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1988-12-16 第113回国会 衆議院 法務委員会 第4号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和六十三年十二月十六日(金曜日)     午前九時四十九分開議  出席委員    委員長 戸沢 政方君    理事 井出 正一君 理事 太田 誠一君    理事 保岡 興治君 理事 坂上 富男君    理事 中村  巖君 理事 安倍 基雄君       赤城 宗徳君    石渡 照久君       上村千一郎君    江口 一雄君       片岡 武司君    川崎 二郎君       木村 義雄君    古賀 正浩君       笹山 登生君    塩川正十郎君       塩崎  潤君    園田 博之君       武村 正義君    中川 昭一君       丹羽 兵助君    鳩山由紀夫君       松野 幸泰君    稲葉 誠一君       清水  勇君    山花 貞夫君       冬柴 鉄三君    安藤  巖君  出席国務大臣         法 務 大 臣 林田悠紀夫君  出席政府委員         法務大臣官房長 井嶋 一友君         法務大臣官房審         議官      東條伸一郎君         法務省矯正局長 河上 和雄君  委員外出席者         法務委員会調査         室長      乙部 二郎君     ───────────── 委員の異動 十二月十六日  辞任         補欠選任   稻葉  修君     木村 義雄君   加藤 紘一君     中川 昭一君   木部 佳昭君     片岡 武司君   佐藤 一郎君     武村 正義君   塩川正十郎君     江口 一雄君   塩崎  潤君     川崎 二郎君   丹羽 兵助君     鳩山由紀夫君   宮里 松正君     園田 博之君 同日  辞任         補欠選任   江口 一雄君     塩川正十郎君   片岡 武司君     木部 佳昭君   川崎 二郎君     塩崎  潤君   木村 義雄君     石渡 照久君   園田 博之君     古賀 正浩君   武村 正義君     佐藤 一郎君   中川 昭一君     笹山 登生君   鳩山由紀夫君     丹羽 兵助君 同日  辞任         補欠選任   石渡 照久君     稻葉  修君   古賀 正浩君     宮里 松正君   笹山 登生君     加藤 紘一君     ───────────── 十二月十五日  刑事施設法案反対に関する請願安藤巖紹介)(第三六三六号)  刑事施設法案廃案に関する請願坂上富男紹介)(第三六七二号) は本委員会に付託された。     ───────────── 本日の会議に付した案件  参考人出頭要求に関する件  刑事施設法案内閣提出、第百八回国会閣法第九六号)  刑事施設法施行法案内閣提出、第百八回国会閣法第九七号)      ────◇─────
  2. 戸沢政方

    戸沢委員長 これより会議を開きます。  内閣提出刑事施設法案及び刑事施設法施行法案の両案を一括して議題といたします。  質疑の申し出がありますので、順次これを許します。太田誠一君。
  3. 太田誠一

    太田委員 刑事施設法案は、施行後八十年を経過している現行監獄法を全面的に改正するものであり、聞くところによれば、法制審議会において五年近くかけて慎重に審議され、答申された「監獄法改正の骨子となる要綱」に基づいて立案されたものということであります。今日の我が国における社会的、文化的、経済的な面における進歩発展は著しいものがあります。このような状況の中で刑事政策、特に犯罪者処遇だけがおくれることは問題であると思います。  人間人間を扱う行政分野であり、しかも、国が犯罪者を強制的に拘禁して処遇するという極めて特殊な行政でありますから、今日の一般社会における権利意識の高まり、社会科学発展などを考えますと、明治四十一年に施行されたという古代の遺物のような監獄法が今まで現行法として生きていることは奇跡としか言いようがありませんし、世界先進国が戦後の国際連合の諸準則に基づいて、既に新しい行刑法令制定あるいは改正を終えているという実情にかんがみますと、このままで推移することは、近代的法治国家として先進国の一角を占めている我が国として、まことに恥ずかしい思いがいたすのであります。  明治四十一年に制定施行された現行監獄法は、オーストリアフランス、ドイツなど当時の先進諸国に先駆けて立法化されたものであり、世界に誇り得る行刑法であったと聞いております。しかも、帝国議会においては、監獄法は何らの異議なく可決成立したと聞いております。近代法治国家としての体制をつくり、それによって世界列国の仲間入りを果たしたいという切実な願いもあったでしょうが、犯罪者拘禁処遇に関する関心がなければできないことでもあり、明治政治家たちの気概を今さらながら感じ、私どもといたしましても、可能な限り行刑現状を改善できるようなよい法律をつくりたいと思うのであります。  刑事施設法案につきましては、十月十八日の本委員会において、保岡委員から、我が国行刑現状などを含めて、主として刑事施設法案に関する一般的な問題と幾つかの基本的な法案内容についての質問がなされました。それらの質問に対する政府側答弁を伺っていて、私も、昭和五十七年四月に刑事施設法案が最初に提出されて以来、昭和五十八年十一月の廃案、昨年四月の再提出、本年五月の本会議趣旨説明と本委員会における提案理由説明と、ずっと本委員会において同法案経緯を見守ってきた一人として、一日も早い成立施行を図らなければならないと痛感しているところであります。しかし、刑事施設法案我が国刑事政策基本となる重要な法律でありますから、拙速はよくないと思いますし、単に現在行われている行刑運営実情を追認するだけのものであってもいけないと考えるのであります。行刑運営が大変厳しい状況にあること及び多くの被収容者職員、それに民間の篤志の人たち新法成立を待ち望んでいることはよくわかっておりますが、やはり、ここは法案内容について慎重に審議し、いろいろな考え方が可能な限り反映されたよりよい法律をつくることが行刑の将来にとって必要であります。  そこで、このような基本的な考え方に立って、刑事施設法案内容について幾つかの点を質問いたします。  初めに、刑事施設法全般に通ずる基本的な問題について質問いたします。  まず、監獄法改正のこれまでの経緯及びなぜこれまで改正がなされないままにきてしまったのかについて、法務大臣に伺いたい。  聞くところによりますと、既に大正年間から改正機運があり、第二次大戦後も早々と改正作業に着手されたそうであり、また、昭和四十年代には、日弁連などから法務大臣に対して全面改正要望がなされているということであります。本委員会においても、野党の方々から早く改正をせよという趣旨意見が随分以前から繰り返し述べられてきております。そういう状況にありながら、どうしてこれまで法改正実現されなかったのか、大変不思議に思うわけで、そこのところをお伺いいたしたいと思います。  法務大臣、お願いいたします。
  4. 林田悠紀夫

    林田国務大臣 明治四十一年に制定されました監獄法全面改正の動きは、御指摘のように既に大正時代に始まりまして、その後第二次大戦を挟んで数次にわたり作業が繰り返されました。  まず、現行監獄法施行されてわずか十四年後の大正十一年に司法省内に行刑制度調査委員会設置をされまして、検討を行い、翌年答申をいたしましたのを第一次といたしまして、その後、戦前戦後を通じ、大別して八回にもわたる作業が行われております。  それにもかかわらず、これまで法改正実現しなかった理由を戦後に絞って申し上げますると、まず、昭和二十年代の前半、新憲法のもとで新たな法思想に適合する行刑制度を確立すべく当局におきまして鋭意準備作業を進めていたのでありまするが、当時の連合国占領軍当局関心がむしろ少年問題など他の分野にあったことなどから、この時期には結局その実現を見るに至らなかったのであります。  次に、占領解除後の昭和二十年代後半から昭和三十年代にかけまして再び改正機運が高まりまして、改正作業を再開して、法務省部内におきまして数次改正案を作成したのでありまするが、折から刑法全面改正の動向が活発となりまして、昭和三十九年、法制審議会におきまして刑法改正審議が開始をされまして、刑罰の種類とかその内容など自由刑に関する根本問題をめぐりまして論議があったところから、その推移を見守ることにいたしまして、監獄法の問題につきましては、とりあえず法務省令である同法施行規則の大改正により対処する方針をとりまして、法改正は当面見送ることにしたのであります。  しかし、その後、行刑をめぐる諸情勢から、もはや監獄法現行のままで放置できない事態に立ち至っておること、また一方、御指摘のように、昭和四十四年には、日弁連から法務大臣に対しまして早期改正促進要望書提出されるなど、内外における改正促進機運が高まりましたことから、部内で鋭意準備を進めまして、昭和五十一年に法制審議会に対し諮問するに至ったものでございます。その結果、今仰せのようなことになっております。
  5. 太田誠一

    太田委員 次に、監獄法改正経緯の中で大きな問題としてしばしば指摘されております日弁連との関係について御質問申し上げます。  日弁連は、法務省との意見交換会が中途で打ち切られて刑事施設法案が再提出されたと言っているようであります。また、刑事制度に関する改廃は法曹三者の合意を要するという国会決議に反するので、直ちに意見交換会を再開し、十分に審議を尽くした上で、抜本的な修正を加えてから提出すべきであるとも言っているが、このような意見に対する法務大臣の御所見をお伺いをしたいと思います。
  6. 林田悠紀夫

    林田国務大臣 刑事施設法案は、法曹三者によって支えられるべき司法制度自体を改革するものではないのでありまして、同法案国会提出は、御指摘国会決議に反するものではありませんが、同法案は、裁判官及び弁護士を含む各界有識者構成員とした法制審議会や個別の協議を経まして、法曹三者の理解を得て上程したものであります。  法務省は、日弁連昭和五十八年二月から昭和六十二年四月までに合計二十六回の話し合いの機会を持ちまして、論議を尽くしまして、日弁連意見を十分に聴取し、これを参考にして、昭和五十七年に提出した法案に二十一項目に及ぶ修正を加えまして再提出をしておりまして、日弁連理解を得ているものと承知をしておるところでございます。
  7. 太田誠一

    太田委員 現在あらゆる行政分野におきまして、その公正を期するために、国民の直接関与の一つの方法として第三者機関設置が叫ばれているところでありますが、監獄法改正審議した法制審議会答申一一〇項にも刑事施設運営協議会設置ということが掲げられております。これを法定すべきであるという意見日弁連などに見られるのでありますが、法務大臣見解をお伺いしたいと思います。
  8. 林田悠紀夫

    林田国務大臣 御指摘要綱一一〇の(一)は、刑事施設運営協議会設置新法の実施に当たり行政運用配慮すべき事項として掲げておりまするが、これは、その協議会法律上正式の制度とするよりも、むしろ非公式なものとして状況に応じた弾力的な運用を図る方がその実効を期する上で適切と考えられるからでございます。  そこで、刑事施設法案は第七条に、刑事施設の長に対し、その刑事施設の適正な運営に資するため必要な意見学識経験者等から聞くことに努めなければならない旨を規定しておりまして、前記協議会に関する実質的な根拠を置くにとどめまして、その運用として、各刑事施設ごとに定期的に各界の人々により構成される会議を開催することを予定しているのでございます。  なお、部外の有識者刑事施設運営に関与する制度現行法にない新しいものでありまして、この会議運用の実績を重ねまして将来的に検討を加えていきたいと考えておるところでございます。
  9. 河上和雄

