○菅野悦子君 私は、日本共産党を代表して、
老人福祉法等の一部を
改正する
法律案について、
総理並びに
関係大臣に
質問いたします。
本
法案は、これまで
家族の犠牲と
負担にゆだねられてきた
在宅福祉を初めて法
制度化し、一定の改善を図るものであり、これは当然の
措置と言えます。しかし、
政府が進めている「
高齢者保健福祉推進十か年
戦略」や本
法案によって、
国民の願っている
在宅福祉問題がすべて解決されるなどとは到底言えません。十カ年
戦略で
ホームヘルパーを三倍に増員するといっても、それは西欧諸国の数分の一にすぎません。しかも、
国民は
政府の
老人福祉に対する
基本姿勢に重大な危惧と不安を抱いています。十カ年
戦略自体、弱い者いじめで最悪の
福祉破壊税ともいうべき消費税の定着を図ろうとして打ち出したものだからです。
そこで、私は、最初に、
政府が
老人福祉の現実をどう
認識しておられるのかお伺いいたします。
言うまでもなく、
我が国の
憲法二十五条は、
国民の健康で文化的な
最低限度の
生活を営む
権利を明らかにし、そのために国はこれを保障する義務があることを明記しています。その
憲法を受けて、
老人福祉法の「
基本的理念」には、
老人は、多年にわたり
社会に寄与してきた者として敬愛され、かつ、健康で安らかな
生活を保障されるとうたわれているのです。
しかし、
我が国のお年寄りの置かれている実態は、
憲法や
老人福祉法の理念とは余りにもかけ離れていると言わなければなりません。このほど発表された警察庁の自殺白書によっても、特に病気を苦にしたお年寄りの自殺が急増し、自殺者の約三〇%を六十五歳以上の
高齢者が占めています。大阪でも、八八年五月、七十一歳の胃がんに苦しむ夫と寝たきりの六十八歳の妻が自宅前の路上で焼身自殺し、昨年三月には、同じく大阪で、肺気腫の八十三歳の夫が、退院してきた寝たきりの七十六歳の妻を、先立てば面倒を見れぬと悩み、思い余って絞殺に及んだ事件など、
介護に疲れ果てたお年寄りや老夫婦世帯での悲惨な事件が相次いでいるのです。
こうした悲劇が後を絶たない背景には、長年続いたお年寄りに冷たい政治に
責任があると言わなければなりません。
政府は、臨調行革による自立自助の名のもとに、
生活保護費や
施設措置費などの国庫補助率を大幅に削ってしまい、費用徴収基準を引き上げ、その
負担を
国民に押しつけてきました。八二年八月には
老人保健法を成立させて、
老人医療費を有料化し、七十歳以上のお年寄りに一般よりはるかに低い診療報酬を
実施するなど、世界にも例のない差別
医療を導入したのです。その結果、多くのお年寄りが入院制限や早期退院を迫られ、十分な治療も受けられないまま病院から締め出されているのです。
総理、このような痛ましい
状況に置かれているお年寄りの現実を、悲しい事実をどのように受けとめていますか、
厚生大臣は担当大臣としてどのように
責任を感じていられるのか、お伺いいたします。(
拍手)
以下、具体的に
質問をいたします。
まず、
福祉、
社会保障に対する国の
責任の問題です。
福祉の分野における
公的責任を縮小させ、
福祉の
民間依存を拡大していくならば、
生活弱者が窮地に追い込まれることは明白ではありませんか。
在宅福祉を必要とするすべての人に公平、平等な
権利を保障する上でも、国の
責任を明確にした公的
福祉の拡充こそ急がなければなりません。この際、
措置費の国庫
負担を八割に戻すことが必要だと思いますが、どのようにお
考えでしょうか、
総理並びに
厚生大臣の
答弁を求めます。
第二の問題は、
老人ホーム等の入所
措置権限を
市町村に
移譲し、
在宅福祉三
事業を法的に位置づけたことによって、
市町村の
事務、財政
負担が増大するという問題です。
現在の家庭奉仕員派遣
事業の実態を見ても、国の補助率はわずかで、多くの
市町村が多額の超過
負担を強いられています。例えば国基準では、
ホームヘルパー一人当たりの経費は月額十三万円にすぎず、これでは質の高いマンパワー
確保はとても無理と言わなければなりません。
