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1988-12-06 第113回国会 衆議院 法務委員会 第3号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和六十三年十二月六日(火曜日)     午前十時六分開議  出席委員    委員長 戸沢 政方君    理事 逢沢 一郎君 理事 井出 正一君    理事 今枝 敬雄君 理事 太田 誠一君    理事 保岡 興治君 理事 坂上 富男君    理事 中村  巖君 理事 安倍 基雄君       赤城 宗徳君    上村千一郎君       自見庄三郎君    塩川正十郎君       塩崎  潤君    鈴木 宗男君       園田 博之君    中川 昭一君       中山 成彬君    松野 幸泰君       宮里 松正君    稲葉 誠一君       清水  勇君    山花 貞夫君       冬柴 鉄三君    山田 英介君       安藤  巖君  出席国務大臣         法 務 大 臣 林田悠紀夫君  出席政府委員         法務大臣官房長 井嶋 一友君         法務大臣官房審         議官      東條伸一郎君         法務省刑事局長 根來 泰周君         法務省矯正局長 河上 和雄君         法務省人権擁護         局長      高橋 欣一君         法務省入国管理         局長      熊谷 直博君  委員外出席者         外務省国際連合         局人権難民課長 国枝 昌樹君         文部省学術国際         局教育文化交流         室長      西澤 良之君         労働省職業安定         局雇用政策課長 廣見 和夫君         最高裁判所事務         総局刑事局長  吉丸  眞君         法務委員会調査         室長      乙部 二郎君     ───────────── 委員の異動 十二月六日  辞任         補欠選任   稻葉  修君     自見庄三郎君   加藤 紘一君     中川 昭一君   木部 佳昭君     鈴木 宗男君   佐藤 一郎君     園田 博之君   宮里 松正君     中山 成彬君 同日  辞任         補欠選任   自見庄三郎君     稻葉  修君   鈴木 宗男君     木部 佳昭君   園田 博之君     佐藤 一郎君   中川 昭一君     加藤 紘一君   中山 成彬君     宮里 松正君     ───────────── 十一月二十二日  裁判官の報酬等に関する法律の一部を改正する法律案内閣提出第一六号)  検察官の俸給等に関する法律の一部を改正する法律案内閣提出第一七号) は本委員会に付託された。     ───────────── 本日の会議に付した案件  刑事施設法案内閣提出、第百八回国会閣法第九六号)  刑事施設法施行法案内閣提出、第百八回国会閣法第九七号)      ────◇─────
  2. 戸沢政方

    戸沢委員長 これより会議を開きます。  速記をとめてください。     〔速記中止
  3. 戸沢政方

    戸沢委員長 速記を起こしてください。  お諮りいたします。  本日、最高裁判所吉丸刑事局長から出席説明の要求がありますので、これを承認するに御異議ありませんか。     〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  4. 戸沢政方

    戸沢委員長 御異議なしと認めます。よって、そのとおり決しました。      ────◇─────
  5. 戸沢政方

    戸沢委員長 内閣提出刑事施設法案及び刑事施設法施行法案の両案を一括して議題といたします。  質疑申し出がありますので、順次これを許します。稲葉誠一君。
  6. 稲葉誠一

    稲葉(誠)委員 法案質疑に入る前にちょっと一般的なことと言っては恐縮ですけれども質問させていただきたい、こう思うわけです。  それは、私が疑問に思っていることといいますか、いろいろあるのですが、これは刑事局長の方になるのですかね、最初。例えば刑法の百九十七条で涜職ですね、公務員職務に関し云々と、こうあるわけですが、この公務員というのは、刑法ではもちろんそうなっていますけれども、そのほかの法律でいろいろ公務員というのが、に準ずるだとかあるいはみなすとか、正式な法律用語かどうかは別としていろいろなものが出てきますね。これをひとつわかりやすく分析というか分類といいますかして御説明を願いたい、こう思うわけです。
  7. 根來泰周

    根來政府委員 ただいまのお尋ねでございますけれども、ただいま御質問の中にありましたように刑法上の公務員というのは、刑法七条に、「官吏、公吏」これは今の法律では死文になっていると言われておりますけれども公務に従事する職員というふうになっております。その定義としまして、国家公務員法の二条とか地方公務員法の三条に公務員規定があることは御承知のとおりでございます。  そのほかに、みなし公務員というのがございます。これは一定の組織が、元来公務としての性質を持つ事務公務に準ずる事務を行うことを目的としている場合に設けられていることが通例でございます。たくさんみなし公務員というのがございますけれども、例えば日本銀行とか、例えば刑事訴訟法では準起訴手続事務を行う弁護士とか、そういうことでみなし公務員というのがございます。  それから、それとは別に特別わいろ罪というのがございますけれども、みなし公務員規定まで設ける必要がございませんけれども、その活動が公共の利害にかかわることが大きい業務を取り扱っている民間組織等職員に関し設けられているのが一般でございます。  わいろ罪といいますか、そういうものには結局三つございまして、本来のわいろ罪とそれからみなし公務員わいろ罪、それから特別わいろ罪というのが三つ設けられているわけでございまして、その職務内容によって、やはり全体的には職務の公正を確保するという意味で、そういう三つ分類がされているというふうに考えております。
  8. 稲葉誠一

    稲葉(誠)委員 そうすると、刑法百九十七条の公務員と、今のほかの二つのジャンルのものがありますね。それは、法定刑はみんな同じですか。
  9. 根來泰周

    根來政府委員 刑法の場合とみなし公務員の場合は一緒でございますけれども特別わいろ罪の場合は若干低くなっていると思います。
  10. 稲葉誠一

    稲葉(誠)委員 NTTは、民営前と民営になってから後とでは違うのですか、違わないのですか。条文上はどういうふうになっておりますか。
  11. 根來泰周

    根來政府委員 いわゆるNTTでございますけれども民営前はみなし公務員でございましたが、昭和五十九年十二月の法律によりまして、日本電信電話株式会社法ということでございまして、その十八条で特別わいろ罪というのが設けられております。
  12. 稲葉誠一

    稲葉(誠)委員 昔ありましたね、「経済関係罰則整備ニ関スル法律」ですか、ちょっと正式な名前は忘れましたけれども、そんなような法律があったのですが、だんだんなくなってきたのですが、まだあるわけですか。
  13. 根來泰周

    根來政府委員 現在も効力を持っております。
  14. 稲葉誠一

    稲葉(誠)委員 適用されるのは今何が残っておりますか。
  15. 根來泰周

    根來政府委員 これは、御承知のように別表甲号というのと別表乙号というのがございます。甲号の方は、例示としまして日本銀行などが残っております。それから別表乙号といたしましては信用金庫等が残っております。「信用金庫法ニ依ル信用金庫及信用金庫連合会」、「労働金庫法ニ依ル労働金庫及労働金庫連合会」というものが残っていると思います。
  16. 稲葉誠一

    稲葉(誠)委員 公務員が「職務ニ関シ」ですから、職務権限が当然問題となってくるわけですね。  そうすると、例えば内閣総理大臣職務権限が、昔は俗に言う並びだったけれども、今は並びではなくて、指揮権があるというのか何というのか、縦でというのか何というのか、そういうことが盛んに言われますね。判例の中でも出てきているわけですが、それは旧憲法の場合と新憲法の場合とで違うということに理解しているのですか。
  17. 根來泰周

    根來政府委員 内閣総理大臣権限については、私の方で申し上げる立場ではありませんけれども、少し勉強したというか聞きかじったところでは、新憲法では、「内閣総理大臣は、内閣を代表して議案を国会に提出し、一般国務及び外交関係について国会に報告し、並び行政各部を指揮監督する。」というふうになっているわけでございますけれども、旧憲法時代は、その内閣総理大臣職務に関しては憲法上の規定がなくて、旧悪法の第五十五条に「国務大臣ハ天皇輔弼シ其責ニ任ス」というふうになっておりまして、その詳細については内閣官制というのがございまして、その内閣官制の一条に「内閣ハ国務大臣以テ組織ス」、それから第二条に「内閣総理大臣ハ大臣首班トシテ」ということで、内閣総理大臣は、憲法上の地位ということは保障されていなかったというふうに理解しております。したがいまして、その権限も若干違うというふうに考えております。
  18. 稲葉誠一

    稲葉(誠)委員 今、国務大臣という言葉が出てきましたけれども、これは私もよくわからないのですが、大臣辞令はどういう辞令で出るのですか。国務大臣に任ずというのか、国務大臣に補すというのか、法務大臣に任ずというのか、僕はなったことがないからよくわからないのですけれどもね。  それで、国務大臣各省大臣とありますね。そうすると、国務大臣職務権限というのはどういうふうなことになるのですか。各省行政事務とは、設置法なら設置法には関係ないことになるのですか。その関係はどういうふうになるのですかね。本当は内閣法制局を呼ぼうかと思ったのですが、僕は、委員会には余りほかの人を呼ばない主義なものですから呼んでないわけですけれども
  19. 根來泰周

    根來政府委員 たしか大臣が任命されるときには、国務大臣に任命すというのと、それから法務大臣というのと二本立てになっておったように思います。  それで、国務大臣職務権限ということにつきましては、国家行政組織法の十条に「各大臣、」以下省略しますが、「その機関事務を統括し、職員服務について、これを統督する。」いわゆる服務統督権というのが職務権限として掲げられていると思います。
  20. 稲葉誠一

    稲葉(誠)委員 そうすると、自分所管業務には関係のないところの職務権限まであるということになるのですか。
  21. 根來泰周

    根來政府委員 これは内閣法に、第二条、第三条に規定がございますから、この規定に基づいて、例えば「内閣がその職権を行うのは、閣議によるものとする。」こういうふうな規定がございますから、そういう点で、国務大臣としての職務権限があるのではないかと思います。もちろん、これは私の所管ではございませんから正確に申し上げるわけにはいかない問題だと思います。
  22. 稲葉誠一

    稲葉(誠)委員 そうすると、今のところでもいろいろな疑問があるのですけれども、きょうはその委員会じゃありませんから……。  事務次官というのはどういう権限を持っていますか。別に文部事務次官とか労働事務次官とか限定しているわけじゃないですよ。
  23. 根來泰周

    根來政府委員 これは国家行政組織法の十七条の二の第一項に「各省及び法律国務大臣をもってその長に充てることと定められている各庁には、事務次官一人を置く。」というふうになっておりまして、同条の第二項におきまして、「事務次官は、その機関の長たる大臣を助け、省務又は庁務を整理し、各部局及び機関事務を監督する。」というふうに規定されておりますので、そういう権限を持っているのではないかと思います。
  24. 稲葉誠一

    稲葉(誠)委員 そうすると、各局長の持っておる権限よりももちろん広くて、それを包括するというか、全体的なものを持っているというふうに理解してよろしいわけですか。
  25. 根來泰周

    根來政府委員 これまた私のお答えする事項ではございませんので何とも申し上げかねますけれども法律を見る限り「大臣を助け、」というふうになっておりますから、そういう感じであろうと思います。
  26. 稲葉誠一

    稲葉(誠)委員 それから問題は、これは内閣法制局を呼んできちっと詰めなければいけないことだと思うし、恐らくしかるべきところで一生懸命研究して詰めているのじゃないか、こう思うのです、そのしかるべきところがどこかよくわかりませんけれども。  そこで、議員職務権限議員は、今言う刑法百九十七条の公務員に入るのですか。入るとすれば、どういう権限を持っているわけですか。
  27. 根來泰周

    根來政府委員 当然公務員に入ると思います。
  28. 稲葉誠一

    稲葉(誠)委員 どうして当然入るのですか。
  29. 根來泰周

    根來政府委員 刑法の七条には「法令ニ依り公務ニ従事スル議員委員其他職員謂フ」というふうにありますから、当然入るのではないかと思います。
  30. 稲葉誠一

    稲葉(誠)委員 一番新しい判例というのは例の大阪タクシー判決がありますね。あれが一番新しい確定した判例と見てよろしいわけですか。そうすると、所属の委員会には関係はないということの理解でよろしいですか。
  31. 根來泰周

    根來政府委員 詳しく申し上げる時間はございませんけれども、あの問題の事件は、国会議員たる二人の被告人は要するに運輸委員会に属しておったわけでございまして、当時大蔵委員会石油ガス税法案というのが継続審査されておったわけです。そういう石油ガス税法案について有利な取り計らいをお願いしたいという趣旨も含めましてわいろを供与したという事件でございまして、いわゆる説得勧誘行為というのが問題になりまして、その説得勧誘行為というのがいわゆる職務に密接に関連する行為だというふうに最高裁が決定した、こういう感じで受けとめております。
  32. 稲葉誠一

    稲葉(誠)委員 やはり密接関連行為ですね。密関行為というふうに言っております。  そこで、わいろというものについて日本の判例は非常に広いですね。あそこまで広げることがいいか悪いか、ちょっと私も疑問がある判例もなきにしもあらずなんですが、それはそれといたしまして、わいろということに関連をして、昭和六十三年七月十八日に最高裁判所第二小法廷でいわゆる殖産住宅関連をする決定が出ているわけですね。これは大蔵省の証券局の人は、一審で二年六月で、二審で二年になって確定しておって、そうでない人たちが上告していたわけですね。名前はいいですが。  そこで、この中の「理由」に書いてあるのがしばしば引用されておるわけですけれども、必ずしもその引用が正確でないように私には思えるわけなものですからお聞きをするわけですが、この「決定」の中にありますものは、「贈賄側の者が公開に係る株式公開価格で提供する旨の申し出をし、収賄側の者がこれを了承してその代金を払い込むなどしたという事案であるが、」こういうことですね。そうすると「右株式は、間近に予定されている上場時にはその価格が確実に公開価格を上回ると見込まれるものであり、」第一段階、こういうふうになっておりますね。  そうすると、これは「確実に」ということと「間近に予定されている上場時」ということとはどういう関係になるのですか。二つ並ぶのですか、あるいは確実にこれは上がるということの中に、一つ条件というか内容として、上場が間近に予定されておる、こういうふうに理解をするのが正しいのですか。そこはどういう理解の仕方ですか、この決定の。
  33. 根來泰周

    根來政府委員 御理解いただいておりますように、この殖産住宅事件について判断されたことでございますので、これはたしか半月くらい後に公開されるという事案について、その時点でその株式を引き受けて、そして半月くらいたった後に公開されたときに売り抜けたという事案だと思います。したがいまして、そういう事案を前提にいたしまして、間近に予定されておって、かつ、その価格が確実に公開価格を上回るというふうに見込まれるということを言われたわけでございまして、それじゃ数年、間があいておって、その数年、間があいておるけれども確実に公開価格を上回る事案についてはどうかというようなお尋ねになりますと果たしてどうかということになるわけでございまして、だから、その間近というのと確実に価格を上回るというのが並列なのか、あるいは一つが要件があればいいのか、その辺がこの決定だけでは判断がつかないというふうに考えております。
  34. 稲葉誠一

    稲葉(誠)委員 それはあなた、数年後と言うからそういうふうになるので、五年も十年も後のことを言っているわけでもないし、なかなかここのところは具体的な事案に対する決定ですからそれはそれなんでしょうけれども、確実に公開価格を上回ることが見込まれれば、それは間近というのをどの程度まで考えるかということによるかと思いますが、確実に上がるということの方に重点があるわけでしょう、これ。
  35. 根來泰周

    根來政府委員 その時点で確実に上がると見込まれるというふうに解釈されると思います。
  36. 稲葉誠一

    稲葉(誠)委員 それから、この事案代金を払い込んだ事案ですね。そうすると、代金を払い込んだ事案と、代金を払い込まないで株をもらってそれが確実に上がるということになってきたときには、ちょっと事案内容が違ってくるわけですね。違ってくるということは、代金を払わない方がより確実にわいろ性が強くなってくるということになるのじゃないですか。
  37. 根來泰周

    根來政府委員 事実認定の問題でございますから、いろいろ条件を立てますとやはりお説のような話になる可能性が多いと思います。
  38. 稲葉誠一

    稲葉(誠)委員 それから後のところなんですが、「これを公開価格で取得することは、これらの株式会社ないし当該上場事務に関与する証券会社と特別の関係にない一般人にとっては、極めて困難であったというのである。」だから「それ自体が贈収賄罪客体になる」というふうにとっているわけですね、この決定は。そうすると、この「証券会社」というのはこれを読みかえるわけですね。読みかえて、どこの会社でもいいのですが、特定の会社と読みかえたときには、それと特別の関係にない一般人にとってはその株をもらうことが極めて困難であったという場合、逆に言うと、より親しい関係にあるとか、どういう関係にあった人がその株を取得するに至ったかということがこのわいろ罪客体としての一つのファクターになるのではないでしょうか。
  39. 根來泰周

    根來政府委員 この殖産住宅の問題は、これは証券会社が主幹事会社というのと副幹事会社というのがございますけれども、そういう会社と特別の関係にない者はそういう株式を取得することができなかったということでございますので、これはいろいろ応用問題といいますか、そういうことで、また事案によってはこれに類似する事案が出てくると思います。
  40. 稲葉誠一

    稲葉(誠)委員 この前、あれは十一月十日ですか、松原室長を起訴しましたね。そのときに東京地検次席が談話を発表しておるわけですね。たしか私の記憶では次席は午前午後二回にわたって記者会見をするというように聞いておるわけですが、そのときに、これを起訴したということの起訴状内容説明して、そして還流株について何と言ったんですか。検討すると言ったんですかあるいは調査すると言ったのか、ちょっとよくわからないのですが、正式に次席が言ったのはどういうことなんですか。
  41. 根來泰周

    根來政府委員 その次席検事記者会見でどういうふうな言い回しをしたかは正確には私ども把握しておりませんけれども、要するに非公開株譲渡関係についてもよく検討する、こういう趣旨で言われたのではないかと思います。
  42. 稲葉誠一

    稲葉(誠)委員 だから私が聞いているのは、それは新聞社側質問に対して答えたのか、あるいは起訴状内容説明したときに自分の方から言ったのか、どっちなんですか。
  43. 根來泰周

    根來政府委員 それは私どもの方では把握しておりません。
  44. 稲葉誠一

    稲葉(誠)委員 私が聞いた範囲では次席の方からそういうことを言ったというふうに聞いておるのですけれども、それはそれとして、そうすると今東京地検がそういうふうないわゆる還流株といいますか、そうしたものについて検討しているというのか、捜査しているというのか、そのこと自身は間違いないわけですか。
  45. 根來泰周

    根來政府委員 捜査とか検討とか調査とかというのは非常に概念的でございますけれども、いずれにせよ検討していることは間違いありません。
  46. 稲葉誠一

    稲葉(誠)委員 そうすると、十二月二十日に第一回公判があるという。ですからその前に、起訴してから後のずっと今までのその捜査というのは、具体的には何をやっていることになるんですか。あなたの方で言える範囲のことはどうなんですか。
  47. 根來泰周

    根來政府委員 このリクルートの問題につきましては、よく御存じのように、本年の八月の初めに衆議院の予算委員会指摘されまして、それから幾たびか同種の指摘がございます。その指摘内容は、やはりこのリクルートコスモスの未公開株譲渡関係犯罪に当たるのではないか、犯罪の疑いがあるのではないかという御指摘があったわけでございます。  ところがその間に、九月の初めでございましたか、楢崎議員告発事件が、イレギュラーと言ったらおかしいですけれども、そういう意味で入ってきたわけでございまして、その事件処理ということで十月の十九日に強制捜査に着手しまして、十一月十日に松原社長室長を起訴したという関係でございまして、要するに国会でもいろいろ指摘されまして、そのとき私も答弁申し上げましたけれども、検察庁としてはやはり国民の声と申しますか、そういう国会議員の御発言でございますので、それを重く受けとめまして、それを検討していたわけでございます。しかしながら、一方では楢崎議員告発事件がございまして、その捜査処理を遂げたわけでございますが、その後やはりその検討を続けている。  といいますのは、やはり国会指摘された問題は、贈収賄の問題も指摘されましたし、それから特別背任の問題も指摘されました。非常に多角的に指摘されているわけでございます。そういう多角的な指摘を受けまして、やはりその非公開株譲渡関係の事実関係を明らかにしないと、その点につきまして犯罪の嫌疑があるかどうか、あるいは捜査に着手すべきかどうか、その点がはっきりいたしませんので、今まで精力的に調査といいますか検討を続けているというふうに私ども理解しております。
  48. 稲葉誠一

    稲葉(誠)委員 今、涜職のほかに特別背任という言葉が出てきましたね。私はそこまで間かなかったのにあなたの方からお答えが出たわけですが、それは、特別背任というのは何を指して言っているわけですか。刑法上に特別背任というのはあるのかな、商法のあれを言っているのですか。具体的にはどういうふうなこととしてあなたの方としては問題をとらえているわけですか。
  49. 根來泰周

    根來政府委員 この問題は、私どもがとらえているというよりも、国会の御質問の中で、江副氏が株を安く売却したのは特別背任に当たるのではないかという御指摘がございましたので、そういう点もやはり踏まえて検討しているということでございます。私ども特別背任であると申し上げているわけではございません。
  50. 稲葉誠一

    稲葉(誠)委員 あなたの方で特別背任になるとかならないとかということを言うこと自身は、それは確かにおかしいのですよね、あなたが捜査しているわけでも何でもないのですから。  そこで、いろいろ問題が出てくると思うのですけれども、私はこれは率直に言いましていろいろ聞きたいことは確かにあるのですよね。それは例えば違法収集証拠の問題だとかその能力の問題だとかいろいろな問題があるような感じがして、私の頭にはあるのですけれども、それを今公判前に聞くわけにいきませんからそれは聞かないことにします。  ひとつ河上さん、あなたがいろいろ論文を書いておられるわけですね。あなた、本当によく書かれるからね。あなたの「刑事法ノート」というのをよく読んでいますよ。本当によく書かれている。よく勉強されていますね。  それで、前の古いあれですけれども「研修」というのに載っていたものですね。藤永さんも何か違う論文を書いているんですが、私はそれ自身は読んでないのです。何か、警察の何とかに「法のうちそと」というところに書いてあるのですが、盗聴事件について、「盗聴を合法化して、この種の事件については、裁判所の許可があれば盗聴ができるような国内法制整備をすべきであろう。」というようなことが、あなたの論文というほどでもないが、まあエッセーですかな、その中に出てきておる。前にもありますね、これは。大分前からのあなたの意見のようですが、これは具体的にはどういうことを言っているわけですか。
  51. 河上和雄

    河上政府委員 稲葉先生御承知のとおり、盗聴というのは三つのジャンルがあるだろうと言われております。  一つは、バギングと言ったりあるいはイーブスドロッピングと言っております。主としてアメリカから来ている言葉ですが、イーブスドロッピング、つまり軒下にドロップする、立ち寄る、つまり盗み聞きだろうと思いますが、これは古典的には、本当に人の家の中に入って盗み聞きをするという形態だったわけで、そういう行為がつまりトレスパス、住居侵入になるかどうか、そういうことを中心にして論じられてきて、その後エレクトロニクス機器その他が発達してきた関係で、直接家の中に入らないで秘聴器といいますか、バギングと言っておりますけれども、そういうエレクトロニクス機器を使って遠くから家の中の会話を聞く、あるいは遠くに離れた人たちの会話を聞くといったような形態になってきた。  これは日本の法律では何ら規制されていないわけですけれども、結局、そういうことをするのがプライバシーに違反するかどうかという問題が一つと、それから住居侵入を伴った場合に住居侵入罪が成立するかどうか、その辺のところが一つ問題。要するに刑罰、刑事法の解釈、刑罰の解釈の問題になると思います。  もう一つはワイヤタッピングでございまして、これは結局電話線に直接物を付設して内容を聞くということで、これについては日本法ではかっては公衆電気通信法、現在では電気通信事業法ですか、それでもって処罰されるような形になっておる。これもやはり刑罰に当たるかどうか。ただ最近では、直接タッピングしないで、つまり線にくっつけないで、ちょっと離して聞くことができるというほど進んできているようですが、これが果たして刑罰に当たるかどうかということが問題になっております。  それから第三のジャンルは、多少盗聴とは離れているかもしれないけれども、両当事者の会話ですが、一方当事者の承諾を受けて、そしてその内容を録音したりあるいは銀画したりする。そういうことによって得た結果が果たして証拠能力があるかどうか、刑事訴訟法上の問題だと思います。  いずれも罰則の解釈あるいは刑事訴訟法の解釈の問題でございまして、私が今御指摘のようにあれこれ書いております。刑事法を専攻する一学徒として書いたわけでございますが、残念ながら私ここには矯正局長ということで出ておりまして、余りそういうことを深入りして申し上げるのもいかがかと思いますので、それについては遠慮させていただきたいと思います。
  52. 稲葉誠一

    稲葉(誠)委員 矯正局長としての質問はこの後にしますけれどもね。  そこで大臣にお聞きをしたいのは、私ども法務部会として東京入管へ十月十二日に視察に行ってきたわけです。これは午後行ったのですけれども。それから、私どもで外国人労働者の特別委員会がありまして、これは十一月二十日に東京入管を視察してきたわけですね。  大臣も視察されたというようなことも聞いておりますけれども、とにかく大変な人ですね。それで職員が少なくて困っておる。場所はない。それで、入管というのは非常に大事な役所だと私は思っているわけですね。外国人が初めて入ってきて、一番印象に残るところですからね。  そうすると、東京入管の現在の仕事の内容なり職員の配置なり場所なんかもいろいろあると思うのですけれども、いろいろふえてくる外国人の在留者ですね、これに対して今のような状況ではどうにもしようがない状況に東京入管自身がなってきているのではないか、こう思いますので、それについて大臣としては所感なりあるいはどういうふうに今までされてきたか、今後どういうふうにされるのか、こういうことについて、これは大臣からお答え願いたい、こう思うのです。
  53. 林田悠紀夫

    ○林田国務大臣 さきに社会党法務部会の先生方に東京入管を御視察をいただきまして、局員を激励するとともに、また大変な混雑ぶりを見ていただきまして、まことにありがたく、感謝を申し上げておるところでございます。  私も二回ぐらい視察に参りまして、この二年間ぐらいで急激に国内へ入ってくる人が多く、また不法に入っている外国人も多いということによりまして、仕事が急激にふえておる次第でございます。  それで、今おっしゃいましたような非常に混雑をした状況でございまするので、まずスペース、場所を少し広くすることが必要だというので、実は私、大蔵大臣にも話をいたしまして、あそこは各省が入っておるところでありまして、共用の会議室がありまするので、その共用の会議室を東京入管に専用にしてもらうようにいたしまして、そしてそのスペースを利用いたしまして、そこで外国人があるいは待機をして話し合いすることができるというようにした次第でございます。  そして人の問題につきましても、今入管でできるだけ東京入管へ多く人を集めなければいかぬ、そういうような考え方を持ちまして努力をしておりまするとともに、OBを実は採用いたしまして、そして人をふやしておる、そういう状況でございます。  しかし根本的には、あそこの職員を定員としてふやしていかなければなりませんので、実は来年度の予算を目前にいたしまして、行政管理局の方とも話し合いをしておるような状況でございまして、次の予算時期におきましてはぜひ人員をふやしたい、かように考えて努力をする所存でございます。
  54. 稲葉誠一

    稲葉(誠)委員 今OBの話が出ましたね。そのOBで思い出したのですが、日本語学校がいっぱいでぎているわけですね。よくわからないのですが、法務省がなぜ日本語学校に関与するのか。わからないのですがね、これは。  それで、外国人就学生受入機関協議会というのがあるのですか。それと、全国日本語教育機関振興協会というのがあるのですか。だから具体的に言うと、この二つがあって、なぜ法務省がこの日本語学校に、どの程度関与しているのですか。一体日本語学校というのはどこが管轄しているのですか。それはきょう文部省を呼んでいませんし、外務省も呼んでいませんから、だから一方的、一方的と言うとおかしいけれども、法務省だけの見解になるかもわかりませんけれども、どういうわけなんですか。それで現状をどう把握しているのですか。  今入管OBの話が出ましたね。これはいい人もいっぱいいるが、何かちょっと、余り芳しくない人もいるらしいので、その人のためにみんな迷惑しているような話も僕も聞いてはいるのです、名前は言いませんけれども。だから、日本語学校の現状をどういうふうにつかまえて、どうしたらいいというふうに法務省当局としてはお考えなんですか。
  55. 熊谷直博

