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1988-04-12 第112回国会 参議院 社会労働委員会 第7号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和六十三年四月十二日(火曜日)    午後一時三十二分開会     ─────────────    委員異動  三月三十一日     辞任         補欠選任      宮崎 秀樹君     吉川  博君      渡辺 四郎君     八百板 正君      内藤  功君     下田 京子君  四月一日     辞任         補欠選任      吉川  博君     宮崎 秀樹君      八百板 正君     渡辺 四郎君      下田 京子君     内藤  功君  四月十一日     辞任         補欠選任      対馬 孝且君     糸久八重子君      原田  立君     高木健太郎君      内藤  功君     上田耕一郎君  四月十二日     辞任         補欠選任      上田耕一郎君     吉川 春子君     ─────────────   出席者は左のとおり。     委員長         関口 恵造君     理 事                 佐々木 満君                 曽根田郁夫君                 山本 正和君                 中西 珠子君     委 員                 石本  茂君                 遠藤 政夫君                 斎藤 十朗君                 田代由紀男君                 田中 正巳君                 前島英三郎君                 宮崎 秀樹君                 糸久八重子君                 浜本 万三君                 渡辺 四郎君                 高木健太郎君                 沓脱タケ子君                 吉川 春子君                 藤井 恒男君    国務大臣        厚 生 大 臣  藤本 孝雄君    政府委員        厚生省健康政策        局長       仲村 英一君        厚生省保健医療        局長       北川 定謙君        厚生省薬務局長  坂本 龍彦君        厚生省社会局長  小林 功典君        厚生省保険局長  下村  健君    事務局側        常任委員会専門        員        此村 友一君    説明員        法務大臣官房参        事官       東條伸一郎君        文部省高等教育        局医学教育課長  佐藤 國雄君     ─────────────   本日の会議に付した案件 ○社会福祉・医療事業団法の一部を改正する法律案内閣提出) ○社会保障制度等に関する調査  (精神保健関係予算に関する件)  (生活保護に関する件)  (医療機関におけるエイズ(後天性免疫不全症候群感染予防に関する件)  (看護制度の在り方に関する件)  (脳死及び臓器移植に関する件)     ─────────────
  2. 関口恵造

    委員長関口恵造君) ただいまから社会労働委員会を開会いたします。  まず、委員異動について御報告いたします。  昨十一日、原田立君、対馬孝且君内藤功君が委員辞任され、その補欠として高木健太郎君、糸久八重子君及び上田耕一郎君がそれぞれ選任されました。     ─────────────
  3. 関口恵造

    委員長関口恵造君) 社会福祉・医療事業団法の一部を改正する法律案並びに社会保障制度等に関する調査を便宜一括して議題といたします。  これより質疑に入ります。  質疑のある方は順次御発言を願います。
  4. 浜本万三

    浜本万三君 まず、私は大臣所信表明に対する一般質問をやっておりませんので、その問題から質問させていただきたいと思います。ただし、質問の趣旨は、昨年改正されました精神保健法の問題につきまして質問をさせてもらいたいと思います。  まず最初ですが、昨年の九月に精神衛生法改正法案が成立いたしまして新たに精神保健法が誕生いたしたわけでございます。改正中身といたしましては、精神保健指定医制度の創設、任意入院の規定、都道府県精神医療審査会新設精神障害者社会復帰施設を法文上位置づけるなどであったと思います。  本日は六十三年度予算と関連した社会復帰施設等を中心にお尋ねをいたしたいと思います。  前厚生大臣斎藤大臣は、この法案改正をもって精神保健元年としたいという大変意気込んだ所信表明をなさいましたんですが、六十三年度政府案作成に当たってはどのような基本姿勢で臨まれたのか、厚生大臣から伺いたいと思います。
  5. 藤本孝雄

    国務大臣藤本孝雄君) 今お話ございましたように、関係者からいたしますと、まさしく今回の精神衛生法改正は極めて画期的なことでございまして、まさに精神保健元年、私もそのように位置づけしてよろしいかと思っておりますし、特に障害を持っておられる方の御家族にとりましては今日までの長い道のりであったわけでございますし、そういう意味では非常に喜んでおられるというふうに私も思うわけでございます。  今回の精神衛生法改正につきましては、精神障害者方々の人権を配慮するという問題、それから適正な医療保護が受けられるようにするという問題、さらには社会復帰を促進させる、そういうところに重点があるわけでございまして、このような考え方でこれからも対処していきたいと思います。  六十三年度につきましては、法の改正によりまして講じられました各種の施策の定着、これが大事でございますので、それを図るために、特に精神障害者社会復帰、これに関する予算充実を図ってまいったわけでございます。
  6. 浜本万三

    浜本万三君 大臣、ところが今おっしゃいましたこととは多少結果が違っております。  精神衛生予算というのを六十二年度に比較をしてみますと、約五十二億円ほど減額されておるわけでございます。そういう減額になっておる状況を見ましてどのように御判断をなさいますか。
  7. 北川定謙

    政府委員北川定謙君) 先生指摘精神保健関係予算は、大きく分けますと医療費部分とそれ以外の部分とから成っているわけでございますが、全体で五十一億の減ではございますが、その中身は、医療費のところでございまして措置入院費負担が約六十七億減になっておるわけでございます。これは、医療の形態が措置から同意入院等に切りかわるとかあるいは医療の進歩によりまして入院から外来に切りかわるとか、そういう一つ医療の流れが結果として予算額の減につながっているわけでございます。  一方、ただいま大臣が御説明申し上げましたように、福祉関係の事業につきましては総額で約二億六千万の増というようなことになっておりまして、精神保健対策を進める上では十分な予算を確保したというふうに考えておるところでございます。
  8. 浜本万三

    浜本万三君 措置入院人員数でございますが、六十二年度と六十三年度はどのようになっておりますか。
  9. 北川定謙

    政府委員北川定謙君) この数字は、六十二年度につきましては六月三十日現在の数字でございますが、二万一千八百三人となっております。  なお、六十三年度につきましては、これは予算を積算する上での推定でございますが、従来の経緯からしまして約二万人分の予算を確保すればよろしいというふうに考えておるわけでございます。
  10. 浜本万三

    浜本万三君 措置入院推定約二万人というお話がございましたんですが、今度の新しい制度比較して考えますと、逆に、新しい制度で設けられる任意入院というのがあるんでありますが、任意入院患者入院患者のどの程度の割合を占めるようになるでしょうか、具体的にお話をいただきたいと思います。
  11. 北川定謙

    政府委員北川定謙君) 任意入院患者数につきましては、現段階で正確な推計ができないところでございますが、現場の精神科医師等関係者の見込みを総合いたしますと、今後の新規入院患者の約五から六割は任意入院になるのではないかと考えられるわけでございますが、一方、既に長期慢性状態患者相当多数入院をしておる現状でありますので、当面は入院患者数全体の中における任意入院の数は三から四割程度と見込んでおるところでございます。
  12. 浜本万三

    浜本万三君 別の問題についてお尋ねするんですが、これは昨年の質問の中でも出ておったようでございますが、政府は、三十四万人の入院患者の約二〇%は退院をしてもよろしい状態にある人だというふうにお話がございました。三十四万人の二割と申しますと大体六、七万人ということになると思うわけでございます。  そういたしますと、社会復帰施設というのが非常に重要になってくる、かように存じます。斎藤大臣も、先ほど御紹介いたしましたように精神保健元年に当たり相当決意を示されたわけでございますので、新しい厚生大臣とされましても六十三年度予算社会復帰施設整備される必要があるだろうと思うのでございますが、これはどのように整備をされるおつもりか、お尋ねをいたしたいと思います。
  13. 藤本孝雄

    国務大臣藤本孝雄君) 援護寮であるとか福祉ホーム、確かに、今お話がございましたように、退院をされてそれからそういう施設社会復帰のためにいろいろとやっていただく、これは極めて重要なことでございまして、三十四万人の障害者の中で二割から三割近い人たち退院が可能である、したがってそういう施設整備を急がなければならない、全くそのように考えております。  問題は、具体化をしようとする場合に、御承知社会復帰施設法制化制度化されましてまだ間がないということやら退院可能な患者のうち直ちに自宅において生活できる方々がどの程度あるだろうかということやらが十分把握できないということもございますし、必ずしも地域の受け入れ態勢というのもなかなかうまくいかないというようなこともありまして、現実の問題といたしますと、非常に必要なことはわかっておるわけでございますけれども、なかなか前へ進まないという現状がございます。  そういうことから、現時点におきましては具体的な計画を策定するということには多くの困難があるわけでございますが、御指摘の点につきましては私も同感でございますので、今後十分に検討をしてまいりたいというふうに考えております。
  14. 浜本万三

    浜本万三君 社会復帰施設といたしましては、今大臣からおっしゃられましたように、援護寮、それから福祉ホーム適所授産施設、こういうものがあると思いますが、ことしの予算ではこの三施設に対しましてどの程度の人数が入所されるというふうに考えておられますか。
  15. 北川定謙

    政府委員北川定謙君) 六十三年度予算でございますが、援護寮については四カ所、それから福祉ホームについては三十一カ所が予算上想定されておるわけでございまして、これは現在既に運営をされているわけでございますので、そこへの運営費助成をしておるわけでございます。  なお、援護寮につきましては一カ所約二十名、それから福祉ホームにつきましては一カ所十名というような数字になっておりますので、約四百名弱くらいの施設に対して援助をする。さらに、六十三年度では新たに施設整備ということも進められるわけでございますので、その施設運営を始めればさらに収容数増加をしていくということになるわけでございます。
  16. 浜本万三

    浜本万三君 お答えはなかったのですが、授産施設十二カ所二十名、二百四十人というふうに伺っておるわけであります。  そこで、さらにお尋ねをするんですが、先ほど申しましたように退院可能な人員が大体六、七万人である、それに対しまして授産施設を含めましても合計六百三十人ということでございます。  そういたしますと、退院可能者に見合った施設の将来像として、どの施設に何名程度の者を入所させるかといったようなビジョンが描かれませんと社会復帰施設全体の姿というものが把握できないのではないかというふうに私は思うわけでございます。六、七万に対しまして今お答えになったような数字では問題にならないんじゃないかというふうに思っております。  そこで、障害者対策に関する長期計画というものがあるようでございますので、せめてその後期重点施策に合った計画をつくるべきではないかと思うわけです。そうしないとマンパワー育成確保だって決して進まないんではないか、かように思います。  一連のお尋ねに対しましてお答えを願いたいと思います。
  17. 北川定謙

    政府委員北川定謙君) 確かに、委員指摘のように、そのように新しい福祉体系をつくっていくわけでございますので、そこに数量的な計画というものが必要であるという御意見はよく理解はできるわけでございますが、先ほど大臣お答え申し上げましたように、この制度法制化はされたもののまだ新しい試みということになるものでございます。  そういうことから現段階では長期的な計画を策定をするというところまで至っていないというのが現状でございますが、今後ともそういう方向状況変化を見ながら努力をしていく必要があると私ども考えております。
  18. 浜本万三

    浜本万三君 今答えにくいような形でお答えになったんですけれども患者皆さんやその患者家族皆さんの御希望とそれからそれを受け入れる一般の住民の感情というものが非常に難しい状態にあることは私も承知をしておるわけでございます。しかし、せっかくこの精神衛生法というものが名前まで変えて新たな決意で出発をしたわけでございますから、私は、その難しい問題を一つ一つ早く解決をいたしまして、全体の実情に見合うような受け入れ施設を早急に整備していただきますように要望を申し上げておきたいと思います。  続きまして、全国家族会の方から既に御要望がなされております小規模作業所に対する問題についてお尋ねをいたしたいと思います。  これは、助成金もあるいは対象箇所の数も従来の四十八カ所から九十六カ所にことしは倍増されておるようでございますので、私は、これは大変結構なことで大いに評価をさせてもらいたい、かように思っております。  しかし一方、全国家族会調査によりますと、昨年の三月に二百六十カ所あるというように伺っておるわけでございます。したがって、そういうものの充実のためにもう少し単価の引き上げをするとかあるいは箇所数を大幅にふやすとかいうような御希望があるのではないか、かように思いますが、これに対しましてはどのような御決意であるか、お伺いをいたしたいと思います。
  19. 北川定謙

    政府委員北川定謙君) 委員指摘のように、昭和六十三年度予算におきまして九十六カ所の対象作業所への運営費補助考えておるところでございます。家族会の御要望はさらにその数字が多くなっておるわけでございますが、今後十分にその間の状況調査をいたしまして、その溝を埋めていく努力をいたしたいというふうに考えております。
  20. 浜本万三

    浜本万三君 ひとつよろしくその点は要望しておきたいと思います。  それから、次にお尋ねするわけですが、ことしはおくればせながら精神科救急診療体制整備予算化されたわけでございます。これも大変結構なことだというふうに私は思います。  ところが、予算を見ますと、各県一カ所ということになっております。これではいかにも寂しいと思います。そしていざというときに間に合わないのではないか、かように思うわけでございます。したがって、早急に整備をしてもらいたいという希望を持っております。また、こういう問題が進むためには、ことしの概算要求では一兆九千六百億円の要求厚生省はなされたわけでございますが、最終政府案によればこれが二千七百三十七万円、約七分の一に削減されておるわけでございます。当初の予算が七分の一になったということは、厚生省計画にも相当狂いが生じたのではないかというように私は理解をしておるわけでございます。  そこで、重ねてお尋ねをするんですが、将来は、全国的にいつまでにどの程度整備をしていかれるおつもりか、その点についてお尋ねをいたしたいと思うわけです。  「精神障害者にも救急医療」という見出しで日本経済新聞に発表されておるところによりますと、施設整備は三年間で百八カ所ぐらい行いたいと、こういう記事が載っておったんですが、この問題を含めましてお答えをいただきたいと思います。
  21. 北川定謙

    政府委員北川定謙君) 精神科救急医療という問題は、今回の法改正段階でも大変重要な位置づけをされておったわけでございまして、今回の法改正によって応急入院ということがきちんと位置づけることができたわけでございます。その結果、六十三年度予算におきましてもこの施設に対する運営費補助が新たに設けられたわけでございます。  先生指摘のように、当面とりあえず各都道府県に一カ所ということでやってまいりたいわけでございますが、この状況を踏まえて、長期的には——長期的といってもそう先の話ではございませんが、今後、全国で百カ所程度を目途にさらにふやしてまいりたいというような考え方を持っておるわけでございます。
  22. 浜本万三

    浜本万三君 いずれにいたしましても、精神保健対策に将来像、将来のビジョンを描いた青写真がなければ、六十三年度予算だって措置人員削減に見合う予算減が他の方に振り向けられるということになってしまうのではないかと思います。  それで、何回も申すようですが、精神保健元年ということでございますので、精神衛生費が減額されること自体に私は大きな問題を感じております。したがって、政府が基本的に施策に対する取り組みを強くするためには、青写真を早く描いて我々の心配をなくしてもらいたいというふうに思うわけでございます。もう既に厚生省もよく御承知のように、全家運の要望提出をされておりますが、この内容と六十三年度政府予算との比較をしてみますと相当の開きがまだあるように思いますので、その改善を急いでいただきたいと思うわけでございますが、これに対する大臣の御決意を伺いたいと思います。
  23. 藤本孝雄

    国務大臣藤本孝雄君) 極めて御熱心なまた私ども全く同感に思います御意見が多いわけでございまして、熱意と結果が必ずしも現状におきましては結びついていない、そういう点もあるかと思いますけれども、今後、精神保健対策の一層の充実を目指しまして努力いたしてまいりたいと決意を新たにいたしております。
  24. 浜本万三

    浜本万三君 ぜひひとつ積極的な取り組み要望しておきたいと思います。  最後質問になりますが、法案見直しにつきましてお尋ねをいたしたいと思います。  前回の改正法案の際には五年をめどに見直すという附則が設けられておるわけでありますが、見直し中身といたしまして特に重要な点は、障害者範囲を決めることでありますとかあるいは保護義務者あり方をどうするかというような問題が非常に重要な問題になっておるのではないかと思います。そういう問題についての見直し作業はどのように進められておるか、また作業結論がいつごろ出て見直しの新しい法案提出をなさるおつもりか、それらの点についてひとつお聞かせをいただきたいと思います。
  25. 北川定謙

    政府委員北川定謙君) 御指摘精神障害者範囲あるいは保護義務者あり方等の問題につきましては、法改正過程におきましてもいろいろ御議論があったわけでございまして、公衆衛生審議会から今後引き続いて検討すべきであるという意見が示されたことを踏まえて、さっきの法案改正ではこの点については盛り込まれなかったわけでございます。  これらの事項につきましては、精神医療専門家やあるいは障害者家族等関係者による研究検討を行うことが非常に重要でございますので、六十二年度から新設をされました精神保健医療研究の中で取り組んでおるところでございます。これらはいずれも精神保健の重要な問題であると考えておりますので、今後とも引き続き十分に勉強をして、その成果を早く取りまとめたいというふうに考えておるところでございます。
  26. 浜本万三

    浜本万三君 作業状況とかその結論が出るのはいつかという点については明確なお答えがなかったわけでございますが、最後要望しておきますが、早急にひとつ結論を出していただきまして立派な精神衛生行政ができますように希望をしておきたい、かように思います。  以上で一般質問を終わりまして、次は、社会福祉・医療事業団法の一部を改正する法律案につきまして質問をいたしたいと思います。  まず最初お尋ねをいたしたいと思いますのは、高齢化社会への移行の過程老人医療費、年金を初め、福祉の面でも社会保障費支出増大は避けて通れないと思います。それに伴いましてまた国庫負担増加も避けられないことであると思います。そういったことから、ともいたしますと、臨調・行政改革路線の中で公私役割分担という形で問題が提起をされ、福祉の面におきまして、公の負担を軽減し民間活力を生かすという名のもとに、民間依存の傾向が顕著に出ておるのではないかと憂慮いたしております。  社会福祉、特に高齢者に対する福祉サービスの面で、公私役割分担について基本的にどのように考えておられるでしょうか、大臣の御見解を承りたいと存じます。
  27. 藤本孝雄

    国務大臣藤本孝雄君) 今後の本格的な高齢化社会の到来を考えますと、今言われました福祉サービスの面について多様化されるニードの中でどのように対応していくかということは極めて大きな課題でございます。  これは量的、質的な両面がございまして、公私役割分担ということを明確に線引きするというようなことはなかなか難しいと思います。したがって、私は、今後の福祉サービス社会経済変化、時代の変化価値観多様化、いろいろなサービスに対しての高齢者方々期待度が大きく多様化されてくる中で国の福祉サービスも無論充実させていかなけりゃなりませんけれども、それを補完する意味民間サービスにも期待していいのではないだろうか。つまり、例えば、二回サービスを受ける場合に、いや自分はもう一回サービスを受けたい、そのもう一回の余分については民間サービスを受けたいというようなこともあっていいんじゃないだろうか。  大事なことは、公的なサービス民間サービスと代替するのではなくて、公的なサービスはますます充実していくけれども、それを補ってまたそれを上回るサービスを期待する場合には、それは民間サービスで対応してもいいのではないだろうか、こういうふうに考えておるわけでございまして、全体の量が同じ中で公的サービスが少なくなって民間サービスがふえるというのではなくて、全体のサービスは拡大される中で公的サービスも拡大されていく、しかし公的サービスを上回るサービスを期待するそういう向きについては民間サービスで対応してもいいのではないだろうかというふうに考えておるわけでございます。  同時に、この民間サービスにつきましても内容、質的には十分なものでなけりゃならないわけでございまして、そういう点につきましては十分に私ども目を光らせ指導してまいらなきゃならない、かように考えております。
  28. 浜本万三

    浜本万三君 公的サービスは絶対に質も量も下げないというお話でございまして、それは結構なことなんですが、私が心配をいたしますのは、民活ということを名目にいたしまして公的サービスをできるだけ民間に肩がわりする、こういうことがあってはならないという立場でございます。  そういう立場でさらに次の質問を申し上げたいと思います。  高齢化の進展に伴いまして介護を必要とするお年寄りが当然増加してくることは御承知のとおりでございます。また、将来さらにその数が飛躍的に増加することも申すまでもございません。その介護は、全体的に見たときにどのような場で介護がなされていくものとお考えでございましょうか。  また、最近の家庭、社会あり方変化に対応し、どのような方向に持っていったらよいかということもあわせてお考えをお聞かせいただきたいと思います。
  29. 藤本孝雄

    国務大臣藤本孝雄君) 確かに、今御指摘がございましたように、高齢化社会の本格的な進展の中で介護を要するお年寄りの数もふえていく、そのとおりでございます。  その介護を要するお年寄りをどういうような状態介護をするのが一番いいかと、こういうことでございますが、それは、基本的といいますか、まず一番望ましいことは、その介護を要するお年寄りの方々がやはり住みなれた自分のおうちとか住みなれた社会、そういう中で介護を受けたいという御希望が強いわけでございますから、そういうことがまず一番重要であろうと思います。  それから二番目に、そうは言いながら、その介護を御自分のおうちで受けられない、在宅で介護が困難だという方もあるわけでございまして、そういう方のためには、御承知のように特別養護老人ホームというものもあるわけでございまして、この整備も必要でございまして、昭和七十五年を目標に施設整備を長期目標として水準を考えておるわけでございまして、そういう点についても力を入れてまいりたいと考えております。
  30. 浜本万三