    河上政府委員 今の大臣の刑事施設運営協議会に関連いたしまして若干補足をさせていただきたいと思います。  日弁連やあるいは学者の一部に、被収容者行刑当局によって身柄を拘束され社会から隔絶されているので、国民にかわって行刑当局による行政の正当な執行を監視して、被収容者の正当な権利保護する第三者機関、つまり第三者委員会のようなものを法制化すべきであるという意見がございます。ヨーロッパ諸国ではそのような第三者委員会が設けられ効果を上げているという意見でございます。  確かに諸外国行刑法規の中には、ベルギー、オーストリア、西ドイツ、フランス、イギリスなどで第三者委員会制度化しているものも見られます。ただ、日弁連等主張しているような、被収容者不服申し立てに対する準司法的な権利救済機関として法定されているものではないと考えられます。また、このような諸国は、行刑分野だけでなく行政全般に対していわゆるオンブズマン制度その他の第三者機関による監視制度が採用されているわけでありまして、これは行刑行政に特有の制度ではなく一般的な行政に対する監視機関、こういうふうに理解しております。
  10. 太田誠一

    太田委員 次の質問に移らしていただきます。  この法案の第一編第七章の「規律及び秩序維持」という点でありますけれども、第四十二条に手錠拘束台及び防声具使用についての規定がある。現行法で戒具というのは、鎮静衣防声具手錠、そういったものになっておりますけれども、それぞれどのような場合に使用するのでありましょうか。
  11. 河上和雄

    河上政府委員 今御指摘鎮静衣でございますが、これは職員とかあるいは他囚に対して暴行したりあるいは自殺するおそれのある者、それから防声具、これは結局声を出さないようにするわけですが、これは職員制止に従わないで大声を発する者、つまり集団生活でございますので大声を発せられますとほかの人が眠れなくなったりなんか、非常にざわつくわけでございます。それから手錠とか捕縄、これは暴行とか逃走あるいは自殺のおそれのある者とか、あるいは刑務所から拘置 所、拘置所から刑務所、いろいろ移送することがあるわけですが、そういう護送中の者に対して必要があるときに使用することとされております。  ただ、鎮静衣とか防声具は、昭和六十二年中について見ますと、一回も使用されておりません。また、御指摘拘束台防声具使用についても、これはもちろん使われていないわけでございます。
  12. 太田誠一

    太田委員 新法拘束具の中で拘束台防声具というのは、これはどうもその名前からして非人道的な印象がするわけであります。その使用に当たっては厳格な要件のもとに乱用を避けなければならないと考えるのでありますが、どのような場合にどのような手続使用できることとするのでしょうか。
  13. 河上和雄

    河上政府委員 確かにおっしゃいますように、拘束台とか防声具という言葉が非常にきつい言葉でございます。これを使うことがいいかどうかということに関しましては、法制審議会においても十分論議されたところでございます。被収容者が自己に危害を加えるおそれがある場合、つまり自殺のおそれがあるとかあるいは自傷するおそれがあるという場合、あるいは被収容者大声を発し続ける場合、こういった場合に捕縄とか手錠使用あるいは保護室収容しただけでは到底対応できないという事態が例外的にせよやはり発生するおそれがあるわけでございまして、そういうことに対応するために、厳格な制約を設けてその下で使用を認めることとされたわけでございます。  つまり、法案によりますと、法制審議会答申に従いまして、第四十二条第三項及び第四項において、他にこれを防止する手段がないときに限り拘束台または防声具使用し得るというふうにいたしましたし、また、使用に当たっては、その慎重を期するため、直接刑事施設の長の判断によるべきこととするとともに、第六項において、使用時間も三時間を超えてはならないという原則を設け、防声具については継続使用を認めず、拘束台については、例外的に継続の必要ある場合に延長を認めるものの、その期間が全部を通じて十二時間を超えることはできないこととし、さらに第七項及び第八項において、防声具については使用時、拘束台については使用時のほか使用時間延長の際及びその後三時間ごと刑事施設の医師の意見を聴取しなければならない、こういうふうに定めたわけでございます。
  14. 太田誠一

    太田委員 刑事施設法案第四十三条には保護室への収容に関する規定があります。これに類似するものは現行法令にはどこにも見当たらないのでありますが、なぜこのような制度が必要なのでしょうか。いわゆる昼夜独居拘禁ということでは足りないのでしょうか。矯正局長
  15. 河上和雄

    河上政府委員 現行法のもとでも保護房というものがあるわけでございまして、これは現行法上は「収容者鎮静及び保護にあてるため設けられた相応設備及び構造を有する独居房」というふうに理解されておりまして、通達に基づいて保護房使用がなされているところであります。  しかし、保護房実情は、保安あるいは本人の身体保護目的を優先する構造設備となっていますことから、通常の房、居房居室としての居住性に欠けております。また、拘束具使用の場合に近い身体的制約を伴う面の存することは否定しがたいわけでございまして、法案ではこれは、保護房居室とは異なる保護室として、その収容要件手続等法律上明記することとしたわけでございます。  保護室への収容は、被収容者が自分に危害を加えるおそれがあるとき、被収容者が逃走するおそれがある場合において、通常の房に収容したのではこれを防止し得ないとき、または被収容者刑務官制止に従わず大声または騒音を発する場合などにおいて、刑事施設規律及び秩序あるいは大勢の他の同囚に対する迷惑、そういったものを防止し、こういった規律秩序維持するため特に必要があるときに限って行われる、こういうことになっております。こういった事態が生じた場合には刑事施設通常収容体制では対応し切れないわけですので、保護室収容する目的に沿った特別の構造設備、この基準は法務省令で定めることとされておりますが、そういったものを有する保護室に被収容者収容する必要がある、こう考えるわけでございます。  新法案のもとにおきましても、現行のいわゆる昼夜独居拘禁に相当する単独室収容やあるいは処遇というのは可能でございますが、法案の第四十三条に規定されていますとおり、保護室収容するのは通常居室収容することが適当でない場合でありまして、多数の被収容者収容する刑事施設においては、極めて限定的でありますが、規律秩序維持のため特に必要がある場合に限って保護室への収容、こういった制度が必要であると考えたわけでございます。
  16. 太田誠一

    太田委員 時間がきょうは削減されましたので、ちょっと質問を途中飛ばさせていただきまして、今回の監獄法全面改正基本理念として、行刑近代化法律化国際化ということを標榜しているというふうに伺っております。ところが、日本弁護士連合会あるいは地方弁護士会主張を見ると、代用監獄制度は、諸外国にもなく、国際人権B規約にも違反するものであって、この代用監獄制度を存続させることは国際化に背くものであると繰り返しております。この点につきまして法務大臣見解を伺いたいのであります。
  17. 林田悠紀夫

    林田国務大臣 いわゆる代用監獄制度との関係で申し上げますると、国際化とは、代用監獄収容される者の人権保障のあり方が国際的な水準を満たすことであると考えております。  ところで、代用監獄制度は、論理必然的に人権侵害をもたらすものではなく、さらに、刑事施設法案では、警察留置施設に代替収容される者の権利義務に関する事項につきましては原則として刑事施設法規定を適用することといたしまして、本来の刑事施設収容される者との処遇斉一性を図りますとともに、留置施設法案では、留置業務と捜査とを完全に分離しまして、また執務時間外におきましても管理運営上支障がない限り、弁護人面会権を保障するなどの配慮がなされているなど、代用監獄制度は、国際人権規約の諸規定に抵触せず、国際化理念に背くものではないと考えておるところでございます。  しかしながら、法制審議会要綱一一〇項の(二)は、新法運用上の配慮事項として、関係当局に、拘置所増設等に努めて、被勾留者警察留置場収容する例を漸次少なくするという方向を示しているところでありまして、このような趣旨理念として尊重すべきものと考えており、当省といたしましても、その実現に向けて努力する必要があることはもちろんでございます。昭和五十四年度以降十カ年計画で、現在整備中の施設を含めまして、改築三十九庁、移転九庁、増築二庁、計約千八百人の未決収容能力の増加を図る施設整備を進めており、今後とも、拘置所等収容能力がないために代用監獄収容せざるを得ない例の解消に努める所存でございます。
  18. 太田誠一

    太田委員 新聞報道などによりますと、代用監獄制度刑事施設法案規定する内容人権規約に違反しているという国連への通報各種団体個人から相次いで行われているようであります。その通報とはどのようなもので、その結果はどうなるのか、また、これに政府としてどのように対処しようとしているのか。法務大臣見解をお伺いしたいと思います。
  19. 林田悠紀夫

    林田国務大臣 御指摘国連に対する通報とは、国連経済社会理事会決議七二八F、同決議一二三五、同決議一五〇三などに基づきまして、個人民間団体等からの人権侵害通報国連人権センターが受理し、これを経済社会理事会下部組織である人権委員会及びその下部組織である差別防止少数者保護小委員会審議する手続、いわゆる一五〇三手続であります。いわゆる代用監獄制度及びこの制度規定している刑事施設法案などが国際人権B規約に反するなどとの通報が一五〇三手続によりまして、日本民間団体等により行われたことは承知をしております。  これらの通報に対しましては、法務省として慎 重に検討した上で、外務省において相応の対処をされるようお願いしましたところ、政府見解国連に対して示していただいたと聞いております。その後の国連における審議状況は、手続自体が非公開とのことでありまするので明らかではありませんが、今日まで、人権委員会付託決定がなされたとの通知は受けていないと聞いておるのであります。  なお、これらの通報は、代用監獄等をめぐる各種主張国連に対して行ったものでありまするが、この手続による通報対象は、人権及び基本的自由に対し、終始一貫した形態で、大規模かつ確証に基づく人権侵害を呈しているものに限られ、かつ、調査対象となるものは、国内的に可能なすべての手段がとり尽くされていることが要件とされていると理解をしておりまするので、刑事施設法案等が現に国会において討議されているところでありまして、また、裁判等法的手続が保障されている国内問題を、これらの国内の審議の過程を経ずに国連に対して通報したことは、その真意が理解しがたいところでございます。
  20. 太田誠一

    太田委員 最後の質問でございますが、前回の審議の中で、デリー宣言ハンブルク決議といったものが代用監獄制度の問題と関係があり、その決議内容は尊重されるべきであるというふうな質疑答弁がありましたが、このデリー宣言とかハンブルク決議はどのような性格のもので、その関連があるとされる事項は、どのような人が出席してどのような形で決議され、具体的にどのような内容のもので、その効力はどうなのか、また、国際人権規約とはどういう関係にあるかについて明らかにしていただきたいと思います。
  21. 河上和雄

