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政府委員(内田勝久君)
ソ連・
東欧の
情勢の
変化と
アジアの
政治情勢及び
安全保障につきまして、基本的にはお手元に配付させていただきました
説明の要旨に基づきまして御
説明を申し上げたいと思っております。
現在の国際
情勢は、非常に
変化の激しい、将来に対する予測の極めて困難な
情勢に入っていると考えております。例えばゴルバチョフ
政権誕生以降の
ソ連の
動きや、これに触発されました
東欧諸国の
民主化への
動き、さらには
欧州全体や
米ソ関係の
変化など、その
規模、速度のいずれの面においても我々の予想をはるかに超えた
変化が現在進行中でございます。このような急激な
変化は、戦後の国際システムを大きく変質させるものであると私ども考えておりますが、現在起こりつつあることですら、それが今後の
情勢展開にどのようなかかわり合いを持ってくるのか実は確たることは申し上げにくい
状況にございますが、にもかかわらず、本日は私どもの所見をできるだけ率直に申し述べたいと思っている次第でございます。
そこで、まず最近の国際軍事
情勢でございますが、私どもが最も注目をしておりますのは、戦後の国際システムの中核を構成してきたところの
欧州東西関係が変質の過程に入っているということでございます。
欧州を
中心とする
東西関係は、第二次世界大戦以降最近まで国際軍事
情勢の
基調でもあったわけでございますが、これが変わりつつあるということでございます。
御
承知のように、
ソ連では、ゴルバチョフ
政権の誕生以降、構造的な
経済不振や社会的停滞からの脱却を目指しまして、
ペレストロイカ、グラスノスチあるいは
民主化といった国内
改革に着手しております。このような
改革の試みは、
ソ連邦成立以来最も大胆かつ野心的なものと言うことができると思います。しかし、この
改革は順調には進んでおりません。
経済状況は依然泥沼でございます。ただいま
外務省の方からもこの点
説明ございました。
ペレストロイカの
東欧諸国への
影響がいわばブーメラン現象のような形を起こしまして、
ソ連邦内での少数
民族問題というものも
顕在化してきております。さらに、
共産党の
権威の低下もございまして、最近では権力を党の機構から
国家機構へと移転いたしまして、
大統領制を
導入するといった、そういう荒療治まで行っております。また
ソ連は、対外的にはこのような
改革の推進の成功を図るために、各種の
軍備管理・
軍縮交渉の積極的な推進、一方的な戦力削減の表明、あるいは防衛的な軍事ドクトリンへの移行の強調といったいわゆる新思考の
外交を展開している次第でございます。このような
ソ連の政策変更というのは、恐らく
ソ連自身が予想したよりもはるかに大きな
影響を
東欧諸国の方に与えていると考えられます。
東欧諸国につきましては、かつて
民主主義あるいは市民社会というものを経験した国が多く、また一般に
民族意識も強うございます。したがいまして、
ブルガリアのような例外を除きましては
ソ連の支配に対する反発が強かったわけでございます。また、
中央計画経済のもとで
経済が不振を続けていたことから、国民の生活水準も西欧に比べまして非常に低いところに抑えられておりました。このようなことから
東欧諸国においては国民の共産主義
政権に対する不満がかなり強かったものと考えられます。一九五三年の東ベルリン、一九五六年の
ポーランド、
ハンガリーあるいは六八年の
チェコスロバキアでの事件、このような事件はこうした民衆の不満が導火線となって
発生し、それが
ソ連の軍事
介入によって抑圧された例である、こういうことでよく知られていることでございます。いずれにいたしましても、先ほど
外務省から
説明のとおり、
ソ連と
東欧諸国というのは、基本的にその
国家の存立の基盤を異にしている部分が多くございます。その
意味で両者を分けて考えるというアプローチには私どもも基本的に賛成でございます。
さて、ゴルバチョフ
政権が誕生いたしまして
