○
参考人(林俊範君) ただいま御指名を受けました林でございます。
大木
先生よりいろいろお話しになった中で、私に対する課題は、国際化の時代において、法人
税等について、国際企業としていろいろ海外等々でも動いている
立場から、ひとつ率直な意見を述べろというように課題をいただいたように考えております。したがいまして、簡潔に次の五点について申し上げたいと思います。
まず第一は、今日、日本の置かれている国際社会での地位であります。第二は、日本の法人税の率、これは
地方税を含めまして、実効税率ではどうであるかということ。それから先ほど
先生方のお話にもありましたように、じゃいろんな特別
措置法等々によるメリットを換算してみたら、実際の企業の負担率はどの程度になっているのか。それは諸外国と比べてどうであるのかという点。それから三つ目は、御承知のように累積債務国の対外債務というのが非常に大きな問題になっております。これの処理に関して、日本の企業に対してアメリカあるいは世界銀行等々から非常に厳しい要請が出ているわけであります。そういうものと、先ほどお話しの貸倒引当金との関連について、企業の
立場から申し上げたいと思います。それから四番目は、やはりお話に出ましたいわゆる外
国税額控除の問題であります。それから最後に、退職給与引当金、賞与引当金の
制度について。この五点であります。
まず第一に、国際的な日本の
立場であります
が、御高承のとおり、今日、日本は世界最大の貿易黒字国であり、また技術の最先進国でもあるわけであります。したがいまして、発展途上国だけではなく、中国、ソ連、東欧諸国あるいはアメリカ、米州各国、EC各国からも日本企業の進出について、ほとんど毎日のように要請が来ているのは皆様御承知のとおりであります。また逆に、日本が将来とも非常に有望な市場であるということで、新たに外資系のいろんな企業が日本への進出を試みております。「世界に貢献する日本」というのがやはり国際社会において日本に課せられた現在の課題であるように我々としては感じておりますが、この
責任を果たすために、
税制の面からいえば、二つのことが大事ではないかと、かように考えております。
その第一は、日本の企業が安心して世界市場へ出て、世界を舞台に活躍できるような
税制であることが第一であります。
二つ目は、今度は日本へ進出してまいりました外資系の企業が、それぞれの本国と比べて日本が何となく税金が高いというような、いわゆる痛税感と申しますか、こういうようなことを与える
税制でないことも必要ではなかろうか、かように考えるわけであります。
第二の問題に移らせていただきますと、先ほどの法人税率でございますが、いろんな試算の
数字があると思いますが、経団連が作成いたしました
資料に基づいてお話し申し上げますと、次のような
数字になっております。
実効税率、これは
国税、
地方税を含む表面税率に基づいて
計算した脱負担率でありますが、八九
年度は日本の場合五一・〇三%。これは御高承のように、この四月から実施されました所得税四〇%への引き下げ後の
数字であります。これに対してアメリカは、同じく八九
年度四〇・一四%であります。イギリスは、これは八九
年度の
数字がございませんが、八八
年度で三五%であります。また、先ほどお話しの政策
税制による負担軽減
措置を考慮した法人の実際の負担率でありますが、これは日本が四九・九五と五割の線を若干切りましたが、これに対してアメリカは三一・五七%であり、英国は二四・三〇%であります。このように米英と比べますと相当高い実情にございます。
じゃ、この税率の差というのは企業に対してどのような影響を与えていくのかということでありますが、これはもう本当に釈迦に説法で申しわけございませんけれ
ども、まず、市場原理の働きます
経済社会では当たり前のことだと思いますけれ
ども、諸外国の企業は高ければ日本への進出は妨げられるということでありますし、また日本の企業からいえば、自由な社会になればなるほど、これは余りに高い税率であれば、企業の主要拠点も海外でやった方が得ではないかというような行動に走るのは、これは当然のことであろうと思います。したがいまして、
一つ間違えば産業の空洞化にもつながりかねないというような懸念を抱いているわけであります。
第三の問題、累積債務の問題とそれから貸倒引当金の問題でありますが、現在世界貿易上の最も大きな問題は累積債務の処理の問題であります。しかも、これは非常に急を要する問題でもございます。全体は、発展途上国の累積債務だけで一兆三千億ドルと言われております。このうちで、日本の占める割合は大体一五%から二割ぐらいではなかろうかと推計されておるわけであります。
じゃ、それがどんな
意味を持つのかということでありますが、ことしになりましてメキシコの一部の対外債務が処理されたわけでありますが、御高承のように、この場合日本の企業に対して非常に巨額な切り捨てであるとか、あるいは金利の軽減であるとかの負担を要請されたわけであります。また、フィリピンの債務の処理の問題につきましては、非常にリスクを伴う新しい巨額の資金の供与を要請されておるのが実情でございます。これは恐らく、今後各国の債務処理の場合も同じような傾向にあろうかと思います。これらは企業の健全性の原則から申しますと、引当金等々でカバーしなければならないケースばかりでございます。しかし、今日の
税制におきましては、この面での
手当ては非常に不十分でございます。したがいまして、企業がみずからのリスクにおいて前向きに、しかも日本の国際的責務を十分に果たす前向きの姿勢がなかなかとりにくいのが現状であります。
したがいまして、質倒準備金