    河上政府委員 デリー宣言というのは、一九五九年、昭和三十四年でございますが、一月にインドのニューデリーで開かれました国際法曹委員会、これは国際法律家委員会とも言うようであります、この大会でなされた決議を指すわけでして、「刑事訴訟と法の支配」、これをテーマとした第三部会において、司法官憲に引致された後の拘禁は警察にゆだねてはならない旨の決議がなされたと聞いております。この大会の詳細等については必ずしも明らかでございませんが、第三部会には平野龍一当時の東京大学教授、及び法務省からも当時の人権擁護局長が出席しております。しかしこの委員会は、法律家だけから成る民間の私的な団体でございまして、出席者日本政府の代表として出席したものではなく、したがって、その決議には何らの国際法的な拘束力はないと理解しております。  また、御指摘ハンブルク決議というのは、一九七九年、昭和五十四年の九月にハンブルクで開かれた第十二回の国際刑法学会、ここでなされた決議を指すと思われます。「刑事手続における人権保障」、これをテーマにしたやはり第三分科会におきまして、「何人も逮捕もしくは身柄拘束を受けた場合にはすみやかに裁判官ないしそれに代わる司法官憲のもとに引致され、被疑事実を告知されなければならない。右司法官憲のもとに出頭後においては被疑者は捜査官憲の拘束下に戻されてはならず、通常の刑務職員の拘束下に置かれなければならない。」旨の決議がここでなされたと聞き及んでおります。この学会には、やはり平野龍一当時の東大教授、それから庭山英雄当時の中京大学教授、五十嵐二葉弁護士、森下忠当時の岡山大学教授、それから石原一彦当時の最高検検事が出席しております。しかし、この学会も任意加盟の学会にしかすぎないわけでございまして、出席者日本政府の代表として出席したものではなく、一法律家として出席したわけでございまして、その決議には何らの国際法的な拘束力はないものと理解いたしております。  また、この決議の後段部分については、ウィーンにおける事前の予備会議において、執拗にこういったものを決議案に取り入れろというようなことを主張された方がございまして、ハンブルクの会議においては、その決議案について各国の異なる法制に注意を払うなどした十分な審議がなされないで、一部の強硬な意見が通るというような形。それからまた、一部の発展途上国におけるいわば警察拷問、こういったものを制約するという観点からのねらいがあってこういうことをしたというふうに聞き及んでおります。  こういった次第でございまして、これらの決議は、それなりの見解として私どもとしては傾聴する、聞くにやぶさかではございませんが、これは理念として尊重する、あるいはそういった一つの理念があるということとは、この人権B規約の解釈とは全然別個のものでございまして、これらのハンブルク決議あるいはデリー宣言人権B規約の解釈を示すものとは考えておりません。
  22. 太田誠一

    太田委員 国際会議とか国際的な学会ということで日本人は大体コンプレックスがあるものですから、そういうものをありがたがる風潮があるけれども、我が国の法的にどのように、例えば国連の規約とかそういうことに拘束をされるものと、そうでない単なる国際会議というものをごっちゃにして混乱をさせないように、ぜひきちっとその辺は今後ともはっきりさしていただきたいと思います。  以上で質問を終わらしていただきます。ありがとうございました。
  23. 戸沢政方

    戸沢委員長 稲葉誠一君。
  24. 稲葉誠一

    ○稲葉(誠)委員 この前質問をいたしまして、序論の序論ということだったのですが、きょうもまだ序論の序論のうちですが、私がずっと戦後の経過をたどってきた中で、一体国会の中で監獄法改正問題について議論というか、それがあったのはどのくらいあるのですか。
  25. 河上和雄

    河上政府委員 私どもの手元の資料によりますと、一番古いのが昭和四十六年二月十七日衆議院の法務委員会で、日本共産党の青柳盛雄委員からだと思いますが、最初の質問がございました。代用監獄監獄法改正の際に廃止しないか、こういうような御意見だったようでございますが、それ以降ことしの三月までの間で五十七回ということでございまして、少なくとも五、六十回はそういった議論があったというふうに承知しております。
  26. 稲葉誠一

    ○稲葉(誠)委員 それは後で一覧表を、これはあなたの方でなくて委員部で調べればいいことですから委員部の方から、私の方で調べまして問題点を指摘しますが、私が疑問に思いますのは、昭和四十二年五月十二日に衆議院の法務委員会で、法務大臣は田中伊三次さんですが、これは第一次の法務大臣のときだったか何次の法務大臣のときかあれですが、たしかそのとき自民党の森田重次郎さんという方が委員ではなかったのでしょうが委員として選任されて、そして質問されているわけですね。この中での具体的内容というのは、どんなことがここで問題とされて、政府側はどういう答弁をしておるのですか。
  27. 河上和雄

    河上政府委員 御指摘の四十二年五月十二日の森田議員からの監獄法についての御質疑でございますが、これは衆議院の法務委員会だろうと思いますが、これによりますと、教育刑主義に立脚すべきでないかとか、あるいは篤志面接委員制度あるいは宗教教誨の効果的な運用を図るべきじゃないかとか職業訓練の問題とか賃金制を採用すべきじゃないかとか職員研修を強化しなければならない、こういったような御指摘があったようでございます。これについて、それぞれ当時の法務大臣あるいは矯正局長の方から、教育刑主義に立脚することも必要であるし、篤志面接委員制度や宗教教誨の効果的な運営を図ることも当然必要である、あるいは適性に応じた職業訓練を行うことも必要であるし、賃金制の採用も、これは現在の法案と多少違っているわけでございますが、検討したいと積極の方向で述べておりますし、職員研修を強化することについても積極のことを答弁しておるようでございます。
  28. 稲葉誠一

    ○稲葉(誠)委員 私がこの前の質問の中で、勝尾矯正局長日弁連の機関誌に書いた論文をずっと援用して細かく質問してきたわけですね。そのときに「刑事施設法案構想—素案」というのを法務省矯正局監獄法改正準備会でつくってあるということが出ているわけですね。それでその資料をい ただきたいということで、昭和四十三年四月のものですが、部外秘として出ているものをいただいたわけですが、これと今度の刑事施設法案と一体どこがどういうふうに違うのですか。
  29. 河上和雄

    河上政府委員 御指摘の四十三年四月の「刑事施設法案構想—素案」というのと現行法案で一番違う問題は、代用監獄の廃止についてのスタンスの問題だろうと思います。  この「素案」によりますと、その附則で、これは条文は打っておりません、附則で、東京と大阪の地域内においては十年先をめどとして、結局代用監獄拘置所に代用することが十年間だけはできるけれどもそれ以降はできない、それからそれ以外の地域、これについては二十年間をめどにして廃止をする、こういったことを主な考え方としているようでございます。  それから、これまでいろいろ問題になっております賃金制とかあるいは信書の発受の問題、これについても現在の考え方とは若干の違いがある、こういうふうに考えております。
  30. 稲葉誠一

    ○稲葉(誠)委員 若干の違いじゃなくて随分違うわけですよね。私の方から言わせれば、現在の案とこの「構想—素案」との違いが随分あるのです。今は代用監獄の点だけあなたは言われましたけれども、この点だけでも、十年で廃止する、二十年で廃止するとちゃんとあるわけですからね。どこがどういうふうに違うのか、今、代用監獄の問題は今後ずっと引き続いてやるというものですから、どことどこがどういうふうに違うのかきちっとした表をつくって、あなたの方は当然できていると思うのだけれども、まだできていないのかな、当然できていると思うのだけれども、できていたら提出をしていただきたい、こう思うのですが、まずそれが一つです。どうですか。
  31. 河上和雄

    河上政府委員 後日提出させていただきます。
  32. 稲葉誠一

    ○稲葉(誠)委員 後日じゃないのよね。それは当然あなたの方でできていなければいけないことだと私は思っておるのですが、随分違うのですよ。今、代用監獄の問題は、これは今後の問題としてずっと引き続き検討していきます、きょうは率直に言うとこの法案審議じゃなかったものですからね、予定が。給与法の審議だというふうに思っておったものですから。それで急にきのうの晩、私にというわけで、短い時間ですけれども、ということであったものですから代用監獄の問題などはこの次の次、十分やりますが、今お話のあった四十二年の五月十二日の中で、これは勝尾さんというよりはむしろ田中大臣は今の賃金制の問題についても、これは読み方にもよるとは思いますが、勝尾さんは「賃金制を取り入れていくという方向が、現在の世界行刑思潮でもあるように私は考えております」、こういうふうなことを言っておられるのですが、田中さんはもう一歩進めて「収容をいたしました人々、その人々に賃金制を採用して、将来、出所をいたしまして社会復帰をいたしましたときに、その助けの一つとなるようにその賃金をたくわえておくということを徹底していくということは、決して間違ったやり方ではないのであります。欧米ではそういう新しい方向にいっております」云々ということを言っておられるわけですね。これは、もちろん読み方にもよるかもわかりませんけれども、大臣が法務委員会で、責任を持って賃金制を導入するということを約束したのだ、こういうふうに私はとるのですよ。  ところが、あなた、今度の法案を見るというと、その分だけでも、今度の法案は七十二条ですね、「作業報奨金」となっていますね。そうでしょう。この「刑事施設法案構想」では、これは六十条と六十一条ですかな。これでは作業賞与金というもの、六十条と、それから作業賃金というもの、六十一条と分けて規定しておるわけでしょう。これが今度のところへ来るというと「作業報奨金」になっちゃっている。「報奨金」の「奨」という字も、これ、こういう字が正しいのかどうか、ちょっと僕もよくわからぬですが、これは国語学者に聞かないとわからぬけれども、「奨」という字、奨励金の「奨」、こういう言い方がいいのかどうか、ちょっと疑問があるのですが、大臣がこうやって約束をしたと私どもは考えておる、賃金制が世界行刑思想だというふうに言われて、そしてそういうふうにするんだ、間違ったやり方じゃないんだからそういう方向でやるんだというように、まあ多少ニュアンスはありますよ、一番最後のところはちょっとあれはあるけれども、そういうふうにとれることを言っていて、それがどんどん後退してしまって変わってしまうというのは一体どういうことなんですか。一つの例ですよ。一つの例として言っているんですよ。いいですか。
  33. 河上和雄

    河上政府委員 確かに御指摘のように森田議員の御質問に対してそういった賃金制について、お約束とまでは思いませんが、大臣が積極の方向を示す答弁をされたことは間違いないようでございます。そしてまた、御指摘のこの森田議員の御質問が恐らくきっかけになったかどうか、というふうに言われておりますが、その後のこの「刑事施設法案構想—素案」、この中で、六十条では一般的に賞与にし、そして特にいいというか作業成績の良好な者に対しては賃金制をとるといった方向を一つ示したことも、示したというか検討したことも間違いないようでございます。  これはちょっと余分なことかもしれませんが、「報奨金」の「奨」は奨学金の奨だろうと思います。  こういったことが、実はこれまでの監獄法改正の経過を私どもずっと拝見いたしますと、委員しばしば御指摘されるように、そういう制度について非常にいろいろ揺れ動いてきております。この四十二年当時はその一つの揺れが、ある意味では賃金制という、被収容者に対して極めて有利な方向に、強くそちらの方に揺れていた時期だろうと思います。その後のやはりいろいろな改正経過、改正のいろいろな試案等の経過を見てみますと、それがまた賃金制を排して普通の報奨金制度に戻るというようないろいろな揺れを経験しているようでございまして、今回の法案について結局賃金制をとらなかったわけでございます。これは御承知のように、私どもとしては法制審議会にこれをお諮りしたわけでございまして、法制審議会の御協議、御討議の中で、やはりこれは賃金制にいくべきであるというのと、作業賞与金制度で足りるとする御意見が激論を闘わしたようでございまして、それもやはり法律をつくるについての理念と現実とのいろいろな揺れがあったのではないかと思いますが、結局法制審議会では賃金制をとらないという結論をいただきまして、その線に沿いまして私どもが現在の作業賞与金、こういった形での法案を作成したわけでございます。
  34. 稲葉誠一

    ○稲葉(誠)委員 今問題点の中の一つについて聞いているだけなんですけれども、だからこの昭和四十二年当時といいますか、この当時から考えていること、考えて一応素案として出したことと今度のは随分違う。随分違うのは、私どもから見ると随分後退しているわけですよ、世界行刑思想なりなんなりから。だからそこが問題なんですよ。問題の一つですよ。いいですか。  今あなた、法制審議会の中でいろいろ激論があったと言いましたね。僕は、法制審議会の中で何という名前の委員がこういう議論をした、何という名前の委員がこういう議論をしたということを、それを出せとは言わないですよ。いいですか。ですけれども前のときなんかは、それは名前は出さないけれども、その議論の内容については資料として提出したことがあるのですよ、法制審議会で。法制審議会のメモをとった人もいるんですがね。それはメモですからあれですけれども。だからそういう基本的な議論を、どうしてちゃんとした資料を出さないのか。これは私は今、法制審議会の中の資料を、ちゃんとしたものを、名前を出せとは言わないですよ。名前を出すとその人があれになるかもわからぬから、名前を出さなくてちゃんと出せるはずなんですよ。これはどうですか。前に出したことがありますよ。
  35. 河上和雄

