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1988-04-25 第112回国会 参議院 国民生活に関する調査会 第6号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和六十三年四月二十五日(月曜日)    午後三時三分開会     ─────────────   出席者は左のとおり。     会 長         長田 裕二君     理 事                 斎藤栄三郎君                 水谷  力君                 矢野俊比古君                 山口 哲夫君                 高木健太郎君                 吉川 春子君                 三治 重信君     委 員                 井上 吉夫君                 小野 清子君                 高橋 清孝君                 寺内 弘子君                 中曽根弘文君                 福田 宏一君                 向山 一人君                 刈田 貞子君                 近藤 忠孝君                 平野  清君    事務局側        第二特別調査室        長        菊池  守君     ─────────────   本日の会議に付した案件 ○国民生活に関する調査  (出生率動向対応に関する件)     ─────────────
  2. 長田裕二

    ○会長(長田裕二君) ただいまから国民生活に関する調査会を開会いたします。  国民生活に関する調査を議題といたします。  本日は、出生率動向対応について御意見をお述べ願いたいと存じます。  御意見のある方は順次御発言を願います。
  3. 斎藤栄三郎

    斎藤栄三郎君 万葉の歌人、山上憶良は、「銀も金も玉も何せむに勝れる宝子に及かめやも」と歌いました。子宝を賛美した歌です。ところが現実の日本では、親が子を殺し、子が親を殺すというような現象がたびたび起きておりますし、特に憂慮にたえないのは出生率低下であります。今、日本出生率昭和六十一年において一一・四%であり、西ドイツの一〇・二%に次ぐ低いものであります。このままに放置しておけば、二十一世紀には深刻な老齢化問題と労働力不足問題にぶつかることは火を見るよりも明らかであります。  出生率問題を考えるときに大事なことが二つあります。  一つは、マルサス人口論です。彼は一七六六年から一八三四年まで生きた人でありますが、マルサス人口論というのは、食糧算術級数、足し算のようにしかふえないのに、人口幾何級数、掛け算のようにふえるというのです。その結果は人口過剰となり、少ない食糧を奪い合うから戦争が起き、貧乏になるのだという議論です。そこで彼は、対策としては戦争もやむを得ない、流行病もやむを得ないと言うのです。この初版の人口論に対し猛烈な反論が起きましたので、彼は二版では戦争はやむを得ないという議論は引っ込めて避妊を奨励したのであります。それが今日においては、ややもすれば行き過ぎの傾向があることを指摘せざるを得ません。  第二は、経済体制出生率の問題です。徳川幕府二百七十年の間に凶作は百三十回ありました。ということは二年に一回ずつの凶作です。その結果、百姓一揆は一年に四回平均起きております。日本で初めて人口統計をつくったのは八代将軍徳川吉宗でありますが、徳川時代人口はほとんど横ばいであり、明治維新を迎えたときの日本人口は三千万人であります。封建制度でありますから、食糧が不足し、出生率が抑えられました。ようやく妊娠をいたしましても食えないものですから間引きが流行し、徳川時代の町の中には中条流という堕胎医が横行していたものであります。  今の日本では食糧が足りないのではありません。飽食の時代を迎え、食糧が足りないから出生率が下がったというのではありません。結局、今の日本出生率低下は、昭和三十五年から始まった高度成長の影響だと考えます。昭和三十五年の出生率は一七・二%。それが二十年後の昭和五十五年には一三・六%となり、昭和六十一年には一一・四%と下がったのであります。  高度成長に伴い婦人職場進出が顕著となりました。そして離婚もふえました。少なく産んで完全に育てようというわけで少産少死が行われ、乳児死亡率世界一少ない五・二%であります。日本に次ぐものがスウェーデンの五・九%であります。  次に、子育てコストが非常に高いのです。大学まで入れようと思うと、私立大学に入れる場合には、その費用を親が負担すると計算すると家計支出の二〇%を負担しなければなりません。日本貯蓄率が二〇%でありますから、貯蓄を全部子供教育に使わなければならない状態であります。  このように、婦人職場進出育児コストが高い、それに第三には住宅事情の悪化が挙げられるのであります。したがって、この育児問題を解決し、児童成長が完全にできるような環境整備することが政治の場において論議すべき問題かと考えるのであります。  そこで私の提案は、第一は教育減税を取り上げてはどうかと思います。学歴社会、これを直すことが根本でありますけれども、一朝一夕に学歴社会を是正することは非常に困難かと思います。そこで教育減税を第一に取り上げたい。  第二は児童手当であります。これは第二子が二千五百円、第三子が五千円となっておりますが、これをもう少しふやすことの方向で考えてはいかがかと思うのであります。  第三に老齢化対策にもっと思いをいたさなければなりません。結局家庭主婦の力は老人を看護するために使われる。そうすると子供を産む余力はないということになってまいりますから、老齢化社会対策をもっと真剣に取り上げることが必要かと思います。  