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森実参考人 農業者年金基金の
理事長の
森実でございます。
先生方におかれては、この
年金業務の運営に日ごろから大変御懇篤な御指導を賜っております。この
機会に厚くお礼を申し上げたいと思います。本日は、
実施機関という
立場から
制度の現状、
役割、さらに今回の
制度の問題点なり、今回の
制度改正についての
意見等を申し上げたいと思っております。
まず、
制度の現状でございます。二十年目に入りました。完全に
農村社会に定着、成熟したと思っております。むしろ率直に言うならば、過成熟の状態に入ったということが言えると思います。被保険者数は現在ネットで六十二万人に達しております。逆に受給権者数は、被保険者数とは逆に急速な増加を示しておりまして、これはネットで六十四万人という
状況にあるわけでございます。これらの事情は、何といいましても
高齢化の進展、
農業構造の変化等に伴い、
加入者から受給権者への移行が
新規加入者を大幅に上回るという事情を反映したものでございます。
一方、
年金額は年々増加してきております。これは物価スライド制、さらに
加入年数の伸びを反映したものでございますが、例えば高い方の
経営移譲年金で申しますと、月額で六万一千円、低い方の
経営移譲年金が五千百円、さらに
老齢年金が月額で九千百円という
状況になっております。この結果、
年間の
年金額として
農村部に所得移転しております金額は総額で平成元年度には二千三百八十億円に達しているわけでございます。
年金財政は、こういった
状況を反映しまして年々厳しい
状況に入ってきております。最新時の見込みでも約三百九十八億円の赤字が生まれる見込みでございまして、
年金資産も年々減少しまして、最新時の見込みでは約四千九百億円という水準にまでなってきております。もちろんこの水準を当面は維持しておりますので、当面の給付には支障はございませんけれ
ども、やはり長期的に見ますと不安を抱えているわけでございまして、
年金財政基盤の抜本的な強化
措置が求められているわけでございます。
次に、
農業者年金制度の果たしてきた
役割というものを今の時点で考えてみたいと思います。
この
制度は、
農業者の
老後の
保障と並んで、やはり
経営移譲を通じた
経営主の若返りによる
経営の活性化、またその実績を相続時における
農地の
細分化防止に役立てていく、こういう
構造政策上の原点的な
役割は確実に果たしてきたものと思っております。また同時に、今日の
農業を取り巻きます厳しい
状況のもとで、この
制度は中核
農家への
年金額の安定的な支給を通じまして所得の下支え、さらには農政転換の下支えという機能を果たしてきているものと思っているわけでございます。
次に、
制度運用上の問題について二、三触れさしていただきます。
一番重要な問題は、やはり未
加入者の
加入の
確保という問題だろうと思います。しかし、率直に申し上げまして、昭和六十年度以降、
新規加入者は年々減少してきております。これは何よりも専業的
農家という母集団が減少してきているという事情が基本にありますが、やはり何といってもこれ以外に、
年金財政の将来への不安、それから
経営移譲時の不安、それから
経営の先行きに対する不安、さらに最近における就労形態の変化等がふくそうして起こってきていると思います。また、
制度改正の様子待ちという機運が現在
農村にあることも否定できないと思います。幸い、今回の
改正案におきましては各面にわたって、従来から未
加入者の
加入促進という意味からも重要な基本
課題を解決した形で
改正案がまとめられております。そういう意味においては、私
ども実施機関としては未
加入者の
加入促進に大変役立つ
状況が生まれてきていると見ているわけでございます。
次に、
業務の運営について若干触れさしていただきます。
基金の
業務は、その性格上被保険者、受給権者と長期にわたって直接接触するということで、これらの方々の利害に密接に
関係を持っております。したがいまして、
業務の運営に当たりましては、被保険者資格、
受給者資格の確認、管理の問題、
保険料の収納の問題、
経営移譲年金の裁定、支給の問題、
離農給付金の支給の問題、
農地等買い入れ
資金の貸し付け等の
業務をどうやって適正かつ迅速に運営するかが基本でございます。
農家との窓口になっていただいております
農業委員会、
農業協同組合の協力も得まして、その徹底に従来からも努めてきたところでございます。また、このほかに、
制度内容の周知徹底、PR活動の積極的な
実施、あるいは被保険者や
受給者からの疑問とか照会に的確に対応できるような相談サービス
業務の充実に近時
努力してまいってきているところでございます。
そこで、今回の
制度改正についての
意見を申し述べさしていただきたいと存ずるわけでございます。
政府が今回の
改正案づくりに取り組まれるに当たりまして、
農業者年金はさきに述べてきたような重要な
役割を果たしてきているという事情、それから中核
農家の減少趨勢というのは世界的な傾向でございますし、また
構造政策の流れの
方向でもあるという事情、それから
農村の老齢化が急速に進行している、さらに若い
農業者の就労の実態や意識の多様化も急速に進んでいる、こういう中でこの
制度を
農業の
実情に適した
仕組みに改めるとともに、安定した
