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1989-11-21 第116回国会 衆議院 法務委員会 第5号 公式Web版

  1. 会議録情報

    平成元年十一月二十一日(火曜日)     午前十時開議  出席委員    委員長 戸塚 進也君    理事 逢沢 一郎君 理事 井出 正一君    理事 井上 喜一君 理事 太田 誠一君    理事 坂上 富男君 理事 中村  巖君       赤城 宗徳君    古賀  誠君       鈴木 恒夫君    稲葉 誠一君       清水  勇君    山花 貞夫君       冬柴 鉄三君    滝沢 幸助君       安藤  巖君  出席国務大臣         法 務 大 臣 後藤 正夫君  出席政府委員         法務大臣官房長 井嶋 一友君         法務大臣官房司         法法制調査部長 則定  衛君         法務省民事局長 藤井 正雄君  委員外出席者         警察庁刑事局捜         査第一課長   山本 博一君         法務大臣官房審         議官      濱崎 恭生君         法務大臣官房参         事官      山崎  潮君         最高裁判所事務         総局民事局長         兼最高裁判所事         務総局行政局長 泉  徳治君         法務委員会調査         室長      乙部 二郎君     ───────────── 委員の異動 十一月二十一日  辞任         補欠選任   塩崎  潤君     鈴木 恒夫君   戸沢 政方君     古賀  誠君 同日  辞任         補欠選任   古賀  誠君     戸沢 政方君   鈴木 恒夫君     塩崎  潤君     ───────────── 本日の会議に付した案件  参考人出頭要求に関する件  民事保全法案内閣提出、第百十四回国会閣法第四〇号)      ────◇─────
  2. 戸塚進也

    戸塚委員長 これより会議を開きます。  お諮りいたします。  本日、最高裁判所泉民事局長行政局長島田刑事局長から出席説明要求がありますので、これを承認するに御異議ありませんか。     〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  3. 戸塚進也

    戸塚委員長 御異議なしと認めます。よって、そのとおり決しました。      ────◇─────
  4. 戸塚進也

    戸塚委員長 内閣提出民事保全法案を議題といたします。  これより質疑に入ります。  質疑申し出がありますので、順次これを許します。坂上富男君。
  5. 坂上富男

    坂上委員 きょうは、法案質疑に入る前に少し、関連として警察庁に御質問をさしていただきたいと思います。  大変私たちが危惧しておる深刻な問題でございますが、横浜坂本弁護士とその家族が十一月三日の夜から翌四日の朝にかけまして忽然と姿を消された、こういう報道がなされました。そして現場のアパートの室内にはバッジが落ちていた。これはある宗教団体バッジであった。それから、きのうあたりの報道によりますと、血痕、血が出ておりまして、その血が壁についておった。こういうようなことから見ると、相当な抵抗、乱暴が推測されるというような状況であります。しかもまた、姿が見えなくなる前までは大変激しいやりとりの弁護活動もあったというふうに新聞報道がなされておるわけでございます。こんなような状況から見てみまして、私たちは、特に弁護活動が大きな原因となってこういう状況になり、家族まで巻き込まれた事件であるとするならば、基本的人権の大変大きな侵害の問題になろうかと思っておるわけでございまして、まさに民主主義の根幹を揺さぶる重要な事件でないかと思っておるわけでございます。  そんなような意味合いにおきまして、坂本弁護士一家事件をどのような観点から警察庁はとらえられまして御捜査をなさっているのか、ひとつお話しいただきましょうか。
  6. 山本博一

    山本説明員 お答えいたします。  先生お尋ね事案本件失踪事案でございますが、これにつきましては、本年の十一月七日午後十時半ごろ、横浜市居住の弁護士坂本堤さんの家族三名が行方不明となっている旨を失踪者坂本さんのお母さんから所轄署に届け出をされたことによりまして認知したところでございます。  所轄署におきましては、事案特異性重大性にかんがみまして、直ちに詳細な事情聴取をいたしますとともに、失踪者宅を確認いたしましたところ、十一月四日付以降の新聞が郵便受けに残されていたことなどから、十一月三日ごろに所在不明となっていることが判明したところでございます。また、翌八日には、警察本部の応援を得た上で失踪者宅の詳細な検分を実施いたしましたところ、通常の外出とは違う状況であることが判明いたしましたため、即約六十名の体制で、非公開のもとではありますが、強力な捜査を展開したところであります。  しかし、その後の捜査におきまして、失踪者犯罪に遭遇したと直接認められる状況についてはいまだ判明しておらないものの、特に家出をしなければいけない状況もないところから、何らかの犯罪に巻き込まれた可能性が十分に考えられるということでありまして、十一月十五日、御家族同意を得まして本失踪事案公開捜査に付するとともに、同十七日には百十名の体制による捜査本部を設置いたしまして聞き込み捜査手配捜査など所要捜査を現在推進いたしておるところでございます。今後におきましても、あらゆる事項を考慮した上で各種情報収集や解明に努めるとともに、手配捜査関連情報収集など全国的な捜査を強力に展開いたしまして、本件失踪事案早期解決を図ってまいる所存でございます。
  7. 坂上富男

    坂上委員 この事件警察はどのように見ておられるのか。しかもこれは、きのうのテレビ等報道によりますと、床に落ちていたと思われた血痕は壁に付着をしておった、こういうような状況があり、多分これは坂本さん一家のだれかの傷だろうと思うのであります。多分奥様かあるいは弁護士先生のどちらかの血痕ではないか、こういうふうに思われるわけでございまして、これはまさに私は、事件に巻き込まれたというよりも、事件そのものに起因をいたしまして拉致された事件じゃなかろうか、こう思っておるわけでございますが、この血痕関連をいたしましてどのような対応をなさっておるのでございますか。
  8. 山本博一

    山本説明員 お答えいたします。  警察といたしましては、本事案弁護士さんの、しかも家族がそろって忽然といなくなるという事案でありまして、極めて特異な、かつ重大な事件として受けとめておるところでございます。そういう観点から、早期から大量の捜査員を動員いたしまして強力な捜査を推進いたしておるところでございます。  お尋ね血痕の問題でございますが、捜査の細部にわたる事項でありますので詳しい内容は差し控えさせていただきたいと思うわけでございますが、室内状況を検分いたしましたところ、特に荒々しく争ったという形跡は目下のところ認められておらないところでございます。
  9. 坂上富男

    坂上委員 いま一つは、某宗教団体のことがよく言われておるわけでございますが、これは捜査の対象の範囲に入っておるのでございますか。
  10. 山本博一

    山本説明員 お答えいたします。  失踪者坂本堤さんは横浜法律事務所に所属する弁護士さんでありまして、宗教団体関係者と交渉するなどの弁護活動を行っておるということは承知いたしておるところでございますが、このことが本件失踪事案関係があるのか否かということにつきましては、現在のところ判明いたしておりません。これらの点を含めまして現在幅広く所要捜査を推進いたしておるところでございます。
  11. 坂上富男

    坂上委員 この事件磯子警察署レベル捜査が行われているということでございますが、この事件の性格から見まして、警視庁なりあるいは静岡、神奈川県警本部における広域捜査が必要な事案だろうと思うのでございます。広域捜査本部を置くべきだろうと思っておりますが、こういう捜査の仕組み、体制はどうなっておるのですか。
  12. 山本博一

    山本説明員 お答えいたします。  本事案につきましては、現在神奈川警察本部中心になりまして磯子署捜査本部を設置し、捜査を展開いたしておるところでございます。  捜査につきましては、全国の警察所要手配及び情報収集を求めておるところでございまして、警察庁も指導いたしながら全国的な捜査を現在推進いたしておるところでございます。
  13. 坂上富男

    坂上委員 ぜひ警察庁に一日も早い真相の究明、捜査の遂行を期待をいたしておるわけでございます。本当に弁護士活動でこんなようなことに巻き込まれますと、まさに基本的人権の擁護というものが容易でありません。また、例えば国会議員がこんなようなことに、危険にさらされなければならぬという事態だってこれまた予想されるわけでございまして、私は大変な事案だろうと思っておるわけでございますから、どうぞひとつ警察庁の迅速果敢かつ的確な捜査期待をいたしまして、今言った視点も加味されまして捜査されますことを御期待をいたしまして、一応これは終わります。ありがとうございました。  それでは最高裁判所、お見えでございますが、最高裁判所事務総局資料中、一九八一年十月裁判官協議労働仮処分事件協議結果の中で次のような協議がなされておるようでございますが、確認をさせていただきたいと思います。  まず、この協議書あるいは資料というのでしょうか、こういうのは出されておるのでございますか、最高裁
  14. 泉徳治

    泉最高裁判所長官代理者 最高裁判所事務総局行政局が世話いたしまして、昭和五十六年十月に労働関係事件を担当しておられる裁判官を集めまして協議会を開きまして、それからその協議結果、そのほかの協議会等協議結果をまとめた資料を約二年後に刊行しております。そういう事実がございます。
  15. 坂上富男

    坂上委員 この資料の中にこういう記載があることは事実でしょうか。  まず百四ページでございますが、「仮処分の暫定的な仮の救済制度という性質を強調していくと、最も純粋な労働仮処分の姿というのは、例えば解雇されたために収入の道を失った労働者が他で収入を得る道を探すのに必要な期間だけ、その生活に最低限度必要な金銭上の救済を与えるといった形のものになってこよう。つまり、例えば、六箇月とか一年間という短期間に限って賃金の仮払を認めるといった内容命令が最も仮処分らしい仮処分だということになってこようかと思われる」、こういう協議がなされていますか。
  16. 泉徳治

    泉最高裁判所長官代理者 先ほど資料を刊行した事実があると申しましたが、これはあくまでも内部の裁判官同士の研究の場でございますので、その協議資料というものも部内用資料として出したわけでございます。したがいまして、どういう協議がなされたかということを、細かいことを申し上げることは差し控えさせていただきたいと思いますが、委員が御指摘のような趣旨の発言がその会同の中でなされたことは事実でございます。
  17. 坂上富男

    坂上委員 発言がなされ、これを協議結果とされたのじゃございませんでしょうか。  そこで、今度は同じく百五ページですが、「労働仮処分事件審理のあり方を本当に仮処分らしい姿にしていくためには、この保全必要性の点に関する判断に重点を置いて行っていくという配慮が必要になってくるのではないかと思われる。こういう審理の仕方をしていくと、地位保全仮処分であってもまず保全必要性の有無を審査し判断を下せる事案もある程度出てくるのではないかと思われる」、こう言っておりますが、これも協議結果で出ておりますか。
  18. 泉徳治

    泉最高裁判所長官代理者 仰せのとおりでございます。
  19. 坂上富男

    坂上委員 さらにその次でございます。百二ページ。「当事者の方が本案化した審理を望む場合でも、裁判所としてはそうならないようにするのが、裁判所の基本的に採るべき態度ではないかと思う」、こうおっしゃっていますが、これも事実ですか。
  20. 泉徳治

    泉最高裁判所長官代理者 その点も委員指摘のとおりでございます。
  21. 坂上富男

    坂上委員 いま一つです。百三ページ。「事件によっては裁判官が自ら主尋問をやるという方向で無駄な尋問を省くということも可能ではないか」、これも事実でしょうか。
  22. 泉徳治

    泉最高裁判所長官代理者 協議員の一員の方からそういう御発言があったことは事実でございます。
  23. 坂上富男

    坂上委員 さて、この四つは本日審議をする法案改正に重大な関係があると思っておるわけでございます。  いわゆる裁判官が、裁判官協議会で今おっしゃいましたような協議がなされ、発言がなされておる。ちょうどこれを受けるような形で民事保全法保全規定改正をされようとしておるわけでございます。いわば裁判官裁判をおやりになるに、裁判官のお立場でお考えになったのでございましょう。また、その事の本質からあるいはそういう発言かと思いますが、そのことが直接今回の法案改正に影響しているのじゃなかろうか、こう思っておりますが、最高裁判所は今回の法律案をごらんいただきまして、この発言との関連においてどのようにお考えでございますか。
  24. 泉徳治

    泉最高裁判所長官代理者 先ほど御指摘のありました裁判官協議会昭和五十六年十月、約八年ほど前の協議会でございまして、その結果が今回の法改正に結びついたということは全くないと思います。  労働仮処分事件審理しております関係者にとりまして、裁判官を含めまして、また当事者を含めまして、労働仮処分事件というものが非常に長くなっている、いわゆる本案化しているということがございます。私ども公刊物でよく見ますと、労働仮処分事件判決などが非常に長文のものがありますが、その判決の年月日と事件番号を見ますと、その間に二年も三年もたっているという事件が非常にございます。  仮処分といいますものは、これは委員承知のとおり、本案判決があるまでの当面の暫定措置といたしまして、法文でいきますと、急迫なる強暴を避けるため、これは労働事件で申しますと、労働者が解雇されてその解雇が有効か無効か争われている状態において、収入の道を断たれた労働者方々の当面の生活の困窮を防ぐために賃金を仮払いする、こういったものが中心になっているわけでございますが、それが二年も三年も後になって認められるというのでは、どうしても仮処分の目的、機能が十分に達せられているとは言えない、こういった悩みを持っております者は、裁判官に限らず関係者方々当事者方々の共通の悩みであろうかと思います。そういった問題点を含めまして、その当時裁判官協議したということでございまして、今回の保全処分改正とはこれは異なるものであろうと思っております。
  25. 坂上富男

    坂上委員 さて法務省最高裁判所では、仮処分裁判官会同があってこのような協議がなされて、またそういう意見が出、あるいは協議結果となった、こういうお話でございます。しかもそれは八年前だから今回と違うとおっしゃるのですが、それはちょっとばかり事実の経過を無視されておるわけでございまして、こういうようなことがありましていろいろと議論が尽くされまして、法制審議会経過をいたしまして、昨年でしたか、ことしの初めですか、法案提出をされた、こういう過程を経ておるわけでございます。  したがいまして、まず私は、この発言とこの最高裁協議本件法案改正というのは大変重大な関係を持っておって、果たして裁判官のための法案なのか、あるいは国民の審理を受ける立場における法案なのかということに実はいささか疑義を感じておる部分があるわけでございます。  そこで、これを以下具体的にその問題を指摘しながら御質問をさしていただきたいと思うのでございますが、まず法務省の方では、私が指摘をいたしました裁判官会同意見というものは大変重要に反映をしていると思われますが、いかがでございますか。また、法務省の方でも、また関係者皆様方も、この協議結果というものは十分お読みになった上でこの問題が引き継がれてきているのじゃなかろうか、こう思いますが、いかがです。
  26. 藤井正雄

    藤井(正)政府委員 仮差押え仮処分制度規定しております民事訴訟法は、明治二十三年に制定された大変古い法律でございまして、それ以後ほとんど改正といったようなことはなされないままに経過してまいりました。  昭和二十六年そして二十九年に、民事訴訟法あるいは強制執行制度改正について必要があればその要綱を示されたいという大臣から法制審議会に対する一般的な諮問がございまして、これに基づいて強制執行制度全般にわたる改正検討作業が断続的に続けられてきたわけでございますが、御承知のように昭和五十四年に民事執行法が制定されまして、この中では、強制執行制度を改善するとともに、仮差押え仮処分執行に関する規定もこの中に取り入れられた。そういう意味では、この仮差押え仮処分制度の半分の部分については手当てがなされたわけでありますけれども、その命令を発する手続については改正されないままに民事訴訟法の中に残されておりました。これが法制審議会民事訴訟法部会における残された仕事となっておりまして、この経過を経まして仮差押え仮処分制度改正について審議がなされてきたわけでございます。  ただいま最高裁判所における協議というものの御紹介がございましたが、私どもそのようなことは必ずしも明確に承知をしておりません。委員方々がどの程度これを承知されていたかということは全く知る由もないわけでございますが、そういうことに触発されて審議がされたわけでもございませんし、またそのようなことを意図してなされたわけでもございません。非常な時代の変遷を経まして、余りにも今日の時代に適合しなくなっている部分がある。特に、判決手続原則とする仮処分制度が存置されておりまして、実務運用では判決手続によってなされるものはごく少数でございますけれども、特にその面においては遅延が顕著である。そういったことは、これを改善しなければ司法に対する信頼を失いかねない。そういう基本認識からこの仮差押え仮処分制度に対する抜本的な改正が企図されたものであるというふうに考えております。
  27. 坂上富男

    坂上委員 普通私たち関係者の間では、保全法は出しやすく取り消しやすい、こういうことを企図したものである、こう言われておりますが、局長、お耳に入っておりますか。これに対する的確な批判だろうと思うのですが、以下また私はこの問題を指摘をしながら御意見を賜りたいと思いますが、まず冒頭、どうですか、こういう評価がなされておるわけですが、いかがです。
  28. 藤井正雄

    藤井(正)政府委員 出しやすく取り消しやすいということは、私どもの方もそのように申し上げたことがございまして、いささか比喩的な言葉ではございますけれども、今度の改正一つの面をあらわしているものと思います。それは決して粗略に扱うという意味では毛頭ないわけでございまして、迅速性ということが民事保全制度の生命でございますので、それにふさわしいような改正をしたいということが今度のねらいでございます。
  29. 坂上富男

    坂上委員 さてそこで、まず審理迅速化ということについて申し上げたいと思っておるわけであります。  この法案によりますと、仮処分申請に対する審理も、その認容あるいは却下の決定に対する不服申し立て手続も、すべて審尋決定の簡略な手続で行うことができると第三条にあるわけでございます。  口頭弁論を開くこともできるわけですが、それは例外で、仮に口頭弁論を開いても、裁判長当事者同意なしに証人尋問順序を変更できるという規則が新設されました。これは十一条。それから、現行法原則裁判長尋問当事者尋問の後、これを逆にできるという条文をわざわざ新設した意味は、さきに申しましたところの裁判官協議の中に、当事者の申請した証人裁判官最初から尋問を行ってむだを省く、こういう提起がなされていることとやはり不可分の関係にあると私は思うのです。また、その裁判官協議の中で、当事者口頭弁論を開く慎重な審理を望んでもそうしないようにするという提起もなされていた、こう聞いておるわけであります。  こんなようなことから見ると、本当に裁判を形骸化して、ただ迅速だけにとらわれるおそれが出てきたのじゃなかろうか。しかも、裁判所裁判官裁判をするのに都合のいい方向でやられようとしているのじゃなかろうか。裁判官協議の結果等に関連をして見ますると、まさに的確な指摘でございますが、いかがでしょう。
  30. 藤井正雄

    藤井(正)政府委員 保全命令に関する手続において口頭弁論を開いて証人尋問などを行う場合には、民事訴訟法証人尋問についての規定が準用されることになります。  しかし、保全命令に関する手続においては、現実実務運用では、これは手続を迅速に運ぶための実務上の知恵として、尋問される証人などが作成しました陳述書等裁判所提出されているのが通常のようでございます。そうなりますと、その証人尋問申し出をした当事者の主尋問で出てくる事柄というのはその陳述書の中にあらわれているわけでございます。このような場合に、民事訴訟法原則に従って必ず申し出をした当事者から主尋問をしなければならないというふうにいたしますと、手続がどうしても遅延をする。そこで、このような場合には裁判長事件内容とか個々の証人重要性などを勘案いたしまして、民事訴訟法規定する尋問順序を変更して相手方反対尋問から始めることができるようにするというのがこの十一条のねらいでございます。その場合にも、必ず当事者意見を聞いて順序の変更をする、問答無用でやるということでは決してございません。  ただいまの委員お話ですと、裁判長がいきなり尋問をするということをねらいにしたものではないかというようなお話でございますけれども現行法の二百九十四条の三項では、裁判長がいつでも尋問に介入できる、これは尋問の中途に介入、尋問ができるという規定ではございますけれども、場合によっては最初尋問することもできないわけではないと思います。ですから、今回の改正裁判長職権でまず尋問をするということをねらいにしたものでは決してないわけでありまして、むしろ相手方反対尋問から始めることによって審理迅速化を図ることができるようにするということにねらいがあるわけでございます。刑事訴訟法はそのような規定になっておりますので、それに範をとったものでございます。
  31. 坂上富男

    坂上委員 御答弁の中に出てまいりますとおり、民事訴訟法二百九十四条第三項、これを十分活用すればおっしゃるようなこともある程度解決できるのじゃなかろうか。殊さらこれを出してくるところに私たちは大変な危惧を感じておるわけでございます。まさに職権主義の典型的な部分でなかろうか、こう思っておるのであります。  しかもこの迅速に名をかりまして、第三条がすべての手続審尋決定の簡略な手続で行うことができることとされた上、さらに審尋によるすべての決定について今度は、その理由はその要旨を示せば足る、こう言っておるわけでございます。これは十六条でございます。しかもこれが執行停止の場合にも決定取り消しの場合にもすべて準用されておるわけです。このようなことが明文の規定によって制度化されますと、私たちが心配しておる一つは、実際の問題として地位保全賃金払い仮処分がまさに拙速審理で軽々に、ろくに理由もつけないで却下される危険を私は感じておるわけでございます。  また仮に認容された場合でも、前に掲げた裁判官らが強調されております賃金削減方式と結びついて、さしあたり半年分だけとか、現実権利救済に役立たない、内容の薄い決定の傾向がさらに助長される危険があるのじゃなかろうか、私はこういう心配をしているのですが、これはどうですか。
  32. 藤井正雄

