規定以外に置いておくこと自体がいけないという立場の方と、それから尊属殺を重く処罰すること自体は憲法上差し支えないけれども、二百条の規定法定刑が死刑、無期しかない、酌量減軽しても絶対に執行猶予はつかない、こういった過酷な刑罰を定めておるのは法のもとにおける平等に反する、こういった理由で違憲であるというお考えの方と、この二つに分かれまして、前者の方が六名、後者が八名ということになっておるわけでございます。  そこで、違憲状態の解消をしなきゃならない政府の立場といたしましても、規定そのものをとってしまうのか、あるいは法定刑を修正して、八人の方の御意見にマッチするように、法定刑を死刑、無期以外に有期刑をつけるという改正をするのがいいのかといった問題があるわけでございまして、いろいろ当時議論が行われました。そして法務省といたしましては、一応尊属殺規定全部を廃止するという形の立法を出そうとしたのでございますけれども、この問題は、やはり親子の情と申しますか、そういった日本古来の道徳律との絡みでいろいろ議論を巻き起こしまして、当時の与党の反対もあって結局日の目を見なかったということで、今日に至っておるわけでございます。  ですから、そういった意味で宿題になっておるわけでございますが、その間にいろいろ世論調査をしてみますと、国民の世論というのは、最近のデータで申し上げますと、やはり親殺しについて特に重い刑を定めておく必要があると答えた人が全体の三三・五%、やや重い刑を定めておく必要があるとする者が二四・九%でございまして、普通の殺人と同じでよいとするのは二四・八%ということでございます。これは平成元年の世論調査でございますけれども、現在国民の皆さんは、やはりどちらかというと規定の存続を期待しておられるということがあるように思われます。しかしながら、もう少しその動向を見きわめて改正に大いに踏み切りたいと考えて、今回は罰金の引き上げだけに限って行わせていただいたということでございます。
  154. 左藤恵

    左藤国務大臣 今局長からその経緯をるる御説明申し上げたと思いますが、やっぱりこの国民の中におきます考え方というものと、それからその最高裁におきますそういう一つの判決の結果違憲の状態にあるけれども、どういうふうな形であればその違憲の状態でなく、この問題が考え方として例えば倫理規定的なものが残るのかというふうな問題も含めまして、検討を急がなければならない問題であろう、このように思います。
  155. 倉田栄喜

    倉田委員 それでは次に、罰金刑のきょうの議論の方について質問をさせていただきたいと思いますけれども、今回罰金刑を引き上げることにされるということで、その罰金刑の法定刑の中における位置といいますか、刑法十条では主刑の軽重ということを規定しておりまして、その主刑の軽重というのは九条に規定をされておるわけでございます。で、罰金は拘留及び科料より重い形になっておる。一方、十六条で拘留というのは一日以上三十日未満、つまり一日以上二十九日まで人身の自由を奪うことを内容としているわけでありますけれども、今回の規定によっても罰金刑の少ない方の寡額は一万円ということである。  で、刑を受ける方の側から考えてみると、その二十九日間も身柄を拘束される苦痛というものは、単純に比較できるかどうかちょっと疑問のところもあるかとは思いますけれども罰金最低額の一万円よりも拘留の方が受ける実感としては重いんじゃないか、こういうふうに受けとめられる人もおられると思うのですけれども、そもそも九条で罰金の方が拘留よりも重いとされたその理由、そしてその理由は現在でもなお維持できるのかどうか、つづめて言えば、罰金と拘留の軽重というものをどのように考えておられるのか、まずお伺いしたいと思います。
  156. 東條伸一郎

    ○東條説明員 現行刑法上は、先生今御指摘のように刑の軽重ということで、刑法九条が「死刑、懲役、禁錮、罰金、拘留及ヒ科料」、こういう順番をつくっているわけでございます。現実の問題といたしましては、先生が今御指摘のように、拘留の内容というのが一日以上三十日未満、つまり二十九日まで拘留場に拘置する自由刑でありますし、罰金は、今回の法律改正案が通ったといたしましても、下限というか寡額が一万円ということでございます。生活実感としては自由刑の方が重いのではないかということは、私もそういう感じもしないわけではございません。ただ、刑法罰金をそもそも拘留よりも重い罪である、こう定めていた理由は何であろうかということでございますが、明治四十年ごろの物価の状況というものを見てみますと、当時、といいますか今もそうですが、刑法は、罰金の寡額は二十円というのがその定めでございました。それでは、その当時の二十円というのはどのぐらいの価値を持っていたのか、これはもちろん本当に正確な数字かどうかは別としまして、ある出版社の出しました当時の値段の一覧表というものを私どもでちなみにつくってみましたところ、当時の二十円というのは、例えば当時の巡査の初任給が月額十二円、小学校の先生の初任給が十三円、こういうような時代の二十円であった。つまり、まともに働いて一月で得る収入よりも重いのがいわば寡額であった時代の罰金であった。そういう意味合いでこのような位置づけをしているのかな、このように思っております。その当時の罰金の重さから見ますと、現在はそれがかなり相対的に下がってきているということから、実感として拘留の方がむしろ重いので はないかというのが生じてくるのではないかと思います。  ただ、罰金は財産刑でありまして拘留は自由刑でありますが、罰金に伴う副次的な効果として見逃し得ませんのが、資格制限の問題だと思います。多くの法律の中で、罰金以上の刑に処せられたら資格制限をするというのがございます。ところが、拘留の場合にはそのような例はほとんどと言っていいぐらいないわけで、拘留、科料というのが一まとまりとしていわば一番軽い刑であるという認識は、他法令でもそういう認識をしているので、現在でもなお全体として見れば罰金の方が重い刑かなということになろうかと思います。  以上でございます。
  157. 倉田栄喜

    倉田委員 現在でも全体として見れば罰金刑の方が重いのかな、こういうお答えでございますけれども、確かに受ける側から見れば非常にあいまいになっていることは否めないだろうと思うのですね。この問題についてはこれから御検討をされていかれるつもりはあるんでしょうか。
  158. 東條伸一郎

    ○東條説明員 お答え申し上げます。  罰金と拘留、科料、あるいは罰金と過料の関係等につきましては、委員指摘のような重要な問題がございます。そもそも財産刑として罰金と科料というものを二つ残しておく必要があるのか、あるいは短期自由刑としての拘留というものが必要があるのか、これも懲役刑ないし禁錮刑に解消していく問題なのか、あるいは現段階の法体系を残すといたしまして、罰金と拘留と科料というものを一体どのように位置づけていけばいいのかというような種々の問題がございます。  そこで、財産刑をめぐる基本問題について引き続き審議をお願いすることといたしております法制審議会におきまして、その刑事法部会の中に財産刑検討小委員会というものが設けられまして、その検討課題の一つとして、主刑としての財産刑のあり方の中で罰金、拘留、科料のあり方、それからその相互関係というものも検討していこうということにいたしておりますので、今後も引き続き検討をしてまいりたいと思っております。
  159. 倉田栄喜

    倉田委員 今回の改正罰金額等を原則的に二・五倍に引き上げる、その理由として、経済事情変動を最も大きく反映をするのが消費者物価指数であるから消費者物価指数をとった、こういうお答えであったろうと思います。一方、寡額の方については、現実的に二・五倍にはなっていなくて、最高十倍ぐらいまでなっているだろうと思うのですけれども、この点については、いわゆる頭打ち現象といいますか、実際に二・五倍しただけでは機能しない、こういうお答えであったろうと思います。  そこで、その二・五倍されてない例外の部分についてお伺いするわけですけれども、それは、その二・五倍引き上げない例外の部分の中には科料の寡額の問題や刑事訴訟法罰金、過料の問題についての引き上げもあるわけですが、先ほど例外についてのお答えというのは、この部分にもそのまま妥当するわけでしょうか。それとも、ほかの何か理由があるわけでしょうか。
  160. 東條伸一郎

    ○東條説明員 お答え申し上げます。  先ほど来申し上げておりますのは、いわば刑法体系の罰金の低い部分といいますか、多額の低い部分についての倍率をかなり高くしたことの御説明でございました。  御指摘のように、科料の寡額や刑事訴訟法罰金、過料の引き上げの部分も二・五倍ではない水準になっております。まず科料の寡額の問題について申し上げたいと思いますが、これは現在二十円ということになっております。これを単純に二・五倍いたしますと五十円ということになりますが、これは、いやしくも刑法上の主刑としては余りにも低過ぎて無意味な金額である、それから科料についてのここ数年間の実際の科刑状況を調べてみましたところ、昭和五十九年から六十一年までの三年間に言い渡されました低額、非常に低い額の科料の裁判としては、九百円というのが一件、それから千円というのが三件ありましたが、その余はすべて千円を超えたところで既に処理されております。そういうような実情もございましたので、これを千円以上というふうにしたわけでございます。  それから次に、刑事訴訟法罰金と過料の引き上げにつきまして、出頭拒否や宣誓拒否などの刑事訴訟法と共通の罪を設けております民事訴訟法におきまして、昭和五十七年の民事訴訟法と家事審判法の一部を改正する法律でそれまでの五千円から十万円に既に引き上げられております。同じ裁判の手続法で、民事と刑事で、片や五千円、片や十万円、仮に引き上げても、五千円の二・五倍というのは面倒くさい数字で、一万二千五百円になりますか、そういうのでは余りに違い過ぎますし、その差異を設けておく合理的な理由もございませんので、民事訴訟法の規定に合わせまして十万円まで引き上げたということでございます。
  161. 倉田栄喜

    倉田委員 罰金の方についてでありますけれども、十万円以下の罰金についても三倍から十倍の段階がつけられております。この段階のつけ方ということについては、何か基準があるわけでしょうか。
  162. 東條伸一郎

    ○東條説明員 今回の改正におきます刑法の罪の罰金額の改定をどのような考え方でやったかということについて若干、重複する点もあろうかと思いますが御説明させていただきたいと思います。  既に何回も申し上げておりますように、現行刑法の各罪の罰金の体系を基本的に維持しながら、現在一番多く使われており、金額の点からも罰金刑の体系の中心となっている、重心的な部分になっております二十万円という罰金金額がございますが、これをまず、経済事情といいますか、貨幣価値変動に合わせて五十万円と引き上げよう。そういたしますとこれは二・五倍ということになりますが、現在の罰金多額の刻みといいますか、スケールを九段階のまま維持しようといたしますと、一万円のものが二万五千円、二万円のものが五万円というふうな改正をしていくことになります。  しかし、このような金額では財産刑としての罰金というものの機能が十分に確保できるかどうか、かなり難点があるということ、より平たく申し上げますと、現在新たに罰金を設けるとして二万五千円とか五万円という罰金を、しかも刑法のような基本的な、いわば自然犯に設けるだろうかという観点から見ましても、これでは余りに低過ぎるということと、先ほど来これもまた申し上げておりますが、いわゆる頭打ち現象が再び到来するであろうというようなことを考えまして、罰金多額の最下限部分を十万円としてみようということから逆に考えて、全体の整合性ということも考慮しながら考えますと、九段階から七段階にまとめて、そして十万円等のグループにつきましては三倍とか五倍とか十倍という倍率が、結果的に出たということでございます。  ここら辺の金額というのは、倍率よりもむしろ金額の上げ幅という点を見ていただきたいという意味もございまして、私どもこの三倍とか十倍とかという数字を最初に考えたのではなくて、あくまでも今のような考え方を追っていった結果としてこのようなところになったというふうに御理解いただければありがたいと思います。
  163. 倉田栄喜

    倉田委員 結果的に三倍であったり十倍になってしまったということですけれども、質問させていただいたのは、結果的に三倍とか十倍になってしまった、あるいはこの部分については三倍、この部分については十倍、こうそれぞれ検討をなされたということなんだろうと思うのですけれども、その検討の基準というものがどういうものであったのか、つまりそれをお聞きしているわけです。それは、各条文を見て、これだけではちょっと刑罰機能として、罰金機能として十分でない、大きくまとめて言えばそういうことなんだろうと思うのですけれども、それは全体を判断する基準だろうと思うのですね。この条文については三倍にし、この条文については十倍にし、あるいはこれについては五倍にした、それぞれ段階があるわけだけれども、その段階についてはどういうお考えで決められたのかをお伺いしたかったわけであり ます。
  164. 東條伸一郎

    ○東條説明員 果たして今のお尋ねに対して正確な答えになるかどうか若干自信はございませんが、現在の罰金の体系というものを個別に洗い直すことはしない、もちろんそれが望ましいという考え方もございますが、それを検討していきますと、一つ一つの罪質といいますか、保護法益その他を全部洗い直すということになります。  これは全面改正と等しい作業にもなりますので、それは行わずに、現段階の罰金体系九段階に分かれているものを一列に並べてみまして、そして例えば同じ一万円にあるグループのものは全部一万円を基礎として十万円まで引き上げる、それから二万円にあるグループは、それでは二万円と一万円の開差を維持しつつ引き上げるのか、あるいはそれはもうこの際無視をして十万円というところでまとめるのか、という検討をいたしました。同じように、四万円あるいは六万円というものも考えてまいりました。そういうことでこのスケールをつくってみたわけでございます。  私ども考えましたときに、現代の貨幣価値の中で、一万円と二万円というのは確かに二倍という金額でございますが、二倍という言葉から受ける概念、百万円と二百万円が二倍という場合の倍というのとはちょっと違って、それほどの差異があるものではないというようなこと、それから四万円と六万円も同様な意味合いで、一・五倍ということになりますが、それほどの、何といいますか、差があるというふうにはこの際考えなくてもいいのではないかということで、これらのグループを一まとめにして、それぞれ適切な罰金額というのは幾らぐらいになるだろうということで、一番低いものを十万円のグループにするとするとその次は二十万円になるだろう、それから現在の十万円のものは三十万円になるであろう、こういうふうな引き上げ幅をしてみてはどうかということでやったわけでございます。
  165. 倉田栄喜

