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矢田部理君 私は、
日本社会党・
護憲共同を代表して、ただいま
議題となっております
平成二年度総
予算三案に対し、
反対の
討論を行います。
昨年末の
マルタ島での
米ソ首脳会談は、戦後四十年の長さにわたって続いてきた東西の
冷戦に終止符を打ち、本格的な
緊張緩和と
軍縮の
時代を切り開きました。さらに、今年六月の再度の
米ソ首脳会談は、
戦略核の半減、海の
核削減など大幅な核
軍縮を
現実のものにする歴史的な
第一歩を踏み出しました。それは
ヨーロッパだけのものではなく、
アジア・太平洋を含めた全地球的な
規模のもので、まさに
世界は新しい
時代の
幕あけを迎えております。しかるに
政府は、
世界の新しい潮流を積極的に理解しようとせず、旧態依然たる
ソ連脅威論から
脱却できないまま、今なお
軍事力の増大を目指しております。今や
我が国は
世界有数の
軍事大国として、
アジア諸国のみならず
米国においてさえ
日本脅威論が叫ばれ始めています。
また、かつての侵略と
植民地支配についての真摯な
反省と
謝罪こそが
日本の
平和外交の基礎となり、原点となるべきであります。しかし
政府は、決して自発的に
反省と
謝罪を行おうとせず、常に
近隣諸国や
国民の強い批判と
要求に押されて、やむを得ずこれを認めるという
態度に終始してきました。それがまた、
日本に対する
不信の念を払拭できない
理由ともなっているのであります。
〔
議長退席、副
議長着席〕
また、
国内に目を転ずれば、
国民を欺き、
議会制民主主義のルールを根底から否定した一昨年の
消費税強行導入と、
史上空前の汚染の広がりと
規模を持つ
リクルート疑獄の噴出は、
国民の間に深刻な
政治不信を引き起こしました。昨年の
参議院選挙の結果は、そのような
政府・
自民党に対する
国民の厳しい
審判でありました。にもかかわらず、
政府・
自民党は、
消費税廃止という
国民の声を無視し、財界の顔色をうかがうのに忙しく、
海部総理の公約であった思い切った
見直しすらも、ほとんど
実効性の
期待できないまやかしの
修正にすぎません。しかも、これまでの
政府の
消費税をめぐる
態度は、あわよくば
見直し案と
廃止案とを相打ちにし、このまま
消費税を存続させようとするものであり、
国民を愚弄するのも甚だしいと言わなければなりません。
リクルート疑獄に関しても、
政府・
自民党は
政治的、
道義的責任を何一つ明らかにせず、
真相究明にふたをし、
さきの
衆議院選挙でみそぎは終わったとする
態度や、司直の手にゆだねればすべて終わりとする
姿勢こそが
我が国で
政治腐敗が根絶できない
最大の
理由となっているのであります。
深谷郵政大臣にまつわる疑惑についても同様であり、全く解明を行わず、逆にこれをかばう
内閣の
姿勢は厳しく糾弾されるべきであります。
予算審議を終えるに当たり
予算委員長が述べられた
見解を厳しく受けとめ、その
政治的、
道義的責任をみずから明らかにすることを求めます。
また、
金権選挙や
政治腐敗の根を断つ
努力をせず、
政治に金がかかるのは
選挙制度のせいであるとして問題をすりかえ、小
選挙区
制導入をもくろむのは、本末転倒も甚だしく、
党利党略以外の何物でもありません。
一方、
国内の
景気は、
金利の急上昇や
株価の暴落に見舞われたものの、史上まれに見る
長期の好況を続けておりますが、その裏では
地価の暴騰による
資産インフレのあらしが吹き荒れ、持てる者と持たざる者との
資産格差は今や天と地ほども開いております。
首都圏の
住宅価格が
平均的サラリーマンの年収の実に十倍を超えるという異常な状態は、全く
改善の見通しが立っておりません。その原因は、
政府の
土地無策の上に
金融機関の
土地に対する
過剰融資、大
企業の
土地投機の容認、そして無
責任な
民活路線による
地価高騰への拍車などが重なったものであり、まさに
政治災害とも言うべき事態であります。
このように、国政の重要な諸
課題に対する
政府の
態度と
政策は、
時代の
要請に完全に背を向け、