    ○熊谷政府委員 お答えします。  外国人の入国に関しまして、入国の是ないし非を審査する、あるいは入国を許可するというのが入管の仕事でございますので、その限りにおいては直接日本語学校と関係はないと言えるかもしれませんが、諸外国から日本語を勉強したいということで入国を申請してくる数が急激にこの数年ふえているというのが事実でございます。  入国の申請をいたしますと、これは二段階に分かれるわけでございますけれども、在外公館において査証を申請するというのが正式の申請でございますが、数がふえてきまして非常に手続的に時間がかかるということもございまして、査証を申請する前に、事前に日本において代理人が入国申請をスムーズにしてもらえるために事前審査というのを願い出てまいります。これが主に日本でいいますと東京入管に集中しているわけでございますけれども、この願い出がありますと、いろいろ、保証人はだれであるとか就学先の学校の名前はこうであるとか、どういう経歴であるとかいうことを申請書と一緒に出していただくわけでございますが、その際に、果たしてこの入国申請をしてきている就学希望者、入国希望者はちゃんと入管行政上適正なあるいは適格な学校ないし就学先に行くのであろうか、本当に勉強するのであろうかということを審査さしていただくわけでございます。その際に、その申請書にあります、願い出書の中にありますところの就学先の内容についても書類上いろいろ書いてございますが、実際に調査をいたしまして、本当に適格であるかどうかということを調査さしていただくという意味で入管が日本語学校との関係にタッチするわけでございます。  今御指摘のありました外国人就学生受入機関協議会というのがございますが、これはおととしの十二月、おととしの暮れに、二年前の暮れでございますが、できましたが、これはその当時においてもそういう形の入国申請というのが非常にたくさんございまして、調査をいたしますと非常におかしな学校があるということに気がつきましたので、入国管理行政上適格、適正な管理ができるように学校側できちんとやってほしいということを法務省が考えまして、それを話し合いいたしましたところ、いろいろな学校が集まりまして、自主的にそれじゃ法務省が考えておるように適正な日本語学校管理をしようということでできましたのが今仰せられました協議会でございます。  文部省の方は、この情勢を見ましてその数カ月後に今申されました文部省としての協会をつくったわけでございますが、文部省は各種学校以上のきちんとした学校を管理するという行政機関でございますので、私どものように入国者との関連調査をさせていただくというような関係ではございませんので、二つの協議会、向こうの方は協会と言っておりますけれども、この二つの協議会の性格が以上申しました関係で異なっております。しかし、私どもとしては入国管理行政の立場から、そういう目から見ていい就学先を確保しようということでやっていることでございます。
  56. 稲葉誠一

    稲葉(誠)委員 入管当局の日本語学校に対する規制が近来非常に厳しくなった、いつから厳しくなったのか、非常に厳しくなったということを盛んに聞くわけですね。厳しくすること自身悪くないので、いいところはどんどん許可か認可か知りませんが、しているということですが、そのために中国で、上海で、テレビでやっておりますが、ああいう問題が起きておるわけですね。あれなんかも何か入管が非常に厳しくしたからああいうふうになっちゃって来れなくなっちゃったというような印象を与えておるわけですね。これは外務省なりとの話し合いをしなければいかぬことだと思うのですが、実態はどういうことなんですか。
  57. 熊谷直博

    ○熊谷政府委員 就学生の入国に関して基準を設けておりますことは今仰せられたとおりでございますが、これは昭和五十六年にできました基準でございまして、この基準自体はその後も変えておりません。この基準の中に、入国審査基準として、就学生の場合に、在日の身元保証人の項目がございます。その基準を申しますと、「確実な在日身元保証人があり、滞在費及び学費の支弁について確実な保証又は裏付けがあること」というのが基準でございます。  それを立証するためにどういう書類を出すかということにつきましては、実はことしの夏ぐらいまでは保証書として所得証明書、ことしの夏ぐらいまでの基準で従来ずっと審査をしてまいりましたのですが、殊にこの一、二年の間に中国からのそういう就学を目的とする入国希望者が急激にふえたということがございまして、それを一々調べておりましたところ、学校に関すること、それから今申しました保証人に関する基準に満たない申請が多数に上ったということがございました。そこで、これではいかぬということで、実は中国側が言っております厳格化したではないかという通知がございます。  これは十月五日付の東京入管の局長の東京入管職員に対する、今後やってほしいという通知がございますが、これが問題として出てきておるわけですが、さっき申しました就学生の保証人に関する基準というのは全く変えておりませんで、その際に立証書類として出していただくものが若干変わったということでございます。それまでのその保証人の支弁能力についての立証書類としまして出していたものでは足りないということでございまして、十月五日の内部通知におきましては、身元保証書、身元引受経緯説明書及び質問書については実印を押してくださいということ、その実印の印鑑証明書も添付してくださいということにしたわけでございます。それからさらに、身元保証人が会社経営者のような場合にはその職業証明書類を出してほしい、その会社の登記簿も出してほしい、それから身元保証人についての住民票は、従前は抄本でよかったというものを謄本にしてほしいということにしたわけです。これは今申しましたようにそれ以前の申請書類では非常にいいかげんで、いわゆるごまかしの書類がたくさんあったということが出てまいりましたために、こういうことで厳格にしようということで提出書類を厳格化したにすぎないのでありまして、もともとの基準自体は厳格化しておるわけではございません。
  58. 稲葉誠一

    稲葉(誠)委員 大臣、きょうは法案の方の審議ですから法案の方の審議に入りたいと思うのですが、今のお話を聞かれて、東京入管へも視察に行かれて、来年、外国人労働者の問題についての法案を法務省から出すというわけでしょう。その見通しなり、それから上海で現実にあれだけのことになっておるわけですね。何か三人の邦人がどうとかこうとかという話も出ておりますね。ですから来年かどうか、この外国人労働者問題に関する法案の見通しというか、そういうようなこと。それと、今現在中国で起きておる問題については、これは外務大臣と話し合わなければいけないわけですかな。その点についてはどういうふうにされるのかということについて大臣からお答え願いたい、こう思います。
  59. 林田悠紀夫

    ○林田国務大臣 入管法につきましては改正する計画を持っておりまして、現在その案を立案中でございます。これはそのうちに先生方にもお示しをいたしまして、ぜひ次の通常国会にこれを提案さしていただきたい、かように存じておるのでございます。その節はよろしくお願いを申し上げます。  また、今の先生のお話でございまするが、これはやはり法務省が入管の見地から就学生を取り扱っておったのでありまするけれども、これは教育上の重要な問題でもございます。また非常に多くなってまいりまして、特に留学生十万人計画、こういう計画もあるわけでございます。そういうことから、もっと文部省がこの就学生につきましてもタッチしなければいかぬじゃないか、かように私申しまして、今事務当局の間で、文部省、外務省、そして入管、こういうことで話し合いをしておるわけであります。  また、上海の問題につきましては、外務省を通じまして上海の現地と話し合いをいたしまして、大体解決を見ましてある程度受け入れていくという方向で進んでおる次第でございます。
  60. 稲葉誠一

    稲葉(誠)委員 では刑事施設法案質問に移りたいと思います。  刑事施設法案関係資料というのがこの前廃案になりましたときに出ておりますね。それと今度はまた出ておりますね。提案理由の説明、これは今度のはもちろん大臣、読まれたのですけれども、この前のは読まれなかったのかもしれませんけれども、ちょっと忘れましたが、この前のときの提案理由の説明大臣の読むあれですが、「刑事施設法案につきまして、その趣旨を御説明いたします。」と始まるわけですね。そうすると、廃案になったときのあれと今度のあれと提案理由の説明ではどこが違うのですか。
  61. 河上和雄

    河上政府委員 稲葉委員承知のとおり、さきの法案が廃案になりました後、日本弁護士連合会と話し合いを進めまして、二十一項目ほどの修正を旧法案に対して加えております。したがいまして、提案理由説明の中で若干表現の違うところが出てきていると思いますが、基本的な趣旨においては変わりないと考えております。
  62. 稲葉誠一

    稲葉(誠)委員 それは後から聞くことです。「ジュリスト」に曾田検事が論文を書いていますから、それは後で聞くのです。そんなことを私は聞いているのじゃなくて、この提案理由の説明を並べてみてどこが違うのですかと聞いているのです。これは、明治四十一年来七十年たったというのと八十年たったというのと違うのはわかりますけれども
  63. 河上和雄

    河上政府委員 ただいま申し上げましたように、修正の中で特に代用監獄のところとかあるいは弁護人の接見のところが違ってきておりますので、そこのところが多少表現としては違っているだろうと思います。
  64. 稲葉誠一

    稲葉(誠)委員 そんなことを聞いてないですよ。多少違っているじゃないじゃないですか。並べてごらんなさいよ。どこが違っているか説明してごらんなさいよ。七十年と八十年はいいですよ。明治四十一年から七十年たったというのと八十年たったというのと、これは物理的なあれですからいいです。そのほか違うでしょうが。どこが違うか、あなた、ちゃんと並べて見てごらんなさいよ。
  65. 河上和雄

    河上政府委員 実は、前回の法案の提案理由説明と今回の法案の提案理由説明の個々の細かなところは御指摘のような違いがあるだろうと思いますけれども、基本的には私どもの方は変わっていると思っていないものですから、どこの言葉がどういうふうに違うと申されても、ちょっとお答えしかねるわけでございます。
  66. 稲葉誠一

    稲葉(誠)委員 それは中の細かいことを聞いているのじゃないですよ。よく並べてごらんなさいよ。七十年たったというのと八十年たったというのはわかったというのですよ。これは物理的に違うからわかるのです。一番大事なところが違うでしょうが。そこから質問が始まらないとこれは意味はないのだよ。決してこっちは楽しんで質問しているわけじゃないですよ。違うでしょうが。どこが違いますか。
  67. 河上和雄

    河上政府委員 どうも私どもの方としては基本的には違っているという意識がないものでございますから、あるいは御指摘いただければそれに対して御説明できると思います。
  68. 稲葉誠一

    稲葉(誠)委員 文章が違うわけでしょう。うんと違うでしょう。どうしてこんなに違ったのですか。文章がどこが違ったかわかるでしょう。どうしてこんなに違ったのですか。
  69. 河上和雄

    河上政府委員 確かに御指摘のように文章は相当程度変わっていると思います。とりわけ代用監獄のところについての表現は変わってきているようでございます。
  70. 稲葉誠一

    稲葉(誠)委員 いや、代用監獄のところの表現が変わっているのじゃなくて――もう余りしゃべらない方がこっちはいいかな。あなたの方で考えてもらった方がいいかもわからぬが、時間がたつから聞きますけれども、「第四に、現行のいわゆる代用監獄制度については、今後、」云々から「被勾留者に限ることとし、」という七行、これは今度のものは抜けているでしょう。それを聞いているわけですよ。なぜここのところをこんなに抜かしてしまったのかということですよ、僕の聞いているのは。いいですか、こういうところが全部抜けているのですよ。  今度のはこうなっているわけです。「第四に、現行のいわゆる代用監獄制度については、刑事施設に収容される者と留置施設に留置される者の処遇に差を生じないよう規定整備するほか、代替収容の対象を限定する等の制度的改善を加えることといたしております。」今度はこれだけですよ。そうでしょう。この前のはこういうふうに、今読みますよ。「第四に、現行のいわゆる代用監獄制度については、今後、刑事施設の増設及び収容能力の増強に努めて、被勾留者を警察の留置施設に収容する例を漸次少なくする方針のもとにこれを存続することとして、制度の改善を図るものとしていることであります。すなわち、現行監獄法第一条第三項において、警察官署に附属する留置場は、すべての被収容者について監獄に代用し得るとしている点を改め、刑事施設に収容することに代えて警察の留置施設に留置し得る者は主として被勾留者に限ることとし、」ここのところが抜けてしまっているのです。抜けているでしょう。ここが違うわけですよ。これが具体的にどう違うかということは今後の審議の中で入っていくことだと思うのですけれども、こういうふうにこれを抜いてしまったのはどういうわけなんですか。
  71. 河上和雄

    河上政府委員 旧法案の提案理由説明で、この部分はかなり詳しく書いておりました。これは、御承知のとおり、法制審議会の御答申の中に運用上の配慮事項として、書きましたようなことの御提案がございまして、それを受けて運用上は我々としてはやっていきたい、こう思っておりました。それが提案理由説明の中に入っていたわけでございます。それで、今回の法案を出す際も、もちろん基本的な考え方は全く同じでございまして、法制審議会の御答申どおり、運用上我々としては配慮していくつもりでございますが、文章があそこのところが非常に長うございましたので簡潔にしたというだけでございまして、基本的な考え方は全く変わっておりません。
  72. 稲葉誠一

    稲葉(誠)委員 前の提案理由の説明と今度の提案理由の説明とどこがどういうふうに違うのか、どっちがいいのか。いいのかという意味は、我々国民にとっていいのかという意味ですよ。そういうことについては、これはいろいろな立場から見て議論があるかとも思うのですけれども、こんな一番大きなところというか、メーンみたいなところを削ってしまっているのですね。今のあなたのおっしゃることではどうもちょっとよくわかったようなわからないようなところがあるのですが、徐々に質問をしていきたいと思います。  法務省矯正局付検事に曾田正和という人がおります。もう一人、曾田という検事が東京地検におるらしいですが、この人が「ジュリスト」に書いております。一九八七年七月十五日号、ナンバー八百九十です。これは、あなたの方にこれらについて質問するからということを言っておいたでしょう。あなたも研究されたと思うのですが、修正の経過は十四項目があって七項目加えた、これはよくわかりました。九十五ページの三段目、「更に、法務省は「日弁連」と昭和六二年三月及び四月に、四回にわたり会合を開いて右の一四項目等についての「日弁連」の意見を聴取し、」とありますね。これは最初十四項目であったということでしょう。後から七項目加えたということでしょう。それは後から詳しく聞きますが、「かねてから「法案」に関心を有する国会議員」の意見を「再三聴取し、」とありますが、これはだれの意見を聞いたのですか。僕らは聞かれた覚えはない。だれに意見を聞いたのですか。
  73. 河上和雄

    河上政府委員 これは、直接私どもからお聞きしたというよりは、いろいろ国会議員の方々から私どもの方に御注文という形でたくさんお話がございまして、そういったことを言っているのではないかと思います。ただ、学者の方に関してはまた別だろうと思います。
  74. 稲葉誠一

    稲葉(誠)委員 いや、学者はわかるのですよ、だれに聞いたか。だって、「「法案」に関心を有する国会議員及び刑事法学者等の意見も再三聴取し、」この「再三聴取し、」がどこへ係るのかちょっと文章がわからないのですがね。国会議員の意見を聞いたのじゃないのです、国会議員がいろいろ言ってきたのを聞いたというのですか、これは。ちょっとよくわからぬな。
  75. 河上和雄

    河上政府委員 個々的には今申し上げたような形でおっしゃってこられる方もございますし、それから、各党の政審に私ども呼ばれまして御説明申し上げたときに種々御注文をいただいております。
  76. 稲葉誠一

    稲葉(誠)委員 そこで、十四項目と七項目が二回に分けていろいろ出てきて、あなた方としては日弁連の意見を入れてそしてこれをつくったのだ、だからというふうに、日弁連も何か評価しているようなことがどこかにちょこっと出ておりましたね。  そこで、ではなぜこの二十一項目が法務省の出した今度の「刑事施設法案関係資料」この前の経過からこうなったのだというその資料がどうしてこの中に入ってないのですか。
  77. 河上和雄

    河上政府委員 多少の時間的な準備の関係だろうと思います。そして、その後の二十一項目の修正につきましては別途つくったものですから、それをいわば補足的なものに私どもとしては使っております。
  78. 稲葉誠一

    稲葉(誠)委員 どうということはないことですけれども、二十一項目ができたのはいつかということと、関係資料ができたのはいつかということとの関係があるでしょうから、それは別にそれほどのことじゃないのですが。  そうすると、「ジュリスト」に曾町検事の昭和六十二年案と昭和五十七年案を対照した表が出ていますわ。五条を新設したとかいろいろずっとありますね。私が聞きたいのは、新旧が対照されている表が出ていますけれども、ただそれだけ出たってわからないのですよ。私が聞きたいのは、例えば五条ができたことによって具体的にどこがどういうふうに違って、それでそれがあなたの方にはどういうふうに有利になったのか。あなたの方に有利というのは言葉が悪いかもわからぬけれども、国民の側にはどう有利になったのか。それから、いっぱいずっと並んでいますね、第十条「収容開始時の告知」だとか、第二十三条「医療上の特別処置」とか、第三十七条「刑事施設の規律及び秩序」とかいろいろありますね。これはただこういうふうに並べられたってわからないでしょう。そうでしょう。具体的にどこがどういうふうに違ったのか、具体的な例を挙げて説明していただかないとわからないのですよ。
  79. 河上和雄

    河上政府委員 おっしゃいますとおり、新旧対照表だけですと非常にわかりにくいところがあろうと思いますので補足して説明させていただきますと、例えば五条、これは未決と既決とを峻別する規定でございます。もとより旧法案はおきましても未決と既決とは峻別するという立て方をしているわけでございますが、条文の上でそれが必ずしも明らかでなかった、そこな明らかにしろという日弁通側からの御要請もございましてそういった条文を入れたわけでございます。  それから、収容開始時の告知事項……
  80. 稲葉誠一

    稲葉(誠)委員 ちょっと待ってください。今五条がそういう説明があったのですけれども、そのことによって、ではどこがどういうふうに変わったのですか。法律の解釈や運用というものは、新しい条文ができたけれども、結局同じだということで変わらないということですか。
  81. 河上和雄

    河上政府委員 例えば五条の関係は実質的には変わっておりません。例えば実質的に変わったようなことを申し上げますと、三十九条でございます。
  82. 稲葉誠一

    稲葉(誠)委員 いやいや、そうじゃない。十条なら十条から変わっている点を説明してもらわないと、どういうふうに変わったのか。
  83. 河上和雄

    河上政府委員 例えば五条は実質的には変わっておりません。  それから十条、収容開始時の告知事項でございますが、これは告知事項として、遵守事項のほか「懲罰に関する事項」を加えたわけでございますから、受刑者にとっては非常に有利になるわけでございます。  それから、同じ十条でございまして、収容開始時の告知事項及び告知の方法、これは告知事項として「物品の貸与等及び自弁に関する事項」それから「保健衛生及び医療に関する事項」を加えましたので、これも有利になるわけでございますし、告知の方法も文書によるということを法文上明らかにいたしましたので、これも有利になっただろうと思います。  それから二十三条ですが、「医療上の特別処置」でございます。医療上の特別処置をとり得る要件から「健康に回復し難い重大な障害が生ずるおそれがあるとき」という、これはいわば制限規定だったわけですが、それを削りました。したがいまして、受刑者にとっては有利になっただろうと思われます。  それから翻訳に関する費用の関係で、三十四条と百一条でございますが、外国語の書籍等及び信書の翻訳に要する費用は、収容者に負担させることが相当と認められる場合に負担させることができる旨を明らかにしたわけです。
  84. 稲葉誠一

    稲葉(誠)委員 ちょっと待ってください。二十三条の次は三十七条じゃないですか。
  85. 河上和雄

    河上政府委員 これは二回に分けた分を私、一遍に言っておりますので、三十四条の方が先に来たわけでございます。三十四条の方は、実は二度日の修正でございますので、稲葉委員がごらんになっておりますのは……
  86. 稲葉誠一

    稲葉(誠)委員 これに入ってないの。
  87. 河上和雄

    河上政府委員 最初の方の修正では三十四条は入ってないわけです。
  88. 稲葉誠一

    稲葉(誠)委員 ちょっとおかしいな。だって、これは刑事施設法案昭和六十二年のと刑事施設法案昭和五十七年を対照したものでしょう。それで、十四が最初で後が七項目でしょう。こうやったんだから、おかしいじゃないですか。これは間違いじゃないでしょう。この順番に説明をしないとおかしいのじゃないかな。
  89. 河上和雄

    河上政府委員 會田局付が書いたもので御質問だと思いますが、これは百ページの右の端の方にちょっと書いておりますが、実質的な修正部分を含む条のみを掲げたということで、今の三十四条は形式的な部分でございますので抜けているのだろうと思います。
  90. 稲葉誠一

    稲葉(誠)委員 ずっと続けてください。
  91. 河上和雄

    河上政府委員 今申し上げたことで、三十四条はいわば形式的なものでございます。  それから三十七条でございます。規律及び秩序の維持の原則規定であり、保安上の規制は必要な限度に限らなければならない。これも実質的に当然のことでございますが、その点を明文で明らかにすることによって受刑者にとってはやはりそれだけのプラスになることだろうと思います。  それから、同じ三十七条と三十八条にかかわりますが、刑事施設の規律秩序に関する原則、指示、命令等の規制でございます。指示等の規制措置に関する規定を遵守事項に関する規定の後ろに移した、これは形式的なものでございます。整理したものでございます。  それから遵守事項の制定、三十八条にございます。遵守事項が被収容者の地位に応じて定められる旨を明らかにした。これも実質的には従来ねらっていたところとそう変わるわけではございません。  それから第三十八条、これは指示、命令のところでございますが、指定された職員が指示、命令ができるということを明らかにしたわけでございまして、指定職員という概念を出すことによっていわば制限したわけで、結局受刑者にとっては有利になることだろうと思います。  それから三十九条、これは着衣及び携帯品の検査でございますが、文書とか図画、これについての内容は検査しない旨を明らかにしたわけでございまして、確認規定でございますが、やはりそういった規定が出ることによって受刑者にとっては有利と解していいのじゃないかと思います。  それから三十九条の関係、弁護人等の着衣及び携帯品の検査の関係でございますが、これは旧法案で非常に評判の悪い規定でございました。それを結局弁護人等に対しては、その着衣及び携帯品の検査を行わないということを明らかに規定したわけでございまして、弁護権ということからいきますと、被勾留者にとってはやはり有利、あるいは弁護人にとって非常に有利な規定だろうかと思います。  それから、女子の身体及び着衣の検査、同じく三十九条の関係でございますが、これは旧法案では必ずしも明確でございません、法案に出しておりませんでしたけれども、女子の被収容者等の身体等を検査する場合には女子職員が行うということを明確にしたわけでございまして、もちろん旧法案においても実質の運用は女子職員が行うことを予定していたわけですが、明文で定めることによって、受刑者にとってはあるいは被収容者にとっては非常に有利になっただろうと思います。  それから、拘束台、防声具等の使用の関係、四十二条でございます。これは、旧法案では医師の関与、実質的にはもちろん私どもとしては予定はしておりましたが、それは運用を考えていたわけですが、そこを拘束台及び防声具の使用に関して医師が関与する旨を明確にいたしました。したがいまして、被収容者にとっては有利になったもの、こう考えていいのじゃないかと思います。  同じく四十三条、これは保護室へ被収容者を収容する場合でございますが、これについても運用で予定していたものを法文上明らかにして保護室への収容に関しては医師を関与させることを明文で規定したわけでございます。  それから、四十八条で受刑者の処遇の原則を明示いたしました。これは、特段旧法案と精神において変わるわけでございませんが、処遇に当たっては、受刑者の自覚を尊重し、かつ希望を参酌する旨を明文で明らかにすることによって、我々職員としても心構えをここで明確にいたした、そういうことでございます。  それから、同じ四十八条でございますが、受刑者処遇の原則、この自覚を尊重するという自主性を尊重する趣旨、これを非常に明らかにした。つまり、これは職員に対すると同時に被収容者に対して、特に受刑者に対しても自主性を尊重されるのだから、ともかく立派な社会人になって戻ってもらいたいという趣旨を明らかにしたわけでございます。精神規定ですので、特に大きな違いはないかと思います。  それから五十五条、百八条及び百十九条に絡みますが、自己労作でございまして、被収容者は、自己労作をすることができる。つまり刑法に定める懲役刑としての作業とは別に、自分が主体となって労働をして、それに伴う収入を得て、それを被害者なり自分の家族なりに渡すことができる。そういった自己労作が行える旨を明文で明らかにしたわけです。これも実は五十七年法案では一応余暇活動の援助としてそういうものを考えていたわけでございますが、ここで明確にしたわけでございます。  それから九十八条と百十四条に絡みます信書の内容の検査でございます。これも、信書の検査は、指名された職員だけしかできない。つまり旧法案では、職員を指名するかしないかというのは要するに担当、分担の問題ですので、書いてなかったわけですが、この法案では、それ相応の職員を指名し、それ以外の者は信書の検査はできないということにすることによりまして受刑者、被収容者の信書の発受についての権利性を強めた、こういうことになろうかと思います。  それから百十条でございます。これが一番大きな改革だったのではないかと思いますが、被勾留者と弁護人等との接見交通でございまして、制限事由から罪証の隠滅の防止上というようなことがございまして、それを削りました。それから、その他の制限事由も可能な限り法律で明らかにするということにしましたし、第一項及び第二項の定める日時、場所、人数によらない弁護人等との面会の申し出、つまり官庁が休んでいる日曜日、祭日あるいは夜間、そういったときでも弁護人からの接見の申し出があるときにはともかく応じなければならないという原則を立てたわけでございます。ただ、私どもも限られた人数と予算で被収容者を収容しているわけでございますので、いつでもというわけにはいきかねる場合もありますので、やはり管理運営上できないときはやむを得ないというふうなただし書きをつけさせていただいたわけでございます。しかし原則は、会わせろ、こういうことになったわけでございます。  それから最後、百三十五条、懲罰でございますが、懲罰事由の中に「暴動を起こすこと。」というのが入っておりました。これを、収容開始のときにそういうことをしないということを告知しておりますので、あえて懲罰事由の中に入れることはないということで削ったわけでございます。これも、実質的には変わらないかもしれませんが、受刑者にとってはある意味ではプラスになることだろう、こう考えております。
  92. 稲葉誠一

    稲葉(誠)委員 今お聞きしますと、実質的には大して変わらないので、日弁連側が何か評価しているようなことを言っているようにもとれるのですが、何もそんなところまで言っていないし、問題は旧法の百八条、今度の方の百十条、面会人に関する制限の問題ですね。この問題については、これはまたこれだけの独立の項目として聞くということになろうと思います。  そこで一つ聞きたいのは、従来の代用監獄問題の今日に至る経過、これは余り古いものは別としてその経過を聞きたいのですが、その前に一つこういうのを聞いておきたいのです。これは刑事局の方に聞くのか矯正局に聞くのかちょっとわからないのですが、刑事訴訟規則第百四十七条というのはどんなあれですか。
  93. 根來泰周

    根來政府委員 刑事訴訟規則の百四十七条についてお尋ねでございますけれども、これには、勾留する場所については記載要件にはなっておりません。
  94. 稲葉誠一

    稲葉(誠)委員 まだそんなこと聞いていないのです。これから聞くところなんです。刑事訴訟規則百四十七条というのは勾留請求書のあれですね、それで勾留すべき場所を記載要件としていないわけです。そうでしょう。今刑事局長がおっしゃったとおり。これをどう理解するかという問題が一つあるわけです。これはどう理解したらいいのですか。
  95. 根來泰周

    根來政府委員 勾留の場所は裁判所の裁量によって決定するという趣旨であろうと思います。
  96. 稲葉誠一

    稲葉(誠)委員 そんなこと言ってないでしょう。和歌山地裁の判例があるでしょう。大変失礼だけれども、僕はこの資料を渡して、よく調べておくように言ったはずです。言ったはずだけれども、あなたの方で、政府委員室の人たちは実際の答弁内容を書く人に対して、調べが不十分だからなんて文句言ったりなんかしたらいけないです。かわいそうです。こういうときは、余計なことですけれども、よくやってくれたと言って一席ぐらい設けて慰労してやらなければだめだよ。  僕は、こういう資料があるから見てごらんなさいと言ったはずです、和歌山地裁の判例まで言わなかったけれども、そこまで言ってしまっては身もふたもないからそこまで言わなかったけれども。後で研究しておいてください。そこで、問題に入りますが、これは、今言った裁判所の裁量に任せてあるという意見ではないようですね、この判例は。これは後で研究しておいてください。  歴代の矯正局長のメンバー表をいただいたのです。私は、大澤一郎さんのときから布施健さん、勝尾鐐三さん、三十一代からずっと来るわけですが、大臣、この矯正局長の任期がとても短い人がいるのです。一番短い人は一年四カ月。これはどうしてこんなに短いのかということなんです。これは恐らく、検事長が定年でやめるでしょう。そうするとその検事長を補充しなければならない。動くから矯正局長を動かす。動かすと言うとおかしいけれども動くのです。それで短い人が出てくるのです。これでは、検事が矯正局長になって、そして腰かけにいるのだとしかとらない傾向が矯正局の中で出てくるのではないですか。上の方には届かないかもわからぬけれども、こういう人事のやり方について矯正局の中にいろいろな不満があるような気がして私はしようがないのです。  だからその点お聞きしたいのは、だれに聞いたらいいのかな、矯正局長が検事でなければならないという積極的理由はあるのですか。
  97. 河上和雄

    河上政府委員 従来、似たような御質問法務大臣にあったのではないかと思いますが、私の手元の資料でございますと、衆議院の予算委員会稲葉委員から当時の筧官房長だと思いますが、お聞きになっております。  そのときの答えと同じような答えになるのだろうと思いますが、矯正行政というのが刑罰の執行、これは刑法の具体化をするわけでございまして、結局それが行政の中心でございますし、刑法刑事訴訟法、さらには検察行政とも密接に関連しているので、法律上の知識、あるいは法律上の素地、素養というのがかなり重要である、こういうふうに考えられているためではないかと思います。私が法律的素養があるかどうかということは別でございますが、ともかく、そういうふうに考えられているようでございます。
  98. 稲葉誠一