    倉田委員 例えばガス等漏出罪、これは百十八条ですけれども、住居侵入罪百三十条、これを比較してみますと、従来は二万円と一万円というふうに差があった。これが今回同じ十万円になった。今のお答えですと、この刑法当初からの規定と今の状況を比べると、現在の状況から見た場合は一万円も二万円もそんなに差はないだろう、だから十万円にしたのだ、こういうお答えなんだろうと思うのですが、単純にこれだけ見たときに、そのそれぞれにあるいわゆる違法性、この刑法条文の根底にある違法性というものにその評価の変化があったのかな、こういうふうにも考えてもみたのですけれども、それは全然ないということでございますか。
  166. 東條伸一郎

    ○東條説明員 確かに、従来御指摘のような差がございましたものが法定刑上の差がなくなりますので、御指摘のような問題が当然生じてくると私どもも意識しておりました。違法性の評価というものについて大小があるのかということについては、若干それ自体問題があるというふうに考える向きもあるようでございますが、非常にわかりやすく常識的に考えますと、より重い刑が定められた罪の違法性の評価が、より軽い罪よりも重いというふうに考えるのが常識的な考え方だろうと思います。  それではそのときの、より重いか軽いかというのを何を基準として考えるのだろうかという問題があろうかと思います。いわばそれは法定刑を総合的に評価して考えるのであろう。そういたしますと、例えば今御指摘二つの罪名、ガス漏出罪と住居侵入罪はともに懲役刑の方は三年以下というところで同じである。三年以下二万円以下、三年以下一万円以下というものが、この改正法が仮に成立いたしますと、三年以下十万円以下ということに並ぶ。その意味では若干同じようになったのかとも思われますが、私どもの意図としましては、懲役刑を含めた法定刑を総合的に見れば、それほど大きな違法性の評価の変更をしているものではないというふうに考えているところでございます。今回の改正で、懲役刑の法定刑については一切いわばさわらない形で、そのままのスケールを維持しておりますのも、できるだけ違法性の評価についての従来の考え方に大きな影響を及ぼさないようにしたいという配慮があったことも事実でございます。
  167. 倉田栄喜

    倉田委員 これはこれから予定されておられます刑法の全面的な改正作業の問題でございますけれども刑法の全面的改正作業が行われますときに、今回の罰金額について各段階がつけられてきたことは、今の大まかなお話の中では、それほどそのこと自体を、刑法の各条文の保護法益とか趣旨とかということについては意識してないのだ、こういうことでございますので、本来の刑法制定の保護法益としての条文の趣旨がまだ生かされておるというふうに考えられるとすれば、今回の罰金額についての改正作業そのものが今後の刑法改正作業に影響してくるかどうか、この点についてはどんなふうにお考えでございますか。
  168. 東條伸一郎

    ○東條説明員 今後の刑法改正作業というものがどういうことをまず第一次的にやり、それからどのような手順で進んでいくのか。私ども先ほど大臣もお答えになられましたように、口語化といいますか、そういう作業も一方で控えているというふうに認識しております。  それから、現在の財産刑検討小委員会で進められていく作業が結実したものを、次々と法制化していきたいということも考えているわけでございまして、全体的な見直し、特に財産刑をどのようなものとして位置づけて、どのようなものにしていくのか。例えば、現在のような非常に細かい、各罪についてそれぞれ法定刑を定めていくやり方をしていくのか、あるいは検討の結果、一部の国でとられておりますように、罪を大きくグループ分けをしまして、昔流に言いますと、重罪とか軽罪とか違警罪とかいう区分けになると思いますが、そういう区分けをして、その中で罰金というものを、重罰金、軽罰金というような形になるのでしょうか、非常に大きな形で割り振っていくような感じの改正方法もあると思います。  いずれにしましても、これはこれからの検討課題でございまして、今回の改正が、一種の固定化といいますか、これをそのままずっと維持していくという考え方をとるのかどうか、これはこれからの検討課題で、今回の改正はあくまでも今までの法体系の基本を維持しつつ、それについて、当面経済実勢に合わせた手当てをさせていただきたいということと理解していただきたいと思います。
  169. 倉田栄喜

    倉田委員 各条文の基本的な評価の部分はこれからの課題である、こういうふうにお聞きをしたいと思います。  そこで次の問題でございますけれども、これは最高裁判所の方にお伺いすることでございましょうか、今回の改正により、労役場留置の一日の換算額、これに影響を生じるかどうか、これは裁判官の独立の問題もございましょうし、自由裁量の範囲の中で行われておるというふうには思っておりますけれども、今回の改正がその算定に影響するかどうか、お伺いをしたいと思います。
  170. 島田仁郎

    島田最高裁判所長官代理者 労役場留置の場合の一日の換算額を幾らにするかにつきましては、各裁判所で判断する際に、宣告すべき罰金の額、それから被告人の資産、収入の程度、留置すべき期間等、そういった点を総合的に勘案いたしまして決定しているわけでございますが、その一つの判断要素といたしまして、未決勾留の法定通算の場合の折算額というものもございます。今回の改正案によりますると、これが従来の八百円から四千円に引き上がるということでございます。仮に改正案どおり改正ということになりますと、各裁判官が決定されることでございますから、私ども今断定的に申し上げることはできませんけれども、裁判実務におきましても、この未決勾留の法定通算額の引き上げを踏まえまして、換刑処分の換算額も一日あたり恐らく四千円とか、あるいはそれ以上というような線で運用されていくことになっていくのではないかというふうに思われます。
  171. 倉田栄喜

    倉田委員 それではほかの問題でございますけれども、午前中最も問題になりました、いわゆるダブルスタンダードの問題でございます。私も、この問題が非常に重要であろうかと思っております。  そこで、午前中の答えを整理をさせていただきますと、ダブルスタンダードについては、解消の方向でできるだけ早い時期に実現をしたい、こういうお答えであったろうと思います。そしてそれは財産刑検討小委員会で検討をしていきたい、こういうことであったと思いますけれども、このように理解してよろしゅうございますか。
  172. 井嶋一友

    井嶋政府委員 ダブルスタンダードの問題として論議がございましたのは、いわゆる逮捕勾留の限界罰金等の問題であるというふうに理解をしてよろしゅうございましょうか。この問題につきましては、けさほど御説明申しましたように、そのもとになります実体法、つまり刑法等法定刑の決め方と行政罰則のそれぞれの決め方に、二つ基準があるということが原因となってこういう問題になっておるということで、ダブルスタンダードになっておるということでございますので、そのもとの部分をできるだけ直すように努力をする、そのためにどのようにする方法がよいのかということを財産刑検討小委員会で検討願うということは、そのとおり申し上げました。
  173. 倉田栄喜

    倉田委員 刑事訴訟法の六十条の三項でございますけれども、「当分の間、」というふうにありまして、この「当分の間、」についての御議論があったわけです。財産刑検討小委員会で検討するについて、あと二年くらいをめどに方向性を見きわめる、こういう御答弁であったわけでありますけれども、これは間違いないかどうか、ちょっと確認をさせていただきたいと思います。いかがですか。
  174. 井嶋一友

    井嶋政府委員 この検討小委員会委員である東條審議官が、検討委員会の全体のスケジュールが大体二年くらいをめどに行いたいという説明をしておるわけでございますが、今御指摘のような問題を含んだ検討委員会が、そのくらいの期間でそれなりの結論を出していただくということになれば、それを踏まえて今御指摘のこの問題の解消について次のステップが踏めるという意味におきまして二年という意味合いをお述べになったのだとすれば、そのとおりでございます。
  175. 倉田栄喜

    倉田委員 ダブルスタンダードの問題については、合理性部分についてはもしかしたら議論があるのかもしれませんけれども、余り合理性はないというふうに理解をしたいと思うのですが、その場合、合理性がないということであろうから、これは十九年前も同じような議論がされて、できるだけ早い時期にということで議論されてきておるわけだろうと思うのです。そういうことで、解消するという方向自体は定まっている、今までの議論を聞きながらこういうふうに理解をしたわけです。  そうしますと、二年をめどに方向性を見きわめる、その方向性というのは、ダブルスタンダード問題というのはできるだけ早い時期に実現をする、こういう方向であるということは既に出ているのではないか、こういうふうに思うわけです。  そうすると、問題はダブルスタンダード、この問題をいつまでに解消するのか、この問題なんだろうと思うのですね。  ここで出てくる問題というのは、各行政罰の法令間に、午前中の御答弁では二千五百余の行政罰がある、これを整理するのが実は大変な作業なんだ、こういうことなんだろうと思います。そうすると、当分の間、できるだけ早い時期に実現をするということについては、もう解消をする方向でという方向性は出ているわけでございますから、今必要なことは、これを解消する具体的な作業を始めるということではないかと思うのです。  これは財産刑検討小委員で、ダブルスタンダード合理性がないから解消しましょうという方針は、既に今までのお答えの中で出ているのではないか。そうすると、この財産刑検討小委員会でその方向性を見きわめるその内容というのは、具体的にはどういうことなのか。そして、さらに御要望申し上げたいのは、その二千五百余の行政罰についての整理作業を早急に始めることではないか、こういうふうに思うわけですけれども、それを具体的に着手する時期あるいは着手する機関というかグループといいますか、そういうことについてはどういうふうになっておりますでしょうか。
  176. 東條伸一郎

    ○東條説明員 私の説明がやや舌足らずでおしかりを受けているわけでございますが、いわゆる刑訴法ダブルスタンダードの問題は、財産刑検討小委員会プロパーの問題ではない、つまりこれは刑訴の問題になっておりますから。  ただ、今までその二つの事柄をリンクして申し上げてまいりましたのは、このダブルスタンダードをとらざるを得ないのはなぜか。それは、行政罰則が非常にばらばらになっていることと、同じ事柄を扱っております行政罰則法定刑の定め方自体がまた非常にばらばらである、全体がばらばらではなくて、同一の事項について同じような罰則があってもよろしかろうと思われるものについて、非常にばらばらになっている。そういたしますと、財産刑検討小委員会に課せられた課題というのは、行政罰則全体を見直して何らかの基準を設けまして、例えば、こういう行為類型については、その反社会性の程度その他を考えれば、この程度の罰則がモデルとしてふさわしいのではないかというような、一つの基準づくりというものをお願いできないだろうか。  これは一口に申しますと非常に簡単なように見えるわけでございますが、私ども、実はこの今回の立法作業に入ります前に、行政罰則というのは一体どのぐらいあるのだろうか、これは総務庁の法令検索を使えばかなり簡単に出ることでございますが、これを類型別に分けて何とかうまく我々だけの力で整理できないだろうかということも、作業を一部やってみたことがございます。  ところが、これが大変な作業でございまして、この資料をもとに今度財産刑検討小委員会である程度の指針を出していただけないだろうか、少なくともその一部についてはそういうものがある、典型的なものについてでも何か指針が出ないだろうかということで、その指針が出た結果を当てはめて、それでこれは各省庁に協議をしまして、改正の都度お願いをして改正をして、それがスタンダートの上へ行くか下へ行くかという問題になってくるのだろう、そういうふうに一つの統一的な指針で解決すれば、おのずからスタンダードは一つになっていくのだろう、こういうふうに考えているわけでございます。  したがいまして、おっしゃるようにダブルスタンダード解消の要否についてまたこれから検討しようということではないわけでございますが、その手法について、これからかなりの時間が実はかかるのではないか。検討小委員会というのは、行政罰則見直しだけではなくて、先ほど来申し上げておりますような罰金勾留の関係とかあるいは徴収手続の問題、いろいろな問題を抱えてやるものですから、その中でできるだけ効率的にやっていただければ、こういうふうに思っておる次第でございます。
  177. 倉田栄喜

    倉田委員 ぜひとも「当分の間、」ということがこのまま残らないように、でき得る限り早急に検討して実現をしていただきたい。強く要望しておきたいと思います。  そこで、今行政罰見直し、検討が大変なんだというお話がございましたけれども行政罰則罰金刑というのは現在どのくらい機能しておるのか、お伺いしたいと思います。
  178. 東條伸一郎

    ○東條説明員 私どもがとっております統計上、行政罰則における、しかも罰金刑だけの適用状況を調査しているものが実はございませんので、正確にお答えすることはやや難しゅうございます。そこで、まず懲役刑も罰金刑も問わずに、いわば行政罰則全体の適用状況について見てみたいと思います。  やや古い数字でございますが、昭和六十三年十月時点で、罰則規定を持っております法律、政令が約七百四十ありますが、平成元年で全国検察庁が受理した事件が、刑法の罪を含めますと、その約三分の一弱の合計二百十の法律及び政令にとどまっておりまして、さらにそのうち起訴まで至ったのは七、八割程度、つまり、これは刑法を含んででございますが、約百六十ということになっております。  こういう数字は、ここ近年ほぼ同様でございまして、実感といたしまして、罰則法律上定めているものであっても、その相当部分については実は余り適用されたことがないという法律があるのではないかと思っております。それからさらに、一つの法令の中にも多数の罰則が置かれておりますが、その中でさらに使われるものは限られてきているのだろう、このように思っておりますけれども、正確な数字はちょっとわかりかねます。
  179. 倉田栄喜

    倉田委員 行政罰の中に使われていないものもあるのではないか、いわゆる飾り物みたいな形として罰金刑が存在しているものがあるのではなかろうか、こういうふうなお答えでございますけれども、今回の改正によって、刑法の罪については、低額の罰金刑を定めるものについては三倍から十倍の範囲で思い切った引き上げをなされておる。行政罰についてはそのような根本的な改正はできなかったというか、現状のままですね。  この問題については午前中、それぞれ各省庁から御相談があったときに法務省としては検討させていただいておるんだ、このような御返答でございましたけれども、今の飾り物として罰金刑が存在するような行政罰、あるいは実際に機能していない罰金刑もあるのではなかろうか、また今回の刑法の罪についての罰金刑の引き上げについて生じるバランスの問題、そしてさらに言えば各省庁間にある行政罰相互間のバランスの問題、これはどんな形で検討し、あるいはその不合理性、矛盾性というのは解消されていくような方向になるのでしょうか。
  180. 東條伸一郎