    藤井(正)政府委員 民事訴訟法には判決書必要的記載事項に関する規定がございまして、この規定決定にもその性質に反しない限り準用されるということになっております。しかし決定裁判される事項は多種多様のものがございまして、この判決書記載事項とされておりますうち「主文」とか「当事者」とか「裁判所」が決定にも必ず記載されなければならないことは明らかでありますけれども、それでは「事実及争点」とかあるいは「理由」などについて、これがどの程度あるいはどのように準用されるのかどうかといったようなことは、当該決定性質内容手続などに応じていろいろ論じられているところでございます。  そこで、保全命令の申し立てについての決定で、この点について規定を設けないということにいたしますと、保全命令の緊急性、暫定性をどの程度考慮すべきか、また口頭弁論を経たか否かによってどうなるのかといった点に解釈が分かれるおそれがございます。現実現行法でこの点は全く解釈にゆだねられているわけでありますけれども、これを明示することが当事者に対する手続保障の上からやはり必要であろう。  そこで、この法案において、口頭弁論を経てされる決定については理由を付する、経ないでされる決定については理由の要旨を明らかにすべきである、こういうふうにいたしておりますのは、この理由というのは裁判所判断をした根拠を示すもので当事者にとっては非常に重要ではございますけれども、一方では保全手続というものが迅速になされなければならないという要請がございまして、この迅速性の要請との兼ね合いで理由記載の程度は決められてよろしいのではないか。一般に、口頭弁論が開かれる事件と比べて開かれない事件は緊急な事件処理の要請が強いというふうに考えられますので、理由の要旨をもって足りるとすることとしてまず十分ではなかろうか、こういうふうに考えているわけであります。  理由の要旨というのは、これは幅のある概念でございまして、事件内容に応じて、それぞれ事件に即して考えられるべきものでございます。ごく簡単な仮差押えのような事件から当事者双方が激しく対立をしているような事件まで、いろいろあるわけでございまして、当事者双方の対立が顕著な事件につきましては、理由の要旨として重大な争点について十分な理由づけがなされ、当事者に示されるものであるというふうに確信をいたしております。
  33. 坂上富男

    坂上委員 さて、そうしますと、法務省の方いかがでしょうか。私の危惧しておりますのは、例えば労働争議があった、こうした場合、会社の敷地内であるいは門前でピケを張っておる、あるいは座り込みをしておる、これが相手方、いわば組合側が審尋も受けないで、出しやすいというそういう意味から迅速化という意味でビラ張りの禁止、立入禁止、妨害排除、こういうものが本当にこの法律を使えば直ちに命令が出されまして、そして労働争議の生死を決するような結果になることを私は恐れるわけでございますが、こういう点について私は、仮の地位を定める仮処分については債務者側の意見を聴取する機会というものはやはりできるだけ与えなければならない、こう思っておりますが、こういう点についてはどうお考えでございますか。
  34. 藤井正雄

    藤井(正)政府委員 今回の改正法案におきましては、事案性質に応じまして、幾つかの審理方式のメニューの中からその事案に最も適したものを選べるようにして、それによって審理裁判迅速化を図るということを考えているわけでございます。  ただいまお話のございましたような労働争議に関連しまして仮の地位を定める仮処分などが申し立てられましたような場合には、通常現行の審理手続におきましても、大体において債務者側の審尋も経まして判断がなされているのが一般的であろうと思います。これは事柄の重要性が極めて大きい、当事者に与える影響が大変大きい事案でございますから、そのような場合には相手方審尋をするのが適当であるという裁判所の御判断があるものと思います。  また、必ずしもそのような場合には密行性が要請はされていない、相手方に察知されないうちに仮処分を出すということは必ずしも要求はされない、むしろ相手方の言い分も聞いた上で適切な判断をするということが必要であるというふうに考えられているものと思いますが、こういった現在の実務に行われております審理の仕組みをこの法案によって変えるべきものだというふうには毛頭考えておりません。御指摘のような懸念はないものであろうというふうに思っております。
  35. 坂上富男

    坂上委員 今の答弁、大変この点はありがたいのでございますが、何としてもやはり法案の修正の中に入れたいと私たちも思いまするので、また法務当局においてもこの法案修正についての御協力も賜りたい、こう思っておるわけでございます。  さて、今度は権利保全の不安定化という問題でございます。  労働者の申請を全部認める仮処分決定が出たとしましても、その決定を非常に不安定なものにする特別の規定法案の中に新設された、こう思っております。  まずその一つは、使用者がその決定異議申し立てをすると、その時点で裁判所は、第二十七条一項なのですが、「保全執行の停止又は既にした執行処分の取消しを命ずることができる。」こういう規定があるわけであります。そして、この法案によりますと、執行停止あるいは執行取り消しに対しては「不服を申し立てることができない。」こうあるわけです。二十七条の四項でございます。この点が実は第一点でございますが、これの取り扱いに対する危惧はいかがでございますか。  いわば労働者がようよう仮の地位を定められたのにかかわらず、簡単にこうやって取り消されるおそれがあるとするならば極めて不安定でございます。これに対する考え方、どういうふうに見たらいいのでございますか。
  36. 藤井正雄

    藤井(正)政府委員 現行法のもとでは、仮処分に対して異議を申し立てましたときに、執行停止裁判ができるかどうかについては規定がございませんで解釈にゆだねられておりますが、最高裁判所の判例もございまして、このような場合には、異議申し立てをした者につきまして、控訴、上告をした場合の執行停止規定に準じまして執行停止裁判をすることができる、そのときには、執行停止裁判をすることができる要件として、一般に満足的仮処分であるときまたは債務者に償うことができない損害を生ずるおそれがあるとき、このような場合に執行停止ができるというふうな解釈がなされております。しかし、この解釈では実は大変幅が広いわけでございまして、満足的仮処分であれば必ず執行停止ができるようにも見える、それからまた債務者に償うことができない損害を生ずるおそれがあれば執行停止ができるようにも見える、これでは余りにも広過ぎるわけでございます。  そこで、ただいま委員も御指摘になりましたように、仮差押えとか仮処分というような暫定的処分についてさらに執行停止という暫定的処分を上乗せするということは極めて場合を限るべきであろう。そこで、現行法の解釈ではどうも不十分であるから、この点をより厳格に、明確にしようというのが今回の改正のねらいでございます。  その執行停止に関する規定は、判決に対する控訴あるいは上告、再審などの申し立てをしたときと、それから執行文付与に対する異議の訴え、請求異議の訴えなどを提起したときなどに規定をされておりますが、そのような場合における執行停止の要件と比べても最も重い要件をここに規定をいたしております。それらの規定で定められております要件を全部複合したような形で一番厳重な要件を定めておるわけでございまして、決してこの規定を設けることによりまして仮処分に対する執行停止が簡単になされるということはあり得ないことであろうと思っております。  なお、不服申し立てをすることができないという点でございますけれども、これは、執行停止裁判はあくまでも暫定的な措置でございますので、これに対してさらに不服を重ねるということは、そのための労力を非常に多く割くことになりまして、迅速性の要請に沿わないことになりますので、民事訴訟法民事執行法などに規定されておりますそのほかの執行停止制度におきましても、いずれも不服申し立ては許されないことになっております。それと同趣旨の規定を置いたわけでございます。
  37. 坂上富男

    坂上委員 時間がありませんので急ぎます。  さらにこの不安定化の問題については、仮処分認容の決定に対する異議裁判は、現行法では、一たん保全された権利が簡単に覆されることのないよう、必ず口頭弁論による慎重な審理を行わなければならないと定められているわけであります。これは民訴の七百五十六条、七百四十五条でございます。法案はこの基本的な構造を大きく変更いたしまして、その異議裁判口頭弁論なしに、簡略迅速、審尋決定手続で行うことができるという特別の規定を新設したのであります。この異議審尋であっさり認めて当初の仮処分決定を取り消すとき、その取り消しの理由はここでもまた要旨で足りる、こういうわけでございます。  それだけではなくて、この取り消し決定の中で裁判所は、もし仮処分執行停止がなされないでいたとき、それまでに労働者に仮払いされておった金銭の利息つき全額返還を必ず命ずることとされているわけであります。これもまた現行法仮処分制度にない新設条文でもあるわけであります。三十三条です。  これは大変な、何といいましょうか職権的なことでございまして、迅速に名をかりまして権利保全の不安定化を図るものだと言うべきだろう、こう思っておるわけであります。私はこういうようなものでは、原状回復の裁判などというものは、金銭の返還について利息の支払いを要求しない返還を命ずる裁判を裁量的に行う、こういうようなものが一番適切なのではなかろうかと思っておりまするけれども、この条文を素直に読みますとそういう危険もあるわけでございますが、こういう点はいかがでございましょうか。もう時間がありませんから、簡単で結構です。
  38. 藤井正雄

    藤井(正)政府委員 まず、保全異議手続における審理でございますが、これは現行の制度を改めて決定手続によるということにいたしましたのは、手続を迅速に行うということでございますが、同時に相手方の地位を保障する必要がございますので、二十九条ないし三十一条のような規定を設けまして、相手方の立ち会い権あるいは突然予告なしに審理を終結されることのないように、そういった地位を保障しております。  保全異議の申し立てについての決定でありますが、これは三十二条の四項におきまして、十六条本文を準用いたしております。したがいまして、これは必ず理由を付さなければならないということでございまして、理由の要旨では足りないわけでございます。  それから、原状回復の裁判でございます。現行法ではこのような規定がございませんため、仮処分異議もしくは取り消し手続において取り消された場合に、既に給付された物の返還を求めるには別訴によらなければならないわけでありますけれども、これでは仮処分という強力な手段をもって暫定的な地位を形成されて有利な立場にあった者に不当に利を与えることになりまして、債務者側の地位を顧慮する必要がある、当事者間の公平を図る上でこのような程度の原状回復を命ずる必要があるというふうに考えられたわけでございます。
  39. 坂上富男

    坂上委員 時間がありませんので、指摘だけをいたしまして、最終的な御答弁をいただきます。  いま一つ、不安定化の要素の中で、わざわざ明文の規定によりまして仮処分解放金の制度を明記したことであります。第二十五条です。  現行法の解釈として、理論上はとかくの議論がありますが、裁判実務の上では、仮処分申請を認容する決定を出すとき、その決定の中に、相手方が幾らかの金額を供託すれば仮処分執行停止執行取り消しを受けることができるという解放金の定めがなされることはほとんどない。労働事件ではその例がありません。  これをわざわざ条文に明記したことは、仮処分決定執行も簡単に停止、取り消すことができるようにするという法案の基本構造の一つのあらわれであると同時に、実際問題として、せっかく賃金払い仮処分決定が出ても、その中に使用者が一定の金額を供託しさえすれば仮処分執行を免れることができると明記されたとき、資力のある企業ならば、幾らでも供託金を用意すれば、それだけで初めから執行を阻止できるということになるのじゃなかろうかということを心配しておりますが、この点いかがです。
  40. 藤井正雄

    藤井(正)政府委員 現行法では仮処分が仮差押え規定を準用しておりますために、仮処分解放金の定めもその準用規定で賄っているわけでありますが、必ずしも解釈が一定していないで、場合によってはかなり広くこれを認めた例も散見されるところでございます。  そこで、この法案の二十五条においては、これを極めて限定的にすることによって解釈を明確にするということをねらったものでございます。「保全すべき権利が金銭の支払を受けることをもってその行使の目的を達することができるものであるときに限り、」というふうに規定をいたしておりまして、これは係争物に関する仮処分に限られる、そしてその権利の基礎が金銭の支払いを受けることによって経済的に本来的満足を受けられるような、そういう性質のものに限られるというふうに考えております。このことはこの二十五条の表現の中に十分あらわされているものと考えております。
  41. 坂上富男

    坂上委員 まだ時間が少しあるのですが、複雑事件と言われるもの、例えば労働者地位保全問題です。例えば、不当労働行為あるいは解雇基準のあいまいさ、そういうようなことをこちらの方で立証していくわけでございますが、どうもこういうような複雑事件というものは仮処分になじまない、さっき言ったように、口頭弁論化してしまう、したがって長期にわたる、仮処分の目的が達せられない、趣旨からいって違う、したがって長くかかるこういう複雑事件というのは仮処分になじまないという理由で、どうも仮処分による保護を受けることができないおそれがあるのじゃなかろうか。仮の地位を定める労働者の解雇問題等について大変それを危惧していますが、これはいかがでございますか。  それからいま一つ、占有移転禁止の仮処分の効力の拡張です。六十二条。これによりますと、いわば労働組合が職場占拠をしておる、これを簡単に債務名義なくして、債務名義といいますか仮処分命令相手方になっておらないでどうも執行されるおそれがあるようでございますが、この危険はいかがですか。
  42. 藤井正雄

    藤井(正)政府委員 仮処分に複雑事案と簡単な事案があることは確かであろうと思いますが、複雑事案につきましては、任意的口頭弁論を開いて十分に審理をすることが可能なわけでございまして、そのようなものが切り捨てられることはあり得ないものと思っております。  それから、占有移転禁止の仮処分についてでありますけれども、労働組合が占有をしている、そういう状態で占有移転禁止の仮処分を労働組合の占有部分についてすることはできないわけでございますから、仮処分当時に占有をされている労働組合がこの仮処分によって排除されることは全くあり得ないことでございます。
  43. 坂上富男

    坂上委員 もう時間が参ったようでございますから、大臣に最後に。  今申しましたような法案問題点、これはほんの端々でございまして、また各委員から御指摘があろうと私は思っておるわけでございます。したがいまして、この問題はいわば裁判所があるいは裁判官審理迅速性を重んじられまして、職権主義に流れまして、国民からの声に耳を傾けるということがこの法案では極めて少なくなりつつある。しかも、これによって救済を求める国民の権利が非常に制約されるのじゃなかろうか、こう私は危惧しておりまするが、大臣とされまして、所管の責任者とされまして、これに対する御意見はいかがでございますか。
  44. 後藤正夫

    ○後藤国務大臣 お答えいたします。  坂上委員の長い御経験と深い御知識による御発言、私も大変傾聴させていただきました。また、政府委員坂上委員の御発言をよく理解した上で法務省考え方を申し上げ、御答弁をさせていただいたと思います。  私も法務行政の責任者といたしまして、坂上委員のきょうの御発言を念頭にとどめておきたいと思います。
  45. 坂上富男

    坂上委員 終わります。ありがとうございました。
  46. 戸塚進也

    戸塚委員長 冬柴鉄三君。
  47. 冬柴鐵三

    冬柴委員 今回の改正は、民事保全法として独立した単行法を定立しようとするものでありまして、立法史上大きな意義を持つと考えております。オール決定主義を採用した以外は、現行法の枠組みの中で、従来、解釈や運用において克服してきた多くの問題点を実に小まめに検討して取り上げられ、それらに一定の解釈を与えようとする意味におきまして大規模かつ広範な改正となっていて、その意味で憲法が保障する迅速な裁判に大きく裨益するものであると私は評価したいと思っております。しかし、慎重な審議との関係におきまして、法務大臣のこの改正法との関係につきまして所信をまずお伺いいたしたいと思います。
  48. 後藤正夫

    ○後藤国務大臣 お答え申し上げます。  最近の世の中の動きを見ておりますと、目覚ましい技術革新の進展と経済活動の複雑化に伴いまして、国民の価値観も急速に変わりつつあるように思われます。同時に、民事紛争の様子、内容も大変多様化してきておりますし、また、複雑困難な度合いを急速に高めてきているように思います。  このような事態でありますけれども、紛争解決の方法が明治以来の非常に古い状態のままで行われているということによりまして、裁判所の民事裁判は時間がかかり過ぎている、また、世の中の要請に適切に対応することもできなくなっているといったような事態も生じつつあることは事実であると思います。このために、経済界、法曹界から、このままでは、国民は司法による紛争の解決をあきらめることになり、国民の信頼を失うというような事態が生じまして、今後二十一世紀に向けてますます事態が悪化するおそれがあると指摘されているところでございます。このような事態に立ち至ることは、ぜひ避けなければならないと考えます。  民事保全制度は、本裁判による権利の実行を容易ならしめるために行われる暫定裁判であり、迅速に権利の保全を行うことが制度の趣旨でございますが、この裁判ですら長期間を要するものがあり、これではますます国民の信頼を得られなくなるということは明らかでございます。  民事保全審理が長引く一つの大きな原因といたしましては、本裁判と同じ判決手続という厳格な手続原則的に採用していることにあると考えられます。そこで、これを改めまして、事件内容の軽重に応じまして柔軟に対応することのできる決定手続を全面的に採用することによりまして、審理を充実したものとしつつ、しかも迅速に行えるものとしようとするのが、この法案の最も重要な柱でございます。もとよりこの法律案は、審理を粗略にするということによって迅速に行おうとしているものでは決してなく、審理を充実した上で迅速に行うということを目的としているものであるということを強調申し上げたいと存じます。  このような改正を行うことによりまして、民事保全制度が国民の信頼を得られるようになるものと確信しているところでございまして、ぜひこの点を御理解いただきまして、早期にこの法案法律として成立できますように御尽力をお願い申し上げたいと存じます。
  49. 冬柴鐵三

    冬柴委員 それでは、改正法の条文に原則として従いまして、主な問題点について順次お尋ねすることといたしたいと思います。  まず、改正法十三条には「保全命令の申立ては、その趣旨」云々と、そういうものを「明らかにして、これをしなければならない。」、趣旨を書かなければならない、このように定められていますけれども、二十四条には「裁判所は、仮処分命令の申立ての目的を達するため、債務者に対し一定の行為を命じ、」「その他の必要な処分をすることができる。」このように書かれておりまして、必ずしも当事者の申し立ての趣旨に拘束されないとも読める定めの形式になっているように思われます。  そこで、この申し立ての趣旨と、それから決定主文との関係はどう解すればいいのか、特に民事訴訟法を支配する当事者主義との関係でどう考えられるのか、その点についてお尋ねをしたいと思います。
  50. 藤井正雄

    藤井(正)政府委員 申し立ての趣旨は、改めて申し上げるまでもなく、訴えにおける請求の趣旨に相当するものでございまして、実務では、仮差押え仮処分の申し立てにおいては例外なくこれは掲げられております。  裁判所といたしましても、この保全命令の申し立てに対して適切かつ迅速に審理をするというためには、債権者の方がどういう具体的な処分内容を求めているのかということを明示されるのが適当であろうと考えますので、法案の上でこれを明記することにいたしたわけでございます。  二十四条の規定との関係でございますけれども、この二十四条は現行法の七百五十八条の規定とほぼ同じことを規定しているわけでありますが、現行法のもとにおきましても、民事訴訟法百八十六条の処分権主義の規定との関係では議論がございますけれども、大体これがかぶってくるというふうに解釈されていると思います。結局そういう意味合いにおきましては、民訴法百八十六条の処分権主義の範囲内で、その趣旨に反しない限度において、裁判所仮処分命令の申し立ての目的を達するために必要な処分をすることができるということ、そういう解釈になるのじゃなかろうか、現行法と同じではなかろうかと思っております。
  51. 冬柴鐵三

    冬柴委員 十三条の二項は、「保全すべき権利又は権利関係及び保全必要性は、疎明しなければならない。」と定めるとともに、三項は「前項の規定による疎明は、保証金の供託又は主張が真実である旨の宣誓をもって、これに代えることができない。」このように定めることとしておりますけれども、これは現行法の七百四十一条二項が、請求または理由を疎明せざるときといえども、保証を立てたるときは仮差押えを命ずることを得と定めていることとか、あるいは民訴法の二百六十七条の二項が、いわゆる宣誓を可としている定めがあるということから見ると、どうも特則を定めたように解釈できるわけですけれども、そう定めることとされた実質的な理由は那辺にあったのか、その点を御説明いただきたいと思います。
  52. 藤井正雄

    藤井(正)政府委員 保全命令は債務者に一定の行為を禁止するなど、不利益を与えるものでございます。そのためには、債権者の側において、保全すべき権利とそれから保全必要性を疎明すべきでありまして、この疎明が全くないのに、担保を立てさせて、それを疎明代用にして保全命令を発令することができるというのは、これは不適切であろうと考えます。現在の通説でもそういうふうに解釈されておりますので、これに従いまして民事訴訟法の七百四十一条二項の規定を実質的に削除しているということでございます。
  53. 冬柴鐵三

    冬柴委員 申し立て本人の弁護士に対する事情陳述書とか、あるいは報告書とか、あるいは弁護士の事情聞き取り書、聴取書、こういうものは、私は疎明方法の典型だと考えておるのですが、それはそう考えていいですか。一言で結構です。
  54. 藤井正雄

