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政府委員(栗林世君)
物価局長の栗林でございます。
お手元に「
物価レポート'89」の
説明資料をお配りしてございますので、それに従いまして御説明させていただきます。
お手元の資料の七ページをお開きいただきたいと思います。
本年度の
物価レポートにおきましては、主として第一部のところで
物価動向、特に
消費税が物価にどういう影響を与えたかということを中心にいたしました
物価動向を解説してございますが、本日はそれを省きまして、第二部のところで「
内外価格差の実態と縮小のための方策」ということでやっておりますので、そこを中心にいたしまして御説明させていただきたいと思います。
そこの七ページの上のところにも書いてございますように、まず私どもの方でやりましたのは、
内外価格差をめぐる問題点ということで、いろいろな立場の人がいろいろな指摘をしてございますので、これから
内外価格差の問題を考えていく上で、今までいろいろ言われていたことをまず整理してみようということから始めております。そこで、それを整理しました上で、その整理しましたものにのっとりまして現在どういう実態になっているのかということを考えてみまして、それにつきまして若干の縮小のための方策についても考えてみたということでございます。
そこで、第二部の第一章のところで「
内外価格差の実態」ということをやっておりますが、七ページのところに「
内外価格差をめぐる意見の整理」ということで、私どもの方では五つの
カテゴリーに分けまして整理いたしております。
第一番目にございますのが
生計費、これは
生計費全体をとる場合、あるいは
食料費をとる場合、
住居費をとる場合と、いろいろな
グループ分けが可能かと思いますが、その
生計費の価格が他の国と比べて高いか低いかということがまず一点いろいろと問題にされることではないかというふうに考えております。また後ほど詳しく御説明いたしますが、本年度の
物価レポートで特に私どもの方で力を入れましたのはこの第一の点でございます。
次に、二番目のところに輸入できる特定の
個別商品の
国内価格が外国の価格と比べて高いのではないかあるいは安いのではないか、こういういろんな御意見がございます。これは主として、そこに例示がありますように、特定の品物について言われるわけでございまして、これは後ほど
通産省の方から御説明があると思いますが、
日米共同調査でもこの点が
一つ争点になっているところでございます。
それから三番目には、逆に今度は日本から輸出されている特定の
個別品目についての価格が
輸出先国の価格と比べて高い。例えば日本ですと、日本の国内の価格よりは外国で売られている
輸出品の価格の方が安いのではないかというふうなことがしばしば言われておりますけれども、その点についてはどうなっているのか。これが
内外価格差という言葉で語られている一つの
カテゴリーでございます。この点も後ほど
通産省の方から日米構造協議の
価格調査ということで御説明がおありかと思います。
それから四番目としましては、これは三と四と両方をミックスしたような
サービスでございますが、特定の国際間の
サービス、例えば
国際航空運賃ですとか、
国際郵便、
国際電話などのような料金につきまして
方向別格差があるのではないか。例えば
航空運賃ですと
日本発の場合と
ニューヨーク発の場合では価格が違うのではないかということがよく言われるわけでございまして、これが
通常方向別格差というふうに呼ばれているものでございます。
それから最後に、五番目のところで、これは結局輸入できないような
サービス、例えばそこにありますような電気、ガスというような
公共料金ですとか、家賃ですとか、こういうふうないわゆる貿易ができないような
サービスにつきまして日本は外国に比べて高いのではないか、こういうふうな御意見もしばしば聞かれるわけでございます。
これが大体現在
内外価格差という言葉で言われております意見の集約ではないかというふうに考えております。
そこで、そういった
カテゴリーごとに少しどういうふうになっているのかということを見てみようということでございますが、ただこの
内外価格差の問題につきましては、
内外価格差があること自身はある意味では当然の場合もあるわけでございまして、
内外価格差があることがある意味では貿易を興すわけでございますから、そのこと自体がいいとか悪いとかということにはならないかと思いますけれども、ただ、何かの原因でそれが縮まる方向に動かない、価格の決定がそう動かないということがもしあるとすれば、これはやはり何か問題ではないか、こういう意識でございます。