    ○東條説明員 大変難しいお尋ねであろうかと思います。  いろいろな視点から質問がございまして、例えば使われていないもの、あるいは飾り物のようなものについてどう対処するのか、あるいは今回の改正刑法等三法の引き上げによって生じたアンバランスというものをどのように対処していくのか、あるいは行政罰則相互間のバランスというものをどのように考えていくのか、いろいろな視点からの御質問であろうかと思います。  非常に抽象的に申し上げますと、私ども行政罰則について御相談を受けたときに考えておりますのは、必要な罰則は設けます、そして、それに対して必要な程度の法定刑を考えましょうという考え方で臨んできておるわけです。ただ、その必要なものというものも、そんなことを申しましてもそう簡単にわかるものではないということで、結局従来の例とかそういうもので、罰則を置くか置かないかということを考えてきているわけでございます。  例えば、ほとんど使われてないものあるいは使われることが余り考えられないものについて、罰則など置く必要はないのではないか、まことにごもっともな御意見だろうと思います。ただ、どうも罰則というのは、使われなくても役に立つ部分があるのではないかという意見もあります。つまり、違反をするとこうなるよということで、間接的に違反の抑止効果があるのだという言い方、これは最も望ましいのだということまでおっしゃる方もあるわけで、したがいまして、そういうもの、あるいは万が一違反が生じたときにやはり適切に対処するだけの手段を尽くしておくべきではないかというような意見もありまして、なかなか使われないからすぐ廃止しろというわけにもまいらないという状況でございます。  いろいろ申し上げておりますが、結局は、実は行政罰則全体を統一的に考え直すという機会が今まで余りなかったというか、ほんどなかったと思います。今回設けられましたこの小委員会議論の過程で、そういう一つの指針というものが、これは私どもだけではなくて部外の方がたくさん入っておられる会議でございますので、その中で出てくれば、これを我々の基準として今後対処していけるのかなという期待も抱いているというところでございます。
  181. 倉田栄喜

    倉田委員 次に、法人に対する罰金刑の問題についてお伺いしたいと思います。  これは、今まで議論ございましたけれども、法人に対する罰金刑、例えば経済犯的な罰金として非常にその金額に満たない、果たして制裁的効果があるのかどうか、この点について議論ありましたけれども、実際法人に対する現在の罰金刑の法定刑で果たして処罰効果があるのかどうかということに関しては、どのように考えておられますか。
  182. 東條伸一郎

    ○東條説明員 お答え申し上げます。  法人の違反行為に対しましては、先生御承知のように、現在は両罰規定という形で罰則が設けられております。この両罰規定というのは、これまた釈迦に説法で申しわけございませんが、ある条項に違反がありましたときに、行為者に対して処罰を科するほかに、業務主体であります法人などに行為者に対して定められた罰金刑を科するという仕組みでございます。したがいまして、行為者に対する罰則が、例えば三年以下の懲役、百万円以下の罰金という法定刑でありますと、両罰規定として科し得るのは、法人に懲役刑は科せられませんので、百万円以下の罰金だけを法人に科する、こういうことになっております。  お尋ねは、そのような行為者罰とリンクしたような罰金額、これは当然行為者の負担能力まで考えますと、それほどむちゃくちゃに高い金額を定めることはできません。そういう意味で、そういうもので法人に対する抑止力あるいは財産的痛みとしての罰金として十分であろうか、というお尋ねであろうかと思います。私どももそのような疑問を持っておりまして、法人に対する罰金額と行為者に対する制裁としての刑罰とを切り離すことは考えられないのだろうかという問題提起をいたしまして、財産刑検討小委員会では、この両罰規定の切り離しの問題も検討対象にしていただいて、早急に検討するということになっております。  法人の処罰に関しましては、先生も御承知のように、理屈の問題で、法人に犯罪能力があるかとか、法人の行為として何をつかまえるのかというようないろいろな難しい問題がございますが、ただ、社会常識としての法人の行為というのはあるわけでございまして、そういうようなものを常識的に平たくとらえて、何らかの、より有効な刑事制裁というものを考えてまいりたいということで、現在検討小委員会で検討にかかっていただいた段階でございます。
  183. 倉田栄喜

    倉田委員 ぜひ、行為者に対する罰金刑と法人に対する罰金刑を切り離すことも検討していただきたい、こういうふうに思います。  そこで、また、これ議論ございましたけれども、法人に対する罰金刑、現実には法人が倒産をしてしまう、あるいは法人に財産がない、こういう場合には執行不能というふうになっておるんだ、適切な方法は現在のところないんだ、こういう御議論であったと思うのですが、こういうのは大体法人に対する罰金刑の中でどのくらいあるものなんでしょうか。
  184. 東條伸一郎

    ○東條説明員 いわゆる罰金の徴収手続の中では、徴収不能の部分でございます。私どもがとっております統計が、実は法人に対する徴収不能と自然人に対する徴収不能を分けておりませんので、どのぐらいが法人の部分になるのか、これはちょっとわかりかねます、大変申しわけございませんが。  そこで、まず全体の徴収不能がどのぐらいあるかということだけとりあえず答えさせていただきたいと思いますが、平成元年の統計ですと、徴収手続が同年内に終了しました件数が、百二十三万四千七百九十六でございます。そのうち、徴収不能決定がなされた件数が四百五十五ということですから、比率的には○・〇四%というかなり小さい金額でございます。ただ、金額で申し上げますと、これが二億七千三百十八万三千円ということになっております。  しかも、いわば自然人に対する徴収不能というのは、例えば病気になってしまって労役場留置をすることができないとか、完全に行方不明になってしまって時効が完成したとか、そういうのがありますが、どちらかといえば自然人に対してはできるだけ説得もし、あるいは場合によっては労役場留置という形でも執行しておりますので、この相当部分が法人に対する徴収不能であろう、このように推測をしておりますが、ちょっと細かい区分けができませんので、申しわけございませんが、そういうことで御了解いただきたいと思います。
  185. 倉田栄喜

    倉田委員 法人に対する両罰規定の問題で、行為者と法人そのものを切り離して、法人に対する罰金額を高くする等々の問題をこれから検討していこう、こういうことでございますので、現実に法人に対する罰金刑が執行不能となっているどういう事例があるのか、また、その割合はどのくらいあるのか、これもこれから検討される中で、数字として把握をされておられなければいけない問題であろうと思いますので、ぜひまた調査をしていただきたい、こういうふうに思います。  それから、執行すべき全罰金刑の件数のうち、結局払えなくて労役場留置処分となる件数というのはどのくらいございますか。
  186. 東條伸一郎

    ○東條説明員 先ほど申し上げました同じく平成元年の統計で、労役場留置処分となりました件数は、件数別で申し上げますと千四百五十四件、全体が百二十三万四千七百九十六件でございますから、〇・一%程度でございます。
  187. 倉田栄喜

    倉田委員 これも自由刑の代替刑として罰金刑があるわけでございますので、罰金が払えないから労役場留置というふうにするのは基本的には矛盾している。短期自由刑の弊害を考えるときに、できるだけ避けるべきであろう。そういう意味で、御議論ありました延納制とか分納制、明文化するについてはいろいろ問題もあるということでございましたけれども、これも前向きに検討していただきたい、こういうふうに思います。  それから、その関連でございますけれども、いわゆる短期自由刑や労役場留置にかわるものとして、社会奉仕命令制度というものがございます。これを導入するお考えがあられるかどうか、お聞きしたいと思います。
  188. 東條伸一郎

    ○東條説明員 御指摘の社会奉仕命令というもの、これはイギリスで最初に導入されて、アメリカやドイツでも採用されたというふうに聞いております。ただ、社会奉仕命令が採用された背景というものが、我が国と違いまして、特にイギリス等ではいわゆる過剰拘禁といいますか、刑務所人口が非常に多くなっていることも一つの理由として、拘禁刑にかわるものとして、社会内処遇といいますか、それをやろうということがあったようにも聞いております。  それはともかくといたしまして、社会奉仕命令の労働内容は、イギリスでは病院の職員や患者の手助けをするとか、史跡名勝あるいは道路等の清掃とか玩具や家具の製造などが行われているというようなことで、主として保護関係の職員の監督下にそういう仕事をさせているように聞いております。  先生御指摘のように、せっかく罰金刑を言い渡しておきながら、払えない場合に労役場に入れるというのは概念矛盾ではないかというような御指摘があることも、私どもはかねがね承知しております。ただ、現在の法制下では、労役場留置というものがやむを得ない措置として是認されているのだろうと思いますが、労役場留置の内容、特に執行内容は、矯正当局の方々がよく御存じですが、その執行内容の問題等も、いろいろ問題もあるというふうに聞いておりますので、今お話しの社会奉仕命令が果たして罰金未納者に対してそのようなことで対処できるのかどうか、これは罰金未納者が果たしてどういう類型の人間なのかということも考えてみませんと、社会奉仕命令を科すということになりますとかなりコストのかかることでございます、正直申し上げまして。監督機関その他を考えなければいけません。しかも、罰金未納者が働く意欲があって、働けるのに働かない人である場合には監督すれば働いていただくこともできるわけですが、そうでないような類型の人、つまり、働く意欲も能力もない人であれば、奉仕命令はもう絵にかいたもちに終わる可能性もあります。そこら辺の問題も慎重に見きわめながら検討していかざるを得ないのかな、このように考えております。
  189. 倉田栄喜

    倉田委員 また違う問題でございますけれども、財産刑について財産刑検討小委員会でいろいろな検討がなされておられるということでございますけれども、今回の問題を勉強させていただく中で、その検討事項の中に、組織犯罪等に対する財産的制裁のあり方についてと、この問題も検討されているというふうに仄聞したわけですけれども、これは事実でございますか。
  190. 東條伸一郎

    ○東條説明員 今御指摘の問題、組織犯罪等に対する財産的制裁のあり方について、法制審議会の刑事法部会において一部の委員から、これも検討項目の一つにしたらどうかという御提案がございました。そしてその結果、法制審議会の刑事法部会で承認されております。その御趣旨は、要するに今日では個人よりも企業などの組織体、企業というよりも暴力団も含めたいわゆる組織体が、実生活の種々の側面で非常に大きな勢力あるいは影響力を持っておる。従来私ども刑罰論というのは、すべて基本的には個人の犯罪を個人に対する制裁で抑えていこうということで成り立ってきたわけでございますが、そういうものでは不十分じゃないか。特にこれらの組織体によって行われた場合の犯罪収益の金額とか、それが国民経済全体に及ぼす影響力を中心に考えながら、財産的制裁として何かほかに方法はないのかというような御提案であったと思います。そして、これは一つの検討項目として取り上げられておることは事実でございます。  ただ、非常に大きな問題でございますので、どういう角度で具体的に詰めていくのか、これから検討していくことになろうかと思っております。
  191. 倉田栄喜

    倉田委員 それから、裁判で加害者と被害者が示談した場合でございますけれども、現在は情状として考慮されることになっていると思います。これを、加害者と被害者が示談したような場合起訴しない制度、こういうものが考えられないかどうか、これが一点。  それから、刑事事件の中で犯罪の被害者を救済する方法として、旧刑事訴訟法にありましたいわゆる附帯私訴の制度、こういうのを設ける考えはないのかどうか。また、この二点が今報告ありましたような検討委員会の中で検討されることにはならないのかどうか、あわせてお伺いいたします。
  192. 東條伸一郎

    ○東條説明員 被害者と加害者の間に示談が成立して、被害者が加害者に対する処罰意思を放棄したような場合に訴追しないという制度はどうかということでございます。先生御承知のように、現在の法制下においても、特に被害者の処罰意思というものが重視されるような犯罪につきましては、親告罪という形で被害者の告訴あるいは告発を訴訟条件としておるものが既にございます。  それから、私ども検察官に与えられておりますいわゆる起訴便宜主義のもとでは、被害者の意思とか弁償の有無ということが非常に重要な判断要素になっておりまして、特に個人的な法益に対する罪、あるいはもっと具体的に言いますと、個人的な財産を侵すような罪にありましては、その示談、弁償というものが起訴、不起訴を決める重大な要素になっているということも先生御承知のとおりでございます。  ただ、犯罪というものは、確かに個人法益を侵害するものでありましても、反面やはり社会秩序とか社会倫理というものを乱す側面もございますので、ありとあらゆる場合にすべて被害者の意思に訴追を係らしめる制度が本当に合理的なものかどうか、慎重に検討する必要があろうかと思います。  それから、第二番目の附帯私訴の制度でございます。これは、御指摘のように、戦前にありまして、刑事訴訟に附帯して民事訴訟を行う、犯罪の被害者の簡易迅速な救済を図るために、被害者が被告人に対して損害賠償を求めて、あわせて刑事訴訟の手続の中で審理していくという制度でございまして、現在の刑事訴訟法で廃止されております。この問題も、実は基本的には恐らく民事訴訟のあり方の問題ではないかと思います。民事訴訟で被害者の救済がスピーディーに、かつ十分に行われることであれば、何もこのような手続の必要はないわけでございます。  私ども刑事訴訟法の立場で申しますと、附帯私訴を設けた場合に、本来の刑事訴訟法との関係はどうなるのか。特に損害賠償訴訟が重なってまいりますと、私ども実務家として一番関心がございますのは、損害原因の確定というのを、いわば刑事訴訟法はやるわけでございます。だれが何をしたかということは刑事訴訟法でやるわけでございます。ところが、どのくらいの被害を受けたかということは、実は民事の問題。そのために、全体の刑事の手続も非常におくれてしまうのではないかというような、実務的な心配もあります。それでなかなか踏み切れない、慎重に検討しなければいけない問題だろうと思います。  この二つの問題が、今回設けられました財産刑検討小委員会で検討されるかと申しますと、これはやや角度の違った問題でございますので、これは別途、我々の方で検討を続けさせていただきたい、このように考えております。
  193. 倉田栄喜

