○
参考人(
加納時男君)
加納でございます。
それでは、最近の
国際エネルギー情勢について御報告申し上げたいと思います。
最近三つの大きな変化が出ております。これは九〇年代、さらには二十一世紀初めにかけましての
エネルギー政策をめぐる制約条件ともなりかねないものと思われます。つきましては、発展途上国の成長と地球レベルでの環境保全、そしてまた
エネルギーバランスの
確保といった三つの
目標を同時に実現することは私は不可能ではないと確信しておりますが、それを実現いたしますための
政策に当たっての
政策の合意づくりこそ
課題ではないかという
観点から御報告申し上げたいと思います。
第一の変化は、最近
増勢の著しい
エネルギー、なかんずく
電力需要でございます。OHPを使わしていただきますが、先生方のお
手元には同じもののコピーを用意さしていただいております。(OHP映写)
まず
資料の一でございますが、これはOECDの経済指標と
エネルギーを一九七三年を一〇〇にして並べたものでございますが、ごらんいただきますようにGDP五〇%
伸びたものに対しまして、
省エネルギーの成果もあり
エネルギーはわずか一四%の増でとどまっております。しかしながら、情報化、ソフト化、アメニティー指向といった変化から電力へのシフトは非常に強うございまして、先進国ではGDPを上回る五五%も
伸びているというのが先進国共通の問題でございます。
これを日本で見てみましたものが次でございますが、日本の場合には第二図でごらんいただけますようにこの勢いをさらに超えておりまして、
エネルギーは二〇%の増、先ほど来三六%の
省エネルギーができたという
藤目参考人のお話がございましたが、そのとおりでございまして、大変GDP当たりの
省エネルギーは画期的なことをやってまいったのでございますが、反面電力へのシフトが非常に強うございます。結局情報を扱える
エネルギーは電気しかないと言うと言い過ぎかもしれませんが、情報
社会に不可欠な
エネルギーとして製造業でも、業務用と申しますが、オフィスビルディングにおきましても、また家庭用においても、情報化が進むに従い電力へのシフトが進んできて、先ほどOECD五五%と申し上げましたが、日本では七〇%が一九七三年以来の電力の増加で、
省エネルギーということと電力の増加というものが別建てで進んでいるというのが
特徴かと思うわけでございます。
このように進んでまいりました
エネルギーの増加でございますが、お
手元のレジュメにございますように、これは先進国だけの現象でございませんで、ASEANでは六五年から八五年までの二十年間で十倍に、そしてインドネシアでは二十倍になっているわけでございます。ASEANにほかの発展途上国、例えば韓国とか台湾を加えました需要
見通しを先般太平洋の会議に出ましてやってみたわけでございますが、大体十年倍増のペースということが確実視されておりまして、世界は先進国、途上国を問わず電力へのシフトが続いているというのが第一の
特徴かと思います。
第二の変化でございますが、緊迫する中東
情勢でございます。
小島参考人からお話がございましたので重複を避けましてポイントだけ御報告申し上げたいと思いますが、
イラクの
クウェートへの一九九〇年八月二日の
侵攻に伴いまして
原油価格が高騰したというお話がございましたが、多国籍軍の展開を初めとして現在いろいろな議論がなされているところでございます。
歴史的な
特徴にちょっと思いをいたしてみたいと思いまして御報告申し上げるわけでございますが、
イラクがペルシャ湾に出る出口はシャトルアラブ川とそれから
クウェートの突端でございますワルバ島、ブビヤン島、ここを経由して出る、これしかないわけでございまして、かつて一九七三年に
イラクがこのワルバ島それからブビヤン島を
侵攻したことを思い出すわけでございます。
それからちょうど十七年たったわけでございますが、その一九七三年のまた十七年前を思い出してみますと、それは実は似たような話がイスラエルでございました。スエズ運河の国有化の宣言に伴いまして、イギリス、フランス、イスラエルの連合軍がスエズ運河を占領し国際的な非難の中で撤退をしたわけでございますが、その土壇場でイスラエルは、アカバのちょうど前にございますエイラートでございますが、エイラートの自由航行権を主張して最終的に取引に応じた。恐らくサダム・フセインはその歴史を踏まえた今回の