年金財政基盤を
確立していた
だくことを基本として
お願いをしているところでございますが、今回の
改正案は、厳しい条件のもとでこれらの基本
課題に正面から取り組んでいただいているものとして、私
ども高く評価さしていただいているものでございます。
具体的な内容につきましては、五点
意見を申し述べさしていただきます。
第一点は、
年金財政の長期安定を図るための国庫
負担の拡充
措置でございます。
年金制度という面では、
保険料と給付額とのバランスを
年金財政の基本に置くべきことは基本となる考えだろうと思いますが、
農業者年金については、現在の中核
農家の減少傾向、
農家経営の
状況のもとでは
加入者と
受給者に
負担のすべてを求めていくということには
限界があると思います。そういう意味で
政策的重要性の高まりも踏まえながら国庫からの助成強化を強く求めてきたものでございますが、今回の
年金財政基盤の健全化を図るための抜本的
措置が講ぜられることにより
制度の
財政的安定が確実に展望できるようになったことにつきましては、
関係各位の御尽力に深く感謝しているところでございますし、私
どももこれを強力なてことして未
加入者の
加入の説得に当たってまいれるものと思っております。
第二点は、
給付体系の
変更に関する問題でございます。
現在の
給付体系を考えますと、
農村の
高齢化の進行や就労実態から見て
かなり無理があることは否みがたいという実感を持っております。さらに、六十五歳からの
年金支給額というものが六十歳から六十五歳までの高い
経営移譲年金に対して約三五%であるという点は、何といっても
老後保障という面では据わりが悪かったという印象は免れないと思います。今回の
改正案では、六十五歳までの間に
経営移譲した場合、具体的な事情に応じて受給開始時期を六十歳から六十五歳の間で選択できるようにするとともに、
終身同一額の
経営移譲年金、さらには
老齢年金を支給しようとするものでありまして、現実に即した安定感の高い
給付体系になるものと受けとめております。
第三は、分割
経営移譲方式の導入でございます。
やはり最近の就労
状況から、
サラリーマン後継者が譲り受け
農地のすべてを耕作することは困難となる事態が発生していることは事実でございます。現場からも、
一定規模までは
後継者に残しそれ以外の
農地を
第三者に移譲しても適格な
経営移譲とすべきである、さらに、
第三者に移譲する面積の比率が高い場合は加算つき
経営移譲年金の給付も受けられるようにしてほしい、また、
経営移譲後分割をしても
経営移譲年金の支給停止にならないようにしてほしいという声が強く出ております。また、このことは、
構造政策という面から評価した場合でも、中核
農家への
農地の
集積を
段階的に進めていく上において有効なことだろうと思います。そういう意味において私
ども、分割
経営移譲方式の導入というものは、
年金制度の円滑な運営を図る意味においても、また
構造政策の的確な展開を図っていく意味においても、大きな機能を果たしていくものと
期待をしております。
第四の点は、他
産業に従事した
加入者の
空期間通算でございます。
今日の
農村の労働力事情を見ますと、
農業と他
産業との間に労働力の流動性はますます高まってきております。さらに、好景気が持続する中で季節雇用も長期化するなど、若い
農業者を中心にして様子見の姿勢というものがあることは否みがたいところでございます。今回の
改正案により、途中で一たん他
産業へ就労した
期間を
加入期間に空通算できる
措置が講ぜられることになりました。これによって、
農業労働力の中軸となりつつございますUターン層への積極的な対応ということも可能になるわけでございまして、就労実態に合った
改正であろうと評価しております。
第五点は、
経営移譲の
受け皿の
整備という問題でございます。
経営移譲の
受け皿づくりとしては、
農業委員会の機能をフルに発揮していただくことがもちろん基本だろうと思います。同時に、農協による
経営受託事業、県公社の
農地保有合理化事業等による積極的な対応が行われるべきものと考えておりますが、今回の
改正案によりこれに加えて
基金が一時的に借り受ける
措置が講ぜられることになれば、多くの地域で
経営移譲に対する不安が緩和されることになると思います。これはまた、
加入促進に対しても大きなインパクトになるものと
期待しております。
このほか、
離農給付金支給事業の延長継続、
加入者が死亡した場合の
配偶者の
加入特例、脱退・死亡一時金の
給付水準の引き上げや要件の
改善等、かねて
実施機関として
要望してきた
改善事項も積極的に取り入れられていると思っております。
今回の
改正は、将来に向けて
制度を安定させていくための必要不可欠な
措置であろうと私
ども受けとめております。特に
離農給付金支給事業は本年五月十五日に期限切れとなるわけでございますので、できる限り早期にこの
法案が成立いたしますことをこの
機会に
お願いを申し上げる次第でございます。私
ども基金といたしましても、
改正法案が成立した暁には、十分な
理解と協力を得るための周知徹底、PR活動を総力を挙げて
実施するとともに、その適正かつ円滑な運営に
努力してまいりたいと思っております。
ありがとうございました。(
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