    稲葉(誠)委員 矯正局長が検事でなければならない理由はないです。  今、刑の執行という話がありました。刑の執行は、検事がただ執行指揮書に名前を書いて判こを押すだけでしょう。あとは次席検事が刑の執行に関係することがありますね。それはどういうときです。
  99. 河上和雄

    河上政府委員 刑の執行順序の変更のようなこともございますので、そういうこともございますし、それからやはり矯正局の中の仕事、特に局長の絡む仕事の中で、刑事訴訟法の解釈あるいは刑法の解釈に絡む問題は結構多うございます。
  100. 稲葉誠一

    稲葉(誠)委員 それはまた後で聞きますよ。それは勝尾さんの論文の中にそのことがちょっと出てくる、最初のところで。  だけれども、これは矯正局長が検事でなければならない理由というのはないのですよ。今言ったのは、検事であるからそういう理屈をくっつけただけの話だと思うのです。だから、ぱんぱんかわるのです。一番短い人が一年四カ月、長い人は五年ぐらいやった人がいますけれども。大澤さんは随分長いのですが、あとは大体二年からちょっとですね。一年四カ月というのは特別な事情かもわかりませんけれども、これは恐らく検事長が定年でやめたからじゃないですか。それで動いたからじゃないの。だから、おかしいのですよ。  それからもう一つ大臣、考えておいてください。例えば保護局長も検事でなければならぬ理由はないのです。殊に、関東地方更生保護委員会というのがあるでしょう。今、九段のところにあるかな。あの関東の場合だけ委員長は検事なんですよ、ほかは検事でないわけですけれども。これも検事でなければならぬ理由はないのです。どうもこれはよくわからぬのです。  僕は前に河上さんに聞いたことがあるんだけれども、営繕課長が検事でなければならない理由というのをちょっと聞いたことがあるんだ。刑務所の敷地だとか新しい刑務所をつくるときに地域の住民のところへ行って検事が頭を下げて頼むというと、検事が頭を下げるんじゃよっぽどのことだろうというので、しようがないというので認めてくれるとかくれないとかという話をどこかで聞いたことがあるのだけれども、これは別として、矯正局長が検事でなければならぬ理由はないですよ、もうどんどんいい人が出てきているのですから。立派な人がどんなによくたって東京矯正管区長で終わりでしょうが、そんなことを言っては失礼だけれども。それはおかしいですよ。  それはあれとして、これだから矯正局の仕事を本腰を入れてやれないのです。下の方は相当不満があるのですよ。だから派閥ができているのですよ。と言っては恐縮だから派閥ができているとは言いませんけれども、僕のところへいろいろなあれが来るのです。ここでは明らかにしませんけれども、この管区の人が中心でこうやっているとか、うちの矯正局長は学者だから余り矯正のことについてはタッチしていないしわからないから、実際動かしているのはこの人が動かしているんだとかなんとか言っていろいろ来るわけです。そんなのはここで発表することでもないし、私の胸にしまっておいてそのままになっていますがね。  そこで、代用監獄について、古いことはいいですが、戦後、法務省の中で正式に局で論議した案もあるし、そこの正式な局まで行かないで論議されたこともあるわけです。いろいろもういっぱいあるわけです。そこら辺の経過をひとつ順を追ってお話し願いたい、こう思うのです。  例えば法務省の中でも廃止論と当分の間代用を認める論と一定の期間を限って代用を認める論の三つに分かれておった。例えば廃止論というのは、昭和二十二年監獄法改正要綱「代用監獄はこれを廃止する。」昭和二十九年矯正局法規室監獄法改正要綱仮草案(試案)「代用監獄の制度はこれを廃止することに努めるものとし、経過的に認めるときは、その適切な運営に必要な経過措置をとるものとすること。」という廃止論があるわけです。戦後、一体どういうような機構の中でどういう案ができてきたのか。あなたの方から言わせれば、それは正式な案ではないというのもありますよ。あるかもわからぬけれども、それをも含めてちょっと説明を一応していただきたいですね。
  101. 河上和雄

    河上政府委員 監獄法改正作業について、御指摘のように長い戦前からの沿革がございまして、そういったものを踏まえて戦後に改正作業というのが行われたのではないかと思いますが、法案をつくるということの性質上、例えば戦前には戦前のいろいろな主体となっている思想、時代的な背景というものが法案の中に入っておりますし、戦後には新憲法下での新しい思想というのがやはり入ってきているわけでございます。どうしても立案作業でございますので現実と理想との間でいろいろ揺れ動いている、これは御指摘のとおりであろうと思います。  戦後、内部的に行われた数次の改正作業において作成された部分的な改正要綱あるいは改正案のうち、代用監獄の方向を掲げたものは確かにございます。ただ、転々としているようでございまして、最初に昭和二十二年八月二十六日、司法省の監獄法改正調査委員会において「監獄法改正要綱」が決議されております。この要綱は、自由刑の執行に関する代用監獄制度を廃止し、未決拘禁の執行に関しては、財政的理由その他の事情によって拘置所の特設が困難な場合には警察署の留置場を拘置所に代用することができる、こういうふうなことを言っております。この要綱に基づきまして、「行刑法草案」ということで改正案作成の検討が進められました。しかし、結局その間、矯正局案として確定するまでに至らないで中断されております。  それから昭和三十二年三月でございますが、やはり矯正局におきまして「監獄法改正要綱仮草案」こういうものを作成いたしております。三十三年十二月に法務省内に設けられました監獄法改正準備会におきまして、この仮草案を提出しまして、これを中心に監獄法改正の審議が法務省内で部内的になされまして、三十九年十一月に、刑務所法という言葉を使いまして、「刑務所法仮要綱案」こう言ってまとめておりますが、この要綱案では実は代用監獄制度は存続する、こういうふうになっております。  それから昭和四十二年七月、また改めて矯正局内に監獄法改正準備会が設けられまして幾つかの改正案が検討されました。その中には、代用監獄の存置を一定の期間に限って認める案、御指摘の案だと思いますが、そういった案も含まれておりました。これも結局部内的な局内の論議だけにとどまりまして、局案として確定するに至りませんでした。  そして五十一年三月、法務大臣から法制審議会に対して監獄法の改正に関する諮問がなされまして、五十五年十二月に「監獄法改正の骨子となる要綱」として答申が出されたわけでございます。この中では、先ほども指摘ございましたが、努力目標というようなことでもってこの点が取り上げられているわけでございます。
  102. 稲葉誠一

    稲葉(誠)委員 それは、ずっと細かい経過を必ずしも正確に言ってないようにもとれるのですね。だから古いことはいいですが、まず廃止論があった事実で、私どもの聞いているのは昭和二十二年の監獄法改正要綱、まず一つ。それから昭和二十九年矯正局法規室監獄法改正要綱仮草案(試案)、これが一の廃止論。  二が、当分の間認める論。これが昭和二十三年成人矯正法規部未決拘禁法仮案ですね。それから昭和二十四年の成人矯正局法規部「矯正施設法案」附則ですね。  それから、一定期間に限って代用を認める論というのは、今ちょっと話が出ました昭和四十三年矯正局法規室「刑事施設法案構想―素案」附則、ざっとこういうように思うのですが、今私の言ったのは違いますか、そのほかにもあるかもわからぬし、抜けているのもあるかもわからぬし。
  103. 河上和雄

    河上政府委員 今おっしゃったので大体網羅されていると思います。  ただ、刑務協会、現在の矯正協会でございますが、その改正委員会の方が「監獄法改正に関する建議要綱」というのを昭和二十一年に出しておりますが、この中では代用監獄は充実と改善を図らなければならぬという趣旨のものが出ております。それが御指摘から抜けているだろうと思いますが……。  それから四十七年の二月ですか、矯正局の法規室の中で、警察官署の留置場は、刑事施設に代用することができる。ただし、受刑者を一月以上継続して収容することはできないといったような案が出ているようでございます。
  104. 稲葉誠一

    稲葉(誠)委員 その法案について、これはちゃんとした資料としてあるんですか。あれば、これは委員長の方から当委員会に提出をお願いしたいと思うのですけれども、それはどうでしょうか。
  105. 河上和雄

    河上政府委員 戦後のものでしたら、あるだろうと思います。提出できます。
  106. 稲葉誠一

    稲葉(誠)委員 じゃ、提出をいただいてから、また論議を深めたいと思うのです。  問題になっている代用監獄について、これは中尾文策さん、古い方ですけれども、この方も、これは矯正局長になってからですか、どういうときですかね、中尾さんがおやりになっていたときは。いつごろからいつまでで、そのときの局の名前はどういう名前でしたか、ちょっと古いから……。
  107. 河上和雄

    河上政府委員 記憶で申し上げますので、あるいは不正確かもしれませんが、二十九年まで矯正局長をなさっていたようでございます。
  108. 稲葉誠一

    稲葉(誠)委員 そのころはもう矯正局になっていたのですか、矯正局と保護局と合併したり、いろいろ分かれておってよくわからないのですが。
  109. 河上和雄

    河上政府委員 矯正局になっていたようでございます。
  110. 稲葉誠一

    稲葉(誠)委員 その中尾さんが、「木村博士還暦祝賀刑事法学の基本問題」という中に「監獄法改正について」というので論文を書いておられるのですね。これはあなた方はお持ちかと思いますが、その中で代用監獄についてこういうふうに言っておるのですね。   監獄の所在場所が限られている為にやむを得ず法律の認めた代用監獄は、行刑改良にとつて多年のがんである。 こう言っているのです。   代用監獄は殆ど例外なく拘禁場としての悪条件の大部分を具えている。それは今更述べる必要のない、常識の程度になっていることである。代用監獄はまことに行刑改良の盲点でありがんであつて、之を置去りにした行刑改良は殆ど無意味に近いと迄極言される。 こういうふうに中尾文策さんは、東北大学教授木村先生の論文の中で言われているのですが、これはこういうふうに書かれていること自身は間違いないでしょう。
  111. 河上和雄

    河上政府委員 間違いございません。
  112. 稲葉誠一

    稲葉(誠)委員 そうすると、中尾さんは昭和二十九年からだったか、中尾文策先生というのは私ども名前をお聞きしているだけでお会いしたことはございませんけれども、いわゆる矯正関係については最高の権威者であるというように考える。このころ、この方は検事じゃなかったでしょう。検事じゃない人が矯正局長をやっておられたのですよ、大臣。だから検事でなければならないという理屈はないのですよ。いろんな配分で矯正局長をあれするのですよ、どういう配分というか、これはここでは言いませんけれどもね。  そこで、もう一つの問題。これからいよいよ本論に入るのですが、勝尾鐐三さんが第三十三代の矯正局長になられましたよね。昭和四十二年一月から昭和四十五年五月までです。相当長くやっておられたのですが、勝尾さんが「自由と正義」に論文を書かれているのです。大臣も御案内と思いますが、「自由と正義」というのは日本弁護士連合会の機関誌なんです。いわば敵でもないかな、友達でいいでしょうけれども、法曹三者ですが、それに「監獄法改正の動向 ―問題点と改正作業の見とおし―」というので法務省矯正局局長として論文を書かれているのです。これは四十四年の二月号です。ここに論文を書かれている。この論文をぜひ読んでおいてくれということは私再三法務省の方に言ってあります。それについて質問するということは私言ってありますから、お読みになられた、こう思うのですが、これは非常に内容の豊かな論文なんです。  「我国の現行監獄法は制定施行以来既に六十年を経過している。」その当時は六十年だったのですが、それからこの中で二段目のところに、括弧してありまして「今や「監獄の制度は、壁の中の生活と壁の外の生活との間にあり得べきさまざまの差異を減らすことに努めなければならない」」となっているのです。その次に「「人間が刑をつとめた時代から、刑が人間にっとめる時代への展開がなされることになったのである。」こっちの方はかぎ括弧が上の方だけあって下の方にないのでどこまでだかちょっとはっきりしないのですが、これはだれの言った言葉なんですか、だれかのを引用しているのでしょう。
  113. 河上和雄

    河上政府委員 不勉強でございまして、わかりかねます。
  114. 稲葉誠一

    稲葉(誠)委員 不勉強でわかりかねるのではなくて、勉強したってわからないな、これは。それは勝尾さんに聞いてみなければわからぬな。こういうのを書くのに、勝尾さん、だれの言葉かわかり切っているから引用しなかったのかなと思うのですけれども、これ私も下の方がどこで終わっているのかわからないんだ。ちょっとこれはミスプリントのような感じもするのです。  そこで、この「我国の現行監獄法は制定施行以来既に」云々で「母体となったものはドイツ監獄法であるが、そのドイツ監獄法は、ワイマール憲法によって質的な洗礼を受けたということができる。」こうなっています。ワイマール憲法がどうなったのか。そうすると、それはドイツ監獄法が母体となって、ワイマール憲法によってドイツの監獄法が変われば、日本の場合は憲法によってこの監獄法というのは当然変わらなければいけない んじゃないのですか。ドイツの場合、どういうふうになってどういうふうに変わったのですか。それも勝尾さんを呼んでこなくちゃわからないかな。そんなことないでしょう。これは内部でよく勉強されているはずですよ。これはどういうのでしょうか。
  115. 河上和雄

    河上政府委員 私も不勉強でございますからやや的外れになるかもしれませんが、ドイツを初め、ヨーロッパ系の考え方で、行刑については単独立法ということを考えない、むしろ刑法の中で規定する、あるいは刑事訴訟法の中で規定するということで、行刑は法律事項ではなくて行政事項であるという考え方が非常に強かったのではないかと思います。  それが十九世紀後半くらいから、そういったことではいかぬ、やはり行刑は行刑で独自の法律をつくって、そして法律関係として受刑者と国との関係を明確にしなければいかぬ、そういうふうな議論が出てきたようでございます。それが第一次大戦後のワイマール憲法その他で、これはドイツはもう既に十九世紀後半に行刑法をつくっておったと思いますが、それが新しい憲法によってさらに人権的な思想が出てきたということをここでもって触れようとしているのではないかと思います。
  116. 稲葉誠一

    稲葉(誠)委員 今たしか、これは専修大学の教授ですか、朝倉京一さん、この方が矯正局におられて、非常に勉強家でしたよ、私も何回かお会いしたことがあるのですが、後で聞きますけれども、この方は、今の監獄法が現実に行われているのが、あるものは憲法違反でありあるものは法律違反なのだ、それを通達で補っているものがあるのだというような朝倉さんの論文があったのを私は覚えているのですよ。ちょっと捜したのですが、よくわからなかったのです。まあ今ここで聞くわけではありませんから。  そこで、「現代ヨーロッパ矯正論」という矯正局参事官時代の朝倉京一さんのがあるわけです。これは「刑政」七十八巻十号にありますし、「法律の広場」では「矯正保護と基本的人権」というやはり朝倉京一さんのあれがあるのですけれども、これはよく読んでおいてくださいね。それから朝倉さんの、今私の言った論文がどこかにあったのですよ。頭の中にあるのですが、あれ見つからないのだ。何か現在のやり方のこういう点が法律違反であるということをずっと細かく分けた論文ですよ。  そこで、私がお聞きするのは、現職の矯正局長である勝尾鐐三さんが書かれたこの論文の中に「基本方針」があるのですね。(一)(二)(三)(四)、四つありますね。「(一)、現行刑法刑事訴訟法、少年法等に対応して、現行監獄法の全部を改正する。しかしこれら法規の改正の方向は、十分に参酌する。」ちょっとよくわからないところがあるのですが、少年法はちょっと困るのですよ。これは余り議論すると少年法の改正だなんてあなたの方で言い出すと困るからここでは余り言いませんけれども刑法刑事訴訟法に対応して現行監獄法の全部を改正する、こう言っていますね。監獄法の改正というのは、これはもう四十何年たった刑事訴訟法の再検討の上に立たなければならないという考え方を私は持っている。これは松尾浩也先生が日弁連の講習会などで講演されているのです。いつか質問したことがありますが、それはそれで、どういう点がどこで問題かはきょうの話題ではありませんけれども。  それから「未決拘禁、死刑執行等に関する法規は、それぞれ別に単行法とすることを考慮する。」こうありますね。「(三)、少年行刑等に関する法規を別に単行法とすることは一応考えないが、十分に特則をおく。」「(四)、新しい刑法でもることが予想されている保安処分の執行については、」これはまずいからやめた。(四)はやめです。それから(一)の少年法もやめですが、そうすると、刑法刑事訴訟法に対応して、現行監獄法の全部を改正するというのは具体的にはどういう意味なのですか。これは刑事局長の方かな、あるいは矯正局長の方なのか、どうなのですか。
  117. 河上和雄

    河上政府委員 この論文が書かれたころは、稲葉委員承知のとおり、刑法改正の方もある程度法務省内で進行していた時代でございまして、刑法の定める刑罰の執行法である監獄法としては、当然刑法が変われば刑罰の意味もある意味では変わってくるわけで、そして刑の執行の方法というのも当然変わってくるということで、この手のことをお書きになったのではないかと思います。また、刑事訴訟法についても、そのころ部内的には刑事局の中で刑事訴訟法についてやはりいろいろ改正の議論がなされていたように記憶するわけですが、これはごく一部だけの問題だと思いますが、そういったようなことを踏まえてこういうことをお書きになっているのではないかと思います。
  118. 稲葉誠一

    稲葉(誠)委員 それは確かに刑法の改正は――だから監獄法等の改正で出てきたのは懲役と禁錮の刑の一本化の問題が中心だったのではないですか。ほかにも何か問題があったのですか。
  119. 河上和雄

    河上政府委員 おっしゃった禁錮と懲役の一本化ということも当然問題だったろうと思いますが、基本的理念として現行刑法の懲役は、要するに作業を強制的にしなければいかぬという立て方、それが例えば教化改善ということになってきますと、刑罰の本質というのを教化改善というふうに見ていきますと多少やはり違ってくるわけでございまして、刑法の改正の方向がその時点ではっきりしなかったわけでございますから、そういう方向に合わせて、もし刑罰の本質を刑法が変えるならば当然行刑法についてもそれは影響する、そういうことじゃないかと思います。
  120. 稲葉誠一

    稲葉(誠)委員 今ここに刑法が出てきました。刑事訴訟法が出てきましたね。部内で改正が検討されたようなお話があったのですが、私は何回もこの話を、刑事訴訟法を再検討すべきだということを言ったって、とてもそんな元気はありませんとかそんな意欲はありませんなんて言っているんだ、法務省は。刑法の改正さえ通らないのにとても刑事訴訟法の改正なんか無理ですというようなことを言っているのですけれども、今時間があれですからあれしますが、これは結局、当事者主義というのは一体何かということでしょう。起訴前の当事者主義と起訴後の当事者主義とどういうふうにするかということの問題、証拠開示の問題だとかいろんな問題が出てきます。そこら辺の問題を含めて、一体刑事訴訟法のどこをどういうふうに――私は前から言っているようにすぐ改正しろとは言わないと言うのですよ、これはそう簡単にできることじゃありませんから。だけれども、論議はすべきだ。その中で、この代用監獄の問題なりなんなりという問題は捜査の段階の中で中へ入ってくるわけなんだ。そういう位置づけをしないでただあれやったってだめじゃないか、こういう私の意見なんですが、これはあなたの方のあれじゃなくて刑事局の方にまた別の機会に聞きます。  刑事局長、今河上さんが刑事訴訟法検討が刑事局の部内で行われたということを言われたわけですよね。具体的にどういうふうに行われたのか。今でなくていいですよ。後で詳しくまた別の機会にお聞かせ願いたいと思うのですが……。
  121. 河上和雄

    河上政府委員 ちょっと私の言葉足らずでございますので補足いたしますと、正式なことじゃなくて、私ども刑事訴訟法が完全なものと思っておりませんので、刑事局の当時の若手の検事が集まっていろいろ議論したという程度に御理解いただければありがたいと思います。
  122. 稲葉誠一

    稲葉(誠)委員 その若手の検事が集まった中にあなたも入っていたのですか。
  123. 河上和雄

    河上政府委員 当時若手でございましたし、そういうのは刑事局ばかりでなくてやはり矯正局にも検事がおりますから、そういう話が自然に伝わることはあっただろうかと思います。
  124. 稲葉誠一

    稲葉(誠)委員 そこで、「未決拘禁、死刑執行等に関する法規は、それぞれ別ほ単行法とすることを考慮する。」これは、死刑執行に関する法規、未決拘禁に関する法規、それぞれ別に単行法とするという考え方ですね。刑事被告人というのは無罪の推定を受ける。無罪の推定というのはどういう意味かということは、これは内容的にいろいろな議論があるとしても、いずれにしても既決囚じゃないわけですからね。既決囚でも法的対象にもちろんなるという考え方になってきているのでしょうけれども、それと未決とは法律的に全く性格が違うわけですからね。だから私は勝尾さんが言うように、未決拘禁はそれぞれ単行法とすることを考慮するというのは当然のことだと思うのですよ。これが一緒になっちゃうから話がごちゃごちゃしちゃうのだと思うのですが、ここら辺のところは……。  午前中の時間はもう終わりですね。午前中は終わりですから午後になると思うのですけれども、結論として、未決拘禁なら未決拘禁を単行法とするということは検討されたのですか。されたのだけれどもそれは具体的にどうなっちゃったのですか。これはまた後で、午後になってお聞きしますけれども、ちょっと……。
  125. 河上和雄

    河上政府委員 検討いたしました。両方の法律に分けるという方が理論的には正しいのじゃないかというような議論がかなり強かったようでございます。  ただ、問題は、いずれも矯正行政の中に含まれる施設で結局収容する。相当部分共通の事項が多うございまして、別々の単独立法でするより一つ法律の中で取り上げて共通事項にして、共通事項については共通に規定して、そして先ほど、日弁連からの申し入れもあって私どもが修正いたしましたように、既決と未決とは峻別するという規定を置くことによってそこは明らかにしよう。要するにこれは法案の立て方でございますから、どちらでもいいと言うと言い過ぎになると思いますけれども、なるたけ便宜的に一本にまとめた方が現場が混乱しないだろうというような考え方であったのではないかと思います。
  126. 戸沢政方

    戸沢委員長 午後一時に再開することとし、この際、休憩いたします。     午後零時六分休憩      ────◇─────     午後一時一分開議
  127. 戸沢政方

    戸沢委員長 休憩前に引き続き会議を開きます。  質疑を続行いたします。稲葉誠一君。
  128. 稲葉誠一

    稲葉(誠)委員 午前中に私が刑事訴訟規則第百四十七条のことを聞いたわけですが、これは昭和四十二年二月七日、和歌山地裁の判決なんですね、ちょっと古いのですけれども。「勾留の場所は本来拘置監とされるべきものであり、このことは、監獄法第一条第一項第四号、第三項の文理並びに、刑事訴訟規則第百四十七条が勾留請求書に、拘留すべき場所の記載を要件としていないことからも窺知ることが出来る。従って、勾留場所をいわゆる代用監獄とするのは特段の事情がある例外的な場合である。」云々という判例なわけですね。これは国会図書館のイッシューブリーフ、「代用監獄問題と監獄法改正」というのにあるので、これは私はよく読んで研究されるように言ったつもりなんですが、私のあれが足りなくて、それから同時に、刑事訴訟規則までお話しするのは、ちょっとそこまで言ってしまうと行き過ぎだと思って言わなかったのですが、そのことで政府委員室の職員なんかに当たったりなんかしないようにしてくださいよ。念を押しておきますからね。  そこで判例は、こういう判例もあるし、そうでないのももちろんあるわけですね。よく研究されたと思いますけれども、いろいろあるわけです。こういう判例が幾つかあり、類似するものが幾つかあり、違うのもあるわけです。しかし、大体今の和歌山地裁の判例にのっとっているのではないか、こう思っております。  そこで、今さっきの勝尾鐐三さんの論文関連をして聞くわけですが、今さっき未決拘禁とあれと分けるという話、単行法にするということについて検討したという話がありましたね。私の聞く範囲では検討して案をつくったらしいんですよ。これは、名前は言いませんけれどもある人から聞いたのです。ところが、それが余りに準用条文が多過ぎて、どうも少し法律としての形をなしてないんじゃないかということで、未決拘禁法を独立な法律にする、単行法にするということをやめたんだということを私は聞いたのですけれども、一たんつくったことはつくったのじゃないですか。準用条文が非常に多いというので云々という話を聞いたのですが、そこはどうなのですか。
  129. 河上和雄

    河上政府委員 監獄法の改正案を作成する段階でいろいろな議論ございまして、確かに両方とも単独立法でいく、そうすると準用規定が非常に多くなって、どうも法律としてやや品位に欠けるというようなことがあったことも私伺っております。  それから、法制審議会の審議の過程の中で、実はこれは公式になるわけでございますが、新法の体系をどうするか、つまり二つにするか一つにするかについて甲案、乙案の二案が出て、それが採決されております。  甲案は「新法は、単一の法律において、各種の被収容者の収容目的及び法的地位の差異に応じて適正な処遇を行う趣旨を明確にするため、おおむね、被収容者に関する通則、受刑者の処遇、被勾留者の処遇、死刑確定者その他の被収容者の処遇等の編に分けて規定すること。」つまり一つでいこうという考え方でございます。  乙案の方は「新法は、被勾留者の収容目的及び法的地位が他の被収容者のそれと相違することにかんがみ、未決拘禁に関する法律と自由刑等の執行に関する法律の二法に分けて規定すること。」この二つが法制審議会の審議の中でもって提案されまして、採決の結果、結局一つ法律でいく、つまり甲案でいこうということになったようでございます。
  130. 稲葉誠一

    稲葉(誠)委員 ですけれども、今乙案にありましたように、法的地位が全く違うでしょう。法的地位が全く違うものを一つ法律にするというのは、私はどうもおかしいと思うのです。だから、法律的地位が違うというのはどういうふうに違うと理解してよろしいですか、法律的に言うと。
  131. 河上和雄

    河上政府委員 先ほど委員指摘のように、被勾留者につきましては当然無罪の推定があるわけでございます。それに対して受刑者は、これはもう刑が確定しているわけでございますから、国家刑罰権の行使の対象になっているわけでございまして、根本的にその点が当然違うことになるだろうと思います。
  132. 稲葉誠一

    稲葉(誠)委員 問題はそういうようなことをずっとやって進んできていて、そこへまた別な法律ができてくるのですよ。その経過はまた別な機会にお聞きをするのですが、この「題名」のところに、「現在、改正監獄法の題名を一応「刑事施設法」としているが、これは「監獄」の名称を廃止する方針で、現在行なわれつつある改正刑法準備作業上の用語に示唆を受け、一般性のあるものとして択んだまでのことで、新法にふさわしい題名を検討しなければならない。」こう言っているわけですね。  そうすると、刑事施設法というのは建物を、刑事施設というのは建物ですね、一応、雑な言葉で言えば。だから、そこにいる人たちを中心とするというか、何らかの別の名前というものは当然出てきていいわけであって、新法なら新法にふさわしい理念に沿った題名を検討しなければならないというふうに矯正局長の勝尾さんは言っているわけですから、当然何らかの題名、題名というか何というか、それが研究されたのだと思うのです。これはどういうのがいろいろ出てきたのか、どうして刑事施設法に落ちついてしまったのですか。建物の名前じゃないですか、刑事施設法というのは。建物中心じゃないですからね、考え方が。
  133. 河上和雄

    河上政府委員 結局最終的には刑事施設法という名前に落ちついたわけでございます。その間いろいろ法制審議会の中でも、例えば行刑及び未決拘禁等の執行に関する法律とか刑事拘禁法といったような名前も出たようでございますが、刑事施設法ということで、法制審議会の方は結局一番意見が多いということでそれに決まったようでございます。  なぜ行刑その他の言葉を使わなかったかについては、多少私の推測が入りますが、行刑というのも監獄につながる言葉でやや古い言葉じゃないかというようなことが一つあったのではないかと思います。それから刑務所という言葉を普通使っているわけでございますが、やはり刑務所という言葉から受けるイメージが必ずしもいいものではない、刑事施設という言葉は比較的、何といいますか中間的なニュアンスを持つ言葉でございますので、確かにおっしゃるように場所を意味する場合が多いわけでございますが、結局刑事施設法ということで落ちついたのではないか、そう考えております。
  134. 稲葉誠一

    稲葉(誠)委員 この「目的規定」、これは新しい法律ではみんな目的がこのごろありますけれども、「法律の目的については、最近における立法はこれを規定するのを例としているばかりでなく、」大体戦後はこういう形を一条でとっておりますね。「行刑の趣旨を明らかにすることは矯正立法上洛別の意義をもつものと考え、行刑の趣旨として施設の適正管理と収容者生活の保障をかかげ、とくに受刑者に対する矯正処遇、社会復帰および未決収容者に対する刑事手続保全をもって改正監獄法の指導原理としたい考えである。」こういうふうに言っておられますね。  ところが、条文を見るというと、これは新しい方ですね。今出ているのは、「この法律は、刑事施設の適正な管理運営を図り、被収容者の人権を尊重しつつ、収容の性質に応じた適切な処遇を行うことを目的とする。」ものである、こうなっておりまして、それでいろいろありますけれども、理屈を言えば、今勝尾さんがこうやって述べていることを簡単にしたんだ、「収容の性質に応じた適切な処遇」の中にみんな入るんだと言えばこれは入るかもわかりませんけれども、わざわざ「とくに受刑者に対する矯正処遇、社会復帰および未決収容者に対する刑事手続保全をもって改正監獄法の指導原理としたい考えである。」「未決収容者に対する刑事手続保全をもって改正監獄法の指導原理としたい考えである。」ということは、これは具体的に言うとどういうことなんですか。なぜこれがこの法律の中の目的に入っていないんですか。一条の中に入っていないんですか。
  135. 河上和雄