    河上政府委員 御承知のとおり法制審議会会議内容というのは、各委員の発言を自由にさせるということもございまして秘密にされているわけでございます。一般的なそういった、どういうような議論があったかということに関してはお出 しできるんじゃないかと思いますが、実は私、法制審議会の直接の所管でございませんので、これは司法法制調査部の方の所管になると思いますので、今直ちに私の方で提出しますというふうに申し上げて食言すると申しわけないので、そういうことを、私としては委員の御指摘のようなそういった概括のものは提出して差し支えないんじゃないかと思いますが、向こうの方に通じまして、その上で御返事したいと思います。
  36. 稲葉誠一

    ○稲葉(誠)委員 だから今の問題についても、賃金とそれから奨励金ですか、一体どういうふうにどう違うのかとか、何か非常に細かい議論が細かいじゃない、本質的な議論が出てくると思うのですよ。非常に重要なところだ、こう思うし、被収容者人権の問題に関連して非常に重要なところだ、こう思うのですが、私は七十二条で作業報償金だと思っていたんだ、初め。償という字は償うという意味ですかな。そうしたら奨励金になっているものだから、これはまた性質が違うのかなというふうに考えていたんですが、これはまた別の機会にいたします。  それから、これは「刑政」の九十九巻二号、昭和六十三年二月号に、この当時はまだ東京矯正管区長だった大芝靖郎さんが「外圧から内圧へ」というふうに書いていて、その中に今の問題なども「原材料費の削減に基づく矯正協会協力事業部による作業運営への移行」とかという問題が出ていますね。これは安原さんのやっているあれでしょう。それはまた別なときに聞きますが、そこで「監獄法全面改正にしても、確かに自ら改革を進めたものではあるけれども、それを促した要因は、率直に言って、外的条件の変化による運営の困難ないし行き詰まりにあったことは否めないであろう。」こう言っているのですよ。「外圧から内圧へ」と言うのですが、ちょっと意味が——よく打ち合わせをしてから答弁してください。これは意味がよくわからないですけれども、どういう意味だろう。
  37. 河上和雄

    河上政府委員 大芝元管区長のお書きになったものですから私が推測して申し上げるのもいささかあるいは的外れになるかもしれませんが、外圧ということで大芝さんがお書きになっているのは、昭和四十年代ぐらいを境にして、刑務所に入ってくる新入受刑者の質というのが随分変わってまいりました。特に、これは彼がつい最近お書きになったものだと思いますけれども、最近では例えば女性の社会進出が非常に進むに従いまして女性の受刑者の数がここ十年の間に倍近くにふえてきている。それから、日本社会全体が高齢化が進んだこともございまして、実は六十歳以上の老人受刑者の数がこの十年の間にやはり倍近くになっております。  これは犯罪白書にも出ておりますが、そういった形になっておりますし、最近私どもの方のお医者さんが法務研究した結果によりますと、純然たる精神障害者、これはいわゆるサイコパスとかニューロシス、そういった人たちを除いた形になると思いますが、その数がやはりふえる傾向を示してきております。そういった形のほかに、かつての過激派が盛んに猛威を振るったころで、そういった関連の人たちも入ってくるということで、それは受刑者の質が昔のように窃盗犯を中心としたものではなくなっております。  それから、申し落としましたが、覚せい剤関係の受刑者が現在では二七、八%、女性の場合は実に新入受刑者の五五%が、これは六十二年の統計ですが、覚せい剤関連者ということで、外的な条件が刑務所の中に非常に大きな影響を与えてきているわけでございまして、そういったことが、例えば非常な権利意識、つまり何でもかんでも役所の職員のすることはけしからぬのだというふうな前提からいろいろ批判をし、いろいろな制度を使って争う。それから、他の、同囚と言っておりますが、他の受刑者とのいざこざを絶えず起こす、こういったような方たちが非常にふえてきている。それがある意味では外圧になってきているわけだろうと思います。  それが直接監獄法改正に結びついたかどうかわかりませんが、一つにはそういう受刑者の質が変わってきたということ。それから、国際的な日本の立場というのが随分変わってきておることはもう御承知のとおりでございますが、特に行刑、矯正の世界では、横のつながりというのが非常に強うございまして、他の国家では非常に進歩的な政策をおとりになるところが多くなってきているわけです。それは一つには、他の諸国は非常に犯罪が多くなり、すごく過剰収容になって、それに対応するためにやむを得ず出して、例えばエレクトロニックサーベイランスというような言い方をしておりますが、エレクトロニクス機器を身につけさせて仮釈放して、そしてそれをコントロールするといったような形、ある意味ではこれは人権にいろいろ問題があると思いますけれども、そういったようなものもたくさん出てきております。そういう国際化の波がやはり我が国に押しかけてきて、新しい方向の法律をつくれ、八十年前の法律では到底それに対応できない、そういう形になってきておるのではないか、それをおっしゃっているのではないかと思います。
  38. 稲葉誠一

    ○稲葉(誠)委員 もう一つ、「罪と罰」というのの昭和六十三年一月号にやはり大芝さんが「モデルなき時代の日本矯正」というのを書いておられるわけですね。ドイツ、プロイセンの法、それからアメリカの分類制度、クラシフィケーション、その中で日本がどうだとか、矯正ペシミズムが世界的にあれしているとか、いろいろ出ているわけですね。この論文というか巻頭言、内容があって非常におもしろいですよ。これについてもいずれゆっくり聞きますから、よく研究しておいてください。  そこで、大臣がことしの十月十八日、これは保岡さんですか、この質問に対してお答えをしておる中で、いろいろな問題があるということで、一つ、二つ、三つ、四つ、こう挙げているわけですね。「第二には、刑事施設運営を時代に応じたものにするために、これまで法務省令や膨大な訓令、通達を出すことによりまして法律の不備を補ってまいりましたが、それももう限界を超えておりまして、監獄法令の体系的理解の点で混乱が生じてきておるのであります。」こういうふうに大臣は答えておるわけですよ。  私がここで聞きたいのは、現在、本来法律でやるべきものを通達なり訓令などでずっとやっておる、省令でもありますかな、それでやっているのだという意味にもとれるのですね。それから、体系的理解の点で混乱が生じておるということも言っておられる。限界だということも言っておられる。これは大臣の答弁ですけれども、率直に言うと抽象的な、あなた方が書かれたものをまとめて答弁されたのだと思うのですが、具体的に何を言っておることやら、これだけじゃわからないですよ。だからあなたの方としてちゃんとした資料を提出していただかないとこれはわからないことなんです。  そこで、現在の監獄法が憲法上とのかかわり合いで問題があるとされる点、あるかないかは別ですよ、あるとされる点、それから、法律上現在の監獄法ではできないという点、あるいは今言ったようにそれを省令とか通達とか訓令で賄っている点、こういうふうに分けて、これは、この前お話しした朝倉さんが矯正局の参事官時代に書いた論文があるので私は今探しているのですが、あなたの方にあるかな。あれば、非常に詳しい論文ですよ、一つ一つ分けて。どこがどういう問題なのか、これだけ言われたってわからない。率直に言えば、結局法律の不備なところをみんなこれらのもので補ってきたというわけでしょう。この法律がなければできないところというのは、帰休制度だってこれでできるでしょう、今現実にやっているのでしょう。うちへ泊まらせてやるのは、刑の執行との関係、執行の日数との関係でそれは法律改正が必要だけれども、そうでないものはみんなやっているじゃないですか。やっているのじゃないかと思うのだけれども、今私が読んだ、大臣が答えた第二の点についてもっと詳しくきちんとした説明をしてもらわないとわからない。
  39. 河上和雄

    河上政府委員 大臣仰せのとおり、概括的なお 答えをしたわけでございます。  今おっしゃいました例えば現在の訓令、通達、つまり法律以外の下位の法規の中でやはり憲法とのかかわりがあるものではないかというふうに指摘されるもの、これは私どもはそう考えておるわけではなくても、指摘されるものも確かに若干ございますし、それから、やはり本来法律事項ではないか、それを省令あるいは場合によれば通達のような下位法令で賄っているのではないかというふうに言われている部分もございます。     〔委員長退席、井出委員長代理着席〕 これはまた整理いたしまして後日提出いたしたいと思いますが、例えば現在訓令、通達として、大まかな数字でございますけれども、訓令が約四十でございます。それから通達が約六百ございまして、これは六百という数字は実は大変な数字で、特に第一線の刑務官はやはりどうしても混乱を来す。長い八十年の年月の間にいろいろな通達が出ているわけでございますから、読み方によっては、最初の通達、これは廃止されないままに生きている通達と最近の通達との間ではやはりそごが生じるようなものもあるわけでございますので、これは余り数が多過ぎて、すぐそういったものが出るかどうか若干心もとないわけですけれども、そういったものもでき得る限り整理したいと思っております。  そういうことで、これは委員承知のとおり、結局監獄法がなかなか法律改正ができないということもございまして、たしか昭和四十一年でしたか、それまでの監獄法改正機運刑法改正に合わせようということで一段落したときに、それに機を合わせるようにいたしまして監獄法施行規則を大幅に改正いたしました。そのために若干監獄法改正というものがおくれてしまったというような経緯もあるわけでございます。
  40. 稲葉誠一

    ○稲葉(誠)委員 今おっしゃった中で、例えば訓令なり通達なりというものは今度の法律の中にどういうふうに法律化されているのですか。本来法律化されるべきものであったというものが訓令なり通達なりで行われておったとするならば、それは今度の刑事施設法の中にどういうところにどういうふうに入っておるのですか。
  41. 河上和雄

    河上政府委員 先ほどちょうど例示された外出について申し上げます。  これも現在の監獄法自体のつくられた当時の考え方からいけば、受刑者が現在、例えば構外作業場でああいった形で働いたり、あるいはこれは釈放前にやはり何人か隊を組ませましてスーパーマーケットその他に行って現実の社会感覚というのを身につけさせるようなことをしておりますけれども、こういったものも当時の法律考え方からはやはり逸脱しているのじゃないかと思われますが、その後これは訓令の改正でそういうことができるようにいたしました。通達もさらにその辺を補充しているわけですが、だけれども法律がやはり刑法を受けて、刑役に服させるという格好になっている関係でございます。しかも、それは監獄内に閉じ込めておくというのが現在の法律考え方ですので、これを外に出すについては、訓令でそういうことをさせていますが、常に戒護の職員が一緒についている。つまり監視下に置いて、いわば刑務所の外で、その辺でいろいろな作業をするのを見張っているのと同じような理論構成をとっているわけです。  ところが、今度の法案ではそうではなくて、これはもう戒護一切なしに外出ができるといった形で基本的に考え方が変わっているわけでございまして、これは戒護なしに出すことができる、外出させることができるというのは、現在の法律では到底できない。そういうことが一つの例として挙げることができるだろうと思います。
  42. 稲葉誠一