    浜本万三君 厚生省の資料を拝見いたしましても、六十一年度で在宅の方が二十三万人、それから厚生省が目標にされております七十五年になりますと大変数がふえてくるという資料もございます。したがいまして、事は急がねばならぬと、かように存じますので、なお一層ひとつ施策の積極的な推進を希望しておきたいと思います。  次は、ヘルパー事業に限ってお尋ねをしてみたいと思うのですが、公的部門の役割と私的つまり民間部門の役割の相違点はどういうところにあるだろうかという疑問を私は持っております。  厚生省の方で出されております資料によりますと、昭和六十二年十二月七日付の福祉関係三審議会合同企画分科会というのですか、その資料を見ますと、一定の方針が出されておるやに伺うのでありますが、念のためにまずその点を伺っておきたいと思います。
  31. 小林功典

    政府委員(小林功典君) これは、ヘルパーの派遣事業に限りませんで、福祉サービス全般についてのことでございますが、今お話ございましたように、去年の十二月七日に福祉関係の三つの審議会の合同企画分科会の意見具申がございました。「今後のシルバーサービスの在り方について」という表題の意見具申がございました。  そこでこの問題に言及しておりまして、内容を要約して申しますと、まず、対象者の切実なニードに対応するサービスで、基本的に民間事業者による対応が期待しがたいものは、公的部門が確保提供をすべきである。それから第二に、対象者の選択による多様なニードについては民間による対応が望まれる分野であると、こういうことが言われているわけでありまして、私どもはこれは妥当な考え方だというふうに考えております。
  32. 浜本万三

    浜本万三君 公的の方は低所得者対象というようなちょっと誤解を受けるような受け取り方もできぬことはないんですが、そこのところはどうでしょうか。
  33. 小林功典

    政府委員(小林功典君) それはそうではございません。  公的部門につきましても所得の多寡にかかわらず提供するというのが原則でございます。
  34. 浜本万三

    浜本万三君 次にお尋ねするんですが、先ほど私ちょっと数字を示しましたように、現在でも相当の方がつまり三十五万人の方が在宅でカバーされておるという数字が示されております。また、将来もそれに対する依存の割合が増加するわけでございまして、これは減少するということは到底考えられないわけでございます。  我が国の場合は、施設に対する予算に比べまして在宅サービスの面に対する予算の振り向け方が非常に手薄といいましょうか、予算が少ないというふうに思われます。そういった反省はないであろうかということを厚生省にお伺いをするわけなんでございますが、今後在宅サービス充実に対してどのようなお考えを持っておられるか、あわせてお尋ねをいたしたいと思います。
  35. 小林功典

    政府委員(小林功典君) 先ほど大臣からもお話ございましたように、お年寄りの立場考えますと、できれば老後も住みなれた地域社会で御家族や隣人と一緒に暮らしていけるということがその御本人にとっては幸せなことだろうというふうに思っております。そういった面で各種の在宅福祉対策充実を図ることが大変重要であるという認識は私ども持っておるわけでございます。  そういうことから、六十三年度予算で講じました措置を若干御披露申し上げますと、まず、ホームヘルパーの増員につきましては二万五千三百五人から二万七千百五人に、それからデイサービス事業の実施箇所数につきましても四百十カ所から六百三十カ所に、それからショートステイ事業対象人員の増につきましても四万六百四人から四万九千七百九十五人というように、いずれも大幅な拡充を図っておるわけでございます。  それとともに、ホームケア促進事業といったような新しい施策も六十三年度予算には計上をしているわけでございます。  ちなみに在宅福祉のこの数年間の予算の伸びを見てみますと、六十年から六十三年までをとりまして年の平均に直しますと、年率大体一八・四%伸びております。御案内のように大変厳しい財政事情のもとでの予算編成が続いておりますけれども、その中でも毎年平均して一八%を上回る伸びを示しているということは、在宅サービスに我々がいかに力を入れているか、努力しているかということを御理解いただけるんじゃないかと思います。  そこで、今後ともそういった面での努力を続けまして、総合的な在宅福祉対策の推進ということで努力をしてまいりたい、このように思っております。
  36. 浜本万三

    浜本万三君 私思いますのに、努力をされておるんでしょうけれども、結局、政府の在宅介護対策というものが進まないから民間の企業が進出をしてくる条件をつくることになるんではないかこう思っておるわけです。したがいまして、今申したような在宅介護の手薄さに着目をされまして営利を目的といたしましたいわゆる福祉産業が進出をいたしまして、ヘルパーを派遣するホームヘルプビジネスというんですか、そういうものが最近盛んになっておるわけです。  こういった実態について、厚生省としては相当実態を把握されておるんじゃないかというふうに考えるんですが、どのように実態を把握されておるでしょうか、御説明いただきたいと思います。
  37. 小林功典

    政府委員(小林功典君) 在宅福祉に限って申し上げますと、いろんな資料をもとにいたしまして我々として把握しております範囲を申し上げますと、在宅の寝たきり老人等に対して今お話ありましたようなホームヘルプサービスを行う民間事業者は現在約二十業者程度、それから入浴サービスを行う民間業者は約四十業者程度が今存在するというふうに把握をしております。
  38. 浜本万三

    浜本万三君 今計画しておるような事業者は把握されておりませんか。
  39. 小林功典

    政府委員(小林功典君) 個々の企業については把握をしておりませんけれども、確かにこの分野はだんだんふえてくる傾向にあるというふうに思いますので、これからも実情把握には注意をしていきたいと思っております。
  40. 浜本万三

    浜本万三君 いずれにいたしましても、民間の業者が相当進出してくるということはもう明らかであると思いますので、こういった事業を野放しにいたしますと、家庭の弱みにつけ込んで入会金を取ってその会社が倒産をするとかというようなことが起きないだろうかという心配もございます。また、サービス産業の質でありますとかあるいは提供するサービス内容でありますとかまた料金などについてトラブルはないだろうか、そういう心配もあるわけでございます。いい企業ばっかりあればいいんですけれども、変な企業がありますとそういう心配が現実のものになってまいりますので、こういった福祉産業のサービス内容あるいは水準はどのような形で担保されるんだろうかという心配があります。  その点についてお尋ねをいたしたいと思います。
  41. 小林功典

    政府委員(小林功典君) まさしく今おっしゃったようなことが我々も最も心配の種でございます。相手がお年寄りだけによほど注意をしなきゃいけないという認識を持っております。  そこで、まず有料老人ホームにつきましては、先生も御承知と思いますが、既に一定の基準を示しているところでありまして、在宅介護サービスにつきましてはこれからでございますが、お年寄りに適切なサービスが提供されるようなガイドラインを示したい、そのガイドラインをもとにいたしまして国と地方が連携をして行政指導を行っていきたいというのが第一点であります。  それから、これとあわせまして、何分にもこれは民間事業者でありますから、できれば民間事業者の中の自主規制と申しますか、そういうものが必要だろうというふうに考えておりまして、実は、今社団法人のシルバーサービス振興会という団体ができておりまして、そこに有力な民間事業者が参加をしておりますけれども、そこでみずから身を正すという意味で倫理綱領というものをつくってもらっております。近くこれができ上がるようでございますが、そういったことを初めとする自主的な取り組みというものをお願いしたい。  その二つ、行政指導と自主規制といいますか、二つを二本柱としてこれから健全な育成を図ってまいりたいと思っております。
  42. 浜本万三

    浜本万三君 私も具体的にはその二つのことを要請しようと思っておったんですが、申されますように、やっぱり団体の自主規制が第一に必要だと思いまするし、それからサービスのガイドラインもより明確にしていくということが必要になってくると思います。そういう点については早く厚生省の方から示していただきたい、かように思います。  また、自主規制に対しましても常に厚生省が指導監督をするという立場を忘れないように善処していただくように要望しておきたいと思います。  それから、私が調べましたところによりますと、現在入会金が三万円から五万円、それから介護料金は時間制になっておりまして二時間三千五百円、入浴料金は一回一万二千円などなどというようないろんなサービス料金が設定をされておるようでございます。サービス内容によってこれはまちまちなんではないか、かように思います。で、お年寄り並びに介護を要する老人を抱えた家庭の負担能力は、果たしてそれで十分負担できる能力があるんだろうかという心配があるわけでございます。だから、私的サービスの料金と家庭の負担能力というものもうまく調和がとれるようなそういう状況にならなきゃならぬと思いますが、その点はどのように判断をされておるのかお伺いをすると同時に、実態をまず把握することから始まらなきゃならぬと思います。  伺いますと、厚生省厚生省自体としてそういう実態を把握するための調査は行われていないというふうに伺っておるんですが、そうであるとすればこれは困ったことなんで、実態把握のための調査が必要なんではないかと思いますので、調査をするというお約束をしていただきたいということを大臣の方にお願いをしたいと思います。
  43. 小林功典

    政府委員(小林功典君) 先ほどの公私役割分担のところでも御質問があり御答弁申し上げましたが、その福祉サービスあり方としまして、高齢者の切実なニードにこたえるサービス民間部門による対応が期待しがたいもの、これも先ほど申しましたように所得の多寡を問わず今後とも公的部門で確保提供する、そこら辺はきちっと公的部門でカバーをいたします、そういう公的部門の責任なり役割というものを前提にいたしまして高齢者の持つ多様なニードに対応する民間福祉サービス、これは高齢者の自由な選択によって購入されるものでありますけれども、そういった福祉サービスを健全に育成しようというのが我々の考え方でございます。したがいまして、費用の負担ができない人にまで民間サービスを押しつけようというようなことではございませんので、そこはきちっと整理をして考えてまいりたいと思います。  それから、調査の点につきましては、先ほどもちょっと触れましたように、これは都道府県等を通じまして実情把握をいたしたいと思います。それから、若干来年度予算もついておりますので、そういった面では努力をいたしたいと思います。
  44. 浜本万三

    浜本万三君 大臣、それでよろしいですか。
  45. 藤本孝雄

    国務大臣藤本孝雄君) はい。
  46. 浜本万三

    浜本万三君 しっかりよろしくお願いします、そこのところ。  それから次は、現在審議していますこの法律の改正でございますが、これは、従来の社会福祉法人以外に、民法法人とかあるいは営利法人まで融資の対象として老人ホームや介護を業とする者に貸し付けが行われるようになろうとしておるわけでございます。民法による公益法人はともかくといたしまして、営利法人にまで政府機関の低利、長期の資金の融資を受けさせるということはどういうものだろうかという疑問を多少持っております。ただ、そういう制度を通じまして厚生省がそういった企業を把握するということは確かに一歩前進ではないか、かように思っておるわけでございます。  それでお尋ねするんですが、在宅サービスが営利の対象とされ、公の役割が後退し、公の担うべき分野がなおざりになってしまうようではこれは大変困ると思います。そういう懸念を持っておられる方も非常に多いんではないかと思うわけでございますが、その点については大丈夫だという確固たるお答えがあればお伺いをいたしたいと思います。
  47. 小林功典

    政府委員(小林功典君) 在宅介護サービスにつきましては、お年寄りの特性に配慮したと申しますか、要するに、質の確保ができておれば、その供給主体について特段規制をする必要はないんではないかというふうに考えております。つまり、こういうものでなければやってはいけないという性質のものではなくて、要は良質のものであれば育てていいではないか。今度のお願いしております事業団による融資につきましても、いわばよい企業を健全に育てていく、それがひいてはお年寄りの福祉にもつながる、こういう前提でお願いをしているわけでございます。  先生お話がございましたように、民法法人でありますとかあるいは第三セクターでありますとかそういうものももちろん結構でございまして、要は多様な民間部門によりサービスが良質に健全に発展していく、これが望ましいことではないかと思っております。そういう指導はどうしても不可欠であるというふうに考えております。
  48. 浜本万三

    浜本万三君 事業をやる人が全部良心的で良質のサービスを提供するということならばいいんですが、そうでない場合が今までたくさんございましたので、今のような心配が起きるのは当然だろうと思うわけでございます。  在宅の老人介護の事業を営利事業の対象にし、それに対し何らの規制もないというのは、どうも私自体としては納得できない、かように思います。こういった事業につきましては、本質的に地域で温かい心を持って接する活動が必要なんではないか、かように思っております。営利を目的とする株式会社等に任すのではなく、せめて、例を挙げて悪いんですが、例えば地方公共団体の介入する第三セクター方式など幅広い方法で実行していくことが考えられないだろうか、かように思いますが、その点はいかがでございましょうか。
  49. 小林功典

    政府委員(小林功典君) いい企業を育てていくという意味では、先ほど触れましたように、やはり行政指導と自主規制という二本の柱をもとにしてやっていきたいということでございまして、また今回の融資制度につきましては、これは料金とかあるいは経営方法とかいうのを含めまして、要するに、適正な民間サービスにしか貸さないといういわば審査基準、融資基準というものをしっかりしたものをつくりますので、そこでチェックをしてまいりたい。  もちろん、今お話ありましたように、株式会社以外の第三セクター方式あるいは地方公共団体のつくる事業体、こういったものも大いに望ましいわけでございまして、そういったいろいろな供給主体が要は良質に健全に発展していっていただきたいということで我々は対応してまいりたいと思っております。
  50. 浜本万三

    浜本万三君 時間が余りましたが、糸久先生の方に譲ることにいたしまして、最後質問を申し上げたいと思います。  民活の名のもとにお年寄りのホームヘルプ事業を営利の対象にすることは、私は、将来これはやっぱり慎重な上にも慎重であってほしいと思います。政府の申されるシルバーサービスの育成が公的福祉の削減につながるようでは、福祉の精神からいえばこれまた本末転倒であるというふうに思います。この点について、今度民活を活用されるということでございますが、問題の起きないように十分大臣の御指導を賜りたいと思いますが、大臣の御見解を承りまして私の質問を終わらせていただきます。
  51. 藤本孝雄

    国務大臣藤本孝雄君) 先ほども申し上げたのでございますが、民間サービスはあくまで公的なサービスを補完する、つまり代替するものではない、この考え方がやはり基本でございまして、そこのところの誤解はないように我々も十分に考えておるわけでございます。また、先ほどの御議論の中にも、お金のある人は民間でお金のない人は公共サービス、これも全くそのような考えはないわけでございまして、せっかく救貧というところから出発した社会福祉が国民全体に行き渡っておる現状を後退させる、後戻りさせるということも我々毛頭考えていないわけでございまして、今後、民間サービス多様化されたお年寄りの福祉ニードに対応するという点は期待されますけれども、それはあくまで公的サービスの補完である、こういう考え方を貫いてまいります。  また、民間の提供するシルバーサービスにつきましても自主規制、また内容、質の点につきましても十分指導してまいりたい、かように考えておるわけでございます。
  52. 浜本万三

    浜本万三君 終わります。
  53. 糸久八重子

    糸久八重子君 私は生活保護の問題に絞りましてお伺いをさせていただきます。  生活保護制度は、生活保護法第一条の目的に示されておりますように「憲法第二十五条に規定する理念に基き、国が生活に困窮するすべての国民に対し、その困窮の程度に応じ、必要な保護を行い、その最低限度の生活を保障するとともに、その自立を助長することを目的とする。」、そういう国民生活の最低保障をするための最終的な援助であり、最低生活の保障は健康で文化的な最低限度の生活を維持するに足るものでなければならないと思います。  また、生活保護は慈恵的救済制度ではなくて国民の権利であり、国は国民に健康で文化的な最低生活を保障する義務があると考えられますけれども、この点につきまして大臣のお考えをお聞かせいただきます。
  54. 藤本孝雄

    国務大臣藤本孝雄君) 今御指摘がございましたように、憲法二十五条の規定に基づきまして、生活保護法の法律の目的第一条、また最低生活第三条、今お読みになられた御指摘の点でございますけれども、まさしくそのとおりであると私は考えております。
  55. 糸久八重子

    糸久八重子君 基本的な考え方をお伺いし確認できましたので、憲法が保障する健康で文化的な最低限度の生活の具体的な中身についてお伺いをしたいと思います。  ここで言う最低限度の生活というのは、人間が人間として生きていくために人間の尊厳を維持し得る内容、水準であることが当然の憲法上の要請であると思うのですけれども、間違いはございませんか。
  56. 藤本孝雄

    国務大臣藤本孝雄君) そのとおりだと思います。
  57. 糸久八重子

    糸久八重子君 生活保護制度は国民の生存権保障について非常に大きな役割を持つことが明らかになったわけでございます。  ところで、昭和五十五年から六十一年度までの、できれば六十二年度の中間報告があればよろしいのですけれども、被保護世帯数と被保護人員を教えていただきたいのですが。
  58. 小林功典

    政府委員(小林功典君) 昭和五十五年度以降の状況を見てみますと、被保護世帯数は、昭和五十五年度が七十四万七千世帯でありましたが、それ以降増加傾向を示しまして昭和五十九年度には七十九万世帯になりました。ところが、昭和六十年度から今度は減少傾向になりまして、昭和六十一年度には七十四万六千世帯になりました。それから六十二年、これは途中でありますが、六十二年十一月では七十万九千世帯になっております。  また、被保護人員につきましては、これにつきましても同様の傾向を示しておりまして、昭和五十五年度の百四十二万七千人が昭和五十九年度の百四十六万九千人へと増加をいたしましたけれども昭和六十一年度には百三十四万八千人と減少してきておりまして、さらに六十二年十一月を見ますと百二十五万六千人というふうになっております。
  59. 糸久八重子

    糸久八重子君 今数字でお示しになられましたように、五十五年から五十九年までは被保護世帯数で言いますとふえているわけですね。例えば、五十六年になりますと五十五年より九千七百程度、それから五十七年になりますと一万三千、それから一万一千、七千三百というふうに順次ふえていっているわけです。  年々増加をしてきているんですけれども、六十年度以降については、受給世帯は受給人員とともに減少をしておるわけですけれども、その低下の要因というのはどのように受けとめていらっしゃるのでしょうか。
  60. 小林功典

    政府委員(小林功典君) この被保護人員あるいは世帯の増減というのは、一般的に言いますと、経済的、社会的要因はもとよりでありますが、他方、他施策整備状況あるいは制度の運用等いろんな要因が考えられるわけでありまして、なかなか一概に言えるものではございませんけれども、我々、いろいろ分析をいたしましてその要因の主なものを考えてみておりますが、それを申しますと、第一は景気でございます。  景気は、五十八年以降一時的には若干の後退はありましたけれども、全体的に見ますと好況で推移しているというのが第一点であります。  それから第二点は、昭和六十一年四月に、先生承知のとおり、障害基礎年金制度と特別障害者手当制度が導入をされたわけであります。必要であれば金額を申し上げますが、これが非常に大幅に上がっておりまして、これが被保護人員の動向にかなり大きな影響を与えているということであります。つまり、所得保障がある程度充実したという面で、それが影響しているというのが第二点。  それから第三点は、昭和五十九年から離婚率が減少してきております。これによりまして、結局、母子世帯の適用者というのが減ってきておるということが第三番目の理由であります。  それから第四番目に、国と地方公共団体における保議の適正実施という運用の適正化についての取り組み、これがこの第四番目の影響である。このように分析をしております。
  61. 糸久八重子

    糸久八重子君 今要因をお知らせ願ったんですが、六十年度よりも六十一年度の減少率が非常に高くなっているわけですね。六十年度の場合ですと、世帯数で言うと九千九十五なんですが、六十一年になりますと三万四千百、そして六十二年になりますとさらに大幅に上回って三万七千近くですか、大幅に減っているんですけれども、こういうふうに六十年、六十一年、六十二年、とにかく大幅に減っているというその要因ですね、これをどう受けとめていらっしゃいますでしょうか。
  62. 小林功典

    政府委員(小林功典君) その点は先ほど申しました四つの原因だと思いますけれども、特に、この年度に限って申しますとまさに六十一年がかなり減っているわけでありますが、障害基礎年金制度と特別障害者手当制度、これはちょうど六十一年四月から導入されているわけであります。これがかなり大きくきいているというのは先ほど申し上げたとおりであります。  ちなみに数字を申し上げますと、障害基礎年金が、従来は福祉年金の一級というものであったわけでありますが、これが月額三万九千八百円、これが六十一年四月から障害基礎年金ができまして月額六万四千八百七十五円と大幅にふえておりますのと、それから重度の障害者につきましては特別障害者手当というのができたわけでありますが、従来の福祉手当、これが月額一万一千二百五十円でありましたのが、この特別障害者手当は二万八百円ということで、重度の方はこれを足した差だけ所得がふえたということでありますので、これが六十一年からの減に非常に大きくきいているというふうに考えております。
  63. 糸久八重子