第四番目は住宅事情改善であります。日本では今住宅の数は余っているんです。しかし、世論調査をやると住宅についての不満が圧倒的に多い。私は三世帯が住めるような住宅をこれから奨励することが望ましいのではないかと考えます。住宅金融公庫でも三世帯が住めるような家を建てるための融資の道が開けております。こうすることによって婦人労働力をもっと楽にすることもできるのではないかと考えるのであります。  もしもこのままにしておきますと、二十一世紀にはドイツが今日なめていると同じような苦い経験をなめざるを得なくなるであろうと懸念をいたすのであります。すなわちそれは、労働力不足を外国人労働力によって補おうとするならば、それらの外国人は定着してしまって帰りません。今のドイツの大きな社会問題が日本にも来ることを懸念されるのであります。  以上で終わります。
  4. 山口哲夫

    山口哲夫君 きょうの出生率の問題については、一応原稿を用意するようにというふうに言われておりましたので書いてまいりましたから、朗読をいたしまして意見陳述にかえさせていただきたいと思っております。  出生率動向対応  一、出生率国際的動向我が国協力  国連人口活動基金は「世界人口白書一九八七」で、一九八七年七月世界人口はついに五十億人を突破、二〇一〇年には七十億人、二〇二二年までに八十億人、そして一世紀後には最終的に百億人でとまるであろうと推計人類がとるべき進路として、①自然と人間とのバランスを考えること、②出生率低下が遅過ぎることは悲惨な状況をもたらすことに通ずる道であると指摘している。  特に、人口急増地である開発途上国がこれに見合うだけの食糧増産の展望を持っていないことに着眼する必要がある。  そこで、経済大国と呼ばれる我が国としては、農林漁業中心とした食糧増産のための技術協力を行うとともに、上下水道など生活環境整備援助を積極的に拡大することなどがますます強く求められるに違いない。中でも飢餓地域に対しては直接的に食糧供給援助を行うことも必要である。したがって、我が国としては食糧生産力拡大並びに生産技術研究開発を積極的に進めなければならないと考える。  二、我が国出生率動向と二十一世紀課題  我が国の戦前は、富国強兵の立場から産めよふやせよと出生率増加政策をとり続けてきたが、戦後は国民生活水準を高めるため家族計画を推進し、出生率低下とともに、保健医療進歩もあり、低出生、低死亡がほぼ成功し、日本人口転換は国際的に評価を受けていると言われるが、反面、合計特殊出生率は一・七二と低いことから、労働人口減少高齢者増加により、二〇二五年には労働人口二・六人で六十五歳以上の高齢者一人を養わなければならないという社会福祉面での不安は残る。  このように母親の産む子供数は少ないが、これは必ずしも夫婦希望によるものでないことは、日本人夫婦にとって理想とする子供数世論調査を見ると、子供一人を希望する夫婦は〇・四%、二人は二八・一%、三人は六三・〇%、四人は四・六%、平均値は二・七五人からも明らかである。もとより子を産む産まないの自由は夫婦にあるもので、出生率国民文化的生活を大きく左右するほどに極端な高低率を示していない限り、国家出生率に直接介入すべきものではないと考える。  しかし、夫婦理想としている子供数まで産んでいないということは、出産し、育児し、教育し、育てる上で多くの不安があるからであって、国家はそれらの不安を解消し、国民が安心して出産し、子を育て、生きがいある文化的生活の中で高齢期を迎えられるような施策を講ずることこそ急務ではなかろうか。  三、出生率問題をめぐる具体的課題対策  以上の方針を実現させるために、以下急を要する施策について述べてみたい。  1 母子保健対策  乳幼児死亡率は〇・四九%と諸外国に比べ低いことは好ましいとしても、死産が四・五二%と高く、中でも人工死産がその半数以上を占めていること、また妊産婦死亡率先進国平均をやや上回っていることに注意を払い、性教育妊産婦に対する保健教育徹底を期さねばならない。  2 育児対策  (一) 育児休暇充実  三つ子の魂百までもの例えのように、乳幼児教育人間形成の上で極めて重要である。そこで、できる限り親と子供がともに生活できる時間を長く持つことが好ましいことからも、最低一年間は夫婦のいずれかが職場復帰条件とした有給育児休暇を保障すべきである。  (二) ゼロ歳児保育充実  家庭経済的理由、就業の継続の必要性などから産後休暇の後、直ちに就業しなければならない母親も多い今日、ゼロ歳児保育施設企業内保育施設充実急務である。  (三) 保育所幼稚園充実  昔は多子家族形態から家庭子供にとって社会的訓練の場であったが、今日少子家族化に伴い、それができなくなった。そのため、子供社会的訓練を与える場としての保育所幼稚園などでの集団生活に期待するところが大きいので、これら施設充実が必要である。  3 子育て後の母親生きがい対策  (一) 再就職対策  婦人寿命伸長に伴い、子育て後も十分な生活時間をとれるようになってきた。そのため再就職希望する母親も多くなってきたので、雇用男女機会均等促進が一層重要となる。  (二) 生涯教育  婦人社会的活動の場を広くするとともに趣味を生かせる生涯教育の場の提供が必要である。  4 住宅対策  (一) 良質で低家賃公営住宅大量建設  核家族化が進む中で、結婚と同時に出産から育児まで満足できる住宅を確保することは、この世代が低賃金であることからも極めて困難である。特に都会ほど難しい。我が国住宅ウサギ小屋と呼ばれるように、狭くて質の悪い住宅理想とする子供数を生めない理由の大きな比重を占めていると考える。そこで、良質で低家賃公営住宅を大量に建設することこそ急務である。  (二) 三世代家族同居、近居可能な住宅建設  母親から見た理想的な家族構成調査によると、夫婦子供のみの家族は四五・二%、三世代家族は五二・八%となっていることからも、三世代同居または近くに住めるよう広い土地と住宅の入手を可能にするための減税を含めた資金対策が必要である。  