    倉田委員 被害者の立場を考えてみたときに、被疑者あるいは被告人をどう罰するかという問題と同時に、例えば、財産犯であれば損害をどう回復するか、これも非常に重要なことでございまして、それが、一方では刑事でやりながら、またもう一度民事でやらなければいけない。訴訟費用等々負担も非常にかかる場合があるわけでございます。民事をやったとしても、判決はもらっても、相手方に資力がないために、結局請求できないというか、損害の救済を受けられない、こういうこともあるわけでございまして、民事自体が結局無意味だったということも言えなくないこともない。いろいろ問題ございましょうけれども、何かうまい知恵を出していただいて、被害者の救済ということも考えていただきたい、こういうふうに思います。  さて、時間がなくなってまいりましたが、きょう議論をしております問題と離れてしまって非常に恐縮でございますけれども、水俣病の問題について、お許しを願いましてお伺いをさせていただきたいと思います。  昨年から、各地裁、高裁の中で、裁判所としても多数の和解勧告が出されてまいりました。各省庁間、いろいろな立場もあるわけでございましょうけれども、法務省については、現在この和解勧告という問題についてどのようなお考えなのか。また、現在のこの水俣病問題の裁判の問題はどのような状況にあるのか、お伺いしたいと思います。
  194. 加藤和夫

    ○加藤(和)政府委員 答弁させていただきます。  水俣病訴訟の和解問題につきましては、昨年の九月、東京地裁が和解勧告して以来、五つの裁判所が相次いで勧告が出されたわけでございます。我々といたしましても、この関係省庁が実は四つございまして、環境庁、厚生省、農水省、通産省でございますけれども、この四つの行政庁とよく協議しまして、その結論を出したわけでございます。  これらの四つの行政庁は、いずれも水俣病訴訟における国の責任、つまり損害賠償責任でございますが、そのような責任はないということで、したがって和解には応じられないという結論に達したわけでございます。  その理由につきましては、実は昨年の十月二十九日に開かれました水俣病関係閣僚会議というのがございますが、それに国の見解という四省庁で作成したものを報告いたしまして、これが一般にも公表されたわけでございます。我々法務省の考えも、実はこの見解を正当というふうに考えておりまして、裁判所に対して、和解勧告には応じられない、そういう結論を申し上げたわけでございます。
  195. 倉田栄喜

    倉田委員 裁判については法務省が出ておられるわけでございますので、各省庁間の意見の取りまとめをなさっておられるのだろうと思います。そこで、この各省庁間で行われております連絡協議というのはどのような形でなさっておられるのか。その連絡協議自体に原告団あるいは被害者の方々と折衝をされるような機会があるのかどうか、この点をお伺いしたいと思います。
  196. 加藤和夫

    ○加藤(和)政府委員 まず、御承知のように、法務省の、国を当事者とする訴訟に関する権限につきましては、国の利害に関係のある訴訟についての法務大臣の権限等に関する法律というのがございまして、これに基づいて法務大臣が、国を代表するということで、訴訟追行については責任を持っているわけでございます。ただ、先ほど申しましたように、それぞれの原告が指摘しています違法行為というものは、所管行政庁における違法行為であるということでございますから、いわば実質的な当事者というのはそれらの所管行政庁ということでございます。したがいまして、まずそれぞれの所管行政庁が原告の主張する違法行為についてどのような考えを持つか、ということをこちらからまず聞くわけでございます。聞いた上で、それが法的根拠があるかどうか、法的に筋が通っているかどうか、それを訴訟上どのように反映させるべきか、そして例えば和解の問題などについても、どのような理由でどのような対応をすべきか、こういうことを協議して、それで最終的に法務省が窓口になって裁判所に対して訴訟活動をしたり、あるいは和解の回答を出したりするということになるわけでございます。  先ほど仰せのような、相手方といいますか、原告側あるいはその他の被害者の方々と協議するかとかということがございましたけれども、情報としては、原告の方々あるいはその他の被害者の方々がどういうお考えでおられるかというのは、十分行政庁を通じて情報収集しておりますけれども、直接お会いして協議に加わっていただくというようなことは行っておりません。
  197. 倉田栄喜

    倉田委員 四つの省庁それぞれ、水俣病問題については立場もまるっきり同じということではないだろう、こういうふうに思います。そうすると、それぞれ省庁の御意見というものが出てくるわけでありましょうから、その意見というものは、法務省として例えば意見調整をされるとか、あるいは意見をリードされるとか、そういうことはあるわけでございましょうか。  それからもう一点、現在の和解の問題については、できるだけ早く判決をもらいたい、こういう基本的な態度であろうかと思いますけれども、判決というのは、近々、東京地裁が一番早いのかなとも思いますし、また判決という大きなことでくくった場合は、地裁判決もあり高裁の判決もあり、この最高裁の判決もあり、このできるだけ早く判決をもらいたいということの意味は、判決をもらった後はどうなのか、判決をもらった後、例えば和解のテーブルに着くことはないのかどうか、この辺も含めてお答えを願いたいと思います。
  198. 加藤和夫

    ○加藤(和)政府委員 行政庁の間で意見が食い違った場合にはどのように調整するかという最初のお尋ねでございますが、これは行政庁、二つ違う立場がございます。一つは、先ほど申しましたように違法な行政行為をしたということでその責任を追及されている立場の四つの省庁、それから、いわゆる公害健康被害補償法に基づいて、現に水俣病問題の解決に当たって行政施策を行っている立場の行政庁、これが環境庁でございますが、その両者の間では、当然のことながら多少立場が違うわけでございます。  前者の点から申しますと、先ほど申しましたように、いずれの行政庁も原告の主張しているような違法行為は一切ないということで、完全に一致しております。  ただ後者の点、これにつきましては、たびたび国会質疑で答えられておりますように、違法行為という点を認めることはございませんけれども、水俣病ではなくても、水俣病ではないかという健康不安を持っている方が大分この地域におられる。この不安を解消するために行政施策を検討すべきではないかという方向で、実は先ほどの関係閣僚会議でもそういう政策が打ち出されておるわけでございますし、さらに最近、その後でございますけれども、昨年暮れごろだったと思いますが、中公審に、この公健法に基づく行政一般について見直しすべき問題があるかどうか、というようなことで諮問もしているようなわけでございます。  そういう形で、前向きの行政でどこまでこの問題を解決するために対応すべきかという点では、これが果たして和解ということの内容になるかどうかという点、非常に問題ではございますけれども、そういう意見が当然協議の中でも出てくるわけでございます。  それから第二の点でございますが、それは判決が出た場合どうするかということでございますけれども、これはちょっと仮定の問題で、回答を控えさせていただきたいのですが、一般的に申し上げますと、その東京地裁なら東京地裁の判決が出された段階で、その内容を子細に検討いたしまして、それに対して例えば控訴すべきかどうか、あるいはその他の措置を講ずべきかどうか、こういうようなことにつきまして、各省庁とも十分協議した上それを決める、こういうことになろうかと思います。
  199. 倉田栄喜

    倉田委員 時間が参りましたので、最後に大臣にこの問題につきまして、生きているうちに救済をというのは、被害者の方々の命からの叫びであろうかと思いますが、大臣のこの問題についての御所見をお伺いをして、質問を終わりたいと思います。
  200. 左藤恵

    左藤国務大臣 今局長の方からお答えを申し上げましたが、大変いろんな問題があるわけでありますけれども、原告の皆さんの中に、水俣病に罹患しているかどうかというような、そういう重要な争点になっている点もありますし、また一昨年の十二月ですか、それから終わったものもありましょうし、本年三月結審するというようなものもありますので、我々としては、早期に裁判所の公正な判断が得られるようなことについて、できるだけの御協力はしたい、こういうように考えております。
  201. 倉田栄喜

    倉田委員 終わります。
  202. 伊藤公介

    伊藤委員長 御苦労さんでした。  木島日出夫君。
  203. 木島日出夫

    ○木島委員 私は、刑法改正法案の質疑に先立ちまして、実は今月一日未明に、長崎地方裁判所と長崎新聞社に対してそれぞれ二発の銃弾が撃ち込まれるという、日本の司法制度にとっても、そしてまた言論の自由、日本の民主主義にとって大変ゆゆしい事件が発生をいたしておりまして、緊急な事態でもありますので、その件について、最初にお許しをいただいて質問をしたいと思います。  まず、警察庁をお呼びしておりますので、この二つの件についての概要を報告を願いたいと思います。
  204. 石附弘

    ○石附説明員 お答え申し上げます。  先般長崎市内で発生した、長崎新聞社それから長崎地裁に対する銃撃事件の捜査状況というお尋ねでございますが、本件につきましては、地元長崎警察署において、三月一日の早朝に事件を認知いたしております。直ちに長崎警察署に長崎地裁・長崎新聞社発砲事件捜査本部というものを設置いたしまして、現在鋭意捜査中でございます。現在のところ、犯人の特定に至っておりませんけれども、銃弾等の遺留品からの捜査、それから現場付近の聞き込み等の捜査を初め、けん銃使用の犯行であることから、暴力団関係者等の関連についても捜査中でございます。  以上でございます。
  205. 木島日出夫

    ○木島委員 事件そのものの中身についても報告をいただけませんか、どこのどういうものに対してどういう銃弾が撃ち込まれたか。
  206. 石附弘

    ○石附説明員 お答え申し上げます。  地裁の方の被害状況でございますが、正面の玄関のガラスが破損しております。それから新聞社の方も、やはり正面の玄関のガラスが破損しておるということでございまして、現場付近から薬きょう等遺留品等も出ておりますので、これらを今鑑定中でございます。一応犯罪の容疑としては、建造物損壊また銃刀法等の違反容疑というふうに見ております。  以上でございます。
  207. 木島日出夫

    ○木島委員 この事件については、昨日も参議院法務委員会で取り上げられたわけであります。そこで明らかになっておりますが、日本に近代的な裁判制度が発足して昨年十一月一日で丸百年ということでありますが、裁判所自体が銃撃の対象になったというのは恐らく初めての出来事ではないかと思います。  実は私、去る五日長崎地裁と長崎新聞社を訪れました。長崎県警本部にも寄りまして、詳しく事件の状況を調査してまいりました。長崎地裁から事件直後の生々しい写真もいただいております。今持参をしてきているわけであります。長崎新聞社の正面玄関に二発の銃弾が撃ち込まれた事件は、厚さ十五ミリの強化ガラスがぶち抜かれている、すさまじい威力の跡を見てまいりました。またもう一発、長崎新聞社の正面玄関の名入りの鉄板が撃ち込まれている様子も見てまいりました。また手元にある長崎地方裁判所の正面玄関も、やはり厚さ十五ミリぐらいの強化ガラスが撃ち込まれておりました。そしてその玄関の強化ガラスから約十メートル先に鉛の破片が散乱をしていたという状況も見てまいったわけであります。その威力の大きさを私、非常に感じました。ゆゆしい事態を感じたわけであります。  そこで、裁判所にお伺いいたします。  長崎地裁所長はこの事件に対して長崎県警に告訴したようでありますが、その告訴の日時、罪となるべき事実、罰条、被告訴人の氏名等、情状について報告をいただきたいと思います。
  208. 金谷利廣

    金谷最高裁判所長官代理者 本件被害発見の翌日でございます三月二日に、長崎地裁所長が告訴人となって、所轄警察署である長崎警察署に対して告訴状を提出したわけでございます。告訴の趣旨、内容は、あらまし申し上げますと、二月二十八日の午後六時ごろから翌朝の午前七時四十分ごろまでの間に、氏名不詳の者から正面玄関の左側ガラスドアに対し銃弾と思われるもので穴をあけられて壊されたので処罰されたい、こういう趣旨、内容のものでございます。罪名は記載しておりませんし、被疑者も特定しておりません。  以上でございます。
  209. 木島日出夫

    ○木島委員 裁判所の方は、今、罪名は何に当たると考えておりますか。
  210. 金谷利廣

    金谷最高裁判所長官代理者 告訴状においては罪名は記載しておりません。これにつきましては、これからの捜査の進展を待って、罪名は捜査機関の方でされるところであろうと思いますので、現時点で罪名が何に当たるかということは差し控えたいと思いますが、一般的に申し上げれば、器物損壊とかあるいは建造物損壊とか、そういったあたりのところ、あるいは銃を用いておれば銃刀法違反といったところが考えられるのではないかと思います。
  211. 木島日出夫

    ○木島委員 日本の裁判所発足以来初めての重大事件で、民主主義が根幹から破壊されようとしておる事件だと思うわけでありますが、最高裁判所として、こういう重大な事件を受けとめて、司法制度、民主主義を守る立場を内外に宣明する必要があるのじゃないかと思いますが、いかがでしょうか。
  212. 金谷利廣

    金谷最高裁判所長官代理者 先ほど委員からお話のございましたとおり、裁判所に向かって銃撃されるということは、我が国ではかつてない事件でございます。もとより私ども最高裁判所といたしましても、こういう事態の発生したことはまことにゆゆしきことである、大変遺憾に思っておるところでございます。  裁判所の対応といたしましては、先ほどの告訴のほかに、早速裁判官の身辺警護の強化あるいは宿舎、庁舎等の警備の強化等をいたしますとともに、当日、当該長崎地方裁判所の所長が談話を発表されました。談話の発表は新聞等に出ておりますが、事案については警察の捜査にゆだねたいが、今回の事件はまことに遺憾である、こういう趣旨の発表をしたものでございます。最高裁としても同様の認識をしておるところでございます。
  213. 木島日出夫

