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参考人(
山岡国秀君) ボルボ・ジャパンの
山岡でございます。
本日は、数ある
外資系企業の中から私
どもボルボ・ジャパンを
参考人として御指名いただきまして、私
どもの
業界の発展に関し一方ならぬ御理解と御支援を賜っております
先生方に対し、
会社の
紹介かたがた愚見を申し述べさせていただく機会を与えられましたことを大変ありがたく、また名誉に存ずるものでございます。
先生方には日ごろ大変高度なお
立場からマクロの視点で物事を御見聞され御判断なさっておられるものと拝察いたしまして、その点、私
ども一私
企業の申し状は「井の中の蛙大海を知らず」といったふうの稚拙なものと恐懼いたすものでございますけれ
ども、
先生方の何がしかのお役に立つこともあろうかと蛮勇を振るって出てまいりました次第でございます。
まず、早速親
会社の
紹介をさせていただきたいと思います。
私
どもボルボ・ジャパン株式
会社は、スウェーデンに
本社を持ちますボルボ・カー・コーポレーションに二十億円の
資本金の全額出資を仰ぐ子
会社でございます。その親
会社ボルボ・カー・コーポレーションは、ABボルボが一〇〇%出資するボルボグループの乗用車
部門を代表する
会社でございます。ここでABボルボのABと申しますのは
日本語の株式
会社に相当することでございまして、乗用車を初めバス、トラック、船舶
産業用エンジン、航空宇宙、食品、金融等多
分野にわたるボルボグループの中軸
会社あるいは持ち株
会社として、一九八七年十二月以来
東京証券取引所にも
上場されております。昨年におきまして
売上高約二兆四千億円、税引き後
利益約一千三百億円を上げておりまして、
従業員七万八千七百人を擁する北欧最大の
企業グループになっております。
ホームマーケットであるスウェーデンは人口八百五十万人足らずの小国でございまして、そこにボルボとサーブという二社のカー
メーカーが存在すること自体既に特異でございます。スウェーデン国内での
販売は約二割でございまして、八割を
輸出に頼っておりますが、これは何もボルボに限らず、他の工業
製品に関しても似たようなものではないかと思います。
一方、それでは
輸入に対し制限的かというふうに申し上げますと、例えば国内におきます
輸入車の
シェアは七〇%となっており、特に昨今のEC域との摩擦発生に伴う
日本車のスウェーデンへの流入は
日本車の
シェアを二五%までに高めておりますが、自由貿易主義を標榜するスウェーデンといたしましては、秩序ある貿易への希望は持っておりますが、特に制限的措置は講じておりません。
御
参考までに、
日本市場におきます
輸入車は、おかげさまをもちましてここ数年急伸長いたしまして、昨年度、この三月末終わりました昨年度でございますが、二十万台の大台に乗せたわけでございますけれ
ども、その
シェアはいまだ四・七%にすぎません。また、この
輸入車の中にはホンダ等
日本車の海外生産基地からのいわゆる逆
輸入も含まれた数字でございます。
私、時折スウェーデンに参るわけでございますが、いつも見聞し非常に印象深く思いますのは、女性の社会進出の姿でございます。オフィスワークはもとより、
日本では女性に向かないとされるバス、トラックの運転とか、ヘルメットをかぶっての道路工事といった
分野まで女性が進出しておりますし、結婚後も産前産後の一時期を除き働くのが常識になっております。
当社の取締役になっているようなボルボの中でも高級幹部
社員と称される皆さんでも、奥様は仕事に出ておられます。御自宅に招かれたときなど、夫婦そろって料理や配ぜんなどに努めていただくので大変いつも恐縮しております。
この背景には、税制とか高福祉とかもろもろの要因がありますが、基本的には労働資源の不足ということが根底にあるだろうと思います。ボルボでも、イタリア、トルコあるいは東欧諸国からいわゆる出稼ぎを多く受け入れておりますが、多くの人力を投入しての大量生産という
事業は成り立たないわけでございまして、特定の
分野のものを大切につくり、足らざる部分は他から補うという発想が徹底しておりまして、それがスウェーデンの工業生産品の高
品質につながっているのではないかというふうに考えております。
ボルボ乗用車の年間生産台数は、昨年度四十一万四千台でございまして、これは