    ○稲葉(誠)委員 今私が申した朝倉京一さんの論文ですね、これは僕も探していたんだけれども見つからないんだよ。頭の中に記憶があるんだ。ちゃんと詳しく分けてあるんだよ。これはあなたの方にあるんでしょう。
  43. 河上和雄

    河上政府委員 実は、御指摘ございましたので御本人にも確かめましたが、書いた覚えがないとおっしゃいますし、大体あらゆる資料を私どもの方であさりましたが、なかなかおっしゃるような適切な資料が出てこないので、もう少し探すつもりでおります。
  44. 稲葉誠一

    ○稲葉(誠)委員 じゃ私の方も、朝倉さんいろいろ論文を書いておられますからね、それを調べてみたいと思います。  それから、「行刑施設職員は余りふえておらず、職員一人当たりの被収容者の負担率は先進諸国の中で一、二位を争う高いものになっておるのであります。」ということ、これはやはり大臣が答弁をしているんですね。それから、いろいろ言っておられる。私も刑務官のことよく知っております、篤志面接委員もやっておるし、いろいろ知っておりますから、事情よくわかるのですが、まず刑務所の定員というのがあるでしょう。刑務所の格がある。格と言うと語弊があるけれども、部制によって五部のあるところと二部のあるところといろいろ違いますね。そこら辺のところから説明していただいて、一体定員の何割ぐらいが適正な矯正の実を上げることができるのかということ、これは僕らが聞いているのは、六割から七割だと聞いているわけですよ、腹を割って聞くというと。ところが今はそうじゃなくて、一〇〇%を超えているところもあるのじゃないですか、収容所が。さっきアメリカとかその他の例を挙げたけれども、これは特別ですわ。ですから、そうすると今職員に対する被収容者の負担率というのは一体どういうふうになっているのかということと、定員が何で、どういう基準で決まっているのか、現在定員の何割ぐらいが本当の適正な矯正の施設運用として考えられるのか、こういう点をしっかり把握をしてもらわないと、それを非常にオーバーしているところもあるわけですから、そこをどういうふうに考えたらいいのですか。
  45. 河上和雄

    河上政府委員 現在の行刑職員の被収容者に対する割合でございますが、これは一人の職員が三人以上、たしか三・二五ぐらいだったと思いますが、ちょっと数字自信ございません。三・二五か二二か、その辺だと思いますが、一人の職員が少なくとも三人以上の被収容者を相手にしている、こういう状況でございまして、これは世界各国、一応先進諸国を基準としてみますというと、これはカナダの連邦だったですか、ここが結構高い数字で、その次ぐらいになるだろう、こう言われております。  今おっしゃいました一人の職員が一体どれだけの被収容者対象にするのが最も適切かというのは、これは矯正の世界の中でもいろいろ議論があるようでございまして、一対二がいいんだとか、あるいは一対一がいいんだとか、いろいろなことを言われておりますが、押しなべて一般的に言うことは必ずしも正しくないのじゃないかと思います。つまり、被収容者が可塑性に富んだ、しかも初犯者で非常に社会復帰の可能性の強いような人たちの場合にはやはりそれだけ手厚く、職員の数が多い方がある意味で社会復帰できる、こういう考え方と、そういう人たちは何もしなくたってちゃんと社会復帰できるんだからむしろ数を減らしてもいい、やくざその他の暴力団、日本の場合三〇%入っているわけですが、そういう手のかかる人間にこそ職員をたくさん配置すべきだ、こういういろいろな議論もあるわけです。ですから、対象によって分けるべきだという考え方と、その考え方にも手厚くやれというのと手薄くて結構だという考え方があって、必ずしも一般的な基準というのはどうも出てないようでございますが、結局、押しなべて言いますと、そういったあらゆるごったな受刑者に対して、通常は一対二ぐらい、一人の職員が二人の被収容者を相手にするぐらいというのがほぼ一般的な世界的な傾向のように思われます。  それから、今おっしゃいました、現在の我が国刑務所職員定員、それと職員の配置の問題でございます。  この関係は、職員定員は、それぞれ被収容者の資質、つまりB級施設、非常に犯罪の度が進んだ人たち、それからA級施設、これは進んでない人 たち、それからL級、つまり七年以上の長期囚が入っている、そういったような施設に応じて、それぞれ職員の配置を変えております。つまり、B級とかL級はどうしても職員が手厚くなるわけです。それから、これは場所的な問題がございまして、非常に不便な場所の場合と比較的便利のいい場所の場合にもございます。それから、何といっても八十年の歴史がある関係もございまして、必ずしも合理的ではない昔からの配置がそのまま現在まで来てしまって、これを直ちに、多過ぎるからといってとるということは、そういうことで現在運営がされているためになかなか難しいようなこともございまして、一概にはいきかねるだろうと思っております。  それから、もう一つおっしゃいました何割ぐらいが適当なのか、こういう点でございますけれども、これは私専門家でございませんが、一応この仕事につきましてからあれこれ聞いてみますと、現在大体九割をちょっと超えているわけです。それから、女子施設はもう一〇〇%超えておりますが、そのぐらいの方が職員全体が緊張して非常に仕事がスムーズにいくんだという管理者もいるかと思うと、先ほど委員指摘のように、七割ぐらいの方が事故も少なくて結構なんだ、こうおっしゃる方もいまして、どれが適切とも言いかねます。だから、いずれにしろ私どもとしては、これは先ほどの話じゃございませんが、犯罪情勢の変化に応じて入ってくる方の数が違ってくるわけですから、それに対してこちらの方だけで、七割がいいからいつも七割というわけにいかないわけでして、どんな場合にも対応できなければいかぬわけでございますので、それだけの努力をしたいと思っております。
  46. 稲葉誠一

    ○稲葉(誠)委員 きょうは時間が短いものですから、私が要求しました資料を、おわかりになったと思うのですが、なかなかこれは大変だと思いますよ。大変だと思うけれども、やはりそれだけにちゃんとしないといかぬと思いますね。それから最後のところの収容人員とそれから定員との関係、これなんかもちゃんと、きちんとした資料を出していただかないといかぬと思いますね。  それから、今あなたの言われた三・二五とかなんとかというのは、これは全職員じゃなくて保安職員との関係だけの話ですか、そこがちょっとはっきりしないのだけれども。そうでしょう。
  47. 河上和雄

    河上政府委員 これは全職員、全行刑職員です。
  48. 稲葉誠一

    ○稲葉(誠)委員 では時間が来たので、きょうはこれで終わります。  きょうは、今言ったようないろんな資料をちゃんと整理したものをきちんと出していただきたい、こういう点が主眼で言ったわけです。  きょうはこれで終わります。一応ですよ、一応終わります。
  49. 井出正一

    ○井出委員長代理 中村巖君。
  50. 中村巖

    ○中村(巖)委員 刑事施設法審議ということでありますけれども、私はこれについては本会議で提案の趣旨説明に対して質問をしたところでございます。そのときにも申し上げておりますけれども、この刑事施設法については大いに問題がある、こういうことでございます。ただ、きょうは私の質問時間はわずか二十五分、こういうことでありますから、本当の序論の序論しか聞けない、こういうことでございます。  刑事施設法それ自体については、これはたびたび言われておりますように明治四十一年からの法律でありまして、八十年を経過するわけであります。そういう監獄法改正する、こういうことでありますから、それは何としてでも必要なことでありまして、明治四十一年施行監獄法が現に生きているということ自体がもう驚異的な、驚くべきことであるわけでございまして、その間に現行憲法が施行をされておるわけで、また八十年もたちますれば、やはり世界行刑の思潮というようなものも変わってくるわけであります。にもかかわらず、そんな以前の法律がなお生きておられたということ、それは、どうしてそんなことがあり得るのだろうかという感じがいたすわけでございまして、そういう意味ではこれは変えなければならないのは当然であります。  しかし問題は、その中身であるわけでありまして、私が既に本会議指摘をしておりますように、幾つかの重大な問題がある。  一つは、代用監獄制度をなお現状のまま維持しようという、ここに大きな問題があるということでありますし、あるいはまたこれも指摘されておりますけれども、弁護人の接見交通権について、憲法の理念あるいはまた刑事訴訟法の規定とこの刑事施設法とが背馳をするというか乖離があるというか、いわばもっと言えば真っ向から違っているのではないか、こういう点があるわけです。そのほかにもいろいろな問題があります。  行刑についても、自由刑の執行というものについても、一体今度のような法律でいいのだろうかということが問題であります。つまり、監獄法が大変古いということで、古いままに来ているわけでありますけれども、監獄、自由刑の執行という、こういう部分というのは、やはり人権を制限しようという場面でありますから、人権考え方との間に非常に緊迫した、コンフリクトな場面があるわけでありまして、その人権の方の考え方が変わってくれば、やはり行刑のあり方というものも大幅に変わっていかなければならない。そうだとすると、今の人権に対する考え方、そういうものを最大限に尊重したときに、今の行刑のあり方でいいのか、こういう問題は出ざるを得ないというふうに思うのでございます。  そこで、きょうのところは自由刑の執行、行刑というものに限って若干序論的なことをお伺い申し上げたいというふうに思っております。  まず、今回の刑事施設法を立法されるに当たって、自由刑行刑目的というものをどういうふうに考えて立法化、立案がなされたのかということ、つまり自由刑目的をどう考えておられるのかということについて大臣にお伺いをしたいと思います。     〔井出委員長代理退席、委員長着席〕
  51. 林田悠紀夫

    林田国務大臣 自由刑行刑目的でございまするが、受刑者を社会の有用な一員として社会復帰をさせることが重要な問題であると考えております。行刑目的は、受刑者の改善更生を図ることが基本でございまして、法案はその理念に基づきまして処遇のあらゆる場面で個々の受刑者の資質と環境に応じましてその自覚に訴え、改善更生の意欲の喚起と社会生活に適応する能力を育成していくということを旨としておるところでございます。
  52. 中村巖

    ○中村(巖)委員 改善教育、こういう理念だというふうなおっしゃり方でございますけれども、これは矯正局長に伺いたいわけですが、行刑目的が、それは世界的に、一元的にそういうことなんだということで言われているということでは必ずしもないだろうと思いますし、行刑に関する目的を中心とする行刑思想というものは、いろいろな国である時期、時代というか、そういうものによっていろいろ考え得るし、学者とかそういうものから言わせてもいろいろなことが言われているわけでございまして、今大臣が御答弁になったような行刑目的というもの、これは世界的な行刑思想の中でどういう位置を占めているというか、どういうふうになっているのか、それをお答えいただきたいと思います。
  53. 河上和雄