ペレストロイカとかグラスノスチといった政策が打ち出されてきますと、先ほど申し上げたような、そういう異なった土壌のある
東欧諸国の方がはるかに強くその
変化に反応いたしまして、大方の予想を超えるスピードでこれら諸国での
民主化、自由化が進んでおります。
政治的には一党独裁制の
放棄、
複数政党制から非
共産党政権の成立の方向に向かっておりますし、また
経済的には市場原理の
導入から自由
経済化という方向に動いております。そして、
東欧における
民族自決の
動きというものが高まるということの当然の帰結は、それは
東欧諸国の
ソ連圏からの離脱でございます。いわゆるブレジネフ・ドクトリンというものに照らして考えますと、
ソ連としては当然このような事態は容認し得ないということでございますが、今日の事態というのは、まさに
ソ連の
ペレストロイカ自身がその火つけ役になったわけでございますし、従来の
ハンガリーや
チェコスロバキアのときのように軍事
介入をしてこれを力で抑圧するということになりますれば、それは
ソ連の
ペレストロイカあるいは
ソ連が推進しております
西側との
対話、
協調といった路線そのものが水泡に帰することになるわけでございます。このようなことから、
ソ連としては現在の
東欧諸国の
変化を容認せざるを得ないという結論に達したものと考えられます。
ソ連がこのような決断を下したこと、すなわち
ソ連が
東欧諸国の共産主義からの事実上の離脱を容認したこと、このことが今回の
東欧の
変化の最も大きな
特徴であると私どもは考えている次第でございます。
もちろん、
東欧におけるこのような
変化が今後順調に進んでいくという保証はどこにもございません。
東欧の
政治的な
変化が余りにも急激であったために、新しい民主的な
政権基盤はいまだ弱体なものであると言わざるを得ません。いずれの国におきましても、真に民主的な体制ができ上がるまでには、また、従来の社会主義
経済を
市場経済に転換していくまでには相当の時間を要するものと考えられます。
ポーランドのワレサ「連帯」代表は、先般
ポーランドを訪問された海部総理に対して、五十年はかかると述べたということを聞いております。そして、その
変化の過程において混乱が生じる
可能性も決して否定はできないのでございます。
このような
動きを軍事的な観点からとらえて申しますと、次のように言えるかと思います。
ソ連は戦後一貫して
東欧諸国を
政治経済、軍事的に支配することによって自国の
安全保障に対する緩衝地帯を設けて、この
地域に圧倒的な兵力を
配備することによって
西欧諸国に対して大きな軍事的な圧力をかけてまいりました。すなわち、
ソ連は
東欧諸国を
西側に対しまする防壁といたしまして、その緩衝地帯に共産主義
政権を擁立して、軍事的には
ワルシャワ条約機構、
経済的にはコメコンなどを通じましてこの
地域を完全な統制下に置いてきたわけでございます。最近、
ソ連は
東欧諸国に対する支配、統制を
放棄せざるを得なくなっているわけでございまして、
東欧に駐留いたします
ソ連軍は、あるいは一方的に、あるいは取り決めによりまして
撤退を開始しております。この結果、WPO、
ワルシャワ条約機構は事実上その機能を停止しているということも言われております。しかし、
東欧諸国、とりわけ
東独、
ポーランドなどは依然として
ソ連の
安全保障にとって極めて重要な
地域であることに変わりはございません。
ソ連がこういった
地域に対し今後どのように対処しようとしていくのか、今のところは必ずしも明らかではございませんが、我々としては重大な関心を持ってこれを見きわめていく必要があると考えている次第でございます。
このような
ソ連あるいは
東欧諸国の
変化を引き起こした要因といたしましては、これらの国々の
経済困難であるとかといった
事情もございましょう。あるいは
CSCEのヘルシンキ宣言以来の
欧州での信頼醸成というものが大きな基盤になっていることも明白でございます。しかし、見過ごしてならない点は、
米国を
中心として
西側諸国が自由主義と