    ○木島委員 裁判所に働く人たちでつくっております全司法労働組合中央執行委員会は、三月四日付で声明を発表いたしました。概略次のとおりであります。   長崎地裁等に対して銃弾が打ち込まれたことに対し、満腔の怒りを込めて抗議し、糾弾する。   この銃撃は、右翼団体が広告掲載を求めて起こした訴訟でその請求を退ける判決が出されたことに対する報復としてなされた蛮行と推測されるが、暴力で言論を圧殺しようとするかかる行為は、絶対に容認できない。関係機関の厳正な捜査を強く要求する。 というものであります。ただいま最高裁から御答弁いただきましたが、その本旨とするところは、今の声明の趣旨と同じくするものではないかと思います。  実は、今回の事件に至る経過を見ますと、今回の長崎新聞社並びに長崎地裁に対する銃撃のねらいは、かなり明白であろうと私は思います。  昭和六十三年、一九八八年十二月七日に長崎市議会におきまして、本島長崎市長がさきの大戦について、天皇に戦争責任があるという発言をいたしました。これを不服とする右翼団体等による脅迫が相次いだわけであります。そうしたところ、とうとう平成二年、昨年一月十八日、長崎の本島市長が長崎市に本部を置く正気塾の組員である田尻和美によって狙撃されるという、重大な事件が発生したのは御承知のとおりであります。被告人に対して昨年十二月、長崎地裁で懲役十二年の実刑判決が言い渡されているわけであります。  他方、この正気塾は、塾長名義で昭和六十三年、一九八八年十二月八日に長崎新聞社に対して、天皇に戦争責任はない旨の意見広告を掲載することを要求した。これが長崎新聞社によって拒絶されました。そうしますと同年十二月二十八日にこの塾長は、長崎地裁に対して、長崎新聞社を被告にして意見広告掲載請求の民事訴訟を起こしました。この事件について、実はことし二月二十五日に、長崎地裁は請求棄却の判決を言い渡したわけであります。  地元の新聞報道全部読んでみましたが、地元長崎市民のほとんどが、今回の長崎地裁、長崎新聞社への銃撃事件は、こうした事態を不服とする正気塾の関係者による犯行ではないかと推測をしております。私も、一連の経過から、その長崎市民やマスコミの推測は当を得ているのではないかと思います。私も法律家の端くれでありますから、断定はいたしません。しかし合理性はあるのではないかと思います。  そこで、一般論としてお伺いをいたします。  これは懲役十二年もの判決を受けている事件でありますから、明らかな事件ですが、長崎の本島市長銃撃事件を起こした田尻和美が東京本部長代行となっております、正気塾なる団体はどういう団体なのか、警察庁から御答弁をお願いします。
  214. 中村正則

    中村説明員 お答えいたします。  正気塾は、昭和五十六年六月に民族意識の高揚と北方領土奪還などを掲げまして結成した団体でございます。本部を長崎市に置いているほか、東京と大阪に支部を有し、構成員は約二十名と見ております。  その活動でございますが、現在まで日教組大会反対行動に出動したり、あるいは長崎市長糾弾街宣を行うなど、比較的活動が活発な団体であるというふうに見ております。  以上でございます。
  215. 木島日出夫

    ○木島委員 正気塾関係者が起こした犯罪行為のすべてについて、警察庁に調査を依頼してありましたので、時間の経緯に従って、日時、罰条、被告人の氏名等、どうか報告していただきたいと思います。
  216. 中村正則

    中村説明員 現在まで正気塾構成員がいわゆる右翼的主張に基づいて敢行した事件として私ども把握しております事件は、十一件三十一名でございます。
  217. 木島日出夫

    ○木島委員 十一件三十一名は送検されているものでしょうか。
  218. 中村正則

    中村説明員 さようでございます。
  219. 木島日出夫

    ○木島委員 後ほど資料をいただけますか。——それじゃ絞ってお聞きいたします。  これは法務省にお聞きしたいのですが、警察庁からいただいている資料の中で、実は長崎市長の天皇の戦争責任に関する発言以降正気塾が起こした事件として、平成元年六月一日、社会党集会会場に発煙筒投てき事件があった。威力業務妨害で一名を平成元年六月三日に送致した。それから平成元年十一月二日に東京都交通局長恐喝事件で、恐喝未遂で二名、平成二年四月十二日に送致をした。それから平成二年四月九日、東京都京セラ恐喝事件として、二名恐喝で平成二年五月三十日に送致をした。三件を私は伺っているのですが、この送致された三件について刑事処分の結果を、これは法務省の方に報告していただきたい。
  220. 井嶋一友

    井嶋政府委員 それでは、お尋ねの事件につきましての検察庁の処分について御報告いたします。  まず発煙筒事件、威力業務妨害事件でございますが、元年七月十四日に公判請求をいたしまして、元年十月五日に有罪判決がございました。懲役十月、執行猶予三年、これは確定いたしております。  それから、次の交通局長恐喝事件、これは恐喝未遂罪でございますが、平成二年五月一日公判請求、平成二年七月二十三日判決、懲役一年四月から一年ということで、いずれも確定いたしております。  それから、京セラ恐喝事件と称するものでございますが、これは平成二年六月十八日に公判請求いたしまして、平成三年二月二十八日判決、懲役一年二月でございます。
  221. 木島日出夫

    ○木島委員 それからもう一つ、実は長崎市長に対する殺人未遂事件の被告人である田尻和美を含む四名が、平成元年五月十九日に日韓経済協会役員に対する暴力行為等処罰ニ関スル法律違反事件として検挙されている。そしてこれは平成元年六月二十一日送致されたということを、警察当局から私お伺いしているわけであります。これは長崎市長に対する例の狙撃事件の約半年前であります。被告人自身が逮捕されているということも新聞に出ているわけで、今から振り返ると大変重大な事件だったのではないかと考えるわけです。  法務省にお伺いいたしますが、この送致事件の刑事処分結果を御報告いただきたい。
  222. 井嶋一友

    井嶋政府委員 お尋ねの事件につきましては、平成元年六月二十一日、暴力行為等処罰ニ関スル法律違反で一件四名の受理をいたしておりますが、元年七月十日に、うち一名を公判請求、残り三名につきましては不起訴処分でございます。起訴されました被告人につきましては、平成元年十二月七日判決がございまして、懲役一年六月、執行猶予三年で確定をいたしております。
  223. 木島日出夫

    ○木島委員 田尻和美は起訴された方ですか、不起訴の方ですか。
  224. 井嶋一友

    井嶋政府委員 公判請求された被告人は福田雅光でございます。
  225. 木島日出夫

    ○木島委員 不起訴の三名の中に田尻和美は入っておりますか。それと、不起訴理由を明らかにしてください。
  226. 井嶋一友

    井嶋政府委員 公判請求をいたしました事件につきましては、公益的な見地から公開されておるわけでございますが、不起訴事件でございますので、内容につきましては詳細を述べることはできませんが、処分は起訴猶予ということでございます。
  227. 木島日出夫

    ○木島委員 田尻はその半年後に長崎市長殺人未遂事件を起こして、現在控訴中のようでありますが、長崎地裁で十二年の懲役を受けている人物であります。その人物が半年前に東京で起こした暴力行為等処罰ニ関スル法律違反事件で送致されたことまで、今明らかになっているわけですから、不起訴理由をもっと詳しく、この事件に対して田尻がどの程度関与したのか、報告をしていただきたい。
  228. 井嶋一友

    井嶋政府委員 不起訴になった被疑者が後にどのような事件を起こすかということは予測しがたいところでございますけれども、要するに受理しました当該事件につきまして、その犯行の全容を解明した上で、その共犯者関係の責任関係を詳細 に明らかにした上での処分を決めるわけでございますので、そういった観点から当該事件について適切に処分をしたものと考えております。
  229. 木島日出夫

    ○木島委員 時間の関係で、次の質問に移ります。  それでは、長崎市長の市議会での天皇責任に関する発言以降、長崎市におきまして発生した発砲事件ですね。時間の関係で発砲事件だけに絞って私は聞きますが、警察庁にお調べ願っているので、それを御報告いただきたい。
  230. 石附弘

    ○石附説明員 お答えいたします。  平成元年三月三十一日に長崎市役所に対する銃弾撃ち込み事件、またその後平成二年八月十六日に長崎刑務所長崎拘置支所銃弾撃ち込み事件、この二件と承知しております。
  231. 木島日出夫

    ○木島委員 その二件についての捜査の状況はいかがでしょうか。犯人は検挙されたのでしょうか。
  232. 石附弘

    ○石附説明員 お答えいたします。  平成元年の長崎市役所一階収入役室に対するけん銃発砲事件でございますが、これは当時、先生御指摘の長崎市長の天皇の戦争責任発言をめぐって、右翼団体による市長批判行動があったというようなこと、あるいはけん銃を使用しての犯行であるというようなことから、警察といたしましては、右翼団体また暴力団関係者等を中心に捜査を行ってまいりましたけれども、いまだ被疑者の特定には至っておりません。現在、所轄の長崎警察署等で継続捜査を実施しているところでございます。  それから、平成二年八月十五日から十六日にかけて発生いたしました長崎拘置支所に対するけん銃発砲事件に関しましては、発砲の対象が拘置支所という特異な場所であるということなどから、拘置支所をめぐる何らかの原因による犯行ではないかという観点から捜査を実施しておりますけれども、いまだ被疑者の特定には至っておりません。現在、所轄の浦上警察署等で継続捜査を行っているところでございます。  以上でございます。
  233. 木島日出夫

    ○木島委員 実際、今の二件は大変重大な事件だと私は考えております。一つは、長崎市役所の収入役室に対するけん銃発砲事件は、まさに長崎市長が恐喝をされ続けてきたそのさなかで、警察官が大変な努力をしてその警護に当たっている最中に起きた発砲事件であります。もう一つの長崎拘置支所けん銃発砲事件は、これはまさに法務省の管轄する刑務所に対して、ピストルといいますか発砲された事件でありまして、ちょうどこのとき、この刑務所の中には先ほどの田尻和美被告が拘置されていた、そういう事件であります。にもかかわらずいまだにその犯人がわからないということは、大変ゆゆしい状況だと私は思います。  そうした状況のもと、今月一日未明、日本の民主主義の根幹にかかわる裁判所が銃撃される、新聞社が銃撃されるという事件が相次いだわけであります。昨日の参議院法務委員会でも答弁にありましたように、長崎県警としては鋭意捜査しておるという答弁があったようでありますが、私は、日本の司法が、その根幹がこうした形で銃撃される、また法務省が管轄している長崎拘置支所がけん銃で狙撃されるという事件は、重大なことであって、ぜひともこれは法務省が、検察が一線に出て、所轄警察署と力を合わせて捜査を強化すべき事案じゃないかと思うわけであります。ぜひともそれをお願いしたいということであります。法務大臣の御所見をお伺いしたいと思います。
  234. 左藤恵

    左藤国務大臣 いかなる理由がありましても、これは断じて許しがたい事件だ、私はこのように考えますので、検察において今適切な措置をされるものだ、このように信じております。
  235. 木島日出夫

    ○木島委員 適切な処理をされると信じておると。特捜事件のように位置づけて、ひとつ長崎県警本部と力を合わせて、第一線の検察官を配置するということを言っていただけませんか。
  236. 井嶋一友

    井嶋政府委員 具体的事件における検察庁の対応の御質問でございますので、私からお答えをいたしますが、現在、警察において捜査中ということでございます。もちろん長崎地検におきましても関心を持っておる事件ではあろうと思いますけれども、警察の捜査に協力をしながら、適時適切に対応するものと考えておるわけでございます。
  237. 木島日出夫

    ○木島委員 これでこの質問は打ち切りたいと思います。私ども日本共産党は、自由と民主主義を守る立場から、こういう暴力を一日も早く完全に、事件を摘発して真相を解明して、厳しく法のもとに処断されることを望むわけであります。  関係の方、退席されて結構でございます。  時間が少なくなりましたが、刑法改正法案についての質問に移ります。  午前中から刑事三法とそれ以外の行政罰、特別刑法とのダブルスタンダードの問題が再三提起されてまいりました。これは必ずしも逮捕勾留の制約の問題だけではなくて、罪刑法定主義の基本である罪と罰のバランスの問題が基本にある、そういう立場から、これを放置しておくことは大変ゆゆしいものだと私は思います。  実はきょうお見えの東條審議官が著作された「刑事法ノート」の「罰金刑の見直しについて」と題する論文の一番最後のところで、前回の罰金刑の見直しの問題について論述した部分の中に、「内容的に刑法犯における罪相互間の罰金法定刑多額のバランスの見直し、修正をある程度は行わざるを得ないのではないかと思われるのである。」という記述があります。それに付記がありまして、例えば弁護士に関する秘密漏えい罪について、当時現行法は、刑法ですが、弁護士の秘密漏えいについては二万円以下の罰金だった。しかし、外国法事務弁護士が新しくつくられまして、その外国法事務弁護士が秘密漏えいをいたしますと十万円以下の罰金になりました。今回の刑法改正によって弁護士の秘密漏えいも十万円以下の罰金に引き上がるわけですから、これはバランスがとれるようになったわけであります。そういう面では結構なことだと思います。  ところが、同じ関係の業務をしておりますいろんな職種の皆さんの罪がどうなっておるか私調べましたら、例えば弁理士さんは、弁理士法二十二条によって、同じ秘密漏えいの場合には懲役六月以下または罰金三千円以下なんですね。今度この弁理士さんたちは、罰金等臨時措置法が今回成立をいたしますと二万円以下になるわけですが、弁護士の十万円とのバランスは五分の一。弁理士と弁護士というのはなかなか似たような業務でありますから、まことに均衡を失している。公認会計士はどうかといいますと、公認会計士法五十二条、二十七条によりますと、やっぱり秘密漏えいについて懲役二年以下または罰金三万円以下、はるかに低い。今回法改正の状況はない。それから所得税法二百四十三条等によって、税務に関する秘密を漏えいした場合には懲役二年以下、罰金三万円以下。やっぱり三分の一以下、こういうことですね。  刑法、基本法の罰条と行政法あるいは特別法罰則との乖離を東條審議官指摘をしておったんだろうと思うんです。私はそう読ませていただいたんです。まさにそれは問題だと思うんですね。それはやっぱりバランスをとらにゃいかぬと思うわけであります。午前中以来他の委員から盛んにその点は質問されておったわけでありますが、前回の昭和四十七年から今日まで十九年間、そのバランスをとるために法務省としてはどんな努力をされたのか。そして、今回刑法三法にかかわる罰金の引き上げをやるわけですが、今回この刑法の本条を上げることに伴って行政罰特別法による罰金を引き上げる努力を今回どのようにされたのか、そこをまずお聞きしたい。
  238. 井嶋一友