八ページのところに、ここは例示みたいなものなんですが、毎年、
物価レポートで例示的にサンプル的な品物につきましてどの程度の
価格差があるかということを調べたものでございます。これはそこにありますように備考のところに、ちょっと細かい字で恐縮ですが、日本の場合には
小売物価統計からとっておりますし、
ニューヨーク、
ハンブルグの場合には
経済企画庁の
現地調査あるいは
日本貿易振興会にお願いしまして調べていただいたというふうな価格がそこに載っております。
ただ、これを見ていただいたときに御注意いただきたいのは、私どもの方の調査というのはどちらかといいますと、先ほども御説明しましたように、
生計費調査というのが主体になっておりますので、例えば
カラーテレビといいましても、その
カラーテレビが必ずしも同一規格の製品で、同じ国でつくられて、同じ性質のものであるというきちんとしたスペシフィケーションが行われているものではございませんで、生活していく上で大体それと同じ程度の
カラーテレビはどのくらいで買えるかというふうな観点から調査しておりますので、その辺は後ほど
通産省の方から御説明があると思いますけれども、先ほどの
カテゴリーの②と③のところで問題にしておりますような
価格調査とは少し性格を異にしますので、その点はこの表をごらんになったときに注意していただきたいというふうに思います。
この表については見ていただくとわかりますので省かしていただきまして、次に九ページの方をお開きいただきたいと思います。
九ページのところにございますのが、私どもの方が特に今年度調査しましたものの主体でございまして、「
生計費についての
内外価格差の実態」ということになっております。これは昭和六十三年十一月に
ニューヨークと西ドイツの
ハンブルグで
価格調査を実施しまして比較したものでございまして、調査の対象といたしましては、そこにも書いてございますように、
我が国の
消費者物価指数で採用されておる品目、これが約五百四十品目あるわけでございますが、その中の約四百品目を選定してございます。この選定につきましては、特に余りにも日本的な品目とかそういうものについては落としまして、大体共通にとれる品目につきまして調査をしているということでございます。
その結果が十ページにございますような「
物価水準の
国際比較」、第2の2表でございますが、こういう結果になっておりまして、「総合」のところで見ていただきますと、東京を一〇〇といたしましたときに、
ニューヨークの
相対価格が七二、
ハンブルグの
相対価格が六八、こういうふうな形になっておるわけでございます。ただし、また後ほど御説明しますが、
生計費の
内外価格差の実態を見ていきますときは
為替レートを幾らで考えるかというのが非常に大きな影響を持ちます。ここのところでは、六十三年の調査ですので、一応六十三年平均の
為替レート、備考の4のところに書いてございますが、ドルですと百二十八円十五銭という
為替レートで比較しておるわけでございます。
表の2の2をごらんいただきますと、一応どういうふうに品目を分類するかというのが一つの見方としては重要になってくるわけでございますが、私どもの方では、先ほど御説明しましたように、基本的には物価問題を考えて、特に
為替レートが変動しますときの物価問題を考えていきますときには貿易が中心的な
考え方になりますので、その貿易できる財とそうでないものについてまず基本的に分けていくのがいいんじゃないかという
考え方を持っております。
というのは、もし外国から安いものが買えるということですと、それを輸入することによって
国内物価を引き下げていくという効果が働くわけでございまして、そこの経済のメカニズムを通しまして物価が国際的な物価に近づいていくという働きを持ちますので、一応そこのところではそういうことを前提に置きまして、一番左のところの分類を見ていただくとわかりますように、「商品」というのがございまして、そこが大体そういう貿易できる財を集めてきているという
考え方をとっております。
それから、それ以下のところは二つに分けてございまして、「
制度的要因の大きい品目」というのと「一般の
サービス」という分け方をしてございます。これは、「
制度的要因の大きい品目」ということは、結局
財政制度ですとか、特に補助金を出すか出さないかとか、あるいは
公共料金のように政府がある程度
価格決定に関与するかどうか、こういうふうな制度的にある程度
価格決定に関与しているものについては制度の要因というのは大きいものですから、そういうものを一つの
グループとしてまとめてあるということでございます。
それから最後に「一般の
サービス」ということになっておりますが、「一般の