    糸久八重子君 臨調・行革による社会保障予算が抑制される中で生活保護費に対する国庫負担も本来の十分の八から十分の七に削減をされたわけですけれども、それが六十年度からであります。国庫負担削減と適正化の名のもとに保護の打ち切りとか抑制が強化されてきているのではないかと大変心配をするわけです。  例えば、被保護人員というのは六十二年十一月では百二十五万六千人、六十年度の平均の百四十三万一千人の八七・八%まで落ち込んでいるわけですね。保護率も千分の十・三となってきておるわけですけれども、そういうことで国庫負担が削減されたというのも大きな原因になるんではないかと私は思うのですけれども、それについての御見解はいかがですか。
  64. 小林功典

    政府委員(小林功典君) 確かに、六十三年度予算は対前年度当初予算に比べまして約二百五十億の減が立っております。これはまさに先ほど来お話ししております被保護人員あるいは被保護世帯の減が影響しているわけであります。  つまり、過去のトレンドでその年の被保護人員あるいはその所要保護費というものをはじくわけでありまして、そういった数年来の保護の動向というものをもとにして決めるわけでありますから、今の減少傾向をもとにしてはじきますと結果的にそういうふうになるということで、決して国庫負担を無理して切ったとか減らしたとかいうことではございませんので、そこは御理解いただきたいと思います。
  65. 糸久八重子

    糸久八重子君 保護率の低下を顕著に示している特定な地区がございます。  例を挙げますと、六十年度には二千九百三十人だった保護の受給者数が六十一年度には約一割も減少して二千六百四十一人になっているというわけですけれども、これもやはり年金とそれから不況の脱出等の影響によるものとお考えですか。
  66. 小林功典

    政府委員(小林功典君) その地区を私存じ上げませんのでその地区についての分析をここで申し上げるのはちょっといかがかと思いますけれども、恐らく、一般論として先ほど申しましたような四つの原因、これはその地区においても適用されるべきものだろうと思います。  ただ、それ以外の何か特別な事情があるかどうか、これは具体的にお示ししていただきませんとちょっと申し上げるわけにはまいりません。
  67. 糸久八重子

    糸久八重子君 先ほど減った原因の中に適正化というお話があったわけですけれども、この地区では、相談活動の充実という名目で相談員を非常に増員をしている。そして、実は、ここでの相談が、申請の手続をさせないというような状況などが生まれてまいりまして、適正化ということに大きな役割を果たしているのではないかと思われる部分があるんですね。  ですから、ここでこんなに一割も減ったということは、過度の適正化の適例なのではないかというふうに考えるんですけれども、その点についてはどうお考えでしょうか。
  68. 小林功典

    政府委員(小林功典君) その状況がちょっとわかりませんので一概に申し上げられませんけれども、申請を抑えているということは私はないと思います。  ただ、よくある例でありますけれども保護を受けたいとおっしゃってこられる方の中には生活保護の仕組みというものをよく御存じないという方がいらっしゃいます。つまり、これは、生活保護というのはそもそも最低生活の最後のよりどころでございますから、自分の収入とか資産とかいろんなことあるいは他法他施策の適用でありますとか全部やってみて、それでもなおかつ最低生活が維持できないという方について適用するのが生活保護でございます。そういった仕組みを御存じなくて、特に生活が困っているからといってこられまして、例えば、あなたの場合には年金がもらえるはずではないですかと調べてみるとやはりもらえる、あるいは児童扶養手当がもらえるはずだと調べてみますともらえたとか、そういうケースもあるわけでございますね。したがいまして、そういう保護の補足制と申しますか、そういった仕組みをもとにしていろんな御説明をしたりあるいは御相談を受けたりして、いろんなほかの工夫をしてみてなおかつだめな場合に適用する、こういうケースがよくあるわけでございます。  ですから、そういう意味では、申請というか窓口に保護を適用してくださいと来られた方は即申請受け付けというわけにはいかぬ場合ももちろんあると思います。それはあくまで拒否ではなくて、いろんなそういう条件というものをよく調査をしてあるいは御相談に乗って、それでできるものはやってみて、その上でそれでもなおかつどうしても最低生活が維持できないということであれば、これは当然権利でございますから生活保護は適用しなければならないということでございます。その辺の指導は我々もやっているつもりでございます。
  69. 糸久八重子

    糸久八重子君 五十六年に生活保護の適正実施についてという保護課長、それから監査指導課長通知が出されましたね。それで、不正受給の防止、つまり適正化ということなのですけれども、そういうことをも名目にいたしまして各福祉事務所で厳格過ぎるほどの事務処理が行われている。そういうような結果、本当に生活に困る者が必要な保護を申請する権利までも阻害されているのではないかと考えざるを得ないんです。  今の特例の地区のお話もいたしましたけれども保護率の減少を適正化の成果と評価する空気が行政側にあるのではないかというような気がするんですけれども、その点についてはいかがでしょうか。
  70. 小林功典

    政府委員(小林功典君) 本当に保護が必要な方に対して保護をしないという意味で適正化をお使いいただくとこれは困るんですけれども、本当の意味での適正化、その効果は確かにさっきの四つの中の一つとしては我々は考えております。  ただ、それは、そういう権利を侵害するような形での適正化ではないというふうに私ども理解をしております。
  71. 糸久八重子

    糸久八重子君 権利侵害をされての適正化ということではない、必要な保護というのは行われているというようなそういう御判断のようでありますけれども生活保護制度の歴史を振り返ってみますと、保護基準の引き上げが保護予算に運動しないで保護人員の削減につながり、その削減分を確保するために必ず適正化という文言が登場しているわけです。保護基準が毎年引き上げられているにもかかわらず、保護率は昭和二十六年の千分の二十四・二をピークとして低下傾向が続いておりまして、六十二年の十一月では先ほども申しましたけれども千分の十・三にまで落ち込んでいるという状況であるわけでございます。  保護基準の引き上げにもかかわらず、どうして保護率は減り続けているのか、その辺の御見解をお伺いしたいと思います。
  72. 小林功典

    政府委員(小林功典君) 保護基準の、厳密に言うと生活扶助基準のアップということ、改善ということだと思いますけれども、それと保護人員とは直接は関係がないんじゃないかなと思います。  つまり、景気の動向でありますとか所得保障の問題でありますとか、あるいは最近で言えば離婚率の低下でありますとか適正化でありますとかそういういろいろな要因で保護人員というものは決まってくるというか、動向は決まるわけでございます。片や、受けた方の生活水準をどこら辺に定めるかというのが、先生御案内のように、今は、一般世帯との均衡といいますか水準均衡方式ということで決めてますので、水準が上がるということと保護人員がどうなるかということは一応別問題というふうに考えるべきではなかろうかと思います。
  73. 糸久八重子

    糸久八重子君 最近、生活保障水準の切り下げがかなりございましたし、それから保護世帯の減少の理由の一つに最近景気が上昇してきているということもおっしゃられたわけですけれども、円高不況も引き続き続いておりますし、産業の空洞化もあり、農産物の自由化という中で、やはり賃金もそれから雇用も非常に落ち込んでいると思うんですね、今の状態まだまだ。決して国民の生活が楽になったわけではないわけですから、状況的には保護を受ける人がふえるのが当然なのではないかなというふうに考えられるわけですけれどもね。生活保護を受けている人たちというのは、この三年間で大体二十万人程度減っているという状況ですね。そして、六十三年度では、生活保護費が前年度と比較してついに二百五十億円も減となったわけです。  そういうことから考えて、その推進役がやはり厚生省が指導している適正化による保護抑制の強化なのではないかなという気がするんですけれども、いかがでしょう。
  74. 小林功典

    政府委員(小林功典君) 繰り返しの御答弁になりますけれども、確かに、先ほど四つの柱の一つとして申し上げましたから、今でも不適正な事例というのはちょこちょこ起こるわけでありまして、それは適正化しなければいけないという指導はしておりますからその影響はないとは申しません。  申しませんが、それだけで先生おっしゃるような減少になったというふうには私ども考えられないわけで、いろんな要素が複雑に絡み合っている、そのうちの一つに適正化の努力というものが影響はしておるだろうというふうには思います。
  75. 糸久八重子

    糸久八重子君 私が考えますには、結局、適正化という名前のもとに母子世帯等の社会的弱者が保護の網から漏れてしまう、そして制度自体が最低限度の生活を保障するものでもまたその自立を助長するものでもなくなってきてしまっているような感じがいたします。  これも新聞に大きく報道されましたから詳しいことは申し上げませんけれども、昨年の冬、母子家庭の母親が餓死をした事件がございました。これなどは明らかに適正実施の確保を優先させる最近の保護行政のあり方に原因しているのではないかというふうに思うのですけれども、この辺の御見解はいかがでしょうか。
  76. 小林功典

    政府委員(小林功典君) 今挙げられた例は恐らく札幌のケースではなかろうかと思いますが、これは、先般のこの委員会でも私、事実関係を全部御報告いたしまして、新聞報道あるいはその他の報道とやや様相を異にするがというようなことも申し上げたわけでございますが、その個々のケースについて、もし報告しろということであればまた申し上げますけれども、決してそういう福祉事務所の冷たい態度でそういうことになったということとはとても考えられない状況だということを申し上げたわけでございます。
  77. 糸久八重子

    糸久八重子君 そもそも、せっぱ詰まっているから生活保護を受けようと窓口に足を運ぶのですね。保護法の四条には、自分の生活は利用できる資産や労働力を使って生活することを条件とする、そして直系の血族や兄弟姉妹はお互いにその援助をすると民法に書いてあるからそうしなさいというふうに書かれておりますけれども、四条の三項には、せっぱ詰まったときには前の一項、二項は気にしなくてもよろしい、保護しなさいと、そう規定しておりますね。  それから、同様に保護法の二十五条では「急迫した状況にあるときは、すみやかに、職権をもつて」「保護を開始しなければならない。」としておるわけです。せっぱ詰まった状態にある人がいたら速やかに保護しなければならないし、本人からの申請がなくてもそれができるということだと思うんですね、この法律は。  保護法の本旨からしても、まずは申請の窓口もできる限り開かれた状態にしておくべきではないのか、申請手続さえさせないという方法は生活保護法の違反ではないかと、そのように考えるのですけれども、いかがですか。
  78. 小林功典

    政府委員(小林功典君) 申請すらさせないということであれば明らかに違法でございます。私どもはそういうケースはないと思います。つまり、申請の際に先ほども出ましたようにいろんな御相談を受けるあるいは調査をするという点は、これは当然のことでございますけれども、申請をさせないというケースというのは私はないと思います。
  79. 糸久八重子

    糸久八重子君 例の餓死した女性は、生活保護の申請をしたにもかかわらず受理をされていないのです。生活保護法というのはすべての人に申請権を認めているにもかかわらず、実際にはその第一線の担当官が却下してしまったり、それから受理した後でもケースワーカーが圧力をかけて本人が申請を取り下げるようなケースが最近適正化という関係で非常にふえ続けているというふうに聞いております。  例えばこういう例があるんです。夫が行方不明の母子世帯が保護の申請に行ったところが、夫と別れているかどうかわからないし財産ももらえるかどうかしれないから、まず裁判所に訴えて証明を持ってこいと言われた。裁判所に行きますと、行方不明では訴えられないから警察に行って生き証明をもらってこいと、そう言われる。警察では、家出人の届け出が出てないから証明できないというようなことで、結局、この母子世帯は証明がとれないということで申請を拒否されたという例もあるわけです。  保護を受ける意思表示をした人については申請用紙を即刻受理すべきだと考えるのですけれども、この辺はいかがでしょうか。
  80. 小林功典

    政府委員(小林功典君) 扶養義務の問題、よく問題になるようでありますけれども先生も十分御承知のように、民法に定める扶養義務の履行というのが生活保護に優先して行われるというそういう仕組みになっておりますから、扶養義務者がいればまずその扶養義務者が援助をして相互に助け合う、これは基本であることは御案内のとおりでございます。  中でも、子供さんが未成熟といいますか、小さいお子さんの場合、この場合には親の関係の扶養義務の履行というのはとりわけ強いわけでございまして、そういう意味では、離婚した母子から生活保護の申請があった場合に、例えば、養育料等の請求が行われていない場合であってしかも前の夫に扶養能力があるというような場合には前夫に扶養をお願いするというようになるのは、これは当然のことでございます。  ただ、負担能力がないあるいは行方知らずだというようなケースにつきましては、これはそこまで扶養を強制することは妥当ではございませんので、そういう指導はしておりませんから、そのケースはまたお聞かせいただけば調査をいたしますけれども、そういうことだと思います。
  81. 糸久八重子

    糸久八重子君 また先ほどの餓死のところに戻りますけれども、行政上の対応が誤りがなければこういう餓死のような事件は起こらないのではないかと思うわけです。  例えば、この母親は病気のために働けなくなった、そして生活保護を申請に行ったところで別れた夫から養育費が出ていない証明を出すように言われた、それが出せない。つまり、離婚するということはやはりいろいろ事情があるわけですから、別れた夫のところにまた行ってその証明をもらうというようなことも、自尊心を傷つけられてそういうこともできない。そういうことで、証明が出せないために生活保護の受給ができなかった。そしてそういうような状況で生きる気力を失った末の餓死であったというふうに言われているわけですけれども生活保護制度上別れた夫の扶養義務はどのような位置づけとなっておるのでしょうか。
  82. 小林功典

    政府委員(小林功典君) これは、先ほどちょっと触れましたように、特に未成熟の子供さんがある場合の親の扶養義務、これは非常に強いわけでございまして、そういった面からその養育料等の請求が行われていない場合、別れたもとの御主人に請求が行われていない場合であってしかもその前夫に扶養能力があるという場合には、それはその請求をするように指導をしておるわけでございます。
  83. 糸久八重子

    糸久八重子君 親子は生活保持義務関係にある絶対的な扶養義務者であるわけですが、これは同居の事実の有無とか親権の有無にかかわらず適用されることになっております。  扶養の履行については、局長通知が出ておりますね。昭和三十八年ですけれども、それによって「正当な理由なくして扶養を拒み、他に円満な解決の途がない場合には、家庭裁判所に対する調停又は審判の申立てをも考慮すること。」となっております。また「要保護者にその申立てを行なわせることが適当でないと判断されるときは、社会福祉主事が要保護者の委任を受けて申立ての代行を行なってもよい」という大変に厳しい内容となっておるわけですけれども、これ質問通告してないんですが、これまでにこれらの規定によってどの程度徴収をされておりますかおわかりですか。
  84. 小林功典

    政府委員(小林功典君) これは現実に適用された例はまだないと聞いております。
  85. 糸久八重子

    糸久八重子君 生活保護法第七十七条に基づく費用の徴収がほとんど行われないというのは、どういう事情によるものなのでしょうか。何か、行政上の怠慢なんですか。
  86. 小林功典

    政府委員(小林功典君) いろいろ理由があると思いますけれども、一番大きなものは、これは率直な話、裁判所に手続をするわけでございまして、非常に手続が複雑であるということが大きいのではないかなと思います。
  87. 糸久八重子

    糸久八重子君 扶養義務の履行について、昨年十二月、会計検査院が厚生大臣生活保護世帯に対する扶養義務の履行の確保についてという改善処置要求を出しまして、扶養能力を調査する体制の整備とか扶養能力の調査に関する指導の徹底とかそれから費用徴収権の発動できる体制の整備など、適正な保護の実施を求めておるわけですね。これに対して厚生省は、指摘の趣旨を踏まえ、都道府県に対し扶養義務の履行を確保させるよう適切な措置を講ずるとしておるわけですけれども、具体的にどのような措置を講じようとしていらっしゃるのでしょうね。
  88. 小林功典

    政府委員(小林功典君) 会計検査院から昨年十二月に処置要求が出されまして、三点ございますが、内容はよろしゅうございますですね。  それに対して私どもとしては、この処置要求の趣旨を踏まえまして、指摘された税法上の扶養控除の状況等を調査項目に加えるように取り扱いを改めることに、一つ、いたしました。  それから、ケースによって法七十七条の適用について検討を行うように実施機関を指導したところでございます。
  89. 糸久八重子

    糸久八重子君 ちょっと早口でよくわからなかったんですけれども、税制上の問題ともう一つは、ケースによる何ですか。
  90. 小林功典

    政府委員(小林功典君) 税法上の扶養控除の状況等を調査項目に加えるように改正をしたというのが一つ。  それからもう一つが、ケースによっては法七十七条の適用について検討を行うように実施機関を指導したということでございます。
  91. 糸久八重子

    糸久八重子君 聞き取れないんですけれども
  92. 小林功典

    政府委員(小林功典君) そうですか。失礼しました。  ケースによっては法七十七条の適用について検討を行うように実施機関を指導したということでございます。
  93. 糸久八重子

    糸久八重子君 扶養義務の履行がさきに述べました適正化の一環として強行されたその結果、母子家庭の母親に対して夫から養育費が出ていない証明を要求したわけですけれども、これが生活保護の支給要件とされてますます強められようとしている限り、大部分の母子家庭というのは、例えば病気になっても、それから収入の道が閉ざされても、保護の適用を受けることは不可能になってしまうと。  こうした場合、どのような形で必要な保護を確保していくおつもりなのでしょうかね。
  94. 小林功典

    政府委員(小林功典君) 御質問の趣旨がよく理解できませんが、先生がおっしゃるように、本来、母子世帯であって生活保護を適用すべきであるのにかかわらずそれをしなかったということがあれば、これはもちろん是正をさせなければいけません。  ただ、扶養義務というのは確かにあるわけでございますから、扶養義務がある場合に、生活保護を適用する前にやっぱり扶養義務を履行していただいて、それでなおかつ最低生活が維持できないというケースについて生活保護を適用するわけでありますから、調査とか相談とかいった前段の準備とかそういうものは、これは必要でありますからそこは私どもも必要だと思いますけれども、本来生活保護を適用すべきであるのにかかわらずしないということがあれば、これは是正をしなければならないと思います。
  95. 糸久八重子

    糸久八重子君 例えば、申請に行って窓口で相談をしたときに、あなたは兄弟がいるだろう、その兄弟からそれでは幾ばくなりとも援助してもらいなさい、と。それでは考えてみますと言って帰ったと。そうして生活保護の適用は受けたんだけれども、結局、本当に兄弟から仕送りがあるのかないのかわからないのに、もう既にその分が保護費から差し引かれているというようなそういうケースも出ているわけなんですね。  生別母子世帯の場合の養育費の受給状況、これは私調べてみましたけれども、受けているというのが一一・三%、それから受けたことがあるというのが一〇・一%、そして受けたことがないというのが七八・六%という状況でございます。だから母子家庭の九割が養育費の支払いを受けておらないという状況なんです。そして八割以上が父と面会もしていないというふうな状況にあるわけですが、こうした中で、先ほどもお話に出ております適正化のために扶養義務の履行を強調することは、結果的には生別母子世帯を生活保護から遠ざけることになってしまうのではないかと。母子世帯は平均所得も二百六万円、これは平均の所得の四百九十三万円を大きく下回っておりまして、特に母親と十八歳末満の子供のみの世帯では実収入や可処分所得も非常に減少しておりまして、消費性向も一〇〇%を超えて平均貯蓄も減少するという非常に厳しい状況にあるわけです。  こうした世帯に対して生活保護法の本来の趣旨であります生存権保障のための最後のとりでとして生活保護法が機能するわけですけれども、そういう本来の生活保護制度であるのがこういう生存権の保障だと思うんです。  冒頭にも大臣にお伺いしたわけですが、今までの母子世帯の話等の中で、大臣の御認識はいかがでございましょうか。
  96. 小林功典

    政府委員(小林功典君) 今お話がございましたように、生存権の最後のとりでという点は我々も同感でございます。  その趣旨に従ってやっているつもりでありますが、運用面で先生がおっしゃっているような行き過ぎたケースと申しますか、もしあるとすれば、それは我々も注意をして是正をしなきゃいかぬと思いますけれども、しかし今本当に生活保護の適用が必要かどうかという点での事務処理、これはこれからも適正にやっていかなきゃならないだろうということを考えているわけでございます。
  97. 糸久八重子

    糸久八重子君 厚生省のおっしゃっている適正化とは一体どういうことを指しておるのでしょうか。
  98. 小林功典

    政府委員(小林功典君) 法律の規定どおりでございまして、例えば、資産があるのに資産を使わないで保護を適用するというわけにはまいりませんし、また一定の収入があるのにかかわらず保護を適用するわけにもまいりませんし、それから一定の養育料が出るべきなのにそれはそのままにしておいて保護を適用するというわけにもまいりません。したがって、そういう資産、収入、扶養というようないろんなものを全部活用した上で、なおかつ最低生活の維持が困難であるという方に対して初めて生活保護が適用されるわけでありますから、そういう意味でそういう適正な事務処理をするということでございます。
  99. 糸久八重子