5 生活環境改善対策  日本都市は、生産型都市といわれるように生産機能中心に建設されてきた嫌いがある。そのため緑やきれいな水、大気は少なく、自然破壊さえ進められてきた。その反省に立って生活の場としての住みやすい町づくりに努力するようになってはきたが、まだ多くの問題を抱えている。都市はまず子供が育つのに適した町づくりに焦点を当てることが重要である。そのためにも、大気や水の汚染を防止し、自然や食糧公害から守るためにも公害防止対策徹底を図るとともに、安全な食糧供給のためにも食糧自給率を高め、外国からの輸入は極力制限すべきである。  6 高齢者生きがい対策  (一) 経済的自立  高齢者の大多数は公的年金のみでは生活し得ないのが今日の実情である。一方、平均寿命伸長ともあわせ定年制延長を一層図る必要に迫られている。また定年後も働くことを生きがいとする人も多いことから、シルバー人材センター活動を活発化し、高齢者にふさわしい労働の場の開拓に努めるとともに、高齢者能力開発を図っていく必要がある。  (二) 医療保健対策充実  平均寿命伸長医療保健充実によるところが大きい。しかし、いまだ高齢者の中には安心して療養を受けられないでいる人も多い。さらに在宅療養希望しても、核家族化主婦が働く家が多くなっている中では、行き場所を失って悩み続ける人も多い。病気を苦にした高齢者の自殺が一段と増加したことにも重大な注意を払う必要がある。そこで、老人医療制度充実を図るとともに、公的老人保健施設大幅建設と運営の助成、在宅ケア、デイケアなど福祉施策充実を急がなければならない。  (三) 社会的活動の場の提供  高齢化に伴い孤独な生活を強いられる人が多くなっている。そのため高齢者生きがいのためにも、社会的活動の場を提供するとともに、趣味を生かせる生涯教育の場の提供が必要である。  四、終わりに  以上、出生率問題に係る政府として急がなければならない諸施策について述べてきたが、それを簡単に集約すれば、国民が産みたい子供の数と現に産んでいる子供の数との乖離を小さくすることを国の目標にすべきであるということである。そのための施策は、各省庁が縦割りにまちまちに行ってはならず、常に施策一貫性を持てるように現状を改革する必要がある。この観点から、出生 率問題関係閣僚会議を設けるとともに、政府連絡調整機関を設置し、この問題に対する国民の関心も高めるよう努力すべきである。  以上です。
  5. 高木健太郎

    高木健太郎君 私も読ませていただきます。  日本人口は一九〇〇年には四千四百万ぐらいでありましたが、一九八五年には一億二千万を超えました。一九四五年までの年平均人口増加率は一を挟んで上下に動揺し、この年、戦後の著しい増加率最後にここ二十年増加率減少し続けつつ、わずかにゼロを上回っております。このままに推移しますと、人口減少が起こる可能性もないではありません。合計特殊出生率について見ますと、高位推計においては二・一八、低位推計では一・八五と予想され、中位推計においては二でありまして、今後の人口予想はにわかに断じがたいところであります。  翻って世界人口動態を見ますと、十九世紀初頭までは十億、百年で二十億、五十年で三十億、以後十年ごとに十億ずつ増加し、一九八七年七月十一日に遂に五十億に達し、二〇二二年には八十億と推定されております。この増加のほとんどは途上国、特にアフリカ、アジアの人口増加によるものでありまして、大体年二%、最近では一・七%に下降しておりますが、先進国のそれは〇・六%にすぎず、二〇〇〇年には人口の八〇%は途上国によって占められることになります。先進国人口の冬であり、シラク首相をして、人口から見ればヨーロッパは消えつつあると憂慮せしめております。  人口増加率からいえば、西欧先進国五カ国のうちでは日本は〇・六七でありまして、アメリカに次いで高いのでありますが、人口密度から言いますと、バングラデシュ六百八十五人・平方キロメーター、韓国四百十八に次いで日本は三百二十四と世界第三位でありまして、これ以上の人口増加は種々の問題を引き起こす可能性を大にするのではなかろうかと考えます。  日本人口出生率の方から見ますと、一九四〇年には二九・三で、一九八五年には一一・九と約三分の一に減少していますが、死亡率が二・五倍に減少、特に乳児死亡率医学進歩衛生思想の普及などから九〇・〇から五・五と著しく減少したため人口減少は見られませんでした。しかし中絶数は一九六〇年には百六万三千と多く、その後漸減はしておりますものの、一九八五年においてもなお五十五万件を数え、実数はこの二倍ないし三倍と見られますから、一年に約百万から百五十万件の中絶、すなわちほぼ年間の出生数に相当する数であります。戦争直後の困窮時期における人口抑制の思潮が尾を引いているように見えます。  出生率低下先進各国に見られる共通の現象ではありますが、医学進歩により人間が性に対して科学的、人為的に干渉し、性と生殖を分離し、出生をコントロールする手段を知った結果であります。機械的・手術的・薬品的避妊法中絶法出生率にマイナスに作用し、体外受精などはプラスに作用いたします。妊娠出産女性人間の権利として所有する多くの選択肢の一つにすぎなくなりました。特に、家系、種族維持規制弱体化と、女性個人幸福追求優先女性地位向上とともに女性価値観が変革し、妊娠育児教育に要する経済的、肉体的、時間的負荷コストの大きさが結婚出生をためらわせております。  日本においては西欧におけるがごとき避妊革命の起こる可能性は今のところありませんが、社会的・経済的事情就職との関係から晩婚が進み、多くの女性が望む二人ないし三人の出生が得られず、結果として人口生産を満足させ得ないおそれはあります。女性の持つハンディキャップを軽減する有給制妊娠育児休暇等政策によりまして女性の自然の希望出生数を満足させ、達成する可能性は少なくありません。