国民の暮らしと
期待を全く裏切るものであることを明らかにした上で、以下、順次
平成二
年度予算に対する
反対の
理由を申し述べます。
反対理由の第一は、
国民がこぞって
反対する
消費税が本
年度予算に組み込まれていることであります。
一昨年、
政府・
自民党は、大型間接税は
導入しないという公約を踏みにじり、
議会制民主主義のルールを無視した強行採決を乱発して
消費税の
導入を行ったのであります。しかし、昨年の
参議院選挙においては、
国民は
消費税は
廃止すべきであるとの明確な
意思表示を行いました。この
国民の
意思を尊重するなら、
消費税は一たん
廃止することが当然なのであります。
にもかかわらず、
政府が本院の
意思をも無視してその
消費税を
予算に計上しているのは、
政府のおごり以外の何物でもありません。
政府がいかに逆進性は中和したと強弁しようと、
消費税が一般大衆いじめの
欠陥税制であるという本質はぬぐい去ることができません。
世界でもまれに見る、食料品から人間の命にかかわる諸経費にまで課税するだけではなく、消費者の支払った税金がそのまま国庫に納められず、
簡易課税制度、限界控除
制度等を利用して業者が金もうけをすることができる仕組みまでがつくられているのであります。本来、税の仕組みを利用して不当利得ができるなどという税制は前代未聞であり、税に対する信頼を著しく失墜させるものであって、絶対にこれを認めるわけにはまいりません。
このような
消費税は、所得税の最高税率引き下げによる高額所得者の優遇やマル優
廃止と相まって、取りやすいところから税を取るという弱い者いじめの税制の典型であります。それは、税の公正公平の原則である応能
負担の原則を全く無視した哲学なき税制と言わざるを得ず、このような
消費税を組み込んだ
予算には強く
反対するものであります。
反対理由の第二は、
国民生活関連
予算が抑えられている一方で、
防衛費の突出が相変わらず続けられていることであります。
今、
世界は本格的な
緊張緩和と
軍縮という歴史的な
変化のただ中にあります。このときに
日本が担うべき国際的な
責務は、
アジアにおける
緊張緩和と
軍縮の開始に率先して取り組むことであります。そのためには、
米ソ等の
軍事大国に一層の
軍縮を促す地域的な
軍縮のテーブルづくりに全力を挙げ、具体的な信頼醸成
措置を積み上げて、みずからは
世界第三位にも膨張した
防衛費を削減、抑制することが何よりも必要なのであります。
しかし
政府は、依然として
ソ連脅威論と対米
軍事協力という
冷戦構造の枠組みから一歩も出ない
外交・防衛
政策にしがみついております。
我が国の国是である非核三原則を空洞化させ、核搭載の疑惑の強い
米国の空母や艦船の寄港は事実上野放しであります。また、そのような核能力を持つ
米国艦船との合同演習リムパックにも継続的に参加するなど、憲法と非核三原則に対する重大な逸脱行為が続いております。その一方で、今日強く求められている
軍縮あるいはその
第一歩としての信頼醸成
措置については、具体的な行動はもとより、明確な方針すらも示しておらないのであります。
こうして、
防衛費に関しても、一九八三年度を一〇〇とした場合、今
年度予算では実に一五五・六%、五六%も伸びることになります。これに対して
社会保障関係費は一一七%、文教及び
科学技術振興費に至ってはわずか六%しか伸びず、
軍事優先、
国民生活軽視の
姿勢は明らかなのであります。
また、
総額十八兆四千億もの
中期防衛力整備計画は今年度には満額達成されることになっており、さらに次期防へと飛躍的に
拡大する意図を捨てておらないのであります。これでは、
日本は
世界平和に貢献するどころか、
アジアにおける新たな
軍事的脅威となる方向をたどっていると言わざるを得ないのであります。
反対理由の第三は、
政府の税収見積もりが極めてずさんに行われていることであります。
政府は、この間の自然増収の発生を
株価や
地価の上昇という一時的、特殊的な要因と説明しておりますが、これは
我が国の
経済構造の本質的