    糸久八重子君 今おっしゃられたように、収入認定の適正化とか資産の活用とか扶養義務の履行とかそれから稼得能力の適正化とか、そういうようなものを適正化とおっしゃったわけですけれども、適正実施とか適正化というのはやはり生活保護を適切に正しく実施しなさいということだろうと思うのですね。適正な実施という場合には、まず現在生活保護を受給している人々が適正な要件のもとに利用しているんだということ。それから、広く国民に対して生活保護を初めとする社会福祉だとか社会保障制度に関する適切な情報を日常的に提供して、そして保護を要する状態にある人に対しては適切な保護を実施するということがやはり正しい適正化だと思うんですね。こういうこともやっぱり含まれなければならないと思うのですけれども、先ほど厚生省のおっしゃいましたこの四点は、何かいずれも保護の引き締めを図るものばかりのような気がするわけです。  積極的に国民に適正な情報を提供することとか保護を必要とする人たち保護の観点が何か抜け落ちているようなそういう感じがするわけですけれども生活保護本来の趣旨に立ち返って温かい配慮をしていただきたいと、そう思うのですけれども、この点についてはいかがでございますか。
  100. 小林功典

    政府委員(小林功典君) 何度も申し上げますように、本当に生活保護を適用すべきだというケースについてもしそれが妨げられているとすれば、これは大変な問題でありますからそこは是正をいたしますけれども、要するに、適正というのは、法律の趣旨どおり保護を適用することがいいかどうかという判断をしなきゃならないわけでありますから、判断をするためのいろいろな手続というのはこれはお許しいただかぬと困るわけでございまして、その上で、別に切るという意味での適正化ではございません。  法の趣旨に沿った適用かどうかということをきちっとやるような手続、これは我々は避けて通れない手続だと思います。
  101. 糸久八重子

    糸久八重子君 その適正化という名のもとに、適正に行われているかという監査が非常に厳しいということもケースワーカーの方たちが申しておるわけです。つまり、監査に要するいろいろな書類を非常にたくさんつくるのだそうです。ですから、つまりデスクワークが非常に先行してしまって、実際の相談に要する時間というのはとれないというような悩みも伺っておるわけなんです。そういうことも一応申し上げておきたいと思います。  それから、児童扶養手当法において別れた父の収入による支給制限の規定というのは、別れた父の扶養義務の履行がなされていないことが国会の審議でも明らかになったわけです。履行が確保されるまでの間に事実上凍結されておるわけですけれども生活保護においてこの扶養義務の履行を求めても実効が上がりません、先ほど申しましたとおりなかなかその証明もとれないというような状況ですから。そういう状況の中では申請者の生活困窮を深めることにしかならないと思います。履行を無理強いするのではなくて、母子世帯の置かれている状況にふさわしい制度の運用が考えられてもいいのではないかと思うのですけれども、いかがでしょうか。
  102. 小林功典

    政府委員(小林功典君) 離婚とかなんとかというより前に、要するに、夫、その申請者の夫とその子供という関係での扶養義務、これは残るわけでございますから、もちろんその夫に負担能力がないという場合はもちろん別でございますけれども、別れた夫が扶養能力があるという場合にはそれを第一義的にやっていただいて、その後で生活保護を適用する、これが原則であることは間違いございません。  ただ、こういうケースはございます。先生の御質問の趣旨と合うかどうかわかりませんけれども、例えば前夫に扶養能力がないということがはっきりしたような場合、これは当然でありますが、そのほかに前夫の居所がわからない、行方不明であるというようなケース、あるいは前夫の例えば暴力から逃れてきて前夫には居所を言いたくないというケース、いろいろございます。そういった場合にはその扶養義務のことは一応置いておきまして、一たん保護をいたしまして、その後で必要な調査あるいは扶養義務の履行を求めるというケース、これはやっておるわけでございます。
  103. 糸久八重子

    糸久八重子君 では、この際確認をしておきたいのですけれども生活保護負担金のカット分の復活問題でございます。  冒頭にも申し上げましたけれども生活保護費に対する国庫負担というのは、本来十分の八であったものが、六十三年度までは補助金の臨時特例法によりまして十分の七になっているということなんですけれども補助金のカットは六十三年度までの特例措置ですから当然六十四年度以降は廃止されるものと思うわけですけれども大臣の御認識と御決意をお伺いさせてください。
  104. 藤本孝雄

    国務大臣藤本孝雄君) この問題は今までしばしば国会で議論が行われておりまして、御承知であると思いますが極めて重要な問題でございまして、今後、六十四年度以降どのように進めていくかという問題につきましては関係閣僚会議でこれから検討していく、こういう今状況でございまして、私どもといたしましても最大限の努力をいたしたい、かように考えております。
  105. 糸久八重子

    糸久八重子君 大臣のしっかりとした活動の中でどうしても六十四年度からもとに戻していただくように重ねて御要望を申し上げたいと思います。  それから、土地、家屋などの不動産の所有についてです。  かなり緩和の方向をたどってきておったわけですけれども、最近の都市周辺部を中心とした地価の高騰からこれが一転して、保有制限の方向生活保護制度運営研究会で検討がされましたね。そして昨年の十二月に出された報告書を見ますと、「当面は、従来の考え方を踏まえつつ、より明確な判断基準を設定することにより実際上保護の適用を制限していくことを検討」ということが打ち出されているわけですけれども、基準見直しの概要とその目途をお伺いさせていただきたいと思います。
  106. 小林功典

    政府委員(小林功典君) 確かに、近年の都市部を中心といたしました地価の高騰などを背景といたしまして、不動産保有者に対する生活保護の取り扱いというものがその他の一般の世帯との間でいわば公平を失するんじゃないかというような声があったわけでございます。そのような背景を踏まえまして、昭和六十年に生活保護制度運営研究会を設置をいたしまして、この問題について検討をしてきていただいたところでございます。  昨年十二月に報告書の取りまとめが行われたわけでありますが、これも先生指摘のとおり、その内容といたしましては、処分価値が利用価値に比べて著しく大きい場合には不動産の保有を認めない、これが従来の考え方でありますが、これはいいと。ただ問題は、そういう従来の考え方が非常にわかりにくいのでより具体的にした基準を設定する必要がある、それによって保護の適用の公平性を確保していくことを検討すべきである、これが提言の概要でございます。  そこで、私どもとしましては、この報告書を受けまして不動産保有についての具体的な判断基準、これを今考えている最中でございますが、まだ現段階ではこういう方向でというところまで作業は立ち至っていないのが現状でございます。
  107. 糸久八重子

    糸久八重子君 大体いつごろまでにそれができますか。
  108. 小林功典

    政府委員(小林功典君) 大変難問題でありまして、基準の具体化というのは非常に難しい問題でございますから、鋭意努力いたしますが、できれば夏ごろまでをめどにまとめたいなという気持ちを持っております。
  109. 糸久八重子

    糸久八重子君 資産家にまで保護を行うことはないわけでありますけれども、会計検査院や総務庁がいたずらに資産家に生活保護がなされているというような針小棒大な指摘をして、厚生省もこれにこたえる形で適正化を推進しているわけですけれども生活保護制度自体が空洞してしまうような行き過ぎた適正化は厳にこれを慎んでいくべきであると思いますが、この点についてはいかがですか。
  110. 小林功典

    政府委員(小林功典君) 大変難しい問題なんでございます、これは。  いろんな意見がございまして、先ほど申しました公平を失するというのを平たく申しますと、例えば都心部で自分の家屋敷に住んでいながら生活保護を適用されているという方がいらっしゃるとします。すると、片や、自分のうちはなくて子供を抱えて生活保護の適用を受けないで頑張っているという世帯もあるわけです。そこから見ると、何で都心で生活保護の適用を受けるんだという声も、これは現にございます。しかし、逆の見方もまたできるわけでありまして、そこら辺が、何といいますか、健全な一般常識と申しましょうかあるいは各階層間の公平性と申しましょうか、それをどう考えるのが適当かというのはこれは人生観になるような話でございまして大変難しいんでございますが、そこら辺はやはり一定の物差しというものをつくって、ほぼここら辺が一番世の中の皆さんの納得が得られるという線を見つける作業が今我々に振りかかっているわけであります。  大変難しい問題がございますが、もちろん、それによって先生おっしゃるようないわば酷なと申しますか、そういう扱いをするというつもりではございません。いかにしたら生活保護世帯と一般世帯の公平性が保てるか、世の中の納得がいただけるかという線で我々は作業をするつもりでおります。
  111. 糸久八重子

    糸久八重子君 生活保護の適用が制限されるような資産家が仮にいたとしても、不動産はあっても生活に困窮しているというそういう場合があると思うんですね。そういう場合に対してやはりきめ細かい配慮が必要だと思うんです。例えば、土地を売ったらいいじゃないかというような形にしたら、その土地を追い出された場合に一体どこへ行って住んだらいいかということで路頭に迷うということもあるかもしれないわけですね。  ですから、そういう部分ではやはりきめ細かい配慮をしていただきたいと、そう思うのですが。
  112. 小林功典

    政府委員(小林功典君) いろんな御意見がありますので、どこら辺に線を引くのが一番公平と言えるかということを物差しに、まだ案がないものでございますからここでこうしますというふうに申し上げかねますけれども、十分そこら辺のいろんな御意見は参考にいたしながら考えていきたいと思います。
  113. 糸久八重子

    糸久八重子君 それでは、最後になりますけれども、きょうの質疑で明らかになったことは、生存権を最終的に担保するための生活保護制度が適正化というその言葉を理由にした制度運営によって、最低生活を保障するものでもまた社会的自立を促進するものでもないものとして定着させられようとしているような実態もあるわけです。  けれども大臣、こうした潮流をやはり改めて、憲法の要請に沿うような形での制度の改善に努める責任があると思うのですけれども、今後に対する抱負をお伺いをさせていただきたいと思います。
  114. 藤本孝雄

    国務大臣藤本孝雄君) 生活保護の問題につきましては、私からも申し上げておりますように、これは憲法で保障された権利でございます。真に生活に困っておられる方に対して、そういう憲法で保障された生存権の最後のよりどころという考え方を背景として、生活保護の対象として従来から対応しておるわけでございまして、金額におきましては厚生省予算の約一〇%、一兆一千億程度の金額を六十三年度も使っておるわけでございます。  一方、これは申し上げるまでもなく大切な国民の税金を使っておるわけでございますから、その生活保護の適用という問題についてはこれはやはり国民の皆様の理解、御納得が必要であることは申すまでもないことでございます。現に、まことに遺憾なことでございますけれども、毎年千件程度の不正受給があるということもこれまた事実でございます。したがって、私どもとしてはそういうことのないように十分に配慮をしていかなければならない責任もあるわけでございまして、そういうことについては十分にこれからも対応していかなければならぬと思っております。  しかし、一方において、最初申し上げましたように、最低限度の文化的な健康的な生活を営んでいくということに対しての責任もこれまたあるわけでございまして、そういう面も十分に考えていく必要は申し上げるまでもなくあるわけでございますので、現実面での運用については十分に温かい配慮で対応する必要があるわけでございまして、その点につきましては今までも指導しておる次第でございますけれども、今後とも十分に指導をしてまいらなければならない問題であるというふうに考えております。
  115. 糸久八重子

    糸久八重子君 終わります。
  116. 石本茂

    ○石本茂君 大変短い時間でございますので、簡単にお答えいただきたいと思います。  まず初めに、私はエイズの対策の問題の中で特に医療機関内の感染予防についてひとつお伺いしてみたいと思うわけでございます。    〔委員長退席、理事曽根田郁夫君着席〕  で、現在、我が国では、よその国もそうかもしれませんが、病人の人権を守ろうということでこの治療が非常に極秘の中に行われていると思うわけでございます。この場合、主治医はもちろん知っておりますけれども、どの範囲までの医療従事者にこれが知らされているのか。  と申しますのは、看護職の場合でございますと、治療の後片づけ、その場合一番心配するのは血液のついている注射針など、それから特に一番心配なのは手術などの場合の後の処置でございますが、法的には何の根拠もございません。しかし、厚生省当局ではいろんなものを発行されまして、これ昨日初めて見たわけですが、この「診療の手引」というものも出されておりますのでこれが行き渡っております医療機関では多少考慮されていると思うんですが、それもどこまでというふうに守られているか存じませんけれども一つの例で結構ですから、もし御存じになっておられます病院でこういうふうにしておりますというふうなことを教えていただければ大変安心できるわけでございます。私はエイズそのものは決して恐れておりません。
  117. 北川定謙

    政府委員北川定謙君) 先生指摘医療機関においてのエイズ感染防止、これは医師、看護婦その他の医療関係者全般に通じての問題でございますが、私どもも今先生がお示しをいただいたようなそういうパンフレットを、これは専門家先生方にお願いいたしてつくっていただいて、全国医療機関に配付をしておるところでございます。  ただいまもエイズの専門家の会議をちょっとやっておったわけでございますが、特に血友病の子供さんなんかの場合でエイズに感染しておる場合に、これを医療関係者にオープンにするかどうか非常に問題があるところのようでございます。しかし、B型肝炎の感染防止等についてはもうかなり医療機関の中ではいい習慣ができ上がっておるわけでございまして、エイズの場合にもそれに準じて対応するようにということで、エイズの関係の専門医師は必要な事項については院内できちんと説明をしておる、告知をしていない場合にもそれは当然感染する心配があるという前提でそういう血液あるいはそれのついた器具の扱い等についてもきちんと説明をしておるというようなことを先ほども何人かの専門家先生が申しておられました。  以上でございます。
  118. 石本茂

    ○石本茂君 どんなに説明がされましてもそれが周知徹底されませんことには、ある医療機関ではそういうことがわかって守っている、ある医療機関では余りよくわからなかったと。主治医自身がこれがエイズであるかどうかという判定も難しいんだろうと思うんですが、そういうばかげたことを杞憂するものですから、院内感染だけは絶対に防止してほしいという願いを込めましてお尋ねをさせていただきました。どうぞ、今後とも抜かりなくこのエイズ対策につきましては十二分の対策を講じていただきたいことをお願いしておきたいと思うんです。  で、次にお尋ねしたいと思いますのは、看護対策についてでございます。  現在、地域的な差もあろうと思うのですが、全国あちこちに参りますと看護婦が非常に不足しているということを訴えられるわけでございますが、実際どの程度不足しているのか、その大体の推定数がわかるものかわからないものか。それから、週休二日制も次第に現場の中に取り入れられつつある傾向も出てきております。こうしたことを考えますと、確かに不足しているかもしれないなということを考えるわけでございますが、その需給計画につきましてどのようなことが今考えられておりますのか。第二次の需給計画が終わりまして、もうそろそろ三年目になろうかとしているわけでございますので、このことが一つ。  それから二つ目には、過去に二年間にわたりましてこの看護制度に関しての検討会がなされたわけでございますが、その後のこの経過に対します結果といいますか、どういう対策をとろうとしておられるのかまたとっておられますのか、それをお伺いしたいんです。  それから三つ目でございますが、これはもう十数年間言い続けていることでございますが、局長さんがおかわりになりますたびにお願いしてきたことでもございますが、看護社会はおかしい社会でございまして男女の差別が物すごくございます。と申しますのは、同じ東大の衛生看護学科を出ましても、それからまた千葉その他にあります看護大学を出ましても、男子学生は卒業いたしまして看護婦の国家試験だけしか受けられない。女子学生は看護婦と保健婦の国家試験を受けることができます。あるいはまた、休暇中などに補備教育をいたしますと助産婦の国家試験も受けることができるということで非常に差別があるわけでございまして、これは男性側からもやかましくこの差別撤廃の問題が言われてきているわけでございます。こういうことが小さな一分野の問題ではございますけれども、男女差別撤廃といかにも女性が差別されているようなことが世間で言われておりますが、どうしたことか看護社会だけは男性が差別されているこの現状、三つの点につきまして御見解をお伺いしたいと思います。
  119. 仲村英一

    政府委員(仲村英一君) 看護婦不足の問題でございますが、確かに一部の地域で言われているということで御指摘を受けまして、私ども今若干の調査を行っておるところでございます。  一部の県では、養成した方が県内にとどまらずにほかの県に流出して就職しておられるという県もございますし、それを逆に受け入れている側もあるというふうなこと、それから不足といいましても、例えば北海道のように道内で札幌の方へ集中してしまうとかそういう形で、それ以外の地域が不足するとかいろいろな形での不足が言われているようでございまして、全体の需給計画からどういうふうに見定めたらいいかということでの聞き取り調査的なことでございますけれども調査をやっておりまして、そういう実態も把握したいと考えておりますが、細かく数字的にある県で何人不足というのは非常に出しにくい部分もございますので、具体的な数字というのは現在のところつかんでおらないわけでございます。  先生がおっしゃいましたように、第一次需給計画、第二次需給計画ということで六十年には計画目標を一応達成したということになっておりますが、ただいま御指摘の週休二日制の問題でございますとか在宅看護を今後どういうふうに見ていくか、それから老人保健施設の伸び方でございますとかあるいは入院率の変化でございますとかそういう形で、今後需要が非常に変わるのではないかということでございますし、六十年十二月に医療法を改正させていただいた後、地域医療計画を今三十県程度で策定されておりますが、その行く末も見守りたいということで現在までのところまだ第三次需給計画策定には至っておらないわけでございますけれども、私どもとしては、今後できるだけそのような地域計画でございますとかその他の要因を考えながら第三次の需給計画をつくっていったらいかがかということで内部的に作業を進めておるところでございます。  同時に、質の向上ということも非常に重要なわけでございますので、第二番目におっしゃいました昨年の四月にちょうだいいたしました看護制度検討会の御報告にもございますけれども、看護の資質の向上というのは非常に今後——今の現場で行われております医療に適合していない部分もあるのではないかということから、看護教育の改善でございますとか御指摘ございましたような専門看護婦の育成というふうなことでの内容についても今後検討会と申しますか委員会を設けまして、認定基準でございますとか指定基準でございますとかいろいろ見直し作業を今後進めたいということで考えておるところでございます。  三番目におっしゃいました保健婦資格の男子への拡大の問題でございますけれども、これも保健婦業務自体がかっての母子衛生、結核中心でありました保健婦活動と今後恐らくかなり大きな形で変容を来すであろうということもございますし、地域の保健需要をうまくオーガナイズしてくれる機能あるいはコーディネーターとしての機能というのが大いに期待されるわけでございますので、私どもとしても男子の保健婦がいても決しておかしいとは思わないわけでございますし、報告書にもそのように御指摘があるわけでございます。ただ、御指摘のように、看護教育の中で母性のところで若干カリキュラムを変えておったりいたす問題もございますのでそこら辺をそろえるということは必要だと考えておりますが、例えば大学系統でございますと、完全に資格がありながら保健婦の場合には女子に限るということでございまして受験資格がないというそういう不合理と申しますか、そういう点はあるわけでございます。  したがって、今後期待される保健婦の活動と申しますか機能と申しますかそういうようなものを見定めた上、あるいは訪問看護との関係でございますとか専門看護婦制度をどのように考えていくか、看護婦の専門化ということでは保健婦もそれに当たると言ってもおかしくないわけでございますし助産婦も同じようなことだと考えますので、そういう方向で現在、やはりこれも内部的ではございますけれども、これは法律を改正する必要がありますので、いかなる時期にどのような形で御指摘の男子への拡大を法律改正するかということを含めて、内容的には私どもも別に大きな問題はないと考えておりますので、そのような方向で進めてまいりたいと考えておるところでございます。
  120. 石本茂

    ○石本茂君 今、局長申されましたように、内容的には大した問題がないんじゃないかとおっしゃった、そのとおりだと思うんです。  男子だから助産婦の資格を云々というようなことも聞きますけれども、それは、受けたい者は国家試験を受けますし受けたくない者は受けない、何も強制的に全部受けなさいというものでもございませんから、全く平等にするべきである、一日も早くするべきであると私は十年も二十年も前から思ってきたわけでございますが、なかなか、局長さんおかわりのたびに申し上げますと、わかりました、やりますとおっしゃるけれども、さっぱりこれができませんで今日まで参りました。  このことにつきまして大臣どうお考えでございますか。私は物すごい差別だと、こんなばかげた教育があるものかと思うわけでございますが、御意見をお伺いして私の質問を終わります。
  121. 藤本孝雄

    国務大臣藤本孝雄君) 検討会の報告書の概要を拝見してみました。いろいろ御議論がございましたが、特に保健婦の資格の男子への対象拡大等に伴う保健婦助産婦看護婦法の見直し、私も石本先生の言われるとおりだと思うわけでございまして、これはぜひとも実現するように努力をしてみたいと考えております。  また、良質な看護婦さんを確保するということは、これはもう保健・医療行政を進めていく上で極めて重要な課題でございますので、先生の御意見を踏まえまして、また報告書の中身も十分念頭に入れまして今後とも推進してまいりたい、かように考えております。
  122. 石本茂