民主主義のもとで結束して今日の繁栄を築き上げてきたこと、そのことが東側の諸国に対して
変化を促したことであると私どもは考えている次第でございます。
これまでの
東西関係を見ますると、
東西の間では、一つには
政治経済体制及びイデオロギーといった面での根本的相違がございましたし、二つには
米ソ両国が持っております圧倒的な
核戦力及び通常戦力を
中心とした軍事的な対峙を基本的な前提として
構築されてきたと考えておりますが、最近のヨーロッパでの
変化は、この
東西間の
政治経済体制及びイデオロギー面での相違というものを著しく薄くしているものでございまして、
東西間の
対話と
協調の
側面がその反映といたしまして大きく促進する形をとっております。
これを軍事的な
側面について見ましても、こういった
政治情勢の
変化を受けましてSTART、CFEといった
軍備管理・
軍縮交渉が
進展を見せております。STARTやCFEは、
東西間のいわば飽和状態とも言えるような高いレベルの軍事的な対峙から脱却してより低いレベルでの均衡を目指すという、私どもから見ましても極めて有意義な
交渉でございまして、
我が国といたしましてもその早期合意を期待しているところでございます。しかしながら、ここで留意しなければいけないことは、STARTについて申しますと、その中核は
米ソ両国の戦略核兵器の約五〇%の削減を目指すものでございます。したがいまして、STARTが合意、実行されたといたしましても、依然として
米ソの戦略核には圧倒的なものがございます。また、御
承知のように
米ソ両国とも引き続き戦略核の近代化を図っていくことを明白にしている次第でございます。
また、CFEにつきましても、その目的の一つはいわゆる奇襲攻撃であるとか、あるいは大
規模攻撃能力を除去するということでございまして、対象
地域は大西洋からウラルまでになっており、かつ対象戦力も海上戦力を除き、あるいは核を除き、あるいは化学兵器を除くといった形で、地上戦力が主体となっております。そのように限定された
軍縮交渉となっているということもよく
承知しておく必要があるのではないかと思います。したがいまして、このCFEが実現いたしましても、
欧州における
軍事力の水準は依然として高いものであるという事実には変わりがないと私どもは考えております。したがいまして、
東西関係が変質の過程に入ったとはいいましても、また、現在
欧州で模索されている新しい
秩序、
安全保障の枠組みというものが成立したといたしましても、それは
軍事力と無縁のユートピアのようなものが出現するものではございません。力の均衡と
相互の抑止という原則は今後とも
国際関係の安定化のための不可欠の要素であり続けると思われます。
最近
ソ連は、新
思考外交の一環といたしまして、あるいは平和攻勢の一環としてと申し上げてもよろしいかと思いますが、
ソ連の軍事ドクトリンは防衛的なものを志向している合理的十分性の枠内に転換するということを強調しております。しかしながら、
ソ連は、大幅な
軍事力の増強を続けてまいりましたブレジネフ
政権時代におきましても
ソ連の
軍事力の防衛的性格ということをしばしば表明しておりましたし、最近におきましても、この合理的十分性の
説明の中で、相手に対する反撃能力は防衛的性格に含まれるといったような議論も行っている次第でございます。したがいまして、その合理的十分性の主張については何を基準として自国の防衛に合理的でありかつ十分であると言えるのか、そういう判断というのは、私どもにとりましても、恐らく
ソ連自身にとりましても極めて難しいものではないか、このように考えている次第でございます。いずれにしましても、
ソ連が真に防衛的になったか、あるいは
ソ連軍が合理的十分性の枠内にあると考えられるのか、このあたりになりますと、言葉だけではなくて、
ソ連軍の編成ですとか
配備の
状況、兵器の体系、さらにはどういう訓練をそこで行っているのか、こういった
ソ連軍の実態によって判断を行う必要があると考えております。そういう
意味で、現段階では