先進外国においても人口問題に対しましては直接介入しない国が多く、わずかにフランスが増加促進策をとっているにすぎません。女性弱者としての負荷を軽減する手段が今のところ最善の方策であろうと思います。  しかし、日本において最緊急課題は何といっても急速な高齢化の問題であります。  このことにつきましては既に本調査会において一応の結論が得られているので改めて述べませんが、寝たきり、独居老人介護必要老人増加にかんがみ、定年延長雇用機会拡大健康維持の指導、東洋医学の利用とともに受け入れ態勢の一層の整備が望まれます。  最後に、教育高度化老人人口増加に伴う生産人口の比較的減少にいかに対応するかという問題であります。  従属人口比率は、たとえ出産率が上昇しても平均寿命延長に伴って出生率とほぼ無関係に二〇〇〇年までは継続し、ますます従属人口比率増大傾向にあります。前述の老人対策が講ぜられようとも、一定生産経済を維持するためには生産人口の不足が招来されるのではありますまいか。ここに外国人流入問題がクローズアップされます。  流入人口が増せば彼らは主に底辺労働者として働くことになり、一つ地域密集集団を形成することになりましょう。外国人大量移住により真の意味の人間国際化が求められることになるのではありますまいか。彼らをいかに受け入れるか、あるいは自国産業海外流出を考えるのか、重要課題一つであると考えます。  まとめとしまして、宇宙船地球号有限性とエネルギー及び途上国を軸とする人口幾何級数的増大は、人類生存途上国先進国経済文化のアンバランス、それに伴う平和維持に暗い影を投げております。人類はみずからまいた種をみずから刈り取るべき時期に来ていると思います。  閉鎖的生物圏においては強者の隆盛は弱者の犠牲の上に立ち、弱者の滅亡はまた強者の死滅をもたらすのが生物界原則であります。人間社会といえどもこの原則から逃れることはできません。したがって、恒久的に世界のすべての人々の幸福を希求するとすれば、遺伝的、後天的、性的、年齢的に平等ではなく、強者弱者が共存する世界社会において結果として平等な幸せな生活を営ませるようにすることが人間政治の原点であり、使命でありましょう。  J・J・ルソーは、人間には二種類の不平等がある。一つは力の強弱、健康度というような生まれながらの不平等であり、他は社会的不平等であります。前者が後者によって増幅されてはならぬと言っております。性別に差異はありますが、社会的に同一にするにはどのような環境に置かるべきか、どのような施策が必要かということが我々になし得ることであり、身障者、年少者老人についても同様なことが言えると思います。  以上は出生率人口問題の立つべき視点でなくてはなりません。この視点を欠くとき、人類種族国家繁栄経済的・社会的繁栄の名のもとに弱者はすべて淘汰されるでありましょう。弱者の存在は自然であり、当然であり、切り捨ての価値観を捨てて、人類生存条件として共存、自制、連帯の価値観を進めるべきであると思います。  西欧は力の論理が支配し、その制御のためにルールを持っておりますが、日本ルールよりも一定倫理感をもってこれまで歩いてまいりましたが、人間性優先から産業効率優先労働力生産等経済優先価値観のもとに、その倫理観、モラルを失いつつあることは憂慮すべきことであると思います。弱者であるがゆえに不幸なのではなく、日本に生まれたことが不幸なのだと言わせてはならないと考えます。  以上でございます。
  6. 吉川春子

    吉川春子君 出生率動向対応について  一、総論  出生率を論じるに当たり重要なことは、かつての富国強兵のための人口増加策戦時体制下優生保護政策のような歴史は絶対に繰り返してはならないということです。ユダヤ人などを優生学上の悪い素因として社会から排除、強制的に断種手術を施したのはナチス・ドイツですが、日独伊国防共協定の結果、日本でも一九四〇年国民優生法として成立しました。時の政府は十人以上の嫡出子を自分で育てた母親を表彰するなどしました。  その結果、例えば、1この時代女性出産に明け暮れ、第一子から末子まで長い人で三十年かかりました。ちなみに主婦寿命昭和十一年でわずか四十七歳でした。2妊娠出産の自由が女性の手になく、病気その他やむを得ない場合でも中絶が認められず、やみ中絶でみずからの健康を害し、命を落とす人も多かったのです。女性が多くの子供を産むことを余儀なくされ、そして育った多くの男子は侵略戦争へ駆り出され、戦場で命を落としました。  今日、人口問題に取り組む上でこのことは歴史の教訓として忘れてはなりません。  我が国で今日強調されねばならないことは、子供を持つことは各個人自由意思であるということです。  政府人口増加抑制国民に強制するということは決して許されるものではありません。夫婦経済的理由により望む子供の数を制限せざるを得ないような社会的条件を取り除き、子供を生み育てることを援助するのが政府の役割です。  二、日本における人口問題  1、今日、日本社会世界に類を見ない急激な高齢化社会を迎えています。ここ十年間を見ても三千を超える地方自治体の半数近くが人口減少に見舞われており、著しい人口構成上のゆがみが見られます。夫婦の望む理想子供数平均値が二・四四人に対し、実際に女性出産している子供数合計特殊出生率)は一・七六人にすぎません。急激に出生率低下した理由一つは、女性が曲がりなりにも出産の自由を手にし健康を損なうほどの出産を繰り返さなくてもよくなったことが挙げられます。しかし、多くの夫婦は産みたくても産めない状態に置かれています。すなわち、過密過疎の進行の中、人口の偏在、都市における住宅難、最近では地価高騰がこれに拍車をかけています。加えて、低賃金、とりわけ女子の劣悪な労働条件世界一高い教育費などです。世界有数の経済大国にのし上がった日本で、飽くなき企業の利益追求の資本主義の犠牲がこういう面にあらわれていると考えます。  