サービス」のところは三つに分けてございますけれども、基本的には土地の価格がどの
程度サービスに影響を与えているのかということから、土地を多く使うような
サービスとそうでない
サービスの場合について
価格差がどの程度出てくるかということを見ております。
まず「商品」のところをごらんいただきますと、「商品」は基本的にそこに分けてありますように
食料品と
耐久財と被服・履物、その他商品というふうに分けてございまして、
食料品の中は特に規制のある品目とない品目という分け方をしてございます。この
食料品につきましてはその国の固有の
商習慣等がありまして、それが価格に反映されるものですから、なかなか比較するときには注意しなければならないわけでございますが、一応そこで、
我が国の場合に、ですから絶対
水準そのものというよりは相対的に見ていただいた方がいいかと思いますが、規制してあるものと非
規制品目とを比較していただきますと、どうしても規制してある品目についてはそうでない品目に比べて価格が相対的に高くなっている。これは当然、規制するのには価格以外のほかの目的があってやっているわけでございますから、その目的との関連性で考えなければならないわけでございますが、
価格形成という面から見るとこういう結果が出てくるということでございます。
それから
耐久消費財につきましては、そこにございますように、結果的に見まして割に
価格差が大きいのは
家事用耐久財、これは
電気冷蔵庫ですとか
電気洗濯機あるいは
電子レンジとか、そういったものが入るわけでございますが、そこで割合に
ニューヨークと比べた場合に
価格差がほかのものに比べて高いという結果が出ております。
次に、「
制度的要因の大きい品目」というのがございますが、ここのところでは、エネルギー・水道のところが非常に大きな、ほかに比べますと比較的
価格差があるということになっております。ここのところには、
ガソリンですとか灯油、ガスあるいは上水道、下水道なんかも入っておりまして、これも例えば
ガソリンなんかの場合ですと税金の問題も絡んでくるということが当然そこにあります。
そのほか、これを見ていただいて注意していただきたいのは、特に保健・医療のところを
ハンブルグと比較していただきますと、
ハンブルグの場合には、東京を一〇〇とした場合に二四と非常に低く出ております。これは先ほど申し上げましたように、
ハンブルグの場合には保健・医療の関係でほとんどが公費的な負担で、
自己負担分が非常に少ないということがございましてこういう結果が出ておるわけでございます。したがいまして、先ほど申し上げましたように、ここのこういった「
制度的要因の大きい品目」の場合には、どういう制度を選択するかということが
価格差として出てきているということもございますので、その点は御注意していただきたいというふうに思います。
それから最後に、「一般の
サービス」につきましては、やはり日本の土地の高さというのは、ほかの国と比べますと家賃ですとか
土地利用型サービスの相対的に価格を高めているという結果がそこに出ているということでございます。
以上が
生計費をめぐります
内外価格差の問題でございます。
次に十一ページをお開きいただきますと、「
輸入品の
内外価格差」でございます。これにつきましては、私どもの独自の調査ではございませんが、
通産省の方で
輸入ブランド品の
内外価格比較調査というものを実施しておりまして、その調査結果を引用させていただいておるものでございますが、そこで見ていただくとおわかりのように、一般の
輸入ブランド品につきましては、日本では非常に
ブランド品が高くなる傾向があるということがこの調査結果からも出ておるわけでございます。
それから次に、十二ページに参りまして、「
輸出品についての
内外価格差」はどうかということでございますが、この
輸出品につきましては、特別にこの時点で私どもの方で調査しました結果というのはございませんので、
輸出品についての
内外価格差がどれだけあるかということについてはここでは述べてございません。この点につきましては、むしろ後ほど
通産省の方から説明があると思います
日米共同調査の結果を見ていただく方が適切かというふうに思います。
そこに一つ図をつけてございますが、これはよく言われますように、急激な円高が起きましたときには、
輸出品につきましては日本の場合に
ドル建ての価格になっている場合が多いわけでございまして、そうしますと、円高になったからといって
輸出品の
ドル価格をすぐそれと同じだけ上げるということはこれはなかなかできないわけでございます。ですから、そういう調整というのは、一年とか二年とかをかけて調整が行われていくわけでございまして、その辺のところを見ましたのがそのグラフでございます。