    藤井(正)政府委員 さようでございます。
  55. 冬柴鐵三

    冬柴委員 そうしますと、このかくかくしかじかであるという事情を書いて、本人が署名捺印しているという書面と、ここで排斥している宣誓書とは、どうも実質的に内容に変わりがないように思うんですけれども、この陳述書を疎明として認め、そして宣誓書ではだめなんだと、こういうふうにされる理由はどういうところにあるのですか。
  56. 藤井正雄

    藤井(正)政府委員 陳述書は、これのほかに基礎となる疎明方法が何らかのものが存在をする場合にこれを補強するという意味合いのものとして提出されているのが通常でございます。宣誓は基礎となる疎明がなくともこれにかわり得るというのでありますから、機能的には非常に違う、宣誓で代用するというのは余りにも相手に大きな不利益を与えることになるのではなかろうかと思います。
  57. 冬柴鐵三

    冬柴委員 では次に移ります。  十四条二項に、担保を立てる場合において、「供託所に供託することが困難な事由があるときは、裁判所の許可を得て、債権者の住所地又は事務所の所在地その他裁判所が相当と認める地を管轄する地方裁判所の管轄区域内の供託所に供託することができる。」これは、従来の法文になかったものがここに追加されたように私は思うわけでございますけれども、申請人にとっては非常に便利な規定だというふうに理解するわけですけれども、ここに「供託することが困難な事由があるとき」というのはどんな事由を指すのか。  私はむしろ、こんなことを書かなくとも、その次に、裁判所の許可を得て、裁判所が相当と認める地の供託所に供託することができる云々で、十分裁判所の許可ということがかぶっていますから、もうそういうことは書かなくともいいのではないかというふうに思うのですが、その点はいかがですか。
  58. 山崎潮

    ○山崎説明員 手短かに申し上げますが、このような供託をすることが困難な事由があるという場合は、当事者が遠隔地の裁判所に申し立てをする場合に、一応予想される供託金を所持していくわけでございますが、それが思わぬ高額になったという場合に、その残りの分を遠隔地まで取りに帰るということが非常に困難な場合、そうしますと発令がおくれてしまう、そういうような事情がある場合には、裁判所の許可を得て、その住所地で供託をすることができる、こういうことを考えているわけでございます。  それからもう一点の御指摘の点でございますが、これは民事執行法制定前は全国どこの供託所でも供託をすることができるというふうに解釈されておりましたが、やはりこれは債務者側から権利実行する場合の便宜の問題も考えなければいけないということで、双方のバランスをとりまして一定の限定をしたわけでございます。そういう趣旨から、すべての場合に裁判所の裁量でどういう事由であっても構わないとすることは、やはりバランスの問題として問題があろうということから一定の枠をはめたわけでございます。
  59. 冬柴鐵三

    冬柴委員 これはまことに実務的な話なんですが、供託書、これはこのように定められても保全管轄裁判所提出しなければならないことは従来と変わりがないように思うわけですけれども、竿頭一歩を進めて、その点についても何か工夫がなかったのかどうか、その点についていかがでしょうか。
  60. 山崎潮

    ○山崎説明員 ただいま御質問の点は、供託書を裁判所提出しなければならないという点は従来と変わりはございません。やはり裁判所といたしましては、供託がされたか否かをはっきり証明する文書を提示されませんと発令していいかどうかわかりませんので、この点は変わりません。確かに、そうなりますと、自分の住所地で供託をいたしましてもその供託書を遠隔地の裁判所に持っていかなければならないということにはなります。しかしながら、これは現在の状態ではそういうことではございますが、将来通信手段等の発展によりまして、それを一々所持していかなくとも可能になることもあるいは来るかもしれない。そういう時代に備えまして半歩前進した、こういうふうに御理解いただきたいと思います。
  61. 冬柴鐵三

    冬柴委員 では十五条、「保全命令は、急迫の事情があるときに限り、裁判長が発することができる。」これは、保全裁判所が合議体を構成した場合に裁判長だけで命令を発することができる、こういうふうになっているわけですが、民訴法上裁判長が発する裁判というのは命令裁判の形式は命令だと思うのですけれども、この十五条の保全命令というのは、いわゆる裁判の形式としては命令なのか、それとも決定なのか、いずれになるのか。  それで、もしこれが決定であるとすると、民訴のいわゆる命令裁判長の発する裁判命令であるということの何か例外を決めるような感じもするのですけれども、そう理解していいのかどうか、そこら辺いかがでしょうか。
  62. 藤井正雄

    藤井(正)政府委員 十五条の規定によって裁判長が発するのは、裁判長の固有の権限に基づいて裁判をするのではありませんで、裁判所にかわって行うのでありますから、これは決定であると理解をいたしております。現行法で七百六十三条に規定がありますものを形を変えてここに規定いたしておりますが、内容あるいはその性質について変更を加えるものではございません。
  63. 冬柴鐵三

    冬柴委員 では次に、保全命令は形式としてはすべて決定である、こう解釈していいですか。
  64. 藤井正雄

    藤井(正)政府委員 そのとおりであります。
  65. 冬柴鐵三

    冬柴委員 では十六条、「保全命令の申立てについての決定には、理由を付さなければならない。ただし、口頭弁論を経ないで決定をする場合には、理由の要旨を示せば足りる。」このようになっておりますが、仮差押命令にまで理由またはその理由の要旨を、仮差押え理由の要旨になるのでしょうけれども、示さなければならないとされた立法理由はどのようなところにあるのか。そこで言う「理由の要旨」というのはどの程度のことを指すのか。こういう定めがされたことによって仮差押命令自体の体裁が、現行法上で発せられている仮差押命令改正法のもとで発せられる仮差押命令とは体裁が変わるのかどうか。いろいろと聞きましたけれども、これについて法務省と、できれば裁判所からもお考えがあれば示していただきたい、このように思います。
  66. 藤井正雄

    藤井(正)政府委員 理由の要旨と申しますと、これは非常に幅のある概念でございまして、事案内容の軽重に応じましていろいろの態様のものがあろうかと思います。仮差押命令の場合には一般的には密行性がございまして、債務者を審尋することもなく、したがって債務者側の疎明というものも何もない状態で出されるわけでございますから、理由の要旨を詳細に述べる必要性は特にない、極めて簡略でよろしいのではないかと思っております。
  67. 泉徳治

    泉最高裁判所長官代理者 今度の新しい法案でありますと、民事保全に関する裁判手続については大きな改善を加えておるわけでございますが、裁判内容自体については特に変更は加えておりませんで、仮差押命令及び仮処分命令の体裁とかあるいは記載も基本的には現行法と同じであるというふうに考えております。最高裁判所規則をつくります場合にも、これらの仮差押命令及び仮処分命令の主文について、現行法と異なる記載をするような定めを置く考えはございません。
  68. 冬柴鐵三

    冬柴委員 では、反面、大体それで答えが出たのかなと思いますけれども保全審理現行法口頭弁論を経た場合は、当然裁判の形式は判決書というふうになるわけですから、その中には事実及び争点、理由というものが絶対的記載事項になると思うのですけれども、今回の改正法で、口頭弁論を経た場合でもここへ「理由を付さなければならない。」と書いてありますけれども、事実及び争点の摘示をせよとは書いてないんで、それはもう書かないつもりなのか。もしそうするとすれば、なぜ事実や争点を決定の中に書かなくていいのか。     〔委員長退席、逢沢委員長代理着席〕  それからまた、この理由の中に証拠、すなわち疎明ですけれども、それと認定との関係とか、そういうようなものがやはり示されなければならないのかどうか。その点について、これも法務省最高裁にやはりお伺いしなければいけないと思うのですが、順次お願いしたいと思います。
  69. 藤井正雄

    藤井(正)政府委員 改正法ではすべて決定になりますので判決に関する規定を準用することになりますが、この仮差押えあるいは仮処分決定は既判力を伴うわけではございませんので、事実及び争点の記載について必ずしも本案訴訟における判決と同列に論じなければならないことはないであろうと思っております。そのような事柄は保全手続に関する事項としまして最高裁判所の規則にゆだねて、法案では理由についてのみ規定をすることで足りるのではないかと考えているわけであります。
  70. 泉徳治

    泉最高裁判所長官代理者 委員指摘のとおり現行法のもとにおきましては、口頭弁論を経て保全命令の申し立てについて裁判をする場合、具体的に争点を摘示いたしまして、これに対する判断を示しているわけでございますが、新法のもとにおきましても、これらの場合には現在と同様に具体的に争点を摘示し、これに対する判断を示すべきものと考えておりまして、最高裁判所規則をつくります場合にも、争点及びこれに対する判断を摘示すべき旨規定を設ける予定でございます。  なお、事実関係に争いがある事案では、当事者の主張する事実関係が争点となるわけでございますからこれを摘示し、これに対する裁判所の認定判断を示すことになろうかと思います。  それから証拠の点でございますが、一般的な場合でありますと、一件疎明資料によればというような概括的な書き方をすることが多いかと思いますが、特に重要な争点に関しまして対立した証拠があるような場合には、証拠の採否についても裁判書の中で明らかにしておるわけでございますが、新法のもとにおきましても、事実の内容に応じ、証拠の採否に関する判断について従来同様適切な対処がなされるものと考えております。
  71. 冬柴鐵三

    冬柴委員 なるほど。じゃ次に移ります。  改正法二十条では「仮差押命令は、金銭の支払を目的とする債権について、強制執行をすることができなくなるおそれがあるとき、又は強制執行をするのに著しい困難を生ずるおそれがあるときに発することができる。」このように書かれて、二項はちょっと省略しますが、これは現行法の七百三十七条一項が「仮差押ハ金銭ノ債権又ハ金銭ノ債権ニ換フルコトヲ得へキ請求ニ付キ動産又ハ不動産ニ対スル強制執行保全スル為メ之ヲ為スコトヲ得」と定める部分で、重要な点で表現が変わっていると私は思うわけです。二項につきましても、「期限ニ至ラサル請求ニ付テモ亦之ヲ為スコトヲ得」という点と、改正法が「条件付又は期限付である場合においても、」と、こういう点で重要な変更があるように思われるわけですけれども、実質的にこれは変更されているのですか。もしそうであるとするならば、どの点がどう変わるべきなのか、その立法理由もお伺いをしたい、このように思います。
  72. 藤井正雄

    藤井(正)政府委員 現行法の七百三十七条一項に書かれています「金銭ノ債権ニ換フルコトヲ得ヘキ請求」と申しますのは、例えば特定物の給付請求権などのような場合に、これは後日、債務不履行とか契約解除によって損害賠償債権に変わることがあり得る、こういったものを考えているようでございます。  そこで、それではそのような特定物の給付請求権を被保全権利といたしまして仮差押えができるかということになりますと、これは実務上はなかなか問題が出てまいります。担保をどうするとか仮差押解放金をどうするといったような問題がございまして、実務上は、このような場合には条件つきの金銭債権というふうに表示をさせまして仮差押えをするというふうな考え方がとられております。そこで改正法におきましては、この点の実務考え方を採用いたしまして、実質的に変更をしたということでございます。  二項におきましては、現行法では期限未到来の債権についてのみ規定されておりますが、解釈上は条件つき債権も含むというふうに考えられておりますので、先ほどの解釈との関連におきまして明示をいたしました。
  73. 冬柴鐵三

    冬柴委員 次に参ります。  改正法二十五条では、仮差押命令におけるのと同じように仮処分解放金をあらかじめ仮処分命令中に定めることとする新制度を創設したというふうに思うわけですけれども、二十五条に「金銭の支払を受けることをもってその行使の目的を達することができるもの」、このようなものとは一体どういうものを指すのか、その辺どのように考えていられるのか、その点について御説明をいただきたいと思います。
  74. 山崎潮

    ○山崎説明員 お答え申し上げます。  若干現在の経緯からちょっと申し述べたいと思いますが、現在は、解釈上でございますが、民事訴訟法七百五十九条の特別事情による仮処分の取り消し、この事由に当たるときには、七百四十三条を準用して仮差押解放金と同じものができる、こういうふうに解釈しているわけでございます。  この特別事情の要件は何かということでございますが、金銭補償で足りるときということと、または債務者に償うことができない損害を生ずるおそれがあるとき、この二つでございます。特に前半の金銭補償で足りるという要件は、これは特定物の引き渡し請求権でも、最終的に履行不能であればその損害賠償を求めるということで足りるではないかということになりまして、あらゆる権利、本当に命以外は金銭で足りるというような解釈が広がってしまうおそれがございますし、現に仮の地位を定める仮処分というものにも仮処分解放金が付されるようになったわけでございます。こういう事態は相当ではないだろうというふうに我々は考えまして、これを係争物の仮処分の中のその一部に限ろうとしたのが本条の趣旨でございます。大ざっぱに申し上げますと、権利の基礎に金銭の債権がございまして、それを受ければ本来の権利を行使をしたと法律上同等の効果があるものということになります。  例を申し上げますと、例えば所有権留保売買の解除に基づく引き渡し請求権あるいは譲渡担保による引き渡し請求権のような、金銭が基礎にあるものでございます。もう一つは、特別な例外ではございますが、詐害行為取り消し権に基づきます引き渡し請求権等でございます。これは本来その基礎にございますのが金銭の一般債権でございますので、そういう関係からはやはり金銭で支払いを受ければ足りる、こういうものに限定しているわけでございまして、これ以外のもの、類似のものはございますが、例えば不動産を買い受けましてその金銭を支払ったのに登記を受けられない、こういうような場合に処分禁止の仮処分を行いますが、そういうものはやはり不動産を手に入れなければ用は足りないわけでございますので、こういうものについては仮処分解放金を付することはできない、こういうふうに解釈しております。
  75. 冬柴鐵三

    冬柴委員 私は、今示されたその行政解釈が一般的に今後学説の主流をなし、判例の大きな流れとなっていけばもうそれでいいと思うのですけれども、そうでない解釈がもし行われるようなことになれば、どうも非常に危険ではないか。今も言われたように、命ですらやはり賠償請求権に転化し得るわけですから、これはあらゆるものにこういうものをつけることができるという解釈、あらゆるとは言えないにしても、非常に広がりはしないかということを私は心配をするわけでありまして、改正法三十九条に、これは旧法にもあったわけですけれども、特別事情による保全取り消しという制度があって、従来はこれをやりましても、口頭弁論が開かれたためになかなか時間がかかったように思いますけれども、今回のように決定手続でやれるということになれば、今お示しになった要件の審理というのはそう難しいことじゃない。そのように考えまして、この新制度は必要ではなかったのではないかというふうに私は思うわけですけれども、その点に、一言で結構ですからお答えをいただきたいと思います。
  76. 山崎潮

    ○山崎説明員 ただいま御指摘の点、重々わかるところもございますが、現在の実務におきまして、数は多くございませんが、一定のものについてはやはり性質上金銭で足りるものについてあえてその仮処分までやる必要はないというものもございますので、そういうことは広がらないように我々としても鋭意努力したいというふうに存じておりますので、この制度を一応必要なものとして我々としては考えたわけでございます。
  77. 冬柴鐵三

    冬柴委員 では次に移ります。  それで、この解放供託金、積まれた解放供託金が破産法上どのような扱いを受けるのかという点をお伺いしたいわけであります。例えば所有権留保つきの割賦販売による賦払い金を債務者が滞納したという場合に、この売買契約を解除して、あるいは特約により直接売買目的物についての引き渡し断行仮処分を得て引き渡す、執行した、これに対して、所有権留保つき売買というのは、一応売買代金の担保の性格が強いということから、この解放供託金というのを定めることができる典型的事例ではないかと私は思うわけですけれども、その断行仮処分の中に解放供託金が定められていた、こういう例を挙げてみたいわけですけれども、債務者側がその解放供託金を供託をして執行の解除を得た後にその債務者に対して破産宣告があった、こういう事例の場合に、この解放供託金は債権者が取り戻し請求権を行使し得る客体とし得るのか、それとも一般破産財団に組み入れられてしまうのか、その点をどのようにお考えになるのかお示し願いたいと思います。
  78. 山崎潮

    ○山崎説明員 この点につきましては、結論から申し上げますが、仮処分解放金が付された場合でそれが供託された場合でございますが、物がある状態と変わりませんので、優先権を行使することができるということになろうかと思います。  若干理由を申し上げますが、この仮処分解放金につきましては、供託がされましてもその目的物にかわるものという理解をしておりまして、これが供託されたことによって被保全権利自体が変わるとは考えておりません。ですから、本案の訴訟物は何かといいますと、引き渡し請求権ということになるわけでございます。そういう関係から、この解放金が供託されましても仮処分の目的物に執行がされた状態と同じ状態にあるということを考えまして、そういう法律構成をするということが前提になっております。  そこで、この破産法との関係でございますが、破産法七十条によりますと、破産宣告がございますと仮処分は失効するというのが原則でございます。しかしながら、これは解釈上例外がございまして、破産財団に対して取り戻し請求権を行使できるようなものについて仮処分があった場合には失効しないと解釈されております。今先生が御指摘の点は取り戻し権に当たるものというふうに考えられますので、それが金銭にかわりましてもそれは優先権を持ちまして供託所から還付請求を受けられる、こういう構成になろうかと思います。
  79. 冬柴鐵三

    冬柴委員 還付請求でいいのですか。
  80. 山崎潮

    ○山崎説明員 還付で結構でございます。
  81. 冬柴鐵三

    冬柴委員 次に、これは言わずもがなですけれども改正法二十二条に仮差押解放金の定めがありますが、この解放金の供託金は破産法上は当然一般破産財団を構成するものと解して、今お尋ねをした仮処分解放供託金とは全然別異の扱いを受けると解しているのですが、それでよろしいですか。
  82. 山崎潮

    ○山崎説明員 結論はそのとおりでございます。
  83. 冬柴鐵三

    冬柴委員 二十七条関係をお伺いします。  現行法におきましては、仮差押え決定に対する異議はもとよりでありますが、仮処分決定に対する異議の申し立てをしても、その仮の処分として執行停止を求めることは原則としてできないというふうに私は解しているわけでございますが、今回の改正によって要件はなるほど「保全命令の取消しの原因となるべき事情及び保全執行により償うことができない損害を生ずるおそれがある」、このような厳格な要件をつけているわけでありますけれども、一般的に執行停止をこの仮差押え決定にも仮処分決定にも認める、これはかぶってきますから。そういう体裁をとられたのはどういう理由によるのかですね。これはそのような申し立ての乱訴という理由になりませんかどうか、そのような点についてお尋ねをしたいと思います。
  84. 藤井正雄

    藤井(正)政府委員 保全命令に対して異議を申し立てましたときに執行停止ができるかどうかは解釈にゆだねられておりますが、最高裁判所の判例が、仮処分内容が債権者に終局的満足を得せしめ、またはその執行により債務者に回復することができない損害を生じさせるおそれがあるような例外的な場合に限って、民事訴訟法五百十二条を準用して執行停止を認める、こういうふうに申しております。ところが、この要件ではどうも非常にあいまいである、あるいは要件が緩過ぎるという批判がございまして、この要件の再編成をしなきゃならないということが要望されておりました。  そこで、物の考え方といたしまして、緊急の必要に基づいて暫定的処分として行える保全命令についてでありますので、それにさらに執行停止をするということは、一般的に言えば適切でないということになります。したがってこの法案では、そのような性質を考慮いたしまして、執行停止等の要件を明確にすると同時に、非常に厳格にするということを企図したわけでございまして、現行法の中に存在するいろいろな執行停止制度の中では、最も要件が厳しいものになっております。したがって、この要件で考える限り極めて例外的な場合であろうと思いますので、乱用されるというおそれはないのではなかろうかと思っております。
  85. 冬柴鐵三

    冬柴委員 では二十九条の関係に移ります。  保全異議審理でありますが、「裁判所は、口頭弁論又は当事者双方が立ち会うことができる審尋の期日を経なければ、保全異議の申立てについての決定をすることができない。」このように定められています。そうしますと、この保全異議審理につきましては、従来当然口頭弁論を開いて判決手続ということで随分長くなったわけでありますが、今回は、口頭弁論を開いて行うという場合と当事者双方が立ち会うことができる審尋を行うということの二つが定められているように読めるわけですが、一度口頭弁論を開いた後再び審尋手続に戻るというようなことも許されるのか。現行法ではそういうことはできないと思うのですけれども、この条文の読み方としてそういうふうにできるのかどうか。  それからもう一つは、審尋というのは、本来は一方当事者から事件についての主張の釈明を求めるという期日であると私は思っていたわけですけれども、本条とかあるいは改正法の次条の審尋という期日は、どうも証拠調べ期日的性格も付されているように読み取れるわけです。従来我々が講学上使っていた審尋というものと今回定める審尋というものとは差異があるのかどうか、その点についてもお尋ねをしておきたいと思います。     〔逢沢委員長代理退席、委員長着席〕
  86. 藤井正雄