ソ連軍が防衛的なものに
変化したという実証を私どもは得ておりません。
こういう流れの中で、一昨年の十二月ですか、
ゴルバチョフ書記長は、現在
大統領でございますが、国連での演説で、
ソ連軍の兵力五十万人などの一方的削減を
発表いたしました。その後、軍の要人などがその五十万人削減の大体半分を昨年中に実施したと
発表しておりますが、私どもはその真偽のほどを確認しているわけではないわけでございます。削減という言葉の
意味にもよりますが、果たしてこれが軍の解体を
意味するのか、あるいは一つの
地域から他の
地域に
撤退したことを
意味するのか、こういった点についても私どもとしては慎重に見きわめていかなければいけない、このように考えております。
話を再び
欧州情勢に戻させていただきますが、
欧州を
中心とする大幅な
東西関係の変質化は、画期的でかつ好ましい
変化でございます。しかし、逆説的ではありますが、従来の
東西関係というのが一面で国際社会の安定化をもたらしてきたこと、これも事実でございます。WPO、
ワルシャワ条約機構がやや実質的に機能しなくなることに伴って、例えば
ルーマニアと
ハンガリーとの間で
民族問題が起こっているという
新聞報道がございますけれども、これもその一例であるかと思っております。
世界の軍事
情勢は、第二次世界大戦以降、
米国及び
ソ連をそれぞれ
中心とする
東西の集団
安全保障体制の対峙の中で、それを基本的な枠組みとして
東西間における核戦争や大
規模な武力紛争の
発生が抑止されてきたことは御案内のとおりでございます。こういう集団
安全保障体制の対峙、すなわちWPOと
NATOの対峙でありますけれども、これが今回の
変化によりまして新しい事態を迎えている。特に東側の
ワルシャワ条約機構という枠組みが機能しなくなってきている、あるいは少なくとも大きく変質化してきているということは確かでございます。
他方、このような
状況に対応して、
NATOの役割についても種々議論が行われていることも事実でございます。最近の
ソ連や
東欧諸国の劇的な好ましい
変化によって
NATO諸国の東側に対する脅威感は減少いたしておりますが、
ソ連が
核戦力及び通常戦力の両面において引き続いて軍事超大国であり続けることは確実でございます。これに対する抑止力として、また
恐らく近く実現すると思われる
統一ドイツに対する近隣諸国の懸念と申しますか不安というものに対応するためにも、
欧州において
米国のプレゼンスが維持されるべきであるというのが大方の見方でございまして、この
米国と
欧州の結びつきの役割を果たすものとしての
NATOは今後とも維持されていくのではないかというのが私どもの考え方でございます。
ドイツ統一問題について一言だけ申し上げたいのですが、昨年の夏、大量の東
ドイツ人が西
ドイツに脱出してホーネッカー
政権を崩壊に導いたころからこの問題は急浮上いたしまして、昨年十一月九日のベルリンの壁の崩壊を
契機といたしまして、大方の予想をはるかに超えるスピードでこの
統一問題が
進展しているのは御案内のとおりでございます。
欧州最大の
経済力と強大な
軍事力というものを持ち得ることになる
統一ドイツというものの出現は、第一次、第二次世界大戦の経験を持ちます
周辺諸国にとりましてはかなり複雑な思いで受けとめられていると思います。その中で、
周辺諸国に脅威感を与えないような
統一ドイツというのはどういう形をとるべきであるのか、
欧州全体の
安全保障との
関係はどうあるべきなのかといった議論が盛んに行われております。現在のところ、
NATOに組み込まれた
統一ドイツという考え方が大勢を占めているようではございますが、この問題は
欧州全体の新しい
安全保障の枠組みをどう
構築するかという問題とも深くかかわり合いを持っております。
いずれにいたしましても、これらの問題に対する解答はまだどこにも得られておりません。総じて
欧州の
情勢は、
ソ連・
東欧の
情勢も含めまして、今後とも不透明の中で流動的に推移するのではないかと思っている次第でございます。
次に、
