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飯田忠雄君 わかりました。
それでは次に参りますが、本日私が御質問を申し上げたいと思うことは四点でございます。
第一は、この
法律は
昭和天皇がどういうお方であるかということを根拠に置いてのものでありますので、現在、
天皇は戦犯であるとかないとかということがよく言われております。そこで、
天皇は、
法律上、戦犯であり得るかという問題についてお尋ねをいたします。
それから、第二は、葬式は宗教かという問題をお尋ねいたしたいんです。葬式は、一体、宗教なのかということ。これは、宗教学、
憲法学両方の面から、私は自分ながらの研究もしておりますのでお尋ねをいたします。
それから、その次が宗教の
法律上の意味と
憲法二十条との関係、つまり
憲法二十条が
政教分離の規定を設けた本来の
憲法上の
趣旨はどこにあるのかという問題ですね。つまり、
法律というものは、元来、あることを禁止したりする場合には必ずその事態に危険性が存在するからでありまして、危険性が存在しない場合に
法律でこれを禁止したりするということはあり得ないはずであります。そこで、
憲法二十条に言う
政教分離はどういう危険性に備えての問題かという点をお尋ねをするわけであります。これは
憲法上の問題です。
それから、第四番目の点は、
国民の
祝日を一年を通じてバランスをとる必要はないか、こういう問題であります。
この四点についてお尋ねを申し上げたいと思います。
そこで、まず第一点の、
天皇は
法律上戦犯かという問題につきまして私の意見をこれから
憲法学の
立場から述べますので、間違っておればおまえの言うことは間違っておると御
指摘を願いたいのであります。
時間の関係でこうするのですからよろしくお願いいたします。
もし
天皇が戦犯であれば、
昭和天皇の
大喪の礼の行われる
法律をつくること自体がおかしいわけです。で、私は
憲法を調べてみました。大日本帝国
憲法を見ますと、第三条に「
天皇ハ神聖ニシテ侵スヘカラス」こういう規定がございます。「
天皇ハ神聖ニシテ侵スヘカラス」という規定は、
憲法学者のほとんど一致した見解では無答責の規定であると言われております。つまり、責任を一切免除した規定である。言いかえれば、
天皇には政治上道義上あらゆる意味における責任を問うような行為を行わせてはいけないのだというのが、これが
憲法第三条の意味であったはずであります。
そこで、それならば責任はだれがとるかという問題におきまして、
憲法は五十五条をもうけまして、
国務大臣の輔弼責任の規定をもうけました。つまり、言いかえれば、政治上の問題は
国務大臣が
計画を立てこれを実行するのであって、この場合、
天皇はそれに対して
法律上責任を負うような口を挟むことは許さない、これが前の
憲法の
趣旨であったはずであります。したがいまして、
天皇は統治権を総攬する。これは第四条に書いてありますが、「統治権ヲ総攬シ」ということは、統治権を実行するということではない。ただ上からつかんで見ておるというだけの問題でありまして、統治権の実行は
国務大臣にあったのであります。これは五十五条に明確に決めてあるわけであります。
したがいまして、戦争を引き起こした責任は、
憲法上は、これは輔弼の責任を持っておった
国務大臣にあるわけでありまして
天皇にはないはずであります。
そう言うけれ
ども天皇は終戦のときに、戦争をやめるときに口を出されたではないか、よくこういうことをおっしゃる人がおります。
これは、
憲法上からいいますと、当時の総理大臣である鈴木総理大臣が自分の意見を、
内閣の意見を述べないで
天皇にどうお考えになるかを確かめまして、その上で
内閣の決意をするために行った行為であります。輔弼責任を負う大臣が
天皇の言葉だけで国政をとるということはありません。それは終戦がよろしいという外務大臣の意見がよろしいという御意見、これを鈴木総理が採用をいたしまして鈴木総理の責任において終戦
事務をとつたはずであります。そうでなければ
憲法違反です。
憲法違反を行うはずはないのですから、あの場合でもその責任は当時の
内閣にあるわけでありまして、そういう点からいきまして大日本帝国
憲法上は
天皇は犯罪行為能力がない、犯罪行為を行う能力がない、そういう地位におられたと言わざるを得ないわけです。
そうしますと、やはり、国内法上責任はないということになります。
しからば、国際法上はどうかという問題が起こります。
国際法上の問題は詳しく述べればたくさん時間を要しますが、簡単に申しますと、その結論を出したのは東京裁判であります。東京裁判が戦犯というものの範囲を決めまして、
昭和天皇に対して戦犯として起訴をしなかった。これは、国内法上、犯罪能力のない者を起訴すること自体が
法律上おかしい。ですから、そういう観点から起訴はしなかったのであります。そして、その結果、あの極東国際軍事裁判所におきまして、
天皇については一切戦犯としての審理を行わなかったのであります。これは国際法上の問題です。
この場合、当時の
天皇は、全然権力も何もない、連合軍の
管理下に置かれた地位でありまして、そういう
立場においてなお連合軍はこれに対して戦犯の判決をしなかったということは、国際法上も犯罪でないからだとこう言わざるを得ないわけであります。
もちろん道義上責任があるではないかという議論がございますが、国内法上犯罪行為能力のない者に道義的に犯罪を犯し得る力もあり得るはずがないと私は考えます。
これが国内法上あるいは国際法上から見て
天皇に戦犯の罪はないという論拠でありまして、もし私の論拠が間違っておれば、
天皇は戦犯だということであればこの
法律自体を撤回していただかねばならない。戦犯に対して
大喪の礼をもって行うということはとんでもないことだということになるからであります。こういう見解を私は持つんですが、この点について
政府の御見解を、いいならいい、悪いなら悪い、ただそれだけおっしゃっていただきたい。間違っておれば、どの点がおまえは間違っていると御見解をお述べ願いたいのであります。
この問題を解決せずして本日の
法律案を
審議することはできないから申し上げるわけであります。