ですから、
国内卸売物価指数に比較しまして
輸出物価指数がどういうふうに動いているかということをそこに掲げてございまして、円高が急激に進みました六十一年ごろは非常にそこが開いたわけでございますが、それ以降は順に縮まってまいりまして、
平成元年に入りましてはその差が大分縮まってきているということで、よく
追随率ということが言われますけれども、
為替レートが
輸出価格に反映されていく
追随率というのも最近のところでは非常に高くなっているだろうというふうに考えております。
それから、次に十三ページをお開きいただきますと、そこに「
方向別価格差」というのがございます。これも特に
国際航空運賃につきましてそこに例が掲げてございますが、急激な円高が起きたときには、例えば
固定費になっておりますような
減価償却費ですとか賃金ですとか、そういったところは円高になったからといってすぐにそれを円高と同じだけ縮めることはなかなかできないわけでございますので、そこのところもそういったことを考慮して調整するのに時間が必要になってくるということでございます。
そこの
方向別の
国際航空運賃を見ていただいてもおわかりになりますように、これは御案内のように、IATAの
国際ルールに従いまして
発地国通貨建てということが決められておりますので、円高になりますと、円高になったときには瞬間的には
方向別格差がすぐどうしても生じてしまうわけです。ですからそれを順に調整していくということが行われるわけでございますが、現在では、
為替レートの変動とそれから
航空運賃の線とを比較していただくとわかりますように、
レートの変動を追いかけまして
方向別の格差が修正されていっておるわけでございまして、現時点では、
先進国間ではほとんど
正規運賃に関しましては
方向別格差はなくなっている。ただ、
発展途上国との間にはまだそういう格差がなかなか縮まらないところが、これはいろいろ
賃金水準とかありますので、縮めることは非常に困難な面がございますから、ある程度七〇%とか八〇%にならざるを得ないと思いますけれども、その辺のところまでは今いきつつあるというところでございます。
それから次に、十四ページのところで「
内外価格差と
公共料金」ということで、先ほど制度的なものの格差ということで申し上げましたが、
公共料金について比較してみますと、十四ページにありますような格差が生じております。例えば電気、
ガス等を見ていただきますと、アメリカとの比較で見ていただきますと差があるわけでございますが、これは例えば電気とかガスの場合に、特に日本の場合には
資本費の比率がどちらかといいますと格差を生む一つの要因になっているということでございます。あるいはガスですと、これは日本の
ガス使用の特殊性というのが出ておりまして、需要量が少ないとか、あるいは供給方法の問題とか、そういう点からやむを得ない格差というのが生じている面もあるかというふうに思います。
それから、郵便につきましては、ほかの国とはそれほど大きな格差はありませんが、アメリカとの格差が大きいんです。これはアメリカの場合には非常に郵便の需要量が多いというのがございまして、需要が多いとこれはコストを下げられるわけでございます。大体四倍くらい日本に比べますと需要量が多いというのがございまして、それが一つの大きな格差を生んでいる要因ではないかというふうに言われております。
そのほか電話につきましては、よく言われておりますように、日本の場合には遠近格差の問題がございまして、近いところではほとんど格差はございませんが、遠くなりますとほかの国に比べると高くなるというふうな結果が出ておるわけでございます。
そこで、十五ページ、十六ページをお開きいただきたいんですが、今度は今申し上げましたような
内外価格差が生じてくるときにどういう原因で生じてくるかということでございますが、一つは、先ほど言いましたように、我々の方ではマクロ的要因というふうに呼んでいますが、マクロ的要因の一つは
為替レートの問題でございます。
ちょっと専門的になってしまって恐縮なんですが、
内外価格差はどういうふうにはかっているかと申しますと、購買力平価というのがございまして、その購買力平価を
為替レートで割ったものがこれが
内外価格差という定義になっております。
購買力平価というのは、御存じかもしれませんが簡単に申し上げますと、例えば食料で言いますとパンと卵と、朝食べるものですといろいろあると思いますけれども、そういったものが五品目なら五品目あるとします。そうしますと、それを日本で買って食べると何円かかるか、例えばこれが日本で買うと仮に二百円で朝食ができた、こうします。それと同じものを今度はアメリカで買った場合には、仮に買ったときが一ドルだった。こうしますと、二百円のものがアメリカでは一ドルになるということですから、これは購買力平価で見たときは円は一ドル二百円に相当する、こういうことになるわけです。ところが、現実の