我が国周辺の軍事
情勢について御
説明したいと思います。
結論を先に申し上げるようですが、
我が国周辺におきましては、
欧州におけるような
変化は生じておりません。
欧州における劇的な
変化は、国際システム全体にかかわるものであることは確実でございますし、今後いろいろな形で
アジア・
太平洋地域の
政治、軍事
情勢にも
影響を及ぼすと思われますが、その
影響の出方につきましては、当然
アジア・
太平洋地域の特性というものが反映された形で出てくると考えております。
そこで、この
地域の特性について指摘させていただきたいのですが、この
地域の特性につきましてはただいま
外務省からも
説明がございました。私どもも基本的には同じような認識を持っておりますが、やや繰り返しになる点もございますけれども、私どもなりの見方で御
説明申し上げたいと思います。
まず第一に、この
地域の
安全保障の環境でございますが、これは
欧州とは著しく異なっております。
我が国周辺には
ソ連や
中国の大陸部、カムチャツカ半島や
朝鮮半島、
我が国を含む大小多数の島々、これらに囲まれた日本海、オホーツク海、東シナ海などの海域及びこれらの海域から太平洋に通ずる海峡その他さまざまな地形が交錯しております。そして、そこには
政治経済体制、イデオロギー、歴史、文化などの面でそれぞれ特色を持ったさまざまな国が存在しております。軍事的に見ますと、この
地域には
欧州における
NATOやWPOのような多数国間の
安全保障体制は存在せず、多くの国々は
米国または
ソ連との二国間の
安全保障体制を
構築しております。対峙の形態を見ましても、
NATOとWPOの場合は言うまでもなく二極化されたものでございますし、かつ基本的には陸上戦力による対峙でございますが、この
地域におきましては、まず第一に幾つかの複数の対峙が併存しております。とりわけ
米ソ間の対峙は、
ソ連が陸上戦力を
中心としているのに対しまして、
米国は海上戦力を主体とするという非対称のものとなっております。
このような戦力の非対称性に加えまして、例えば
米国太平洋軍は
ソ連極東軍と対峙すると同時に、
アジアの
地域的な不安定に対処するという役割を持っておりますし、
他方、
極東ソ連軍も
中国への備えという
意味合いも当然あるわけでございます。
中国について見ましても、中ソ、中越、中印といった
対立関係を持っておりますし、さらに、緊張を続けている
朝鮮半島、流動的なカンボジア
情勢などが存在しておりまして、この
地域の対峙、
対立は
東西対立と直接
関係のない領土問題あるいは
民族、宗教などの問題を原因としているものも多く、総じてこの
地域の
情勢は複雑かつ多様なものとなっております。
このように、
我が国周辺
地域と
欧州とでは
安全保障上の環境を著しく異にしておりますが、それでは
アジアにおいてはCFEのような
軍備管理・
軍縮交渉はどうなるのかという御疑問があろうかと思います。私どもはもとより
アジアの
軍備管理・
軍縮は望ましいものであり、長期的には適切な目標であると考えております。しかし、残念ながら現時点ではそのための
条件と申しますか環境と申しますか、そういうものは整っていないと言わざるを得ません。ただいま申し上げましたように、この
地域の入り組んだ
安全保障環境からして、この
地域全体で包括的な
軍縮交渉を行うとすれば、それは陸と海と空全体の戦力を包含した
軍縮という形にならざるを得ないと思いますが、このような
軍縮が持つであろうところの技術的な観点だけを考えても、克服すべき極めて難しい問題を多々含んでいると思われます。しかしながら、私が強調したいことは、
アジア地域の
軍備管理・
軍縮については、その技術的困難性以前の問題といたしまして、その前提となっている
条件あるいは環境というものが未整備ではないのか、そういうことでございます。
欧州における兵力の削減の
動き、CFE
交渉の
進展には
ソ連・
東欧諸国の
民主化というものがその
動きの
背景になっております。
東欧諸国には
欧州に復帰したいという願望があり、