変化を見落とした重大な誤りであります。このため、税収の過小見積もりは八六年度二兆四千億、八七年度五兆六千億、八八年度五兆七千億という巨額なものとなり、これに八七年度、八八年度に行われたそれぞれ一兆八千億、一兆九千億の減税分を加えると、両年度は実に七兆四、五千億円という空前の税収の見込み違いを犯したことになるのであります。
かつて竹下元首相は、蔵相
時代に一%は誤差のうちとの
見解を示しましたが、近年の誤差率は実に六、七%という高率を示しております。今年度もまた、
景気そのものには大きな
変化は見られず、再び相当の過小見積もりとなる可能性は極めて高いと言わざるを得ません。過小見積もりなら許されるという錯覚と誤った観念によって、
政府は取り過ぎの税金を減税に回さず、また補正で厳しい概算
要求編成方針のしり抜けを策するなど、どれだけ
我が国の
財政をゆがめてきたかを知るべきであって、このような
予算を断じて認めるわけにはまいりません。
反対理由の四番目は、
政府の見通しをはるかに上回って
国民負担率が急上昇していることであります。
国、地方を合わせた租税
負担に
社会保障負担を加えた
国民負担率は、一九七五年度の二五・八%から八〇年度三一・三%、八五年度三五・三%、そして今年度は四〇・四%となり、この十年間で実に九・一%という猛烈なスピードで上昇をいたしております。その結果、八八年に
政府が示した二〇〇〇年の
国民負担率見通しに十年も早く達してしまい、このままの上昇が続けば、十年後には五〇%を超えるおそれすらあるのであります。
政府は、
国民に対する増税なき
財政再建の公約に従い、異常に上昇した
国民負担率を是正するために思い切った減税を
実施すべきであります。減税もせず、将来の
福祉社会の明確なグランドデザインも示さず、なし崩しに実質的増税である
負担率の引き上げを図ることは、
国民に対する欺瞞であり、これまた容認できないものであります。
反対理由の第五番目は、
政府の
予算書及び
国会提出資料が全く
審議する立場に立ってつくられていず、
国民に対する情報の公開がほとんど前進していないことであります。
そもそも
予算とは、各項目ごとにそれぞれの単価と数量が基礎にあり、その積み上げの上に成り立っているものであります。にもかかわらず、
予算書はおろか、各目明細を見ても、単価や数量が明示されている項目はほとんどありません。これらを明らかにしないまま六十六兆円余もの
予算の是非を
審議せよというのは、事実上の
予算審議権の否定にほかならないのであります。
例えば、
世界最大の援助大国になったと言われるODA
予算につきましても、その
総額はわかっても、どの国のどの分野にどんな形で
配分する方針なのかは何一つ明らかにされず、個別プロジェクトについては、事前はもちろん事後においても、
相手国政府の立場や
企業秘密を口実にほとんどがブラックボックスとなっているのであります。これでは、人道主義とか南北協力とかいう看板は空語に等しく、ODAが引き起こす環境の破壊や腐敗は防止することが極めて困難で、
国民の理解と協力は前進するはずがありません。
政府が行う行為、支出する
予算は、原則としてすべて
国民が知ることができ、その是非を具体的に吟味、批判することができて初めて民主主義は正しく機能し、
国民は主権者たり得るのであります。これに照らせば、今日の
政府の
態度は、依然として知らしむべからず、よらしむべしという
姿勢が強く、情報の公開という民主主義の基礎に対する認識の欠如は憂うべきものがあります。
最後に、実に三十五年ぶりという暫定
予算の補正という異常事態を余儀なくされました。これはかかって
政府、
海部内閣の
責任にあることは明白でありまして、厳しく批判をしておきたいと考えます。
また、以上のように重大な
欠陥と問題を持つ本
年度予算は、本院で否決されることは必至であります。これは、憲政史上初めてのことであり、事実上、
海部内閣に対する本院の
不信任決議に等しいものであります。
政府はこの事態を深刻に受けとめ、本院の
意思を正しく理解して今後の政局運営に対処されるよう強く求めて、私の
反対討論を終わります。(
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