    河上政府委員 委員法律家でいらっしゃいますから十分御承知のとおりでございまして、十九世紀以前の考え方からいけば応報刑というのが自由刑の中心的な考え方であった、こう言われているわけでございます。ただ、少なくとも戦後の我が国の矯正における行刑目的というのは、ただいま大臣が答弁されたような被収容者の改善更生、社会復帰、これが中心になって私どもとしては行刑行政をやってきているわけでございます。  幸いにして日本の場合はこのところ受刑者の数の大きな増大はございません。戦後の一時期、これは昭和二十年代ですが、約八万人余り入った時期がございますが、その後は減りまして、ここ十数年来はおおむね四万から五万、場合によれば三 万台にまで減るということもございましたが、大体現在の四万五、六千人の受刑者の数、ほぼこれを中心とした形で揺れ動いておる、波になっておるわけでございます。  ところが、先進諸国、特にアメリカあるいはオーストラリア、それからヨーロッパ諸国、これは犯罪白書にもございますが、この十年来、大変犯罪が増加しております。犯罪が増加したことの必然的な結果として、刑務所にたくさんの被収容者が入ってきて大変な過剰拘禁になってきております。そのために、例えばアメリカあたりでは施設によっては、これは州の施設のようですが、三倍もの人間を入れて、これはアメリカの学者に言わせると、いわば人間倉庫がわりに刑務所を使っているといったような言葉で形容されるようなひどい状況になっているようでございます。  そういう過剰収容が国際的な一般的な風潮になっている関係から、いわば改善更生によって社会に復帰させるという矯正の理念、これはもう誤りであった。つまり、累犯者がたくさんふえてきているからまたそれだけの過剰収容になるわけなのであって誤りであって、もうそういうことを考えないで単に、人間倉庫というのは少し言い過ぎかもしれませんけれども、もっと事務的に扱わなければいけないんじゃないかというふうな議論が最近世界各国の中から出てきているようでございまして、矯正は比較的国際的な横のつながりが強い組織の関係もございまして、私も国際会議に出たりあるいは月に四、五人のそういった外国関係者と会うわけですが、その人たちの多く、特に過剰収容に悩んでいる国の多くの人たちは、もう人間人間を改善するだなんて不可能なことを夢見てもだめだというような、非常にぺシミスティックな考え方をされているようでございます。  ただ、日本の場合は幸いにして、最初に申し上げましたように、まだまだそういった過剰収容に悩んでおりませんし、社会一般もそれほど犯罪がふえてないわけでございまして、私どもとしては何とか入っている人たちに教化教育をして、外へ有用な社会の一員として出している、そしてそれが現実にある程度の効果を上げているというふうに信じて仕事をしているわけでございます。
  54. 中村巖

    ○中村(巖)委員 今お話がありましたけれども、過剰拘禁の結果だということだけではなくて、やはり教育改善というものを実効がないにもかかわらず目指すからして収容者に対する干渉というか管理、統制が過剰になり過ぎるのじゃないか。ただ閉じ込めておくということであるならば、もうちょっとそんな被収容者の日常生活に過剰な干渉をしないで済むのではないか、こういうような考えがあって、そういう考え方からすれば行刑理念が変わってこなければならぬのだと思いますが、その点についてはいかが考えますか。
  55. 河上和雄

    河上政府委員 確かにおっしゃるような考え方というのは十分あり得るところだと思いますし、国際的な矯正の社会の中ではむしろそういう考え方の方がある意味では主流かもしれないと思います。  ただ、先ほど申し上げましたように、私どもとしては現実の問題として過剰収容にもなっておらず、つまり社会一般における犯罪というのはそれほど特にふえているわけでもなく、そして新入受刑者の数もここずっと、しばらくの間年間約三万人が入ってきて年間約三万人が出ていく、常時滞留しているのが大体四万五、六千、こういう状況の中で今回の法案提出したわけでございます。  単に犯罪を犯した人たち社会から隔離して倉庫がわりに刑務所を使うといったようなところまでもし理念を放棄したとすると、実は職員自体がそういうものに対して非常に荒廃した気持ちになってくることを私どもとしては恐れておりますし、何といっても現実には六割近くの累犯者が現在中に入っているわけですが、四割の人たちは教化教育の効果が上がって社会に復帰して立派な生活をしているんだ、そのために我々は努力した、ある意味では、おっしゃるように頼まれもしないのに一生懸命おまえたちが改善教化、改善教化といって人の細かな生活あるいは精神生活の中にまで入るのはけしからぬ、こういうふうな御意見もないわけじゃないと思います。  しかし、やはり社会の有用な一員としてそういう人たちが帰るというのは、本人自身のためにもあるいは社会自身のためにも非常にすばらしいことだというふうに私ども考えているわけでして、この理念からは離れることができないということもございまして、今回の刑事施設法案も第一条では、被収容者人権を尊重するということをもちろんうたっておりますが、受刑者の関係では四十八条で「受刑者の処遇は、その収容を確保しつつ、その者の資質及び環境に応じ、その自覚に訴え、改善更生の意欲の喚起及び社会生活に適応する能力の育成を図ることを旨として行うものとする。」ということで、社会復帰というものを我々としては考えて、それを職員全体が信じてやっている、こういうことでございます。
  56. 中村巖

    ○中村(巖)委員 教育改善、それは私はあり得べき理念だというふうには思うのですけれども、現実問題としてはなかなかそれが実現できないということが実態だろうと思っております。つまり、極めて俗っぽく言えば、刑務所に行ってますます人間が悪くなってしまった、こういうふうに言う人が多いわけでありまして、現実にまた数字の上におきましても、いわゆる再犯率というか、そういうものがかなりのものに上っている。また刑務所へ逆戻りという人たちがかなりの数に上るわけでありまして、そういうような状況、つまり教育改善の効果というのが現に上がっていないのじゃないかということについて大臣はいかがお考えでしょうか。
  57. 林田悠紀夫

    林田国務大臣 今犯罪の状況を見ておりますると、先生のおっしゃるように、累犯が非常に多いわけでございまして、せっかく刑務所から出ましても、すぐまた犯罪を犯して刑務所に帰ってこなければならぬ、こういうことが多いわけでございます。  しかし、御承知のように更生保護事業が社会の一般的な事業として非常に進んできておりまして、何とかして更生保護を図っていこうという方々が大勢いらっしゃるわけです。しかしながら、一般の人は更生保護に対しまして必ずしも好意的ではない。更生保護施設を設けようと思いましてもその人々が反対をされるということもあるわけでございまして、やはり犯罪を犯して出てきた人が社会復帰ができるようにみんなが温かく接してやる、見守ってやるということが必要だろうと思います。社会一般がよくなりまして、そこで犯罪も減ってくるということになるわけでございます。だから、そういうような更生保護の思想をこの社会にもっともっと普及していきたい、かように考えておるところでございます。
  58. 中村巖

    ○中村(巖)委員 そういう社会復帰ができて、再犯が生じない、累犯が生じないということなら大変結構なのですけれども、実はそうなってないだろうと思うので、現実に再犯の状況というものが数字の上でどういうことになっているのか、お聞きをいたしたいと思うのです。
  59. 河上和雄

    河上政府委員 昭和六十年、六十一年、六十二年の三年間の統計で申し上げますと、昭和六十年に刑務所に新しく入ってきた、新入受刑者と言っておりますが、三万一千六百五十六人いるわけでございますが、そのうちの三九・七%、約四〇%が初めて刑務所に入る人たち、したがって残りの六〇・三%、これが二度、三度、四度と入ってくるいわゆる累犯者、累入者でございます。昭和六十一年は三万六百五十一人の新入受刑者がありましたが、そのうちの三九・八%が初入者、六〇・二%が再入者。昭和六十二年は二万九千七百二十六人、若干減ったわけですが、新入受刑者、このうちの三九・三%が初入者、六〇・七%が再入者、そういう形になっております。
  60. 中村巖

    ○中村(巖)委員 時系列的にもっと長くとればどういうことになっているのか私もよくわかりませんが、いずれにしても、そういうような数字が示されるということは、長年、行刑目的はこうなんだということで、そのために職員も努力をしておるのだと言いながらも、やはりその効果という か、その実というものは上がっておらないというのが現状じゃないか、こういうふうに思うので、その辺のことも十分にこれからも考えていかなければならないことではなかろうかというふうに思います。  そこで、次の問題でありますけれども、行刑目的はそういうことなんだということでありますが、今回の刑事施設法においては、法律目的として、第一条に「刑事施設の適正な管理運営を図り、」という言葉が最初に出てくる。「被収容者人権を尊重しつつ、」ということもありますけれども、「刑事施設の適正な管理運営を図り、」ということがまず第一の目的であるということでは、いわばいうところの教育改善、そして社会復帰ということを図るということと必ずしも一致していないのじゃないかという感じがするわけでございます。  しかも、なおかつ今回の場合、法案の名前が刑事施設法案ということでありまして、施設の管理運営法律であって、受刑者に対する処遇について十分な配慮をするための法律処遇をこういうふうにやっていくんだという考え方を鮮明にするところの法律でない形になっている。どうしてこういうことになるのか。やはり施設中心主義の考え方から脱却できていないのじゃないか、こういうことが思われるわけですが、いかがお考えでしょうか。
  61. 河上和雄

    河上政府委員 刑務所に対する世間的な考え方というのは、大きく分けて二つの面があるのではないかと思います。  一つは、犯罪を犯し、つまり殺人、放火、強盗、強姦、本当に悪いことをした連中を閉じ込めてそして懲りさせるといった側面、つまり、そういう人たち社会に大手を振って出てきたのでは危なくてしょうがないから、ともかく閉じ込めておかなければならないんだということを世間が期待している、そういう面が世間の一般的な常識として否定し切れないということがあるのだろうと思います。  それから、これまで議論してきております私どもとしては、外でやったことはどうであれ、ともかく入ってきている以上は何とか、古い言葉ですが真人間にして社会に送り帰したい、こういった大きく分けて二つの面があるのではないだろうかと思います。  確かにおっしゃいますように、今回の法案の一条では「刑事施設の適正な管理運営を図り、」というのが一番冒頭に出てきていますので、管理運営ばかりをまず重点事項として考えているのではないかというふうな御指摘だろうかと思いますが、決してそういうわけではないわけでございまして、ここに言う管理運営というのは、結局ある意味ではさきに申し上げました世間一般の考え方に対応するものではありますけれども、刑法とか刑事訴訟法といった我が国の国家刑罰権の行使に関する法律によって、ともかくそこに収容しなければいけないということを義務づけられているわけですから、そういう施設としては、その施設運営が完全に行われて世間一般に不安を与えないということが非常に大切なことだと思いますので、その点を一つ目的の中に出したわけです。これは最初に出したからといって決してこれが一番重要という意味ではないだろうと思います。  ちなみに、監獄法改正の骨子となる法制審議会要綱におきましても、「法律目的」として「この法律は、刑事施設の適正な管理運営を図り、被収容者人権を尊重しつつ、拘禁の性質に応じた適切な処遇を行うことを目的とすること。」というふうに、この一条と同じ形での要綱となっているわけでございまして、刑事施設の持っているいろいろな性格をここで一つあらわしているのではないかと思います。  それから、刑事施設法という言葉を使ったのはもともと管理運営ばかり考えているのではないかというふうな御趣旨かと思いますが、当時法制審議会でどういう名前にするかということについて議論が行われました。多い順からいきますと、刑事施設法、それから行刑及び未決拘禁等の執行に関する法律、それから刑事拘禁法、こういう議論があったようでございます。現在の法律は、御承知のとおり監獄法という非常に古い名前なわけでございます。監獄というのはある意味では場所をあらわしているわけです。刑事施設というのも、これは受刑者を収容する刑務所ばかりでなく、被告人、被疑者を収容する拘置所も一つの法律規定する関係もあって、最も総括的な一般的な抽象的な名前であるということで刑事施設法委員の皆さん方の多数の賛成を得て採択された、こういうふうに理解しておりまして、そういった法制審議会の御答申を受けて、私どもとしてはこういう名前にしたわけでございます。
  62. 中村巖

    ○中村(巖)委員 未決拘禁者と受刑者というものは全然立場が違う。そういうものを一緒くたに一つの法律規定をしようとするところに一つの問題があるのではなかろうかと思いますけれども、それから以降の議論はこの次にいたしまして、時間がなくなりましたので、これで終わります。
  63. 戸沢政方