欧州全体として共通のいわゆるコミュニティー意識というものが長い歴史の中で形成されてきております。残念ながら
アジアにはこのような共同体意識はいまだ醸成されてはいないのではないでしょうか。これはよく言えば
多様性ということでございますが、諸国間の異質性が極めて大きいというのが
アジアの現状でございます。さらに申し上げますと、
アジアの社会主義諸国は、
モンゴルを例外といたしまして、最近の
ソ連・
東欧諸国の
変化に直面して、少なくとも短期的には思想の引き締めを強化しておりますし、現行体制をどうして維持していくかという問題に腐心している、そういう現状にございます。これが私が申し上げたい
アジアの特性の第二番目でございまして、この点についての
改善が図られなければ
アジアにおける
軍備管理・
軍縮をテーブルに乗せることはなかなか難しいのではないかという気がいたします。
アジアの特性の第三番目として申し上げたいことは、
欧州には一九七五年のヘルシンキ宣言以来
CSCEという包括的な協議の場がございます。
政治、
経済、
安全保障の分野での交流を図り、信頼
関係を醸成してきたという歴史がございます。このような成果の積み重ねが
NATOとWPOとの間の信頼の基礎となってCFEの
進展が図られているわけでございます。
他方、
アジアはどうかといいますと、そういったフォーラムは存在しておりませんし、諸国間の
政治的な信頼
関係というのは低いレベルにとどまっていると言わざるを得ないのではないでしょうか。この
地域には北方領土問題、
朝鮮半島問題、カンボジア問題、その他未
解決の
政治的懸案が残されておりますし、このような
政治的懸案を
解決して、緊張を緩和して信頼の醸成を図るということが
アジアの
軍備管理・
軍縮へのもう一つの前提ではなかろうかと考えている次第でございます。
そこで、そういった
アジアの
情勢の中で
ソ連はどういう
動きをしているかというのが次の問題でございます。
ソ連は、ゴルバチョフ
政権の誕生以来、この
地域において幾つかの注目すべき
動きを示しております。その一つは中
ソ関係の
正常化でございます。中ソ間の合意の内容については省略いたしますが、この中
ソ関係の
正常化によって、中ソ両国が
かつてのような一枚岩の
同盟関係に戻ることはないと思われますし、したがいましてこの
地域の
安全保障環境に大きな変更をもたらすことにはならないのではないかと私どもは考えております。また、
ゴルバチョフ書記長は、このとき、極東方面についても兵力十二万人削減を含みます一方的な戦力の削減
発表を行っております。この
発表はそれなりに評価できるものでございますが、内容になりますとあいまいかつ不明確な点が多く、総じて漠然としたものとなっております。ややくどいかと思いますが、例えば兵力の内訳、対象師団の
配備状況、地上、航空及び海上戦力の具体的内容などは一切明らかにされておりません。また、
欧州方面における一方的削減
発表においては、通常言及されている戦車とか砲とか作戦機といったものの数値についても、これは示されておりませんし、艦艇につきましても、艦種、トン数などは示されておりません。
ソ連はこの一方的戦力削減を二年間で実施すると述べており、既に一年がたったわけでございますが、確かに一部は実施に移されているようでございます。ただ、私どもとしては、その実証が得られているかどうかということになりますと、現在はなお不明と言わざるを得ないのでございます。いずれにしましても、この実施
状況は十分注意していかなければいけないと考えております。
ただ問題なのは、このような一方的な削減というものが完全に実施されたとしましても、
ソ連が極東部に膨大な兵力を
配備しているという実態には変わりがないということでございます。
ソ連は一九六〇年代中期以降、この
地域において一貫して質量両面にわたり
軍事力を増強してまいりました。
ソ連が人口、産業にほとんど見るべきものを持っていないこの極東部において、何ゆえにこのような膨大な
軍事力を
配備しなければならないのか理解に苦しむところでございます。今日では