侵攻ではないかという見方も
一つあるのではないかと思われます。
もう
一つの見方といたしまして、アラブ・イスラエル対立をこの問題にすりかえるという作戦が考えられておるようでございまして、去る十月八日のテンプル山におきますパレスチナ人の騒動、これに対するイスラエルの発砲、国際的な非難ということになっておりますが、この
イラクの無法な
クウェートへの
侵攻をイスラエルの国連決議を無視した居座りというものと引きかえに撤退をのむという見方もあろうかと思います。
第三に気になりますのはメッカ、メジナでございます。これはいずれもイスラムの聖地でございまして、イスラムの聖地を異教徒の軍隊のもとに置くということを強調することによって現在の多国籍軍の中に動揺を来そうといったことも考えられるかと思います。
これらの問題のほかに今までに過去にこの地区で発生してまいりました王制転覆の経過をたどってまいりますと、一九五二年のエジプトの革命、
イラクも五八年に王制がひっくり返っているわけでございますが、そのほかリビアあるいはエチオピアでございます。これはイエメンでございます。これが一番新しい七九年、イランでございますが、緑で書いたサウジアラビア、アラブ首長国連邦等を取り巻きます各国におきます王制が次々に倒れていったという地図と先ほどの地図とを重ね合わせてみますと、反王制、反西欧といった戦略に基づく
イラクの介入というものが今後も考えられるわけでございます。
この地区に、先ほどの
資料にもございましたが、百分比にしてみますと世界の原油の実は六五%が埋まっているわけでございます。中東と書いてございますが、今話題の
イラクと
クウェートは埋蔵量で見ると二〇%
程度でございますが、
イラクの覇権主義により仮にサウジアラビアやアラブ首長国連邦等への影響力行使という事態が近い将来考えられますと、世界の原油の六五%が埋まっているペルシャ湾岸に生命を預けているといった事態でよろしいのかどうか。
石油依存体質、特に中東への依存体質を改めていくということと、それから中東和平への貢献というものが殊のほか
エネルギー政策上重要ではないかと思われるというのが第二の点でございます。
第三の変化を申し上げたいと思います。
第三の変化は、地球環境問題の緊要化でございます。昨年の十一月に開かれましたオランダのノルドベイクでの環境大臣の会合におきまして、二酸化炭素など温室効果ガス削減への
方向性が訴えられたわけでございまして、本年の八月のスウェーデンのスンツバルの会議におきましても重要なことが二点
決定になっております。
これにはいろいろな御
意見はあろうかとは思いますが、重要な点といいますのは、
一つは、このまま温室効果ガス、特に二酸化炭素が増大していった場合には地球の環境に大きな影響があるということが国際的にコミットされたという点は重要な点かと思います。
第二の点は、対策は直ちに実施すべきだということが決まったことも重要な点かと思います。二酸化炭素を初めとする温室効果ガスの削減の具体的
政策手段なり
目標については合意が得られませんでしたが、これらについては、日本時間のきょうの夕方から始まりますジュネーブでの第二回世界気候会議において議論されるところでございまして、きょうの朝刊によりますと、二〇〇五年までに二〇%
程度の削減といった原案も用意されているやに伝えられております。二酸化炭素を現状の、つまり一九九〇年レベルの現状に一人当たりを固定し、革新的な技術の開発によって、また
政策の加速によって総量も極力安定化を図るといたしました去る十月二十三日の政府の閣僚会議での
決定というものがあったわけでございますが、いずれにしましても、この第三の変化は今後いかにして地球の環境保全に
エネルギー政策が大きくかかわってくるかということを示しているものかと思います。
よく日本は世界第四位の
CO2発生国であるということが言われますが、若干疑問がございますのは、実は大手三社という
言葉は不謹慎かもしれませんが、世界の
CO2の第一位のアメリカ、第二位のソ連、第三位の中国を合わせますと、これだけで五割を超えている
状況でございます。俗に大手三社、中小七社と言っておりますが、日本は中小七社、日本、ドイツ、イギリス、カナダ、イタリア、フランス、オランダと入れた中小七社の兄貴分で、第四位であるのは決して間違ってはおりませんが、第四位だというのを強調しても余り意味がないので、むしろ日本は世界の
GNPの一三%