    戸沢委員長 安倍基雄君。
  64. 安倍基雄

    ○安倍(基)委員 私に与えられた時間が非常に短いものですから、この前は代用監獄の漸減規定というかテンポラリー的な性格についてお聞きしましたけれども、接見交通が大問題なんですけれども、十五分ではしゃべれませんので、きょうは別の問題を取り上げたいと思います。  基本的には既決と未決ですが、未決というのは、起訴されてもあるいは起訴される前の段階でも、全く普通の自由人と本来は想定してもいいはずの話なわけです。確かに起訴されたあるいは被疑者というものは性格的に全くの自由人と違うという議論もありましょうけれども、基本的にはまだはっきり判決が出る前は無罪と推定されるわけですから、そういったことで、この辺の未決と既決の差というのは非常に大事ではないか。昔つくった監獄法みたいなものは、官吏が捕まえてしまったらもうそれは罪人だというぐらいの観念でされておる。ところが、現在我々の考え方としては、未決というのはあくまでも本来は自由人という観念で考えるべきであろう。  それで、この未決と既決との取り扱いについて今度の刑事施設法はどういう点で大きな差異を設けているのかということを第一点にお聞きしたいと思います。
  65. 河上和雄

    河上政府委員 確かに、委員指摘のように、未決と既決では大きな違いがあるわけでございまして、未決の人の場合は無罪の推定を受けておりますし、一般社会人とできる限り同じ形での処遇というのが考えられるわけでございます。そういったことを背景にいたしまして、まず基本原則として、今度の法案の一条で「収容の性質に応じた適切な処遇を行う」ということをまず目的に掲げました。また、第五条では、法律の解釈及び運用は、収容の性質を十分に考慮して行うというふうに、未決と既決とは違うのだということを法律の中でも明らかにしているわけでございます。  具体的な例に入らせていただきますと、例えば書籍についてでありますが、受刑者も被勾留者、未決も既決も閲覧の自由が一応原則として保障されていますが、閲覧の禁止事由の点で両者は大きく異なっております。受刑者については矯正処遇実施上の観点から、また被勾留者、つまり未決の人たちについては罪証隠滅防止上の観点から閲覧が場合により制限されることがある、こういうふうな規定になっております。  それから、面会及び信書の発信、それから受信、こういったものにつきましては、受刑者も未決の被勾留者原則として権利として認めております。しかし、面会及び信書の発受の相手方の範囲、制限事由の内容等については、受刑者と未決では当然差があるばかりでなく、未決の人たちについては弁護人との面会及び信書の発受に対してはいわばフリーパスという形で、特別な配慮がなされております。  それから、自弁物品というのがございます。これは自分の費用で内部にあっていろいろなものを使う、買うことでございますが、自弁物品については受刑者も未決の被勾留者も品目の範囲が現行 よりかなり拡大されておりますが、未決の被勾留者については自弁が権利というような形で保障されております。  それからさらに、くどくなりますが、髪の毛とかひげそり、こういったことについては、受刑者は集団処遇しなければならないので、ある程度外観上の斉一性を保つという方向からやっておりますが、未決の被勾留者にあっては衛生上の理由に限って行うということにしております。  その他処遇差はいろいろございますが、未決については、委員指摘のように、原則としてできる限り社会生活に近づけたいというふうな配慮をしております。
  66. 安倍基雄

    ○安倍(基)委員 その問題の中で特に重要なのは信書の検査というか、接見交通とちょっと似たような感じになるわけですけれども、これはやはり非常に重要な問題でございまして、百十四条を見ますと、一般的な検査をする。しかし「弁護人等から受ける信書については、その旨を確認するため必要な限度において、これを検査する。」と言っておりますけれども、「必要な限度」というのは一体どういう形でなされるのか。  それから、弁護士からの信書というのは、現実問題としてこれからどう扱われるのか。その二点についてお聞きしたいと思います。
  67. 河上和雄

    河上政府委員 弁護人と未決の人たちとの信書の発受の関係でございますが、百十四条の二項では、確かに御指摘のように「前項の規定にかかわらず、被勾留者が国又は地方公共団体の機関から受ける信書及び弁護人等から受ける信書については、その旨を確認するため必要な限度において、これを検査する。」となっておりまして、これは弁護人から来た信書かどうかということを確認しませんと、弁護人の名前を使っていても全然弁護人以外の人の場合もあり得るわけですので、弁護人から来たものかどうかということだけを確認する、そういった形で、内容の検査には及ばない。ただし、百十三条の方で、信書を出す場合については、弁護人に出す場合も一応内容については見させていただく、こういうふうな形をとっております。
  68. 安倍基雄

    ○安倍(基)委員 そうすると、弁護人から来るものは、筆跡から見てもう既に弁護士であるということがはっきりしているというような場合には、一々中を見ないのですね。
  69. 河上和雄

    河上政府委員 さようでございます。
  70. 安倍基雄

    ○安倍(基)委員 弁護士にあてて出す文書、これは考えようによっては何をするかわからぬという懸念もあるかもしれませんけれども、ただしかし、自由人というか無罪の推定を受けている人間であれば、例えば証拠隠滅のおそれがあるとかないとかいう懸念をお持ちかどうかわかりませんけれども、本来弁護士というものはそれだけのいわば信用を持っている人間なわけですから、弁護士にあてての文書というのについても、弁護士から来る文書と似たような考えでやれないものかどうか。これはほかの国はどうなっているんだろうかなと、これはきのう質問出したつもりだったのですけれども、ちょっとまだ届いていなかったらしいので、急な質問になるかもしれませんが……。
  71. 河上和雄

    河上政府委員 まず、我が国のこの法案関係から申し上げますと、確かに弁護人自体は私ども信用しているわけでございますが、弁護人にあてたものの中に第三者あての信書を忍び込ませたり、それから弁護人を利用して外部との通信をしようとする例が多々ございます。そういうこともありまして、一応中身を確認させていただくというふうな法案になったわけでございます。  今委員指摘世界各国の考え方といいますか扱いでございますが、例えばイギリスでは、規律秩序維持、犯罪の防止または個人の利益あるいは名誉、こういった観点から一般的、個別的に信書について制限できる、こういう考え方をとっているようでございます。  また、西ドイツではこれは刑事訴訟法、イギリスは法律じゃないですが、西ドイツの場合は刑事訴訟法の百十九条三項において、勾留されている者には、勾留の目的または収容施設内の秩序維持に必要な制限を課することを認め、急を要する場合には、その制限を施設の長がとり得ることを規定しているというような形になって、秩序維持ということがやはり制限事由になっているようです。  それからフランスでは、これは政令でございますが、政令の六十九条で弁護人の発する信書には資格の証明を義務づける、つまり、弁護人から来たものだということの資格証明を義務づけて、検閲は省略しております。そして、事実弁護人にあてられたことが明らかに認められたときについては、そのまま信書を発信させているというようなことでございます。
  72. 安倍基雄

    ○安倍(基)委員 ちょっと細かいことを言うようですけれども、忍ばせるという意味からいえば、来る文書だって忍ばせて来ることもあるわけですね。逆に、出す方と来る方と、忍ばせるという方法については余り大差はないんですね。  それからもう一つ、フランスははっきりしていますけれども、イギリス、ドイツの場合にはむしろ秩序維持というような話で、別に内容の検査とはちょっと違うような感じの書き方ですね。ですからこの辺は、私の今の理解は、フランスの場合には出す方についても、何か弁護士あてについては余りうるさく言わぬというようなぐあいに読めましたけれども、となると、そういった発想を考える余地はあるのではないか。  二分しかないですから、きょう実はもう一つ、防声具とかいった問題も聞こうと思ったのですけれども、あとちょっとの時間ですから今のこの信書の問題について、諸外国との比較とともに、国際的な取り決めというのはこの部分についてはあるのでしたでしょうか。私が今指摘した忍び込ます、確かに証拠隠滅云々の問題は十分考えられますけれども、その辺の話は、要するに来る方と出す方とは区別しづらい面があるのじゃないか。となると、この百十三条の問題については、やはり未決については一考の余地があるのではないかなという気がいたしますが、いかがでございましょうか。
  73. 河上和雄

    河上政府委員 確かに、委員指摘のようにフランスの場合は比較的緩やかにやっているようでございます。そういう立法例が先進諸国の中にあることも間違いないようでございます。  最初に、今委員が冒頭におっしゃいました、出す方も来る方も同じじゃないかというのは、確かにおっしゃるようにある意味では同じかもしれないわけですが、弁護士さんから本人あてに来る場合には、まさか弁護士さんがほかの第三者の手紙を忍ばせて、例えば証拠を隠滅するとかあるいは逃走の手引きをするような手紙を忍ばせるようなことはあり得ないことである。弁護士というのは弁護士法によってそれだけの社会正義実現ということが義務づけられている立派な職業ですから、そういうことをなさるはずはないという前提に立つわけです。  それから、こちらから出す方は、弁護士さんと同じように私どもも信用できればいいわけですが、しかし必ずしもそうではない。入っている以上は人間の常としてやむを得ないわけですが、何とか逃げたい、あるいは何とか証拠隠滅をしたいという気持ちも当然あるわけですから、それについては、そういった未決の人たちを入れる私どもの刑事施設としての性格上、できる限りそれを防ぐ方向で考えたい、そういうことになっているわけでございます。
  74. 安倍基雄

    ○安倍(基)委員 逆に弁護士の質にもよるのでしょうけれども、本当に弁護士が信頼できる人間であれば、もし変な手紙を忍び込ませた場合にはそれを他の人に回すはずがないのですね。だから、その面で弁護士がどの程度質がよくて信用できるかということを中心に考えれば、出す手紙に忍び込ませるということについての懸念は余りないのではないかと思います。  これはもう時間もございませんから、局長の答弁の後、横で聞いておられた大臣にどういう御感想か。ここで大臣が答えた途端に、では変えなくてはいけないとなったらちょっと大ごと——どう いうふうにされるか知りませんけれども、一応ちょっと。
  75. 河上和雄

    河上政府委員 最初に私が答弁させていただきます。  これはうろ覚えでございますが、やはり日本弁護士連合会の中で懲戒委員会というのがございます。綱紀委員会というのがいわば起訴する役割をし、懲戒委員会というのが裁判の役割をするわけですが、この懲戒委員会にかかる弁護士の数というのがこのところふえているようでございまして、やはり一万三千三百人ですか、いる弁護士さんの中には必ずしも正しくない方もいらっしゃるわけでございます。そういうこともありまして、私どもとしては、弁護士というものはもちろん信用するわけですが、もし弁護士あてにそういう罪証隠滅あるいは逃走の計画のようなものの文書が忍び込まされていた場合には、やはり依頼者との関係弁護士によっては、つまりお金が絡むようなこともあるでしょうし、そういう違法行為あるいは不正行為をしないとも限らない。君子をなるべく危うきに近寄らせないためにもそういうことがないようにした方がいいのではないか、こういうように考えているわけでございます。
  76. 林田悠紀夫

    林田国務大臣 実は私は時々刑務所に入っておる人から手紙をもらうのです。その手紙は、刑務所の内部がこういうものだというような手紙でありまして、それは多分弁護士さんを通じてもらうんじゃないかなと思って読むのでありますが、そういうことはございます。  だから、すべてがすべて信頼をすべきものかどうかということは問題があると思いますけれども、これは弁護人の接見交通権の一部でもあるのじゃないかと思うのですが、この接見交通権については最大限尊重をすべきものである、かように考えております。しかし、それは絶対無制約なものではなくて、やはり公共の福祉の観点から一定の場合制約を受ける余地のあるものであろうというように考えておるところでございます。
  77. 安倍基雄