極東ソ連軍は
核戦力、通常戦力のいずれにつきましても、
ソ連全体の戦力の三分の一から四分の一に相当する、全体の戦力のその程度のパーセンテージの戦力を極東
地域に配置しているという事態に至っております。
もう一つつけ加えておきたい点は、一九八五年にゴルバチョフ
政権が誕生いたしましたわけですが、その後におきましても老朽装備の廃棄など部分的な削減が行われる一方で、SLCM搭載の原子力潜水艦あるいは新型の駆逐艦といったものの増強、多数の第四世代戦闘機の追加
配備など装備の質的強化を続けており、全般的な戦力の再編合理化及び近代化を進めております。若干具体例を申し上げますと、最近
ソ連はSSN21という海洋発射のミサイルを搭載するアクラ級攻撃型原子力潜水艦を極東に
配備しております。古いタイプの潜水艦を削減いたしましても、
他方でこのような巡航ミサイルを搭載した新鋭艦を
配備しているということであれば、
ソ連海軍の攻撃力はかえって増大することになります。また、航空機につきましてもミグ31、スホーイ27といった第四世代戦闘機の増強が続けられております。このような新型の戦闘機はいずれも行動半径が広く、かつ搭載能力も向上しており、旧式の戦闘機を幾ら削減いたしましても、新型戦闘機の
配備が続けられる限りその戦闘能力はむしろ増大している、こう言わざるを得ないと思うのでございます。このような
極東ソ連軍の
動向は、この
地域の軍事
情勢の最大の不安定要因になっておりますし、依然として
我が国にとりまして潜在的脅威となっているものでございます。
次に、
米国の
動向について申し上げます。
御案内のとおり、アメリカは
太平洋国家の
側面を持っておりますし、近年では東
アジア・
太平洋地域はアメリカにとりまして最大の
貿易相手
地域になるなど、この
地域の平和と安定は
米国にとって一層重要なものとなっております。このため
米国は、従来より日本を初めこの
地域の幾つかの諸国と
安全保障取り決めを締結するとともに、
アジア・
太平洋地域に陸・海・空・海兵隊を
配備、前方展開することによってこの
地域の紛争を抑止し、
米国と同盟国の利益を守る政策をとってきております。また
米国は、有事においては必要に応じて所要の戦力をハワイや米本土から増援する態勢をとっております。
米国は、最近の国際
情勢の
変化の中におきまして、
アジア・
太平洋地域でも
米国の軍事的ブレゼンスがどうあるべきかということを戦略的な観点から再検討する作業を進めております。
米国はこの作業を東
アジア戦略構想と呼んでおりますが、先般訪日いたしました
チェイニー国防長官の
説明によれば、まず第一に、
米国は
アジアの平和と安定に資するためのコミットメントは遵守する、
前方展開戦略は維持するということを述べておりますし、第二に、現在十一万程度ございます
アジアの
駐留米軍、これをここ二、三年の間に一〇%から一二%程度削減する方向で検討しているが、この調整、あるいは再編成と言ってもよろしいかと思いますが、これは戦力の合理化、近代化の過程で実現していくものであって、戦力の低下をもたらすものではないということでございました。この
米国の考え方の
背景といたしましては、次のような国際
情勢認識があるものと私どもは理解しております。
第一に、
米ソ関係及び
東西関係は顕著に
改善され、
欧州における
ソ連の奇襲能力、奇襲攻撃の脅威というものは大きく低減していること。第二に、しかし
ソ連は依然として軍事大国であって、
軍事力の量的削減を補う以上の質的な向上を図っており、
米国と同盟国に対する軍事的脅威であり続けること。第三に、
アジアの
状況は
欧州の
情勢とは異なるものであること。第四に、国際
情勢は不確実、不透明、流動的であるので、この東
アジア戦略構想のもとにおきましてもその調整は十分慎重かつ弾力的であるべきこと。こういったことを申しておりました。私どもも、このような
米国の認識につきましてはほぼ同様の認識に立っている次第でございます。
会長、もう五分ほどいただいてよろしゅうございますか。