    河上政府委員 勝尾先生がお書きになっておりますのは、実は私どもが今回御審議いただいておりますこの法案とは直接必ずしも結びつくものではございません。勝尾先生は、当時の矯正局の検討しているいわば法案の卵のようなものを前提とされてこれをお書きになっているのではないかと思います。
  136. 稲葉誠一

    稲葉(誠)委員 いや、それはわかっているのです。私の聞いているのは、ここに「未決収容者に対する刑事手続保全をもって改正監獄法の指導原理としたい考えである。」というこの考え方は、どうして一条の中に出てこないんですかと聞いているのです。出ていないでしょう。文章の中に出ていないでしょう。
  137. 河上和雄

    河上政府委員 今度の法案の中では、一条は確かに御指摘のように、いわば極めて総括的な目的で書いているわけでございますが、先ほども説明申し上げたかと思いますが、百六条の方で、「被勾留者の処遇に当たつては、刑事訴訟法規定により勾留される者としての地位を考慮し、その逃走及び罪証の隠滅の防止並びにその防御権の尊重に特に留意しなければならない。」といったようなことで、被勾留者の処遇についての原則を別に立てたわけでございます。
  138. 稲葉誠一

    稲葉(誠)委員 そうすると、この勝尾矯正局長の時代には、未決収容者に対する刑事手続保全というものを指導原理とするということは、法の目的である第一条の中に入っていたんですか。
  139. 河上和雄

    河上政府委員 当時部内的に検討されていた目的の中では、やはりかなり幅広くお考えになっていたのではないかと思います。
  140. 稲葉誠一

    稲葉(誠)委員 いやいや、幅広くというのは具体的にどういうことを言うのか、それはわからないじゃないですか。
  141. 河上和雄

    河上政府委員 これは刑事施設法案の構想の素案というのが当時ございまして、この第一章総則、第一条「この法律の目的」というのがございまして、それによりますと、「この法律は、刑事施設の適正な管理と収容者の生活の保障を図りつつ、受刑者に矯正処遇を施して、健全な国民として社会に復帰させ、もって再犯を防止し、社会福祉の増進に寄与するとともに、未決拘禁者の処遇について刑事手続の保全を図ることを目的とすること。」といったような案が考えられていたようでございます。
  142. 稲葉誠一

    稲葉(誠)委員 その方がわかりいいんじゃないですか。その方がだれが見たってわかりいい。ああ、なるほどなとは思わないかもわからぬけれども、とにかくわかりいいことはわかりいいんじゃないですか。どうしてこんなに簡単にしてしまったんですか。その理由がよくわからないですね。特段の意識があったんですか。これは未決収容者に対する刑事手続の保全ということは、特に勝尾さんのころ第一条の中に入れてあったんですから、それを何で省いてしまったんですか。今お読みになった方が我々から見たってわかりいいじゃないですか。どうもちょっとよくわからない。特別の意識があったんですか。それで省いたんですか。
  143. 河上和雄

    河上政府委員 法制審議会の御審議の中でいろいろ甲論乙駁、この目的について細かく規定する考え方、あるいはあっさりとする考え方、いろいろあったようでございますが、結局現在提出しております法案のような形でいわば包括的に書く、そういうようなことになったようでございます。
  144. 稲葉誠一

    稲葉(誠)委員 そうすると、「未決収容者に対する刑事手続保全」というのは、具体的に何を言っているのですか。このあなたの、あなたというか、今度出た法案の中ではどれですか。条文としてはどれとどれがそれに該当するのですか。
  145. 河上和雄

    河上政府委員 今度の法案では、この目的規定のところは「この法律は、刑事施設の適正な管理運営を図り、被収容者の人権を尊重しつつ、収容の性質に応じた適切な処遇を行うことを目的とする。」ということで、収容の性質がそれぞれ未決拘禁者それから受刑者違うわけでございまして、ここでそれを明らかにしたわけでございます。  それから、編をそれぞれ分けておりまして、受刑者に関する編、それから未決拘禁者に関する編を分けて、それぞれの編の冒頭にその被収容者の性質に応じた適正な処遇を行うという一般的な規定を掲げることによって峻別している、こういうことでございます。
  146. 稲葉誠一

    稲葉(誠)委員 この五ほどうなったんですか。この刑事施設の種類というのはこれは同じですか。これは勝尾さんのときには、「刑事施設の種類については、現行法の刑の種類等によるのを改めて、おおむね現行組織法上の種類に合わせ、刑務所および拘置所の二種類として、別々に設けることとする。ただし、告示で拘置区および刑務区を設けることができるようにする。」拘置区と刑務区というのはちょっとどういうのかよくわかりませんが、これはそのままですか、どうですか。
  147. 河上和雄

    河上政府委員 現行の監獄法は御承知のとおり、要するに拘置監とかあるいは、刑の種類に従いましてその後ろに監ということをつけて分けているわけでございますが、勝尾先生のこのころの構想、それから現在御審議いただいております刑事施設法案では、施設としては刑務所及び拘置所の二種類とする。ただ、刑務所の中に別に拘置支所ということじゃなくて、拘置する何というか分隔がございまして、それで拘置監というような形になることはあり得るわけでございます。それから、拘置所の中でもいわゆる経理夫の関係がございますので、それはやはり受刑者でございますから、刑務区というような形になるのじゃないかと思います。
  148. 稲葉誠一

    稲葉(誠)委員 これは拘置区と言っているのですか。区という言葉を使うのですか。刑務区という言葉は使っているのですか。
  149. 河上和雄

    河上政府委員 現在は使っておりますが、今度の法律では区という言葉は避けております。
  150. 稲葉誠一

    稲葉(誠)委員 よく未決に行きますと、既決囚がいますね。雑役やなんかやっているわけでしょう。一応掃夫という言葉を使っていますね。この人たちは、そうするとこれは刑務区ではなく何に 該当するという形になっているのですか。別に該当しないけれども、ただ拘置所の中でそういうようにいるということなんですか。
  151. 河上和雄

    河上政府委員 法案では四条で、受刑者と被勾留者云々は「刑事施設を別にし、又は同一の刑事施設において分離のための特別の区域を設けて各別に収容する」こういうふうになっておりまして、現行法のもとでも当然受刑者とそれから被勾留者とは生活する区域が違うわけでございまして、それを拘置区とかあるいは受刑区、こういうふうに言っているわけでございます。
  152. 稲葉誠一

    稲葉(誠)委員 細かい問題ですけれども、今の拘置所の中に掃夫がいますね。それは何か何とか区というところにちゃんと入っているのですが、特別にそういうふうに名前をつけていないのではないですか。
  153. 河上和雄

    河上政府委員 現在では、例えは拘直所の中で働いているおっしゃいました掃夫、経理夫と言っておりますが、これが生活をする場所というのはもちろん拘置監というか拘置所の中ではありますが、被勾留者とは分けております。部屋は分けておりますし、区域は分けておりまして、これを、法律上の用語ではないようでございますが、実務的には受刑区というような言い方、区という言い方に徹しておりますし、それから刑務所の中で、近所に拘置支所がない場合は拘置する区域を別に設けているわけでございますが、その場合もそれを拘置監あるいは拘置区というような言い方で分けているようでございます。
  154. 稲葉誠一

    稲葉(誠)委員 この重要なところは、九に「余罪受刑者の規定」がありますね。規定というのは、この勝尾さんの論文の中にあるのですよ。   受刑者が被告人になったときまたは被疑者になったことが確認されたときは、拘置区に収容し、または拘置所に移送して、原則的には未決収容者に関する規定を適用する。なお、別途、刑の執行を停止することについて検討する。このことは、余罪受刑者の法律的地位を明らかにし、刑事訴訟上の防禦権の保障をはかろうとするものである。その処遇は原則として未決収容者並みとし、受刑者としての作業の賦課ならびに外部との交通および自弁・差入の制限も、防禦権の行使に支障のないよう考慮する。このような趣旨を貫くためには、むしろ刑の執行を停止するのが本すじであるが、それでは刑の併進を認めている現行制度に比し被告人、被疑者にいちじるしく不利益を強いることにもなるので、単に余罪受刑者の未決収容者としての立場を強化することを検討しようというのである。 こういうふうにありますね。  このところは勝尾さんの案ではどういうふうになっていたのですか。この文章のとおりだろうと思うのですが、同時に案の趣旨はどういう趣旨から出てくるのですか。
  155. 河上和雄

    河上政府委員 まず、趣旨から申し上げますと、これは国家刑罰権が確定しました受刑者としての地位と、それからこれから国家刑罰権の対象になる被疑者あるいは被告人としての地位、この両方を兼ね備えている人に関する問題でございまして、受刑者としての地位を重く見れば、これは刑法に従って作業を賦課して労働させなければいかぬ。ところが、一方において刑事被告人あるいは刑事被疑者としての地位があるわけでございまして、その場合は弁護人との接見を初めとして弁護権のことを考えなければなりません。そういったある意味では相反するような地位を両方持っているわけでございますので、これについては特別な規定が要るだろう。  受刑者だからもう一切被勾留者と同じように扱う必要はないんだという考え方、これは極端な考え方でありますし、一方の考え方は、受刑者であったって被勾留者である以上はそちらの方だけでやれ。そして、それを中和する考え方としては、執行を停止して、そして受刑者としての地位をとって被勾留者としてだけの地位にしてしまえ等いろいろな考え方があったようでございまして、勝尾先生の論文もその辺について触れているようでございます。  新法では、百四条で「被勾留受刑者」、これは第七章でございますが、この「処遇」というような規定を置きましてその辺の調和を図りまして、できる限り被勾留者に近い立場で弁護人の接見その他について見ていこう、こういうふうな考え方をとったわけでございます。
  156. 稲葉誠一

    稲葉(誠)委員 それはこの勝尾さんが書いている論文にある「余罪受刑者の規定」と今度の新法とは全く同じなんですか、どこか違うところがあるのですか。
  157. 河上和雄

    河上政府委員 勝尾先生かお書きになりました当時の、先ほど申し上げました「刑事施設法案構想の素案」というのがございますが、これでは「受刑被告人等」ということで十四条に規定をしておりまして、これはちょっと長くなりますが読ませていただきますと、一項で、「受刑者が被告人になつたとき又は被疑者になつたことが確認されたときは、所長は、その者を拘置区に収容し、又は拘置所に移送しなければならない」。つまりもう被勾留者と同じ扱いにするというか同じところに住まわせる。  それから、二項で、「前項の規定により収容し又は移送した受刑者には、弁護人又は弁護人となろうとする者との交通、防禦権の行使に必要なその他の者との交通並びに自弁及び差入の未決拘禁者に関する規定を適用すること。」ですからこれは未決拘禁者と自弁あるいは接見交通については同じに扱うということでございます。  それから、これは今読みました二項の代替の規定ですが、その規定では、「前項の規定により収容し又は移送した受刑者には、未決拘禁者に関する規定を適用する。ただし、防禦権の行使に関係のない作業の賦課、外部との交通並びに自弁及び差入については、この限りでないこと。」つまり二つの考え方で二項を立てております。  それから、三項で、「第一項の規定により収容し又は移送した受刑者の作業について、防禦権行使のため必要があるときは、就業を免ずるものとすること。」一応作業は課するけれども、就業を免ずることができるというふうな形で、受刑者としての地位と被勾留者としての地位の調和を図った考え方をしているようでございます。  それに対して現在の百四条でございますが、これは「刑事訴訟法規定により勾留されている受刑者(以下「被勾留受刑著」という。)については、受刑者に関するこの法律規定及び被勾留者に関するこの法律規定を適用する。」ですから、考え方としては同じ考え方に立っているわけでございます。「この場合において、」以下読みかえ規定いろいろございまして、「被勾留者」とあるのを「被勾留者(被勾留受刑者を除く。)」場合があるとかなんとかというようなことがありますが、考え方としてはほぼこの考え方に近い考え方で立てているのではないかと思います。
  158. 稲葉誠一

    稲葉(誠)委員 お話を聞きましたけれども、考え方が近いとかほぼだとかいろいろ言われましたけれども、具体的にはこの勝尾さんの書いた論文と百四条とはどこがどういうふうに違ってくるのですか。今の説明を聞くと全く同じではないらしいですね。具体的に言うとどこが違いますか。
  159. 河上和雄

    河上政府委員 非常に細かな問題になってまいりますので、必ずしも適切なお答えができるかどうかわかりませんが、例えば百四条で、今言いません、省略いたしましたが、四十八条二項中「前項の目的を達成するため」というその部分を変えて、「刑事訴訟法規定により勾留される者としての地位を損なわない限度で、かつ、勾留される期間を考慮して可能な範囲内で前項の目的を達するため、」云々、こういうような形になっておりまして、この勝尾素案のように、受刑者としての地位はほとんど考えないで、被勾留者としての地位だけを中心にして考えるというところより、「刑事訴訟法規定により勾留される者としての地位を損なわない限度」、つまりその地位は尊重するけれども、しかしやはり受刑者である以上は作業を賦課することを前提として、これは勝尾素案でも同じでございますが、作業を課することを前提として、受刑者としての地位もそのまま維持させると いう考え方でございます。
  160. 稲葉誠一

    稲葉(誠)委員 だから、ほぼ近いとか何かいろいろ言っているけれども、結局お聞きしていると、このときにできた素案ですか何ですか、四十年代よりも後退しているんじゃないのですか。あなた方から言わせれば、後退ではない、前進だと言うかもわからないけれども、国民の立場からすると後退しているというふうに考えざるを得ないのじゃないかと私は思うのですが、いずれまたこの問題は別な人が聞くことになるかとも思うのです。  それで、時間がなくなってきて、なくなってきたというのは、一番重要なところがこれ、二七のところですね。ここのところはまたこれだけでゆっくり聞かなければならない。時間がなくなっちゃったのですが、代用監獄制度、勝尾矯正局長のときは   現行法上の代用監獄の制度は、本来代用制度でその廃止が予定されていたというばかりでなく、その弊害の多いことが指摘されているので、限時的にこれを廃止する方向で検討する。外国においても、フランス等警察留置場を使用することを止めて、中央の拘置所に集容することに踏み切っている例もあり、もとより我国の地勢その他特異なる情もあるわけであるが、廃止の方向で具体的にその解決策を検討しようというのである。 こういうふうになっていますね。そうすると、勝尾さんたちのつくった、何案でしたかね、それではどういうふうになっているのですか、ここのところは。これも時間がなくなりましたので、そこだけ説明願って、あとはまたゆっくり……。
  161. 河上和雄

    河上政府委員 今お話しの刑事施設法構想の素案でございますが、最後に附則といたしまして代用拘置所といったような考え方を出しておりまして、これは弟何条とまでも入りませんで、ちょっと一部読みますと、「東京都及び大阪府の地域内において、拘置所の施設の収容能力が十分でないため特に必要があるときは、昭和何年何月何日までの間、警察署に附属する留置場を拘置所に代用することができること。」といったような、附則の中でそういう手当てをしているようでございます。
  162. 稲葉誠一

    稲葉(誠)委員 時間が来たので、ここできょうの質問は終わったわけですね。終わったんじゃない、ペンディングで次回続行ということになるのですが、期日は追って指定ということになるのでしょうけれども、今のここのところが一番大事なところですよ、二七のところが。代用監獄制度、これは「廃止の方向で具体的にその解決策を検討しようというのである。」とはっきり言っているのです、勝尾さんは。それが現在の法案の中で一体どういうふうにどうなっているのやら、これはよくわからないのです。だから、また別の機会にこれは聞かざるを得ない。詳しくその点を聞かざるを得ない。きょうは序論のまた序論だから、その程度を聞いて一番大事なところを残しておいた、こういうことになるので、今のその勝尾さんたちのときにできた案、どうも今あなたの読んだのと違うような感じかするのだけれども、それは一番最後のところだけちょっと読んだような感じがして、今の論文に出ていることは何かこう文章に出ているんじゃないかと思うのですが、あるいはそれはもう前提として今の附則だけが出ているんだ、こういう理解の仕方もあるのだ、こう思いますけれども、そこら辺のところはよく研究させていただきたいので、今の素案ですか、それを私の方に資料としていただきたい、こういうふうに思って、きょうは序論の序論ですから御了解願って、御了解というのは序論の序論であるということを御了解願って、質問を終わりたいと思います。
  163. 戸沢政方

    戸沢委員長 冬柴鉄三君。
  164. 冬柴鐵三

    冬柴委員 本日は、刑事施設法案の中でも一つの大きな問題であるとされている法案第百十条、なかんずくその第一項ないし第三項、すなわち弁護人の秘密接見交通権に論点を絞って順次お尋ねすることといたします。  まず、弁護人の秘密接見交通権に関して真正面から言及をいたしました最高裁判所の判決を共通の理解とした上で質疑に入りたいと思います。  その判決は、最高裁判所昭和五十三年七日十日第一小法廷判決でありますが、その要旨を朗読いたしたいと思います。   弁護人との接見交通権は、身体を拘束された被疑者が弁護人の援助を受けることができるための刑事手続上最も重要な基本的権利に属するものであるとともに、弁護人からいえばその時間的制約があることからして、弁護人等と被疑者との接見交通権と捜査の必要との調整を図るため、刑訴法三九条三項は、捜査のため必要があるときは、右の接見等に関してその日時・場所・時間を指定することができると規定するが、弁護人等の接見交通権が前記のように憲法の保障に由来するものであることにかんがみれば、捜査機関のする右の日時等の指定は、あくまで必要やむをえない例外的措置であって、被疑者が防禦の準備をする権利を不当に制限することは許されるべきではない。捜査機関は、弁護人等から被疑者との接見の申し出があったときは、原則として何時でも接見の機会を与えなければならないのであり、現に被疑者を取調中であるとか、実況見分、検査等に立ち合わせる必要がある等捜査の中断による支障が顕著な場合には、弁護人等と協議してできる限り速やかな接見のための日時等を指定し、被疑者が防禦のため弁護人等と打ち合わせることのできるような措置をとるべきである。 このように判示しております。  刑事局長、これは昭和五十三年の判決ですが、今日までこの判例は変更されていない、このように考えているのですが、その点をまず御確認を願いたいと思います。
  165. 根來泰周

    根來政府委員 具体的事件に対する判決、御指示としてはそのとおりだと思います。
  166. 冬柴鐵三

    冬柴委員 憲法八十一条は「最高裁判所は、一切の法律、命令、規則又は処分が憲法に適合するかしないかを決定する権限を有する終審裁判所である。」と規定していますので、法務、検察、警察等に携わる行政の機関もその最高裁判所の判断を尊重しなければならないことは当然であると解しているのですが、法務大臣、その点についての所見をお願いいたします。
  167. 林田悠紀夫

    ○林田国務大臣 裁判は具体的事件を前提になされるものでありまして、特定の事件についてなされた最高裁判所の裁判は、最終のものといたしまして行政当局を含む事件当事者を拘束するものでありますることは当然でございます。さらに、そこで示された最高裁判所の判断は、いわゆる判例としましてその後の関係法令の解釈、運用に当たって、行政当局におきましても十分尊重すべきものであると承知をいたしております。
  168. 冬柴鐵三

    冬柴委員 さて、私は司法研修所の修習を終えるとともに大阪市において弁護士を開業し、衆議院議員に当選するまでの二十二年余り弁護士一筋で来た者でございます。主としていわゆる民事事件を専門に扱ってまいりましたが、それでも相当数の刑事事件も受任いたしました。  その経験の中で、検察官による常識を超えた接見拒否をされた二件の事件の弁護を担当いたしました。この二件は接見拒否だけが論点ではありませんで、密室における捜査官による拷問に近い自白の強要も行われました。私の経験では、残念ながらこの二件が全く特異なケースだったとは思えないのであります。今も弁護人の秘密接見交通権の運用の実情は、先ほどの最高裁判所が示した思想とは遠く隔たったものなのであります。  刑事施設法案の審議の冒頭に、刑事裁判の証人尋問調書にあらわれた接見拒否の生々しい事実を国会審議の場に顕出をいたしまして、このような事実の存在を法務大臣にも十分に認識を求め、この認識を前提として今後の法案審議が進められるべきであるとの考えからその要点を申し上げることといたします。人権に対する配慮から、検事の名前な含めてすべて仮名といたしたいと思います。   一件は、大阪地方裁判所昭和四十一年(わ)第四千八百十四号贈賄被告事件で、その記録中、まず第八回公判記録の中で証人冬柴鉄三すなわも私の法廷での供述の要旨の一部を引用することとしたいと思います。   昭和四十一年十月の初旬ごろ、弁護士である私あてに本件担当のH検事から、甲野太郎さん、 これは仮名でございます。  告訴人としての調書をとりたいので検察庁へ来てもらうように連絡していただけませんかという電話がございました。そこで、私は依頼者である甲野太郎さんあてに電話をいたしまして、二十一日の午後一時に間違いなく検察庁へ出頭してくださいということを申しました。H検事へも電話をいたしまして、二十一日に本人は間違いなく伺いますからひとつよろしくお願いいたしますと申し上げました。   十月二十二日に私が法律事務所へ出勤いたしますと、甲野太郎及び甲野花子の長男が来ていまして、非常に不安そうな顔で、実は昨夜お父さんとお母さんが帰ってこないんですと言うので、どうしてですかということを聞きました。お父さんは昨日先生の連絡で検察庁へ行きました、お母さんも夕方七時か八時ころ検察庁から車で迎えに来られたので出ていきました、けれども昨夜帰ってこなかったのですということを言うわけです。それで私はびっくりしまして、まさか逮捕されたということは夢にも思わなかったのです。   それで、そこからすぐに特捜部長、検事に電話をいたしまして、実は私の依頼者で告訴人調書をとるためにきのう検察庁へ出頭したところ、ゆうべ帰ってこないので、どういう事情かお調べいただけないでしょうかと言ったわけです。そうしたら特捜部長は、検察庁へ行って帰ってこなきゃ逮捕したんですよということを言われたわけです。僕はびっくりしましてね、逮捕ってどうしたんですかと言ったんです。けれども、電話じゃ言えないからまあ来てくださいと言われたので、直ちに特捜部長の部屋へ駆けつけました。特捜部長は、実は今担当のH検事が拘置所で本人たちを調べているはずだという話だったんです。で、罪名は何ですかということを聞きましたら、いや、それも細かいことは一応H検事に聞いてくださいと言われました。その日、二十二日は土曜日で、私が会いに行ったのは十一時ごろだったと思いますが、すぐその足で大阪拘置所へ行きました。拘置所に検察官の控室がありますが、そこで、Nさんだと思いますが、検察事務官が眠そうな顔をしてソファーに横になっていました。それからH検事さんもソファーでだらんとして疲れたような格好でいらっしゃいました。そのときは取り調べはしておられませんでした。   それで、まず接見をさせてくださいと求めたわけです。それに対しH検事は、会わさないとこういうことを言い出したんですね。それで、会わさないってどういうことですか、甲野太郎と花子夫婦は田舎の朴訥な人だし、どういうことで逮捕されたかもわからないし、また私はけさ両人の長男から弁護人として選任されていますから、それはいいんですけれども、本人名義の弁護人選任届ももらいたいし、ぜひ会わせてくださいということを申し上げました。けれども、言を左右にして会わせてくれないんです。もちろん捜査の支障になるような状況じゃなかったんです。というのは、事務官も検事も控室で休息をしていられますからね、捜査の支障になるような状況ではなかったし、なぜ会わせてくれないのかと言い、検察官の処分なら処分でいいですけれども、それじゃ顔だけでも見せてください、本人としてはショックだろうから、私はほかの事件を通じて親しくしてもらっているから顔だけでも会わすようにしてくださいということを言ったけれども、それもだめ、こう言うんですね。それじゃ選任届をとるだけでいいから会わせてくれと。これも会わさない。じゃあ検察官立会でもいいから、捜査の妨げになるようなことはしないから、じゃあ検察官立会でもということを言ったんです。それも拒否されたんです。罪名も犯罪事実も何も言ってくれないんです、私は当然執拗に聞きましたけれどもね。   それで私は、その日は土曜日でしたけれども、直ちに裁判所へ行き、準抗告の手続をとりました。裁判所の廊下で、夜十時半か十一時ごろまで待ちました。そして準抗告認容の決定をもらい、翌二十三日日曜日に接見をしました。   それから、後でわかったことですが、勾留中に甲野花子さんは大阪拘置所の中で自殺未遂を起こしました。余り執拗にやられるしするので、自分としてはもう検事さんの言うとおりに、はい、はいと言いました。しかし、そうすることによって主人に非常に迷惑がかかるということを本人は非常に気にしまして、自分は死んでおわびするつもりということで独房の中で帯締めで首を絞めた。その前に、ミカンの皮で独房の白い壁へ遺書を書いたということです。 以上が、第八回公判記録中の冬柴の証人供述の一部でございます。  次に、この事件の第九回公判記録中で証人Hすなわち本件の捜査検事の供述を求めた部分の要旨を述べたいと思います。   証人は本件被告人の甲野花子、夫の甲野太郎をお調べになったことがありますか。   はい。   その呼び出しをするについてどういう方法をとられましたか。   告訴代理人に連絡をしました。   冬柴弁護士あてですね。   弁護人の名前は忘れましたが、告訴状に記載してある告訴代理人を通じて呼び出しました。   逮捕状を執行したのは何日ですか。   当日、裁判官のところへ逮捕状を請求に行きましたのが午後十一時過ぎだったと思いますから、午前零時かあるいはちょっとそれから過ぎていたかもしれません。   結局甲野花子、太郎夫婦の供述に基づいて両名を逮捕したというのですね。   はい、そうです。   逮捕当日の朝の段階で弁護人が甲野花子と甲野太郎に対して接見を申し出ましたね。   弁護人が来られて接見を申し出られたことは記憶しています。   それに対する処置はどういう処置をとられたのですか。   お断り申し上げました。   どういう理由だったのでしょうか。   収賄者をまだ取り調べてなかったからです。   しかし、収賄者を取り調べるか取り調べないかは接見交通には関係のないことだと思うのですけれどもね。   そうですね。   それはお認めになるのですね。   ええ、接見交通というのはあの段階ではまだ、こう言っては弁護人に大変失礼ですが、少なくとも現在、よく贈賄者を調べて、こういうことを供述しているということを収賄者の方に通報される方がたまたまありますので、仮に弁護人に接見をさせますと、それが収賄者に通報されるおそれがあったからです。   それだけが理由ですか。   そういうことです。   そうすると、そのときに検察官立会の上で被疑者らの弁護人選任届の署名をとるだけでいいから会わしてくれということを申し入れたということを御存じでしょうか。   覚えております。   それに対してどういう処置をとられましたか。   あのときもお断り申し上げたのですかね。   それは、通報を恐れたのであれば、立会の上で面会して、弁護人選任届をとるだけでしたらそのおそれはないと思うのですけれどもね。   私は、弁護人の接見交通というのは秘密交通 権だと理解しておりますので、検事が立ち会うということは妥当を欠いておると信じておりますので、接見させる以上はやはり秘密に交通させるべきであると思っておりましたから、立ち会いの上で接見ということはお断り申し上げました。   しかし、弁護人がそれでも差し支えないとわざわざ折れている場合でもやはり断る理由があるのですか。   ええ、いつもそういうことには妥協はいたしません。筋を通すことにいたしております。   接見を拒否された処分について当弁護人から準抗告の請求がありましたね。   覚えています。   その際、裁判官の仲介に対して、あなたは上司の意見を求めてくるということで退室されたのではなかったのですか。   そういうこともあったと思います。   ところが、裁判所と弁護人らはあなたのお返事を夜中の十一時ごろまでお待ちしたのですけれども、結局何らのお返事もなかったですね。   お断り申し上げました。 まだたくさんありますが、接見拒否に関する供述部分の要旨のみをここで申し上げたわけでございます。  この事件は、約二年の審理を経た結果、第一審裁判所において、検事調書はすべて任意性なしとして取り調べ請求却下、そして無罪が確定したわけでございます。  大変古い事件ではありますけれども刑事局長、このH検事みずから調書の中で認めていられる接見拒否の件についてどのような感想を今お持ちか、それをまず伺いたいと思います。
  169. 根來泰周

    根來政府委員 この事件はある意味では非常に著名な事件でございまして、かつて昭和四十四、五年ごろに当委員会におきまして、亡くなられた民社党の岡澤完治さんが指摘されたこともございます。いろいろの処置について公式に申し上げる立場でございませんけれども、この事件一つの教訓として私どもも十分承って、そのいろいろの御指摘は御指摘として尊重しているところでございます。
  170. 冬柴鐵三