為替レートというのは、そういうことでは決まっておりませんで、いろんな要因によって決まる。特に最近では資本移動、いわゆる金融市場で、国際資本市場で決まってきますので、現在ですと百四十四円ですと百四十四円ということになりますから、そうしますと二百円と百四十四円を比較したのが
内外価格差の比率になってくるという
考え方になっておりますので、分母に持ってきます
為替レートの換算
レートに何を持ってくるかということが
内外価格差を見るときの一つのポイントになってくるわけでございます。
それを図にしましたのが2の7図と2の8図でございまして、2の7図のところにCという
為替レートというのがございます。これが現実の
為替レートの動いた軌跡でございます。年々こう動いているということでございます。したがいまして、仮にそのCという
為替レートを使って今申し上げましたような
内外価格差というのを定義しますと、その下の2の8図にありますように、Cという
為替レート分の消費の購買力平価というふうに書いたのがございますが、この線が出てくるわけでございます。そうしますと、円安であった五十七年から六十年までをごらんいただきますと、これはむしろその期間は日本の物価の方が安かったという結果になりまして、円高時期の昭和五十三年とか六十一年以降ですと今度は日本の物価が非常に高い、こういう結果になってくるわけでございます。ですから、一つの政策的な目標として物価政策を考えていきますときに、私どもの方では、こういう
為替レートが急激に変動することであれば、余り現実の
為替レートをもとにして
物価水準、いわゆる
内外価格差というのを論ずるのには非常に危険があるということでございます。
そこで、そういうことを念頭に置きましてもう少し違う方向でいろいろ考えてみましたのがそこの2の7図のAとBというふうに書いてあるものでございまして、Aという貿易財の購買力平価と書いてありますが、これは実際に貿易をやった
輸入品ですとか
輸出品ですとか、そういうものを比較した上で価格を仮に決めたらどの程度の
為替レートになるのか、こういうことでやりましたのがAの線になります。それに対してBの方では、現実には貿易されていないんだけれども、やろうと思うと可能な財というのがあるわけでございまして、そういうものまで含めて考えるとBという線になるわけでございます。
そうしますと、最近の六十一年以降のところを見ていただきますと、大体そういうふうないろいろ貿易面から考えたAとBというのと、それから現実の
為替レートのCの動きが三本とも同じ範囲内に入ってきておりますので、そういうことも考えて現在の
為替レートがそれほどこれから円安は大きく振れないということを仮に前提にすれば、この現時点での
為替レートをもとにした
内外価格差をある程度、これを完全に縮めるというのではなくて、それはまた後ほど申し上げますが、所得水準とかそういうものがあって全部埋められるという性格のものではないんですけれども、政策的に物を考えていくときにこの辺の水準を一応頭に置いていろんな物を考えていけるのではないかというのが我々の現在の
考え方でございます。
それから、次の十七ページをお開きいただきますと、これは
内外価格差に直接関連をするものではございませんが、私どもの方で東京とか日本の大都市をとっておりますので、日本国内で
価格差がどの程度地域ごとにあるのかということをひとつ見ておく必要があるだろうということで見ましたのがこの2の9図でございます。2の9図をごらんいただきますと、東京が点線の外に出ておりますのは、大体東京はほとんどの物価がほかの地域に比べますと高いものですから全部外に出ている、こういう姿でございます。それに対しまして、内側にございますのは、例えば住居とか食料というのがありますが、その各
カテゴリーごとに一番
物価水準の低い県をそこに名前を一応掲げてございます。
これをごらんいただきますと、特に大都市問題というふうに言われております住居の価格ですとかそれから教育ですとか、そういうところでは地域間格差が大きい、こういうことになっております。それに対しまして、制度的にきちんと全国同一制度でやっておりますような保健医療とかそういうものになりますと、ほとんど地域間の格差はなくなってくるということがそこに出ておるわけでございます。ですから、こういうことも頭に置いて比較しますと、対象になっております