    藤井(正)政府委員 前段についてでありますが、一たん口頭弁論を開いた後であっても、随時審尋手続に戻すことができると考えております。  それから、後段についてでありますが、確かに現行法の百二十五条二項に規定しております審尋は、当事者から事情を聴取して主張を明らかにするという手続でありまして、証拠調べの手続ではないと解されております。しかし、この法案の三十条では、保全異議手続では参考人などもまた当事者も、証拠調べとしての性質を持って審尋をすることができるというふうに規定をしたわけでございますので、確かに民訴の百二十五条に規定する「審訊」とは性格を異にしております。民訴の四百十九条では、抗告審において「利害関係人ヲ審訊スル」という規定がございますが、それに似通っていると思います。
  87. 冬柴鐵三

    冬柴委員 三十条で、「裁判所は、当事者双方が立ち会うことができる審尋の期日において参考人又は当事者本人を審尋することができる。」このように定めていますが、二つのことをお尋ねします。  一つは、呼び出し状を発送するつもりなんですかということです。それからもう一つは、この規定で双方が立ち会うことができる審尋の期日において参考人審尋、こういうふうに書いてありますので、これに対しては当然反対尋問権の保障がされているように私は読んでいるのです。それはそうでなければ大変だと思うのですが、そう読んで間違いがないのかどうか、その点を明確にしていただきたいと思います。
  88. 藤井正雄

    藤井(正)政府委員 保全異議事件におきましても、保全すべき権利及び保全の必要については疎明をもってするということになっております。疎明は即時に取り調べることができる証拠によって行われなければならないわけでございますので、当事者あるいは参考人を取り調べのために呼び出すということは考えておりません。  それから、保全異議審理におきましては、当事者の攻撃防御の方法を提出する機会を保障するために、少なくとも一回は口頭弁論かまたは当事者双方が立ち会うことができる審尋の期日を開くということを要請をいたしております。したがって、一回はそのような形で当事者双方を立ち会わせて行うことになります。さらに、それを超えまして、それ以外に当事者一方のみから事情を聴取するということも可能ではございます。
  89. 冬柴鐵三

    冬柴委員 ちょっとその反対尋問権を保障しているのかどうかが明確じゃなかったように思うのですが、その点、もう一つお願いしたいと思います。
  90. 藤井正雄

    藤井(正)政府委員 当事者手続保障の見地から、当事者双方が立ち会うことができる審尋期日で行うということになるわけでありますから、相手方反対尋問を受けない証拠調べは証拠価値の乏しいものになるわけでありまして、相手方当事者も参考人に対する質問の機会はそこで保障されることになります。
  91. 冬柴鐵三

    冬柴委員 それでは、次に移ります。  この三十条という規定の位置が第三節「保全異議」の中に定められていますから、三十条の参考人審尋ということは保全異議という手続の中でのみ行われるものと私は解するわけでありますけれども、もしこれが何らかの解釈その他で、申請段階における審尋にまでこのような参考人の審尋を許す趣旨なんだというような解釈が出てくると、私はそのような道は開くべきではない、このように思うわけですけれども法案の提案者として、そういうふうな読み方はあり得ないのか、その点についてはっきりしていただきたいと思います。
  92. 藤井正雄

    藤井(正)政府委員 お説のとおりでございまして、参考人の審尋異議段階以降でございます。申し立て段階におきましては第三者審尋は認められません。  ただし、第九条におきまして、「当事者の主張を明瞭にさせる必要があるときは、」「当事者のため事務を処理し、又は補助する者で、裁判所が相当と認めるものに陳述をさせることができる。」これは当事者の主張を整理あるいは補充をするというものでございまして、証拠調べではございませんけれども、心証形成の一助にはなるものであろうと思います。
  93. 冬柴鐵三

    冬柴委員 次に、三十七条でありますが、起訴命令による取り消し、保全命令の取り消しの手続が詳細に定められています。現行法の七百四十六条がこれに相当するわけですけれども、「本案ノ未タ繋属セサルトキハ仮差押裁判所ハ債務者ノ申立ニ因リ口頭弁論ヲ経スシテ相当ニ定ムル期間内ニ訴ヲ起ス可キコトヲ債権者ニ命ス可シ」「此期間ヲ徒過シタル後ハ債務者ノ申立ニ困リ終局判決ヲ以テ仮差押ヲ取消ス可シ」、このような規定がありまして、当然のことながら、起訴命令期間内に訴えは起こさなかったけれども、この二項の口頭弁論終結時点までに訴えを提起した場合には従来は取り消しの対象にならなかったわけですけれども改正法はそのようには読めないように思うわけです。それで、実質的にこれは改正されたのかどうか、もし改正されたとしたらその立法理由はどういうところにあったのか、その点も説明していただきたいと思います。
  94. 藤井正雄

    藤井(正)政府委員 実質的な改正をいたしております。現行法では、御指摘のように口頭弁論終結時までに本案の訴えを提起すれば取り消しを免れた、そういう意味では起訴命令に定められた期間を無意義ならしめるという問題がございました。この法案では、一定の期間内に訴えの提起を証する書面等の提出を命ずることとして、その期間内に書面が提出されないときは取り消しをするという、期間経過後に提出されても取り消しは免れないというふうに解釈をいたしております。
  95. 冬柴鐵三

    冬柴委員 これは弁護士が非常に気をつけなければいけない条文でありまして、大変な改正だと思いますが、それはそれでいいと思います。  次に、三十九条です。「特別の事情による保全取消し」、これは従来からあったわけですが、ここに言う担保というのは、債権者は質権設定の効力を有すると思うわけですが、二十五条で説明されたものと何か径庭があるのかどうか、その点について御説明をいただきたいと思います。
  96. 山崎潮

    ○山崎説明員 二つの面がございますが、先ほど申し上げましたように仮処分解放金は非常に狭い範囲で決めたものでございます。そういう意味から特別事情の方がかなり範囲が広いということになります。ですから、仮処分解放金が定められる事由は特別事情にも当たる。しかしながら、特別事情に当たる事由が必ずしも解放金に当たるわけではない、こういう形になります。  それから御指摘の点でございますが、担保の場合には質権設定の効力があるというように条文に書かれております。またこの仮処分解放金の場合は、詐害行為取り消しという例外を除きましては、先ほど申し上げましたように債権者に還付請求権を持たす、これは優先権でございますから、法律構成は違いますが、いずれも優先的な権利がある、こういうことになります。
  97. 冬柴鐵三

    冬柴委員 次に、現行法の七百四十七条は「裁判所ノ自由ナル意見ヲ以テ定ム可キ保証ヲ立テントノ提供ヲ為シタルトキハ」仮差押えの取り消しが求められるような条文があるわけですけれども改正法では何かこれが消えてしまっているのですが、これはなくしたわけですか。
  98. 藤井正雄

    藤井(正)政府委員 廃止いたしております。
  99. 冬柴鐵三

    冬柴委員 次に、五十三条関係お尋ねします。  登記請求権についての処分禁止仮処分執行は処分禁止の登記をする方法によって行う、こういうことで、従来から行われていることをきちっと明確に定められたというふうに思うわけですけれども、これと不動産登記法の三十三条の仮登記仮処分との関係、違い、これについて、これは従来から学説、きちっと説明されていますけれども、御説明をいただきたいと思います。
  100. 濱崎恭生

    ○濱崎説明員 今回、不動産登記請求権を保全するための処分禁止の仮処分に関する規定を整備いたしましたが、これに伴って不動産登記法三十三条の規定によります仮登記仮処分制度については、特別の手当てをするということはいたしておりません。したがいまして、この二つの制度はそれぞれ目的を異にするものとしてこれまで同様に併存することになるわけであります。  その違いについて簡単に申し上げますと、これは既に委員御案内のところと思いますけれども、処分禁止の仮処分というのは本案の本登記請求権の保全を目的とするものでございまして、その手続はまさに民事保全手続によって行われるものでございます。  これに対しまして仮登記仮処分、これは、仮登記は通常当事者の共同申請または債務者の承諾書を添付してするわけでありますけれども相手方がこれに協力しない場合に、これにかわるものとして仮登記仮処分命令を得ることができるということにされている制度でございまして、この申請は本登記請求権を有する場合に限らず、仮登記請求権を有する場合にもすることができる。それから、この発令に対しては担保を立てるということは考えられておらない、あるいはこれに対する相手方の不服の方法としては別に訴えによってしなければならない、あるいは本登記をする場合には第三者の承諾書等が必要となるということでございまして、そういう違いがございます。
  101. 冬柴鐵三

    冬柴委員 今説明されたことできちっとするわけですけれども、ただ、多くの事案において登記請求権を保全する仮処分、処分禁止の仮処分をなし得る場合に、仮登記仮処分も選択できる、申し立てをすることができる事例が非常に多いわけであります。今説明をされたように、一たん仮登記仮処分がなされてしまいますと、これを取り消すためには本案の確定判決がなければできない。しかもそれは無担保で発せられるという重大な差異が実務上あるわけでありまして、私はむしろ不動産登記法三十三条をなぜここで廃止しなかったのか、そのように考えるわけですけれども、その点について、短い説明で結構ですが、御説明をいただきたいと思います。
  102. 濱崎恭生

    ○濱崎説明員 お答えいたします。  仮登記仮処分制度につきましては、委員指摘のような批判も一部にはあるところでございますけれども、それは制度としてはそれなりに従来使われてきたということでございまして、仮登記につきましては、その仮登記に係る権利を自由に処分することができるとか、その登記をすることができるということになるわけであります。  これに対して、民事保全法上の、今回の法案におきます仮処分につきましては、そういうものとしては位置づけられない、あくまでも処分制限の登記であるという位置づけがされるわけでございます。  そういうことで、従来使われております仮登記仮処分制度をこの際廃止することについては実務に多大な影響を与えるということが考えられます。それから、今回の保全法案の直接の対象でもないというようなことから、この点については改正の対象としなかったわけでございますが、今後の問題としては十分に心にとめておかなければならない御指摘だろうと思っております。
  103. 冬柴鐵三

    冬柴委員 五十三条の二項によってなされた仮登記、例えば抵当権設定仮登記というようなものは、その後に設定された担保権または強制執行に基づいて競売が行われた場合に、通常の仮登記であれば民事執行法五十九条、八十七条、九十一条等に基づきまして被担保債権を供託してこれを職権抹消するという扱いがされるわけでありますが、従来の仮処分では登記は抹消されることなく競落人は仮処分債権者に対抗できない扱いがとられていたと思うわけであります。この改正法による五十三条二項の保全仮登記はいずれの扱いをとることとされるのか、それをお伺いしたいことと、もう一つ、後順位に抵当証券の発行があった場合、この抹消登記手続はどうされるつもりなのか、これは規定を置かなくてもよかったのかどうか、その点についてお尋ねをしたいと思います。
  104. 濱崎恭生

    ○濱崎説明員 まず第一点でございますが、御指摘のとおり一般の仮登記された抵当権等は、強制執行の場合に売却により消滅するとともに、配当を受くべき金額が供託されるということになっております。  これに対しまして、仮処分につきましては、これまでは民事執行法五十九条第三項の規定によりまして、仮処分執行のうち、その売却により消滅する抵当権等に対抗することができないものは効力を失う、一方、これに対抗することができる仮処分執行は効力を失わない、したがって、対抗できないものについては無条件で消滅してしまうということになっていたわけであります。  これは、これまでの処分禁止の仮処分の場合には何が被保全権利であるか、それが担保権であるのか、そうでない一般の所有権等であるのかということが直ちに判明いたしませんので、結局一律に対抗できないものは失効するという取り扱いをされていたわけでありますが、この法案によりまして保全仮登記の制度が新設されることになりますと、その保全仮登記におきまして被保全権利が記載されるという取り扱いになりますので、その被保全権利がその担保権であるかどうかという区分、区別がつくことになるわけでございます。  そこで、担保権に係る保全仮登記につきましては、これまでの仮登記、一般の仮登記と同じ取り扱いをするのが相当であろうということで、この資料の新旧対照表の八ページから十ページにかけて書いてございますが、民事執行法所要規定を設けまして、民事執行法の八十七条第四号の登記がされた先取特権等のその登記の中に、本法案規定によります仮処分による仮登記を含むという手当てをし、同時にその九十一条についても同様の手当てをいたしまして、これまでの抵当権等についての仮登記と同じ取り扱いがされるように配慮しておるわけであります。  それからもう一点でございますが、仮処分としての処分禁止の登記がされた後に抵当証券が発行された場合の問題であります。この法案におきましては委員指摘のとおり、これも、仮処分に係る被保全権利の登記がされる場合には、当該抵当権は抹消されるという取り扱いになるわけでございまして、特別の手当てをいたしておりません。  これは委員御案内と思いますが、抵当証券につきましては、抵当証券法施行細則の二十一条ノ二という規定におきまして担保の十分性を証する書面を添付するということを要件としております。これは、抵当証券を発行する以上は、その当該不動産が抵当証券に係る抵当権を担保するに足りるものであるということを確保するという要請からそういう規定を置いているわけでございまして、御指摘のような仮処分の登記がされた、そういう不動産について考えますと、これは定型的に担保価値を認めることができない、仮処分に係る被保全権利の登記がされますと、その抵当権は吹っ飛んでしまうということになるわけでございますので、定型的に担保価値を認めることができないということで、そういう抵当証券の発行の申請は却下されるべきであるということに考えておりますし、また実務もそのように取り扱っております。したがいまして、そういう仮処分が登記されているような不動産については抵当証券が発行されることはまずないということを踏まえまして、特別の手当てを講じていないということであります。
  105. 冬柴鐵三

    冬柴委員 それは、今の答弁は、仮処分の仮定性といいますか、それからいくとちょっと行き過ぎじゃないかな。一遍仮処分がされると抵当証券は後に発行されないということはどうなのかという感じはするのですけれども、一応そのようにお伺いをしておきまして、実務が混乱しないようにその旨の通達を各管内法務局へ出されるとか、しかるべき措置をされるべきであろうというふうに思います。  次に、六十二条関係お尋ねいたします。  本条は占有移転禁止の仮処分の効力をきちっと明定されたわけですけれども当事者の恒定効というものを定めたものと解釈していますが、保全執行後の承継人、承継人は民事執行法の二十三条一項三号とかあるいは同法二十七条の二項に基づいて承継執行文の付与を受けて執行できる、このように解せられますが、非承継人、こういうものについてはその承継執行文を求める手続はどのようにされるおつもりなのか、その点について御説明をいただきたいと思います。
  106. 藤井正雄

    藤井(正)政府委員 本法案の六十二条一項は民事執行法二十三条一項の特則規定を定めたものでございます。したがいまして、仮処分執行後の占有の承継人のみならず、非承継人につきましてもこの執行力は及ぶ、悪意の非承継人には及ぶことになりますので、債権者は民事執行法二十七条二項の規定によりましてこの法案の六十二条一項の要件、つまり相手方仮処分執行後の占有者であるということを証する文書を提出いたしまして執行文の付与を受けることになります。
  107. 冬柴鐵三

    冬柴委員 六十二条には、「執行がされたことを知って」「占有」という言葉が使われていますけれども、その意味ですけれども、これはいわゆる六十二条一項の執行官の公示ですね、これが破棄、隠匿、こういうような事実があったときでもこの推定は働くのかどうか、その点が実務上非常に大事だと思いますので、お伺いしておきたいと思います。
  108. 藤井正雄

    藤井(正)政府委員 六十二条ではこのような効力を有する仮処分の要件といたしまして、執行官が公示をするということを要求いたしておりまして、この公示があることが執行力を及ぼす根拠になるわけでございます。  そこで、この公示が破棄、隠匿されて実際に占有取得した当時にそれが存在しないということになりますと、その人は仮処分があることを知らないで占有を開始したものであるということになろうかと思います。そこで、執行官がした公示書が破棄された後に目的物を善意で占有した者はこの立証をいたしまして推定を被るということになります。
  109. 冬柴鐵三

    冬柴委員 主観的変更はそれでわかりましたが、客観的変更への対応はどう考えられるのですか。例えば、目的物の同一性を害する程度の増改築を行ったとか目的物を毀滅したとか、そういういろいろな面があると思うのですが、そういうものはどういうふうに対処されるおつもりなんですか。
  110. 藤井正雄

    藤井(正)政府委員 仮処分の目的物に客観的現状変更があった場合のことにつきましては何らこの法案では手当てをいたしておりませんで、現行法の解釈にゆだねているものであります。現行法の今の解釈では、特に現状変更のおそれがある場合には、その旨の不作為命令を別途得て、不作為命令違反を理由として違反物の除去を行うという考え方がとられております。
  111. 冬柴鐵三

    冬柴委員 次に、六十三条の執行文の付与に対する異議の申し立てでありますが、これと民事執行法三十二条の執行文付与に関する異議の申し立てとの関係、それから、その異議があった場合に、異議につき決定があるまでの仮の処分というものはどのように考えられているのか、その点についてお示しいただきたい。
  112. 藤井正雄

    藤井(正)政府委員 民事執行法三十二条の執行文付与に対する異議の申し立てにおいて、主張することができる事由は何であるかということにつきましてはいろいろな見解がございますので、この法案におきましては、執行文の付与に関する異議の申し立てにおいて、債権者に対抗することができる権原により物を占有していること、または善意の非承継人であるということを主張できるということを特に明らかにして、簡易な決定手続でもって救済を受けられるように取り計らっております。したがいまして、この異議の申し立てについて決定があるまでの仮の処分につきましては、御指摘のとおり、民事執行法三十二条二項、三項によることになります。
  113. 冬柴鐵三

    冬柴委員 最後に、保全債権者の本案敗訴の場合の無過失損害賠償義務とか執行費用弁済義務の明定が今回の改正法でも見送られたということは、私にとってはまことに残念であったと思うわけであります。  私見によりますれば、このような場合、少なくとも保全命令に際して債権者が供した担保の範囲において損害があったものとみなし、または推定し、供された担保の還付請求権を行使できるようにすべきではないのか、それ以上の損害がある場合には改めて損害賠償請求訴訟をもってそれ以上のものを求めたらいいのではないか、このように考えるわけであります。債権者優位の原則が働く保全手続において債務者の権利を擁護するためには、その程度は当然であったのではないかと考えるわけでありますが、これについての所見を伺って私の質問を終わりだいと思います。
  114. 藤井正雄

    藤井(正)政府委員 御意見、まことに傾聴すべきものがございますけれども、債権者の立てた担保の額と同額の損害があったものとして債務者に還付請求を認めるということにいたしますと、保全命令の発令に当たりまして適切な担保の額がどれだけかということを算定するためにいろいろ事情を考慮すべきことになりまして、迅速な審理を阻害するのではないか、または慎重を期するために担保の低額化を招かないかというようなおそれも感じられるわけであります。また、債権者が保全命令の申し立てをちゅうちょするというようなことになってもいけないのではないかというようなこともあるわけでございまして、いろいろ考えられるわけでございますけれども、御指摘の点につきましては今後の検討課題にさしていただきたいと思います。
  115. 冬柴鐵三

    冬柴委員 もう一問だけ大臣に。  今回の民事保全法、迅速そして十分な審理ということで冒頭丁寧な御答弁をちょうだいしたわけですけれども、特に労働事件等における賃金の仮払い請求の仮処分等、やはり余り迅速だけじゃなしに慎重な手続をお願いしたいと思うのですが、最後にその所信だけ伺いたいと思います。
  116. 後藤正夫

    ○後藤国務大臣 ただいまの御提言十分念頭に置きまして、新しい時代の変化に対応した本法の運用ができますよう努力いたしたいと思います。
  117. 冬柴鐵三

    冬柴委員 終わります。
  118. 戸塚進也

    戸塚委員長 午後一時に再開することとし、この際、休憩いたします。     午後零時十六分休憩      ────◇─────     午後一時開議
  119. 戸塚進也

    戸塚委員長 休憩前に引き続き会議を開きます。  質疑を続行いたします。稲葉誠一君。
  120. 稲葉誠一

    ○稲葉(誠)委員 民事保全法案についていろいろ質問をしたいわけですが、率直に言いまして、この法案は私もよくわからないのです。  そこで、最初にお聞きしたいのは、民事執行法が施行されるに当たって、明瞭化、適正化、迅速化、こういうことが三つの命題になっていたわけですね。それがどのようにしてその後効果を発揮しているのかどうか、こういう点をまずお聞かせ願いたい、こういうふうに思うわけです。  それから、その次にお聞かせ願いたいのは、保全処分があって本案があって最後に執行になるわけですから、執行の方が先に行ってしまって保全処分が、法の改正が後になってきたその理由というものをお聞かせ願いたい、こういうふうに思います。
  121. 泉徳治

    泉最高裁判所長官代理者 お尋ねのうちの最初民事執行法がその後いかに効果を発揮しているかという点についてお答えいたします。  御承知のとおり、民事執行法手続の明瞭化、迅速化、適正化のためにいろいろな措置をとっていただいたわけでございますが、その効果を発揮していることの一つのあらわれといたしまして、事件数を見てみますと、民事執行法施行前一年前の新受件数と、最近、これは昭和六十二年十月から六十三年九月まででございますけれども、最近の新受件数を比較いたしますと、不動産に対する強制執行事件は二・一三倍、不動産に対する担保物権実行事件は一・四五倍、このように事件が増加いたしております。これは、民事執行法によりまして執行手続が利用しやすい制度になったために、旧法のもとでは申し立てることの少なかった都市銀行等の大手の金融機関の申し立てがふえたことも一つの原因になっているのじゃないか、このように考えております。
  122. 藤井正雄

