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1988-03-22 第112回国会 参議院 予算委員会公聴会 第1号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和六十三年三月二十二日(火曜日)    午前十時開会     ─────────────    委員の異動  三月十九日     辞任         補欠選任      小野 清子君     中曽根弘文君      佐藤謙一郎君     野沢 太三君      斎藤 文夫君     石本  茂君      田辺 哲夫君     梶木 又三君      出口 廣光君     坂野 重信君      永野 茂門君     坂元 親男君      宮崎 秀樹君     中西 一郎君      稲村 稔夫君     秋山 長造君      小川 仁一君     中村  哲君      神谷信之助君     内藤  功君     ─────────────   出席者は左のとおり。     委員長         原 文兵衛君     理 事                 伊江 朝雄君                大河原太一郎君                 小島 静馬君                 林  ゆう君                 吉川 芳男君                 久保  亘君                 矢原 秀男君                 吉川 春子君                 三治 重信君     委 員                 石井 道子君                 石本  茂君                 岩上 二郎君                 梶木 又三君                 金丸 三郎君                 北  修二君                 工藤万砂美君                 坂野 重信君                 志村 哲良君                 下稲葉耕吉君                 中曽根弘文君                 中西 一郎君                 永田 良雄君                 野沢 太三君                 林 健太郎君                 降矢 敬義君                 増岡 康治君                 松岡滿壽男君                 秋山 長造君                 大木 正吾君                 千葉 景子君                 中村  哲君                 野田  哲君                 安恒 良一君                 及川 順郎君                 広中和歌子君                 和田 教美君                 近藤 忠孝君                 内藤  功君                 勝木 健司君                 秋山  肇君                 青島 幸男君                 青木  茂君    政府委員        大蔵政務次官   佐藤栄佐久君        大蔵省主計局次        長        篠沢 恭助君        大蔵省主計局次        長        寺村 信行君        農林水産政務次        官        吉川  博君    事務局側        常任委員会専門        員        宮下 忠安君    公述人        東京大学教授   伊藤  滋君        姫路獨協大学教        授        井下田 猛君        東京銀行会長   柏木 雄介君        中央大学教授   富岡 幸雄君        早稲田大学教授  北村  実君        青山学院大学教        授        原   豊君     ─────────────   本日の会議に付した案件 ○昭和六十三年度一般会計予算内閣提出衆議院送付) ○昭和六十三年度特別会計予算内閣提出衆議院送付) ○昭和六十三年度政府関係機関予算内閣提出衆議院送付)     ─────────────
  2. 原文兵衛

    委員長原文兵衛君) 予算委員会公聴会を開会いたします。  昭和六十三年度一般会計予算昭和六十三年度特別会計予算昭和六十三年度政府関係機関予算、以上三案を一括して議題といたします。  本日は、昭和六十三年度予算三案について、お手元の名簿の六名の公述人の方々からそれぞれの項目について御意見を拝聴いたします。  一言ごあいさつを申し上げます。  伊藤公述人井下田公述人におかれましては、御多用中にもかかわりませず本委員会のために御出席を賜りまして、まことにありがとうございます。委員会を代表いたしまして心から厚くお礼を申し上げます。  本日は忌憚のない御意見を承りまして今後の審査の参考にしてまいりたいと存じますので、どうかよろしくお願いいたします。  次に、会議の進め方について申し上げます。  まず、お一人二十分程度の御意見を順次お述べいただきまして、その後委員の質疑にお答えいただきたいと存じます。  それでは、これより順次御意見を承りたいと存じます。  まず、国土利用土地問題につきまして伊藤公述人にお願いいたします。東京大学教授伊藤滋君。
  3. 伊藤滋

    公述人伊藤滋君) 御紹介いただきました伊藤でございます。国土利用土地問題について私の意見を述べよということでございますので、これからしばらくお時間を使わせていただきたいと思います。  御存じのように、日本国土世界の中でも狭い方でございます。約三十六、七万平方キロでございますが、そこの中で、三十六、七万平方キロが全部使えればいいんですが、三分の二ぐらいは御存じのように山でございます。この山も大変実は急峻な山でございまして、その山を林業の方が施業するのも大変苦労をされておりまして、この点はヨーロッパやアメリカやカナダの森林地帯と違うわけです。それから、地形的に申しますと水田が多いわけでございますけれども、水田、畑につきましても、日本国自体が大変まだ地形的に地質学的に安定している国土ではございません。常に造山運動を繰り返しておりますから、川の流れも厳しくて、かなり紆余曲折した川でございますので、そういう点で畑も水田も、これも大変農業の形状は国際的に見ましても苦労の多いところでございます。そういうふうに、実は国土利用と申しましても、日本人は当たり前に森林を経営し、水田を経営しているわけでございますけれども、実は相当これは苦労しながら積み上げてきた国土であると思っております。  しかし、これも私率直に申しますと、私たち日本人は一生懸命働くのがもう習い性になっておりますので、例えば日本森林面積先ほど三十七万平方キロの三分の二ぐらいと言いましたけれども、私記憶しておりますのはそこの中の約三分の一か四分の一、千万町歩は戦争前から現在までの間に一人一人の人間の手で木を植えていったところでございます。この木が実は今成長期に差しかかってきておりまして、御存じのように、人工的に木を植えるというのは木をすぐっていかないといい木が育ちません。そのために間伐をしなきゃいけないというんですが、この間伐をする人が大変少なくなってまいりまして、国際的にも価値のある森林資源を実は日本は持っておりますが、これが間伐ができないために、率直に言いますと、もやしのようになっておりまして役に立たなくなる危険性があるんです。  これは単に国際的な木材の貿易上の問題だけではございませんで、日本が将来これから二十年先、三十年先に貢献できる森林資源というのは数少ない材料だと私は思うんですけれども、それがどういうふうにして質のいい形になっていくかという問題が、実は日本国土の地形急峻な森林人工林のところで焦眉の急になっております。  こういう問題を国土利用としてどう解くかということが非常に頭の痛い問題でございますが、二年ほど前に、実は林政審議会の方で日本森林整備長期ビジョンをつくりました。そこの中である程度のまとめ方をしておりますが、私、専門委員として参加しておりましたのでそのときの議論を基本的にお話しいたしますと、地形急峻でありますけれども、やはりそこでいい木を育てるためには、林業現場へ行くのにとにかくいい道とかいいヘリコプターとか、そういう交通輸送手段整備しなければいけない。この交通輸送手段整備するお金というのは、率直に申しますと、東京で地下鉄をつくったりあるいは弾丸道路をつくるよりずっとお金のかからないもので質のいいものができるわけですが、こういうお金はなかなかうまく回ってまいりません。  そういう点で、私も実情をいろいろ伺いましたときに大変痛感しました。やはり森林地帯にも質のいい輸送手段を。これは必ずしも道路でなくてもいいかもしれません。このごろはヘリコプター集材なんというのもありますけれども、質のいい輸送手段を張りめぐらしていくということが、これが日本人の一生懸命勤勉努力する力と合わせていくことができれば、世界の模範であるドイツ林業にも匹敵するような優良な木材がつくれ、そして森林維持管理もできるんじゃないか、こういう話題一つございます。  それから水田の問題がございます。国土利用から申しますと、水田、畑の問題がございます。  水田は、御存じのようにお米の生産日本もこれ大変技術的にも時間をかけないでつくることができましたから、お米を生産し、それもなおかなりの反当たり高収生産性でつくることができましたので、お米に対する補助金は限度がありますから、休ませている休耕田がございます。こういう休耕田は実は大変頭の痛い問題でございまして、先ほどから私申しておりますが、日本の自然というのはほっぽっておきますと、豊葦原というのはまことにそのとおり日本の国を記述していると思うんですね。水田というのは、水の質がよくて大変肥料も入っているものでございますから、ほっぽっておきますと御存じのようにアシが生えて大変醜い状況になってまいります。  それから非常に重要なことは、昔は水田というのは裏作をやっておりました。私、子供のときには麦踏みなんかやりまして大変いい思い出がございますが、このごろの水田というのは裏作もなくて、水田国土景観に非常に役に立っているかというと、実はこれとんでもございませんで、五月から九月まで苗代から青い苗が移し植えられて稲の穂の頭が垂れて、それで刈り取るまでのたかが五カ月ぐらいでしょうか、それまではきれいなんですが、刈り取られた後は裏作もしないでそのままほっぽっておくという大変寒々とした景観になる。  ですから私は、国土利用の面から見ますと、水田というのは水を保全するのに大変重要な場所でございますが、それが単なるお米の生産という点から休耕田になっていることは大変おもしろくないと思っているんです。私の考えでは、なるべく休耕田を少なくしてお米の生産性、反当収入は少なくていいと思うんです。とにかく全面的に手を加えて、それで反当収入は少なくてもいいけれども、隅々までやはりある程度農業的土地利用がずっとしみ込んでいるというような国づくりにしてもらいたいと思うんですね。  私、農業専門家ではございませんけれども、かつて五、六年前にドイツ農業に詳しい技術者の人から聞いたんですが、御存じのようにECの中でフランスの農業が強いものですから、ドイツもやっぱり麦畑を休ませているところが多いようでございます。しかしドイツ人はある程度合理的でちゃんと考えていると思いましたのは、麦の反当収入を上げるんじゃなくて、反当収入は低くても麦畑をなるべく全部手が入るようにしよう、そういうふうにしてやはりつくられた、これは農業的土地利用というのは非常に私たちには自然的に見えますが、つくられた景観でございます、つくられた国土でございます。やはりそれをちゃんと維持管理するためにはそういうようなやり方があるんじゃないか。  一定の場所にだけ猛烈にお金と時間をかけて、そこで米や麦をつくって後ほっぽり出しにするよりも、薄く広く手をかけて、それで国土のいい維持管理をしていくことも非常に重要かと思うんですね。ですから、お米が反当収入幾らということより、私は水田一ヘクタール幾らと、実際に働いているところにそれなりお金補助金として与えて、それで維持管理隅々までいっているということが大変重要かと思います。  それから、これはまことに難しい問題でございますが、裏作がないということが冬の大変寒々しい国土利用をつくっているのでございます。裏作をすればそれだけ大変お金のかかる農作物ができて、また政府予算に大きい支障になるかもしれませんが、やはり一年十二カ月の中で国土利用から見ますと、水田面積というのは多分国土面積の一割くらいはあるんじゃないかと思います。ちょっとはっきりした数字は今記憶……。それが一番私たちの目に触れるところでございますから、こういうところで米をつくった後どういうふうに土地利用をして私たち一億二千万の国民の目に和やかに触れていくようにすることができるか。これは、だんだん豊かになってまいりますと、国の土地というのは、単に生産するだけの土地ではなくて、やはりいい美しい国土にしようということが大変私たちの重要な関心事になってまいりますから、そういう点では一つ問題提起をさせていただきたい。現在、私答えは持っておりませんが、何とかならないかと思っております。  それから、次は都市的土地利用でございます。  この都市的土地利用というのは、御存じのように大都市問題、東京を踏まえた一番人が多く住んでいるところでございますが、これもまた世界的に比較考察いたしますと、御存じのように国土面積でその国の全人口を割りますと、一番密度の高いのはオランダだということがよく言われておりますが、実は先ほど申し上げました森林を除いて、それを除いた畑と水田都市的土地利用面積日本の全国民一億二千万を割ると、多分この人口密度世界で一番ずば抜けて高いところだと思います。そういうところで世界で一番一人当たり国民所得が高くなった、こういうような経済活動が営まれておりますのですから、率直なところ、この都市的土地利用が、皆様方に私たちもよく言うんですが、イギリスのロンドンはこうなったとかパリはこうであるとか、あるいはドイツ地方都市に行くとこんなにきれいだというような形のきれいな感じで維持することはできないと思うんです。  これも私重要なことだと思っておりますのは、ヨーロッパの国と申しますのは、今までの過去三世紀程度の間に世界じゅうの富を収奪してきまして、そこで自分たちの町をつくり上げたわけですね。そして、それを維持管理するようになっているわけです。もう既にヨーロッパ都市は新しく発展するのではなくて、つくり上げた財産をどうやって維持管理していくかということが重要な課題です。それに比べまして、私たちの国はまだ若うございます。まだまだつくりかえていかなければいけません。ですから、これは比喩的に申しますと、ヨーロッパの町は大地主の屋敷と畑をどういうふうに維持管理していくかという感じで物を見ていいと思いますが、日本都市的土地利用はまだ城づくりの下の飯場、建設現場人間が右往左往している場所東京であり大阪であるというふうに考えていいのではないか。そういう都市が大部分でございます。ですから、そういうところの土地問題というのはまだまだ安定した形でこういうふうにしたらいいというふうにはなりません。  私ここできょうもう一つ申し上げたいことは、しかし地方に目を向けますと、地方ではかなりいい町をつくり始めてきております。これはある意味で地方都市東京や名古屋や大阪のような大都市ほど激しい経済成長とかあるいは激しい人口集中に見舞われないで、ほどよい成長を遂げてきたということによって大変いい町がつくられる下地ができたと思います。例えば私たちこういうことを申します。人口の対前年の伸びが約一%前後、ですから二十万の県庁所在地がありますと、一年前に比べて千五百人から二千人ぐらい人口が伸びていく。その程度人口がふえていく都市でございますと、これはその都市の建設的に使える投資とそれから人口がふえていく量とが割合バランスしていきまして、それほど土地の値段も上がらないし、それからそれほど交通問題も発生しないしという形で、市役所や県庁建設関係専門家にとってはある程度先を読みながらゆとりのある計画をつくっていくことができる、そういう町になっております。でございますので、そういう点では地方都市をある程度人口をふやしながらどういうふうに育て上げていくかということが、実は東京大阪のこういう大都市問題の後ろに隠れまして大変重要な都市的土地利用課題になっていると思います。  私から私自身の見解を言わせてもらいますれば、東京大阪の問題はまだまさにこれは建設現場の問題で、安定的な形でなかなか議論できないけれども、地方都市については今それなりに先を読めて、二十一世紀には非常に質の高い町ができていくという可能性多分にあると思います。これはお金をかければそれなりの見返りのいい住宅地もできますし、それから道路整備もできます。そういう点でお金の配分について、どこに道路をつくったらいいか、どこに工業団地をつくったらいいか、あるいはどこに住宅団地をつくったらいいかということを地方都市の、これも地方都市もいろいろな規模がございますが、地方都市性格規模に応じて考えていくということが大変重要ではないかと思っております。いい就職先もあり、そしてほかの人にも誇れる町の中心部があり、そしてちゃんとしたお医者さんと弁護士さんがいるそういう町であれば、これは私でも東京よりそういうところで老後を暮らしたいと思います。そういうようなことが大都市土地問題の後ろにあるということを申し上げたいと思います。  それから、時間がなくなりましたが、東京の例の深刻な土地問題について言及したいと思います。  東京土地問題の究極の話題は、御存じのようにこれは会社で言えば課長部長さんのサラリーマン人たちに私は百平米の、マンションでいいと思いますね、百平米のマンションを所有していただくということをやらなければいけない。それもそれぞれ通勤時間一時間以内のところにそういうマンションを所有していただく。そうなってまいりますと、可能性としてはこれは二つございます。一つは、市街化区域内の農地、これにどうしてもやはり手をつけざるを得ないと思います。これは何回も私たちが申し上げてきましたが、何回も拒否されてしり抜けになってしまった。それからもう一つは、これは運輸省と建設省が大変縄張りでもみ合っているんですが、湾岸の、例えば横浜で言えば東神奈川区とか鶴見区とか、そういうところの企業の用地がこれから体質転換をしていかなければいけません。こういうところにそれなりの質のいい、お金もそんなにかけなくてある程度の、今言いました課長さんや部長さんが手に入れる住宅マンションが建つのじゃないかと私は思うんですね。この二つをぜひお考えいただきたいと思うんです。  もちろん、市街化調整区域の外の山を壊して大きい団地にするというのも必要かもしれませんが、やはり市街化区域内の農地についてある程度手を加えませんと、これは国土利用土地問題を超えて、サラリーマン社会不公平感不満感というのはまさにそこに集約していると思います。企業を支える日本の一番重要な生産力を担っている人たち不満感幾つかございますが、重要な不満感は、一体あの土地はだれのものだ、ああいうところで米をつくって、ちゃんと補助金をもらってのほほんとしていて、一体それで国は許しているのか、そういう不満感がうっせきしていると思います。そういう点からも、この市街化区域内農地の問題はぜひ積極的に何らかの答えを出すように御協力していただければありがたいと思います。  大体所要の時間が過ぎましたので、これぐらいで問題提起を終わらせていただきます。  どうも御清聴ありがとうございました。
  4. 原文兵衛

    委員長原文兵衛君) ありがとうございました。  次に、社会保障につきまして井下田公述人にお願いいたします。姫路獨協大学教授井下田猛君。
  5. 井下田猛

    公述人井下田猛君) 私に与えられましたテーマは社会保障関係となっておりますので、この部分焦点を絞って、少しく常日ごろ考えておりますることの一端を申し上げてみたいと思います。  御承知のように、社会保障関係部分は極めてすそ野が広い領域を持っておりまして、したがってこの昭和六十三年度、新年度社会保障関係予算も、生活保護費社会福祉費社会保険費保健衛生対策費、そして失業対策費というふうに、大きく五つほどの領域から政府予算案も成り立っています。  それぞれの予算計上額の上からわかりますようは、社会保障関係予算はその中心社会保険関連社会福祉と、それからいま一つ生活保護費、この三領域中心にして成り立っているわけですが、余りにもすそ野の広い多領域に及びます社会保障関連経費について、短い時間の間で全体にわたってつまびらかに申し上げまする時間的余裕はもちろんありませんから、私は地方で生活している国民の一人として、四月から始まりまする新年度予算を見るならばどのようなとらえ方ができるのか。国民の一人として、あるいは少々研究をしておりまする研究者の一人として、できたら市民の目といいましょうか、あるいは地方レベルで生活しておりまする国民の目で新年度社会保障関連予算を見るならば多分次のようなことが言えるのではなかろうかという観点から、幾つか申し上げてみたいと思います。  したがって、地方居住国民の一人として、地域やあるいは地方の目から国の予算をとらえるならば、中でも今年度際立って問題になり得るのはやはり医療保険財政とかかわる部分だろうと思われますので、この部分に後ほど焦点を絞りながら申し上げてみたいと思います。そして、あわせて国庫負担あるいは国の責任の問題について少しく申し上げて、私の公述の責めを果たしたいというふうに予定さしていただきたいと思います。  さて、初めに三点ほど今年度政府予算と関連させて申し上げてみたいと思います。  元来、財政とか予算というのは、先生方承知のように、政治や行政の顔とかあるいは性格が凝縮しているものだろうと思われます。この点、新しい内閣ができ上がって最初予算であり、あるいは最初社会保障関連予算となっているわけですけれども、今回の社会保障関連予算についてはどのような政治の顔やあるいはその性格が示されているというふうに概括できるでしょうか。私なりにまとめて言えば、第一点としては対外配慮優先、他方では国民福祉圧縮の二極ないしは両極分化予算だというふうに残念ながら概括できるのではなかろうかというふうに思われます。対外配慮優先国民生活福祉圧縮の二極ないしは両極分化予算というのが今年度政府予算やあるいは社会保障関連予算の基本的な特徴のように思われます。  中でも、御承知聖域防衛関連費部分が、昨年度だけではありませんで、今回、新年度もまた二年連続して大きく例の一%枠を突破しているところに問題の根が深いということが言えるかと思われるわけです。それでいて、いわば増税隠しと不均衡あるいは不公平助長国民生活圧縮政府予算案だというふうには言えるかと思います。現に随分さまざまな各種世論調査でも、七割を超える国民の多くがGNP比一%枠を超えては困ると異口同音に叫んでいる今日だけに、社会保障予算を検討する場合にも、防衛費の抑制の問題については、できたらこの場においでの諸先生方におかれましても重々御配慮願えるとありがたいと思います。社会保障関連経費なら社会保障関連経費がひとり歩きしているわけではありませんで、やはり政府予算の枠の中に位置づけられているわけですから、それだけに防衛費の抑制の問題あるいはこれまた例の不公平税制の是正といった事柄を、社会保障関連経費を考える場合にも前提条件に据えなければならないのではなかろうかなと思われるところです。  あわせて、確かに金持ち大国だなどというふうに常日ごろから言われているわけですけれども、一人の国民としては、その実感は極めて希薄だと言わざるを得ません。恐らく金余り日本と言いながらも、国民生活はいわば自転車操業同然のレベル下に置かれた毎日の暮らしを余儀なくされておるというのが私どもの生活実態だろうと思います。したがって、経済大国と生活小国のギャップを埋めて、国民生活に指針や展望を与えてもらわなければならないのが実は政府予算だろうと思われます。  中でも、もうあと十二年もすれば二十一世紀を迎えようとする今日、私どもにとって、お互いの生活の指針やよりどころをその年度のよりどころとして示すものが財政予算だろうと思われますだけに、どうぞ新年度予算についても、新しい時代を切り開く理念だとかあるいは哲学、フィロソフィーと言ってよいでしょうか、予算とか財政はやはり単に銭金の問題だけではございますまい、新しい時代を切り開く理念やあるいは哲学を凝縮しているものが政府予算であってほしいと願いたいところなものですから、あえて余分なことを今申し上げているかなとは思いまするけれども、お集まりの先生方にとっても、防衛費の抑制の問題あるいはまた不公平税制の是正といった側面に御留意いただきながら新年度予算を検討していただければありがたいと思われます。  第二点に移りたいと思います。  御承知のように、福祉関連予算は、老齢年金だとかあるいはまた老人医療といったように、その中核の部分は高齢化の進行によって年々該当者の頭数がふえていく性格のものですから、当然増と言ってよいでしょうか、あるいは自然増と言ってよいでしょうか、結果的には予算額は年々歳々にわたって膨張していく性格社会保障関連経費は持っております。それだけに財政当局の皆さん方にはもちろん頭の痛いところです。どのようにして全体的な調和あるいは統合を図るのか頭の痛いところであるわけですけれども、新年度政府予算の特徴の二番目として言えますることは、やはり財政再建を大きく目標に掲げていて、これをベースに社会保障関連経費部分にも大きくそのしわが寄せられてきていることが二番目の特徴だと言わざるを得ません。  財政再建目標の達成とあわせて内需拡大の両立を強調しながら、赤字国債発行額の削減がいわば目的的に据えられていて、日常的経費の削減が社会保障関連経費の場合にも大きく位置づけられているのが最大の特徴です。なるほど内需拡大もまた今日的な大きな課題です。内需拡大のためには公共事業を中心にしながら国内経済の底入れをも図らざるを得ないわけですけれども、しかし内需拡大のためには、公共事業だけではなくて賃金の上昇だとかあるいは福祉政策の拡充もまたあわせて大いは求められているところだろうと思われてなりません。  だが、このあたりのとらえ方は、これまた極めて残念なことだと言わざるを得ないわけですけれども、新年度予算をトータルで見ても、どうやらかなりサーフェースと言うんでしょうか、皮相的と言うんでしょうか、表面的だと言わざるを得ないところです。それでいて、御承知のように、新しく国保制度の変更を盛り込みながら、借金のツケ回しと負担増が目立って、時にボランティアの善意などをも行政は利用しながら、財政再建の重視と、かわりばえのしない財政の体質が新年度予算にも示されているかなというふうに思われます。  どうやらここによく示されているかなと思いまするけれども、我が国の予算やあるいは財政の計画策定、そしてその執行が依然として男性優位の社会の産物として示されているところに、問題の根っこの深さが私などは感じられてならないところです。いわば男性社会優位の機能主義的な、あるいは効率主義的な、あるいは健常者の価値観が新年度予算にも示されている。それは当然社会保障関連経費部分にも凝縮して示されていて、障害者や高齢者や、あるいは御婦人だとか子供を主体に予算案を立案するならば、今とは一色もあるいは二色も大きく変わった財政を考えざるを得ないかなと思うわけですけれども、基本的には依然として男性優位の産物が新年度予算の中にも示されているかなと思います。  しかし、衆議院とは違って、この場にも御婦人の先生方がかなり目立っていて、衆議院には無理ではあるのかもわかりませんけれども、参議院には御婦人の先生方がこれほどおいでですから、もっともっと婦人たちのサイドで、あるいはまた高齢者のサイドで、社会保障関連経費やらあるいは国家予算全体について再検討していただければ、国民のニーズにさらにこたえるものを生み出すことができるのではなかろうかなというふうに私どもとしては感ずるところです。  それから第三点に移りたいと思います。  先ほど対外配慮優先国民生活福祉圧縮だというふうに申し上げたのですけれども、第三点は、まさしく国民生活圧縮とかかわる部分についていま少しく申し上げてみなければならないと思います。中でも、国民生活圧縮の典型例として、ここでは障害者などの費用負担限度額などのアップの問題と関連させて少しくコメントさしていただきたいと思います。  御承知のように、障害者の完全参加と平等をうたい文句にしました国際障害者年の十年も既に後半の時期を迎えているわけですけれども、一昨年四月に障害者年金が少しく引き上げられました。これは御同慶の至りではあるわけですけれども、しかし施設に入居しておりまする障害者に対して施設徴収金が、障害者御本人から月々二万三千円、あるいはその親御さんから月額二万七千円が既に徴収され始めています。一方ではスズメの涙ほどの年金をアップしていながら、しかしそれ以上のものを取り上げるという手法では、これは社会保障の価値概念の上からいってかなり逸脱しているものと言わざるを得ません。  加えて、ことしの七月からどうやら費用負担限度額が、精神薄弱者援護施設だとかあるいは身体障害者授産施設、さらに身体障害者癖護施設、養護老人ホーム、それからいま一つ特別養護老人ホームといったようなさまざまな諸施設で一斉は引き上げられることが予定されていますけれども、このような措置は時代に逆行している措置だと言わざるを得ません。  確かに一方では、本年四月以降公的各種年金が少々値上げになることはありがたいことだと思われます。しかし、そのアップの額は、何しろ厚生年金を例にとれば、三十二年加入モデル年金で何と月額三百七十五円だといいます。あるいはまた、国民年金の老齢年金は二十二年加入の夫婦で何と百八十四円のアップにしかすぎないじゃありませんか。さらにまた、老齢福祉年金の場合にはわずかに百円玉一個という始末ですね。  以上のような各種公的年金のアップは望ましい措置ではありますけれども、これではコーヒー代一杯にも満たない措置だと言わざるを得ないわけで、このような措置であるならば、見せかけの社会保障たあるいは社会福祉だと声を大にして言わなければならないかもわかりません。人の尊厳を保障するのにはこれではいささか劣等処遇のレベルにとどまっていると言わざるを得ないんじゃないでしょうか。  人は、だれもが若い時代は若い時代なりに、高齢者は高齢者の時代なりに、可変性と可能性を保障されていなければならないんじゃないでしょうか。政治は、お互いの可変性や可能性の条件整備を多様な観点から図るものが政治の役割やらあるいはその機能だと私なりに解釈したいと思うわけですけれども、このような新年度政府予算あるいはこのような新年度社会保障関連経費であるならば、問題の傷口は深いと言わざるを得ません。  しかし、それにしましても、与えられました時間がどうやらこの辺で来ているようです。先ほど冒頭の部分で申し上げました国保改革の問題とかかわるような問題状況だとか、あるいはその他さまざまな社会保障関連経費とかかわってかねがね考えておりまする事柄は、丁寧に申し上げれば多分七、八十時間ぐらいはかかろうかと思います。与えられました時間が二十分にしかすぎませんから、とりあえずは以上で取り急ぎ終わりにしてみたいと思います。  ありがとうございました。
  6. 原文兵衛

    委員長原文兵衛君) ありがとうございました。  それでは、これより質疑を行います。  質疑のある方は順次御発言を願います。
  7. 野沢太三

    野沢太三君 まず、伊藤先生にお伺いいたしたいと思います。  伊藤先生は、これまで国土利用計画の審議会委員、また地価対策の検討委員会委員長等をなさっていただきましたが、東京圏の異常な土地高騰に対しましていわゆるオフィスビルの過大な需要をどうするか、あるいは金余り時代の投資対象として土地が扱われた問題についてメスを入れていただいた。そしてまた、税制に対する、特に短期の譲渡所得に対する大きな課税を課すべしと御提案をいただきました結果、おかげさまでこれらの施策が政府提案として採用され、ただいま首都圏の地価は鎮静化の状況にあるということでございますが、これがただしかし、八割あるいは七割程度の高値安定では将来にわたってまだ不安が残るわけでございます。  そこで、先生の御提案の中にも、本日もございますが、供給の増大こそ将来的に土地問題を安定させる決め手であるというふうに拝察するわけでございます。本日も市街化調整区域農地の活用とかあるいはウオーターフロントの活用という御提案をいただいておりますが、供給をふやすには高度利用という面が一面あろうかと思います。これにつきまして先生のお考えをお述べいただきましたらありがたいと思います。どうぞよろしくお願いいたします。
  8. 伊藤滋

    公述人伊藤滋君) お答えいたします。  私も税金が高くなってもう困っちゃっているんです。ですから、本当に土地の値段が上がっちゃっても売るわけじゃございませんから、自分の土地はどうしてくれるという感じなんですが、嘆いてもしようがありませんからいろいろ考えるんですが、私は両方をやらなきゃいけないと思っております。供給をするということと、それから供給だけではなくて、やっぱり土地問題というのは土地が足りないということ以外に、本当に働いている人たちに、あいつはインチキをやってもうけているんじゃないか、どうもあいつは政治後ろに隠れて税金その他で変なことをやっているんじゃないかというそういう不信感を生み出すというのは大変私は恐ろしいことだと思っているんですね。おかげさまで国の運営がある程度順調なんで豊かになったんですが、豊かになったから不満が減るかというとそうじゃございませんで、豊かになれば不満は逆に増幅すると思うんですね。  そういう点では土地問題というのは、単に自分が土地を手に入れて、そしてそこに家を建てることができるかどうかということだけではなくて、東京の問題に限定すれば、三千万の人間が集まったそこの中で営々と働いている人が持つ今の国の運営に対する不信感、これをどういうふうにして解いていかなきゃいけないか、それが大きい問題だと思うんです。そういう点ではやはり規制ということが重要な課題になってくると思います。ですから、供給と規制とこれを両方私は併用していかなければいけないと思っているんですね。もちろん供給をしない限りはこの土地問題というものの基本的な答えはございませんから、そういう点ではすぐにでも使えるような土地についてかなり宅地に転用していくということをまじめに考えていかなければいけないと思います。  もう一つ供給について私申し上げたいことは、単に宅地をつくり出すだけではなくて、現在の市街地の中で皆さん方が家を建てかえる時期になってきております。これは昭和三十年ごろに木造の二階建ての建物を東京の町の中で一生懸命つくった人も、三十年たつといかにもこれもうくたびれてまいりまして、建物も、それが木賃アパートであるとすればそういうところに入らない。ワンルームマンションの方が格好いいですからワンルームマンションに入ってしまうということで、随分困っているお年寄りの人たちもいるんですね。  例えば荒川区、御存じだと思います、荒川区とかそれから大阪でも同じなんです。東京で言うと墨田区の北半分とか、そういうところの御年輩、三十年のときに四十であった人も三十年たちますと七十になりますから、そういう人たちがこれからの老後をどういうふうにして暮らしていくかという、木賃アパートを建てかえて質のいいお客さんを入れたいと思いましても、なかなかそういうふうにできないという場所がございます。こういうようなところに積極的にやはり建てかえを促進していくということが非常に重要な住宅の供給につながっていくんじゃないかと思います。  東京での私たちの暮らしを変えるということは、特に住宅について申しますと多様な種類の住宅を供給する必要があると思います。野沢委員御指摘の宅地の供給をふやすということは、これは子供二人それから両親、そういう四人家族の健全な家庭のためには重要でございますが、片一方で、共稼ぎの人たちとかあるいは老人二人が肩寄せ合っているとか、あるいは一人で東京に来て何とか頑張ってもうけてやろうという人たちとか、いろいろな人が多様ないろんな住宅に住みたがっておりますから、そうなってまいりますと、片一方ではやはり今の木賃アパートや木造の建物が密集しているところの建てかえを何とか助けてやるということが大変重要かと思います。  これは前から言われているんですが、家を一軒建てかえるのに千万円ぐらいのお金がかかるとしますと、経済学者は多分それの波及効果は三倍ぐらいのお金の新しい市場、じゅうたんをしゃれたものにするとかカーテンをよくするとか、場合によっては寝巻きをナイトガウンにするとか、そういう経済市場をつくると言っておりますが、そういう点では、建物を建てかえるということは非常に健全な形での内需をつくり出すという意味でも重要かと思っております。  それから、特に申し上げたいことはウオーターフロントの問題でございまして、ウオーターフロントは、多分私の考えているところでは、現在企業も何とか土地利用転換を図りたいと思っているのではないかと思います。この土地利用転換が実はお役所の縄張りの中でなかなかうまくいかないんですね。それですから、そういうお役所の手続論に入りますと、そういうことがないところで民間が半年でできることが二年も三年もかかってしまうということ、こういうようなことをやはりある程度緩めていくということが大変重要かと思います。  それから高度利用という点で私として申し上げたいことがございます。高度利用でこれまで、例えば山手環状の中の第二種住居専用地域は、あれはもったいないから住居地域にすべきだというような発言がございました。しかし、これは大変私にとっては、間違っていると言うと極端かもしれませんが、ちょっと再検討をきちっとしなきゃいけないと思います。現在でき上がっている市街地でその容積をふやすということは、これはその地主に帰属する容積ではございません。私はそう思います。この容積は国民みんなの容積だ、あるいは国の容積だ、そういうふうに思うんですね。  私、ついこの間墨田区の都市計画審議会で、私はそこの委員長をしておるんですが、地元の中小規模の商店街の人たち、これは本当に中小規模です、零細企業ですが、自分たちのところだけ容積を上げてくれないから土地の値段も上がらなくて建物も建てられない、どうしてくれるというので物すごい圧力がかかりました。これは自民党、社会党、公明党、共産党、民社党、もう全党を挙げてそういうところを何とかしろという圧力を私たち学識経験者にかけたんですね。こういうことはよくあるようです。  それで私は、これを拒否するということは一種の議会の多数決に対する個人的な圧制であるかなと素人なりに考えまして、それで思いつきましたのは、よし、上げましょうと。確かにそこは容積が三〇〇%ぐらいしかない、あの両国の国技館の近くのところなんですね。それを四〇〇%にしてくれ、よし、上げましょうと。しかし上げる一〇〇%は、あなた方がここで商売をするために上げてくれということでなく、この一〇〇%が今一番重要なのは、そこにあなた方のおじいさん、おばあさんと両親と子供の三世代世帯が住むにふさわしい住宅にするために上げるんだから、一〇〇%上げたのは全部、少なくとも二LDKか三DKの住宅にしなさい、そういう条件で上げるということならどうですか。そういうことを拒否するというなら、あなた方はそこの土地の容積を上げて売り抜けして墨田区からどこかへ逃げていく、例えば世田谷とか田園都市線の方へ行くんじゃないかと言いました。これは正論ですから、正論にはそのときにやっぱり地元の方たちや区会の議員さん方も、うんと言われまして、納得してもらいました。  そういうふうに、既成市街地の容積というのはこれはその地主さんのものではございません。これは本当にみんなのものですから、やっぱりみんなのものであるものをどういうふうにしていくか、一生懸命努力してその町を変える人と、それから国民的な資産とをどういうふうにその内容をうまく調整して利用していくかということが大変重要な課題になるかと思っております。  それからもう一つ申し上げたいことは市街化区域内の農地の問題ですが、これは例の農用地のA、B、Cというやつで、それで宅地並み課税について免除というのがかなりございます。おかげさまで東京大阪も随分交通の手段がよくなりまして、今まで農地で全然交通の便が悪かったところの市街化区域内の宅地並み課税を免除されている農用地のCですか、というところも住宅に使えるようになってきた。  ところが、ここに対して非常に不思議なのは、農業をやりたいという人が多いんですね。農業をやりたいならこれは調整区域に一度戻すべきではないかと私は思うんです、本当に農業をやりたいなら。それを調整区域に戻さないで、好きなときにそれを宅地にする。それをまた市町村がその税金を補助しているというのはとんでもないことだと思うんですね。やはりそういう辺は私はぜひ、市街化区域内の農地であるならばはっきりと、ここは農地にするというところはもう農地として扱ってこれは市街化調整区域並みに扱う、それ以外のところはきちっとした宅地並みの課税をするということが、これはまさに先ほど言った、これから日本を支える重要なサービス産業に従事している先ほど課長さん、部長さん方のうっせきした心のわだかまりを解くのに非常に意味があるのじゃないかと思います。  それだけ申し上げます。
  9. 野沢太三