    ○石本茂君 実現いたしますようよろしくお願いいたします。  ありがとうございました。  終わります。
  123. 高木健太郎

    高木健太郎君 法案につきましては、先ほど社会党の浜本委員から大変詳しい御質問がございましたので時間があれば最後に一、二補足的に質問いたしたいと存じますが、まず最初に、一般質問としまして脳死と臓器移植について御質問したいと存じます。  既に、委員の皆様にはまた厚生省皆さんにはよく御存じのことと思いますが、最初に、脳死とはどういうものか、脳死と個体死につきまして二、三私の見解を申し述べつつ御質問をいたしたいと存じます。  まず、脳死というのは、現代の医療技術の進歩の結果生じてきた一つの特異な異常な状態でございまして、移植をするために脳死がつくり出されたというものではないということが私の考えであります。    〔理事曽根田郁夫君退席、委員長着席〕  第二番目は、臓器移植とは、決して理想的な医療技術ではなくて、臓器疾患の治療に努力をしたけれども医療が及ばなかった、そこで移植以外に救済の道がないようにしてしまった、これは医療の未熟の結果である、そのように考えております。  第三は、脳死というのは、脳外科医の懸命の努力にもかかわらず防ぎ得なかった結果として脳死という状態が生まれたのでありまして、脳外科医にとりましては敗北感を味わっている、そのような状態であろうと思います。  第四に、これは一般方々に誤解をされていることではないかと思うので申し上げるわけですが、脳死になれば、脳死になったすべての人から臓器を有無を言わさず摘出して移植に用いるというように考えられがちでございますが、そういうことではなくて、その人の何物にも拘束されない自由意思に従いまして臓器を提供するということでありまして、ドナーの、いわゆる臓器を提供する提供者の崇高な隣人愛の結果である、このように思います。強制されるものでは絶対にないということを一般方々によく周知徹底をさせたい、こう思います。  第五番目に、移植医は臓器提供者の意思を尊重して、かつ、多くの移植医は自分自身もドナーカードを有しておりまして、決してハゲタカのように人の臓器をねらっているものではない、こういうことも申し上げておかなければならないと思います。  以上が往々にして誤解されている向きがありますので、最初に申し上げるわけであります。  さて、脳死につきまして恐縮ながら若干説明をしておきたいと思います。  第一は、植物人間と脳死状態でございますが、これについて医者の中にもよく理解をしていない方があるわけでございますが、植物人間というのは自分で呼吸をしているそういう状態でありますが、脳死患者は自分では呼吸はしていない、これが一番大きな差異でございます。そうして、脳死状態では人工呼吸器によって呼吸が維持されている状態である。それゆえに、昔ならば息がとまって次いで心臓がとまり死んでいた者を人工呼吸器によって心臓を動かしている、こういう状態であるということでございます。  第二は、心臓には自分で動くといういわゆる自動性がありまして、心臓は取り出しましてもしばらくの間は自分で動いております。もし条件を整えてやれば長時間動くことができます。これは温血動物、牛とか犬とか、恐らく人間であってもそのようであろうと想像できるわけでございます。しかし、肺というものには自動性はございません。だから、肺を取り出しても肺は自分で動くことはできません。脳からのリズミカルな指令によりまして胸郭が動く、それによって肺が他動的に動いているものであります。ゆえに脳が死ねば呼吸はとまる、こういうのが呼吸でございまして、肺死という言葉がよく弁護士会なんかで使われておりますけれども、私は余りいい言葉ではないと思っております。  第三は、脳死患者は生きているように見えます。死んでいるようには見えません。それは胸が動いておりまして、脈が振れます。顔色もよくて体が温かである、そういうことが死んでいるとは思えないというそういう状態をつくり出していると思います。このような人から臓器を取り出すということは非常に人間にとっては抵抗のある状態であろうと思います。しかし、人工呼吸器をとめますと胸の動きは直ちにとまりまして、数分間で心臓もとまりまして、顔色は紫色になりまして次第に冷たくなっていきまして、いわゆる息を引き取った状態になります。  第四は、器官や細胞の種類によりまして酸素欠乏に耐える能力がそれぞれ違っております。神経細胞は最も弱くて、骨や皮膚は非常に強いです。それゆえに、心臓がとまると、環境、温度やその他の条件によって違いますけれども、脳細胞が真っ先に死にまして、腎や肝臓は一時間ぐらい、皮膚などは数日間にわたってそのままの状態で生き続けることができます。死というのはこのような過程でありまして、イベントではない、瞬間のことではなくて一つのプロセスであるということがよく言われますが、心臓または呼吸が不可逆的にとまりますと死の過程に入るということで、今まで心臓の停止あるいは呼吸の停止をもって死としたのでありまして、全身が死んだということではありません。引き返しのできない、折り返しのできない死の過程に入ってしまったその時点をもって死とした、こういうことでございます。  第五番目に、これも環境条件によっては違います。例えば非常に寒いというような場合は、呼吸がとまりましても、もしも脳の血流が保たれておりますと、数分または数十分以内であれば人工呼吸によりまして蘇生をするということはよく知られていることでありまして、氷の中あるいは水の中でおぼれたという場合に数時間の人工呼吸によってもとに返るということもたびたび聞くことでございます。しかし、それ以上の時間の経過または脳の血流が強く障害されている場合は、脳死の状態に陥りまして不可逆的な死の過程に入ります。しかし、心臓その他の体の細胞は人工呼吸をしておれば数日から一週間は生きております。この期間を生きているか死んでいるかと見ることが現在最もホットな問題となっている点でございます。  第六番目は、もしもこのような人工呼吸をしながら脳は死んでしまった状態、そういう状態を生きていると見るならば、今後も人工呼吸は永久にとめないであらゆる努力を続行すべきだと思います。今まで大阪大学でやられましたように五十日以上この状態を持続し得た報告もございます。  第七番目は、もしも死んでいるとそれを考えるならば、あらゆる操作は論理的には打ち切るべきでありましょう。この間の臓器移植は現在の臓器移植法と同様に取り扱われるべきであると考えます。しかし、状況によりあるいは心情的には割り切れぬ場合もあり、特に御家族の方にとりましては耐えがたいことであろうと思います。そこで、日本医師会の生命倫理懇もこの点をしんしゃくして幅を持たせて脳死の時点を決めているようでございまして、人工呼吸器を外す場合をいろいろと幅を持たせているのが現状でございます。  脳が完全に死んでいるのを死んだとすることには私は一般的にも余り問題がないように思います。脳がもし完全に死んでいるということが確認されるならば、普通一般の人もそれを死んだとすることに余り問題はないというふうに私は把握しております。しかし、最終的に最も問題になりますのは、脳が不可逆的に死んでいるというそういう判定は果たして正しいのか、厚生省でお出しになったそういう判定基準を満たしたものはすべて脳が完全に死んだ、そういうふうに考えてよいものかどうかに実は議論があるように思います。これは、専門家の間にもまた評論家の中にも今の厚生省基準では脳が死んだと判定するには不十分ではないかという疑問が出されておりまして、ここに一つ問題が潜んでいると私は思います。  もう一つは、これは刑法的あるいは民法上の問題でございますが、いわゆる死の定義が二つになる。一つは心臓死である、もう一つは脳死である。この二つになりますと民法上の問題としていろいろ困難が起こるのではないかというふうに言われておるのが、それが問題の二番目でございます。  そこで、まず第一にお聞きしたいことでございますが、日本医師会の生命倫理懇におきましても、厚生省が示されました現在の竹内脳死判定基準でございますが、それは脳死判定の最低基準である、そういうふうにこれだけで十分脳が死んだと言われるのかどうか、その点をまず最初にお聞きしたいと思います。
  124. 仲村英一

    政府委員(仲村英一君) 日本医師会の生命倫理懇談会で最終報告が出されておるわけでございますが、その中で、脳の死につきましては厚生省の、ただいまおっしゃいました竹内一夫先生が班長となられました研究班の判定基準、これを「必要最小限の基準として」認める、それからさらに「大学病院等の倫理委員会において基本的事項を定め、これによって疑義を残さないように、慎重かつ確実に判定を行うべきである。」という御意見になっておるわけでございまして「必要最小限の基準」というお言葉でございました。  私どもとしては、したがって必要条件は満たしておるというふうに考えておりますけれども、さらにその内容、手順等いろいろお決めいただいている部分もそれにのっとって判定していただくとかあるいは判定する方が十分な臨床経験をお持ちの二人以上とかそういうふうな、その他の条件と申しますかそういうものもあるわけでございますけれども、私どもとしてはこれが必要最小限でよろしいのではないかというふうに考えております。
  125. 高木健太郎

    高木健太郎君 事が死の問題にかかわっておりますので、必要であっても十分でなくてはいけないというふうに考える人が多いんではないかと思いますし、また最近出ましたウォーカーの「脳死」という本でも外国でもこの点は問題になっておると思いますので、十分ひとつこの点はお考えをいただきたいと思います。  また、各大学においてと言われましても、大学において死の判定基準が違ってくるということであると国民としては非常に不安であるだろうと思いますので、いまひとつ私はお考えをいただきたい、こう思います。  第二番目は、脳死とそれから心臓死という二つに分かれているということが非常にぐあいが悪いということはたびたび言われます、詳しいことは申し上げませんが。  それについて最近、この前の予算委員会でもお聞きしましたように、スウェーデンの法律がことし一月一日から施行になりました。その点について御説明をお願いします。
  126. 仲村英一

    政府委員(仲村英一君) 八八年の一月一日から、スウェーデンにおきまして「人の死の判定の基準についての法律」が施行されております。  これは、人間の死につきまして「脳の全体の機能が完全に不可逆的に失われたときに、」人間の死とするという脳の機能停止に着目した基準ということで、第一条に定められておるわけでございます。  第二条では、死の判定につきまして、ただいま申し上げたようなことで「脳の機能が完全に不可逆的に失われたことをしめすのに相当な時間のあいだ呼吸と循環とがとまったとき、」が死が到来したと判定する。  それからもう一つは、先ほどもちょっとおっしゃいましたように「呼吸と循環とが人工的な方法で維持されている場合には、死の到来は、それにかわって、脳の機能が完全に不可逆的にしめされたときに、判定される。」ということでございまして、このスウェーデンの法律について申し上げれば、脳の死の機能停止に着目して死を判定した、このように考えております。
  127. 高木健太郎

    高木健太郎君 私、スウェーデンの法律は一つにまとめたという点で将来非常に参考になるだろう、こう思いますので、ぜひこれもお考えの中に今後入れておいていただきたいと存じます。  以上が私の基本的な理念といたしまして、次に、幾つかのことについて御質問をいたします。  この前予算委員会でいろんなことをお聞きしました。後半私がお聞きするためのこれがバックグラウンド、背景になるものでございますので重ねてここでお聞きいたしますので、数値だけを簡単にひとつお答えいただきたいと思います。  まず最初は、脳死状態で移植を行っていない、いわゆる脳死を死としない、そういう国はどことどこですか。
  128. 仲村英一

    政府委員(仲村英一君) デンマーク、イスラエル、ポーランド等では脳死状態での臓器移植は認められていないというふうに承知しております。
  129. 高木健太郎

    高木健太郎君 世界の先進国の中で二つであるということです。アメリカは州では違いますが、アメリカ合衆国としては認めているということです。  第二は、脳死患者の一日の生命維持に要する費用はどれくらいかかるでしょうか。
  130. 仲村英一

    政府委員(仲村英一君) 鹿児島大学の澤田助教授の試算でございますけれども、脳死判定後一週間ICUにおいて心臓を動かし続けるというケースを想定いたしますと、一日当たりで約十五万円程度の費用ということで報告があるようでございます。
  131. 高木健太郎

    高木健太郎君 かなりの費用がかかるということでございまして、これを五十日生かすことも将来私可能だと思いますから、その費用は大変なことになるんじゃないかなと思います。  第三は、移植をすれば助かったと思われる年間の死亡者数はどれくらいでしょうか。
  132. 仲村英一

    政府委員(仲村英一君) 北海道大学の相沢教授その他の報告でございますけれども、剖検の統計から移植適用症例を推定いたしますと、心臓、肝臓、膵臓等を合計いたしまして、一万から二万八千ぐらいの死亡者がおられるのではないかと推定されております。
  133. 高木健太郎

    高木健太郎君 これは非常に大きな数字じゃないかと思うのでありまして、これだけの方を移植をしなかったために救えなかった、逆に言えばそういうことになるんじゃないかと思います。  第四番目は、現在腎臓の透析治療中の患者の数及びその中で腎の移植を希望している患者数はどれくらいでしょうか。
  134. 北川定謙

    政府委員北川定謙君) 昭和六十一年末現在で人工透析を受けている患者数は約七万四千人でございます。そのうち、移植希望登録をされている者の数は、これは昭和六十三年の一月末現在でございますけれども九千三百七十二名でございます。
  135. 高木健太郎

    高木健太郎君 一割以上の方が腎移植をしたいという方でございます。これが、日本では望みがかなえられないために海外に行って移植をされている方が大勢おるということは御存じのとおりでございますが、海外において移植を受けている移植の種類、それとその成功率はどんなでございましょうか。余りたくさんはあれですから、少なくとも心臓と肝臓と腎臓ということに限ってお伺いいたします。
  136. 仲村英一

    政府委員(仲村英一君) 外国での臓器移植の実施状況お尋ねだと思いますが、八六年までの臓器移植の累積でございますが、心臓が四千例、肝臓が三千例、膵臓が千例、心・肺、両方移植したのが百五十例くらいということでございます。  その手術成績でございますが、五年生存率で肝移植を見ますと、一九八〇年以前は二〇%でございましたが、最近は六〇%にまで向上しておる。それから心臓移植の五年生存率ですが、八〇年以前は四〇%でございましたが、最近では七五%というふうに非常に向上しておるというふうに承知しております。
  137. 高木健太郎

    高木健太郎君 今の数字は大変貴重だと思いますが、この五年の間、日本がやっていなかった間に外国では移植の実績が進みましてそしてその生存率が非常に上がったということで、これらの患者さんはそのままにおけばすべて一年以内に亡くなった方であるということを銘記すべきだと思います。  そこで、先ほどの質問に関連するんですが、海外に移植手術を受けに行った日本人の数とその手術の種類、肝臓と心臓と腎臓に限ってはいかがでしょうか。及び、その医療費はどのくらいになっていますか。
  138. 仲村英一

    政府委員(仲村英一君) 公式な統計は実はないわけでございまして、正確な数字は不明でございますけれども、いろいろの報道等を総合いたしますと、アメリカで心臓移植を受けた方が一人、肝臓移植は約十人、英国において肝臓移植三例というふうに聞いておりまして、その費用は、自費または募金と申しますかそういう形で、善意のドネーションで渡航されて手術を受けるということで、滞在費等を含めまして数千万のオーダーで費用がかかるというふうに理解しております。
  139. 高木健太郎

    高木健太郎君 日本で受けられないということで海外に行かれる方が、子供さん、大人を含めて、非常に多くの方が行っておられる。今腎臓の報告はございませんでしたけれども、腎臓を今でもアメリカにあるいはその他の国へ受けに行かれる方が多い。あるいはまた、八五年ぐらいまではアメリカから毎年五十個ぐらいの腎臓をもらっていたということでございまして、最近ではまた腎臓の手術等に台湾あるいはフィリピン、タイ等に行っても手術をしているということを聞いております。そしてその移植を受けて、一例しか知りませんけれども、アメリカで腎臓移植を受けた方がエイズがプラスになった、そういうことも聞いておりまして、この点も私は非常に注目すべきことである、こう思います。  アメリカでは八五年までは死体腎を日本に供与しておりましたけれども、最近米国においては外国人の移植手術を制限するという傾向が見えてまいりまして、腎臓では一〇%ぐらい、その他の臓器については一切外国人の移植手術を断るという報告がございます。また、ある個人からアメリカに頼んだ人に対する返事としましてボストンのバカンチー助教授から、日本でもぜひ自分の国でおやりなさいという手紙が来ているわけでございまして、私は、これは大変に恥ずかしいことであるというふうに思っておるわけでございます。  このように日本において移植手術が受けにくいということからいろいろな弊害が現在起こっておりまして、今のように、外国からの批判とは言いませんけれども、勧告がありますし、あるいは自分の腎臓を一億円で売りますということもございます。またフィリピンの方では売買が行われているんじゃないかと思います。あるいはエイズとかウイルス肝炎の感染も心配されるわけでございます。  一方では、このような状況になりまして移植の技術は日本でもかなり進んでおります。そういう移植をできる状況にございますし、患者は受けたいというそういう状況にあるのに、脳死というものが死と認められないということのために非常に混乱を来している。また一方では、脳死を死と認めないのにこれをやったということで告発もされていることは皆さんよく御存じのとおりでございまして、全般を見まして非常に混乱した状態にあるということは認めなければならないんじゃないかと思うわけでございます。  そこで、日本においては、主として移植は生体からの賢移植、例えば母親が子供にやるというような腎移植が行われておりますが、一方では脳死の状態で腎移植が行われているということでございますが、その点の数値はおわかりでしょうか。
  140. 北川定謙

    政府委員北川定謙君) 日本移植学会によりますと、我が国における生体腎移植は年間約四百件というような数字が示されております。  ただ、脳死腎移植については承知をしておりません。
  141. 高木健太郎

    高木健太郎君 これは雑誌「移植」に載った統計でございますが、死体腎摘出の経験施設が全体で四十三例ございますが、心臓死のみというのが二十一例、それからベンチレーター、人工呼吸器を外してから直ちにというのが六例、ベンチレーターをつけたままというのが十六例ございまして、ベンチレーターをつけたままというのは実は脳死の状態で行われたということを示していると思います。  これについて法律では、御存じのように角膜及び腎臓の移植に関する法律という法律がございますが、その中では、死体から角膜及び腎臓を摘出して、これを移植することができるということが書いてございます。  生体の腎移植及び脳死状態における腎移植について行われているという事実をどのようにとらえておられますか。
  142. 北川定謙

    政府委員北川定謙君) 角膜及び腎臓の移植に関する法律によりまして、医師が腎移植のために死体から腎臓の摘出をしようとする場合には、原則としてあらかじめ遺族の書面による承諾がなければならないわけでありますが、死亡した人が生存中に腎臓の摘出につきまして書面による承諾をしており、また医師がその旨を遺族に告知をいたしまして遺族がその摘出を拒まないときにはその必要はないとされておるわけであります。  このように、現行法は本人の生前の意思とそれから遺族の意思との調和を図っていくということでございまして、現在はそういう考え方を基本に物事を考えておるというところでございます。
  143. 高木健太郎

    高木健太郎君 もちろん死体から取る場合も今のように本人の生前の意思あるいは親族の承諾ということを前提にしておられるわけですが、私がお聞きするのは、日本において、生体から、母親なら母親から腎臓を取るというのは法律にはないわけなんですね。それはどういうふうにお考えか。それから、脳死状態において移植が行われているというそういう事実は法に照らしてどのようにお考えか。  もしも法務省の方からお答えがありましたらお答えいただいても結構でございますが、そういう法にないものをやるというのは違法なのか、あるいは告発しなければそれは違法にならないのか。それで、もしもそういう法にないことをやっても構わないということであればその法は空文になるんじゃないか、そういうふうな気がするわけですけれども、法務省あるいは厚生省からお答えをいただければ結構です。
  144. 北川定謙

    政府委員北川定謙君) 母親が子供のために自分の臓器を提供する、これは親子の愛情ということに根差した意思をベースにして行われる医療でございますので、それ自体を拒むというものではないというふうに考えます。  また、脳死の状態から実行上臓器の摘出が行われておるということにつきましては、個々の医療の場で医師がその関係の患者さんを死と認識をした上で摘出されておる、こういうふうに理解をしておるところでございます。
  145. 高木健太郎

    高木健太郎君 そこら辺がどうも——。  例えば、母親が子供にやるのは子供への愛情のためにやるということでございますけれども、実際は医師としましては母親の健全な体にメスを加えてそこから腎臓を取り出すということになるわけです。腎臓は二つで六倍の能力を持っているといわれますから一個を取りましてもそれは生死にはかかわりはありませんけれども、しかしその母親はマラソンはできなくなるんじゃないかというふうに思うわけですから、いわゆる能力としては落ちるわけでして、決して母親は傷をつけられたために元気になるということは私はないだろうと思うわけですね。そういうことになれば、非常に厳しく言いますと、私は傷害罪になるんじゃないかというふうに思うわけですね。それは目をつぶっている。  もしよしやそうしますと、今度はほかの人が血液型が合った、いわゆる組織適合の人が、私の腎臓は上げますといった場合も構いませんか。
  146. 北川定謙

    政府委員北川定謙君) 大変難しい御質問ではございますけれども、当事者の間で慎重な判断の上で合意が成り立っておるとすれば現段階で行政が介入するところではないというふうに考えております。
  147. 高木健太郎