    冬柴委員 法務大臣、一言御感想をお願いします。
  171. 林田悠紀夫

    ○林田国務大臣 法務大臣としまして、検察の態度、とった処置に対して批判をするということは差し控えなければならぬことと存じまするが、お伺いしました事例につきましては遺憾である、かように存じます。
  172. 冬柴鐵三

    冬柴委員もう一件引用をさせていただきたいと思います。  次の事件は大阪地方裁判所昭和五十年(わ)第四千百五十七号、同五十一年(わ)第五十三号、有印公文書変造同行使等被告事件で、その第三十九回公判記録中証人M、これは私とともに弁護人としてこの弁護を担当した弁護士でありますが、この証人としての供述部分の要旨で、尋問者は冬柴でございます。   修習が終わられてから判事補として任官されたんですね。   はい。判事補在任中の六年間は主として刑事部に配属されていました。   この事件が、弁護人として刑事事件を担当する最初であると伺っていいですか。   そうです。   昭和五十年十二月六日にS専務が逮捕されました。捜査段階の弁護ですから、冬柴と証人ともう一名の弁護士三人ということで弁護をすることになりましたね。   そうです。   逮捕時の接見はいつしましたか。   逮捕当日の夜、大阪府警本部で接見をしたと思います。   この最初の勾留期間にもちろん接見をしていますね。   いたしました。   何回しましたか。   三回だったと思います。   勾留延長請求がされたわけですね。延長になったのは十二月十九日ですか。   そうです。十二月十九日から七日間でした。その勾留延長された期間中の接見は十二月十九日の一回だけでした。   そのときはどんな話があったのですか。   十二月十九日も、これ夜だったと思うのですけれども、府警本部の接見室で出会わせてもらったのですが、このときはあと一名の弁護人も一緒でした。S専務は、繰り返し繰り返し同じことについて説明を求めておるというような話と、その日に初めて検事の調べがあった、とんでもない調べだった。具体的にはどういうことかとまでそのときは聞く余裕がなかったのですけれども、そのように言われたことを記憶しています。   次に接見させてほしいという申し出は十二月の二十二日、月曜日にいたしました。二十二日からの接見はすべて拒否されました。接見を求めたのはT検事です。   二十二日、月曜日の記録によると、午前十一時ごろT検事室へ行き、接見をさせてくださいと申し入れをしました。そしたら、取り調べをするから接見させられぬ、こういうことでした。休みのときでもいいから会わせてくださいよと言ったのですが、それもだめだ、きょうはとにかく調べをすると言われるのです。   その日に、午後二時、再度検事室へ行きました。が、結局その日はだめだと言われるので、一日待ちましょうと妥協案を言ったのです。しかし、それもだめだ、きょうとあすは担当検事に十分調べをさせてやりたいと固執されて、結局はだめだったのです。   そしたら、明後日、すなわち二十四日の午後に会わせるということをはっきり言われましたから、これ以上押し問答しても物事の解決にならぬと判断しましたので、検事に、検事の都合で弁護人が接見の申し入れをしたけれどもできない、その旨はちゃんと被疑者に伝えてくださいよと申し入れ、検事は、わかりました、検察官の責任で伝えておきましょうということを言われました。   二十四日に、午前十一時、T検事に電話をし、何時ごろ会わせてもらえますかと問い合わせました。T検事は、担当検事に相談すると、こう言われますので、再度十一時五十分ごろに電話をしたところ、取り調べが難渋し、会わせられぬということなので、約束が違う、十九日に接見して以来これだけ会わさぬとはけしからぬ、水曜に会わす、こうおっしゃっているのに守らないということは理解できないと抗議をしたのです。   次に、二十四日の四時ごろ検事あてに電話をしたところ、取り調べが終わったら会わせるというようなニュアンスに変わってきましたので、いつ終わるのかと聞いたところ、夜遅くなるというような話で、それでも結構です、とにかく会わせてくださいと言って、取り調べが終わったら連絡してくださいということで、検事も、わかりました、電話しましょうと、こういうことになりました。   その二十四日の午後十時十分に事務所から検察庁に電話をしました。夜ですから男の人が出られて、T検事の内線番号を言って電話をしてもらったのですけれども出られない。担当のK検事につないでくれということでお願いをしたところ、K検事は今手が離せないからというような返事で、電話ががちゃんと切れたのです。一方的に切れたのです。どうしようか、夜も遅いし困ってしまったなあ、何でそこまで接見を拒否するのかと、とるべき処置をいろいろと考えていました。そうするうちに警察から電話がかかってきて、検事さんはあすにしてくれと言うてます、こういう話だったのです。   そこで、もう一度その警察官に経過を説明したんですよ。そしたら一応K検事さんに相談するということで、次にK検事から十時五十分ごろに電話がかかってきました。何ですか、接見 のことなんか聞いてませんでというようなことを言われ、その上、調べはもう終わったというような感じの返答だったんです。それで私は、T検事さんの自宅の電話番号を探して電話をしました。   T検事は責任を自分でかぶっておられるような返答で、私の方が悪かったというような言い方で、保安上の問題があるから今夜は遠慮してくれませんかと、結論はそういうことなんです。間違いなくあすの朝、取り調べる前に会っていただきます、こうおっしゃるので、夜中に嫌がらせみたいに会う必要はないと思いましたから、それじゃきょうは遠慮しますということで終わったんです。   翌朝十二月二十五日、約束どおりT検事の部屋へ行きました。T検事さんはおられませんで、お休みだと事務官が言われますので、こうこうこういうことで来ているんだということを申し上げましたら、担当のK検事のところへ行ってくれと、こういうことだったのです。   行きました。ノックしたらかぎがかかっていまして、K検事が出てきました、廊下の方へ。それで、実は弁護人のMですと言いました。そのときは初対面だったと記憶するんです。接見に来ましたと言うと、聞いていないということですね。聞いていないって、昨夜の約束といきさつ、ずっとまたT検事との話ですね。最後の夜中の話をしたんですよ。それでも、そんなもん聞いてない、今取調べ中やと、自分の部屋へばんと入ってがちゃんとかぎをかけられてしまったのです。   僕はT検事の部屋へ行って、検察事務官に、T検事に電話をしてもらったんです。電話をK検事の方へ切りかえておられたと思うんです。そしたら、しばらくしてK検事がT検事の部屋へ来たんです。それで、事情はわかった、今聞いた、しかし、今取り調べ中やから会わせられぬとまた拒否されたのです。情けないやら腹立つやら、何でこんなことするのか、結局準抗告ということが頭にありましたから、あなたは接見を拒否するという処分をされるのかと念を押したんです。そしたら、法律家であるあなたの方がよく御存じでしょうと、吐き捨てるような言い方をされたんです。   まあ初めての経験だったですね。裁判官のときに、接見拒否とか法律の本にいっぱい書いてある知識は、一般的指定とか具体的指定の問題とかいうことは知っていました。しかし、実態としてこういうぐあいに拒否されるということは予想もしなかったですね。 というのがこの接見拒否に関する部分の供述です。  この事件は、第一次の起訴が昭和五十年十一月二十五日ですが、判決の宣告は六十一年六月九日。ですから、実に審理期間十年六カ月余に及びました。結論は完全無罪です。長い苦しい弁護活動でしたが、無事の訴えが入れられたことに大きな喜びを感じましたものの、被告人とされたS氏は取り返すことのできない黄金の年代を失ったのであり、その意味からT検事やK検事の強引な取り調べはそれだけ罪深いものと言わなければなりません。  一言で結構ですが、法務大臣の所感を伺っておきたいと思います。
  173. 林田悠紀夫

    ○林田国務大臣 今先生から経過についてお伺いをしたわけでございまするが、先ほども申しましたように、法務大臣といたしまして、具体的事件における取り調べの当否等につきまして見解を述べることは差し控えなければならないと存じます。ただ、検察当局としましては、弁護人との接見交通権を含めまして被疑者の人権の保障には十分意を用いてやらなければいけない、かように考えます。検察もそういうような問題を真摯な態度で受けとめておるんじゃないだろうか、かように存ずるところでございます。
  174. 冬柴鐵三

    冬柴委員 このような接見制限の根拠にされてきたのが昭和二十八年六月一日付法務大臣訓令執行事務規程十四条五項であり、その後、昭和三十七年九月一日付同訓令事件事務規程二十八条であります。検察官または検察事務官が刑訴法三十九条三項の規定による接見等の指定を書面によってするときは、接見等に関する指定書様式四十八号を作成し、その謄本を被疑者及び被疑者の在監する監獄の長に送付し、指定書様式四十九号を同条一項に規定する者に交付するとの規定がそれです。この様式四十八号が一般的指定、四十九号が具体的指定と呼ばれているものであります。  この一般的指定が行われますと、原則的に接見が禁止されます。あとは取り調べ検事の裁量による具体的指定によってこれが一部解除されるということになりまして、憲法及び刑訴法三十九条一項により原則として自由たるべき接見交通権が例外的にのみ認められるという逆転が生ずるわけでございます。これは私が冒頭に読み上げました最高裁判所判決と明白に反する運用だと考えるわけでございますが、まず法務大臣、お考えを伺いたいと思います。
  175. 林田悠紀夫

    ○林田国務大臣 三十七年九月一日付の法務大臣訓令の事件事務規程二十八条の規定でございますが、この訓令につきましては、実は昨年十二月に私が事務当局に指示いたしまして改正を行いまして、本年四月一日から施行いたしております。この改正は、接見指定権の行使が先生御指摘のような疑義を受けることなく円滑になされるように配意したものでございますことを御理解いただきたいと存じます。
  176. 冬柴鐵三

    冬柴委員 この最高裁判決が言い渡されたのが五十三年、そして今大臣がこの取り扱いの例を変えたと言われるのが六十三年四月、十年間この判例で示された思想というものが生かされてなかった、無視されてきたということはまことに重大なことだと思いますが、重ねて大臣のお考えを伺いたいと思います。
  177. 林田悠紀夫

    ○林田国務大臣 御指摘の最高裁判決が指摘いたしておりますように、弁護人の接見交通権は刑事手続上大変重要な権利でございます。一方、国家の刑罰権の実現の前提であります捜査の実施もこれに劣らず重要なものでありまして、この接見交通権と捜査の必要との間で妥当な均衡と調和が図られなければならないのでありまして、それがまた最高裁判決の趣旨にも沿うところであると存じます。  検察実務におきましては、これまでもこのような趣旨に沿った取り扱いに努力をしてきておるのでありますけれども、しかし、今後におきましても十分その趣旨に沿って努力をしなければならないもの、かように確信をいたしております。
  178. 冬柴鐵三

    冬柴委員 改正された事件事務規程ですか、私どもちょっと具体的にどんな内容になっているのかわからないのでその点御説明をいただきたいのですが、まず旧規程、前の様式四十八号というものですね、何かこれにかわる処置というものが決められているのですか、その点について御説明をいただきたいと思います。
  179. 根來泰周

    根來政府委員 先ほどお尋ねの旧事件事務規程でございますが、旧事件事務規程の二十八条に「検察官等が刑事訴訟法三十九条三項の規定による接見等の指定を書面によってするときは、接見等に関する指定書を作成し、その謄本を被疑者及び被疑者の在監する監獄の長に送付し、指定書を同条一項に規定する者に交付する。」ということで、二つの書面をつくることになっておったわけでございます。  最初の「接見等に関する指定書」というのがございまして、これが仰せのように一般的に接見を禁止しているのではないかと指摘されている書面でございます。そして、そういう書面を出しました後に、具体的に指定をするときにはまた別途「指定書」というのを発付しまして、これで弁護人あるいは弁護人となろうとする者が被疑者と面会する、こういうことになっておりまして、これは若干、多方面で誤解を招いているわけでございます。  まず、第一枚目の「接見等に関する指定書」というのは、一般的に禁止しているというふうにとられた裁判所もございまして、御承知のように、昭和四十二年に鳥取地裁でございました決定でございますが、これは一般的に禁止しているのではないかということで検察官の処分性を認めて、その一般的な指定を取り消したという事例もございます。  また一方では、この一般的指定というのは内部的な通知である、これは将来こういう具体的な指定をする事件でありますよという一つの連絡文書であるというふうな解釈で、これの処分性を認めていない裁判例ももちろんあるわけでございまして、私どもはその後者の見解をとっていたわけでございます。  ところが、文面から見ますと非常に誤解を生む文面でございましたので、この際、この一般的指定と言われている「接見等に関する指定書」というのをなくしましょう、規程から削除しましょうということで削除したのが第一点でございます。  しかし、これは削除したものの、監獄の長に対してそういう連絡文書が必要でございますので、一方これは刑事局長通達でそういう通知書の文言を改めまして、連絡文書ということで接見等の指定に関する通知書というのを通達の中で残しているわけでございまして、事件事務規程の中では、具体的に指定する場合に弁護人に交付する指定書の様式を残しているわけでございます。  ただし、指定書といいましても、いわゆるこれは面会切符という御批判を受けておりますけれども、この書面による必要ということはないわけでございまして、もちろん口頭でも結構だし電話でもよい、書面でも結構だという非常に弾力的な扱いをしているわけでございまして、これは、後々いろいろ紛争になった場合に備えまして、書面でした方がよいという場合はこの指定書を使うというような運用でございまして、これは従来から日弁連ともいろいろ意見を交換しまして、また、我々、先ほどいろいろ御指摘のあった事例をも踏まえましてこういう改正に踏み切ったのでございます。
  180. 冬柴鐵三

    冬柴委員 後段の具体的指定については若干前進があったように思いますが、むしろ一般指定についての刑事局長通達というのが後退したのではないか。従来の事務規程よりも後退したことになりませんか。なぜならば、処分性が非常に不分明になります。鳥取地裁で示されたような判断が示しにくくなるのではありませんか。  私の知るところでは、その内容は、「通知書」という文言で「該被疑者と弁護人等との接見等に関し、捜査のため必要があるときは、その日時、場所及び時間を指定することがあるので通知する。」こういうことを担当検事から在監の監獄の長に対して書面を出す、そういうことになっているのではないですか。
  181. 根來泰周

    根來政府委員 仰せのように、刑事局長通達ではそういう「通知書」を出すことになっておりまして、従来、事件事務規程での「接見等に関する指定書」というのは処分のようにとられたところがございますので、その辺、全く内部的な連絡文書という意味で「通知書」ということに改めたわけでございます。
  182. 冬柴鐵三

    冬柴委員 それは、一般指定で弁護人が争う端緒というものを奪ってしまうことになるのではないですか。処分性がなくて単に内部の連絡文書だ、それに対しては独立して準抗告、四百三十条という方法はとれないのだということになれば、今まで争えた一般指定というもので争う道を奪ってしまうことになるのではないですか。かえってそれは後退ではありませんか。重ねてお伺いします。
  183. 根來泰周

    根來政府委員 これは、通知書を出しているから接見を禁止してくれということではなくて、そういう事件でありますから取り調べ官とよく御相談くださいということを申し上げるだけの話でございまして、これをもって接見を禁止しているという趣旨ではございません。
  184. 冬柴鐵三

    冬柴委員 ちょうど矯正局長が来ていらっしゃるから……。そういう連絡があって、弁護人が具体的指定書を持たずに赴いても、取り調べ中でなければいつでも会わせてくれますか。
  185. 河上和雄

    河上政府委員 こういう一般指定にかわる通知が出されますと、接見等の指定は原則として指定書によってなされることになります。弁護人等から接見等の申し出がなされた場合に、指定書の提示を求めて指定の内容等を確認する、そういうふうな形になります。  ただ、指定書によらないで指定がなされる場合がございますから、そういった場合には検察官等に電話連絡等をするということになるだろうと思います。  それから、指定書の交付を受けていない弁護人等から接見の申し出がなされた場合で、指定書によらないで指定がなされている場合というのもあるわけですが、これも、一応検察官の方に聞いてみるということになるだろうと思います。  それから、検察官に聞いてみて、検察官から弁護人等に対してなされた接見等の指定内容について通知があったときは、その指定の通知内容に従って接見を実施しますし、指定は行わない、つまり自由に、フリーパスだというようなことでしたらそのまますぐお会いいただく、こういうことになるのだろうと思います。
  186. 冬柴鐵三

    冬柴委員 いろいろと説明いただきましたけれども、私が求めているのは一点。新しい事件事務規程二十八条に基づく刑事局長通達、それに基づく通知書、先ほど私が読み上げました通知書が監獄の長に来ている。来ているだけなんです。そして、弁護人が手ぶらで来るわけです。具体的指定書を持たずに手ぶらで来ました。検察官は調べていないのです。被疑者は今そこにいるわけです。会わせますか。その点だけについてお答えいただきたい。
  187. 河上和雄

    河上政府委員 一応検察官の方でもって指定することがあり得る事件という通知があったわけでございますから、検察官の方にもちろん連絡はするわけでございますが、検察官の方が差し支えないといいますか、特段何もないということでしたらそのまま会わせるということになります。
  188. 冬柴鐵三

    冬柴委員 検察官が、会わせないでくれ、差し支えがある、取り調べはしていないけれども今会わせたくないんだ、こういうことを言われたらどうしますか。
  189. 河上和雄

    河上政府委員 具体的な刑事訴訟法の三十九条の三項の解釈に絡む問題でございまして、刑事施設の方の長として踏み込んだ判断というのは非常に難しいわけでございます。先ほど委員指摘の最高裁の判決についてもいろいろな考え方もあるようでございます。したがいまして、主任検察官からそういうふうな通知をいただいている以上、主任検察官に連絡してその指示に従う、こういうことになるのじゃないかと思います。
  190. 冬柴鐵三

    冬柴委員 刑事局長、今言われたとおりなんです。それは一般的指定ですよ。私、そのために参考資料をお配りしましたけれども刑事訴訟法三十九条第一項「身体の拘束を受けている被告人又は被疑者は、弁護人又は弁護人を選任することができる者の依頼により弁護人になろうとする者と立会人なくして接見し、又は書類若しくは物の授受をすることができる。」これが原則です。その原則が逆転してしまっているじゃないですか。どうなんですか。
  191. 根來泰周

    根來政府委員 先ほどの最高裁の裁判例でございますけれども、これの解釈をめぐって若干の立場の相違ということはあることを前提にして申し上げますけれども、「捜査のため必要があるとき」という意味に関して弁護人側と我々の立場とでは少し立場が違うわけでございます。それを前提にして申し上げますが、これは、一般的に私どもから監獄の長に御連絡した場合に、そういう具体的な指定をする可能性のある事件ですよという連絡でございますから、監獄の長から主任検察官に、面会に来たという連絡をいただければ、その連絡を受けて第三項の指定をするわけでございまして、もちろん指定をする必要がなければ面会をしていただいて結構ですし、指定をする必要があれば三十九条第三項の指定をするわけでありまして、これをむやみに会わせないということを言わせるつもりはないわけでございます。
  192. 冬柴鐵三

    冬柴委員 それはだめですよ、そんなことをやってしまったら。だから私はここで調書を読んだんですけれども、そんなお客さん扱いじゃないんですよ、現場は。絶対に会わせませんよ。どうするのですか。会わせても十五分。法務大臣としてはこれは前向きに改正したつもりでしょうけれども、今までだったら一般指定書というのがあるから、いわゆる鳥取地裁の判決を初めその後たくさん、東京地裁等で出た判決にのっとって準抗告でその一般指定というものを争ったわけです。争いにくくなっているじゃないですか、これは。改悪ですよ。どうしますか。
  193. 根來泰周

    根來政府委員 先ほど申しましたように、この通知書といいますかこれが監獄の長に行っておりまして、具体的に弁護人が監獄に面接に行かれまして、そこで監獄の長から主任検察官あるいは司法警察員でも、主任に対しましてそういう連絡が行ったときに、もしそこで会わせないということになればそこで準抗告という問題が起こるわけでございまして、これはそういう不服申し立ての機会を与えないというような話ではございません。そういうことで処理できるのではないかと思います。
  194. 冬柴鐵三

    冬柴委員 いろいろと言われますけれども、「最高裁判所判例解説」の中で、先ほど私が読み上げた五十三年の判決に対するいろいろな考え方があるとおっしゃった、その一つはこれだろうと思うのですけれども、この判決が「一般的指定自体を直ちに違法と判示した趣旨かどうかは必ずしも明らかではない。」このように書いてあるわけでありまして、我々が読めば、ここに書いてあるのは、接見交通権というのは「憲法の保障に由来するものである」とはっきり書いてあります。しかも「捜査機関は、弁護人等から被疑者との接見の申出があったときは、原則として何時でも接見の機会を与えなければならないのであり、」拒絶できる場合についても「現に被疑者を取調中であるとか、実況見分、検査等に立ち会わせる必要がある等捜査の中断による支障が顕著な場合には、弁護人等と協議してできる限り速やかな接見のための日時等を指定し、」と非常に限定的に書かれていますよ。これが最高裁判所判例要旨でありまして、すばらしい解説をしておられますけれども、これは調査官の解説でありまして、このようなものをとってそのような重大な扱いをされるということは甚だ問題が大き過ぎると私は思います。  現にこの一般的指定の性質については、伊藤栄樹さん、亡くなった検事総長だと思いますけれども、「刑事訴訟法の実際問題」九十四ページの中では、「一般的指定の性質については、具体的な接見の日時等の指定があるまでの間一般的に接見を制限する捜査官の意思表示とするもの」というふうにして挙げられているじゃないですか。これは法務大臣、そういう問題がありまして、現場第一線の弁護士あるいは被疑者にとっては重大な問題であります。  再度その運用について、その刑事局長通達がそれでいいのかどうか、基本的人権擁護の観点からぜひ検討していただきたい、このようにお願いしたいと思いますが、その点について一言、いかがでしょう。
  195. 林田悠紀夫

    ○林田国務大臣 実際の実務がどういうふうに行われておるか、私みずから体験しておりませんので先生のおっしゃいましたことを今まで聞いておったわけですが、この弁護人接見の管理運営上の制限に関する今回の刑事施設法改正案におきましては、刑事施設の管理運営上支障があるときを除き、その申し出に応じなければならないというようにしておりまして、弁護人の接見の権利性を基本とする趣旨の定めが置かれておりまするので、これを運用上実質的に適正に担保するための方策というものが確立されることが必要であると思います。したがって、それを具体的にどういうふうにするかということにつきまして、事務当局に今までも指示して検討させておるのでありまするが、十分検討をいたしまして法の趣旨に合うようにしてまいりたい、かように存じます。
  196. 冬柴鐵三

    冬柴委員 今論及されました法案百十条三項の問題については、後に詳細にお尋ねをするつもりでありますけれども、それでは解決できない問題でありますので、ぜひひとつよろしくお願いしたいと思います。  次に、最高裁判所の研修所で用いられています「検察講義案」、これは今の修習生が使っておるのは五十九年度版だと思います。これを私、拝見しますと、その八十五ページ及び九十一ページには、いまだ、一般指定書をまず発し、接見申し出の都度具体的指定書を発する、こういうようなことが書かれているんですね。これは最高裁判所、どういうふうにお考えですか。
  197. 吉丸眞

    吉丸最高裁判所長官代理者 司法研修所の「検察講義案」は、司法修習生の検察修習のための教材として司法研修所検察教官室において作成しているものでございますが、御指摘のとおり、現在の講義案は昭和五十九年に改訂した版でございます。そのために、この昭和五十九年当時の取り扱いが記載されておりまして、現行のものとそごを生ずるに至っております。この講義案は、これまで必要に応じ、たびたび改訂がなされてきておりますので、問題の箇所につきましても今後改訂の際に現行の取り扱いに合わせて書き改められるものと思われます。
  198. 冬柴鐵三

    冬柴委員 今、最後の後期修習をやっている、何期かちょっとわからないのですけれども一般指定を行わなくなったという、講義案と違う、これは必ず周知徹底していただきたいと思うのですが、いかがですか。
  199. 吉丸眞

    吉丸最高裁判所長官代理者 この講義案は、先ほど申しましたとおり、検察修習の講義がなされる前の教材でございますので、その講義に当たりましては、御指摘のとおり事件事務規程の改正があったことを指摘し、現行の運用について十分説明することになると思います。
  200. 冬柴鐵三

    冬柴委員 ちなみにその九十一ページには、一般的指定のことにつきまして、これは在監の長に対する通知にすぎず、刑訴法三十九条三項の処分ではないから、刑訴法四百三十条の準抗告の対象にならない、このようなことまで念入りに書かれていて、刑事局長の答弁と軌を一にするわけですけれども、私は、これはやはり下級審判決とはいえ、鳥取地裁判決以来相当な数のこれとは違う考え方が示されているわけでありまして、こういうようなことが次に改訂されるときは改められると思いますけれども、早急にこの点については改めていただきたいと考えます。最高裁、結構です。  それでは、時間も追ってきましたけれども、次に移らせていただきます。  この接見交通権は憲法に由来する基本的人権であるということ、そしてこれは被疑者にとってもまた弁護人にとっても最も重要な権利の一つであるということは先ほど読み上げた最高裁判決が示すとおりでありますけれども、刑訴法三十九条二項では、これに対する一つの制限というよりも内在的な制約というふうに私は考えたいと思うのですけれども三つの事由が挙げられております。一つは逃亡を防ぐため、二つは罪証隠滅を防ぐため、三つは戒護に支障のある物の授受を防ぐため、こういうものを限定的に列挙いたしまして、法令に基づいて必要な措置、接見あるいは授受についてそういうような措置、こういうことをとることができる、こういうふうに定めているわけでございます。  その法令の一つに、監獄法施行規則百二十二条というのが例示されるのが通例であると思うのですけれども、その内容は「接見ハ執務時間内ニ非サレハ之ヲ許サス」こういうふうに書かれています。しかし、本来自由であり、しかもこの三つの限定列挙事由の中には執務時間というのは入ってないわけですから、そういうようなものによって強く制限を受けるということはまことに不合理であると私は考えます。もちろん深夜とか夜中の二時、三時に突然行って会わせてくれというような非常識なことを認容するわけではありませんけれども、しかし平日はおおむね午後四時に執務時間は終わるわけでありますし、土曜日は十一時三十分で終わるというのが八〇%あるいは九〇%までの拘置所等の通例であるということにかんがみますと、それ以降この規定によって会わさない、 接見させないということになりますと、これは刑訴法三十九条一項あるいは二項というものを実質的に改正してしまう結果になるのではないか、こういうふうに思うわけでございます。  そこで、この規則百二十二条の射程距離といいますか、効力の及ぶ範囲と申しますか、従来どのように解釈をされて今日まで運用、執行されてきたのか、その点についてお伺いをしたいと思います。
  201. 河上和雄

    河上政府委員 ご指摘の監獄法の施行規則の百二十二条は「接見ハ執務時間内ニ非サレハ之ヲ許サス」という規定でございます。これは監獄法の五十条の「接見ノ立会、信書ノ検閲其他接見及ヒ信書ニ関スル制限ハ命令ヲ以テ之ヲ定ム」といった規定に基づく委任命令規定でありまして、監獄法四十五条一項に定める在監者一般の接見に関する管理運営上の制限というふうに解されておりまして、受刑者の接見のみならず被逮捕者や被勾留者の接見についても、また被逮捕者及び被勾留者の弁護人等以外の者との接見のみならず弁護人等との接見についても適用がある、こういうふうに理解して運用されてきているわけです。  先ほど委員指摘のように、これが事実上、要するに刑事訴訟法を曲げるものではないかということでございますが、確かに私ども、弁護人の接見というものが身体を拘束されている被告人あるいは被疑者にとってその防御権を行使するために非常に重要なものであるということは十分認識しております。また、刑事訴訟法で法的保障がなされているということは十分わかっているわけでございますが、一方刑事施設としましては、被勾留者と弁護人との接見について、当然いたずらに弁護権を侵害することのないように十分配意しなければならないということは承知しておりますが、御承知のとおり現在の監獄法は八十年前から行われてきているわけでございますが、そういった監獄法の考え方はどららかというと被勾留者についても入れて、罪証隠滅をさせないというのが中心の考え方になって、そういう古い考え方のもとに人的、物的な予算上の制約で現在までやってきているわけでございまして、しかも継続的に多数の被勾留者、被収容者を収容して処遇しておりますので、これはやはり私どもとしては入っている人たちを逃がすわけにいかないので、所期の機能を十全に果たすように管理運営というものに万全を期していかなければならない。したがって、被勾留者と弁護人との接見についても、あらゆる意味委員指摘のように無制限というわけではなくて、やはりおのずから限界があるわけでございまして、その限界を定めたうちの一つがこの監獄法五十条の規定に基づく委任命令規定である監獄法施行規則の百二十二条だと思っております。  結局、刑事訴訟法と行刑法とがどちらが優位に立つかという問題になろうかと思いますが、やはり刑事訴訟法と行刑法というのは本来その目的を別にいたしておりまして、どちらが優位に立つというものではなく、できる限りそれぞれの法律の目的に従って調和して物事を考えなければならないのじゃないか、こう考えるわけでございまして、こういった観点で在監者の接見につきまして、従来やはり職員たちを土曜日の午後は休ませたい、日曜日は休ませたい、また休ませるような勤務配置しかできないような人員、予算でやってきているわけでございまして、そういった観点から在監者の接見について、監獄の管理運営上の制約からどうしても執務時間内に限る、こういうよな運用を行ってきているわけでございます。
  202. 冬柴鐵三