    野沢太三君 もう一点お伺いしたいんですが、供給を確保する一つの手段として空中権の移転問題というのが挙げられるかと思いますが、既にアメリカ等ではこれが割合自由に移動できるような法体系になっていると伺っております。  道路、公園、広場、あるいは名所旧跡の上空権をよそへ移して使うことによって先生御主張のような美しい町づくりに資することができるのではないかと思うわけですが、既に特定街区や総合設計というような手法では一部利用可能というふうに考えられますけれども、もっと抜本的に、これを東京で、あるいは地方都市も含めまして、日本でこれを採用することについての先生の御意見をお伺いしたいと思います。
  10. 伊藤滋

    公述人伊藤滋君) 空中権というのはこれから大都市整備するのに非常に重要な議論になってくると思います。  御指摘のように、現在でも特定街区でかなり空中権の、容積移転でございますが、これは自由度が出てまいりました。しかし、実際に私たちがある街区について町の中の再開発を、私は設計もいたしますから、やってまいることを考えますと、もう少しやはり空中権の移動については自由度があった方が、それこそ全体としてまとまりのある市街地形成は楽になるかと思うんです。  例えばこういうことがあると思いますね。現在港区や中央区で人口が減っているわけですね。それで片方で、そこに人口を定着させたいから住宅をつくれと言います。住宅をつくれと言いましても、民間の土地住宅をつくれといいますと、御存じのように、アークヒルズのように坪当たり幾らですか、三万ぐらい取っているんですか、これはどこでもそういうふうになるんですね。一般の普通の民間の土地住宅をつくりますとそうなります。そのために、そういう高い家賃の住宅だけではなくて、住宅公団に入ってきて少し住宅をつくれといいましても、住宅公団といえども金利のあるお金でつくっているわけですから、初めは安くても傾斜家賃で高くなります。  ですから、本当に区役所や地方自治体が都市の中に安い住宅をつくるとすれば、例えば学校とか、区役所が持っている公園とか、こういうところにある容積率を民間が再開発するときにはそこへ預けてそしてそれを使うということにすれば、区役所、区の持っている小学校、これはだんだん人がいなくなってしまってこの間中央区で売ったという話もありますけれども、あるいは公園とか、そういうところの地代というのはほとんどゼロ——ゼロという地代はございませんから、ゼロに等しいわけです。そこの地代で、容積が例えば五〇〇%になるわけですね。これをもとにして、これは地代が安いから当然この五〇〇%分の容積の住宅というのは安くなります。こういうものを区営住宅ではなくて区民住宅とか市民住宅という形でつくっていくというようなことも空中権の移転の一つの応用例としてこれから極めて重要になるのではないか、これは公有地全体について当てはまる問題だと思っております。
  11. 野沢太三

    野沢太三君 伊藤先生、どうもありがとうございました。  与えられた時間が五分になりましたが、井下田先生に一点お伺いいたしたいと思います。  日本も昨今、平均寿命という点で男が七十五歳、女が八十歳を超すという世界一の長寿国になってきたという、まことにおめでたい、うれしい現象があるわけですが、一方それに伴う国民医療費、特に老人の医療費というものは相当な勢いで伸びておるわけでございます。社会保障という面で見た場合、一人当たりで見てもヨーロッパ各国と肩を並べ、あるいはその水準を抜くという状況にあって、その面から見れば日本はもう福祉大国ではないかと私は思うわけでございます。国民医療費の伸び率も五%を超すとか、特に老人医療費の伸び率については七%を超すというような勢いで、防衛費の伸びをはるかに上回った状況で進んでおるわけでございます。しかしこの調子で伸びてまいりますと、国民医療費の負担をじゃどこで持つかという大きな課題が出てこようかと思います。本人がまず持つ、あるいは政府が持つ、あるいは地方が持つ、いろんな負担区分が考えられようかと思いますが、その財源等も含めまして先生のお考えがございましたらお聞かせいただければ幸いでございます。
  12. 井下田猛

    公述人井下田猛君) 今日という時代は、人の顔つきが違っていますように価値観もまた随分と多様なものに分かれています。政治や行政というのは、恐らく、異なっている価値観を調整しながら最終的には統合していくものだと言えるかなと思います。  先生御指摘の側面と関連させて申し上げてみますると、異なっている価値観を調整、統合するということは、まさしく国レベルの課題、役割だろうと思われます。しかし、短兵急を制すると言うのでしょうか、余りせいては異なっている価値観を調整、統合するというわけにはやはりいくまいと思います。したがってこのためには、もっともっと多様な国民意見、民意を国レベルでも大いに吸収してほしいと思います。それこそ国会のエクステンションといいましょうか、国会を広げてみる努力が恐らくこのような論議の前提にさらに据えられることが望ましいんじゃないでしょうか。  つまり、ハードな論議はもちろん大事なことですけれども、あわせて私は先ほどあえて御婦人のレベルあるいは障害者、子供のレベルに立って国の予算を見たらどうなんだろうかというふうなことを申し上げてみたんですけれども、そことかかわるかなと思いまするけれども、確かに高齢化社会が足音荒々しくこれほどの形で私どもに及んできていることは確かなんですけれども、だが同時に、長期的あるいは中短期的な課題を設定しながら、問題の根っこが余りにも深いことは確かです。やはり銭がかかり過ぎるような医療体系にもなっております。あるいはまた高齢者になればなるほどに合併症その他を同時に抱き込むわけですから、最終的には医療費がかさばらざるを得ないというふうに、多様な観点からそれぞれの問題点を洗いざらいさらに検討しながら、最終的には高齢者の医療を安定して保障でき得るような税財源についてやはり国民合意、ナショナルコンセンサスを深めていくということが望まれるところだろうと思われます。  しかし、その前提として、基本的には高齢者の医療費は膨らむという、これはやはり宿命といいましょうか、構造的にかさばる、ふえていく可能性を持っているわけですから、どうやら日常、ふだん保健医療あるいは福祉サービスを必要とする人には、実際には今日の医療体系がなじまない部分を持っているんじゃないでしょうか。したがって、それだけに、日常的に保健医療やあるいは福祉サービスを必要とする高齢者の方々だとか、あるいは難病者の方々は、現行の保険制度から場合によっては分離して、全額公費負担による特別の老人関連の医療制度などをあえてつくり出すような、創設するようなアイデアも一方では考えてみなければどだい無理なのかもわかりません。  時間がちょうど来たようです。以上で失礼いたします。
  13. 野沢太三

    野沢太三君 井下田先生、伊藤先生、どうもありがとうございました。
  14. 久保亘

    ○久保亘君 私、伊藤先生にちょっとお尋ねいたしますが、先ほど林業用地の全面活用ということでお話がございました。特に農業について、農地の薄く広い活用ということをおっしゃいました。私もそのお話の趣旨はよくわかりますが、農林業を生業として営む立場からいいますと、生産性を上げて収益を高めなければならぬということがございます。この矛盾を解決していくためには、当然に基盤整備に対する公共的投資とか、農林業の保護政策を強めるとかいう問題が必要になってくると思いますし、また自給率の問題とか、今問題はなっております自由化の問題などに対しても、国が責任のあることをやらなければ、薄く広く全面的に活用するというようなことは実際にはなかなか言いにくい問題だと思うんですが、この点はどうお考えでしょうか。  それから二番目に、先生は老後に自分も住みたくなるような特色のある地方都市づくりということをおっしゃいました。しかし、この特色ある地方都市づくりと申しましても、高度情報網とか高速交通とかいうようなのが全国的につながっていなければなりませんし、そういうことを促進していくために、今東京一極集中に対して首都機能の地方分散ということが論議をされておりますが、この点についてはどのようにお考えでしょうか。  それから、もう一つ最後にお聞きしたいのは、国土の供給ということで、先ほど湾岸における用地造成のお話がございましたけれども、湾岸における用地の造成ということは、一方では自然としての海岸を喪失するということで、どうしても矛盾が起きてくるわけです。この点について先生のお考えをお聞かせいただければと思います。
  15. 伊藤滋

    公述人伊藤滋君) それでは申し上げます。  第一点は、御指摘のとおりだと思います。私はやはり、薄く広く利用するというためには、それなり農地の基盤造成をせざるを得ないと思っております。ですから、現在の圃場整備が私は、構造改善局ではもう一つ大きい圃場整備に進んでいっていると思いますけれども、そういう面でこれはまた建設的なお金にかかわることかもしれませんが、やはり農村地域の、特に水田についてはもう一層の大規模な耕地経営が可能になるような基盤整備事業を進めざるを得ないかと思っております。  それからもう一つ申し上げたいことがございまして、これは畑地でございます。畑地もこれは随分このごろ畑地かんがいが進んでおりますが、まだまだおくれております。そのためにやはり私は、畑地についてはまだ大々的な形での農産物生産の今までの経験が必ずしも成熟化していないと思っております、そういう点で、農地とあわせて畑地についても大規模に耕作ができるようなかんがいシステムというのが必要になってくるかと思います。  これはいずれにつきましても、両方とも私は、お米に対する補助金よりむしろ、こういう農家がこれから自分の農業経営をしていくための基盤的なものに対しての融資とか、そういうことより、補助金でもう少し面倒を見ていただくという立場が必要になってくるんじゃないかと思っているんです。どうも耕地整理をいろいろやってまいりますと、結果として農家の皆さんの発意でお金を借りてやるなんということで借金がふえてくるとか、そういうことのジレンマがございますので、その辺のところは、もう少し農家の経営が楽になりながらなおかつ畑、水田ともに耕地の経営単位規模が大きくなるような、そういうことをお考えいただくということが重要かなと思っております。  それからもう一つそのことに関連して申し上げたいことは、農家の経営と農業生産の経営とは御存じのとおりちょっと違っているわけでございまして、やはり農業経営をしながら農家としてそこで一定の生活の所得を得るということも重要になってくるかと思っております。そうなってまいりますと、これも最近、農林省と建設省である程度合意をされましたけれども、農村集落の周りの例えば雑木林を少し使わせてもらって、そこに小さい宅地造成をして、そこにしゃれた借家をつくって、それで農家の人の生活にプラスにするとか、あるいはそういうところに、ある規模の小さい住宅地ができますと、それをもとにして今までの集落にあった酒屋さんがもう一回回復するとか、たばこ屋さんが回復するとか、そういうこともあわせてお考えいただくようなことをしていきませんと、いろいろやはり農家の経営という問題はどうも自由度が少なくなってくるんじゃないかと思っております。  それから第二点の地方都市の特色あるこれからの方向性、それについて私は、これも二つの手だてをしなきゃいけないと思っておりますが、一つは交通網の整備でございます。特に私は、交通網の整備地方都市では道路網の整備をもう一回かなり再検討して、きめ細かくお考えいただくということが重要かと思います。それは、地方都市がこれまでよりはだんだんと都市相互が結び合ってくると思うんです。これは必ずしも東京地方一つ都市が結び合うということだけではなくて、地方都市相互が情報の交換とか物資の輸送とか人の移動とか、そういうことで手を結び合っていくという形での、大きい都市圏という広がりが出てきていると思うんですね。そういうような状況の中で、やはり速やかに通勤できるとか、なるべく速い短い時間で物を運べるとか、あるいはその地域の中で非常に電話がかけやすくなるとか、そういうような手当てをこれから少し焦点を当ててお考えいただきたい。  そういうふうにいたしませんと、いつもいつも東京からの情報を地方が受け取って、それで地方がそれをまねるということの繰り返しになってくるんじゃないか。例えば東北で申し上げますと、山形県の例を一つとらせていただきますと、山形県で言えば、県庁所在地山形市の周りの都市は、やっぱりいろんな形で山形市とのつながりが強くなってきております。あるいは盛岡市もそうでございますね。強くなってくるのをより強い形で結びつけていけば、これはそれが一つの圏域として、仮に山形市が二十万の都市であったとしても、圏域としては五十万ぐらいの都市圏になる。そうなってくれば、これはまた知恵のある人たちがいろいろ工夫をすればおもしろいことができる、そういうことがまず重要かと思っております。  それからもう一つ、特色あるということでは、これも御承知のとおり、現在ある歴史的なその都市の資産を生かしていくということを、より積極的におやりいただくことが必要である。例えば終戦直後、運動公園をつくる場所がなくて、お城の中に運動公園をつくっていたり、あるいは変な公民館をつくっていたりなんていうことは、逆にお城の価値をこれは減らしていることでございますから、そういうのは外へ出してお城はお城として復元するとか、あるいは蔵づくりの町があれば、やっぱり蔵をきちんと保全していくように市や県が手助けをするとか、そういうふうにして、今まで埋もれていた、ちゃんと調べれば歴史的に価値のあるものを積極的に掘り出して、それを町の中に位置づけていく、こういうことも非常に重要かと思っております。  それから三番目の御質問は、首都機能の問題でございます。  首都機能の問題は、私率直に申しまして、国会が東京にあって中央官庁にどこかへ行けというのは、これは全く成り立たないことだと思っております。やはり国会が動くということによって首都機能は動くと思っております。これはもう、例えば国会が東京にあって経済企画庁に新潟に行けなんて言いますと、経済企画庁の役人の人たち多分通勤、何ですか、国会にサービスするために来るたけでもう大変JRさんをもうけさせる。もうけさせるのはいいんですが、時間を使ってなおかつですね、これは結局、そうなりますと経済企画庁東京事務所というのがまたできまして、そこに事務次官から局長さんが常時滞在するということじゃないと国会に対応できないとか、そういう形になるのじゃないかと思うんですね。ですからやはり、まず国会が移らないということであれば、これは東京の一点集中というのは国会が認めているというふうに言ってもいいんじゃないかと思っております。  それだけ申し上げまして終わります。
  16. 千葉景子

    ○千葉景子君 私は井下田先生に二、三お尋ねしたいと思います。  先ほどのお話の中で、現在の社会保障、これが男性優位の社会の基盤の上に成り立っているんじゃないか、そういうお言葉をいただきまして、私も女性の一人としてもう心から大変これには同意をさせていただきたいというふうに思うわけですけれども、女性にとっては三つの老後があるというふうに言われます。親の老後、あるいはその次には、きょうは男性の方が多いのですけれども、夫の老後、そして最後にようやく自分の老後をどうしようかと、こういうふうに三つの老後があるというふうに言われているわけですけれども、高齢社会の中でさまざまな負担が女性の肩に大変重くのしかかっているという現状があろうかと思うんです。  こういう中で家庭の自助努力あるいは女性の努力、こういうものにまだまだ重点が置かれているように思われますけれども、このあたりについて現在の仕組み、そしてこれから将来に向けてどういう問題点が残されているか、まず先生の御意見をお聞かせいただきたいと思います。
  17. 井下田猛

    公述人井下田猛君) 千葉先生の御指摘のように、残念なことではあるわけですけれども、まだまだ言葉の正しい意味で男女対等の社会が成り立っているわけではありませんから、御婦人たちの多くはいわば二重苦といいましょうか、あるいは三重苦を抱えております。そしてこの社会保障は、御承知のようにずっと以前ならば家庭内の私的な扶養、私的扶養のレベルでよかれかしとする時代が長く続いたわけですけれども、どこの御家庭でも、場合によっては寝たきりのお年寄りを抱えてみれば、もうその一家の経済生活はもちろんですけれども、生活のリズムもすっかり狂ってしまいますね。あげくの果てには、中でも家計を預かる御婦人たちは、高齢者御本人はもちろんのことだけれども、御婦人もまた多くの場合には、場合によっては病の床にまで伏してしまうというのがこれが偽りのないところの実情だろうと思います。  社会保障というのは、私なりにとらえ返しをしてみますると、所得の再分配機能をベースにしながら、健常者を主体にして社会の相互扶助を目指しながら、最終的にはお互いの人間生活の実質的な基盤を拡充する取り組み、これを私は社会保障あるいは社会福祉と名づけたいと思っているんですけれども、そうしますると、今既にやや病の床に伏しがちである、場合によっては家計の任を預かるお母さん方にとって、もう彼女にとって荷が重過ぎるんじゃないでしょうか。やはりそれだけに私的扶養のレベルから今は社会的共助の時代が社会保障の時代として根づいているわけですけれども、残念ながら御婦人たちにかなりしわ寄せしている、あるいは先ほど冒頭の時間に時間的余裕がありませんでしたが、実際には地方の自治体に陰に陽にしわ寄せが及んで、結果として今日の社会保障社会福祉が曲がりなりにでも働いているというのが実態ではあるわけですけれども、この部分にやはりメスを入れざるを得ないんじゃないでしょうか。  人の短い、あるいは価値観の違いで人によっては長い人生ということにもなろうかと思いますけれども、ともかく一度きりしか与えられないお互いの人生です。高齢者になれば高齢者になったで、美しく豊かに老いていきたいと人はだれもが願っています。御婦人は御婦人で、場合によってはフルタイマーの働いている方ではなくて家庭においでの専業主婦のお母さんであっても、彼女は彼女なりの長いあるいは短い人生を充実して送りたいと願っているんだけれども、それが、残念ながら必ずしも社会保障の観点からいって制度的には保障されていないですね。もう少々、家庭の中での家事労働の一つではあるかもわかりませんけれども、場合によっては寝たきりを抱えておいでの、家計を担っておいでの皆さん方の、それはなるほど自助努力ではあるかもしれないけれども、自助努力を共助の努力として評価できるような仕組みがこれからは検討できないでしょうか。  場合によっては、私的扶養のレベルにとどまっておりまする家庭内のいわば私的福祉のレベルのものを、社会的に換算し直すことはできないでしょうか。場合によっては、このような換算の努力で、女や子供たちを主体に政治や行政の質的な中身をつくりかえる、あるいはつくり直しを目指そうとするならば、婦人のレベルから、あるいは障害者のレベルから、お互いの提供しておりまする家事労働の一環ではあるかもしれないけれども、広い意味では社会福祉社会保障とかかわるお互いの労働の質的な中身を、量的なものへと判断し直すことがあるいはできるかもわかりません。もちろん今直ちにということではありませんけれども、多様な知恵を出し合うことによって、これまで私的福祉のレベルにとどまって人は何のための人生かということを場合によっては家庭の奥さんたちはため息まじりに毎日繰り返しているわけだけれども、これらを評価し直す時代が今私どもの前に与えられているんじゃないでしょうか。  全体として人の家事労働とかかわる今の部分についても計算するということはもちろん大変な努力をしなきゃならぬわけですけれども、この辺を詰める作業は私どもに求められているのだとあえて言わなければならないかなと思います。  先生の御質問の時間に随分食い込んだことをおわびしたいと思います。
  18. 千葉景子

    ○千葉景子君 それじゃ、時間も限られておりますので、もう一点だけ井下田先生にお尋ねをしたいと思います。  こういう中で最近シルバー産業、民活の福祉版というふうにも言われておりますけれども、こういうものが次第に膨れ上がっていこうとしております。これまで公的なサービス、足りないところはありますけれども、そういう形でやってきたものを民間の手にゆだねていこう。こういう問題がありますと、やっぱりもうけが優先するのではないか、あるいは安全性などは大丈夫だろうか。いろいろな心配が出てくるわけで、今のうちに何らかの対策あるいは方向づけというのが必要ではないだろうかというふうに思うんですが、このシルバー対策ですね、シルバー産業と言われますこういうものについて先生はどうお考えでいらっしゃいますか。
  19. 井下田猛

    公述人井下田猛君) 御指摘のように、シルバー産業とかかわる部分についても、今ではかなり憂慮せざるを得ないレベルに既に追い込まれているのだというふうに、総括的には申し上げなければならないのかなと思われます。残念ながら、国レベルもそうですけれども、全国の都道府県やあるいは市町村もまた、とかく民間活力の導入といった下請あるいは民間転嫁主義が全国的に今支配的な時の流れになろうかとしておりまするけれども、そうではなくて、公的責任を明確に果たしながら、なおかつ物によっては民間転嫁主義を考えてみるというのが本筋だろうと思われます。残念ながら、全国的な状況で言えば、公的責任の回避が余りにも目立っているのが今日の実情じゃないでしょうか。  少々余分なことかもわかりませんけれども、政治や行政の場におりまする私どもこそ、つまりお集まりの先生方をこの場合は指しているわけですけれども、政治や行政の場におりまする者たちこそ公的責任原理を貫徹させなけりゃならないんじゃないでしょうか。公的責任原理が不明確なままに国民の間におろされれば、国民政治や行政に対して信頼感を持つでしょうか。基本的にはここの部分が必ずしも定かにはなっていないのが今日の特徴です。もっともっとこの点でも、公的責任の回避が今支配的になろうとしているわけですけれども、公的責任の回避が支配的になろうとする今日の御時世に対して、多様な観点から歯どめをかけざるを得ないんじゃないでしょうか。  そして、公的責任の回避が民間転嫁主義の助長として福祉サービスの部分に市場原理がまかり通ってきているのが今日の実態なんですけれども、このことは最終的には、医療の荒廃に続く福祉の荒廃をももたらす危険性多分に抱えているんじゃないでしょうか。これは本来的には残念な側面だと言わざるを得ません。医療の荒廃の部分が全国あちこちでそれこそ吹きだまり的に見られているわけですけれども、この二の舞が場合によっては福祉の荒廃として示されては相なるまいと思います。この意味でも、シルバー産業とかかわる福祉産業の皆さん方にこの観点からの歯どめを、国レベルでも多様な観点から御配慮願えればありがたいと思われるところです。時間が来たようです。
  20. 広中和歌子

    広中和歌子君 まず、伊藤先生に三点お伺いいたします。  日本国土、狭い国土の七割が森林である、森林資源を上手に利用するためにもっと道路網が必要であるという御視点、大変興味深く伺ったわけですけれども、一方住宅地国土の中でたった四%前後でございまして、その中に我々は日常暮らしているわけでございます。そういう都市の住民たちが広い森林を利用するために、つまりアクセスを図るためにも私は道路網が必要だろうと思います。そしてまたさらに、森林の中にある種の質のいいレジャー施設なども建設されることが必要だと思うわけでございますけれども、そういう中で、自然保護団体との関連が問題になると思います。その点がまず一点でございます。  次の点は、田や畑を景観保護の視点からお述べになりましたことは大変興味深いことで、私もヨーロッパドイツなどの畑の美しさなんかに本当に感動するものでございますけれども、必ずしも収穫量にこだわらず薄く広く手をかけていくといった農法でありますと、補助金とは手が切れないのではないかといったようなおそれもあるわけで、その点についてが二つ目。  それから第三点は、市街地の宅地をふやすため、特に東京でございますけれども、市街化区域農地の宅地並み課税、そして湾岸の企業用地、これは保有税を上げる、そういう視点から私もこれまで予算委員会で質問いたしました。しかし、特に保有税に関しましては、重厚長大産業が困っている中で保有税を上げることは不可能である、そういったお答えが大蔵大臣から返ってくるわけでございまして、こういう中でどういうふうにお考えになるのか、お伺いいたします。  時間が大変限られておりまして、六分ぐらいでお答えいただければありがたいと思います。
  21. 伊藤滋

    公述人伊藤滋君) 森林を私たちがもっと使わなければいけないという御質問でございますが、道路整備、非常に重要な御指摘だと思います。  実は、この二、三日私東京を駆けめぐりまして、こんなに道路が込んだことはないです。休日であるがゆえに込んでいるわけです。これは、お彼岸で皆さんがお基へ行く、お墓が八王子とか鎌倉とか遠くになって車で行くから込むわけです。こういうのは非常にレジャーと関係がございまして、例えば磐梯、猪苗代湖のところにレジャー基地をつくるということは、レジャー基地だけつくっても全くこれは意味がございませんで、それをレジャー基地として機能させるためには、川口から大宮の間の東北自動車道とそれから首都高速をちゃんとしなきゃだめだということなんです。ですから、そういう点では道路網の問題というのは極めて、みんながこれからレクリエーションということでもっと伸びやかに日本の狭い国土を使おうということなら、東京大阪道路をよくしないとだめだという、そういう話が一つございます。  それから自然保護団体の自然についてはこれは残すべきでございまして、それ以外にも私たちは十分に利用できる広葉潤葉樹林を持っております。これは手を加えれば非常によくなるのが、手を加えないために私たちから見ると価値がないように思っておりますが、そういうところに手を加えることはよって、自然保護団体が言っているような場所に全く手をつけなくても、私はみんなのためのレクリエーション用地は確保できると思っております。  二番目の補助金の問題は、これは難しくて私答えられないんですが、私の基本的な立場は、手に汗して仕事をした人にそれなりお金が入るべきで、つくった物を売るのに国がお金を与えるというのはちょっと、そればっかりに依存するというのはやっぱりおかしいんじゃないかと思っているんです。ですから、米代金で農家に五十万円入るよりは、働いて、例えば自分の農地を今までの一反補助を三反補助にするということで、働いた人工賃として五十万円手に入れるというような方がもっといろんなことを考えるんじゃないかと私は思うんです、農家経営の方も。そういう意味で、もっと農家の貸し家・住宅のことも考えるべきだというふうに思いました。  それから保有税の問題でございますが、保有税につきましては私は重厚長大の企業についてはそれはかなりボディーブローで効いてくるかと思いますが、私の観点は、保有税を持たせるほど長く土地を持たせておく、長くそういうふうにしておくこと自体が問題じゃないかと思うんです。ですから、保有税でもって十年持ちこたえるよりも、むしろ逆に、今の状況の中でもっと積極的に開発できるように国の方も考えるべきだと思うんです。これが私は今いろんな点で、緊急の東京住宅問題を解くのに非常に大きい障害になっているんじゃないか。これもまことにお役人の方に申しわけないんですが、一番効率よく土地を使うのはもちろん民間でございます。その次に土地を効率よく使うのはどうやら区役所とか市だと思うんです。その次ぐらいにゆっくり使うのが県とか都で、国が一番自分の土地資産をどういうふうに国民のために使うかということを考えていないと思うんです。  ですから、そういう辺の意識をお持ちになって、やっぱり土地をどういうふうに今速やかに使うか、あるいは残すならはっきり残す、残すのも中途半端に国有地というんでほっぽり出しておくのじゃなくて、これはもう公園としてきちっと確保するとか、そういうようなことが問題になってくるかと思います。  それで、多分御指摘は——先ほどの久保先生の御質問にもお答えしたいんですが、埋立地のところは私は新しく埋め立ててそこに住宅をつくれと言っているのではございません。これは、例えば私の見ているところでは、東京では蒲田から横浜までのかつての、昭和十年代につくられた京浜工業地帯が、これはかなり質的転換をしていく、再開発をしなければいけない状況なんです。そういうところを質のいい住宅マンション街ですね、マンション街とそれから質のいい工場団地、そういるものがまぜ合った形で再開発できるようになるべく行政の方が速やかに指導してくれれば、保有税の問題より先にそこは僕は開発できるんじゃないかと思っているんです。よろしゅうございますでしょうか。
  22. 広中和歌子

    広中和歌子君 社会保障費をふやして豊かな老後を過ごしたいというのは与野党問わずひとしく望むところだと思いますけれども、しかしながら、高齢化社会の中で福祉の予算というのは限られた中でどうしても非常に薄くなっていく、そういうことが起こり得るわけでございます。そうした中で政治の限界ということを非常に感じるわけでございますけれども、そういう中でボランティアの活動というんでしょうか、そういうことが非常に大切であると。我々健康な年寄りが健康でない年寄りを見るとか、そのほか子育てを終わった主婦が見るとか、さまざまな形でボランティアが活動しなければならない時代だと思います。  そうしたボランティアを支援し、評価するシステムというのが日本ではまだ十分にできていないんじゃないか。日本人はボランティアをしないというふうに一般に言い切ってしまうんじゃなくて、もっときちんとしたシステム、そして評価するような制度上のものがあれば、例えば税制上とか、それから例えば国会議員なんかに勲章を上げるんじゃなくて、そういうボランティアを長くやった方に優先的に勲章を与えるといったような、そういうようなことも考えられるんじゃないかと思いますけれども、お時間がなくて恐縮ですけれども、先生の御意見をお伺いいたします。
  23. 井下田猛

    公述人井下田猛君) 大事な御指摘を今承ったわけですけれども、もともとボランティアの皆さん方は必ずしも専門家ではありません。そしてまた、篤志家といった特定の人たちによる特定の活動であるわけじゃありません。それこそ、名もない家庭の主婦であるかもわかりません。あるいはまた、昼の時間に勤めを持っておいでの、場合によってはBGの方である場合もあろうかと思います。  しかし、投資の論理が優先する現代の社会にあって、計算することなく活動する最も人間的な行為、これが恐らくこれまでのボランティア活動だろうと思われます。    〔委員長退席、理事林ゆう君着席〕 だが、ボランティアの皆さん方と仲よしでよくお話をするんですけれども、場合によってはきょうならきょう、ボランティア活動のその日が始まります場合に、ふだんより少し早起きをするというんです。お父さんやあるいは御家族の機嫌をとりながらこの場に出てきたなどということをよく耳にします。まだまだ我が国社会の場合に、ボランティア活動が地域社会やあるいは社会全体の中に評価されていない、位置づけられていないということを今のような事実が意味しているかなと思います。  先ほど千葉先生の御質問にもありましたけれども、ボランティアをどのように評価したらよいのか、あるいはまた家庭やあるいは婦人たちの自助努力をどのように評価したらよいか、これが今日問われているんじゃないでしょうか。人は誠心誠意無償のサービス行為をボランティアとして展開はしているわけですけれども、できたら、その人のボランティア活動の中身を社会的に評価する時代が今日始まっているんじゃないですか。家庭の中にいて、あるいは仕事を持ちながらも、なおかつ近ごろはやりの言葉で言えばオールターナティブと言いましょうか、もう一つの生き方をボランティアの場に求めてはいるんですけれども、だが同時にこれは、無償のレベルにとどまるならば、人は評価されているということにはならないんじゃないでしょうか。人は人の存在感、アイデンティティーを多様に評価されたいと願っているわけで、またこれを評価できるときに、ボランティアならばボランティア活動は長続きもするし、家庭の中でもだんなさん、あるいはまた子供さんたち、お母さんあるいはお姉らやんあるいはあんちゃんから、ボランティアをうんと続けて、というふうにバックアップもしてもらえるんじゃないでしょうか。  この意味からも、ボランティア活動の中身を数量的に評価、計算しなけりゃならない時代に既に追い込まれていると言わざるを得ません。現に、自治体によっては時間貯蓄という制度が始まっていますね。つまり、場合によっては定額有料のボランティアが始まっていて、一時間当たり例えば五百円とか六百円に換算されて、今はその五百円とかあるいは六百円のお金をちょうだいするのではなくて、将来その御本人が、ボランティテを展開しておいでの御本人が高齢者になった段階で返してもらうという時間貯蓄の制度などが始まっていますけれども、これももちろん確かにすぐれた先進的な取り組みのケースではあるわけですけれども、しかしそれはある特定の個別自治体の取り組みであって、場合によっては、そのボランティアの取り組みを続けておいでのその方が別の市町村に移り住めば、今申し上げておりまする時間貯蓄の制度は無効になってしまいますね。そうではなくて、全国的に効力、有効性を持つような仕組みをあわせて考えてみる。    〔理事林道君退席、委員長着席〕  したがってそのためには、場合によっては、家庭婦人がボランティア活動に今いそしんでいるわけですけれども、これをだんなさんの月給、給料の中で換算し直してみる。場合によっては奥さんのボランティア活動が、年間を通じてお金に直せば何がしかになろうかと思います。したがって、その分をだんなさんの年間の所得の中から控除するなりして評価し直せば、確かに今具体的には何がしかのまとまったおあしをボランティアに取り組んでおいでのその方が手にするわけではありませんけれども、その年間で評価し直してみるということはこれはすぐれたアイデアだし、この辺は今お互いにとって考えなければならない課題じゃないでしょうか。  つまりこの部分が、先ほどの千葉先生の御質問とそれから今の広中先生の御指摘の部分とが多分ドッキングできるだろうと思います。せっかく従来とは違って、御婦人やあるいは子供や障害者のサイドから社会保障社会福祉を考えなければならないというふうにあえて先ほど来から申し上げているわけですから、ボランティアの側面についても、どうぞお集まりの先生方が多様な知恵を寄せ集めて御検討していただければありがたいと思います。  以上です。
  24. 内藤功