程度を生産しながらわずか四・七%の
CO2しか出していない、
省エネルギー、環境技術の先進国であるということに思いをいたしながら、国際的な枠組みの中で
省エネルギー、環境技術の国際水平展開を図っていくべきではないかというのがこのグラフの意味するところかと思うわけでございます。
環境問題で
一つ気になりますことを申し上げたいと思いますのは、発展途上国の問題でございます。
お
手元の第六の図でございますが、
横軸に人口をとり、
縦軸に一人当たりの二酸化炭素の発生量をとってみますと、それを掛け合わせたものが二酸化炭素の総量になります。御案内のとおり、アメリカが第一位で十二億トン炭素ベース、そして第二位がソ連で約九億七千万トン、第三位が国としては中国で五億二千万トン
程度でございます。
何を申し上げたいのかと申しますと、現在いろいろ先進国が集まって議論しております先進国の二酸化炭素凍結というのが望ましいことなんですが、仮にここで実現したとしても、それだけでは済まないということでございます。大変生意気な言い方かもしれませんが、発展途上国を四カ所とってみました。ラテンアメリカ、アフリカ、中国、それからインド、インドネシア等のその他アジアでございます。何分人口が大変多うございます。その他アジアは十六億人、それから中国は十一億人強でございましょうか、非常に多いものでございますから、一人当たりの二酸化炭素の発生原単位は極めてわずかではございますが、人口がちょっとふえて原単位がちょっと上がると一挙に総量がふえるところが
特徴でございます。
仮に二十一世紀の初めにかけましてこれらの四地域だけが変動して、ほかの国が一切変化なし、凍結といたします。四地域が、仮に人口がわずか一〇%だけふえて、原単位が最寄りの国の原単位に近づく、例えば中国が韓国に近づくといった意味でございますが、それだけの変化をして計算したのが点線でございまして、これでもって世界の
CO2が三〇%以上増加することが明らかでございます。韓国は大体一トンの
CO2発生の国でありますが、この国並みに仮になったといたしますと、それだけで世界の
CO2は五割五分、五五%もふえるということでございます。
ドラスチックなことでございますが、中華人民共和国の人口がちょっとふえ、原単位が韓国並みになりますとこの絵の大きさになります。十一億七千八百万トンでございます。この大きさがどこの国と同じかといいますと、現在の世界最大の
CO2発生国のアメリカと一致するということになります。その他アジアの国も同様でございまして、わずかにパラメーターを動かしただけで、これはどこと一致するかというと、世界第二の
CO2発生国のソ連と一致する。第二のアメリカ、第二のソ連が発生する。
こういうことを考えましたときに、やはり国際
エネルギー政策といたしましては、いかにして
CO2の発生を発展途上国も含めてマイルドにしていくのかというのが重要な点かと思います。
以上が最近の変化でございますが、残りました時間で若干、今のことから考えられます
政策提言に近いようなものでございますが、感じたことを御報告して終わりたいと思います。
第一に御報告申し上げたいことは、
省エネルギーの国際的な展開ということでございます。
第七図でございますが、この絵をごらんいただくとおわかりいただけますように、一人当たり
GNPの増加と一人当たり
エネルギー消費の増加とは大体プラスの相関があるわけでございますが、現在のマレーシアは、実は三十年前の日本と同じ一人当たり所得、一人当たり
エネルギー消費であるというのがごらんいただけるかと思います。現在の韓国は、J六五と書いてありますのは一九六五年の日本、つまりちょうど二十五年前の日本である。そして、台湾は二十二、三年前の日本であり、シンガポールは十年前の日本であるということがこの時系列データから読み取れるかと思います。
問題は、これらの発展途上国の仲間たちがこれから生活の近代化、前進を図っていくためにどうしても
エネルギー消費がふえてくると思いますが、何とか日本が七三年以来やってまいりました
省エネルギーシナリオ、日本はこの七三年から急カーブを切りまして、経済は成長をしても
エネルギーはそんなにふえない。先ほどのお話の三六%の
省エネルギーというのはまさにこれでございますが、何とかこの
省エネルギーシナリオに発展途上国の仲間が来られるように国際協力の重点を置いていくことが望ましいかと思われます。