この現代的貧困に対し、子供を安心して産み育てられる社会的条件整備と確立が求められています。  戦後ベビーブームで誕生した人々、いわゆる団塊族の世代が学齢期、結婚適齢期を経て今や中年に達し、その子供たちは第二次ベビーブームを形成して一層激しい受験競争に遭遇しています。今後は技術革新と相まって、大量の不安定雇用、失業の時代の到来が懸念されています。  このことは、第二次世界大戦による被害が次世代以降にまで大きな影響を与えていることを示しています。  2、我が国高齢者平均寿命が延びていることは大変喜ばしいことであり、高齢者生きがいを持って老後の生活を送るための施策が一層充実されなければなりません。しかしながら、出生率の極端な低下によって高齢者が他の世代より際立って増加するのは人口構成の点から見れば逆ピラミッド型となることであり、好ましいことではありません。各世代を通じて均衡ある人口構成となることが自然な姿であると考えます。  高齢者社会の到来を理由に大型間接税導入が必要だという政府の主張の論拠は、生産年齢人口高齢者数を単純に比較したもので、総人口に対する就業者数の比率は労働省の試算によっても四十年後も全く変わっていないものであって、容認できません。  3、女子労働者は、六十二年現在千五百八十四万人で、労働者総数に占める割合は三六・五%に達し、毎年上昇しています。また、勤続年数の長期化、高学歴化、有配偶者化が進んでおり、女子雇用者のうち六八・二%が既婚者となっています。  男女雇用機会均等法施行後の婦人労働者の勤務形態は多様化しており、長時間、過密、深夜労働増加しています。本年四月より施行された労基法改悪によりますますこの傾向は進むと見られます。乳幼児を育てながら働く婦人労働者が増加している今日、家事、育児の負担を軽減し、母性を保護するためにも育児休業制度の拡充はますます重要な意義を持っています。しかしながら、実施している企業は、一四・六%と極めて低い数字です。先進国では、女性のみならず、男性にも育児休暇が与えられています。このことは、子供社会の宝であり、両性が責任を共有するという立場に立っているからであり、我が国施策の立ちおくれは明らかです。  政府・自民党の臨調行革による福祉・教育の切り捨てや保育所を初め社会福祉施設への国の負担金の率を十分の八から十分の五に減らし、これを恒久化しようとしている中で、働く婦人の切実な願いである保育所、学童保育などが重大な危機に見舞われています。  三、世界人口問題日本の役割  ユニセフの子供白書によると、開発途上国において、余りにも若く、または余りにも年をとった母親が余りにも多く、余りにも頻繁に子供を生むことが母子双方に極めて大きな危険を与えています。  栄養不良や伝染病で毎日、推定三万八千人の幼い子供たちが死んでいます。この痛ましい事態を解消するためには、特に母親の識字率の向上、栄養知識、予防接種の普及などが緊急に求められています。必要な予防接種の費用は約五億ドルで、これによって毎年三百五十万の子供の命が救われます。この額はF14戦闘機十機分にすぎません。戦争こそは幼い子供の敵であります。一兆ドルに及ぶ世界の軍事費を大幅に削減し、開発途上国の貧困や飢餓の救済に振り向けなければなりません。核・化学・生物兵器の禁止と廃絶こそ子供たちの健やかな成長のための前提条件です。また、この点で世界第二位の経済大国日本が果たすべき役割は大きいのです。我が国はアメリカの戦略援助、大企業の利益優先の開発援助ではなく、発展途上国がみずから貧困、飢餓などの困難を克服し国民生活の向上、自立的経済発展を図るのを援助することです。とりわけ、途上国の母子保健医療教育食糧都市機能の整備などの援助急務です。  また、環境汚染、自然破壊を規制するための国際的な取り決めが求められています。  四、提言  健康な子を生み育てるための対策として、政府は直ちに次のことを行うべきです。  1 健康な子供出産と母性保護  異常出産を防止するための妊産婦の検診、障害児の早期発見、早期治療のため乳幼児検診の拡充を図る。  2 働く女性出産育児援助のための労働条件改善  産休制度の拡充とともに、代替要員の確保を含めた育児休業制度を法制化すべきです。保育時間の延長、夜間保育など、働く婦人子供の要求に見合った保育充実が必要です。小学校低学年の留守家庭児童に対する学童保育の制度化を図ること。  3 児童手当改善  児童手当の支給期間の義務教育終了までの延長、増額を図る。  4 労働条件改善  労働時間の短縮、週四十時間への早期移行、年次有給休暇の普及などにより総労働時間の短縮を図る。男子の家事、育児への参加の機会の増大のための施策を講ずる。  5 教育費の負担軽減  奨学金制度の改善、私学助成など文教予算の増額で教育費の父母負担の軽減を進めます。  以上です。
  7. 三治重信

    ○三治重信君 人口問題出生率について  一、アジアの人口三十億、八九年四月で世界人口の六〇% 七十五年までに人口増加率一%までに抑えること  これが昭和五十六年、一九八一年に北京でアジア各国の国会議員による人口と開発に関する会議で、アジアの人口世界人口の六割を占める三十億を超えるということから、昭和七十五年、いわゆる二〇〇〇年までに人口増加率を一%に抑える目標を掲げて宣言し、その後の会議においても再確認されたところであります。  二、人口の転換  日本出生率低下は明白な政策の実施によるものではなく、国民の自発的な出生抑制の意識に基づく行動によるものであった。戦後の異常な窮迫状態といった要因を背景としながらも、優生保護法の改正の悪用による堕胎の自由化にも等しい処置がとられたことがこれを促進したことは間違いない。  アジア・太平洋地域の人口転換の段階区分は次のとおりであります。  第一グループ、日本人口転換が完了。出生率一一、これは千人当たりです。自然増加率五。人口の再生産は置換水準以下であります。