    内藤功君 公述人の先生、御苦労さまでございます。  伊藤滋先生にお伺いをしたいと思うんですが、三点ほどございます。  一つは、東京都市問題につきましていろいろお話がございましたが、まず東京の遷都問題についてのお考えを聞きたかったんですが、先ほど大分お考えの一端が率直に出されましたのでもう聞く必要もないかなと思うんですが、ただ、いかにもこの遷都というのがもう当然の前提のような議論が世の中でなされております。私はむしろ長い間市民がつくり上げてきた東京は、政治、経済の中心であり、それから同時に、昔の下町以来市民がやっぱりその中で混在してといいますか、一緒に生活しているセンターなんですね。そういうところをどのように、ヨーロッパのいろんな模範なんかに学んで、先生のよく言われる市民がユーザー、市民本位の町につくり上げるかということが基本問題だと思うんですけれども、これはもう簡単で結構ですから、ずばりいわゆる遷都問題についてのお考え、簡潔で結構ですから、まずお立場をお伺いしたい。
  25. 伊藤滋

    公述人伊藤滋君) 私は遷都は大変難しい問題だと思いますね。それが一番の私の今の心情です。大変難しい問題だと思います。それでよろしいですか。
  26. 内藤功

    内藤功君 そのお立場を伺った上でお聞きするんですが、次の問題は、今度は東京への外国を含めましたいわゆる内外多国籍企業と申しますか、この集中問題なんです。一大金融情報センターにするというふれ込みはいいんですけれども、それでもって過熱してこのまま野方図に進めますと私は大変なことになる。現在の地価高騰は家賃、地代、相続税、固定資産税、住民生活を圧迫している。都市住民の事実上の追い出しです。対策として例えば去年の五月には、四全総の国土庁試案の段階では、大変正当なことだと思いますが、アメリカ、日本などの多国籍企業の二十四時間活動の営業拠点である事務所集中の抑制策として、東京都心部等に立地する事務所にその享受に応じて負担を求めるという内容が出て、これはある筋の強力な反対でつぶされたようですけれども、こういうのが出ておるんですね。  私は、遷都問題のお答えはさっきで結構なんですが、東京、特に中心部への過度の大企業の集中の抑制は非常に緊急の問題のように思うんですが、これについてのお考えは先生はどういうふうに持っておられますか。
  27. 伊藤滋

    公述人伊藤滋君) 今はもう企業自身が地価負担であっぷあっぷしているという状況だと思います。  この間あるドイツ系の非常に有名な進出企業の方とお話ししましたが、もう一番重要なのは床を幾ら減らすか、家賃が高くてどうするかということでございますね。それは多分IBMも同じだと思います。そういうふうにもう、税金をかけるより、何ですか、自由主義、民間の経済の仕掛けの中で国際化に耐えられないというので、大使館を初めだんだんだんだんアメリカの大資本すら東京のこの都心はもう御免だという状況になって、逆に日本の資本だけが頑張っているというようなことではないかと思います。  それで、国際化の問題は、むしろ私はそこの問題ではないと思うんです。国際化の問題は、これだけ日本人ぐらい日本語をしゃべってお互いこういうふうにツーカーな国民はないものですから、これからの、そこに入ってくる極めて数少ない人たちとの摩擦です。摩擦は多分、犯罪問題とか薬の問題とかそういう問題が大変大きくなってくると思いますね。  それからもう一つは、私は学校の教師ですが、学生が日本東京のこういう状況で暮らしていますと、必ず反日思想を持って帰ってしまう。これはもうソ連であろうと中国であろうとアメリカであろうと同じだと思います。ですから、そういう国際化の問題は、私の意見は、今考えるのは、そういう留学生に対してどういうふうにしていい教育環境を与えるか、宿泊状況を与えるか。それから二番目は、どうしても入ってくるいろんな形での国際的な都市犯罪に対して、これは市民犯罪に限定いたします、これに対してどういうような手当てを考えていくべきか。これは大変重要だと思っております。
  28. 内藤功

    内藤功君 もう一点ですが、先生のいろんな論文にも出ておるんですけれども、欧米諸国と比べまして、東京など日本大都市都市計画の非常な貧困さといいますか、非常に深刻な問題が私はあると思うんですね。  私どもが乏しい知識ですが調べましたが、西ドイツでは連邦建設法というような法律で、新しい建設は地区詳細プランというものに従ったものでなきゃならぬと。私見ましてその中の特徴は、住民が合意した計画がないまま企業の思惑で狭い土地に煙突みたいなビルを建てる、それから虫食い的な開発が進行していく、こういうことは許されないという仕組みが制度的に西ドイツあたりはかなりあるんじゃないか。乏しい勉強ですが、そう思っております。  日本の場合には、現在の建築基準法それから都市計画法には確かに地区計画という言葉はあるんですけれども、住民の意向がこれに反映できる仕組みになっていない。西ドイツの場合、さらに詳しい情報が住民に提供される、公開される。住民の代表と時間をかけて話し合って、何年もかかるそうですね、それで十年ぐらいかかったのもある。で合意した案をまとめて、議会で最終的に決定をする、こういうやり方だというふうに私聞いたことがあるんですが。美しい町づくりと先生がさっきからおっしゃっている、その基本の保証はこういうところ、やっぱり町の主人公であり市のユーザーである市民というものの意思ですね、積極的な住民参加というものを保証した都市計画というのが必要じゃないかなとかねがね思っているわけなんですが、先生のこの点についての御見識、お考えを伺いたいと思います。
  29. 伊藤滋

    公述人伊藤滋君) 今の御指摘、非常に私同感でございまして、実は私たちの中でも、今都市計画法の中でも地区計画を入れております。それから再開発、建設省のやっている再開発の中でも、再開発のための地区計画というのを入れております。地区計画は御存じのように、住民合意という下から積み上げていく都市計画ということを基本にしておりますから——私先ほど申し上げました墨田区のこれはひとつ私訂正させていただきます。共産党は反対しました。共産党は容積を上げることに反対しましたから、それを訂正します。  そのときも私申し上げたのは、今内藤さんのおっしゃったことなんですね。これは皆さんが決めることです、僕はアイデアをあげると。ただ、皆さんが決めるといっても、住民といっても、ただ売り抜けるとか孫子の財産をふやすとか、そういうようなことは絶対よくないから、だから僕はアイデアとして一〇〇%上げるなら、二LDKのマンションを鉛筆ビルの五階のところへ建てなさいと、そういうようなことを考えるのが地区計画ですと申し上げた。ですから、地区計画を立てる場合も、住民合意ですが、住民合意が何のラインに沿っての合意かという、そこをきちっと位置づけることを専門家がもっとしなきゃいけないと思っているんですね。ただ、それが走り出しますと、それを余りやり過ぎるとヒトラーだと言われまして危いところなんですが、そこはやっぱり専門家というのはそういう判断をきちっとしますから。  それで、西ドイツは、これも御存じだと思いますが、建築原則禁止の国でございます。日本は建築原則自由の国でございます。それからもう一つその根底にありますのは、私はやはりドイツの場合の戦後の土地改革と、日本の場合の土地改革との基本的違いがあるんじゃないかと思うんですね。何がゆえに日本で建築自由を持ってきたかというのは、やはり戦後のあのときの非常に思い切った土地改革、あれをどういうふうに国民全体にその土地改革の結果を享受させるようにすべきかというところで、おのずからヨーロッパ、西ドイツと違う建築自由の原則というのがやっぱり維持されてきたんじゃないかと思います。
  30. 勝木健司

    ○勝木健司君 伊藤先生はお伺いしたいと思います。  国土の均衡ある発展を図っていくためには、さきに策定されました四全総、これを実効あらしめる必要があるというふうに考えます。従来の総合開発計画というものは計画倒れに終わっておるんじゃないかということで、決して成果が上がったとは言いがたいというふうに思います。  そこで、四全総を実効性あるものとするために、首都機能の移転ということだけではなく、もっと土地利用計画あるいは土地利用政策の面で具体的にどのようなものが必要であるか、お伺いをしたいというふうに思います。
  31. 伊藤滋

    公述人伊藤滋君) 私は、国土計画というのは基本的に地方振興計画だと思っております。ですから、東京大阪でつくり出した富を、所得移転という言葉がございますが、それでうまい形で地方に持っていって、地方がそれを有効活用するということではないかと思っておりますが、私は国土計画のもう一つの重要なことは、お金地方に投入してもそれは利を生まない金であるということを銘記しているのが重要だと思うんですね。先ほど申しましたように、森林の維持なんてこれは絶対に利を生まないんですが、これに今お金をかけないと日本国土は大変なことになるということをやっぱり四全総や国土利用計画では言っているのではないかと思っております。  それで、それはさておきまして、地方を元気にさせるというためにどういう手をとったらいいか。率直に申しまして、私、農業それなりにある意味で地方人たちが非常に使いやすい、隅々までしみ込むお金農業にかかわる公的な補助というのは持っていると思いますね。私はそれをもう少し、今までの農業だけではなくて、農村生活の向上ですね。農村環境をよくするとか、集落をもっと、今の死んでいるような眠ったような集落ではなくて、そこに若い人たちも来てもらう、そういうふうに農林省のお金をもっと積極的にお使いいただくということがかなり意味があることじゃないかと思うんですね。これはやっぱり新しい領域でございまして、お役所というのは縦割りですから、そういうことを言ってもお金は右から左へ、一つの局からほかの局へ流れませんけれども、私はそういう方向を助長していくというのは大変重要だと思うんです。  そういう点では、一番いい例が集落下水ですね、家庭排水。ああいうものを進めていくということはやはり農村の環境を、今までの都市と農村の対比ではなくて、農村の中にも都市のいい面が入ってきたということを知らせる点では大変有効であると思います。  それからもう一点は、地方にとってはしっかりしたチャンピオンになる都市を育てていくということが大事だと思いますね。これまではどういう都市も、一つ都市が独立して、必ず人口がふえて、工場が来て、市長さんは次に再選されてと、こういう図式をみんな表向きに打ち出していたんですが、実はそうではございませんで、先ほどのように、みんながネットワークになって肩を組んで、そして盛り立てる都市をサポートして、それで地方圏の新しい人口や産業の組みかえ方、それを考えていくということをやらないと、知恵も出ませんし金もまとめられませんし、東京に依然としてべったりの形になっていくんじゃないか。  そういう点で私考えてみますのに、これからは、都市人口が約五十万ぐらいの都市ですね、都市人口が約五十万ぐらいの都市になるべく地方都市がうまくネットワークを組んで、まとまっていくということをやる必要性があるんじゃないか。五十万ぐらいの都市になりますとしっかりした病院もありますし、大学もちゃんとした先生がしっかりと教える自信もお持ちになれますし、財政的な面でも非常に腰が強くなりますし、そういう点ではやはり都市人口五十万。そうすると多分、何というんですか、第二次産業ですね、第二次産業も地場の力で頑張っていける地場産業が育っていくと思うんです。そういうようなことをひとつお考えいただきたい。それを多分四全総では、一日生活圏というような言葉で間接的に述べているのではないかと思っております。
  32. 勝木健司

    ○勝木健司君 時間も余りありませんので井下田先生に。  国民負担を社会保障費として求める前には、やはり福祉ビジョンとかそういう国民の負担のあり方というものを国民に明らかにすべきだというふうに思いますけれども、いきなり新型間接税の導入とかそういう問題もありますし、また福祉目的税構想というのも賛否両論あるわけでございますので、先生の考え方をお聞かせいただきたいというふうに思います。
  33. 井下田猛

    公述人井下田猛君) 時間の制約もありますから一分ぐらいでここの場ではお答えせざるを得ませんけれども、投網式に広く導くといったいわゆる間接税方式の御議論がもちろん世の中にもあります。しかし、もともと社会保障という理念は、人の所得の再配分あるいは再分配とかかわって、お互いの実質生活のかさ上げを社会的に図ろうとするものが多分社会保障と言わざるを得ませんので、この定義にのっとれば、今あえて低所得の、生活に、あすの御飯の問題に困っている国民がなおかつ余分な税負担を重ねた上でお互いの社会保障とかかわる部分を拡充するということは、もともとできないことだと言わざるを得ないのじゃないでしょうか。  この意味でも、直接税とかかわってもっともっと国民的な御論議を、多様な観点から、しかも性急に議論するのではなく、それは昨年の例の売上税がよい教訓でもあるわけですし、政治というのは先ほども申し上げましたように多様な価値観の社会的な調整や統合の作業だと思いますから、これだけ人の価値観が、あるいはこれだけ人の考え方も違っているわけですから、二十一世紀を展望する社会保障とかかわる中身を私どもがっくり上げることがお互いの今日的課題として与えられているという前提条件に立つならば、そうたやすく、性急に結論を急ぐ筋合いのものではないことだと言わなければならないのじゃないでしょうか。
  34. 勝木健司

    ○勝木健司君 ありがとうございました。
  35. 青木茂

    ○青木茂君 時間が少ないものですから、主として伊藤先生にお伺い申し上げます。  まず一つは、東京二十三区内に千八百ヘクタールですか、新宿区の広さと同じぐらいの農地があるわけですね。そういう現実をどう御認識なさるかということが一つ。  それから、それ等を受けましてもう少し、ちょっとフィロソフィーがかってくるんですけれども、どうも我が国では私益のために公益が、公の利益が犠牲にされる、逆に公益の名で私益が群がってくるというような現実がございまして、それが日本の国を非常に混乱させている。前者の例で言うならば、都区内の農地のために住宅や公園が犠牲にされている。後者の例で言うならば、道路整備の中に建設業界が群がり寄ってくるというような点、ここが非常に問題だと思うんですけれども、先生の御見解を自由に、私もうこれ以上質問いたしませんから、あと全部時間を使ってくださって結構ですから、伺いたいと思います。
  36. 伊藤滋

    公述人伊藤滋君) 前半の問題についてお答えしますと、二十三区の中にもし農地があるとすれば、それは地震、災害のために避難すべき緊急で絶対必要な場所であるというのが一つの重要な理由だと思いますね。ですから、そういうところはもう絶対市街地にしない、農地としてずっと保全するというような意味で除いて、あとは私はやっぱり宅地並み課税を当然していく場所だと思っております。  それから後者のフィロソフィカルな点でございますが、確かにこれはあらゆる社会で青木先生のおっしゃったようなことが起きるわけでございます。ですからある程度はその辺清濁あわせのまなきゃいけないんですが、とにかくこのごろは目立ち過ぎますね、公の目的のために私が群がるとか、私のことを公が支えるということが目立ち過ぎます。  ただ、青木先生がおっしゃった道路をつくるために建設会社が群がるという、これはやはり道路は建設会社しかつくれませんから、やはりそれは、建設会社がその道路をつくるときに、ちゃんとうまく筋道立ててその仕事をとっていくという問題じゃないかと思うんですね。  私それに関連して申し上げたいことは、これからは道路も、余りそういう今までの既存の権利について侵されてないような場所についてもっと道路をつくる、あるいは鉄道を敷くことを考えていくべきだと。その点で非常に重要なのは私は地下スペースの問題だと思うんですね。地下の問題というのは、これもまた地下について、おれの権利はここまであるなんということを、地球のしんまでなんということを言い出したら大変なことになるわけで、重要なのは地下でございまして、なるべく空中は余りいろんなものをつくりたくないんです。国鉄の用地の上にまた道路をつくれとか、ああいうことは極めてうっとうしい、それこそ町を汚しますから。やはり地下をきちっと使って、安全な地下の都市基盤があるというふうにしていただきたいと思います。
  37. 原文兵衛

    委員長原文兵衛君) ありがとうございました。  以上で国土利用土地問題及び社会保障に関する意見聴取は終了いたしました。  一言お礼を申し上げます。  伊藤公述人井下田公述人には、それぞれのお立場から貴重な御意見をお聞かせいただきまして、まことにありがとうございました。委員会を代表いたしまして衷心から厚くお礼を申し上げます。(拍手)    午後一時から公聴会を再開することとし、休憩いたします。    午後零時七分休憩      ─────・─────    午後一時開会
  38. 原文兵衛

    委員長原文兵衛君) 予算委員会公聴会を再開いたします。  一言ごあいさつを申し上げます。  柏木公述人、富岡公述人におかれましては、御多用中にもかかわりませず本委員会のために御出席を賜りまして、まことにありがとうございます。委員会を代表いたしまして心から厚くお礼を申し上げます。  本日は忌憚のない御意見を承りまして今後の審査の参考にしてまいりたいと存じますので、どうかよろしくお願いいたします。  次に、会議の進め方について申し上げます。  まず、お一人二十分程度の御意見を順次お述べいただきまして、その後委員の質疑にお答えいただきたいと存じます。  それでは、これより順次御意見を承りたいと存じます。  まず、国際金融・為替につきまして柏木公述人にお願いいたします。東京銀行会長柏木雄介君。
  39. 柏木雄介

    公述人(柏木雄介君) ただいま御紹介いただきました東京銀行の柏木でございます。  私は、本委員会におきまして公述できる機会を得ましたことを大変光栄に存じております。本日、私は国際金融・為替問題に関する私見の一端を申し述べてみたいと存じます。  戦後四十年余り、我が国は灰じんの中から立ち上がり、世界でもまれに見る発展を遂げ、今や世界のGNPの一五%近くを占めるまでになりました。これはまさに日本国民の英知と努力のたまものにほかなりません。ところが、一九七〇年代に入ると、日本の発展とは裏腹に、日本を取り巻く世界経済環境にいろいろな問題が生ずるようになりました。その結果、我が国の経済発展が外部世界の諸問題によって制約される一方、外部世界もまた規模の拡大した日本経済から影響を受けるという相互的な関係が生じました。このような日本経済と外部世界との間の相互関係が最も顕著にあらわれるのが国際金融あるいは為替相場の局面ではないかと思います。  それでは次に、過去数年間に国際金融あるいは為替相場の局面で生じた三つの大きな問題を指摘したいと存じます。  まず第一の問題は、主要先進国間で生じた大幅な経常収支の不均衡であります。例えば一九八七年のアメリカの経常収支を見ますと、千六百億ドルの赤字になっておりますが、これに対し我が国は八百七十億ドルの黒字、また西ドイツは四百四十億ドルの黒字となっております。  第二の問題は、為替相場の大幅な変動であります。例えば円のドルに対する相場の動きを見ますと、一九八〇年末から一九八五年二月末にかけまして約二〇%下落しましたが、その後は上昇に転じ、今日までに約一〇〇%の上昇を記録しました。ドル相場は円に対してだけでなくマルクやその他の先進国通貨に対しても大幅に下落したことから見ますと、それはやはり主としてアメリカ側の要因を反映したものと言えましょう。  第三の問題は、先進国間の経常収支の不均衡と為替相場の激変が国際金融に悪影響を及ぼしていることでございます。その最大の被害者は発展途上国でありますが、いわゆる発展途上国の債務問題については後ほどまとめてお話ししたいと存じます。  以上述べましたように、世界経済は、経常収支の不均衡、為替相場の激動、発展途上国の対外債務という三つの基本的な難問を抱えておりますが、ごく最近の状況に限定して申し上げますならば、日米欧のいずれの経済を見ましても、経済の成長、為替相場の安定、国際収支不均衡の改善、物価の鎮静といったように、予想外の好調を保っております。  世界経済が予想外の好調を保っている要因の一つは、昨年十月の世界的な株価暴落の影響が思ったほどでなかったことが挙げられます。しかも、株価暴落の影響は悪い面だけでなく、当時頭をもたげつつありましたインフレ心理や金利先高感を鎮静させたと、歓迎すべき効果を発揮いたしました。インフレ心理や金利先高感の鎮静化は、原油価格の下落や民間設備投資の拡大を通じまして景気回復につながりますので、OECDもことし年央には久方ぶりに先進国の景気見通しを上方修正する意向であるやに伝えられております。  もう一つの要因は、最近になってようやく為替相場調整の効果があらわれ始めたことであります。最近数年間に生じました各国通貨の為替相場変動は、戦後初めてと言えるほど大幅かつ広範囲なものでありましたから、だれもが急速かつ顕著に効果があらわれるものと期待いたしました。しかし、実際には世界経済における反応速度は私どもが考える以上に緩慢なものでありまして、予想以上に時間の長くかかることがわかりました。  アメリカ政府筋もこのことをようやく理解したようでありまして、最近はみずからドルの下落を進めようということを控えるようになっております。この背景には、為替の変動の影響が出るには時間的ずれが多いということに対して理解が深まったことのほかに、事実としてアメリカの輸出が実質ベースで増加傾向を示していること、日本や西ドイツの輸入が増加を続けていることなど、為替相場調整の効果が現にあらわれ始めたという事実があります。これらの要因が相まちまして、最近見られますように、為替相場の予想外の安定推移が続いているわけでございます。  このように、世界経済は現在のところ予想外の好調を保っておりますが、前に述べました三つの大きな問題は基本的には未解決のまま残っているわけでありますから、中長期的に観察するならば、現在見られる好調は危ういバランスの上に成り立ったものであると申さねばなりません。  現在のアメリカ経済は、六十四カ月に及ぶ連続成長記録を更新するなど、完全雇用に近い失業率、貯蓄率の回復、投資の増加、輸出の増加、物価の安定を実現し、表面的にはまことに好調であります。しかしその一方で、双子の赤字と言われる国際収支の赤字と財政赤字は着実に累積いたしております。そこに見られるのはまさに微妙なバランスであり、アメリカ政府はそのようなバランスをいつまでうまく保つことができるのか、これが問われているのであります。次の大統領にだれが選ばれるかにかかわりなく、中長期的に見れば、アメリカ政府はこの双子の赤字の累積にブレーキをかけ、次にそれを減少に転ずる政策をとらざるを得ないのではないかと思われます。問題はその過程でアメリカが景気の後退あるいはインフレに陥る危険性があることであります。  以上述べましたアメリカの状況は、世界経済の縮図と言ってもよく、したがいまして、今後アメリカが経験するでありましょう景気の継続かあるいは危機的状況に陥るかは、世界経済にも大きな影響を及ぼすものであります。  かかる状況のもとで、世界経済のインフレなき安定成長を実現するためにはどうすればよいのか。次にこの点について申し述べてみたいと思います。  世界経済のインフレなき安定成長を実現するためには、前に述べましたように、国際金融あるいは為替相場の問題がありますので、私は、一九八五年のプラザ合意後ようやく本格化したマクロ経済政策の国際的協調に磨きをかけることがまずもって緊要であると考えます。政策協調の歴史は、ある意味では第二次大戦直後のブレトンウッズ体制の成立にまでさかのぼることができますが、政策協調が世界経済の大問題を解決する対策として本格的に使われ始め出したのはプラザ合意からでありまして、したがって本格的な政策協調の歴史はまだ比較的浅く、現在はようやく基本原則が確立した程度の発展段階にあると申せます。  政策協調の基本原則とは、それは極めて簡単明瞭なことでありまして、すなわち、経常収支の赤字国は内需を抑制し、経常収支の黒字国は内需を刺激するということであります。これは余りにも当たり前のことでありますが、斬新なのは、政策協調という名が示すように、赤字国と黒字国が足並みをそろえて同時にそれぞれの政策を実施する点にあります。政策協調を行う場合、赤字国と黒字国でそれぞれどの程度の強さの政策を発動すべきかはG5とかG7といった国際的な話し合いの場で決められますが、そのような話し合いの過程で各国の経済政策実施上の国家主権といったものは多少とも制約されることになります。したがって、政策協調が進むほど各国政府は対外的コミットメントと内政上の利害をどう調整すべきかに悩まされることになりましょう。世界経済の安定成長のためには、いずれの国もある程度国内の犠牲を忍んで世界の利益を守る必要がありましょう。  次に、発展途上国の債務問題に関して申し述べてみたいと思います。  昨年初め以降最近までの債務問題をめぐる主な働きとして、次の三つのものがあります。  まず第一に挙げられるのは、債務国と債権銀行の関係に新たな展開が見られたということであります。債務国側について申しますと、一部の債務累積国では、それまでの経済調政政策の破綻、輸出需要の低迷、金利の上昇などを背景に、債務負担が増大しただけではなく、国内の政治的圧力もあり、債権銀行に対して強硬姿勢をとる動きが目立つようになりました。昨年二月、ブラジルが民間銀行に対する中長期債務に係る金利支払いを停止したのを初め、エクアドル、ペルーなど債務累積国による債務支払いの一方的停止が相次ぎました。  一方、銀行側にも債務国の強硬姿勢に対応する新しい動きが見られました。昨年五月、大手米銀であるシティコープが第二・四半期の決算において赤字を覚悟で発展途上国向け債権を対象とする貸倒引当金の大幅積み増しを行いました。他の大手米銀、カナダ、イギリスなどの銀行もこれに追随いたしました。これは、民間銀行が経営の健全性維持と万一の非常事態にも備えつつ、債務国との交渉において、場合によっては強い立場で臨もうとするものでありました。  第二は、昨年九月のIMF・世銀総会でアメリカのベーカー財務長官が新しい対応策の推進を提唱したことであります。これは、一九八五年に同長官が提唱したベーカー構想を一層進展させるため、債務国並びに債権銀行が採用可能な選択肢として債務の株式化を初めとする九つの新しい対応策を提示し、債務問題解決策の多様化を促したものであります。例えば、昨年末にメキシコ、アメリカ両政府は、米国財務省が発行するゼロクーポン債を担保に、メキシコ政府が発行する新型国債と民間銀行の対メキシコ債権を交換することによって、メキシコの債務負担の軽減を図る新たな方式を発表し、本年二月にはその入札が実行されました。  第三は、一九八七年二月に利払い停止措置をとったブラジルの動行であります。同国は、昨年二月以降IMFはよる指導を拒否し続けてきましたが、九月にはそれまでの姿勢を転換し、債権銀行との交渉のテーブルに着きました。その結果、十一月初めには銀行団との間で暫定合意に達し、昨年末から利払いが一部再開されております。この結果、約一年間国際金融問題の一つ焦点になっていましたブラジル問題は、銀行団との話し合いを通じ一応落ちつきを取り戻しつつあるかに思われます。昨年初めにはかなり緊張した場面も見られた累積債務問題でありますが、最近では国際協調のもとに小康状態を得るに至っております。しかしながら、債務問題を真の解決に導くためにはまだ長い時間と道のりが必要であると思われます。  そこで以下、債務問題解決のためには何がなされなきゃならないかという点につきまして、若干私の考え方を申し述べてみたいと存じます。  債務国の経済成長を実現し拡大均衡の中で債務問題を解決していくためには、先進国から資金を導入し、それによって輸出振興、工業化政策など経済再建に必要な適切な政策を実施していくことが基本であります。しかしながら、現実には先進国資金の途上国への還流ははかばかしくありません。我が国政府は、世界最大の経常収支黒字国として既に総額三百億ドルに上る資金還流構想を打ち出し、その半ばを実行に移しております。政府は開発援助の拡大という形で途上国向け資金供給をふやす努力を続けております。ただし、我が国におきましても他の先進諸国と同様財政収支は大幅な赤字でありますから、債務国向け資金の還流は政府資金では容易でなく、民間部門がその中心とならざるを得ません。しかしながら、現状では民間資本の大部分は回収に懸念のないアメリカを初めとする先進諸国に流れてしまっており、真に資本を必要とする途上国、特に債務国には十分な資本が流れていきがたい状況であります。  債務国に必要とされる資金が十分に流れるようにするため、最も重要な施策としましては次のとおりであります。  その第一に、最も重要なことは言うまでもなく債務国自身の自助努力であると思います。債務国は、みずからの経済を安定的かつ持続的成長軌道に乗せるため、経済構造調整を行う必要があるわけでありますが、それには自国の資源賦存状況に適した輸出工業化政策を進めることが基本とならなければならないと思います。また、貿易自由化政策によって自国産業を外国との競争にさらし、合理的で効率的な経済を構築していく必要があると思います。さらに、外国からの直接投資に対しても、輸出工業化に資するものは積極的にこれを受け入れるという姿勢が求められましょう。  以上のような政策が実行されれば債務国内にも投資機会がふえ、逃避した資金が還流をしてくることにもなると考えられます。また、上述の政策によって国際収支が改善に向かえば対外的信用も回復し、民間銀行からの融資も受けやすくなると思われます。  債務国向け資金の流れを拡大する第二の方法は、先進国が債務国の経済調整を容易にできるような環境をつくり上げることであります。先進国は、債務国が輸出を拡大できるよう内需主導の景気拡大を図るだけでなく、自国市場を開放する必要がありましょう。また、金利の上昇を防ぎ債務国の利子支払いが増加しないよう配慮することも重要であります。  第三に、先進国政府並びに国際機関は、民間資金が円滑により多く発展途上国に流れるよう、その障害となっている懸念、すなわち回収できなくなるとの懸念を軽減するため、民間の債務国向け融資に関しまして何らかの形で融資保証を与え、触媒機能を強化することも必要でありましょう。そのためにも、また民間の債務国向け融資に関し貸倒引当金の税法上の取り扱いが我が国でも他の先進国並みとなることが必要でありましょう。この点は今後の税制改革の御審議を通じ御配慮いただきたいところでありますということを申しまして、私の公述を終わらせていただきます。  御清聴ありがとうございました。
  40. 原文兵衛