    井嶋政府委員 まず前回、四十七年以降の時の経過の中でどのような努力をしたかということでございますが、今委員指摘になったような、刑法等罰則行政罰則との中身におけるアンバランスといったものは、もうつとに認識をされておったわけでございまして、私どもは、先ほど来御説明いたしますとおり、各省が所管しておりますそれぞれの行政罰則改正の機会をとらえて、可能な限り私どもの一つの方針、一つの見方に近づくような努力をしてきたということがまず言えるわけでございます。  その結果、ちょっと数は手元にございませんけれども相当数のものがそれなりに横並びがそろうような形になってきつつあるわけでございますが、依然としてそれは十分でないということは、委員指摘のとおりだと思います。そういった意味で、今後もこの努力は続けてまいるということを先ほど来表明をしておりますし、さらにまた財産刑検討小委員会の結論などが出た場合には、さらに一つの指針をもってそういったことを強力に推し進めていくということが可能になるのかと思うわけでございます。
  239. 木島日出夫

    ○木島委員 実は、今回の刑法改正で失火罪、刑法第百十六条の罰金が二十万から五十万に上がるわけですが、実はちょうど今農水委員会で、森林法二百三条、森林の失火事件について、やっぱり二十万から五十万に上がると。要するにこちらの刑法本条とパラレルにするという法案改正が、農水委員会で今審議中のようであります。これは大変立派なことだと思います。ちょうど今茨城県で山火事が起きているところなので言ったわけですが.同じように農水委員会では森林法の改正を今鋭意検討中でありまして、森林放火事件、それから森林贓物事件、贓物収受事件、贓物故買事件、そういうものについても刑法本条と並行していこうということで、法改正が行われているようであります。それは法務省の御指導のもとに行ったと言っておりますが、私、林野庁の担当官に、刑法本条が上がったから法務省に言われて森林法の罰則を上げるのかと聞きましたら、それはそうなんですが、基本的には森林法の別の国有林野事業にかかわる、そっちの方の法改正が非常に重要なので、それをたまたま今農水委員会法案改正を提起して、ついでに罰金も上げようということなのだとおっしゃっているのですね。恐らくほかの行政罰特別法による刑事罰は、全部所管が法務省じゃありませんから、大蔵省もあり文部省ありですから、そちらの方の行政官庁を動かして、それらにある特別刑法行政刑法罰則刑法本条とバランスよくするためには、これは大変な作業だと思うわけであります。片手間じゃ絶対できない。よっぽど法務省がほかの省庁の皆さんにお願いをするなり指導をしなければできないことだと思うわけであります。こういう森林法の改正のようなことが今回ほかにありますか。
  240. 井嶋一友

    井嶋政府委員 今具体的に御披露できるような事例は持っておりませんけれども、従来こういった努力をしてまいったわけでございます。先ほど申しましたように、所管庁が改正を検討する際にお願いをしておるということでございまして、所管庁のそれぞれの行政において改正する必要が起こった場合に、我々は必ず罰則を見まして、ここも一緒に変えてくださいということをお願いをするわけでありまして、そういった意味で努力が少しずつ結実しつつある。将来は、先ほど言ったようにもっと大きな指針でも出れば、さらに強力な指導ができるだろう、こういうことを申し上げておるわけでございます。  なお、行政罰則というのは、申し上げるまでもございませんが、それぞれの罰則がそれぞれの規定目的を持っておるわけでございますので、たとえ同じ類型の構成要件の犯罪規定がございましても、それは必ず同じ法定刑でなければいけないのかということになりますと、それはその当該法律によって、規制したい対象でございますとかその保護法益の広さでございますとかいったようなことに違いがございますから、必ず同じ類型のもの、例えば検査妨害罪といったようなものがありました場合に、必ず同じ法定刑でなければいけないのだということにはならないだろうということだけは申し上げておきます。
  241. 木島日出夫

    ○木島委員 それは当然のことであります。私はバランスというものを言ったわけであります。  時間がありませんから次の質問に移らさせていただきますが、条例と罰則について、今回法改正で、地方自治法十四条五項改正によって、罰金多額を十万円から百万円に引き上げるということであります。  実は、東條審議官も執筆者の一員となってお書きになった本に、「新おかしな条例」という本があるわけであります。条例の制定権は地方自治体が持っている固有の権限でありまして、これを国家機関が侵すというのは憲法上もよろしくないことは確かであります。しかし一方、罰則制定という問題は、憲法三十一条の要請があります。法定手続にかなわなければいかぬという要請もあるわけであります。  この「新おかしな条例」という書物の基本は、恐らく条例制定権は地方自治体にあるけれども、罪刑法定主義という観点から見ておかしなものはこれはよくない。要するに構成要件が非常にあいまいで、何が処罰の対象になっているかわからぬような条例は、これはいかぬということであろうし、また騒音防止条例というのが、論文があるのですが、全国の自治体で騒音防止条例をつくっている、罰則つきだ、しかし、これはあくまでも軽犯罪法にある、騒音で他人に迷惑をかけた場合には科料と何でしたか、ありますね。その軽犯罪法をはみ出すような条例はやはりいかぬのだ、法の枠内での条例での罰則という観点からいうといかぬのだということだと思うのです。  そこでお聞きしたいのですが、全国の地方自治体が、これから百万まで罰金限度が上がりますと、かなりの罰則をつくる能力を持つことになるわけですね。そうしますと、罪刑法定主義から見て構成要件がおかしなものとかほかの法律に抵触しているようなものは、やはりどこかでチェックしなければいかぬと思うわけなのですね。そのチェックを地方自治体に任せてしまうのか、それともやはり国の機関として刑事罰則の大元締めである法務省として、何らかの形でその歯どめをかけることが必要だと考えておられるのか、その基本的な考え方を聞かせていただきたい。
  242. 井嶋一友

    井嶋政府委員 大変難しい御指摘でございますが、やはり地方自治の本旨ということで、憲法上の権利として地方自治体に条例制定権があり、そしてさらに、罰則といえども地方の特殊性を生かして運用すべき規定があるということがある以上、やはり罰則制定権を条例にゆだねるということも合理的であろうと思うわけでございます。  そういった点におきまして、従来地方自治体のそれぞれの議会の民主的な手続による条例の制定といったものに期待をしておるわけでありますが、消極的と言われるかもしれませんけれども、そのようにしてでき上がった条例が、もし委員が御指摘のように罰則として構成要件が非常に不明確であるといったようなことが起こりました場合には、恐らくそれが適用された事件を通して、具体的には憲法に違反するといったような裁判所の判断が出るといったような形でチェックされていくというものだろうと思いますので、今の民主主義の世の中では、一応そういったメカニズムでやるというのが正しいのではないだろうかと私は思うわけでございます。もしここで、法務省が何らかの形で各自治体の条例についてすべてチェックをするといったようなものを持ち出すことは、恐らく不適切であろうと思うわけでございます。
  243. 木島日出夫

    ○木島委員 全国三千数百の地方自治体が、それぞれ地方の状況を踏まえて、地方自治の本旨に従ってよりよい条例をつくる、仮にそれに罰則が含まれたとしても、それは結構だと思うわけであります。  時間がないので私御披露できませんが、実は自治省から、全国の罰則つきの条例の一覧表をいただいているわけです。余りに数が多いので、東京、大阪、長野等一部の県に絞ったのですが、それを見た印象は、ほとんどもう共通しておるということであります。フグ取扱規制条例から公安条例から公害防止条例から、大体同じなんですよ。これを見ますと、地方自治体の皆さんが、その地方、地方の固有の状況に基づいて、地方自治の本旨に従って特異な条例をつくったとは決して言えない。現実の条例の制定過程を見ますと、ほとんど、都道府県の条例なんか見ますと、発案者は県当局ですが、その中心はやはり県警本部があるわけですね。県警本部の方は、もちろん警察庁の指導のもとに転勤もありますし、その指導を受けて条例をつくられている、今拡声機条例など問題になっ ておるわけでありますが。地方自治の本旨、本旨と言っているけれども、全国の条例がどうつくられているかといいますと、実際には中央の省庁がそれぞれ指導しているのですよ。そうしますと、やはり罪刑法定主義からはみ出るような罰則はいかぬぞというぐらいは、法務省何らかの形で、チェックするとは言いませんけれども意見を述べる仕組みというのをつくる必要があるんじゃないかと思うのです。簡潔で結構ですが、いかがでしょう。
  244. 井嶋一友

    井嶋政府委員 大変難しい問題でございますので、検討させていただきたいと思います。
  245. 木島日出夫

    ○木島委員 じゃもう一点。略式手続罰金の引き上げの問題についてお伺いいたします。  既にほかの委員からも指摘をされましたが、今回略式の限度が二十万から五十万に上がります。日本の刑事裁判の九十数%が略式で罰金で終わっているということを見ますと、略式手続というのは非常に大事な裁判手続になっている。ですから、これは絶対いいかげんにやられちゃいかぬと思うわけであります。  先日、大阪地方裁判所で、公職選挙法違反事件で百二十二名が一遍に無罪になったという、大変な事件が新聞でにぎわいました。あの事件も略式なんですね、出発点は。それに不服として不服審査請求されて、一審で無罪判決が出たわけであります。略式手続といいますと、証拠をしっかり固めてなくても、公判請求されなければもう被疑者の判一つで有罪確定すれば終わりですから、証拠収集が非常にずさんになるんじゃないかと思うわけであります。先日の大阪地裁の無罪判決を見ましても、やはり証拠が固まってないということが指摘されているわけであります。  そこで私は、略式手続がこれだけ重要で、こういういいかげんな形で運用されているのはゆゆしいわけですから、略式手続に賛成した被告人、被疑者については、ぜひともその部分は弁護人をつけるという制度を日本でつくっていただきたい。起訴前弁護の制度ももう世界の先進国ではやっているわけですが、そこまで私きょう要求しませんので、せめて略式で罰金をもう受忍するという被疑者に対しては、弁護人をつけて、弁護士から証拠をしっかり検討する、そういう仕組みを日本でももうつくらなければいかぬじゃないかと思うわけです。大阪のあの無罪事件を見ますと痛感するわけですが、法務大臣あるいは刑事局長、いかがでしょう。
  246. 井嶋一友

    井嶋政府委員 まず、先般の大阪の地裁の事件についての言及がございましたが、百二十二名という大量の無罪が出たという点におきましては、大変遺憾であると思っているわけでございますが、まだ現在控訴期間中ということで、控訴の要否を検討しておりますので、これに今は触れることは差し控えさせていただきたいと思います。  ただ、委員前提として、略式命令手続が非常にずさんに行われておるといったような印象を述べられましたが、これは決してそのようなことはないということだけを申し上げておきます。  それから、今仰せのような弁護人をつける制度といったものにつきましては、突然のお尋ねでもございますが、検討させていただきたいと思います。
  247. 木島日出夫

    ○木島委員 法務大臣、その弁護人をつける制度についての御所見を一言。それで終わります。
  248. 左藤恵

    左藤国務大臣 急にそういう問題を言われましても、私も何とも今お答えの仕方がないわけですけれども、一つ検討に値することではなかろうか、このように思います。
  249. 木島日出夫

    ○木島委員 終わります。
  250. 伊藤公介

  251. 中野寛成

    中野委員 罰金額等の引き上げのための刑法の一部改正案でございますが、そう時間がありませんから、基本的なことだけお尋ねをさせていただきたいと思います。  この罪と罰の関係を間違えますと、これは大変な人権問題になると思います。今回は、この法律案提案理由説明によりますと、「昭和二十三年に制定され、同四十七年に改正された罰金等臨時措置法によることとされておりますところ、同法が改正された昭和四十七年から見ましても既に約十九年が経過し、この間、消費者物価は約二・五倍に、労働者賃金は約三・五倍に上昇しております。」云々と書かれておりまして、ゆえに、「刑法等に定める罰金及び科料の額等を原則的にその二・五倍に改めることとし、」こうなっておるわけでありまして、いかにも労働者賃金や消費者物価が上がったので、それに自動的にスライドさせて罰金の額も上げますよ、こういうことになっているものでございますが、実際上はそういうことではなくて、もっと抜本的に、本質論的に検討がなされて、罪と罰のねじれ現象も起こさないように、その本質が人間にとっていかに重要であるかをしっかりと分析した上での確立された法案が出されるべきではなかったか、こういうふうに思うのであります。  ゆえに、自動的に上げますよ、物価にスライドさせますよという感じを受けるものですから、どうもこれは税収を上げるための財源法案ではないかとか、また金額に絡むものですから、これは今年度内にこの法律は成立させてもらわないと四月一日からいかにも困りますよという感じの、いわゆる予算関連法案、確かに予算関連法案になるのですが、金額が入っていますが、しかし何かそこで、言うならばほかの予算関連法案と同じような日切れ法案というふうに、何か自動的に決め込んでしまうというか、誤解してしまう部分があると思うのですね。この場合、罰金の額を物価にスライドさせることの意味よりも、まさに罪と罰の本質をいかにして調整をするか、整合性のあるものにするかということが主目的、というよりも唯一の目的であると言っても過言ではない、こう思うのでございます。  そういう意味で、先般の商法改正もそうでしたけれども、取り残された部分の方が大事だ、取り残された部分の方が本質をついている、こういうふうに申し上げても過言ではない、こういう感じが大変強くいたします。ゆえに、人権の問題と罪と罰のねじれ現象の問題と、これらのことを合わせまして、これからいろいろな検討がなされるのであろう、こう思います。  法制審議会刑事法部会小委員会ですか、財産刑をめぐる基本問題についてということで検討がなされているようでありますが、この残された問題の大きさについての御認識、そしてそれをどういうプロセスでどのくらいかけておやりになるつもりなのか。今回は自動的な問題でございます。そのことを抜きにいたしますと、戦後随分とこの基本的な問題が解決されないまま今日に至っておるわけであります。時代の変遷に合わせなければならないことよりは、今御指摘を申し上げたことの方がまさに大切だと思うのでございますが、その問題認識と今後のプログラムについてお聞かせをいただきたいと思います。
  252. 井嶋一友