    藤井(正)政府委員 後段の方についてお答え申し上げたいと思います。  強制執行編の改正作業は、民事訴訟法典のうち判決手続について大正十五年に全面改正がなされました後、断続的に行われてまいったわけでありますが、戦争で中断し、昭和二十九年に法務大臣から強制執行に関する制度改善についての諮問がございまして、それが延々と延びて五十四年に民事執行法改正として実ったわけでありますけれども、その際には保全処分手続のうち保全執行部分だけが民事執行法の中に取り入れられ、保全命令手続の方は後に残されたわけでございまして、これは結局その段階で取りまとめ得る部分を取りまとめて改正にこぎつけたということでありまして特別の理由はない。民事保全命令手続部分が後回しになったのは、要するにその時点では間に合わなかったということでございます。それにつきまして、その後昭和五十八年から審議を行うことといたしまして、今回ようやく法案提出までこぎつけたということでございます。
  123. 稲葉誠一

    ○稲葉(誠)委員 これは民事執行法保全法案を一本にするというわけにはいかないわけですか。
  124. 藤井正雄

    藤井(正)政府委員 保全手続と申しますのは、保全命令を発令する裁判手続とその発令された保全命令執行する執行手続に分かれる。この保全手続の中でやはり訴訟と執行という一つのミクロコスモスを形成しているというふうに考えられます。民事執行法は、判決手続などによって形成された債務名義をもとにいたしまして、それの強制的実現を図る手続でございまして、これは純粋に執行面を分担しているものでございます。  そこで、当初民事執行法が制定されましたときには、保全処分手続のうちの保全執行手続だけが民事執行法に取り入れられた、そういう経緯になったものであろうと思っておるわけでありますけれども、今申し上げましたように保全命令の発令手続というものがあるわけでございますので、これは民事執行法に統一するよりもむしろ民事執行法の中から保全執行部分だけ抜き出して、保全処分に関しまして発令から執行に至るまでの一つの体系をなした法案をつくるのがよろしいのではないか、こう思ってこのような法案に至ったわけでございます。
  125. 稲葉誠一

    ○稲葉(誠)委員 私のお聞きしているのは、それはそれでいいのですけれども、では民事訴訟法全体としての改正の中に一部分として含んで、民事訴訟法全体の改正とすればいいんじゃないですか、こういうことなんです。
  126. 藤井正雄

    藤井(正)政府委員 民事訴訟法全体につきましても、やはり新しい時代に即応して適正にかつ迅速に裁判ができるような訴訟手続を構築するための見直しをする必要がある時期には来ていると思います。しかし、それを待っておりましては、これは大変な期間がかかることになろうかと思います。かつ、現行の民事訴訟法は片仮名の法案でございまして、それは全面改正すれば平仮名になるわけでありますけれども、現行の民事訴訟法の中に取り込むとなりますと片仮名の法案にせざるを得ないわけでございまして、むしろそれよりは民事保全法として単行法で平仮名の新しい体裁の法典を作成することが適当なのではないかと思っております。
  127. 稲葉誠一

    ○稲葉(誠)委員 民事執行法が施行されまして、いろいろな方の御意見などを聞いてみたり、書いたものを読んでみますと、いろいろ問題が出てきている。今言った三つの明瞭化とか迅速化、これはこれでいいのですが、出てきている中の一つに、民法の三百九十五条の短期賃貸借の保護の問題、これが実務のといいますか、いろいろな問題になっておるのだ、こういうことが学者なりあるいは裁判官の中からも言われておるわけですね。私は、短期賃借権の、持っておる人の権利を保護しなければいけない、これはもうそのとおりであって、これを動かすわけにはいかない。ではあるけれどもということで、いろいろな方の意見が出てきます。例えばこの裁判官の方の書いたものの中でも、「短期賃借権の乱用の実態とその対応策」というようなことで、例えば用益を伴わないものは保護を与える必要がないだとか、いろいろ出てきておるわけですね。人によってはこの点を——抵当権者の権利だけを守るというわけにもいかないと私は思うのですよね。これは非常に難しいところだと思うのです。難しいところだと思うのですけれども現実にこの解除はずっと裁判でやっていくということになってくるというと、大変時間がかかるわけですね。だから、短期賃借権の適正なものは保護しなければいけない、これは当たり前のことですけれども、その乱用に当たって何かこう立法的なものを、対策を考えるべきではないかという一部の裁判官の方の御意見もあるわけですよ。  ですから、その点について、現実に今三百九十五条の乱用というのがどういうふうに行われておるかということと、それに対する対策としてはどういうふうにしていくのか、こういうことをお聞かせ願えれば、こう思うわけです。
  128. 泉徳治

    泉最高裁判所長官代理者 民事執行法の理想といたしましては、一般人が競売に参加して不動産の買い受け人となる、そういった姿が一番望ましいわけでございますが、なかなかそこまではまいりません。  私どもは、売却方法の改善で、売却場所における悪質ブローカーの排除でありますとか物件明細書等の備え置きでありますとか裁判所の掲示場における公示などのほか、買い受け人を募集するための公告なども工夫しているところでございますが、なかなか一般人が競売に数多く参加するというわけにはまいらないわけでございます。その最大の理由といたしましては、やはり買い受け不動産の引き渡しが確実になされるという保証がないことにあろうかと思います。  この問題で一番ネックになっておりますのは、ただいま稲葉委員指摘のとおり、短期賃貸借の乱用がなされているからであろうかと思っております。新法施行後、暴力団関係者が不動産の売却から排除された結果、競売物件に入り込み、賃借権を仮装して、占有者がいることで不動産の買い受け希望者があらわれないため困っている差押え債権者に対し、立ち退き料名目のもとで金を要求する、こういう事例もあるやに聞いているわけでございます。そのため、一般人が買い受け人になることを嫌い、また、裁判所は売却に出すに当たってはできるだけ不当な賃借権は賃借権と認定しないようにしているが、その認定までに時間がかかる、こういうことがございます。  私どもは、この乱用的な短期賃貸借を排除するというために種々努力を行っております。このような占有者に対しましては、競売開始決定と同時に現況調査命令を発しまして、差押え登記後、執行官が直ちに現況調査を行う態勢をとることによりまして、差押えの後に第三者が競売物件に入り込んでも、売却に当たってはその者の権利を否定することができるようにいたしております。また、差押え後の占有者であることが疑われます占有者は、積極的に裁判所に呼び出して審尋を行い、そういった占有者を排除するための裁判所の断固たる姿勢を示しております。また、物件明細書の作成に当たりましても、不当な賃借権であるということがわかるように記載するという、そういう心がけをいたしているところでございます。
  129. 藤井正雄

    藤井(正)政府委員 短期賃貸借制度が一部において乱用されていて弊害をもたらしているという指摘があることは、私ども承知をいたしております。そこで、現在、法制審議会の民法部会の財産法小委員会において、借地・借家法の見直しのための審議が行われておりますが、その中で、この短期賃貸借制度の乱用を一定の範囲で防止するための措置としてどのようなものがあり得るかということが検討されております。  改正試案の中では、競売開始決定に係る差押えの効力が生ずる前に貸借人が使用、収益をしていないような賃貸借については保護を与えないとか、あるいは一定範囲を超える借り賃の前払いとか敷金の交付は買い受け人に対抗できないというようなことが提案をされておるわけでありますが、審議の結果を見守りまして、必要があれば適宜の措置をとりたいと思っております。
  130. 稲葉誠一

    ○稲葉(誠)委員 誤解されると困るのですが、私は、短期であっても適正な賃借権者は保護しなきゃならない、こういう前提ですからね。それを忘れないでいただきたい、こういうふうに思います。  そこで、今度のこの法案関連をしてお聞きをしたいのですが、例えば不動産の仮差押えの場合は、ほとんどと言っていいか、まあ一〇〇%決定で事実上やられておるわけですね、仮処分の方は多少その点違うかもわかりませんけれども。  そこで、保証金を立てる場合、手形の場合なんか非常に安いわけですけれども、そのときに、土地の評価などについて評価証明をとりますね。これはなかなか評価証明がとれないわけです。今の法律の中では、一々弁護士会へ行って、何か訴訟に使うんだとかなんとか言って紙をもらって、使用人に対して委任状かなんかつくって、そしてもらいに行くわけですけれども、それはそれとして、その場合に、裁判所などではこの評価を、現実的にその固定資産の評価の何倍かということで時価みたいなものを算定して、その三分の一なら三分の一が保証金だ、こういう形に現実にはしているわけでしょう。ここら辺のところは、実態はどういうふうにしているわけですか。
  131. 泉徳治

    泉最高裁判所長官代理者 今度の保全処分の施行に当たりまして、ただいま御指摘のありました固定資産の評価証明がスムーズに発行されるように、今、自治省と協議しているところでございます。それから私どもは、そういうことで、固定資産評価証明の評価額の何倍かを掛けて時価を算定する、こういったことを今後もやっていく予定でしております。その何倍かというところは、十分把握しておりません。
  132. 稲葉誠一

    ○稲葉(誠)委員 だからその場合に、裁判所が時価と見る見方が、各裁判所によったり裁判官によったりしていろいろ違うわけですね、これはしようがないことだと思うのですけれども。  そこで一つの問題は、不動産仮差押えになると登記簿に載りますね。登記簿に載ったときのその不動産の仮差押えの効力というのはどうもよくわからないのですよ。  質問の趣旨というのはこういう趣旨です。不動産の仮差押えがされて、その旨が登記簿に載りますね。甲に載るわけですね。そうするとその所有権者、だから、仮差押えで言うと債務者になりますね、その債務者が一体その不動産に対して処分権というものがどういうふうに制約をされるのか、あるいはされないのか。あるいはいろいろな議論がそこに出てくるのか、あるいはいろいろな効力に違いが出てくるのか、こういうことなんですよ、問題は。質問意味はおわかりですか、ちょっとくどくどしく申し上げて恐縮ですけれども
  133. 藤井正雄

    藤井(正)政府委員 仮差押えによりまして生じます処分制限の効力は相対効でございますので、その仮差押命令を受けた債務者、つまり所有者は、処分をすること自体は別にできないわけではございません。後にそれが本執行に移ったときに覆滅される可能性を有するということでございます。
  134. 稲葉誠一

    ○稲葉(誠)委員 債権者個別相対効というのと手続相対効というのとあるわけでしょう。これが難しくてわからないのですが、裁判所立場や何かも手続相対効に今移っているというのですか。それに関連をして、法務局では、あなたのおっしゃることだと相対的効力だから所有権の移転も認めるというふうに今言われたのだが、登記を受け付けてはいけないという通達が民事局長から出ているのではありませんか、これは。今の債権者個別相対効というのから手続相対効というのに変わったのですか。これはどういうふうに違うのですか。
  135. 藤井正雄

    藤井(正)政府委員 戦前におきましては差押えの効力につきまして絶対的効力を認めておりました関係上、その後の所有権移転登記は認められなかったということでありますけれども、相対的効力というように考え方が変わりましてからは所有権移転登記は全部受理をされております。  ただいまお話のございました手続相対効、債権者相対効と申しますのは、かねてそのような争いがあったところでございますが、これは相対的効力の中身はいかなるものであるかという点についての考え方の争いでございまして、今度の民事執行法改正によりまして手続相対効をとるようになったと言われているといたしましても、それは決して絶対的効力を認める時代まで戻ったということを意味するものではございません。
  136. 稲葉誠一

    ○稲葉(誠)委員 いや、絶対的効力を認めるということを言っているわけではないのですよ。私の言っているのは、債権者個別相対効から手続相対効に改めたんだ、こう言っておられるわけですね。仮差押え登記後の用益権の扱いについてそういうふうに言っておられる方もいらっしゃるから、だからそれはどういうふうに違うんだろうか。よくわからないのですよ、難しくて。わからないからお聞きしているのです。  それから、仮差押えした後、不動産登記でそれが登記簿に載りますね。載った後は、債務者が所有権移転しますね、その新しい登記は受け付けてはいけないんだということを民事局長が通達か何かで言って、現実には法務局ではそういう扱いになっているんじゃないですか。——いやいや、これはそうなっているはずですよ、よく調べてくださいよ。僕もそこまで法務省の方に質問通告してなかったので申しわけないかもしれませんけれども裁判所の方には通告したつもりだったのです。  この講義みたいなのがありますが、それの中にそこまでは出てないのですけれども、違いがよくわからないのです。それは余りにアカデミックになりますからここではいいのですけれども、結局、新たな所有者が登記を受け付けてくれないと言うのですよ。通達が出ているからだめだと言って受け付けない。これはよく調べてくれませんか。私の聞き間違いなら聞き間違いで後で訂正しますけれども現実にそういうことがあって困ったと言って、僕は、おかしいな、仮差押えになったって処分権が絶対的に制限されるわけじゃないんだし、危険はあるかもわからぬけれども売買できないわけないんだから変だなと言ったら、いや法務局へ行ったら断られた、民事局長から通達が出ていて受け付けないと言われたと言う。そこら辺のところをよく調べておいてくれませんか。そうすると、それは理論的に誤りですか。
  137. 藤井正雄

    藤井(正)政府委員 委員がただいまお示しになられましたような例でございますと、仮差押え後の所有権移転登記を受け付けない理由はないように思います。
  138. 稲葉誠一

    ○稲葉(誠)委員 これは通達も出ているというのですから、あるいは文書か口頭か知りませんけれども、そこら辺のところは事実関係をよく調べておいていただきたい、こう思うのです。  それで、この法案の中で私がよくわかりませんのは、審尋ということですね。現在も審尋というのは行われているのですが、審尋というのはどの程度まで法律的に行われるのだということがきちんと今度の場合でも法律の中で決まっているのですか。あるいはそれは運用に任せているということになるのですか。元来、審尋というのは法律的に言うとどういうことなんですか。口頭弁論とは違うわけですね。立会人も要らないのですか。そんなことはないでしょう。書記官がついて、調書はつくらなくても、ちゃんと話は聞いて調書類似のものはつくっているんじゃないですか。
  139. 藤井正雄

    藤井(正)政府委員 審尋民事訴訟法の百二十五条第二項におきまして「口頭弁論ヲ為ササル場合ニ於テハ裁判所当事者ヲ審訊スルコトヲ得」という規定がございまして、仮差押え仮処分手続におきましてはこの規定にのっとって審尋が行われていると承知をいたしております。ここに言う審尋は、当事者の主張を聞いて主張の内容を明らかにする手続であるというふうに理解をされております。裁判所当事者を面接いたしまして審理をいたしておるのはこの審尋によっておるものであろうかと思います。  ところで、それでは第三者を審尋することができるのかということが一つ問題点でございまして、民事訴訟法では例えば四百十九条でございますとか、また民事執行法の第五条のように「利害関係を有する者その他参考人を審尋することができる。」、こういう規定がある場合には参考人の審尋ができる、したがって、逆にそうでない場合にはできないというふうな解釈が一般であろうかと思います。  今回の改正法案におきましては、保全異議の段階あるいは保全取り消しの手続判決手続から決定手続に改めましたこととの関係上、ここにおきまして第三者審尋を認めるという規定を設けたわけでございまして、そこで言う審尋というのは主張の補充というよりは、むしろ証拠調べの性格を持ってくるものであるということになろうかと思います。
  140. 稲葉誠一

    ○稲葉(誠)委員 私の聞き方がちょっとおかしいかと思うのですけれども、そうすると、審尋というのは一体何なのですか。一つ裁判なのですか。変な聞き方で、全く素人的な聞き方なんですがね。裁判なのか裁判に至るプロセスなのか、あるいはどうなんですか。
  141. 藤井正雄

    藤井(正)政府委員 だれだれを審尋するということを決めますのは、これは裁判所の意思表示でありますので、やはり性質裁判であろうと思います。そこで行われます審尋につきましては、特別どのような手続をとらなければならないというような規制がございません。そういう意味におきましては、証人尋問などと違いましていわば無方式の証拠収集手続であると言うことができるのではないかと思います。
  142. 稲葉誠一

    ○稲葉(誠)委員 この法案は一応離れて、現在行われている審尋では、即座に取り調べることができる者については取り調べることができるというので、実際には第三者でも、審尋と言うのかどうかは別として、結局そこで現実に調べているんではないですか。そこで一番問題になってくるのは検証でしょう。検証してみなければこれは仮処分命令を出せるか出せないか、なかなか判断ができにくいところがあるでしょう。だから検証というのは一体審尋になじむものかなじまないものかということで、ある裁判官は、いや検証としても、これは条文にはないけれどもできるんだという人もおられるし、いやそれはできないんだという人もおられる。どうなんですか、つまり、よくわかりませんが、これはこの法律を離れてならば、現在の法律ならば最高裁かもわかりませんけれども、実際に審尋は即座に取り調べのできる者であればそこへ連れてきていればいいんじゃないんですか。そのときに一番問題になっているのは、今言った検証ができるかできないかということが、今現実に問題になっているんじゃないですか。新法は別として。
  143. 泉徳治

    泉最高裁判所長官代理者 現在でも即時に取り調べることのできる検証でありますとこれは取り調べることが可能でございます。裁判所に何か検証物を持ってきてそれを見るということは可能でございます。  委員が問題にしていらっしゃいますのは、例えば裁判所外に出かけていって検証するということだと思いますが、それはできないというのが建前でございますけれども、私が個人的に知っております限りでは、事実上見るという形でそういった現場に出かけていくということもやられているように承知いたしております。
  144. 稲葉誠一

    ○稲葉(誠)委員 そうすると、今度の法律では、審尋はきちんと書記官もついて調書もつくる、こういうふうなことになるんですか。私は今でもやはり調書をつくっているように思うのですがね。今のやり方と今度の保全法ができた場合のやり方と、審尋法律的な性格が違うのか、具体的なやり方もまた変わってくるのか、そこはどうなんですか。
  145. 藤井正雄

    藤井(正)政府委員 審尋をどのようにしてやるのかということは民事保全手続に関する事項でございまして、この法律案の八条で最高裁判所規則に委任をするということになります。審尋というものが証拠調べの性格を持ってくるということは先ほど申し上げたようなことでございますけれども現行法においてもそのような性格を持った審尋も既にあるわけでございまして、その意味では格別新しいものを取り入れたというふうには考えておりません。
  146. 稲葉誠一

    ○稲葉(誠)委員 そうすると、今でも審尋の場合はちゃんと調書をつくっているのですか。書記官の立ち会いを必要としているのですか。何か法律的には必要としないというようにもとれるし、口頭弁論ならやらなければいけないけれども審尋の場合はやらなくてもいいようなことも言われているらしい。しかし現実には調書をとっておるのじゃないですか。
  147. 泉徳治

    泉最高裁判所長官代理者 現在行われております審尋といいますものは、口頭弁論のように当事者双方を村席、関与させるという行動をとらずに、当事者その他の者の利害関係者に書面または口頭による陳述の機会を与えるという手続でございます。  保全命令の申し立てがございますと、ほとんどの裁判所で申立人と面接をするということを行っておりますが、この面接の法的な性格といたしましては審尋でございます。そういった場合には調書というものはつくっておらないわけでございます。それ以外の、審尋期日というものを改めて設定いたしまして取り調べる場合にも、私の承知している限りでは調書はつくらないで、そこで述べられました関係人の陳述というものを当事者の方が書面にされまして、それを疎明資料としてお出しになる、こういう手続が行われているというふうに承知いたしております。
  148. 稲葉誠一

    ○稲葉(誠)委員 実際はこういうことが行われておるのではないですか。例えば調停なら調停を申し立てる、第一回の調停までに日にちがかかりますね。ですから仮処分申請をするわけですよ。申請してそして審尋に持っていくわけです。審尋で両方出てくるでしょう、そこで和解を勧めて、和解で成立させた方が当事者にとっては非常に早く事件が済むわけだ。そういうふうな形の運用が相当行われておって、審尋という名前ではあるけれども、そこで和解が勧告されるという例が相当多いように私は聞いておるのですが、そこはどうでしょうか。
  149. 泉徳治

    泉最高裁判所長官代理者 稲葉委員指摘のとおりでございます。
  150. 稲葉誠一

    ○稲葉(誠)委員 それは調停が和解、即決和解はこのごろいろいろな弊害があるというのでやかましくなってまいりましたけれども、調停をやると第一回まで大体一月近くかかりますね、ですから仮処分制度を活用して——活用ですよ、活用してそこで和解に持っていってしまう、そうすると早く解決がつくのです。そういうのが実際には行われておる。それは生活の知恵だと私は思っておるのです。  そこで、いろいろわからないことが出てくるのですが、労働事件の場合には、ドイツなどでは労働裁判所みたいなものをつくって、そこであらゆる事件がやれるようにできているのだということを言われる方もいらっしゃるのですね。日本の場合には労働紛争解決のための手続法が全く存在せず、これは地労委があるのだから必ずしもそうでもないように思いますが、だから、そのための立法的努力への気配すら感じられないのが現状であるため、やむなく仮処分制度を利用し、その中で決めるという形が日本の場合あるわけです。ドイツや何かでは労働関係事件というのは、まとめて一つの労働裁判所みたいなものをつくってそこの中でやるという制度があるやに聞いておるのですけれども、これは現状はどういうふうになっておるのでしょうか。
  151. 藤井正雄