    委員長原文兵衛君) ありがとうございました。  次に、財政・税制につきまして富岡公述人にお願いいたします。中央大学教授富岡幸雄君。
  41. 富岡幸雄

    公述人(富岡幸雄君) 中央大学教授の富岡であります。  私は大学におきまして税務会計学、租税学を勉強しておる者でございますが、このたび本院にお招きにあずかりまして平素の研究の一端を申し述べる機会を与えられましたことをまことに光栄に存じ、厚くお礼を申し上げます。  お手元に若干の資料を配らせていただきましたが、御配慮ありがとうございました。  私は三つ述べたいと思いますが、第一点は、税財政改革のための基本的前提、これは概略でございますが、まずもってなすべきことは何か。巨額の財政赤字を縮めて国家財政の健全化を回復しその機能を発揮せしめるためには、次の措置を講ずることがぜひとも必要であると考えます。  第一は、高度成長時代に肥大化した行政機構の徹底的な縮小効率化を実施し、行政改革を一段と徹底して断行を願いたいことです。特に、地方の行政改革には特段の御配慮が願わしいと考えております。第二点は、歳出構造の抜本的な改革刷新を勇敢に強行していただき、支出の合理化、効率化による歳出の徹底的削減を強力に推進していただきたいことであります。このためには、甚だ僣越ではございますが、政治改革の断行が求められるかと考えております。さて第三点は、租税理念の原点に立脚して現行税制のゆがみを正して、真の公平原理の回復を目指すところの税制の根本的改革を強力に断行していただきたいことです。そして租税負担の公正化を図りながら適度の増収、増税を図るべきかと考えております。  さて第二点は、きょうの本論でございますが、税の基本的あり方は、その原点である応能負担原理にマッチした公平にして公正な税制の確立が目指されるべきだということです。もう一枚の縦書きの資料がその関係資料であります。まず、現行既存税制の不公正の是正が先であるということです。不公平税制の元凶は私に言わせるとタックスエロージョン、課税ベースの浸食化現象であります。日本の税制の最大の欠陥は課税ベースの著しい浸食化現象だということです。特に直接税制においては、課税ベースに大きな欠陥があり、脱落が多過ぎ、著しく縮小しておるんです。その原因が課税の浸食化、タックスエロージョンが拡大していることとタックスシェルター、税金の隠れ場があちこちにいっぱいあり過ぎるということです。  お手元の資料の縦書きの二ページ目に絵がありますが、丸いのが、十五夜お月さんのような真ん丸が学問的に我々が議論し到達したあるべき課税所得です。課税対象たる所得を満月型としますと、矢印のところが食い込み、虫食い、削られて浸食化しております。見るも無残な姿が日本の税制の現況かと考えます。したがって、高いのは税率でありまして税金ではありません。国民がいろいろ税について関心を持たれておりますが、日本の税金は諸外国に比べて決して高くないのです。しかし、税率は異常に高いのです。この原因は課税ベースの浸食にあるんです。要するにこの課税ベースの浸食を直して税率を思い切って下げていく、これが税制改革の根本ではないかということをきょうは申し上げたいわけです。  縦書きの資料の三ページ目、タックスエロージョンの原因には二つあります。一つは、税の制度的な仕組みにおける欠陥ですね。それから二つ目は、税の執行面における不十分さ、不徹底さでありますね。詳しくは資料を見てください。  まず、課税対象となるべき所得を税の制度的な仕組みである税制面でしっかりと課税客体として位置づけるシステムをこの国会でつくっていただきたいのであります。そして税の実際的な運営面である行政の執行が十分に可能なようないろんな措置、配慮、これもまた国会にお願いし、租税行政府の懸命な努力とその行動に我々は期待をいたしたいんです。  この図の2を見てください。あるべき所得を一〇〇〇としますと課税ベースは三〇〇ぐらいしか把握されていないと思います、制度的に運営的に。したがって税率は異常に五〇%というふうに高いわけです。でも税金は一五〇しか集まりません。これを我々が申しますように理想の姿である一〇〇〇に戻しますと、税率は三分の二以下に下げて三〇%でも三〇〇という倍もの税収が入るのです。これだけで財政再建もあらゆる政治活動も十分になし得るというのが私のきょうの結論であります。  さて、少し時間をいただきまして各論に入りますが、現行の個人所得税制が抱えている不公平さ、これは一口に言いますと、資産性所得に対する課税の欠陥が致命傷ということです。利子配当所得、譲渡所得、株とか土地のキャピタルゲインなど資産の運用及びその転換から得られる所得が課税から脱落し、あるいは特別控除や分離課税などによって軽課、軽く課税されてしまい、このために所得税の理想である総合課税が空洞化してしまっているわけです。目下国会におかれましても先生方が熱心にこの問題の是正につき御配慮していただいていることをよく承知し、敬意を表し、それがよりよく達成されることを心から願ってやみません。  二つ目は、サラリーマンの所得、給与所得など勤労所得が資産性所得や投資所得などに比べて相対的に重いということです。サラリーマンにもかなり大幅な給与所得控除もあり、いろいろ諸外国に比べれば優遇されていると思います。しかし、それ以上に資産の所有者や俗に言う高所得階層がより割安の税金を払っているからサラリーマンの不満が激しいのです。税金というのはバランスですよ、バランス。おれもかなり安いが、隣の人がもっと安いとなると、結局おれは高いなということになりまして、一億二千万の国民がみんな税についての必要以上の不満感を持っているのが今の現状でありまして、まことに嘆かわしいと思います。  三つ目はタックスエロージョン、課税の浸食化によって課税ベースが著しく削られ縮小化しておりますから、税率が必要以上に高いんです。それでも日本の所得税の税率は、六千万ぐらいになると世界一ですが、それよりか下の方は低いんですよね。所得税は限界ではないんですよ。所得税に大いに期待できるんですよ。それがだめだというような議論が一部にあるようですが、これは甚だ残念ですね。後ほどまた述べたいと思います。  課税ベースの縮小化のために所得税率の異常な高水準と累進度合いが急カーブ化し、能力と努力に報いず勤労意欲を阻害する過度に高い所得税率を直していったらすばらしい国になると思います。要するに、個人の所得税制につきましては包括的な課税ベースを実現し、総合課税の徹底による個人所得税制のあるべき姿へ戻ること、改善することであります。また、課税ベースの拡大化による大幅な所得税の税率の引き下げを行い、勤労意欲を阻害する過度に高い個人所得税率の是正をぜひともこの際断行していただきたい。速やかにそのようなことを措置していただきたい。今回の提案にはないようでありますから甚だ残念です。  さて、残された時間を法人税の問題に充てたいと思いますが、まず、現行の法人税が抱えておる不公平さ、これは実態から遊離した課税の基本的仕組みです。もう一つは課税ベースの浸食化ということです。  まず第一は、法人企業の経済的実態から甚だ遊離した非現実的な法人税制の基本的仕組みにしがみついているということです。昭和二十五年のシャウプ勧告でできたいわゆる法人擬制説的な考え方に立った、法人は個人の集まりであり、法人税は個人所得税の前払いであり、法人は架空的な存在であるという議論です。終戦直後の焼け野原の時代は当てはまりましたが、これだけの経済大国になり、世界をまたにかけて活躍されておる巨大企業が存在するこの国において、そのような理論はまさに時代おくれであります。  公開大企業はそれ自体が社会的実在、ソーシャルエンティティーとして存在しておるわけですから、法人税は法人それ自体の所得利潤にかかる税という形に仕組みを根本的に改めるべきです。大企業が財テクと称してたくさんの株を持っています。キャピタルゲインが問題になっておりますが、株の価格が問題になっておりますが、七五%以上は法人が持っておるんです。その巨大な膨大な保有株式から得られる巨額な配当金が、二重課税排除という理由によって課税除外になっているんですね。こんなことは許されません。それは法人税制の基本的仕組みに欠陥があるからです。そこからまず議論していただきたい。そういうことを議論するのが税制改革ではないですか。  二つ目は、混迷した現行法人税制の基本構造のために現出している大企業と中小企業の間に見る課税上の不公平が拡大しています。  三つ目は、やや技術的な話で恐縮ですが、複雑な税務会計システムのメカニズムに埋没しているタックスエロージョン現象によって企業間の潜在的な不公平が拡大しているということです。  四つ目は、税務会計処理テクニックによるタックスシェルターの拡大によってアンバランスな課税ベースの縮小化が進行しているということです。この辺は専門的技術的ですが、ぜひ御質問を願いたいと思います。  五つ目は、租税特別措置の硬直的存在、税務会計制度の変則的弾力化による課税ベースの縮小化のために、企業の活力と生産意欲を阻害する過度に高い法人税の税率構造になってしまっているわけです。国際化時代ですから、べらぼうに高い税率では企業は海外に逃げてしまいます。その原因は、以上述べた課税ベースの縮小、浸食、法人税制の基本的仕組みにあるわけですね。もっとデータを出していただいて、果たして法人の実効税率がどうなっているのか。経済的な意味の真実実効税率がどうなっているのかというデータを、国会は、行政府は国民に知らすべきです。我々研究者が求めても得られないのが実態で、税制改正するにもデータ不足であって、国民は霧の中をさまよっている姿です。この辺、きょうはお願いしたいと思っています。  六番目は、外国税額控除制度の欠陥、制度的な欠陥があります。タックスヘーブンの乱用、乱用というか、むしろ悪用が目に余ります。日本の大企業、大銀行はみんなやっています。やっていないのを探すのが大変なくらいです。さらにトランスファープライシングの乱用など、多国籍企業や国際的事業活動による世界的スケールによる大規模な国際的な租税逋脱行為、租税回避行為が横行し、目に余るのが現状です。キャピタルゲインの是正を速やかにやるとともに、このような法人税の根幹にメスを振るって企業社会にふさわしい立派な法人税制を確立し、租税正義、租税の公正性を確保し、国民の信頼を獲得することが国政への最大の急務であると考えております。  このため、法人企業の経済的実態にマッチした法人税制の基本構造の根本的な改革を進めてください。タックスエロージョンを解消して正常な課税所得概念の実現による課税ベースの適正化を図ってください。また、租税特別措置の乱用防止策の導入や国際関係税制の整備による国家間の公平ということと、国際的次元における公正性の実現が切に望まれます。  第三番目は、時間がなくなりましたが、大型間接税導入問題についての所見を述べたいと思います。結論的に言いますと、今の日本の税制に求められているのは、このような普遍的な間接税を導入することによる平等課税の実現ではなく、現行の既存税制の見直しによる公正と正義の回復であるということです。  第一点は、一般消費税タイプの普遍的ないわゆる大型間接税の導入は税制の不公正を拡大するおそれがあるというのが私の結論です。以下若干述べます。  その根拠の第一は、間接税という税金は、公正な制度、税制と執行、税務行政によって円滑に運営されている所得税にかわり得るものでは断じてないということです。なぜなれば、一般に間接税は直接税に比べて適用範囲が狭く、それほど多くの税収も期待できません。さらに、間接税はその本質からして生活困窮者や生活保護者等には課税しないというような、個々人の生活の実情に応じた思いやりのあるきめ細かい配慮が入り込む余地がないということです。生活が苦しい人にも、収入の少ない人にも、働いて多くの収入を得ておる人にも全く同じ率で、一律に消費税がかかってしまうからであります。  また、間接税は一律平等課税でございますから、累進性を欠き、担税能力、租税負担能力に対していわゆる逆進性を持っております。つまり、所得の少ない人の方が所得に対する税金のウエートが割高になり、相対的に重くなってしまうのです。さらにこれに関連して、逆進性を緩和するためにいろいろな免税措置や非課税措置が考えられますが、課税の中立性を害し、税制の簡素化を阻害し、さきの売上税に見たような混迷と混乱をもたらします。  第二の根拠は、間接税という新しい別な税金をつくっても、現行の所得税制、法人税制という直接税が抱えている大きな不公平やゆがみは少しも改善されないということです。たとえ大型間接税を導入したとしても、消費に対して新たな税金を納めさせたとしても、所得税を不当に免れておる者がそれによってどれだけカバーできるか甚だ問題があるということですね。その他直間比率の是正、タックスミックス論、こういう考え方が最近盛んでございますが、これには根本的に疑問があることを指摘しておきたいと思います。  そして、所得税が負担能力に最もマッチした最良な税金でありますから、公正な制度の確立と適正な執行の確保を急いでやること、そして所得税や法人税の税率をうんと下げてください。これはぜひ必要です。そのためには財源は十分あります。タックスエロージョンの解消によって税率の引き下げは可能であるということです。私は大型間接税の導入には遺憾ながら反対せざるを得ません。新税、一般消費税タイプの大型間接税なき抜本改革こそ真の税制改革であると確信しております。  今の日本の税制に求められておるのは現行税制の見直しによる公正と正義の回復であり、庶民の側に立ち、生活者のための税制改革でなければならないことを申し上げて、終わります。  御清聴ありがとうございました。
  42. 原文兵衛

    委員長原文兵衛君) ありがとうございました。  それでは、これより質疑を行います。  質疑のある方は順次御発言を願います。
  43. 吉川芳男

    吉川芳男君 富岡先生にお尋ね申し上げます。  今ほどは現行税制のゆがみといいますか、欠陥を鋭く追及されているわけでございますが、先生が昨年の文芸春秋三月号、四月号の二号にわたりまして書かれているものを私も拝見させていただきました。若干オーバーな言い方をすれば、目からうろこが落ちるような思いで見させてもらいました。  ここでその表題のみを紹介させてもらいましても、例えば三月号には「税金を払わない大企業リスト」、また副題には「売上税を云々する前にやるべきことがある!」、それから四月号は「これだけある法人税の抜け穴」、またこれにも副題がありまして、「「巨額の財源」を見逃してなんの売上税論議か」、こういうのでございまして、表題だけを見ましてもかなり激烈であると思いますが、こういう内容は大蔵省当局にとってもかなりショッキングなものではなかったかなと思っているわけでございます。  具体的には、大企業の名前を挙げてそれらの大会社がうまく税を逃れているとか、例えば海外に本社、支社の機関を移しているとか、あるいは株式の受取配当所得には税金がかからないとか、高度の、今ほどお話もありましたが節税テクニックを駆使しているとか、こういうわけでございまして、先生の試算によれば、今の税制をもう少しきちっとやれば所得税でも三兆八千億、法人税でも三兆九千億、合計七兆七千億の財源が生まれると、こういう論文でございますが、さすが国税庁に先生が長い間勤務されたという経験から、非常に地についた議論だと私は思いますし、また説得力もあると思うのでございますが、これだけのことを言われたのに対して大蔵当局は、先生に対しまして、じゃ、先生のもっとひとつ詳しいところを聞かせてくれとか、また、いやあなたの議論はこういうところが間違っているんじゃないかとか、当局からのアタックとかがあったものかどうかですね。  それから、これを見せてもらいますと、キャピタルゲインの課税ということにつきましては、今もう減税に伴う各党の税制協議会等で、日曜のあの政治討論会でもどうやら今後やろうというようなふうに話が進んでいますけれども、先生から見ればこれは我が意を得たりと、こう思っていらっしゃるでしょうが、この一番大事な所得の海外逃避等は、これはエロージョンとかタックスエロージョンとおっしゃったですかね、そういうものについて先生は今の税制改革では物足りないというか、さっき大分物足りないような大変きつい御指摘でございましたけれども、どうして先生のそういう情熱を込めたお話が受け入れられないのか、非常に私は心外とするところもありますので、先生の御所見をひとつ承りたいと思います。
  44. 富岡幸雄

    公述人(富岡幸雄君) お答えします。  吉川先生から大変好意的な、私のやってきたことに対して御批判も含めながら、かなり御評価をいただいたようなお言葉を賜りまして、大変ありがたく感謝申し上げます。  私が昨年、売上税の問題につきまして少し物事をはっきり申し上げ過ぎたというような点があるかもしれません。私は、一昨年の十二月初めに自民党の税調及び政府税調等で政府におかれまして売上税を提案されたとき、このままではこの国がだめになる、四十年間かかって所得税、法人税を一生懸命育てて青色申告を進めてきた我々として、そういうものが根底から覆ってしまって、デモクラシーの原則に基づく税のありよう、税の文化、これが崩れてしまうんじゃないかという危機感を持ちまして、少し激しい論文を書いたわけです。  ただ、あれは読み物でございますから、表題その他は出版社がつけるわけですから、まあ本が売れるようにおもしろくしたとは思いますが、内容につきましては全くそのとおりでありまして、真実なんです。あれだけのことを、はっきり商社の名前から銀行の名前、いろんな会社の名前をたくさん出しましたが、どの会社からも個別的に一件も抗議がありません。激励の電話は朝から晩まで鳴りっ放しでした。具体的に、おまえ、おれのところに対して名誉棄損であるとか、けしからぬとかいう議論はないわけです。NHKの「国会討論会」の時間に経団連の代表の偉い先生方も私に大変抗議されましたが、私は最後に、私は常に真実のみ述べております、事実以外述べておりませんという一言で回答が終わったわけですね。でも、このような私のようなささやかな研究が、現在与野党の先生方専門家同士の御協議によってこの不公平税制の是正が非常に前進する雰囲気になったということは、去年とことしの大きな違いですね。大変私はありがたいと思って感謝しています。ぜひ実のある議論をしていただきたいんですね。ぜひそれを早く国会に提案してほしいんです。  私は、つくづく昨晩考えました。税をめぐって何でこんなに日本じゅうが葛藤をしているんだろうか。これは私は二つの税の哲学の葛藤と相克であるというふうに昨晩考えました。  まず、もう一つの考え方はAアプローチとしますが、それは税の原点、理想的な所得課税の再構築を目指して税の原点への回帰のために懸命な努力をしようという一つのチャレンジですね。現存する重大な欠陥の修復作業、キャピタルゲインとか土地課税の是正とか、それから国際課税の整備とか法人税制の整備とか、大変です。大変なことがやられていますね。必ず税制改正というのは、今の優遇税制で得をしている人が抵抗をするんです。それらを守ろうとする集団もありますから、妨害と抵抗があるんですね。その妨害と抵抗をいかに排除できるかが税制改正の成否を決定するわけですが、そのような税の原点に向かって懸命な努力をしていること、それは崩壊の危機に直面している日本の税文化の復興とデモクラシーに基底を置く税哲学の堅持と再構築への願いだと思います。それは応能負担原理に立脚した課税ですね。水平的な公平ばかり強調しないで垂直的公平を大事にする税のありよう、さらには税負担感の明確化ですね。直接税中心から間接税に移して税痛を感じないようにしようというようなことをやめよう、税負担感の明確化ですね。それから安易な税収装置を排除しよう、安易な増収装置を排除しよう、こういうことですね。こういう考え方です。  もう一つは、それに対してBアプローチです。租税環境の混迷の実相を強調するということです。所得税はクロヨンがある、トーゴーサンピンがあって、理想から離れてしまってもうだめだと、そういう現実認識になりて、物わかりのいい顔をしながら、意図的に租税環境の混迷の実相を強調しながらタックスミックス論、直間比率是正論へと傾斜し、消費課税へと移行する妥協的傾向があるわけです。この考え方、これは大変失礼ですが、安易にして便宜的な私は理念なき課税方式への現実妥協によるアバウト課税への堕落だと思います、アバウト課税。少し取っていこうよ、広く薄くみんなで。広く薄い課税、これはアバウト課税ですね。垂直的公平よりも水平的公平の重視、負担感なき課税、間接税への重点移行、安定的な税収構造の確保、国民の抵抗を少なくしながら増税できるような税システムをつくり上げよう、こういうことですね。  それで、何よりも問題なのは不公平税制や不公平税務執行の解明不足です。データを出しません。私があれだけ申し上げているんですから、先生の意見ももっともだが、そんなにないよと、タックスヘーブンにどれだけ行っているか、外国税額控除でどこが問題があるか、データをお出しになったらいいと思うんです。大蔵省や租税行政府、国会もそうですが、データをお出しになっていただいて、もっと科学的に理性的にクールに本格的な議論をしていかなければ税制改革はできませんね。問題をあいまいにし、情報公開を怠りながら国民意見を聞いても、まともな意見が出るはずはありません。クロヨン問題、グリーンカード制の挫折、OA機器課税への抵抗、そして今納税者番号をめぐるプライバシー論議。何かやろうとするといろんな議論が巻き起こっちゃって、租税環境の混迷の実相を強調してぼかしちゃう、こういうBアプローチです。  私は、Aアプローチ、税の原点に立ち戻ろうという真摯なアプローチと問題をぼかそうというBアプローチとの相克と闘いが、今国会をめぐり日本列島をめぐって行われているんじゃないかと思います。私は税の原点に立ち戻ったあるべき姿をもう一度求めたい。この国は理想的な申告納税制度、所得税中心でやっていける国なんだ、高い文化の国である。日本の税文化の復興を願いたい。吉川先生の御好意ある御質問に感謝しながらお答え申し上げます。ありがとうございました。
  45. 吉川芳男

    吉川芳男君 先生の現行税制のゆがみ、ひずみを正せばもう税源はあるんだという強い信念のようなお話を聞きますと、これからどうも質問しづらいんですけれども、これはしかし一般には、二十一世紀高齢化を迎えて、そして今先生もおっしゃるように、給与所得のみに税を求めるということになれば、給与所得者の税痛というものは加わるんだと。やっぱりこのあるべき姿というものをどうするかということで、今一生懸命政府税調もまた一般も悩んで模索をしているわけでございます。  そこで先生に、税と保険料等のプラスの国民負担率というものが、どのくらいのところが国民が負担の限界とするところなのかということも一つ聞かしてもらいたいことと、いま一つは、これは先生が冒頭申されたように、直接税でもってやればできるんだとおっしゃいますけれども、一般にはやっぱり間接税を導入してという声が相当あると思うのでございますが、そこで、これまた直接税と間接税をどのくらいの割合にするのが国際的に見ましても日本にとって非常にいいところなのかということをひとつお聞かせ願いたいと思うんです。  それから、先ほど間接税の話の中で、先生は低額所得者に対して非常に税がつらく当たる。税の専門家は、間接税は逆進性に行くんだということをよく言われるんですけれども、一番所得のない人というのは、先生もおっしゃるとおり生活保護世帯だと思うのでございますが、これ平均十五万としますか、あらゆるものに仮に一%間接税をかけるとするならば、この御家庭には一%といえば千五百円余計生活費に負担がかかるわけです。そうすれば、その分を生活保護費に足しておあげすれば、私はそれほど間接税がその家庭に痛みを与えるというものではないと思うのでして、どうも日本の国は税制と社会保障と一緒に物をやろうとする悪い点が私はあると思うのでして、税制は税制、社会保障社会保障というふうにきちっと縦分けするならば、私は税の逆進性とかあるいは低所得者につらく当たるとかということはあり得ないと思うのでございますが、第三点として先生の御所見を承っておきたいと思います。
  46. 富岡幸雄

    公述人(富岡幸雄君) お答え申し上げます。  国民負担率をどのくらいに見るかという議論でございますが、これは基本的な問題でございまして、国会におかれましてもこれらにつきましては長く真剣な御検討をなさっていらっしゃるわけですが、行革審等の意見によりますと、四五%、五〇%を超えないように、できれば四五%ぐらいをめどにするというようなデータも拝見しておりますが、これは問題は分母ですね。国民所得がどのくらいになっていくかによって変わってきますね。国民所得と租税負担及び社会保険料負担の割合ですから、分子の議論とともに分母の議論もなければなりませんね。  日本という国は非常に企業の活力のある国でありまして、それから企業の所得も非常に大きい。そして、そこで働く多くのまじめな優秀な勤労国民の所得も次第に向上しつつあるというわけですから、国民所得はこれから政府の施策のよろしきを得てどんどんどんどん伸びていくのじゃないか。かなり堅調な足取りでふえていくのじゃないか。ですから、全体のパイが大きくなれば、いろんな施策を豊かにやっていただいてもそんなに国民の負担率は高くならないんじゃないか、高くならないのが理想なんだということですね。これは毎年毎年の経済政策や予算審議の過程を通じて、そのときそのときについてお考えいただくべきことかと愚考いたしまして、アプリオリに何%までがいいとかというような議論をすることは余り生産的でないというように私は実は考えております。  同じ問題が、先生二つ目の質問の間接税にも応分の負担をと、いわゆる直間比率の是正ということについてどう考えるか、こういう貴重な御質問であります。これは大変難しいことでございまして、国会でも、国会議員の先生方が総理に向かって直間比率のありようを問われ、総理も答えようと約束されながら、結局はそれは難しいというようになったように新聞等で承っております。総理大臣や大蔵大臣が答えられないようなことを一地方大学の教授がここで答えられるはずはもとよりないと思いまして、先生の私への激励だというふうに承りながらこれから私の見解を述べていきたいと思っています。  まず、間接税に重点を移すというわけですが、間接税に重点を移すことがなぜ公平になるのかということがさっぱり議論されていないということです、大事なことは。間接税に移すことによって日本税制全体がフェアネス、公平になる、公正になるということをもっとはっきりひとつ言ってもらいたいわけですね。この点はやはり大事なことです。そして果たして直間比率の是正なる議論が必要かどうか、私はそれを議論するためには、まず直接税とは何か、間接税とは何かというコンセプトの議論がなきゃだめだと思います。そこに疑問があるんです。断定できないんです。それから、比率も断定していません。政府税調の答申を幾ら読んでも直間比率の是正、直間比率のあり方はかくあるべしという議論はほとんど述べられておりません。  特に私が指摘したいことは、直接税と間接税の区別は相対的な概念だということです。直接税という言葉は、税負担が他に転嫁されないことを立法者が予定してつくった税であるというように学問的には考えております。ところが、絶対に他に転嫁されないような税金なんというものはこの世の中にはありません。そういう意味で、直接税と間接税の区別は相対的な概念であります。例えば大企業の法人税、寡占企業とか独占に近いような企業の法人税というのは製品価格に転嫁することができます。法人税を製品価格に転嫁したとすれば、それはまさに間接税になりますね。それから、昨年中曽根内閣が御提案になった売上税のような税金は、中小企業とか構造不況業種とか、買い手市場の場合には値切られますから税の転嫁ができなくなりますね。そうなりますと、中小企業やそういう事業者にかぶせられる新たな直接税、第二法人税、第二事業税になるという議論で国民が燃え上がっちゃったわけですね。そうなってくると、大型間接税のチャンピオンとして登場した売上税も場合によったらば直接税になりかねませんね。ことほどさような議論です。  学問的に言いますと——ここに線を一本引っ張ってください。一番こちらの左側が純粋な直接税、こちらが純粋な間接税とします。あらゆる税はその中間にあるんです。どちらかというと所得税は純粋な直接税に最も近い。法人税なんてかなり真ん中をうろついていますよ。固定資産税だってそうです。固定資産税だって、もし固定資産、土地に税金をかけた場合に、他人に貸している土地にかける固定資産税ならば、地主さんは地代の値上げという形でその固定資産税を地代に含めて借地人からいただきますね。転嫁していますね。そうなってくると、これはもう間接税ですよ。税金というのはことほどさように複雑怪奇なんですね。そういうものなんです。  ですから、アプリオリに直接税、間接税の比率を幾つにするというような議論は、大変失礼ですが、私はそういう意味で余り生産的でない、こういうふうに考えます。法人税はどうあるべきだ、所得税はどうあるべきだ、物品税はどうあるべきだ、それぞれの税金がどうあるべきかということをそれぞれ租税の原理、原点に従いながら、その国情、その国の国民生活や経済社会、民度、文化の状況に合わせながらやっていくということが税のありようではないか、こういうふうに考えております。  それから最後に先生御質問の、生活保護者に十五万円の場合一%の税金をかけても社会保障費をふやせばよろしいんじゃないかとおっしゃいますが、私は確かに貴重な意見だと思います。ぜひそういうふうにしてやっていただきたいと思います。ただ、大型間接税、EC型付加価値税ができた場合、一%や五%でとまらないわけですね、各国で、やっている国で一けたの国はないんですから、みんな二けたなんですから。一五%とか、大きい国は二〇%になるわけですね。そういうような巨額な生活保護費を出すことが将来できるかどうか。集めた税金から生活保護費を渡してやってそれから税金を取る。タコみたいなものですよ。手足を食うんですよ。そんなむだなことはやめた方がいいですね。考え方としては結構です。結構ですが、やはり所得税も納めることがないような人、住民税も納める権利のないような人にまで間接税と称して一律課税をするような普遍的な間接税だけは、ぜひとも自民党はやめていただきたい。そのことをお願いしてお答えにいたしたいと思います。ありがとうございました。
  47. 大木正吾

    ○大木正吾君 柏木会長にお伺いいたします。  今、円が百二十七円ぐらいで落ちつきまして、アメリカの貿易赤字も百二十億ドルから百三十億弱ぐらいでどうやら小康状態を保っている為替状態でございますけれども、私たちが見ておりますと、今度のアメリカの財政赤字の削減の中身あるいは防衛費の関係、そういったところを見ていきますと、やはりアメリカの政府なりあるいは議会、そして国民全体も、世界の基軸国たる自国の通貨、そして自分たちの国の国際的な責任、そういった問題についてどうも自覚が少々薄いといいましょうか、乏しい、こういう感じがするんですが、柏木会長、どういうふうな御感触でしょうか。
  48. 柏木雄介

    公述人(柏木雄介君) お答えいたします。  今先生から御指摘のように、為替相場の方はどうやら若干落ちついてきたかに見えるけれども、アメリカの財政赤字の状況、殊に歳入歳出の状況あるいは国際収支の状況から見て、これでアメリカとして十分やって、将来大丈夫だろうかという御質問かと存じますが、その点につきましては、私は、なるほど確かに現在は小康状態を続けておりますけれども、決して安心するわけにはまいらないと思います。やはり現在のアメリカが持っている二つの赤字の問題の解決のためには、アメリカとしてもっともっと努力が必要なのではないかというふうに考えます。  アメリカもことしは選挙の年でありますし、国内上いろいろな問題があろうかとは存じますけれども、やはりドルの安定はひとりアメリカのみならず世界のためにも必要であるというふうに考えるならば、アメリカも国内上の問題がいろいろあるにせよ、その国際的な配慮からもっとドルの安定ができるような財政赤字の縮減あるいは貿易赤字の縮減について努力すべきであると思います。
  49. 大木正吾

    ○大木正吾君 重ねて柏木会長にお伺いいたしますが、これは日本の側の問題でございますけれども、本国会でも大分議論になりましたが、日本の場合でも財政赤字は極めて大きな残高がございまして、内需問題の政府関係の支出も足を引っ張られているわけでございます。そういった中で、どうして私たちが、世界一の債権国あるいは世界の経済の一割強を日本の経済が結果的にはいろいろ担っている。そういったことを考えますと、債務国の話が大分ございましたけれども、債務国あるいは途上国等々に対しましてどのような方法で、言えば世界経済全体をマクロで見たときに、将来安定的な状態に持っていくためにはどのような方法があるかどうか。  私見でございますが、例えば日本の民間の資金を何らかの方法で、安い利子で相当多額の円借款等を与えながら技術援助等も水平分業等考えながらしながら、そしてそれに対して若干の政府が保証なりあるいは交付金等を考える、そういったこと等が考えられるわけでありますが、民間資金の活用以外に手がないと思うんですが、それについて柏木会長はどういうふうにお考えでしょうか。
  50. 柏木雄介

    公述人(柏木雄介君) お答えいたします。  今先生がおっしゃいましたのは、いわゆる黒字国責任を日本はどうやって果たすのであろうか、どう果たすべきであろうかという御質問かと思いますが、まず第一に、やはり黒字国は、先ほど私が申しましたように、内需拡大に努力すべきであると。日本成長率が現在三%台であるとすれば、その成長率をさらは高めるということも必要だろうかと思いますし、日本の経済の大きさは先ほど申しましたように世界の一五%であれば、その一五%が拡張するということはそれだけ世界の各国、先進国のみならず発展途上国の景気をも支える大きな要素であろうかと思います。特に、発展途上国は一次産品を多く輸出いたしておりますけれども、日本の景気が高まるということは、日本の輸入がふえ、輸入物資も非常に多くが一次産品であるとすれば、直接発展途上国に寄与するわけでございます。  第二に、日本の市場開放があろうかと思います。これだけの黒字国ともなれば、日本の市場が日本の独占するところではなくて世界各国にも開放してしかるべきではないかと思います。発展途上国に対する市場開放は、国によって違いますけれども、直接的にその国に寄与するところが大きいと存じます。  三つ目に、やはり黒字によって蓄積される日本のいわば余剰でございますが、その利用方法でございまして、日本における貯蓄率が高いことなどから日本では国際収支が黒字であり、その黒字も非常に大きな金額になったわけでございます。一昨年でしたか、GNPの四%を超える黒字になったわけでございますが、そういうような異常に大きな黒字をいたずらに累積するというのでなくて、それをうまく発展途上国の発展のために還元するということが必要かと存じます。  問題は、やはり黒字国の黒字の還元をどうやって達成するかという問題でございまして、今先生御指摘のように、国はなかなかできないけれども、民間でやらないか。国は財政難の折からなかなか難しいんだから民間でやってほしいというふうにおっしゃったように伺いましたが、財政が苦しいということはこれまた事実でございますけれども、財政が苦しいからできないということでは問題の解決にならないのではないか。やはり苦しい財政の中からでも発展途上国のためにできるだけの努力をするというのがやはり日本としての、世界最大の黒字国、世界最大の資産国、一人当たりGNPも日本が最近はもう世界一になったと言われております。そういうときにやはり苦しい財政の中からもっと多くの資金を還流するように努力すべきではないか。明年度予算におきまして政府開発援助を少しふやすようにいたしておりますけれども、恐らくはたから見れば、発展途上国の側から見れば、そのふえ方がまだまだ少ないという感じがしておるのではないかと思います。政府のそういう財政の苦しい中でも、さらにさらに努力があってしかるべきではないかと私は思います。  最後に、民間資金がどうしてもっと流れないのか、安い金利でもっと円借などを出してはどうかというお話でございますが、民間資金の場合には、率直に申しまして銀行で申しますと、これは何も私どもの自分の金ではなくて、やはり預金者から預かった金であり、また民間企業はやはり株主というものがございまして、株主のことも考えないで何事もできないわけでございまして、そういうことを考えると、民間企業、民間の銀行としまして非常に回収にリスクがあると考えられる場合にはなかなか資金が出しにくいのが実情でございます。  でありますから、民間資金の供出をより多く円滑にするためには、まずもってその民間資金がより流れやすいような仕組みをつくることが必要かと思います。これにはまずもって受け入れ国側の債務国がやはり信用度をつける、貸すに値する国はなるということが必要であると思います。しかし同時に、非常に回収困難の危険が大きいとすれば、回収困難の大きい危険をどうやって緩和するかということにつきましてやはり政府がもう少し配慮していただいていいんじゃないか。例えば、税法の問題をとりましても、あるいは銀行監督の規制上の問題からいたしましても、もっと貸しやすいようにすべきではないか。  率直に申しまして、現在の日本の税法は質倒引当金につきましてはほかの国には例を見ないほど厳しいものがございます。ほかの国では、大体貸倒引当金については全額無税積み立てができるところを日本ではわずか一%しかできません。このたび、発展途上国に対する、問題国に対する貸し付けの引当金は五%から一〇%に引き上げるよう先般大蔵省から指導の通牒が出ておりますが、この五%を一〇%に引き上げるために、では税務上何か配慮があるかと申しますと全くございません。したがいまして、どこの銀行でもこの五%積み増しをするために、まあいわば含み資産にも属する株式を処分して、いわゆる益出しをしてこれを積んでいるわけでございまして、その益出しに対しては六〇%近い法人税がかかっておるわけでございます。そのような制度のもとで、どんどん発展途上国に対する融資をふやしなさいということを指導だけでやろうということは、私は率直に申しまして無理だと思うのでございます。  そういうことでなしに、もし国の政策として、国ができないから民間でやってほしいと言うのであれば、民間でやれるような環境をつくっていただく、税務上あるいは会計上もできるような仕組みをつくっていただけば、それは民間金融機関としても十分考慮に値するんじゃないかと思います。
  51. 安恒良一

    ○安恒良一君 私は、富岡先生に三点伺いたいと思います。  一つは、今法人税のあり方についていろいろうんちくを傾けられたお話がございましたが、我が国の大企業のうちで、巨額な営業上の利潤を上げている、ところが日本の法人税はほとんど納めていないという企業があります。これは、現行の外国税額控除制度た大きな制度上の欠陥があるというふうに私は考えますが、これらの現行制度の問題点と改革について先生の御意見を聞かしていただきたい。  二つ目には、直間比率是正論や、所得、消費、資産に対する課税のバランス論から、一般消費税課税を非常に強調し過ぎる嫌いがありはしないかという、こういう問題点について。  それから三点目には、昨日政府が今回の税制改革に対する世論調査の結果を発表しました。私から見ると、調査客体はわずか千人で、それを各界の意見で、きのうの新聞にも報道されておりますように、やや世論誘導の傾向があると思いますが、今回のいわゆる政府が行った世論調査について先生の考え方を聞かしていただきたい。  以上です。
  52. 富岡幸雄