    高木健太郎君 そのときに幾らか報酬をもらうということはどうですか。
  148. 北川定謙

    政府委員北川定謙君) 現在の社会的な通念の上で臓器または血液を提供することによって報酬をもらうということは認められていませんので、それは好ましいことではないというふうに考えます。
  149. 高木健太郎

    高木健太郎君 確かに好ましいことでないと私は思いますけれども、そういうことが起こらないようにするという法律は、それを禁止するという法律はありませんで慣習的なものでございますから、もしもそうであるなら、前にもよく新聞にも載ったりテレビにもありましたし、あるいはまた、最近私の方に、私の腎臓を一億円で売りますというようなはがきが来ているわけですね。そういうことが起こってくる可能性があるし、またそれじゃ腎臓をただでやるなら構わないということであるかどうか、そこらはきっちりしておく必要があるのではないかなと私は思うわけです。これが一つです。  先ほども一つ申し上げたのは、ベンチレーターをつけたままいわゆる脳死の状態で腎臓を取ってそれを移植した、それは家族の御同意を得られたんだと思います。それならば、それは死と医者が認めて、家族も認めて、いいということであるなら事実上はもう行われているということでありまして、今さら死体からというようなことに、死体の中に脳死を含めてもいいのじゃないですか。
  150. 仲村英一

    政府委員(仲村英一君) その死体の定義自体がまたこれ法律に定義がないわけでございますので、個々のケースによって非常に違うのではないかと思います。  例えば、正当な医療行為、正当業務行為と認められれば、刑法に言います傷害罪等の違法性は阻却される可能性があるという一方の事実もあるわけでございまして、その際に家族にお医者さんがどういう説明をされるか、そういう個々の内容について私どもがそれをいい悪いというふうに言うのは非常に難しい立場にあるわけでございますけれども、死の判定も法律にございませんし死体というものの定義もないということで、そこのところがややお尋ねの点で堂々めぐり的な部分もあろうかと思いますけれども、行政当局としてその個別の行為のよしあしを判定するというのは非常に難しいというふうに私ども考えておるわけでございます。
  151. 高木健太郎

    高木健太郎君 それであるなら、医師とその家族の同意の上で、いわゆる脳死の状態で腎臓移植をしたということが暗黙裏にというよりも医師と家族の意思によって行われるということであるなら、私は、腎臓だけではなくって、肝臓でも心臓でもいいと思いますが、そういう状況であるならもう肝臓も心臓もやってよろしゅうございますか。
  152. 仲村英一

    政府委員(仲村英一君) 個別の医療行為自体を、行政当局がある手術を許可するとか、そういう立場にないわけでございますので、その限りにおきまして私どもがそれのよしあしを判定するというのは行政側としては非常にできにくいというふうに考えております。
  153. 高木健太郎

    高木健太郎君 行政側としてはそういうお考えかと思いますが、法務省としてはこういうことはどういうふうに取り扱われるわけでしょうか。法務省来ておられますか。
  154. 東條伸一郎

    説明員東條伸一郎君) 脳死をめぐりましてはいろいろ難しい問題があるということは私どもも認識いたしておりまして、先生承知のように、現に脳死を前提とする刑事告訴事件を検察当局でも捜査をいたしておりますので、個別的な事件についてどう判断すべきかということについてはお答えは差し控えたいわけでございますが、今までの先生お尋ねを私なりに整理いたしてみますと、まず、生きている人から生きている人への臓器の移植、これは、先生指摘のように、臓器を取られる人の側から見ますと一応刑法の傷害罪の問題が生ずるわけでございます。  ただ、傷害罪が、外形的に傷害行為がございましても常に刑法の傷害罪に当たるかと申しますと必ずしもそうではないわけでございまして、その行為が先ほど来厚生省の方からもお答えがございますように正当な治療目的のために行われたものであるということ、それから当該臓器の摘出というものが摘出をされる人の身体、生命に与える影響の度合い、それからもちろんその間の真摯な同意の有無等々いろいろな事情を考慮いたしまして正当行為の一つであります治療行為に当たる、治療行為の一環として摘出されたものであるということになれば違法性を阻却するであろう、こういう考え方で刑事事件が起こった場合は恐らく実務家は判断していくのであろうと、私どもこのように考えております。  次に、脳死状態になった後摘出した場合はどうだという御質問だと思いますが、これは、先生先ほど来問題を提起しておられますように、脳死が個体死としてまず認められるのかどうか、仮に認められた場合に一体どういう判定といいますか、どういう兆候といいますか、どういう条件を満たしたときに脳死と言えるのだろうか、こういう医学上の問題が第一にあろうかと思います。この点について私はもとより素人でございますのでとやかく意見を申し上げる筋合いのことではなくて、医学の専門家の間で決定していただけることであろうと思っております。  ただ、私ども法律家の立場から申し上げますと、個体死というものが直ちに社会的な意味あるいは法的な意味での人間の死だというふうに言えるのかどうか。特に刑法の分野では、御承知のように、従来はいわゆる三兆候による死というものを死の判定基準としてとってまいったわけで、そのとってまいった背景には恐らく国民の間にそのような状態が生ずればこれは死んだと言ってもよいという暗黙の合意といいますか、そういうものがあったのであろうと。  ところが、脳死の状態というのは、先ほど来御説明のございましたように、まだ外形的にはそういう状況が出てきていない事態でございますので、その段階で臓器を摘出するという行為は、場合によってはその臓器の摘出の結果、これを生きているとしますと、その結果死んでしまうということになりますと殺人なり傷害致死罪という問題になってくるわけでございまして、それを正当化するのが例えば関係者の同意だけで果たしていいのかどうか、それともそのほかにどのような要件があればそれが一つの治療行為の一環のものないしそれ以外の正当化要素として評価できるのか、ここは私どもも非常に重大な問題として今勉強しているというのが実は正直なところでございます。  ただ、脳死を個体死である、それでもう社会的にも脳死というものが死であると承認されたという前提に立ちますと、これは刑法的な立場で申し上げますと、あとは死体の損壊に当たるかどうかという問題になってこようかと思います。死体損壊罪の成否ということになりますと、これは、死体損壊罪の保護法益というのは死者に対する礼節といいますか、社会的に見て死者に対する礼節観というものを害されたかどうかというところで非常に漠然とした一種の風俗的な感じが保護法益になっておるものですから、遺族——遺族がといいますか周りの人が承諾したとかあるいは本人が承諾したとかあるいは両者とも承諾しているとか、いろいろな要件に従ってそれを社会的にどう見ていくのかなという、これ、また申しわけない話ですが、必ずしも一義的に決められない問題があるように思います。  ただ、現在の、少なくとも既存の法律を見ますと、死者とそれから遺族との意思が合致している場合、あるいは献体法のように死者の意思が遺族の明示の意思に反しないような場合、これについては既に法律で合法であるという理解をしておるわけですから、その限りでそういう場合には恐らく死体損壊罪にも当たらないだろうと、このように考えております。
  155. 高木健太郎

    高木健太郎君 今の東條さんからのお答え、いろんなものを含んでおりまして一々覚えておれなかったので、私からの質問がうまくいくかどうかわかりませんが。  一つは、死体損壊罪ということですが、一番最後お話しになりましたように、献体法というものもありますしあるいは病理解剖もございます。そういう場合には、これは研究とかそういうものによって本人の意思を尊重してそれは死体損壊罪にはならないと。それはいわゆる医学、歯学の教育の促進のためにということで許されているわけですね。特にこの場合は、自分の母親が子供にやる、それは愛情のためあるいは医療行為でやる、それなら母親の体に傷をつけても傷害罪にならない。だから、死体からあるいは脳死の状態からでも、それが医療のために正当に使われるということであれば、法律はまだないかもしれませんけれども、当然それは許されていいものではないかと私は思うのです。また、東條さんもそういうふうにお考えになっているのじゃないかと思います。  もう一つは、医療のためにということなんですけれども、私は、先ほどから言いますように、母親にとってはこれは医療ではないわけなんですね。それを医療のためにというふうに広げてしまうと、私は、どなたからでも取るということになってしまうんじゃないかと思うんです。そうするとそれのために謝礼も上げたい、報酬も上げたいということになるから、これは本当は禁止すべきじゃないか。  外国ではそういうことはほとんど行われていないと。死体になった、自分は死んだ、だから自分の体が何かお役に立つならば立ててくださいという、ちょうど献体とか病理解剖とかそういうものと同じ思想で西洋では行われているのじゃないかと私は思うのです。そちらの方がはるかにいいことじゃないかと思うのですね。  腎臓一つ取って別に支障はありませんからといって、健康に全然支障がないということは私は言えないと思うのですね。だから、もちろん検査をしておやりになるんでしょうから、支障はないとしてお取りになるんですけれども、では要らぬものは何でも取っていいということになるわけですが、そうはいかない。生体というものはある程度余裕を持って臓器は備えられておるわけですから、それをなくするということは余りいいことではない。それよりも脳死の状態で取る方がはるかに私は許されることじゃないかなと、こう思うわけです。  そこで、先ほどから何回も出ましたように、一つは、本人の遺志あるいは生前の意思及び親族の承諾、そういうことが言われておりますけれども、そういうことがあれば何も国民の全体の合意を得なくても、腎臓ではもう既に行われていることでございますから、その場合に脳死の状態で医師と患者の間で十分な、あるいは医師の判断の仕方がそれが間違いない、普通の医師の常識に従って間違いがないという場合には、これは違法性が阻却されるのではないか。  東條さんもそういうふうにちょっとおっしゃいましたけれども、国民の合意を得るまでは一切さわってはいけない、やったらば全部違法であると。私は、そうではなくて、それは好まない人にやればこれはいけないでしょうけれども、本人が自分の体はぜひ世の中のお役に立てたいというそういう崇高な一つの精神がある、医者はまたこの人を助けたい、その臓器がなければ救えない、そういう状態のところで医師も十分な検査のもとに脳死を判定した、そして親族がそれを承諾したという場合、これをやって悪いでしょうか。  そういうことを東條さんにもお聞きしたいし、あるいは仲村さんにも個人的な意見——きのう言われましたけれども、個人的な意見は私たちは言えませんとおっしゃいますけれども、あなた個人はどうなんですか、自分がそうだと。これは、死というのは全部の問題ではあるんですね。平均的に全部の問題ではありますけれども、死というのは自分のものでもあるわけですね。だから、あなたの個人でそういう死というものが来た場合に、あなたならばどうされますか。それを罪だと思われますか、どうですか。ひとつそういうことをお聞きしたいのです。
  156. 仲村英一

    政府委員(仲村英一君) 私の臓器が使えるかどうか、そちらの方が問題かもしれませんが、今おっしゃいましたような条件を十分踏まえて行われるとすれば、それは、私、行政当局ということでなければ、臓器を提供することはそういう状態でもやぶさかではないというふうに私は考えますが、個々に、何のたれべえがこういう状態になったからこれはよろしいというふうに判定するのは、私どもの行政サイドとしては無理だというふうなお答えになろうかと思います。
  157. 高木健太郎

    高木健太郎君 東條さんも同じようなお答えだと私は思いますし、厚生大臣には別にお聞きしませんけれども大体そういうふうにお考えいただけるんじゃないか。  死というものは自分のものであるから、自分自身が承諾をすれば、そして信頼のある医師がこれは明らかに脳死でもう生き返ることは絶対にありません、そういう場合は私の心臓でも肝臓でもお使いくださいと言った場合に、それを医師が正当な目的のために、治療の目的のために使ったということは私は違法性が阻却できる、こう思うんですけれども、東條さん、それはどうでしょうか。
  158. 東條伸一郎

    説明員東條伸一郎君) まことに頭のかたいようなことを申し上げて恐縮でございますが、私の個人的な考え方はともかくといたしまして、私どもとしては、いわゆる脳死というものが個体死であると同時に社会的な意味で死であるということが今言えるのかどうかということ、これが言えれば問題は解決するだろう、そう言えませんとこれは生きている、私ども立場では生きている人だと扱わざるを得ない。生きている人が本人がいかなる意思、意図を持っていても自分自身の生命は処分できないというのが刑法の立場で、仮に同意でありましても同意殺という犯罪が別個、殺人罪よりは軽い犯罪ではありますけれども存在するということもこれまた刑法典上明らかな事実でございます。  そこで、くどいようでございますけれども、脳死というものが少なくともいろいろな例えば認定手続を慎重にするとかいう形でそれを死と扱ってもいいのだということが言えれば、あとは死体損壊罪の問題になりますので、これはもちろん違法性阻却は十分になり得るだろう、このように思っております。
  159. 高木健太郎

    高木健太郎君 私は個人的な問題を聞いているんで、それをやると今度は国民の合意を得なければいけない、今までの慣習上の三兆候ではいけないんだから、三兆候で変わっていくんだからそれは合意を得なければいけない。そこで、合意というのは何でしょうかと。  これは文芸春秋にも加藤一郎元東大学長が書いておられましたからお読みになったと思いますけれども、合意というのは果たして得られるでしょうか。いわゆる総理府なら総理府が調べて同%あれば合意とお考えでしょうか。あるいは国会でこの議員の中の過半数が賛成した場合はいいんでしょうか。スウェーデンでは過半数で決めているわけですね。これ、全体の人が同じ考えを持つということは、絶対に私はあり得ないことである。それは加藤一郎さんも蜃気楼だと書いているわけです。だから、そういうことを待っては百年河清を待つというふうに私は思います。  これは、前の今井厚生大臣それから林厚生大臣、すべてそういうふうに私にお答えになりました。国民的合意がなければだめ、それがはやったと言うとおかしいですけれども、それが一般の風潮になりまして、一言言うと合意、合意、合意とくるわけですよ。税制でも私は合意を一〇〇%とることはできないと思うんですね。まして死の問題ですからしてそんなことで押しつけられちゃかなわないというので、私は私は反対だというようなことは幾らでも言えるわけです。  それから、最初に申し上げたように、全体を脳死として死とするんじゃありませんよ、人工呼吸をして心臓がとまるまでやってくださいという場合やるんですよ、本人がいいと言った場合にやるんですよということを私は申し上げているわけです。だから、幾ら合意を得られたとしても、中には反対の人もあるわけですから、そういう人には絶対にそういうふうにしません、本人がオーケーを出した、医者が完全な判定基準に従ってやった、そういう場合にはいいじゃありませんか、いつまで合意を待つんですかと、そういうことを私はお聞きしているわけです。  厚生省なりあるいは総務庁おいでになるかどうか知りませんけれども、その合意のとり方というのは、具体的には本当にどうなさるおつもりですか。スウェーデンのように例えばシンポジウムを開かれるんでしょうか、あるいは公聴会を各地において開かれるおつもりですか、そんなことをして決まるものでしょうか、これが。その点をぜひきょうは詰めておきたいと思うんです。  合意は具体的にいかにしておとりになるつもりですか、それはいつごろまでに合意をおとりになるつもりですか、それをお聞きしたいと思います。
  160. 仲村英一

    政府委員(仲村英一君) おっしゃるように、世論調査をやって何%以上になればこれは合意だというふうなラインはないわけでございまして、これは加藤先生に限らず、元の総長の平野先生もおっしゃっておられるようでございます。それから、日本医師会の生命倫理懇談会の委員の中にも、本人も家族も承諾しておるのをほかの方がとやかく言うことはないではないかという御意見もあったというふうに伺っております。  したがって、今高木先生がおっしゃったようなことは非常に推進をなさる立場から申されるわけでございまして、それ自体を否定するものではないわけでございますが、例えば、先ほど法務省からもお話ございましたように、判定の手続とか、極端に言いますと、医療の密室性と申しますかそういうものが過去にあったということもまだ払拭し切れない国民の素朴な感情の中にあるということもやっぱり私どもとしては忘れ去ることはできないわけでございますし、冒頭先生がおっしゃいましたように、脈も振れるし胸も動いておって顔色もいい患者さんがという素朴な感情も一方にあるということで、そこで私どもとしては、手続的な問題あるいは先ほどの脳死の判定基準につきましてもさらに厳しくすべきだという一部の医学界の御意見もあるようでございますので、そういう点から考えますれば、やはり慎重に議論をしていただいて国民の理解と納得をいただくまでいろいろこのような形での議論も十分行われるべきだと考えておりますけれども、そのような立場をとっておるわけでございます。  立法府の方でいろいろ御勉強されておるという動きもあるわけでございまして、そういう動きもやはり同時ににらみ合わせながら私どもとしては考えるべきではないかと、このような立場でおるわけでございます。
  161. 高木健太郎

    高木健太郎君 行政府としてはそういうふうにお答えになる以外にないと私は初めから思っておりました。  しかし、私が申し上げたいのは、死は全部の問題でもあるけれども個々の問題でもあるということですね。  それから、合意が得られないと言うけれども、私が先ほど申し上げましたように、例えば東大とかあるいは弁護士会とかあるいは立花さんのような評論家が一番問題にしているのは、脳死が死であるということは否定していないんですね。脳が完全に死んでおるなら死であっていいと、こう言っているんです。だから、結局判定基準に問題があるということになるんですね。しかし、判定基準はどこまでこれを広げても完全ということはない。そういうことになって問題がまた迷路に入ってしまうんじゃないかと私は思います。これはお互いによく議論をしまして、そして国会内あるいは政府部内だけでもひとつ統一見解を出しておいていただくということが大事である。  もう一方においては、脳死の状態で腎臓移植が行われている、あるいはよその国の脳死の状態の腎臓をもらって自分のところで植えている、あるいはよその国に脳死の状態で腎臓を植えに行く、そういうことは許しておきながら自分の国ではそれは法律では許さない、こういうことは全然矛盾していると思うんですね。これは一種の対外摩擦の一つになるんじゃないか、私はこういうふうにも考えるわけですね。  そこで、時間もなくなりましたので最後に、せっかく文部省の方もおいでになっておりますので、一言だけお聞きして終わりたいと思います。  これは何回も文教委員会でも申し上げましたけれども、今言われているのは、新聞なんかで聞きますのは、各大学に倫理委員会というのがありまして、そこでもしゴーサインを出せば申請を出しているからやっちゃうんじゃないかと、こういうことを言われているわけです。ところが、各倫理委員会はそれぞれの違った意見を持っておりまして、そこでゴーサインを出すとやる、そうすると訴える、告発する、そういうふうになるだろうと思うんです。  これは、なってからまたお考えになるということでございますかもしれませんけれども、私は、文部省としましても各大学のこの倫理委員会をまとめて、あるいは倫理委員会だけじゃなくていろいろのそういうものをまとめた情報研究研究班なりあるいはセンターなりそういうものをおつくりになって、全体でそこでよく相談し合うあるいは情報を収集してディスカスをする、何かそういう場をつくられたらどうですか、こういうふうに思うんですが、それについては文部省いかがお考えですか。
  162. 佐藤國雄

    説明員(佐藤國雄君) ただいまの先生の御指摘の問題でございますけれども、現在、幾つかの大学で御承知のように脳死の問題と臓器移植について倫理委員会に諮られている最中でございまして、検討をされているわけでございますけれども、私ども承知している限りでは、この問題に取り組んでおります大学においては、諸外国の状況などを含めまして種々の情報を外国の大学等への研究者の派遣や国際学会への参加あるいは外国の学術雑誌等の文献などを通じて幅広く収集し、研究を進めているというようなことかと思っております。  したがいまして、この問題につきましてさらに情報を収集し、あるいは情報の提供のあり方について、先生お話がありましたので、関係者意見も聞いてみて勉強してまいりたい、こういうふうに考えております。
  163. 高木健太郎

    高木健太郎君 もう時間が来ましたので、法案の方の質問は私いたしません。  ありがとうございました。     ─────────────
  164. 関口恵造

    委員長関口恵造君) この際、委員異動について御報告いたします。  本日、上田耕一郎君が委員辞任され、その補欠として吉川春子君が選任されました。     ─────────────
  165. 沓脱タケ子

    ○沓脱タケ子君 それでは、私は社会福祉・医療事業団法の一部を改正する法律案についてまず御質問を申し上げます。  本改正案というのは社会福祉医療事業団の融資対象に株式会社を加えるという大変簡単なものでございます。  この改正に基づく概要を簡単にまずお話しくださいませんか。
  166. 小林功典

    政府委員(小林功典君) 主要な点は二点ございまして、第一点は、社会福祉医療事業団が社会福祉事業施設、例えば有料老人ホームのようなものでありますが、の設置等に必要な資金を貸し付ける対象者として社会福祉法人のほかに政令で定める者、これが株式会社等でございます、を加えること、これが第一点。  第二点は、社会福祉医療事業団が在宅介護サービス、これは入浴とかホームヘルプ事業でございますが、そういう事業を行う者に対し必要な資金を貸し付けることとすること、この二点でございます。
  167. 沓脱タケ子

