○粕谷照美君 私は、
日本社会党・
護憲共同を代表いたしまして、ただいま
議題となっております
教育公務員特例法及び
地方教育行政の
組織及び運営に関する
法律の一部を改正する
法律案につきまして、反対の討論を行います。
まず最初に、研修は初任者のみならず、すべての教員にとって極めて重要でありますが、この
法律によるところの初任者研修制度については、いまだに
国民的
合意の形成がされていないということを指摘しなければなりません。
教員の研修制度が、教員自身に、ひいては我が国の学校教育全体や未来を担う子供に与える影響の大きさを考えるとき、研修を受ける側の教員のみならず、
国民全体の
合意を得ながら
制度化を図るという慎重さ、謙虚さが、行政にも国会にも必要であると思うのであります。ILOとユネスコの教員の地位に関する勧告が、教員の現職教育制度の
確立には教員
団体との協議が必要であるとしているのも、その精神のあらわれなのであります。
しかるに、文部省は、その
努力を怠ってきたのであります。初任者研修制度については、教育関係諸
団体でも反対の声が強く、マスコミも社説等で、教員を鋳型にはめ込むとか、国定教員づくりであるとか、学校教育を一層
管理化するといった危惧の念が表明されているのは周知のとおりであります。
また、
政府は、現行法の枠を超えて
昭和六十二午度及び六十三年度において初任者研修制度の試行を都道府県、政令指定都市で実施いたしておりますが、その結果を制度に生かすどころか、いまだにその結果を公表していないのであります。
こうした一連の動きを見守るとき、できるだけよい研修制度をつくろうという
政府の姿勢は欠如し、臨教審答申を口実に何が何でも制度を発足させ、新任教師を鋳型にはめ込んでしまいたい意向であると断ぜざるを得ないのであります。
また、衆議院においては、先に付託された法案の
審査順を逆転させ、本法案の
審査に入るとともに、文教
委員会では審議も全く不十分なままに質疑が打ち切られ、混乱の中で採決という暴挙が行われました。参議院においても、審議が不十分なまま採決が行われるなど、およそ
国家百年の計と言われる教育問題の審議とはとても言えない状況でありました。
次は、初任者研修制度が、憲法、教育基本法及び
教育公務員特例法の理念に反する制度であるということについてであります。
教育という仕事は、一般の事務的な仕事と異なり、一人一人の子供との人格的な触れ合いを
基礎としており、効率性、能率面からの定型的なノーハウはないのであります。さらに、各教員がそれぞれの基本的な価値観や信念に立脚した上で、自主性を基本として教育
活動が営まれなければならないことは当然であります。したがって、国などの行政
機関が研修の
内容、
方法等を拘束することは好ましくないのであります。
このことは、教育
研究の自由、教育行政の中立性を定めた憲法、教育基本法の精神はもちろんのこと、研修について直接定めた
教育公務員特例法に照らしても明らかであります。
すなわち、教員については、一般行政公務員と異なり、教育公務。貝
特例法により、不断に自主研修に努める義務を課すほか、勤務
場所を離れての研修や現職のままでの長期研修など、いわば自主的な研修、自主性を尊重した研修を保障しており、それらの補完的役割として任命権者が行う行政研修が
規定されていることは、その証左であります。
しかしながら、本
法律による初任者研修制度については、一年間という長い研修期間中、指導教員による指導を中心とすること、その指導教員の選び方、研修の
方法、形態等を事細かに
法律で明文化しているのであります。さらに、行政指導により、校内研修は週二日、学校を離れての研修は週一日の割合で実施する方針であるなど、地域や学校の自主性や創意工夫を認めない画一的で硬直した制度なのであります。
また、その研修
内容も、既に試行の中で明らかなように、任命権者等が選んだ指導教員による教育技術偏重の指導が行われるとともに、校外研修においては、国や都道府県教育
委員会など行政側の考え方が一方的に押しつけられる懸念があるのであります。
このように、本制度は、教育
研究の自由、教育行政の中立性を定めた憲法、教育基本法の精神はもちろんのこと、自主研修を基調とした
教育公務員特例法の精神にもとるばかりか、学校現場を一層
管理化するものと指摘せざるを得ないのであります。
次は、初任者研修制度が教員に与える影響についてであります。
初任者研修制度は、新たに学校を卒業した若々しい教員のニーズをくみ上げることなく、事前に一定の指導をしようとするものでありますから、おのずと画一的、技術的なものにならざるを得ないのであります。
こうした指導を受ける初任者は、指導教員の目を意識せざるを得ないため、無難な授業や生徒指導を心がけ、新採用教員にとって一番大切な情熱、バイタリティー、自主性、創造性等を抑圧せざるを得なくなり、ひいては学校全体の活力が減少、喪失していくという懸念を指摘せざるを得ないのであります。
また、指導教員によるマン・ツー・マン指導の成果は、指導する教員によるところが大きいことは言うまでもありませんが、適切な指導教員の確保が極めて困難なのであります。すなわち、経験豊かな指導教員の確保は、試行という小規模な実施においてすら困難であったことは、全国連合小学校長会の
調査ばかりではなく、文部省の
調査でも明らかにされているのであります。有能な指導教員が確保できない、校外研修の燃焼児童生徒は自習している等の
報告を見るとき、本制度が学校全体に及ぼす悪影響ははかり知れないほどであると言わざるを得ないのであります。
次は、初任者研修制度が子供やい×母に与える影響についてであります。
新採用教員が指導教員にマン・ツー・マンで指導されることは、いわば半人前の新似員として扱われることであり、教育の基本である教員と子供、父母との信頼関係を損ねます。
また、週三日の割合で初任者研修他が実施されるため、初任者の担当クラス及び指道坪教員の担当クラスには非常勤講
師等により授業の穴埋めが行われますが、週の半分も非常勤
師等に依存するのでは、授業や学級経営、生徒指導に影響が出ないはずはないのであります。
次は、新採用教員の
条件つき採用期間を現行の六カ月から一年に延長する件についてであります。
この制度は、臨教審の審議でも明らかなように、教員を容易に免職するための詞補制度あるいは教職適性審議会制度のかわりの
措置として考えられたものであり、非常に危険性を持っていることを、まず指摘しておかなければならないのであります。
条件つき採用期間中は、正式採用職員のような身分保障や不利益処分
審査請求権もないため、法的に不適格者を排除するという名目で、窓意的な処分が容易になっているのであります。
このように、
条件つき採用制度は労働者の身分を不安定にするものでありますから、労働者の
権利保護という観点から、
国家公務員法及び地方公務員法はその期間を六カ月と限定しているのであります。教員だけについて他の公務員と異なり一年とすることは、公務員法上の理念に反します。民間においても、
条件つき採用者が苦情処理
委員会に提訴できるなどの労働協約があります。
権利保護の面で労働法上も問題視されていることは周知のとおりであります。
また、このように重苦しい不安定な身分の期間を延長すれば、教員は萎縮し、自主性、創造性も抑制され、学校現場の活力が失われる懸念があるばかりでなく、優秀な人材を教育界に誘致することが困難になると言わざるを得ないのであります。
以上申し述べましたように、この初任者研修制度については問題点が極めて多く、このまま見切り発車をすれば将並木に禍根を残すと指摘せざるを得ないのであります。
初任者研修制度丸止完全実施したときには、国費で二百七十六億円、地方負担を含めると約八百億円もの経費が年間路川要であると推計されております。貴重な財源をこのように問題のある制度に
使用することなく、
国民だれもが望んでいる四十人学級の実現等教育
条件の整備に回すべきであることを主張して、反対の討論を終わります。(
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