    公述人(富岡幸雄君) 安恒先生の御質問にお答え申し上げます。  まず第一点の法人税制、特にそのうちの外国税額控除制度の持つ問題状況でございますが、先生御指摘のとおり、私も先ほど吉川先生から御質問をいただきましたような論文を書いたりしておりますが、日本を代表する総合商社のほとんどが日本という国に税金を払っていないという事実が推測できるわけです。これは私の推測です。これは後ほどまた税務に関する情報公開ということもお願いしなきゃなりませんが、法人税につきましては各個別企業の納税額が公表されておりませんから、申告額が五百何億という巨大でありましても、外国税額控除で別表一で控除してしまって納税額はゼロらしいんですが、そういう実態もわからない。税制改正を議論するに当たりましては、すべての情報をできるだけ公開していただいてその上で議論をしてほしいわけですが、私は推測でいろいろ論文を書いて御教示を賜ったわけです。  さて、この外国税額控除制度というのは国際二重課税を排除するために必要不可欠な制度でございまして、それ自身は全く正しいやり方でありまして、すぐれた制度を我が国では持っております。ところが、この状況ですが、この十年間で二・六倍ぐらいに外税控除がふえていますね。最近五年間では一・四倍ぐらいに伸びています。昭和六十年分の外国税額控除の総額は五千二百六十一億円に達して、対前年比で四百十九億四千百万円の増加になっております。しかも、昭和六十年分の外国税額控除額は、日本の法人税収総額に占めるウエートが実に四・三一倍にも達したわけです。昭和五十年度の国税総収入は十四兆五千億、そのうち所得税収入が五兆四千億、法人税収入が四兆一千億と承っておりますが、その当時は外税控除はわずかに千五百億円にしかすぎなかった。これが十年後の昭和六十年になりますと、国税収入三十九兆八百億に達し、所得税収入が十五兆三千億、法人税収入が十二兆一千億であり、しかも外国税額控除額は実に先ほど述べた五千二百六十一億円に急増しているわけです。  要するに、外国税額控除額の増大は次第に法人税収の増加を抑制するように作用し、他の多くの要因とともに国税収入に占める法人税収入の地位を非常に低いものにしてしまっているわけです。つまり、外国税額控除額の増加は国家財政の空洞化、国家財政の崩壊というような現象までをも招きかねないおそれさえあるというように私は感じられて仕方がありません。外国税額控除額の増大は日本企業の国際化の進展に伴う当然の結果だというふうにも考えます。だが、昭和六十一年十月に出された政府の税制調査会の税制の抜本改革についての答申を拝見しましても、現行の制度には少なからざる問題があるということを政府税調みずからがお認めになっているわけです。私は、外国税額控除制度そのものに大きな制度的欠陥があることを指摘せざるを得ません。今国会にはその是正策が提案されないのは甚だ残念であります。  こういう現象が起こっておるのはなぜか。まず、現行の外国税額控除制度の仕組みに、本来の趣旨を超えて税額控除を許すような結果をもたらす欠陥がある。  その第一点は、まず外国税額控除の対象となる外国法人税の範囲をめぐってです。外国で納めた外国の法人税額は、日本の法人税額から引く場合に、外国の法人税の概念があいまいで非常に範囲が広く拡大されております。詳しいことは論文に譲ります。  第二の問題は、国外所得、海外所得の区分計算の仕方について問題があります。全世界所得のうちで、日本国内で得た所得は国内所得、それから外国で得た所得を国外所得、海外所得と呼んでおります。また、外税控除限度額は、各事業年度の所得に対する法人税額にその事業年度の国外所得をその事業年度の全世界所得で割った割合を乗じて計算します。つまり、分母が全世界所得、分子が海外所得です。この方式ですと、分子である国外所得を膨らませれば膨らませるほど外国税額控除額が増大するということです。某最大総合商社が一銭も日本に納めていないということは、五百何億円という所得の全額が海外所得であるという申告をしているということです。このことが乱用され、国外所得を膨らませて計算することになり、控除限度額が不当に拡大されておるわけです。その結果、異常に過大な外国税額控除を受けることが可能になり、日本への納税額が減少する原因となっておるのであります。  本来ならば、国内源泉所得となるべきものを国外所得の方への変換ですね、切りかえることによって企業は合法的に租税を回避するわけです。あるいは節税をすると言ってもいいでしょうが、少しこれは制度にも問題があります。制度にある問題を一層拡大解釈していらっしゃる向きもなくはありませんから、租税回避と我々は学問的に判定します。我が国の代表的な多国籍企業においては、率直に申し上げてどこの会社でもこの操作をやっておるんです。やっていないところを探す方が大変だと思います。こういう実態を国会では明らかにしてください。  制度の改革を要する第三の問題としては、控除限度額の算定方式に大きな欠陥があることです。欠陥というか、特徴があることです。外国税額控除限度額は、現在、一括限度額方式と言って、国外所得金額や外国税額を相手国ごとに国別計算をしないで、ばさっと一括で計算する方式をとっておるんです。この一括限度額方式というのは、国外所得の所得源泉地が二カ国以上あっても、各源泉地ごとの損益を通算する仕組みなんですね。計算が簡単で、企業から喜ばれます。手間が省けます。しかし、企業にとっては限度額を拡大する操作が可能になります。  どういう操作があり、問題があるかというと、まずその一つとしては、すべての外国税額を一括計算いたしますから、日本の実効税率よりも高い税率を課している外国税を控除することができるとともに、限度超過額がある場合には低税率国に投資することによって、居住地である日本への納税額を減少させるという、投資戦略にとって有利な操作が可能です。  問題の二つ目は、海外への投資活動や海外における事業活動から生ずる所得に対して課税される税負担を国別にコスト計算をする必要がありません。そこで、高い税率の国と低い税率の国の租税が中和化、平均化されますから、低税率の国の所得を得ている場合には高税率の国へ進出が可能になり、企業の海外進出が促進されます。海外進出の必要な時代にはこれはよい制度でございましたが、ここまで来ておりますと、企業が発展した我が国の現状では、もはやこれは時代おくれと言わざるを得ません。  問題点の三つ目は、控除限度額の算定に当たり、各国ごとの控除限度超過額と控除余裕額とが相殺計算されますので、国別限度額の計算方式よりも黒字国通算において企業に有利なんです。  第四点は、企業の立場から見て、税額控除に余裕があれば、海外で意図的に我が国の企業に対して課税強化や無理な課税が行われましても、結果的には課税強化国の税金を居住地国である日本国で引いてもらえるのですから、あえて課税強化国である現地税務当局と無用なトラブルを起こし、紛争し、裁判などをする必要はない。だから、外国で納めちゃえ、外国に納めなくてもいいような税金まで外国に取られてしまって、払っているケースが多いように見受けます。つまり、外国の政府に払い過ぎた税金を日本の政府が負担しているということですね。  五つ目は、企業に限度超過の法人税額がある場合には、国外所得を拡大化しようとする誘惑に駆られます。企業活動を国際的に拡大して企業が多国籍化すると、企業はグローバルな次元で税引き後の経営純利益の極大化を図ります。このために、しばしば低税率国や免税措置のある国への投資への傾斜、あるいは国内所得の国外所得への変換という操作が行われるわけですね。これは一括限度額方式の持つ欠陥ですね。一括限度額方式では、外国政府の課税攻勢による課税権の侵害に対処することもできないという重大な国益にかかわる問題もあります。国外所得の算定においては、その全体を一つの国と仮定して計算しますので、特定の国の課税攻勢に対して、日本国の課税権に対する侵害を防止して、我が日本国、自国の税収を守ることが難しいという構造的な問題を抱えております。  大きな第四としては、みなし外国税額控除制度ですね。これはつまりタックス・スペアリング・クレジットと言っておりまして、発展途上国との租税条約において認められている制度ですね。例えば開発途上国において日本企業が進出した場合に、法人税をまけてくれる、減免する、半減する、こういう企業誘致税制がありますが、進出国ではこれが軽減、免除された税金は相手国の政府に払ったものとみなして日本政府から税額控除を受ける。こういう世界にもまれな優遇措置があるわけですね。このみなし外国税額控除制度というのは外国には余り例がありません。また、先ほどの一括限度額方式を採用しているのも我が日本とアメリカ合衆国だけでございましたが、アメリカでは先般、所得区分方式が大幅に取り入れられ、修正が加えられました結果、現存しているのは世界広しといえども我が日本のみになりました。このような点を改善する必要がございますね。  最後に、控除余裕額と控除限度超過額との扱いですが、控除余裕額、控除限度超過額の繰り越しの権利がともに五年、つまり前後十年間も通算できるんですね。こんな制度を置いている国は日本だけです。是正が必要なことは言うまでもありませんね。  時間が来たという御注意をいただきまして恐縮でございました。  タックスミックス論については、なぜ所得、消費、資産、この三つの税をバランスをとる必要があるのかということについては、学問的な公理はありません。ただ、最後に申し上げたいことは、たとえ消費にかかった税金であっても、我々国民は、その税金を払うのは我々の働きである所得、収入から払うということです。資産にかかろうと消費にかかろうと、その税金を払う源、税源は所得、インカムなんであります。インカム以外に税金はないのであります。したがって、所得課税というのは、税源も所得、課税標準も所得、課税客体も所得であり、最も負担能力に即応した税である、最高、最良の税であるということですね。  世論調査の問題につきまして述べなきゃなりませんが、せっかく一生懸命国が予算を使ってやられたことでありまして、余り文句は言いたくありませんが、実態がよくわかっておりません。ああいう議論をする場合には情報をよく公開していただいて、問題情報をよく提供した上でやっていただかないと正しい判断ができない。税務情報の公開につきましても、所見を述べて、ぜひともお願いしたいと思っています。済みませんが、税金に関する行政情報の積極的公開をお願いしたいんです。租税行政府の情報、統計公開の抑制的態度を改めていただいて、可能な限りデータ公開をお願いしたい。国会は国政調査権の的確なる行使によってこれをサポートしていただきたい。このことはデモクラシーの理念に基づく税についての正しい認識と公正な討議のために不可欠な前提であり、税制改革の国民的論議に先立ちぜひともお願い申し上げます。  以上をもって答弁を終わります。失礼しました。
  53. 及川順郎

    ○及川順郎君 柏木公述人に何点かお伺いしたいと思いますが、順調な経済成長の持続には外国為替市場における円相場の安定というのは重要な要件になるわけです。先ほど来からずっとお話を承りまして、日米の金融動向につきましては、アメリカの大統領選挙が終わった後、その前は安定的な状況がしばらく続くだろうという意見のその延長線上に、大統領選挙が終わった後に不安材料があるということを指摘する意見があるわけですけれども、この点につきましては会長はどのような御見解を持っておられるかということが第一点でございます。  それから第二点は、西ドイツの前首相でありますシュミット氏が、日本の過大な貯蓄は対米証券投資に向けるよりも国内消費の拡大、社会資本の充実、社会保障支出の三つに充当した方がいいと、こういうぐあいに我々は言っているんだけれども、日本はなぜアメリカの赤字財政を援助するためにこれを使うのか、非常にばかげたことではないかという趣旨の御発言をされておるわけですが、この点に対する御見解もあわせて初めにお伺いしたいと思います。
  54. 柏木雄介

    公述人(柏木雄介君) お答えいたします。  アメリカの大統領選挙が終わった後は何か不安な状態が出てくるんじゃないかという御心配でありますけれども、確かにアメリカの大統領選挙、だれが勝つか、どういう選挙戦になるか現状よくわからないわけであります。したがいまして、新大統領にだれが選ばれて、どういう政策をとるか、今のところ見当がつかない状況でございます。そういう意味におきまして、確かに不安材料がないということは申せません。確かに、アメリカというのはやはり何といっても世界一の大きな経済でありますから、その大きな経済がどうなるかについて大統領選挙というのが相当の影響があるとすれば、その帰趨がわからないうちには不安材料があるということは言えると思います。しかし、それは何というか、そのために今から非常な大きな不安が起きて、それが実体経済に大きな影響を及ぼしているかというと、率直に申しまして私はまだ起きていないと思います。現在は、昨年の十月の株式暴落後の状況を見ておりましても、恐らくあの当時予想したよりも平静に動いているように思います。それが第一の御質問です。  二つ目の、シュミット前西独首相が、日本の過剰貯蓄をなぜアメリカの証券投資に向けておるのか、なぜもっと国内開発、発展に充当しないのかという御質問でございますが、これは率直に申しまして、過剰貯蓄という点は、先ほど申しましたように、GNPの四%も過剰貯蓄があるという状況は確かに異常だと思います。そのために、政府のいろいろな御施策によって本年度はかなり減る状況でありますし、政府見通しによりますと来年度はさらに減っていくと思います。しかし、この過剰貯蓄というものは、何と申しますか、政府の手にあるのではなくて、やはり民間の手にあるわけでございます。その民間の選択としまして、国内投資よりは、あるいは一部を海外へ持っていくという選択が行われているわけでございます。  貯蓄の総額から申しますと、何といってももう圧倒的部分は国内投資に向けられておりますが、一部がやはりこれは海外に向けられております。海外に向けられている中には、当該企業のいろいろな戦略に基づいて海外投資に向けられているものもありますが、また収益見通し、収益の確実性から申しまして、あるいは危険分散ということも考えて一部を海外に投資いたしております。海外投資の中で、発展途上国に向けられるとすれば、あるいは国の政策から見ればより望ましいのかもしれませんが、今申しましたリスクのことを考えますと、やはり有利、確実な投資先として非常に多くのものがアメリカに向けられているというのが実情でございまして、これはあくまでも、政府の指導というよりは、民間の選択によるものでございます。
  55. 及川順郎

    ○及川順郎君 会長、もう一点お願いしたいと思うんですが、日本のODA、かなり実績を積んできておるわけでございますが、やはり今後の方向を考えますと、一つの対外援助のあり方は質量ともに転換期を迎えているということを指摘されておるわけでございますが、今までの御経験、関与の御経験を踏まえまして御所見を承っておきたいと思います。
  56. 柏木雄介

    公述人(柏木雄介君) お答えいたします。  ODAを質量ともに改善する必要があるというお説には私も全く賛成でございまして、量的に申しますと、たしかまだ日本のODAはGNPの〇・二七%しかございません。これはOECD諸国の平均の〇・三八から見るとかなり低いわけでございまして、できるだけ早くせめてOECD並みの水準まで持っていく必要があるんじゃないか。OECDの開発援助委員会あたりではGNPの〇・七%ぐらいが理想というか、大きな目標として掲げておりますが、そこまで到達するにはなかなか容易でないことは事実でありますが、せめて各国平均並みまでの量的拡大というのはぜひ早急にやっていただきたいと思います。  質の面につきましては、これはいわゆるグラントエレメントが日本の場合に非常に少ないわけでございます。これは、グラントと申しますのは贈与でございますね。要するに、発展途上国から見れば政府開発援助をもらってそれを返さなくてよろしい、そういう要素が日本の場合にはまだまだ各国に比べて非常に少ないと。恐らくOECD諸国の大部分のものは、いわゆるグラントエレメントというそのグラントに、贈与になっている部分が九割を超えておりますが、日本の場合にはようやく本年八割近くまで行くのじゃないでしょうか。これもやはり国際的には非常に批判されているところでございまして、よく言われることは、やはり世界最大の黒字国、世界最大の資産超過国がこの状況では困るではないかと。私も、できるだけ早くグラントエレメントが各国並みになることを期待したいと思います。これはまさに財政負担そのものずばりでございますので、やはりこれにつきましては国民の、何というか、納得がないとできないことでございますので、その点につきまして、対外援助、発展途上国に対する援助をもっと充実する必要があるという点についての国民的な啓蒙がぜひ必要であると思います。
  57. 及川順郎

    ○及川順郎君 時間が大変厳しくて恐縮なんでございますが、富岡公述人に二点お伺いしたいんです。  私、当委員会におきまして大企業土地の含み資産課税、これは課税財源として考えるべきでないかというこういう主張を兼ねた質疑をいたしたんですが、政府の姿勢は、未実現利益に課税するのはやはり適当でないというような姿勢がかたいわけですが、この点に対する基本的な考え方を承りたいと思っております。  それからもう一点は、先生が民間誌に投稿されました論文の中で、国際税制のあり方として国家間における公平の原則と国際的次元における公正の原則の確立を提言なさっておりますけれども、現実は大変厳しい要件があると思いますが、これに対する、具体化に対する妙案がありましたらあわせてお答えいただきたいと思います。
  58. 富岡幸雄

    公述人(富岡幸雄君) 及川先生の御質問にお答えします。  大企業土地の含み利益に課税したらどうかという議論があります。確かに今の企業会計原則はいわゆる取得原価主義会計、そして実現主義会計ですね。資産はすべて取得原価、オリジナルコストで記帳する。そして、それを他にコンバーション、転換、譲渡、売却した時点においてそれはリアライズ、所得として差額は実現する。それまではホールディングゲインである、つまり未実現のキャピタルゲインである。こういう考え方をとっておりますね。これは日本企業会計原則が伝統的にとっておる考え方であり、かつ大体世界的な傾向でもありますね。関係諸外国ともそういうふうにやっております。  税は、その会計制度に基本的に乗っかっておりますから、税固有の諭理による特別な措置、配慮、政策以外は公正な会計慣行に従う、こういうことにもなっておるわけでございまして、ある意味において無批判的にその企業会計の慣行に従っちゃっているという点ですね。ただ、余りにも今大企業の持っている土地の帳簿価額と実勢価額、実際の時価とが開きがあり過ぎますから、理諭はそうかもしらないが、わかりにくいですね。わかりにくいから何とかならないのか、こういう疑問が起きます。同じことが、株式が非常に値上がりしていますから、株式の含み利益についても同じことですね。  土地の問題について御質問ですからそれに絞ってお答えしますが、伝統的な財務会計理論及び我我が築いてきた税務会計学理論に従えば、法人税は所得課税でございますから、所得というのはリアライズ、実現したものである、つまり二次展開において実現した経済的価値の純増加をインカムと見る、こういうことですから、その考え方と哲学に立つ限り課税できませんね。法人税という所得課税はできませんね。固定資産税とかいろんな保有課税はしかるべきやり方があると思います。その考え方を転換することができるかどうか。これはこれから国会における大きな御検討課題でもあり、我々の学問の大きな課題でもあります。  ただ、言えることは、例えば、大企業等が金融機関等から巨額な金の融資を受けて、それで財テクと称して土地などを買う場合、土地は帳簿価額で記帳されますから膨大な含み利益ですね。バランスシートの借方には表現されません。一方、借入金の利息は期間損益として当該事業年度の損金として落ちますから、それが営業利益を食い込んで巨額な節税がある。巨額な利益と内容がありながら赤字法人ということにもなっておりますね。この点確かに問題です。政府税制調査会におかれましても、土地の借入金の利息は期間費用にしないで土地の取得価額にするというような議論を検討しているやに聞いておりますが、これは学問的にも支持できることでございます。  ただ、広く薄いわずかな保有課税をすることは政策的にはどうかという問題ですね。税の原理論からは無理があります。ただ、終戦直後に資産再評価というのをやりましたね。資産再評価についてはやりまして、土地は強制ではなかったんですが、やった場合には七%の資産再評価税を課税した経験を私ども持っております。ただその場合に、そうしますと、その後譲渡したときは、その修正後の簿価になりますから、七%の税金を払うことによって非常に譲渡原価が高まるというまた新たな矛盾とか問題点もあろうかと思います。  及川先生が大企業土地の含み利益等に何らかの課税をしていかなければ社会的不公正が増大しているということについて、私は気持ちの上では大いにわかりますし、賛成したいと思っていますが、伝統的な所得課税理論に立つ限り、法人税そのもの、所得税そのものを課税することには、にわかに踏み切りがたい問題があることを残念ながら申し上げなければならないことをお許し願いとうございます。  それから二つ目の、先生は私が書かしていただいたいろんなものを読んでいただいておるようでございまして、大変ありがたく光栄に思っております。国際化時代ですから、日本の国の税制だけいかによくしても、企業は海外に出ていきますし海外投資もできますから、世界的次元において税制問題を考えなければだめだ、こういう時代が来たわけですね。そこで私は国際税制のあり方について二つの提案をしているわけです。  第一は、国家間における公平の原則です。それは、各国の国家主権のあらわれとしての課税権の行使による財政収入の確保という、国益と国益とが衝突する国際課税関係においては、関係国が国際協調の精神を背景に租税収入に対する犠牲を合理的に分担する。国際二重課税排除の問題とか、それから移転価格税制、トランスファープライシング、つまり多国籍企業の利益を関係国で分け合うということですね。そういう点においてこういう考え方をとる必要があるということです。  それから第二には、国際的次元における公正の原則です。フェアネスの原則です。これは、関係国で国際課税問題の最大の焦点として、多国籍企業の今述べた移転価格操作、タックスヘーブン乱用の規制を考えていく必要があるということです。各国が全く独自の方法によって自国のエゴを丸出しにしながら外資系企業をチェックして否認権を発動するということと、それから所定のパイを関係二国間において奪い合うという国際的税源争奪合戦、つまり関係国のエゴのすさまじい衝突が起こっているわけです。  そこで、真の国際協調は、全世界的な次元における公正な税制と税務会計システムをつくらなければならないということです。表にあらわれた所定のパイを関係国において奪い合うよりも、全世界にまたがって存在するアングラマネー、国際的な地下経済、隠れた所得、隠された所得の発掘をしていくということですね。要するに、国際的次元において課税の空白を生ずることのないように、ある所得は世界じゅうのどこかの国で課税される、どこの国からも課税されない状態がない、こういうようなことをやっていく。関係国が主権の壁を乗り越え国際協調をすることが必要であります。世界的な次元において課税所得というパイを大きくして関係国がお互いの税収増に機能し合う、こういうことを私は考える。  国際税金サミット、各国の政治家の交流とか税制学者の交流とか、そういう英知を傾けてお互いに相協調する。理想は人類が世界共通の税制をつくることですが、これは夢物語です。経済の戦争、税金戦争、税金争奪合戦の火が噴き上がっていますね。これをなくしていくことがやはり世界平和のために大いに寄与するのではなかろうかと考えております。  大変貴重な御質問をいただきまして、ありがとうございました。
  59. 近藤忠孝

    ○近藤忠孝君 富岡公述人にまず質問いたします。  先ほど大型間接税導入論の論拠、あるいは間接税比率を強化せよということに対する論拠に対して批判がありました。それに加えて、その関係で二点ばかり質問したいと思うんです。  一つは高齢化社会危機論。要するに現在は六人に一人の老人、二十一世紀は二人から三人に一人の老人だから直接税中心じゃ大変だ、こういうことが盛んにこの委員会でも政府から論じられています。しかしその中身は、例えば生産人口と従属人口のこの見方自身に大変な問題点がありますし、また生産性の向上などは無視しているという点で論拠のないものだと思うんです。ただ、かなり一般受けしていまして、例えば大型間接税反対の署名運動などをしていますと、お年寄りがやってきまして、我々の老後の保障の財源を奪わないでくれ、そんなことを言ってくるというので案外一般の耳に入りやすいんですが、そこでこれについての先生の御見解をまずお聞きしたいと思います。  もう一つの論拠の問題では、所得平準化論です。ただ、これも私この委員会でも指摘しましたが、ジニ係数を見ましても平準化という事実に逆行する状況であります。また税の所得再配分機能も低下している。これは政府の資料を使ってもはっきり出てくるんですが、これについての先生のお考え。そして、先ほど指摘のありました勤労所得に確かに重課されているのはそのとおりです。問題は、その中でもどの階層に主に負担がいっているのか。  これは私の調査によりますと、第五分位で見てみますと、二十五年間で例えば第一分位の場合に収入の伸びは九・三倍に対して税と社会保障負担は約二十六倍、それに対して一番上の第五分位の場合は、収入の方は約八・三倍でほぼ同じなんですが、税、社会保障負担の方は十四・六と、半分のようなものですね。こういう状況が出ているのは、これは高度累進課税であるのになぜ上よりも下の方が重くなっているのか不思議に思うんですが、これが先ほど先生が言っておられたタックスエロージョンによるものなのかどうか、そう理解していいのかどうか。それから、先ほどの税の所得再配分機能が低下しているのも同じような原因なのかどうか、この点についてお答えいただきたいと思います。
  60. 富岡幸雄

    公述人(富岡幸雄君) 近藤先生の御質問にいろいろ詳しくお答えしたいんですが、当局から注意を受けまして、簡単にやれと言われていますから、残念ながら端的にお答えします。  まず、高齢化社会問題ですね。政府からいただく資料を見ますと、大変だと、将来は老人を少ない若い人が養うんだと盛んに言っています。あれは六十五歳以上の人はもう働かないということを前提にしていますが、私の大学の定年は七十歳です。七十を過ぎた先生方がますます元気で活躍して仕事をしています。ですから、高齢者が経験とキャリアを生かしてそれぞれの生きがいを踏まえながら社会に貢献し、生きがいを踏まえるという新しい文化をこの国につくっていく必要があるのであって、老人を邪魔者にするような一部の発想は私は遺憾だというふうに思います。  第二点、所得平準化論。所得平準化論は、先の中曽根売上税提案の理論的社会的背景だったわけですが、所得なんか平準化していません。確かに一時は所得は平準化の傾向がありましたが、むしろフローとしての所得の格差は拡大しています。特に土地とか金融資産を持っているストックを考えた場合、ストックの転換から得られるキャピタルゲインを考えた場合は、その格差ははかり知れないものがあります。所得の格差はますます増大していまして、所得平準化なんていう前提は仮想でありまして、そういうことを前提に政府・与党が大型間接税を導入するなどということはまことに時代錯誤であり、経済的にも問題があるということを申し上げます。  最後に、勤労所得の問題ですが、確かに先生のおっしゃるとおりです。それはなぜかというと、先生、高所得者というのはキャピタルゲインですね、土地の譲渡利益でもなければ五千万なんか利益ありませんよ。五千万、六千万を超えれば、確かに所得税の累進は高いですが、それは分離課税になります。それから株の譲渡利益は原則非課税ですね。そういう形で、税率構造からいけば確かに累進は高いが、そういう資産性所得の人々がそういう高度累進をまともに適用になっていないわけです。ですから、勤労所得者のようなものや普通の事業所得者のようなものが、下の方ではございますが累進税率をまともに食って先ほどのような結果になっているということです。総合累進課税制度それから所得課税の空洞化を是正することによって税率を全体的に下げられますから、それから税率の幅も上にシフトできますから、是正していただくことをお願い申し上げたいと思います。  大変取り急ぎまして恐縮でございました。
  61. 近藤忠孝

    ○近藤忠孝君 もう少ししゃべっていただいてもよかったけれども、次の問題をお聞きします。  法人税の問題で、法人税が高いと外国へ逃げてしまう、こういう議論があります。それについては、先ほど先生のお話では、税率ではなくてむしろ実効税率でいくべきだ、実態でいくべきだということでありました。そのとおりだと思うんですが、そこで、ただ税率自身で見ても果たして国際比較で高いのかどうか。例えば、確かに法人税単独で見てみますとそのとおりなんですが、その法人税とそれから社会保障のうちの企業負担分、この合計で見てみますと、むしろ外国と比較しましても同じかむしろそんなに高くない、逆に低いという状況でありますね。となりますと、そういう点についての先生のお考えをひとつお伺いしたいと思います。
  62. 富岡幸雄

    公述人(富岡幸雄君) お答えします。  法人税の法定表面税率は、日本は法人税留保は四二%です。これにあと法人住民税、事業税がかかりますから、かなり高いことは事実です。法定表面税率ですね。問題は実効税率、経済的実効税率です。企業利潤を分母にして納めた法人税等を分子にしたその割合、我々はこれを学問的に真実実効税率と言っていますが、これが果たしてどうなのかということです。これは産業の種類別に、企業規模別に非常に違うと思います。  私がお願いしたいことは、こういう法人の実効税率の分析結果を、企業規模別に、産業の種類別等ごとに、事例でも結構ですから、国会はそういうデータを明らかにし、そして果たして法人税がどうなっているのかということをやはり明らかにしながら我々にも議論をさせていただきたいと思っております。はっきり言って、その辺のところはやみの中、データ不足というのが、私は一生懸命やってきていますがわからない、こういう状態です。ただ、法定表面税率が、アメリカが三四になっていますね。ですから日本は四二は高いです。私の案ですと、ぜひアメリカよりか低い三〇%ぐらいに法人の基本税率をお願いしたい。ただし、それにはいろいろ前提がありますよ。課税ベースの浸食をなくせば日本という国は企業所得が非常に多いわけですから私は可能であると、こういう私なりの試算をしております。  所得税についても同じように、売上税を導入しようとしたときの中曽根政府が提案された税負担率よりかさらに二〇%ぐらいの減税もできる、新型間接税導入なくしてできるという私は試算を持っております。  大変取り急ぎまして恐縮ですが、以上お答えいたしました。
  63. 近藤忠孝

    ○近藤忠孝君 あと何秒か知りませんが、柏木公述人に端的にお聞きします。  株価の暴落とドル安というのは、元来そのままじゃ結びつかぬものが前回結びついたわけですね。この辺は、私は世界経済としても大変深刻なものだと思うんですが、それについてのお考えをお聞きしたい。端的でいいです。
  64. 柏木雄介

    公述人(柏木雄介君) お答えいたします。  株価の暴落と為替とは確かに直接関係がございません。ただ、株価の暴落にあらわれておりまするアメリカ経済に対する将来の不安、それが為替市場にもはね返りまして、為替の方ではドルの急落というふうに出たものと思います。
  65. 三治重信

    ○三治重信君 まず柏木先生にお尋ねしたいんですが、日本が今アメリカから盛んに国債や何か債券を買っているんですが、毎年一割以上下がる、それだけ何のために買ったかわからぬようになっているんですが、金融機関として、私はレーガン・ボンド、アメリカはもうドルじゃなくて日本日本円で貸してやる、こういうふうにしたいと思うんですけれども、こういうことについての、まあ国会ではドルは基軸通貨だからそれはこららから要請できぬなんて大蔵大臣は言っているんだけれども、それの考え方。  それから、もう一つは海外投資ですね。国際貿易収支が黒字になり、海外債券投資をやればどうしても収支が黒字になるんだけれども、それを日本はやはり国内で使っちゃえといえば非常にいいことなんだけれども、そうじゃなくて、やはりこの黒字は海外へ投資したらいいと思う。その投資について、銀行家として健全な投資を何だと考えてそういう投資が指導できるものかどうか、ひとつお答え願いたい。
  66. 柏木雄介

    公述人(柏木雄介君) お答えいたします。  レーガン・ボンドにつきましては、アメリカは現在確かにドル建ての借金しかいたしておりませんが、かつてはカーター政権時代にカーター・ボンドと称してドイツマルク建てあるいはスイスフラン建ての外債を出した例がございます。そのときの経験では、その後ドルがマルクに対して強くなり、スイスフランに対しても強くなって、結果的には非常にアメリカ政府としては利払い負担を軽くしたという経験がございます。それに倣って今日のアメリカ政府の起債は国内のドル建て債だけじゃなくて海外でも外貨建てのものを出したらいいんじゃないかという議論は、確かは研究に値するとは思います。  ただ、やはり問題は、カーター時代にやったことをレーガンという違う政党の政権の時代にまねしてできるかという政治問題、これは別としまして、カーター政権時代にあったような客観的な条件、要するに確かにスイスフランないしドイツマルクによって資金調達することがアメリカとして利益につながるんだという見通しがあるならば、確かに経済論としても十分に成り立つ。ところが現状のドルを見ますと、果たしてこれが将来強くなって、今までよりも強くなって、結局外国通貨で調達した方が安かったということに果たしてなるのかならぬのかという点は、実は御承知のとおりアメリカの国際収支の赤字はなお千六百億ドル程度ありまして、なお来年、再来年も相当額の赤字が続くという状況であります。そういう中で果たして外貨で借りることの方が有利かどうかという点になりますと、そろばんを入れるだけでもかなり難しい問題があろうかと思います。  したがいまして、これはアメリカ政府当局がみずから判断する問題でありますけれども、そういう外貨建て債券を出してやるという考え方自体はこれはたびたび指摘されているところでありまして、アメリカ側も十分研究しているところだと思いますけれども、機が熟しているかどうかという点になりますと、確かに経済的に今機が熟していると言うのはなかなか難しいんじゃないかというふうに考えられます。  海外投資、健全なる海外投資はどうかという点でございますが、これは先ほど申しましたように、この過剰貯蓄あるいは国際収支の余剰というものは実は民間の手にあるわけでございまして、政府はむしろ持っていないわけでございます。したがって、これをどういうふうに投資するか、国の政策として考える場合にはいろいろな考え方もあろうかと思います。これは将来の日本の資源確保のため、あるいは将来の輸出市場の確保のため、あるいは将来の収益を確保するため、いろいろの観点から民間ではそれぞれの立場から投資をしているんだと思います。政府としてこれを一括して一つの方向を打ち出すということは、実際問題としてはそれは行ぎ過ぎであり無理ではないかというふうに考えます。
  67. 三治重信

    ○三治重信君 もう時間がないんですが、今私が海外投資のことをお尋ねしたのは、政府じゃなくて民間の銀行家として何かいい投資の指導方法があるのかということです。銀行は何をやっているか、海外投資についてどういう相談をやっているか。
  68. 柏木雄介

    公述人(柏木雄介君) お答えいたします。  特にお取引先に対してこれという指導はございませんけれども、やはりそれぞれの企業によって実態が違うと思います。これは輸出市場の確保ということが非常に大事な業種でありますれば、もうやはりある段階で海外投資に踏み切らざるを得ないのではないかという指導もいたしております。  それから、外貨建てか円建てか、証券投資をする場合の問題につきましてはこれは非常に判断のしにくいところでございまして、私どもの方であえてドル建てがいいとか円建てがいいとか申しませんけれども、何と申しますか、最近の財テクと申しますか、あるいは為替のテクニックも非常に発達しておりまして、リスク、危険を最小限にしながら最大限の利益を上げるような、そういう方法につきましても私どももできるだけ知恵を出して、取引先にもいろいろと御相談いたしております。  率直に申しまして、これ一つがいいという方法はないと思います。やはりその企業のあり方、その企業の将来性を考えて、それに適した方法を考えなきゃならぬかと思います。
  69. 青木茂