    藤井(正)政府委員 西ドイツにおきましては、労働裁判所法がございまして労働裁判所が存在をいたしておりますが、ここにおける手続につきましては、仮差押え仮処分を含む強制執行については、ドイツの民事訴訟法第八編の規定を準用するということでございまして、仮処分につきまして、特に労働事件に関する特別な規定というものはないようでございます。
  152. 稲葉誠一

    ○稲葉(誠)委員 今後検討すべき課題というのが各学者だとかいろいろな方からいろいろな意見が出てきているわけですよね。  そこで、例えばここにあるのですけれども、不動産登記法上の仮登記仮処分と今度の法案が構想しておる仮処分に基づく仮登記の関係というのは、これはもう解決したのですか、しないのですか。どういうことになっているのですか。これは東京大学の青山教授が、そういう点を今後の検討課題として述べておられるのですけれども、今言ったものは解決したのですか、しないのですか。
  153. 藤井正雄

    藤井(正)政府委員 仮登記仮処分制度をどうするかというのは一つ問題点ではあったわけですけれども、この点につきましては何も手当てをしていない。したがって、今後とも仮登記仮処分制度は残ることになります。これはやはり機能的に違いがある。仮登記仮処分制度につきましては、これを存続することについての要請もあるわけでございまして、直ちに廃止するわけにはいかないと思っております。  処分禁止の仮処分におきましては、これは本登記の請求権を保全するための処分禁止の仮処分につきまして、それが所有権以外の権利である場合には保全仮登記がなされるし、所有権に関する場合には処分禁止の登記のみがなされるということになるわけでありますが、仮登記請求権につきましては仮登記仮処分制度を利用するほかはないわけでございまして、これは依然として需要がある。それでその仕組みにおきましても、一方は担保を供して仮処分がなされる、一方は担保は要しないという制度である。それでその仮処分なり仮登記がなされた後の第三者があらわれた場合に、その第三者の登記を消す、抹消の仕方につきましても差異があるという点がございまして、この両制度は今後とも存続するということになっております。
  154. 稲葉誠一

    ○稲葉(誠)委員 仮登記仮処分というのは一体どういうものなんですか、変な聞き方をしますけれども。  ある裁判官に会って話したら、私は仮登記仮処分という制度には反対だ、これは法律上認められない制度なんだということを言われた方もいらっしゃるのですよ、これは。今の話を聞いていると、需要があるから認めるという話ですけれども、どうもよくわからない。不動産登記法上の仮登記仮処分というのは一体何なのか、どういう需要があるのか。これは非常に難しいところだと思うのですがね。これは違法だとは言わぬけれども、どうも問題点があっておかしいのだ、私はこれはやらない主義だということを言われる方もいらっしゃるのですよ、名前は知りませんけれども。そういう方もいらっしゃるものですから、不動産登記法上の仮登記仮処分というのは何なのか、どういう需要があるのか。どういう欠点があるのか、問題点があるのか、これははっきりしないといけないんじゃないか、こう思うのです。私はわからないから聞いているんで、本当にわからないですよ。
  155. 濱崎恭生

    ○濱崎説明員 仮登記につきましては、本登記をする条件が整っていない、あるいは登記請求権を保全するという観点から認められている制度でありますが、これは本来不動産登記法の建前といたしましては共同申請でやるか、あるいは相手方の承諾書を添付してするかということになっている。基本は共同申請という構造になっているわけですが、相手方がそれに協力しないという場合に、仮登記をすべき法律関係にあるのにそれをしないという場合に、その権利者としては手をこまねいているしかないというのでは適当ではないだろうということで、裁判所の審査を経て仮登記仮処分というものを命ずる。そうすることによって仮登記を実現することができるということになっているわけでございます。  これは先ほど民事局長からも御答弁しましたように、担保を立てるということになっておらない。それから、一たん仮処分によって仮登記がされますと、それを抹消するには、相手方としては、その抹消の本訴を提起して、その勝訴判決に基づいてしなければならないということになっている点から、御指摘のようないろんな御意見がございます。それと、仮処分という制度が認められているのであるから、これは必要でないのではないかという意見もあることは承知しております。  ただ、先ほど局長から答弁申し上げましたように、現在までそういう制度として運用されてきているということと、今回の法案は、要するに仮処分制度の改善ということに主眼を置きましたので、不動産登記法上の仮登記仮処分制度をどうするか、もちろん関連性を有する問題でございますけれども、必然的に関係を持ってくるということでもないということで、今回は手をつけないということにしたわけでございます。  そういう、片や仮処分の方法について今回整備されるという状況を踏まえて、それから仮登記仮処分制度には今申しましたような問題点があるということを踏まえて、その仮登記仮処分の申し立てがあった場合の裁判所審理を、どの程度厳格に疎明を要求して行うかということは、これは裁判所運用に係る問題でございますけれども、それが厳格に運用されるという限りにおいては、それなりに利用され得る一つの有効な法的手段であるという考え方もまた有力でございますので、今回は手当てをしないということにしたわけでございます。  委員指摘の問題については、これから私ども心にとめ置きまして、今後の検討課題として考えておくべき問題であろうと考えております。
  156. 稲葉誠一

    ○稲葉(誠)委員 今のお話で、不動産登記法上の仮登記仮処分というのは、法律的な根拠はどこにあるのですか。それと、保証金が要らないというのはどこにあるのですか。
  157. 濱崎恭生

    ○濱崎説明員 不動産登記法三十二条におきまして「仮登記ハ申請書ニ仮登記義務者ノ承諾書又ハ仮処分命令ノ正本ヲ添附シテ仮登記権利者ヨリ」申請することができるという規定がございまして、それを受けて三十三条におきまして、その仮処分命令発令の手続規定されております。この三十三条の規定におきまして担保を出させるということを規定しておりませんので、担保を付して発令するという運用をすることはできないという解釈になっているわけでございます。
  158. 稲葉誠一

    ○稲葉(誠)委員 その三十二条の仮処分というのは、今言う不動産登記法上の仮登記仮処分だけを言っておるわけですか。普通の仮処分も含むという意味なんですか。あるいは、担保を立てるという保証がここに書いてないというのは具体的に言ってどういう意味なんですか。それは、そこまで法律は予想していなかったのですか。どうも私にはよくわからないのですが。
  159. 濱崎恭生

    ○濱崎説明員 不動産登記法三十二条の仮処分命令というのは、その次の三十三条で予定されております仮処分命令のみを言っているわけでございまして、民事保全手続における仮処分というものは含んでおりません。  それから、担保の件でございますけれども、この制度は、先ほど申しましたように、本来相手方の協力を得てあるいは相手方の承諾書を得てすべきものであるけれども、その協力は得られない、しかしながら、裁判所が非訟事件手続に基づいて審査をして、その仮登記の原因があるということを認定することができる場合に、その相手方の協力がなくても仮登記をさせるという特殊の手続として定められたものでございます。その場合に担保を供するという考え方はとらなかったということであろうと存じます。
  160. 稲葉誠一

    ○稲葉(誠)委員 今度の民事保全法で一番問題になってくるのは、いろいろ問題があろうと思うのですけれども、青山教授の言われておるのは  仮差押えの効力の相対性、保全処分強制執行・滞納処分との競合、処分禁止・占有移転禁止以外の種々の仮処分の要件・効力等に関する規定の新設について新たに大幅な検討を求めることは、恐らくこれまでの法制審議会審議の流れを無視することにもなり、早期の立法化の要請にも反するであろう。 というのが、ジュリストのナンバー八百七十九、一九八七年三月一日号の「保全処分制度改正方向」というのに、青山教授が今後の検討課題として書いておられることですね。  そうすると、今言われたことについては、これは具体的に今度の法案の中でどういうふうになっているのですか。入っていないのですか、あるいは入っているものもある、あるいはこういう論議があったけれどもこういう結果で入らなかったのかとか、いろいろあると思うのですね。これはどういうことなんですか。
  161. 山崎潮

    ○山崎説明員 お答え申し上げます。  私の方が長年法制審議会を担当しておりましたので、その経緯を承知しているわけでございます。  今御指摘の点は、例えば部分的に取り入れたものもございます。  それは、処分禁止の仮処分強制執行、滞納処分との関係については規定を設けました。具体的には法案の附則をごらんいただきたいのですが、第三条に民事執行法の一部改正がございます。その中で八十七条第一項四号の規定を変更しております。それから、九十一条もそうでございます。これは新設されました保全仮登記というものがあるわけでございますが、これは例えば担保権設定請求権に基づくような場合に用いるわけでございます。そういうものにつきましては、現在は処分禁止の仮処分ということで被保全権利が登記に記載されません。そこで、どういう権利であるかということがわかりませんので、別の抵当権が最先順位にありまして、その次に処分禁止の仮処分が来た場合には効力を対抗できないということで、民事執行法五十九条三項で抹消をされるという扱いがされているわけでございますが、今回の法案では保全仮登記というものを使います。そういうものにつきましては被保全権利が何であるかということがわかります。そういうものについては、抹消はいたしますが、その担保物権の価格に相当する分は供託をしてその調整を図るという変更を加えてございます。同じことは、附則の十七条に国税徴収法の一部改正という点がございます。この中でも、滞納処分に関しましては民事執行法と同じ扱いをする、こういう点で調整を図ったわけでございます。  それ以外の点につきましては、審議経過からいろいろな事項を取り上げますと、今回の法案以外にもかなりの問題がいろいろございます。そういう点全部についてやっていますとあと五年、十年かかるという話で、余り多くないものについては規定を設けないという趣旨でございます。  そのほか、処分禁止の仮処分につきましては、不動産登記のものとか、典型的に利用頻度が高いものにつきましては規定を設けました。それ以外のものにつきましては、それほど利用頻度も多くないということでございますし、また実務上でそれほどの問題もないということから今回の改正を見送った、こういう経緯でございます。
  162. 稲葉誠一

    ○稲葉(誠)委員 これは不動産登記法に加えらるべき改正内容については検討が十分ではないというふうにおっしゃっておられるわけですね、この教授は。  そうすると、問題として考えられるのは、これは施行が二年後ですか、施行期日は「公布の日から起算して二年を超えない範囲内において政令で定める日から施行するものとする」「この法律の制定に伴う民事訴訟法及び民事執行法の一部改正関係法律の整備をするものとすること(附則第二条から第四十一条まで関係)。」こういうふうになっているわけですが、この二年間という相当長い期間を見ているのはどういうわけなんですか。それで、その二年間の中で一体何と何をどういうふうに整備しようとされておられるのですか。その中に不動産登記法というものについても加えられるべきものがあるならば、当然改正内容としてそれが入ってくるということなんですか。いやそれは別の法律なんだからこれはもう関係ない、こういうことなのか、そこら辺のところがどうもよくわからないのでお答えを願いたい、こういうふうに思うわけです。
  163. 山崎潮

    ○山崎説明員 確かに、青山教授の御指摘は二年以上前のことでございまして、その当時におきましては、私どもの局では不動産登記法の改正をやっておりました。そういう問題もありまして、この処分禁止の仮処分と登記とどういうふうにつながるかという詰めが十分でなかったということはそのとおりでございます。その後鋭意努力いたしまして、この法案に関しましてはそこのところを十分詰めまして、附則の第七条におきまして、民事保全法の本体の処分禁止の仮処分の効力を受けて、不動産登記法でどのように扱うかということを全部定めてございます。こういう意味におきまして、現時点におきましてはこれは十分もう検討を加えたということになります。  それから、委員指摘の点でございますが、どうして二年間かということでございます。これは、今回の発想は、この法案では不動産登記部分に限って改正を加えているわけでございますが、それ以外に登記、登録を要するものというのはたくさんございます。そういうものにつきましては大部分が政令で定まっているものでございまして、その政令で定まっている部分につきましても、この民事保全法と同じ発想でいろいろ改正をしていくということを考えております。これがかなりございます。こういう関係の政令を、整理政令というものをかなり出さざるを得ないという点が第一点でございます。それの周知徹底ということでございます。  もう一点は、この法案に伴いまして最高裁判所規則がつくられることになりますが、これの検討時間、それと周知徹底方ということを考えまして、二年という期間を設けたわけでございます。
  164. 稲葉誠一

    ○稲葉(誠)委員 この法案の四十九ページに「不動産登記法の一部改正に伴う経過措置」第八条というのがありますね。これはどういう意味なのですか。今あなたが言われたこととは違うことなのですか。それとも、不動産登記法の改正は——今言われたように一九八七年三月一日号ですから、前ですから、その間経過をした。そこで不動産登記法の改正が一部ありましたよね。あったから、不動産登記法の改正についてはこれで終わりだということなのですか、あるいはまだ問題点が残っているから今後もなお検討しなければならない問題があるんだ、こういう意味なのですか。
  165. 山崎潮

    ○山崎説明員 後の問題からちょっとお答えいたしますが、処分禁止の仮処分に伴う不動産登記法の改正の問題はこれですべてできているというふうに理解しております。ただ、先生が先ほど御指摘の仮登記仮処分、こういうものはまた別問題でございますが、そういうことでございます。  それから、この八条の経過措置は、実はちょっとややこしい実務上の問題でございますが、処分禁止の仮処分を行いまして、本案で勝訴判決をなして、それで自分が本登記をしたという場合でございますが、その場合に仮処分登記がそのまま残ってしまうわけでございます。これは債権者が裁判所に行きまして、裁判所から嘱託をしてもらって抹消をするということが現在行われているわけでございます。ところが、これを忘れてしまうということがございまして、登記上非常にいろいろな問題が起こってくるということでございます。  そこで、今回の不動産登記法では、仮処分の効力を利用して第三者の登記を抹消したとか、そういうことが登記官に明らかなような場合には、職権で抹消することができるという規定を設けるわけでございますが、この点につきましては、この法案の施行前の事件でございましても、これは同じように考えても弊害はないということでございますので、こういう点を置いたわけでございます。
  166. 稲葉誠一

    ○稲葉(誠)委員 この労働仮処分の場合、これは今までは口頭弁論が開かれてやっている場合がどの程度あるか、いろいろありますね。ある人の調査では、これはちょっと古いのですけれども、「法律のひろば」四十巻六号だからそんなに古くないわけかな。大阪では最低で一三・二%、東京地裁は約二倍で二五・三%、名古屋は約三倍の三四・六%労働事件仮処分では口頭弁論が開かれておる。判決で終局した割合は、大阪が六・一%、東京が一〇・三%、名古屋が一一・五%。それから平均審理期間、大阪では二百十二日、東京では三百三日、名古屋では四百日となっておる。まあいろいろあるわけですが、そうすると、今度の民事保全法の中では労働仮処分というのはどういうふうになるのですか。口頭弁論を全然開かないことなのですか、場合によっては開くということなのですか。あるいはそれに準ずる手続か何かを特に考えるとか、そういう点は一体どういうふうになっておるのですか。
  167. 藤井正雄

    藤井(正)政府委員 今度の法案におきましては、審理の方式として書面による審理審尋でもって審理を行う場合と任意的口頭弁論を開いて審理を行う場合と、そのいずれでも選択をできる、そしてそのいずれの方式をとった場合でも裁判の形式としては決定で行うというのが改正法でございます。  それで、御指摘労働仮処分というような事件は、一般的に労使間の利害が鋭く対立して複雑困難なケースが多いと思われますが、そのようなものにつきましては、単純に書面審理というわけにはいかないでありましょうから、審尋手続を用いるということもありましょうし、あるいは、さらに任意的口頭弁論によりまして証人尋問まで行って審理をするということもあろうかと思います。要は、その事件に応じまして、個々の具体的な事件に適した手続裁判所の方で選択をして、迅速にかつ適正な審理を行うということになっていくのであろうと思っております。
  168. 稲葉誠一

    ○稲葉(誠)委員 きょうの質問は、時間が来ましたので、これで終わります。
  169. 戸塚進也

    戸塚委員長 滝沢幸助君。
  170. 滝沢幸助

    ○滝沢委員 委員長御苦労さま。大臣初め政府委員の皆さん、御苦労さまです。  いつでしたか、私は中曽根総理大臣に質問したことがあります。そのとき、答弁の中に引用された言葉が非理法権(ごん)天、こうおっしゃる。私は、それは非理法権(けん)天でしょう、こう申し上げたわけであります。非は理に勝つことあたわず、これはそのとおりであります。大事なところは、理は法に勝つことあたわず。このときの法は、仏法とか天地の理法などというときの法ではなくて、多分法律制度のようなものではないかな、私はこう思うものでありますから、その法といえども権力の前にはたちまち変わるということにおいては、これは権(けん)であって権(ごん)ではありません。権(けん)は権力、権勢、権(ごん)となれば副、次の者、権僧正、権大納言。昔は県庁などにも権書記というのがおりまして、書記に本採用ならざる者を権書記と言ったわけでありますから、そういう点では非理法権(ごん)天というのは中曽根総理のお間違いで、非理法権(けん)天。しかし、その権(けん)といえども、天に勝つことあたわず。  今日の政府、皆さんは権力を持っていらっしゃって、その権力たるや自民党三百人の議会勢力に保護されて、まさに権力は法を改正することができる。しかし、今日の政府ないしは多数自民党の権力といえども、天の前には、神の前には、歴史の前には甚だ無力なものであるという謙虚なる気持ちがない権力は恐るべきものであろう、私はこういうふうに思うわけであります。  つまらぬことを申し上げたようでありますが、私は、この法律案をいただきまして、随分とたくさんの弁護士先生方に意見をお伺いしました。それで、法文の行間の活字の間の文言はいかあれ、問題は、まことに今日の法治国家の国民というものは悲しいものでありまして、これは一般論であります、きのうまで是とされたものがきょうは非となる。これがきのうであったならばなということがあるならば、これはまことに法というものが権力によって改変せられ、いわゆる天意を無視するものになりかねないという気持ちであります。  それで、随分と多くの学者さん、特に弁護士さん等が、これは何も今改正せずとも大体差し支えなく行われているのだけれども、なぜ今、私はこういう言葉は嫌いなんですよ、なぜ今何々なのかということがはやりますが。私は、この言葉は好きではないのです。好きではないが、言うなれば、なぜ今民事保全法改正なのか、こういうことが多うございました。それで、私が先ほど申し上げました基本精神は、法というものはなるべく手を加えない方がよろしい、昨日非なるものはきょうも非、去年是なるものはことしも是ということの方が法治国家の国民としてはあきらめがつく。これが去年であったならばというようなことはいけない。なるべく法というものは手を加えない方がよろしい、私はこういう原則に立っておるわけであります。  大臣、今回のことは、審理手続をすべて決定手続に改めるというようなものが仮処分の効力等についての規定というようなことでありますが、これが今日改正の発議をされるに至るおおよその経過と趣旨といいますか、これを改めて端的におっしゃってちょうだいすればありがたいと存じます。
  171. 後藤正夫

    ○後藤国務大臣 お答えいたします。  ただいま滝沢委員の御主張になりましたように、法律というのはそう簡単にやすやすと変えていくものであってはならない、特に朝令暮改のようなことは絶対にしてはならないものだというふうに思います。しかしながら、今回御審議をお願いしております現行の民事保全制度というのは、明治二十三年につくられましてから約百年間改正されないまま今日に至っております。その間に社会経済情勢の変化は極めて激しいものがありまして、多様化、複雑化した民事紛争に適切に対応することができないという事態が発生をいたしております。  民事保全制度は、特に迅速に権利の保全を行うことが制度の趣旨でありますが、この裁判においてすら長期間を要するものがございまして、これでは国民の信頼を得られなくなることは明らかであると思います。民事保全審理が長引く最大の原因は、本裁判と同じ判決手続という厳格な手続原則的に採用していることにあると考えられます。そこで、今回の法律案におきましては、事案に応じて柔軟に対応することができる決定手続を全面的に採用することによりまして、充実した審理を迅速に行えるものとしようといたすものでございます。  また、現行法には仮処分の効力に関する規定はありませんで、そのためにすべて解釈に基づく実務運用により処理されているというのが現状でありますが、解釈にはおのずから限界があります。そのために、権利の保全が十分に図られないといったような問題があると思います。そこで、現行の運用をより適切なものとするために、利用頻度の高い仮処分につきまして明文でその効力を定めようとしたものが今回の改正法案でございます。  このような改正を行うことによりまして、民事保全制度が国民の信頼を得られるようになるものと我々は確信をいたしている次第でございます。
  172. 滝沢幸助