    ○安倍(基)委員 もう時間もなくなりましたが、弁護士の側としては悪徳弁護士は一部だよというような議論もあると思いますし、今の受ける方と出す方というのは、忍び込ませるという意味からいえば弁護士さえしっかりしていればそういうことはない、だから本質的に、論理的にはそんなに基本的な差はないのじゃないかという議論があることをひとつ念頭に置いていただきたい。  今回は信書の分だけで終わります。
  78. 戸沢政方

  79. 安藤巖

    安藤委員 質問に入る前に一言申し上げたいのですが、きょうのこの委員会の開催に当たっては私の方からは、この臨時国会それから延長、再延長、これは自民党・竹下内閣の方が国民の多数が反対している消費税を導入しようとして召集し、再延長までした国会であります。ですから、それに乗じて基本人権に重大な問題のある、そして対決法案であるこの刑事施設法案審議を進めるということは、私どもは強く反対してまいりました。仮に審議に入るとしても、先回この委員会で申し上げましたような内容の、国際的にも刑事司法の常識、原則を逸脱しておる代用監獄をこれは恒久化しようとするものであるし、法曹三者の一角を担う日本弁護士連合会が強く反対をしておるし、法案提出する過程におきましても国会決議の三者協議、これをしっかりと踏まえてきていない、そういうような点からもまずその辺のところをしっかり審議をして、そういうような手続をちゃんとやってくるべきだという態度を委員会として出すべきだということを申し上げてきたわけです。それが、きょうは委員長の職権で開会をされたということに対しましては、極めて遺憾であるということをまず申し上げたいと思います。  さて、先ほど同僚議員の方から先回この委員会で私が質問いたしましたデリー宣言あるいはハンブルク決議のことをお尋ねになっておられたときに、矯正局長はそういうデリー宣言ハンブルク決議について理念として尊重する性質のものではないというようなことをおっしゃったように私は聞いたのですが、これはそういうふうにお考えなのですか。まず確認しておきたいと思います。
  80. 河上和雄

    河上政府委員 私が申し上げた趣旨、もう少し敷衍して申し上げますと、もともと私的な団体であるそういう団体が決議されたわけで、決議内容について私申し上げておるのではなくて、その決議した団体のなさったことだからすべて理念として正しいというものではないという趣旨で申し上げたわけでございます。
  81. 安藤巖

    安藤委員 そうなりますと、先回私がお尋ねをしたときに、河上矯正局長は「この国際法曹委員会のいわゆるデリー宣言趣旨からは」この法案はということですよ、「逸脱するだろうと思います。」こういうふうに述べておられる。そして法務大臣は、「今回の改正法案におきましては、そういうデリー宣言とか、あるいはハンブルク決議とか尊重しながらやっておると言っていいのじゃないかと思うのです。」尊重していくのだということですね。それから河上矯正局長は、「理念として代用監獄制度あるいは代用監獄というものを全面的に今のままでいい、こういうふうに私ども考えているわけではございません。」「理念としてそれを正しいと言っているわけではございません」。続いて林田法務大臣は、私がいろいろそういうハンブルク決議デリー宣言で、一たん司法官憲のもとへ引致した後はその捜査のところへ戻してはならぬということは尊重するのだというふうに先ほど大臣おっしゃったのですが、間違いないですねと念を押しましたら、「今おっしゃいましたような趣旨に沿うように大いに努力をしていこう、尊重をしながらやっておるということでございます。」こう言ってみえておる。そして矯正局長は続いて私の質問に対して、ハンブルク決議デリー宣言も「拘束力のない、いわば私的な任意団体による決議ではありますけれども、」「理念としてそれを私どもとして否定するわけではございません」こう言っておるのですね。となると、今おっしゃったのと食い違っているのじゃないかという気がするのですが、どうですか。
  82. 河上和雄

    河上政府委員 前回の委員の御質問にたしか委員指摘のようなことを私答えていると思います。それは、デリー宣言あるいはハンブルク決議と多少離れるかどうかは別として、今おっしゃいました代用監獄の問題について、これを廃止しろということが多数の方々の御意見であることは私も十分承知しておりますし、理念としてはそれは十分わかっております。理念としてそんなものはありっこないということを言うわけではなく、そういう理念があることは十分尊重しておるわけでございます。  この前の国会でも御答弁申し上げたと思いますが、理念としてそういう理念があることは十分わかっておりますが、現実の問題としてすぐそういうことができるかという現実論を申し上げた記憶がございますが、理念としてそれを否定するわけではない。もちろん、否定しないからといってそれが直ちに私どもの方の理念としてそのまま定着するということではないと思いますが、理念としてそういうものがあるということは私どもとして十分承知しておりますし、尊重はするつもりでございます。
  83. 安藤巖

    安藤委員 尊重はすると今最後におっしゃったからそれなら大いに尊重していただきたいと思うのですが、質問者によって答弁をあれこれ変えられては困るものですから、念を押したわけであります。  そこで、尊重するということなら、今度のいわゆる拘禁二法と言われております法案の作成、提出に当たって、法務省近代化法律化国際化、これを三つのスローガンとして掲げてやるのだ、こういうふうに力んでおられるわけですね。そうなりますと、その三つ目の国際化ということは、これを推し進めるということになれば、理念として尊重する以上は代用監獄を廃止するという方向へ着実に動いていく、そういうものでなければならぬと思うのですが、その点、大臣どうですか。
  84. 林田悠紀夫

    林田国務大臣 デリー宣言あるいはハンブルク決議、これは今お話がありましたように私的な団体の宣言なり決議でありまするけれども、理念と してはそういう方向へ向かっていかなければならぬ、かように考えております。それで代用監獄につきましても、今度法律をつくってこれを恒久化するというのではなくて、むしろそういう理念へ近づけるためにできるだけ漸減をしていこう。ただ現実というものがありまするので、国はやはり予算に従って毎年計画を立ててやっていくということでございますので、そういう現実を踏まえながら理念に向かって近づけていこうということでやってまいるわけでありまして、今回の法律におきましてもそういう考え方に基づいておるということでございます。
  85. 安藤巖

    安藤委員 現実がこうだからといって現実の中へこういう理念、今私は理念ということで申し上げたのですが、これは世界的な、国際的な刑事司法の原則、常識なんですよ。しかし、現実はこうだからといってそれを埋没させてしまう。実際はこうだから、そういうことをおっしゃるけれどもだめだ。だからこの法案も、当法務委員会継続しているのは刑事施設法案ですが、地方行政委員会継続している留置施設法案、これと一体となっておるわけですから、今までは被疑者留置規則というものであれ、実際は動いてきているわけです。それを今度は留置施設法案というかちっとした法律として格上げをするということになれば、理念理念だけれども現実はこうだということで、まさに国際的な刑事司法の原則に逸脱している方向をさらに推し進めようとしているとしか言いようがないと思うのです。この中身についてはこれからもしっかりと指摘をさせていただきたいと思います。  そこで、この前時間がなくてあれでしたが、国際人権規約B規約の四十条に基づいて日本政府が報告書を提出された。その報告書に代用監獄のことをちゃんと書いてないじゃないかと私は指摘をしましたら、これは主として受刑者の処遇を中心にして考えたものであるからその中には載ってないのだ、こういうことを矯正局長は前回答弁をされました。しかし、この国際人権規約の四十条に基づく報告というのは国際人権規約を実効あらしめるための措置であって、国際人権規約に従って日本ではこうやっておりますという生々しい実態をありのままに報告するのがこの趣旨だと思うのです。だから、そういうようなことについて、いや受刑者の処遇を中心にしたのだからそんなことは書かなかったというのでは、この国際人権規約第四十条に基づく報告にはならぬのじゃないですか。  そして現に、私も指摘しましたけれども、これは外務省国際連合人権難民課からいただいたものですからページ数は合っていると思うのですが、この二十二ページの真ん中よりちょっと上のところに「また、政府は、都道府県警察が管理運営する留置施設における被留置者の処遇に関する規定整備する等を目的として、留置施設法案にも取り組んでいるところである。」こういうふうにもちゃんと書いてあるわけでしょう。だから、受刑者の処遇を中心にした報告なんだということには何にもならぬと思うのですよ。そうなったら、代用監獄というのを留置施設法案で——それで刑事施設法案の百六十六条できちっとこっちを代用として収容することができるのだというふうにやって代用監獄というのをちゃんと設けるのですよ、法律上きちっと位置づけるのですよというふうにしておりますとなぜ書かないかということを私は聞いているのです。どうなんです。
  86. 河上和雄

    河上政府委員 安藤委員は、この代用監獄制度というものがいわゆる人権B規約に相反する、条約に直接違反するというお考えのお立場でおっしゃっていることだろうと思います。しかし私どもとしては、この代用監獄制度人権B規約に違反するものとは毛頭思っていないわけでございまして、思ってもいないものについてこうこうであるという実情を書く必要も認めなかった、こういうことでございます。
  87. 安藤巖

    安藤委員 いや、人権規約を実効あらしめるために実際はこうやっておりますということを、生のものを書くべきだ。これはまださらにいろいろ議論したいと思うのです。  最後に、大臣にお尋ねしたいのですが、この政府国連に対する報告書に対して、日本弁護士連合会が、その報告書は著しく事実をゆがめたものである、だからこれを訂正してくれ、是正してくれ、こういうような申し立てを昭和六十三年の七月一日に法務大臣あてに提出しておられるわけですね。これを知っておられるかどうか。そして、今言いましたように、これは著しく事実をゆがめて報告しているという指摘に対して、そんなことはないとお考えなのか、あるいはそれは全く無視したのかどうか、あるいは是正をする気はなぜなかったのか、これをお尋ねしたいと思います。
  88. 林田悠紀夫

    林田国務大臣 ことしの七月一日付書面をもちまして、御指摘の是正要望が当省に提出されております。  そこで、当省といたしましては、是正要望に記載のおのおのの問題につきまして誠実に精査をいたしまして、これは外務省がやってくれる問題でありまするから、外務省において相応の対処をされるように外務省にお願いをしたということでございます。
  89. 安藤巖

    安藤委員 それでは、あとは外務省にもお尋ねしますし、引き続いてまた法務省にもお尋ねしたいと思います。  時間が参りましたので、きょうはこれで終わります。
  90. 戸沢政方

    戸沢委員長 この際、暫時休憩いたします。     午後零時四分休憩      ────◇─────     午後二時五十四分開議
  91. 戸沢政方

    戸沢委員長 休憩前に引き続き会議を開きます。  この際、参考人出頭要求に関する件についてお諮りいたします。  ただいま審査中の両案につきまして、参考人の出頭を求め、意見を聴取することにいたしたいと存じますが、御異議ありませんか。     〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  92. 戸沢政方

    戸沢委員長 御異議なしと認めます。よって、そのとおり決しました。  なお、参考人の人選、出頭の日時につきましては、委員長に御一任願いたいと存じますが、御異議ありませんか。     〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  93. 戸沢政方

    戸沢委員長 御異議なしと認めます。よって、そのとおり決しました。  次回は、来る二十日火曜日午前九時二十分理事会、午前九時三十分委員会を開会することとし、本日は、これにて散会いたします。     午後二時五十五分散会