    ○青木茂君 柏木先生にまず一つ、ドルが基軸通貨である以上、アメリカとしてドル安のデメリットというのは余り気にする必要はないんじゃないか。事実気にしてないんじゃないか。そうすると、日本のこれからの為替の政策展開は、極端な場合は別として、それを基準に考えないと誤るのではないかということを聞きたいと思います。  それから富岡先生にお伺いしたいのは、今の税制改革が行革ギブアップ税制と言われている。それじゃ困るわけですね。しかし、行革をする場合まず隗より始めろというわけで、政治改革の断行はおっしゃるとおりだと思います。その具体的内容、これはもう時間がございませんから、列挙で結構でございますから列挙していただきたい。先生の御持論ではどうも一番初めが参議院無用論らしいんですけれども、そこら辺は御遠慮なく列挙をしていただきたいと思います。  それから、タックスエロージョンに関しまして今盛んにシャウプ税制の見直しということが言われまして、あたかもシャウプ税制罪悪論が出てきている。しかし、実はシャウプ税制というのは非常に立派なものであって、それを壊していった戦後の税制史というのか、政治史にこそ問題があったんじゃないか。つまり、シャウプに戻れということこそ今度の税制改革の原点ではないか、これは所得税だけの問題でございます。これをどうお考えか、この点につきましてお願いをしたいと思います。
  70. 柏木雄介

    公述人(柏木雄介君) お答えいたします。  ドルは基軸通貨だから垂れ流しでもいいじゃないかという、そういう議論がアメリカに横行しているからいろいろ問題が起きているんじゃないかという点は、確かにそういう時期もあったかと思いますが、昨年の経験にかんがみ、やはりドルの安定はアメリカとしてもぜひ必要であるという認識に到達したかと思います。それでことしの一月のレーガン・竹下会談におきまして、ドルのこれ以上の下落は困るということが両国元首の間で、総理と大統領との間で話し合いがついたわけでございます。  なぜアメリカがドルの下落はこれ以上困るというふうになったか、これは私ども推測する以外はございませんけれども、やはりアメリカにおけるインフレの再発の問題あるいはドルの信認がいよいよ損なわれてくる。先ほど株式の暴落と申しましたけれども、株式の暴落もやはりドルの信認が問われ始めたという一つのしるしかと思われます。それから、ドルだけが基軸通貨という時代は去りつつあるというのが一般の認識でございまして、これ以上ドルが不安定になれば、やはりドルにかわる基軸通貨を考えるかという段階も出てくるので、それやこれやいろんなことを考え合わせまして、昨年後半、ことしの初めにかけましてアメリカ政府の態度は非常に変わってきていると思います。
  71. 富岡幸雄

    公述人(富岡幸雄君) 青木先生から御質問をいただきましたが、冒頭で大変口幅ったいことを申し上げましたが、お許し願いたいと思います。しかし、あれは行政改革、金目になる行革、そのためには政治改革、これを申し上げないことには税の議論には入れません。私は税の専門家でございまして、行革の専門家ではございませんから明確な知恵はございません。参議院無用論など考えていません。このようなまじめな有効な議論が行われている参議院こそ、私は必要だと思っております。ただ、衆議院で予算が通過してしまうと何か元気がなくなるような点が残念でして、大いに参議院も活性化していただきたいと思っております。  ただ、一言申し上げれば、やはり日本という国はかなり長細いいい国なんですが、コミュニケーションが発達しましたからもう今の都道府県制度は古いと思いますね。かつて議論された道州制のようなものももう一度検討して見直していく、そういうことによって地方行政機関や地方議員の方方の効率化もお願いできるかと、結局住民の幸せに結びつくんじゃないかというふうに考えております。あれは一つスローガン的に申し上げたわけでありまして、ぜひ先生方に考えていただきたい。我々が何と申し上げましても国会のことについては手が届きませんから、よろしくお願いいたしたいということです。  それから二つ目の、タックスエロージョンについて御理解いただいてありがとうございました。シャウプ税制はすばらしい税制ですね。所得税に関する限りすばらしい税制でございまして、シャウプ税制のよさを見直すべきです。シャウプ以来の税制改革とおっしゃるけれども、完全な意味のシャウプ税制はこの国には実行されなかったんです。途端に崩れてきたんですよね。アメリカ占領軍が昭和二十七年に帰った途端、翌年からキャピタルゲインの原則非課税、それから無記名預金の復活です、そこから始まっているんですから。  シャウプ以来の税制改革ということを前の偉い人がおっしゃいましたが、そういうスローガン自身がおかしなことです。よい税制、あれはもう理想的な税制です。法人税には先ほど申し上げたように問題がございますが、青木先生は所得税に限って述べると言われましたから非常に答えがしやすうございます。シャウプに返れ、シャウプの原点を探れ、シャウプのよさを我々は見ようではないか、そして青色申告制度を我々は普及してきたんです。まじめに納税者、国民が記帳し納税実践をする、みずからの所得をみずから申告しみずから納税するタックスペイヤー、これこそまさにデモクラシーですね。  私は冒頭、そういう税の原点に立ち返るAアプローチと、それをあいまいにして間接税にいくBアプローチとの選択こそが刻々と迫られ、それは日本の税文化、やがて日本政治文化のリトマス試験にもなる。間違いない御選択をこの際お願い申し上げたいということを重ねて申し上げて、青木先生に対してお答え申し上げました。ありがとうございました。
  72. 原文兵衛

    委員長原文兵衛君) ありがとうございました。  以上で国際金融・為替及び財政・税制に関する意見聴取は終了いたしました。  一言お礼を申し上げます。  柏木公述人、富岡公述人には、それぞれのお立場から貴重な御意見をお聞かせいただきまして、まことにありがとうございました。委員会を代表いたしまして衷心から厚くお礼を申し上げます。(拍手)  速記をとめて。    〔速記・中止〕
  73. 原文兵衛

    委員長原文兵衛君) 速記を起こして。     ─────────────
  74. 原文兵衛

    委員長原文兵衛君) 一言ごあいさつを申し上げます。  北村公述人、原公述人におかれましては、御多用中にもかかわりませず本委員会のために御出席を賜りまして、まことにありがとうございます。委員会を代表いたしまして心から厚くお礼を申し上げます。  本日は忌憚のない御意見を承りまして今後の審査の参考にしてまいりたいと存じますので、どうかよろしくお願いいたします。  次に、会議の進め方について申し上げます。  まず、お一人二十分程度の御意見を順次お述べいただきまして、その後委員の質疑にお答えいただきたいと存じます。  それでは、これより順次御意見を承りたいと存じます。  まず、外交・防衛につきまして北村公述人にお願いいたします。早稲田大学教授北村実君。
  75. 北村実

    公述人(北村実君) 早稲田大学の北村と申します。私は、本年度予算の中でも特に外交・防衛について私見を述べさせていただきたいと思います。  八八年度防衛費の総額が三兆七千三億円で、前年度比五・二%増という額に達したことに改めて私は驚きを感じております。INF条約が調印され、そしてまた本年度じゅうに戦略核兵器の五〇%削減も恐らく合意に達するであろうと思われるときに、我が国の防衛費が前年に続いてさらに突出をしたということは、我々として重大視せざるを得ないと思います。  日本防衛費がアメリカ、イギリス、フランスに次いで第三位に達しているということは、いろいろな人の計算によって明らかにされております。アミテージ・アメリカ国防次官補が既に証言しておりますし、またその他の人々の指摘によってもNATO並みの方式で計算をし直せば明らかにアメリカ、イギリス、フランスに次ぐ額に達していることはほぼ間違いないというふうに考えます。    〔委員長退席、理事林ゆう君着席〕 そして、この間の防衛費の増大ぶりを見ますと、一九七一年から八五年にかけて日本は何と一三〇%の伸び率になっております。アメリカはこの間約二〇%、NATO諸国は三〇%強となっております。したがいまして、この間に、十四年間でありますけれども、日本防衛費がダントツになってきている、一三〇%というような恐るべき増大ぶりを示しているということを改めて指摘せざるを得ないと思います。  最近の国際情勢は、大きく言って軍縮の方向に向かっているというふうに思います。もちろん、INF条約によって撤廃されるのは核兵器のわずか数%であることは間違いありません。そしてまた水上、水中発射の核兵器が対象外になっており、そして最近この分野での核兵器が改めて米ソのせめぎ合いの中心になってきているということも、私たちは事実として認めております。にもかかわらず、全体として核軍縮の方向へ進んでいることは否定できないと思います。さらにまた、ソ連のアフガンからの撤退も近く実現すると思います。全体として軍縮の方向に向かっている折であるだけに、我が国の防衛費がこんなに突出していいものであろうかということを改めて問題提起させていただかざるを得ないわけです。  日本の防衛力が一体世界的にどの程度規模のものかということは、単に防衛費の額だけでははかることができないと思いますけれども、世界でも有数の軍事力を既に備えていることは間違いないところです。ASEAN諸国の軍事費の総額と比べてみても、日本防衛費は何とその三倍にも達しているわけです。世界でも有数の軍事力を有している国、軍事大国と申し上げても差し支えないと思います。これが、憲法第九条のもとで専守防衛に徹するとして進められてきた我が国の軍事力の状況であります。  さて本年度の防衛予算を見ますと、明らかにこれまでとは質的に違った様相がほの見えるわけであります。その最大のものは、洋上防空という新たな概念の登場であります。  私は憲法第九条を厳格に解釈をし、一切の軍事力を持つべきではないという立場に立つわけですが、しかし仮に現在の自衛隊というものを歴史的な存在として認めるにしても、この自衛隊は車守防衛ということを国是にしてつくられて今日まで参ったわけです。専守防衛というのはどういう概念であるか、国会でもさまざまの概念規定がなされておりますけれども、これは明らかに専ら国土及びその周辺で防衛を行うことというふうに厳格に定義されております。  それから、五十六年の三月の参議院予算委員会でもこの専守防衛についての概念規定が議論されて、政府側はこういうふうに答えております。相手側から攻撃を受けたとき初めて防衛力を行使するという受動的な防衛戦略を言い、武力行使は自衛のための最小限のものにとどめる。つまり相手から攻撃を受けたとき初めて防衛力を行使するという受動的な防衛戦略であるということがちゃんと言われているわけです。したがいまして、この間ずっと進められてきた日本の防衛思想というものは、簡単に言えば相手の攻撃に対してのみ発動されるもの、したがって、水際で防ぐというのが根本思想であります。水際防衛ということが再三標語のように言われてまいったわけです。  ところが、今回の予算論議を通じて洋上防空なる明らかに新たな防衛概念が登場したということは、専守防衛という国土とその周辺で相手の攻撃に対して対応するというこれまでの防衛戦略、防衛思想から一歩大きく踏み出たものと言わざるを得ないと思います。そういう新しい概念が登場し、それに伴って次から次へと、これまで考えられなかったような新たな装備というものが登場することになったわけです。  まず、イージス艦でありますが、イージス防空システムを搭載したこのハイテク艦は、アメリカでもまだ最新の兵器であり、同盟国のどこも所有しておりません。これをめぐっては、アメリカの下院軍事委員会海軍力小委員会日本への売り渡しを禁じる法案を先日可決したことは既に御案内のところであります。参議院予算委員会での防衛庁の西廣防衛局長のお答えによりますと、これはアメリカ側から購入を勧められたものだそうです。  イージス艦は何のために開発されたものか。防衛問題について多少でも知識のおありの方は、これが航空母艦を援護するためのものであるということは既に常識になっているところだと思います。我が国は御承知のように空母は持っておりません。それであれば、イージス艦の導入というのは必要がないと普通常識的には考えざるを得ないところであります。このイージス艦でもってオイルタンカーを守るとかというようなことが衆参両院の委員会で議論されておりますけれども、これはやはり笑止千万だと私は思います。こんな一隻千二百二十三億円もするハイテク艦をオイルタンカーだとかそのほかの資源運搬船の防衛に充てるということは、経済効率からいっても大変悪いわけで、そんなためにこんなハイテク鑑を買う必要は全くないわけです。アメリカから買うように勧められたというのは、言うまでもなくこれがアメリカにとって必要であり、日本がそれを買うことによってアメリカの空母護衛の一翼を日本も担っていくという日米共同の作戦の必要上から、買うように強く勧められたものと解釈せざるを得ないわけであります。  イージス艦につきましてはいろいろまだ申し上げたいことがありますけれども、時間の関係でこれ以上は触れないことにいたします。これが日本国民にとって不必要な買い物である、余りにも高価なむだ遣いであるということだけを申し上げさせていただきます。  次に、OTHの調査費がつきましたが、OTHレーダーがどうして日本に必要かということについても強い疑念を抱かざるを得ないわけであります。OTHというのは、私が解説するまでもなく、地平線を越えた遠方の目標を探知するレーダーシステムであります。したがって、レーダーの覆域、覆う範囲は非常に広く、千から三千キロと言われております。先ほど申し上げたように、専守防衛、水際防衛ということであれば、そんな遠目のきくレーダーが必要であるはずはありません。  日本の周辺海空域というのは大体数百海里と言われております。空域は航空自衛隊の迎撃能力を整備している防空識別圏とほぼ同じとされておりますから、四百海里から五百海里だと思います。日本列島の距岸からせいぜいその程度の範囲内、海域に関しても同様だと思います。その範囲内でのレーダーということは、仮にそれが必要であるとしても、OTHのように千キロから三千キロもカバーするようなレーダーが我が国に必要なはずはないというふうに私は考えます。これも、アメリカの戦略の末端を担うためにどうしても日本につけろと、アメリカ側からの要請で調査費をつけたのではないかというふうに考えざるを得ないわけです。  それからまた、事実上アメリカの指揮下に入ってソ連の潜水艦の探知を行う対潜作戦ASWのセンターの建設にも踏み出したわけです。ASW、アンチサブマリン・ウオーフェアというのはアメリカ側が非常に関心を持っているものであります。日本近海、カムチャッカ海からずっと下って日本近海にソ連の原潜がたくさん今あらわれているということは既に常識になっております。そのソ連の原潜を探知するためのいろいろな施設を、アメリカが日本にも一部肩がわりさせたいというふうに考えているわけです。既に下北海洋観測所があり、それと連動して松前警備所、竜飛警備所というようなものが設置されております。ここで何をやっているかということは、実態は国民の前に全く明らかにされておりません。  共産党の調査団によりますと、そこに三沢基地に駐留しているアメリカ軍人あるいは軍属がしげしげと出入りをしているということが確認をされております。アメリカが極東におけるソ連原潜に探知の目を張りめぐらしている一環に、日本のこういうような自衛隊の施設も組み込まれているであろうことは想像にかたくありません。こういうようなものにどんどん金を出していくということは、日本の自衛隊というものが末端に至るまでアメリカの軍事力の一部に組み込まれている、事実上日本の自衛隊は日米統合軍の一端を担わされているということを意味するのではないかというふうに思うわけであります。  今回の予算から見た日本の防衛の方向というものは、明らかに中期防衛力整備計画でも検討課題とされていたものに足を踏み込んでやろうとしているわけで、そういう意味では中期防衛力整備計画をも逸脱した方向へ進みつつあるように思うわけです。いろいろなものを新たに購入する、これはいずれも米軍との密接な連携のもとに購入をする、そう考えざるを得ないわけであります。そうなってきますと、日本の自衛隊というのは、装備の面からいっても、集団的自衛権の行使の方向へ一歩踏み込んできているというふうに私には思えるわけであります。このような自衛隊の状況について、我々は深く憂慮せざるを得ないわけであります。したがいまして、防衛予算には反対せざるを得ない。  私は防衛費、軍事費というものは一銭も要らないという立場でありますけれども、しかしそういう非現実的なことをこの際申し上げても始まらないわけで、少なくとも大幅な削減が必要であるというふうに考えます。むだ遣い、イージス艦はその最たるものだと思いますが、これは頭金だけを払って、あとは後年度負担ということになっているわけです。後年度負担がどんどんふくらんでいく、これは大変なことだと思うんです。こういうような防衛予算に対して私は全面的に反対をいたしたいと思います。そして、大幅に削減をし、それを文教、福祉に回していただきたいというふうに考える次第であります。  私考えますのに、世界情勢が大きく変わろうとしている、そういうときに依然として古い防衛思想のもとで防衛予算というものを組んでいくことに対して、この辺で根本的な再検討が必要な時期に来ているというふうに考えます。  以上で私の公述を終わらせていただきます。
  76. 林ゆう

    ○理事(林ゆう君) ありがとうございました。  次に、経済構造調整につきまして原公述人にお願いいたします。青山学院大学教授原豊君。
  77. 原豊

    公述人(原豊君) 御紹介にあずかりました原でございます。六十三年度予算案につきまして、特に構造調整の側面から私見を述べたいと思います。  私、これで何回か、この予算委員会に出させていただきまして公述人として発言をしてまいりました。二年ぐらい前でございますか、には景気が悪うございますときでございまして、その中で財政再建ということを中心にした予算が組まれているというわけで、やはり景気と財政再建の両にらみの予算をつくるべきだということを主張した覚えがございます。  昨年もここに参りまして六十二年度予算につきまして私見を述べましたけれども、このときもまた、確かにいろいろ配慮はされているけれども国際経済の危機を前にしての予算としてはどうも説得力がない、はっきり申して危機感があらわれていないということを申しました。ちょうどそのころは半導体のアメリカの報復の措置がとられましたし、それが関係ない電動工具に及ぶとかあるいはゲパート条項というのが出てくるとか、そういうことがございました。また経常収支の黒字が非常に堆積したということも日本側でございましたので、そういう状況を前にしては、もう少し予算はその危機感が反映されてそれに対する対応がはっきり出た方がいいのではないかということを申しておきました。  しかし、その段階で既に補正予算がいろいろ準備されておりまして、その後、国会では六兆円を超える緊急の経済対策と補正予算がつくられまして、そして私のある程度の意向というものがそこに反映されているというわけではございませんですけれども、思ったとおりであるというふうに考えた次第でございますけれども、ともあれそういうことを申してまいりました。結果的には、そうした補正予算、非常に大型でございましたから効果も出てまいりまして、昨年を見ますと内需拡大の方向がたんだん出てきておりまして、そして景気も回復に向かってきた。ことしに入りましてからも景気の拡大基調は変わらず現在に至っている、こういう判断ができようかと思います。  六十三年度予算案は、それを受けてつくられたわけでございます。率直に申しますと、財政再建のみならず内需の拡大に対しても配慮をされております。後に述べますように、公共事業支出も、当初予算との比でございますけれども、二〇%近くも伸びが計上されているということでございますので、そういう面からは、私が二年前に述べました景気、内需拡大と財政再建の両にらみという点ではまずまずよろしいんじゃないかというふうに考えておりますし、全体から見てそのバランスがスマートに確保されているような形を呈している、こういうふうに判断をしております。  それはそれでよろしいんですけれども、しかし、やはり予算というものは目的を持ってつくるものでございます。継続性もありますけれども、同時に、そのときの経済状況及び経済的な課題にこたえる側面がなければいかぬというわけで、そういう面から考えてまいりますと、私は、現在はただ内需拡大をしてその結果を待つという側面のみならず、もっと積極的に構造を転換させていくという、そしていろいろ弊害が出ます、あるいは打撃が出る場合にはその調整をやっていくという、その非常にいいチャンスじゃないかと、こういうふうに考えている。したがって、名づけるならば六十三年度予算というものは構造調整に気を配った予算であるべきだ、こういうふうに考えているわけでございます。  確かに円高と内需の拡大という、そういう経済的な状況のもとで構造もどんどんと転換しております。そして、後に述べますように、産業構造にいたしましてもやはりソフト化、サービス化の傾向が出ておりますから、それはそれでその条件のもとでの構造調整は進んでいると申せますけれども、しかしこの状況にしても、必ずしも永続的なものじゃないという、あるいはこの一年の間に途中で腰砕けするかもわからないという状況があるんじゃなかろうかということを考えています。そういう面から見ますと、やはりもう少し積極的に構造転換あるいは構造調整の志向、目的が出ていい予算ではなかったかと、そういうことを考えております。そしてまた同時に、先ほど申しましたような経済的な条件が腰砕けになりますともとのもくあみになる、かえってまずい状況になるおそれもはらんでいるんじゃなかろうか、このように考えております。そういう点でもう少し予算に政策的なねらいがあらわれてきてほしかった、こういうのが私の率直な印象でございます。  そういう印象のもとでもう少し中に入って考えてみたいんですけれども、構造の見方は種々ありますけれども、ここでは経済構造、産業構造、地域構造という三つの側面から検討してみたいと存じます。  まず経済構造ですけれども、これは前川委員会の報告書の中にも書かれておりますように、これはどちらかと申しますと経済全体を大きく見ておりまして、日本の経済構造が今まで外需依存型の経済成長を実現する構造であって経常収支が大幅の黒字になるという体質を抱えた構造だという、こういう把握でございます。したがって、構造転換という場合にはこうした構造を変えていくわけで、外需依存型を内需主導型にする、そして経常収支の大幅黒字堆積型を変えてまいりまして経常収支とバランスがとれる方向に改善をしていくという、そういう方向への転換がこの場合の経済構造転換という理解になろうかと存じます。  その経済構造から見てまいりますと、確かに現在あらわれております正常のパターンを見ますと外需依存型から内需主導型に変わってまいりました。六十一年度の外需寄与度を見ましてもこれはマイナス一%になっていますし、これは三年続けて成長にとっての外需寄与度がマイナスになるという、こういう状況でございます。それから、つい先ほど発表されました六十二年の十月—十二月期の四半期データを見ましても、この三カ月の成長率の一・七%の中で内需が二・四%増の寄与度をあらわし外需がマイナス〇・七%と、こういうことになっている。そういう形で見てまいりますと、内需がプラスで出てきて外需がマイナスになるという、こういう姿になっておりますから、確かに内需主導型への転換が行われつつあるということが言えると思います。  しかし、果たしてそれだけで今後日本の貿易収支の黒字がたんだん減ってまいりまして均衡型に向かうかどうか、あるいはこういう傾向が定着するかどうか言えませんし、また先ほど申しましたようなこういう経済条件が果たして持続性を持っているかどうかということには確かに私は問題があろうと考えております。その理由といたしまして幾つかありますけれども、簡単に申しますと、例えば個人消費にしてもそうでございます。GNPの主要内容であります個人消費が非常に伸びたということが内需拡大の大きな柱になっているわけでございますが、その中身を見ますと、これが例えば所得の八百万円以上の方の個人消費の伸びが三・四%という伸びになっている。これは六十一年度の伸びでございます。これは三・四%のプラス。そして四、五百万円の勤労者が一・〇%という伸びになっている。  ここにたまたま持ってきております資料を見ましても、これは家計調査で個人消費を見ておりますが、勤労世帯実質消費支出を見ますと、六十二年の十月にはマイナス〇・六、十一月にはマイナス〇・八という、こういう数字が出ております。先ほどの四、五百万円のところの伸び率がマイナスになっているということと対応しております。それからさらに自営業、自由業の方の個人消費が昨年四・三%プラスで伸びております。こういう状況を見てまいりますと、個人消費が二極分化をしておりまして、比較的所得が高い人たちの個人消費が伸びてこの内需拡大を支えておりますけれども、一般大衆勤労者になりますとそれほどの消費の伸びはない。かえって伸びがマイナスになっている。円高による物価のある程度の安定によりましてようやく実質的に勤労所得も伸びている。一%そこそこ伸びているので、そこで何とかカバーできているというような状況になっているわけでございます。  その面から見ますと、今日の個人消費を支えているのは八百万円以上とか自営、自由業の方々で、昨年の、あるいは一昨年以来のキャピタルゲイン、株価の上昇とか地価の高騰というようなものを通じてキャピタルゲインを獲得できるような方々が中心になって支えているという、そういうことが言えるんじゃないかと思われます。このことは、裏を返しますと、もっと個人消費というものの力を強めていって内需拡大型の姿を定着させるためには、やはりこういう勤労者の減税というものも積極的にやるべきじゃなかろうかという一つの指標になろうかと考えます。  それからさらに住宅投資でございますけれども、これも昨年非常に伸びてまいりまして内需を支えておりますが、アパートや個人住宅も盛んに建築されてこれが伸びております。やはりこれは金利が安い、いろいろ政策的な措置も講じていらっしゃいますから、その影響も多少ございますけれども、同時にこれもまたやはり地価が上がった結果でもございます。地価が上がると建築が伸びないということじゃないんで、むしろ地価が上がると建築は伸びるというのが過去の歴史でございますけれども、今回におきましても同様でございまして、アパート建築を初めとして資産価値が高まる、あるいは資産課税が高まるという予想がつきますような土地を積極的に利用しようというわけで建築が伸びた側面を持っているわけでございます。したがってこれも、そういう状況が変わりますと住宅投資という、建設の伸びというものは締まる可能性を持っている、こういうことでございましょう。  それから、あと設備投資がございます。円高に対応していろいろ合理化を行う等々がございますし、また新しい技術で新しい製品をつくるという、新しい事業に乗り出すというような積極的な投資もございます。それから先ほど申しました内需拡大に対する生産能力の拡大、これは非常にオーソドックスなものでございますけれども、こういうところが設備投資が盛んになった原因であろうかと思いますけれども、この先を考えましても円高対応の合理化というのも行くところまで行っておりまして、そしてまたこれも先が見えているという、この新技術と新製品、新事業ということになりますと、日本企業はバイタリティーに富んでおりますから、しかも割合長期的な展望で企業行動を行っておりますから、これはかなり続くと思われますけれども、三番目の内需拡大に応じた生産能力の拡大というのは、これは内需次第でございまして、先ほど申しましたような形で個人消費が伸びなくなるとすれば、これもまた落ち目になる可能性を持っている、こういうことでございます。  ただ、設備投資というのは、これはやっておきますとやはりストックとして役に立つわけですけれども、場合によって今度はまた一層伸ばすという形になる、転換する可能性を持っておりますから、その辺は注意を要するところであろうかと思いますが、ともあれこういうもので支えられてきた。  それから最後に公共投資でございます。私もどちらかというと積極論者でございまして、先ほど申しましたように景気もにらんでおけということを主張してまいりました。六兆円を超える、その中で五兆円を超える投資でございまして、一兆円は減税でございましたけれども、そうした効果が出たことは非常に喜ばしいと考えております。経済学者の多くは公共投資の乗数効果というものは現在じゃ余り大きくないんだということを言う人もおりますし、いろんな前提で数字計算がされておりますけれども、私は公共投資の出し方によっては決してそんなことはない、やはり波及効果の大きいようなところをねらって出るような形で投資を行うと必ず実際の事業としては出てくるんだということを申しておきました。  確かに昨年の公共投資、昨年の後半に強く出てまいりまして景気の下支えをしておりますし、年間を通じて成長率を〇・五%から〇・七%ぐらい支える要因になったんじゃないかという数字も出ております。これもこれで結構でございますけれども、これがこの三月期までで終わりました後、継続して景気の下支えになるかどうか、あるいは積極的に景気を引っ張る要因になるかどうかということでございましょう。今回の予算ではかなり積極的に公共投資の予算が組まれておりますから、その点はいいわけでございますけれども、昨年の当初に比較して二〇%でございますが、補正後に比べますと伸びていないわけですから、その辺、中だるみの可能性もあろうか、こういうことでございます。  特に心配なのは成長率でございまして、既に政府見通しにおきましても、三月で終わります六十二年度は三・七%の見通しをはるかにオーバーし、四・五%ぐらいまで出るんじゃなかろうかということも言われておりますけれども、六十三年度の見通しになりますと三・八%ということになっております。いろんな状況から見てやや六十二年度から下がるんじゃないかということが予測されもいたします。ただ、これは後半、アメリカの選挙が終わりました後でアメリカ景気がどうなるかということも絡んでまいります。アメリカの景気が停滞まではいかなくとも下降いたしますとやはり影響を受けるということでございますから、私は前半拡大、後半横ばいというふうに見ているわけでございますけれども、成長率が下がることになりますと内需依存度が当然下がってくるということになろう。というのは、やはり外需で急に賄うというわけにいかないものですから、そういうところが全体から見た経済構造について心配な点、あるいは持続性についての問題点であろうかと考えております。  次に、産業構造でございます。  これはマクロというよりはセミマクロあるいはミクロに近いところでございますけれども、産業構造を高度化していくという、あるいは先ほど申しましたような経済構造を転換させる、目標に沿って産業構造も変えていく、そして直接響いてくる貿易収支の黒字の削減というものにつなげるということが一つのねらいでございますけれども、これも一応、先ほど申しました経済構造と並んで成果があらわれてきております。もっとも、産業構造の転換というものはどちらかと申しますと市場メカニズムを通じて実現するものでございますから、政策的に手をとり足をとりということではございませんで、やはりマクロ的な経済の外枠的な形でのいろいろの国の政策によりましてこれが促進されますけれども、確かにソフト化、サービス経済化の方向にこれが転換しつつあることは言えるかと思います。特に円高が急速でございましたから、それによる相対価格の変動効果によりまして生産も大きく、あるいは資源配分のあり方も変わってきたということでございましょう。  ただ、そうした意味での外面から見ました産業構造の姿が、一応高度化する方向、あるいはソフト化、サービス化といった方向に転換しているということは言えるかと思いますけれども、しかし、その中身を見る場合には必ずしも問題がないわけじゃないと私は考えております。  その一つは雇用の状況あるいは就業構造といいますか、就業状態といいますか、これでございます。確かに数字で見ますと完全失業率は二・六%に下がり、有効求人倍率も〇・八五に上がってきたということが言われておりますけれども、実は常用雇用を見ておりますと、これがずっと減少を続けております。そしてパートを見ておりますと、特に三十代、四十代の技能生産者の中に女性のパートタイマーやら随分入ってまいりまして、生産を支えているという形が出てきている。と申しますと、結局は需要が伸びてもそれが常用雇用に結びつかずパートでカバーされているという形になる。そうでなければもう一つは労働時間の延長でございまして、本来ならば生活の中身を豊かにするという方向、また国際的な要求にもこたえるという意味で労働時間の短縮が実現すべきところにもかかわらず、逆に労働時間が最近伸びているという、こういう状況になっております。  それからさらに、先ほど申しました有効求人倍率も、地域格差がかなり出ております。そのために全体から見て、例えば今申しましたように〇・八五等々と申しておりますけれども、地域的な差が出ておりますから、そうした意味では東京都とか、数字で見ますと名古屋とかそうしたところの有効求人倍率が非常に高くてその他がそうでもない。ちょっと例で申しますと、六十一年度に有効求人倍率が全国で〇・六二ですが、札幌が〇・四〇、仙台が〇・四一、東京が〇・七五、名古屋が〇・八六、大阪が〇・五一、広島が〇・六三、四国が〇・五八、福岡が〇・三一というばらつきが出ているわけでございます。  したがって、雇用状況あるいは就業構造等々を見ておりますと、産業構造が高度化したのを中身でそれを支えているという状況は必ずしも出ていないということなんです。して見ますと、産業構造の転換と申しますとなかなか問題が多かろうということでございます。  それから、さらに外国人労働者、これは正式であれそうでない場合も随分ありましょうけれども、流入も増大しているという数字が出ております。それで、現実に内需が拡大いたしましても、建設が伸びておりましても技能労働者は不足しておりまして、東京などでは最近はコンクリートを打ち込むときに使います板ですね、木の板をつくる大工さんが非常に不足しておりまして、これは数が限られておりますから、そのために建設が非常に延びてなかなか行われていないという。聞いてみますと、幾らでも出すから来てくれと言われるけれども、このいっときにそうした形で高いところ側に回っていると、後になりましてそうでない時期になった場合に、落ちついたときに今度はしっぺ返しを食うから、したがって順番に公平に仕事をやっているんだというふうな言葉が近くの工事場から返ってまいりました。そういう現実があるわけでございまして、こういう面から見ていきますと、労働面、雇用面におきましてはかなり問題を抱えているんじゃなかろうか。  さらに、農業でございますけれども、これがこの構造転換がなかなか進められない、低生産性のままであるというわけです。農業はほかの産業とは少し違いますし、また土地生産性と深くかかわるものでございますから、したがって普通の産業と同日の談にするわけにいかないことは当然でございますけれども、これをどうするか、食管会計のあり方を含めてどうするかの問題、これもやはり構造転換という産業構造の高度化という点から考えますと、当然考慮に入れなきゃいかぬということでございます。この辺のところも、農業だけ別個に扱っておりますとやはり全体のバランスに欠けるところが出てまいりましょうし、ほかにいろんなリアクションも出てまいりますから、この辺のところを、今問題になっておりますけれども、先生方は積極的にこれに取り組んでいただきたいものと考えております。  それから、中小企業も同様でございまして、今度の予算ではサチコ予算が組まれまして、産業と地域とそして高齢者社会、この三つに対応するというわけで労働省の方は胸を張っているようでございますけれども、イイヨメサンだそうですが、一千百四十億円ぐらいではどうも今言ったような状況に対応できない。    〔理事林ゆう君退席、委員長着席〕 三十万人の雇用プログラムもございますけれども、現在心配されております、俗な言葉で言えば産業の空洞化ということを考えてまいりますと、百万人以上のレベルでの過剰雇用がある。例えば野村総研の資料によりますと、六十二年三月に百二十五万人ですか、それだけの過剰雇用があるという数字も出ている現状でございます。したがって、それを考えますと、産業構造のいわば外のスマートな変化の陰に隠れているこういう問題点というもの、こういうものを解決していかなければ本当の意味で産業構造が高度化したとは言えないし、またこういう点で再びもとに返るおそれを大いにはらんでいる状況だというふうに考えます。そうした意味でも構造転換、今のチャンスを積極的に生かす必要があろうかということです。  最後に、地域構造でございます。  私常々考えておりますけれども、日本の今までの産業政策あるいは産業構造の転換政策というものは、産業全体を重化学工業とか輸出産業とか、そうしたバランスで考えていた。これは産業の生産のバランスでありますけれども、地域と結びついた、現実の人間が生きてそこで物をつくるという産業のバランスではなかったということですね。  私、OECDに今から十年ちょっと前に勉強に行きましたけれども、そのときに実は産業政策の研究に行ったわけです。ところが、そうした電化学工業化のパーセンテージとか輸出をどうするかというような形での、あるいは技術革新をどうするかというような形での産業構造の外面的な形の転換とか姿の判断というものは、それは我々の方がはるかに進んでおりまして、向こうでそういう受けとめ方は余りやっておりませんです。むしろ向こうで考えるのは、地域にある産業のことなんですね。だから非常にどろどろしたものがあるわけです。そこに住んでいる人間をどうするかです。  我々は、かなり流動性の高い社会ですから、したがって八幡製鉄の人々を君津に、千葉県まで引っ張ってきてやらせようと思えばできるわけですけれども、そうできないところがたくさんある。彼らは石のうちに住んでおりまして、じい様のまたそのじい様のつくったうちみたいなところに住んでおりますから、地域に対する定着性が非常に強いわけなんで、そうしたところの人間を動かすわけにいきませんから、資本を持ってきてそこで産業を興そうとする。逆に言いますと、そこの産業が倒れるということは大変なことなんですね。ですから、産業政策というのは常に地域政策と結びついている。むしろ地域的な発想、地域的な安定ということを主にして考えるわけなんです。そうやっていますから、非常に保守的ですから、変化についていけなくて日本との競争力に負けてしまうというような現状があったわけですけれども、これはやはり考え物ですね。どちらかに重点を置くという、やはり一方ではだめなわけです。  そういう点を考えますと、これからは地域構造を考えた産業政策の必要があるわけでございます。そうした意味で、私はこの辺のところはまだ詰めておりませんけれども、都市農業とうまくリンケージさせまして、そこで生産、生活のシステム化を図っていくというやり方、こういうことがこれからの非常に重要な役割になってくるということでございましょう。アグリシティーということもございますけれども、そうした形で農業とか地域社会を生かしていくという、生活の一つのシステムをつくっていくということでございましょう。パリなどでは、卵を除きまして、当時ほとんど野菜なんかは一時間で生産地から届くというようなシステムが組まれておりまして、東京じゃ無理かもしれませんですけれども、そういう考え方もできようかと思います。  それからもう一つ、情報のネットワークを形成していく。遷都、展都いろいろお考えのようでございますけれども、情報というのは、ただ資料があるわけじゃありません。目的を持った資料でございます。したがっていろんな目的を持った資料があっていいわけであって、シティーにしても同様で、やはり目的を持ったシティーでなきゃいかぬ、目的を持った情報でなきゃいかぬわけですから、それぞれの地域におきましてそれぞれの目的を持った、こうしたアグリシティーなりあるいは都市農業との結びつきのシステムをつくっていくということは、それだけで非常に意味がございます。そうしたものの結果として産業構造が変わっていくという姿ならば、実質的な生活の内実を持った産業構造の転換になっていく。そうでなきゃ、表面的にバランスとかパーセンテージで考えただけの、あるいは重化学工業とか軽化学工業が何%になった、ハイテクが何%になりたというような表面的な産業構造の転換にとどまってしまうんじゃなかろうか。そうすると、表面は非常に進んでいるように見えても実はそうではないという状況が出るんじゃなかろうか、こういうふうに考えております。  地域自治体が中心にやるべきものでございましょうけれども、やはりネットワークとなりますと中心的なものが必要でございますし、全体をカバーする意味で国の大きな力が必要でございますので、こういう点で特に地域にも力を注いでまいっていただきたい、四全総がございますけれども、もっと早い期間にこういうことも進めていただきたい、このように考えております。  最後に、そうした形でいろいろ予算を見ていったわけでございますけれども、やはり政策の中には規制緩和、市場の自由化をどんどんやってそしてグイナミズムを生かしていい側面と、それからそうしたものをある程度規制して全体の福祉のためにある方向づけを行わなきゃいけない部門がございます。したがって、その辺の取捨選択と組み合わせというものを考えていく。そしてその間に出てきます利害の対立を調整するのが政治であろうと考えております。そうした面で、最近確かに市場開放とか規制緩和が盛んに言われておりますけれども、アメリカでも既に規制緩和の行き過ぎに対して批判が出ている、反省も出ている最中でございますから、この辺のところもじっくり腰を据えて考えていただきたい。と同時に、誘導すべきところは積極的に国の力で誘導すべきですから、公共投資も大いに活用していただきたいと思いますし、減税もやっていただきたい。その際に、特に投資の配分と減税をどこで行うかという配分の問題、これはじっくりと考えて詰めていただきたいものと考えております。  言い足らないところはまた御質問の中でお答えすることにいたしまして、時間が過ぎてまいりましたから、私の話はこれで一応打ち切りたいと思います。  終わります。
  78. 原文兵衛