日本の鈴木の生産台数をやや下回るわけでございますが、
売上高の比較ではボルボは恐らく三、四倍になっているのではないかと思います。すなわち、一台当たりの付加価値が三、四倍高いということでありまして、いわゆるマーケットセグメンテーションということでは、上級ファミリーカーという
分野に的を絞っております。安全性、耐久性、高
品質ということにこだわり続けて、各
市場で一%の
シェアを得れば満足という方針に貫かれております。
さて、
日本におけるボルボでありますが、既に一九六一年に梁瀬自動車を通じて
輸入が開始されております。一九七四年には、帝人株式
会社との合弁により帝人ボルボ株式
会社が設立され、活発な
事業展開を図ろうとしたやさき、第一次オイルショックに見舞われまして、出ばなをくじかれる形となりました。よって、当初四、五年は八百から九百台といった梁瀬時代とさして変わらぬ台数で不遇をかこっておりましたわけですが、ようやく一九七九年に至りまして千七百台と倍のレベルに達し、トンネルの先に光が見えてきたものと一九八〇年モデルを大量に発注いたしたわけでございます。
ところが、再び第二次のオイルショックに直面いたしまして、過剰在庫で手ひどい打撃をこうむりました。その後、
市場の回復傾向が見られましたが、
当社の場合、この打撃が尾を引きまして、積極路線に乗り切れず、BMWやベンツ等の伸びにおくれをとる局面が見られたわけでございます。
一九八六年には、今後の
日本市場の伸長を見込んで積極的な投資をしたいというふうに考えますボルボ側と、もちはもち屋に任せ資源を社内の他の
事業に振り向けたいと考えます帝人側との円満合意が成り立ちまして、当時十二億円の
資本金を二十億円に増資いたしまして、新体制がスタートいたしました。
帝人ボルボ時代の最終年に当たる一九八五年には、全国でのボルボの登録台数は千四百八十九台にすぎませんでしたが、昨年には七千百二十二台に達しまして、四年間で四・八倍となりました。ことしは昨年比五四%アップの一万一千台を見込んでおるところでございます。
ボルボは、親
会社の御案内の際触れましたように、ABボルボを持ち株
会社といたしまして、各
製品分野ごとに分化して、権限分散化の考え方で運営されております。
日本では、乗用車は私
どもボルボ・ジャパンが
輸入元となっておりますが、バスは三井物産、トラックはいすゞ自動車、船舶用エンジンは西武自動車
販売、ラムローザと呼ばれます炭酸水は明治屋というように、スウェーデン本国のそれぞれの別の親
会社から
輸入権が付与されておりまして、相互間で余り関連を持つことがございません。西武自動車
販売に至りましては、乗用車の
分野ではむしろ我々と競合関係にございます。
さて、本日のテーマの
一つといたしまして要請されました、特異だと言われる
日本の取引風土の中で
当社が今日の地位を築くまでにどんな
苦労を経験したかという点でございますが、まず社会の
輸入品に対する受容性の変化ということに触れてみたいと存じます。
一九八〇年代の前半までは今日のような
輸入促進の風潮はなく、むしろ
輸入車は「外車」という若干差別の響きのこもる言葉で呼ばれ、それを購入する人はよほど変わった人と見られる
状況で、売る方も買う方も肩身が狭いという感じでございま
した。したがって、全国に
販売、整備のネットワークを構築しようにもやり手がいない。仮にやり手がいてもその育成に時間がかかったり、財務基盤が軟弱なために債権保全に大変神経を使わなくてはならないというような
状況でございました。
業者の中には、外車であるという特異性を逆手にとりまして、大変荒っぽい
商売をしたり、特殊な顧客の特殊なニーズに迎合するという形で、
輸入車全体のイメージを損なうというような現象も多く見られました。
お客様にしても、私
どもの車の価値を認めてくださり、お乗りになりたくても周りの目が気になって乗れない。まして税務当局が外車を買った人に対する所得源泉
調査を強化するために私
どもに購入者のリストの提示を求めるといったようなことで、大変
商売がやりにくかったわけでございます。また、同じような交通事故が発生いたしましても、マスコミの取り扱いは外車オーナーに厳しく、外車の運転手であるからイコール悪徳運転手であるといった印象の記事も少なくありませんでした。
今日、
輸入車、それも特に私
どもボルボの