事務量の増大に伴う
職員の配置、
ホームヘルパーの身分保障を明確にした財政的裏づけが大切だと思います。また、保障がないまま
市町村に
事業を押しつけることは、
在宅福祉が
自治体の財政
状況に左右され、
福祉の
地域格差を生むなど、新たな矛盾をつくり出すことになるのです。さらに、
地方交付税の不交付団体に対してはどのような援助をされるのでしょうか。以上三点について、
自治大臣並びに
厚生大臣の見解をお伺いいたします。
第三の問題は、
在宅介護に対する
経済的援助の問題です。
在宅介護を受けているのは中所得者層から低所得世帯に多く、重度の
介護を必要とするお年寄りの五人に一人は年収三百万円以下の世帯であると言われています。幾ら法的に
在宅介護を位置づけても、費用
負担ができなければ援助を求めることさえできないではありませんか。すべての人が実質的な援助を受けられるようにするためには、付添手当や
在宅介護手当を
制度化するなど、
経済的援助を具体的にすべきだと思います。
厚生大臣の
答弁を求めます。(
拍手)
第四は、お年寄りに対する
住宅政策の問題です。
東京東村山市で公団に立ち退きを迫られた老夫婦が無理心中をするという痛ましい事件が起こりました。異常な地価高騰と相続税、固定資産税の引き上げ、建てかえによる大幅な家賃の値上げ、そして地上げ屋による追い立てが
高齢者を襲っています。まさに政治の貧困が弱者、お年寄りを犠牲にしていると言っても言い過ぎではありません。家賃を払えず借家を追い出されたお年寄りは、昨年一年間でも都内で一千件を超えています。
在宅介護どころか住む家さえない
状況なのです。
高齢者優先の公営
住宅の大幅増設、家賃補助
制度の創設などの
措置をとる必要があると思いますが、
総理の明確なお
考えを伺いたいと思います。
第五は、
在宅介護者の働く
権利を保障する問題です。
女子雇用者総数は、八四年に働く女性が家事専業者を上回って以来大幅に伸び、千七百万人を超え、今や日本
経済を支える不可欠の基幹労働力として定着しています。また、増大し続ける
住宅ローン、教育費など、男女共働きでなければ支え切れない家計構造になっているのです。こうした実態の中で、病人の世話のために退職を余儀なくされるケースがふえています。男女がともに取得できる
介護休業の法制化を多くの女性
たちが切実に願っているのです。
仕事と家庭の両立のためにどのような具体策をお持ちなのか、女性の大きな期待にしっかりお答えいただきたいと思います。
総理並びに労働大臣の
答弁を求めます。
次に、
障害者のためのガイドヘルパー、手話通訳者、要約筆記などできる日常
生活に必要な援助者増員の問題です。
老人福祉計画と同様に、
身体障害者、
精神薄弱者のための
保健福祉計画の
策定を国、
自治体に義務づけ、
計画実行が図られることを関係者が求めているのに、なぜ耳をかさないのですか。
計画を
改正案に盛り込まなかったのはなぜでしょうか。
厚生大臣にその理由を伺います。
最後に、我が党が本年二月に発表した「
長寿をよろこべる
社会に」でも明らかにしているように、
余りにも低い老齢年金の引き上げや
ホームヘルパーの大幅増員、特別
養護老人ホームの緊急増設などが今日的に重要な問題です。
世界第二位の
経済力を誇る日本で、
社会保障を
充実する
財源を生み出せないはずがありません。問われているのは、軍備拡大や一層の大企業奉仕に
財源を使うのか、平和と
国民の
福祉のために使うのか、二つの道の選択の問題です。
世界の
人々は平和と民主主義を求め、軍縮に向かって大きく揺れ動いています。ところが、
我が国は、こうした世界の趨勢に逆行し、次期防衛力
整備計画では約二十三兆円とも伝えられる巨額の軍事予算を注ぎ込むことが予想されるなど、近隣諸国に軍事的脅威を与えている
状況です。軍事拡大の政治こそ、
社会保障や
福祉を切り捨て、豊かな老後を妨げている要因です。温かい老後を保障するために、軍事費を削って
福祉に回すことを強く要求して、私の
質問を終わります。(
拍手)
〔
内閣総理大臣海部俊樹君
登壇〕