    委員長原文兵衛君) ありがとうございました。  それでは、これより質疑を行います。  質疑のある方は順次御発言を願います。
  79. 松岡滿壽男

    松岡滿壽男君 公述人には本当に御苦労さまでございます。  まず、原先生の方にお伺いをいたしたいと思います。  ただいまお述べになりましたように、二年前に先生がおっしゃいましたような、景気と財政再建両にらみということで、日本経済は昨年の六兆円の補正予算、その後本年も二〇%公共事業を伸ばすわけでありますけれども、NTTの株式の活用その他によりまして、内需拡大に向けての実績がかなり着実に上がってきているという感じがいたすわけでありまして、ただいま先生御指摘のように、六十二年度も四%台の成長が見込まれるというところまで参っておるわけでありまして、先進諸国の中では非常に安定した経済成長を遂げておるわけでありますけれども、こうした内需主導型の経済の拡大によりまして、貿易の出超額も二月で五十二億三千八百万ドル、前年比で二六・五%減となりました。  昨年五月から十カ月連続の減少を記録しておるわけであります。一年前日本経済の最大の課題でありました貿易黒字縮小の改善がこういう形で着実に進んでおるという感じがいたすわけでありますけれども、原先生は、昨年六十二年度予算審議における公聴会にも御出席いただき御意見をお聞かせいただいたわけでありますけれども、そのときに先生は貿易インバランス調整には三年程度見ておけば十分と述べておられますが、そこで日本経済の現状をごらんになりまして、内需中心経済への転換及び貿易インバランスの調整の進展を、一年前の先生のお考えと比べてどのように現在、現時点で評価なさっておられるか、お伺いをいたしたいと思います。
  80. 原豊

    公述人(原豊君) お答えいたします。  昨年の質問に対して、どのぐらいかということで、一応三年あたりのめどということを考えました。これは実は私だけじゃございませんので、前川委員会の最終報告の中でも大体三年をめどにということを言っているわけであって、ただ、それをまねしたわけじゃございません。私が申しましたのは、これは余り長くかけますといつまでたっても貿易摩擦は解消しない。ですから、比較的短期間にある程度の結果を出す必要がある、こういうことでございます。  それから、円高が急速に進んでおりますから、したがってそうしたもとでの調整は割合早まる可能性があったということでございましょう。しかし、三年間に完全に貿易収支のバランスを獲得するというようなことは考えられない話であります。ですから、ある程度方向性としてだんだんと貿易収支の日本側の黒字は減ってくる、そしてアメリカ側の貿易収支の赤字も減ってくる、そういう方向がある程度定着するのは三年ぐらいを見ておいていいんじゃないかと。また、三年ぐらいがいい期間で、それ以上長くなると困るんじゃないか、そういう判断で考えておりましたから、今日におきましてもその点ではそうそうその言葉を変える必要はないという段階で考えております。  以上であります。
  81. 松岡滿壽男

    松岡滿壽男君 先生は政治の基本は国民生活を豊かにすることであると述べておられますけれども、私も全く同感であるわけです。  先ほど来産業構造の転換の関係でいろいろお話がございました。私も実は昨年、一昨年と労働政務次官をやっておりまして、ちょうど三十万人雇用開発プログラムとか、各地におきます雇用対策協議会に出ていきました。夕張の閉山でございますとか、高島とか、あるいは造船関係、鉄鋼関係も厳しい状態にあったわけでありますけれども、一時失業率が三・二まで行きましたが、今二・六%と。さらに有効求人倍率もかなり安定はしてまいっておるのですけれども、御指摘のように、パートの問題とか一部常用雇用についての問題点はあるんですけれども、端的に言いまして、経済構造の転換あるいは産業構造の転換と一口に言いますけれども、大変これは壮大なものだし、かなりの痛みを伴うものだと思うんです。それはこの一、二年の間は、今のような有効求人倍率でありますとか失業率が安定した状態にあるということで、今はかなりうまく乗り切りつつあるという感じはするんです。  しかし、いわゆる二次産業からソフト化が進んでいく、サービス化が進んでいく、そういう中で二十一世紀までに恐らく大体五百万人ぐらい二次産業から三次産業あるいはサービス産業に労働力のシフトが行われるだろう。それだけの受け皿ができるだろうかという問題が一つございますね。それから、海外への産業投資ということで、これが得べかりき雇用創出が六十万人ぐらいあるんじゃないか。さらに最近は、外国人労働力の問題が出てきておりまして、賃金も五分の一、十分の一という、それで現在、十万とも二十万とも言われる外国人労働力が日本の中にいるんじゃないかということです。  そういうもろもろの問題を考えますと、やはり国民生活を豊かに安定したままやっていくためには、マクロの経済成長率をある程度維持しながら、同時に失業率を抑えていく。そのためには、今申し上げましたように、産業構造が本当にうまく転換できていくだろうか。そのすべは、その具体的な対応としてどういうことが先生のお考えで考えられるだろうかということが一点。  もう一つは、今地域の問題を触れられました。確かに我が国の場合は炭鉱閉山とか国鉄のミスマッチとかいろいろありましたけれども、労働力がかなり地域的に流動するという部分があるんですね、外国と違って。だから、トータルでは何とかうまくおさまっていくという部分があるんですが、新全総もあるいは三全総も今度の四全総も、表現は定住圏構想とかいろいろ変わってきましたけれども、我々は一貫して地方を充実していこう、地方優先の思想というものを持ちながらやってきた。けれども、実態的には県民所得の格差もどんどん、東京を一〇〇とすると地方は五七から五三になるとかいう形で開いてきておりますし、今度の構造転換の中でもやはり地方に立地している重厚長大型産業が非常なダメージを受けた。だから、何とか地方を興していくためにはとにかく仕方がないから当面はヒラメの養殖とレジャーに対する期待ということばかりなんですね。  ですから、こういう大きな転換の中で地方の経済の活力を維持していくためにはどういう対応をしていったらいいんだろうか。こういう二点を、ちょっと御意見を伺ってみたいと思うんですが。
  82. 原豊

    公述人(原豊君) お答えいたします。  私は先ほども申しましたけれども、現在内需拡大というパターンをとりながらしかも四%成長を実現したという、かといってこの先その四%成長が続くという保証は何もない。逆に申しまして、この間も企画庁が発表しましたように、労働時間の短縮をやりますと一%ぐらい成長率が下がってくるだろう、そうしますと四%の維持は難しいなんという話も出ているわけなんですね。そういう状況のもとですから、今の温かいうちに構造転換を積極的に進める必要があろうかと考えているんです。ですから雇用対策にしても、まず今のうちにいろんな手段を講じておく必要がある。もちろん長期的な展望に立つ必要はございますよ。しかし、今は財源的に少しほっとしたところだということと、それから、NTTを初めといたしましてこれから新しく政府の持ち株を放出されるということがございましょう。ですから私は、このタイミングが非常に重要であって、しかもこれだけの財源があるんだからそれをうまく利用できないかと考えているんです。  例えば、政府がこうした株を処分なさって、そして入ってくる財源というものを構造転換のためにのみ用いる基金にしてそれをやっていくとか、そういうことはできないものであろうか。確かに私は、財政が国債費が高まってまいりまして政策の手詰まりを招くとか、あるいは後代にいろいろしわ寄せが出るとか言われておりますから、財政赤字はでき得る限り少な目にということは当然だと思いますけれども、要するに、財政の健全性を確保することが財政の目的というのじゃなくて、国民生活を安定せしめるのが第一の目的なんですから、その辺のところはある程度弾力的に考えてもいいじゃないか。こういうことでございますので、私は、具体的な考え方としては、今後百九十五万株、四年間にわたってまだまだ放出されますからそういうもの、それから日本航空株、さらには日本たばこを初めとしてそういう政府資産を処理したもの、そのほか政府財団多々ございますけれども、そういうものは構造転換のための原資に充てるような形で今のうちに、温かいうちにある程度の対応を積極的に進めたらいいんじゃなかろうか、このように考えているんです。具体的にはいろいろ政策があろうかと考えますけれども、何分財源の問題がございますが、まず一つそういうことを考えております。  それからもう一つ地方の話で何か方策がないかということでございますけれども、私は、やはりそういうものをかなり弾力的に用いますと財源的にも地方に対してある程度中央から財源を提供することもできるんじゃなかろうか。今のように逆に国庫負担率をだんだん下げていきまして地方の方に負担を寄せるというような形はどうもおかしいわけでございまして、そう考えますと、今言った形で積極的に地方にもう少し財源を配分いたしまして、地方国づくりといいますとおかしいんですけれども、そういう町づくりというものを積極的にサポートする必要がある。  その場合に地方だけでやりますとそれこそ村おこし運動みたいな形で断片的なものばかり集まりますから、それじゃ本当の意味で全体としての雇用のカバーにはならないわけでございますから、やはり地方地方の特色を国会の場でも考えていただいて、そして私さっき情報というのは目的を持ったデータと申しましたけれども、やはり土地で違うところに特色があるわけでございますね、地方というのは。そこが地方でございますから、そうしたところを生かすような形で、それぞれの特色を生かしたものをつくり上げた上でシステムを組んでいくというようなやり方をやっていく。その場合にリニアカーをどこに引くとか、いろいろ具体的な方法が考えられると思いますけれども、そういう形で地方を興していく以外に方法はないと考えます。  それからもう一つ、それでも私は、東京はやはり目的を持った資料がたくさん集まる情報都市ですから、しかも国際的な情報都市ですから、人は集まりますし仕事が集まると思います。これはある程度やむを得ないことですね。やむを得ないことだけれども、東京でなくともできるものもあるわけですから、そういうものは外に出していくというような、そういう意味では遷都、展都、いろいろありましょうけれども、そういうものを考えていく。そういう形で、いわば縦横じゅうおうにそうしたアグリシティーなりを結びつけるというような発想で地方おこしをやっていただきたいと考えております。  それからもう一つは、今のこの地域の流動性の問題ですけれども、やはり若い人はちょっと感覚が違うわけなんですね。条件が違いますとどんどん出ていくわけなんですよ。ですから、地域を興す場合には、そういう本当に地域にいて地域を代表する考え方を持ちそして地域に役立つ技能を持っている人が支えている地方と、それからどこでも流動的に動ける人でもって構成される地方、そういうものがごっちゃになってあっても構わないと思うんですね。ですから、リニアモーターカーで名古屋から東京に出ている、そうした場合には若い人はどんどん出てくればいい、そしてまた帰っていけばいい。しかし、じっくり腰を据えて地域の特色を出すような人は、やはりそこでその地域の顔のような生活を送ってほしい。そしてまた、我々もある程度の年齢になりますとそういう層の方に移っていく。そうなりますと、実際に雇用の細かいことまで考えなくてもいい、その土地に住むということである程度の需要が出てくるであろう、地域需要ですけれども。そういうふうに考えているんです。  私も地域につきましてはいろいろ考えるんですけれども、どうもいい知恵がなかなか出ないんで、どちらかといいますと皆さん方の御意見を聞きたいぐらいなんです。今のところは、いささか抽象的ですけれども、そのように考えている次第です。ただ、財源的にはそのような形ではっきりとした財源を出すということが地域問題の一番根本であろうと考えております。
  83. 松岡滿壽男

    松岡滿壽男君 ありがとうございました。  アジアNICSの関係につきましてちょっとお聞かせをいただきたいんですけれども、最近随分我が国にも電気製品とか衣料品なんかが店頭に並ぶようになってきたんですけれども、こういうNICS経済の台頭によりましてかなり我が国も影響を受けざるを得ない面があるんじゃないかと思うんです。より一層高度な技術開発をすることによって技術立国として成長していくことが必要なんでしょうけれども、今後の日本経済とNICS及び世界とのかかわり合いにつきまして、先生のお考えをお聞かせいただきたいと思うんですが。
  84. 原豊

    公述人(原豊君) 労働問題だけじゃなくて、アジアNICSからの製品輸入が非常に増大しております。それから大企業におきましても、東芝さんなんかはそうですけれども、百ドル以下のものは韓国から入れてくるとかというような形になっておりますので、もう既に我々はアジアNICSの製品と常に接触しながら生活するような状況になってまいりました。これは自然の姿で、やむを得ないと考えるべきでしょう。かつて我々の製品がアメリカに出て同じようなことをやっておりますし、日本の今のような技術水準の高まりから考えれば当然のことでございます。その辺の影響はやむを得ないものと私は考えております。  ただ、その中で為替レートですね、今の為替レートの面で非常にギャップがありまして、御存じのようにドルと連動しておりますから、したがって日本に対して非常に有利な立場で輸出してくるというようなこともございますので、こういうものはやはり将来落ちついてくるんじゃなかろうか。ドルも、私考えておりますけれども、もう少ししますとある程度限界にいくんじゃなかろうか。これは、先ほど申しましたように、アメリカの財政赤字もだんだんと、すぐには無理でありますがだんだんと減少に向かっていくという形であります。片一方で下手をすると一兆ドル近くなるような累積債務がかさむんじゃないかという議論もありますけれども、それにいたしましてもやはりある程度限界があるわけでございますから、落ちついてくるということになってまいりますとNICSもそうそう為替面の有利さを強調できなくなってくるということでございましょう。  それから、お隣の韓国なんかの例をとりますと、NICSが生産を高めて日本に製品輸出する場合に、生産を高めれば高めるほどそのコアになります中心的な部分の機械とかその他のものは日本から中間原材料を買ってこなきゃいけないわけですね。これは造船なんかでも同様です。ですから、つくればつくるほど日本からの輸入もふえてくるというまだまだそういう関係になっているわけです。  それで、そうした関係じゃなくて、アジアNICSの国々が本当に全部原材料から中心的な機械部分までも自分の国で生産できて、そしてどんどん生産を高めて日本の大きな市場に入ってこれるようになるかどうかというと、私はすぐには無理だと考えております。と申しますのは、中小企業の問題があろうかと思います。やはりある程度そういうすそ野がなければ技術も発展いたしませんし、その高い技術でできました中間製品を使わなければいい製品もできない。ですから、幾ら入れても日本の製品と比べて悪い製品は日本人は絶対買いません、安くていい品物じゃなきゃ買わない、こういうことでございます。たまに買うとすればおもしろいから買うだけでありまして、本当の意味での日本製品に伍して競争するには——そこまでいかなきゃいけませんけれどもちょっと無理だという、そういう点で私は伸びてもおのずから限界があろうと考えております。  ただ、これは工業製品でございまして、その他の繊維製品等々になりますと、とにかく値段だけで競争する部分もたくさんありますからこれはやむを得ない、そういう場合にはやはり我々はそういう産業をそうした発展途上国に譲っていくのは当然の姿であろう、こういうふうに考えておりますし、お隣の韓国におきましても、今から既に十年近く前に、繊維産業では立国しないんだ、ほかの国々に譲っていくとはっきり申しておりましたが、これは自然の姿であります。そうした意味でのある程度部分での空洞化というものは、私は経済の世界的な発展の一つのパターンであって、何も今に始まったことじゃないし、これはああだこうだと慌てふためく必要はない、このように考えております。  以上であります。
  85. 松岡滿壽男

    松岡滿壽男君 原先生、どうも有益なお話をありがとうございました。  北村先生の方にちょっとお伺いいたしたいんです。先ほど専守防衛につきましての御提議があったものですから、防衛費につきましての一%問題についての先生の御意見を伺おうと思ったんですけれども、防衛費、軍事費は一銭もない方がいいんだという御意見でございますので御意見を伺うのはどうかなと思うんですが、現在の我が国の防衛費、いろんな議論はあろうと思いますけれども、先進国の中で決して高い方ではないだろうと思っておるんです。GNP比で一%という程度ということでありまして、諸外国から見るとかなり低いものだというふうに思っておるんです。先生のお考えは適正な防衛費という観点から考えた場合にどの程度ということを伺おうかと思ったんですが、せっかくの機会でございますので御意見を伺いたい、かように思います。
  86. 北村実

    公述人(北村実君) GNP一%問題について私意見を申し上げなかったんですが、そもそも日本のGNPが巨大でありますから、一%ということはこれまた巨大な防衛費であるということになるわけであります。一%枠を超えるか超えないかということがこの間いろいろ大きな問題のように議論されておりました。私も一%枠を超えない方がいいと思いますが、しかし一%の枠にとどまっていればいいのかと申すと決してそうではないわけです。GNPの大きな国が一%の防衛費を使うということはこれまた巨大な防衛費ということに当然なるわけであります。ASEAN諸国の防衛費と比べた場合に、日本防衛費がGNPの一%をわずか超えただけではるかに大きなものになっているということは、既に御存じのとおりだと思います。  適切な防衛費がどのくらいかということは、これは立場によっていろいろ異なると思います。私も理想的にはこうこうということを考えておりますけれども、しかし今日の日本の現実的な感覚で申せば、やはり半額程度が私は妥当ではないかというふうに考えます。
  87. 松岡滿壽男

    松岡滿壽男君 この正月に私、「わが友マキアヴェッリ」という本を読みました。その中で、いわゆるマキアヴェッリの「政略論」に「ことが祖国の存亡を賭けている場合、その手段が、正しいとか正しくないとか、寛容であるとか残酷であるとか、賞讃されるものかそれとも恥ずべきものかなどは、いっさい考慮する必要はない。何にも増して優先さるべき目的は、祖国の安全と自由の維持だからである」という一節があります。これは五百年前のフィレンツェの小国の書記殿のお考えであります。当時としては非常に革新的なことであったんでしょうけれども、非常に古典的な意見であるわけでありますけれども、こういうものにつきましての先生の御所見があれば一言伺いたいと思います。
  88. 北村実

    公述人(北村実君) 私は、防衛ということはもっと総合的に考えなければならない、軍事力のみによって国を守るということは既に古い、時代おくれの戦略思想であるというふうに考えております。もっと総合的に考えなければならない。その一環として今日の防衛費というものをどう考えたらいいかということでありますが、私はやはりこれははるかに大き過ぎるというふうに考えます。ハリネズミというのが我々のしばらく前までの標語だったわけですが、既にハリネズミではなくなって、かなり長い棒を振り回すような状況に差しかかっているというふうに考えております。
  89. 松岡滿壽男

    松岡滿壽男君 ありがとうございました。
  90. 大木正吾

    ○大木正吾君 原先生にお伺いいたします。  私は、本年度予算について財テク型予算、こういうふうに自分では言っているんですが、NTTの株が約四兆八千億円、それから法人税、所得税両方に絡んでいわゆる財テク型収入、これはなかなか大蔵省が資料を出しませんからはっきりわかりません。わかりませんが、いろんな形でもって調べて見ていきますと三十兆中ほぼ一五%ぐらい、そういったものが大体財テク型でもって、少なく見積もってもそんなものなんですね。そうしますと、言えば両方合わして約九兆近いものになる。そういった形の予算を受けて、確かに経済は好調でございますし、同時にしばらくはNTTも二、三年間まだ株がありますからね。心配なことは、やっぱりそういった中で百七十万戸の住宅建設がそのまま進むかどうかという問題とか、財テク型経済というものが果たしてこれでいいのかどうかという問題については私個人も批判があります。  それから同時に、三年たつとNTTの株式は売り切りますから、問題は、先生がおっしゃったとおり、その間に産業構造調整あるいは経済調整等が本当に済んでしまえばいいというか、あるいはその間に減税とか公共投資もなるべく息の長いものにしてもらう、そういった中で、三年と言わずに五年、七年、十年という中でもって貿易のインバランスも直っていく、同時に経常収支もだんだん落ちついていくというような状態が一番望ましいわけでございます。大体先生の御趣旨とそんなに違いはないと思うんですが、そういった問題点を本予算委員会におきましてなかなか系統的に数字的にはっきり出し得なかった問題点があるんですが、まさしく将来性からしますと、これは大蔵大臣みずから、宮澤さんがおっしゃったんですが、NTTの株があったおかげでもっていわゆる調整の方もうまくいったし、同時に赤字公債の方の返還もめどがつくというふうな、こういう話もありまして、そういった面からして非常に今大事な時期でございまして、もう少しやっぱり持続的な恒常的な経済なりあるいは産業が安定していく状態ということを、どうしても予算あるいは産業のあり方といたしまして考えていかなきゃならぬ。  こういう考えを持っているんですが、先生の所感がありましたら伺いたい、こう考えるんです。
  91. 原豊

    公述人(原豊君) お答えいたします。  財テク型と言うかどうかはともかくといたしまして、確かに僥幸と言ってもいいような状況で出た財源でございます。そこまでの話はいたしませんでしたけれども、おっしゃるように、NTTというのは政府が規制緩和でつくり出したものと言えますし、それから高く売れたというのも株式市場がブーム化していた結果でございますし、それから同時にまた地価も高騰するというような形での、いわば実体経済と遊離と言うと語弊があるかもしれませんですけれども、それよりはるかに膨らんだ金融経済、それの一つの結果であるわけですから、生産の結果として我々が手に入れたものというふうには言えない面が確かにあるわけです。  じゃストックで手に入れたかと申しますと、確かはそれはそれに違いないんですけれども、今申しましたような値上がりの結果のストックの増大である。一例を申しますと、企画庁が六十一年の国民資産の計算を出しておりますけれども、四千何兆という数字が出ておりますけれども、これは一年間で三百六十九兆円ぐらいがふえているわけですね。これはやはり今申しましたような株とか土地の資産価値、これが値上がりしたためでございます。三百六十何兆というと日本のGNPより高いわけなんです。そういうものが生産しなくてただ値上がりでできていたということでございますから、そういうものを国民の生活の一番基本になります予算の中に加えて、そしてそれをある程度継続性を持って国づくりに使うという場合に問題があるわけでございましょう。  しかし、現実にそれが出てまいりますならば私はそれはそれとして有効に使うしかないんじゃなかろうかということで、今申したような次第でございますから、根本的にそういう問題点を抱えているということ、それから、僥幸といいますか、偶然性がありますから、したがってこういうことは常にあるわけではない。売ってしまえばそれっきりだということなんで、その場合でも結局は放出されますと国民の持っております株式資産の価値が単価当たりになってまいりますとどうしてもある程度下がってくるわけでございますので、そういう問題も抱えている財源である、おっしゃるとおりだと思っております。
  92. 大木正吾

    ○大木正吾君 簡単に、産業の空洞化問題について。  つい最近トヨタ自動車関係のところの周辺を見てきたんですけれども、本格化しますのは二、三年後、こういう話になりまして、あそこでも今国内が割合によく売れていますからいいんですが、恐らく本格的な二、三年後のアメリカを中心としました、アメリカへの進出工場等の生産が始まってきますと逆輸入も起きるかもしれませんけれども、豊田地域全体が空洞化、こういう心配が出ているわけですね。そういった問題についてどうお考えですか。
  93. 原豊

    公述人(原豊君) 空洞化のつかまえ方はいろいろございますけれども、アウトソーシングという、要するに現地調達の問題が一つと、それから、結局その分が国内での雇用の減につながってくるという問題を抱えているわけでございます。そういう現象が一番集約的に出ているのが自動車産業じゃないかと思います。部品工業の中でも一番たくさん特にアメリカに出ておりまして、ですからこれは、昨年あたりの段階でも自動車の生産で、アメリカだけでも日本系の自動車会社は約二百万台ぐらいはつくるというようなことになってくるわけでございますね。その上に今度はまたトヨタさんなんかが国内で内需拡大に対応して生産を拡大するための投資をなさっているという形で、また国内全体で見ても六百三十万台ぐらいですかのことしの自動車の売り上げがある、こういうことなんですね。  こういうことがしょっちゅう続くはずはないわけでございますから、どうしてもこれは生産過剰になってくるということですね。新車を三カ月に一遍出すわけにいきませんし、また買う人間も三カ月に一遍買うわけにいきませんですから、どうしてもこれは販売競争が激しくなる。とすれば今度は輸出をまた伸ばしていくというような形になってきますよね。これは行ったり帰ったり、行ったり帰ったりの形になってくる。そうでもしなければ非常にダメージが企業として出てくるんじゃなかろうかと考えております。  そういう点での空洞化というような表現を使いますと、これは私はもうある程度やむを得ないことである。したがって、産業が成熟していく自動車産業の中におきましてはやむを得ない現象であるから、可能性としてはほかの新しく発展していく産業、またライフサイクルの面でも短い出てきたばかりの産業の方で雇用機会がふえていくから、ある程度そこで吸収してくれればいいということが希望的な観測でございますけれども、そうしたところは雇用吸収力は必ずしもないということで、そうなりますと、残されたのはサービス関係ぐらいしかなくなってしまって、現にアメリカで最近好景気と言われていて、しかもアメリカでも失業率は下がってまいりまして五・六%ぐらいになったけれども、一体どこで伸びているかというと、やはりサービスでしか伸びていないわけですね。もちろん生産も拡大しておりますので、少しは生産過程の中でも雇用者がふえていると思いますけれども、サービス中心になっていっている。この姿はやはり先進国、成熟した経済としてやむを得ない姿である、こういうことでございましょう。  ですから私は、空洞化というものは残念でございますけれども、日本のようにある程度産業が成熟した国では受け入れざるを得ない現象ではなかろうかと、このように考えております。
  94. 野田哲

    ○野田哲君 北村先生に二、三伺いたいと思います。社会党の野田でございます。  防衛の問題、防衛費の問題を議論する場合に、前提になるのは国際的な軍事情勢の見方の問題だろうと思うんです。そこのところが私ども国会で政府と議論をしても一番まずかみ合わないところです。私は今の情勢について、特にソ連のゴルバチョフ書記長就任後間もなくウラジオストクで演説された記録がありますし、それからそれ以来、昨年の十二月八日のワシントンにおける米ソ首脳会談、さらについ先日は、これも異例のことですけれども、米ソ両国の国防相の会談がベルンで行われた。そして近くまた両国の参謀総長が会談をする、こういう予定もあるようでありますが、そしてまたそういう一連の動きとあわせて最近発表されたソ連のヤゾフ国防相の著書を見ると、これはもう明らかにソ連の軍事ドクトリンというのは防衛的な性格、そしてもう一つは軍縮の方向に向かっている。  これはソ連のアフガンからの撤退、あるいはモンゴルからの撤退、この具体的な事実をもってしても明らかではないか、こういうふうに思うわけですけれども、そこのところは、きょうも実は参議院の内閣委員会で瓦防衛庁長官の所信表明があったわけですが、依然としてこういうふうに言っているんです。「極東ソ連軍の質量両面にわたる増強とこれに伴う行動の活発化により、我が国に対する潜在的脅威が増大」をしている、こういうふうにきょうも述べているわけです。  昨年の秋に、私は、米ソ両国のINFの全廃合意、これはいつも防衛庁が防衛白書などに述べて一番の脅威として指摘をしているアジア配備のSS20、これらが廃棄されるんだから明らかに軍事情勢は大きく転換をしているじゃないか、こういう指摘もしたわけですけれども、先生が言われた古い防衛思想といいますか、なかなかそこのところが変わらない、かみ合わない。こういう点について北村先生は、国際的な軍事情勢について、特にアジアにおける軍事情勢をどう見ておられるのか、まずその点から伺いたいと思います。
  95. 北村実

    公述人(北村実君) ソ連の変化をどう見るかというのは大変難しい問題だと思います。全体としてソ連が軍縮の方向に向かっていることはこれは否定できないように思います。  私もこの間、おととしはクレムリンでグロムイコ最高会議幹部会議長と会見する機会を得まして、その際にもソ連の新しい方向について御意見を伺う機会がありました。昨年も私ソ連に出かけておりますが、ペレストロイカによってソ連が大きく変化しようとしている中で、軍事の面でも従来からとってきた政策の変更、見直しが行われていることは言うまでもないと思います。それがINF条約の調印にあらわれたわけでありますし、それからまた戦略核は五〇%削減の交渉にもソ連が積極的であるということにあらわれているように思います。  全体としてそういう方向へ進んでいるわけですが、しかし極東だけとると必ずしもそうでないという御指摘が、この間政府や防衛庁関係の方から出ております。これをどう見るかということですが、確かにカムチャッカ半島から南の海域にソ連の原潜がたくさんあらわれていることはこれは事実であると思います。しかしそれは、アメリカが核戦略を潜水艦中心にシフトチェンジをして、SLBMとかSLCMをたくさん潜水艦に配備しているのに対抗して、ソ連もまた海洋配備に力を入れるようになってきた結果であるというふうに私は考えております。  確かに、この間ソ連の原潜、新しいものも登場しております。マイク級とかシェラ級とかアクラ級とかが既に配備をされ、SSN21という巡航ミサイルですが、それを積んでいることは確かであります。それに対抗するためにアメリカが、日本を含む極東の戦略態勢を強化しつつある。その中には潜水艦に対する日本側のいろいろな協力ということも起きてきているわけで、そういう極東海域だけをとりますと、確かに問題はそう簡単ではないように見えます。しかしこれも私は、大きく核兵器の削減の方向に向かっていく中で、そういう局地的な問題というものも解消していくのではないかというふうに考えております。  なお、極東海域にあらわれているソ連の原潜の積んでおりますSLCMとかSLBMは、日本本土に向けて発せられるものではなくて、これはアメリカ本土に向けられているものであって、そういう点から申しますと、日本に直接脅威になる性質のものではないというふうに私は考えております。確かに極東に一時的にそういう状況があらわれていることは私もまた認めますけれども、しかし、全体としてソ連の軍事戦略が大きく変わりつつあるという大きな流れの中で我々はソ連というものを見なければならないというふうに思います。そうしますと、ソ連の脅威というものは減退の方向に進んでいるというふうに結論せざるを得ないというふうに私自身は考えております。  ところが、政府や防衛庁関係の方はこの極東のごく一部の現象だけを突出させてソ連脅威論を依然として主張なさっているわけで、これは私は非常に問題であるというふうに考えております。
  96. 野田哲