販売台数の大半を占めます普通車、いわゆる三ナンバーと呼ばれている車でございますが、大変大きく伸長しております理由といたしまして、国民生活が豊かになって、より個性的な上級車種への要求が高まったためだとか、CIF価格の二三・五%までに上っておりました物品税が昨年廃止されまして、六%の消費税が導入されたにもかかわらず一一%前後の価格下げが可能になったためだとか、あるいは三ナンバー車と五ナンバー車の自動車税の大きな格差が緩和されたためだとか、あるいは車両保険の
輸入車と国産車の差がなくなったというようなもろもろの理由が挙げられておりますけれ
ども、私自身最も身にしみて感じておりますのは、
輸入品購入に対する心理的抵抗あるいは抑圧感が、政府主導のアクションプログラムのおかげで払拭されたということが一番根本にあると考えております。私
どもの
商品は、購入してひそかに楽しむという種類のものではございませんで、大変人の目につき、人の口に上るものでございますので、特にこの点を強く感じる次第でございます。
日米構造協議との絡みで
流通ということが大変論議されておるわけですけれ
ども、私
どもの場合、
メーカーからインポーター、インポーターからディーラーと新車が流れることになっておりまして、比較的
流通ルートは単純な形態となっております。
今日に至るまでに最も
苦労し、また今日でも
苦労しておりますのはディーラー探しでございます。さきに述べましたように、
輸入車に対する社会的認知が低かった時代には、国産車や他の
輸入車を扱うディーラーにお百度を踏んでようやくそのひさしを借りるといったあんばいでございました。経験もあり資力もある民間資本は国産車ネットワークにしっかり組み込まれておりまして相手にもしてもらえませんでした。せっかくディーラーになっていただいても車を買っていただけるわけではなく、お客様がつくまでお預けするという形がつい最近まで行われていました。
私
どもの場合、お客様から受注をいただいてから工場に発注していたのでは納車できるまでに四、五カ月はかかってしまいますので、ほとんど見込み発注の上、国内に在庫を持つわけでございまして、こうした預託
販売システムのもとでは、総発注台数や売れ筋車種の選択に見込み違いということが多発いたしまして、大いに泣かされたものでございます。
唯一の解決策としましては、自前でディーラーをつくることでございまして、私
どもはこれを支店と呼んでおり、現在、埼玉、東京、神奈川、愛知、大阪、兵庫に十カ店を保有しております。ボルボ専売店で
市場の動向を迅速にキャッチできるという点で多大のメリットがございますが、施設や人員に固定的な多大の費用を要するという側面がございます。自動車のディーラーは、新中部修と称しまして、新車、中古車、部品、修理の各機能を備えて初めて一人前のディーラーと呼べるわけでございますが、車ばっかりは縦に積み重ねたりあるいは横に寝かせたりということができない
商品でございまして、四つの機能を満たすには相応な土地を必要とし、私
どもの支店でも新中部修を理想的に同一地域に備えた店は二カ店しかございません。
そんなわけで、まだボルボの
市場規模が小さかった時代には、つくった支店の投資、固定費回収のため、その権益を保護せざるを得ず、テリトリー制と称して支店を配した六都府県には他のディーラーを指定しないという方針でやってまいりました。
日本の三ナンバー
輸入車の
販売台数の六五%を占めるこの六都府県を、当時のわずか九支店で捕捉できるはずもなく、結果としてこれらの地域で潜在需要を掘り起こせずボルボ・ジャパン時代を迎えました。
ボルボ・ジャパンになりましてから、ディーラー発掘優先の
立場を明確にいたしまして、支店の守備範囲を物理的にアクセスし得る範囲に限定し、支店の聖域と呼ばれていました地域にディーラーを迎え入れることにいたしました。
市場環境の変化が幸いいたしまして、支店はテリトリーが狭くなっても立ち行くようになり、また過去なり手がなかったディーラーにぜひしてほしいという人々も昨今出てまいっております。
この動きの中で画期的なことは、富士重工業と提携が成り、スバル拠点のうち当方の支店や既存のディーラーの配置と競合しない拠点を選んで、ショールームの最低五〇%のスペースはボルボ専用として、私
どもの基準によるアイデンティティーを備えて
販売協力をしていただくことになったことでございます。今日現在、さきに述べた六都府県を