    ○沓脱タケ子君 この法案改正そのものは大変簡単なものなんですね。  ところで、この改正の本質というのか背景というのは大変重大な内容を持つと思うわけでございます。簡単に言いまして、大臣、この改正案の考え方、これは、要は老人福祉の分野にいわゆる民間活力の適用あるいは育成、普及、これをやろうということなんですね、基本的には。そういうことになってまいりますと、自立自助、つまり自分のことを、自分の健康、自分の生活、自分の老後は自分で守れというのが自立自助ですよね。その自立自助の論と民間活力論というのがセットになりますとこれは大変なことになるんじゃないかな、すべて金次第ということになってしまわないか。こういう考え方福祉の分野で普遍化するということになりますと、憲法二十五条の理念あるいは老人福祉法第二条のこういった理念と大きく矛盾をしてくるんではなかろうか、この点を大変心配するわけでございます。  といいますのは、とりわけ憲法二十五条の後段では「国は、すべての生活部面について、社会福祉社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない。」という、これはもう非常にはっきりとした理念でございますし、老人福祉法第二条では「老人は、多年にわたり社会の進展に寄与してきた者として敬愛され、かつ、健全で安らかな生活を保障される」と。これが特に老人福祉の中においては極めて大事な基本理念だと思うわけですね。その基本理念とさっき申し上げた自立自助の論と民間活力論ということがセットで、いわば全部すべて金次第というふうなことになるという事態とは理念上大変矛盾してくるのではなかろうかと思うのですが、大臣、この点はいかがでしょう。
  168. 藤本孝雄

    国務大臣藤本孝雄君) 社会福祉に対する一般的な考え方、これは私は三つの要素から成っておると思うんですが、一つは、本人の自立自助、それからもう一つは、職域並びに社会での相互扶助、それから三番目は、——これは一、二、三で一番が一番大事だという意味じゃございません。順番はございませんが、三番目は、国、地方の公的なサービス。この三つが相互に機能を発揮し補完し合いながら社会福祉というものは充実、前進していくというふうに考えられると思うわけでございます。  これはまあ一般的な物の考え方でございますが、今御指摘の問題につきましては、老人福祉、国がもちろん中心になってこれからも充実さしていかなきゃならぬ。この国がやるべきサービス民間サービスに代替させるということでありますと御指摘のような問題になってくるわけでございまして、一番そこのところが一つ心配といいますか問題点。それからもう一つは、御指摘もございましたけれども、それじゃお金のある人は民間サービスでお金のない人は国のサービスと、こういうふうに分けられるんじゃないかと。これもそうあってはならないわけでございまして、この二つの点はそういうことにならない、しない。  つまりは老人福祉に対する国のサービスはこれからも拡大していきます、充実さしていきますと。しかし、これからの本格的な高齢化社会でお年寄りもふえる、それから社会経済状況も変わる、物の考え方も変わる、価値観も変わる、福祉に対するニードも非常に多様化してくる、そういう中でもう少し回数をふやすとか、もう少しこういうサービスがあるんであれば自分はそれをさらに上乗せしてサービスを受けたい、こういうニードに対しては民間活力というもの、民間サービスというもので対応してもいいのではないか、そういう考え方でございまして、国のサービスが中心、民間サービスはそれを補完する、こういう考え方でございますので、御指摘のような心配があってはならない、私どももそういうふうに考えております。
  169. 沓脱タケ子

    ○沓脱タケ子君 私は、大臣がおっしゃった厚生省の善意といいますか、そういう善意な御理解は当然だと思うんですが、そういう厚生省の善意というものとは別に、やはり株式会社にどんと仕事を任していくというふうになってまいりますると、いわゆる民活論ということになれば、当然のこととして財界・大資本の論理になってくると思うので、これは財界・大企業の論理になりますと、厚生省の善意とは別にひとり歩きをしていくという心配が当然出てくると思うわけです。  そういった点の心配があるので若干意見を申し上げておきたいと思うんですが、昭和五十七年一月十三日ですが、当時日経連の大槻文平会長が、これは日経連の労働問題研究委員会の報告ですね、「先進国病に陥らないために」という内容にこんなふうに書いてある。これは全部読んだら大変ですから部分だけ読みますが、「行政改革のねらいは政府の介入を極力排して、民間の活力を最大限に発揮させることにあるのであり、」、「国民の側に対しても、「お上に頼る」意識の払拭を強調せねばならない。」と、こういうふうに述べておられるんですが、非常にこれはっきりしているんですね。財界・大企業にはやれるようにどんどんやりたいようにやらしていけと。片方、国民にはお上に頼るというそんな考えを払拭させて、いわゆる自立自助の思想、そしてこれを本質にして民間活力でやっていくべきだというふうに、これは日経連ですから当然そういうふうに述べておられる。しかし、この言葉というのは日経連の会長の言葉ですから当然だとは思いますけれども、これがいわゆる大資本あるいは大企業のエゴの論理だと思うんですね。で、こういう考え方社会福祉の分野に入ってこられたら、これは憲法二十五条あるいは老人福祉法第二条の基本理念とは相入れないことになりそうだということを大変心配をいたします。  で、お聞きをしていったらいいんですが、時間の関係がありますから少しはしょりますけれども、私、心配をしておりますのは、いわゆる民活論あるいは民活路線というのは、今日では国民生活の上で見ますと既に破綻が見えてきている。これは非常にはっきりしているのは、地価狂乱の問題ですね。地価の暴騰というのは、これはもう御案内のように、新宿西戸山公務員宿舎跡地を払い下げるなどという問題を契機にいたしまして、いわゆる土地問題についての民活論が踏み出されたんですが、その後、国鉄の土地を売り払いあるいは容積率の緩和をやり、そして銀行の無制限な融資がやられるというふうなことで、今日の地価暴騰というのは大都市部、特に東京では二十三区内で働く人たちの住宅の購入なんというのは手の届かない事態にまでなってきておるわけです。その結果、地上げ屋の横行が起こるあるいは相続税や固定資産税にどうしたらいいのかというふうな問題まで起きておりまして、私は、民活論の罪悪というんですか矛盾というのは土地問題では非常に早く出てきておると思うんです。こういう状況というのは中曽根内閣の時代に推進をしてきたものが大きく作用したわけですけれども、こういう国民いじめの民活論というやり方がもし老人福祉の問題に依存しようということになったら大変だ、今回の法律改正考え方というのはそこへすとんと落ちるという心配がないのかという点ですよ。そういう点で禍根を残してはならないというふうに私は思うんです。  その点をひとつ根本的に再検討をしてもらいたいなということを、私ども大変心配をするわけでございますが、この点については大臣の御見解を伺っておきたいと思います。
  170. 藤本孝雄

    国務大臣藤本孝雄君) 民間活力を導入するといいますか、民活に頼るといいますか、いろいろな形態、考え方があると思うんです。  それで、この事業を政府でやるよりは民間でやってもらった方が効率、能率がいいという代替の考え方もありましょうし、それから我々が今御提案申し上げているこの法律の趣旨にありますように、国の老人福祉に対するサービス、量的、質的に拡大していく中でさらに、例えて言えば週何回かのホームヘルパーの上に民間のホームヘルパーの派遣を希望して選択をするとか、それから入浴サービスについても月一回のところを二回も三回もしてほしい、それに対して、今の進め方では対応はできないけれども民間の方のそういう対応によりましてそれが可能になる、だから自分はそれを選択しようとかそういうことでございまして、国のサービス民間サービスで代替しよう、こういう考え方は毛頭ないわけでございまして、もしそういうことになればおっしゃるような心配はまさに起こるわけでございますけれども、そういうことは毛頭ありません。したがって、あくまで公的サービスの補完であり、また受ける側から見れば、さらに何といいますか国のサービス以上のサービスをそういうところに期待し、選択でそれを受ける、こういうことでございますので、そういう点については十分に問題のないように考えておりますし、また十分にこれからもそういうことを念頭に置いてやっていかなきゃならぬと思います。  さらに、先ほど申し上げるべきでございましたけれども、そのサービスの質の問題、これは非常に大事でございまして、民間サービスのこれについては十分にガイドラインとか行政指導を行いますし、またサービスの提供をする民間団体の方につきましても自主規制といいますか、倫理規制といいますかそういうものを十分に、そういう今動きがございますけれども、やっていただきまして質的な問題等に問題がないようにこれまた十分に注意してまいる、そういう考え方でございます。
  171. 沓脱タケ子

    ○沓脱タケ子君 私特にそういう心配をいたしますのは、これは厚生省の老人保健部の調べのデータを見ましても、要介護老人の数が七十五年には大体百万と一応見ておられて、老人保健施設は二十六万から三十万程度を七十五年までにはふやすと。それ以外は、長期入院患者は六十一年の二十五万から十万ないし十四万程度に減らすんですね。そうしたらあとほとんど在宅ですよね。十万から十四万に入院患者は減らすと。そして、全部三十万建ったとしてもあと六十万以上の方々が在宅になるわけですね。  そういう人たちに対して、例えば特養ホームはどういう計画で何年までに幾らつくるのか、在宅サービス公的サービスでは家庭奉仕員を一体計画的に何年間に何人ふやすのか、そういう公的サービスの展望だとか見通しというものなしに民間活力論を投入されたら大変だと思うんです。その辺はどうなんですか。
  172. 小林功典

    政府委員(小林功典君) 今の数字でございますが、確かに長期入院患者数は減らすようにしたいということでございますが、片や、老人保健施設昭和七十五年で二十六ないし三十万程度ということでございます。  それから、福祉サービスの中には、先生在宅だけとおっしゃいましたが、実は、在宅で三十三ないし三十七万程度、それから特別養護老人ホームを七十五年で二十四万人分整備する、こういうことでございます。  したがいまして、在宅につきましては確かに三十三ないしは三十七万程度にふえますので、この在宅サービスの重要性は我々も十分認識をしておるつもりでございます。今までも、例えばデイサービスでありますとかショートステイそれからホームヘルパーというのを、ここ数年来できる限りの力を入れまして予算の増額等図ってまいりましたけれども、これは、今後ともお年寄りがふえ、しかも要介護老人がふえるわけでございますので、そこは着実に年々増加を図っていきたいというふうに考えております。
  173. 沓脱タケ子

    ○沓脱タケ子君 特養ホームが十二万六千、それは六十一年度。それで七十五年何ぼにするんですか。
  174. 小林功典

    政府委員(小林功典君) 六十一年度が約十二万、これを昭和七十五年には約倍の二十四万程度にするという計画を持っているわけでございます。
  175. 沓脱タケ子

    ○沓脱タケ子君 特養ですか。
  176. 小林功典

    政府委員(小林功典君) はい。
  177. 沓脱タケ子

    ○沓脱タケ子君 公的サービスのいわゆる家庭奉仕員、それはどういうふうにしていきますか。
  178. 小林功典

    政府委員(小林功典君) 家庭奉仕員、ホームヘルパーでございますが、これは七十五年幾らという数字はまだ持っておりませんけれども、ここ数年来約二千名に近い増員を毎年図ってきておりますので、このペースをさらに充実したものにしていきたいと思っております。
  179. 沓脱タケ子

    ○沓脱タケ子君 それで非常にはっきりしたのは、そうすると老人保険施設の中間施設は二十六万から三十万ほどにつくる。特養ホームは十二万が二十四万、約倍にするんですね。その辺がはっきりしたんですな。そのかわり病院入院患者は二十五万を十万から十五万減らすということですね。だって書いてあるがな、あなたのところのデータにそない書いてある。そんならその減らした分が特養へ入るぐらいで結局はとんとんですわな。そういうことになるんだけれども、そこでやっておると時間がなくなるので。  それで、私は特に心配しておりますのは、こういうふうに公的サービスの展望というのが国民が納得できるような明確な状況でないままに、こういうシルバー産業の振興ということで特に民間活力という形でやられるということになると大変だなと思いますのは、政府でも厚生省でもいろいろと随分大々的な御検討を従来から進めてきておられますね。長寿社会対策大綱、これは閣議決定を六十一年にやられましたし、あるいは行革推進審議会で今後における行財政改革の基本方向だとかあるいは社会保障制度審議会のシルバーサービスについての答申だとかいろいろありますね。そういうものに共通している点が、いわゆる自立・自助が中心であって、しかも公的サービスを抑えてできるだけ民間に肩がわりをしていけというのが一貫して出ているんですね。そういうことの具体例になってきているというふうにしか見えないというのが非常に心配なわけです。  ですから、厚生省大臣官房が委託しておられるいわゆる財団法人健康・体力づくり事業財団ですか、そこの三つの報告書を拝見をいたしましたけれども、これはなかなか大変なことを書いていますよね。  これは御研究の報告書でしょうからどうということないんですが、この民間活力の振興に関する研究会のメンバーを見てちょっとびっくりしたんだけれども、シルバー産業分科会では富士銀行、三井銀行、住友銀行それから三菱商事などといういわば日本の独占金融が中心になって、その他のところが入っているというふうな点ですね。  この報告書を見たら、高齢者は貯金もあるし、住宅資産があるし、購買力は十分にある、したがって「シルバー・マーケットの活性化は、現在の日本経済にとって最大の課題となっている、」というような分析が書かれているんですね。  これ私、全部言うわけにもまいりませんけれども一つずつちょっと言いますと、例えば「シルバー産業振興の必要性」というところには「高齢者の購買力の高まり各種統計によれば、高齢者一人当たりの所得や消費の月額は十万円前後にのぼっている。これに高齢者の貯蓄額が千百三十万六千と平均額を大きく上回っていることや持ち家等の保有資産を考慮すれば、高齢者の(潜在的)購買力はむしろ若い世代を上回る力があるとみることができる。」というふうに書かれております。  もう一つは、さっき言うたように経済の立場から見るならば「シルバー・マーケットの活性化は、現在の日本経済にとって最大の課題となっている、」というふうに言われておりますし、高齢者が財界にとっては大変有望な市場だという見方が出ている。  その上に、これはこういうふうに書いているんですね。「在宅サービスを含め民間の参入を拒む理由はなく、むしろ、有効性、効率性の観点からすれば、民間ベースの供給が可能な場合は公的供給を縮小しても良いと考えられる。換言するならば、大多数の分野では民間による供給を基本とし、公は民間の呼び水としてモデル事業的な場合のほか、地域的に民間によることが期待できないような場合等過渡的、経過的に供給を行うと考えることが適当である。」というふうに書かれております。  同じく「公私の役割の整理」というところでは、これもひどいなと思うんだけれども、「公的機関による各種サービスは無料ないしそれに近い料金で行われることが多く、同じ分野で民間企業が太刀うちすることは困難であることが多い。したがって、民間企業がシルバー・マーケットに参入しようとしても、公私の役割の整理がなされていないと、ビジネスとして成り立つかどうかの予測がつかないので、二の足を踏んでしまうことが多い。」などということを分析している。  こういうことを見ますと、これは随分シルバー産業というのは財界・大企業にとっても大変重要なマーケットだという見方をしているんですね。こういう物の見方というのはいろいろとありますよね。これは朝日生命保険だとか中小企業庁の小規模企業部のシルバーサービス業の営業実態というところでも書いてあるんです。こんなことがあるのかなと思ってびっくりしたんですが、十五年後、昭和七十五年にはお年寄りは七百二十万円の収入となる。この計算どこから来たか知りませんが、今一人年収四百万と見て七十五年には七百二十万円になる。その時点の推定人口千九百九十四万人を乗ずると、これは老人人口ですね、百四十四兆円の金額になる。だから、高齢者層は収入のほとんどは支出に回されると想定されるので、昭和七十五年ごろには約百四十兆台の市場が発生する可能性がある。こういうシルバー産業というものを、まさに日本経済にとって最大の課題というんですか、そういう極めて有望な市場という見方になっているところに私心配をする論点があるわけです。  とにかく、老人福祉分野から国や自治体の公的供給をできるだけ少なくさせて大資本に任せようと露骨に要求している。こんなことが計画をされあるいは調査をされ研究をされているということが背景にあって、今回、株式会社にも融資対象にするというふうなことが出てきたのではないかという点を心配するわけでございます。そんなことはないですか。
  180. 小林功典

    政府委員(小林功典君) いろいろお話ございましたが、何分にもそのシルバーサービスが新しい産業分野でございますし、将来どうなるかいろいろ不透明な要素もあるわけでありまして、いろんな形で研究とか調査とか行われているのはこれは事実でございます。  例に挙げられましたシルバー産業の振興に関する研究報告書、これは私どもも見ておりますけれども、確かに委託研究としてやっていただいたものでございますが、中身を見ますと、我々が同感できるものもあるし、全く同感できないものもあるということであります。今の段階ではいろんな議論あるいはいろんな研究調査があって私はいいんじゃないかと思います。  ただ、要は、私どもが行政を進めていく場合あるいは政治といってもいいかもしれませんが、その場合に、先ほど冒頭に大臣がるる御説明しましたように、公的部分の肩がわりはないというそこは厳として守らなきゃならない、このように考えているわけでございます。
  181. 沓脱タケ子

    ○沓脱タケ子君 いや、各大学だとか研究所で自由にやられている研究、そんなのは幾らでもある。  私が重視したのは厚生省が委託費を出して研究をしている研究報告がそういう研究をなさっているという点で、これは重大問題だなというふうに思って御指摘を申し上げている。民活路線というのを進めたら一体どうなるかなということなんですね。これは、すべて金次第という世の中になったらえらいことだなと。  実際、今も考えてみましたら、政府が健やかに老いる運動などというのを展開しておられますけれども、町にありますテニスクラブだとかスイミングプールなんというのは全部有料ですよね。結局、公的施設の不足が高額な有料の運動施設、健康施設増加に拍車をかけてきているわけです。ですから、これで老人福祉の分野まで民活を進めていったら、大体、生まれてから死ぬまですべて金次第ということになってしまうと。一生汗を流して稼いだものを民間シルバーサービス最後は帳消しにされはしないか。  それは研究報告だからいろいろ書いてありますけれども、「資産活用による充実した老後保障」というこれもその三部作の一つですが、「資産を高齢者自身のために使う(子孫に美田を残さない)土地が高く、取得に努力した日本の高齢者のために 業際的対応を検討」と書いてあるんですね。子孫に美田を残さないで、とにかくわずかな貯金も家屋敷も全部提供して、死ぬまでによいサービスを受けてもらえるような段取りにすりゃいいんだということになるんですね。そういうことになると、これは特別の大金持ちを除いて一般庶民にこういう人生を強いるということになったらえらいことだと思うし、それが民活路線の本質になるんだと思いますが、こんなことを国民は望むだろうか。  先ほど大臣が、業界の自主規制だとか倫理綱領をつくるだとかあるいはガイドラインをつくるだとかいろいろ下手なことにならないように対応していくということをおっしゃっておられました。私は、そういうことは厚生省として当然御配慮なさるべき性格のものだと思います。大いにやってもらわなくちゃならないのですけれども、しかし法律できちんと決めておっても、例えば銀行ですね、銀行法では公共性がうたわれておりますしあるいは国民経済の健全な発展のために資さなければならないというふうなことが明記されていますよね。しかし、土地投機にはやたらに金を貸して、ひどいことを起こしておるというふうなことなんですが、こんなのが私は株式会社というものの、資本の本質だと思うんですね。その辺をやっぱり考えないと年寄りが食い物にされる、そのことを心配します。現に、高齢者が随分食い物にされている例は毎日の報道でも出ておりますよね。豊田商事しかり、霊感商法しかり、原野商法しかり。私最近聞いたのでは海外旅行まで含めて食い物にされていますが、今後も、資本の独自のやり方というのは、こういうことがなされないという保証がないわけですよ。その点をしっかりと考えてもらわなかったら大変だと思うんですね。  時間がありませんから、それじゃ国民がこういう民活の方針で高額の老人福祉サービスを望んでいるだろうかという点です。  これは、内閣総理大臣官房広報室の老人福祉サービスに関する世論調査、六十一年一月ですが、これによりますと、これからは民間企業の老人福祉サービスを中心に積極的に充実させるべきだという点について賛成の方は七・三%です。それで、公的老人福祉サービスを中心に充実させるべきだというのが三七・八%です。ですから、公的福祉サービスを中心に充実さしてほしいというのがこのアンケートでも明らかですね。  あるいは、老人福祉サービス等に関する世論調査、これは総務庁の老人対策室、六十二年の九月の調査ですが、例えば、「家族以外の人による介護の利用についての意識」の調査をしておられますが、「料金を払っても利用したい」というのが一三・三%ですね。「低額な料金なら利用したい」、「無料なら利用したい」という人たちを含めますと四〇%。そういうことで高額な老人福祉サービスは望んでいないというのはこれらの調査でも明らかでございます。  官庁速報の六十三年の四月四日号にちょっと書いてあるんですが、「老後の経済生活では、「年金や恩給で間に合うだろう」と思っている人は四人に一人(二六%)」「三重、佐賀、宮崎、鹿児島などでは三人に一人とやや多く、東京、大阪、神奈川などでは二割以下にとどまっている。」、そういうふうに書いてあるんですね。結論としては「「福祉サービスは、ある程度の利用者負担もやむを得ない」は七二%で、都道府県間の差も小さい。」というふうに書かれております。  ですから、これらの結果というのは、国民は決して高額の福祉サービスを全体としては望んでいない、そういう調査結果だと思うんですが、いかがですか。
  182. 小林功典