    ○野田哲君 今度の国会でもう一つの防衛問題の大きな焦点というのは、米軍の有事来援を円滑にするための装備の事前集積、いわゆるポンカス、これを日米双方で研究をしていく、こういうことを一月十九日に日米防衛首脳会談で日本側から申し出て合意を見た、こういう問題があるわけでありますけれども、この点について北村先生の御見解があれば伺っておきたいと思います。
  97. 北村実

    公述人(北村実君) ポンカスにつきましては、防衛庁長官が訪米したときに日本側から申し出たということに私など改めて驚きを感じております。既にNATOではポンカスというものが設けられていることは御存じのとおりだと思いますが、日本に有事来援のためにポンカスというのをつくるということは、日本側がなぜ言わなければならないのか。アメリカ側が強く要求をしたというのならまだそれはこれまでのコンテクストからあり得ることだと思いますが、なぜ日本側からこの話を持ち出したのか、大変私は不思議に思っております。  ポンカスは、これは非常に膨大な施設を日本国内のどこかに配備しておくということでありますから、これは日本の安全にとっても非常に重要な意味を持つと考えて、私もこれは重大視せざるを得ないというふうに考えております。
  98. 矢原秀男

    ○矢原秀男君 北村先生にまず数点お願いしたいと思います。  私、地球上の人類はやはり平和を求めて、戦争したらいけない、こういうことを肌身で知っておりますけれども、国という垣根でお互いの考え方が非常に手が届かない、こういうことを実感として感じていると思います。  そういう中でまず質問したいと思いますのは、世界の軍備や平和を考えましたときに、先ほどもお話ししたことがございますけれども、アメリカとソ連が軍備の関係でまず縮小していく、核も少なくしていく、そうして平和というものがやってくる、これは事実でございます。そういう意味で、INF全廃条約後の米ソの軍事費の削減というものは、将来的に先生が考えられましてどういう形で削減の変化の方向に行くのか、こういうことをまず伺ってみたいわけでございます。  二番目には、米国もソ連もそうでございますが、私はSDIの配備が着々とやはり進められていると考えているわけでございますけれども、こういう宇宙兵力に対する質的な転換というものを米ソがどの程度に進めて、それに軍事費というものが数字的にどういう絡みをしてくるのか、こういうことがおわかりであれば教えていただきたいと思います。  それから日本とソ連の関係でございますけれども、日本で総理大臣を初め国民の方々がソ連といつも外交交渉の中で北方領土の返還というものに必死になっておりますけれども、私はソ連の立場として、日本がこれだけ一生懸命考えておっても、やはりいろんな言いたいことがあって相手にしておらない、こういうふうに考えるわけでございますけれども、日本の北方領土返還の意欲に対してソ連はどういうふうに考えているのか、推測でも結構でございますけれども、おわかりであればおわかりの範囲で聞きたいと思います。  それから最後に防衛の一点でございますが、私たちはやはりGNP比の一%枠は超えてはいけない、これを、東南アジアや世界に対して日本はやはり軍事大国としての印象を与えてはいけない、こういうことでチェック機能の一つにしているわけでございますが、いろいろございますけれども、世界の軍事費がいわゆる一九八五年全体だけを見ても約九千億ドルに達している、この中心が米国とソ連である。そしてまた逆に、兵器を供給する国がまた米国とソ連というものではないのか、その金額が四百三十二億ドルにも達するのではないかというふうな、これは私がじかに両国に確かめてないので推測の範囲でございますけれども、まず私はやはり、日本もそうでございますけれども、世界の軍事に対する危険度、これをまず取り払っていかなければいけない、そういう意味で世界の軍事費の九千億ドルの大半であるソ連とアメリカ、そしてまた兵器を売買する、そういうふうなことについても、どの程度まで縮小しなければ、世界の国々が皆自国防衛のために心配をして将来通常兵器というものの予算をふやすであろう。だからアメリカやソ連がもっとこれは注意をしなければいけない。そういうところの論議がなされているのかどうか、こういうことをおわかりの範囲で教えていただきたいと思います。  それから、時間がございませんので原先生にお願いを申し上げたい数点は、確かに今円高、そういう中で非常に景気もいい形で内需というものも拡大されておりますけれども、こういう中で円高デフレの傾向というものを先生はどういうふうな形で分析されていらっしゃるのか、これが一点でございます。  もう一点は、この好景気という陰の中で輸入商品というもの、例えばブランド商品でも割に下がっておらない。この複雑な流通機構というものにメスを入れなければ、国民の、消費者の利益というものも私は将来、資源のない日本の国は——今アメリカの形を産業的にも追っていっているのではないか。資源のない日本の国は、今ソフト、サービス化という産業構造の形のようなものが見えるけれども、ここらで、今申し上げた二点の中で本当に日本の国が考えていかなければ、世界経済の中で大きな落とし穴があるのではないか、こういう心配を私はしておりますけれども、そういう点で御見解をお願い申し上げたいと思います。  以上でございます。
  99. 北村実

    公述人(北村実君) 幾つかの点をお答えしなきゃならぬと思いますが、全部お答えできるかどうかわかりませんので重点的にお答えさせていただきます。  まず、アメリカ、ソ連で軍事費削減の方向へ向かうかどうかというお尋ねですが、私は紆余曲折があるけれどもそういう方向へ向かっていくだろうというように考えております。  アメリカの場合には御存じのように双子の赤字という問題があります。これはやはり何といっても軍事費の重圧がアメリカ経済にとって非常に大きなマイナス要因にたっているということであって、これは軍事費の削減の方向にいかざるを得ないように思います。アメリカ国民の間で反核運動が数年前から盛り上がりまして、中間選挙でも十州でそういう意思表示がなされ、それによってレーガン大統領も渋々核兵器削減の方向を打ち出さざるを得なくなってきたわけです。こういう方向は今後強まることはあっても弱まることはないというふうに私は思っております。  アメリカが全体として核軍縮の方向に進んでいるのに対して、ソ連もまた同様であるというふうに私は思います。ソ連経済にとっても軍事費の負担というのは大変重いものがあって、ソ連の経済の活性化のためにはどうしてもやはり軍事費の削減の方向へ進まざるを得ない。今、全社会的にペレストロイカが行われておりますが、その一環としてソ連もまた軍事費の削減の方向へ進んでいることは間違いないように思います。  さて、SDIの問題についてのお尋ねですが、アメリカはSDIに依然として執念を燃やしております。しかし、SDIが技術的に可能かどうかということは専門家の間でもかなりの疑問が出ております。実戦配備というものはそう簡単ではない、相当困難が予想されるということで、しばらく前に比べますとSDIについての熱というのは冷めつつあるように思われます。予算もちょっと減っております。SDIについてはアメリカの国内にも非常に大きな反対があります。科学者の中にも大きな反対が行われていて、国内的にもそう簡単に前進する方向ではないように思います。  私は、SDIというものはやはりこれは核兵器だと考えております。核兵器でないという御意見もありますけれども、一部核爆発を利用する以上は核兵器であるというようにも思います。そういう点で、世界的な核軍縮の方向からいってもSDIを我々は何とかして阻止しなければならないというふうに考えております。  さて、北方領土の問題ですが、私はソ連の北方領土についての態度がまだ変わっていないというふうに考えておりますけれども、しかし全体としてソ連の第二次世界大戦の処理についての見直しが恐らく進んでいくだろうというふうに思います。ペレストロイカというのはそこまで行かなければ私は本物ではないと思うんですが、第二次世界大戦処理をめぐっても恐らく見直しが進む中で、領土不拡大というレーニン以来の社会主義の原則というものがもう一度見直されて、適切な処理の方何というものが打ち出されていく可能性を私は同じております。  それからGNF一%枠ですが、先ほど申し上げたように、GNPそのものが非常に巨大であるために一%というものは私は歯どめの役割りが余りないと思うんです。一%枠だから安心ということにはならないわけで、一%枠におさまっていた時期にどんどん防衛費が拡大して一三〇%になってしまったわけですから、私は余りGNP一%枠ということを重視することには反対です。それよりも、日本防衛費が総額として幾らであるか、そしてそれが国際的に比較してどうかという観点から考えていく必要があるように思います。  以上、まだお答えできなかったところはありますが、終わらせていただきます。
  100. 原豊

    公述人(原豊君) お答えいたします。  円高デフレのことでございますけれども、現在の日本の状況を見ますと、先ほど申しましたように、かなり格差はございますけれども、一応景気の熱は各地域にも及んできているというような傾向が出てきております。そういう点では日本の適応力は大したものだと考えますね。円高はかなり厳しいんですけれども、やはり厳しいなら厳しいなりに適応していくという。ですから百五十円なら百五十日、百三十円なら百三十円。また、それがまずいこともありまして、適応していくものだからなお一層円高になるというような自縄自縛のところがございますけれども、そういう面で円高デフレというような状況は余り厳しくは出ていない。ただ、地域格差で見てまいりますと、地域におきましてはいろいろ地場産業の中でそういうふうに円高に適応できないものがあるわけですね。  例えば燕を見てもそうなんであって、どんどん適応できるものは伸びていっていますけれども、そうでないところは滅びていくという形で、転業していくとかあるいはやめる事業者が結構あるということですから、そうした意味で、円高デフレとまではしかないまでも、やはり厳しいボディーブローのようにいろんな地域に効いていることは確かだと考えております。その辺のところは、何らかの形で政治の手で救うということも必要だと考えております。  それから二番目に、物価と流通機構でございますけれども、確かにおっしゃるとおりでございまして、実は私、いろいろ挙げまして構造的な調整はまだできないと申しましたけれども、農業もありますけれどもそのほか流通機構もありますですね。日本の流通機構は非常に複雑ではございますし、ですから農産物にいたしましても、原価は大体四分の一ぐらいであとは流通経費がかかってくるということでございますから、そういう点を考えますと日本の流通という部門もかなりおくれた部門であるということですから、産業構造の近代化には当然この流通部門の近代化も加えていかなきゃいかぬということでございましょう。ただこれは、一遍にショートカットして流通過程をなくしちゃえというのは困るわけで、それぞれの流通過程で皆さん所得を得ていらっしゃいますから、ドラスチックな変化は私は無理だと考えます。しかし国際的にはおかしいところが随分ありますから、そういうところは少しずつ市場の風を当てて変えていくという、私はこれは少し時間をかけなければいけない部分じゃなかろうかと考えております。  それから三番目に、アメリカと同じ形になりつつあるという御心配、確かにそうでございます。  一つは、先ほど、前にも御質問が出ましたような財テクのことでございますね。アメリカは大体一九七〇年代にこれが出ておりまして、企業の方は短期的な発想で利益を得るような形になりましたために、設備投資をやってある時間をかけて生産性を上げた結果を手に入れるというようなことはまだるっこしくてやらなくなったし、安いところは海外から部品を買ってこようというわけで、海外は出ちゃって空洞化を招いたということがございます。日本も去年おととしあたりはそういうところが随分ありましたけれども、やはり株も暴落いたしましたし、あるいは企業家の方も考え直しておりますので、この辺のところはだんだんと反省が実を結んでくるんじゃないかと考えますし、日本の場合は経営者はそれでもなおやはり本業を重んじております。そしてある程度長期的に企業の発展を考えております。ですから、ちょっとよくなりますと、さっき話に出ましたようにすぐに設備投資をやるわけですね。そういうところがありますから、まだ私はその辺は安心である。  ただ、もう少しマクロで見ますと、債権国になりましたので、そしてこれからも経常収支でどんどん入ってくるようなことになってまいりますと、これはうっかりしますと、それこそ金持ちが資本だけで食うような形になりかねませんですから、これはかつてイギリスもそういう心配があってケインズがいろんな主張をしておりますし、アメリカもこの辺の心配があるのでいろいろ思案もされておりますけれども、そういうことにならないように我々も銘記しておかなきゃいかぬです、先例をですね。そういうふうに考えております。  それで、ただ我が国の場合には、働き者でございますから、ただ資本を貸してその上がりで食べるというようなことは国民的にもなじまないところがあるんじゃないかと考えております。その点が逆に、働き過ぎで労働時間の延長まですぐいっちゃうというようなことですね。だからこの辺のところはやはり大いに反省をして、付加価値の高いものを生産して、これは別に物がなくても技術なんかでも結構なわけですから、それで得たものをみんなで分かち合って生活していくというより高い生活内容のものが我々の手に入るんじゃなかろうかと考えます。  アメリカなんかもいろいろ反省しておりまして、やはり働かないということじゃだめだというわけだし、また、企業と協力して生産性を上げなきゃいかぬという原理がわかっておりますから、最近のアメリカの労使関係を見ましても大体日本と司じように企業側と協力して生産性を上げるという態度に変わってきておりますから、そういう点はアメリカでもやはり揺り戻しがありますので、アメリカ型になったといいましても、アメリカもあれだけの国でございますからやはりまだまだ立派なものを持っておりますので、日本もそういうところは大いに参考にすべきだと考えております。  そして、最終的には恐らくそうした日本とアメリカがかつての反省の上に立って今度は国際的な秩序を新しくつくっていこうという形になろうかと思いまして、そのときになりますと、現在アメリカが考えておりますような米加自由貿易圏に次ぐ日米自由貿易圏を向こうが提唱しましょうし、我々としては恐らく太平洋経済圏か何かでもってこれに応答していくというような関係でいろいろ交渉が展開する、このように私は踏んでおります。  以上であります。
  101. 吉川春子

    吉川春子君 お二人の先生方、きょうはどうもありがとうございます。  まず北村先生にお伺いいたしますが、洋上防空のことにお触れになりました。イージス艦を中期防、次期防で八隻持つ計画であるとも言われています。防衛庁は日本が空母を持つことをこの予算委員会ではっきり否定はしなかったわけです。同時は、いずれ空母を持ってイージス艦に守らせるということとともに、本音は米空母を守らせるということではないかとの説明に私は大変納得できるというふうに思いました。  OTHレーダーについては、実用性についてまだ若干疑問があるとも言われていますが、もし言われているような性能があるとすれば、ソ連の懐深いところまでレーダーでとらえることになり、そうなれば日常的にソ連を監視するという、そういうことになると思います。  いずれにしても、憲法の立場からはもちろん、専守防衛という防衛庁の日ごろ言っているところからも外れるのではないかというふうに思うわけですけれども、イージス艦とかOTHレーダーとか、こういうものは今の日本で買えないんだ、こういうものは買っちゃいけないんだ、そういう根拠を具体的にお示しいただきたいと思います。  また、第二点目ですが、去年の年末だったと思いますけれども、韓国の新聞が社説で、日本防衛費というのは韓国の総予算の一・三倍だ、天文学的な数字になった、こういうふうに批判をしておりました。INF全廃条約締結後も日本の軍事費が突出していることはけしからぬことで、まさに先生が御指摘なさるとおりだと思います。その陰にはソ連脅威論というものがあるわけですが、一つ私お伺いしたいのは、シュルツ国務長官が去年の秋にシカゴ大学で、INFは全廃してもいい、これからは空と海の核で行くんだ、こういうような演説をしているわけですけれども、この演説によると日本の周辺は核の集中場所になるんじゃないか、そういう危険があるんじゃないかというふうに恐れます。世界は核軍縮の方向へいずれは向かうんでしょうけれども、なかなか複雑な要素があるようにも思われます。先ほど先生が、極東のみ見るのではなくて全体の流れの中で解消されていくというふうに言われましたけれども、その全体の流れという意味を御説明いただきたいと思います。  また、時間の都合でついでに原先生の方にも御質問申し上げたいと思います。  先生の論文をちょっと読ませていただきました。で、今のお話も伺いまして、円高を主要因とする企業活動、新しい経営戦略は企業の存続、発展のためにやむを得ないと言える。しかし、それは同時に我が国産業の空洞化並びに大きな雇用問題の発生をもたらす、それを恐れるというふうに指摘されております。空洞化もある程度やむを得ないじゃないかとも、今おっしゃっているのを私聞いておりました。  私は、企業が海外へただ好き勝手に行くということについては、これはある程度の規制が必要ではないかと考えております。なぜならば、各自治体でもテクノポリスあるいは新産都市その他で、物すごい費用をかけて工業用水をつくり、造成し、道路をつくって企業を呼び寄せるわけですね。そして、そこでもって一定の雇用の創出その他を期待するからこそ借金をして自治体はやるわけですけれども、さて円高だ、だから海外へ行きます、こういうことで今、日本を見捨てて海外へ進出する企業が出て、頭を悩ましている自治体もあるわけですね。こういうことを考えましたときに私は、企業というものはある意味で社会的な存在である、やはり社会的な責任を持ってもらわなきゃならない、そういうふうにも考えるわけですけれども、野方図にじゃ海外へお行きなさいということではなくて、一定の規制措置が必要なのではないかと考えますが、この点についての先生の御見解を伺いたいと思います。
  102. 北村実

    公述人(北村実君) INF全廃条約で対象となるものは、御承知のように地上配備のものであって、海洋配備のものは対象にならないわけです。したがいまして、潜水艦に配備されているものが特に極東、日本海域で大きな意味を持ってくるわけです。アメリカがたくさんの海洋配備のミサイルを持っていることは既に御存じだと思いますが、ソ連もまたこの分野では、アメリカにおくれをとっておりますけれども、かなり多くのものが配備されるようになってきているわけです。したがいまして、国際的には確かに核軍縮の方向ですが、極東だけをとると、米ソのせめぎ合いというのは一時的な現象ではあるけれども強まっていることはこれは事実であるわけです。そこでアメリカは日本に対して、極東の戦略の一端を以前以上に担うようにという強い要請をしてきている。その中で、先ほど私が申し上げたように、潜水艦に対するいろいろな対策、その中には今後導入が予定されているようないろいろなものも含まれているわけですし、またOTHなども含まれているわけです。  それで、OTHは先ほど申し上げたように距離が大変遠くまで探知できるわけで、したがいましてソ連の相当の部分、極東地域、シベリア側がカバーできるわけです。こういうものが日本の専守防衛という観点から必要かというと、私は必要がないと思うんです。大き過ぎる、専守防衛をはるかにはみ出たものであるというふうに私は考えております。  それからイージス艦もそうでありまして、これもまた日本の仮にシーレーン防衛ということを本気で考えるにしても、イージス艦というものが必要かどうか、これは航空母艦を防衛するためのものであって、それ以外には使えない。オイルタンカーだとかその他を守るというなら全く意味をなさないわけであって、したがってこれは、アメリカの空母を日本もまた一緒になって防衛していこうというアメリカの戦略の一環に組み込まれて日本もまた買わされるのであるというふうに私は考えております。  日本が空母を持つかどうかというんですが、攻撃型の空母でない防衛型の空母ならよろしいというようなことをこの間瓦防衛庁長官が答えたそうですが、空母というのは攻撃型であって、防衛型の空母というものは形容矛盾ではないかというように私は考えております。一応、西廣防衛局長は現在のところ導入する計画はないと言っておりますけれども、空母は私はやはり専守防衛という観点からは持つことのできないものであるというふうに考えております。この間の日本の防衛力についての考え方は、言ってみれば私はディレードスチールだと思うんです。ちょこちょこっと塁を離れて少しずつ距離を長くしていって、いつの間にか盗塁をしようという戦術ではないかと思うんですけれども、最初の水際防衛からだんだんと距離を伸ばしていって洋上防空というようなことを言い出す。洋上防空というのは、これは水際ではなくてかなり先まで守るということになってきているわけですが、そういうふうに専守防衛ということを口で言いながら、必要最小限の防衛力と言いながら、これは口先だけであって、実際にははるかにそれを超えるような装備をどんどん導入しようというのがこの間の方向であることは明らかであります。これは大変危険な道であるというふうに私は考えております。  それで、日本防衛費が大きいか小さいかという議論は、これはほかの国、近隣の国々の国家予算とか軍事費とかと比較していただきたいと思うんです。そうしたらこれが図抜けて大きいということは、数字が最も雄弁に語っているところだというふうに私は考えております。  以上です。
  103. 原豊

    公述人(原豊君) 空洞化の問題についてお答えいたします。  空洞化の内容はいろいろございますけれども、おっしゃるように、日本を出まして、そして海外で立地をして生産するというやり方、それから現地で部品を調達するという、そういう結果が国内における雇用に影響してくるとか生産に影響する、そういうふうに受けとめて考えてまいりますと、一つは、確かに規制というお考えはわからないでもないんですけれども、果たして規制した場合にどういう効果が出るであろうということなんですね。これは規制して十分にそこでペイするぐらいならば企業は積極的に出なくてもいいというケースもございましょうし、また規制して、例えば地方自治体が規制いたしまして、そしてその企業の面倒を見た場合に、かえって地方自治体のお荷物になるという可能性も出てくるということもあろうかと存じます。  それで、そういうことを区別して考えなければ、ただ出ていくのを規制するということだけでは本来の目的は達成できない、かえって事態を長引かせて被害を大きくするケースもあり得るということも考えられます。アルミニウムがそうでございます。日軽の新潟工場、それから住友アルミの秋田工場などもそうでございまして、現在の状況ではどう企業努力をしてもやっていけないというような状況でございまして、かえってあそこで命を長らえますと後の費用の方がかかってしまうということもあるわけです。  そしてもう一つ企業にとりましては、生産をやめて外に出るということは、サンクコストと言っておりますが、埋没費用が非常にかかるわけですね。設備をそのままだめにしちゃうわけですから。しかも、自分がある程度技術を持った雇用者というものを捨てるわけなんで、そうした面を考えますとかなりの費用がかかる。おまけに現地に行きましても労使関係、いろいろ厄介なことがございますから、もうかるかどうかわからないのでリスクがあるわけです。そういうケースもございますし、さらに現地で調達しなければもう輸出ができないといったケースも出てまいります。ローカルコンテント法案がそうですけれども、現地の部品調達率を五〇%以上にしなきゃいけないというような、そういう条件を整えなければ製品が売れないというような国もございます、これはアメリカでございますが。したがって、企業にとりましては出ていくのは、進んで利益を得るためににこにこ出ていくんじゃなくて、仕方がないから出ていくんだと、背水の陣で出るというケースもございますので、やはりこれにつきましてはいろんなケースが検討できると考えております。
  104. 吉川春子

    吉川春子君 どうもありがとうございました。
  105. 三治重信

    ○三治重信君 きょうは御苦労さまです。  原先生にお尋ねをしますんですが、産業構造の変化で今一つ問題になっておりますのが労働力の流入問題、これは現在、不正就労で大分入っているというので非常に問題になっているんですけれども、これを本当にある程度規制をしても正規に入れた方がいいのか。あるいは今西ドイツも非常に困ってきちゃっているから、非常にこの労働力の流入を西ドイツあたりは厳重に規制をしているが、そういう轍を踏まないように日本も防備を固めた方がいいんだという意見で今あるんですか。産業構造の変化に対してどういう対応をしたらいいだろうかという問題。  それから、地域構造についていろいろお話があったんですが、私はやはり地域対策で今一番当面の問題としては、企業城下町として重厚長大の産業の拠点であった企業城下町が大変な不況地域と化してしまって、ゴーストタウン的なところもあるんだが、こういうものに地域構造の転換としてどういう対策があるか、こういうことについて成功した例、また、こういうふうにすれば地域的な転換がうまくいくんじゃないかというような問題がありましたら、ひとつ御説明願いたいと思います。
  106. 原豊

    公述人(原豊君) お答えいたします。  外国人労働力が入ってくるということでございますけれども、御案内のように、現在日本におきましてはかなり、二万人を超えて五万人ぐらいいるんじゃないかとかいろいろ言われておりますが、数がどのくらいか把握できないようでございます。ただ、先ほどちょっと私の話の中にも申しましたように、建築労働者は非常に少のうございまして、そのためのかわりに結構入っているようでございますね。私の家の方では、今下水道工事をやっていますけれども、やはり七、八人の集団が外国人労働者として来ておりまして、一緒に弁当を食べて向こうの言葉でしゃべっております。それをやっている工事は、これは目黒区がやっている工事でございます。ですから、かなりそういうところでも、公でも使われ、まあ下請でございますけれども使われているような現状でございます。  やはり日本のようにある程度成熟してまいりますと、物、金、人というものの国際交流を盛んにしなきゃいけないということ。しかも、東南アジアの諸国に比べますと所得も高いものですから、入ってくればかなりの賃金は得られるということで、これを私は一概に阻止することもどうかと考えております。  また、私もヨーロッパに行っておりまして、西ドイツの現状を見ております。人々は集まりますと、ああいう外国人労働者が入ってまいりますとコアをつくりまして、そこでどんどんどんどん、自己増殖作用のように、親戚を引っ張ってくる何を引っ張ってくるというわけで膨らんでいくわけで、そして社会生活の中に溶け込んでくれればいいんですけれども、溶け込まなくなりまして、コアになってしまう。しかも、特定の宗教を持っておりますとこれは非常に厄介な事態になってきている、こういうことでございますので、その辺の兼ね合いをどう考えるかということなんです。  日本は治安もよろしいですから、なるべくそういう者を入れたくないというのは率直な感情でございますけれども、やはりどこの国とも仲よく、しかも我々が豊かになったという点から考えますと、ある程度の門戸を広げるのは仕方がないと私は考えております。ただ、野方図に入れるということじゃなくて、向こうにも役立つような形で導入をしたらどうか。  例えば、東南アジアから入ってまいります場合には、特定の条件をつけて技能を教えるわけですね、能力をつけるわけです。そうした場合には、彼らがある程度所得を得て向こうに帰りましても、帰った国で役に立つわけですから。そうした条件をつけて、それは我々の国費で見てあげまして、これが一年も二年もかかるようじゃ困りますけれども、建築の労働者ぐらいの技術ですとそうそう高度な技術も必要がない側面もございますから、そういうところである程度技能を与えて、オーソライズして、そういう者を国内で積極的は、ある程度の賃金——もちろん能力を持っておりますならば我々日本人と同機でも結構でございますが、そういう賃金で彼らを雇用していく、そういう条件をつけてそういう人の数をどんどんふやしていくということになりますと我が国内にも役立ちますし、また、そうした技術を持った人は向こうの国に帰っても役立ってくるんじゃなかろうかというふうに考えております。  先ほど申しましたように、ただ入れておりますと、集まってくるような習性のある民族は本当はたくさんございまして、そうした人は社会生活の中でルールを全く別にしております。私がストックホルムに行きましたときも、あそこの都市計画局長がいろいろ案内してくれましたけれども、非常に困るのはノルウェーからの移民が入っていて、自分たちのコアをつくって、町づくりをやろうと思うのに話に出てきてくれないんだということを言っております。だから一軒一軒たたいて回るんだけれども、それでも出てきてくれないんだと。ストックホルムの局長が言うには、我々としてはノルウェー人も同じように我々の社会の中で生活してほしいから彼らの不満を聞きたいと思って行くんだけれども、ドアを閉ざして出てこない、それで言葉は覚えない、非常に困るんだと言って嘆いておりましたけれども、そういうこともございますから、これはやはり相互の利益になるような形で事を運んでいくということが重要ではなかろうかということだと思います。  それから、その次の城下町のことでございますけれども、これは先ほどもお答えしましたことと関連がございますが、やはり企業が属している産業自体がたんだん衰退して、これはやむを得ない姿でございます。そうした場合に、民間ベースで存続している企業に対して何が何でも営業しろということは言えないわけでございますから、やはりその住民にとりましても大変な事態になりますけれども、企業としてはその仕事を、生産をやめなきゃいけない状況はどんどん出てきますので、これは私はやはり民間企業というのが中心である以上やむを得ないことだと思います。  そうだとすれば、それにかわるものが何かできるかということなんです。一つは、先ほど申しましたように、割合その地域住民に流動性がある、あるいは移動に対して抵抗の少ない住民の場合はは、ある特定の条件を持ったところの立地の方に動かしていってそこで産業を興すなり企業を興す、あるいは仕事を持つということもできましょう。それができない場合には、そこに資本を持ってきて産業を興さなきゃ仕方がないということになります。その新しい産業なり事業を興すのにどういうものを選ぶかとか、どういう形で資本を提供するかといういろいろ方法はございましょうけれども、企業城下町の衰退あるいは住民に与える例えば失業率といったような数字を見ながら、やはりこれは政治の力で何とかカバーしていただきたい。  それと同時に、やはりそうした企業城下町というのは大企業の城下町でございますので、大企業で働いておりました人々がたくさんいるわけです。そうした方々は潜在的な能力を持っているわけですから、いわば人的資源として生かせる可能性があるわけです。JRもそうでございますけれども、ああいうふうな形でその人材を生かして城下町を活性化させるような方法も一つの方法ではなかろうかということを考えております。  どうも私も企業経営に携わったことがございませんものですから、余りその辺のところはそれ以上言えなくて残念でございます。以上でございます。
  107. 青木茂

    ○青木茂君 原先生に二つのギャップということをお伺いしたいんですけれども、一つは国際的なギャップですね。あと二、三年もたちますと日本の対外純資産は四千億ドルぐらいになる、ところがアメリカの純債務が六千億ドルぐらいになると、いわゆる一兆ドルギャップですね。こういう傾向の中で一体日本はインフレを心配すればよろしいんでしょうか、デフレを心配すればよろしいんでしょうか。どちらともとれるんですけれども、先生のお考えをひとつお伺いしたい。  もう一つは国内ギャップです。日本はどんどん金持ち国になってきている、ところが、どうも長いこと言われた九割中流意識ですね、これには下降傾向というのか陰りがちょっと出てきている。このギャップをどういうふうに我々はとらえればいいんでしょうか。この二点についてお伺いを申し上げたいと思います。
  108. 原豊

    公述人(原豊君) 申しわけございません、第二点をちょっと。
  109. 青木茂

    ○青木茂君 第二点は、日本は金持ち国金持ち国と言われてきていますね、ずっと。ところが、中流であると思っているのがちょっと下がっているんですよ。これは一つのギャップなんですけれども、これはどういうふうにお考えでしょうか。
  110. 原豊

    公述人(原豊君) お答えいたします。  第一点でございますけれども、確かにアメリカが六千億ドル、やがては一九九〇年を越えるごろには一兆ドルになるというおそれもあると言われておりまして、これは大変なことでございます。このままほうっておきますと、その利子を返すだけでも、仮に一兆ドルで五%でも五百億ドルを稼がなきゃいけない。しかも貿易収支の黒字で稼がなきゃとんとんにならないという状況でございますから、これは大変なことになるわけです。日本の場合にはこれは累積するわけでプラスでございますから比較的問題が少ないんですけれども、アメリカの場合には特に、まだまだ世界のGNPの四分の一を占める国でございますから、この累積赤字とそれからその負債に対してどういう対応をするかということでかなり国際的な混乱、リスク要因になろうかということを考えております。  まず、そうなりますと、私はドルが当然下がっていくという、これは一つはアメリカの対応の仕方によるわけですけれども、やはり当然下がらざるを得ないという、そういう状況になってまいりますと、アメリカにおきまして今度はどういう対応をするか。恐らく今度は金利が上がっていくであろうという、そういう形を通じまして、私はインフレのおそれが非常にアメリカにおいては出てくるんじゃなかろうかというふうに考えております。  ただ、そうした場合にアメリカの対応が日本にどう響くかということでございますけれども、アメリカがインフレになって高金利になってまいりますと、今度はまたある程度ドルの低下を抑えるような働きが出てまいりますから、その辺のところでドルの切り下げがある程度調整されてくるということになります。そして、アメリカが高金利になりますと、これは国内におきましてはやがて景気抑制要因が出てまいりますから、日本との関連で、あるいは世界との関連でやがてはデフレ的な要因がだんだん強くなってくるという、最初はインフレ的な要素が出てやがてはデフレに移っていくという、こういうふうに考えております。  それから二番目の陰りの問題でございますけれども、この意識の問題というのは、そのときに置かれた個人個人の状況によって随分違ってまいりますので、我々の生活レベル自体が全体的に高くなってまいりますと、これでも中流かというわけで不満も出るわけでございますから、私は豊かさというのはやはり個人個人の意識と感性によって決まってくるものだというふうに考えております。ですから、この中流意識、何意識というものは、案外当てにならないと考えているんです。  最近韓国でやはり国民の七割ぐらいまでは中流意識になったということを言われておりますので、その国民の平均的なレベルから見てこれで満足だと思われるところへ来れば、みんな中流だ中流だと言っていると。ただ、それには基準があるわけではないということで、やはりそれがある程度長引いてまいりまして欲求不満が出てきますと、中流意識がだんだんと下の方に推移していくという、こういうところじゃないかと考えております。  以上でございます。
  111. 原文兵衛

    委員長原文兵衛君) ありがとうございました。  以上で外交・防衛及び経済構造調整に関する意見聴取は終了いたしました。  一言お礼を申し上げます。  北村公述人、原公述人には、それぞれのお立場から貴重な御意見をお聞かせいただきまして、まことにありがとうございました。委員会を代表いたしまして衷心から厚くお礼を申し上げます。(拍手)  明日は午後一時三十分から予算委員会を開会することとし、これにて予算委員会公聴会を終了いたします。    午後五時二十六分散会