    井嶋政府委員 大変厳しい、また本質をついた御質問でございまして、恐縮をいたすわけでございますが、御指摘のとおり、この罪と罰とのバランスといったものが刑罰の本質である、これを間違えれば過酷な刑になり、あるいは寛刑になるということでございますので、これを間違えてはならないということは、刑政を預かる者としてはまず基本であることは間違いございません。  そこで、それはどういう形で日本においてつくり上げられているかということでございますが、刑法に関して申し上げれば、明治四十年に刑法制定されましたときに現在のバランスがつくられたわけでございます、その後ずっと運用されてまいりまして、戦後に至りましたが、ここでもちろん価値観の変遷その他もございましたけれども、そういった罪と罰とのねじれといったものもあったかもしれませんが、その段階では結局そういった体系的なものはいじらないままに、同じバランスの中で、ただ貨幣価値変動に伴う罰金額の改定をしようということで、罰金等臨時措置法といったものができたわけでございます。  その後、ずっと戦後を経過するわけでございますけれども、四十七年の段階におきましては、その当時の社会情勢等を踏まえ、刑法全面改正作業というものをやっておったわけでございまして、今おっしゃるような罪と罰とのバランスといったような本質も踏まえた、現代にもっとあるべき刑法の姿といったものを、全面改正という作業の中で行っていたわけでございます。  そういった作業が行われておりました段階において、経済変動が著しくなって、罰金刑がもうとても実務に耐えられなくなったということで、これも四十七年に臨時措置として、罰臨法改正ということで改正をさせていただきまして、それで当面の措置としてやはり倍率計算で適用するという形をとってきたわけでございます。そういうことでございますので、御指摘のような罪と罰との本質をついた改正、つまり刑法全面改正という作業が必要であることは御指摘のとおりでございます。  その点につきましては、四十七年当時、非常に精力的にやっておりましたが、御案内のとおり、私どもがまとめました改正草案につきましては、例の保安処分問題といったような問題がございまして、結局現在中断をしておりますが、これは決してあきらめたわけではございません。むしろその後に改正されました精神衛生法の運用状況を見ながら、保安処分制度をどうするかということを見きわめた上で全面改正に取りかかろうということを考えておるわけでございますけれども、また同じような形でそういうことをやっております中で十何年たちますと、また罰金刑が追いつかなくなってきたということで、今回また同じようなことで改正をさせていただくということになるわけでございます。  そこで、そういった改正をするにつきましては、やはり罰則の基本的なバランスは、体系は崩さないということを前提に、金額だけ、つまり刑罰としての痛みを結局現在の法律の姿のままスライドさせようということでございますので、経済事情変動の指標というものが、結局は皆さんのその全体の経済観念の上昇につながっておるわけでありますから、同じスライドを持ってくれば痛みも同じような形で上がるだろう、こういうことでお願いしておるわけでございまして、安易に経済指標を持ってきて当座をしのぐといったような御指摘でございましたけれども、もう少し真剣に考えてやっておるわけでございます。  そういったことで今回この法律お願いしておるわけでございますけれども、それはそれといたしまして、御指摘の基本問題につきましては、いろいろ問題がございます。特に、けさほど来いろいろ問題がございましたように、現在の社会情勢を考えますと、現在の財産刑のあり方、また、もっと広く言えば刑法全体のあり方といったようなものに、相当な手を加えなければならない実態があることは間違いございません。そのための作業を我々も引き続きやってまいりますが、特に財産刑につきましては、緊急の課題でもございますので、小委員会をつくりまして精力的に問題を検討し、整理をいたしまして、その出された指針に基づいて改正を行っていきたいというふうに考えておるわけでございまして、御指摘のような方向も踏まえながらやっておるということをお答え申し上げたいと思います。
  253. 中野寛成

    中野委員 いろいろな審議をしている過程の中で、基本的な改革というのが間に合わないままに、物価の問題やいろいろな問題が起こってきた、とりあえずは現状の姿のままで金額だけを上げる、そのことによって痛みが比例して上がるというふうにおっしゃられたわけでありますが、この何十年間の間に、先ほど申し上げましたように罪の重さも変わってきていると思うのですね。例えば、二十年前であればそのときの社会情勢の中において大変重い罪であったもの、そして、当時は軽い罪とされた罪が今日の社会情勢では逆転して、当時軽いと思われたものが社会的には弊害が大きい、ゆえにこれは重くしなければならないという問題が当然起こってきている。そういう事例もありますし、その他の矛盾等もあると思います。それは同僚議員からけさ以来るる指摘をされたと思うのであります。これらのことを放置しておくということは、これが一年でも二年でも長引けば長引くほど、社会の実態に合わないということと同時に、重い刑を受ける人にとってはこれはゆゆしい人道問題であり、人権問題であるということになるわけであります。  本来守るべき人権が逆に阻害をされるということがあってはならないと思うわけでありまして、これは慎重でなければなりませんが、しかし時間をかければいいというものではなくて、その矛盾を一日も早く解消するための積極的な努力が必要であるというふうに思うのでございます。これはあくまでも基本論でございますから、法務大臣の方から大いに督励していただかなければなりませんが、大臣の御所見を伺いたいと思います。
  254. 左藤恵

    左藤国務大臣 今もお話しのとおりに、私も全く同感だと思います。そして、この審議会にいろいろ諮問を申し上げたり、いろいろなことで法制審、そういったところを中心に、この問題について慎重に御審議は願わなければならないけれども、時間をかけないでやっていただかないと、今のお話のように社会がどんどん変わっていく。そういう意味での本当に基本的な法律でありますから、慎重でなければならないけれども、やはり社会の情勢に適合したことで初めて意味がある問題であろう、このように思いますので、そういった姿勢で審議の方をお願いしていきたい、このように考えております。
  255. 中野寛成

    中野委員 さて、この問題はここでおきまして、今大臣の御答弁のように、日本の罪と罰とのあるべき姿が、間違いのないもの、整合性のとれたもの、そしてその中で人権がしっかり確立をされるものにしていただくよう、せっかくの御努力を御要請申し上げておきたいと思います。  さて、私は、その人権にかかわる問題で、部落差別の問題をお尋ねいたしたいと思います。この罰金の問題の担当の方、どうぞ結構でございます。  今罪と罰の話をいたしましたけれども、罪は重いけれども罰がない、もしくは罰が軽い、その罪の重さがなかなかはかり切れない問題、これが差別の問題、心の問題だと思うのであります。  その中で、日本において一番大きな問題が部落差別の問題と言っても過言ではないと思います。また同時に、この部落差別の問題は、地域的な特性が歴史的にありましたから、ややもすると日本人全体が正しく理解しているかどうかというのは、これまた問題があります。ややもすると関東以北の皆さんには、平均してなかなかわかっていただけない部分があります。しかし、関東以北にも被差別部落はあるわけであります。しかしながら、法務大臣は大阪の御出身でございますから、そういう意味では身近に、しかも実感としてこの部落差別の問題を御認識であろうと思います。ある意味では、せっかくの大阪からの法務大臣でございますから、この機会に、左藤法務大臣のときにぜひこの差別問題について大きな飛躍、発展が遂げられるように御期待を申し上げながら、お尋ねを申し上げたいわけであります。  私自身は今日まで、この国会におきましては在日韓国人の差別の問題、それから私自身がそうでありますが、色覚異常、いわゆる色盲、色弱者に対する差別の問題等々を幾たびか取り上げてまいりました。一番肝心なこの部落差別の問題についてお尋ねする機会がなかったのでありますが、昨年からことしにかけまして、再び大阪において結婚差別事件が起こってまいりました。何かもう差別がだんだんなくなっているような錯覚を持っている方が多い。そしてまた、例えば自治省や自治体、国・地方の御努力によってその環境整備についていろいろな財政的な措置が講じられてまいりました。町がきれいになれば逆差別だという批判が起こる。なかなか町がきれいにならない。また、その地域の皆さんに対する教育的な措置やいろんな財政支援の措置が講じられませんと、汚い、貧しいということで差別意識が増幅をされる。措置が講じられますと逆差別だといって非難がまた寄せられる。実に難しい問題でありますが、しかし人間の根源に触れる問題でございます。  これをどのようにして解決をしていくかということが大事な問題だと思いますが、結婚差別事件について申し上げるまでに、この部落差別問題に対する法務大臣の御所見、御認識をお聞きいたしたいと思います。
  256. 左藤恵

    左藤国務大臣 今お話しのように、今日なお根強く部落差別の問題は残っておると私は思います。そういうことで、今日までいろいろ努力もしてきておるわけでありますけれども、さらにやらなければならない問題として、やはりこの差別意識の解消の啓発というものは、そういう意味では幾らやってもいい問題であるし、また、やらなければならない問題ではないかな、このように考えるわけであります。憲法で保障されました基本的人権にかかわる重要な問題だということについて、やらなければならないわけでありまして、今お話しのような点について、特に心理的な圧迫といいますか、そういった問題についての啓発がさらにやらなければならない重点の項目ではなかろうか、このように考えております。
  257. 中野寛成