中心に、十一スバルディーラーの二十拠点に御協力をいただき、近い将来全ボルボ
販売台数のうち二〇%
程度を担いでいただけるものと期待しております。
さて、今後の
課題でございますが、
当社は当面の目標として、一九九五年において二万五千台の新車を
販売することを掲げております。これを実現する上で、魅力ある高
品質な
商品づくり等
メーカーサイドによる一層の
日本市場志向の
戦略の推進が不可欠でございますが、
日本側としましては、
販売網の拡充、サービス網の特に都市圏における充実、人材の確保といった点に力を注いでいかなければならないと存じております。
日本での
輸入車
販売のために、従来大きな障害とされてきました運輸当局による認証の問題や、税制、保険料の不公平問題は、例えば欧州での認証車やテストの基準、方法が
日本でそのまままだ認められるには至っていないとか、せっかくの
輸入促進税制の導入が、卸、小売業者向けと
製造業者向けとで取り扱いが異なっているために、
輸入車インポーターと国産車
メーカーとの間で新たな不公平を生むといったような論争はございますけれ
ども、大筋においては大変改善され、この点
先生方の御支援に対し厚く御礼申し上げるものでございます。
また、
輸入車を受容するという社会環境の変化という点でも、さきに述べましたとおり目覚ましいものがありますが、いまだ一部駐車場におきまして、自治省の強いお働きかけにもかかわらず「外車駐車お断り」といった差別表示が見られること。また、政府の
輸入品購入促進のかけ声にもかかわらず、肝心の政府、地方公共団体の公用車に関し
輸入車購入の機運が広がっておらないこと等は残念に思う点でございます。
これはさておきまして、今後の私
どもの
事業展開にとって最もネックとなりますのは、整備工場の新増設に係る規制問題であります。車という
商品は売り切りの
商品ではございませんで、必ずその後のアフターサービスが必要とされます。アフターサービスはどこで受けてもよいというものではなくて、当該
商品をよく知り、専門のサービス訓練を受けたメカニックの手によって、正しい装置と工具を用いてなされるのでなければ、
商品の性格上大変危険だと申し上げざるを得ません。また、よいアフターサービスを提供することにより、
次の買いかえに当たってまた自社の車に乗り継いでいただけたり、また友達にも御
紹介いただけるという点で、アフターサービスを真剣に考えているわけでございます。せっかく
輸入車を選んでいただきましても、アフターサービスが悪ければ、やがてそのお客様は国産車に戻ってしまうということになります。
現在、整備工場は、建築基準法により住居地域においては新設はもとより建てかえについても、工場床面積や工場で使用する原動機出力が制限されているため、実質上不可能となっております。既存の工場については、建てかえ等しない限りにおいては
事業が認められているため、拠点展開において国産車
業界に比べ約二十年
程度のおくれでスタートしております私
ども輸入車
業界にとっては、結果として差別を受けた形となっております。自動車の修理という日常生活と非常に密着したニーズを満たす業務が顧客の住居とかけ離れた場所で行われるということは、顧客の利便という点でも極めて疑問で、そもそも自動車修理の業務形態を
一般の工場と同列に扱うことに疑問を感ずるものでございます。
国産車
業界に対する立ちおくれという見地では、修理工場のみならず、新車、中古車の
販売拠点展開という点でも、用地難や地価高騰の昨今、莫大なハンディキャップを背負っておりまして、金融面、税制面で強力な御支援をいただきたいところでございます。
最後に、自動車はアフターサービス、リコール回収等の安全対策など長期にわたって
ユーザーの保護を必要とする
商品です。
輸入促進を強調する余り、
ユーザー保護を考えない一部の並行
輸入車によって
ブランドイメージを損ないましては、正規
輸入そのものが悪
影響を受けることになりまして、かえって全体としての
輸入促進にとって支障が生ずることが懸念されます。
輸入車
市場の健全な発展のため、無軌道な並行
輸入が将来の
製品輸入の
拡大を阻害しないよう、長期的な見地からの政策的配慮を願うものでございます。
与えられました時間も尽きたかと思いますので、私の
意見陳述はこれで終わらせていただきます。
御清聴ありがとうございました。