第二グループ、香港、シンガポール。人口転換はほぼ完了。出生率一五前後。自然増加率一〇前後。人口の再生産は置換水準以下であります。第三グループ、人口転換の最終段階、台湾、中国、韓国。出生率二〇前後。自然増加率一二から一五。人口生産はほぼ置換水準であります。第四グループ、人口転換の初中期段階、これは先発グループがタイ、インドネシア、後発グループがマレーシア、フィリピン、出生率二五以上。自然増加率一八ないし二六。人口生産が三ないし四。  この第四グループは、いずれも国民所得が著しく少なく、貧乏線すれすれの生活をしております。インドネシア、マレーシアは回教国であり、タイ、フィリピンは政府政策遂行能力が弱い。貧困家庭子供労働力に依存するところが高く、幼児死亡率が高いことから出生率も高い。GNPを速やかに高めることが必要であります。  三、我が国出生率低下の原困  第一、敗戦を契機に国民の意識が一変し、各個人及び各家庭生活について、自由に、また合理的に考えるようになった。  第二、高度成長とともに国民生活水準が年々向上し、合理的生活が普及した。そして、(イ)義務教育は戦前の六年から戦後九年に延長された。高等学校進学率も向上し、九〇%を超えるようになった。大学への進学率も三〇%台となって、子供一人を育てる費用が非常に高くなった。(ロ)新しい労働法ができ、戦前の徒弟制度が禁止され、雇用者はすべて賃金労働者として取り扱わねばならなくなった。(ハ)また、民法が改正され、相続が一子相続から子は平等の遺産相続となった。農家や自営業者の出生率がサラリーマンと同様に低下した原因の一つとなった。  第三、出産可能年齢にある妻の避妊実行率は年々上昇し、現在ではほぼ完全に普及し尽くした状態にある。毎日新聞社会人口問題調査会の調べであります。これは女性家庭内における地位の向上の一面を示しております。家業としての農家や自営業者もサラリーマンの核家族と同様に出生率低下は同時進行しております。家業が機械化により家族労働力に頼ることなく営まれるように経営の合理化が行われたことが一つの原因であります。あるいは生活向上によるじいちゃんばあちゃんが長寿化、余命が長くなり、健康を維持したことによって子供労働力の必要がなくなったことも影響しているでありましょうか。  四、我が国人口の将来予測  我が国人口の将来予測は、昭和九十から九十五年がピークとなり、一億三千五百万余人であり、六十五歳以上が二二から三%(昭和六十年一〇・三%)を占める。十五歳から六十四歳以上の人口割合は昭和六十年に対し八%も減少するが、零歳から十四歳の人口は五%の減少である。人口高齢化、老齢化、長寿化は進むが、人口構成上はそれほど憂慮することもあるまいと思われる。出生率は今の自然体でよいように思います。  むしろ、問題は六十五歳以上の老人、長寿者問題であろう。六十五歳以上の一人当たりに対する生産年齢人口、十五歳から六十四歳の人数は、昭和六十年で六・五人のものが九十五年には二・五人となると推計されております。  したがって1として、公的年金支給開始年齢を逐次六十歳から六十五歳まで引き上げること。したがって六十四歳まで雇用年齢の延長を図ることが必要であります。  2、六十五歳以上の寝たきり老人の収容施設としての老人保健施設と特別養護老人ホームを整備すること。また在宅福祉対策として、家庭奉仕員派遣事業、ショートステイ事業、デイサービス事業、ホームケア事業を進める。  3、高齢者雇用対策充実。二十一世紀においては、老齢人口一人当たりの生産年齢人口の数は欧米に例を見ない史上最低の水準になる。それで、六十四歳程度まで継続雇用の推進をし、再就職促進を図り、シルバー人材センターの拡充を図る。  4、高齢者のボランティア活動について。単身老人や寝たきり老人のところへ元気な高齢者がボランティア活動をし、自分が世話を受けるようになったとき、ボランティアを受ける点数組織銀行の活用が考えられないか。これはボランティア活動手帳といってもいい。ボランティア活動に要する実費の補助以外のサービス料に該当する部分はボランティア銀行の考え方を示すのも励ましになるのではないかと思います。  5、シルバーサービス振興会。六十から六十五歳以上の老人で財産持ちの人々は相当数あると思う。その財産を老後の生きがいある生活に使用することが有効であろう。有料の老人ホーム。医療つき、食事つき、スポーツ・娯楽施設つき優雅な高級住宅ビルディングあるいは住宅団地または老人向けリゾートの開発等が望まれます。いわゆるシルバー産業の発展が考えられなければなりません。  五、出生率回復のための条件整備 人口生産の維持  将来の出生率は、将来人口推計中位推計によれば、昭和六十年一・七六人から九十五年には人口置きかえ水準をやや下回る二人まで回復するという予測になっている。それは、我が国では女子の生涯結婚しないという人は欧米諸国に比べて少ない。現在、晩婚化に伴う晩産化によって極端に出生率が低くなっております。将来とも二から三、四人の子供を持ちたいという夫婦出生意欲は強いので、出生率人口置きかえ水準に回復するものと推計されております。  イ 結婚への障害を除くこと  農家の嫁不足が深刻化しております。韓国、台湾から最近ではフィリピン、タイ、スリランカの諸国まで集団で嫁探しが行われております。悲劇であります。過小農や兼業農家の温存の結果であります。女子は夫とともに生活することを求め、三ちゃん農業で家業を守ることを嫌います。最近は、農家は夫も農業をやらぬという条件でお嫁に来ます。すなわち、カーつきばば抜きからカーつき家つきが条件になっております。その一方、夫婦で新しく農家を希望する世帯増加していることは注目すべきです。都会においてもカーつきばば抜きからカーつき家つきに変わり、親の存否は問わなくなったと世論調査は伝えております。いかにサラリーマンのマイホームが難しくなったかを示すものであります。  ロ 夫婦共働き家庭は、妊娠出産で職場を退き、末の子供が小学校四、五年になって労働市場、職場へ働きに出る習慣をつくること  乳飲み子の養育は授乳の母親を必要とし、乳幼児環境保育園等の団体保育には向かないのであります。専門職で仕事がやめられない女子は乳母を雇うべきであります。母親でも結構。子供は、国、社会の次代を担う宝であり、人間性豊かな人格を備えた子供であってほしい。母親が夜働きの家庭では不良子女が育ちやすいのであります。したがって、所得税も夫婦を単位としてより多くの控除制を設けるべきであります。すなわち、二分二乗方式あるいは妻や子供の扶養控除を特別高める。極端なことを言えば、一つ家庭で 幼児や寝たきり老人を抱えれば、夫婦いずれかが家に残り家族の面倒を見ることができる家庭理想的であり、男子もこれに努めるべきであると思います。  以上であります。