    冬柴委員 ちょっと今、法務大臣中座されているようですけれども、先ほど言及されましたが、法案第百十条三項には「刑事施設の長は、弁護人等から前二項の定めによらない面会の申出がある場合」すなわち休日または執務時間外の接見請求においても「当該刑事施設の管理運営上支障があるときを除き、その申出に応じなければならない。」このように定めてはいますが、よく考えてみると、これは全く本末転倒の論理であると私は解するわけであります。  その法案百十条というものは、刑訴法三十九条に照応しまして、まず第一項で弁護人らとの接見は自由に行わるべきことを定める、そしてそのただし書きまたはその別項で、休日または執務時間外に接見を行わせるにつき、逃亡、罪証隠滅または戒護に支障ある物の授受を防ぐため必要があると認められる場合に限ってそれを制限できる、そういう立て方をすべきではないかと思うわけでございます。また、この場合においても、被勾留者の防御権の行使に支障を来さないようにその制限をやむを得ない限度にとどめなければならないことも書き加えるべきである、こういうふうに私は考えるわけです。このように百十条の部分について修正をぜひ考えていただきたい、こういうふうに思うのですが、法務大臣に聞きたいのですけれども、まず局長にお願いしたいと思います。
  203. 河上和雄

    河上政府委員 確かにお説のような考え方というのはあるだろうと思います。特に弁護権対して、その重要性を強く認識すればするほどそういうお考えというのは当然出てくるだろうと思います。ただ、私どものこの法案の百十条をよくごらんいただきますれば、結局当該刑事施設の管理運営上支障があるときを除いて、いかなる場合でも弁護人等からの面会の申し出に応じなければならないということで、申し出に応ずるのが原則であるということはもう法文上明らかになっていると私ども考えておりまして、その限りでお説と決して差があるものではないというふうに考えておりますし、運用上もそういう方向でともかくいくというふうに私どもは考えております。
  204. 冬柴鐵三

    冬柴委員 施設の管理運営上支障があるというような抽象的な判断を、しかしそれは人権にかかわる非常に重要な判断になるわけでございますけれども、その刑事施設の長に行わせることが私としては納得がいかないわけでございます。刑訴法三十九条二項に、戒護支障のある物の授受を防ぐ必要、こういうことがありますが、その判断事由と管理運営上の支障がある事由とを比較考量してみますと、管理運営上の支障があるという方がはるかに広い概念であると私は思うわけでございます。しかも、要件として非常に抽象的で、判断についても裁量の幅が大きぎるように感じるわけでございます。  戒護いう言葉につきましては、自殺あるいは自傷及び他害というものを防止するための強制的措置であるという定義は可能でありますけれども、管理運営上の支障ということになってきますと、これを一義的に義務づけることはほとんど不可能ではないかと思うわけでございます。なぜならば、刑事施設全般の人的、物的施設の充足に対する判断というものが伴うからでございます。こういう点について法務省はどういうふうにお考えなのか、その点についても伺っておきたいと思うのです。
  205. 河上和雄

    河上政府委員 法案の百十条の三項の施設の管理運営上支障があるということと、刑事訴訟法三十九条二項の戒護に支障のある物の授受を防ぐ必要というその両者の関係についてまず申し上げますと、この百十条の三項の規定で言っております刑事施設の管理運営上の支障というのは、先ほども申し上げましたが、有限の人的、物的の施設でもって継続的に多数の人を収容しているわけでございまして、そういうことをしている刑事施設がその機能を十全に果たす上で生ずる支障というものをいうわけでございます。これに対して刑事訴訟法の三十九条の二項の方の「前項の接見又は授受については、法令で、被告人又は被疑者の逃亡、罪証の隠滅又は戒護に支障のある物の授受を防ぐため必要な措置を規定することができる。」との規定、この規定による戒護の支障というのは、被勾留者等の自殺あるいは職員や他の被収容者に対する暴行等、そういったものを防止する上で生じる支障をいう、御指摘のように、こういうふうに解されているわけでして、範囲はおのずから異なるだろうと思います。つまり、前者の方は公営造物としての刑事施設の管理運営、そういうものを前提として罪証隠滅を防止したり、戒議の万全を期する、こういったことを目的としているのに対しまして、後者の方はもっと具体的なケースを 想定しまして、同様目的を達成するための直接的な必要措置についての規定であろうかと思います。  そこでさらに進みまして、百十条一項、二項に定める制約というのは、刑事施設の人的、物的条件が有限であることにかんがみて、内在的制約に基づくやむを得ないものではないかと私どもは考えておりますし、刑事訴訟法三十九条との関係はそういったことで理解をしているわけでございます。  一方法案として、その刑事訴訟法の弁護人の接見というのは非常に重要であることは私どももわかっているわけでございますので、法案は、被勾留者と弁護人との接見の重要性を考えまして、三項で管理運営上の支障がない限りともかく執務時間外でも会わせろ、面会を権利としてまず保障したわけでございます。これは現行法では権利としては保障しておりません。これを権利として保障するわけでございまして、管理運営上の支障の有無は、御指摘のように、結局刑事施設の長が判断することになりますが、権利として保障するわけでございますから、刑事施設の長として、弁護人などから申し出があったときに、職員配置を整えて最大限の努力をしろ、そしてこれに応じろということでもって私どもも現在検討を続けておるわけでございます。  ただ、例えば非常に小さな拘置所、職員が八人ぐらいしかいないような拘置所に日曜日にいきなり来られて、あるいは土曜日の午後にいきなり来られて会わせろとおっしゃられても、職員の配置が都合がつかないようなこともございますし、先ほど御指摘ありました夜間のような場合、職員配置が極端に少のうございますから、なかなか御要望に応じられないこともあるわけです。  しかし、そういうことがないにかかわらず、刑事施設の長が単に口実として、会わせられない、管理体制が整っていないというようなことをもし言って接見を拒否したとすれば、これは当然違法でございまして、その場合には、これに対して当然しかるべき措置、つまり行政上の措置もとれるでしょうし国家賠償法上の措置もとれるわけでございまして、そういうことのないように私どもとしては十分に指導していくつもりでございます。
  206. 冬柴鐵三

    冬柴委員 今手続にまで論及されましたのでお伺いしたいのですが、刑事施設の長の判断に対して不服申し立てをするならば、どういうことを考えていらっしゃるのか。それから、それに対して、これは申し立てが権利として位置づけられているのかどうか。それから、それに対する一応の有権的判断がなされるまでの時間はどれぐらいを考えておられるのか。具体的な事例を設定して、簡単で結構です。時間も迫りましたので、時系列的に説明をいただきたいと思います。
  207. 河上和雄

    河上政府委員 被勾留者の立場の方から申し上げますと、法案の百十条の三項の規定によって、刑事施設の長が管理運営上支障があるということでもって面会を拒否したような場合に、これは「自己に対する刑事施設の長の措置その他自己が受ける処遇」に当たるわけでございまして、法案の百四十九条の規定で当該刑事施設の長に対して、あるいは百五十条の規定によってその監査官に対して、または百五十一条の規定によって法務大臣に対して、つまり三通りございますが、苦情の申し出をなし得、また被勾留者、弁護人のいずれからも国家賠償請求等訴訟というようなことで司法的な救済を求めることができるだろうと思います。     〔委員長退席、逢沢委員長代理着席〕  それから、時系列的にというようなお話がございました。  例示をさせていただきますと、例えば弁護人から日曜日の夜間に面会したいという申し出があったといたします。これが、職員の配置上無理だということで断った場合の救済手段として、この法案では被収容者からの苦情の申し出という制度がございます。これによりますと、まず被収容者が法案の百四十九条の規定、先ほど申し上げましたが、その規定により刑事施設の長に対し口頭または書面で苦情の申し出をしようとする場合は、まず本人の居室の区域を担当している職員申し出まして、それが受け付けて、すぐ直属の上司に報告して、結局それを経由して刑事施設の長に報告されるわけです。  刑事施設の長は、申し出の緊急性とか重要性というものを考慮して、必要に応じてみずからその内容を直接聞く、あるいは職員、これは部長クラスになりますか課長クラスになりますか、職員を指定してその内容を聞かせる。いずれにしろ刑事施設の長は、苦情の申し出を受理したときは速やかに処理して、苦情を申し出た者にその結果を通知することになる、こういうことになります。どれだけの時間がかかるか。事案内容とか当該施設の規模にもよりますでしょうし、支所か本所かいろいろございますし、関係者の状況によって一概に申し上げることも不可能でございますが、数日を経ず、短時日のうちにやることになるのではないかと思います。  それから、先ほど申し上げました法案の百五十条の「監査官に対する苦情の申出」この場合ですと、監査官というのはその施設から離れておりますが、これもできる限り早くやりたいということで、今のところ一週間程度をめどにしてやるということを実務的に考えておりますし、百五十一条に基づいて法務大臣に苦情の申し出をする場合も、これは週単位はちょっと無理かもしれません、月単位になるかもしれませんが、一月くらいで何とかしたいと考えております。
  208. 冬柴鐵三

    冬柴委員 権利性はどうかということを聞きたかったのですが。
  209. 河上和雄

    河上政府委員 どうも失礼しました。  現行監獄法ではこれは権利性がないので、こういう苦情の申し出に権利性を与えるというのが実は私どものこの法案一つの目玉でございます。権利性はあります。
  210. 冬柴鐵三

    冬柴委員 それでは、申し出をして、その職権の発動を促しただけではなしに、必ず回答しなければならない、そういうことですか。
  211. 河上和雄

    河上政府委員 さようでございます。
  212. 冬柴鐵三

    冬柴委員 私は、刑事訴訟法構造における当事者以外である刑事施設の長の処分を争う方法として、刑訴法四百三十条を利用することには理論的には問題はあろうかと思うのですけれども、同条の二項に準じまして、または同条項の一部を改正するというような方法によってこの部分についても準抗告という道を開くことはできないのだろうか、そのような改正を、修正を考えていただくわけにはいかないかというふうに考えるわけでございますが、法務大臣、お戻りになりましたので、その点についてお伺いしたいと思います。
  213. 林田悠紀夫

    ○林田国務大臣 冬柴先生の経験に基づいて今までるるおっしゃってまいりまして、私も感銘をして聞いておるような次第でございます。  そこで、刑事訴訟法四百三十条は、これは検察官のした所定の行政処分のうち、その性質上四百二十九条の定める裁判官の裁判に類似する接見指定及び押収もしくは押収物に関する処分については、刑事訴訟の中で解決されることが迅速かつ適正の要請に合致するという観点から裁判所に対して不服申し立てできることとしまして、その形式として準抗告を認めるものであると解されております。  したがって、その準抗告はあくまで刑事訴訟手続においてなされた処分を対象とするものと解されるのでありまして、刑事施設の長が施設の管理運営の見地から行う制限につきましては、刑事訴訟法四百三十条の準用があると解することは同条の解釈として困難であり、またそのための刑事訴訟法一部改正を行うことは、刑事施設の長が行う処分の性質にかんがみまして相当でないと考える次第であります。  なお、刑事施設法百十条に基づいてなされる刑事施設の長の面会拒否は、「自己に対する刑事施設の長の措置その他自己が受ける処遇」に該当するものとしまして、当該施設の長、監査官及び法務大臣に対する苦情の申し出をなし得る上、被勾留者及び弁護人のいずれも国家賠償請求訴訟を提起することができるものと解されるのでございます。
  214. 冬柴鐵三

    冬柴委員 日本弁護士連合会及び単位弁護士会は、この刑事施設法が上程されて以来、一見すれば神経質と思われるほど細かいいろいろな提言を、また意見具申を、また研究を重ねて熱心な活動を今日まで展開してきているわけでございます。  今私も、刑訴法三十九条二項と関連して、法案百十条を根拠として将来秘密接見交通権が不当に侵害されることがないようにするための具体的な提案をしたわけでございます。それは、過去において、本来例外であるべきである「捜査のため必要」という文言、これは刑訴法三十九条三項の中にある「捜査のため必要」という言葉、これが極度に強調、拡張されまして、ついに原則たるべき弁護人の秘密接見交通権を形骸化してしまって多くの基本的人権の侵害を生んだという歴史がありまして、弁護士こそその厳粛な歴史上の証人だという立場と自覚、そういうものから真摯な提言をしているわけでございます。  したがいまして、法務省としては提出した法案が最善最良のものであると考えておられるでしょうけれども、このような日弁連なりあるいはこれから始まるこの法案審議の際に委員から指摘される真摯な提案につきましては、理論的にはなかなか立ちにくいところもありましょうけれども、その大前提が基本的人権の擁護、なかんずく拘束された非常に弱い立場にある人の密室における権利だということに配意をされまして、今出した法案を何が何でも固守するというような立場でなしに、ぜひ前向きに考えていただきたいということを切望いたします。  しばらく一般質疑の機会がなかったので、この刑事施設法とは関係のないことを二つほどお聞きしたいと思います。  一つは、法務省の人権擁護局長にお越しいただいているわけですが、私はかねて無資力者のための法律扶助制度というものについて、この委員会でもあるいは予算委員会でも質問をしてまいりました。日弁連から法律扶助基本法の制定をぜひお願いしたいということを要望しているやに聞いているわけでございますけれども、その事実の流れと申しますかを御説明をいただきたいというふうに思います。
  215. 高橋欣一

    ○高橋(欣)政府委員 法律扶助の制度につきましては、先生から今おっしゃられましたように御質問いただいておりまして、法務省といたしましては、現行補助金制度で運用しておるわけでございますが、その制度自体は定着しておりまして相当の成果も上がっていると思っておるわけでございます。しかし、今御質問ございましたように、日弁連の方からはこれを法制度化すべきであるという決議もなされておることも承知いたしております。いろいろ難しい点もございまして、今直ちに法律を制定するというふうには考えておらないところでございますけれども、しかし人権局としましても、法制定の是非も含めまして法律扶助制度のあり方ということについて検討していきたい、このように考えております。
  216. 冬柴鐵三

    冬柴委員 この法律扶助という言葉法律の中に何個出てくるかというようなことを聞いたことがあると思うのですけれども、残念ながら弁護士法の中に一言あるだけであります。法務省設置法の中には訴訟援助という言葉があるようですけれども。私の考える法律扶助というのは何も民事訴訟を起こすための無資力者のための扶助だけでなしに、そのような人たち法律相談とか鑑定、あるいは裁判外の交渉とかそういうものまで、当然法治国家でありますから、専門家である弁護士の力をかりて十全に自分の権利を守りたい、あるいは訴えられたものについての自分の権利を主張したいというのは人情でありますので、そういう面について、法務省設置法の中では訴訟援助という言葉しかないようですけれども、それを超えた、今申し上げたような法律扶助について法務省は何らかのお考えをお持ちなのかどうか、その点についてお伺いしたいと思います。
  217. 高橋欣一

    ○高橋(欣)政府委員 そういった問題、つまり法律扶助の範囲をどのように画すべきかというようなことも含めて、その法制定の是非の問題の中に入ってこようかと思っております。
  218. 冬柴鐵三

    冬柴委員 法律扶助協会に対する補助金がここ数年ずっと同じ額で推移していると思いますが、来年度予算について、私はこれはもっと増額すべきではないかということを申し上げていたと思うのですが、何らかの考えがあるかどうかお伺いしたいと思います。
  219. 高橋欣一

    ○高橋(欣)政府委員 法律扶助事業費の補助金につきましては、ここ数年来諸般の事情から増額要求もしておりませんで、六十三年度の予算は、御承知のとおり七千二百万円でございますが、六十四年度につきましては、これに千五百万円増をいたしまして八千七百万円の要求をいたしております。
  220. 冬柴鐵三

    冬柴委員 ちなみに、その財団法人の方からの、補助をこれくらいしてほしいという要求額等はおわかりでしょうか。その七千二百万円に千五百万円を足した八千七百万円ですか、それで満額なんでしょうか、それともやはり下回っているのでしょうか、この点についてお伺いしたい。
  221. 高橋欣一

    ○高橋(欣)政府委員 扶助協会の方のお望みの額は、これで決して満額ではございません。正確な数字は覚えておりませんが、たしか二億くらいじゃなかったかと思っております。
  222. 冬柴鐵三

    冬柴委員 法務大臣、これは通告してないのですけれども、ただいまのような、無資力者のための訴訟費用の立てかえ、ある場合には国家が給付をしてあげる、こういうような制度、先進国では全部基本法を持っているのですが、我が国だけがこれだけすばらしい国でありながら法律扶助という言葉が法令の中に弁護士法の中で一カ所しか出てないというのは寂しいことだと思いますので、私は法律扶助基本法というようなものを、独立した法体系をつくって、そしてそのような基本的人権、裁判を受ける権利、こういうものを保障していくべきである、こう感じております。さきの出遠藤法務大臣にも再度にわたり申し出をいたしておりますが、前向きに検討いたしますという言葉をいただいているのですが、法務大臣はいかがでございますか。
  223. 林田悠紀夫

    ○林田国務大臣 無資力者の法律扶助は非常に重要なことでありまして、現在、日弁連が協会をつくっていただきまして極めて熱心に取り組んでいただいておりまして、感謝を申し上げておるところでございます。  法務省といたしましては、それを援助していこうということで助成金を出しておりまして、今申しましたように、七千二百万円、ここしばらくの間それできておるわけでありまするが、来年度はぜひこれを最も優先的に法務省の予算として要求したい、八千七百万円にしたい、こういうことで今努力中でございます。そういうふうにまず予算的に努力をいたしまして、将来これを法制化する必要がありましたならばそのときに考慮をさせていただこう、こういうことで取り組んでおるわけでございまして、特に、予算もそのうちには現在の倍額くらいにしなければいかぬ、そういう目標を掲げまして折衝をしておるという段階でございます。
  224. 冬柴鐵三

    冬柴委員 私の質問は終わります。
  225. 逢沢一郎

    ○逢沢委員長代理 次に、安倍基雄君。
  226. 安倍基雄

    ○安倍(基)委員 いよいよ本法の質問に入るのでございますけれども、その前に、しばらく一般質問の機会もございませんでしたので、緊急を要することかと思いまして、それをちょっと時間をおかりいたしまして取り上げたいと思います。  実は私、数日前にあるところで会食しておったら、今何か上海の副市長と現地の総領事館で、非常に大勢の人に対してビザを発給するという取り決めができたというような話を聞きました。それで、これはちょっと問題だなと思っておりましたら、つい最近ある新聞に、日本語学校か何かの募集みたいな形で入学金なんか取って、結局はビザが発給されなくて大分問題になっているというような報道を見ました。いろいろ見方もございまし ょうけれども、私はこれは大問題だな。大体現地の領事館が向こうの副市長と話をつけてたくさんビザを発給する、とんでもないという感じもございますけれども、これは法律の本論ではございませんからせいぜい十分くらいでけりをつけたいと思っておりますので、実情を簡単にお話しいただきたいと思います。
  227. 熊谷直博

    ○熊谷政府委員 簡単に御説明をさせていただきたいと思います。  最近、日本語を勉強するということで日本にいわゆる就学生として入国申請をしてくる者の数が、この一、二年ですけれども、非常に多くなってきております。殊に中国からそういう人たちがたくさん来ておりまして、中国からだけの人数、これは入れた人数でございますけれども、おととしが千百ぐらい、それから去年が七千百ぐらいになっていたのが、ことしが一月から八月まででもう既に一万九千、そういう数になっているというわけでございます。この非常に急激にふえた背景はいろいろ考えられるわけですけれども、出稼ぎを目的にして、日本に就学ビザというビザがあることを利用してやってくるということでございます。急激にそういう数になったことを背景にいたしまして、上海総領事館が中国では中心でございますけれども、上海側の言い分によりますと、そこにビザ申請で三万五千人に及ぶ就学希望者がビザ待ちをしているということがいわばこの事件の発端でございます。  ビザ待ちというのはどういうことかと申しますと、そういう形で入国申請をいたします場合にはすぐには査証が取れず、査証を取るためには事前に日本におります代理人、多くの場合は学校でございますけれども、いわゆる日本語学校が代理人になって、東京地域でありますと東京の入管に事前審査というのを願い出てくるわけでございます。事前審査でいわば合格しますと、それが本人の方に伝わって、その事前審査終了証というのを上海の領事館に持っていきますと、そこでビザが発給されるということになっております。そこで、この三万五千人に及ぶ人たちはもう中国側の旅券も発給されて、それから入学先の入学許可書も得て、日本における保証人もちゃんとしたのがいてということで、中国側の旅券が出ますと、自分が今まで勤めていたところをやめて日本に行くのを待っている、ビザを待っている、そういう状況なのでございます。  それで、三万五千人がビザ待ちで待っているのは大変なことであるということでございまして、この原因が中国側に言わせますと、日本の法務省、入国管理当局が十月五日に今までの基準を厳格化したということによるものであるということを言い出しまして、それでデモにまで発展したというのが実情でございます。そういうことで、日中間で大きな問題にならないように、なる可能性が出てきたものですから、私どもとしても中国側の言い分をよく吟味して、外務省、文部省とも相談をしながら、外務省を窓口にしまして中国側と話し合いを続けてまいったわけでございます。  三万五千と申しますけれども、実際に私どもの方に事前審査の願い出ということで申請が出ておりますのは、実は十一月十五日現在の数字で申しますと四千七百弱なのでございます。それで、四千七百については我々が、日本の政府が申請を受けているということで知っておりますけれども、残りの三万強については私ども全く知らない数でございます。そこで、外務省を通じまして先方当局、つまり上海については上海の当局、これは国と国との間の問題にもなる危険性がございますので、北京の日本大使館を通じまして先方と話し合いをいたしまして、結局今の三万五千をどうするのかということについての話し合いをいたしたわけでございます。  それで、現在手持ちの、受理をしております四千七百につきましては可及的速やかに審査をいたしますということ。それから三万強につきましては、どこの学校にどういう人が申請を出すのかとうことについては私ども全然承知しないものでございますので、上海市当局で一つずつその学校の名前とか申請人の名前、保証人、それから間に入ったブローカー、これは大体ブローカーがいるわけでございますが、そういうものをリストアップしてください、それによってそのリストが日本側に通報されることになったわけでございますが、通報された段階におきまして、そのリストの学校の名前を一々こちらで持っている手持ち資料で調べまして、これはだめ、これはいい、まあありそうな学校だというようなことで仕分けをいたしまして、リストの段階ではねよう。それで合格になった者につきましては、なるべく早くその事前審査願い出を中国側から、つまり本人たちに出さしめて、それを今度は従来からの基準に従って審査をいたしましょう。その審査の際には従来の審査基準がございますので、その基準に従って厳格にやりますということを上海側に言いまして、それで話はついております。
  228. 安倍基雄

    ○安倍(基)委員 ちょっと文部省の方に聞きますけれども、一体、向こうで職にあって、職をやめてこっちへ留学してくるというのは、本当に留学生と考えるべきなのか。単なる労働力ではないか。しかも、これだけの人数の者、三万人も待っているというのはとんでもない話ですよ。中国に対して気兼ねをするというそんな必要は毛頭ないので、これは留学生か就学生か労働力か、どうお考えですか。
  229. 西澤良之

    ○西澤説明員 お尋ねのように、日本の国際的地位の向上等に伴いまして、日本語、日本文化等を学習したいという外国人の方々が非常に急増しているわけでございまして、その目的というものも非常に多様化しているというような状況があるわけでございます。これらの方々が本当に日本語でございますとか日本文化というものを勉強したいということでございますれば、これはもとより我が国としても大歓迎すべき事柄だというふうに考えておるわけでございますけれども、しかしながら今日の状況を見ておりますと、日本語の学習というものを一つの口実にいたしまして日本に就労を希望するというような方々もかなりふえているのではないかというふうに考えられるわけでございます。  こういうことにつきましては、そういうことで日本語学校が不法就労の口実に使われるというような事柄につきましてはやはり非常に問題ではないかということで、私どもといたしましては、日本語学校の質的水準を向上させることを通じて、そういうふうなトラブルが入り込む余地をなくしていこうというふうに考えているところでございまして、こういうことの状況を踏まえまして、本年七月に法務省、外務省の御協力も得て日本語学校の標準的基準に関する調査研究協力者会議を設けまして、日本語学校の標準的基準のあり方につきまして現在鋭意検討を進めていただいているところでございまして、この検討結果をもちまして日本語学校に対します援助、助言等を行ってまいりたい、このように考えておるところでございます。
  230. 安倍基雄

    ○安倍(基)委員 実は私もアメリカに留学二年半しました。アメリカで留学生にアルバイトが認められているのかどうか、私はよく聞いてみましたら、二年間は禁止されている。二年たって移民局の許可を得たらある程度してもいい、できるというぐあいに聞いておりますが、事実ですか。
  231. 熊谷直博

    ○熊谷政府委員 アメリカについてのお尋ねでございますが、私ども承知しておりますのは、二年目から認められるということになっておるように聞いております。すなわち、一年間はだめということでございます。
  232. 安倍基雄

    ○安倍(基)委員 それじゃ、日本語学校に来る就学生は一年間はアルバイトを禁止するつもりですか。
  233. 熊谷直博

    ○熊谷政府委員 留学生についてアルバイトを制度的にといいますか、日本の方針として認めることになったのは昭和五十八年でございます。時の法務大臣は秦野大臣であったわけでございますけれども、アメリカにおける様子等も踏まえて、日本に来られる留学生について週二十時間ぐらいは学業と両立するような範囲内でアルバイトを認めようじゃないかという、これは国会でも御議論があったように承っておりますが、その時点で留学生について認めるということになったようでございます。  それが、その後就学生、つまり日本語を勉強したいという就学生の数がふえるに従いまして、就学生についてもこれを適用しようじゃないかということになって、留学生については留学生の活動の範囲内ということで特に入管の許可その他を得ないでできるということになっておりますけれども、就学生については入管に届け出をして、それで許可があった場合にはそのアルバイトを認めるということになったのでございます。したがって、現在のところそういうことでやっておりますので、目下のところはアルバイトについて今までのやり方を変えるということは考えておりません。
  234. 安倍基雄

    ○安倍(基)委員 しきりと最近、日本が国際大国になったから大いに留学させにゃいかぬと、しかし、どっちかといえば本当の意味の留学生というのは逆にこういったことに対して非常に憤慨しているのじゃないかと思いますよ、実際のところ。大体、アルバイトを認めるということは、これは私自身も本当に二年半の留学みっちりやったつもりですけれども、みっちりやろうとする人間であれば実際にそんなアルバイトをする暇はないはずですよ。むしろ、本当の留学生に対してはぎちっと選抜をして、それにはアルバイトをしなくてもいいぐらいの金を渡す。ところが、本当に何しに来るのかわからないような者は、中国が何と言おうと絶対にビザを出すべきではないですよ。大臣、どう思いますか。
  235. 林田悠紀夫

    ○林田国務大臣 仰せのようになかなかこれは複雑な問題でありまして、まず就学生と留学生に分かれるわけですが、日本へ就学生として来まして一年ぐらい日本語を勉強しまして、そして留学生試験を受けて留学生になる、こういうことでございます。  ところが、日本語学校というものは、これが必ずしも法律によって規制をされた立派な学校ではありません。そういうところから、ブローカーが介在をいたしまして、まだ学校もできないのに既に募集が行われるとか、そういうようなことが現に行われておるようでございます。したがって、日本語学校をしっかりした学校に育て上げなければならぬ。  また、一方におきまして、そういう学校を規制しなければいかぬ。これは、実は今どこの省も管轄をしていないのであります。これは学校教育でもありまするから文部省の方で管轄をしてもらえれば一番いいのでありまするけれども、まだそこまでいっていないという状況でありまして、今法務省は入管の見地からそういう人たちを規制をしておる、したがって学校も規制をしておる、こういうことでありまして、教育上から文部省の所管にしてもらうのがいいんじゃないだろうか、そういうことで文部省と話し合いをしておる、そういう段階なんでございます。  そして一方、御承知のとおり円高でありまするので、日本へ来た留学生、就学生は少しぐらい金を持ってまいりましてもとてもやり切れない。したがって、日本においてアルバイトもしなければならぬ。また、住む場所が非常に難しい問題だ。こういうことで、せっかく日本に来て勉強しようという人たちがおりますけれども、それに対して十分なことが行えない。そうなりますると、かえって日本を恨むようになるという逆効果も出てまいります。  そういうような問題を急速におのおの解決をしていかなければならぬ、それが今の状況でございまして、実は法務省と外務省と文部省とずっと協議を続けておりまして、早く対策を打ち出したい、そういうことでございます。
  236. 安倍基雄

    ○安倍(基)委員 大体二万人前後の人間が本当に一生懸命勉強しに行くなんて到底思えないじゃないですか、実際のところ。しかも、我々だって外国に行くときには英語をきちっと勉強して、そのあげく行っているわけですよ。向こうで日本語を勉強して本当にその選抜試験に通った人間だけ採ればいいじゃないですか。しかも今おっしゃったように、大勢受け入れてそのために不平不満を持って帰るのは困る。そのとおりですよ。ですから、採るときにきちっと選抜して、来た人間にはきちっとアルバイトなんかしなくても済むようなお金を上げて、それで未来のリーダーとして送り帰すのが一番ですよ。何万人も来るなんていうのは、これは労働者以外の何でもないですよ。  この辺、労働省にお聞きしたいけれども、一体外国人労働者に対してどういう方針を持っておられるのか、こういう学校というベールをかぶって入ってくる人間をどう考えておるのか、基本方針があるのかどうか、労働省としての見解をはっきりお聞きしたいと思います。
  237. 廣見和夫