第二の提言は電化率の問題でございます。
発展途上国の電化率をいろいろ調べてみますと、電化率の低い国ほど出生率が高いということが逆相関のグラフであらわされているわけでございます。いろいろな国を回ってまいりましたが、やはりパプアニューギニア、バヌアツ、ソロモンアイランド等いろいろな国の仲間たちは、なお医療設備がない、一次
産業しかない、電気がないために起こっている貧困と、それから環境汚染に悩んでいるわけでございます。また、まきの伐採等も行っているわけでございまして、こういった国々の仲間たちに早く電気の明かりを届けたいということを私ども希望しているわけでございます。実は、出生率との関係についてはいろいろ議論がございまして、やはり
産業が近代化されること、教育、医療が進むことが出生率をマイルドにしたいという気持ちを起こさせるという声も聞きましたので、これも世界の
エネルギーと発展途上国のこれからの前進のためにも必要な協力の方策の
一つかと思われます。
第三のポイントは、
資料九にございますように、今までやってまいりました
エネルギー政策はどちらかといいますと
石油離れ、
石油危機に対した
石油離れでございますが、これからの地球環境の危機、地球危機に対してはむしろ炭素離れではないかという提案でございます。
これは、
横軸に非
化石燃料率、
縦軸に発電電力量当たりの二酸化炭素発生率をとりました。日本が何でも大概こういう話だと一番になるんですが、この絵をとりますと、サミット国の中でフランスが第一位でございます。フランスが最も
CO2発生率が低い。なぜかといいますと、フランスは日本と同じように
石油はとれないんでございますが、
水力が意外とございまして、約二割ございます。加えまして、徹底的な
原子力シフトをしいてきたこともありまして、非化石率、発電電力量に占める化石
エネルギーでない
エネルギーの率が何と九割にも達しております。それに続くものがカナダでございまして、豊富な
水力に加え、CANDU炉という自前の
原子力もあって、非化石率が八〇%を占めている。
日本は、先ほどの
藤目さんのお話にもございましたように、今後非化石
エネルギーをふやしてまいりますが、現状はまだ発電の原料で四一%でございます。何とかこれを五十数%に引き上げたいというのが今回の
目標でございますが、そのためにも自然
エネルギーの活用とともに
原子力の安全な
利用を図ってまいりたいというのが第四の話でございます。
最後に、今後の輸送
エネルギーについて
一言だけ触れたいと思いますが、この百年間ほとんど燃料転換が行われてこなかったのが輸送部門でございまして、輸送用
エネルギーについて
石油から
石油以外の
方向に変えられないのか。二つ問題がありまして、輸送部門についてのマストランジット・システム、大量輸送手段を大
都市並びにその近郊に普及させること。それからもう
一つは、何といっても便利な自動車でございますが、この自動車の燃料を
石油から
石油以外のものにかえられないのかというのが大きな現在の
テーマになっておりまして、案としてはメタノール、圧縮
天然ガス、電気自動車、ソーラーカー等いろいろございますが、これからこの研究開発が急務かと思われます。
一番
最後になりましたが、未
利用エネルギーの話で終わらせていただきます。
現在、
都市並びに
産業の
排熱で
利用されていない熱がございます。これらの熱をほうっておきますと環境汚染のもとになりますが、生かすならばクリーンな
エネルギー源として使えるわけでございます。変電所から出てまいります
排熱を
利用しました地域冷暖房を既に四カ地点で開始いたしております。また、浴場の
排熱を
利用したもの、下水処理場の処理水、河川水、キルン
排熱、清掃工場の焼却熱など、私ども東京電力だけでも既に十カ地点が実現いたしておりますが、こういったことを今後
社会システムとして進めてまいりたいと思っております。
これからの
エネルギー政策、障壁は非常にたくさんございます。しかし、これらの障壁に対しまして
一つ一つ誠実に努力をしながら国民的合意をとりつけていくことができ得ますならば、先ほど申し上げました発展途上国の成長と環境の保全と
エネルギーバランスの実現というこの三つは、決してトリレンマではなく、マルチレンマでもなくて、これらは必ず同時に実現できるのではないだろうかというふうに考えまして、
意見陳述を終わらせていただきます。
ありがとうございました。