  8. 平野清

    ○平野清君 一、初めに  国家、民族にとってその人口の増減は、経済社会教育文化、商工業などなど多方面に重大な影響を与える。したがって、国を挙げて人口抑制策に取り組んでいる国も多くあり、また反対に増加政策をとっている国もある。人口問題の研究は最近になって学問としての位置を確立するに至ったが、我が国はその研究の結果によって人口増の必要を提唱したり、あるいは反対に減少論を政策として取り上げよということは現在のところタブーとなっている。特に人口増加必要論は、国際的、特に近隣アジア諸国の誤解を招くとあって、国家政策として取り上げられたことはない。  したがって、現在の人口論は地球上の資源、食糧との関係、貧困と子供の問題、高齢化社会への対応労働力人口への不安などなどといった範囲にとどまっているかのように見える。しかし、有識者の多くは果たしてこの地球上に人類がどのくらいの数が生存可能か、食糧と安全保障の関係はどうか、発展途上国の飢餓の点などをとらえ、数多くの警告を発している。  米商務省は昭和六十三年四月三日、人口の長期統計予測をまとめた「世界人口動態報告」を発表した。それによると、今後五十年間で世界人口は現在の倍増の約百億人になるとしている。各国別の人口では現在の一位と二位が逆転し、インドが十五億九千百万人でトップとなり、中国は十五億五千五百万人とこれに続くという。インドは国を挙げて人口抑制策に取り組んでいるが極めて効果が薄い。一方、中国は一夫婦子供一人政策が奏功すると見ている。この二つの人口国家政策世界各国が注視していることは言うまでもない。  このような現状、予測の中で果たして日本はどうなるのだろうか。同商務省予測では、現在七位の一億二千万人から、二〇五〇年には日本人口は八百万人減少し、二十位に落ち込むとされている。  我が国は戦後一九五〇年代の十年間で一気に出生率低下を実現させた特異な国で、世界家族計画歴史の中で唯一の国と言われている。加えて、これまた世界に例を見ないスピードで高齢化が進み、老壮若幼層のバランスを大きく崩した。この原因としては数多くのことが考えられるが、だからといって国家的方策をもって人口増を図ろうということは絶対に避けなければならないと考える。  現在においては、若い夫婦子供を複数欲しいと思ってもその希望を満たすための条件が余りにも欠落していることを挙げなければならない。ウサギ小屋と称される狭い住宅、土地急騰による住宅購入の困難さ、教育費の増大、老後の不安、年金制度の貧弱さ、特にサラリーマンの不公平税制による実質所得の伸び悩みなどなど、数え上げれば切りがない。結婚生活希望が持て、安心して希望する数の子供を産むことのできる環境づくりこそ急務である。  二、日本人口の変遷史  一九七五年センサス結果で日本人口は一億一千百九十三万人となったが、明治維新から数年後は約三千五百万人と言われているから、相次ぐ戦争、災害などを経験したにもかかわらず約百年で三倍増を記録したことになる。さらに興味深いことは、太平洋戦争が終結した時点で、海外領土、植民地を失った国土に七千五百万人が住むという飢餓状態を生み出したのに、四十年間で倍増に近い人口増を見たことである。しかも飽食時代と言われるほどの発展を遂げた。高齢化の進展とともにさらに人口は急増すると予測する向きも多かったが、一九七四年から七七年にかけて日本出生率はかつてない急激な落ち込みがあらわれ、七六年の出生率は一・六%台となり、死亡率を差し引いた人口増加率は一%やっととなった。  この原因の究明こそ人口問題のかぎを握っているかのように思われる。  濱英彦氏は、その著「人口問題時代」で次の諸点を挙げている。  「一九七二年の世界的な農業不振、七三年の石油ショック、七四―七七年にわたるインフレと不況の継続、高成長から低成長への移行、高密度社会における日本人の価値観の変化などである。これらが家庭レベルにおける出生行動に対して具体的な影響を及ぼすようになってきたのではなかろうか」と述べている。同氏はさらに、「この最近の出生率低下に対する評価を明確にしたうえで、将来の日本人口動向を見通すという困難な課題にわれわれは直面しているのだ」と言っている。  一方、日本人口問題に手厳しい批判を行っている学者、研究者も多くいる。ジャーナリストのボー・グンナーソン氏は「新人口論入門」で次のように言っている。  「日本の高度経済成長政策が財界の利益にしたがって太平洋ベルト地帯を中心とした工業部門に社会資本を集中させた反面、民生部門への投資を怠ったために、都市市民の生活をひっ迫させ、さらにインフレ政策が家計を圧迫して子だくさんではやっていけない生活状態をつくり上げてしまったことが出生率低下の最大原因だ。一方、国内における産業構造の高度化社会保障関係費の切りつめ、という必要性と相俟って、日本での人口増加率はなるべく低く抑えていくというのが今や日本政府の意向である。」と述べ、さらに、「産みたくても産めない社会を築き上げることによって、産まなければやっていけない第三世界労働力搾取への道を歩み始めている」とまで警告している。  