ニューヨークも同様にアメリカでは大都市でございますからこういう傾向があるのかもしれませんけれども、土地問題となりますと、日本全国の問題でもありますけれども特に東京の問題であるということも言えてくるかというふうに思っております。これは一応そういう
内外価格差をやりましたときの一つの問題として国内の地域間格差を見てみたということでございます。
そこで次に、それではこういった
内外価格差がどういう要因によって生じてくるのかということでございますが、一つは、先ほど言いましたように、急速な円高の進展というのがその一つの原因でございまして、それが十八ページのところに書いてございますように、急速な円高が生じたときには、実物経済の方ではそれで輸入物価が下がって、国内の原料が下がって国内の製品にまで波及していくのになかなかいろんな時間がかかりますので、そういった時間的なタイムラグというのがあるということもございますし、それから先ほど言いましたように、賃金ですとか
減価償却費ですとか、そういう
固定費的なものについてはその円高に調整していくのには非常にまた長い時間がかかるということをここでは申し述べております。
それから次に、十九ページ、二十ページをお開きいただきたいんですが、もう一つ、マクロ的な要因といたしまして
内外価格差が生じております原因としては、これは一人当たり所得水準の上昇ということがございます。これはそこの十九ページの最初のパラグラフに書いてございますように、よく日本でも高度成長期に言われました「生産性格差インフレ説」というのがございますが、これにのっとって考えていただくとわかるわけですが、右側の2の10図をごらんいただくとわかりますように、一人当たり所得が高い国というのは、やはり先ほど申し上げましたようなはかり方での
物価水準というのも当然高くなってくるという傾向が国際的にうかがわれるわけでございます。ですから、これを見ていただきますと、大体右上がりの線が描かれております。例えばスイスなんかでも非常に所得は高いんですが、
物価水準も高いという結果が出ておるわけでございます。
これはなぜこういう結果が生じるかというのは、今申し上げました生産性格差インフレということで一応説明できるのではないか。ですから、これはいわゆる製造業のような貿易をしておりますところの生産性というのが高いわけでして、結局それのところで賃金が仮に決定されたとしますと、労働市場というのはある意味では一律でございますから、各産業ともそれほど賃金に格差が生じないということになってきまして、どうしても生産性の低い部門での価格が高くなってくるという結果がほとんどの国で起きておるわけでございます。したがいまして、所得が上がるにつれてそういう形でどうしても
物価水準が上がってしまうというのがそこに出てくるわけでございます。
しかしながら、同じような所得の
グループである
先進国間を比較してみますと、そこの図でもわかりますように、日本はどららかといえば高い方の部類に属しているという感じが見られますので、やはり少しそういった
内外価格差の縮小に努める必要があるのではないかということでございます。
その下の2の11図をごらんいただきますと、産業別に日本とアメリカを比較したときにどういう産業分野で生産性が日本の場合に低いかといいますと、実線と点線を比較していただきますとそれほどの差があるわけではございませんが、傾斜が日本の方が急になっているということが一つございます。傾斜が急になっているということは、結局生産性の間に格差があるということですから、先ほど言いましたようなことが起きますと、日本の場合に急激に所得水準が上がるとどうしても
物価水準が上がりやすいということを意味してくるわけでございます。ですから、そういう面で農林水産業あるいは卸・小売業でアメリカなんかに比べますと少し生産性が低いというところがうかがわれるわけでございます。
次に、二十一ページ、二十二ページをごらんいただきたいと思います。今、マクロ的に物価をつかまえてみたわけでございますが、今度はもう少しミクロの観点からどうして物価が上がるかということを見てみますと、そこの一番最初の二行に書いてございますように、公的規制とか流通段階での競争阻害要因あるいは消費者行動、高い地価、制度的側面などが考えられるわけでございます。これは先ほどの一番最初の
生計費のところで御説明しましたように、そこで
生計費的観点から見て割合に物価が高いと出てくるところがそういうようなものとつながっているということも先ほどの説明でおわかりいただけたかと思いますが、そこで、まず規制のある場合とない場合でどの程度の差が出てくるのかということを見てみましたのがこの2の12図のところで、これは卸売物価の段階で見たものでございます。