    中野委員 それで、今申し上げました結婚差別事件につきまして、若干時間がかかりますが、概要を申し上げたいと思います。  大阪のある高校の先生をしておられます、ここではAさんとしておきたいと思いますが、その人と、そして教え子ということではありませんが、その高校の卒業生であります、B子さんと申しておきましょうか、三年ほど前からおつき合いをしておられた。そして、一年半ほど前からは結婚を前提としたおつき合いであった。交際を重ねるにつれまして、B子さんの御両親も一度会いたいというふうなこともありまして、昨年四月、春に、Aさんは自分のお父さんと、お母さんを亡くしておりますのでおばあさんとで、一緒にB子さん宅を訪問をし、快く歓待されたものと思っておったわけであります。  しかし、それからしばらくいたしまして、まず一通目の投書がAさんあてに届いて以来、約半年の間に二十三通にも及ぶ差別投書が、これはAさん本人だけではありません、御親戚を初め友人、そして職場の上司に届けられているわけであります。中には四回にわたってかみそりが入れられておったわけでございます。実はこのAさんは、御自身が被差別部落の出身であるということは知らなかった。しかしこの手紙を見て初めて知らされたというふうなことでもございました。  その投書の内容たるや、随分ひどいものでございます。あるときこのAさんの同僚に送られました手紙には、かみそりが入っておりまして、おまえはAさんの同僚だろう、AさんにB子さんとの結婚をやめろと言え、そうせぬとおまえの家に火をつけたる、家屋敷を燃やしたる、こういう投書が寄せられておりますし、またそのAさんのおばあさんに対しても、あきらめさせろ、未練がましくつき合うなという投書を寄せております。また、脅迫電話、無言電話、これはまさに数限りがない。多い日には一日に十回もかけられているわけでございます。  その投書の一つを一部読ませていただきますが、   私はB子の縁者のものです。BとAさんの交際については、かねてから聞いていましたし、私どもでもAさんが高校の教師であられるということに安心していました。ところが、念のために、こうしん所をつかい この「こうしん所をつかい」というところが、大臣御存じのようにこれまた問題であります。  Aさんの身辺調査をいたしましたところ、Aさんの家系のなかにおもわしくない箇所がいくつもでてまいりました。そして私どもは非常におどろいたのでございます。Aさんの母方の出は和歌山の部落の出であること、身内には刑務所にはいっている方、借金苦の方、酒浸りの方と、私どもとはかけはなれた、縁のない方々ばかりでございます。またAさんも、高齢の祖母上と父上をかかえながら、家も財産もおもちではありません。このほかにも、こちらが知った事実はたくさんありますが、それはひとつひとつ申し上げなくても、Aさんがもっともご存じでしょう。私どもが調べさせていただいたことは、Bの両親にはまだ何も話しておりません。話せば、この交際をめぐって家じゅうけんかになることは目にみえていますしAさんの栄誉も傷つくからです。 云々と書かれております。そして最後の方に、  どうかこの手紙のことはBにも両親にも伏せていただき、Aさんの胸の中にしまっておいてください。あなたの地域には部落がありますが、私どもやBの両親を、どうか部落差別とか結婚差別といった修羅場には、決して引き出さないでください と書いてあります。この問題が社会的にどういう意味、問題点を持ったことになるのかということを認識した、知った上での投書であることがおわかりだと思います。  また、  もしあなたが身をひかないとおっしゃったり、あいまいな返答をされるのなら、私どもはAさんの身辺報告書の写しを、教育委員会や先生方や生徒の父兄にばらまき、あなたの生の人間を暴露する覚悟でございます。その準備も出来てはいますが、もう一度あなたに機会をお与えします。わたしどもは、あなたがBと別れてくれればよろしいのであって、あなたの社会的地位を傷つけるような手あらなことをしたいとは思っておりません 云々と書かれておりまして、だんだん脅迫めいてくるわけでございます。  それからまた半月ほどいたしますと、  どうかこの手紙のことはAさんの胸の中だけにしまってほしい。わしらはAさんの身辺報告書を幾度も読み返した。あんたの人物や人柄についても聞きあわせをさせてもらった。いろいろ考えたあげく、やはりBをあんたにもらってもらうわけにはいかん。どんなことがあっても、あんたと関わりあいになることはできん。 こう書かれておりまして、だんだん丁寧語がなくなってまいりまして、ストレートな表現に変わってくるわけでございます。  そして、それからまた半月もいたしますと、Aさんの勤務先の高校の校長先生、また教頭先生あてにこういう投書が行くわけであります。  あんたの学校のAという教師は、こわいやつだ外づらはいいが、中身は嘘つきのずるい恐ろしいやつだ Aは、高校の卒業生の女をたぶらかし、自分の安アパートに連れ込んで手を出している 相手の女や両親が付き合いを断っても、女の家におしかけたり、夜遅くに電話をかけたりして、未練がましく言い寄ってつきまとってくる こんな教師は首にしろ 具体的に「首にしろ」と、いよいよ実行行為に移り始めているわけであります。  もちろん、その間にAさんのおばあさんあてに不幸の手紙というものを出しまして  これは不幸の手紙です。あなたに不幸をお返しします。といっても、くまもとから来た死神です ということで、汚い字で書かれております。汚いかどうかはどちらでもいいことでありますが、このような手紙がだんだんとエスカレートしてまいりまして、そして結局二人の間は気まずくなり、今日に至ってしまっているわけであります。B子さんがAさんに電話をいたしますと、その二、三日後にはまた脅迫の投書が届くといったことの繰り返しが続きました。  この興信所の調査が事実かどうか、これもまだ調査中であります。この投書の主がB子さんの周囲のだれなのか、家族なのか、御親戚なのか、だれなのかもまだわかりません。全体を分析し読んでいけばおおよその想像はつきますが、想像で物を申し上げるわけにはまいりません。しかしながら、明らかにこのAさんは、ひどい差別意識の中で大変な仕打ちを受けているわけであります。B子さんも大変心配をして、いろいろと電話をかけてこられたりしているようでありますけれども、しかし、そういう状況下で引き続いておつき合いをしていくということはなかなかできませんから、そしてまた周囲からもとめられているのでしょう、だんだん縁が遠くなっていっている、こういう状況下にあるわけであります。  興信所を使ってこのような調査をさせること、これは明らかに大阪府の条例に違反をいたしております。大阪府部落差別事象に係る調査等の規制等に関する条例というのがございまして、これに明らかに反しております。また、かみそりを入れ、このような脅迫の手紙を出すこと、これは明らかに告発すれば警察の捜査対象になるはずであります。果たしてこのようなことを今後とも繰り返しておっていいのか。このAさんは勇気を持って部落解放運動をしておられる皆さんに相談をされた。また、日ごろから差別問題を子供たちにしっかりと正しく教えたいということでその努力もされておられた勇気ある先生でありますから、私どものところにもこうしてこういう資料が届けられたわけであります。しかし、これは氷山の一角というよりも、もっと小さい事例でありましょう。本当は、表に出ることもなく、まさに泣き寝入りやあきらめで終わっている事例が今なお多いわけでございます。  これらのことにつきまして、私どもとしては、法務省は法務省としてのお立場での、なお一層の御努力が必要であろうと思います。総務庁総務庁として、なお一層の啓発活動が必要であろうと思います。文部省はまた文部省として、学校現場において先生方に対する認識をしっかりと持っていただく御努力と同時に、子供たちに対する教育もまたしっかりとしていただかなければなりません。この事例をお聞きいただきまして、どのように今日の事態の認識をされますか、また今後どうお取り組みをいただきますか、お聞かせをいただきたいと思います。
  258. 篠田省二

    ○篠田政府委員 ただいまお話しの事案が事実とすれば、これは大変な人権侵害になるゆゆしき問題であろうというふうに考えております。そこで、当該事案につきましては、法務局といたしましても情報収集中でございます。  それから、一般的にやはり結婚差別、就職差別という事象が依然として見られるということは、私どもも真剣に受けとめておりまして、心理差別の解消についてはさらに啓発を粘り強くやっていかなければいけないというふうに考えております。
  259. 萩原昇

    ○萩原説明員 お話しのような心理的差別の問題でございますが、この問題につきましては、先生もおっしゃいましたような関係諸施策の改善によりまして、物理的な生活環境等の改善はかなりされてまいったというふうに我々思っておりますし、運動団体にも一定の改善は見たというふうに御評価をいただいておるわけでございますが、心理的差別の問題については、解消が、進んできているけれども、まだなお問題が残るというふうに思っております。  このような問題が発生するということは、大変残念なことでございまして、今後とも啓発活動については、人権尊重の立場から、関係省庁とも連絡をとり合いながら、粘り強く推進してまいりたいと考えております。
  260. 近藤信司

    ○近藤説明員 お答えをいたします。  同和問題の解決に当たりまして、教育は大変重要な役割を果たす、こういう認識を持っております。  文部省といたしましては、同和教育の中心的な課題は、法のもとの平等の原則に基づき、社会の中に根強く残っている不合理な部落差別をなくし、人権尊重の精神を貫くことであり、また同和教育におきましては、個人の尊厳を重んじ、合理的精神を尊重する教育活動が、積極的かつ全国的に展開されなければならない、かように考えております。また、学校教育で児童生徒を指導いたしますすべての教員に対しまして、同和問題についての正しい理解を深めさせるとともに、その資質の向上を図っていくということ、これもまた重要な課題だろうと思っております。  そういう意味におきまして、さまざまな研修会等の機会においてこの同和教育に関する内容を取り上げ、その理解の促進を図るよう、今後とも都道府県教育委員会等を通じて指導してまいりたい、かように考えております。
  261. 中野寛成

    中野委員 私はこう思うのです。同和地区においていろいろな施設が、例えば住宅がきれいになった。未措置の地域は、部落の手前まで堤防がきれいにされているのに、そこからほったらかしになっているというケースも全国ではまだたくさんありますが、自治体の努力もあって、ハードの面においてはかなり進んできた、こう思うのであります。  しかしながらそのハード面も、先ほど申し上げましたように、進みますと周囲から、何だあそこだけという、やっかみ半分の余計な批判があったり、進みませんと汚いという差別意識が増幅されたりという、ハードの部分が持っている問題点もありますが、しかし、そのハードの部分はこれからも一層努力をしていかなければなりません。その持っている歴史的な長さと問題の大きさから考えますと、大変な財政措置を必要といたしますけれども、しかし、これはやはりやらなければならない問題であります。  しかし、そのハードの部分が改善されることによって、周囲からの差別意識を逆に助長するケースもあります。逆差別と批判する人たちの心の中には、むしろ差別意識が増幅されたと言っても過言ではないと思います。というふうに、言うならば物と心の問題はなかなか比例いたしません。ゆえにこそ、この問題の基本的な大きさ、深刻さというものがあるのだろうと思います。  今御答弁の中で、私の申し上げました事例について、事実であればとおっしゃられました。お立場上そうおっしゃられたと思いますが、現実にその手紙を私も拝見いたしました。そしてまた、現実にAさんとBさんのおつき合いは壊れているのであります。そしてそれは、心ないBさんの周囲の人の行動としか思えません、ほかにBさんのことについて知っている人はいないのですから。これだけの手紙の内容から見て、お二人のつき合いをここまで知っている人はいないのですから。また現実に興信所を使わなければ、Aさんのルーツをたどっていって、またAさんの大学時代の下宿先のあったところまでたどっていって、そして具体的に地名まで挙げて指摘をするなどということは、これまた不可能なことであります。それはAさんに確かめますと事実のことなのであります。  こういうふうに考えますと、ここには明らかに意図的な差別意識と、具体的な行動と、興信所の役割とがはっきりとあらわれていると思うのであります。こういうことについて、単に抽象的な啓蒙だけではとてもとても済まされるものではない、こう私は申し上げなければならないと思うのであります。今後、より一層具体的にどのような啓蒙もしくは対策を講じられようとしているのか、重ねてお尋ねいたします。
  262. 篠田省二

    ○篠田政府委員 法務省の人権擁護局として行っておりますことは、具体的な差別事象につきましては、人権相談あるいは人権侵犯事件という形で取り組んでいるわけでございます。そのほかに、一般啓発として、差別意識の解消へ向けてさまざまな取り組みをやってまいってきたわけでございまして、例えば人権座談会あるいは各種ポスター、あるいはリーフレット、あるいはパンフレット、いろいろなことをやっておりますけれども、その点につきましてより効果的な方法を研究し、さらに推進してまいりたいと思っております。
  263. 中野寛成

    中野委員 時間がありませんから、最後に結びとしてのお尋ねをいたしますが、昭和六十二年の百八国会で地域改善対策特定事業に係る国の財政上の特別措置に関する法律、いわゆる地対財特法というものができました。言うならば、来年度いっぱいでこれも切れようとしているのでございます。そしてこれができました際に、もう同和対策事業に関する法律はこれで最後だよという話も一部であったのでございます。しかし、今申し上げましたように、ハード面でも、ましてやソフト面においてはますます事態は深刻になりつつあります。ハード面においての改善はある程度なされたとはいえ、まだ残事業は膨大なものがあると言わなければなりません。地域差もありますし、地方財政の問題もありましょう。しかしながら、その受けた被害、差別、そういうものに報いる、また今後新たな差別を生まないための措置というものは、よほどの心構えを持って努力していかなければ解決されない問題だと思います。ゆえに、そのような実効を上げるために、部落解放同盟の皆さんもそうでありますけれども、運動体やまた地域の行政の皆さん、そしてこの問題を深刻に受けとめて理解をしておられる皆さん、多くの方々が、やはりこれは基本的な心の問題として新たに基本法をつくる以外にないなという意識を強くお持ちでありますし、またそういう運動も起こっているところであります。  そこで、私ども民社党も、次のような態度で今日まで同和問題に取り組んでまいりました。今日なお根強く残っている部落差別を解消していくためには、地対財特法とは別に、人権擁護のための基本法の制定が必要であると考える。基本法は、国民の合意が得られるよう、学識経験者、またもちろん当事者といいましょうか、当事者というのは差別する方、されている方という両方があると思いますけれども、とりわけ差別を受けている皆さん、そういう方々の代表の意見も広く聴取していただくことが、とりわけ必要であろうと思います。そして政府が責任を持って提案をすべきだと思います。これは、単に特定の政党が議員立法でなどというものではなくて、本来は全政党挙げて、そのもとに政府が提案されるべきではないだろうかと思います。  また、基本法の内容について、私どもは、部落差別の解決に加え、これが中心でありますが、男女、人種、民族、国籍等の違いを起因とする、あらゆる差別の撤廃のため、憲法で保障された基本的人権の擁護の見地に立ったものとすべきではないかと考えております。またハードの面におきましても、未指定地区の問題については、地域の実態を踏まえ、弾力的に対応する必要がありますが、地方自治体の財源確保に大いに努めなければならないと考えております。  ある意味では、いよいよ地対財特法が期限切れを起こすということで、大詰めに来た問題ではないかというふうにも思いますので、きょうこの問題を取り上げさせていただいたのでございますけれども、この基本法についての考え方、そして今後の部落問題に対する取り組み方につきまして、最後に大臣から基本的なお考えをお聞きしたいと思います。
  264. 左藤恵

    左藤国務大臣 差別をなくしていくということについて、大切なことは今もおっしゃったとおりだと思いますし、まだまだ十分でない、そういう点で努力しなければならない問題があることもおっしゃるとおりだと思います。今その場合に、そうした基本法をつくるべきなのか、あるいは、これは根本的な問題であって、憲法にはっきりと明示されていることでありますから、その憲法を生かしていくという方がいいのか、この辺のことについて我々はまだもう少し検討していきたいと思いますが、どちらの方がより一層国民の皆さんにそういった点の考え方が徹底できるかということについて、我々はそういった点について真剣に検討していかなきゃならない、このように考えているところでございます。
  265. 中野寛成

    中野委員 最後の質問と申し上げましたが、今大臣は、憲法に明確に規定をされているので、憲法の精神を守っていくことで足りるのではないかという考え方もある、と指摘をされました。しかし、ならば日本で規定をされているあらゆる基本法は要らないのでございまして、いかに明確に、具体的に国民に指針を示すか、あるべき姿を示すか、これが基本法の姿だと思うのであります。そういう意味では、ややもすると国民の誤解や差別意識等から生まれるこの問題でございます。憲法という基本法でありますし、立派な憲法でありますが、抽象的な表現で、みんなが具体的な指針をその中から酌み取ることはなかなか不可能でございます。そういう意味で、私はぜひとも、ハードももちろんのことながらとりわけ心の問題、ソフトの問題が極めて重要でありますから、積極的に前向きにこの基本法の問題等については取り組んでいただきたい。  とりわけ、これは地域差別になるかもしれませんが大阪出身の、問題を一番よく認識しておられる、よく御存じの左藤法務大臣であるからこそ、なお一層御期待を申し上げたいと思うのでございまして、どうか憲法の規定にそのまま頼るというふうなつれないことはおっしゃらないで、つれない気持ちでおっしゃったわけじゃないと思うのですが、ぜひ積極的に、むしろ法務大臣が先頭に立ってこの基本法が実現できるような御努力をいただきたい、そのことをお願いをいたしまして、質問を終わりたいと思います。
  266. 伊藤公介

    伊藤委員長 御苦労さまでした。  次回は、来る十二日火曜日午前九時二十分理事会、午前九時三十分委員会を開会することとし、本日は、これにて散会いたします。     午後五時三十五分散会