    ○廣見説明員 お答えいたします。  労働省といたしましては、就学生、あるいは留学生も同じ問題であるかもしれませんが、就学生として入ってこられた方々が実態必ずしも就学ではなくむしろ就労が常態化する、あるいは就労の方にウエートがあり実質的には働くということが非常に前面に出てくる、こういう実態が広がりますと、やはり関係の広い分野、雇用面あるいは労働条件面への影響が出てくるということもございますので、そういうところからそんなような実態が広がらないように十分配慮していく必要があるのではなかろうかと基本的には考えております。  ただ、就学生につきましては、国際交流の促進といったような観点から適切な形で受け入れが行われていくということに意を用いる必要があるというふうにはもちろん思っておるわけでございまして、そういう基本的な中で今申し上げましたように就学という目的を、本来の趣旨を逸脱しまして実質的に就労化するといったようなことはやはり防止するような形の方策というものは、関係各省間で協議しながらとられていく必要があるのではなかろうか、基本的にはこのような考えを持っております。
  238. 安倍基雄

    ○安倍(基)委員 では労働省の方にお聞きしますけれども、外国人労働者は今どのぐらいいるか。それに対して、聞くところによりますと、いわば単純労働者は入れないという決定が、これは四十三年でしたかいつだったか、もう一遍確かめたいと思いますけれども、外国人労働者に対してどう対処するのか。これは就学生でない形で入ってきているのもいると思いますけれども、それ以外で、要するに今何万人というのは明らかに私は外国人労働者と思いますけれども、どういう方針でおられるのか、これからどうするのか、その辺のはっきりした姿勢はいかがでございますか。
  239. 廣見和夫

    ○廣見説明員 お答えいたします。労働省としての考えをお尋ねだったと思いますので、私どもの現在のごく基本的な考え方をお答え申し上げたいと存じます。  労働省といたしましては従来、外国人労働者は労働力としては基本的には受け入れるべきではないだろうということを考え方の基本としてまいりまして、例えば若干古くなりますが、昭和四十二年に第一次の雇用対策基本計画ができましたとき、閣議でも労働大臣からその旨を発言し了解をいただいているという経緯がございまして、以後三回にわたりまして同様の発言を労働大臣からいたしております。  最近に至りまして、今度第六次雇用対策基本計画を策定する際にも、外国人労働力の受け入れというものは議論の大きな焦点になったわけでございますが、この計画の中ではいわゆる単純労働力につきましては基本的には消極的な対応を打ち出しておりまして、これに対しまして専門的な技術、技能を有するような方々につきましては、国際化の観点からそういう人たちの受け入れは積極的に前向きに対応すべきではないかという考え方で第六次雇用対策基本計画は整理し記載しておるところでございます。  したがいまして、私ども労働省といたしますと、今申し上げましたような基本的なラインに沿いまして対応していくべきではなかろうかというふうに考えておりまして、現に労働省の中でも懇談会等を持ちまして、このあたりの考え方を具体的に少しブレークダウンしながら今後の対応が必要なのではなかろうかということで今検討を進めているという状況にございます。
  240. 安倍基雄

    ○安倍(基)委員 外国人労働者の人数は把握していないのですか。
  241. 熊谷直博

    ○熊谷政府委員 外国人労働者の中にはいわゆる単純労働者とそれからそうでない現に合法的に認めている外国人労働者がございますが、その後者の、就労が認められている在留資格で入ってくる人の数は、昨年の入国者数で言いますと約七万でございます。在留中の者は、六十一年末で三万でございます。丸い数字で申しましたけれども……。
  242. 安倍基雄

    ○安倍(基)委員 法務大臣、いずれにいたしましても外国人労働者の問題は重大な問題なんですよ。私どもはかねて法務委員会で外国に視察に行ったときに、トルコに行きましたら、西ドイツに随分流入した。景気のいいときにどんどん入れたけれども、景気が悪くなったときに一生懸命お金を出して帰さなくちゃいけないという話がありました。今の円高から、今いろいろな形で、不法入国もあれば日本語学校の就学生という形で何万人も入ってくるということをしているわけです、実際のところ。聞くところによると、四十二、三年ごろに閣議決定したとか言いますけれども、本当にいろいろな要素があるわけですね。外国にいい顔をしたいという気持ちもありましょう。しかし、野方図に入れれば労働市場の問題もありましょう。それから将来、犯罪の問題にも必ず結びつくんです。この日本語学校の就労者というのがあって、まさにブローカーが介在しているというのはそのものずばりですよ。本当の意味の留学生は、本当に厳選すべきですよ。大体たくさん連れてきたところで何にもならないのですよ。本当に厳選して、それにはばっちり勉強してもらって、帰ってリーダーになってもらう。あとの者は労働者とみなさなければいけませんよ。  そこで、私は大臣にお聞きしたいんだけれども、法務省と労働省と文部省と、外務省も入れたらいいかもしれません、そこでばっちりこれからの外国人労働者に対する基本方針を論議してください。四十何年かなんかの話ではだめですよ。今の、こちらへ来て勉強させて理解を深める――理解など深めやしませんよ、居つくだけですよ、大体。本当に日本語が必要だったら、現地でもって、中国でもどこでもつくったらいいですよ。そこでもって厳選して、最後に試験でもやって、スカラシップは立派な人間には幾らでもやる。そうしなかったら本当の意味の留学生は怒りますよ。留学生が、円が高いから着るものでも何でもお涙ちょうだいで、宿舎をやる、何をやる。労働者に対してあれするのも、問題は同じことじゃないですか。今こそもう少し閣内でぴしゃっと外国人労働者をどうするかということを、まとまった本当の意味の審議機関を必要としますよ。大臣、いかがですか。
  243. 林田悠紀夫

    ○林田国務大臣 現在、政府としましては単純労働者は入れないという方針でやっておるわけですが、四十二年から随分日もたったわけでありまするから、この際さらに検討を深めなければならないと思います。日本人の世論も考えてみまするといろいろ分かれておる状況でありまして、そういうことからもやっていかなければならぬと思いまするが、入ってくるのに対しまして、例えばバングラデシュあるいはパキスタン、こういうところはビザなしで今まで入ってこれたわけです。そこで、ビザを相互に発給して入ってくるのをとめるという方策もとるようになったわけでありますし、また日本語学校でありまするが、日本語を日本で学ぶのではなくて、外国に日本語学校を置きまして、例えばODAの予算もあるわけでありまするから、そういうもので日本語学校をつくって、立派な日本語に習熟された者をこちらで留学生として探る、そういうことも考えたらいいんじゃないだろうかと思います。先生大変御心配をいただきまして感謝にたえないところでございまするが、十分これから検討をしたいと思います。
  244. 安倍基雄

    ○安倍(基)委員 ひとつ閣議で、これから外国人労働者対策をどうするのか、しかもいろいろな隠れみのをかぶって来る連中をどうするのか、ビザの問題をどうするのか、連絡会議か何かつくって、よくやってください。いかがですか。
  245. 林田悠紀夫

    ○林田国務大臣 おっしゃるとおりと思います。
  246. 安倍基雄

    ○安倍(基)委員 大分この問題で時間を費やしてしまったから、せっかく本論に入りましょう。  今回初めてこの法案の審議に入るのでございますけれども、いろいろな問題がございます。これは非常に重要な法案ですから私ども審議を尽くしてやりたいと思っておりますけれども、なかなかいろいろ事情もございまして今まで論議ができなかったのは残念でございます。  これから問題点がいろいろ起こってくると思いますけれども、一番大きな問題は、今まで論議をしているところの代用監獄というか留置施設、これが恒久化するのではないかという懸念と、もう一つは弁護士の接見交通権、大体クローズアップしております。  前者についてちょっとお聞きしたいのですけれども、まず第一に諸外国の例ですね。日本の留置施設に類するものが諸外国においてはどうであるのかということを簡単に御説明願いたいと思います。
  247. 河上和雄

    河上政府委員 各国ともそれぞれ異なった刑事法制を有しておりますので必ずしも我が国の代用監獄と同じだということは言い切れないだろうとは思いますが、一応警察官による被勾留者の取り調べ権限があるかないかとか、被勾留期間の長短、その他その国の刑事手続機構の諸制度と密接に関連しているのですけれども、一応同じようなものかなと言えるものを見てまいりますと、実は制度的に細かなことは承知いたしておりませんが、スイス、フィンランド、スウェーデン、イスラエル、こういった国が代用監獄制度と類似のものを持っていると言われております。  スイスでは、逮捕された被疑者は直ちに予審判事か検事局に引致されます。これはカントン、郡によって違うようですが、引致されて警察署の留置場に勾留されます。勾留期間はやはりカントンによって異なるようですが、十四日から三カ月とのことでございます。  フィンランドでは、警察は通常三日を限度として抑留することができるようでして、被疑者を捜査官へ送致するために、これに加えてさらに四日間抑留することができる。また、重大な理由の存する場合はさらに十四日間抑留できる。被疑者は拘置所に勾留されるわけですが、警察官は被疑者を取り調べることができて、勾留期間は最大一カ月とのことでございます。  また、スウェーデンでは、捜査の必要に基づいて五日間までの勾留請求延期制度があるようでございます。さらに捜査上特に必要と認められる場合は、勾留裁判官は捜査機関の請求に基づいて警察における拘禁から拘置所へ移管することを、別途指示するまで延期できる。つまり警察にそのまま置くことができるというような制度もあるようでございます。  イスラエルでございますが、警察官は固有の権限で四十八時間まで拘禁でき、それ以後は裁判所から逮捕の許可を得なければならない。未決拘禁は、起訴の前後を問わないで警察の管理下に警察署か拘禁用建物に十五日間置くことができ、さらに十五日間ほど延長することができるというような制度をとっているようでございます。
  248. 安倍基雄

    ○安倍(基)委員 そうすると、英米法系は余りそういうことがないのですね。あるいは、今の幾つかの例がございましたけれども、それぞれ文明国でありますけれども、いわゆる主要国ではなさそうです。主要先進国はどうかということですね。時間がございませんから簡単にしてください。
  249. 河上和雄

    河上政府委員 おっしゃるとおりでございます。
  250. 安倍基雄

    ○安倍(基)委員 二番目に、いわゆる例の、これについての答申があったわけですね。そこにおいていわば代用監獄を漸減するという議論があった。それとともに当分の間という言葉を入れようかという話があったのですが、漸減規定の方が実 効性があるというような議論がいろいろあったかのごとく聞いておりますけれども、その辺の議論の概要をちょっと御説明願えませんでしょうか。
  251. 河上和雄

    河上政府委員 確かに御指摘のとおりでございまして、法制審議会の御審議の過程で、当分の間要するに代用監獄として用いるという考え方、それから漸次代用監獄として用いる例を減らしていこうという考え方の二つがございました。その二つの考え方についていろいろ審議会の中でもって検討を重ねられましたが、結局その審議会の考え方は、この代用監獄というものを制度的に暫定性を示すものとして法文化を予定するのじゃなくて、改正法の実施上の配慮事項として漸減条項を入れた方がいいだろうということで、御承知のとおりの「刑事施設の増設及び収容能力の増強に努めて、被勾留者を刑事留置場に収容する例を漸次少なくすること。」という御意見が附帯として出されたわけでございます。
  252. 安倍基雄

    ○安倍(基)委員 その辺の経緯がちょっとはっきりしないのです。逆に、当分の間という言葉を使うと、いつまでたっても当分の間だ、実効性が上がらない、だから当分の間をやめて漸減にしたんだというぐあいに実は私は聞いているのですね。というのは、当分の間と漸減という場合に、当分の間という場合には、原則的にこれはテンポラリーなものなのであるというフィロソフィーがあるわけですね。本来はそれで行こうと思ったんだけれども、そういうことだといつまでたっても実効性が上がらない、だから漸減という言葉にしたんだ。だから基本的にはテンポラリーという基本観念があったんだ、それを否定して漸減条項になったのではない。むしろテンポラリーという言葉が非常にそれにあるんだけれども、それだけでは実効が上がらないという意味で、漸減規定ということで具体化したというぐあいに私は聞いているのですけれども、その辺の議論はちょっと今局長の御答弁と少し食い違うようで。  というのは、むしろ今のお話だと、テンポラリー的なことを外して、現状を認めて漸減規定を設けたというぐあいに、今の局長説明なんですけれども、私の聞いている理解というか議論の過程は、平野さんでしたか、その辺が提起した話のようでございますけれども、テンポラリーをやめて漸減にしたのは、むしろ実効性あらしめるためだというぐあいに聞いておりますけれども、その点はいかがでございますか。
  253. 河上和雄

    河上政府委員 法制審議会の審議のところを少し詳しく御説明申し上げたいと思います。  これは、監獄法の改正部会で、留置場の人的組織及び物的組織の全体を監獄に代用するもので、その実態は警察の組織であり、しかもこれに適用されるべき法令の規定が明らかにされていないため、本来の監獄における被収容者処遇との間に不均衡が生ずるおそれがあること、特に受刑者処遇の実施については問題が多いことなどが一部の委員から指摘されまして、収容対象から受刑者を除外し、法令の適用関係を明らかにし、勾留業務については本来的に責任を負う法務大臣が一定の関与を行えることとするなどの制度的改善を加えて存続する、こういうことを実は法制審議会の中で決定する一方、運用上単に現状を維持するだけでなくて、現在では起訴後の勾留被告人も相当数が代用監獄に収容されている実情を踏まえて、勾留場所の指定に関しては裁判官の適正な裁量にゆだねるべきものであるけれども、本来の拘置所の増設や既設の拘置所の収容能力の増強を図って、できる限り被勾留者を刑事施設に収容し得るようにすることが相当であるとされて、「将来、できる限り被勾留者の収容の必要に応じることができるよう」という語句でその趣旨を示して、法務当局に対して、先ほど申し上げたような運用上の改善事項というようなものを決定されたわけです。  この要綱案につきまして、法制審議会の審議の過程で、日本弁護士連合会からの推薦にかかわります弁護士委員から、代用監獄制度の存続は当面の措置として本法施行の日から当分の間に限る、こういうふうな御意見が出て、附帯要望事項についても、被勾留者を収容する例を漸次少なくすることを明記すべきだ、そういうような修正案が提出されました。これに対して、部会でこの案が実は否決されたわけでございまして、そして部会において、本来の、裁判官の判断によって刑事施設に収容すべき被勾留者についてまで刑事施設が十分に存在しないという理由から、代用監獄に収容せざるを得ないというような事態はできる限り解消する必要があるということで、附帯要望事項について例の要綱の一一〇項のような修正案が提案されて、これは結局受け入れられたということでございまして、委員指摘の当分の間というのは、一応これは委員のおっしゃることと全く同じことになるわけでございますが、それは審議会では否定されて、漸次少なくしていく、そちらの方が有効ということかどうか、それはあれですが、漸次少なくするというふうな附帯要望事項になったわけでございます。
  254. 安倍基雄

    ○安倍(基)委員 ちょっとこれは非常に重要な問題でして、思想的にこれはテンポラリーなものとすべきだ、だけれども、そう言っただけではいつまでたっても当分の間という話だから、漸減ということで具体化したんだ、だから、あくまで基本思想としてはこれはテンポラリーであるというのが第一前提にあったというか、平野さんが言ったというぐあいに僕は理解していますけれども、この辺はそうじゃないんですか。  これは非常に大きな問題点で、平野龍一さんあたりが、本来当分の間という言葉でははっきりしない、逆にその漸減規定ということを入れた方が具体化できるという話で、要するに漸減規定という言葉になったので、本来テンポラリーという発想がまず先にあったというんじゃないでしょうか。そこをもう一遍確認していただけませんか。
  255. 河上和雄

    河上政府委員 テンポラリーという考えをお述べになる委員の方がいらっしゃいましたわけですが、結局テンポラリーということを修正案としてお出しになりましたが、それが審議会で否決されたわけでございまして、そして漸次少なくしていこうというふうな形に変わったわけでございます。
  256. 安倍基雄

    ○安倍(基)委員 しかし漸次少なくしていこうということは、最終的にゼロにできるだけ持っていく、それはゼロになるかどうか問題ですけれども。ということは、やはりテンポラリーと基本的に考えているから減らしていくんじゃないでしょうか。テンポラリーと考えなければ、何も減らしていく必要ないのですから。
  257. 河上和雄

    河上政府委員 テンポラリーというのが前提にあって、漸次少なくしていくという考え方、委員のおっしゃったような考え方だと思いますが、私ども理解としましては、テンポラリーは一応否定されて、しかし現状でこういった形が残っているのは場合により好ましくない場合があるので、それは漸次ともかく少なくしていこう。しかし漸次少なくするということは、結局それに対して全部拘置所でもってカバーできればいいわけですが、カバーできないという現実が一方にあるわけでございますので、完全に全部なくし切ることはできないだろう、そういう前提に立って、しかし理念として少なくしていこう、こういうふうな附帯決議だったろうというふうに理解しております。
  258. 安倍基雄

    ○安倍(基)委員 それはゼロにできないにしても減らしていこうということそのものは、テンポラリーということは前提にあるんじゃないかな。だからテンポラリーが否定されて漸減に置きかわったとは到底考えられないわけですよ、論理的に言って。テンポラリーでなかったら減らす必要ないのですから。だから今の局長説明は、テンポラリーの提案は要するに否定されて漸減規定になったといいますが、提案として、テンポラリーではちょっと実効性がないんじゃないかというような議論から漸減規定という言葉に置きかわったのであって、思想的にはあくまでもテンポラリーということが基礎にあるんじゃないか、ゼロということではなくて。そこはいかがですか。     〔逢沢委員長代理退席、委員長着席〕
  259. 河上和雄

    河上政府委員 確かにテンポラリーという言葉と漸次少なくするということを理論的に結びつけると、委員のおっしゃるようなことが十分考えられるわけでございます。ただ、もちろんゼロになし得ないという委員の御指摘もそのとおりでございまして、理念としては少なくしていこう、こういうことだろうと思います。
  260. 安倍基雄

    ○安倍(基)委員 これからいろいろ法案の議論をするときにこれは非常に大事な話ですから、今のテンポラリー、当分の間というのが漸減規定の答申に置きかわったという話は、むしろ実効性を高める意味で漸減規定になったのではあるまいかな。私は、これはちょっと大臣もこの辺、議論の話はテクニカルではありますけれども、漸減規定についての答申がなされた背景には、これはゼロにはできないにしても基本的にはテンポラリーであるということがあるのではないかと思いますけれども、どうお考えですか。
  261. 林田悠紀夫

    ○林田国務大臣 確かにテンポラリーということが根本にありまして、そして漸減をしていこう、やはり現実を考えてみると直ちになくするということもできない、したがって漸減でやっていこう、こういうことだと存じております。
  262. 安倍基雄

    ○安倍(基)委員 基礎的な、今の漸減規定についての議論は大体その辺にしようと思います。  あと時間もございませんから、参考までに拘置所関係の予算の推移、増設、新設状況、拘置されている人数と看守の数などの推移をちょっと教えていただきたいと思います。
  263. 河上和雄

    河上政府委員 まず、拘置所における被勾留者の数とかあるいは拘置所に勤務する刑務官の数から申し上げますと、被告人及び被疑者の一日平均収容人員は昭和五十三年において八千八百七十二名でございました。その後、年ごとに若干の増減がありますが、大体九千人前後で推移しております。昭和六十二年の一日当たりの平均収容人員は八千九百四十四名となっております。  また、これに対する刑務官の定員数は昭和五十三年、十年前でございますが、一万四千七百十六人で、若干ずつ増加しておりまして、現在は一万四千八百七十八人でございます。  なお、拘置所は現在七施設、拘置支所は百八施設、拘置所だけに勤務する職員が現在三千七百十五人でございます。現在、収容定員に対する収容率は、高いところでは七〇%近くでございますが、低いところでは三〇%台といったような状況になっております。
  264. 安倍基雄

    ○安倍(基)委員 もう時間もございませんからそろそろ終わりますが、本当に大臣、最初に取り上げた外国人労働者というのは労働市場にも大きな影響があるのです。将来の犯罪にも大きな影響があるのです。そうですね。まさに法務大臣の一番の、何も来た人間が悪いことするとは言いませんけれども、要するに生活的に低賃金で来ればそれなりのあつれきを生じる。アメリカ社会というのは非常に人種のるつぼですが、日本社会というのは今までそういうことは少なかったですから。  それで、今の留学生、本当に僕は外務省の皆さんにも一遍言いたいと思うのだけれども、金ができたから何万人の留学生を持つんだなんてとんでもない。そんな必要ないのですよ、はっきり言って。それは要するによく選抜した留学生を連れてきて、それを将来のいわば本当の親日家にすべきなのであって、さっきのように人数をふやせば必ず不平分子もできてくる。しかも、特にこれは文部省の関係でしょうけれども、例えば日本に来てPhDとかいう学位がほとんど取れないのですね。それは何も出す必要はないのですよ。日本にも少ないのです。  ところが国際社会にいきますと、そういったものが取れるか取れないかというのが非常に問題になるわけです。だからアメリカあたりに行ってどんどん学位を取っていって、自分の国ではリーダー格になってしまっているわけです。日本に来るのは金もうけのために来て、それを送って帰ってというような話であると、まさに日本が本当に、大勢ふやせばふやすほどばかにされてしまうだけなんです。その辺がまさに日本の外務省もおかしい、労働省もおかしい、文部省もおかしい、法務省もおかしい、みんなおかしいのです。  これは大問題なので、それを今まで、しかもさっき法務大臣は、単純労働はだめだ、ほかはいい。じゃ、もっともっと単純労働も入れたい、単純労働を入れるか入れないかというのも、これもある程度は仕方ないとしても、これから大問題なんですよ。日本の雇用をどうするか。今空洞化になっていく。確かに人間もまた減ってきますが、それはそれなりに労働市場も圧迫するわけですよ。労働界も含めてこの論議をせねばいかぬです。  だから、もう時間もございませんから、今私が取り上げた問題、たまたま新聞を見ますと、上海なんかではもっともっとビザを出すべきだなんという論調ばかり出ているわけです。逆ですよ。ビザはむしろ、当然そんな変な連中が先に金を取ったら取ったのが悪いので、そんな者は告発してもいいのですよ、逆に言えば。上海との間で何万人のビザを出すというのはとんでもない話ですよ。外務省によく言ってください。法務大臣どうですか、決意を表明してください。
  265. 林田悠紀夫

    ○林田国務大臣 観光の名をかりまして日本へ入ってまいりまして、単純労働に従事する、これが非常に多いわけです。それでこれを水際で、空港とかあるいは海港で防いで、あるいはまた摘発をして送り帰しておる、そういう状況なのでございます。一方におきましては、今おっしゃいましたようにこういうものを自由化すべきだというような意見さえ吐く人たちが相当数おることも事実でございまして、これは我が国としてこれからいかになすべきかということが非常に大きな問題だと考えております。
  266. 安倍基雄

    ○安倍(基)委員 ちょっとおかしいな。時間も来ましたけれども、自由化すべきだという御議論ですか、大臣は。ちょっとその辺が、これは本当によほど議論をしなければいけない話なんですよ。それは外務省が若干、ある程度そういったことで外にいい顔をしようという話もあるかもしれません。しかし、これは労働界にとっても大事な話、社会にとっても大事な話。それは外務省としてもある程度人間を、じゃ日本だってどんどん、つまり労働の人口の移動の自由、これは最後までよほど考えなくてはいけない話なんですよ。であるから、むしろ今のことだけであったら、そう言っちゃ思いけれども皆さんそれほど見識もなさそうだから、ほかの、外部のいわば学識経験者も入れて徹底的に論議すべき問題ですよ。  でありますから、もう時間もないからまた改めていつかやりますけれども、やはり閣議でも取り上げ、また特別の調査会なり委員会なりで検討してもいいと思います。それには労働界も含め、いろいろな人間を含めて長期間かけて論議すべき問題ですよ。ですから大臣に聞いたら、何か今自由化すべきだという議論も出ていると言う。それはいろいろな議論があると思いますけれども大臣がそんなお考えだったらちょっと問題なんですね、実際のところ。これはちょっと言っておしまいですからまた改めて。次の人の時間を余りとっちゃいけませんから、ではおしまいにします。
  267. 戸沢政方

    戸沢委員長 安藤巖君。
  268. 安藤巖

    ○安藤委員 本法案につきましては多岐にわたって議論をしたいというふうに思っておるわ的けです。きょうは国際的な問題についてまず議論をしてみたい、お尋ねをしたいというふうに思います。  まず最初に、国際法曹委員会が行いました一九五九年のいわゆるデリー宣言というのがあるのですが、これは法務省の方は御存じですね。
  269. 河上和雄

    河上政府委員 一九五九年の一月のものでございましょうか。――知っております。
  270. 安藤巖

    ○安藤委員 ここで決議が行われたわけですが、このときの日本からの出席者はどういうような方々でしたか。
  271. 河上和雄

    河上政府委員 現在東大の教授じゃないかと思いますが、平野先生だと思います。
  272. 安藤巖

    ○安藤委員 私がいろいろ聞いたところによりますと、四つの部会があって、今おっしゃった平野龍一先生を初め、その当時の前日弁連会長の水野東太郎先生ら、それから裁判所からも松田二郎判事らも出席をされたというふうに聞いておるのですが、これだけの顔ぶれを見ますと、いろいろの代表の方だというふうに思うのですが、これは政府の代表として行かれたわけですか、あるいはそうじゃなくて日本の法曹界の代表として行かれたのか、どういう格好たったんでしょうか。
  273. 河上和雄

    河上政府委員 政府の代表ではなかったと理解しておりますが、明確にはわかりかねます。
  274. 安藤巖

    ○安藤委員 どうも私も政府の代表としては、ちょっと顔ぶれから見ると違うのじゃないかなという気がしまずが、日本の法曹界を代表して行かれた方々だというふうには理解できると思うのです。  そこで、この国際法曹委員会会議で第三部会というところで「刑事訴訟と法の支配」という題について議論がなされたというふうに聞いておりますが、そのとおりですか。
  275. 河上和雄

    河上政府委員 第三部会、おっしゃるとおりだと思います。
  276. 安藤巖

    ○安藤委員 この部会で十一項目の決議がなされたというふうに聞いております。それがいわゆるデリー宣言というふうにして発表されたと聞いておるのですが、この宣言は、逮捕され、そして身柄を拘束された人の人権を守るための最低限の保障、これを定めたものというふうに理解しておりますが、法務省もそういうふうに理解しておりますか。
  277. 河上和雄

    河上政府委員 国際法曹委員会という会議で十一の項目が決議され、今委員指摘のような内容のものが入っていたということは理解いたしております。
  278. 安藤巖

    ○安藤委員 この十一項目のうちの全部をいろいろ議論しておる時間的な余裕がありませんので、ポイントのところだけお尋ねをしたいというふうに思います。このうちの第三項、これは逮捕に関するものでありまして、逮捕の権限の、これは厳格な法律による規制及び逮捕された者の扱い、逮捕された者の権利について述べられておるわけですが、そのうちの括弧の四、これは四号になるわけですが、これには、「逮捕された者は、法の定めるできるだけ短い期間に司法官憲のところに引置しなければならない。」こういうふうになっておるのですが、これは間違いありませんか。
  279. 河上和雄

    河上政府委員 そういう決議が出されたと承知しております。
  280. 安藤巖

    ○安藤委員 これはお尋ねするまでもないと思うのですが、先ほど言いました中の「司法官憲」というのは裁判官のことだというふうに理解していいと思うのですが、いいですね。
  281. 河上和雄

    河上政府委員 この法曹委員会のお考えというのは、常識的に考えて委員のおっしゃるとおりだろうと思います。
  282. 安藤巖

    ○安藤委員 ところで、「できるだけ短い期間に司法官憲のところに」云々という、この「できるだけ短い期間に」というのは、二十四時間あるいは四十八時間というふうに規定ぜよという強い要求があったというふうに聞いておるのですが、そういうことは知ってみえますか。
  283. 河上和雄

    河上政府委員 この会議に出席されました平野教授がお書きになっているところによると、「二十四時間とするのは厳格すぎるし、四十八時間は長すぎる。」というようなことをお書きになっているようでございます。
  284. 安藤巖

    ○安藤委員 今お答えいただいたような議論があって、結局できるだけ早い期間にというふうに決まったようですが、日本の刑事訴訟をこの関係で見てみますと七十二時間。そういう議論を踏まえて考えてみると、私も日本のケース、これは長いなという印象を受けたのですが、ちょっと長過ぎるというふうには考え事せんか。
  285. 河上和雄

    河上政府委員 刑事訴訟法の解釈でございまして、どうも矯正局長からお答えするのが適当かどうかと思いますので、刑事局の方から答えていただきたいと思います。
  286. 東條伸一郎