制度の問題につきましても、ひとつこの累積債務の処理についての国際社会での日本の責務という
立場から、段階的な軽減というよりは、むしろその面からの拡大も含めて御検討いただきたいものだと。このことによりまして、累積債務問題の処理を税金で賄う国の支援
措置だけではなく、企業がみずからのリスクも負担しながらいわゆる民活の形で協力していくことも可能になるかと思いますので、ぜひともこの貸倒引当金の前向きな御検討をお願いしたい、かように考えておるわけであります。
四番目は、外
国税額控除の
制度についてであります。この
制度は、御高承のとおり、
個人や企業が世界を舞台にいろいろ働きますときに、この
制度があるから二重課税が避けられて安心してどこででも働ける
制度であります。また、これは国際的にも既に確立した
制度でございますことは、先ほど大木
先生が述べられましたように、参議院におきましても、各国とのいろんな租税協定が結ばれております。その中で、二重課税防止の形でこの
税制が広くうたわれておることは皆様御承知のとおりでございます。
若干蛇足になるかもしれませんけれ
ども、この
制度の骨子を申し上げますと、極めて簡単なことであります。要は、税金というのは稼いだところで払うんだというのが第一。それから二つ目は、どこの国で払おうとその払った分に対しては本国で二重課税にならないような
措置をとるんだというのが国際的に確立されている原理であります。
御高承のように、ことしの四月からこの
制度は非常に厳しく見直されました。この改定は、単に控除限度額の全所得割合九割に制限されただけではなく、さらにこの国外所得とは何であるかの
計算、それから外
国税法の範囲、控除余裕額及び控除限度超過額の繰り越し期間等についても非常に、何といいますか、限定された形で法の運用が厳しくなっております。これに加えて、現在、じゃ、この後の形で世界各国、一番先進国でありますいわゆるG7の各国と比べてみますとどのような形になっているかということでありますが、まず全体的に言えますのは、控除対象会社の持ち株要件が非常に厳しいことが
一つであります。
御高承のとおり、日本は二、三の例外はありますが、原則二五%以上の持ち株の会社しか
認められておらないわけであります。日本を除く六ヵ国はすべて一割以上の持ち株であれば対象会社としているわけであります。また、第二は適用会社の範囲、これは日本の場合は子会社までであります。ところが、イギリスでありますとかカナダでありますとかは、これは要件、要は支配要件さえ整えば、これは無限に孫であろうとひ孫であろうと続くわけであります。またアメリカはひ孫まででありますし、大体子までというのはG7の中では二、三カ国だけでございます。したがいまして、このような現状でありますので、さらに控除限度額を限定しようという案がもしございますれば、これは今後の国際競争の場において日本企業はさらに非常なハンディキャップを背負うことになろうかと存じます。この点をぜひ御留意いただきたいものだと、かように考えるわけであります。
最後に、退職給与引当金
制度とか賞与引当金の問題を簡単に申し述べたいと思います。
企業というのは、国の
経済発展の原動力でありますとともに、いま
一つは社員、従業員の生活を支える収入の基盤でもあります。いかに努力いたしましても、私企業というのは
経済構造の変動でありますとかあるいは景気の変動に左右されるのはいたし方ないところであります。しかも、
経済構造の大きな変化が今日本
経済には迫っているわけであります。また、これが世界から期待もされているわけであります。このような現状でありますので、企業経営の中身を厚くしていくことが企業の経営者にとって大事でありますとともに、社員、従業員にとっても非常に大事なことになろうかと考えます。要は、こういった変動に際して、この変動が仮にあっても、中長期にわたり退職金の支給とかあるいは賞与の支給を安定して行える企業にする責務が企業にはあるわけでありまして、またこういった
制度があるから従業員、社員は物心両面の支えを持っているということも言えるわけであります。確かに、この両
制度というのは企業にとっては将来必ず起こる費用に対する引き当てでありますけれ
ども、しかし一定政策目的を実現するために導入される各種の租税特別
措置法上の準備金等とは性格を異にするものであります。したがって、現在の
制度は私としては日本的な非常にいい
制度だと思いますので、経営者とか株主の
立場だけではなく、従業員、社員の
立場からもぜひ現行どおりお願いしたい、かように考えるわけであります。
時折聞きます意見でありますが、例えばヨーロッパあるいはアメリカにはこんな引当金はないよということでありますが、そのとおりであります。
もともと日本的な退職金
制度でありますとか、あるいは賞与の盆暮れの支給でありますとか、こういったのは日本の独特な
制度でありますので、先方にないのは当たり前のことであります。しかし、考えてみますと、戦後日本
経済が発展してきた大きな柱は非常にすぐれた労使関係にあったと思いますし、またそれの極めて大きな柱の
一つがこういった退職金であるとかあるいは賞与のよき慣行であったように思います。したがいまして、海外にないからといってみずから日本のよき慣習、よき
制度を否定していくことはこれは私としてはむしろ逆ではなかろうか、むしろ世界にこういったよきものをPRしていく方が日本の経営者あるいは社員、従業員を含めた企業体としての責務ではなかろうか、かように考えるわけであります。
非常に簡単でありますが、以上で私の
お答えを終わらせていただきたいと思います。ありがとうございました。