    ○滝沢委員 さて、具体的なことでありますが、第一条を拝見しますると、この法律の規律しまする対象というものは民事保全の概念をもってしているわけでありますが、しかしこのことは範囲がどこまで及ぶのでありましょうか。家事審判におきましても保全処分ということが出てまいりますが、ここまでいきますものかどうか。これは技術的なことでありましょう。
  173. 藤井正雄

    藤井(正)政府委員 この法案の対象であります民事保全というのは、仮差押え仮処分のことを言っておるわけでありますが、これを教科書などでは保全処分というふうに呼ぶことがよくあるわけですけれども法律の文言の上では、今委員から御指摘のありましたように家事審判法の中に保全処分という言葉が使われている。あるいは破産法とか会社更生法の中にもそのような言葉が使われております。これらの手続は別に本案の裁判というものを予定しているわけでもございませんし、そういった本案請求権があるというわけでもない、そのような点において性格の異なるものでございます。  そこで、この法律案におきましては、そのような特殊な保全処分は除きまして、本案の権利を保全するために行われる仮差押え仮処分を対象とするというふうに限定をいたしました。そこで、言葉といたしましても保全処分という言葉を使わないで民事保全という総称的な名称を使ったわけであります。
  174. 滝沢幸助

    ○滝沢委員 保全命令に関しまする審理決定手続というものでするということは、裁判等の面でいかなる利点といいますか、プラス面が具体的にあるものでしょうか。
  175. 藤井正雄

    藤井(正)政府委員 判決手続決定手続との違いでございますけれども判決手続における審理は法廷で口頭弁論を開いて行う、必ず口頭弁論を開いて、当事者双方にすべて立ち会いの機会を与えて、厳格な手続でもって行わなければならないということになっております。これに引きかえ決定手続では、必要があれば口頭弁論を開いてもよろしいけれども、その必要がなければ法廷外で審尋という簡易な手続をとってもいいし、それもやらなくて書面による審理だけでもいい、いずれでも自由に選択ができるということでありまして、その事件の個性に応じて適正な方法を、妥当な方法を選びまして事件を迅速に処理することが可能になるということでございます。  現行の法律のもとでは、決定手続でもできるけれども、一たん口頭弁論を開いたならば必ず判決手続によらなければならないという定めになっておりまして、判決手続でもって処理をしている事件につきましては審理期間が非常に長くかかって、その事件の暫定的性格に沿わないような結果を生じているわけでありまして、そのような実態を踏まえまして、事件処理の迅速化を図るためにこのような手続を採用したわけであります。
  176. 滝沢幸助

    ○滝沢委員 口頭弁論を開かずして、ないしは審尋もいたさずして書面だけでもよろしいということは、いわゆるスピード化というものが要求される面においてはそのとおりであります。そして、妥当な、また適正なとおっしゃいましたが、妥当、適正というものを求めるために今まではそうした手続要求していたわけであります。妥当、適正というのは、二つの利害が対立してしまったりするときはそれぞれ違ってきます。裁判は申すまでもなく一切のことが慎重に、しかも過ちなく行われなければならないということがありまするから、これはスピード化ということと矛盾する、相反する概念になります。迅速に行われて、かつ、おっしゃるように適正、妥当であれば一番これは間違いないわけでありますが、これは神様だってなかなかできぬことでありますが、そこら辺のところが、今までこの法が改正せざるがゆえをもって随分と迷惑がかかっているということは、具体的にどういうようなことがどの程度あるのでしょうね。  ある弁護士さんもおっしゃいました。今までもこの法のもとに適正、妥当に行われていささかも支障がなかったのに、これは機械なんかと違って法律は古くなったからいかぬというものじゃありませんで、どうして今そういうことをするのですかとおっしゃいましたが、この点は重ねていかがなものですか。
  177. 藤井正雄

    藤井(正)政府委員 仮差押え仮処分は、将来本案の判決を得て執行するときにその権利が実現できないようでは困るのでありますので、あらかじめ債務者の財産を仮に差し押さえておくなり、その財産について処分がなされないように制限をかけておくという性質のものでございまして、多くの場合このような動きを相手に察知されないように事を進める必要がある。これを密行性と申しておりますけれども、密行性を要する場合が相当多いわけでございます。そのような場合には債務者に通知をすることなく、債権者側だけの事情を聞いて仮差押命令あるいは仮処分命令を発するわけでございます。また場合によっては、密行性よりもむしろ事案の適正な解決のためには債務者側の事情も聞いて適正な裁判をすべきであるというケースもございます。その事案事案に応じてそれに通した審理方式を採用すべきではなかろうかと思います。  今一番問題になっておりますのは、口頭弁論を開いて裁判をしなければならないというときにどれだけの期間がかかっているかということでございますけれども、過去十年間の事件で見てみました場合に、二年間を超える期間を要したものが三〇%もあるというような状況になっております。これは、仮差押え仮処分手続の性格に照らしてみますと異常に長い審理期間ではなかろうか、このような状態は何とか是正をする必要があるのではないかと思っております。
  178. 滝沢幸助

    ○滝沢委員 不動産の登記請求権を保全するために、処分禁止の仮処分については新たに保全仮登記、こういう制度を設けるとしております。この保全仮登記というものはどういうものでしょう。
  179. 藤井正雄

    藤井(正)政府委員 不動産について物権を取得した者は登記を備えなければなりませんが、その登記を請求する権利の場合にも、所有権の移転登記を請求する場合と、例えば抵当権の設定登記を請求する場合とで違いがあろうと思います。  所有権の移転登記を請求する権利を保全するために処分禁止の仮処分をいたしました場合には、その仮処分に違反してその後になされた処分行為は全部否定してしまってよろしい、否定しなければならないわけでありまして、仮処分後になされた登記は全部抹消されればよろしいわけであります。しかしながら、抵当権設定登記請求権を保全するためになされた処分禁止の仮処分の場合には、その抵当権の設定の登記よりも後になされたいろいろな登記というものは何も抹消してしまう必要はないわけでありまして、抵当権が本来なさるべき順位でもって登記されれば足りるわけであります。その今申し上げました抵当権の順位を保全するための方法として、保全仮登記という手法を新たに不動産登記法に取り入れたわけでございます。
  180. 滝沢幸助

    ○滝沢委員 なかなか難しいことでありますが、今の制度現行法にはありませんところの占有移転禁止の仮処分等に関しまして新たな規定が入っている、この趣旨はいかがですか。
  181. 藤井正雄

    藤井(正)政府委員 不動産の所有者が借り主から不動産を返還してもらう、その返還請求のための訴訟を起こしております間に不動産の占有者が第三者にかわりますと、次々に新しい占有者に向かって訴訟を起こしていかなければなりません。それは地主、家主にとりましては大変に煩雑なことでありますので、占有移転禁止の仮処分をかけまして、債務者、つまり現在の占有者に対して、その物の占有を移転してはならないという不作為命令を課し、執行官の保管にし、公示をするということにいたしておきますと、その仮処分後にその不動産を新たに占有するに至った者に対して容易にもとの判決執行力を及ぼすことができる、別に改めて新しい占有者の方に訴訟を起こすなり前の訴訟の向きを変えるなりする必要がなくなる、そういう効果を持たせるものが占有移転禁止の仮処分でございまして、いわゆる占有屋というものがこういう不動産の明け渡し執行を妨害いたしておりますが、そういう占有屋を排除するためにはどうしてもこの手法を使わなければならないわけであります。この点は弁護士各位もこの意義を非常に認めていただいておると思っております。
  182. 滝沢幸助

    ○滝沢委員 いずれ参考人をお呼びするようなときにまた勉強させていただきますが、第三者とおっしゃるその第三者の立場というものはいかがになりましょう。これもまた一つ立場を持ち、また権利を持っているというふうにも思われますが、いかがですか。
  183. 藤井正雄

    藤井(正)政府委員 処分禁止の仮処分の場合には、その処分禁止の登記がなされますので、第三者はその登記を見れば仮処分がなされているということが当然わかるわけでありますから、それを承知の上でその不動産に権利関係を持ったわけでありますので、後に処分禁止の仮処分権者がみずからの権利を実現をするときには地位が否定されてもやむを得ないのではなかろうかと思います。  それからまた、占有移転禁止の仮処分の場合には、執行官が仮処分の旨を公示いたします。したがって、新たにその不動産について占有を取得するという者はその公示の効力を受けるわけでありまして、これまた仮処分がなされたことを知ってその不動産の占有に入ったということが言えると思いますから、これもやはり地位を否定されることになってもやむを得ないのではないかと思います。ただし、いずれの場合でも、ごくまれでありますが、正当な権利を持っている場合がないわけではございません。したがって、そのような人につきましてはみずからの権利を主張できるような、そういう別途の手当ては法案の中に盛り込んでおります。
  184. 滝沢幸助

    ○滝沢委員 なお本案については継続して勉強させていただくことにいたしまして、わずかな時間、残っておりますから承りますが、世界で一番難しい試験が日本の司法試験だと言われているわけであります。事実そのようなことでありまして、年々合格者の平均年齢は上がっていきまするし、一番社会問題と言ってもいいと思いますのは、数年間これに挑戦をいたしましてついに志を得ることのできなかった人たちは、大変優秀な能力、また社会に参加できる機会を持ちつつもこれを捨てて、もう年が進みまして別の世界に入ろうということになりますれば、これはなかなか大変なことでありまして、これは一つの課題であろうと言われているわけであります。  さらにまた問題点は、日本の社会がアメリカ社会化しつつあるということにおきましては、弁護士等の大量の社会要請があるということでありましょうが、弁護士、わけても検事に余りなり手がないのでしょうか。待遇の問題もあるでありましょう。そういう意味では、この司法試験の合格者というのはもっともっと必要だということもあるかもしれません。  さらに一つの問題は、大変最近問題になっておりますのは、弁護士は特にでありますが、検事、判事をも含めての法曹界の倫理。これは政治倫理とかいろいろ言われまして、秋のスズムシのようにみんなリンリ、リンリでありますけれども、これが大変厳しく要求される。ということは、つまりそれらの人がいろいろの事件等にも関係したりしておりまして、それはかつてのように国会議員が聖なる者でなくなったみたいな話でありまして、法曹界といえども決して聖なる者ではなくて、全く俗界の俗のようになってしまった点もございます。数々問題があるようでありまして、何か政府あるいはその周辺にはこれが改正の兆しがありまして、いろいろと論議されていると聞くのでありますが、今日に至りまする経過ないしは予想されるような改正のヒントがあれば、ひとつ御披瀝を願いたいと存じます。
  185. 則定衛

    ○則定政府委員 お答えいたします。  今お尋ねのように、現在の日本の司法試験の現状を見てみますと、合格までに平均六回を上回る受験を経なければ通らない。しかも階層別に受験歴を見てみますと、十回、つまり一年に一回しか試験がございませんから合格までに十年を超える合格者の割合というのが二割近くになっているわけでございます。平均が六回半くらいでございまして、六回を超える者が全体の五四%にも上っている。これは人材を登用する試験としては極めて異常であると思われます。これが非常に難しい試験であるという点では一つの評価が加わるのかもしれませんが、その中身を見てみますと、非常に問題をはらんでいるわけでございます。  そこで、試験合格者がそのような回数を重ねて、司法修習を終えますと一般的には三十を超えるということになりますと、御指摘のように定年制もありますし、給与体系がキャリアシステムを前提とするというような判検事に必要な人材を十分迎えるという点におきましても、これは問題をはらんでいると思います。  そういうようなことから、法務省といたしましては、現在六回以上あるいは場合によりましては十年もかけてようやく合格しているような人たちが、何もそこまで年限をかけて受験に専念していただかなくても、もっと早く受かるようにしたい。また、現在三回程度で受かっている人の割合が二割を切っておりますけれども、こういった三回程度で通る人たちの層も厚くしたい。そういうことによりまして全体的に司法試験の合格者の年齢構成が若返る。若返りますと、先ほど申しましたような弁護士、判検事にそれぞれバランスよく人材を供給するこの司法試験の目的といいましょうか、機能といいましょうか、そういったものも一段と向上するであろう、こういう考えなのでございます。  そういうような発想のもとに、昨年の十二月から最高裁、日弁連及び法務省の法曹三者協議会におきまして、この司法試験制度の改革を協議議題として取り上げて検討をしてまいりました。既に十一回会議を重ねまして、その間に、なぜそのような合格難が生じておるのか、またどうして判、検、弁にバランスよく人材が流れていかないのか、こういった面についてそれぞれの問題を検討いたしまして、それを踏まえまして昨日の十一月期の法曹三者協議会におきまして、私ども法務省として司法試験の現状を改革するための基本的な構想を明らかにさせていただいたわけでございます。  その目的は、先ほど申しましたように、できるだけ多数の人がより早く合格し得るような試験を実施したいということでございますが、そのためには一つ、先ほども指摘のございますように、合格者の数をふやす、これは法曹界にそれだけたくさんの人材を供給するという意味でも重要でございますが、いろいろと分析いたしますと、実現可能な合格者増だけでは、今申しましたような司法試験がはらんでおります問題を解消するに至りませんという分析結果でございますので、人数もそれなりにふやすのに加えまして、一定の受験回数の制限をし、ある期間にそれを合格できなかった者につきましては、いわば一種の転身の機会と申しましょうか、になるような冷却期間あるいは休止期間を置く、その後また最初と同じような受験をやっていただくというような考え方、これが一つございます。  それから、もう一つは、現状の司法試験を余り変えないで、新たに三回程度で受かる人の枠、合格枠というのを別途考えてみる方法もどうであろうかというのも、これまた一つ考え方でございます。  それから、三つ目、これが最後でございますが、むしろ原則五回までに通っていただくことにいたしまして、それを超える人につきましては別途それなりの合格枠を残すという方法ではいかがであろうか、こういった点を考えております。  そのほかに、現在受験科目が七科目ございますが、そのうちの教養選択科目というものを落としまして、できるだけ受験者の負担を軽くするということも考えてみてはいかがかといったことも示しております。  このような三点に集約できます司法試験制度改正についての基本構想を土台といたしまして、今後先ほど申しました法曹三者の協議会でさらに検討を続けてまいりたい。できます限り、法務省といたしましては、早期に先ほど申しましたような目的に資する司法試験制度改正を実現してまいりたい、こういうふうに思っているわけでございます。
  186. 滝沢幸助

    ○滝沢委員 承りまして、三つとおっしゃいましたが、四つになりませんか。回数制限、年齢制限、そして合格者の数をふやす、そして試験課題の内容の再検討。ただいたずらに苦労させるのではないものにするというような意味だと思いますが、そうしたら四つになりませんか、同じようなものでありますけれども。とともに、これからの作業日程、いかがなものでありましょう。そしてこれもさっき私は冒頭に申しましたが、方法は余り変わらない方がいい。これは去年だったら合格したのだけれどもみたいな話でも困るのであって、という意味におきましては、年一回の試験を年に二回行うというのも一つの方法ではないか。そうしたならば、とにかく今の若い者は簡単に合格した連中だみたいなことにならぬことになろうと思うのですが、いかがなものでしょう。
  187. 則定衛

    ○則定政府委員 先ほど説明いたしましたいわば一種の制限的措置、三つを申し上げました。これはいずれも選択的な形で提示させていただいております。それが大きく分けまして一つと、それと合格者増、教養選択科目の廃止、こういうことで三点に集約できるかと思います。  それから試験回数の件ですが、現在いろいろな実施上の問題等もございまして年一回ということでやってまいっておるわけですが、仮に年二回ということにいたしましても、今申しましたような司法試験がはらんでおります問題点を解消する方途にはならないのではないか。むしろまずそれを解消して、将来仮にもっと法曹人口をふやすというような需要がございましたときに、選別いたします司法試験の実施の回数をふやすということは考え得るのかと思いますけれども、当面の解決策としましてはまず前提条件を整備したい、こう思っておるわけでございます。  それから日程の関係でございますけれども、これは大学の関係の問題もございます。それから弁護士会との対話の問題もございます。私どもはできるだけ早期に一本の案にまとめて国会に提出するような状況に持っていきたい、こう思っておりますけれども、何分御案内のとおり、弁護士会の場合、会内意思形成に相当の日にちを要するのが実態でございますので、できるだけ早くと当事者としては申し上げる段階でございます。  以上でございます。
  188. 滝沢幸助

    ○滝沢委員 弁護士会の意見というものも確かに必要でしょうけれども、しかしこれは案外他の業界なんかは新しく来る者を排除するの論理がありまして、そういう意味では、私は弁護士の先生方の御意見というものは必ずしも、拝聴に値しないとは言いませんけれども、いかがなものかという危惧を一つ持っております。  もう一つは、今のお話を総合しますと、一年後の国会あたりには提案になるというふうに理解できるのでありましょうが、そんなものでしょうか。  そしてこれは余計な話かもしれませんけれども、教養選択科目を抜くというふうにおっしゃいましたが、見ておりますと、私の息子なんかもようやく合格して四、五年になるのでありますが、もうとにかく弁護士事務所というのは後ろに素人に対するこけおどしみたいに金文字の真っ黒い六法全書と判例集をいっぱい持っていて、要するに一々見ておっしゃるわけで、法文の引き方を覚えていれば勤まるわけであります。法律は毎年どんどん出てくるわけだし、それを全部精通していらっしゃるというより、私はむしろ一般教養そして人格、識見、そのことの方ないしは、人生観はいろいろありましょうけれども、とにかく健全なる人物であることということの方が大事というふうに、いたずらに専門知識でもって試験を絞ってきました結果がさまざまの社会悪に対してむしろ法曹界が関連して、弁護士様が悪いことをおっしゃると言ったらなかなか大変ですからな、そういうふうな危惧もあるわけでありまして、最後に一言またおっしゃってちょうだいすればありがたいのであります。
  189. 則定衛

    ○則定政府委員 一点目の時期の件でございますけれども、今おっしゃいましたように一年後の国会、私どもは遅くともそのあたりをターゲットに作業を進めてまいりたい、こう思っております。  それから二番目の専門性の問題でございますけれども、確かに人材登用試験という点に着目いたしますと、いわば専門教育はオン・ザ・ジョブ・トレーニングといいましょうか、その後職場でやれば足りるのじゃないか、むしろ人物、識見等に着目した試験たるべきだ、これはもっともなことだろうと思います。  ただ、司法試験はいわば法律専門家たります判検事、弁護士を目指す人たちの登用試験でございますので、やはり法律知識及び法律の応用能力といった点についても相当のウエートを置かなければならないのだろう、こう思っているわけでございますが、そういう細かな知識を要求されるものではなくて、できるだけ推理力、判断力、こういった面が答案に求められますような試験の運用にも努めていかなければならないというふうに考えておるわけでございます。
  190. 滝沢幸助

    ○滝沢委員 わかりました。一年後に提案されるであろうことを期待いたしまして、そのときのために我々も勉強させていただきます。  委員長大変御苦労さまでした。大臣初め政府委員の皆さん御苦労さまでした。終わります。
  191. 戸塚進也

    戸塚委員長 安藤巖君。
  192. 安藤巖

    ○安藤委員 民事保全法案の問題についていろいろお尋ねをしたいと思います。  この法案提出になった御趣旨は、提案理由の説明をお聞きしますと、とにかく迅速化を図るんだ、保全訴訟、今は仮差押え仮処分というふうに言われておりますが、その迅速化というようなことがうたい文句になっておるのですが、これはどうなんですかね、先ほど二年を超すのが三〇%ぐらいというふうにおっしゃっておられるのですが、仮処分事件をとってみた場合でもやはりそういうような状況になっておるのかどうか。それから、いわゆる地位保全賃金仮払いを求める労働仮処分、それでもそういう状況になっておるのかどうか、それをまずお聞きしたいと思います。
  193. 藤井正雄

    藤井(正)政府委員 先ほど申し上げましたのは、仮処分事件判決手続によったものの数字を申し上げたわけでございます。仮差押えにつきましては具体的な統計がございませんけれども、これは大部分極めて早く終了しているものと推測されます。  仮処分事件につきましては、決定手続によるものと判決手続によるものと合わせた場合には一月以内に八〇%ぐらいは処理されているようであります。しかしながら、その中から判決手続で行ったものを抜き出してみますと、二年を超える審理期間を要しているものが三〇%ぐらいあるという実情でございまして、この数字から見ますと、判決手続審理される事件決定手続で行われる事件よりもはるかに遅延をしているということが言えると思われます。
  194. 安藤巖