同氏はスウェーデン人で、同国の日刊紙「ダーゲンス・ニーヘーテル」の特派員で日本にも数年滞在した人物である。さきに述べた濱英彦氏は元厚生省人口問題研究所政策部長だった人だが、期せずして今日本夫婦が産みたくても産めない状態であることを鋭く指摘している。  この両氏の主張は、まさに我々の見解「初めに」で述べたサラリーマン世帯を取り巻く幾多の出生への障害をあわせ考えると、鋭く的を射ているといって過言ではあるまい。特に、グンナーソン氏の「産まなければやっていけない第三世界労働力搾取」などということを言われないためにも、四千万サラリーマンを取り巻く悪環境を最大限の努力をもって取り除かなければならないと思う。  グンナーソン氏はさらに重大な指摘を行っている、それは、戦後日本人口革命の最大の支柱は優生保護法にあると言っていることである。経済的理由による中絶国家として認めたのは日本が最初だが、同氏と訳者黒田孝晴氏はともに、低所得層の人々に中絶を強いる形で行われた人口転換政策だと厳しく見ているのである。この論旨が妥当かどうかは別として、この優生保護法がやみ中絶を安易にしたことは何人も否定できないだろう。急激な出生率低下の要因の相当率を占めているといっても過言ではないだろう。貧しい人々が経済的理由子供をおろし、富める者は初めから少産思想を持っていたから出生率はぐんと下がるのは当然であった。  調査会での審議中、ピル解禁問題も質疑された。ただ単に避妊という面のみにとらわれず、副作用という健康上の問題、障害児出産の有無など厳しいチェックが必要であろう。  三、出生動向に関する具体的な課題  昭和六十二年の年間出生数は百三十五万五千人で、統計をとり始めた明治三十二年以来の最低となった。人口千人当たりの出生数を示す出生率も一一・一に減少し、五十五年以来八年間続けて最低記録を更新している。この理由として、1出産適齢期の女性が少ないこと。2男女とも二十歳台の未婚者がふえ、晩婚化が著しく進んでいること。3少産傾向も強まっていることなどが挙げられる。  そして、一人の女性の生涯に産む平均子供数は、六十二年で一・七二になっている。しかしその反面、理想子供数は、毎日新聞の調査によると、五十九年で二・五五人、六十一年で二・五一 人と極めて高い数字を示している。現実の出生率希望子供数との間に大きな開きが見られるのである。産みたくとも産めない問題が大きく立ちはだかっていることがわかる。  そこで、乳幼児の少死少産時代にどう対応していくべきか。次に項目別に述べてみたい。  税制改革  日本国民の大多数を占めるサラリーマンとその家族のために不公平な税制を抜本的に改善し、少しでも育児、その教育住宅などに安心して対応できるようにすることが第一の課題である。なお、問題となっている間接税が仮にどうしても必要というなら、その税収は平年度で消費せず、二十一世紀のために国家として貯蓄しておくべきものであると考える。  住宅改善  子供を産みたいという希望を阻む問題は幾つもあるが、ウサギ小屋と称せられる我が国住宅事情がトップクラスに挙げられるのではなかろうか。しかも昨今、大都市とその周辺の地価が急騰し、サラリーマンのマイホームの夢は無残に打ち砕かれてしまった。住宅建設は内需拡大の柱であり、安価で大量に提供しなければならない。また老朽化したり狭く劣悪な公営住宅の建てかえなど、全力を傾注しなければならないと考える。  教育改革  高学社会を迎えて塾全盛時代、その教育費も月額四、五万円が必要。地方から都会の大学子供を出せば年に二百万円近くかかると言われる。こんな状態では子供は一人かせいぜい二人どまりであろう。受験戦争や学歴偏重社会の改革、義務教育改善教育者の質の向上、教育減税の実現、育英資金制度の改善等、教育問題にさらに国が力こぶを入れなければならない。  労働条件改善  夫婦が安心して育児子育てに専念できるためには、労働条件並びに環境整備が不可欠の問題である。通勤地獄の解消、労働時間の短縮、週休二日制の完全実施、保育施設・内容の改善、産休の完全実施などのほか、婦人労働者の二〇%を占めるというパートタイム労働者の退職金制度の創設、賃金改善などにも早急に手をつけなければならない。  大都市集中排除  人口都市集中が進み、地方の過疎は加速的にふえている。沖縄、鹿児島等、視察でその実態をつぶさに見てきたが、過疎化阻止の成果は微々たるものである。所得、労働環境、娯楽面など、若者はやはり都会を求めて村を出てしまう。一省一機関移転を実現させ、政治がまず手本を示す。そして企業が地方に移転しやすくするためのあらゆる施策が不可欠であろう。  自然・環境問題  日本の近代化は足尾銅山鉱毒事件をトップに公害歴史であったと言っていい。高度成長の陰に幾多の庶民の悲惨な被害があった。緑を守り、きれいな水と空気を確保しなければせっかくの長寿国も短命国に一気に転落するであろう。有害食品の追放、欧米化した食生活改善など、国民の生命を守る施策の一層の改善が要望される。  高齢者対策  世界にかつて見ない急速な高齢化を迎えた日本政治社会も庶民生活もこれに順応できず戸或いさえ見せている。お年寄りが安心して社会生活に参加できる社会、また寝たきり老人の介護対策、中年時代からの高齢化準備への自助努力、年金制度の一層の確立、シルバー総合対策など、数え上げれば切りがないほどの施策が要求されている。健康な心身、そして資産、政治もこれに早急に手を打たなければならないと考える。  国際協力促進  ユニセフの報告を聞くまでもなく、今発展途上国では飢餓、病気、内戦などによって膨大な数に上る乳幼児死亡している。我が国でも政府、民間ともに援助の手を差し伸べているが、経済大国としてもっともっと多額の援助が求められていると思う。  以上です。
  9. 長田裕二

    ○会長(長田裕二君) 以上をもちまして意見の開陳は終了いたしました。  本日はこれにて散会いたします。    午後四時五分散会