    政府委員(小林功典君) 今先生お話を伺いながら感じたんですけれども、ちょっとそのベースのところが我々と少し違うのかなという気がいたしますのは、私どもは、大臣が先ほど申しましたように、公的部門のサービスをこれで肩がわりするということではございません。公的部門はきちっとやった上で多様化するニーズに応ずるように、いわば利用者の選択の幅を広げると申しますか、望む方がこれを使っていただくというふうに今シルバーサービスをとらえているわけであります。  そこがちょっと違うんじゃないかと思いますのは、さっき先生引用されました六十一年一月の総理府の世論調査でございますが、同じ調査でございますが、その中で、例えば有料老人ホームを「利用したい」、「ぜひ利用したい」という人あるいは「まあ利用したい」というのが二六・九%あるわけですね。もちろん「あまり利用したくない」とか「絶対利用したくない」とかいうそういう階層もございます。そっちの方がむしろ多いくらいかもしれません。しかし、現に二六%以上の者が利用したいと言っているわけであります。それから、入浴サービスにつきましても、「ぜひ利用したい」「まあ利用したい」を合わせますと四二・八%の方が一応望んでおられる。  したがいまして、全体を私どもはシルバーサービスでカバーしようなんということは毛頭考えていないわけでありまして、公的な部門のサービス、これをベースにした上でさらにより高いといいますか、多様化したニーズに対応するそういうものを希望されている方がいらっしゃるとすれば、そこは選択の幅を広げてあげていいではないか、そういう考え方なわけであります。
  183. 沓脱タケ子

    ○沓脱タケ子君 時間の都合がありますから細かくそこは論議いたしませんが、そうしたら、国民はどれだけ民間活力論に基づくいわゆる民活サービスが受けられるだろうか。  政府は、年金制度が成熟してきたし、民間有料サービス高齢者も受けられるというふうに思っておられるのかどうか。私は、お年寄りはそんなゆとりはないんじゃないかなと思うんです。  これは、五十九年の数値で国民生活実態調査厚生省大臣官房統計情報部の分ですが、それを見てみたら——これちょっと簡単に数字を言うてくれますか。高齢者世帯の平均世帯人員数。それから平均所得金額、中央値、最頻値、ちょっと言うてください。
  184. 小林功典

    政府委員(小林功典君) 六十一年度に実施しました国民生活基礎調査でございますが、まず、高齢者世帯の平均世帯人員は一・五七人。それから、高齢者世帯の所得状況でございますが、平均所得金額が二百三十九万三千円、中央値が百五十九万円、最頻値が九十五万九千円でございます。
  185. 沓脱タケ子

    ○沓脱タケ子君 私、これ非常に大事だなと思ったのはいわゆる中央値ですね。  年所得百五十九万円以下の人がこれではどれだけあるのかわからぬですけれども、それ以下の人を含めたら六〇%を超すんですが、中央値がほぼ半数なんだと思いますよね、推計は。百五十九万円を世帯人員の一・五七人で割ると一人当たりの所得というのは年百一万円、それから最頻値が九十五万九千円ですが、これが大体二割おるんですね。この人たちの一人当たりの所得は年六十一万円ですから、これは月五万円ですね。これで豊かな老後とか民間の良質なサービスを受けるというようなことができるだろうかなというふうに思うんです。  私、この間、大阪でちょっと福祉施設へ行って事情を調べてきたんです。これは多くを申し上げる時間がありませんが、大体福祉施設へ入っているお年寄りの方の所得というのは、年金金額が中心ですが、年額が六十一万三千三百二十円、これは障害基礎年金ですね。三十二万三千六百円というのは老齢福祉年金ですかね。それからちょっと多い人で厚生年金、老齢年金ですね、百二十六万七千四百二十四円、一番多い人で月十万ちょっとですね。あとは老齢福祉年金の人は三十二万ですから月三万円ないわけですね。それが圧倒的ですよ、これは。こんなもう大変な状況ですわ。民間サービスをどうして受けるというふうになるんかなと思うんですね。それでまあゆとりがないというのがお年寄りの生活実態じゃないかと思うんですね。  で、これを反映している生活意識という点で、これも官報の資料版に出ておった厚生省のですが、これでは「現在の暮らしについての意識をみると、約半数の四九・七%は「普通」であるが、「苦しい(大変苦しい・やや苦しい)」世帯は四〇・九%、「ゆとりがある(ややゆとりがある・大変ゆとりがある)」世帯は九・四%」、ほんのわずかです、一%足らずですね。「特定世帯の生活意識をみると、「苦しい」世帯は高齢者世帯四五・一%、母子世帯七七・〇%、要介護者(在宅)のいる世帯四三・六%、一年以上の入院者のいる世帯五三・九%で、それぞれ全世帯の四〇・九%より高い割合となっている」、そういうことがこれは調査の結果出ておるわけですね。そういう点では、これは決してゆとりがあるというふうな状況ではお年寄りはない。大部分がないんで、それは特定な大資産家とか高額所得者というのはいいでしょうけれども、それは我が国では大変少ないわけですね。だから、大部分が厳しいこういう年金生活を強いられているという中で民間サービスで優良なサービスをなどというふうに言われると、これはまじめにつつましく暮らしているお年寄りは怒ると思うんですよね。  この間も私その福祉施設へ行って聞いてみたんですが、特養ホームは順番待ちでなかなかはいれないですよ。やっと順番が来て入るということになったら、徴収金の金額を聞いて、それじゃもうやめますという人が次々出てきておるのが今日の実態でございますという話を聞かされました。実態はそういうことなんですね。時間の都合で詳しく申し上げられませんけれども、そういう点では私大変これは問題を含んでいるなということを改めて痛感をさせられている。  で、ちょっと話を少し変えますけれども、これは新聞に出ていたんで気になるんでちょっとお聞きをしておきたいんですが、毎日新聞にこの間、六日でしたか出ていましたが、タイの国で昨年「ある企業が日本人の高齢者専用の保養施設作りを検討していることが表面化し、「タイの中に日本人町を作ろうとしている」と批判を浴びた。」というふうな記事が出ております。  株式会社に融資するということになったら、これは外国に優良な老人ホームをつくる場合にも融資の対象になるんですか。
  186. 小林功典

    政府委員(小林功典君) 海外の場合には融資対象になりません。
  187. 沓脱タケ子

    ○沓脱タケ子君 幾ら何でもやりませんでしょうね。
  188. 小林功典

    政府委員(小林功典君) なりません。
  189. 沓脱タケ子

    ○沓脱タケ子君 そうでないと、国際的なトラブルまで起こしたんじゃ話にならぬわけで、ちょっと念のためにお聞きをしておいたんです。  これは、もう時間ありませんからはしょりますが、私は、株式会社というところにこういう老人福祉を任せていくというふうになってくると、本来、株式会社というのは営利目的の団体でしょう。だって株主には配当しなくちゃならないんだから赤字になるわけにいかぬわけですね。営利を目的とする事業体ということになれば、これが福祉事業に入ってくるということになると、まずこれは高い料金と低いコストでないとやれないんじゃないかと私は思うんですよ。  で、公的サービス、ただ同様の公的サービスでは太刀打ちできぬのやから、民間が参入するときにはちゃんとやってくださいよ、ちゃんともらいますよというふうに言うてたわけですから、これは当然のことだ。で、福祉サービスというのは当然対人サービスが多いわけですから、コストというのは人件費ですよね。人件費を抑えるということになれば、採算を合わしていくとつじつまが合う。こんなことになったら、この制度がどんどん動き出すということになればそれなりに一定の雇用の拡大はできると思いますけれども、大量の低賃金労働者をつくり出すということになるんじゃないかなという心配をいたしますが、これはどうですか。
  190. 小林功典

    政府委員(小林功典君) 雇用問題そのものにつきましては、これは御案内のように労働行政の分野でございますけれども、我々といたしましては、むしろ利用者の処遇の面からそれを考えなければならないだろうということでございます。  つまり、良質なサービスの提供に必要な職員体制というのが果たしてできているかどうか、これが大変重要な問題だと思います。したがいまして、そこによく注意をいたしまして運用してまいるつもりでおりますけれども、この法案をお通しいただいて融資ができるという場合には、当然審査基準というのをつくるわけでございますが、その場合にはそういった面も十分に配慮した上でその審査基準を設けたいと考えております。
  191. 沓脱タケ子

    ○沓脱タケ子君 私特にそのことを心配をいたしますのは、現在でも福祉施設の関係労働者の職員の処遇というのは低いですね。平均給与と比べても、これ詳しく申し上げませんが、全産業労働者の賃金を一〇〇といたしまして福祉労働者の賃金というのは大体一〇%余り低いですね。違いますか。
  192. 小林功典

    政府委員(小林功典君) ちょっとその雇用関係のデータは私持ち合わせておりませんので、お答えはちょっとお許しいただきたいと思います。
  193. 沓脱タケ子

    ○沓脱タケ子君 私、手元にありますねん。全国福祉保育労働組合が全国調査をしたのを資料として持っておりますが、それによりますと、十数%全国平均より低いです。  この上に民間活力で株式会社が大量参入するといったら、会社は当然利益を上げなくちゃならない任務を持つわけだから、低賃金の労働者あるいはパートなどで対応するということになるに違いない。そうなりますと、厚生省は大量の低賃金不安定労働者をつくることになるんですけれどもね。これはえらいことだなと思いますが、こんなところには責任感じませんか。
  194. 小林功典

    政府委員(小林功典君) シルバーサービスを健全に育成していかなきゃならぬわけでありまして、これも、先ほど大臣も触れましたように、一つは、やはり行政指導というものは必要であろう、その場合には経営あるいは料金も含めた意味でガイドラインをつくるということも申し上げましたけれども、そのガイドラインに沿った行政指導も徹底して行わなければならない。それから、何にも増して、これは民間事業でありますから、できることならば民間事業者間の自主規制、現在倫理綱領というものを作成途上でございますけれども、そういった自主規制というものも必要だろうという、その二本柱で我々はやっていきたいなと思います。  それに加えてさらに言うならば、シルバーサービスは言うまでもなくコマーシャルベースでございますから、質の悪いものというのはやはり売れないわけでございますね。そういった意味では自由市場でございますから、もちろん一定の範囲の指導あるいは自主規制はやりますけれども、基本的にはそういうことでございますから、条件の悪いあるいは内容の悪い企業というのはそれは生き残るわけにはいかぬということも、もう一つつけ加えればあるんではないかなという気がいたします。
  195. 沓脱タケ子

    ○沓脱タケ子君 病院の場合は、ちゃんと職種別定数をきちんと管理をしておられるわけで、そんなことできないでしょう。病院は株式会社と違うけれども民間だってちゃんと厚生省は定数をつくって管理していますね。民間の老人ホームにそんなことできないでしょう。少々指導するといったって、そういうことはできませんよね。やるんですか、やらぬでしょう。できるはずがないんでね。  時間がないから、私非常にたくさんの心配を抱えているんですが、もう一つ聞いておきたいのは、民間老人ホーム、有料老人ホームができたとしますよ。どんどん年がいったら、何というかな、寝たきりになる人も出てくるし、ぼけも出てくるという状況が起こりますね。そういう場合はどうするのか。それから、医療を必要とする場合にはどうするのか。それはどうなんですか。
  196. 小林功典

    政府委員(小林功典君) 例えば有料老人ホームの例でございますが、現在でも基準がございまして一定率は寝たきり老人を入所させるスペースを持ちなさい、こういうことになっているわけです。それに加えまして、今度は、さらに融資に当たりまして融資の審査基準できっちりそこら辺の基準をさらに充実したものにして決めたいと思っております。寝たきり老人の介護用の部屋、医療との関連、そういったものをきちっと決めたいと思っています。
  197. 沓脱タケ子

    ○沓脱タケ子君 医療体制。
  198. 小林功典

    政府委員(小林功典君) 医療機関との連携ということになりましょう。有料老人ホームですからそこで医療機関を持つわけにはまいりませんから、どうしてもお年寄りですから寝たきりになりやすい、病気になりやすいという現状を踏まえまして、医療機関との連携というものを十分とるということを融資条件にしたいというふうに思っておるわけでございます。
  199. 沓脱タケ子

    ○沓脱タケ子君 時間がありませんから、最後に申し上げておきたいのは、そういういろんな心配がありますので、私は、全部株式会社悪いとは思いませんけれども、しかし現に年寄りが食い物にされるようないろんな事象というのが今日の社会にあるわけです。そういうものに対する歯どめというのを厚生省がお持ちにならなかったら話にならぬなと思っている。  一つは、できるだけ老人ホームには規制をしないつもりかもわかりませんけれども、やはり相当ひどいところということになれば、指導や監督をする場合にもひどければ取り消し処分ができるというふうな制度があればこれは指導や監督というのが力を発揮すると思うんですが、そういう事業の取り消し制度、これは認可施設と違うからそれもできないのかもわからぬけれども、九割も貸すんでしょうから金を全部引き揚げるとか、何らかの制裁措置というか規制措置というものを具体的に持つ必要があると思う。  それから、中へ入った人が、例えば若くて元気だったらぐあいが悪ければすぐにどこかに飛んでいって文句を言いに回れると思いますけれども、寝たきりになったりあるいは体がもう弱くなって自由に出歩けないということになった場合には苦情さえ持っていくところがない。これについては公的な苦情の通報場所、取扱場所、そういうものをやっぱりきちんとしておくということが必要であろうと思うわけですが、そういうことについてお考えになる御見解がありますか。
  200. 小林功典

    政府委員(小林功典君) 先ほど申しましたように、融資をする場合には厳格な審査基準をつくりまして、それを守ってもらう者にしか融資はしないということにしているわけでございます。したがいまして、あと運営にいたしましても審査基準に合わないような妙な経営をするとかというようなことになりますれば、当然融資を返還させるということを考えております。  それから、第二点の苦情処理の問題でございますが、私ども、現段階では、民間の事業でございますので、現在、例えば社団法人のシルバーサービス振興会という法人がございますが、そこに有力な企業が入っている、これをどんどん広げたいと思っていますので、できれば民間団体の中に苦情処理機関をつくる、それを行政も吸い上げる、こういうシステムがいいのかなということで、実はまだ着手をしておりませんが、近く苦情処理の問題も取り上げるというふうに聞いておりますので、そういうシステムでやっていきたいなと思っております。
  201. 沓脱タケ子

    ○沓脱タケ子君 ぜひそういう点の歯どめ策については考えてもらいたいと思います。  それで、株式会社に九割もお金を貸す、土地、建物、内部施設にも九割までお金を安い利息で貸すんだというような話をしたら、私のある知り合いの福祉関係者が言うんです。それだったらそんなことは通産省へ任せばいいじゃないかといって笑いましたけれども、そんなことにならないように絶対に、ふっと言ったらそういうふうに返ってくるというのが今日の社会です。ですから、通産省でやってもろうたらええじゃないかなどと言われるようなことにならないように、冒頭で申し上げたように、憲法二十五条の理念、老人福祉法二条の理念、これを本当に厚生省として守るという立場を堅持していただきたいと思いますので、その点を最後に御決意を伺いまして終わりたいと思います。
  202. 藤本孝雄

    国務大臣藤本孝雄君) 段々の御指摘、御心配、私ももっともなことだと拝聴いたしております。  そういう御心配、御懸念が起こらないように、十分にそれらの点につきましては念頭に置きまして今後対応を慎重に十分にやってまいりたい、かように考えておりますので御理解いただきたいと思います。
  203. 関口恵造

    委員長関口恵造君) 以上をもちまして、ただいま議題となっております社会保障制度等に関する調査につきましては本日はこの程度にとどめ、社会福祉・医療事業団法の一部を改正する法律案に対する質疑は終局したものと認めます。  これより討論に入ります。  御意見のある方は賛否を明らかにしてお述べ願います。
  204. 沓脱タケ子

    ○沓脱タケ子君 私ども日本共産党は、社会福祉・医療事業団法改正案に反対であります。  以下、その理由を述べます。  本改正案は、社会福祉医療事業団の融資対象に株式会社を加えるというものでありますが、改正の背景、本質は重大であります。  本改正案の本質は、老人福祉分野に民間活力なるものを持ち込み、シルバーサービスの主要部分を営利企業たる株式会社の手にゆだねる驚くべき内容であります。そもそも民間活力論とは財界が提唱したものであり、大資本の飽くなき利益追求の姿勢を耳ざわりのよい形に変造した論理にすぎません。  私が審議の中で明らかにしたように、日経連大槻前会長は次のように明言をしています。「行政改革のねらいは政府の介入を極力排して、民間の活力を最大限に発揮させることにあるのであり、」「国民の側に対しても、「お上に頼る」意識の払拭を強調せねばならない。」。これこそが民活論、自立・自助論の本音であります。  この思想のどこに憲法二十五条と老人福祉法の理念がありますか。大資本のエゴイズムだけであります。  また、民活論は地価暴騰によって証明済みのように、破産した論理、政策であります。この庶民の利益と全く相反する破綻したやり方を老人福祉の分野に公然と持ち込み推進しようとする政府厚生省の責任は、やがて国民が厳しく審判をするでありましょう。  政府は、軍事費の増強と大企業優先の政策的選択は聖域としながら、専ら福祉医療、教育等国民生活部門は大胆に切り下げる臨調・行革路線を推し進めてきておるのであります。その上に、庶民にとって打撃の大きい新型間接税の導入を策しています。  このような政治状況のもとで、老人福祉の分野にまで市場の論理を拡大、適用すれば、我が国の高齢者社会保障は一体どうなるでしょう。生きるも死ぬも金次第、弱い高齢者は、その生涯を、豊かさとは無縁なままに人生を終えることになってしまうでしょう。  我が党は、公的サービス拡充の展望を明確に示さないまま、結果的には公的サービスの果てしなき後退を招く民間活力方針を、事もあろうに老人福祉の分野にまで拡大することを絶対に認めることはできません。  老人福祉法二条が言うように「老人は、多年にわたり社会の進展に寄与してきた者として敬愛され、かつ、健全で安らかな生活を保障される」べきであり、我が党はこの理念の実現のために努力することを表明して、反対討論といたします。
  205. 関口恵造

    委員長関口恵造君) 他に御意見もないようですから、討論は終局したものと認めます。  これより採決に入ります。  社会福祉・医療事業団法の一部を改正する法律案に賛成の方の挙手を願います。    〔賛成者挙手〕
  206. 関口恵造

    委員長関口恵造君) 多数と認めます。よって、本案は多数をもって原案どおり可決すべきものと決定いたしました。  この際、山本正和君から発言を求められておりますので、これを許します。山本君。
  207. 山本正和

    ○山本正和君 私は、ただいま可決されました社会福祉・医療事業団法の一部を改正する法律案に対し、自由民主党、日本社会党・護憲共同、公明党・国民会議、民社党・国民連合の各派共同提案に係る附帯決議案を提出いたします。  案文を朗読いたします。     社会福祉・医療事業団法の一部を改正する法律案に対する附帯決議(案)   政府は、次の事項について、適切な措置を講ずべきである。  一、シルバーサービスについては、劣悪なサービスが提供されると、シルバーサービス全体に対する国民の不信を招くこととなるので、国・地方の密接な連携のもとに、社会福祉の精神を尊重し、高齢者福祉を第一義として、良質のサービスが提供されるよう、民間事業者を指導すること。  二、高齢者に対する公的施策については、ホームヘルパーの派遣、ディ・サービス事業等の在宅福祉施策の拡充、特別養護老人ホームの計画的な整備等、今後とも一層の推進を図ること。   右決議する。  以上でございます。
  208. 関口恵造

    委員長関口恵造君) ただいま山本君から提出されました附帯決議案を議題とし、採決を行います。  本附帯決議案に賛成の方の挙手を願います。    〔賛成者挙手〕
  209. 関口恵造

    委員長関口恵造君) 全会一致と認めます。よって、山本君提出の附帯決議案は全会一致をもって本委員会の決議とすることに決定いたしました。  ただいまの決議に対し、藤本厚生大臣から発言を求められておりますので、これを許します。藤本厚生大臣
  210. 藤本孝雄

    国務大臣藤本孝雄君) ただいま御決議になられました附帯決議につきましては、その御趣旨を十分尊重いたしまして努力いたす所存でございます。
  211. 関口恵造

    委員長関口恵造君) なお、審査報告書の作成につきましては、これを委員長に御一任願いたいと存じますが、御異議ございませんか。    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  212. 関口恵造

    委員長関口恵造君) 御異議ないと認め、さよう決定いたします。  本日はこれにて散会いたします。    午後五時四十八分散会