    ○東條政府委員 お答え申し上げます。  一概に何時間をもって長い、短いというのは、各国のそれぞれの法制ないしいかなる形で捜査を行い、いかなる証拠が要求されるかというようなことからもいろいろ問題がございますので、日本の刑事訴訟法の七十二時間というものが、これはこの基準が拘束力を持つものと私どもは考えておりませんけれども、それに照らして異常に長いというふうには考えておりません。
  287. 安藤巖

    ○安藤委員 その問題につきましては、後ほど時間があれば十分議論をしなければならぬことだと思うのですが、私が言うておりますのは、今の会議でそういう議論があった、二十四時間では厳格過ぎるし、四十八時間では長過ぎる。四十八時間で長過ぎるというなら、七十二時間は物すごう長いことになるのじゃないか、こういうふうに思ったからお尋ねしたのですが、同じ第三項の五号、「司法官憲に引置された後の拘禁は警察に委ねてはならない。」こういうふうに述べられているのですが、そのとおり間違いありませんか。
  288. 河上和雄

    河上政府委員 そういう決議が出されているようでございます。
  289. 安藤巖

    ○安藤委員 この決議は、わかりやすく言うとどういうことですか。
  290. 河上和雄

    河上政府委員 わかりやすくといいましてもあれですが、要するに司法官憲、これは先ほど委員指摘のように裁判官、裁判所意味すると思いますが、に引致されて、要するにそのまま勾留するか否か、拘置するか否かを決めた後は警察の拘禁にゆだねてはならない、つまり警察の管理するところにゆだねてはならない、こういう趣旨だろうと思います。
  291. 安藤巖

    ○安藤委員 いや、ちょっとようわからぬですが、とにかく普通に言うと、裁判官のところへ連れていかれた被疑者は、さらに拘禁する場合、その拘禁は警察に任してはならぬ、こういうことでしょう、簡単に言うと。その「後の拘禁は警察に委ねてはならない。」こうなっておるわけですからぬ。だから、そういう趣旨からすると、いわゆる代用監獄というのは、裁判官の前へ連れていかれて勾留裁判を受けて勾留決定をされた被疑者が、また警察の留置場へ入れられる、代用監獄へ入れられるということになれば、警察にゆだねてはならないというこの宣言の趣旨を逸脱することになるのではないかと思うのですが、どうですか。
  292. 河上和雄

    河上政府委員 この国際法曹委員会のいわゆるデリー宣言の趣旨からは逸脱するだろうと思います。
  293. 安藤巖

    ○安藤委員 そこで、大臣、先ほどからもお尋ねしておるのですが、この宣言は被逮捕者の人権を守るための最低限の保障を決めたものだ、もちろん法的拘束力はありませんが、日本から裁判官も出席し、そして一流の学者、日弁連の前会長さん、いわゆる法曹界の代表の方々が参加して賛成をして決められたものですよ。となると、法的拘束力はないからいいんだと計って無視するわけにはいかぬと思うのですが、やはりこれは尊重すべきではないかと思うのですが、大臣、どうですか。
  294. 林田悠紀夫

    ○林田国務大臣 今回の改正法案におきましては、そういうデリー宣言とか、あるいはハンブルク決議とか尊重しながらやっておると言っていいのじゃないかと思うのです。  と申しまするのは、この代用監獄制度は、論理必然的に人権侵害をもたらすものではなくて、さらに刑事施設法案では警察の留置施設に代替収容される者の権利義務に関する事項については、原則として刑事施設法の規定を適用するということにしておりまして、本来の刑事施設に収容される者との処遇の斉一性を図っておるのであります。  また、留置施設法案では、留置業務捜査等を完全に分離いたしまして、また執務時間外においても、管理運営上支障かない限り弁護人面会権を保障するなどの配慮もしておりまするなど、代用監獄制度は国際人権規約の諸規定に抵触をせずに国際化の理念に背くものではないのではないか、こういうふうに慎重に考えながらこれを規定してきておると言えるのじゃないかと思っておるのであります。
  295. 安藤巖

    ○安藤委員 ハンブルク決議の問題も後からお尋ねをいたしますが、ハンブルク決議、それからこのデリー宣言を尊重すると、しながらというふうにおっしゃるのですが、先ほど来お尋ねをしておりますように、裁判官の前へ一遍連れていったら後はもう警察に任せてはならぬ、こうなっておるのですよ。代用監獄はまさに裁判官の前へ連れていってから警察の留置場、代用監獄へ入れて警察に全部任せるのじゃないですか。ちっとも尊重していないですよ。本当に尊重されるということなら、代用監獄はもうやめるのだとこの際はっきりおっしゃれば、なるほど尊重されるのだなというふうに私も納得がいくのですが、尊重されていないじゃないですか、どうです。
  296. 河上和雄

    河上政府委員 理念として代用監獄制度あるいは代用監獄というものを全面的に今のままでいい、こういうふうに私ども考えているわけではございません。法制審議会の附帯要望事項にもございましたように、漸次減らしていけというふうにおっしゃっているわけでございますし、法制審議会の答申を受けて、私どもとしては法案をつくってその趣旨をできる限り生かしたいと思っておりますので、そういう意味では、やはり今大臣が答弁申し上げましたように、理念としてそれを正しいと言っているわけではございませんで、ただ、現実の問題として直ちにこれを廃止するということあるいは廃止することを宣言するということは、極めて困難であるという現実を我々としては考えざるを得ない、そういう現実に立って法案をつくっているわけでございます。
  297. 安藤巖

    ○安藤委員 現実は現実として、私、何も肯定するわけではないのですが、こんなものは一刻も早くなくすべきだと思っておるのですが、そういう理念を尊重する、そういう理念を踏まえるということになれば、現状はやむを得ぬけれども近い将来、さっき当分の間という話も出ましたが、近い将来、代用監獄はなくすのだ、これをきっぱりと据えていただかないとこのデリー宣言、ハンブルク決議を尊重するということにはならぬのではないかと思うのですよ。これはいろいろおっしゃろうと、今大臣がおっしゃったことは、後からお尋ねする予定ですが、国連の人権専門委員会へ人権規約、B規約に基づいて日本の政府が出した報告の検討会が行われたのですが、その報告そのものをおっしゃっただけで、その報告なるものがいかに事実と違うかということもこれからいろいろ議論をしたいと思うのですが、やはりそれを尊重するのだったら代用監獄をなくすのだ、現状は無理だけれども近い将来なくするのだ、これをはっきりしていただかなければいかぬと思うのです。  ハンブルク決議のことももう一遍お尋ねして念を押させていただきますが、一九七九年、昭和五十四年の九月にハンブルクで国際刑法学会第十二回大会が行われて、その第三分科会で決議が行われた。これがいわゆるハンブルク決議というふうに言われておるものですが、この第三部会では刑事手続における人権保障について議論がされた。そして決議がされたのですが、全部で九カ条のうち第七条が「逮捕・勾留」に関する決議で、そのe項には「何人も逮捕もしくは身柄拘束を受けた場合にはすみやかに裁判官ないしそれに代わる司法官憲のもとに引致され、被疑事実を告知されなければならない。右司法官憲のもとに出頭後においては被疑者は捜査官憲の拘束下に戻されてはならず、通常の刑務職員の拘束下に置かれなければならない。」こうなっておるのですね。デリー宣言と同じようなことなんですが、これは当然御承知だと思うのですが、これも先ほどのお話からすると、尊重するのだというふうに先ほど大臣はおっしゃったのですが、間違いないですね。
  298. 林田悠紀夫

    ○林田国務大臣 代用監獄はこれを漸減していくということでありまして、理想は代用監獄をなくするのが一番いいわけです。しかし、現実直ちになくすることはできないわけでありまして、既に今拘置所の方は、あるいは建てかえのときに収容力をずっとふやしてきておりまして、これも今後もふやしていく、そういうことによりまして今おっしゃいましたような趣旨に沿うように大いに努力をしていこう、尊重をしながらやっておるということでございます。
  299. 安藤巖

    ○安藤委員 私が申し上げておるのは、一つの考え方としては理想論、それは理想だけれども現実はこうだという論がまかり通れば、それは理想だけれども現実はこうだ、現実がいつまでも続く、こういうことになっていってしまうわけなんですよ。だから、理想とかいうことではなくて、国際的な法律の専門家が集まった国際会議で決議をされた、宣言が出された、それを尊重されるとおっしゃるのであれば、やはり理想論ではなくて、もちろん私もあと一年か二年先に全部なくせとまでは申し上げていないのです。近い将来において代用監獄はなくすのだ、こういう方向がぴしっと出されないと、大臣が尊重する尊重すると幾らおっしゃっても、あくまでもそれは理想であって、現実はずっとこれでいくのだということになってしまうのです。だから、尊重されるとおっしゃるなら、ああいいことをおっしゃったと私は今思ったのです。それならば代用監獄というのはやはり近い将来なくしていくのだ、そういう考えでおるのだというふうにおっしゃっていただかなかったら首尾一貫しない、こう思うのです。どうですか。
  300. 河上和雄

    河上政府委員 少しでも減らしていきたいという気持ちは持っておるわけでございます。ただ、結局今おっしゃった理想論と現実論に戻るわけでございますが、私現在矯正局を預かっておりまして、現在ある拘置所を建てかえるのでさえ実は大変四苦八苦して建てかえができない。建てかえに際して、どこかへ出ていってくれ、あるいはもうやめてくれということで、まして新しい拘置所をつくるということは全く不可能に近いような状況でございます。この近郊でも、私どもとしては何とか拘置所をつくりたいというところがたくさんございます。でも、市当局に話しても全然相手にされない。それはたとえ予算があったとしても相手にされない。近隣のいわば迷惑施設でございますから、すぐむしろ旗が立つ、そういったような現実を踏まえますと、その理念は理念として私どもはわかります。理想は理想としてわかるわけですが、この現状がどう変わるか、私どもとしては到底予測し得ないわけでございます。  あと、委員のおっしゃるように、近い将来、もし喜んで拘置所をどこでも受け入れてくれるという保証があるならば、あるいは私どもとしてもそういうことを理念に基づいて書くことができるかもしれまぜんが、現実は到底そういう状況でございません。やはり現実と理想との間をいわば揺れ動いているというようなことだろうかと思います。
  301. 安藤巖

    ○安藤委員 拘置所の移転の問題あるいは建設の問題等々につきましては私も幾つかの場所でまさにいろいろ協力をさせていただいた経験もあるのですが、まず、それはいろいろ問題があろうかと思いますが、住民の人たちに対する宣伝とか、今度はなかなかユニークなきれいな建物ということで、昔のいわゆる刑務所というような感じを持たせるようなものでないものをいろいろおつくりになっておられることも知っておりますから、それはやる気になって努力すれば私どもも一生懸命応援しますよ。それから予算の関係はやる気になるかならぬかの問題ですよ。警察の留置所は幾らでも新しいのをつくっておるじゃないですか。そのお金で拘置所をつくったらいいのですよ。それはあっちの方と省が違うのだから、そんなものの壁はぶち破るぐらいのことを考えなければいかぬと思うのですよ。だから、それはもう本気になって考えていただかなくちゃいかぬ。  いいですか、このハンブルクの会議が行われたときに、そういう今読み上げましたような決議がなされて、前に決議案が出されておるわけですよ。そのときに日本の代表、当時最高険の総務部長をやっておられた方、石原一彦さん、それから高松高険に行っておられるのですが、この人がそんなことされたらかなわぬと反対の演説をやっておるのですよ。それで、日本の代表の弁護士の人は五十嵐二葉さんだというふうに伺っておるのですが、賛成のスピーチをした。採決をとった。圧倒的多数でこの決議案が採択をされたわけですよ。表決されたのです。日本の代表の反対討論は全然ペケだったのですよ。だから、こういうことからしても、日本はこういう刑事司法の問題で人権保障の関係で全然孤立していますよ。この代用監獄というものがあるということで、しかもそれを温存させるということで孤立しているのですよ。そういうような点はきちっと踏まえなければいかぬと思うのですが、どうですか。
  302. 河上和雄

    河上政府委員 石原元検事長がそういうことで主張されて、その説が否決されたということは承知いたしております。  それから、国際的なこの種の会議は、デリー宣言もハンブルク決議も、これは先ほど委員指摘のように拘束力のない、いわば私的な任意団体による決議ではありますけれども、いわゆる西欧先進諸国、とりわけアングロアメリカンローの系統ではこの手の考え方が一般的であるということは私どもも十分承知しております。理念としてそれを私どもとして否定するわけではございませんで、ただ我々は現実というものを考えて対処せざるを得ないわけでございまして、現実からはなかなか困難なところがある、そういうことでございます。
  303. 安藤巖

    ○安藤委員 拘束力はないけれども尊重するんだというふうにおっしゃるのだけれども、現実の問題としては代用監獄をずっと認めていくというのは、現在刑事施設法案、留置施設法案を提案してみえておるわけですから、これは尊重している立場とは絶対言えないと思いますよ。本当に世界で孤立しますよ。だからその辺のところをしっかり考えていただきたいと思うのです。ここで、中京大学だったと思うのですが庭山教授がいろいろやったという話もあるのですが、時間の関係もあるので、尊重するというふうにおっしゃりながら違うことをやっているという点は、これはだめだということを強調して、次に移りたいと思うのです。  そこで、国際人権現約のいわゆるB規約の九条三項、いろいろ問題のあるやつです。これは私があれこれ申し上げるまでもなく、書いてあるのですが、念のために、いいですか、大臣もよく聞いておってくださいよ。「刑事上の罪に問われて逮補され又は抑留された者は、裁判官又は司法権を行使することが法律によって認められている他の官憲の面前に速やかに連れて行かれるものとし、妥当な期間内に裁判を受ける権利」云々というふうになっておるのです。これもやはり速やかに裁判官の前に連れていかれるものとしというふうになっておるのです。これは日本もきちっと批准をしている国際人権規約、拘束されるのですよ。だから、この条項はどういうふうに読んでおられるわけですか。
  304. 国枝昌樹

    ○国枝説明員 委員指摘の点につきましては、この規定は、刑事上の罪による逮捕または勾留は司法のコントロールのもとに置かれなければならないということを意味しているというふうに理解しております。
  305. 安藤巖

    ○安藤委員 いや、だから、「裁判官又は」云々ということもありますけれども、簡単に言えば裁判官の面前に速やかに連れていかれなければならぬ、コントロールを受けなければならぬ、こういうことですね。  そこで、この「連れて行かれる」というのは、英語で言うとこれはたしかブリング、BRINGという言葉が使われているというふうに私は記憶しておるのですが、そうですね。
  306. 国枝昌樹

    ○国枝説明員 大変恐縮でございますが、英語の資料をきょうは持ち合わせてございませんので、必要ならば後刻御報告させていただきたいと思います。
  307. 安藤巖

    ○安藤委員 私が見たところではブリングと書いてあるのです。これは間違いないです。後で調べていただけばいいのですが。そこで、私もいろいろ勉強したのですが、ブリングというのは、持ってくるとか連れてくるとか普通字引に書いてあります。  この関係で、ヨーロッパ人権条約、これは一九五〇年十一月四日に署名がされて、一九五三年九月三日に効力が発生しておるのですが、この第五条第三項、これも「逮捕又は拘禁された者は何人も、速やかに裁判官又は司法権の行使を法律によって許された他の官吏に引き渡され、」こうなっておるのですね。  そして米州人権条約、これは一九六九年十一月二十二日に署名されたものですが、この第七条五項、これによりますと、「拘禁された者は何人も、速やかに裁判官又は司法権の行使を法律によって許された他の官吏に引き渡され、」こうなっておるのです。 私が資料にしているのは有信堂発行の「国際人権条約・資料集」、芹田健太郎さんという人が編集したものの訳です。これも「引き渡され、」というところはブリングというふうに書いてあるのです。となると、裁判官の前へ「連れて行かれる」というふうに国際人権規約B規約の九条三項は書いてあるのですが、それもブリング。ヨーロッパ人権条約あるいは米州人権条約、これはやはり「引き渡され、」というのが引致されるブリングの中身だということがきちっと言われておるわけなんです。引き渡すということは、連れていって、そしてまた警察が連れてくるというのではないのですよ。裁判官にもう引き渡してしまうのですよ。だから、そういうことからすると、どう考えてもこの代用監獄というのは、国際人権B規約、日本の政府が拘束されるこの条約からしても、代用監獄というのは違反をしている。これはもうはっきりしておると思うのですよ。だから、現実はああだこうだの問題ではないのですよ。そういう現実が、違反しておる状況が今、日本ではつくられている、そして新しい法案を出している、またその状況を継続させようとしている、これはもってのほかだと思うのです。  大臣、今私は国際人権規約B規約の九条三項の問題について、日本の政府が拘束される問題について、代用監獄というのはそれに違反をしているということを申し上げておるのですよ。代用監獄をなくするということを明言されない限り、国際人権B規約に違反するのではないかと思うのですけれども、どうですか。
  308. 河上和雄

    河上政府委員 国際人権規約B規約の九条三項、原文はブリングではありませんが、ブリングの受け身形で書かれておりまして、「Anyone arrested or detained on a criminal charge shall be brought promptly before a judge or other officer authorized by law to exercise judicial power and shall be entitled to trial within a reasonable time or to release.」こういうふうに書いております。  これは訳文では、「刑事上の罪に問われて逮捕され又は抑留された者は、裁判官又は司法権を行使することが法律によって認められている他の官憲の面前に速やかに連れて行かれるものとし、妥当な期間内に裁判を受ける権利又は釈放される権利を有する。」これだけ書いているわけでございまして、そのままディテインされる、つまり抑留されるということを禁ずる趣旨ではございません。事実、その後に「裁判に付される者を抑留することが原則であってはならず、釈放に当たっては、裁判その他の司法上の手続のすべての段階における出頭及び必要な場合における判決の執行のための出頭が保証されることを条件とすることができる。」確かに原則にしてはならぬと言っておりますが、抑留するということを前提にしているわけでございまして、抑留する場所はどこであるかについては何ら触れていないわけでございまして、私ども法案がこの人権B規約九条に違反するとは思っておりません。
  309. 安藤巖

    ○安藤委員 その問題についてはさらに相当細かく議論をする必要があると思うのですが、私は今までヨーロッパ人権条約、それから米州人権条約等々も引用しながら、引き渡されなければならない。それから、先ほどのデリー宣言、ハンブルク決議等々からすれば、やはり国際的な刑事司法手続の原則というのは、裁判官の前へ連れていったらもう捜査官、警察の手にゆだねてはならない、これを踏まえて国際人権現約B規約もできておると思うのです。それはもう間違いない動きだと思うのです。常識だと思うのですよ。だから、そういうようなのを尊重するとおっしゃりながら、その人権B規約は今の代用監獄を認めておるのだと いうようなことだとすれば、これは大問題だと思うのですが、そういう考えですか。
  310. 河上和雄

    河上政府委員 まず、委員がおっしゃいますブリング、ブロートでございますが、もう裁判官にそのままゆだねてしまうという趣旨ではないようでございまして、日本語の方の訳にもありますように、連れていく、連れていって、要するに勾留の可否を決めるということでございますから、ゆだねるということではないようでございます。  それから、この人権B規約の解釈に当たって、確かに委員おっしゃるような解釈をとる方がいらっしゃることは私どもも十分承知しております。ただ、この九条の三項の解釈からは、どう見てもそういった後で警察にゆだねることがいかぬということは出てこない。これは例えば委員がおっしゃいましたデリー宣言あるいはハンブルク決議のように、本来そういうものであれば明確に国際条約というものは書くはずのものでございまして、それが書かれていないということは、そういうものを意味していないと私どもは解釈しているわけでございます。
  311. 安藤巖

    ○安藤委員 そうなると、やはり庭山教授の話もやらなければいかぬことになりますな。  先ほどのハンブルク決議の関係につきまして、先ほど言いましたような決議がなされておるわけです。この決議の関係につきましては、先ほど言いましたように、九項のうちの第七項のeというところを先ほど私が読み上げたのですが、「何人も逮捕もしくは身柄拘束を受けた場合にはすみやかに裁判官ないしそれに代わる司法官憲のもとに引致され、被疑事実を告知されなければならない。」最初はこうだったのですよね。ところが、出席をしていた庭山教授が、日本の代用監獄の実態を念頭に置いて、その後の決議になっておるのですが、「右司法官憲のもとに出頭後においては被疑者は捜査官憲の拘束下に戻されてはならず、通常の刑務職員の拘束下に置かれなければならない。」こういうことを追加しろということを庭山教授が提案をしたわけなんですね。  そうしたらヨーロッパの代表が、なぜそういうことを入れなきゃならぬのか、そんなことは当然入っておるではないか、前の文章の中にも当然入っておるではないか、そういう文句を入れたら入れていないほかの国際文書、これは条約も含めての話だと思うのですが、ほかの国際文書がそういう意味を持たないように解釈されるおそれがあるから、そういうのは入れぬ方がいいんだという議論があったらしいのですが、結局前段の文章の中に入っておるけれども、今言いましたように、「被疑者は捜査官憲の拘束下に戻されてはならず、」云々というのが確認のために入れられた、こういう経過があるのですが、知っておりますか。
  312. 河上和雄

    河上政府委員 その辺の細かな経過は存じ上げておりません。
  313. 安藤巖

    ○安藤委員 そういうような経過を踏まえてこのハンブルク決議というのがなされておるのですよ。  となると、この国際人権B規約にはそんなことまでは書いてないんだとおっしゃるけれども、その中に当然捜査官憲にまた戻されてはならぬのだということは入っておるのだというのが国際的な刑事司法の常識になっておる。というのは、今言いましたように、庭山教授の提案に対してヨーロッパの代表が言うた言葉によっても、これは象徴的にあらわれておると思うのですよ。だから、今おっしゃったような人権規約B規約にそんなことまで書いてないというのは私は詭弁だと思うのですよ。だから、その辺のところはしっかりと踏まえていただきたいというふうに思います。  そこで、時間がなくなってしまったのですが、私はその次には、ことしの七月に――これから外務省の方にせっかく来ていただいたので大いにお答えいただこうと思っておったのですが、またほかの機会にやります。だから、ここで時間の許す限りこの問題についてお尋ねをしたいと思うのですが、これは、この国際人権規約B規約の四十条に基づいて、そのB規約の実施状況はどうだろうか、その条約に合致したことを行っているかどうかということについて日本の政府が報告書を出した、その報告書に対する検討がなされたわけなんですね。この報告は第二回目で、第一回目は一九八〇年になされておるわけですね。その第一回目のときになされたのは、だから翌一九八一年に行われたのですけれども、このときは代用監獄の問題については特別議論にはならなかったのですか。
  314. 国枝昌樹

    ○国枝説明員 議論になったとは記憶しておりません。
  315. 安藤巖

    ○安藤委員 いろいろ調べたり聞いたところによりますと、おっしゃるように特別議論にならなかったようなんです。というのは、今回の第二回目の日本政府の報告もそうなんですけれども憲法刑事訴訟法の条文をぱあっと並べただけで、こうなっておりますと。だから、第一回目のときもやはり憲法刑事訴訟法の条文をぱあっと並べて、そこで抽象的で建前論だというような批判は浴びたそうなんです。しかし今回のような批判というのは受けなかったということなんですが、そういう批判を浴びたということは知っておりますか。
  316. 国枝昌樹

    ○国枝説明員 今回の第二回の報告につきまして人権規約委員会委員の方からは、前回一回目の報告及びそのときに出された議論を踏まえてつくったということで評価された上に審議をされたというふうに私ども理解しております。
  317. 安藤巖

    ○安藤委員 だから、私が今申し上げましたような批判はなかったみたいな格好に持っていきたいということのようですが、これも事実として、そういう批判を受けたということを私は聞いております。  ところで、この第二回目の日本政府の報告書というのは主としてどこがつくったのですか。
  318. 国枝昌樹

    ○国枝説明員 政府としてつくりました。
  319. 安藤巖

    ○安藤委員 政府としてに決まっておるのですよ、そんなことは。政府としておつくりになったその報告書は、どこが中心になっておつくりになったかというのです、各省として。法務省なのか、外務省なのかということをお尋ねしておるのです。
  320. 国枝昌樹

    ○国枝説明員 関係省庁はこれはたくさんございますものですから、その関係省庁とともに十分協議をいたしまして作成したものでございます。
  321. 安藤巖

    ○安藤委員 その報告書を作成するに当たって、最高裁判所あるいは日本弁護士連合会、さらには学者の方々、その他市民団体等々からの意見はお聞きにはならなかったのでしょうか。
  322. 国枝昌樹

    ○国枝説明員 これは日本政府として責任を持ってつくって提出したものでございます。
  323. 安藤巖

    ○安藤委員 だから意見を聞かなかったということだというふうに思うのですが、この報告書を出すについて日本以外の外国では、その報告書作成に当たっては、NGOといいますか、非政府組織、日本弁護士連合会もそれに入るのですが、そういう人たちからしっかり意見を聞いて、そして実態はこうだというのを把握して、そして報告を出す。まあ中には、報告書を出すについては、そういういろいろなところの意見を聞いて、早速悪いところは改めて、そしてこういうふうに改めた結果に基づいて、こうなっておりますというふうにいい格好をする国もあるという話は聞いておりますけれども、人権規約が日本においてどういうふうに実施されておるのか、警察の留置場で被疑者の人たちがどういう目に遭っているのか、弁護人の接見がどういうふうに拒否され、妨害されておるのか、それに対してどういう不満があるのか、冤罪事件はどういうふうにして発生しておるのか等々については、日本でその条約がこういうふうに行われておりますということを言う以上は、実際その面にタッチしておる人たち、あるいはそれについて調査研究し、いろいろ意見を持っておられる人たち、こういう人たちの意見を聞くべきだと思うのです。日本以外の諸外国はほとんどそうやってNGO関係の意見を聞いて、そして報告書を出しておるというふうに伺っておるのですが、そうじゃないですか。
  324. 国枝昌樹

    ○国枝説明員 その点につきましては、各国とも政府が政府としての責任において作成して提出しておると認識しておりまして、事前にNGOと協議の上作成して提出しているという例はほとんどないというふうに承知しております。
  325. 安藤巖

    ○安藤委員 それならそれで、また私の方もしっかり調べる材料ができて非常にうれしいです。そういう点はまた調べ上げて、きちっとお尋ねしたいと思います。  そこで、日本の政府が出した報告書についてちょっと、時間のある限り触れたいと思うのです。  これは政府からいただいたものですが、ここで二十一ページの終わりの方から、   なお、監獄法は、一九〇八年に制定されたものであり、政府は、最近における刑事政策思想の発展の状況に鑑みて、刑事施設の被収容者のより適切な処遇を行うため、受刑者について、その資質及び環境に応じた計画的な処遇を行うこととし、 云々とあって、  監獄法を全面改正する刑事施設法案に取り組んでいるところである。   また、政府は、都道府県警察が管理運営する留置施設における被留置者の処遇に関する規定整備する等を目的として、留置施設法案にも取り組んでいるところである。 こうあるわけです。先ほど来私が問題にしております、裁判官の面前に引致された人を、被留置者を処遇する都道府県警察が管理運営する留置施設にもう一遍連れてきて留置する、こういう制度が全面改正する刑事施設法案に盛り込まれておるんだということは何で書かなかったのですか。正直じゃないと思うんですよ。
  326. 河上和雄

    河上政府委員 私どもの人権B規約の解釈が委員の解釈と違うわけでございます。したがいまして、そういうものを書かなかったというか、刑事施設法案の限りでは、特にここで書きましたのは、刑事政策思想の変遷に伴う受刑者処遇が中心でございますからそれを書いたわけでございまして、その点についてはあえて触れなかったということでございます。  それから後の方、これはそれぞれ先ほど国枝課長の方から御説明ございましたが、私どもだけではなく、いろいろな関係の省庁の文書のいわば寄せ集めといいますか、でございますから、それぞれ所管の部分についてはまた私どもとしてお答えしかねるということでございます。
  327. 安藤巖

    ○安藤委員 時間が来ましたからもう一言だけ、済みません。
  328. 戸沢政方

    戸沢委員長 安藤君、もう時間を過ぎていますから終わらせてください。
  329. 安藤巖

    ○安藤委員 人権規約のB規約に代用監獄が違反しているのだと思わないと先ほどおっしゃったのですが、それなら堂々と書くべきだと思うのですよ。ちゃんとB規約に従ってこうやって代用監獄を設けてやっております、新しい刑事施設法案でもこういうふうにやるのですと堂々と書いたらどうだと思うのですが、その答弁をいただいて、私の本日の質問は終わります。どうです。
  330. 河上和雄

    河上政府委員 そういうものを書く書かない、いろいろな考え方があると思いますけれども、私どもとしては、主として受刑者の処遇を中心にして考えている法案でございますから書かなかったということでございます。
  331. 安藤巖

    ○安藤委員 時間が来ましたから、これで終わります。
  332. 戸沢政方

    戸沢委員長 次回は、公報をもってお知らせすることとし、本日は、これにて散会いたします。     午後五時一分散会