    ○安藤委員 これは司法統計によるものですが、一九八五年だから昭和六十年ですね、この一年間の全国の地裁の仮処分救済事件一万五千五十一件のうち口頭弁論を開いて審理したものは百四十八件。それから審理期間を見ますと、複雑で長期化をすると言われる賃金支払い、地位保全事件、いわゆる労働仮処分事件ですが、千三百七十六件のうち千二百八件、これは約八八%が六カ月以内、そして一年以内は千三百十六件、約九六%が審理を終了しているという状況にあるわけです。この関係で見ますと、一年を超えて審理を必要とした賃金の支払い等の仮処分は全体の〇・四%という数字になるのですね。そうすると、労働仮処分関係で見る限りは別に審理遅延しておるということは言えないのじゃないのかなと思うのです。  それからもう一つ。もうちょっと細かい話で申しわけないですが、これは愛知、三重の関係で調べたのです。名古屋地裁本庁と津地裁本庁、それから名古屋地裁では豊橋支部、それから津地裁の四日市支部です。この関係で見ますと、十七件事件が係属しまして、そのうち十四件が審尋、三件が口頭弁論に移行しておる。こういう状況で、審尋手続のみの場合は十九日から二年、二年というのは一件だけ二年近くのものがあるのですが、平均六・一カ月ですね。それから、口頭弁論へ移行した場合は九カ月から十カ月程度の期間がかかっている、こういうような状況なのですね。  だから、迅速迅速とおっしゃるけれども、そう迅速迅速ということばかりでは拙速主義に走っていくのじゃないかなという気がするのですが、その辺のところはどうなんですか。迅速迅速とばかりおっしゃる。しかも今申し上げましたような実態からすると、その辺のところのみを強調されるのはどうかと思うのですが、どうでしょう。
  195. 藤井正雄

    藤井(正)政府委員 先ほど申し上げました数字は労働仮処分だけに限ったわけではございませんで、仮処分事件全体について申し上げているわけであります。労働仮処分を初めといたしまして現代型の非常に複雑困難な仮処分事件もあるわけでございますが、それらの事件をも含めまして仮処分手続全体として合理化を図る必要があるのではないか。判決手続を廃止して決定手続にするということは、何も審理を粗雑にすることを意味しているわけではございませんで、迅速にしながら、かつその中で、可能な範囲では当事者の陳述の機会を与えるなどいたしまして、審理の適正化も図っていくことに十分配慮しているわけでございます。  現実裁判所の近年の手続を見てまいりますと、判決手続による事件は大変少のうございます。これは、判決手続によって審理をしたのでは、口頭弁論の運営、当事者双方の呼び出し、そして証人尋問という厳格な手続を経ることを要するために審理期間がどうしても長くなっていく、そういう実務上の経験を踏まえて今のような運用がなされてきたのではないかと思われます。したがいまして、今回の法案におきまして、決定主義をとりつつ、かつ当事者の地位に配慮したいろいろな規定を置いて全体として整備を図ったという改正方向は、正しいものであるのではなかろうかと今思っておるところであります。
  196. 安藤巖

    ○安藤委員 それは、裁判を拙速でやってもらったのではたまったものじゃありません、まさに司法の権威が地に落ちることになりますから。拙速というようなことではないことは当然のことだと思うのです。  その関連お尋ねしたいのですが、今度の法案の第三条の関係です。これはいろいろ説明をお聞きしますと、今までは口頭弁論を主としてやっておった、しかし今度はまず原則として審尋でやるんだ、そしていずれにしても決定でやるんだ、こういうことですが、先ほど、口頭弁論にするのか審尋にするのかあるいは書面手続にするのかという点については裁判所で選択をしてもらうことだ、こう答弁をなさっておられる。裁判所の選択というような場合に、これは当然のことだろうと思うのですが、当事者の言い分、主張、これを相当尊重されなければならぬと思うのです。そういうことを前提にして考えておられるのでしょうか。     〔委員長退席、井出委員長代理着席〕
  197. 藤井正雄

    藤井(正)政府委員 民事保全手続を進める審理のやり方としまして、審尋手続によることもできればまた口頭弁論を開くこともできる。今までの制度と違いますのは、一たん口頭弁論を開いたならばもう後戻りはできず、必ず判決で終局させなければならないというのが現行の制度であったわけでありまして、そこのところが非常に硬直化した形態をとっていたことになるわけでありますが、これを今後は、口頭弁論を開いてもその後再び審尋手続に戻すこともできる、こういう考え方で制度が構築をされております。  発令段階におきましては、任意的口頭弁論を開けば当然に相手方の呼び出しをするわけでありますけれども、そうでない場合には必ずしも相手方審尋をするとは限りません。これは、仮差押え仮処分手続が一般的に密行性を要求する場合が多い、債務者に知らせることなく手続を進めなければならない場合が多いからであるのですけれども、そのような密行性が必ずしも要求されない事件におきましては債務者の意見を聞くという今までどおりの運用がなされるものであろうと思っております。  一たん保全命令が出された後の保全異議手続あるいは保全取り消しの手続におきましては、もはや密行性ということは要求をされておりませんので、その場合には、法案の二十九条におきまして「口頭弁論又は当事者双方が立ち会うことができる審尋の期日を経なければ、」「決定をすることができない。」ということで、必ずそのような相手方の陳述の機会を与える期日を経ることを要求いたしております。
  198. 安藤巖

    ○安藤委員 私がお尋ねしているのは任意的口頭弁論ということになるわけですが、原則として口頭弁論じゃなくて口頭弁論を経ないでやるということだというふうにいろいろ伺っておるのです。わざわざこういう三条をお入れになったのはそういう趣旨だと思うのです。  口頭弁論にするのか審尋にするかどうかという点については裁判所の方が選択をされることだと思うとおっしゃったのですが、その選択をするに際して、密行性の場合は、これは密行性の場合だからこうやってほしいと当事者の方から御主張があると思うのですね。あるいは、口頭弁論を開いてほしい、これは複雑な事件だからどうしても口頭弁論なんだというような主張がなされた場合は、それを裁判所の方が尊重してくれるというようなことを考えて提案をしておられるのかどうかということです。
  199. 藤井正雄

    藤井(正)政府委員 現行法のもとにおきましては、手続を、決定手続のままで進めるか、あるいは口頭弁論を開いて、以後は必要的口頭弁論になるので判決手続になりますが、判決手続を選択するのかということは、これは裁判所の御判断で行われております。このことは新しい民事保全法になったといたしましても何ら変わるわけではないのでありまして、裁判所がどの手続を選ぶのが適当であるのかということをみずからの訴訟指揮の問題として考えられ、決定をされることになります。その際に、当事者が御意見があれば当然それを述べられることになりましょうし、当事者意見が入れられるか入れられないかということは、これまでの仕組みと特に異なるところはないわけでございます。
  200. 安藤巖

    ○安藤委員 合理的な問題云々ということの関連で今お尋ねしましたが、もう一つその前にお伺いしておきたいと思うのです。  これは午前中に同僚議員がお尋ねになったことなのですが、最高裁事務総局の招集で「労働訴訟の審理について」という裁判官協議が行われた。これは一九八一年十月に開いた。これもお認めになっておるわけですね。そして、その結果を収録したものを刊行なさった、発行したとまではお認めになっておられるわけです、最高裁当局は。その文書の名前は「労働関係民事・行政裁判資料集第二九号」というふうに私は伺っておるのですが、それでよろしいのかどうか。そして、これは刊行されてそのまま倉庫にしまっておくというわけではないだろうと思いますので、お配りになったと思うのですが、どういうところへ配付をされたのかということをお尋ねします。
  201. 泉徳治

    泉最高裁判所長官代理者 ただいま安藤議員の仰せになりましたとおりの資料を私どもで作成いたしまして、これは内部資料といたしまして裁判所の中で配付しております。裁判所の中の資料室でありますとか裁判官室であるとか、そういうところに備えつけられていると思っております。
  202. 安藤巖

    ○安藤委員 そのときに、協議の際に各裁判官がそれぞれ意見を述べて、そしてまとめとしていわゆる行政局見解なるものが出される。そして、それもこの資料集に載っておると思うのですが、これは私が前に水害訴訟の関係お尋ねしたこともあるのですけれども、結局、最高裁の司法行政、この行政局の見解が一番正しいんだという形で、裁判官は全部右へ倣えをすべきだというような格好でこれが扱われておるというのが実態。結局、それがなされた後、それに右へ倣えをするような判決がいろいろ出されたということを、水害訴訟に関して私は前に指摘したことがあります。  これは大問題だと思うのですよ。大臣、よく聞いておってくださいよ。裁判官というのは、もともと独立しておって職務を遂行する、憲法及び法律に拘束されるということになっておるわけですね、これは憲法で。ところが、今申し上げましたようなことだとすれば、これは憲法及び法律に拘束されるのではなくて、最高裁判所の司法行政権力に左右される、拘束される、あるいは司法行政的見解に拘束をされる、こういうようなことになってきて、裁判の独立というものが侵害されることおびただしいのではないか、こういう点を非常に大きく危惧するのですが、こういうような点は大臣としてどういうふうにお考えでしょうか。
  203. 泉徳治

    泉最高裁判所長官代理者 裁判所の内部のことでございますので、便宜私からお答えさせていただきます。  裁判官協議会をいたします場合に、その協議員の中から議長を選んでいただきまして、その議長の進行のもとに討論が行われるわけでございますが、その際に私ども行政局の係官も列席しておりまして、行政局の係官といたしまして課長とか参事官が列席しているわけでございますが、それぞれ分担をいたしまして、問題に関係する学説、判例の収集などを行っております。それで、議長の求めに応じまして、問題の討論に必要な学説状況でありますとか判例状況等を御説明することはございます。しかしながら、それを行政局見解として述べるというようなことはございません。そのときどきに在籍しております課長なり参事官なりがそれぞれ調べたところを御披露して、討論の素材を提供するということをいたしておるわけでございます。  したがいまして、私どもがそこで一定の見解の統一を図りますとか、あるいは一定の見解を拘束力を持って皆さんにお知らせするとか、あるいはリードするとか、そういうことは一切していないわけでございます。その点を御理解いただきたいと存じます。
  204. 安藤巖

    ○安藤委員 その関係では、水害訴訟のときにも申し上げたのですが、いろいろ裁判官が議論を闘わして、一番最後のところで、事務総局見解あるいは行政局見解、こういうふうにしてまたまとめのように述べられておるのですよね。だから、その最初に素材を提供したというのは大きな間違いだというふうに思います。もしそういうふうに御主張なさるのなら、これは都内資料だというふうにおっしゃるけれども、私どもに見せていただきたいのですよ、果たしてそうなのかどうか。最後に行政局見解としてちゃんとまとまっているのですよ。そうでないとおっしゃるなら見せてください。私に見せてくれますか。
  205. 泉徳治

    泉最高裁判所長官代理者 私どものやっております協議会は、これは内部の研究会でございますので、裁判官といいますものは、いろいろな事件を担当して判断を下す前に、いろいろな文献に当たり、またいろいろな内部での討論を重ね、そういった一般的な勉強をするわけでございまして、裁判官が責任を持って判断するのは、やはり裁判という形で判断をいたします。その裁判についていろいろ御批判をいただくという形になっておりまして、その前の段階の内部の勉強会についていろいろ御批判いただくということになりますと、自由濶達な研究もできないということになりますので、そういった協議会資料は、今までは内部資料といたしまして外部には発表していないわけでございます。  しかしながら、これを決して隠すというわけでございませんで、午前中の御質問の中でも、そういったことが書かれていたかということは素直に認めております。これは、そういうふうにお答えすることによって、決して特定の庁を特定するわけでもございませんし、決して内部の自由濶達な雰囲気が壊れるわけでもない、そういうかげんでお答えしているわけでございます。しかしながら、資料全体としていたしますと、やはりそういった自由濶達な雰囲気が壊れるということもございますので、その点は御了承いただきたいと存じます。  それから、行政局見解として述べているんじゃないかという御指摘がございましたが、それはいろいろまとめ方につきましては、統一的なことがございませんで、協議の概要でありますとか協議の結果でありますとか、あるいは物によりましては行政局見解という形で、その場であらわれましたいろいろな皆様の御意見を、総括的な形で便宜上まとめて印刷物にするということも行われていることは事実でございます。しかしながら、それを行政局見解といたしまして全国に、何か審理方向をリードするような形でやっているわけでは決してないわけでございます。その点を御理解いただきたいと存じます。
  206. 安藤巖

    ○安藤委員 もちろん、裁判内容をリードするなんということがあったらとんでもないことだと思うのですが、そういうように思われる内容のものになっているということを強く指摘しておきたいし、そういうようなことは今後一切やめるべきであるということを申し上げておきます。  具体的に、きょう午前中に同僚議員が読み上げましたものにつきましては、私も持っておりますけれども、この資料集の百四ページ、百五ページ、百二ページ、百三ページ、これは内容は午前中に読み上げられましたから省略しますが、そういうようなことでどういうことになっているかですね。  これは、例えば、そうした協議が行われた結果、まず最高裁のおひざ元である東京地方裁判所の労働部においては如実にあらわれて、賃金の仮払いの問題については、仮処分決定時までの過去の賃金についてはそれまで生きてきたのだからという理由で支払いを認めない、それから賃金の六割とか半額しか認めない、賃金の仮払いを認める期間を十カ月とか一年に切り縮めるというような判決あるいは決定内容が続出している、こういうような状態になっているのです。  そしてさらには、先ほどの名古屋地裁あるいは津地裁の関係でありますけれども、こういうような実態になっているのですよ。協議結果の影響で、東京地方裁判所地位保全処分については先ほど申し上げましたようなことがあると報告をされておる。そして、東京地方裁判所を前任地とするある裁判官から、これは、6は名古屋地裁の本庁ですね、地位保全必要性はあるのか、賃金が支払われればいいのではないかというような釈明がなされてきておる。となると、協議結果がずばりと出てきている釈明あるいは訴訟指揮、こういうことになってくるのですよ。  さらには、これは12番、名古屋地裁の豊橋支部では、裁判官が、東京地方裁判所では地位保全仮処分について先ほど私が言いましたような傾向になってきているということが記載されている判例時報を示しながら、地位保全仮処分は東京地方裁判所では原則として認められていない、地位保全を取り下げてくれれば、賃金仮払いについて直ちに仮処分決定を出す、こういうふうに当事者に勧めた、こういうようなこととしてあらわれてきておるのですね。  だから、各裁判所あるいは裁判官審理をリードするものではないとかなんとかおっしゃるけれども、如実にこのようになってあらわれてきておる。こういうような事実は知っておりますか。     〔井出委員長代理退席、委員長着席〕
  207. 泉徳治

    泉最高裁判所長官代理者 先ほど御指摘のありました協議会におきまして、午前中の御質問にありましたような内容の記述があることは事実でございますが、それはすべてそういったことを目的としたものではございませんで、委員承知のように労働仮処分事件というものが非常に本案化してしまっておりまして、解雇後直ちに短い期間の間に救済を図らなければならないにもかかわらずそれが図られていないで、二年も三年も後になって仮処分が出されておる、これは非常に異常な姿でございますので、それを何とかすべきではないかといったところからいろいろな意見が出てきているわけでございます。  そこで、地位保全を却下するとか、あるいは賃金の支払い期間を一年とか六カ月に区切るとかといったことになっているという御指摘でございましたが、全国的に見ますと決して今日でもそういう状態ではございませんで、七、八割方は地位保全も認めておりますし、賃金仮払いにつきましても一審判決あるまでという形の命令を出しているのが大部分でございます。  最高裁おひざ元と申されましたけれども、私そういうことでごく最近の公刊物を見てみましたけれども、現に東京高裁あたりでも最近二件ばかり地位保全を認めておるのはございます。東京地裁におきましても地位保全を認めたものがございますので、何か五十六年の協議会がそちらの方に裁判を向けてしまったということはないというふうに理解しております。
  208. 安藤巖

    ○安藤委員 私は事実を指摘してお尋ねしておるわけでありますから、そういうことはないと思うとおっしゃってもそれは通らない話じゃないかというふうに思います。  それはまた改めて議論をさせていただくとしまして、保全法案の中身について一、二お尋ねしたいと思います。  二十七条それから三十三条の関係についてお尋ねしたいのですが、これは「保全執行の停止の裁判等」ということで、異議の申し立てがあったときに保全命令の取り消しをすることができるというふうになっておるわけですね。この場合、債権者の意見を聞く必要があるのではないのかなと思うのですが、例えば仮処分解放金の場合は「債権者の意見を聴いて、」というふうにあるのですけれども、この二十七条の保全執行の停止の場合には債権者の意見を聞くという条文がないのですね。これはどういうことなんですか。こういう文言を入れた方がいいのか、運用としてそういうふうになることを予定しておられるのだろうか、その辺はどうでしょうか。
  209. 藤井正雄

    藤井(正)政府委員 この執行停止裁判をするのは、大変に緊急を要するものでございます。したがいまして、この裁判をするに当たりまして相手方、つまり債権者の意見を聞くというような手続考えておりません。これは単にこの場合に限らず、民事訴訟法あるいは民事執行法に定められております執行停止手続におきましてもそうでございます。
  210. 安藤巖

    ○安藤委員 この執行停止関係につきましては、午前中の同僚議員の質問に対する答弁として、より厳格に、より明確にしたものであるというようなことをおっしゃったのですが、より厳格にということになりますと相当限定されたものということになるのかな、絞り込まれた場合、あるいは相当な疎明があった場合ということになるのかなという気もするのですが、その辺はどうでしょう。
  211. 藤井正雄

    藤井(正)政府委員 現行法では上告あるいは再審の際の執行停止規定が五百条、五百十一条あたりにございます。五百条では「不服ノ理由トシテ主張シタル事情が法律理由アリト見エ且事実上ノ点ニ付疏明アリタルトキ」という要件が決められております。五百十一条では「其執行ニ因リ償フコト能ハザル損害ヲ生ズ可キコトヲ疎明シタルトキ」という要件が定められております。また、民事執行法の三十六条では「異議のため主張した事情が法律理由があるとみえ、かつ、事実上の点について疎明があったとき」と規定をされております。  この二十七条におきましては、異議理由として主張した事由が理由があるということ、それから債務者に償うことができない損害を生ずるおそれがあるということ、この両方を要件といたしております。これは保全命令における命令を出す要件である保全すべき権利の存在と保全必要性の存在、その両者に対応するものでありまして、この両者に対応いたしましてそれぞれ、取り消しの原因となる事情があるとき、それから償うことのできないような損害を生ずるおそれがあるとき、この両方の要件があるときに例外的に執行停止をするという規定でございます。
  212. 安藤巖

    ○安藤委員 とにかく二十七条の四項でその取り消しの決定に対しては不服の申し立てはできないわけでありますから、これは慎重にやっていただく必要があろうかと思うのです。  それから三十三条、これは原状回復の裁判関係でございますが、時間がありませんから簡単にお尋ねします。  仮処分命令を取り消す決定をしてそして原状回復の裁判をする、この条文案を見ますと、「使用若しくは保管をしている物の返還を命じなければならない。」となっているわけですね。こうなるとまさに裁判官の裁量の余地はないことになるわけなのですが、これは裁判官の裁量に任せるというようなことを考えてもいいのじゃないか。例えば「できる」というような方向にしてもいいのじゃないのかなという気がするのですが、その辺のところはどういうふうにお考えでこの法案をおつくりになったわけですか。
  213. 藤井正雄

    藤井(正)政府委員 仮処分はそれ自体として完結的な実体法上の法律関係を形成するものではなくて、本質的に仮定性、暫定性を免れるものではありませんので、仮処分命令が取り消された場合には、その間に生じた仮処分の効果も発生しなかったことにする、受け取った物は全部返すことにするということが当事者間の公平を図るゆえんであろうと思います。仮処分という暫定的な裁判手続で一定の利益を得たわけでありますから、とりあえずそれはもとへ戻しておくというのが一番公平にかなったことであろうかと思います。  しかし、ただいま委員が仰せになられましたような考え方、これは絶対おかしいと申し上げるものではございません。ただ、裁量的にいたしますと、これに対する不服の裁判におきまして今度は裁量の当否に争いが移る、そのために裁判遅延につながることもあるのではないかということが言えようかと思います。委員のおっしゃるような方法は一つの選択肢であるということを否定するわけではございませんけれども、私どもが立案をいたしました考え方はそういうことでございます。
  214. 安藤巖

    ○安藤委員 時間が参りましたから終わりますけれども、裁量的にすると、その当否をめぐってまた主張、立証あるいは相互の主張があって裁判遅延につながる、遅延のことばかりおっしゃるけれども、やはり裁量の当否を問題にして審理すべきなんですよ。それが裁判だと思うのですが、すぐに遅延遅延とおっしゃるからどうも納得ができかねます。  まだほかにいろいろたくさんお尋ねしたいことがありますが、次回に譲りまして、きょうはこれで終わります。ありがとうございました。     ─────────────
  215. 戸塚進也

    戸塚委員長 この際、参考人出頭要求に関する件についてお諮りいたします。  ただいま審査中の本案につきまして、来る二十八日、参考人の出頭を求め、意見を聴取することにいたしたいと存じますが、御異議ありませんか。     〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  216. 戸塚進也

    戸塚委員長 御異議なしと認めます。よって、そのとおり決しました。  なお、参考人の人選につきましては、委員長に御一任願いたいと存じますが、御異議ありませんか。     〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  217. 戸塚進也

    戸塚委員長 御異議なしと認めます。よって、そのとおり決しました。  次回は、明二十二日水曜日午前九時五十分理事会、午前十時委員会を開会することとし、本日は、これにて散会いたします。     午後三時二十五分散会