その2の12図のところを見ていただきますと、規制されている品目と非
規制品目とを比較していただきますと、輸入物価が下がったときに、非
規制品目ですと、下の図にありますように日本の国内での卸売物価も競争を通じまして下がるという現象が起きるわけでございますが、
規制品目の方ではそこのところが起きにくいということが一つうかがわれます。これは、先ほど言いましたように、規制にはそれなりの規制を置くだけのいろいろなほかの目的があるわけでございますけれども、物価という面から見ますとこういうふうな現象が起きやすいということをここでは述べておるわけでございます。
そのほかにつきましてはまた後ほどにしまして、次に二十三ページ、二十四ページのところで、ここでは、所得水準が上がった割には豊かさが感じられないという言葉がよく言われるわけでございます。そこで、そういう現象というのを今まで御説明してきましたような道具を使って説明した場合にどういうふうになるのかということを少しやってみたのがそれでございます。
2の13図を見ていただきますと、これは先ほど言いましたように、購買力平価という
考え方を使って考えてみると、アメリカと日本を比べた場合に、日本の場合にはそういう形ではかった場合にはアメリカに比べて非常にまだ所得水準は低い、こういうことになるわけです。それに対しまして
為替レートではかった場合には、最近のところではアメリカよりも高くなっている。これがいわゆる一つの豊かさを感じられないと言われるところの統計的な見方になってくるわけでございます。ですから、購買力平価と
為替レートの間に非常に大きな乖離が生じてきていることが一つの実感できない原因であるということが一つあります。
それから、2の14図のところにございますように、ここのところは今の購買力平価とさらに労働時間というものも一つ考えてみた場合にどうなるかということでございます。一番左端のところが
為替レートではかった一人当たり国民所得になりますが、これはアメリカを一〇〇とした場合を比較しておりますけれども、そうしますと、それを今申し上げましたように、今度は一時間当たりの国民所得に変換するとどうなるかというのが真ん中の黒い線でございますが、一時間当たりに変換しますと日本はさらに低くなってしまう、労働時間が長いために低くなってくる。それを購買力平価で換算するとさらに低くなってしまう、こういうことでございます。したがいまして、豊かさの実感のためには労働時間の問題ということと、この購買力平価と
為替レートの乖離の問題ということが大きな要因として働いているということでございます。
それから、対策といたしましては、先ほど申し上げましたようなことで、二十五ページのところにございますように、まず「規制の緩和」ということで、それぞれの今まで他の目的を持って設けられております規制について、もう少し物価という観点から見直す必要があるかどうかということがこの規制の緩和の問題でございます。
それから、二十六ページのところにございますように、「流通分野での競争促進」ということも、これは先ほど申し上げましたようなことで、
内外価格差の縮小という観点からもう少し流通業での効率を高める方法はないだろうか。最近の研究ですと、アメリカ、ヨーロッパに比べて日本の流通そのもののマージンの大きさとかいうことから比較しますとそれほど大きな差があるわけではないのでございますけれども、何かもう少しその辺で見直す点があるのかどうかということが一つの問題になってくるかというふうに思います。
それから最後に、二十七ページのところでは、「
内外価格差と消費者行動」ということで、やはり日本の消費者の場合は、非常に日本の消費者は厳しいということがよく言われるわけでございますが、どうしても厳しい
サービスを要求するというようなことがございます。ですから、もし物と
サービスが分離できるのであれば、それを付随したパッケージにしないで、分離した形で供給して価格を下げるとか、あるいはそれをそういう形で購入するとか、そういうことができるようになればいいんじゃないかというのが一つございます。
それから、
ブランド品に対する消費者の態度というふうなことがもう一つありますし、それから、いわばよく言われますのが真っすぐなキュウリと曲がったキュウリの問題で象徴されるような消費者行動というのも問題ではないかというのが一つございます。そのほか、本年度の
物価レポートでは企業の交際費というのが膨大なものがございますが、これが物価を上げている一つの要因ではないかというふうな分析もしておるわけでございます。
あと個人輸入ということも一つ書いてございますけれども、一応本年度の
物価レポートで扱いました
内外価格差の問題というのは以上でございます。